説明

振動片、振動子、発振器

【課題】Q値の低下の抑制が図られた振動片を提供する。
【解決手段】振動片20は、一対の切り込み31が形成された基部21と、基部21の第1の部分の一端側から互いに平行に延出する一対の振動腕22と、基部21の第2の部分21bから延びる一対の支持腕30と、を有している。各振動腕22は、主要な振動部である一般部23と、基部21との付け根側に、一般部23から基部21側に向けて振動腕の両側面の幅が徐徐に広げられた幅広部24を有している。各振動腕22の主面には、長手方向に沿って一本の有底の長溝26aが設けられている。各振動腕22の基部21との付け根とは反対側の先端部29Aにおいて、長溝26a,26bは、基部21側から先端側に向けて開口部の幅が徐徐に狭まる縮幅部26Aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、屈曲振動モードで振動する屈曲振動片などの振動片、および、それを用いた振動子、あるいは発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、屈曲振動モードで振動する振動片には、例えば、水晶のような圧電材料からなる基材の基部から一対の振動腕を平行に延出させて、且つ、水平方向に互いに接近または離反する向きに振動させる音叉型の屈曲振動片が広く使用されている。この音叉型屈曲振動片の振動腕を励振させたとき、その振動エネルギーに損失が生じると、CI(Crystal Impedance)値の増大やQ値の低下など、振動片の性能を低下させる原因となる。そこで、そのような振動エネルギーの損失を防止または低減するために、従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、振動腕が延出する基部の両側部に切込み部または所定の深さの切り込み(切り込み溝)を形成した音叉型の水晶振動片が知られている(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。この音叉型水晶振動片は、振動腕の振動が垂直方向の成分をも含む場合に、振動が基部から漏れるのを切り込みにより緩和することによって、振動エネルギーの閉じ込め効果を高めてQ値を制御し、且つ、振動片間でのQ値のばらつきを防止している。
【0004】
また、振動片においては、上記のような機械的な振動エネルギーの損失だけでなく、屈曲運動する振動腕の圧縮応力が作用する圧縮部と引張応力が作用する伸張部との間で発生する温度差による熱伝導によっても発生する。この熱伝導によって生じるQ値の低下は熱弾性損失効果と呼ばれている。
熱弾性損失効果によるQ値の低下を防止または抑制するために、矩形断面を有する振動腕(振動梁)の中心線上に溝、または孔を形成した音叉型の振動片が、例えば特許文献3に紹介されている。
【0005】
特許文献3に記載の振動片について、図面を参照して具体的に説明する。図9は、従来の振動片の典型例を模式的に説明するものであり、(a)は平面図、(b)は、振動片の振動腕の先端部分について説明する部分拡大平面図である。
図9(a)において、特許文献3の音叉型水晶振動片1は、基部2から延出する2本の平行な振動腕3,4を備え、各振動腕3,4それぞれの中心線上に直線状の有底の長溝6,7が設けられている。この音叉型水晶振動片1の図示しない励振電極に所定の駆動電圧を印加すると、振動腕3,4は、図中想像線(二点鎖線)および矢印で示すように、互いに接近または離反する向きに屈曲振動する。
【0006】
この屈曲振動によって、各振動腕3,4の基部2との付け根部の領域に機械的歪が発生する。すなわち、振動腕3の基部2との付け根部においては、屈曲振動により圧縮応力または引張応力が作用する第1の領域10と、この第1の領域10に圧縮応力が作用する場合は引張応力が作用し、第1の領域10に引張応力が作用する場合は圧縮応力が作用する関係にある第2の領域11と、が存在し、第1の領域10と第2の領域11とにおいて、圧縮応力が作用したときに温度が上昇し、引張応力が作用したときには温度が下降する。
同様に、振動腕4の基部2との付け根部においては、屈曲振動により圧縮応力または引張応力が作用する第1の領域12と、この第1の領域12に圧縮応力が作用する場合は引張応力が作用し、第1の領域12に引張応力が作用する場合は圧縮応力が作用する関係にある第2の領域13と、が存在し、第1の領域12と第2の領域13とにおいて、圧縮応力が作用したときに温度が上昇し、引張応力が作用したときには温度が下降する。このようにして発生した温度勾配によって、基部2と各振動腕3,4との付け根部分の内部には、第1の領域10と第2の領域11との間、および第1の領域12と第2の領域13との間でそれぞれ熱伝導が発生する。この温度勾配は、各振動腕3,4の屈曲振動に対応して逆向きに発生し、それに対応して熱伝導も逆向きとなる。この熱伝導によって、振動腕3,4の振動エネルギーは、その一部が振動中常に熱弾性損失として失われ、その結果、音叉型水晶振動片1のQ値が低下して所望の振動特性を確保することが困難になる。特許文献3の音叉型水晶振動片1では、各振動腕3,4それぞれの中心線上に設けられた長溝6,7によって圧縮側から引っ張り側への熱移動が阻止されることにより、熱弾性損失によるQ値の低下を防止または軽減することが可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−261575号公報
【特許文献2】特開2004−260718号公報
【特許文献3】実開平2−32229号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.Zener,他2名,「InternalFriction in Solids III.Experimental Demonstration of Thermoelastic InternalFriction」,PHYSICAL REVIEW,1938年1月1日,Volume53,p.10-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、発明者は、長溝6,7が設けられた振動腕3,4を有する振動片1(特許文献3を参照)において、屈曲振動させた際に振動腕の基部との付け根部の第1の領域10,12および第2の領域11,13に機械的歪が発生するだけでなく、振動腕3,4の先端側(図9(b)の符号3A,4A)にも機械的歪が発生することを見出した。すなわち、振動腕3,4の基部2との付け根とは反対側の先端側3A,4Aにおいて、長溝6,7の一端部側の開口部の形状が、直角あるいは直角よりも鋭角な非連続的な角部を有する形状である場合に、その角部近傍の領域15,16に応力が集中して温度勾配が生じ、その温度勾配に起因して振動腕3,4の先端側3A,4A側に熱の移動が起こって熱弾性損失が生じることにより、Q値を低下させる虞があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
〔適用例1〕本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部から延出された振動腕と、を有し、前記振動腕には、前記振動腕の両主面のうち少なくとも一方の主面の長手方向に沿って開口部を有する有底の長溝が設けられ、前記振動腕の前記基部との付け根とは反対側の先端側において、前記開口部の幅が、前記振動腕の前記基部との付け根側から前記先端側に向かって徐徐に狭まる縮幅部を有することを特徴とする。
【0012】
発明者は、長溝が振動腕の先端側まで同じ幅で形成されている場合に、長溝の端部側に直角あるいは比較的鋭角な角部が形成されることにより、振動腕の振動に伴って長溝の角部に急な勾配の歪が生じ、その歪により発生する温度差によって熱弾性損失が起こり、振動片のQ値の低下を招くことを見出した。上記構成によれば、振動腕の先端側において、長溝の開口部の幅が徐徐に狭められた縮幅部を有しているので、長溝の端部側の角部が鈍角あるいは丸味をおびた形状を呈することにより、振動腕の振動に伴って長溝の端部側に発生する歪が緩和されて熱弾性損失が抑えられる。したがって、熱弾性損失によるQ値の低下を抑えながら、長溝によって振動効率が向上してCI値の低減が図られた優れた振動特性を備えた振動片を提供することができる。
【0013】
〔適用例2〕上記適用例にかかる振動片において、前記縮幅部の前記基部側の基点が平面視で丸味をおびた形状を呈していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、長溝の縮幅部の基部側の基点が平面視で角ばった形状、すなわち不連続な形状を呈している場合に比して、振動腕の振動に伴う歪がより緩和されるので、熱弾性損失に伴うQ値の低下を効果的に抑制する顕著な効果が得られる。
【0015】
〔適用例3〕上記適用例にかかる振動片において、前記振動腕に複数の前記長溝が形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、複数の長溝により熱伝導経路が長くなることによって熱弾性効果によるQ値の低下が抑制されるとともに、振動腕の各主面に1つの開口部を有する長溝が設けられた場合に比して、少なくとも一方の主面に複数の長溝が設けられていることにより、振動腕の主面の中央に形成される突堤部がリブとして働くことにより、振動腕の両側面側の突堤部の幅が細くても、振動腕の十分な剛性を確保することができる。
【0017】
〔適用例4〕上記適用例にかかる振動片において、一方の前記主面に開口部を有する前記長溝と、他方の前記主面に開口部を有する前記長溝とが形成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、振動腕がより肉薄となることにより、熱緩和時間τがより延長されるので、Q値の低下が抑制され、安定した振動特性を有する振動片を提供することができる。
【0019】
〔適用例5〕上記適用例にかかる振動片において、前記一方の主面および前記他方の主面の少なくともいずれか一方に複数の前記長溝が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、振動腕がより肉薄になるとともに、振動腕の断面がS字状あるいはM字状などを呈するので、熱がより迂回する熱伝導路が形成される。したがって、Q値の顕著な向上が図られた振動片を提供することができる。
【0021】
〔適用例6〕上記適用例にかかる振動片において、前記振動腕の前記先端側に、前記基部との付け根側よりも幅が広い錘部を有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、振動腕の先端部分の錘部が錘の機能を果たすことにより、振動腕の長さを増大させることなく周波数を低くすることができるとともに、長溝に縮幅部を有していることにより、振動腕の振動時に長溝の端部に発生する歪が緩和されるので、熱容量が大きい幅広部に熱が流れて起こる比較的大きな熱弾性損失を抑制することができる。したがって、小型で、振動特性に優れた振動片を提供することができる。
【0023】
〔適用例7〕上記適用例にかかる振動片において、前記基部から互いに平行に延出された2つの前記振動腕が備えられ、前記基部の2つの前記振動腕の間から支持腕が前記振動腕と平行に延出して設けられていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、振動腕の縮幅部を有する長溝の特徴的な形状がもたらす熱弾性損失の抑制効果に加えて、支持腕が一対の振動腕間に設けられていることにより、各振動腕が振動した際に、特に、各振動腕が互いに接近する向きに振動したときに、各振動腕間の空気がかき乱されることによって起こる振動片の動作パラメーターの変化を抑制することができる。
また、基部を支持部としてパッケージなどに支持・固定させた場合に起こる様々な不具合、例えば、振動片の先端が下方に傾いてパッケージなどに接触することを防止できたり、パッケージへの衝撃が基部を介してダイレクトに振動腕に伝わることによって起こり得る動作異常などを回避することが可能になり、振動特性の安定した振動片を提供することができる。
【0025】
〔適用例8〕上記適用例にかかる振動片において、前記縮幅部が前記長溝の中心線に対して略線対称となる前記開口部の形状を有して形成されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、外形および長溝がバランスのよい形状に形成されているので、より安定した振動特性を備えた振動片を提供することができる。
【0027】
〔適用例9〕上記適用例にかかる振動片において、水晶により形成された水晶振動片であることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、耐衝撃性が高いとともに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた振動特性を備えた水晶振動片を提供することができる。
【0029】
〔適用例10〕上記適用例にかかる振動片において、屈曲振動モードを呈する屈曲振動片であることを特徴とする。
【0030】
上記適用例に示す構成を有する本発明は、屈曲振動モードを呈する屈曲振動片においてより顕著な効果を奏することを発明者は見出した。
【0031】
〔適用例11〕本適用例にかかる振動子は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、前記振動片を収容するパッケージと、を含むことを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、上記適用例の振動片を備えているので、長溝によって振動効率が向上してCI値の低減が図られるとともに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた振動特性を備えた振動子を提供することができる。
【0033】
〔適用例12〕本適用例にかかる発振器は、上記適用例にかかる振動片と、前記振動片を発振させる発振回路を含む回路素子と、を、パッケージ内に収容させたことを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、上記適用例の振動片を備えているので、長溝によって振動効率が向上してCI値の低減が図られるとともに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた発振特性を備えた発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は、振動片の一実施形態を模式的に説明する一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA1−A1線断面を示す断面拡大図、(c)は、(a)のD1部の平面拡大図。
【図2】(a)〜(c)は、図1(a)のD1部に示す長溝の一端部の形状のバリエーションを示す平面拡大図。
【図3】(a)は、上記振動片を備えた振動子の一実施形態を上からみて説明する概略平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図。
【図4】(a)は、上記振動片を備えた発振器の一実施形態を上からみて説明する概略平面図、(b)は、(a)のC−C線断面図。
【図5】(a)は、振動片の変形例1の1つのバリエーションを模式的に説明する一方の主面側の平面図、(b)は、(a)A2−A2線断面を示す断面拡大図、(c)は、(a)のD2部の平面拡大図。
【図6】(a)は、振動片の変形例1の他のバリエーションを模式的に説明する一方の主面側の平面図、(b)は、(a)A4−A4線断面拡大図、(c)は、(a)のD4部の平面拡大図。
【図7】振動片の変形例2を模式的に説明する一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA3−A3線断面を示す断面拡大図、(c)は、(a)のD3部の平面拡大図。
【図8】(a)は、振動片の変形例3を模式的に説明する一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のD部の長溝の一端部の形状の1つのバリエーションを説明する平面拡大図、(c)は、(a)のD部の長溝の一端部の形状の他のバリエーションを説明する平面拡大図。
【図9】(a)は、従来の振動片の典型例を模式的に示す平面図、(b)は、(a)の振動腕の先端部分を説明する部分拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の振動片、および、その振動片を用いた振動子、あるいは発振器の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0037】
〔振動片〕
まず、本発明の振動片について説明する。
図1は、本実施形態の振動片を模式的に説明するものであり、(a)は、一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA1−A1線断面を示す断面拡大図、(c)は、(a)のD1部を説明する部分拡大平面図である。また、図2(a)〜(c)は、図1(a)のD1部に示す長溝の一端部の先端の形状のバリエーションを示す平面拡大図である。
【0038】
図1(a)において、本実施形態の振動片20は、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムなどの圧電材料からなる。振動片20を水晶から構成する場合、水晶ウェハは、X軸、Y軸、およびZ軸からなる直交座標系において、Z軸を中心に時計回りに0度〜5度の範囲で回転させて切り出した水晶Z板を所定の厚みに切断研磨加工して得られるものを用いる。本実施形態の振動片20は、その水晶Z板を加工することにより形成された基部21と、この基部21の一端側(図において上端側)から二股に別れて互いに平行に延出する一対の振動腕22とからなる所謂音叉型の外形を有して形成されている。
【0039】
基部21には、その両主面に括れた形状が表れるように1つの直線に沿って対向方向に一対の切り込み31が形成されている。基部21は、一対の切り込み31を挟んで両側に位置する第1の部分21aおよび第2の部分21bと、一対の切り込み31間で第1の部分21aおよび第2の部分21bを接続する接続部分21cとを含む。本実施形態の振動片20においては、この切り込み31によって、各振動腕22の振動の伝達が遮断されるので、振動が基部21や支持腕30を介して外部に伝わる所謂振動漏れを抑制し、CI値の上昇を防止することができる。
なお、各切り込み31は、振動片20の落下に対する強度の確保をした上で、最適な幅や長さに調整して振動漏れを最小にするのが望ましい。
【0040】
図1(a)に示すように、一対の振動腕22は、基部21の第1の部分21aから両主面(紙面上手前と奥の面)に平行に延出されている。また、各振動腕22は、前記両主面と、その両主面を両側で接続する両側面とを有する。
各振動腕22は、その中央部に、振動腕22において主要な振動部である一般部23を有している。また、各振動腕22は、基部21に接続される根元部において、一般部23から基部21側に向けて前記両側面間の幅が徐徐に広げられ基部21との付け根部で最も幅広となる幅広部24を有している。このように、各振動腕22が幅広部24を有することにより、広い幅で基部21に接続されるので剛性が高くなり、耐衝撃性などが向上する。
【0041】
各振動腕22の一方の主面には、それぞれの長手方向に沿って一本の有底の長溝26aが設けられている。また、図1(b)に示すように、一方の(図1(a)の紙面上左側の)振動腕22の他方の主面にも、振動腕22の長手方向に沿って一本の長溝26bが設けられている。同様に、図示はしないが、一方の振動腕22(紙面上右側の振動腕)の他方の主面にも、1本の有底の溝26bが設けられている。
このように、各振動腕22に設けられた長溝26a,26bによって、剛性が小さくなって振動しやすくなり、振動腕22が効率よく振動して良好な振動特性を示すことが可能になる。また、長溝26a,26bは、各振動腕22の基部21との付け根部近傍において、振動に伴なう歪により振動腕22の両側面の突堤部25で発生する温度上昇および温度低下に起因する熱の流路を狭めているので、熱の移動を抑制して熱弾性損失を低減する効果を奏し、この結果、CI値の増大やQ値の低下などの熱弾性損失による悪影響を抑制できる。
【0042】
また、各振動腕22の基部21との付け根とは反対側の先端側において、長溝26a,26bは、基部21側から先端側に向けて開口部の幅が徐徐に狭まる縮幅部26Aを有している。本実施形態では、各長溝26a,26bの縮幅部26Aの基部21側の基点、および、縮幅部26Aの先端部が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されているとともに、それらの縮幅部26Aの開口部の形状が、各振動腕22および長溝26a,26bの長手方向中心線に対して略線対称に形成されている(図1(c)を参照)。
【0043】
なお、長溝26aの縮幅部26Aの平面視形状は、必ずしも図1(a),(c)に示すような連続した曲線のテーパー形状に限らない。平面視で直角あるいは直角よりも鋭角な角部がなければよく、例えば、図2(a)に示すように、長溝26aの先端側に平面視で略円形の広がりを有したり、図2(b)に示すように、長溝26aの先端側が平面視で平坦であってもよく、また、図2(c)に示すように、縮幅部26Aの基部側(紙面上手前側)の基点に角部がある場合でも直角よりも鈍角な角部であればよい。
また、本実施形態では形状のバランスをよくすることにより振動特性の安定化が図られた好適な例として、長溝26a,26bの開口部の形状が、振動腕22および長溝26a,26bの中心線に対して略線対称に形成された例を説明したが、本発明はこれに限定されない。縮幅部26Aを有する長溝26a,26bは、その長手方向の中心線に対して線対称でなくても、その縮幅部26Aにより後述するような振動特性を向上させる効果を奏する。
【0044】
振動片20は、基部21の第2の部分21bから延びる一対の支持腕30を有している。一対の支持腕30は、基部21から一対の振動腕22が延びる方向とは交差方向であって、それぞれ相互に反対方向に延出されてから、屈曲部32で略直角に屈曲され、一対の振動腕22の延出方向と平行な方向に延びている。このように屈曲させることにより、支持腕30を有する振動片20の小型化を図ることができる。支持腕30は、屈曲部32よりも先端側(振動腕22の先端部29Aと同じ先端側)に、後述するようにパッケージなどに取り付けられる固定領域を含み、この支持腕30の固定領域で振動片20を支持するように取り付けることによって、振動腕22および基部21を振動片20の固定面から浮いた状態にすることができる。
【0045】
各振動腕22の各長溝26a,26b、および各両側面を含む表面には励振電極33,34が形成されている(図1(b)を参照)。一方の振動腕22において、励振電極33,34間に電圧を印加して、振動腕22の両側面を伸縮させることで振動腕22を振動させる。励振電極33,34は、水晶をエッチングして振動片20の長溝26a,26bを含む外形を形成した後で、例えば、ニッケル(Ni)またはクロム(Cr)を下地層として、その上に、蒸着またはスパッタリングにより例えば金(Au)による電極層を成膜し、その後フォトリソグラフィを用いてパターニングすることにより形成することができる。ここで、クロムは水晶との密着性が高く、また、金は、電気抵抗が低く酸化し難いことで知られている。
【0046】
ここで、振動片20が動作した際の熱弾性損失の発生状態や、本実施形態の振動片20による熱弾性損失の抑制効果について説明する。
本実施形態の振動片20は屈曲振動モードで振動する。すなわち、図1(a)に示すように、外部に接続された励振手段としての発振回路(図示せず)から励振電極33,34に駆動電圧を印加すると(図1(b)を参照)、各振動腕22は、図中矢印で示すように互いに水平方向に接近または離反する向きに振動する。
この屈曲振動によって、各振動腕22の基部21との連結部において、各振動腕22の振動方向の付け根部分の領域(幅広部24の突堤部25の基部21との境界近傍の領域)には、振動腕22の屈曲振動方向に応じた圧縮応力または引張応力とが発生する。
【0047】
具体的には、図中左側の振動腕22の先端側が、図中右側の振動腕22に接近する向きに屈曲すると、図中左側の振動腕22の幅広部24の突堤部25のうち図中左側の突堤部25近傍の領域には引張応力が作用して温度が下降し、図中右側の突堤部25近傍の領域には圧縮応力が作用して温度が上昇する。逆に、図中左側の振動腕22の先端側が図中右側の振動腕22から離反する向きに屈曲したときには、図中左側の振動腕22の幅広部24の突堤部25のうち、図中左側の突堤部25近傍の領域には圧縮応力が作用して温度が上昇し、図中右側の突堤部25近傍の領域には引張応力が作用して温度が下降する。
【0048】
同様に、図中右側の振動腕22の先端側が図中左側の振動腕22に接近する向きに屈曲すると、図中右側の振動腕22の幅広部24の突堤部25のうち図中左側の突堤部25近傍の領域には圧縮応力が作用して温度が上昇し、図中右側の突堤部25近傍の領域には引張応力が作用して温度が下降する。また、図中右側の振動腕22の先端側が図中左側の振動腕22から離反する向きに屈曲したときには、図中左側の振動腕22の幅広部24の突堤部25のうち、図中左側の突堤部25近傍の領域には引張応力が作用して温度が下降し、図中右側の突堤部25近傍の領域には圧縮応力が作用して温度が上昇する。
【0049】
このように、各振動腕22それぞれの基部21との連結部近傍では、圧縮応力が作用する部分と引張応力が作用する部分との間で温度勾配が生じ、その傾斜は、各振動腕22の振動の向きによって逆向きになる。この温度勾配によって、熱が、圧縮側の部分から引張(伸張)側の部分へ、すなわち、高温側の部分から低温側の部分へと伝達されることにより、振動エネルギーの損失が生じて、CI値の増大やQ値の低下などの振動特性の劣化を招く熱弾性損失が発生する。
【0050】
本実施形態の振動片20は、各振動腕22の両主面の長手方向に沿って形成された長溝26a,26bが、振動腕22の屈曲振動に伴なう歪により振動腕22の両側面の突堤部25の基部21との付け根近傍の領域で発生する温度上昇および温度低下に起因する熱の流路を狭め、熱弾性損失を低減する効果を奏するので、CI値の増大やQ値の低下などの熱弾性損失による悪影響を抑制することができる。
【0051】
また、上記に説明したように各振動腕22の基部21との付け根近傍に生じる熱弾性損失が、振動腕22の基部21との付け根とは反対側の先端部においても、振動腕22の両主面にそれぞれ設けられた長溝26a,26bの先端部分が特定の形状を有する場合に発生し得ることを発明者は見出した。すなわち、図9に示す従来の振動片1の振動腕3,4にそれぞれ設けられた長溝6,7のように、振動腕3,4の基部2との付け根とは反対側の先端部において、長溝6,7の開口部の一端側が、平面視で略直角もしくはそれ以下の鋭角な角部を有する場合に、その不連続な形状の角部の近傍の領域15,16に応力が集中することによって局所的な温度変化が生じる。すると、その温度変化に起因して振動腕3,4の先端側に熱の流れが発生することにより熱弾性損失が増大して、Q値を低下させるなどの振動特性の劣化を招く。
【0052】
本実施形態の振動片20によれば、各振動腕22の基部21との付け根とは反対側の先端側において、長溝26a,26bが、基部21側から先端側に向けて開口部の幅が徐徐に狭まる縮幅部26Aを有している。しかも、各長溝26a,26bの縮幅部26Aの基部21側の基点、および、縮幅部26Aの先端部が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されているので、振動腕22の屈曲振動時に長溝26a,26bの端部に応力が集中しにくい構造になっている。これにより、長溝の端部が、直角もしくは直角より小さい鋭角のような不連続な形状の角部を有している場合に比して、振動腕22の屈曲振動に伴う熱弾性損失を低減することができるので、Q値の低下が抑えられ、優れた振動特性を有する振動片20を提供することができる。
【0053】
また、本実施形態の振動片20では、長溝26a,26bそれぞれの基部21との付け根とは反対側の先端部の形状、および、縮幅部26Aの開口部の形状が、長溝26a,26bの長手方向中心線に対して略線対称に形成されている。このように、振動腕22の外形および長溝26a,26bがバランスのよい形状に形成されているので、より安定した振動特性を備えた振動片20を提供することができる。
【0054】
〔振動子〕
次に、上記の振動片20を用いた振動子について説明する。
図3は、上記の振動片20を搭載する振動子の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側からみた概略平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。なお、図3(a)では、振動子の内部の構造を説明する便宜上、振動子200の上方に設けられるリッド119(図3(b)を参照)を取り外した状態を図示している。
【0055】
図3において、振動子200は、段差を有する凹部が設けられたパッケージ110を有している。パッケージ110の凹部の凹底部分には、振動片20が接合され、パッケージ110の開放された上端には蓋体としてのリッド119が接合されている。
【0056】
パッケージ110は、平板状の第1層基板111上に、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板112および第3層基板113がこの順に積層されて構成されることにより、上面側に開口部を有し内部に段差が設けられた凹部が形成されている。パッケージ110の材質としては、例えば、セラミック、ガラスなどを用いることができる。
【0057】
パッケージ110の凹部において、第2層基板112により形成される段差上には、振動片20が接合される複数の振動片接続端子115が設けられている。また、図示はしないが、パッケージ110の外底面となる第1層基板111の外底面には、外部基板との接合に供する外部実装端子が設けられている。
このようにパッケージ110に設けられた上記の各種端子は、対応する端子どうしが、図示しない引き回し配線やスルーホールなどの層内配線により接続されている。
【0058】
パッケージ110の凹部には、振動片20が接合されている。具体的には、振動片20の支持腕30の一部に設けられた図示しない外部接続電極と、パッケージ110の凹部において第2層基板112の突部112aにより形成された段差上に設けられた振動片接続端子115とが位置合わせされ、例えば銀ペーストなどの導電性の接合部材96により接合されるとともに、電気的に接続されている。これにより、振動片20が、パッケージ110内において、凹部の凹底部分となる第1層基板111との間に隙間を空けながら、振動腕22を自由端として固定される。
【0059】
図3(b)に示すように、振動片20が凹部内に接合されたパッケージ110の上端には、蓋体としてのリッド119が配置され、パッケージ110の開口を封鎖している。リッド119の材質としては、例えば、42アロイ(鉄にニッケルが42%含有された合金)やコバール(鉄、ニッケルおよびコバルトの合金)等の金属、セラミックス、あるいはガラスなどを用いることができる。例えば、金属からなるリッド119は、コバール合金などを矩形環状に型抜きして形成されたシールリング118を介してシーム溶接することによりパッケージ110と接合される。パッケージ110内に形成される内部空間は、振動片20が動作するための空間となる。また、この内部空間は、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止されている。
【0060】
上記構成の振動子200によれば、上記した構成の振動片20を備えているので、振動腕22に設けられた縮幅部26Aを有する長溝26a,26bによって、振動効率が向上されてCI値の低減が図られるとともに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた振動特性を備えた振動子200を提供することができる。
【0061】
〔発振器〕
次に、上記の振動片20を用いた発振器について説明する。
図4は、上記の振動片20を搭載する発振器の一実施形態を説明するものであり、(a)は上側からみた概略平面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。なお、図4(a)では、発振器の内部の構造を説明する便宜上、発振器300の上方に設けられるリッド219を取り外した状態を図示している。
【0062】
図4において、発振器300は、段差を有する凹部が設けられたパッケージ210を有している。パッケージ210の凹部の凹底部分には、ICチップ150と、ICチップ150の上方に配置された振動片20とが接合され、パッケージ210の開放された上端には蓋体としてのリッド219が接合されている。
【0063】
パッケージ210は、平板状の第1層基板211上に、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板212、第3層基板213、および第4層基板214がこの順に積層されて構成されることにより、上面側に開口部を有し内部に段差が設けられた凹部が形成されている。パッケージ210の材質としては、例えば、セラミック、ガラスなどを用いることができる。
【0064】
パッケージ210の凹部の凹底部分となる第1層基板211上には、ICチップ150が配置されるダイパッド215が設けられている。なお、図示はしないが、パッケージ210の外底面となる第1層基板211の外底面(ダイパッド215が設けられた面と異なる面)には、外部基板との接合に供する外部実装端子が設けられている。
また、パッケージ210の凹部において、第2層基板212により形成される段差上には、ICチップ150との電気的な接続に供する複数のIC接続端子216が設けられている。
さらに、パッケージ210の凹部において、第3層基板213により形成される段差上には、振動片20が接合される複数の振動片接続端子217が設けられている。
このようにパッケージ210に設けられた上記の各種端子は、対応する端子どうしが、図示しない引き回し配線やスルーホールなどの層内配線により接続されている。
【0065】
ICチップ150は、振動片20を発振させる発振回路や、温度補償回路などを含む半導体回路素子である。ICチップ150は、パッケージ210の凹部の凹底部分に設けられたダイパッド215上に、例えばろう材95によって接着・固定されている。また、ICチップ150とパッケージ210とは、本実施形態では、ワイヤーボンディング法を用いて電気的に接続されている。具体的には、ICチップ150に設けられた複数の電極パッド155と、パッケージ210の対応するIC接続端子216とが、ボンディングワイヤー97により接続されている。
【0066】
パッケージ210の凹部において、ICチップ150の上方には、振動片20が接合されている。具体的には、振動片20の支持腕30の一部に設けられた図示しない外部接続電極と、パッケージ210の凹部において第3層基板213の突部213aにより形成された段差上に設けられた振動片接続端子217とが位置合わせされ、例えば銀ペーストなどの導電性の接合部材96により接合されるとともに、電気的に接続されている。これにより、振動片20が、パッケージ210内において、下方に接合されたICチップ150との間に隙間を空けながら、振動腕22を自由端として固定される。
【0067】
図4(b)に示すように、ICチップ150および振動片20が凹部内に接合されたパッケージ210の上端にはリッド219が配置され、パッケージ210の開口を封鎖している。例えば、金属からなるリッド219を用いた場合には、コバール合金などを矩形環状に型抜きして形成されたシールリング218を介してシーム溶接することによりパッケージ210と接合される。パッケージ210内において振動片20が動作するための空間となる内部空間は、減圧空間または不活性ガス雰囲気に密閉・封止されている。
【0068】
上記構成の発振器300によれば、上記した構成の振動片20を備えているので、振動腕22に設けられた縮幅部26Aを有する長溝26a,26bによって、振動効率が向上されてCI値の低減が図られるとともに、熱弾性損失によるQ値の低下が抑えられ優れた発振特性を備えた発振器300を提供することができる。
【0069】
上記実施形態で説明した振動片は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0070】
(変形例1)
上記実施形態では、各振動腕22の両主面に、同一形状の有底の長溝26a,26bをそれぞれ1つずつ形成した構成の振動片20を説明した。これに限らず、振動腕の両主面のそれぞれに、複数の長溝を形成する構成としてもよい。
図5および図6は、振動腕の両主面のそれぞれに複数の長溝を形成する構成の振動片の変形例1の2つのバリエーションのそれぞれを模式的に説明するものであり、図5および図6ともに、(a)は、一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA2−A2線断面またはA4−A4線断面を示す断面拡大図、(c)は、(a)のD2部またはD4部を説明する部分拡大平面図である。なお、本変形例では、図5および図6において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0071】
まず、変形例1の一つ目の振動片について説明する。
図5に示す振動片40は、一対の切り込み31が形成された基部21と、基部21の第1の部分21aの一端側から互いに平行に延出する一対の振動腕22と、基部21の第2の部分21bから延びる一対の支持腕30と、を有している。各振動腕22は、主要な振動部である一般部23と、基部21との付け根側に、一般部23から基部21側に向けて振動腕の両側面の幅が徐徐に広げられた幅広部24を有している。
【0072】
振動片40の各振動腕22の一方の主面には、長手方向の略半分の領域に形成された有底の長溝46aと、その長溝46aが形成された領域とは異なる略半分の領域に形成された有底の長溝46cとがそれぞれ設けられている。これらの長溝46a,46cは、各振動腕22の基部との付け根とは反対側の先端部において、各長溝46a,46cの側壁が形成する開口部形状のうち、振動腕22の両側面側の側壁が振動腕22の内側に向かって徐徐に狭まる縮幅部46Aを有している。さらに、本変形例の振動片40では、各長溝46a,46cそれぞれの縮幅部46Aの基部21側の基点が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されているとともに、それらの縮幅部46Aの開口部の形状が、振動腕22の長手方向中心線に対して略線対称に形成されている(図5(a)および(c)を参照)。
【0073】
図5(b)に示すように、各振動腕22の他方の主面には、長手方向の略半分の領域に形成された有底の長溝46bと、その長溝46bが形成された領域とは異なる略半分の領域に形成された有底の長溝46dとがそれぞれ設けられている。これらの他方の主面に設けられた長溝46b,46dと、一方の主面に設けられた長溝46a,46cとは、平面視で、同一の外形を有して、且つ、重なるように配置されている。
【0074】
また、振動腕22の両側面には励振電極43がそれぞれ配置されている。また、長溝46a〜長溝46dの前記両側面側の内壁には、励振電極43の対向電極として励振電極44がそれぞれ設けられている。
【0075】
次に、変形例1の振動片の二つ目のバリエーションについて説明する。
図6に示す振動片60は、各振動腕22の一方の主面に設けられた2つの長溝66a,66cと、各振動腕22の他方の主面の、平面視で長溝66aと長溝66cとの間の領域で、且つ、長溝66a,66cと重ならない領域に設けられた長溝66bと、を有している。
詳述すると、各振動腕22の一方の主面には、長手方向の略半分の領域に形成された有底の長溝66aと、その長溝66aが形成された領域とは異なる略半分の領域に形成された有底の長溝66cとが、振動腕22の長手方向の中央に所定の間隔を空けて設けられている。これらの長溝66a,66cは、各振動腕22の基部との付け根とは反対側の先端部において、各長溝66a,66cの側壁が形成する開口部形状のうち、振動腕22の両側面側の側壁が、振動腕22の基部21側から先端部29Aに向けて、振動腕22の内側に向かって徐徐に狭まる縮幅部66Aを有している。さらに、本変形例の振動片60では、各長溝66a,66cそれぞれの縮幅部66Aの基部21側の基点が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されているとともに、それらの縮幅部66Aの開口部の形状が、振動腕22の長手方向中心線に対して略線対称に形成されている(図6(a)および(c)を参照)。
【0076】
また、各振動腕22の他方の主面には、振動腕22の長手方向の略中央の領域であって、且つ、長溝66a,66cと平面視で重ならない領域に、各長溝66a,66cの振動腕22の中央寄りの側壁とそれぞれ平行な側壁を有する直線状の有底の長溝66bが設けられている。なお、本変形例では、他方の主面側に一本の長溝66bを設ける構成を説明したが、この他方の主面側に設ける長溝は二本以上であってもよい。
【0077】
振動腕22の両側面には励振電極63がそれぞれ配置されている。また、長溝66a,66cの前記両側面側の内壁には、励振電極63の対向電極として励振電極64がそれぞれ設けられている。
【0078】
上記変形例1の振動片40,60によれば、各振動腕22の基部21との付け根とは反対側の先端側において、長溝46a〜46dまたは長溝66a〜66cの開口部の形状を形成する側壁のうち各振動腕22の両側面側の側壁が、基部21側から先端側に向けて振動腕22の内側に向かって徐徐に狭まる縮幅部46Aまたは縮幅部66Aを有している。しかも、縮幅部46Aまたは縮幅部66Aを有する各長溝46a〜46bまたは長溝66a,66cにおいて、縮幅部46Aまたは縮幅部66Aの基部21側の基点が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されている。これにより、長溝46a〜46dまたは長溝66a〜66cにより振動効率が向上する効果が得られるとともに、振動腕22がその幅方向に屈曲振動した時に、各長溝46a〜46dまたは長溝66a,66cの振動腕22の側面側の端部に応力が集中しにくい構造になっているので、振動腕22の屈曲振動に伴う熱弾性損失が低減されることにより、Q値の低下が抑えられ、優れた振動特性を有する振動片40,60を提供することができる。
また、上記実施形態の振動片20の長溝26a,26bのように、振動腕22の各主面に1つの長溝26a,26bが設けられた構成に比して、少なくとも一方の主面に複数の長溝46a〜46dまたは長溝66a〜66cが設けられることにより、振動腕22の主面の中央に突堤部が形成されるので、振動腕22の機械的強度を向上させることができる。
【0079】
(変形例2)
上記実施形態および変形例1の振動片20,40,60では、縮幅部26A,46A,66Aを有する長溝26a,26b、長溝46a〜46d、長溝66a,66cを、振動腕22の一主面に、振動腕の長手方向の中心線に対して略線対称となるように設けた例を説明した。これに限らず、振動腕22の一主面に長溝を略線対称に設けなくても、両主面にそれぞれ設けた長溝が、振動腕22の長手方向の中心線に対して平面視で左右対称となるように設けてもよい。
図7は、振動片の変形例2を模式的に説明するものであり、(a)は、一方の主面側の平面図、(b)は、(a)のA3−A3線断面を示す断面拡大図、(c)は、(a)のD3部を説明する部分拡大平面図である。なお、本変形例では、図7において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0080】
図7(a)において、振動片80は、一対の切り込み31が形成された基部21と、基部21の第1の部分21aの一端側から互いに平行に延出する一対の振動腕22と、基部21の第2の部分21bから延びる一対の支持腕30と、を有している。各振動腕22は、その中央部に一般部23を有し、一般部23から基部21側に向けて振動腕の両側面の幅が徐徐に広げられた幅広部24を有している。
【0081】
各振動腕22の一方の主面には、それぞれ長手方向の略半分の領域に沿って一本の有底の長溝86aがそれぞれ設けられている。また、各振動腕22の他方の主面において、各振動腕22の長手方向の略半分の領域(上記長溝86aが形成された領域とは異なる領域)に沿って一本の長溝86bが設けられている。すなわち、各振動腕22のそれぞれには、一方の主面に開口部を有する有底の長溝86aと、他方の主面に開口部を有する有底の長溝86bとが、平面視で重ならない配置にて異なる面に開口部を有して並設されている。
【0082】
長溝86a,86bは、各振動腕22の基部との付け根とは反対側の先端部において、各長溝86a,86bの側壁が形成する開口部形状のうち、振動腕22の両側面側の側壁が振動腕22の内側に向かって徐徐に狭まる縮幅部86Aを有している。さらに、本変形例の振動片80では、各長溝86a,86bそれぞれの縮幅部86Aの基部21側の基点が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されている。さらに、本変形例の振動片80では、各振動腕22において、異なる主面に設けられた長溝86aと長溝86bとは、平面視で、振動腕22の長手方向の中心線に対して略線対称となるように配置されている。(図7(a)および(c)を参照)。
【0083】
図7(b)に示すように、振動腕22の両側面には励振電極83がそれぞれ配置されている。また、長溝86aおよび長溝86bの前記両側面側の内壁には、励振電極83の対向電極として励振電極84がそれぞれ設けられている。
【0084】
上記変形例2の振動片80によれば、上記実施形態の振動片20、および、上記変形例1の振動片40,60と同様に、長溝86a,86bにより振動効率が向上する効果が得られるとともに、各長溝86a,86bが縮幅部86Aを有することにより、振動腕22がその幅方向に屈曲振動した時に、各長溝86a,86bの振動腕22の側面側の端部に応力が集中しにくい構造になっているので、振動腕22の屈曲振動に伴う熱弾性損失が低減され、Q値の低下が抑えられた優れた振動特性を有する振動片80を提供することができる。
【0085】
(変形例3)
上記実施形態および変形例1,2の振動片20,40,60,80で説明した縮幅部26A,46A,66A,86Aを有する長溝26a,26b、長溝46a〜46d、長溝66a,66c、および長溝86a,86bを備えた構成は、振動腕の基部との付け根側の反対側の先端側に錘部を設けることによって、小型化を保持しながら低周波数の振動片を得ることができる。
図8は、振動腕に錘部を有する振動片を模式的に説明するものであり、(a)は、一方の主面側の平面図、(b)および(c)は、(a)のD部の長溝の位置のバリエーションを説明する部分拡大平面図である。なお、本変形例では、図8において、上記実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0086】
図8(a)において、振動片100は、一対の切り込み31が形成された基部21と、基部21の第1の部分21aの一端側から互いに平行に延出する一対の振動腕122と、基部21の第2の部分21bから延びる一対の支持腕30と、を有している。各振動腕122は、主要な振動部である一般部23と、基部21との付け根側に、一般部23から基部21側に向けて振動腕の両側面の幅が徐徐に広げられた幅広部24を有している。
【0087】
また、本変形例の振動片100において、各振動腕122の先端側には、一般部23よりも幅が広い錘部129が設けられている。このように、各振動腕122の先端側に錘部129を設けることにより、錘部129が錘の機能を果たして振動腕122の長さを増大させることなく周波数を低くすることができる。
なお、本変形例の振動片100では、各振動腕122における錘部129の幅(振動腕122の両側面間の幅)が、幅広部24の最も幅が広い基部21との接続部の幅よりも小さく設定されている。このようにすることにより、振動腕122の基部21との付け根部近傍の剛性が強くなるので、錘部129を設けることによる振動腕122の耐衝撃性などの劣化を抑制しながら高調波振動の抑制を図ることができるので好ましい。
【0088】
各振動腕122の一方の主面には、長手方向に沿って延びる有底の長溝126aがそれぞれ設けられている。また、図示はしないが、各振動腕122の他方の主面にも、振動腕122の長手方向に沿って延びる長溝が設けられている。各長溝126aは、各振動腕122の基部21との付け根とは反対側の先端側において、基部21側から先端側に向けて開口部の幅が徐徐に狭まる縮幅部126Aを有している。また、各縮幅部126Aの基部21側の基点、および、縮幅部126Aの先端部が平面視で丸味をおびた連続的な形状を呈して形成されているとともに、それらの縮幅部126Aの開口部の形状が、長溝126aの長手方向中心線に対して略線対称に形成されている。
【0089】
なお、錘部129を有する振動腕122を備えた本変形例の振動片100では、図8(a)および図8(b)に示すように、長溝126aの先端側(振動腕122の先端側)が、一般部23と錘部129との境界よりも先端側(錘部129側)の位置まで形成されている。このようにすることにより、振動腕122が振動する際に生じる応力の集中する領域が振動腕122の延長方向に分散されるので、振動腕122の錘部129の付け根部(一般部23と錘部129との境界)に応力が集中して破損するなどの不具合を回避することができる。
これとは異なる構成として、図8(c)に示すように、長溝126aの一端側(振動腕122の先端側)を、一般部23と錘部129との境界よりも基部21側の位置まで形成する構成としてもよい。このようにすることにより、振動腕122が振動する際に生じる応力の集中する領域が振動腕122の延長方向に分散されことにより、振動腕122の錘部129の付け根部に応力が集中して破損するなどの不具合を回避できとともに、各振動腕122における錘部129の質量付加効果が増すので、振動片100のサイズを増大させることなく低周波化を図ることができる。
【0090】
上記変形例3の振動片100によれば、振動腕122の先端部分の錘部129が錘の機能を果たすことにより、振動腕122の長さを増大させることなく周波数を低くすることができるとともに、その錘部129近傍に縮幅部126Aを有する長溝126aが設けられていることにより、振動腕122の振動時に長溝126aの端部に発生する歪が緩和されるので、熱容量が大きい錘部(幅広部)129に熱が流れて起こる比較的大きな熱弾性損失を抑制することができる。したがって、小型で、振動特性に優れた振動片100を提供することができる。
【0091】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0092】
例えば、上記実施形態および変形例では、屈曲振動モードの振動片20,40,60,80,100を例にとって、本発明の熱弾性損失の抑制効果について説明した。これに限らず、ねじり振動モードや剪断モードなどの屈曲振動モード以外の振動モードの振動片においても、本発明の特徴的な構成を具備させることにより上記実施形態および変形例と同様な効果を得ることができる。
【0093】
また、上記実施形態および変形例では、基部21から延出された支持専用の支持腕30を有するとともに、基部21から2本の振動腕22,122が平行に延出されて形成された所謂音叉型の振動片20,40,60,80,100における本発明の実施の形態や変形例について説明した。これに限らず、支持腕30が無い構成の振動片であってもよく、また、固定端となる基部を有する1本の振動腕のみにより構成されるビーム型振動片などであっても、あるいは、3本以上の振動腕を有する振動片であっても、上記実施形態および変形例と同様な効果を得ることができる。
【0094】
上記実施形態および変形例では、水晶などの圧電材料からなる振動片20,40,60,80,100について説明した。これに限らず、例えば、シリコンからなる振動片であっても、上記実施形態および変形例と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0095】
1,20,40,60,80,100…振動片、2,21…基部、3,4,22,122…振動腕、6,7,26a,26b,46a〜46d,66a〜66c,86a,86b,126a…長溝、15,16…(従来の)長溝の角部近傍の領域、21a…(基部の)第1の部分、21b…(基部の)第2の部分、21c…(基部の)接続部分、23…一般部、24…幅広部、25…突堤部、26A,46A,66A,86A,126A…縮幅部、29A…先端部、30…支持腕、32…屈曲部、33,34,43,44,63,64,83,84…励振電極、95…ろう材、96…導電性の接合部材、97…ボンディングワイヤー、110,210…パッケージ、111,211…第1層基板、112,212…第2層基板、112a…突部、113,213…第3層基板、115,217…振動片接続端子、118,218…シールリング、119,219…リッド、129…錘部、150…ICチップ、155…電極パッド、200…振動子、214…第4層基板、215…ダイパッド、300…発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から延出された振動腕と、を有し、
前記振動腕には、前記振動腕の両主面のうち少なくとも一方の主面の長手方向に沿って開口部を有する有底の長溝が設けられ、
前記振動腕の前記基部との付け根とは反対側の先端側において、前記開口部の幅が、前記振動腕の前記基部との付け根側から前記先端側に向かって徐徐に狭まる縮幅部を有することを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片において、
前記縮幅部の前記基部側の基点が平面視で丸味をおびた形状を呈していることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動片において、
前記振動腕に複数の前記長溝が形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項3に記載の振動片において、
一方の前記主面に開口部を有する前記長溝と、他方の前記主面に開口部を有する前記長溝とが形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項4に記載の振動片において、
前記一方の主面および前記他方の主面の少なくともいずれか一方に複数の前記長溝が形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の振動片において、
前記振動腕の前記先端側に、前記基部との付け根側よりも幅が広い錘部を有することを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の振動片において、
前記基部から互いに平行に延出された2つの前記振動腕が備えられ、
前記基部の2つの前記振動腕の間から支持腕が前記振動腕と平行に延出して設けられていることを特徴とする振動片。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の振動片において、
前記縮幅部が前記長溝の中心線に対して略線対称となる前記開口部の形状を有して形成されていることを特徴とする振動片。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の振動片において、
水晶により形成された水晶振動片であることを特徴とする振動片。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の振動片において、
屈曲振動モードを呈する屈曲振動片であることを特徴とする振動片。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を収容するパッケージと、を含むことを特徴とする振動子。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を発振させる発振回路を含む回路素子と、を、パッケージ内に収容させたことを特徴とする発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−199330(P2011−199330A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60323(P2010−60323)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】