摺動部材及びその製造方法
【課題】該非晶質炭素被膜の初期摩擦係数の低減を含む初期馴染み性を向上させることができる摺動部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、前記非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含む。
【解決手段】基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、前記非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面に硬質炭素被膜が形成された摺動部材及びその製造方法に係り、特に、特に、初期馴染み性に優れた摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車産業などの我が国の基幹産業において、トライボロジーは重要な役割を担っている。例えば、自動車産業においては、現在、地球環境保全のため、自動車から排出される二酸化炭素の削減を目指してさまざまな取り組みが行われており、その一例としてハイブリットシステムなどのエネルギー効率の良い動力源の開発が良く知られている。しかし更なる低燃費を目指すためには、動力源の開発だけでなくエンジン内部および駆動系における摩擦によるエネルギーの伝達ロスの低減が重要な課題となる。
【0003】
このような課題を鑑みて、動力系機器における摺動部材の摩擦係数の低減化、耐摩耗性の向上を図るべく、構造用鋼あるいは高合金鋼からなる摺動部材の摺動面に被覆する新たなトライボロジー材料としての非晶質炭素材料(DLC)が注目されている。
【0004】
このような非晶質炭素材料を利用した摺動部材の一例として、基材の表面に非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、その非晶質炭素被膜に、0.5原子%以下の水素原子を含有させた摺動部材や、20〜40原子%の水素原子を含有させた摺動部材や、20〜50原子%の水素原子を含有させた摺動部材が開示されている(例えば特許文献1〜3参照)。これらの摺動部材は、非晶質炭素被膜に所定の割合の水素を含有させることにより、所望の表面硬さを確保すると共に、被膜の密着強度の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−3094号公報
【特許文献2】特開2005−314454号公報
【特許文献3】特開2005−336456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような摺動部材を用いた場合であっても、大気中及び潤滑油中において、これらの摺動部材の初期馴染み性が必ずしも良いものとは言えなかった。すなわち、これらの摺動部材を相手材と摺動させた場合には、摺動させる初期の段階において、表面のうねりや摺動面の粗さの影響により、摩擦係数が高くなる傾向にあった。この結果として、摺動部材の摺動面(非晶質炭素被膜の表面)の損傷も大きくなるため、さらなる摩擦係数の上昇、これに伴う摩耗量の増加が懸念される場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、非晶質炭素被膜が形成された摺動部材において、該非晶質炭素被膜の初期馴染み性を向上させることができる摺動部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、非晶質炭素被膜の表面のグラファイト構造を増やすことにより、初期馴染み性が向上すると考え、この考えに基づいて、非晶質炭素材料に紫外線を照射することにより、この材料のグラファイト化が発現するとの新たな知見を得た。
【0009】
より詳細には、水素元素を含む非晶質炭素被膜を構成する非晶質炭素材料は、一般的に、sp3結合に対応するダイヤモンド構造、sp2結合に対応するグラファイト構造、及びこれらの結合及び水素結合が混在したアモルファス構造からなるが、発明者らの実験によれば、非晶質炭素被膜に水素元素を含む場合には、特に、紫外線の照射エネルギーにより非晶質炭素被膜の表面層がグラファイト構造に変質し易いとの新たな知見を得た。
【0010】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、第一の本発明に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、前記非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、基材の表面に形成(成膜)された非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射することにより、その非晶質炭素被膜の表面層がグラファイト化する。これにより、この表面層は、紫外線照射を行っていない非晶質炭素のその他部分に比べて、グラファイト構造をより多く含んでいるので、摺動部材の初期馴染み性を向上させることができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、非晶質炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0012】
また、第二の発明に係る摺動部材の製造方法は、前記基材に紫外線を照射しながら、前記基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、基材の表面に向けて紫外線を照射しながら成膜するので、成膜した非晶質炭素被膜は、紫外線を照射せずに成膜した非晶質炭素被膜に比べて、含有するグラファイトを増加させることができる。また、第一の発明に比べて、紫外線が照射された層(紫外線の照射によりグラファイトを多く含む層)を厚くすることができるので、摺動時に摩滅し難く、摺動部材の摩擦係数の低い状態を持続させることができる。この別の態様における基材は、表面に紫外線を照射していない非晶質炭素被膜が予め形成された基材であってもよい。
【0014】
このように、上述したいずれの方法であっても、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材は、非晶質炭素被膜に、少なくとも表面層に紫外線の照射された層、すなわち、紫外線の照射によりグラファイト化した表面層(紫外線照射しながら成膜した場合には、その被膜全体がグラファイトをより多く含有した被膜)を含むことができる。
【0015】
また、ここでいう「グラファイト化」とは、非晶質炭素材料のアモルファス構造等の少なくとも一部が、グラファイト構造に変化する現象をいう。また、「紫外線によりグラファイト化した層」とは、非晶質炭素被膜に紫外線を照射して、グラファイトに一部が変質した層、又は、紫外線を照射しながら成膜した場合には、照射しない場合に、比べてグラファイトの含有量が増加した層をいう。
【0016】
また、紫外線を照射しながら成膜する場合には、紫外線の照射を断続的に行いながら成膜することがより好ましい。本発明によれば、紫外線の照射を断続的に行うことにより、成膜された非晶質炭素被膜は、紫外線が照射された層(紫外線の照射によりグラファイト化した層)が、膜厚方向に、断続的に積層されることになる。すなわち、成膜された非晶質炭素被膜は、紫外線が照射された非晶質炭素材料からなる層と、紫外線が照射されていない非晶質炭素材料からなる層とが交互に積層されることなる。
【0017】
このようにして成膜した場合には、紫外線を照射によりグラファイト化した非晶質炭素材料からなる層が、摺動性に優れた層であり、紫外線を照射してない非晶質炭素材料からなる層が、硬質層であるので、これらの層を含む摺動部材は、耐摩耗性及び摺動性を向上させることができる。さらに、紫外線が照射された層は、グラファイトをより多く含むので、非晶質炭素被膜の内部に発生する圧縮応力を緩和することができる。これにより、これまでの方法に比べて、より膜厚の厚い非晶質炭素被膜を成膜することができる。
【0018】
なお、紫外線を照射することにより、紫外線のエネルギーにより非晶質炭素材料がグラファイト化することができるのであれば、その紫外線の波長、強度、照射時間等は特に限定されるものでないが、発明者らの実験によれば、照射される紫外線の強度、照射時間等により、成膜時に照射される紫外線の照射エネルギーが高いほど、非晶質炭素被膜に含有するグラファイトが増加することがわかっており、これらの条件を適宜選定することにより、摺動特性、被膜の厚さ、被膜の密着性等を変化させることができる。
【0019】
しかしながら、本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記紫外線の照射エネルギーを増加させながら、前記成膜を行うことがより好ましい。このようにして成膜された非晶質炭素被膜は、前記基材の表面から非晶質炭素被膜の表面に向かって、前記非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトが増加することになる。
【0020】
前記紫外線の照射エネルギーを増加させる方法としては、例えば、成膜しながら、照射強度を増加させる(具体的には照射する紫外線の波長を短くする)方法や、同じ条件で紫外線を照射しつつ、成膜速度を遅らせて(又は一端成膜を中断して)、成膜される層への照射量を増加させる方法などを挙げることができる。この結果、摺動面近傍には、グラファイトの含有量が多いため、摺動特性を向上させ、さらには、基材の表面の近傍は、グラファイトが摺動面近傍に比べて少なく、より硬質であるので、被膜強度を確保することができる。
【0021】
本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記照射する紫外線の波長を350nm以下の波長とした紫外線を照射することがより好ましい。
本発明に係る摺動部材の製造方法において、非晶質炭素被膜の表面に照射する紫外線の波長は350nm以下、より好ましくは312nm以下の波長の紫外線を非晶質炭素被膜の表面に照射することにより、グラファイト化をより好適に発現することができ、照射された紫外線の波長が350nm以下で成膜された被膜により、好適に摺動部材の初期摩擦係数を低下させ、これにより初期摩耗を低減することができる。
【0022】
また、発明者らの後述する実験によれば、非晶質炭素被膜に水素を含むことで、非晶質炭素被膜がグラファイト化にすることがわかっており、本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記非晶質炭素被膜に含有する水素含有量が、3〜35原子%となるように、前記非晶質炭素被膜を成膜することがより好ましい。
【0023】
本発明によれば、このような範囲の水素含有量を含む非晶質炭素被膜を基材表面に成膜する、被膜強度を確保すると共に、非晶質炭素被膜のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、基材表面に形成された非晶質炭素被膜の初期馴染み性を含む摺動特性を、容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第一及び第二の実施形態の摺動部材を製造(被膜を成膜する)するための模式的な装置構成図。
【図2】第二の実施形態の摺動部材を製造(被膜を成膜する)するための模式的な装置。
【図3】(a)及び(b)は、第一実施系形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための図であり、(c)及び(d)は、第二実施系形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための図。
【図4】実施例1及び2、比較例1及び2に係るオージェ電子分光法による非晶質炭素被膜の表面の元素分析を説明するための図であり、(a)は、運動エネルギー150〜500eVの範囲の正規化強度であり、(b)は、運動エネルギー220〜300eVの範囲の正規化強度を示した図。
【図5】実施例1及び2、比較例1及び2に係る非晶質炭素被膜の接触角を測定した結果を示した図。
【図6】実施例1及び2、比較例1及び2に係る非晶質炭素被膜の表面自由エネルギーを測定した結果を示した図。
【図7】ボールオンオンディスク摩擦試験機を説明するための図。
【図8】実施例1及び2、比較例1及び2に係る摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)と摩擦係数との関係を示した図。
【図9】比較例3〜6に係る摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)と摩擦係数との関係を示した図。
【図10】実施例3及び4、比較例7及び8に係る摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)と摩擦係数との関係を示した図。
【図11】実施例5及び6、比較例9及び10に係るレーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGの測定結果を示した図。
【図12】(a)は、比較例12の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図であり、(b)は、実施例8の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図であり、(c)は、実施例9の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図であり、(d)は、実施例10の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の本発明の摺動部材及びその製造方法を2つの実施形態について説明する。図1は、第一及び第二の実施形態の摺動部材を製造(基材に被膜を成膜)するための模式的な装置構成図である。また、図3の(a)、(b)は、第一実施形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための図である。第一施形態に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に非晶質炭素被膜を成膜する工程と、この成膜された非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射する工程の2つの工程を少なくとも含むものである。
【0027】
まず、摺動部材の基材Wを準備する。この基材Wの材質としては、摺動時において非晶質炭素被膜との密着性を確保することができるような材質および表面硬さを有する材料であれば、特に限定されるものではなく、例えば、鋼、鋳鉄、アルミニウム、高分子樹脂等の基材などを挙げることができる。
【0028】
そして、基材Wを成膜装置(イオンビームミキシング装置)100A内に配置する。まず、アルゴンイオンビームガン52により、基材Wの表面を清浄化する。そして、図1に示すような成膜装置100Aを用いて、この基材Wの表面に非晶質窒化炭素被膜を成膜する(成膜工程)。具体的には、図1に示すように、基材WがカーボンターゲットTと対向するように、チャンバ50内の基材を保持し、アルゴンイオンビームガン51からアルゴンイオンをカーボンターゲットTに照射し、カーボンターゲットTをカーボンスパッター粒子Cにして、図3(a)に示すように、基材Wの表面に非晶質炭素被膜Dの成膜を行う。この際、水素ガスをチャンバ50内に導入することにより、非晶質炭素被膜Dに水素を含有させることができる。このとき、アルゴンイオンビームガン52からアルゴンビームを照射しながら、成膜を行ってもよい。
【0029】
ここで、非晶質炭素被膜を摺動部材の基材表面に成膜するにあたっては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビームミキシングなどを利用した物理気相成長法(PVD)により成膜してもよく、後述する図2に示す装置100Bを用いて、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により成膜してもよく、これらの方法を組み合わせた方法により成膜してもよく、非晶質炭素被膜に、水素原子を含むことができるものであれば、特に成膜方法は限定されるものではない。
【0030】
また、このような成膜時において非晶質炭素被膜中に、Si、Ti、Cr、Fe、Mo、W、Bなどの添加元素を含有させてもよく、このような元素を添加することにより、被膜の表面硬さを調整してもよい。
【0031】
また、成膜時に、前記非晶質炭素被膜に含有される水素含有量が、3〜35原子%となるように、前記非晶質炭素被膜を成膜することがより好ましい。水素含有量は、例えば、プラズマCVDにより成膜する場合に、反応ガスとして、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素系の反応ガスを用いて、これらのガスの種類、量等を調整するような一般的に知られた方法により調整することができ、水素含有量が調整できるのであれば特にこの方法は限定されるものではない。
【0032】
次に、このようにして、成膜された非晶質炭素被膜Dの表面に、紫外線照射装置60からの紫外線UVを照射することにより、図3(b)に示すように、非晶質炭素被膜Dの表面層Gをグラファイト化する。これにより、摺動部材の摺動面となる非晶質炭素被膜の表面の初期馴染み性を向上させることができる。すなわち、摺動部材の初期摩擦係数を低くすることができ、これにより初期摩耗も低減することができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、非晶質炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0033】
ここで、紫外線照射装置60は、一般的に紫外線の波長は、10〜400nmの範囲にあり、このような波長の紫外線は、低圧水銀ランプ(波長:185,254nm)、高圧水銀ランプ(波長:302,365,436,546,577nm)、あるいは、エキシマレーザー(波長ArF:193nm,KrF:249nm,XeCl:308nm)などにより発生させることができる。本実施形態では、この範囲の波長のうち、350nm以下の波長、より好ましくは、312nm以下の波長の紫外線を照射することがより好ましい。また、波長の紫外線を発生させることができるのであれば、紫外線発生装置は、特に限定されるものではない。
【0034】
このような波長の紫外線を非晶質炭素被膜の表面に照射することにより、その被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができ、摺動部材の初期摩擦係数の低減を図ることができる。特に、前述した範囲の水素含有量の非晶質炭素被膜を基材の表面に形成することにより、被膜強度を確保すると共に、非晶質炭素被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【0035】
このようにして得られた摺動部材は、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、この非晶質炭素被膜は、紫外線の照射によりグラファイト化した表面層を含むことになる。
【0036】
なお、この基材Wの表面には、非晶質炭素被膜Wを成膜前に、基材と非晶質炭素被膜との密着力を高めるために、ケイ素(Si)からなる中間層を設けてもよく、さらにケイ素の代わりに、クロム(Cr)、チタン(Ti)またはタングステン(W)を用いてもよい。
【0037】
次に、第二実施形態に係る摺動部材の製造方法を説明する。第一実施形態と相違する点は、第二実施形態は、紫外線を照射するタイミングを、成膜と同時に行う点であり、それ以外に関しては、以下の詳細な説明を省略する。
【0038】
まず、必要に応じて、図1に示すように、スパッタリングにより、基材の表面に非晶質炭素被膜Dを形成する。なお、本発明のうち第二の発明に係る基材とは、この非晶質炭素被膜が形成された基材を含む概念である。
【0039】
次に、図3(c)に示すように、非晶質炭素被膜Dが形成された基材の表面に向けて、紫外線照射装置60からの紫外線UVを照射しながら、その表面に、さらに、カーボンスパッター粒子Cにより、水素を含有した非晶質炭素被膜(紫外線が照射された層)Gを形成する。このようにして、成膜された非晶質炭素被膜Gは、紫外線UVを照射せずに成膜した非晶質炭素被膜Dに比べて、グラファイトの含有量が多い、グラファイト化した被膜であり、第一実施形態のグラファイト化した表面層よりも厚い。この結果、初期馴染み性ばかりでなく、従来の非晶質炭素被膜が形成された摺動部材に比べて、継続的に長時間、摺動部材の摺動特性を持続させることができる。
【0040】
また、本実施形態の変形例として、例えば、図3(d)に示すように、断続的に紫外線UVを照射してもよい。具体的には、成膜工程において、紫外線をパルス状で周期的に照射する。これにより、紫外線の照射を断続的に行うことにより、成膜された非晶質炭素被膜は、紫外線の照射によりグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gが、膜厚方向に、断続的に積層されることになる。
【0041】
非晶質炭素被膜の膜厚方向に沿って、紫外線の照射によりグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gと、これに比べてグラファイトが少ない層(紫外線が照射されていない層)Dと、が交互に積層されることなる。このようにして成膜した場合には、紫外線の照射によりグラファイト化した層Gが、被膜の内部に発生する圧縮応力を緩和することができるので、これまでの方法に比べて、膜厚の厚い非晶質炭素被膜を成膜することができる。
【0042】
また、別の態様としては、紫外線の照射エネルギーを成膜に従って増加させながら、成膜してもよい。例えば、成膜時に照射する紫外線の波長を段階的に短くすることにより、達成することができる。このようにして成膜された非晶質炭素被膜は、基材の表面から非晶質炭素被膜の表面(摺動面)に向かって、非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトを増加させることができる。
【0043】
また、第二実施形態は、図1に示す成膜装置100Aにより、成膜を行ったが、例えば、図2に示す成膜装置100Bにより成膜を行ってもよい。図2に示す成膜装置100Bは、直流プラズマCVD装置であり、チャンバ55内に、メタンガス等の炭化水素系ガスを導入し、直流電源56に、電極57と基材Wとを接続し、これらの間にプラズマを発生しながら、プラズマCVD法により、基材Wの表面に成膜を行う。
【0044】
この際に、チャンバ55の窓58を介して、紫外線照射装置60からの紫外線UVを、基材Wの表面に照射しながら成膜を行う。これにより、紫外線の照射によりグラファイト化した層を得ることができる。紫外線UVの照射は、上述したように、その波長(紫外線強度)、照射時間(照射タイミング)等を適宜設定することにより、所望の被膜を成膜することができる。また、窓58は、例えば、石英、セレン化亜鉛、臭化カリウムなどの紫外線UVが透過することができる材料であればよい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
<ディスク試験片(摺動部材)の製作>
本発明に係る摺動部材として、以下に示すディスク試験片を製作した。具体的には、非晶質炭素被膜を成膜する基材として、直径50mm、厚み0.3mm、円部表面(摺動面)が鏡面状態(100面方位)となる、ディスク形状のシリコンウェハSを準備した。そして、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が13原子%、層厚さ1.8μmの水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)を成膜した。これは、商品名HT−DLC(水素含有DLC,日本アイティエフ社製、水素含有量13原子%)に相当する。なお、実施例1及び以下に示す例では、水素含有量は、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)により測定し、確認している。
【0046】
次に、紫外線発生用光源として、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長254nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8C)を使用して、基材の表面に成膜された非晶質炭素被膜に波長254nmの紫外線を30分間照射し、ディスク試験片を製作した。なお、最大UV照射エネルギーは0〜99.99ジュールであり、照射範囲は260mm×300mmである。また、ランプハウス内の雰囲気は大気で、ランプから被膜表面までの距離は160mmである。
【0047】
[評価試験]
<オージェ電子分光法(AES)による原子組成分析>
紫外線の照射による非晶質炭素被膜の原子組成の変化を明らかにするため、オージェ電子分光法により分析を行った。このオージェ電子分光法は、超高真空中に保持された固体試料に電子ビームを照射し、発生するオージェ電子を検出して、表面の特に極表面微小部の元素分析を行う手法である。固体表面近傍の数nmまでの深さで発生したオージェ電子のみが脱出可能であることから、極表面の分析が可能である。本実施例では、Perkin−Elmer社製オージェ電子分光分析装置を使用して、一次電子の加速電圧5kV,電流100nmの条件で、非晶質炭素被膜の表面の元素分析を行った。この分析結果を図4に示す。
【0048】
なお、図4(a)は、運動エネルギー150〜500eVの範囲の正規化強度であり、図4(b)は、運動エネルギー220〜300eVの範囲の正規化強度を示したものである。また、参考例として、紫外線照射に伴う構造変化を明らかにするために、高配向性グラファイト(HOPG:high oriented pure graphite)を準備し、同様の方法で分析した。この分析結果も合わせて、図4に示す。
【0049】
<硬さ試験及びヤング率の測定>
エリオニクス社製超微小押込み硬さ試験機ENT−1100aを使用して、ディスク試験片の非晶質炭素被膜の微小押し込み硬さ試験を行った。具体的には、圧子に、稜間度115°の三角錐ダイヤモンド圧子(Berkovich圧子)を用いて、ディスク試験片のシリコン表面を下にして、接着剤で固定して、接着剤が乾くまで放置し、試験を行った。非晶質炭素被膜の押込み試験において最大押込み深さは、試験片の基材に影響が出ないように、押込み荷重を10mgfに設定し、膜厚の10分の1以下となるようにした。これにより、硬さ及びヤング率を測定した。この結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<表面粗さの測定>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ディスク試験片の非晶質炭素被膜の表面粗さを測定した。原子間力顕微鏡は、試料と探針間に働く力を利用して試料表面の凹凸をナノメートルレベルでの分解能で観察できるものである。装置は、測定ヘッド(セイコーインスツルメンツ株式会社製 NPX100)、コントローラ(セイコーインスツルメンツ株式会社製Nanopocs1000)で構成されている。測定範囲0.5nm〜1000μm、スキャン速度12〜1792秒/フレームで測定を行うことができるものである。この測定により得られた被膜表面の中心線平均粗さRa、最大高さ粗さRyを表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
<表面自由エネルギーの測定>
ディスク試験片の非晶質炭素被膜の接触角及び表面自由エネルギーを測定した。表面自由エネルギーは、固体表面の活性度合いを表すものであり、固体試料に対して水(H2O)及びヨウ化メチレン(CH2I2)(異なる2種類の液)の液滴を表面に滴下し、それぞれの液体と固体試料(ディスク試験片の被膜)との成す角度、接触角度を測定することによって算出した。また、この接触角度αは、液滴法により測定した。液滴の直径dと液滴の高さhを測定し、これらの値から接触角度を算出した。この結果として接触角度を図5に、表面自由エネルギーを図6に示す。
【0054】
<摩擦試験>
以下の手順で摩擦試験を行った。まず、直径8mm、以下の表1に示す窒化珪素球を準備した。
【0055】
【表3】
【0056】
図7に示すボールオンディスク摩擦試験機を用いた。摩耗試験を行う事前準備として、ボール試験片Bをアセトンとエタノールで各10分間超音波洗浄した。その後、ボール試験片Bを試験機の本体から取り外したボールホルダー35に固定し、光学顕微鏡(図示せず)を用いてこの表面に傷が無いことを確認後、これらをデシケータ(図示せず)内に投入し、ボール試験片Bを乾燥させた。一方、ディスク試験片Pの表面に形成した非晶質炭素被膜の表面(摺動面)の埃などの異物をハンドブロー(図示せず)で取り除いた。
【0057】
次に、ディスク試験片Pをディスクホルダー44に保持させると共に、ボール試験片Bが固定されたボールホルダー35をステージ31と一体となるように試験機の本体に取り付けた。平行板ばね32に接着したひずみゲージ33(協和電業製,KF−1−120−C1−16)を用いて、ボール試験片Bがディスク試験片Pの非晶質炭素被膜の表面に対して付加される荷重の値が0.1Nの荷重が付加されるようにステージ31を調整して、これらを当接させた。なお、ボール試験片Bとディスク試験片Pの接触位置は、この3軸ステージ31によって決定され、垂直荷重は、z軸を上下させることにより調整した。
【0058】
そして、乾式下(乾燥摩擦条件下)で大気中(図に示す条件)において、モータ41を駆動してプーリ42を回転させ、ベルト43を介してディスクホルダー44のディスク試験片Pを、ボール試験片Bに対して相対速度(摺動速度)が8.4×10−2m/s(回転数400rpm)となる定速回転条件で、回転させた。
【0059】
このときの摩擦力を、ひずみゲージ34で測定し、センサインターフェイス(協和電業製,PCD−300A)を介して、コンピュータ内にデータを取り込み、記録した。そして、摩擦係数を換算した。この結果を図8に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、波長321nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8B)を用いて、波長321nmの紫外線を、非晶質炭素被膜に照射した点である。そして、これらに対して、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線を非晶質炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、波長365nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8A)を用いて、波長365nmの紫外線を、非晶質炭素被膜に照射した点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
【0063】
(比較例3〜6)
実施例1と同じようにしてディスク試験を製作した。実施例1と相違する点は、スパッタリングより、層厚さ約0.5μmの非晶質炭素被膜が形成されたディスク試験片(水素フリーDLC:水素含有量1原子%(日本アイティエフ社製))を用いた点であり、比較例3〜5は、照射する紫外線の波長を順次254nm、312nm、365nmとして30分間照射しており、比較例6は紫外線を照射していない点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図9に示す。
【0064】
[結果1:オージェ電子分光法による結果]
図4(a)、(b)に示すように、参考例の運動エネルギー235〜245eVあたりに見えるグラファイトのショルダーピーク(具体的には237eV程度において少し盛り上がった部分)と、各実施例とを比較すると、実施例2の波長312nmの紫外線を照射した非晶質炭素被膜については、特に参考例と似た波形形状が得られた。また、実施例1の245nmについても、実施例1ほどではないが、参考例と似た波形形状が得られた。このことから、実施例1および2の非晶質炭素被膜の表面層は、紫外線照射により、グラファイト化したと考えられる。逆に、紫外線を照射してない比較例1および比較例2の非晶質炭素被膜については、なだらかな形状となっており、参考例にみられるショルダーピークの形状とは異なっていた。なお、発明者らは、水素を含有させない非晶質炭素被膜に紫外線(上に示す全ての波長に対して)を照射して、同様の分析を行ったが、この場合も比較例1と同様の結果となった。
【0065】
[結果2:硬さ試験の結果]
表1に示すように、実施例1の表面硬さ(13.0GPa)及び実施例2の表面硬さ(12.2GPa)は、比較例1(13.6GPa)の表面硬さに比べて、低下していた。
【0066】
[結果3:表面粗さの測定結果]
表2に示すように、実施例1及び2、比較例1及び2いずれも、中心線平均粗さRa、最大高さ粗さRyいずれも大きな差はみられなかった。これにより、非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射したとしても、表面粗さは変化していないといえる。
【0067】
[結果4:表面自由エネルギーの測定結果]
図5及び6に示すように、実施例1の254nm及び実施例2の312nmの波長の紫外線を照射した非晶質炭素被膜の水の接触角度は、比較例1の紫外線を照射していないものと比べて、接触角度は小さくなっており、それに伴い表面自由エネルギーは増加していた。
【0068】
[結果5:摩擦試験の結果1]
図8に示すように、実施例1の254nm及び実施例2の312nmの波長の紫外線を照射したものは、200〜4500サイクル(回数)で、摩擦係数μ=0.02〜0.05程度の低摩擦を発現し、摩擦係数は安定していた。その後、摺動サイクル数(摩擦繰返し数)が5000サイクル程度から摩擦係数は徐々に増加し、最終的には、摩擦係数は、0.1〜0.15程度となり、比較例1と同程度となった。
【0069】
一方、比較例1の紫外線を照射していないものは、摩擦初期から0.1〜0.2程度の摩擦係数を維持していた。また比較例2の365nmの波長の紫外線を照射したものは、摩擦係数は、初期0.1程度であり、その後繰り返し摩擦と共に、摩擦係数は0.15程度になり、最終的には摩擦係数は0.1以下とはならず、0.15程度となった。
【0070】
また、図9に示すように、比較例3〜6の水素をほとんど含有しない非晶質炭素被膜が成膜されたものは、紫外線照射に対する摩擦係数の低減(低摩擦化)を確認することができなかった。
【0071】
結果3と結果5を踏まえると、実施例1及び2の非晶質炭素被膜の表面層として、軟質な低せん断層が形成され、結果1からこの軟質な低せん断層は、比較例1よりもグラファイト構造を多く含む層である考えられる。これは、紫外線の照射により、非晶質炭素被膜の表面層が、グラファイト構造をより多く含む層に変質した(グラファイト化した)ことによると考えられる。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長254nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0073】
(実施例4)
実施例2と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長312nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0074】
(比較例7)
比較例1と同じディスク試験片を製作した。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0075】
(比較例8)
比較例2と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長365nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0076】
[結果6:摩擦試験の結果2]
図10に示すように、実施例3の254nm及び実施例4の312nmの波長の紫外線を照射したものは、200〜4500サイクル(回数)で、摩擦係数μ=0.02〜0.05程度の低摩擦を発現し、実施例1及び2の紫外線を30分照射したものと同様の傾向がえられた。その後、摺動サイクル数(摩擦繰返し数)が4500サイクル程度から摩擦係数は徐々に増加し、最終的には、摩擦係数は、0.1〜0.15程度となり、比較例7と同程度となった。一方、比較例7の紫外線を照射していないもの及び比較例8の365nmの波長の紫外線を照射したものは、摩擦係数は初期からほぼ一定で、0.1〜0.18程度であった。
【0077】
実施例1及び3(波長254nmの紫外線の照射)及び実施例2及び4(波長312nmの紫外線の照射)の摩擦試験の結果(結果5及び6)から、照射時間にかかわらず、4500サイクル程度で摩擦係数が上昇していた。これは、紫外線照射により、グラファイトに改質された表面層が摩耗し、改質されていない本来の水素を含む非晶質炭素被膜が露出したものと考えられる。そこで、以下に示す紫外線侵入深さの測定試験を行った。
【0078】
<紫外線侵入深さの測定>
実施例1(波長254nm)と同じようにディスク試験片を製作した。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行い、摩擦係数の変化を監視しながら、摩擦係数が上昇した時点で、摩擦試験を中止し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、非晶質炭素被膜の摺動面に形成された摩耗痕の断面積及び深さを求めて、この被膜の比摩耗量を算出した。
【0079】
[結果7:紫外線侵入深さの測定結果]
摩擦試験実施中の4500サイクル程度で、実施例1と同じように摩擦係数が上昇したので、そこで、摩擦試験を中止し、そのときの摩耗痕のAFM観察像から、摩耗深さは10nm程度であった。このことから紫外線侵入深さが10nm程度であることが明らかになった。また、比摩耗量は、2.7×10−7mm3/Nm程度であることが明らかになった。
【0080】
(実施例5)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長254nm)の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、これらのディスク試験片に対して、以下に詳述するレーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGを測定した。この結果を図11に示す。
【0081】
<レーザーラマン分光法>
レーザーラマン分光法により、不規則なアモルファス構造を有する非晶質炭素被膜の結合状態を評価した。ここでレーザーラマン分光法の原理を簡単に説明する。分子中の原子は一定の構造をとっているが、その位置で静止しているのではなく平衡構造付近で微小運動をしている。この微小運動をブラウン運動という。その振動数は、原子の質量や原子間に働く力の大きさによって決まるため分子固有の値をとっている。従って、この分子の振動を測定することにより試料中の分子の種類や状態を知ることができる。
【0082】
測定原理は、可視光又は赤外線を試料内の分子に照射し、その際に散乱された光を分光し測定する。散乱光の大部分は入射光と波数が等しいレイリー散乱であるが、散乱光のごく僅かに、入射光とは異なる周波数を持ったラマン散乱を含んでいる。このラマン散乱と入射光の波数の差(ラマンシフト)が、分子の振動や回転運動のエネルギーさに相当することを利用したのがラマン分光法である。
【0083】
ここで、非晶質炭素被膜の構造解析をラマン分光スペクトルにより分析した場合、非晶質炭素被膜は、決まった結晶構造を持たず、ラマンシフトが1350cm−1付近及び1550cm−1付近に、ラマン分光スペクトルのピークが現れることが一般的である。そして、「Gバンド」は、このラマンシフトが1550cm−1付近のピークであり、「Dバンド」は、1350cm−1付近のピークである。そして、Dバンドの面積強度とGバンドの面積強度とのID/IG比は、非晶質炭素被膜中に含まれるアモルファス構造の比率を示すことになる。
【0084】
今回は日本分光社製レーザーラマン分光光度計NRS−1000を使用した。Arイオン励起レーザー波長532.0nm、出力10mWで、減光器により0.01倍にし、測定時間を60秒/サイクルで分析範囲800〜2000cm−1を2回測定し、積算する方法で行った。2回の積算は、宇宙線の影響を除去するためである。
【0085】
(実施例6)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線の波長を312nmにした点と、紫外線の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGを測定した。この結果を図11に示す。
【0086】
(比較例9)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例2と相違する点は、紫外線を照射していない点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IG比を測定した。この結果を図11に示す。
【0087】
(比較例10)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例2と相違する点は、紫外線の波長を365nmにした点と、紫外線の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IG比を測定した。この結果を図11に示す。
【0088】
[結果8:レーザーラマン分光法の結果]
図11に示すように、実施例5、6及び比較例9、10から、波長、照射時間によりGポジションの変化は見られなかった。また、ID/IG比は僅かに変わっているが、波長、照射時間による傾向は見られなかった。
【0089】
ところで、実施例1〜3及び比較例3〜6の結果から(結果5及び6)から、水素含有量と紫外線の照射による非晶質炭素材料のグラファイト化には、相関があると考えられ、水素含有量とグラファイト化の関係を明らかにすべく、以下に示すように、オージェ電子分光法による原子組成分析及び硬さ試験を行った。
【0090】
(実施例7)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、プラズマCVD法のガス条件等を変更して、非晶質炭素被膜に含有する水素の含有量を3、16、35原子%にした点である。そして、実施例1と同じようにして、オージェ電子分光法による原子組成分析及び硬さ試験を行った。また、硬さ試験の結果を以下の表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
(比較例11)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、プラズマCVD法のガス条件等を変更して、非晶質炭素被膜に含有する水素の含有量を37原子%にした点である。そして、実施例1と同じようにして硬さ試験を行った。また、硬さ試験の結果を表4に示す。
【0093】
[結果9]
実施例7の分析結果から、非晶質炭素被膜の水素含有量が3、16、35原子%はいずれも、結果1に示すような波形形状が得られたと考えられ、グラファイト化がされていたと考えられる。また、硬さ試験の結果から、比較例11に示すように、水素含有量が35原子%を超えた場合に、非晶質炭素被膜の硬度が低下した。
【0094】
この結果から、水素含有量が35%を超えた場合には、非晶質炭素被膜の耐摩耗性が低下すると考えられる。また、結果1と結果9とから、非晶質炭素被膜の水素含有量が3原子%以下の場合には、紫外線を照射してもグラファイト化が発現され難いと考えられる。以上より、非晶質炭素被膜に含有する水素含有量は、3〜35原子%が好ましいと考えられる。
【0095】
結果1〜9より、254nm、312nmの紫外線を、水素を含有する非晶質炭素被膜に照射した場合には、該被膜中のC−Cの結合が切断され、これがC=Cに再結合して表面がグラファイト化することによって、低せん断層ができ、200〜4500サイクルにおいて、非晶質炭素被膜が低摩擦になったものと考えられる。
【0096】
(実施例8)
実施例1と同じ基材を準備した。そして、図2に示す装置を用いて、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が16原子%、層厚さ1.3μmまで、水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)Dを成膜した。その後、紫外線の照射をしながら、0.5μmの厚さまで、紫外線が照射された非晶質炭素被膜Gを成膜した(図12(b)参照)。照射時間は、100分、紫外線の波長は、312nm、照射エネルギー100ジュール、紫外線照射装置と基材(試験片)の距離を150mmとした。なお、非晶質炭素被膜Gの厚さは、予め摩擦試験を行い摩擦係数と膜厚との関係から、特定することができる。
【0097】
このようにして製作された摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。なお、摩擦試験は、摩擦試験時の摩擦係数の値が0.05で持続している時間を測定した。この結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
(実施例9)
実施例8と同じ基材を準備した。そして、図2に示す装置を用いて、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が16原子%、層厚さ1.3μmまで、水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)Dを成膜した。次に、25nm(成膜時間5分)の厚さに非晶質炭素被膜(非晶質炭素層)D1を成膜後、成膜後、実施例8と同じ条件で、紫外線の照射5分間をしながら、5nmの厚さのグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gを形成する一連の工程を20回繰返して、0.5μmの膜を成膜した(図12(c)参照)。
【0100】
この摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。なお、基材に紫外線を断続的に照射しながら、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜することによっても、同様の層が形成されることも確認した。
【0101】
(実施例10)
実施例8と同様の方法で、非晶質炭素被膜を成膜した。相違する点は、紫外線照射装置と基材(試験片)との距離を160mmとした点である。さらに、この非晶質炭素被膜の表面に、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長312nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8B)によって、非晶質炭素被膜の表面にさらに紫外線を照射した。照射時間は、30分、紫外線の波長は、312nm、照射エネルギー10ジュール、紫外線照射装置と基材(試験片)の距離を150mmとした(図12(d)参照)。この摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。
【0102】
(比較例12)
実施例8と同様の方法で、非晶質炭素被膜を成膜した。水素含有量が16原子%、層厚さ1.8μmとなるように、紫外線を照射せずに非晶質炭素被膜Dを成膜後、その表面に、実施例8の条件で、10nmの厚さの紫外線を照射した非晶質炭素被膜Gを形成した(図12(a)参照)。なお、比較例12は、実施例8〜10の比較例であるが、実施例4に相当する本願の発明の請求項1に含まれる例である。
【0103】
[結果9]
表5からも明らかなように、実施例8〜10は、比較例12に比べて、紫外線の照射された非晶質炭素被膜の厚みが厚くなったことにより、より低い摩擦係数を持続することができたと考えられる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0105】
31…ステージ,32…平行板ばね,33…ひずみゲージ,35…ボールホルダー,41…モータ,42…プーリ,43…ベルト,44…ディスクホルダー,B…ボール試験片,P…ディスク試験片
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面に硬質炭素被膜が形成された摺動部材及びその製造方法に係り、特に、特に、初期馴染み性に優れた摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車産業などの我が国の基幹産業において、トライボロジーは重要な役割を担っている。例えば、自動車産業においては、現在、地球環境保全のため、自動車から排出される二酸化炭素の削減を目指してさまざまな取り組みが行われており、その一例としてハイブリットシステムなどのエネルギー効率の良い動力源の開発が良く知られている。しかし更なる低燃費を目指すためには、動力源の開発だけでなくエンジン内部および駆動系における摩擦によるエネルギーの伝達ロスの低減が重要な課題となる。
【0003】
このような課題を鑑みて、動力系機器における摺動部材の摩擦係数の低減化、耐摩耗性の向上を図るべく、構造用鋼あるいは高合金鋼からなる摺動部材の摺動面に被覆する新たなトライボロジー材料としての非晶質炭素材料(DLC)が注目されている。
【0004】
このような非晶質炭素材料を利用した摺動部材の一例として、基材の表面に非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、その非晶質炭素被膜に、0.5原子%以下の水素原子を含有させた摺動部材や、20〜40原子%の水素原子を含有させた摺動部材や、20〜50原子%の水素原子を含有させた摺動部材が開示されている(例えば特許文献1〜3参照)。これらの摺動部材は、非晶質炭素被膜に所定の割合の水素を含有させることにより、所望の表面硬さを確保すると共に、被膜の密着強度の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−3094号公報
【特許文献2】特開2005−314454号公報
【特許文献3】特開2005−336456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような摺動部材を用いた場合であっても、大気中及び潤滑油中において、これらの摺動部材の初期馴染み性が必ずしも良いものとは言えなかった。すなわち、これらの摺動部材を相手材と摺動させた場合には、摺動させる初期の段階において、表面のうねりや摺動面の粗さの影響により、摩擦係数が高くなる傾向にあった。この結果として、摺動部材の摺動面(非晶質炭素被膜の表面)の損傷も大きくなるため、さらなる摩擦係数の上昇、これに伴う摩耗量の増加が懸念される場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、非晶質炭素被膜が形成された摺動部材において、該非晶質炭素被膜の初期馴染み性を向上させることができる摺動部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、非晶質炭素被膜の表面のグラファイト構造を増やすことにより、初期馴染み性が向上すると考え、この考えに基づいて、非晶質炭素材料に紫外線を照射することにより、この材料のグラファイト化が発現するとの新たな知見を得た。
【0009】
より詳細には、水素元素を含む非晶質炭素被膜を構成する非晶質炭素材料は、一般的に、sp3結合に対応するダイヤモンド構造、sp2結合に対応するグラファイト構造、及びこれらの結合及び水素結合が混在したアモルファス構造からなるが、発明者らの実験によれば、非晶質炭素被膜に水素元素を含む場合には、特に、紫外線の照射エネルギーにより非晶質炭素被膜の表面層がグラファイト構造に変質し易いとの新たな知見を得た。
【0010】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、第一の本発明に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、前記非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、基材の表面に形成(成膜)された非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射することにより、その非晶質炭素被膜の表面層がグラファイト化する。これにより、この表面層は、紫外線照射を行っていない非晶質炭素のその他部分に比べて、グラファイト構造をより多く含んでいるので、摺動部材の初期馴染み性を向上させることができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、非晶質炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0012】
また、第二の発明に係る摺動部材の製造方法は、前記基材に紫外線を照射しながら、前記基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、基材の表面に向けて紫外線を照射しながら成膜するので、成膜した非晶質炭素被膜は、紫外線を照射せずに成膜した非晶質炭素被膜に比べて、含有するグラファイトを増加させることができる。また、第一の発明に比べて、紫外線が照射された層(紫外線の照射によりグラファイトを多く含む層)を厚くすることができるので、摺動時に摩滅し難く、摺動部材の摩擦係数の低い状態を持続させることができる。この別の態様における基材は、表面に紫外線を照射していない非晶質炭素被膜が予め形成された基材であってもよい。
【0014】
このように、上述したいずれの方法であっても、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材は、非晶質炭素被膜に、少なくとも表面層に紫外線の照射された層、すなわち、紫外線の照射によりグラファイト化した表面層(紫外線照射しながら成膜した場合には、その被膜全体がグラファイトをより多く含有した被膜)を含むことができる。
【0015】
また、ここでいう「グラファイト化」とは、非晶質炭素材料のアモルファス構造等の少なくとも一部が、グラファイト構造に変化する現象をいう。また、「紫外線によりグラファイト化した層」とは、非晶質炭素被膜に紫外線を照射して、グラファイトに一部が変質した層、又は、紫外線を照射しながら成膜した場合には、照射しない場合に、比べてグラファイトの含有量が増加した層をいう。
【0016】
また、紫外線を照射しながら成膜する場合には、紫外線の照射を断続的に行いながら成膜することがより好ましい。本発明によれば、紫外線の照射を断続的に行うことにより、成膜された非晶質炭素被膜は、紫外線が照射された層(紫外線の照射によりグラファイト化した層)が、膜厚方向に、断続的に積層されることになる。すなわち、成膜された非晶質炭素被膜は、紫外線が照射された非晶質炭素材料からなる層と、紫外線が照射されていない非晶質炭素材料からなる層とが交互に積層されることなる。
【0017】
このようにして成膜した場合には、紫外線を照射によりグラファイト化した非晶質炭素材料からなる層が、摺動性に優れた層であり、紫外線を照射してない非晶質炭素材料からなる層が、硬質層であるので、これらの層を含む摺動部材は、耐摩耗性及び摺動性を向上させることができる。さらに、紫外線が照射された層は、グラファイトをより多く含むので、非晶質炭素被膜の内部に発生する圧縮応力を緩和することができる。これにより、これまでの方法に比べて、より膜厚の厚い非晶質炭素被膜を成膜することができる。
【0018】
なお、紫外線を照射することにより、紫外線のエネルギーにより非晶質炭素材料がグラファイト化することができるのであれば、その紫外線の波長、強度、照射時間等は特に限定されるものでないが、発明者らの実験によれば、照射される紫外線の強度、照射時間等により、成膜時に照射される紫外線の照射エネルギーが高いほど、非晶質炭素被膜に含有するグラファイトが増加することがわかっており、これらの条件を適宜選定することにより、摺動特性、被膜の厚さ、被膜の密着性等を変化させることができる。
【0019】
しかしながら、本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記紫外線の照射エネルギーを増加させながら、前記成膜を行うことがより好ましい。このようにして成膜された非晶質炭素被膜は、前記基材の表面から非晶質炭素被膜の表面に向かって、前記非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトが増加することになる。
【0020】
前記紫外線の照射エネルギーを増加させる方法としては、例えば、成膜しながら、照射強度を増加させる(具体的には照射する紫外線の波長を短くする)方法や、同じ条件で紫外線を照射しつつ、成膜速度を遅らせて(又は一端成膜を中断して)、成膜される層への照射量を増加させる方法などを挙げることができる。この結果、摺動面近傍には、グラファイトの含有量が多いため、摺動特性を向上させ、さらには、基材の表面の近傍は、グラファイトが摺動面近傍に比べて少なく、より硬質であるので、被膜強度を確保することができる。
【0021】
本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記照射する紫外線の波長を350nm以下の波長とした紫外線を照射することがより好ましい。
本発明に係る摺動部材の製造方法において、非晶質炭素被膜の表面に照射する紫外線の波長は350nm以下、より好ましくは312nm以下の波長の紫外線を非晶質炭素被膜の表面に照射することにより、グラファイト化をより好適に発現することができ、照射された紫外線の波長が350nm以下で成膜された被膜により、好適に摺動部材の初期摩擦係数を低下させ、これにより初期摩耗を低減することができる。
【0022】
また、発明者らの後述する実験によれば、非晶質炭素被膜に水素を含むことで、非晶質炭素被膜がグラファイト化にすることがわかっており、本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記非晶質炭素被膜に含有する水素含有量が、3〜35原子%となるように、前記非晶質炭素被膜を成膜することがより好ましい。
【0023】
本発明によれば、このような範囲の水素含有量を含む非晶質炭素被膜を基材表面に成膜する、被膜強度を確保すると共に、非晶質炭素被膜のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、基材表面に形成された非晶質炭素被膜の初期馴染み性を含む摺動特性を、容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第一及び第二の実施形態の摺動部材を製造(被膜を成膜する)するための模式的な装置構成図。
【図2】第二の実施形態の摺動部材を製造(被膜を成膜する)するための模式的な装置。
【図3】(a)及び(b)は、第一実施系形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための図であり、(c)及び(d)は、第二実施系形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための図。
【図4】実施例1及び2、比較例1及び2に係るオージェ電子分光法による非晶質炭素被膜の表面の元素分析を説明するための図であり、(a)は、運動エネルギー150〜500eVの範囲の正規化強度であり、(b)は、運動エネルギー220〜300eVの範囲の正規化強度を示した図。
【図5】実施例1及び2、比較例1及び2に係る非晶質炭素被膜の接触角を測定した結果を示した図。
【図6】実施例1及び2、比較例1及び2に係る非晶質炭素被膜の表面自由エネルギーを測定した結果を示した図。
【図7】ボールオンオンディスク摩擦試験機を説明するための図。
【図8】実施例1及び2、比較例1及び2に係る摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)と摩擦係数との関係を示した図。
【図9】比較例3〜6に係る摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)と摩擦係数との関係を示した図。
【図10】実施例3及び4、比較例7及び8に係る摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)と摩擦係数との関係を示した図。
【図11】実施例5及び6、比較例9及び10に係るレーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGの測定結果を示した図。
【図12】(a)は、比較例12の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図であり、(b)は、実施例8の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図であり、(c)は、実施例9の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図であり、(d)は、実施例10の成膜方法により成膜された非晶質炭素被膜の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の本発明の摺動部材及びその製造方法を2つの実施形態について説明する。図1は、第一及び第二の実施形態の摺動部材を製造(基材に被膜を成膜)するための模式的な装置構成図である。また、図3の(a)、(b)は、第一実施形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための図である。第一施形態に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に非晶質炭素被膜を成膜する工程と、この成膜された非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射する工程の2つの工程を少なくとも含むものである。
【0027】
まず、摺動部材の基材Wを準備する。この基材Wの材質としては、摺動時において非晶質炭素被膜との密着性を確保することができるような材質および表面硬さを有する材料であれば、特に限定されるものではなく、例えば、鋼、鋳鉄、アルミニウム、高分子樹脂等の基材などを挙げることができる。
【0028】
そして、基材Wを成膜装置(イオンビームミキシング装置)100A内に配置する。まず、アルゴンイオンビームガン52により、基材Wの表面を清浄化する。そして、図1に示すような成膜装置100Aを用いて、この基材Wの表面に非晶質窒化炭素被膜を成膜する(成膜工程)。具体的には、図1に示すように、基材WがカーボンターゲットTと対向するように、チャンバ50内の基材を保持し、アルゴンイオンビームガン51からアルゴンイオンをカーボンターゲットTに照射し、カーボンターゲットTをカーボンスパッター粒子Cにして、図3(a)に示すように、基材Wの表面に非晶質炭素被膜Dの成膜を行う。この際、水素ガスをチャンバ50内に導入することにより、非晶質炭素被膜Dに水素を含有させることができる。このとき、アルゴンイオンビームガン52からアルゴンビームを照射しながら、成膜を行ってもよい。
【0029】
ここで、非晶質炭素被膜を摺動部材の基材表面に成膜するにあたっては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビームミキシングなどを利用した物理気相成長法(PVD)により成膜してもよく、後述する図2に示す装置100Bを用いて、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により成膜してもよく、これらの方法を組み合わせた方法により成膜してもよく、非晶質炭素被膜に、水素原子を含むことができるものであれば、特に成膜方法は限定されるものではない。
【0030】
また、このような成膜時において非晶質炭素被膜中に、Si、Ti、Cr、Fe、Mo、W、Bなどの添加元素を含有させてもよく、このような元素を添加することにより、被膜の表面硬さを調整してもよい。
【0031】
また、成膜時に、前記非晶質炭素被膜に含有される水素含有量が、3〜35原子%となるように、前記非晶質炭素被膜を成膜することがより好ましい。水素含有量は、例えば、プラズマCVDにより成膜する場合に、反応ガスとして、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素系の反応ガスを用いて、これらのガスの種類、量等を調整するような一般的に知られた方法により調整することができ、水素含有量が調整できるのであれば特にこの方法は限定されるものではない。
【0032】
次に、このようにして、成膜された非晶質炭素被膜Dの表面に、紫外線照射装置60からの紫外線UVを照射することにより、図3(b)に示すように、非晶質炭素被膜Dの表面層Gをグラファイト化する。これにより、摺動部材の摺動面となる非晶質炭素被膜の表面の初期馴染み性を向上させることができる。すなわち、摺動部材の初期摩擦係数を低くすることができ、これにより初期摩耗も低減することができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、非晶質炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0033】
ここで、紫外線照射装置60は、一般的に紫外線の波長は、10〜400nmの範囲にあり、このような波長の紫外線は、低圧水銀ランプ(波長:185,254nm)、高圧水銀ランプ(波長:302,365,436,546,577nm)、あるいは、エキシマレーザー(波長ArF:193nm,KrF:249nm,XeCl:308nm)などにより発生させることができる。本実施形態では、この範囲の波長のうち、350nm以下の波長、より好ましくは、312nm以下の波長の紫外線を照射することがより好ましい。また、波長の紫外線を発生させることができるのであれば、紫外線発生装置は、特に限定されるものではない。
【0034】
このような波長の紫外線を非晶質炭素被膜の表面に照射することにより、その被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができ、摺動部材の初期摩擦係数の低減を図ることができる。特に、前述した範囲の水素含有量の非晶質炭素被膜を基材の表面に形成することにより、被膜強度を確保すると共に、非晶質炭素被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【0035】
このようにして得られた摺動部材は、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、この非晶質炭素被膜は、紫外線の照射によりグラファイト化した表面層を含むことになる。
【0036】
なお、この基材Wの表面には、非晶質炭素被膜Wを成膜前に、基材と非晶質炭素被膜との密着力を高めるために、ケイ素(Si)からなる中間層を設けてもよく、さらにケイ素の代わりに、クロム(Cr)、チタン(Ti)またはタングステン(W)を用いてもよい。
【0037】
次に、第二実施形態に係る摺動部材の製造方法を説明する。第一実施形態と相違する点は、第二実施形態は、紫外線を照射するタイミングを、成膜と同時に行う点であり、それ以外に関しては、以下の詳細な説明を省略する。
【0038】
まず、必要に応じて、図1に示すように、スパッタリングにより、基材の表面に非晶質炭素被膜Dを形成する。なお、本発明のうち第二の発明に係る基材とは、この非晶質炭素被膜が形成された基材を含む概念である。
【0039】
次に、図3(c)に示すように、非晶質炭素被膜Dが形成された基材の表面に向けて、紫外線照射装置60からの紫外線UVを照射しながら、その表面に、さらに、カーボンスパッター粒子Cにより、水素を含有した非晶質炭素被膜(紫外線が照射された層)Gを形成する。このようにして、成膜された非晶質炭素被膜Gは、紫外線UVを照射せずに成膜した非晶質炭素被膜Dに比べて、グラファイトの含有量が多い、グラファイト化した被膜であり、第一実施形態のグラファイト化した表面層よりも厚い。この結果、初期馴染み性ばかりでなく、従来の非晶質炭素被膜が形成された摺動部材に比べて、継続的に長時間、摺動部材の摺動特性を持続させることができる。
【0040】
また、本実施形態の変形例として、例えば、図3(d)に示すように、断続的に紫外線UVを照射してもよい。具体的には、成膜工程において、紫外線をパルス状で周期的に照射する。これにより、紫外線の照射を断続的に行うことにより、成膜された非晶質炭素被膜は、紫外線の照射によりグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gが、膜厚方向に、断続的に積層されることになる。
【0041】
非晶質炭素被膜の膜厚方向に沿って、紫外線の照射によりグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gと、これに比べてグラファイトが少ない層(紫外線が照射されていない層)Dと、が交互に積層されることなる。このようにして成膜した場合には、紫外線の照射によりグラファイト化した層Gが、被膜の内部に発生する圧縮応力を緩和することができるので、これまでの方法に比べて、膜厚の厚い非晶質炭素被膜を成膜することができる。
【0042】
また、別の態様としては、紫外線の照射エネルギーを成膜に従って増加させながら、成膜してもよい。例えば、成膜時に照射する紫外線の波長を段階的に短くすることにより、達成することができる。このようにして成膜された非晶質炭素被膜は、基材の表面から非晶質炭素被膜の表面(摺動面)に向かって、非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトを増加させることができる。
【0043】
また、第二実施形態は、図1に示す成膜装置100Aにより、成膜を行ったが、例えば、図2に示す成膜装置100Bにより成膜を行ってもよい。図2に示す成膜装置100Bは、直流プラズマCVD装置であり、チャンバ55内に、メタンガス等の炭化水素系ガスを導入し、直流電源56に、電極57と基材Wとを接続し、これらの間にプラズマを発生しながら、プラズマCVD法により、基材Wの表面に成膜を行う。
【0044】
この際に、チャンバ55の窓58を介して、紫外線照射装置60からの紫外線UVを、基材Wの表面に照射しながら成膜を行う。これにより、紫外線の照射によりグラファイト化した層を得ることができる。紫外線UVの照射は、上述したように、その波長(紫外線強度)、照射時間(照射タイミング)等を適宜設定することにより、所望の被膜を成膜することができる。また、窓58は、例えば、石英、セレン化亜鉛、臭化カリウムなどの紫外線UVが透過することができる材料であればよい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
<ディスク試験片(摺動部材)の製作>
本発明に係る摺動部材として、以下に示すディスク試験片を製作した。具体的には、非晶質炭素被膜を成膜する基材として、直径50mm、厚み0.3mm、円部表面(摺動面)が鏡面状態(100面方位)となる、ディスク形状のシリコンウェハSを準備した。そして、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が13原子%、層厚さ1.8μmの水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)を成膜した。これは、商品名HT−DLC(水素含有DLC,日本アイティエフ社製、水素含有量13原子%)に相当する。なお、実施例1及び以下に示す例では、水素含有量は、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)により測定し、確認している。
【0046】
次に、紫外線発生用光源として、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長254nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8C)を使用して、基材の表面に成膜された非晶質炭素被膜に波長254nmの紫外線を30分間照射し、ディスク試験片を製作した。なお、最大UV照射エネルギーは0〜99.99ジュールであり、照射範囲は260mm×300mmである。また、ランプハウス内の雰囲気は大気で、ランプから被膜表面までの距離は160mmである。
【0047】
[評価試験]
<オージェ電子分光法(AES)による原子組成分析>
紫外線の照射による非晶質炭素被膜の原子組成の変化を明らかにするため、オージェ電子分光法により分析を行った。このオージェ電子分光法は、超高真空中に保持された固体試料に電子ビームを照射し、発生するオージェ電子を検出して、表面の特に極表面微小部の元素分析を行う手法である。固体表面近傍の数nmまでの深さで発生したオージェ電子のみが脱出可能であることから、極表面の分析が可能である。本実施例では、Perkin−Elmer社製オージェ電子分光分析装置を使用して、一次電子の加速電圧5kV,電流100nmの条件で、非晶質炭素被膜の表面の元素分析を行った。この分析結果を図4に示す。
【0048】
なお、図4(a)は、運動エネルギー150〜500eVの範囲の正規化強度であり、図4(b)は、運動エネルギー220〜300eVの範囲の正規化強度を示したものである。また、参考例として、紫外線照射に伴う構造変化を明らかにするために、高配向性グラファイト(HOPG:high oriented pure graphite)を準備し、同様の方法で分析した。この分析結果も合わせて、図4に示す。
【0049】
<硬さ試験及びヤング率の測定>
エリオニクス社製超微小押込み硬さ試験機ENT−1100aを使用して、ディスク試験片の非晶質炭素被膜の微小押し込み硬さ試験を行った。具体的には、圧子に、稜間度115°の三角錐ダイヤモンド圧子(Berkovich圧子)を用いて、ディスク試験片のシリコン表面を下にして、接着剤で固定して、接着剤が乾くまで放置し、試験を行った。非晶質炭素被膜の押込み試験において最大押込み深さは、試験片の基材に影響が出ないように、押込み荷重を10mgfに設定し、膜厚の10分の1以下となるようにした。これにより、硬さ及びヤング率を測定した。この結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<表面粗さの測定>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ディスク試験片の非晶質炭素被膜の表面粗さを測定した。原子間力顕微鏡は、試料と探針間に働く力を利用して試料表面の凹凸をナノメートルレベルでの分解能で観察できるものである。装置は、測定ヘッド(セイコーインスツルメンツ株式会社製 NPX100)、コントローラ(セイコーインスツルメンツ株式会社製Nanopocs1000)で構成されている。測定範囲0.5nm〜1000μm、スキャン速度12〜1792秒/フレームで測定を行うことができるものである。この測定により得られた被膜表面の中心線平均粗さRa、最大高さ粗さRyを表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
<表面自由エネルギーの測定>
ディスク試験片の非晶質炭素被膜の接触角及び表面自由エネルギーを測定した。表面自由エネルギーは、固体表面の活性度合いを表すものであり、固体試料に対して水(H2O)及びヨウ化メチレン(CH2I2)(異なる2種類の液)の液滴を表面に滴下し、それぞれの液体と固体試料(ディスク試験片の被膜)との成す角度、接触角度を測定することによって算出した。また、この接触角度αは、液滴法により測定した。液滴の直径dと液滴の高さhを測定し、これらの値から接触角度を算出した。この結果として接触角度を図5に、表面自由エネルギーを図6に示す。
【0054】
<摩擦試験>
以下の手順で摩擦試験を行った。まず、直径8mm、以下の表1に示す窒化珪素球を準備した。
【0055】
【表3】
【0056】
図7に示すボールオンディスク摩擦試験機を用いた。摩耗試験を行う事前準備として、ボール試験片Bをアセトンとエタノールで各10分間超音波洗浄した。その後、ボール試験片Bを試験機の本体から取り外したボールホルダー35に固定し、光学顕微鏡(図示せず)を用いてこの表面に傷が無いことを確認後、これらをデシケータ(図示せず)内に投入し、ボール試験片Bを乾燥させた。一方、ディスク試験片Pの表面に形成した非晶質炭素被膜の表面(摺動面)の埃などの異物をハンドブロー(図示せず)で取り除いた。
【0057】
次に、ディスク試験片Pをディスクホルダー44に保持させると共に、ボール試験片Bが固定されたボールホルダー35をステージ31と一体となるように試験機の本体に取り付けた。平行板ばね32に接着したひずみゲージ33(協和電業製,KF−1−120−C1−16)を用いて、ボール試験片Bがディスク試験片Pの非晶質炭素被膜の表面に対して付加される荷重の値が0.1Nの荷重が付加されるようにステージ31を調整して、これらを当接させた。なお、ボール試験片Bとディスク試験片Pの接触位置は、この3軸ステージ31によって決定され、垂直荷重は、z軸を上下させることにより調整した。
【0058】
そして、乾式下(乾燥摩擦条件下)で大気中(図に示す条件)において、モータ41を駆動してプーリ42を回転させ、ベルト43を介してディスクホルダー44のディスク試験片Pを、ボール試験片Bに対して相対速度(摺動速度)が8.4×10−2m/s(回転数400rpm)となる定速回転条件で、回転させた。
【0059】
このときの摩擦力を、ひずみゲージ34で測定し、センサインターフェイス(協和電業製,PCD−300A)を介して、コンピュータ内にデータを取り込み、記録した。そして、摩擦係数を換算した。この結果を図8に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、波長321nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8B)を用いて、波長321nmの紫外線を、非晶質炭素被膜に照射した点である。そして、これらに対して、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線を非晶質炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、波長365nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8A)を用いて、波長365nmの紫外線を、非晶質炭素被膜に照射した点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図4〜6、8、表1及び2に示す。
【0063】
(比較例3〜6)
実施例1と同じようにしてディスク試験を製作した。実施例1と相違する点は、スパッタリングより、層厚さ約0.5μmの非晶質炭素被膜が形成されたディスク試験片(水素フリーDLC:水素含有量1原子%(日本アイティエフ社製))を用いた点であり、比較例3〜5は、照射する紫外線の波長を順次254nm、312nm、365nmとして30分間照射しており、比較例6は紫外線を照射していない点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図9に示す。
【0064】
[結果1:オージェ電子分光法による結果]
図4(a)、(b)に示すように、参考例の運動エネルギー235〜245eVあたりに見えるグラファイトのショルダーピーク(具体的には237eV程度において少し盛り上がった部分)と、各実施例とを比較すると、実施例2の波長312nmの紫外線を照射した非晶質炭素被膜については、特に参考例と似た波形形状が得られた。また、実施例1の245nmについても、実施例1ほどではないが、参考例と似た波形形状が得られた。このことから、実施例1および2の非晶質炭素被膜の表面層は、紫外線照射により、グラファイト化したと考えられる。逆に、紫外線を照射してない比較例1および比較例2の非晶質炭素被膜については、なだらかな形状となっており、参考例にみられるショルダーピークの形状とは異なっていた。なお、発明者らは、水素を含有させない非晶質炭素被膜に紫外線(上に示す全ての波長に対して)を照射して、同様の分析を行ったが、この場合も比較例1と同様の結果となった。
【0065】
[結果2:硬さ試験の結果]
表1に示すように、実施例1の表面硬さ(13.0GPa)及び実施例2の表面硬さ(12.2GPa)は、比較例1(13.6GPa)の表面硬さに比べて、低下していた。
【0066】
[結果3:表面粗さの測定結果]
表2に示すように、実施例1及び2、比較例1及び2いずれも、中心線平均粗さRa、最大高さ粗さRyいずれも大きな差はみられなかった。これにより、非晶質炭素被膜の表面に、紫外線を照射したとしても、表面粗さは変化していないといえる。
【0067】
[結果4:表面自由エネルギーの測定結果]
図5及び6に示すように、実施例1の254nm及び実施例2の312nmの波長の紫外線を照射した非晶質炭素被膜の水の接触角度は、比較例1の紫外線を照射していないものと比べて、接触角度は小さくなっており、それに伴い表面自由エネルギーは増加していた。
【0068】
[結果5:摩擦試験の結果1]
図8に示すように、実施例1の254nm及び実施例2の312nmの波長の紫外線を照射したものは、200〜4500サイクル(回数)で、摩擦係数μ=0.02〜0.05程度の低摩擦を発現し、摩擦係数は安定していた。その後、摺動サイクル数(摩擦繰返し数)が5000サイクル程度から摩擦係数は徐々に増加し、最終的には、摩擦係数は、0.1〜0.15程度となり、比較例1と同程度となった。
【0069】
一方、比較例1の紫外線を照射していないものは、摩擦初期から0.1〜0.2程度の摩擦係数を維持していた。また比較例2の365nmの波長の紫外線を照射したものは、摩擦係数は、初期0.1程度であり、その後繰り返し摩擦と共に、摩擦係数は0.15程度になり、最終的には摩擦係数は0.1以下とはならず、0.15程度となった。
【0070】
また、図9に示すように、比較例3〜6の水素をほとんど含有しない非晶質炭素被膜が成膜されたものは、紫外線照射に対する摩擦係数の低減(低摩擦化)を確認することができなかった。
【0071】
結果3と結果5を踏まえると、実施例1及び2の非晶質炭素被膜の表面層として、軟質な低せん断層が形成され、結果1からこの軟質な低せん断層は、比較例1よりもグラファイト構造を多く含む層である考えられる。これは、紫外線の照射により、非晶質炭素被膜の表面層が、グラファイト構造をより多く含む層に変質した(グラファイト化した)ことによると考えられる。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長254nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0073】
(実施例4)
実施例2と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長312nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0074】
(比較例7)
比較例1と同じディスク試験片を製作した。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0075】
(比較例8)
比較例2と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長365nm)の照射時間を60分にした点である。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行った。この結果を、図10に示す。
【0076】
[結果6:摩擦試験の結果2]
図10に示すように、実施例3の254nm及び実施例4の312nmの波長の紫外線を照射したものは、200〜4500サイクル(回数)で、摩擦係数μ=0.02〜0.05程度の低摩擦を発現し、実施例1及び2の紫外線を30分照射したものと同様の傾向がえられた。その後、摺動サイクル数(摩擦繰返し数)が4500サイクル程度から摩擦係数は徐々に増加し、最終的には、摩擦係数は、0.1〜0.15程度となり、比較例7と同程度となった。一方、比較例7の紫外線を照射していないもの及び比較例8の365nmの波長の紫外線を照射したものは、摩擦係数は初期からほぼ一定で、0.1〜0.18程度であった。
【0077】
実施例1及び3(波長254nmの紫外線の照射)及び実施例2及び4(波長312nmの紫外線の照射)の摩擦試験の結果(結果5及び6)から、照射時間にかかわらず、4500サイクル程度で摩擦係数が上昇していた。これは、紫外線照射により、グラファイトに改質された表面層が摩耗し、改質されていない本来の水素を含む非晶質炭素被膜が露出したものと考えられる。そこで、以下に示す紫外線侵入深さの測定試験を行った。
【0078】
<紫外線侵入深さの測定>
実施例1(波長254nm)と同じようにディスク試験片を製作した。そして、実施例1と同じように摩擦試験を行い、摩擦係数の変化を監視しながら、摩擦係数が上昇した時点で、摩擦試験を中止し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、非晶質炭素被膜の摺動面に形成された摩耗痕の断面積及び深さを求めて、この被膜の比摩耗量を算出した。
【0079】
[結果7:紫外線侵入深さの測定結果]
摩擦試験実施中の4500サイクル程度で、実施例1と同じように摩擦係数が上昇したので、そこで、摩擦試験を中止し、そのときの摩耗痕のAFM観察像から、摩耗深さは10nm程度であった。このことから紫外線侵入深さが10nm程度であることが明らかになった。また、比摩耗量は、2.7×10−7mm3/Nm程度であることが明らかになった。
【0080】
(実施例5)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線(波長254nm)の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、これらのディスク試験片に対して、以下に詳述するレーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGを測定した。この結果を図11に示す。
【0081】
<レーザーラマン分光法>
レーザーラマン分光法により、不規則なアモルファス構造を有する非晶質炭素被膜の結合状態を評価した。ここでレーザーラマン分光法の原理を簡単に説明する。分子中の原子は一定の構造をとっているが、その位置で静止しているのではなく平衡構造付近で微小運動をしている。この微小運動をブラウン運動という。その振動数は、原子の質量や原子間に働く力の大きさによって決まるため分子固有の値をとっている。従って、この分子の振動を測定することにより試料中の分子の種類や状態を知ることができる。
【0082】
測定原理は、可視光又は赤外線を試料内の分子に照射し、その際に散乱された光を分光し測定する。散乱光の大部分は入射光と波数が等しいレイリー散乱であるが、散乱光のごく僅かに、入射光とは異なる周波数を持ったラマン散乱を含んでいる。このラマン散乱と入射光の波数の差(ラマンシフト)が、分子の振動や回転運動のエネルギーさに相当することを利用したのがラマン分光法である。
【0083】
ここで、非晶質炭素被膜の構造解析をラマン分光スペクトルにより分析した場合、非晶質炭素被膜は、決まった結晶構造を持たず、ラマンシフトが1350cm−1付近及び1550cm−1付近に、ラマン分光スペクトルのピークが現れることが一般的である。そして、「Gバンド」は、このラマンシフトが1550cm−1付近のピークであり、「Dバンド」は、1350cm−1付近のピークである。そして、Dバンドの面積強度とGバンドの面積強度とのID/IG比は、非晶質炭素被膜中に含まれるアモルファス構造の比率を示すことになる。
【0084】
今回は日本分光社製レーザーラマン分光光度計NRS−1000を使用した。Arイオン励起レーザー波長532.0nm、出力10mWで、減光器により0.01倍にし、測定時間を60秒/サイクルで分析範囲800〜2000cm−1を2回測定し、積算する方法で行った。2回の積算は、宇宙線の影響を除去するためである。
【0085】
(実施例6)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線の波長を312nmにした点と、紫外線の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IGを測定した。この結果を図11に示す。
【0086】
(比較例9)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例2と相違する点は、紫外線を照射していない点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IG比を測定した。この結果を図11に示す。
【0087】
(比較例10)
実施例1と同じ方法によりディスク試験片を製作した。実施例2と相違する点は、紫外線の波長を365nmにした点と、紫外線の照射時間を20、40、及び60分とした3種類のディスク試験片を製作した点である。そして、実施例5と同様に、レーザーラマン分光法により、Gポジション(Gバンドのピーク位置)及びID/IG比を測定した。この結果を図11に示す。
【0088】
[結果8:レーザーラマン分光法の結果]
図11に示すように、実施例5、6及び比較例9、10から、波長、照射時間によりGポジションの変化は見られなかった。また、ID/IG比は僅かに変わっているが、波長、照射時間による傾向は見られなかった。
【0089】
ところで、実施例1〜3及び比較例3〜6の結果から(結果5及び6)から、水素含有量と紫外線の照射による非晶質炭素材料のグラファイト化には、相関があると考えられ、水素含有量とグラファイト化の関係を明らかにすべく、以下に示すように、オージェ電子分光法による原子組成分析及び硬さ試験を行った。
【0090】
(実施例7)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、プラズマCVD法のガス条件等を変更して、非晶質炭素被膜に含有する水素の含有量を3、16、35原子%にした点である。そして、実施例1と同じようにして、オージェ電子分光法による原子組成分析及び硬さ試験を行った。また、硬さ試験の結果を以下の表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
(比較例11)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、プラズマCVD法のガス条件等を変更して、非晶質炭素被膜に含有する水素の含有量を37原子%にした点である。そして、実施例1と同じようにして硬さ試験を行った。また、硬さ試験の結果を表4に示す。
【0093】
[結果9]
実施例7の分析結果から、非晶質炭素被膜の水素含有量が3、16、35原子%はいずれも、結果1に示すような波形形状が得られたと考えられ、グラファイト化がされていたと考えられる。また、硬さ試験の結果から、比較例11に示すように、水素含有量が35原子%を超えた場合に、非晶質炭素被膜の硬度が低下した。
【0094】
この結果から、水素含有量が35%を超えた場合には、非晶質炭素被膜の耐摩耗性が低下すると考えられる。また、結果1と結果9とから、非晶質炭素被膜の水素含有量が3原子%以下の場合には、紫外線を照射してもグラファイト化が発現され難いと考えられる。以上より、非晶質炭素被膜に含有する水素含有量は、3〜35原子%が好ましいと考えられる。
【0095】
結果1〜9より、254nm、312nmの紫外線を、水素を含有する非晶質炭素被膜に照射した場合には、該被膜中のC−Cの結合が切断され、これがC=Cに再結合して表面がグラファイト化することによって、低せん断層ができ、200〜4500サイクルにおいて、非晶質炭素被膜が低摩擦になったものと考えられる。
【0096】
(実施例8)
実施例1と同じ基材を準備した。そして、図2に示す装置を用いて、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が16原子%、層厚さ1.3μmまで、水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)Dを成膜した。その後、紫外線の照射をしながら、0.5μmの厚さまで、紫外線が照射された非晶質炭素被膜Gを成膜した(図12(b)参照)。照射時間は、100分、紫外線の波長は、312nm、照射エネルギー100ジュール、紫外線照射装置と基材(試験片)の距離を150mmとした。なお、非晶質炭素被膜Gの厚さは、予め摩擦試験を行い摩擦係数と膜厚との関係から、特定することができる。
【0097】
このようにして製作された摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。なお、摩擦試験は、摩擦試験時の摩擦係数の値が0.05で持続している時間を測定した。この結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
(実施例9)
実施例8と同じ基材を準備した。そして、図2に示す装置を用いて、プラズマCVD法により、この基材の表面に水素含有量が16原子%、層厚さ1.3μmまで、水素を含有した非晶質炭素被膜(H−DLC被膜)Dを成膜した。次に、25nm(成膜時間5分)の厚さに非晶質炭素被膜(非晶質炭素層)D1を成膜後、成膜後、実施例8と同じ条件で、紫外線の照射5分間をしながら、5nmの厚さのグラファイト化した層(紫外線が照射された層)Gを形成する一連の工程を20回繰返して、0.5μmの膜を成膜した(図12(c)参照)。
【0100】
この摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。なお、基材に紫外線を断続的に照射しながら、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜することによっても、同様の層が形成されることも確認した。
【0101】
(実施例10)
実施例8と同様の方法で、非晶質炭素被膜を成膜した。相違する点は、紫外線照射装置と基材(試験片)との距離を160mmとした点である。さらに、この非晶質炭素被膜の表面に、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長312nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8B)によって、非晶質炭素被膜の表面にさらに紫外線を照射した。照射時間は、30分、紫外線の波長は、312nm、照射エネルギー10ジュール、紫外線照射装置と基材(試験片)の距離を150mmとした(図12(d)参照)。この摺動部材に対して、実施例1と同様に、表面粗さ、硬さ、及び、摩擦試験を行った。
【0102】
(比較例12)
実施例8と同様の方法で、非晶質炭素被膜を成膜した。水素含有量が16原子%、層厚さ1.8μmとなるように、紫外線を照射せずに非晶質炭素被膜Dを成膜後、その表面に、実施例8の条件で、10nmの厚さの紫外線を照射した非晶質炭素被膜Gを形成した(図12(a)参照)。なお、比較例12は、実施例8〜10の比較例であるが、実施例4に相当する本願の発明の請求項1に含まれる例である。
【0103】
[結果9]
表5からも明らかなように、実施例8〜10は、比較例12に比べて、紫外線の照射された非晶質炭素被膜の厚みが厚くなったことにより、より低い摩擦係数を持続することができたと考えられる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0105】
31…ステージ,32…平行板ばね,33…ひずみゲージ,35…ボールホルダー,41…モータ,42…プーリ,43…ベルト,44…ディスクホルダー,B…ボール試験片,P…ディスク試験片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、
前記非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記基材に紫外線を照射しながら、前記基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記紫外線の照射を断続的に行うことを特徴とする請求項2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記紫外線の照射エネルギーを増加させながら、前記成膜を行うことを特徴とする請求項2または3に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項5】
前記照射する紫外線の波長は、350nm以下の波長であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質炭素被膜に含有する水素含有量が、3〜35原子%となるように、前記非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項7】
基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、
前記非晶質炭素被膜は、少なくとも表面層に紫外線の照射された層を含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項8】
前記非晶質炭素被膜は、前記紫外線が照射された層が、膜厚方向に、断続的に積層されていることを特徴とする請求項7に記載の摺動部材。
【請求項9】
前記非晶質炭素被膜は、前記基材の表面から非晶質炭素被膜の表面に向かって、前記非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトが増加していることを特徴とする請求項7又は8に記載の摺動部材。
【請求項10】
前記照射された紫外線の波長は、350nm以下の波長であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項11】
前記非晶質炭素被膜に含有する水素含有量が、3〜35原子%であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項1】
基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、
前記非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記基材に紫外線を照射しながら、前記基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記紫外線の照射を断続的に行うことを特徴とする請求項2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記紫外線の照射エネルギーを増加させながら、前記成膜を行うことを特徴とする請求項2または3に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項5】
前記照射する紫外線の波長は、350nm以下の波長であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質炭素被膜に含有する水素含有量が、3〜35原子%となるように、前記非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項7】
基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜が形成された摺動部材であって、
前記非晶質炭素被膜は、少なくとも表面層に紫外線の照射された層を含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項8】
前記非晶質炭素被膜は、前記紫外線が照射された層が、膜厚方向に、断続的に積層されていることを特徴とする請求項7に記載の摺動部材。
【請求項9】
前記非晶質炭素被膜は、前記基材の表面から非晶質炭素被膜の表面に向かって、前記非晶質炭素被膜に含まれるグラファイトが増加していることを特徴とする請求項7又は8に記載の摺動部材。
【請求項10】
前記照射された紫外線の波長は、350nm以下の波長であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項11】
前記非晶質炭素被膜に含有する水素含有量が、3〜35原子%であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の摺動部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−215950(P2010−215950A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62384(P2009−62384)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
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