説明

操舵装置

【課題】簡易且つ適切に旋回モードを移行させる。
【解決手段】操舵装置において、転舵機構は、前二輪および後二輪を有する車両10における前二輪および後二輪の各々をステアリング32の操舵に基づいて転舵する。駆動機構は、前二輪および後二輪の各々を個別に駆動する。転舵機構および駆動機構は、ステアリング32の操舵量が増加する過程において、前二輪を同位相に転舵する通常旋回モードから、前二輪を同位相に転舵するとともに後二輪の旋回外輪に前進方向の駆動力を与え後二輪の旋回内輪に後進方向への駆動力を与える小回り旋回モードを介して、後二輪を逆位相に転舵する信地旋回モードに移行させる。転舵機構は、信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を直進方向に戻すよう転舵する。駆動機構は、信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪に後進方向の駆動力を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に関し、特に、前二輪および後二輪を有する車両を操舵する操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両が前進するときの旋回モードと、車両中央を中心に回転するよう方向を転換する旋回モードとを有する車両用操舵装置が提案されている(例えば、特許文献1または2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−58681号公報
【特許文献2】特開2009−90820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献に記載された技術では、スイッチを押すことにより異なるモードに移行する。このため、運転者は、旋回モードを変更したいときにはスイッチを押さなければならなかった。また、操舵すべきステアリングの操舵角度、すなわち操舵量に適した旋回モードを選択する、などは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡易且つ適切に旋回モードを移行させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の操舵装置は、車両の前二輪および後二輪の各々をステアリングの操舵に基づいて転舵する転舵機構と、前二輪および後二輪の各々を個別に駆動する駆動機構と、を備える。前記転舵機構および前記駆動機構は、前記ステアリングの操舵量が増加する過程において、前二輪を同位相に転舵する通常旋回モードから、前二輪を同位相に転舵するとともに後二輪の旋回外輪に前進方向の駆動力を与え後二輪の旋回内輪に後進方向への駆動力を与える小回り旋回モードを介して、後二輪を逆位相に転舵する信地旋回モードに移行させる。
【0007】
この態様によれば、ステアリングを操舵するという簡易な操作によって旋回モードを移行させることができる。また、ステアリングの操舵量が増加する過程において、通常旋回モード、小回り旋回モード、信地旋回モードとより急旋回に適した旋回モードに移行させることができる。
【0008】
前記転舵機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を直進方向に戻すよう転舵し、前記駆動機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪に後進方向の駆動力を与えてもよい。この態様によれば、適切に信地旋回を実行することができる。
【0009】
前記転舵機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を前二輪の旋回外輪の逆位相となるよう転舵してもよい。また、前記転舵機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を前二輪の旋回外輪よりも大きい角度転舵してもよい。これらの態様によっても、適切に信地旋回を実行することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易且つ適切に旋回モードを移行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る操舵装置の全体構成図である。
【図2】各ECUの機能ブロック図である。
【図3】(a)は、ステアリングの操舵量が徐々に増加していく様子を示す図であり、(b)は、ステアリングの操舵量の増加にしたがって旋回モードが移行していく様子を示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る操舵装置による信地旋回モードでの車輪の転舵および駆動の方法を示す図である。
【図5】第3の実施形態に係る操舵装置による信地旋回モードでの車輪の転舵および駆動の方法を示す図である。
【図6】第4の実施形態に係る操舵装置による信地旋回モードでの車輪の転舵および駆動の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る操舵装置200の全体構成図である。本図は車両を上方から見た図である。操舵装置200が搭載された車両10は、右前輪14FR、左前輪14FL、右後輪14RR、左後輪14RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「車輪14」という。また、左前輪14FL、右前輪14FRを必要に応じて「前二輪14FL、14FR」と総称し、左後輪14RL、右後輪14RRを必要に応じて「後二輪14RL、14RR」と総称する)からなる4つの車輪14、および車体12により構成される。
【0014】
車輪14の各々に対応して、車体12には右前輪用インホイールモータ20FR、左前輪用インホイールモータ20FL、右後輪用インホイールモータ20RR、左後輪用インホイールモータ20RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「インホイールモータ20」という)が設けられる。
【0015】
インホイールモータ20の各々は、ロータ、ステータ、および減速機構など(図示せず)を有している。ロータは車輪14と同軸に回転可能に設けられる。ステータはロータを囲うように環状に巻回されたコイルによって構成され、インホイールモータ20のカバーに固定される。減速機構は、ギア機構により構成され、ロータの回転を減速して車輪14に伝達する。これにより車輪14の各々はインホイールモータ20によって独立して駆動可能とされている。
【0016】
インホイールモータ20の各々は、ハイブリッド電子制御ユニット42(以下、「HV−ECU42」という)に接続される。インホイールモータ20の各々は、バッテリ(図示せず)にも接続されており、HV−ECU42は、バッテリからインホイールモータ20の各々への電力の供給を制御することによって、車輪14の各々の駆動を制御する。HV−ECU42は統合電子制御ユニット100(以下、「電子制御ユニット」は「ECU」という)に接続されており、統合ECU100は、アクセルペダルの踏み込み量を示す信号をHV−ECU42に供給する。統合ECU100から入力された信号に応じてインホイールモータ20の各々へ供給する電力を決定する。
【0017】
インホイールモータ20の各々には、車輪速センサ22が設けられている。本実施形態においては、車輪速センサ22には、スリットが設けられモータの作動とともに回転可能な円板と光学センサを含む回転センサであるエンコーダが採用されている。なお、ホールIC方式やピックアップコイル方式による回転センサが車輪速センサ22に採用されてもよいことは勿論である。車輪速センサ22の各々は統合ECU100に接続され、車輪速センサ22の検出結果は統合ECU100に入力される。
【0018】
車輪14の各々は、車輪14の各々に対応して車体12に設けられたナックルアーム40に回転可能に支持されている。ナックルアーム40は上方においてアッパーアームのジョイント部と、下方においてロアアームのジョイント部と、略鉛直な軸を中心に回動可能に支持されている。このように、アッパーアームのジョイント部およびロアアームのジョイント部によって、仮想軸としてのキングピンが形成される。車輪14はこのように形成されたキングピンを中心に転舵される。
【0019】
車輪14の各々に対応して、右前輪用転舵装置25FR、左前輪用転舵装置25FL、右後輪用転舵装置25RR、左後輪用転舵装置25RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「転舵装置25」という)が車体12に設けられている。転舵装置25の各々には、右前輪用転舵モータ24FR、左前輪用転舵モータ24FL、右後輪用転舵モータ24RR、左後輪用転舵モータ24RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「転舵モータ24」という)が設けられている。また転舵装置25の各々は、転舵モータ24の他に、ボールねじ機構27、およびタイロッド38を有している。
【0020】
タイロッド38の車輪側端部は、ナックルアーム40に回動可能に連結されている。タイロッド38の他方の外周には、雄ねじ溝が形成されている。タイロッド38の雄ねじ溝が形成された部分を覆うように、筒状に形成されたナット(図示せず)が配置される。ナットの内周には雌ねじ溝が形成されている。タイロッド38の雄ねじ溝とナットの雌ねじ溝によって形成される転動路に複数の転動ボールが配置され、ボールねじ機構27が構成される。転舵モータ24はロータとステータを有しており、転舵モータ24のロータがナットと同軸に固定される。転舵モータ24が作動することによりロータおよびナットが回転すると、ボールねじ機構27により、転舵モータ24の回転運動がタイロッド38の軸方向運動に変換され、タイロッド38が軸方向に推進する。これにより、ナックルアーム40が回動され、車輪14がキングピンを中心に転舵される。
【0021】
右前輪用転舵モータ24FRは右前輪用転舵ECU26FRに接続される。同様に左前輪用転舵モータ24FLは左前輪用転舵ECU26FLに、右後輪用転舵モータ24RRは右後輪用転舵ECU26RRに、左後輪用転舵モータ24RLは左後輪用転舵ECU26RLにそれぞれ接続される(以下、必要に応じ、右前輪用転舵ECU26FR、左前輪用転舵ECU26FL、右後輪用転舵ECU26RR、左後輪用転舵ECU26RLを総称して「転舵ECU26」という)。転舵モータ24の各々は、転舵ECU26から駆動信号が入力されることによって、駆動信号に応じた角度を回転する。転舵ECU26は、転舵モータ24へ入力する駆動信号を制御することによって、車輪14の各々の転舵角度を独立に制御する。転舵ECU26の各々は統合ECU100に接続されており、統合ECU100から入力された演算結果に応じて転舵モータ24に入力する駆動信号を決定する。
【0022】
また、車輪14の各々に対応して、右前輪用ブレーキ16FR、左前輪用ブレーキ16FL、右後輪用ブレーキ16RR、左後輪用ブレーキ16RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「ブレーキ16」という)が設けられている。本実施形態では、ブレーキ16にはディスクブレーキが採用されている。ブレーキ16の各々のキャリパ内に、右前輪用ホイールシリンダ18FR、左前輪用ホイールシリンダ18FL、右後輪用ホイールシリンダ18RR、左後輪用ホイールシリンダ18RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「ホイールシリンダ18」という)が設けられている。ブレーキ16はディスクロータ、キャリパ、ブレーキパッドなど(図示せず)を有しており、ディスクロータは車輪14と共に回転可能に固定され、キャリパおよびブレーキパッドは車体12側に固定されている。ホイールシリンダ18の液圧が増圧されると、回転体としてのブレーキパッドに押圧体としてのブレーキパッドが押圧され、車輪14に制動力が与えられる。
【0023】
ホイールシリンダ18の各々は、ブレーキ液圧発生装置50に連通している。ブレーキ液圧発生装置50に含まれる後述する増圧用バルブや減圧用バルブはECB−ECU44に接続されている。ECB−ECU44は、これらのバルブの開弁および閉弁を制御することにより、車輪14の各々を独立にホイールシリンダ18の液圧を制御する。ECB−ECU44は統合ECU100に接続されており、統合ECU100から入力された演算結果を利用してこれらのバルブの開弁および閉弁を制御する。
【0024】
車両10の室内にはブレーキペダル28が設けられている。ブレーキペダル28はブレーキセンサ30に接続されており、ブレーキセンサ30は統合ECU100に接続されている。ユーザとしての運転者によりブレーキペダル28が操作されると、ブレーキセンサ30はブレーキセンサ30の操作量を検出し、検出結果を統合ECU100に入力する。
【0025】
また、車両10の室内には、ステアリング32が設けられている。ステアリング32は回転可能なステアリングシャフトに固定されており、ステアリングシャフトには舵角センサ34が設けられている。舵角センサ34は統合ECU100に接続されている。運転者によりステアリング32が操舵されると、舵角センサ34はステアリング32の操舵角度を検出し、検出結果を統合ECU100に入力する。
【0026】
図2は、各ECUの機能ブロック図である。前述した通り、本実施形態の操舵装置200には、統合ECU100、転舵ECU26、ECB−ECU44、HV−ECU42などが含まれる。
【0027】
統合ECU100は、演算ユニット102、RAM104、ROM106などを有する。ROM106には、様々な演算を実行するためのプログラムが格納されている。RAM104は、舵角センサ34、ブレーキセンサ30、車輪速センサ22の検出結果を含む様々なデータが一時的に格納され、また、ROM106に格納されたプログラムの実行のためのワークエリアとして利用される。演算ユニット102は、ROM106に格納されたプログラムやRAM104に格納されたデータなどを利用して様々な演算を実行する。
【0028】
統合ECU100は転舵ECU26に接続されており、算出された車輪14の各々の目標転舵角度を転舵ECU26に入力する。転舵ECU26は、入力された演算結果を利用して車輪14の各々の目標転舵角度を決定し、転舵モータ24の各々に駆動信号を入力して車輪14を目標転舵角度に転舵する。したがって、統合ECU100は、移動された旋回中心Pを中心に旋回するよう各々の車輪14の転舵角度を決定する転舵制御手段として機能し、転舵装置25は、移動された旋回中心Pを中心に旋回するよう各々の車輪14を独立に転舵する転舵手段として機能する。以下、転舵ECU26および転舵モータ24を必要に応じ「転舵機構120」と総称する。
【0029】
ブレーキ液圧発生装置50には、右前輪増圧用バルブ52FR、左前輪増圧用バルブ52FL、右後輪増圧用バルブ52RR、左後輪増圧用バルブ52RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「増圧用バルブ52」という)が設けられている。増圧用バルブ52は、リニアソレノイドバルブによって構成され、入力された電流のデューティーに応じて開弁または閉弁する。増圧用バルブ52が開弁されることにより、アキュムレータ(図示せず)からホイールシリンダ18へ作動液としてのブレーキオイルが供給され、ホイールシリンダ圧が増圧されることによって車輪14へ与えられる制動力が増加される。
【0030】
また、ブレーキ液圧発生装置50には、右前輪減圧用バルブ54FR、左前輪減圧用バルブ54FL、右後輪減圧用バルブ54RR、左後輪減圧用バルブ54RL(以下、必要に応じてこれらを総称して「減圧用バルブ54」という)が設けられている。減圧用バルブ54は、リニアソレノイドバルブによって構成され、入力された電流のデューティーに応じて開弁または閉弁する。減圧用バルブ54が開弁されることにより、ホイールシリンダ18の作動液がリザーバへ逃がされ、ホイールシリンダ圧が減圧されることによって車輪14へ与えられる制動力が減少される。
【0031】
統合ECU100はECB−ECU44に接続されており、算出されたホイールシリンダ18の各々の目標ホイールシリンダ圧をECB−ECU44に入力する。ECB−ECU44は、入力された演算結果を利用してホイールシリンダ18の各々の目標ホイールシリンダ圧を決定し、増圧用バルブ52の各々、および減圧用バルブ54の各々を駆動する駆動回路に制御電流を供給する。駆動回路の各々は、供給された制御電流に応じたデューティーで増圧用バルブ52また減圧用バルブ54に電流を供給する。これによって、ECB−ECU44は、各々のホイールシリンダ18の液圧を目標ホイールシリンダ圧に制御する。以下、ECB−ECU44、増圧用バルブ52、減圧用バルブ54、およびホイールシリンダ18を、必要に応じて「制動機構124」と総称する。
【0032】
統合ECU100はHV−ECU42に接続されており、算出された車輪14の各々の目標駆動トルクをHV−ECU42に入力する。HV−ECU42は、入力された演算結果を利用して車輪14の各々の目標駆動トルクを決定し、インホイールモータ20の各々に目標駆動トルクを発生させるための電流をバッテリからインホイールモータ20の各々に供給して目標駆動トルクを発生させる。したがって、統合ECU100は、移動された旋回中心Pを中心に旋回するよう各々の車輪14の駆動トルクを決定する駆動制御手段として機能し、インホイールモータ20は、決定された駆動トルクによって各々の車輪14を独立に駆動する駆動手段として機能する。以下、HV−ECU42およびインホイールモータ20を、必要に応じて「駆動機構122」と総称する。
【0033】
従来より、例えば前二輪14FL、14FRおよび後二輪14RL、14RRをそれぞれ逆位相に転舵することによって車両中央を中心に回転させるように車両を旋回させるその場旋回モードが知られている。しかしながら、その場旋回モードに移行させるためにはモード選択スイッチなどを操作するものが一般的であり、運転者はステアリング32の操舵とは別の旋回モード選択操作を行う必要があった。
【0034】
このため第1の実施形態では、転舵機構120および駆動機構122は、ステアリング32ホイールの操舵量が増加する過程において、通常旋回モードから小回り旋回モードを介して信地旋回モードに移行させる。通常旋回モードでは、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRを同位相に転舵する。小回り旋回モードでは、転舵機構120および駆動機構122は、前二輪14FL、14FRを同位相に転舵するとともに後二輪14RL、14RRの旋回外輪に前進方向の駆動力を与え、後二輪14RL、14RRの旋回内輪に後進方向への駆動力を与える。信地旋回モードでは、転舵機構120は、後二輪14RL、14RRを逆位相に転舵する。これにより、ステアリング32の操舵という簡易な操作によって、ステアリング32の操舵量の増加にしたがって、より急旋回に適した旋回モードに移行させることができる。なお、本実施形態において「駆動力」とは、トルクを意味するものとする。以下、図3に関連して、この旋回モード移行制御について詳細に説明する。
【0035】
図3(a)は、ステアリング32の操舵量が徐々に増加していく様子を示す図であり、図3(b)は、ステアリング32の操舵量の増加にしたがって旋回モードが移行していく様子を示す図である。なお、図3(b)において、破線矢印は車輪14に必ずしも与えられなくてよい駆動力を示し、実線矢印は車輪14に与えられる駆動力を示す。また、矢印の長さは駆動力の大きさを示している。なお、矢印の長さは理解が容易となる長さとされており、矢印の長さは駆動力の大きさと必ずしも比例していない。
【0036】
図3(a)の(i)に示すようにステアリング32が操舵されていないときは、転舵機構120は、すべての車輪14を非転舵状態とする。転舵機構120は、アクセルペダルの踏み込み量に応じたトルクが車輪14の各々に与えられるよう、転舵モータ24の各々の作動を制御する。
【0037】
図3(a)の(ii)に示すようにステアリング32が左右のいずれかに所定角度θ1未満の範囲で操舵された場合、転舵機構120および駆動機構122は、通常旋回モードによって車輪14を転舵し、および駆動する。
【0038】
通常旋回モードでは、図3(b)の(ii)に示すように、前二輪14FL、14FRを同位相に同一角度転舵する。このため、旋回中心Pは、後二輪14RL、14RRの中心軸上且つ車両外側に位置する。なお、転舵機構120は、通常旋回モードにおいて、前二輪14FL、14FRを同一角度でなく微少に異なる略同一角度転舵してもよい。転舵機構120は、ステアリング32の操舵量が増加するほど前二輪14FL、14FRの転舵量を増加させるよう前二輪14FL、14FRの各々を転舵する。また、駆動機構122は、アクセルペダルの踏み込み量に応じたトルクで車輪14を駆動するよう、インホイールモータ20の各々の作動を制御する。このとき転舵機構120は、前二輪14FL、14FRおよび後二輪14RL、14RRの双方を駆動してもよく、一方を駆動してもよい。このような通常旋回モードにおける車輪14の転舵制御およびインホイールモータ20の駆動制御は公知であるため、これ以上の照射な説明を省略する。
【0039】
図3(a)の(iii)に示すようにステアリング32が左右のいずれかに所定角度θ1以上所定角度θ2未満の範囲で操舵された場合、転舵機構120および駆動機構122は、小回り旋回モードによって車輪14を転舵し、および駆動する。
【0040】
小回り旋回モードでは、図3(b)の(iii)に示すように、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRを同位相に同一角度転舵する。このとき転舵機構120は、通常旋回モードと同様に、ステアリング32の操舵量が増加するほど前二輪14FL、14FRの転舵量を増加させるよう前二輪14FL、14FRの各々を転舵する。なお、小回り旋回モードにおいても、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRを同一角度でなく微少に異なる略同一角度転舵してもよい。
【0041】
さらに小回り旋回モードでは、駆動機構122は、後二輪14RL、14RRの旋回外輪に前進方向の駆動力を与え、後二輪14RL、14RRの旋回内輪に後進方向への駆動力を与える。なお、小回り旋回モードにおいて、後二輪14RL、14RRの旋回内輪にに対し、駆動機構122が後進方向への駆動力を与える代わりに、制動機構124が制動力を与えてもよい。このとき、駆動機構122は、アクセルペダルの踏み込み量に応じたトルクで、後二輪14RL、14RRの旋回外輪を前進方向に駆動し、旋回内輪を後進方向に駆動する。駆動機構122は、アクセルペダルの踏み込み量に応じたトルクで前二輪14FL、14FRを前進方向に駆動する。なお、駆動機構122は、前二輪14FL、14FRに駆動力を与えなくてもよい。このとき旋回中心Pは、後二輪14RL、14RRの中心軸上且つ車両内部に位置する。
【0042】
図3(a)の(iv)に示すようにステアリング32が左右のいずれかに所定角度θ2以上所定角度θ3未満の範囲で操舵された場合、転舵機構120および駆動機構122は、信地旋回モードの第1段階で車輪14を転舵し、および駆動する。
【0043】
信地旋回モードの第1段階では、図3(b)の(iv)に示すように、転舵機構120は、後二輪14RL、14RRを逆位相に同一角度転舵する。このとき転舵機構120は、ステアリング32が大きく転舵されるほど大きな角度で後二輪14RL、14RRを逆位相に転舵する。
【0044】
また、駆動機構122は、前二輪14FL、14FRのうち旋回外輪を旋回内輪よりも高いトルクで駆動する。第1の実施形態では、信地旋回モードの第1段階においても駆動機構122は前二輪14FL、14FRの双方を駆動する。しかし、駆動機構122は、前二輪14FL、14FRのうち旋回外輪だけを駆動して旋回内輪の駆動を回避してもよい。駆動機構122は、旋回モードの第1段階においても、後二輪14RL、14RRの旋回外輪を前進方向に駆動し、旋回内輪を後進方向に駆動する。このとき旋回中心Pは、後二輪14RL、14RRの中心軸よりも車両前方且つ車両内部に位置する。
【0045】
図3(a)の(v)に示すようにステアリング32が左右のいずれかに所定角度θ3以上且つ操舵限界角度θ4以下の範囲で操舵された場合、転舵機構120および駆動機構122は、信地旋回モードの第2段階で車輪14を転舵し、および駆動する。
【0046】
信地旋回モードの第2段階では、図3(b)の(v)に示すように、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRの旋回内輪を直進方向に戻すよう転舵する。第1の実施形態では、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRの旋回内輪を直進方向になるまで戻しているが、直進方向に戻る途中まで転舵してもよい。このとき駆動機構122は、前二輪14FL、14FRの旋回内輪に後進方向の駆動力を与える。このとき旋回中心Pは、車両10の略中央に位置する。
【0047】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る操舵装置による信地旋回モードでの車輪14の転舵および駆動の方法を示す図である。なお、特に言及しない限り第2の実施形態に係る操舵装置の構成および動作は第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
第2の実施形態に係る操舵装置による通常旋回モードおよび小回り旋回モードは第1の実施形態と同様である。このため図4では、通常旋回モードおよび小回り旋回モードを示す図3(b)の(i)〜(iii)に相当する図は省略している。以下、図5および図6についても同様である。
【0049】
図4の(iv)に示す信地旋回モードの第1段階は、第1の実施形態と同様である。しかし、第2の実施形態では、信地旋回モードの第2段階において、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRの旋回内輪を旋回外輪の逆位相となるよう転舵する。具体的には、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRのうち旋回外輪と同相に転舵されていた旋回内輪を、それまでの転舵方向と逆方向に転舵する。
【0050】
このとき駆動機構122は、前二輪14FL、14FRのうち旋回外輪に前進方向の駆動力を与え、旋回内輪に後進方向の駆動力を与える。これにより図4(v)に示すように、車両中央に旋回中心Pが位置するその場旋回モードを実現することができる。このように信地旋回モードの第2段階において前二輪14FL、14FRの旋回内輪を転舵および駆動することによっても、転舵および駆動を適切に行うことができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態に係る操舵装置による信地旋回モードでの車輪14の転舵および駆動の方法を示す図である。なお、特に言及しない限り第3の実施形態に係る操舵装置の構成および動作は上述の実施形態と同様である。以下、上述の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
第3の実施形態では、信地旋回モードの第2段階において、転舵機構120は、前二輪14FL、14FRの旋回内輪を旋回外輪よりも大きい角度転舵する。このとき駆動機構122は、前二輪14FL、14FRの旋回外輪に旋回内輪よりも大きい駆動力を与える。また、駆動機構122は、後二輪14RL、14RRの旋回外輪にも旋回内輪よりも大きい駆動力を与える。これによっても、図5(v)に示すように、車両中央に旋回中心Pが位置するその場旋回モードを実現することができる。
【0053】
(第4の実施形態)
図6は、第4の実施形態に係る操舵装置による信地旋回モードでの車輪14の転舵および駆動の方法を示す図である。なお、特に言及しない限り第4の実施形態に係る操舵装置の構成および動作は上述の実施形態と同様である。以下、上述の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
第4の実施形態では、信地旋回モードの第2段階において、前二輪14FL、14FRの旋回内輪を浮かせる、または接地荷重を低減させるよう、当該内輪におけるサスペンションのばね定数を下げる。ばね定数を下げるサスペンションの制御方法は公知であるため説明を省略する。これにより、前二輪14FL、14FRの旋回外輪および後二輪14RL、14RRの計3輪によって車両を支持しつつ旋回させる。このとき、車両重心Gがこの3輪を頂点とする三角形の中に入るよう、例えばバッテリなど車両にに配置された部品をモータなどのアクチュエータを用いて移動させる。このように前二輪14FL、14FRの旋回内輪を浮かせることで、残る3輪でその場旋回モードを実現できる。
【0055】
なお、残る3輪の車高を上げることで、前二輪14FL、14FRの旋回内輪を浮かせてもよい。車輪14の各々の車高を上下させる技術は公知であるため説明を省略する。この態様によっても、残る3輪でその場旋回モードを実現できる。
【0056】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を本実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0057】
10 車両、 12 車体、 14 車輪、 16 ブレーキ、 18 ホイールシリンダ、 20 インホイールモータ、 24 転舵モータ、 26 転舵ECU、 32 ステアリング、 44 ECB−ECU、 100 統合ECU、 120 転舵機構、 122 駆動機構、 124 制動機構、 200 操舵装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前二輪および後二輪の各々をステアリングの操舵に基づいて転舵する転舵機構と、
前二輪および後二輪の各々を個別に駆動する駆動機構と、
を備え、
前記転舵機構および前記駆動機構は、前記ステアリングの操舵量が増加する過程において、前二輪を同位相に転舵する通常旋回モードから、前二輪を同位相に転舵するとともに後二輪の旋回外輪に前進方向の駆動力を与え後二輪の旋回内輪に後進方向への駆動力を与える小回り旋回モードを介して、後二輪を逆位相に転舵する信地旋回モードに移行させることを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
前記転舵機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を直進方向に戻すよう転舵し、
前記駆動機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪に後進方向の駆動力を与えることを特徴とする請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記転舵機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を前二輪の旋回外輪の逆位相となるよう転舵することを特徴とする請求項1に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記転舵機構は、前記信地旋回モードにおいて、前二輪の旋回内輪を前二輪の旋回外輪よりも大きい角度転舵することを特徴とする請求項1に記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95362(P2013−95362A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242169(P2011−242169)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】