説明

接合体の製造方法

【課題】接合材の厚さに制限されることなく、より確実にかつより強い強度で接合された接合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】加熱光5の照射によって加熱溶融する接合材4を用いて第一および第二の部材2,3が接合された接合体1の製造方法に係る。第一の部材2の、第二の部材3と接合される接合面に第一の接合材料層4aを形成する工程と、第一の接合材料層4aの、第一の部材2と接触している面とは反対側の面、または第二の部材3の、第一の部材2と接合される接合面に、所定の波長を有する第一の加熱光5に対して第一の接合材料層4aの吸光率よりも大きい吸光率を有する第二の接合材料層4bを形成する工程と、第一および第二の部材の間に第一および第二の接合材料層4a,4bを挟んだ状態で第一および第二の部材を配置する工程と、第一の加熱光5を、第一の接合材料層4aの側から照射する第一加熱光照射工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱光の照射によって溶融する接合材を用いて2つの部材が接合されてなる接合体の製造方法に関する。特に、画像処理表示装置の気密容器(外囲器)として使用される接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイ(PDP)等のフラットパネルタイプの画像表示装置が公知である。これらの画像表示装置は、内部空間が外部に対して仕切られた外囲器を備えている。外囲器は気密性が確保された気密容器であり、該気密容器の内部に画像表示装置を駆動させるデバイスが配置されている。
【0003】
図6(a)は気密容器の平面図であり、図6(b)〜(e)はそれぞれ図6(a)に示すA−A’断面図、B−B’断面図、C−C’断面図およびD−D’断面図である。
【0004】
図6に示すように、気密容器1は、対向して配置された一対の部材2,3が接合されてなる。気密容器1は、次のように製造される。すなわち、一対の部材2,3のうちの第一の部材2の接合面に接合材4を当該部材の周長に沿って環状に塗布し、接合材4と第二の部材3を当接させる。互いに近づく方向に一対の部材2,3を押圧した状態で、接合材4を加熱溶融し、その後接合材4を冷却することによって一対の部材2,3を接合する。
【0005】
接合材4を加熱する方法としては、組み合わせられた一対の部材2,3を加熱炉に投入して全体をベークする方法や、レーザ光といった加熱光を照射して接合材4の周辺部分を局所加熱する方法が知られている。
【0006】
特許文献1では、加熱光を用いたOLEDの外囲器の製造方法が開示されている。図7(a)は、加熱光を用いて接合材4を加熱して気密容器1を製造する方法の概略を示す平面図であり、図7(b)は図7(a)のE−E’断面図である。
【0007】
特許文献1で開示されている外囲器の製造方法では、まず、対向して配置された、ガラス板からなる一対の部材2,3の周長に沿って接合材4を環状に塗布する。接合材4を塗布する際に、一対の部材2,3の間に間隔規定部材(不図示)を配置する。
【0008】
次に、第一の部材2の、第二の部材3が位置する側とは反対の側から接合材4へ向かって加熱光5を照射する。加熱光5は、第一の部材2を透過して接合材4に到達し、接合材4の温度が上昇して接合材4は溶融する。加熱光5の光源6を環状に塗布された接合材4に沿って移動させて、接合材4の全体を加熱して一対の部材2,3が接合される。
【0009】
一対の部材2,3および接合材4の熱膨張係数が異なっていると、加熱光5により接合材4が加熱されて温度が上昇した際に一対の部材2,3が破損することがある。そのため、特許文献1で開示されている気密容器1の製造方法では、一対の部材2,3および接合材4の熱膨張係数がほぼ等しい条件に限られていた。
【0010】
特許文献2には、異なる熱膨張係数を有する2つの部材が接合されてなる気密容器を、加熱光5を用いて製造する方法が開示されている。気密容器1は、第一の部材2と、該第一の部材2の熱膨張係数とは異なる熱膨張係数を有し、該第一の部材2に対向離間して配置された第二の部材3と、を備えている。第一および第二の部材2,3の間に接合材4が塗布されている。
【0011】
特許文献2で開示されている製造方法で使用されている接合材4の熱膨張係数は、第一の部材2から第二の部材3へ向かって変化している。接合材4の、第一の部材2に近接する部分は第一の部材2の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有し、接合材4の、第二の部材3に近接する部分は第二の部材3の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有している。したがって、加熱光5の照射により接合材4の温度が上昇しても、第一の部材2と接合材4との間の熱膨張による差、および第二の部材3と接合材4との間の熱膨張による差はほとんどなく、第一および第二の部材2,3の破損を抑制することができる。
【0012】
加熱光5を用いて接合材4を局所加熱して気密容器1を製造する方法は、加熱冷却時間や加熱に要するエネルギー、生産性、気密容器1の熱変形防止、気密容器1の内部に配置されたデバイスの熱劣化防止等の観点から、全体をベークする方法よりも有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2008−517446号公報
【特許文献2】特開平11−213923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1や特許文献2で開示されている、加熱光5を用いて気密容器1を製造する方法では、接合材4の片面(図7(a)に示す第一の部材2に接触している面)から加熱光5が照射される。そのため、第一の部材2から第一の部材3へ向かう方向(以下、厚さ方向Zという)における温度分布に差が生じる。接合材4の、加熱光5が照射される照射側の温度は、接合材4の、照射側とは反対側の非照射側の温度よりも高くなる。
【0015】
接合材4の内部で温度差が生じると、熱収縮の差によりクラックが発生しやすくなり、第一の部材2と第二の部材3とが接合されている接合部のシール性および接合強度が低下する場合があった。
【0016】
さらに、接合材4の非照射側の温度が十分に上昇せず、接合材4の溶融不足による接合不良が発生する懸念があった。接合材4の非照射側の温度を上昇させるために加熱光5の出力を大きくすると、照射側の部材2が過加熱されて破損するという問題もあった。
【0017】
接合材4内の温度分布より生じる問題は、特に接合材4の厚さ方向Zの寸法(以下、厚さという)が大きくなるほど顕著である。そのため、気密容器1といった接合体を、加熱光5を用いて製造する方法では接合材4の厚さが制限されていた。その結果、第一の部材2と第二の部材3とが接合されている接合部のシール性や強度を高めるために接合材4を厚くすることができなかった。
【0018】
そこで、本発明は、接合材の厚さを厚くしても接合部のシール性や接合強度が確保することができる、接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、加熱光の照射によって加熱溶融する接合材を用いて第一の部材と第二の部材とが接合された接合体の製造方法に係る。第一の部材の、第二の部材と接合される接合面に第一の接合材料層を形成する工程と、第一の接合材料層の、該第一の部材と接触している面とは反対側の面、または第二の部材の、第一の部材と接合させる接合面に、所定の波長を有する第一の加熱光に対して第一の接合材料層の吸光率よりも大きい吸光率を有する第二の接合材料層を形成する工程と、第一および第二の部材の間に第一および第二の積層材料層を挟んだ状態で第一および第二の部材を配置する工程と、第一の加熱光を、第一の接合材料層の側から照射する第一加熱光照射工程と、を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明の接合体の製造方法によれば、接合材の厚さを厚くしても接合部のシール性や接合強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る気密容器1の製造方法の概略を示す平面図および断面図。
【図2】接合材の、加熱光の波長と吸光率との関係を示すグラフ。
【図3】本発明を適用可能なFEDの一部破断斜視図。
【図4】第一の実施例に係る気密容器の製造方法を示す図。
【図5】第二の実施例に係る気密容器の製造方法を示す図。
【図6】気密容器の平面図および断面図。
【図7】加熱光を用いて接合材を加熱して気密容器を製造する方法の概略を示す平面図および断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本発明は、FEDやOLED、PDP等の画像表示装置の、外部雰囲気から気密遮断されることが必要なデバイスを有する気密容器の製造に適用することが可能である。酸素や水等の流体の流入によって性能が低下する表示素子や、減圧空間で使用される電子放出素子や蛍光膜を備える画像表示装置の気密容器の製造に好適に適用できる。
【0023】
特に、内部が減圧空間とされたFED等の画像表示装置においては、内部空間の負圧によって発生する大気圧荷重に対抗可能な接合強度が求められる。本発明によれば、接合強度がより強く、より確実な接合を実現することが可能である。
【0024】
もちろん、本発明は、気密容器の製造に限られず、加熱光の照射により溶融する接合材を用いて2つの部材が接合されてなる接合体の製造に広く適用することができる。
【0025】
図1(a)は、本発明に係る気密容器1の製造方法の概略を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のF−F’断面図である。
【0026】
まず、ガラス基板からなる第一および第二の部材2,3を準備する。
【0027】
第一の部材2は、気密容器1を構成する一対のガラス基材のいずれか一方のガラス基材であってもよいし、気密容器1の周縁部で一対のガラス基板の間に挟持される枠部材や間隔規定部材であってもよい。さらには、当該枠部材や間隔規定部材とガラス基板とが一体成形された物でも良い。
【0028】
次に、第一の部材2の片方の面に、第一の部材2の周長に沿って接合材4を塗布する。接合材4を塗布した面が第一の部材2の接合面となる。接合材4を塗布する方法としては、ディスペンサを用いた方法やスクリーン印刷等を用いることができる。
【0029】
接合材4は、接合材4の厚さ方向Zに積層された第一および第二の接合材料層4a,4bを有する。まず、第一の部材2の接合面に第一の接合材料層4aを形成する。さらに、第一の接合材料層4aの、第一の部材2と接する面とは反対側の面に第二の接合材料層4bを形成する。
【0030】
第一および第二の接合材料層4a,4bには、加熱された際に流動性が得られ、かつ、低温では固着機能が得られる接合材が適用可能である。すなわち、粘度が負の温度依存性を有する接合材が適用可能である。粘度が負の温度依存性を有する接合材としては、ガラスフリットや無機接着材が挙げられる。
【0031】
さらに、本発明に適用可能な接合材は、加熱光の波長に対して、第一および第二の部材2,3よりも高い吸光率を有することが、第一および第二の部材2,3への熱ストレスを抑制する点で好ましい。
【0032】
第一,第二の接合材料層4a,4bの厚さは、それぞれ1〜15μm程度が好適である。第一,第二の接合材料層4a,4bの厚さの増加に伴って、第一,第二の接合材料層4a,4bに吸収される加熱光の量が増加する。ある厚さになると、厚さ方向Zに沿って照射された加熱光が、第一,第二の接合材料層4a,4bのうちの照射側に位置する第一の接合材料層4a内ですべて吸収される。当該厚さを超える厚さでは、非照射側に位置する第二の接合材料層4bに加熱光が到達しない領域が発生し、接合が困難になる。
【0033】
第一,第二の接合材料層4a,4bが吸収する光量は、接合材の種類や吸光率に依存するため、上記厚さに限定されるものではなく、使用する接合材の種類等により、適宜選択することができる。
【0034】
また、本実施形態では、加熱光の所定の波長gに対して第一,第二の接合材料層4a,4bは異なる吸光率を有している。第一,第二の接合材料層4a,4bの吸光率について、図2を用いて説明する。
【0035】
図2は、第一,第二の接合材料層4a,4bの、加熱光の波長と吸光率との関係を示すグラフである。図2に示すように、所定の波長gを有する加熱光に対する第二の接合材料層4bは、当該加熱光に対する第一の接合材料層4aの吸光率より大きい。
【0036】
第一の部材2に接合材4を塗布したところで、第一の部材2を仮焼形する。なお、ここで言う「仮焼成」とは、接合材の軟化点以下、かつ接合材が分解や結晶化しない温度以下で加熱することを意味する。仮焼成することによって、接合材4に含まれるバインダーを接合材4から抜き出すことができる。
【0037】
次に、第一の部材2と第二の部材3との間に接合材4を挟んだ状態で第一の部材2と第二の部材3を配置し、第二の接合材料層4bと第2の部材3とを当接させる。その結果、図1に示す組み立て体が形成される。
【0038】
続いて、不図示の押圧手段によって、第一および第二の部材2,3が互いに近づく方向に組み立て体を押圧する。
【0039】
押圧手段としては、加重ピン等を介して外部から第一および第二の部材2,3を加圧するメカニカル手段が挙げられる。第一および第二の部材2,3並びに接合材4によって密閉空間が形成されている場合には、該密閉空間内の気体を排気する排気手段や、組み立て体の周囲の圧力を陽圧する陽圧手段を押圧手段として用いることができる。第一または第二の部材2,3自身の自重により接合材4を加圧できる場合には、押圧手段は必要としない。
【0040】
組み立て体への押圧を維持しながら、加熱光5を、第一の部材2の、第二の部材3が位置する側とは反対側から接合材4へ向けて照射する。すなわち、第一の接合材料層4aの、第一の部材2と接する面が照射されるように加熱光5を照射する。
【0041】
加熱光5としては、接合材4を局所的に加熱する性能や第一および第二の部材2,3の透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好適である。
【0042】
レーザといった局所加熱光を用いると、加熱領域が、接合材4の近傍のみに限定される。そのため、第一および第二の部材2,3の中央部の温度を加熱領域に対して低く保つことができる。その結果、第一または第二の部材2,3上に設けられたデバイスへの熱的なダメージを最小限にすることができる。
【0043】
加熱光5の光源6を、接合材4に沿って移動させることにより接合材4の全体が加熱され、接合材4が溶融する。組み立て体が押圧された状態で接合材4が溶融することにより、接合材4が第一および第二の部材2,3に密着する。その後、接合材4が冷却されて固化することにより第一および第二の部材2,3が接合され、気密容器1が完成する。
【0044】
第一の接合材料層4aの温度の上昇は、加熱光5から第一の接合材料層4aが吸収する吸光量に依存する。また、第二の接合材料層4bの温度の上昇は、加熱光5のうちの第一の接合材料層4aを透過した分から第二の接合材料層4bが吸収する吸光量に依存する。
【0045】
本実施形態では、波長gを有する加熱光に対する第一の接合材料層4aの吸光率は従来よりも小さい。したがって、第一の接合材料層4aにより吸収される吸光量は従来よりも少なく、第一の接合材料層4aを通過する光量は従来よりも多くなる。その結果、第二の接合材料層4bへも十分な光量が到達する。
【0046】
波長gを有する加熱光に対する第二の接合材料層4bの吸光量は、当該加熱光に対する第一の接合材料層4aの吸光よりも大きい。そのため、加熱光5のうちの第一の接合材料層4aを透過した光量であっても十分に加熱され、第二の接合材料層4aを溶融させることができる。
【0047】
なお、本実施形態では2種類の接合材料層4a,4bを用いたが、本発明は接合材料層を2種類に限定するものではない。3種類以上の接合材料層を厚さ方向Zに積層することも可能である。
【0048】
また、接合材4の吸光率が、第一の部材2との接触面から第二の部材3との接触面へ向かうにつれて高くなるように変化する接合材を用いることもできる。このような接合材を用いることによって、接合材4の厚さ方向Zに分布する温度の調整をより柔軟に行うことが可能になる。
【0049】
接合材4を設ける工程において、第一および第二の接合材料層4a,4bを塗布する対象となる部材が、第一または第二の部材2,3のうちのどちらかの一方である必要はない。すなわち、第一の部材2に第一の接合材料層4aを形成し、第二の部材3に第二の接合材料層4bを形成する。その後、第一および第二の部材2,3を対向して配置し、第一および第二の接合材料層4a,4bを接触させる。
【0050】
さらに、接合材4に照射される加熱光は1種類に限られない。すなわち、波長g以外の波長を有する加熱光をさらに接合材4に照射してもよい。2種類の加熱光を用いる場合には、第二の加熱光に対する第二の接合材料層4bの吸光率は、第二の加熱光に対する第一の接合材料層4aの吸光率に相当する値かそれよりも小さい値になるように選択する。
【0051】
このように第一および第二の接合材料層4a,4bを選択することにより、第一および第二の加熱光を同じ側から照射しても、第一の加熱光が第二の接合材料層4bを加熱し、第二の加熱光が第一の接合材料層4aを加熱する。すなわち、テーブル上に組み立て体を載置した状態で第一および第二の加熱光を照射する場合であっても、第一,第二の加熱光のそれぞれの出力を調整することで第一,第二の接合材料層4a,4bの温度の制御をより容易にできるようになる。
【0052】
2種類の加熱光を接合材4に照射する場合は、第一の加熱光によって加熱された第二の接合材料層4bの温度が歪点まで冷却される前に第二の加熱光を照射して第一の接合材料層4aを加熱することが望ましい。歪点まで冷却される前に第一の接合材料層4aを加熱することによって、第一および第二の接合材料層4a,4bの温度差により生じるクラックを抑制することができる。
【0053】
第一または第二の加熱光から第一の接合材料層4aが吸収する吸光量E1と、第一または第二の加熱光のうちの第一の接合材料層4aを透過した透過光から第二の接合材料層4bが吸収する吸光量E2とが、次の関係を満たすことが望ましい。すなわち、第一の加熱光に対してはE1<E2であり、第二の加熱光に対してはE1>E2である。
【0054】
このような関係を満たすように加熱光並びに第一および第二の接合材料層4a,4bの条件を選定することによって、第一および第二の接合材料層4a,4bの温度を容易に制御することができる。それぞれの接合材料層4a,4bの吸光量は、接合材の厚さと吸光率により決まる。第一,第二の接合材料層4a,4bの厚さと吸光率、および光源6から生じる加熱光の光量の設定について説明する。
【0055】
第一の接合材料層4aの、第一,第二の加熱光に対する吸光率をA11,A12、第二の接合材料層4bの、第一,第二の加熱光に対する吸光率をA21,A22とする。また、第一,第二の接合材料層4a,4bの厚さをT1,T2、光源6から生じる第一,第二の加熱光の光量をI1,I2とする。このときの、第一の加熱光に対して、
【0056】
【数1】

【0057】
という関係を満たし、第二の加熱光に対して、
【0058】
【数2】

【0059】
という関係を満たすように、第一,第二の接合材料層4a,4bの厚さと吸光率、および光源6から生じる加熱光の光量を設定すればよい。
【0060】
本実施形態における気密容器1の製造方法では、加熱光5の照射開始位置を自由に選択することができる。図1に示すように接合材4が矩形形状の輪郭を描くように塗布されている場合には、当該矩形形状の4つの頂角のいずれから照射を開始してもよく、または、辺上から開始することもできる。接合部4がすべて加熱溶融するように加熱光が照射されればよい。
【0061】
また、本発明は、矩形形状の輪郭を描くように塗布された接合材4に限られず、接合材4を多角形形状や円形形状の輪郭を描くように塗布してもよい。
【0062】
本発明によれば、接合材4を加熱する時の、接合材4の厚さ方向Zにおける温度分布の差が低減されるため、接合材4の未溶融領域がなくなり、より確実に第一および第二の部材2,3を接合することができる。また、第一の接合材料層4aの温度が必要以上に上がることがなくなるため、接合材4を加熱したときの第一の部材2への熱的ダメージを低減することができる。その結果、接合材4の厚さに制限されることなく、より確実に接合された気密容器1を製造することができる。
【0063】
以下、本発明の具体的な実施例について詳述する。ここでは、枠部材および電子放出素子を備えたリアプレート(第1の部材)とフェースプレート(第2の部材)とが接合されてなるFED用の外囲器として適用可能な真空気密容器の製造方法について説明する。
【0064】
(実施例1)
第一の実施例について、図3および図4を用いて説明する。図3は、第一の実施例を用いて製造可能な画像表示装置の一部破断斜視図である。
【0065】
図3に示すように、画像表示装置7の気密容器1(外囲器)は、いずれもガラス製のフェースプレート8、リアプレート9および枠部材10を備えている。
【0066】
枠部材10はそれぞれが平板状のフェースプレート8およびリアプレート9の間に位置し、フェースプレート8およびリアプレート9の間に密閉空間を形成している。具体的には、フェースプレート8と枠部材10、およびリアプレート9と枠部材10とが互いに接合されて、密閉された内部空間を有する気密容器1が形成されている。
【0067】
気密容器1の内部空間は真空に維持され、フェースプレート8とリアプレート9との間の間隔規定部材であるスペーサ11が所定のピッチで設けられている。
【0068】
リアプレート9には、画像信号に応じて電子を放出する複数の電子放出素子12が設けられている。また、画像信号に応じて各電子放出素子12を作動させるための駆動用マトリックス配線(X方向配線13,Y方向配線14)がリアプレート9に形成されている。
【0069】
リアプレート9と対向して位置するフェースプレート8には、電子放出素子12から放出された電子の照射を受けて発光し画像を表示する蛍光体からなる蛍光膜15が設けられている。フェースプレート8上にはさらにブラックストライプ16が設けられている。蛍光膜15とブラックストライプ16は交互に配列して設けられている。
【0070】
蛍光膜15の上にはAl薄膜よりなるメタルバック17が形成されている。メタルバック17は電子を引き付ける電極としての機能を有し、気密容器1に設けられた高圧端子Hvから電位の供給を受ける。メタルバック17の上にはTi薄膜よりなる非蒸発型ゲッタ18が形成される。
【0071】
次に、図4を用いて第一の実施例に係る気密容器1の製造方法について説明する。図4は、本実施例に係る気密容器1の製造方法を示す図である。
【0072】
(ステップ1)
まず、1.8mm厚の高歪点ガラス基材(旭硝子株式会社製PD200)からなるリアプレート9を準備した。リアプレート9の片面にマトリクス駆動配線(不図示)を形成し、電子放出素子12(図3)を当該マトリクス駆動配線の各マトリクス交差部に形成した。
【0073】
その後、PD200からなる枠部材10をリアプレート9の周縁部に接合した。枠部材10の厚さ方向Zの寸法を1.5mmとし、厚さ方向Zと垂直に交わる方向の枠部材10の太さを4mmとした。枠部材10とリアプレート9とを接合する材料としてガラスフリットからなる接合材19を用いた。
【0074】
ガラスフリットとしては、熱膨張係数α=79×10-7/℃、転移点357℃、軟化点420℃のBi系鉛非含有ガラスフリットを母材とし、バインダーとして有機物を分散混合したペーストを用いた。このように調整した接合材19を、第一の部材2上に電子放出素子12(図3)を取り囲むように塗布した。
【0075】
接合材19のリアプレート9上への形成は、スクリーン印刷により行った。接合材19を塗布し、枠部材10とリアプレート9とを当接させた状態でこれらを加熱炉にて仮焼成および本焼成し、リアプレート9と枠部材10を接合した。
【0076】
リアプレート9と枠部材10との接合においては、接合材19の幅を1mm、厚さを10μmとし、相対的に長い辺の長さを800mm、相対的に短い辺の長さを450mmとして矩形状に形成した。
【0077】
(ステップ2)
次に、フェースプレート8を準備する工程を行った。まず、フェースプレート8上に、ステップ1において形成した接合材19と同様のサイズで、第一の接合材料層4aを矩形状に形成した。第一の接合材料層4aは、波長980nmの加熱光に対して吸光率が38.3%となるように調整した。第一の接合材料層4aの幅および厚さをそれぞれ1mm、5μmとした。
【0078】
続いて、波長980nmの加熱光に対して第一の接合材料層4aの吸光率とは異なる第二の接合材料層4bを準備し、第一の接合材料層4aの、フェースプレート8と接触している面とは反対側の面に第二の接合材料層4bを積層し、接合材4を形成した。第二の接合材料層4bは、波長980nmの加熱光に対して吸光率が92.0%となるように調製した。
【0079】
その後、フェースプレート8を460℃で30min仮焼成を行った。
【0080】
(ステップ3)
次に、フェースプレート8の接合材4が形成された面と、リアプレート9の枠部材10が接合された面とを向かい合わせて、接合材4と枠部材10とを当接させた。このとき、約60kPaの荷重でフェースプレート8およびリアプレート9を押圧した。
【0081】
なお、フェースプレート8には、予め、不図示の蛍光体とブラックマトリクスとアノードを形成しておく。蛍光体の配列は、リアプレート9上の電子放出素子12(図3)の配列に対応した画素配列とした。
【0082】
(ステップ4)
次に、フェースプレート8、リアプレート9および枠部材10からなる組み立て体に、加熱光としてレーザ光20を照射した。レーザ光20の照射方法について以下に説明する。
【0083】
レーザ光20の光源としてレーザ光ヘッド21を用い、レーザ光ヘッド21を不図示のブレッドボード上に配置して使用した。接合材4の全体が照射されるように、ブレッドボードを接合材4に対して相対移動させた。
【0084】
レーザ光20は次の照射条件で照射した。レーザ光ヘッド21からのレーザ光20は、波長980nm、レーザパワー212W、有効径2mmとし、1000mm/sの速度でレーザ光ヘッド21を走査させた。レーザ光20の出力としては、接合材4の温度が700℃となるように予め調整されたレーザパワーを用いた。
【0085】
ここで、レーザ光20の有効径は、ピーク強度のe-2(eは自然対数)倍の強度を示すビーム照射範囲内とした。
【0086】
以上のようにして、リアプレート9上の枠部材10と、フェースプレート8との間に連続した接合部を形成して、気密容器1を完成させた。次に、完成した気密容器1の内部の気体を排気して、FEDの外囲器として完成させた。完成したFEDを作動させたところ、長時間安定した電子放出と画像表示が可能であり、完成した外囲器は、FEDに適用可能な程度の安定した気密性と強度が確保されていることを確認した。
【0087】
(実施例2)
実施例2では、図5に示されるように、2種類の加熱光を用いて、気密容器1の製造を行った。図5は、本実施例に係る気密容器1の製造方法を示す図である。
【0088】
まず、実施例1と同様の方法で、枠部材10を接合したリアプレート9を用意した。次に、フェースプレート8上に、実施例1と同様の方法で第一および第二の接合材料層4a,4bを形成した。本実施例では、第一の接合材料層4aについては、波長980nmの加熱光に対し吸光率が38.3%となり、波長380nmの加熱光に対し吸光率が90.1%となるように調整した。また、第二の接合材料層4bについては、波長980nmの加熱光に対し吸光率が92.0%となり、波長380nmの加熱光に対し吸光率が92.7%となるように調製した。その後、460℃で30minの仮焼成を行った。
【0089】
次に、枠部材10が接合されたリアプレート9と、第一および第二の接合材料層4a,4bが形成されたフェースプレート8とを対向配置させ、組み立て体を形成した。対向配置された組み立て体を実施例1と同様の方法で押圧し、加熱光の照射を行った。加熱光を照射した方法を以下に説明する。
【0090】
本実施例では、加熱光として2種類のレーザ光20a,20bを用いた。第一のレーザ光20aを照射する第一のレーザ光ヘッド21aと、第二のレーザ光20bを照射する第二のレーザ光ヘッド21bとの間隔を20mmとしてこれらを不図示のブレッドボードに配置した。第一および第二のレーザ光20a,2bの照射位置の間隔を20mmとした。
【0091】
接合材4の全体が照射されるように、ブレッドボードを接合材4に対して相対移動させた。第二のレーザ光20bが第一のレーザ光20aに追従しながら接合材4へ照射されるようにブレッドボードを移動させた。
【0092】
第一および第二のレーザ光20a,20bは次の照射条件で照射した。第一のレーザ光ヘッド21aからの第一のレーザ光20aの、波長を980nm、レーザパワーを212W、有効径を2mmとした第二のレーザ光ヘッド21bからの第二のレーザ光20bの、波長を380nm、レーザパワーを212W、有効径を2mmとした。
【0093】
第一および第二のレーザ光ヘッド21a,20bの走査の速度を1000mm/sとした。第一および第二のレーザ光ヘッド21a,20bの間隔が20mmであるため、第二のレーザ光20bは、第一のレーザ光20aが通過した箇所を0.02秒後に通過する。すなわち、第一のレーザ光20aを照射する第一照射工程と、第二のレーザ光20aを照射する第二照射工程と、の間隔は0.02秒である。
【0094】
また、第一、第二のレーザ光20a,20bのパワーとしては、第一、第二のレーザ光20a,20bの照射によって接合材4の温度が700℃となるように予め調整されたレーザパワーを用いた。
【0095】
以上のようにして、リアプレート9と枠部材10、および枠部材10とフェースプレート8との間にそれぞれ連続した接合部を形成して、気密容器1を完成させた。次に、完成した気密容器1の内部の気体を排気してFEDの外囲器として完成させた。完成したFEDを作動させたところ、長時間安定した電子放出と画像表示が可能であり、完成した外囲器は、FEDに適用可能な程度の安定した気密性と強度が確保されていることを確認した。
【符号の説明】
【0096】
1 気密容器
2 第一の部材
3 第二の部材
4 接合材
4a 第一の接合材料層
4b 第二の接合材料層
5 加熱光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱光の照射によって加熱溶融する接合材を用いて第一の部材と第二の部材とが接合された接合体の製造方法であって
前記第一の部材の、前記第二の部材と接合させる接合面に第一の接合材料層を形成する工程と、
前記第一の接合材料層の、該第一の部材と接触している面とは反対側の面、または前記第二の部材の、前記第一の部材と接合させる接合面に、所定の波長を有する第一の加熱光に対して前記第一の接合材料層の吸光率よりも大きい吸光率を有する第二の接合材料層を形成する工程と、
前記第一および第二の部材の間に前記第一および第二の接合材料層を挟んだ状態で前記第一および第二の部材を配置する工程と、
前記第一の加熱光を、前記第一の接合材料層の側から照射する第一照射工程と、を含む、接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第二の接合材料層の、前記第一の加熱光とは異なる波長を有する第二の加熱光に対する吸光率が、前記第一の接合材料層の該第二の加熱光に対する吸光率に相当する値かそれよりも小さい値であり、
前記第一照射工程の後に、前記第二の加熱光を、前記第一の加熱光を照射した側から照射する第二照射工程と、をさらに含む、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第一照射工程によって加熱された前記第二の接合材料層の温度が該第二の接合材料層の歪点まで冷却される前に、前記第二照射工程を行う、請求項2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第一,第二の加熱光から前記第一の接合材料層が吸収する吸光量をE1とし、前記第一,第二の加熱光のうちの前記第一の接合材料層を透過した透過光から前記第二の接合材料層が吸収する吸光量をE2としたときに、前記第一照射工程における前記第一の加熱光の照射に対してE1<E2となり、前記第二照射工程における前記第二の加熱光の照射に対してE1>E2となるように前記第一および第二の加熱光を照射することを含む、請求項2または3に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法であって、
前記接合体が気密容器であり、
前記第一および第二の部材が前記気密容器を構成する一対の基板であり、
前記一対の基板と、前記第一および第二の接合材料層と、で規定された密閉空間を有する接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−252828(P2012−252828A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123358(P2011−123358)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】