説明

接着剤組成物、接着シート及び半導体装置保護用材料、並びに半導体装置

【課題】フィルム形成性及び基板に対する接着性に優れ、かつ、高温高湿条件下における絶縁信頼性(耐マイグレーション性)及び接続信頼性に優れる硬化物を提供することができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)、(B)及び(C)成分を含有する接着剤組成物、(A)芳香族ポリシランブロックとポリシロキサンブロックを含有し、テトラヒドロフランを溶出溶媒としてGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000から500,000である重合体、(B)熱硬化性樹脂、(C)フラックス活性を有する化合物、及び、前記接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シート及び半導体装置保護用材料、並びに該接着剤組成物の硬化物を備えた半導体装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関するものであり、特には、フリップチップ実装方式を用いた半導体装置の製造のために好適に使用することができる接着剤組成物に関する。さらには、該接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シート及び半導体装置保護用材料、並びに該接着剤組成物の硬化物を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、半導体装置の高密度化及び高集積化の要求が強まっており、ICパッケージの大容量化及び高密度化が進んでいる。これまで、半導体チップと基板とを接続するには、金属細線を用いるワイヤボンディング方式が広く適用されてきた。しかし、半導体装置の高密度化及び高集積化の要求に対応するため、半導体チップにバンプと呼ばれる導電性突起を形成し、基板電極と半導体チップのバンプとを直接接続するフリップチップ実装方式が主流になりつつある。一般的に、フリップチップ実装方式においては、接続部分の補強や半導体装置の信頼性向上等を目的として、半導体チップと回路基板の間隙をアンダーフィル剤で封止する。アンダーフィル剤で封止する方法には、一般的に、キャピラリーアンダーフィル方式が採用されている。キャピラリーアンダーフィル方式は、チップの一辺または複数面にアンダーフィル剤を塗布し、毛細管現象を利用して回路基板とチップの間隙にアンダーフィル剤を流れ込ませて充填する方法である(特許文献1)。
【0003】
キャピラリーアンダーフィル方式では、図8に示される工程(a)〜(g)が必要とされる。各工程を以下に説明する。
工程(a):フラックス(符号21)を回路基板(符号20)に塗布する工程
工程(b):バンプ(符号22a)が形成された半導体チップ(符号22)を回路基板(符号20)上にマウントする工程
工程(c):フラックス(符号21)を介して半導体チップ(符号22)と回路基板(符号20)とを接合する工程(接合部:符号23)
工程(d):フラックス(符号21)を洗浄する工程
工程(e):半導体チップ(符号22)の一辺または複数面にアンダーフィル剤(符号24)を塗布する工程
工程(f):毛細管現象を利用して回路基板(符号20)と半導体チップ(符号22)の間隙にアンダーフィル剤(符号24)を流れ込ませる工程
工程(g):充填されたアンダーフィル剤(符号24)を硬化し、樹脂封止する工程
【0004】
上記及び図8に示す通り、キャピラリーアンダーフィル方式は工程が煩雑であり、また、洗浄廃液の処理を必要とする。さらに、工程(f)で毛細管現象を利用するため、充填時間が長くなり、半導体装置の生産性に問題を生じることがあった。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、架橋反応可能な樹脂と、フラックス活性を有する化合物と、フィルム形成性樹脂を含む樹脂組成物で構成される接着剤層を有する半導体用フィルムを、半導体チップの機能面に貼り付けて用いる方法が開示されている(特許文献2)。特許文献2に記載の方法では、半導体用フィルムがフラックス及び樹脂封止剤として働くため、フラックスを用いずとも半導体チップを回路基板に接合させる事ができる。その為、上記工程(a)、工程(d)、工程(e)及び工程(f)が不要となり、半導体装置の生産性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−217708号公報
【特許文献2】特開2009−239138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載の方法は、フィルム形成性樹脂としてアクリル樹脂、とくにアクリロニトリルを含むアクリル樹脂を用いるため、高温高湿条件下における絶縁信頼性(耐マイグレーション性)に劣るという重大な問題がある。従って、特許文献2に開示されている方法では、半導体チップと回路基板との接続部分の補強や半導体装置の信頼性向上等の目的を十分達成することができない。その為、基板に対する接着性に優れ、かつ、硬化させることによって接続信頼性並びに絶縁信頼性に優れる半導体装置を提供することができる接着剤組成物の開発が強く望まれている。
【0008】
本発明は、フィルム形成性及び基板に対する接着性に優れ、かつ、高温高湿条件下における絶縁信頼性(耐マイグレーション性)及び接続信頼性に優れる硬化物を提供することができる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記式(1−1)、(1−2)及び(1−3)で表される繰り返し単位を有し、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000から500,000である重合体を含有する接着剤組成物が、柔軟性に優れた接着剤層を形成し、かつ、高温高湿条件下においてもマイグレーションを起こさず、絶縁信頼性に優れた硬化物を提供する事を見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記(A)、(B)及び(C)成分を含有する接着剤組成物を提供する。
(A)下記式(1−1)、(1−2)及び(1−3)で表される繰返し単位を含有し、テトラヒドロフランを溶出溶媒としてGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000から500,000である重合体
【化1】

式中、r、s及びtは正の整数であり、式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を構成する各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位のX、XまたはXの末端炭素原子と結合しており、式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、Xは、互いに独立に、下記式(2)で示される2価の基であり、
【化2】

(式中、Zは、置換または非置換の、炭素数1〜15の2価炭化水素基であり、pは0又は1である。Rは、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、qは0、1または2である)
は、互いに独立に、下記式(3)で示される2価の基であり、
【化3】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の1価炭化水素基、またはグリシジル基である)
は、互いに独立に、下記式(4)で示される2価の基であり、
【化4】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、nは0〜100の整数である)
(B)熱硬化性樹脂
(C)フラックス活性を有する化合物
【0011】
さらに本発明は、上記接着剤組成物を用いて形成された接着剤層を有する接着シート、及び前記接着剤層を有する半導体装置保護用材料、及び該接着剤組成物の硬化物を備えた半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接着剤組成物は、上記繰返し単位を有する重合体を含有することによって、柔軟性に優れた接着剤層を形成することができる。また、上記繰返し単位を有する重合体を含有する接着剤組成物は高温高湿条件下でマイグレーションの問題を起こさず、絶縁信頼性に優れた硬化物を提供する事ができる。その為、本発明の接着剤組成物は、接着シート及び半導体保護用材料のための接着層として好適に使用することができ、絶縁信頼性が保証された半導体装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明の接着剤組成物はフラックス活性を有する化合物を含有するため、加熱等によって金属酸化膜を取り除く効果(フラックス活性)を有する接着剤層を形成する。これにより、接続信頼性に優れた半導体装置を提供することができる。また、該接着剤層が半導体チップと回路基板を接合させる際にフラックスとして機能することにより、半導体チップを基板上にフリップチップ実装する際の、フラックスを回路基板に塗布等する工程(図8:工程(a))、フラックスを洗浄する工程(図8:工程(d))、半導体チップの一辺または複数面にアンダーフィル剤を塗布する工程(図8:工程(e))、及び毛細管現象を利用して回路基板とチップの間隙にアンダーフィル剤を流れ込ませる工程(図8:工程(f))が不要となり、半導体装置の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の接着剤組成物を用いて形成された接着層を有する接着シートを半導体ウエハ上に圧着した態様を示すものである。
【図2】図2は、本発明の接着剤組成物を用いて形成された接着層を有する接着シートを介して、半導体ウエハを半導体加工用保護テープ上に搭載した態様を示すものである。
【図3】図3は、半導体ウエハを研削する態様を示すものである。
【図4】図4は、半導体ウエハをダイシングする態様を示すものである。
【図5】図5は、切断された半導体チップをピックアップする態様を示すものである。
【図6】図6は、ピックアップした半導体チップを、ベース基板上に位置決めして搭載する態様を示すものである。
【図7】図7は、半導体チップとベース基板が半田接合された態様を示すものである。
【図8】図8は、キャピラリーアンダーフィル方式におけるフリップチップ実装工程を示したフロー図である。
【図9】図9は、接着剤層の基板に対する接着力を測定した試験の実施態様である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)シルフェニレン構造及びシロキサン構造を含有する重合体
本発明において(A)成分はフィルム形成性樹脂として機能する。本発明の(A)成分は、上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を含有し、テトラヒドロフランを溶出溶媒としてGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000から500,000、好ましくは5,000から200,000である重合体である。上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)において、r、s及びtは、式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を構成する各単位の繰返しの数を示す。r、s及びtは正の整数であり、重合体の重量平均分子量が3,000から500,000、好ましくは5,000から200,000となる数であればよく、好ましくは、0.05≦r/(r+s+t)≦0.8、0.1≦s/(r+s+t)≦0.7、及び0.05≦t/(r+s+t)≦0.8を満たす整数であり、更に好ましくは、0.1≦r/(r+s+t)≦0.6、0.2≦s/(r+s+t)≦0.5、及び0.1≦t/(r+s+t)≦0.7を満たす整数である。上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を構成する各単位は、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位のX、XまたはXの末端炭素原子と結合している。各単位はランダムに結合していても、ブロック重合体として結合していてもよい。
【0016】
上記式において、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8、好ましくは1〜6 の1価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基などが挙げられる。中でもメチル基及びフェニル基が原料の入手の容易さから好ましい。
【0017】
上記式(2)において、Rは、互いに独立に、炭素数1〜4、好ましくは1〜2のアルキル基又はアルコキシ基であり、メチル、エチル基、プロピル基、tert−ブチル基、メトキシ基、及びエトキシ基などが挙げられる。qは0、1または2であり、好ましくは0である。
【0018】
上記式(2)において、Zは、置換または非置換の、炭素数1〜15の2価炭化水素基であり、炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換されているものであってもよい。好ましくは、Zは下記に示す基のいずれかより選ばれる2価の基である。pは0又は1である。
【化5】

【0019】
上記式(3)において、Rは水素原子、炭素数1〜8、好ましくは1〜3の1価炭化水素基、またはグリシジル基である。1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0020】
上記式(4)において、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8、好ましくは1〜6の1価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基が挙げられる。中でもメチル基、及びフェニル基が原料の入手の容易さから好ましい。nは0〜100の整数、好ましくは0〜60の整数である。
【0021】
上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を含有する重合体は下記式で表す事ができる。
【化6】

式中、R、R、R、R、Z、n、p、q、r、s及びtは上述の通りであり、繰返しを構成する各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の末端は脂肪族不飽和基またはケイ素原子に結合した水素原子である。
【0022】
本発明はさらに、上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位と、下記式(5)で表される単位、下記式(6)で表される単位、及び下記式(7)で表される単位の少なくとも1を有する重合体を提供する。
【化7】

【化8】

【化9】

【0023】
上記式(1−1)、式(1−2)、式(1−3)で表わされる繰返し単位を構成する各単位と、式(5)で表わされる単位と、式(6)で表わされる単位と、及び式(7)で表わされる単位とは、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合している。各単位はランダムに結合していても、ブロック重合体として結合していてもよい。上記式(5)において、Xは、互いに独立に、上記X、XまたはXで示される基であり、mは0〜100の整数、好ましくは1〜60の整数である。上記式(6)及び式(7)において、e、f、g、h、i及びjは0〜100の整数であり、好ましくは0から30である。但し、e+f+g≧3であり、e=f=0ではなく、h=i=0ではない。また、上記式(5)、式(6)及び式(7)においてRは上述の通りである。
【0024】
本発明の重合体は、X、X及びXで示される基の合計モルに対して、X(即ち、上記式(2))で表される基を5モル%以上80モル%以下、好ましくは10モル%以上60モル%以下、X2(即ち、上記式(3))で表される基を10モル%以上70モル%以下、好ましくは20モル%以上50モル%以下、X(即ち、上記式(4))で表される基を5モル%以上80モル%以下、好ましくは10モル%以上70モル%以下で含有する。
【0025】
本発明の重合体は、上記式(5)、式(6)及び式(7)で表わされる単位のうち1種、あるいは2種以上を有する事ができる。各単位の繰返しの数は、重合体の、GPCで測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000から500,000、好ましくは5,000から200,000となる数であればよい。好ましくは、上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位が有する繰返し数の合計(即ち、r+s+t)をa(aは正の整数)、上記式(5)で示される単位の繰返し数をb、上記式(6)で示される単位の繰返し数をc、上記式(7)で示される単位の繰返し数をdとした時に(b、c及びdは整数)、a、b、c及びdの合計に対するaの数が0.05≦a/(a+b+c+d)≦0.99、好ましくは0.2≦a/(a+b+c+d)≦0.98となる数であるのがよい。重合体が上記式(5)で示される単位を有する場合は、該単位の繰返しの数は0.01≦b/(a+b+c+d)≦0.95、好ましくは0.05≦b/(a+b+c+d)≦0.8となる数がよい。重合体が上記式(6)で示される単位を有する場合は、該単位の繰返しの数は0.01≦c/(a+b+c+d)≦0.8、好ましくは0.05≦c/(a+b+c+d)≦0.5となる数がよい。重合体が上記式(7)で示される単位を有する場合は、該単位の繰返しの数は0.01≦d/(a+b+c+d)≦0.8、好ましくは0.01≦d/(a+b+c+d)≦0.5となる数がよい。
【0026】
本発明の重合体は上述した単位に加えて、更に下記に示す単位を含んでいてもよい。
【化10】

【化11】

式中、R、X、e、f、g、h、i、及びjは上述の通りであり、各単位の末端炭素原子は、上述した各単位の末端ケイ素原子と結合する。
【0027】
上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位と式(5)で表される単位を有する重合体は、例えば、下記式で示す事ができる。
【化12】

式中、R、R、R、R、Z、n、m、p、q、r、s、t及びbは上述の通りであり、繰返しを構成する各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の末端は脂肪族不飽和基またはケイ素原子に結合した水素原子である。
【0028】
上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位と、式(6)で表される単位を有する重合体は、例えば、下記式で示す事ができる。
【化13】

式中、R、R、R、R、Z、n、p、q、e、f、g、r、s、t及びcは上述の通りであり、繰返しを構成する各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の末端は脂肪族不飽和基またはケイ素原子に結合した水素原子である。
【0029】
上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位と、式(7)で表される単位を有する重合体は、例えば、下記式で示す事ができる。
【化14】

式中、R、R、R、R、Z、n、p、q、h、i、j、r、s、t及びdは上述の通りであり、繰返しを構成する各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の末端は脂肪族不飽和基またはケイ素原子に結合した水素原子である。
【0030】
上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を有する重合体は、下記式(8)で表される化合物と、下記式(9)で表される化合物と、下記式(10)で表される化合物と、下記式(11)で表される化合物とを、金属触媒存在下で付加重合する工程を含む方法により製造することができる。
【化15】

【化16】

(式中、Z、R、p及びqは上述の通りである)
【化17】

(式中、Rは上述の通りである)
【化18】

(式中、R及びnは上述の通りである)
【0031】
上記式(11)で表わされる化合物としては下記のものが挙げられる。
【化19】

【0032】
また、上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位と、上記式(5)で表される単位、上記式(6)で表される単位、及び上記式(7)で表される単位の少なくとも1とを有する重合体は、上記式(8)で表される化合物と、上記式(9)で表される化合物と、上記式(10)で表される化合物と、上記式(11)で表される化合物と、並びに下記式(12)で表される化合物、下記式(13)で表される化合物、及び下記式(14)で表される化合物の少なくとも1とを、金属触媒下に付加重合させる工程を含む方法により製造することができる。
【化20】

【化21】

【化22】

(式中、R、m、e、f、g、h、i及びjは上述の通りである)
【0033】
上記式(13)で表わされる化合物としては下記のものが挙げられる。
【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【0034】
上記式(14)で表わされる化合物としては下記のものが挙げられる。
【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【0035】
金属触媒は、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;HPtCl・xHO、HPtCl・xHO、NaHPtCl・xHO、KHPtCl・xHO、NaPtCl・xHO、KPtCl・xHO、PtCl・xHO、PtCl、NaHPtCl・xHO(式中、xは0〜6の整数が好ましく、特に0又は6が好ましい)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(例えば、米国特許第3,220,972号に記載のもの);塩化白金酸とオレフィンとの錯体(例えば、米国特許第3,159,601号明細書、米国特許第3,159,662号明細書、及び米国特許第3,775,452号明細書に記載のもの);白金黒やパラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(所謂ウィルキンソン触媒);及び、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン(特にビニル基含有環状シロキサン)との錯体を使用することができる。
【0036】
触媒の使用量は触媒量であればよく、白金族金属として、反応に供する原料化合物の総量に対して0.0001〜0.1質量%、好ましくは0.001〜0.01質量%であることが好ましい。付加反応は溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤を使用しても良い。溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤が好ましい。反応温度は、触媒が失活せず、かつ、短時間で重合の完結が可能である温度であればよく、例えば40〜150℃、特に60〜120℃が好ましい。反応時間は、重合物の種類及び量により適宜選択すればよく、例えば0.5〜100時間、特に0.5〜30時間が好ましい。溶剤を使用した場合には、反応終了後に減圧留去に供して溶剤を留去する。
【0037】
反応方法は特に制限されるものではないが、例えば、式(8)で表わされる化合物と、式(9)で表わされる化合物と、式(10)で表わされる化合物と、式(11)で表わされる化合物とを反応させる場合、先ず、式(9)、式(10)及び式(11)で表わされる化合物を混合して加温した後、前記混合液に金属触媒を添加し、次いで式(8)で表される化合物を0.1〜5時間かけて滴下するのが良い。式(12)で表わされる化合物を反応させる場合には、式(8)で表される化合物と式(12)で表される化合物とを、別々にあるいは同時に、必要に応じで混合して、0.1〜5時間かけて滴下するのが良い。
【0038】
式(13)で表される化合物及び式(14)で表される化合物を反応させる場合には、先ず、式(8)、式(9)、式(10)、及び式(11)で表わされる化合物と、必要に応じて式(12)で表わされる化合物とを付加重合に供し、0.5〜100時間、特に0.5〜30時間攪拌した後、得られた反応液中に式(13)で表される化合物、または式(14)で表される化合物を0.1〜5時間かけて滴下し、1〜10時間、特に2〜5時間攪拌するのが良い。式(8)〜(12)で表される化合物と、式(13)または(14)で表される化合物とを同時に反応させると生成物がゲル化するおそれがある。
【0039】
各化合物の配合比は、上記式(8)、式(12)、式(13)、及び式(14)で表される化合物が有するヒドロシリル基のモル数の合計と、上記式(9)、式(10)、式(11)、式(13)、及び式(14)で表される化合物が有するアルケニル基のモル数の合計が、アルケニル基の合計モル数に対するヒドロシリル基の合計モル数が0.67〜1.67、好ましくは0.83〜1.25となるように配合するのがよい。重合体の重量平均分子量はo−アリルフェノールのようなモノアリル化合物、又は、トリエチルヒドロシランのようなモノヒドロシランやモノヒドロシロキサンを分子量調整剤として使用することにより制御することが可能である。
【0040】
(B)熱硬化性樹脂
(B)成分は、接着剤組成物の接着性及び接続信頼性を向上させるために含有する。本発明において熱硬化性樹脂は特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。中でも、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は重合体(A)が含有するフェノール性水酸基と架橋反応することができる。従って、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であると、接着剤組成物を硬化させる際に、熱硬化性樹脂と重合体(A)とが架橋反応するため、接着剤層の接着性、及び硬化物の接続信頼性がより向上する。
【0041】
エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、またはそれらに水素添化したもの、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂等が挙げられ、好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの市販品としては、例えば、商品名で、jER1001(三菱化学製)、エピクロン830S(DIC製)、jER517(三菱化学製)、EOCN103S(日本化薬製)等が挙げられる。
【0042】
また、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いることもできる。該フェノール樹脂としては、例えば、フェノールやビスフェノールA、p−t−ブチルフェノール、オクチルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、p−フェニルフェノール、クレゾール等を原料として調製したレゾール型フェノール樹脂および/またはノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0043】
熱硬化性樹脂の配合量は特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して5〜500質量部であるのがよく、好ましくは10〜410質量部である。熱硬化性樹脂の配合量が上記範囲内であれば、接着剤組成物または接着層を基材に圧着した時の接着性が向上する。また、該接着剤組成物の硬化物は接続信頼性に優れた硬化物となるため好ましい。
【0044】
また、本発明の接着剤組成物は、前記エポキシ樹脂に加え、更にエポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤を含有することが好ましい。エポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤を含有する事により、硬化反応を適切かつ均一に進めることができる。エポキシ樹脂硬化剤の配合量は(A)成分100質量部に対して3〜200質量部、好ましくは5〜160質量部であるのがよく、エポキシ樹脂硬化促進剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部であるのが良い。
【0045】
エポキシ樹脂硬化剤は、通常使用されるものであればよく、特に限定されないが、耐熱性の観点から芳香族系硬化剤や脂環式硬化剤がより好ましい。該エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、三フッ化ホウ素アミン錯塩、フェノール樹脂等が挙げられる。アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤、イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤、ジシアンジアミド等が挙げられる。中でも、芳香族アミン系硬化剤が好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。上記エポキシ樹脂硬化剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0046】
エポキシ樹脂硬化促進剤は、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、およびこれらの化合物のエチルイソシアネート化合物、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5(DBN)、DBUの有機酸塩、DBUのフェノール樹脂塩、DBU誘導体のテトラフェニルボレート塩等のDBU系化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のトリオルガノホスフィン類、四級ホスホニウム塩、トリエチレンアンモニウム・トリフェニルボレート等の第三級アミン、およびそのテトラフェニルホウ素酸塩等が挙げられる。上記エポキシ樹脂硬化促進剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(C)フラックス活性を有する化合物
(C)フラックス活性を有する化合物は、加熱等によって金属酸化膜を還元し取り除く効果(フラックス活性)を有していれば特に限定されず、例えば、活性化ロジン、カルボキシル基を有する有機酸、アミン、フェノール、アルコール、アジン等が挙げられる。
【0048】
特に、本発明に係るフラックス活性を有する化合物は、分子中にカルボキシ基又はフェノール性水酸基を有する化合物が好ましい。尚、フラックス活性を有する化合物は液状であっても固体であってもよい。フラックス活性を有する化合物が分子中にカルボキシ基又はフェノール性水酸基を有する化合物であれば、接着剤組成物を接着させた半導体チップの機能面を半田付け等する際に、該機能面上に存在するバンプの金属酸化膜を加熱等によって取り除く効果が特に高くなるため好ましい。
【0049】
カルボキシル基を有する化合物としては、例えば脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、芳香族酸無水物、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。また、前記フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えばフェノール類が挙げられる。
【0050】
脂肪族酸無水物としては、例えば無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、及びポリセバシン酸無水物等が挙げられる。
【0051】
脂環式酸無水物としては、例えばメチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、及びメチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0052】
芳香族酸無水物としては、例えば無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、及びグリセロールトリストリメリテート等が挙げられる。
【0053】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸等が挙げられる。また、その他の脂肪族カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、及び琥珀酸等が挙げられる。
【0054】
芳香族カルボン酸としては、例えば安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレートニ酸、ピロメリット酸、メリット酸、トリイル酸、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、トルイル酸、ケイ皮酸、サリチル酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、ゲンチジン酸(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、浸食子酸(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、及び3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸等のナフトエ酸誘導体、及びジフェノール酸等が挙げられる。
【0055】
フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えばフェノール、o−クレゾール、2,6−キシレノール、p−クレゾール、m−クレゾール、o−エチルフェノール、2,4−キシレノール、2,5キシレノール、m−エチルフェノール、2,3−キシレノール、メジトール、3,5−キシレノール、p−ターシャリブチルフェノール、カテコール、p−ターシャリアミルフェノール、レゾルシノール、p−オクチルフェノール、p−フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、ビフェノール、ジアリルビスフェノールF、ジアリルビスフェノールA、トリスフェノール、及びテトラキスフェノール、フェノールフタレイン等のフェノール性水酸基を含有するモノマー類が挙げられる。
【0056】
また、(C)フラックス活性を有する化合物は、(A)成分又は(B)成分と架橋反応できることが好ましい。(A)成分及び(B)成分と反応することによりフラックス活性を有する化合物を3次元的に架橋構造の中に取り込む事ができる。特には、フラックス活性を有する樹脂硬化剤であることが好ましい。該フラックス活性を有する硬化剤としては、例えば1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基と、少なくとも1個の芳香族に直接結合したカルボキシル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、ゲンチジン酸(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)等の安息香酸誘導体;1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸等のナフトエ酸誘導体;フェノールフタレイン;およびジフェノール酸等が挙げられる。
【0057】
フラックス活性を有する化合物を3次元的に架橋構造の中に取り込むことにより、フラックス活性を有する化合物の残渣が硬化物の3次元架橋構造から析出することを抑制することができる。これによって、該化合物の残渣に由来するデンドライトの成長を抑制することができ、硬化物の絶縁信頼性(耐マイグレーション性)をより向上させることができる。
【0058】
(C)フラックス活性を有する化合物の配合量は、特に限定されないが、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは、2〜15質量部であるのがよい。(C)フラックス活性を有する化合物の含有量が上記下限値未満ではフラックス活性の効果が十分得られず、また上記上限値超では、フリップチップ実装工程後にフラックス活性を有する化合物が架橋構造から析出しデンドライトを成長させる原因となる恐れがある。フラックス活性を有する化合物の配合量が上記範囲内にあれば、金属表面の酸化膜を十分に取り除くことができるため、半田接合時において強度の大きい良好な接合が得られる。
【0059】
その他の成分
本発明の接着剤組成物は、上記(A)〜(C)成分以外にも、本発明の接着剤組成物の特性を損なわない範囲でその他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、無機充填剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0060】
無機充填剤
本発明の接着剤組成物は、耐熱性、寸法安定性、耐湿性等の特性を得るために、無機充填剤を含有することができる。無機充填剤としては、例えばタルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、溶融シリカ(溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ)、結晶シリカ等の粉末等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物等を挙げることができる。これらの無機充填剤は1種単独で混合しても、2種以上を併せて混合しても良い。これらの中でも溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末が好ましく、特に溶融球状シリカが好ましい。
【0061】
無機充填剤を含有することにより、本発明の接着剤組成物を硬化させた後の耐熱性、耐湿性、強度等を向上させることができ、また本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層と保護層とが積層してなる接着シートにおいて、接着層の保護層に対する剥離性を向上させることができる。なお、無機充填剤の形状は、特に限定されないが、真球状であることが好ましく、これにより、異方性のない接着剤層を形成することができる。
【0062】
無機充填剤の平均粒径は、特に限定されないが、0.01μm以上0.5μm以下が好ましく、特には0.01μm以上0.3μm以下が好ましい。無機充填剤の平均粒子径が上記下限値未満では、無機充填剤が凝集しやすくなり、強度が低下するため好ましくない。また上記上限値超では、接着剤層の透明度が低下し、半導体チップ表面の位置合わせマークの認識が難しくなり、半導体チップと基板の位置合わせが困難となるため好ましくない。
【0063】
無機充填剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の接着剤組成物の総質量に対し5質量%以上60質量%以下、好ましくは10質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。無機充填剤の含有量が上記上限値超では接着剤層の透明性及びタック性が低下するため好ましくない。
【0064】
シランカップリング剤
本発明の接着剤組成物はシランカップリング剤を含んでも良い。シランカップリング剤を含むことにより、接着剤層の被接着体への密着性をさらに高めることができる。シランカップリング剤としては、エポキシシランカップリング剤、芳香族含有アミノシランカップリング剤等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。シランカップリング剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の接着剤組成物の総質量の0.01質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0065】
また、本発明の接着剤組成物は、上記以外の成分を含んでいても良い。例えば、重合体(A)と熱硬化性樹脂(B)の相溶性を向上するため、あるいは接着剤組成物の貯蔵安定性または作業性等の各種特性を向上するために、各種添加剤を適宜添加しても良い。例えば、脂肪酸エステル・グリセリン酸エステル・ステアリン酸亜鉛・ステアリン酸カルシウム等の内部離型剤、フェノール系、リン系、もしくは硫黄系酸化防止剤等を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。その他の任意成分は、無溶剤で本発明の接着剤組成物に添加してもよいが、有機溶剤に溶解または分散し、溶液または分散液として調製してから添加してもよい。溶剤は接着剤組成物の分散液を調製するための溶剤として以下に説明する有機溶剤を使用することができる。
【0066】
接着剤組成物の調製
本発明の接着剤組成物は、重合体(A)、熱硬化性樹脂(B)、フラックス活性を有する化合物(C)、及び所望によりその他の任意成分、並びに必要に応じて有機溶剤を同時あるいは別々に、必要により加熱処理を加えながら攪拌、溶解、混合、分散させることにより調製される。これらの操作に用いる装置は特に限定されないが、攪拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。また、これらの装置を適宜組み合わせてもよい。有機溶剤は接着剤組成物の分散液を調製するための溶剤として以下に説明する有機溶剤であればよい。
【0067】
本発明の接着剤組成物は25℃での粘度10〜3000mPa・s、好ましくは100〜2000mPa・sを有するのがよい。粘度は回転型粘度計を用いて測定することができる。
【0068】
本発明の接着剤組成物を用いて接着剤層を形成する際には、接着剤組成物を有機溶剤に分散させた溶液として使用するのが好ましい。有機溶剤としては、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、好ましくはメチルエチルケトン、シクロペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。有機溶剤は固形成分濃度が30〜70質量%、好ましくは40〜65質量%となるように配合するのがよい。
【0069】
接着シートの製造
本発明は、上記接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シートを提供する。接着シートとしては、例えば、本発明の接着剤組成物から形成される接着剤層と、該接着剤層を被覆する保護層(離型基材)とを積層して得られる接着シートが挙げられる。本発明の接着シートの製造方法の一例を以下に示す。
【0070】
接着剤組成物を有機溶剤に分散して得た溶液を、リバースロールコータ、コンマコータ等を用いて保護層(離型基材)の上に塗布する。前記接着剤組成物の分散液が塗布された保護層(離型基材)をインラインドライヤに通し、80〜160℃、2〜20分間で有機溶剤を除去し乾燥させて接着剤層を形成し、接着剤層を有する接着シートとする。また、必要に応じて、別の保護層(離型基材)を前記接着剤層上にロールラミネータを用いて圧着し積層することにより接着シートとしてもよい。接着シートに形成される接着剤層の厚みは5〜150μmであるのがよく、特には10〜100μmであるのがよい。
【0071】
接着シートの製造に使用する保護層(離型基材)は、接着剤層の形態を損なうことなく接着剤層から剥離できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、離型処理を施したポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム等を使用することができる。
【0072】
接着シートの使用
本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シートは、例えば、半導体ウエハ上に設けられたバンプと基板上に設けられた電極とを直接接続するフリップチップ実装の為に使用することができる。また、貫通電極を有する半導体素子同士を接続する為に使用することもできる。
【0073】
本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シートを使用して半導体ウエハを実装する態様の一例を図1〜図7に示す。以下に各工程を説明する。
【0074】
(工程1:図1)
保護層(符号1)と接着剤層(符号2)を積層して形成される接着シート(符号2’)を、予めバンプ(図1:省略、図6:符号11)が形成された半導体ウエハ(符号3)の機能面(バンプ形成面)に加熱圧着等により貼り合せる。加熱圧着は、通常、温度 80〜130℃、圧力0.01〜1MPa、時間5〜300秒で行われる。あるいは、真空下50〜1300Paで接着シートを貼り合せ、その後、大気圧へ戻すことによる圧着で行われる。
【0075】
(工程2:図2)
該半導体ウエハ(符号3)に貼り合わせられた接着シート(符号2’)の保護層(符号1)面を、半導体加工用保護テープ(符号4)上に貼り付け、ウエハリング(符号5)によりサポートする。半導体加工用保護テープは、一般的にバックグラインドテープ、ダインシングテープという名称等で市販されているものを使用することができ、用途に応じて適宜選択すればよい。尚、半導体加工用保護テープ(符号4)と接着剤層(符号2)は、保護層(符号1)を介さずに直接貼り合わせることもできる。粘着シートをテープ上に貼り付ける工程は、通常、温度20〜40℃、線圧5〜50N/cm、圧着時間5〜60秒である。該工程は粘着テープを使用して行ってもよい。また、真空下50〜1300Paで貼り合せ、その後、大気圧へ戻すことにより圧着する事ができる。
【0076】
(工程3:図3)
次いで、半導体加工用保護テープ(符号4)を研削(研磨)ステージ(不図示)に固定し、半導体ウエハ(符号3)をグラインドホイール(符号6)により研削(研磨)する。グラインドホイールを有する研削(研磨)装置は、特に限定されることはなく市販されているものを使用すればよい。ここで、研削(研磨)後の半導体ウエハ(図4:符号7)の厚さは、特に限定されないが、30〜600μm程度とすることが好ましい。
【0077】
(工程4:図4)
研削(研磨)後の半導体ウエハ(符号7)は、半導体加工用保護テープ(符号4)面とダイサーテーブル(符号9)とが接するように、ダイサーテーブル(符号9)上に設置される。半導体ウエハ(符号7)は、ダイシングブレード(符号8)を備えるダイシングソー(不図示)を使用して、保護層(符号1)及び接着剤層(符号2)と共に切断される。ダイシング時のスピンドル回転数及び切断速度は適宜選択すればよいが、通常、スピンドル回転数25,000〜45,000rpm、切断速度10〜50mm/secである。
【0078】
(工程5:図5)
半導体加工用保護テープ(符号4)をエキスパンド装置で伸ばして、接着シート(符号2’)と共に個片化された半導体チップ(符号12)の、各々の間に一定の隙間を作る。接着剤層(符号2)と保護層(符号1)の間を剥離し、接着剤層を備えた半導体チップ(符号12)をピックアップする。
【0079】
(工程6:図6)
切断された半導体チップ(符号12)の機能面上に備えたバンプ(符号11)と、ベース基板(符号10)上の電極(符号13)とを、フリップチップボンダー(不図示)を用いて位置合わせし、ベース基板(符号10)上に半導体チップ(符号12)を搭載する。
【0080】
(工程7:図7)
切断された半導体チップ(符号12)の機能面上に備えたバンプ(符号11)と、ベース基板(符号10)上の電極(符号13)とを加熱圧着により接合する。加熱圧着は、通常、温度100〜280℃、荷重1〜500N、時間1〜30秒で行われる。その後、加熱して接着剤組成物を硬化し、半導体チップ(符号12)とベース基板(符号10)との間隙を封止する。接着剤組成物の硬化は、通常、160〜240℃、特には180〜220℃、0.5〜6時間、特には1〜4時間で行われる。
【0081】
上述の通り、本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を使用することにより、キャピラリーアンダーフィル方式(図8)における工程(a)、工程(d)、工程(e)及び工程(f)を省略することが可能になる。また、本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層は、圧着時にベース基板に対する優れた接着性を有する。また、硬化後の接着剤層は接続信頼性並びに絶縁信頼性に優れる。
【0082】
半導体装置保護用材料
また、本発明は、接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する半導体装置保護用材料を提供する。半導体装置保護用材料としての使用態様は、例えば、本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層と半導体加工用保護テープとが積層された保護シートが挙げられる。該保護シートの接着層面を半導体装置の被保護面に貼り付け、保護テープを剥離したのち、接着層面を硬化して保護皮膜とすることにより半導体装置の表面を保護する事ができる。本発明の接着剤組成物の硬化物は接続信頼性並びに絶縁信頼性に優れるため、半導体装置、及び、ダイオード、トランジスタ、IC、LSI等の電子部品の保護皮膜として好適に機能することができる。保護皮膜としての使用態様は、例えば、ダイオード、トランジスタ、IC、LSI等の半導体素子表面のジャンクションコート膜、パッシベーション膜及びバッファーコート膜;LSI等のα線遮蔽膜;多層配線の層間絶縁膜;プリントサーキットボードのコンフォーマルコート;イオン注入マスク;太陽電池の表面保護膜などが挙げられる。
【0083】
半導体装置
上述の通り、本発明の半導体装置の製造方法の一態様としては、本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を介して半導体チップをベース基板に搭載し、その後、接着剤組成物を硬化させる方法が挙げられる。また、別の態様としては、本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する半導体装置保護用材料を半導体装置(被接着物)の保護面に貼り付け、その後、接着剤組成物を硬化して保護皮膜を形成する方法が挙げられる。本発明の接着剤組成物は、フィルム形成性及び基板への接着性に優れており、かつ、高温高湿条件下における接続信頼性および絶縁信頼性(耐マイグレーション性)に優れた硬化物を提供することができる為、半導体装置の高密度化、高集積化への応用のために好適に利用できる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を示して本発明をさらに説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0085】
[合成例1〜5]
合成例において、各重合体の重量平均分子量は、GPCカラム TSKgel Super HZM−H(東ソー社製)を用い、流量0.6ミリリットル/分、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。また、各重合体の1H−NMR分析は、JNM−LA300WB(JEOL社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
【0086】
合成例1〜5において使用した化合物を以下に示す。
【化31】

【化32】

【化33】

【化34】

【化35】

【化36】

【化37】

【化38】

【化39】

【0087】
[合成例1]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した3Lフラスコ内に、上記式(S−1)で示される化合物86.1g(0.2モル)、上記式(S−3)で示される化合物93.0g(0.5モル)、および上記式(S−5)で示される化合物66.9g(0.3モル)を加えた後、トルエン1300gを加え、70℃に加温した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5wt%)1.0gを投入し、上記式(S−6)で示される化合物194.4g(1.0モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計モル数/アルケニル基の合計モル数=1/1)。滴下終了後、100℃まで加温し6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して得られた生成物の構造をH−NMRを用いて解析したところ、下記式で示される重合体であった。また、該重合体のGPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は42,000であった。
【0088】
【化40】

(式中、r/(r+s+t)=0.2、s/(r+s+t)=0.3、及びt/(r+s+t)=0.5であり、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の片末端はアルケニル基であり、もう一方の末端はケイ素原子に結合している水素原子である)
【0089】
[合成例2]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した3Lフラスコ内に上記式(S−1)で示される化合物71.8g(0.167モル)、上記式(S−4)で示される化合物333.3g(0.074モル)および上記式(S−5)で示される化合物14.9g(0.067モル)を加えた後、トルエン1150gを加え、70℃に加温した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5wt%)1.0gを投入し、上記式(S−6)で示される化合物64.8g(0.333モル)を30分かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計モル数/アルケニル基の合計モル数=1.08/1)。滴下終了後、100℃まで加温し、6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して得られた生成物の構造をH−NMRを用いて解析したところ、下記式で示される重合体であった。GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は55,000であった。
【0090】
【化41】

(式中、r/(r+s+t)=0.5、s/(r+s+t)=0.2、及びt/(r+s+t)=0.3であり、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の片末端はアルケニル基であり、もう一方の末端はケイ素原子に結合している水素原子である)
【0091】
[合成例3]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した3Lフラスコ内に上記式(S−2)で示される化合物61.8g(0.2モル)、上記式(S−3)で示される化合物93.0g(0.5モル)および上記式(S−5)で示される化合物66.9g(0.3モル)を加えた後、トルエン1000gを加え、70℃に加温した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5wt%)1.0gを投入し、上記式(S−6)で示される化合物179.0g(0.92モル)および上記式(S−7)で示される化合物54.8g(0.075モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計モル数/アルケニル基の合計モル数=1/1)。滴下終了後、100℃まで加温し、6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して得られた生成物の構造をH−NMRを用いて解析したところ、下記式で示される重合体であった。GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は52,000であった。
【0092】
【化42】

(式中、r/(r+s+t+b)=0.2、s/(r+s+t+b)=0.3、t/(r+s+t+b)=0.4、及びb/(r+s+t+b)=0.1であり、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の片末端はアルケニル基であり、もう一方の末端はケイ素原子に結合している水素原子である)
【0093】
[合成例4]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した3Lフラスコ内に上記式(S−2)で示される化合物61.8g(0.2モル)、上記式(S−3)で示される化合物93.0g(0.5モル)および上記式(S−5)で示される化合物66.9g(0.3モル)を加えた後、トルエン1000gを加え、70℃に加温した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5wt%)1.0gを投入し、上記式(S−6)で示される化合物179.0g(0.92モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃まで加温し、6時間熟成したのち、さらに上記式(S−8)で示される化合物26.8g(0.083モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計モル数/アルケニル基の合計モル数=1/1)。滴下終了後、100℃にて2時間熟成した後、得られた反応溶液からトルエンを減圧留去して得られた生成物の構造をH−NMRを用いて解析したところ、下記式で示される重合体であった。また、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は66,000であった。
【0094】
【化43】

(式中、r/(r+s+t+c)=0.2、s/(r+s+t+c)=0.3、t/(r+s+t+c)=0.4、及びc/(r+s+t+c)=0.1であり、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の片末端はアルケニル基であり、もう一方の末端はケイ素原子に結合している水素原子である)
【0095】
[合成例5]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した3Lフラスコ内に上記式(S−1)で示される化合物142.1g(0.33モル)、上記式(S−3)で示される化合物70.7g(0.38モル)および上記式(S−5)で示される化合物66.9g(0.3モル)を加えた後、トルエン1500gを加え、70℃に加温した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5wt%)2.0gを投入し、上記式(S−6)で示される化合物190.5g(0.98モル)を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃まで加温し、6時間熟成したのち、さらに上記式(S−9)で示される化合物6.8g(0.01モル)を0.1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計モル数/アルケニル基の合計モル数=1/1.03)。滴下終了後、100℃にて2時間熟成した後、重合体溶液を得た。この反応溶液からトルエンを減圧留去して得られた生成物の構造をH−NMRを用いて解析したところ、下記式で示される重合体であった。GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は50,000であった。
【化44】

(式中、r/(r+s+t+d)=0.32、s/(r+s+t+d)=0.29、t/(r+s+t+d)=0.37、及びd/(r+s+t+d)=0.01であり、各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合しており、重合体の片末端はアルケニル基であり、もう一方の末端はケイ素原子に結合している水素原子である)
【0096】
[実施例1〜8及び比較例1〜4]
接着剤組成物の調製
表1に記載した組成で、(A)上記合成例1〜5で合成した重合体、(B)熱硬化性樹脂、(C)フラックス活性を有する化合物、その他の任意成分を配合した。さらに固形成分濃度が50質量%となる量のシクロペンタノンを添加し、ボールミルを使用して撹拌し、混合及び溶解して、接着剤組成物の分散液を調製した。尚、表1中の配合量を示す数値の単位は「質量部」である。比較例1は(B)熱硬化性樹脂を含まない接着剤組成物であり、比較例2は(C)フラックス活性を有する化合物を含まない接着剤組成物であり、比較例3は(A)重合体を含まない接着剤組成物であり、比較例4は、特開2009−239138号公報に記載されている、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、及びフラックス活性を有する化合物を含む接着剤組成物である。
【0097】
接着剤組成物の調製に用いた各成分を下記に示す。
(B)熱硬化性樹脂
・EOCN−103S(商品名)(日本化薬製、エポキシ当量:209〜219)
・jER1001(商品名)(三菱化学製、エポキシ当量:450〜500)
・NC6000(商品名)(日本化薬製、エポキシ当量:192〜202)
ここで、エポキシ当量、OH当量とは各成分一分子あたりが有するエポキシ基またはOH基の当量をいう。
【0098】
さらに、以下に示すエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤を使用した。
・エポキシ樹脂硬化剤:
リカジットHH(商品名)(新日本理化製、ヘキサヒドロ無水フタル酸)
フェノライトTD−2093(商品名)(DIC製、OH当量:104)
・エポキシ樹脂硬化促進剤:
キュアゾール2P4MHZ(商品名)(四国化成製、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール)
【0099】
(C)フラックス活性を有する化合物
・フェノールフタレイン(和光純薬工業製)
・セバシン酸(和光純薬工業製)
【0100】
その他の任意成分
・無機充填剤:シリカ(アドマテックス製、SE1050、平均粒径0.25μm)
・カップリング剤:KBM−303(信越化学製、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)
・アクリルゴム:SG−708−6(ナガセケムテックス製、アクリル酸ブチル−アクリル酸エチル−アクリロニトリル−アクリル酸−2−ヒドロキシエチル共重合体、重量平均分子量700,000)
【0101】
接着シートの作製
アプリケータで離型処理を施したポリエステルフィルム(保護層、東洋紡績製)表面に、接着剤組成物の分散液を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布し、130℃で5分間、送風オーブン内で乾燥することにより接着剤層を形成し、接着剤層を有する接着シートを作製した。各接着シートの特性を下記評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0102】
評価1:接着剤層の柔軟性
接着シート各1つにおいて、接着シートの接着剤層を外側に、ポリエステルフィルム面を内側にして接着シートを180°方向に折り曲げた。接着剤層にヒビ割れが生じたり、接着剤層がポリエステルフィルムから剥離してしまった場合を×、ひび割れや剥離が生じなかった場合を○として柔軟性を評価した。結果を表1に示す。○を合格と判定した。
【0103】
評価2:接着剤層の接着力
各接着シートを真空フィルムラミネーター(温度:110℃、圧力:80Pa、 TEAM−100、タカトリ社製)を用いて、6インチ半導体ウエハ(厚み625μm、信越半導体社製)に貼り合わせた(図1)。次いで、該接着シートが有するポリエステルフィルム面を、ウエハリングでサポートされたダイシングテープ(デンカ製)上に線圧約10N/cm、室温で貼り付けた(図2)。半導体ウエハ及び接着シートを、ダイシングブレードを備えるダイシングソー(DAD685、DISCO社製)を使用して2mm×2mm角の大きさに切断した(図4)。接着剤層とポリエステルフィルムの間を剥離して個片化した半導体チップをピックアップし、接着剤層を備えた半導体チップを得た(図5)。ダイシング時のスピンドル回転数は30,000rpm、切断速度は50mm/secとした。前記個片化した各半導体チップを、15mm×15mm角のシリコンウエハ(ベース基板)上に、接着剤層を介して150℃、50mNの荷重にて貼り合せた。その後、180℃にて1時間加熱して接着剤組成物を硬化させ、試験片を得た。試験片は各5個ずつ製造し、以下の接着力測定試験に供した。
【0104】
ボンドテスター(Dage series 4000−PXY:Dage社製)を用いて、半導体チップ(2mm×2mm)がベース基板(15mm×15mm角のシリコンウエハ)から剥離する時にかかる抵抗力を測定し、接着剤層の接着力を評価した。テスト条件は、テストスピード200μm/sec、テスト高さ50μmで行った。接着力測定試験の実施図を図9に示す。図9において、ボンドテスターの測定治具(符号30)の移動方向を矢印で示した(符号31)。結果を表1に示す。表1に示される数値は、各々5個の試験体における測定値の平均であり、数値が高いほど接着シートの接着力が高いことを示す。
【0105】
評価3:接続信頼性
上述した接着シートの作成方法に則して、接着剤層の厚みが50μmである接着シートを作製した。バンプを備えた半導体ウエハ(8インチ、厚み725μm)のバンプ付着面と、各接着シートの接着層面を、真空フィルムラミネーター(温度:110℃、圧力:80Pa)を使用して貼り合せた(図1)。その後、接着シートを備えた半導体ウエハの保護層面を、ウエハリングでサポートされたバックグラインドテープ(デンカ製)上に線圧約10N/cm、室温で貼り(図2)、研削(研磨)装置(DAG810、DISCO社製)を使用して半導体ウエハの厚みが100μmとなるまで研削(研磨)した(図3)。
【0106】
次に、ダイシングブレードを備えるダイシングソーを使用して半導体ウエハを10mm×10mm角に切断し(図4)、個片化した半導体チップをピックアップして(図5)、接着剤層を備える半導体チップ(80μmφ、Sn−3Ag−0.5Cuバンプ、バンプ高さ50μm、ピッチ150μm、バンプ数3,844)を得た。ダイシング時のスピンドル回転数は40,000rpm、切断速度は30mm/secとした。
【0107】
ソルダーレジスト(太陽インキ製、PSR4000 AUS703)でコーティングされたビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂基板(厚み0.94mm)上に、前記接着剤層を備える半導体チップを、フリップチップボンダーを用いて位置合わせを行い搭載した後(図6)、255℃で15秒加熱圧着しフリップチップパッケージを作製した(各10個ずつ)。その後、該パッケージを180℃にて1時間加熱し、接着剤層を硬化させた。
【0108】
上記方法により製造されたフリップチップパッケージ各10個の接続抵抗を測定し、初期の導通を確認した。その後、該パッケージをヒートサイクル試験(−25℃で10分保持、125℃で10分保持を1000サイクル繰り返す)に供し、ヒートサイクル試験後の導通を確認した。いずれも導通が取れたものを○、初期には導通が取れたがヒートサイクル試験後に導通が取れなくなったものを△、初期に導通が取れなかったものを×として、接続信頼性を評価した。結果を表1に示す。○を合格と判定した。
【0109】
評価4:絶縁信頼性(耐マイグレーション性)
ガラス基板上にCu厚み5μm、ライン幅/スペース幅=20μm/20μmの櫛型回路を作製し、真空フィルムラミネーター(温度:110℃、圧力:80Pa)を使用して、接着シートの接着層面で櫛形回路を覆うように貼り合せた(端子部はマスキングテープによりマスキングした)。次に、接着シートの保護層を剥離し、180℃にて1時間加熱することで接着剤層を硬化させ、絶縁信頼性評価用サンプルを作製した(各5個ずつ)。各試験片に対して、温度85℃、相対湿度85%の条件下で、回路の両極に10Vの直流電圧を印加し、マイグレーションテスター(IMV社製、MIG−86)を用いて、絶縁信頼性を評価した。電圧印加後、1,000時間以内に導体間で短絡(抵抗値の低下)が発生した場合、もしくは、デンドライトの成長が認められた場合を「不良」と評価して×で示し、1,000時間経過後も抵抗値を維持し、かつ、デンドライトを生じなかった場合を「良」と評価して○で示した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
実施例1〜8、比較例3及び4の接続信頼性は、各々10個全てのパッケージにおいて評価が○であった。比較例1及び2の接続信頼性は、各々10個全てのパッケージにおいて評価が×であった。実施例1〜8、比較例1〜3の絶縁信頼性は、各々5個全ての試験片において評価が○であった。比較例4の絶縁信頼性は5個全ての試験片において評価が×であった。
【0112】
表1より、フィルム形成性樹脂を含まない接着剤組成物は接着剤層の柔軟性に劣る(比較例3)。特開2009−239138号公報に記載の接着剤組成物の硬化物は、接着剤層の柔軟性は良好であるがマイグレーションを起こし絶縁信頼性に劣る(比較例4)。これに対し、本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層は接着剤層の柔軟性に優れ、かつ基板に圧着する時の接着力に優れており、また、該接着剤組成物の硬化物は、接続信頼性および絶縁信頼性に優れていた。また、本発明の接着剤層で保護された半導体装置は接続信頼性並びに絶縁信頼性が保証された半導体装置となった。尚、比較例1は、熱硬化性樹脂を含まない接着剤組成物は接着力に乏しく接続信頼性に劣ることを示し、比較例2は、フラックス活性を有する化合物を含まない接着剤組成物は接続信頼性に劣ることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の接着剤組成物は、フィルム形成性及び基板への接着性に優れており、かつ、高温高湿条件下における接続信頼性および絶縁信頼性(耐マイグレーション性)に優れた硬化物を提供することができる。その為、本発明の接着剤組成物は、半導体装置の高密度化、高集積化への応用のために好適に利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0114】
1…保護層、2…接着剤層、2’…接着シート、3…半導体ウエハ、4…半導体加工用保護テープ、5…ウエハリング、6…グラインドホイール、7…研削(研磨)された半導体ウエハ、8…ダイシングブレード、9…ダイサーテーブル、10…ベース基板、11…バンプ、12…個片化された半導体チップ、13…電極、14…半導体チップと基板の接合部、20…回路基板、21…フラックス、22…半導体チップ、22a…半導体チップのバンプ、23…半導体チップと基板の接合部、24…アンダーフィル剤、24a…アンダーフィル剤の硬化物、30…ボンドテスターの測定治具、31…ボンドテスターの測定治具移動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)成分を含有する接着剤組成物
(A)下記式(1−1)、(1−2)及び(1−3)で表される繰返し単位を含有し、テトラヒドロフランを溶出溶媒としてGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が3,000から500,000である重合体
【化1】

式中、r、s及びtは正の整数であり、式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を構成する各単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位のX、XまたはXの末端炭素原子と結合しており、式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、Xは、互いに独立に、下記式(2)で示される2価の基であり、
【化2】

(式中、Zは、置換または非置換の、炭素数1〜15の2価炭化水素基であり、pは0又は1である。Rは、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、qは0、1または2である)
は、互いに独立に、下記式(3)で示される2価の基であり、
【化3】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の1価炭化水素基、またはグリシジル基である)
は、互いに独立に、下記式(4)で示される2価の基であり、
【化4】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、nは0〜100の整数である)
(B)熱硬化性樹脂
(C)フラックス活性を有する化合物。
【請求項2】
式(2)において、Zが

のいずれかより選ばれる基である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
(A)成分が、さらに下記式(5)で表される単位、下記式(6)で表される単位、及び下記式(7)で表される単位の少なくとも1を有する請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【化5】

【化6】

【化7】

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、mは0〜100の整数であり、e、f、g、h、i及びjは0〜100の整数であり、但し、e+f+g≧3であり、e=f=0ではなく、h=i=0ではない。Xは、互いに独立に、上記X、XまたはXで示される基であり、上記式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)で表される繰返し単位を構成する各単位、及び上記式(5)、式(6)、及び式(7)で表される単位の末端ケイ素原子が各同じ単位あるいは異なる単位の末端炭素原子と結合している)。
【請求項4】
(B)成分の量が(A)成分100質量部に対し5〜500質量部であり、(C)成分の量が(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対し1〜20質量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
さらに、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化促進剤の少なくとも1を含有する、請求項5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
フラックス活性を有する化合物がカルボキシ基又はフェノール性水酸基を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シート。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する半導体装置保護用材料。
【請求項10】
請求項9項に記載の半導体装置保護用材料を用いて保護された半導体装置。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物を備えた半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−241162(P2012−241162A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115022(P2011−115022)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】