説明

放電装置

【課題】効力が強い放電装置を提供することを目的とする。
【解決手段】誘電体が被覆された誘電体バリアの電極2をチャンバー1内に備え、チャンバー1内で放電させる。具体的には、誘電体バリアの電極2は、金属電極23や誘電体バリア24などを備え、金属電極23を誘電体バリア24が被覆して、誘電体バリア24から放電させる。このような誘電体バリアの電極2をチャンバー1内に備え、チャンバー1内で放電させるので、投入電力(電極への印加電力)の放電効率がよく、省電力化を図ることができる。その結果、低コストで効力が強い放電装置(実施例ではプラズマ処理装置)を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバー内に放電させる放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放電装置として、例えばプラズマ放電によってプラズマを発生させるプラズマ発生装置や、酸素中の放電によってオゾン(O)を発生させるオゾン発生装置などがある。また、放電を利用した所定の処理として、例えばプラズマ放電によって発生したプラズマを利用したプラズマ処理や、酸素中の放電によって発生したオゾンを利用したオゾン処理などがある。プラズマ放電を利用したプラズマ処理を例に採って説明する。
【0003】
プラズマ処理として、例えばプラズマ中に被処理物(ワーク)を置いてワークに対してエッチングを行うプラズマエッチングや、蒸着させたい物質をプラズマ化してワークに蒸着させて堆積させるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)や、ワークの濡れ性を向上させるためにワークに対して洗浄を行うプラズマ洗浄などがある。
【0004】
プラズマ処理装置としては、図4に示すように、互いに対向した2極の電極E間に誘電体バリアDを配設した装置が提示されている(例えば、特許文献1〜7参照)。この誘電体バリアDを配設することで、誘電体バリアDが容量結合されて、2極の電極E間で放電させることが可能になる。
【0005】
プラズマ処理を行う場合には、図4(a)のように誘電体バリアD間にワークWを置いてワークWに対して処理を施す、あるいは図4(b)のように希ガスあるいは窒素ガスGASを流入させて流入側とは逆側からプラズマPMを噴射させてワークWに作用させる。この図4のような装置では、2.45GHzなどに代表されるマイクロ波や13.56MHzのRF(Radio Frequency)波のような高周波電源が必要でなく、パルス電源や1kHz〜100kHz程度の交流電源でよい。また、図4のような装置では、チャンバーを用いないので、チャンバー内を真空にする必要がなく、またアルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの希ガスをチャンバー内で減圧させて放電させる必要がない。
【特許文献1】特開2006−120739号公報(第1−8頁、図1−4)
【特許文献2】特開2006−092813号公報(第1−9頁、図1)
【特許文献3】特開2005−093344号公報(第1−10頁、図1−6)
【特許文献4】特開2004−311256号公報(第1−9頁、図1−5)
【特許文献5】特開2004−103251号公報(第1,3−7頁、図1)
【特許文献6】特開2003−347099号公報(第1−5頁、図1,2)
【特許文献7】特開2003−024771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、大気圧下でプラズマ放電させることが可能で、真空や減圧させる機器が不要で、電源もパルス電源や交流電源でよく、コスト的に有利である。しかし、大気圧下でのプラズマでは効力が弱い。
【0007】
一方、チャンバー内で放電させる場合には、図5に示すように、チャンバーC内を真空にする、あるいはアルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの希ガスを減圧させてチャンバーCに入れた状態で電極Eからの放電によってプラズマPMを発生させる。図5のような装置では、プラズマ処理を行う場合には、チャンバーC内にワークWを置いてワークWに対して処理を施す。なお、電極Eは、図4と相違して誘電体が被覆されていない金属電極である。図5のような装置では、上述したように高周波電源が必要である。マイクロ波の場合には導波管が、RF波の場合にはマッチング回路がそれぞれ必要である。したがって、コストもかかり、装置としてもおおがかりになってしまう。また、減圧下でも集中放電が起こり、処理の均一性が劣るという欠点もある。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、効力が強い放電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、チャンバーを備え、チャンバー内で放電させる放電装置であって、誘電体が被覆された誘電体バリアの電極をチャンバー内に備え、その誘電体バリアの電極を用いて放電させることを特徴とするものである。
【0010】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、誘電体が被覆された誘電体バリアの電極をチャンバー内に備え、チャンバー内で放電させるので、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)と比較すると、投入電力(電極への印加電力)の放電効率がよく、省電力化を図ることができる。また、チャンバー内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)と比較しても、放電効率がよく、省電力化が図れることが確認されている。その結果、低コストで効力が強い放電装置を提供することができる。また、後述する放電がプラズマ放電の場合には、ワークへの熱の影響も少ない。
【0011】
チャンバー内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)では、高周波電源が必要であるが、上述した発明では、高周波電源は不要であり、パルス電源で放電させることが可能である。すなわち、上述した発明において、パルス電源を備え、そのパルス電源からのパルス波を電極に印加することによりチャンバー内で放電させる(請求項2に記載の発明)。電力的には、パルス電源であるので小電力から大電力まで制御範囲が広い。また、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)で用いられるパルス電源と比較して、パルス電源の電圧は半分以下でよく、誘電体へのチャージ電流が少なくすむので、その分パルス波の立ち上がり時間を短くすることができる。また、パルス幅(時間幅)を小さくすることで、局部に集中した放電を防止することもできる。
【0012】
上述したこれらの発明の一例は、チャンバー内にチャンバーとは独立して2つの電極を備え、それら電極のうち少なくとも一方が誘電体バリアの電極であることである(請求項3に記載の発明)。この一例の場合、上述した2つの電極がともに誘電体バリアの電極であってもよいし(請求項4に記載の発明)、上述した2つの電極のうち一方が誘電体バリアの電極であるとともに、他方が、誘電体が被覆されていない金属電極であってもよい(請求項5に記載の発明)。
【0013】
上述したこれらの発明の他の一例は、チャンバー内にチャンバーとは独立して1つの電極を備え、チャンバーを接地させて接地電極を兼用し、それら電極のうち少なくとも一方が誘電体バリアの電極であることである(請求項6に記載の発明)。この一例の場合、チャンバー内にチャンバーとは独立して備えられた電極が誘電体バリアの電極であり、接地電極を兼用したチャンバーが、誘電体が被覆されていない金属電極であってもよいし(請求項7に記載の発明)、チャンバー内にチャンバーとは独立して備えられた電極が、誘電体が被覆されていない金属電極であり、接地電極を兼用したチャンバーが誘電体バリアの電極であってもよいし(請求項8に記載の発明)、チャンバー内にチャンバーとは独立して備えられた電極、および接地電極を兼用したチャンバーがともに誘電体バリアの電極であってもよい(請求項9に記載の発明)。
【0014】
請求項10に記載の発明のタイプの場合には、放電装置として、プラズマ放電によってプラズマを発生させるプラズマ発生装置や、プラズマ放電によって発生したプラズマを利用したプラズマ処理を行うプラズマ処理装置に適用することができる。なお、プラズマの発生面積は、電極の大きさによるのみで、制限するものはなく、大面積化も容易である。
【0015】
処理の均一性等を考慮すれば、上述したこれらの発明では、大気圧よりも低い減圧下で行われるのが好ましい。すなわち、チャンバー内を大気圧よりも低い減圧下にして放電させる(請求項11に記載の発明)。チャンバー内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)では、上述したように減圧下でも集中放電が起こり、処理の均一性が劣るという欠点があるが、請求項11に記載の発明の場合には、誘電体バリアの働きにより、減圧下でも原理的に集中放電が起こらず、処理の均一性が優れている。
【0016】
また、上述した放電がプラズマ放電の場合には、減圧下でのプラズマであるので、イオンの移動距離が長く、しかも電圧印加方向への動きが大きく作用する。したがって、プラズマ作用の方向性があり、異方性エッチングに有効である。なお、通常は、100パスカル以下の減圧下でプラズマを発生させるが、請求項11に記載の発明の場合には、3000パスカル程度でも均一なプラズマを発生させることができる。また、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)において、大気圧プラズマの数十倍以上の距離(発生範囲)でも、請求項11に記載の発明の場合には、局部に集中した放電のない均一なプラズマを発生させることができるので、大気圧下での処理に比べて処理対象物(被処理物)であるワークの寸法形状の制限は大きく改善される。局部に集中した放電に弱いワークに対しても処理することができる。
【0017】
プラズマ放電では、電極側とプラズマ放電側(酸素ガス等の作用ガス側)との耐電圧差により、プラズマを発生させる。請求項11に記載の発明の場合、プラズマ放電側は減圧下であって、プラズマ放電が起きやすくなっている。したがって、電極側のみにプラズマを発生させることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る放電装置によれば、投入電力(電極への印加電力)の放電効率がよく、省電力化を図ることができる。その結果、低コストで効力が強い放電装置を提供することができる。
【実施例】
【0019】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るプラズマ処理装置の概略図であり、図2は、パルス波の出力に関する概略図であり、図3は、図1とは別態様のプラズマ処理装置の概略図である。なお、本実施例では、放電を利用した所定の処理として、プラズマ放電によって発生したプラズマを利用したプラズマ処理を例に採って説明するとともに、放電装置として、そのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置を例に採って説明する。
【0020】
本実施例では、プラズマ処理装置は、図1(a)に示すように、チャンバー1を備えており、チャンバー1内にチャンバー1とは独立して誘電体が被覆された誘電体バリアの電極2と誘電体が被覆されていない金属電極3とからなる2つの電極を備えている。チャンバー1は、本発明におけるチャンバーに相当し、誘電体バリアの電極2は、本発明における誘電体バリアの電極に相当し、金属電極3は、この発明における金属電極に相当する。
【0021】
誘電体バリアの電極2について、より具体的に説明すると、図1(b)の誘電体バリアの電極2付近の具体図にも示すように、誘電体バリアの電極2は、放熱ブロック21と電極支持部22と金属電極23と誘電体バリア24とモールド材25とを備えている。放熱ブロック21を、例えばアルミニウム(Al)で形成し、チャンバー1の内壁面に絶縁物(図示省略)を介在させて支持している。電極支持部22は金属電極23および誘電体バリア24を支持し、電極支持部22を放熱ブロック21と金属電極23との間に介在させ、誘電体バリア24や金属電極23からの熱をこの電極支持部22を介して放熱ブロック22に放熱している。金属電極23を誘電体バリア24が被覆して、誘電体バリア24から放電させる。本実施例では、電極支持部22や誘電体バリア24を、磁器・ガラス・セメントなどに代表される、無機物質を原料として焼結された焼結物(一般的に「セラミックス」と呼ばれている)(例えば炭素ケイ素や窒化ケイ素)で形成している。モールド材25は、放熱ブロック21と電極支持部22と金属電極23と誘電体バリア24とを覆って封止している。本実施例では、このモールド材25を、シリコーン系のゴムや樹脂で形成しており、10kV/mm以上(〜20kV/mm)の耐電圧材料で形成するのが好ましい。
【0022】
図1(b)では放熱ブロック21によって過熱を防止したが、放熱ブロック21の替わりに、図1(c)に示すように水冷板26を備えてもよい。具体的には、図1(c)に示すように、冷却水を通す水冷管27を水冷板26の内部に設け、水冷板26とチャンバー1との間にスペーサー28を複数箇所(例えば端部および中央部)に介在させる。このように、水冷板26を含んだ電極支持部22,金属電極23,誘電体バリア24およびモールド材25を、スペーサー28を介してチャンバー1は吊り下げ支持する。なお、冷却に用いられる冷媒であれば、冷却水に限定されない。
【0023】
このように水冷にすることにより、図1(b)の放熱ブロック21よりも水冷板26を極端に小さくすることができる。そうすることにより、金属電極23および誘電体バリア24に対する浮遊容量を削減することができ、チャージ電流を少なくすることができるので、パルス波の立ち上がり・立ち下がり時間を短く(すなわち立ち上がり・立ち下がりスピードを速く)することが可能となる。
【0024】
上述した焼結物(セラミックス)で誘電体バリア24を形成する場合には、金属電極の形状に合わせて、セラミック基板に印刷でパターン作成することができるので、自由な形状のプラズマを発生させることができる。
【0025】
図1(a)の説明に戻って、金属電極3も、誘電体バリアの電極2と同様に、電極支持部(図示省略)を備えている。その他に、被処理物(ワーク)Wを支持するステージ4を備えている。
【0026】
チャンバー1内では、大気圧(101,325パスカル)よりも低い減圧下にして放電させている。具体的には、チャンバー1内を3000パスカル、より好ましくは2000パスカルにしている。もちろん、2000パスカル未満でもよい。本実施例では、酸素をチャンバー内に入れて減圧する。なお、酸素ガス以外の作用ガスや、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの希ガスをチャンバー1内に入れてもよい。
【0027】
電極2,3を、図2に示すようなパルス幅(時間幅)が0.5μsec〜10μsec程度で電圧振幅1kV〜10kV程度のパルス波を出力するパルス電源5に電気的に接続している。なお、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)で用いられるパルス電源では15kV程度のパルス波を出力している。パルス電源5からのパルス波を電極2,3に印加することによりチャンバー1内に放電させる。電極2,3にパルス波が印加されることでプラズマ放電して、そのプラズマ放電によってプラズマPMが発生する。そして、ワークWに対してプラズマ処理を施す。なお、誘電体バリアの電極2を接地電極にしてもよいし、金属電極3を接地電極にしてもよい。投入電力(電極への印加電力)については、パルス波の電圧パルス幅(電圧振幅),繰り返し周波数または出力電圧の可変要素により制御することができる。パルス電源5は、本発明におけるパルス電源に相当する。
【0028】
プラズマ処理については、特に限定されない。例えば、プラズマPM中にワークWを置いてワークWに対してエッチングを行うプラズマエッチングにも適用できるし、蒸着させたい物質をプラズマ化してワークWに蒸着させて堆積させるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)にも適用できるし、ワークWの濡れ性を向上させるためにワークWに対して洗浄を行うプラズマ洗浄に適用してもよい。その他にも、レジストなどの不要になった膜をプラズマPMにより灰化(Ashing)することにより除去するプラズマアッシングに適用してもよい。
【0029】
図1では、チャンバー1内にチャンバー1とは独立して2つの電極2,3を備え、それら電極2,3のうち一方が誘電体バリアの電極2であるとともに、他方が、誘電体が被覆されていない金属電極3である。チャンバー1内にチャンバー1とは独立して2つの電極2,3を備え、それら電極2,3のうち少なくとも一方が誘電体バリアの電極であれば、図1のような構造に限定されず、上述した2つの電極がともに誘電体バリアの電極であってもよい。
【0030】
また、図1のようなチャンバー1内にチャンバー1とは独立して2つの電極2,3を備えた構造に限定されない。図3に示すようにチャンバー内にチャンバーとは独立して1つの電極を備え、チャンバー1を接地させて接地電極を兼用し、それら電極のうち少なくとも一方が誘電体バリアの電極であってもよい。例えば、図3(a)に示すように、チャンバー内1にチャンバー1とは独立して備えられた電極が誘電体バリアの電極2であり、接地電極を兼用したチャンバー1が、誘電体が被覆されていない金属電極3であってもよいし、図3(b)に示すように、チャンバー内1にチャンバー1とは独立して備えられた電極が、誘電体が被覆されていない金属電極3であり、接地電極を兼用したチャンバー1が誘電体バリアの電極2であってもよいし、図3(c)に示すように、チャンバー内1にチャンバー1とは独立して備えられた電極、および接地電極を兼用したチャンバー1がともに誘電体バリアの電極2であってもよい。なお、図3では、パルス電源5の図示を省略している。接地電極を兼用したチャンバー1が誘電体バリアの電極2(図3(b)、図3(c)を参照)の場合には、チャンバー1の内壁面を誘電体で覆えばよい。そのときに、必ずしも内壁面の全面を覆う必要はなく、内壁面の一部を誘電体で覆えばよい。
【0031】
上述の構成を備えた本実施例に係るプラズマ処理装置によれば、誘電体が被覆された誘電体バリアの電極2をチャンバー内に備え、チャンバー1内で放電させるので、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)と比較すると、投入電力(電極への印加電力)の放電効率がよく、省電力化を図ることができる。また、チャンバー1内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)と比較しても、放電効率がよく、省電力化が図れることが確認されている。その結果、低コストで効力が強いプラズマ処理装置を提供することができる。また、本実施例のように放電がプラズマ放電の場合には、ワークWへの熱の影響も少ない。
【0032】
チャンバー内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)では、高周波電源が必要であるが、本実施例では、高周波電源は不要であり、パルス電源5で放電させることが可能である。すなわち、本実施例では、パルス電源5を備え、そのパルス電源5からのパルス波を電極2,3に印加することによりチャンバー1内で放電させる。電力的には、パルス電源5であるので小電力から大電力まで制御範囲が広い。また、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)で用いられるパルス電源と比較して、パルス電源5の電圧は半分以下(大気圧下での装置で用いられるパルス電源の電圧が15kV程度の場合には、本実施例でのパルス電源の電圧は数kV程度)でよく、誘電体へのチャージ電流が少なくすむので、その分パルス波の立ち上がり時間を短くすることができる。また、パルス幅(時間幅)を小さくすることで、局部に集中した放電を防止することもできる。なお、プラズマPMの発生面積は、電極2,3の大きさによるのみで、制限するものはなく、大面積化も容易である。
【0033】
処理の均一性等を考慮すれば、本実施例のように、好ましくは、大気圧よりも低い減圧(3000パスカル、より好ましくは2000パスカル以下)下で行う。すなわち、チャンバー1内を大気圧よりも低い減圧下にして放電させる。チャンバー内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)では、減圧下でも集中放電が起こり、処理の均一性が劣るという欠点があるが、本実施例の場合には、誘電体バリア24の働きにより、減圧下でも原理的に集中放電が起こらず、処理の均一性が優れている。
【0034】
また、本実施例のように放電がプラズマ放電の場合には、減圧下でのプラズマであるので、イオンの移動距離が長く、しかも電圧印加方向への動きが大きく作用する。したがって、プラズマ作用の方向性があり、異方性エッチングに有効である。なお、通常は、100パスカル以下の減圧下でプラズマを発生させるが、本実施例の場合には、3000パスカル程度でも均一なプラズマPMを発生させることができる。また、チャンバーを用いない大気圧下での装置(図4を参照)において、大気圧プラズマの数十倍以上の距離(発生範囲)でも、本実施例の場合には、局部に集中した放電のない均一なプラズマPMを発生させることができるので、大気圧下での処理に比べて処理対象物(被処理物)であるワークWの寸法形状の制限は大きく改善される。局部に集中した放電に弱いワークWに対しても処理することができる。
【0035】
プラズマ放電では、電極側とプラズマ放電側(酸素ガス等の作用ガス側)との耐電圧差により、プラズマPMを発生させる。本実施例の場合、プラズマ放電側は減圧下であって、プラズマ放電が起きやすくなっている。したがって、電極側のみにプラズマPMを発生させることができる。
【0036】
チャンバー内で金属電極のみを備えた装置(図5を参照)と比較して、チャージ電流が減って、効力が強くなったことを、実験データで確認している。以下、実験データについて、図6および図7を参照して説明する。図6は、実施例における誘電体バリアの電極のときのパルス波の波形データと、従来の金属電極のときのパルス波の波形データとの比較に関する実験データであり、図7は、実施例における誘電体バリアの電極のときのフォトレジストの削れ量と、従来の金属電極のときのフォトレジストの削れ量との比較に関する実験データである。なお、図3に示すチャンバー1を接地させて接地電極を兼用した構造を用いて、本実施例における誘電体バリアの電極2のときのパルス波の波形データおよびフォトレジストの削れ量とを測定している。また、チャンバー1をアルミニウム(Al)で形成している。
【0037】
実施例における誘電体バリアの電極2のときと、従来の金属電極のときの(図6および図7の実験データを取得するための)共通条件は、図7に示す通りである。また、図6および図7の「波形1」は、投入電力(電極への印加電力)(図7では「入力電力」で表記)が900W、繰り返し周波数(図7では「パルス周波数」で表記)が30kHzの条件の下での従来の金属電極のときの波形データであり、図6および図7の「波形2」は、投入電力が900W、繰り返し周波数が30kHzの条件での本実施例における誘電体バリアの電極2(図7では「誘電体電極」で表記)のときの波形データであり、図6および図7の「波形3」は、投入電力が900W、繰り返し周波数が15kHzの条件での本実施例における誘電体バリアの電極2のときの波形データである。また、図7では参考データとしてマイクロ波を用いた一般的な表面波プラズマにおけるフォトレジストの削れ量を参考データ(図7では「SWP」で表記)として載せている。
【0038】
従来の金属電極のときには、チャージ電流が多いので、その分、波形データのピーク電圧は低い。従来の金属電極のときのパルス波の波形データ(波形1)は、図6(a)に示す通りである。図6(b)は図6(a)を時間軸に拡大した図である。従来の金属電極のときには、ピーク電圧は500Vである(図6(b)の「500Vpeek」を参照)。
【0039】
一方、本実施例における誘電体バリアの電極2のときには、従来の金属電極のときよりもチャージ電流が減る。従来の金属電極のときと本実施例における誘電体バリアの電極2のときでは投入電力が900Wで繰り返し周波数が30kHzと同じであるので、本実施例における誘電体バリアの電極2のときには、従来の金属電極のときよりもチャージ電流が減った分、波形データのピーク電圧は高くなる。本実施例における誘電体バリアの電極2のときのパルス波の波形データ(波形2)は、図6(c)に示す通りである。図6(d)は図6(c)を時間軸に拡大した図である。本実施例における誘電体バリアの電極2のときには、従来の金属電極のときよりもピーク電圧は高くなり、ピーク電圧は4.5kVである(図6(d)の「4.5kVpeek」を参照)。
【0040】
また、本実施例における誘電体バリアの電極2のときにおいて、繰り返し周波数を15kHzにした場合には、同じ誘電体バリアの電極2のときにおいて、繰り返し周波数が30kHzと比べると、波形データのピーク電圧は高くなる。繰り返し周波数が15kHzで、本実施例における誘電体バリアの電極2のときのパルス波の波形データ(波形3)は、図6(e)に示す通りである。図6(f)は図6(e)を時間軸に拡大した図である。本実施例における誘電体バリアの電極2のときにおいて、繰り返し周波数を15kHzにした場合には、同じ誘電体バリアの電極2のときにおいて、繰り返し周波数が30kHzの場合よりもピーク電圧は高くなり、ピーク電圧は7kVである(図6(d)の「7kVpeek」を参照)。
【0041】
酸素をチャンバーに入れてプラズマを生成し、シリコンウエハーにフォトレジストを塗布したものをワークとしてチャンバー内に入れて、フォトレジストに対するプラズマアッシングを行う。プラズマアッシングによるフォトレジストの削れ量の実験結果は、図7に示す通りである(図7では「Oプラズマの生成方法によるフォトレジストの削れ量比較」)。図7の縦軸はフォトレジストの削れ量であり、横軸はワークと(接地電極ではないホット電極の方の)電極との距離(図7では「ギャップ間距離」で表記)である。
【0042】
従来の金属電極のときには、フォトレジストの削れ量が少なく、本実施例における誘電体バリアの電極2のときには、フォトレジストの削れ量が多くなることが、図7から確認されている。また、同じ誘電体バリアの電極2のときにおいても、繰り返し周波数が30kHzと比べると、繰り返し周波数を15kHzにした場合には、フォトレジストの削れ量が多くなることが、図7から確認されている。
【0043】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0044】
(1)上述した実施例では、放電装置として、プラズマ処理装置を例に採って説明したが、ワークを置かずに、プラズマを発生させるプラズマ発生装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)〜(c)は、実施例に係るプラズマ処理装置の概略図である。
【図2】パルス波の出力に関する概略図である。
【図3】(a)〜(c)は、図1とは別態様のプラズマ処理装置の概略図である。
【図4】(a)(b)は、従来のプラズマ処理装置の概略図である。
【図5】図4とは別の従来のプラズマ処理装置の概略図である。
【図6】実施例における誘電体バリアの電極のときのパルス波の波形データと、従来の金属電極のときのパルス波の波形データとの比較に関する実験データである。
【図7】実施例における誘電体バリアの電極のときのフォトレジストの削れ量と、従来の金属電極のときのフォトレジストの削れ量との比較に関する実験データである。
【符号の説明】
【0046】
1 … チャンバー
2 … 誘電体バリアの電極
3 … 金属電極
5 … パルス電源
24 … 誘電体バリア
PM … プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーを備え、チャンバー内で放電させる放電装置であって、誘電体が被覆された誘電体バリアの電極をチャンバー内に備え、その誘電体バリアの電極を用いて放電させることを特徴とする放電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放電装置において、パルス電源を備え、そのパルス電源からのパルス波を電極に印加することにより前記チャンバー内で放電させることを特徴とする放電装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放電装置において、前記チャンバー内にチャンバーとは独立して2つの電極を備え、それら電極のうち少なくとも一方が前記誘電体バリアの電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項4】
請求項3に記載の放電装置において、前記2つの電極がともに前記誘電体バリアの電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項5】
請求項3に記載の放電装置において、前記2つの電極のうち一方が前記誘電体バリアの電極であるとともに、他方が、誘電体が被覆されていない金属電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の放電装置において、前記チャンバー内にチャンバーとは独立して1つの電極を備え、前記チャンバーを接地させて接地電極を兼用し、それら電極のうち少なくとも一方が前記誘電体バリアの電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項7】
請求項6に記載の放電装置において、前記チャンバー内にチャンバーとは独立して備えられた前記電極が前記誘電体バリアの電極であり、前記接地電極を兼用したチャンバーが、誘電体が被覆されていない金属電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項8】
請求項6に記載の放電装置において、前記チャンバー内にチャンバーとは独立して備えられた前記電極が、誘電体が被覆されていない金属電極であり、前記接地電極を兼用したチャンバーが前記誘電体バリアの電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項9】
請求項6に記載の放電装置において、前記チャンバー内にチャンバーとは独立して備えられた前記電極、および前記接地電極を兼用したチャンバーがともに前記誘電体バリアの電極であることを特徴とする放電装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の放電装置において、放電はプラズマ放電であって、プラズマ放電によってプラズマを発生させることを特徴とする放電装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の放電装置において、前記チャンバー内を大気圧よりも低い減圧下にして放電させることを特徴とする放電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−272318(P2009−272318A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118719(P2008−118719)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(593030923)株式会社ニッシン (14)
【Fターム(参考)】