説明

成膜装置

【要 約】
【課題】膜厚分布が均一で、成膜速度が速い成膜装置を提供する。
【解決手段】接地電位の真空槽11の底壁上に、真空槽11から絶縁された走行軌道21を敷設し、その上に基板保持パネル22を立設させる。基板保持パネル22の上部に接続部材23を取り付け、基板保持パネル22の両面に第一、第二の成膜対象物14a、14bを配置し、基板保持パネル22を走行させながら接続部材23を介して基板保持パネル22に交流電圧を印加し、基板保持パネル22の両側に位置するシャワーヘッド16a、16bから噴出される原料ガスをプラズマ化し、薄膜を形成する。基板保持パネル22側に交流電圧を印加するので、プラズマは第一、第二の成膜対象物14a、14b表面近傍に形成され、成膜速度が速い。印加する交流電圧を低周波にすると、電極間距離を広げることができるので、走行レールのガタツキによる電極間距離変動による影響が低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置の技術分野にかかり、特に、基板保持パネルの両側に成膜対象物を配置し、基板保持パネルを走行させながら成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体・薄型ディスプレイ・太陽電池製造デバイスの製造工程の薄膜形成おいて、プラズマCVD法がありアモルファスシリコン、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜などのシリコン化合物を成膜している。
太陽電池用のシリコン薄膜量産装置では、アース電極をトレイ形状にし、そのトレイの両面に基板を設置し、各基板に対向するように2組のRF印加シャワープレート電極を設置し、2枚の基板に成膜しながら量産性を向上させる装置が使用されている。
【0003】
図2の符号100は、従来技術の太陽電池用の成膜装置を示している。
この成膜装置100は、真空槽111の底壁上に走行軌道131が敷設されており、走行軌道131の上方にはガイド133が配置されている。
【0004】
走行軌道131上には、上端部がガイド133と接触した状態で、基板保持パネル122が乗せられており、基板保持パネル122は、走行軌道131上を走行できるように構成されている。走行軌道131は、真空槽111に電気的に接続されており、真空槽111は接地電位に接続されて、基板保持パネル122は、走行軌道131を介して接地電位に接続されている。
【0005】
基板保持パネル122の両側には、第一、第二のシャワーヘッド116a、116bがそれぞれ配置されている。
第一、第二のシャワーヘッド116a、116bは真空槽111から絶縁されており、マッチングボックス125a、125bを介して、それぞれ交流電源127a、127bに接続されている。
【0006】
第一、第二のシャワーヘッド116a、116bには、原料ガス導入系113がそれぞれ接続されており、基板保持パネル122の表面と裏面に、それぞれ第一、第二の成膜対象物114a、114bを配置し、真空排気系128によって真空槽111内を真空排気し、第一、第二のシャワーヘッド116a、116bのノズル孔118a、118bから真空槽111内に原料ガスが導入される。
【0007】
第一、第二のシャワーヘッド116a、116bに交流電圧を印加すると、第一、第二のシャワーヘッド116a、116bと基板保持パネル122の間にプラズマが形成され、プラズマ中で原料ガスが分解され、第一、第二の成膜対象物114a、114bの表面に薄膜が形成される。
【0008】
上記のような成膜装置100では、第一、第二のシャワーヘッド116a、116bに印加する交流電圧の周波数は13.56MHzであり、真空槽111内の圧力は、50〜500Paの範囲である。電極間距離(第一、第二のシャワーヘッド116a、116bの表面と基板保持パネル122の表面との間の距離)は、10〜30mmの範囲である。
上記のような成膜装置100では、基板保持パネル122は、基板保持パネル122の下端に設けられた車輪によって走行軌道131上を走行する。
【0009】
基板保持パネル122と第一、第二のシャワーヘッド116a、116bとは近接しているため、走行に伴う左右の揺れによって、基板保持パネル122と第一、第二のシャワーヘッド116a、116bとの間の距離が変化すると、電極間容量が変化し、形成される薄膜の膜厚分布が不均一になってしまう。
【0010】
また、基板保持パネル122は車輪で走行軌道131と接触しており、基板保持パネル122の走行中は車輪と走行軌道131の接触状態が変化し、接触抵抗が変わってしまう。その結果、基板保持パネル122が走行中、プラズマの状態が変化し、膜厚分布が不均一になってしまう。
基板を縦置き搬送する技術は、例えば下記技術文献に記載されている。
【特許文献1】特開2006−143462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、均一な膜厚分布の薄膜を高速に成膜できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、真空槽と、前記真空槽の内部に配設された走行軌道と、前記走行軌道上に鉛直に配置され、表面と裏面にそれぞれ成膜対象物を保持し、前記走行軌道上を走行する基板保持パネルと、前記走行軌道上の前記基板保持パネルの両側にそれぞれ配置され、前記真空槽内に原料ガスを導入する第一、第二のシャワーヘッドとを有する成膜装置であって、前記走行軌道は、前記真空槽とは電気的に絶縁され、前記基板保持パネルの上部に取り付けられた接続部材を介して、前記基板保持パネルに交流電圧を印加可能にされ、前記真空槽は接地電位に接続され、前記接続部材には、100kHz以上1000kHz以下の周波数の交流電圧を出力する交流電源が接続された成膜装置である。
また、本発明は、前記第一、第二のシャワーヘッドと、前記基板保持パネルの間の距離は、50mm以上150mm以下にされた成膜装置である。
【発明の効果】
【0013】
交流電源やマッチングボックスが一組で済み、コストを削減できる。
基板保持パネルに印加する交流電圧の周波数を100kHz以上1000kHz以下の低周波にし、真空槽と第一、第二のシャワーヘッドを接地電位に接続することで、プラズマが基板保持パネルに近い位置に形成され、高速成膜が可能になる。
また、低周波にしたことで電極間距離を大きくできるので、基板保持パネルが走行の際に左右に揺れても、均一な膜厚分布の薄膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1の符号10は、本発明の一例の成膜装置を示している。
この成膜装置10は、真空槽11を有しており、真空槽11の内部の底壁上には走行軌道21が敷設されている。
走行軌道21上には、基板保持パネル22が鉛直に乗せられている。
【0015】
走行軌道21は、レールやラック等で構成されており、走行軌道21がレールの場合には、基板保持パネル22の下端には車輪29が設けられ、車輪29が走行軌道21上に乗せられる。
【0016】
真空槽11は接地電位に接続されている。
基板保持パネル22の上端には、脱着可能な接続部材23が取り付けられている。真空槽11の天井には絶縁部材26が配置されており、接続部材23は、絶縁部材26によって真空槽11とは絶縁された状態で、真空槽11の外部に電気的に取り出されており、マッチングボックス25を介して交流電源27に接続されている。
【0017】
走行軌道21は絶縁性材料で構成されており、基板保持パネル22や接続部材23は、走行軌道21によって真空槽11とは絶縁されている。
また、基板保持パネル22は、下端部や左右両端部は真空槽11から絶縁されており、交流電源27を起動すると、真空槽11を接地電位に置いた状態で、接続部材23との接続部分から、交流電圧が印加されるように構成されている。
【0018】
基板保持パネル22は板状の電極板であり、不図示の基板保持機構が設けられている。基板保持パネル22の表面側と裏面側には、第一、第二の成膜対象物14a、14bがそれぞれ鉛直に保持されている。
第一、第二の成膜対象物14a、14bは、1100×1400mm、厚さ5mmのガラス基板である。
【0019】
基板保持パネル22の表面と裏面に面する位置には、それぞれ第一、第二のシャワーヘッド16a、16bが、基板保持パネル22や、第一、第二の成膜対象物14a、14bとは非接触で配置されている。
【0020】
第一、第二のシャワーヘッド16a、16bは、第一、第二のシャワープレート17a、17bと、第一、第二の背面電極19a、19bを有している。第一、第二のシャワープレート17a、17bは板状であり、中央部分が第一、第二の背面電極19a、19bと離間され、周囲が第一、第二の背面電極19a、19bに接続されており、第一、第二のシャワープレート17a、17bと、第一、第二の背面電極19a、19bとで、シャワーヘッド16a、16bの内部に第一、第二のガス供給室12a、12bがそれぞれ形成されている。
【0021】
ここでは、第一、第二のシャワーヘッド16a、16bの一部である第一、第二の背面電極19a、19bは、真空槽11の壁面の一部を構成しており、真空槽11の内側には第一、第二のシャワープレート17a、17bが向けられている。
【0022】
第一、第二のシャワープレート17a、17bは、基板保持パネル22に保持された第一、第二の成膜対象物14a、14bと、所定距離離間して平行になるように配置されている。
【0023】
第一、第二のシャワープレート17a、17bには、複数のノズル孔18a、18bがそれぞれ形成されており、第一、第二のシャワープレート17a、17bと第一、第二の成膜対象物14a、14bの間の空間は、ノズル孔18a、18bによって、第一、第二のガス供給室12a、12bにそれぞれ接続されている。
【0024】
真空槽11の外部には、ガス導入系13が配置されている。第一、第二のガス供給室12a、12bは、それぞれガス導入系13に接続されており、ガス導入系13から第一、第二のガス供給室12a、12b内に原料ガスを導入すると、導入された原料ガスは、ノズル孔18a、18bを通って、第一、第二のシャワーヘッド16a、16bから第一、第二の成膜対象物14a、14bに向けて噴出されるように構成されている。
【0025】
走行軌道21は、真空槽11に固定されている。
接続部材23は基板保持パネル22から着脱自在であり、基板保持パネル22の上端に、一時的に固定されている。
基板保持パネル22にはモータ等の走行装置が接続されており、接続部材23によって交流電源27に接続された状態で、走行軌道21上を移動できるように構成されている。
【0026】
この成膜装置10によって処理対象物14a、14b表面に薄膜を形成する工程について説明すると、真空槽11には、真空排気系28が接続されており、先ず、真空排気系28によって真空槽11内を所定圧力まで真空排気し、第一、第二の成膜対象物14a、14bが配置された基板保持パネル22を、真空槽11内に搬入する。
【0027】
次いで、第一、第二のシャワープレート17a、17bからシリコンの原料ガスを真空槽11内に噴出させ、真空槽11内で移動させながら交流電源27を動作させる。
交流電源27は、100kHz〜1000kHzの低周波交流電圧を出力するように設定されており、その低周波交流電圧が接続部材23を介して第一、第二のシャワープレート17a、17bと基板保持パネル22との間に印加されると、第一、第二の成膜対象物14a、14bの表面近傍に原料ガスのプラズマが形成される。
【0028】
接続部材23は、基板保持パネル22の中央部ではなく、上端に取り付けられているが、印加される交流電圧は低周波であるため、基板保持パネル22の面内の電界強度は均一になる。
【0029】
第一、第二のシャワープレート17a、17bは、走行軌道21に沿って延設されており、第一、第二の成膜対象物14a、14bを保持した状態で基板保持パネル22が走行軌道上を走行すると、第一、第二の成膜対象物14a、14bはプラズマと共に移動し、薄膜が成長する。
【0030】
基板保持パネル22と第一、第二のシャワープレート17a、17bは、第一、第二の成膜対象物14a、14bよりも大きく、その間に配置された第一、第二の成膜対象物14a、14bの表面には、プラズマが均一に形成され、膜厚分布のよい薄膜が形成される。
ここでは、基板保持パネル22を走行させながら成膜したが、基板保持パネル22を走行させず、第一、第二のシャワーヘッド16a、16bに対して静止させて成膜する場合も本発明に含まれる。
【0031】
基板保持パネル22が第一、第二のシャワープレート17a、17bに面する位置を通過し、第一、第二の成膜対象物14a、14bに所定膜厚の薄膜が形成された後、真空槽11の外部に搬出し、第一、第二の成膜対象物14a、14bを基板保持パネル22から取り外し、接続部材23を交流電源から取り外す。
【0032】
本発明の成膜装置10では、第一、第二のシャワープレート17a、17bと基板保持パネル22のうち、プラズマは交流電圧が印加された基板保持パネル22に近い位置に形成され、プラズマ中で生成された反応性の高いラジカルやイオンが、第一、第二の成膜対象物14a、14bに多量に入射し、成膜速度は速い。
他方、プラズマに遠い位置にある第一、第二のシャワープレート17a、17bに付着する薄膜は少量である。
【0033】
アモルファスシリコンを成膜する場合、原料ガスとしてSiH4ガスを用いる。周波数が低い場合、プラズマ密度も低くなって成膜速度が低下しやすいが、原料ガスにSiH4系ガスを用い、周波数を100kHz〜1000kHzの範囲にした場合、プラズマは、低周波交流電圧を印加した電極(ここでは基板保持パネル22)の近傍のみに形成されるため、ガスの分解が第一、第二の成膜対象物14a、14bの表面近傍で行われ、シャワーヘッドに13.56MHzほどの高周波電圧を印加した場合と同等の成膜速度が得られる。
【0034】
また、電圧を印加した電極側にはセルフバイアス電圧が発生するため、基板保持パネル22に高周波の交流電圧を印加すると、チャージアップによって形成される薄膜のダメージが大きくなりやすいが、低周波にしたことで、質量の重いイオンも電子とともに電極間を往復移動し、電荷中和の効果により形成される薄膜へのチャージアップが少ない。これにより、投入電力を大きくすることができる。
【0035】
以上により、本発明の成膜装置10では、膜質のよい薄膜を高速成膜することができる。
またマッチングボックス25と交流電源27が一組で済むため、装置コストも低下する。
【0036】
なお、SiH4ガスを用いてアモルファスシリコン薄膜を形成する場合、真空槽11内は、100Pa程度のSiH4ガス雰囲気にする。アモルファスシリコン成膜に必要な放電パワーは、基板の面積に対して、0.05W/cm2程度である。
【0037】
シリコン窒化膜を成膜する場合、原料ガスにはSiH4、NH3、及びN2の混合ガスを使用し、0.5〜1.0W/cm2程度の電力を投入すると、150〜300nm/minの成膜速度が得られる。この成膜速度の値は、枚葉式の成膜装置では得られるものの、従来の両面成膜装置では達成できなかった速さである。
【0038】
本発明のような平行平板放電では、電極間距離(第一のシャワーヘッド16aの表面と基板保持パネル22の表面の間の距離と、第二のシャワーヘッド16bの表面と基板保持パネル22の裏面の間の距離)は圧力、周波数が変数となり、放電のしやすさは、(周波数)×(圧力)×(距離)の値であらわすことができる。
従って、圧力が一定であれば、周波数が低い場合の電極間距離の方が、高い場合の電極間距離よりも大きくできる。
【0039】
周波数が13.56MHzの場合は、電極間距離は約20mmであり、周波数が100kHz〜1000kHzの低周波では、電極間距離を50mm以上と大きくすることができる。電極間距離が大きい場合、基板保持パネルが左右に数mm移動してもプラズマに対する影響が小さく、膜厚分布はほとんど変化なく成膜できる。
【0040】
本発明において、電極間距離は50mm〜150mmの範囲で、ほとんど同じ成膜速度で成膜できることを確認した。
上記実施例では、走行軌道21は、真空槽11とは絶縁されたレールであったが、真空槽11とは絶縁したラックで構成し、基板保持パネル22の下端にピニオンを設けてもよい。要するに、走行軌道21は、鉛直に配置された基板保持パネル22が、真空槽11とは電気的に絶縁された状態で走行できるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の成膜装置を説明するための図
【図2】従来技術の成膜装置を説明するための図
【符号の説明】
【0042】
10……成膜装置
11……真空槽
14a、14b……第一、第二の成膜対象物
16a、16b……第一、第二のシャワーヘッド
21……走行軌道
22……基板保持パネル
23……接続部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽の内部に配設された走行軌道と、
前記走行軌道上に鉛直に配置され、表面と裏面にそれぞれ成膜対象物を保持し、前記走行軌道上を走行する基板保持パネルと、
前記走行軌道上の前記基板保持パネルの両側にそれぞれ配置され、前記真空槽内に原料ガスを導入する第一、第二のシャワーヘッドとを有する成膜装置であって、
前記走行軌道は、前記真空槽とは電気的に絶縁され、
前記基板保持パネルの上部に取り付けられた接続部材を介して、前記基板保持パネルに交流電圧を印加可能にされ、
前記真空槽は接地電位に接続され、前記接続部材には、100kHz以上1000kHz以下の周波数の交流電圧を出力する交流電源が接続された成膜装置。
【請求項2】
前記第一、第二のシャワーヘッドと、前記基板保持パネルの間の距離は、50mm以上150mm以下にされた請求項1記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−244204(P2008−244204A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83628(P2007−83628)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】