摺動材料およびその被覆層製造方法
【課題】PVDによって皮膜を形成した摺動材料において、耐摩耗性および耐疲労性を損なうことなく、初期なじみ性および異物埋収性を向上させる。
【解決手段】摺動材料には、融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を基材3上にPVDにより被着して皮膜5が形成されている。この皮膜5上に固体潤滑剤板状結晶粒子9を積層して被覆層6を形成する。この場合、被覆層6を構成する固体潤滑剤板状結晶粒子9は、(00l)面が皮膜5の表面と平行で、当該(00l)面の配向指数が90%以上となるように積層する。
【解決手段】摺動材料には、融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を基材3上にPVDにより被着して皮膜5が形成されている。この皮膜5上に固体潤滑剤板状結晶粒子9を積層して被覆層6を形成する。この場合、被覆層6を構成する固体潤滑剤板状結晶粒子9は、(00l)面が皮膜5の表面と平行で、当該(00l)面の配向指数が90%以上となるように積層する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPVDによって形成した皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層してなる被覆層を設けた摺動材料およびその被覆層製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動材料、例えば、自動車用や産業機械用に用いられるエンジンのすべり軸受では、軸受合金層の上にオーバレイと称される皮膜を設けて軸受特性を改善するようにしている。従来、この皮膜を軸受合金層の表面にPVD(Physical Vapor Deposition;物理気相成長法)によって被着したものがある。
例えば、特許文献1では、内燃機関の軸受として使用される複合材料の皮膜として、PVDによってアルミニウム−鉛系合金膜を被着するようにしている。また、特許文献2では、すべり軸受ではないが、ステンレスの試料の表面に、固体潤滑膜として使用される二硫化モリブデン膜をスパッタリングによって被着している。
【特許文献1】特開昭63−28856号公報
【特許文献2】特開平5−9707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示されたすべり軸受では、アルミニウム−鉛系合金をPVDによって被着して皮膜を形成しているため、その皮膜は、結晶構造が微細で、機械的強度および硬度が高く、耐摩耗性および耐疲労性に優れる。しかしながら、半面、初期なじみ性、異物埋収性に劣り、焼付きに至り易いという問題も内包している。
上記特許文献2に開示された二硫化モリブデン膜にあっては、二硫化モリブデンそれ自身の硬度は低いが、しかし、PVDによって形成された二硫化モリブデン膜では、軸受としては満足な初期なじみ性、異物埋収性を得ることができない。
【0004】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、耐摩耗性および耐疲労性を損なうことなく、初期なじみ性および異物埋収性に優れた摺動材料およびその被覆層製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ニ硫化モリブデン、グラファイト、ニ硫化タングステン、ボロンナイトライド(窒化硼素)は、固体潤滑剤として良く用いられている。これらは、板状結晶粒子の形態を有し、その板状結晶粒子は、主としてミラー指数での(00l)面を最大面とする層が平行に積み重なった、層状結晶構造を有している。例えば、二硫化モリブデンの板状結晶粒子は、図11に示すように、MoS2の分子をxy平面に平行な方向に繋げた層がz軸方向に積み重なった構造となっており、隣接する層16と層18の相互間には、弱いファンデルワールス力しか作用していない。この固体潤滑剤板状結晶粒子は、図10に示すように比較的厚さの薄い板状の外観形状を有している。
【0006】
層状結晶構造の板状結晶粒子が固体潤滑剤として摺動材料の被覆層に存在し、相手材の移動に伴って板状結晶粒子内の層間に剪断力が作用すると、ファンデルワールス力に容易に打ち勝って層と層との間ですべりが生ずる。この層間すべりは、層状結晶構造を持つ物質特有のもので、その摩擦係数はきわめて低い。これが板状結晶粒子を固体潤滑剤として使用した場合に、摺動材料が低フリクションとなるメカニズムである。
【0007】
本発明者は、PVDによって形成された皮膜(以下、PVD被膜ともいう)の上に上記のような固体潤滑剤板状結晶粒子をその積層方向(z方向)が皮膜の表面の垂直方向となるように積層させた構造、即ち、PVD被膜の上に固体潤滑剤板状結晶粒子による(00l)面の配向指数が高い被覆層が存在した構造は、被覆層の摩擦摩耗進行時に当該固体潤滑剤板状結晶粒子が相手軸に移着することによって、硬いPVD皮膜の摩擦摩耗時にも摩擦係数を低くさせ、それによって摩擦熱の発生を抑制させながらなじみ形状を形成させ得るのではないか、という予想を立て、本発明をなすに至った。
【0008】
<本発明の前提構成>
本発明は、融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を基材上にPVDにより被着して形成された皮膜と、この皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層して形成された被覆層とを有した摺動材料を対象としている。
図6には、一例としてラジアル軸受用として用いられる摺動材料(すべり軸受)1が示されているが、このラジアル軸受用摺動材料1にあっては、図8のように半円筒状、或いは図示はしないが、円筒状に形成される。
【0009】
本発明の皮膜および被覆層を被着する前のラジアル軸受用摺動材料1の構造としては、図9の参照符号10によって例示するように、裏金層2上に軸受合金層3を形成した二層構造のものが多く用いられる。そして、図6に例示するように軸受合金層3を基材として、その上に中間層4を介して本発明の皮膜5、更にこの皮膜5の上に本発明の被覆層6が被着される。なお、中間層4は、皮膜5の接着性を向上させるためのもので、必須ではない。
【0010】
一方、本発明は、スラスト軸受用として用いられる摺動材料にも適用できる。スラスト軸受用摺動材料は、平板状というだけで、その構造は、ラジアル軸受用摺動材料と同様であり、裏金層上に軸受合金層を形成し、その軸受合金層上に本発明の皮膜および被覆層が順に被着される。
また、本発明は、軸受合金層を持たない摺動材料、つまり図6において、基材が裏金層2に相当する部材のみによって構成される摺動材料に適用することも可能であり、この場合、裏金層相当部材を基材として、その上に本発明の皮膜および被覆層が順に被着される。裏金層相当部材は、金属製に限られず、樹脂製であっても良い。
【0011】
本発明において、皮膜は、融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を基材上にPVDにより被着して形成される。金属の融点の高低と硬度の高低とは相関関係を有し、摺動材料の技術分野では、融点350℃を境にしてそれ以上の融点の金属は硬質、350℃未満の融点の金属は軟質として区分けされている。以下では、融点350℃上の金属を硬質金属、融点350℃未満の金属を軟質金属と呼ぶこととする。
【0012】
本発明の皮膜は、この硬質金属と軟質金属とから形成されるが、その硬質金属と軟質金属とは、互いに相分離する金属の中から選択される。本発明では、硬質金属として、アルミニウム、銀、銅のうちから1種以上、軟質金属として錫、鉛、ビスマス、インジウムのうちから1種以上が選択される。相分離する金属としては、アルミニウムに対して錫、鉛、インジウムであり、銀に対して鉛、ビスマスであり、銅に対して鉛、ビスマス、インジウムである。
【0013】
本発明の皮膜は、互いに相分離する硬質金属と軟質金属とをPVDによって基材上に被着して形成される。PVDによって被着された皮膜は、緻密な結晶構造となり、強度および硬度が高くなり、耐疲労性および耐摩耗性に優れたものとなる。また、硬質金属と軟質金属とは互いに相分離するので、例えばマトリックス中に軟質金属だけの相が分散する形態となる。
例えば、図5は、軸受合金層3の上に中間層4を介してアルミニウムと錫とからなる皮膜5をスパッタリングによって被着した場合を示しているが、同図から明らかなようにマトリックスであるアルミニウム7相中に、錫8相が分散した形態となっている。
このように本発明の皮膜では、硬質金属のマトリックス中に軟質金属相が分散しているので、被覆層およびこの皮膜が摩耗した場合、この軟質金属相による異物埋収性およびなじみ性の効果を期待することができる。
【0014】
<本発明の摺動材料の特徴的構成>
本発明の摺動材料は、上述したPVDによる皮膜の上に、更に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層して形成された被覆層を被着していることを特徴としている。従って、相手材は、この被覆層の表面上を摺動する。この相手材が摺動する面を摺動表面ということとする。
【0015】
本発明では、被覆層を構成する固体潤滑剤板状結晶粒子は、(00l)面が皮膜の表面と平行で、前記被覆層は、当該(00l)面の配向指数が90%以上であることを特徴としている。固体潤滑剤板状結晶粒子としては、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングステンおよびボロンナイトライドの板状結晶粒子のうちのいずれか一種以上を用いることができる(請求項3)。
これらの固体潤滑剤板状結晶粒子は、六方晶である。本明細書では、結晶形態をミラー指数(hkl)で表し、結晶面(00l)面の配向指数を下式のように定義する。なお、lは1以上の整数である。
【0016】
(00l)面の配向指数(%)=[ΣR(00l)/ΣR(hkl)]×100
ただし、R(00l)は(00l)面のX線強度を意味し、ΣR(00l)は検出された(00l)面のX線強度の和であり、ΣR(hkl)は(hkl)面、即ち検出された総ての面のX線強度の総和である。
配向指数が100%に近いほど、(00l)面に配向した結晶面が多いことになる。後に、図12および図13を用いて詳述するが、本発明の被覆層の摺動表面においては、(002)面、(004)面等の(00l)面の結晶面のピークしかほとんど見られない(図12)。一方、本発明とは異なる被覆層の摺動表面においては、(00l)面以外、例えば(101)面、(102)面、(103)面等の結晶面のピークも検出される(図13)。
そして、図10に例示するように上述の固体潤滑剤板状結晶粒子9は、粒子内の層が(00l)面を互いに平行にして積み重なった層状結晶構造を持ち、前述のように、全体としては、比較的厚さの薄い板状の外観形状を有している。以下の説明では、この板状結晶粒子の中の層と層の間の境界面を層間面と称することとする。層間面は、(00l)面に平行である。
【0017】
PVDにより基材の表面に被着された皮膜の表面は、基材の表面に倣う。基材の表面が平坦面であれば、皮膜の表面は平坦面であり、基材の表面がボーリング加工などによってなだらかな凹凸を有していれば、皮膜の表面もなだらかな凹凸を持った面となる。被覆層の構成材料である固体潤滑剤板状結晶粒子は、後述する製造方法の採用によって、この皮膜表面に押し付けられ摩擦されながら付着される。そして、固体潤滑剤板状結晶粒子は、皮膜表面と摩擦することで、化学反応場が形成されるので、トライボケミカル反応が起き、これによって板状結晶の層と層を結合するファンデルワールス力よりも強い力で皮膜に結合される。
【0018】
本発明では、固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面の配向指数が90%以上である。(00l)面の配向指数が高い被覆層は、(00l)面が摺動方向に対して平行に積み重なった粒子が多いことを表している。
摺動材料を軸受としての使用初期には、油膜が形成されにくい部分で摺動材料が相手材と直接接触する。これは、摺動材料と相手材とにはそれぞれ粗さがあり、また、相手材と摺動材料とを組み付けたときの僅かなずれを生ずるなどにより、避けられないことである。この使用初期に避けられない直接接触による摩耗を円滑に行わせ、摺動表面がその摩耗によって油膜が形成される形状に自然に矯正されることが、なじみ性の良い摺動材料であるとされる。
【0019】
本発明の被覆層にあっては、使用初期に相手軸と直接接触する部分が生じた場合、摺動表面のうち、当該直接接触部分の固体潤滑剤板状結晶粒子が相手材に移着し、その相手材の移動に伴って、固体潤滑剤板状結晶粒子に剪断力が生ずるようになる。
固体潤滑剤板状結晶粒子に剪断力が作用すると、固体潤滑剤板状結晶粒子内の相手材の移動方向と平行となっている層間面ですべり(層間すべり)を起す。このとき、板状結晶の層と層との間には、きわめて弱いファンデルワールス力しか作用していないので、ごく小さな剪断力で容易に層間すべりが発生する。この結果、相手材は、枯渇潤滑下であっても、ごく弱い摩擦抵抗しか受けることなく、円滑に摺動する。
【0020】
同時に、摺動材料の被覆層にあっては、固体潤滑剤板状結晶粒子が相手材へ移着することにより、固体潤滑剤板状結晶粒子が被覆層の摺動表面から持ち去られ、摩耗することとなる。そして、このような摩耗により摺動表面が油膜の形成され易い形状になってゆく。即ち、初期なじみ性の高い摺動材料となるのである。
また、被覆層の固体潤滑剤板状結晶粒子は、比較的硬度の低い板状結晶の積層方向であるz方向が摺動表面と垂直方向になっているので、軟らかく、凹み易くなる。このため、相手材との間に異物が混入したような場合、その異物は固体潤滑剤板状結晶粒子中に埋収される。また、異物は、固体潤滑剤板状結晶粒子の相互間に侵入する形態で被覆層中に埋収されるようにもなる。このため、本発明の被覆層は、異物埋収性にも優れたものとなる。
この場合、特に、請求項4のように、固体潤滑剤板状結晶粒子が樹脂バインダを用いることなく皮膜上に付着されることにより、固体潤滑剤板状結晶粒子中への異物埋収、固体潤滑剤板状結晶粒子相互間への異物埋収性を損なわずに済む。
ちなみに、下の表1は、二硫化モリブデンの被覆層の硬さを、PVDにより形成した皮膜の硬さと比較したもので、二硫化モリブデンの被覆層は、相当軟質であることが理解される。
【0021】
【表1】
【0022】
<被覆層中に軟質金属が混在>
摺動材料において、摺動表面側から基材側に向って次第に硬度が変化していくことがなじみ性に対して好ましい。軟質な固体潤滑剤板状結晶粒子からなる被覆層は、PVDによって被着した皮膜に比べて非常に軟質である。次第に硬度が変化していく方が、摩擦熱発生抑制の面で、ひいては非焼付性の面で好ましい。
【0023】
ここで、請求項5の発明は、被覆層中に、皮膜を構成する融点が350℃未満の金属(軟質金属)が混在していることを特徴とする。このように、被覆層中に軟質金属が混在していると、皮膜との硬度の差が小さくなり、異物埋収性を損なうことなくなじみ性が改善される。
【0024】
また、請求項6の発明は、被覆層のうち、前記皮膜に接する所定の層状領域が、皮膜を構成する融点350℃未満の金属(軟質金属)を混在させた混在層、とされていることを特徴としている。このように、被覆層の摺動表面に近い部分(上層)は、軟質の固体潤滑剤板状結晶粒子だけの層となり、皮膜に近い部分(下層)は、軟質金属が混在する平均硬度のやや高い層となっていることにより、摺動表面から皮膜にいたるまでに硬度が徐々に高くなる形態が得られ、なじみ性がより一層改善される。
【0025】
<製造方法>
本発明の摺動材料、特に、被覆層は、次のような方法によって製造される。
即ち、第1の方法は、付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させる方法である(請求項7)。
なお、自由付着とは、自由付着体である対象物が、被自由付着体から容易に離れることができる状態を言う。ここでは、対象物である固体潤滑剤板状結晶粒子が、付着媒体から容易に離れることができる状態を言う。
【0026】
この方法によれば、固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた付着媒体を、皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせると、固体潤滑剤板状結晶粒子が皮膜の表面を摩擦しながら転動してゆく。このとき、固体潤滑剤板状結晶粒子は、前述したように板状であるが故に整列しながら移動し、最も強い摩擦力が作用する皮膜の表面に対して(00l)面が皮膜の表面と平行に配向するように整列し、そして皮膜の表面との接触場において、トライボケミカル反応を起して皮膜の表面に付着する。図4に、以上のようにして固体潤滑剤板状結晶粒子9を一層付着させた状態を示す。
【0027】
更に、固体潤滑剤板状結晶粒子を自由付着させた付着媒体を、皮膜の表面に付着された固体潤滑剤板状結晶粒子に圧力を加えながら滑らせると、粗さのある皮膜の表面とこの皮膜の表面に付着した固体潤滑剤板状結晶粒子との間の摩擦係数の方が、皮膜の表面に付着した固体潤滑剤板状結晶粒子とその上を滑らされる固体潤滑剤板状結晶粒子との間の摩擦係数よりも大きいため、皮膜の表面に付着した固体潤滑剤板状結晶粒子の上を別の固体潤滑剤板状結晶粒子が摩擦しながら移動することとなる。この移動により、皮膜の表面の固体潤滑剤板状結晶粒子上において、別の固体潤滑剤板状結晶粒子が、層間面を下の固体潤滑剤板状結晶粒子の層間面と平行に配向するように移動する。
【0028】
以上のように、付着媒体による摩擦仕事によって、固体潤滑剤板状結晶粒子が皮膜の表面上を転動する間に、固体潤滑剤板状結晶粒子が(00l)面を皮膜の表面に付着された板状粒子の(00l)面と平行にするように整列し、積層されて被覆層が形成されていくのである。図1には、皮膜5上に付着させた第1層目の固体潤滑剤板状結晶粒子9A上に複数層の固体潤滑剤板状結晶粒子9Bを積層させた状態を示す。
【0029】
次に、被覆層の中に軟質金属を混在させるには、付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記被覆層中に噴出させる(請求項8)。
【0030】
このようにすることにより、皮膜中の軟質金属が一部融解して皮膜の表面に積層されつつある固体潤滑剤板状結晶粒子の層中に噴き出る。そして、固体潤滑剤板状結晶粒子の層厚を、皮膜から噴き出る軟質金属の突出高さ程度となるように制御することによって、軟質金属を全域に含んだ被覆層を得ることができる。図2は、アルミニウム7と錫8とからなる皮膜5から、軟質金属である錫8が被覆層6中に噴き出して被覆層6全体が錫8との混在層となっている状態を示す。
【0031】
更に、皮膜に接する所定の層状領域である下層側が軟質金属を混在させた混在層となり、上層側が軟質金属を含まない固体潤滑剤板状結晶粒子だけの層となる被覆層を形成するには、付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記積層された前記固体潤滑剤板状結晶粒子中に噴出させ、その後、前記皮膜の加熱を停止し、および/または前記付着媒体の移動速度を低下させ、および/または前記皮膜を冷却することにより前記融点350℃未満の金属の融解を停止させて、更に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を、前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種噴出させた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の層に積層させる(請求項9)。
【0032】
このようにすることにより、固体潤滑剤板状結晶粒子の付着途中で軟質金属の噴出を制御して止めることができるので、被覆層中の下側(皮膜に接する所定の層状領域)にだけ軟質金属が噴き出し、従って下層を、軟質金属を含む混在層とした被覆層が得られる。図3は、アルミニウム7と錫8とからなる皮膜5から、軟質金属である錫8が被覆層6中の下側に噴き出し、被覆層6の下層が固体潤滑剤板状結晶粒子9中に錫8を混在させた混在層6aとなり、上層が固体潤滑剤板状結晶粒子9のみの単一層6bとなっている状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明をラジアル軸受用摺動材料(以下、単にすべり軸受)に適用した一実施形態につき図面を参照しながら説明する。図8のように、すべり軸受1は半円筒状に形成されている。このすべり軸受1は、図6に示すように、裏金層2の内周面に軸受合金層3をライニングし、更にその軸受合金層3の表面に中間層4を介して皮膜5を被着し、更に、この皮膜5上に被覆層6を被着した複層構造をなしている。
【0034】
このすべり軸受1の製造法は、次の通りである。まず、図9に示すように、裏金層2上に軸受合金層3をライニングしてバイメタル10を形成する。その後、バイメタル10から短冊状小片を切り出し、この短冊状小片を半円筒状に曲げて半円筒状成形体を得る。そして、半円筒状成形体の内周面である軸受合金層3表面をボーリング加工によって仕上げ、次に、洗浄脱脂し、軸受合金層3の表面に中間層4を例えばPVDやめっきにより被着させる。被着後、その表面にPVD、例えばスパッタリングによって皮膜5を形成し、そして、この皮膜5の上に被覆層6を形成し、すべり軸受1を得る。
被覆層6は、皮膜5の表面に積層された固体潤滑剤板状結晶粒子9からなる。この場合、固体潤滑剤板状結晶粒子9を結合するための樹脂バインダは使用しない。固体潤滑剤板状結晶粒子としては、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングステンおよびボロンナイトライドの板状結晶粒子のうちのいずれか1種以上を選択して用いる。
【0035】
皮膜5の表面に、固体潤滑剤板状結晶粒子9を積層させるための付着装置11は、図7に示すように、回転軸12に着脱可能に取り付けられる芯体としての回転体13に、複数の付着媒体14の一端側を固定して構成されている。付着媒体14は、布、不織布、紙、皮革、プラスチック、繊維状金属などの可撓性部材からなり、ここでは、すべり軸受1の幅よりもやや広い幅を持った円弧板状に形成されている。この付着媒体14は、表面に凹凸などがあって表面積の大きい部材が好ましい。一度に多量の固体潤滑剤板状結晶粒子9を付着媒体14に自由付着させ得るからである。
【0036】
この付着装置11によりすべり軸受1の内周面に被覆層6を形成するには、まず、2個のすべり軸受1を、円筒状に突き合わせて、回転軸12と同心となるように治具(図示せず)に固定する。そして、回転体13に固定された複数の付着媒体14に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造をもつ固体潤滑剤板状結晶粒子9、例えば二硫化モリブデン粒子を多量に自由付着させ、これら付着媒体14を円筒状に突き合わされた2個のすべり軸受1内に収容するようにして回転体13を回転軸12に取り付ける。
【0037】
そして、回転軸12を図示しないモータにより回転させる。すると、付着媒体14の他端たる先端部分が回転に伴う遠心力を受けてすべり軸受1の内周面である皮膜5の内周面に圧接しながら滑るように回転する。このときの付着媒体14の前記内周面での滑り速度は、5m/秒以上であることが好ましい。この付着媒体14の回転により、付着媒体14に自由付着された二硫化モリブデン粒子が、付着媒体14と前記内周面とによって圧力を加えられながら摩擦移動し、これにより、二硫化モリブデン粒子が層間面を皮膜5の表面と平行となるように配向し(なぜなら、最大面である(00l)面は、前記移動方向に平行になることが安定だからである。)、且つトライボケミカル反応を起して皮膜5の表面に付着する。そして、更に、付着媒体14が回転することにより、その皮膜5の表面に付着した二硫化モリブデン粒子の上に、別の二硫化モリブデン粒子が(00l)面(層間面)を下の二硫化モリブデン粒子の(00l)面と略平行となるように配向されて順次積層されてゆく。以上のようにして皮膜5上に二硫化モリブデン粒子が積層された層から構成された被覆層6が形成され、その層厚が1μm以上の所望の厚さとなったところで本付着工程を終了する。なお、本付着工程の稼働時間は、希望する被覆層6の厚さに応じて適宜定める。
【0038】
この被覆層6の形成時に、図示しない治具を予熱してこの治具に固定されるすべり軸受1の皮膜5を加熱したり、付着媒体14のすべり軸受1の表面での滑り速度を適宜調節して摩擦熱の発生程度を制御したり、或いは治具を水冷することですべり軸受1の皮膜5を冷却したりすることによって、図2に示すように皮膜5中の軟質金属を被覆層6中に噴き出させて軟質金属を含む被覆層6を形成したり、或いは、図3に示すように下層が軟質金属を含んだ混在層とした被覆層6を形成したりする。これらの場合において、上記製造方法を実施することにより、表面が平滑な被覆層を形成することができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を説明する。裏金層に、アルミニウム系軸受合金層または銅系軸受合金層をライニングしたバイメタルを製造し、このバイメタルから短冊状小片を得て、これを半円筒状に曲げた後、軸受合金層の表面をボーリング加工により仕上げた。
その後、この半円筒状成形体を脱脂洗浄し、軸受合金層の内周面にスパッタリングによりNiCr層(中間層)を設け、そのNiCr層上に、下の表2の「PVD皮膜の種類」欄に示す成分の金属をスパッタリングによって被着させて皮膜を形成し、実施例品1〜5、比較例品1〜3の各試料を製作した。この中間層上のスパッタリングによる皮膜の厚さは、10〜15μmとした。なお、皮膜の金属成分は、元素記号の前の数字がその元素の成分量(質量%)を示す。数値のない元素は、残部を占める元素である。
【0040】
【表2】
【0041】
比較例品1を除く他の試料については、皮膜の上に、更に、表1に示す固体潤滑剤からなる固体潤滑剤板状結晶粒子を図7に示す付着装置11により積層し、被覆層を形成した。この場合、実施例品1と比較例品2は、被覆層の中に軟質金属は含まれず、固体潤滑剤板状結晶粒子のみからなる被覆層としている。実施例品4,5の被覆層は、その全域において軟質金属を混在させており、固体潤滑剤板状結晶粒子のみからなる層状領域はない。実施例品2,3の被覆層は、下層を軟質金属を含む混在層としており、上層を固体潤滑剤板状結晶粒子のみからなる単一層としている。
【0042】
実施例品4,5のように被覆層中に軟質金属を混在させるには、被覆層の形成時に付着装置11の治具を80〜340℃の範囲で、低融点金属よりも10〜70℃低い温度に予熱しておく。そして、固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時に付着媒体14の試料表面での滑り速度を10〜20m/secの高速度で行って摩擦熱を発生させる。これにより、皮膜中の低融点の軟質金属が溶融して被覆から被覆層中に噴き出し、軟質金属が被覆層中に混在するようになる。また、実施例品2,3のように被覆層の下層にだけ軟質金属を含ませるには、被覆層の形成中に治具の加熱を停止すると共に、付着媒体のすべり速度を低下させ、更に治具を水冷して皮膜中の低融点金属の溶融を停止させる。これにより、下層にだけ低融点金属が噴き出た形態の被覆層を形成できる。
【0043】
上記実施例品1〜5および比較例品2,3について、被覆層の厚さ、被覆層表面での固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面の配向指数を測定し、また、下の表3に示す条件にて焼付試験を行い、それらの測定結果および試験結果を表2に記載した。
【0044】
【表3】
【0045】
なお、配向指数は、X線回折強度試験の結果から求めた。実施例品および比較例品のX線回折強度試験の測定結果の一例を、それぞれ図12(a),(b)および図13(a),(b)に示す。図12は、実施例品1の測定結果を示し、同図(b)は同図(a)の部分拡大図であり、図13は、比較例品2の測定結果を示し、同図(b)は同図(a)の部分拡大図である。図12(a),(b)および図13(a),(b)中、○(丸)が固体潤滑剤板状結晶粒子である二硫化モリブデンの(00l)面を示し、△(三角)が皮膜の結晶面を示し、×(バツ)が二硫化モリブデンの(00l)面以外の結晶面を示す。
【0046】
図12(a),(b)から明らかなように、実施例品1の測定結果には、固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面以外のピークは、ほとんど見られない。一方、図13(a),(b)から明らかなように、比較例品2の測定結果には、固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面以外のピークが容易に見られる。なお、図13(b)に示すように、比較例品2の測定結果では、(00l)面以外である(101)、(102)、(103)面が同定された。このX線回折強度試験の測定結果および先の式から、実施例品および比較例品の配向指数を求めたものを表2に示す。
【0047】
焼付試験の結果を考察する。
まず、すべり軸受のなじみ性や異物埋収性は、直接定量的に測定できない。なじみ性に優れたすべり軸受であれば、相手材と金属接触を起こす部分があっても、その部分は早期に摩耗して油膜を形成し易い形状に矯正されてゆく。このため、なじみ性の優れたすべり軸受では、非焼付性に優れる。また、異物埋収性に優れたすべり軸受では、相手材との間に侵入してきた異物を取り込んで相手材との摺動面間から除去し、異物がいつまでも摺動面間に存在することから生ずる焼付きを防止する。従って、なじみ性および異物埋収性に優れたすべり軸受は、非焼付性に優れる。このことから、実施例品1〜5、比較例品1〜3のなじみ性および異物埋収性の良否の確認試験として焼付試験を実施したのである。
【0048】
焼付試験は、表3から明らかなように、荷重をステップアップさせることで枯渇潤滑となる条件下で実施している。つまり、面圧が高くなるほど、油膜が薄くなるので、次第に枯渇潤滑状態となってゆくのである。なお、焼付面圧とは、試験荷重を10分毎に10MPaずつ増加させていった場合に、焼付きを生じたときの面圧を言う。また、焼付の評価は、試料の背面温度が200℃を超えた時又はトルク変動によって相手軸を回転させる軸駆動用ベルトがスリップした時を焼付と判定した。
【0049】
比較例品1は、被覆層を形成しておらず、相手材が直接皮膜と接触するため、なじみ性や異物埋収性に劣り、非焼付性は低い。また、スプレー法により被覆層を形成した比較例品2は、皮膜の上に被覆層を形成しているが、しかし、二硫化モリブデン粒子の配向率が71%と低い。このため、二硫化モリブデン粒子の層間すべりによって早期に生じる被覆層の円滑な摩耗が生じ難く、ひいてはなじみ性に劣るものとなる。また、異物埋収機能が十分に発揮されないものとなっており、焼付面圧は低い。また、スパッタ法により被覆層を形成した比較例品3は、皮膜の上に被覆層を形成しているが、しかし、二硫化モリブデン粒子の配向率が38%と低い。このため、同様になじみ性のみならず焼付面圧が低い。
【0050】
これに対し、実施例品1〜5は、皮膜上に、固体潤滑剤板状結晶粒子による被覆層が形成され、その固体潤滑剤板状結晶粒子の配向率が90%以上であるので、被覆層によるなじみ性および異物埋収性が良好に発揮され、優れた非焼付性を呈している。
これら実施例品1〜5うち、実施例品4,5は、被覆層全体が軟質金属と固体潤滑剤板状結晶粒子との混在層となっている。このため、被覆層の平均硬度が高くなり、被覆層と皮膜との硬度差が実施例品1より小さい。このことから、それらの層が摩擦摩耗するにあたり、硬度の変化が小さいことにより、硬度差に起因する摩擦熱発生を極めて良好に抑制することができるので、実施例品4,5は、実施例品1よりも良好なる非焼付性を呈している。
【0051】
更に、実施例品2,3では、被覆層の下層に、軟質金属を混在させた混在層を有している。このため、それらは、被覆層の上層から皮膜までに次第に硬度が変化する形態となっているので、実施例品1よりも良好なる非焼付性を呈している。特に、被覆層の厚い実施例品2は、他の実施例品1,3〜5に比べ、良好なる非焼付性を示し、下層に混在層を有する被覆層が非焼付性にとって効果的であることを示している。
【0052】
なお、実施例品2は、固体潤滑剤板状結晶粒子と低融点金属との混在層の厚さが2μmあるので、仮に固体潤滑剤板状結晶粒子が存在しないとすると、噴出した低融点金属の存在によってその表面粗さはRz2μmということになる。しかし、上述の実施例品2は、本発明の製造方法を実施したので、被覆層の表面粗さをRz2μm以下にすることができ、被覆層の表面粗さが小さかった。その結果、軸と軸受との直接接触の確率を下げることができた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の摺動材料における被覆層の第1の形態を示す断面図
【図2】本発明の摺動材料における被覆層の第2の形態を示す断面図
【図3】本発明の摺動材料における被覆層の第3の形態を示す断面図
【図4】皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を被着する過程を示す断面図
【図5】被覆層形成前の状態を示す摺動材料の断面図
【図6】摺動材料の層構造を示す摺動部材全体の断面図
【図7】付着装置の断面図
【図8】摺動材料(すべり軸受)の側面図
【図9】摺動材料を形成するためのバイメタルの断面図
【図10】固体潤滑剤板状結晶粒子の板状結晶の層構造を示す概念図
【図11】二硫化モリブデンの結晶構造を示す概念図
【図12】実施例品の被覆層のX線回折強度試験の結果を示すグラフ
【図13】比較例品の被覆層のX線回折強度試験の結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0054】
図面中、1は摺動材料、2は裏金層、3は軸受合金層(基材)、4は中間層、5は皮膜、6は被覆層、7はアルミニウム(マトリックス)、8は錫(分散している相)、9は固体潤滑剤板状結晶粒子、11は付着装置、14は付着媒体である。
【技術分野】
【0001】
本発明はPVDによって形成した皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層してなる被覆層を設けた摺動材料およびその被覆層製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動材料、例えば、自動車用や産業機械用に用いられるエンジンのすべり軸受では、軸受合金層の上にオーバレイと称される皮膜を設けて軸受特性を改善するようにしている。従来、この皮膜を軸受合金層の表面にPVD(Physical Vapor Deposition;物理気相成長法)によって被着したものがある。
例えば、特許文献1では、内燃機関の軸受として使用される複合材料の皮膜として、PVDによってアルミニウム−鉛系合金膜を被着するようにしている。また、特許文献2では、すべり軸受ではないが、ステンレスの試料の表面に、固体潤滑膜として使用される二硫化モリブデン膜をスパッタリングによって被着している。
【特許文献1】特開昭63−28856号公報
【特許文献2】特開平5−9707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示されたすべり軸受では、アルミニウム−鉛系合金をPVDによって被着して皮膜を形成しているため、その皮膜は、結晶構造が微細で、機械的強度および硬度が高く、耐摩耗性および耐疲労性に優れる。しかしながら、半面、初期なじみ性、異物埋収性に劣り、焼付きに至り易いという問題も内包している。
上記特許文献2に開示された二硫化モリブデン膜にあっては、二硫化モリブデンそれ自身の硬度は低いが、しかし、PVDによって形成された二硫化モリブデン膜では、軸受としては満足な初期なじみ性、異物埋収性を得ることができない。
【0004】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、耐摩耗性および耐疲労性を損なうことなく、初期なじみ性および異物埋収性に優れた摺動材料およびその被覆層製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ニ硫化モリブデン、グラファイト、ニ硫化タングステン、ボロンナイトライド(窒化硼素)は、固体潤滑剤として良く用いられている。これらは、板状結晶粒子の形態を有し、その板状結晶粒子は、主としてミラー指数での(00l)面を最大面とする層が平行に積み重なった、層状結晶構造を有している。例えば、二硫化モリブデンの板状結晶粒子は、図11に示すように、MoS2の分子をxy平面に平行な方向に繋げた層がz軸方向に積み重なった構造となっており、隣接する層16と層18の相互間には、弱いファンデルワールス力しか作用していない。この固体潤滑剤板状結晶粒子は、図10に示すように比較的厚さの薄い板状の外観形状を有している。
【0006】
層状結晶構造の板状結晶粒子が固体潤滑剤として摺動材料の被覆層に存在し、相手材の移動に伴って板状結晶粒子内の層間に剪断力が作用すると、ファンデルワールス力に容易に打ち勝って層と層との間ですべりが生ずる。この層間すべりは、層状結晶構造を持つ物質特有のもので、その摩擦係数はきわめて低い。これが板状結晶粒子を固体潤滑剤として使用した場合に、摺動材料が低フリクションとなるメカニズムである。
【0007】
本発明者は、PVDによって形成された皮膜(以下、PVD被膜ともいう)の上に上記のような固体潤滑剤板状結晶粒子をその積層方向(z方向)が皮膜の表面の垂直方向となるように積層させた構造、即ち、PVD被膜の上に固体潤滑剤板状結晶粒子による(00l)面の配向指数が高い被覆層が存在した構造は、被覆層の摩擦摩耗進行時に当該固体潤滑剤板状結晶粒子が相手軸に移着することによって、硬いPVD皮膜の摩擦摩耗時にも摩擦係数を低くさせ、それによって摩擦熱の発生を抑制させながらなじみ形状を形成させ得るのではないか、という予想を立て、本発明をなすに至った。
【0008】
<本発明の前提構成>
本発明は、融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を基材上にPVDにより被着して形成された皮膜と、この皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層して形成された被覆層とを有した摺動材料を対象としている。
図6には、一例としてラジアル軸受用として用いられる摺動材料(すべり軸受)1が示されているが、このラジアル軸受用摺動材料1にあっては、図8のように半円筒状、或いは図示はしないが、円筒状に形成される。
【0009】
本発明の皮膜および被覆層を被着する前のラジアル軸受用摺動材料1の構造としては、図9の参照符号10によって例示するように、裏金層2上に軸受合金層3を形成した二層構造のものが多く用いられる。そして、図6に例示するように軸受合金層3を基材として、その上に中間層4を介して本発明の皮膜5、更にこの皮膜5の上に本発明の被覆層6が被着される。なお、中間層4は、皮膜5の接着性を向上させるためのもので、必須ではない。
【0010】
一方、本発明は、スラスト軸受用として用いられる摺動材料にも適用できる。スラスト軸受用摺動材料は、平板状というだけで、その構造は、ラジアル軸受用摺動材料と同様であり、裏金層上に軸受合金層を形成し、その軸受合金層上に本発明の皮膜および被覆層が順に被着される。
また、本発明は、軸受合金層を持たない摺動材料、つまり図6において、基材が裏金層2に相当する部材のみによって構成される摺動材料に適用することも可能であり、この場合、裏金層相当部材を基材として、その上に本発明の皮膜および被覆層が順に被着される。裏金層相当部材は、金属製に限られず、樹脂製であっても良い。
【0011】
本発明において、皮膜は、融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を基材上にPVDにより被着して形成される。金属の融点の高低と硬度の高低とは相関関係を有し、摺動材料の技術分野では、融点350℃を境にしてそれ以上の融点の金属は硬質、350℃未満の融点の金属は軟質として区分けされている。以下では、融点350℃上の金属を硬質金属、融点350℃未満の金属を軟質金属と呼ぶこととする。
【0012】
本発明の皮膜は、この硬質金属と軟質金属とから形成されるが、その硬質金属と軟質金属とは、互いに相分離する金属の中から選択される。本発明では、硬質金属として、アルミニウム、銀、銅のうちから1種以上、軟質金属として錫、鉛、ビスマス、インジウムのうちから1種以上が選択される。相分離する金属としては、アルミニウムに対して錫、鉛、インジウムであり、銀に対して鉛、ビスマスであり、銅に対して鉛、ビスマス、インジウムである。
【0013】
本発明の皮膜は、互いに相分離する硬質金属と軟質金属とをPVDによって基材上に被着して形成される。PVDによって被着された皮膜は、緻密な結晶構造となり、強度および硬度が高くなり、耐疲労性および耐摩耗性に優れたものとなる。また、硬質金属と軟質金属とは互いに相分離するので、例えばマトリックス中に軟質金属だけの相が分散する形態となる。
例えば、図5は、軸受合金層3の上に中間層4を介してアルミニウムと錫とからなる皮膜5をスパッタリングによって被着した場合を示しているが、同図から明らかなようにマトリックスであるアルミニウム7相中に、錫8相が分散した形態となっている。
このように本発明の皮膜では、硬質金属のマトリックス中に軟質金属相が分散しているので、被覆層およびこの皮膜が摩耗した場合、この軟質金属相による異物埋収性およびなじみ性の効果を期待することができる。
【0014】
<本発明の摺動材料の特徴的構成>
本発明の摺動材料は、上述したPVDによる皮膜の上に、更に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層して形成された被覆層を被着していることを特徴としている。従って、相手材は、この被覆層の表面上を摺動する。この相手材が摺動する面を摺動表面ということとする。
【0015】
本発明では、被覆層を構成する固体潤滑剤板状結晶粒子は、(00l)面が皮膜の表面と平行で、前記被覆層は、当該(00l)面の配向指数が90%以上であることを特徴としている。固体潤滑剤板状結晶粒子としては、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングステンおよびボロンナイトライドの板状結晶粒子のうちのいずれか一種以上を用いることができる(請求項3)。
これらの固体潤滑剤板状結晶粒子は、六方晶である。本明細書では、結晶形態をミラー指数(hkl)で表し、結晶面(00l)面の配向指数を下式のように定義する。なお、lは1以上の整数である。
【0016】
(00l)面の配向指数(%)=[ΣR(00l)/ΣR(hkl)]×100
ただし、R(00l)は(00l)面のX線強度を意味し、ΣR(00l)は検出された(00l)面のX線強度の和であり、ΣR(hkl)は(hkl)面、即ち検出された総ての面のX線強度の総和である。
配向指数が100%に近いほど、(00l)面に配向した結晶面が多いことになる。後に、図12および図13を用いて詳述するが、本発明の被覆層の摺動表面においては、(002)面、(004)面等の(00l)面の結晶面のピークしかほとんど見られない(図12)。一方、本発明とは異なる被覆層の摺動表面においては、(00l)面以外、例えば(101)面、(102)面、(103)面等の結晶面のピークも検出される(図13)。
そして、図10に例示するように上述の固体潤滑剤板状結晶粒子9は、粒子内の層が(00l)面を互いに平行にして積み重なった層状結晶構造を持ち、前述のように、全体としては、比較的厚さの薄い板状の外観形状を有している。以下の説明では、この板状結晶粒子の中の層と層の間の境界面を層間面と称することとする。層間面は、(00l)面に平行である。
【0017】
PVDにより基材の表面に被着された皮膜の表面は、基材の表面に倣う。基材の表面が平坦面であれば、皮膜の表面は平坦面であり、基材の表面がボーリング加工などによってなだらかな凹凸を有していれば、皮膜の表面もなだらかな凹凸を持った面となる。被覆層の構成材料である固体潤滑剤板状結晶粒子は、後述する製造方法の採用によって、この皮膜表面に押し付けられ摩擦されながら付着される。そして、固体潤滑剤板状結晶粒子は、皮膜表面と摩擦することで、化学反応場が形成されるので、トライボケミカル反応が起き、これによって板状結晶の層と層を結合するファンデルワールス力よりも強い力で皮膜に結合される。
【0018】
本発明では、固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面の配向指数が90%以上である。(00l)面の配向指数が高い被覆層は、(00l)面が摺動方向に対して平行に積み重なった粒子が多いことを表している。
摺動材料を軸受としての使用初期には、油膜が形成されにくい部分で摺動材料が相手材と直接接触する。これは、摺動材料と相手材とにはそれぞれ粗さがあり、また、相手材と摺動材料とを組み付けたときの僅かなずれを生ずるなどにより、避けられないことである。この使用初期に避けられない直接接触による摩耗を円滑に行わせ、摺動表面がその摩耗によって油膜が形成される形状に自然に矯正されることが、なじみ性の良い摺動材料であるとされる。
【0019】
本発明の被覆層にあっては、使用初期に相手軸と直接接触する部分が生じた場合、摺動表面のうち、当該直接接触部分の固体潤滑剤板状結晶粒子が相手材に移着し、その相手材の移動に伴って、固体潤滑剤板状結晶粒子に剪断力が生ずるようになる。
固体潤滑剤板状結晶粒子に剪断力が作用すると、固体潤滑剤板状結晶粒子内の相手材の移動方向と平行となっている層間面ですべり(層間すべり)を起す。このとき、板状結晶の層と層との間には、きわめて弱いファンデルワールス力しか作用していないので、ごく小さな剪断力で容易に層間すべりが発生する。この結果、相手材は、枯渇潤滑下であっても、ごく弱い摩擦抵抗しか受けることなく、円滑に摺動する。
【0020】
同時に、摺動材料の被覆層にあっては、固体潤滑剤板状結晶粒子が相手材へ移着することにより、固体潤滑剤板状結晶粒子が被覆層の摺動表面から持ち去られ、摩耗することとなる。そして、このような摩耗により摺動表面が油膜の形成され易い形状になってゆく。即ち、初期なじみ性の高い摺動材料となるのである。
また、被覆層の固体潤滑剤板状結晶粒子は、比較的硬度の低い板状結晶の積層方向であるz方向が摺動表面と垂直方向になっているので、軟らかく、凹み易くなる。このため、相手材との間に異物が混入したような場合、その異物は固体潤滑剤板状結晶粒子中に埋収される。また、異物は、固体潤滑剤板状結晶粒子の相互間に侵入する形態で被覆層中に埋収されるようにもなる。このため、本発明の被覆層は、異物埋収性にも優れたものとなる。
この場合、特に、請求項4のように、固体潤滑剤板状結晶粒子が樹脂バインダを用いることなく皮膜上に付着されることにより、固体潤滑剤板状結晶粒子中への異物埋収、固体潤滑剤板状結晶粒子相互間への異物埋収性を損なわずに済む。
ちなみに、下の表1は、二硫化モリブデンの被覆層の硬さを、PVDにより形成した皮膜の硬さと比較したもので、二硫化モリブデンの被覆層は、相当軟質であることが理解される。
【0021】
【表1】
【0022】
<被覆層中に軟質金属が混在>
摺動材料において、摺動表面側から基材側に向って次第に硬度が変化していくことがなじみ性に対して好ましい。軟質な固体潤滑剤板状結晶粒子からなる被覆層は、PVDによって被着した皮膜に比べて非常に軟質である。次第に硬度が変化していく方が、摩擦熱発生抑制の面で、ひいては非焼付性の面で好ましい。
【0023】
ここで、請求項5の発明は、被覆層中に、皮膜を構成する融点が350℃未満の金属(軟質金属)が混在していることを特徴とする。このように、被覆層中に軟質金属が混在していると、皮膜との硬度の差が小さくなり、異物埋収性を損なうことなくなじみ性が改善される。
【0024】
また、請求項6の発明は、被覆層のうち、前記皮膜に接する所定の層状領域が、皮膜を構成する融点350℃未満の金属(軟質金属)を混在させた混在層、とされていることを特徴としている。このように、被覆層の摺動表面に近い部分(上層)は、軟質の固体潤滑剤板状結晶粒子だけの層となり、皮膜に近い部分(下層)は、軟質金属が混在する平均硬度のやや高い層となっていることにより、摺動表面から皮膜にいたるまでに硬度が徐々に高くなる形態が得られ、なじみ性がより一層改善される。
【0025】
<製造方法>
本発明の摺動材料、特に、被覆層は、次のような方法によって製造される。
即ち、第1の方法は、付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させる方法である(請求項7)。
なお、自由付着とは、自由付着体である対象物が、被自由付着体から容易に離れることができる状態を言う。ここでは、対象物である固体潤滑剤板状結晶粒子が、付着媒体から容易に離れることができる状態を言う。
【0026】
この方法によれば、固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた付着媒体を、皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせると、固体潤滑剤板状結晶粒子が皮膜の表面を摩擦しながら転動してゆく。このとき、固体潤滑剤板状結晶粒子は、前述したように板状であるが故に整列しながら移動し、最も強い摩擦力が作用する皮膜の表面に対して(00l)面が皮膜の表面と平行に配向するように整列し、そして皮膜の表面との接触場において、トライボケミカル反応を起して皮膜の表面に付着する。図4に、以上のようにして固体潤滑剤板状結晶粒子9を一層付着させた状態を示す。
【0027】
更に、固体潤滑剤板状結晶粒子を自由付着させた付着媒体を、皮膜の表面に付着された固体潤滑剤板状結晶粒子に圧力を加えながら滑らせると、粗さのある皮膜の表面とこの皮膜の表面に付着した固体潤滑剤板状結晶粒子との間の摩擦係数の方が、皮膜の表面に付着した固体潤滑剤板状結晶粒子とその上を滑らされる固体潤滑剤板状結晶粒子との間の摩擦係数よりも大きいため、皮膜の表面に付着した固体潤滑剤板状結晶粒子の上を別の固体潤滑剤板状結晶粒子が摩擦しながら移動することとなる。この移動により、皮膜の表面の固体潤滑剤板状結晶粒子上において、別の固体潤滑剤板状結晶粒子が、層間面を下の固体潤滑剤板状結晶粒子の層間面と平行に配向するように移動する。
【0028】
以上のように、付着媒体による摩擦仕事によって、固体潤滑剤板状結晶粒子が皮膜の表面上を転動する間に、固体潤滑剤板状結晶粒子が(00l)面を皮膜の表面に付着された板状粒子の(00l)面と平行にするように整列し、積層されて被覆層が形成されていくのである。図1には、皮膜5上に付着させた第1層目の固体潤滑剤板状結晶粒子9A上に複数層の固体潤滑剤板状結晶粒子9Bを積層させた状態を示す。
【0029】
次に、被覆層の中に軟質金属を混在させるには、付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記被覆層中に噴出させる(請求項8)。
【0030】
このようにすることにより、皮膜中の軟質金属が一部融解して皮膜の表面に積層されつつある固体潤滑剤板状結晶粒子の層中に噴き出る。そして、固体潤滑剤板状結晶粒子の層厚を、皮膜から噴き出る軟質金属の突出高さ程度となるように制御することによって、軟質金属を全域に含んだ被覆層を得ることができる。図2は、アルミニウム7と錫8とからなる皮膜5から、軟質金属である錫8が被覆層6中に噴き出して被覆層6全体が錫8との混在層となっている状態を示す。
【0031】
更に、皮膜に接する所定の層状領域である下層側が軟質金属を混在させた混在層となり、上層側が軟質金属を含まない固体潤滑剤板状結晶粒子だけの層となる被覆層を形成するには、付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記積層された前記固体潤滑剤板状結晶粒子中に噴出させ、その後、前記皮膜の加熱を停止し、および/または前記付着媒体の移動速度を低下させ、および/または前記皮膜を冷却することにより前記融点350℃未満の金属の融解を停止させて、更に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を、前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種噴出させた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の層に積層させる(請求項9)。
【0032】
このようにすることにより、固体潤滑剤板状結晶粒子の付着途中で軟質金属の噴出を制御して止めることができるので、被覆層中の下側(皮膜に接する所定の層状領域)にだけ軟質金属が噴き出し、従って下層を、軟質金属を含む混在層とした被覆層が得られる。図3は、アルミニウム7と錫8とからなる皮膜5から、軟質金属である錫8が被覆層6中の下側に噴き出し、被覆層6の下層が固体潤滑剤板状結晶粒子9中に錫8を混在させた混在層6aとなり、上層が固体潤滑剤板状結晶粒子9のみの単一層6bとなっている状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明をラジアル軸受用摺動材料(以下、単にすべり軸受)に適用した一実施形態につき図面を参照しながら説明する。図8のように、すべり軸受1は半円筒状に形成されている。このすべり軸受1は、図6に示すように、裏金層2の内周面に軸受合金層3をライニングし、更にその軸受合金層3の表面に中間層4を介して皮膜5を被着し、更に、この皮膜5上に被覆層6を被着した複層構造をなしている。
【0034】
このすべり軸受1の製造法は、次の通りである。まず、図9に示すように、裏金層2上に軸受合金層3をライニングしてバイメタル10を形成する。その後、バイメタル10から短冊状小片を切り出し、この短冊状小片を半円筒状に曲げて半円筒状成形体を得る。そして、半円筒状成形体の内周面である軸受合金層3表面をボーリング加工によって仕上げ、次に、洗浄脱脂し、軸受合金層3の表面に中間層4を例えばPVDやめっきにより被着させる。被着後、その表面にPVD、例えばスパッタリングによって皮膜5を形成し、そして、この皮膜5の上に被覆層6を形成し、すべり軸受1を得る。
被覆層6は、皮膜5の表面に積層された固体潤滑剤板状結晶粒子9からなる。この場合、固体潤滑剤板状結晶粒子9を結合するための樹脂バインダは使用しない。固体潤滑剤板状結晶粒子としては、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングステンおよびボロンナイトライドの板状結晶粒子のうちのいずれか1種以上を選択して用いる。
【0035】
皮膜5の表面に、固体潤滑剤板状結晶粒子9を積層させるための付着装置11は、図7に示すように、回転軸12に着脱可能に取り付けられる芯体としての回転体13に、複数の付着媒体14の一端側を固定して構成されている。付着媒体14は、布、不織布、紙、皮革、プラスチック、繊維状金属などの可撓性部材からなり、ここでは、すべり軸受1の幅よりもやや広い幅を持った円弧板状に形成されている。この付着媒体14は、表面に凹凸などがあって表面積の大きい部材が好ましい。一度に多量の固体潤滑剤板状結晶粒子9を付着媒体14に自由付着させ得るからである。
【0036】
この付着装置11によりすべり軸受1の内周面に被覆層6を形成するには、まず、2個のすべり軸受1を、円筒状に突き合わせて、回転軸12と同心となるように治具(図示せず)に固定する。そして、回転体13に固定された複数の付着媒体14に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造をもつ固体潤滑剤板状結晶粒子9、例えば二硫化モリブデン粒子を多量に自由付着させ、これら付着媒体14を円筒状に突き合わされた2個のすべり軸受1内に収容するようにして回転体13を回転軸12に取り付ける。
【0037】
そして、回転軸12を図示しないモータにより回転させる。すると、付着媒体14の他端たる先端部分が回転に伴う遠心力を受けてすべり軸受1の内周面である皮膜5の内周面に圧接しながら滑るように回転する。このときの付着媒体14の前記内周面での滑り速度は、5m/秒以上であることが好ましい。この付着媒体14の回転により、付着媒体14に自由付着された二硫化モリブデン粒子が、付着媒体14と前記内周面とによって圧力を加えられながら摩擦移動し、これにより、二硫化モリブデン粒子が層間面を皮膜5の表面と平行となるように配向し(なぜなら、最大面である(00l)面は、前記移動方向に平行になることが安定だからである。)、且つトライボケミカル反応を起して皮膜5の表面に付着する。そして、更に、付着媒体14が回転することにより、その皮膜5の表面に付着した二硫化モリブデン粒子の上に、別の二硫化モリブデン粒子が(00l)面(層間面)を下の二硫化モリブデン粒子の(00l)面と略平行となるように配向されて順次積層されてゆく。以上のようにして皮膜5上に二硫化モリブデン粒子が積層された層から構成された被覆層6が形成され、その層厚が1μm以上の所望の厚さとなったところで本付着工程を終了する。なお、本付着工程の稼働時間は、希望する被覆層6の厚さに応じて適宜定める。
【0038】
この被覆層6の形成時に、図示しない治具を予熱してこの治具に固定されるすべり軸受1の皮膜5を加熱したり、付着媒体14のすべり軸受1の表面での滑り速度を適宜調節して摩擦熱の発生程度を制御したり、或いは治具を水冷することですべり軸受1の皮膜5を冷却したりすることによって、図2に示すように皮膜5中の軟質金属を被覆層6中に噴き出させて軟質金属を含む被覆層6を形成したり、或いは、図3に示すように下層が軟質金属を含んだ混在層とした被覆層6を形成したりする。これらの場合において、上記製造方法を実施することにより、表面が平滑な被覆層を形成することができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を説明する。裏金層に、アルミニウム系軸受合金層または銅系軸受合金層をライニングしたバイメタルを製造し、このバイメタルから短冊状小片を得て、これを半円筒状に曲げた後、軸受合金層の表面をボーリング加工により仕上げた。
その後、この半円筒状成形体を脱脂洗浄し、軸受合金層の内周面にスパッタリングによりNiCr層(中間層)を設け、そのNiCr層上に、下の表2の「PVD皮膜の種類」欄に示す成分の金属をスパッタリングによって被着させて皮膜を形成し、実施例品1〜5、比較例品1〜3の各試料を製作した。この中間層上のスパッタリングによる皮膜の厚さは、10〜15μmとした。なお、皮膜の金属成分は、元素記号の前の数字がその元素の成分量(質量%)を示す。数値のない元素は、残部を占める元素である。
【0040】
【表2】
【0041】
比較例品1を除く他の試料については、皮膜の上に、更に、表1に示す固体潤滑剤からなる固体潤滑剤板状結晶粒子を図7に示す付着装置11により積層し、被覆層を形成した。この場合、実施例品1と比較例品2は、被覆層の中に軟質金属は含まれず、固体潤滑剤板状結晶粒子のみからなる被覆層としている。実施例品4,5の被覆層は、その全域において軟質金属を混在させており、固体潤滑剤板状結晶粒子のみからなる層状領域はない。実施例品2,3の被覆層は、下層を軟質金属を含む混在層としており、上層を固体潤滑剤板状結晶粒子のみからなる単一層としている。
【0042】
実施例品4,5のように被覆層中に軟質金属を混在させるには、被覆層の形成時に付着装置11の治具を80〜340℃の範囲で、低融点金属よりも10〜70℃低い温度に予熱しておく。そして、固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時に付着媒体14の試料表面での滑り速度を10〜20m/secの高速度で行って摩擦熱を発生させる。これにより、皮膜中の低融点の軟質金属が溶融して被覆から被覆層中に噴き出し、軟質金属が被覆層中に混在するようになる。また、実施例品2,3のように被覆層の下層にだけ軟質金属を含ませるには、被覆層の形成中に治具の加熱を停止すると共に、付着媒体のすべり速度を低下させ、更に治具を水冷して皮膜中の低融点金属の溶融を停止させる。これにより、下層にだけ低融点金属が噴き出た形態の被覆層を形成できる。
【0043】
上記実施例品1〜5および比較例品2,3について、被覆層の厚さ、被覆層表面での固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面の配向指数を測定し、また、下の表3に示す条件にて焼付試験を行い、それらの測定結果および試験結果を表2に記載した。
【0044】
【表3】
【0045】
なお、配向指数は、X線回折強度試験の結果から求めた。実施例品および比較例品のX線回折強度試験の測定結果の一例を、それぞれ図12(a),(b)および図13(a),(b)に示す。図12は、実施例品1の測定結果を示し、同図(b)は同図(a)の部分拡大図であり、図13は、比較例品2の測定結果を示し、同図(b)は同図(a)の部分拡大図である。図12(a),(b)および図13(a),(b)中、○(丸)が固体潤滑剤板状結晶粒子である二硫化モリブデンの(00l)面を示し、△(三角)が皮膜の結晶面を示し、×(バツ)が二硫化モリブデンの(00l)面以外の結晶面を示す。
【0046】
図12(a),(b)から明らかなように、実施例品1の測定結果には、固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面以外のピークは、ほとんど見られない。一方、図13(a),(b)から明らかなように、比較例品2の測定結果には、固体潤滑剤板状結晶粒子の(00l)面以外のピークが容易に見られる。なお、図13(b)に示すように、比較例品2の測定結果では、(00l)面以外である(101)、(102)、(103)面が同定された。このX線回折強度試験の測定結果および先の式から、実施例品および比較例品の配向指数を求めたものを表2に示す。
【0047】
焼付試験の結果を考察する。
まず、すべり軸受のなじみ性や異物埋収性は、直接定量的に測定できない。なじみ性に優れたすべり軸受であれば、相手材と金属接触を起こす部分があっても、その部分は早期に摩耗して油膜を形成し易い形状に矯正されてゆく。このため、なじみ性の優れたすべり軸受では、非焼付性に優れる。また、異物埋収性に優れたすべり軸受では、相手材との間に侵入してきた異物を取り込んで相手材との摺動面間から除去し、異物がいつまでも摺動面間に存在することから生ずる焼付きを防止する。従って、なじみ性および異物埋収性に優れたすべり軸受は、非焼付性に優れる。このことから、実施例品1〜5、比較例品1〜3のなじみ性および異物埋収性の良否の確認試験として焼付試験を実施したのである。
【0048】
焼付試験は、表3から明らかなように、荷重をステップアップさせることで枯渇潤滑となる条件下で実施している。つまり、面圧が高くなるほど、油膜が薄くなるので、次第に枯渇潤滑状態となってゆくのである。なお、焼付面圧とは、試験荷重を10分毎に10MPaずつ増加させていった場合に、焼付きを生じたときの面圧を言う。また、焼付の評価は、試料の背面温度が200℃を超えた時又はトルク変動によって相手軸を回転させる軸駆動用ベルトがスリップした時を焼付と判定した。
【0049】
比較例品1は、被覆層を形成しておらず、相手材が直接皮膜と接触するため、なじみ性や異物埋収性に劣り、非焼付性は低い。また、スプレー法により被覆層を形成した比較例品2は、皮膜の上に被覆層を形成しているが、しかし、二硫化モリブデン粒子の配向率が71%と低い。このため、二硫化モリブデン粒子の層間すべりによって早期に生じる被覆層の円滑な摩耗が生じ難く、ひいてはなじみ性に劣るものとなる。また、異物埋収機能が十分に発揮されないものとなっており、焼付面圧は低い。また、スパッタ法により被覆層を形成した比較例品3は、皮膜の上に被覆層を形成しているが、しかし、二硫化モリブデン粒子の配向率が38%と低い。このため、同様になじみ性のみならず焼付面圧が低い。
【0050】
これに対し、実施例品1〜5は、皮膜上に、固体潤滑剤板状結晶粒子による被覆層が形成され、その固体潤滑剤板状結晶粒子の配向率が90%以上であるので、被覆層によるなじみ性および異物埋収性が良好に発揮され、優れた非焼付性を呈している。
これら実施例品1〜5うち、実施例品4,5は、被覆層全体が軟質金属と固体潤滑剤板状結晶粒子との混在層となっている。このため、被覆層の平均硬度が高くなり、被覆層と皮膜との硬度差が実施例品1より小さい。このことから、それらの層が摩擦摩耗するにあたり、硬度の変化が小さいことにより、硬度差に起因する摩擦熱発生を極めて良好に抑制することができるので、実施例品4,5は、実施例品1よりも良好なる非焼付性を呈している。
【0051】
更に、実施例品2,3では、被覆層の下層に、軟質金属を混在させた混在層を有している。このため、それらは、被覆層の上層から皮膜までに次第に硬度が変化する形態となっているので、実施例品1よりも良好なる非焼付性を呈している。特に、被覆層の厚い実施例品2は、他の実施例品1,3〜5に比べ、良好なる非焼付性を示し、下層に混在層を有する被覆層が非焼付性にとって効果的であることを示している。
【0052】
なお、実施例品2は、固体潤滑剤板状結晶粒子と低融点金属との混在層の厚さが2μmあるので、仮に固体潤滑剤板状結晶粒子が存在しないとすると、噴出した低融点金属の存在によってその表面粗さはRz2μmということになる。しかし、上述の実施例品2は、本発明の製造方法を実施したので、被覆層の表面粗さをRz2μm以下にすることができ、被覆層の表面粗さが小さかった。その結果、軸と軸受との直接接触の確率を下げることができた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の摺動材料における被覆層の第1の形態を示す断面図
【図2】本発明の摺動材料における被覆層の第2の形態を示す断面図
【図3】本発明の摺動材料における被覆層の第3の形態を示す断面図
【図4】皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を被着する過程を示す断面図
【図5】被覆層形成前の状態を示す摺動材料の断面図
【図6】摺動材料の層構造を示す摺動部材全体の断面図
【図7】付着装置の断面図
【図8】摺動材料(すべり軸受)の側面図
【図9】摺動材料を形成するためのバイメタルの断面図
【図10】固体潤滑剤板状結晶粒子の板状結晶の層構造を示す概念図
【図11】二硫化モリブデンの結晶構造を示す概念図
【図12】実施例品の被覆層のX線回折強度試験の結果を示すグラフ
【図13】比較例品の被覆層のX線回折強度試験の結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0054】
図面中、1は摺動材料、2は裏金層、3は軸受合金層(基材)、4は中間層、5は皮膜、6は被覆層、7はアルミニウム(マトリックス)、8は錫(分散している相)、9は固体潤滑剤板状結晶粒子、11は付着装置、14は付着媒体である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を、基材上にPVDにより被着して形成された皮膜と、
この皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層して形成された被覆層とを有し、
前記固体潤滑剤板状結晶粒子は、(00l)面(但し、lは1以上の整数)が平行に積み重なった層状結晶構造を持ち、且つ、前記皮膜上に積層された状態では、(00l)面が前記皮膜の表面と平行で、
前記被覆層は、当該(00l)面の配向指数が90%以上であることを特徴とする摺動材料。
【請求項2】
前記融点が350℃以上の金属は、アルミニウム、銀、銅のうちの1種以上からなり、前記融点が350℃未満の金属は、錫、鉛、ビスマス、インジウムのうちの1種以上からなることを特徴とする請求項1記載の摺動材料。
【請求項3】
前記固体潤滑剤板状結晶粒子は、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングスン、ボロンナイトライドの板状結晶粒子のうちのいずれか1種以上からなることを特徴とする請求項1または2記載の摺動材料。
【請求項4】
前記被覆層は、前記固体潤滑剤板状結晶粒子を結合するための樹脂バインダを含まないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動材料。
【請求項5】
前記被覆層中に、前記皮膜を構成する金属のうち、前記融点が350℃未満の金属が少なくとも1種混在していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動材料。
【請求項6】
前記被覆層のうち、前記皮膜に接する所定の層状領域が、前記皮膜を構成する金属のうち、前記融点350℃未満の金属の少なくとも1種が混在する混在層とされていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の摺動材料の被覆層を製造する方法において、
付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、
この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、
更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させる、摺動材料の被覆層製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6記載の摺動材料の被覆層を製造する方法において、
付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、
この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、
更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、
前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記被覆層中に噴出させる、摺動材料の被覆層製造方法。
【請求項9】
請求項6記載の摺動材料の被覆層を製造する方法において、
付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、
この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、
更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、
前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記積層された前記固体潤滑剤板状結晶粒子中に噴出させ、
その後、前記皮膜の加熱を停止し、および/または前記付着媒体の移動速度を低下させ、および/または前記皮膜を冷却することにより前記融点350℃未満の金属の融解を停止させて、更に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を、前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種噴出させた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の層に積層させる、摺動材料の被覆層製造方法。
【請求項1】
融点が350℃以上および350℃未満の互いに相分離する2種以上の金属を、基材上にPVDにより被着して形成された皮膜と、
この皮膜上に固体潤滑剤板状結晶粒子を積層して形成された被覆層とを有し、
前記固体潤滑剤板状結晶粒子は、(00l)面(但し、lは1以上の整数)が平行に積み重なった層状結晶構造を持ち、且つ、前記皮膜上に積層された状態では、(00l)面が前記皮膜の表面と平行で、
前記被覆層は、当該(00l)面の配向指数が90%以上であることを特徴とする摺動材料。
【請求項2】
前記融点が350℃以上の金属は、アルミニウム、銀、銅のうちの1種以上からなり、前記融点が350℃未満の金属は、錫、鉛、ビスマス、インジウムのうちの1種以上からなることを特徴とする請求項1記載の摺動材料。
【請求項3】
前記固体潤滑剤板状結晶粒子は、二硫化モリブデン、グラファイト、二硫化タングスン、ボロンナイトライドの板状結晶粒子のうちのいずれか1種以上からなることを特徴とする請求項1または2記載の摺動材料。
【請求項4】
前記被覆層は、前記固体潤滑剤板状結晶粒子を結合するための樹脂バインダを含まないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動材料。
【請求項5】
前記被覆層中に、前記皮膜を構成する金属のうち、前記融点が350℃未満の金属が少なくとも1種混在していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動材料。
【請求項6】
前記被覆層のうち、前記皮膜に接する所定の層状領域が、前記皮膜を構成する金属のうち、前記融点350℃未満の金属の少なくとも1種が混在する混在層とされていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の摺動材料の被覆層を製造する方法において、
付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、
この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、
更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させる、摺動材料の被覆層製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6記載の摺動材料の被覆層を製造する方法において、
付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、
この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、
更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、
前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記被覆層中に噴出させる、摺動材料の被覆層製造方法。
【請求項9】
請求項6記載の摺動材料の被覆層を製造する方法において、
付着媒体に、(00l)面が平行に積み重なった層状結晶構造を持つ前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させ、
この前記固体潤滑剤板状結晶粒子を複数自由付着させた前記付着媒体を、前記皮膜の表面に圧力を加えながら滑らせることによってその皮膜表面に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着させ、
更に、前記付着媒体を、前記皮膜の表面に付着させられた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の表面に圧力を加えながら滑らせることによって、その固体潤滑剤板状結晶粒子の表面上に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を摩擦させながら付着して積層させると共に、
前記固体潤滑剤板状結晶粒子の付着時において、前記皮膜を加熱し、および/または前記付着媒体の滑り速度を調整して摩擦熱を発生させることにより、前記皮膜中の前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種融解させて前記積層された前記固体潤滑剤板状結晶粒子中に噴出させ、
その後、前記皮膜の加熱を停止し、および/または前記付着媒体の移動速度を低下させ、および/または前記皮膜を冷却することにより前記融点350℃未満の金属の融解を停止させて、更に前記固体潤滑剤板状結晶粒子を、前記融点が350℃未満の金属を少なくとも1種噴出させた前記固体潤滑剤板状結晶粒子の層に積層させる、摺動材料の被覆層製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−270205(P2007−270205A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95107(P2006−95107)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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