説明

有機薄膜の形成方法および形成装置、ならびに有機デバイスの製造方法

【課題】厚さおよび大きさを制御しながら単結晶の有機薄膜を迅速かつ容易に形成することが可能な有機薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】温度制御可能な支持体1により支持された製膜用基体10の一面(幅広の溶液蓄積領域11およびそれに連結された幅狭の溶液絞込領域12)に有機溶液20を供給したのち、支持体1とは独立して温度制御可能な移動体4を有機溶液20に接触させながら支持体1の表面に沿って移動させる。支持体1の温度TSは、有機溶液20に関する溶解度曲線と過溶解度曲線との間に位置する温度に設定されると共に、移動体4の温度TMは、溶解度曲線よりも高温側に位置する温度に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒に有機材料が溶解された有機溶液を用いる有機薄膜の形成方法および形成装置、ならびにそれを用いた有機デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種用途の次世代デバイスに用いる薄膜として、無機薄膜の代わりに有機薄膜に関する研究開発が盛んに行われている。塗布法および印刷法などの簡便かつ安価な方法を用いて有機薄膜を形成可能であるため、その有機薄膜を用いた有機デバイスの製造容易化および低コスト化を実現できるからである。また、有機薄膜のフレキシブル性を利用して、折り曲げ可能な有機デバイスも実現できるからである。
【0003】
ただし、有機薄膜を用いた有機デバイスを実用化するためには、当然ながら、上記した製造容易化および低コスト化などだけでなく、そのデバイス本来の性能を確保するために、優れた膜特性を有する有機薄膜を形成することも要求される。そこで、単結晶の有機薄膜を形成する方法が検討されている。
【0004】
具体的には、有機材料が溶解された有機溶液を塗布して、溶液成長により有機薄膜を形成する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法では、シリコン基板の上に設けられた構造物に隣接するように有機溶液を滴下して大気乾燥し、その構造物を利用して結晶の成長方向を制御している。
【0005】
また、気相成長により有機薄膜を形成する方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。この方法では、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のスタンプを用いてオクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の薄膜を酸化ケイ素膜に転写したのち、その薄膜の上において結晶を成長させている。
【0006】
さらに、ラジエータにより支持された基板を有機溶液に浸漬させて、溶液成長により有機薄膜を形成する方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。この方法では、ラジエータを用いて基板の温度を調整し、その基板の表面において有機溶液中の溶質(有機材料)を結晶化させている。ただし、この方法では、有機溶液中にランダムに生じた結晶核が基板の表面に付着し、その結晶核を起点として結晶が成長しているため、バルク状の結晶が形成されていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Very High Mobility in Solution-Processed Organic Thin-Film Transistors of Highly Ordered [1] Benzothieno [3,2-b] benzothiophene Derivatives,Applied Physics Express ,2 ,2009,p.111501-1〜3 ,Jun Takeya 等
【非特許文献2】Patterning organic single-crystal transistor arrays ,nature,Vol.444 ,14 December 2006,Alejandro L.Briseno 等
【非特許文献3】Direct Formation of Thin Single Crystal of Organic Semiconductors onto a Substrate,CHEMISTRY OF MATERIALS,19(15),2007,p.3748-3753,Takeshi Yamao等
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ディスプレイなどに代表される最近の電子機器は、ますます多機能化および高性能化する傾向にある。そこで、有機薄膜の形成精度を確保して有機デバイスを安定に製造するために、その有機薄膜の厚さおよび大きさを制御する必要がある。しかしながら、従来の有機薄膜の形成方法では、単結晶の有機薄膜を形成することはできるが、その厚さおよび大きさまで厳密に制御することが困難である。また、溶液成長により有機溶液中の溶質を結晶化させるために、長時間を要する。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、厚さおよび大きさを制御しながら単結晶の有機薄膜を迅速かつ容易に形成することが可能な有機薄膜の形成方法および形成装置、ならびに有機デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機薄膜の形成方法は、温度を制御可能である支持体により支持された製膜用基体の一面における溶液蓄積領域およびそれに連結された溶液絞込領域に、溶媒およびそれに溶解された有機材料を含む有機溶液を供給し、製膜用基体から離間されるように支持体に対向配置されると共に支持体とは独立して温度を制御可能である移動体を、有機溶液に接触させながら支持体の表面に沿って移動させるようにしたものである。この場合には、溶液絞込領域の幅を溶液蓄積領域の幅よりも狭くすると共に、溶液絞込領域を溶液蓄積領域よりも移動体の移動方向における後方に配置する。また、有機溶液に関する溶解度曲線(濃度対温度)と過溶解度曲線(濃度対温度)との間の温度となるように支持体の温度を設定すると共に、溶解度曲線よりも高温側の温度となるように移動体の温度を設定する。
【0011】
本発明の有機薄膜の形成装置は、製膜用基体と、製膜用基体を支持すると共に温度を制御可能である支持体と、製膜用基体から離間されるように支持体に対向配置され、支持体の表面に沿って移動可能であると共に支持体とは独立して温度を制御可能である移動体とを備えたものである。製膜用基体は、溶媒およびそれに溶解された有機材料を含む有機溶液が供給される溶液蓄積領域およびそれに連結された溶液絞込領域を一面に有し、溶液絞込領域の幅は溶液蓄積領域の幅よりも狭くなっていると共に、溶液絞込領域は溶液蓄積領域よりも移動体の移動方向における後方に配置されている。移動体は、溶液蓄積領域および溶液絞込領域に供給された有機溶液に接触しながら移動する。
【0012】
本発明の有機デバイスの製造方法は、有機薄膜を用いた有機デバイスを製造するために、上記した本発明の有機薄膜の形成方法または形成装置を用いるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機薄膜の形成方法または形成装置によれば、支持体により支持された製膜用基体の一面(幅広の溶液蓄積領域およびそれに連結された幅狭の溶液絞込領域)に有機溶液を供給したのち、移動体を有機溶液に接触させながら支持体の表面に沿って移動させている。この支持体の温度は、有機溶液に関する溶解度曲線と過溶解度曲線との間に位置する温度となるように設定されると共に、移動体の温度は、溶解度曲線よりも高温側に位置する温度となるように設定される。この場合には、移動体の移動に応じて、有機溶液の各部が高温の移動体により加熱されると共に低温の支持体により冷却されるため、その有機溶液中に移動体の移動方向に向かって次第に高くなるように温度勾配が生じる。また、溶液蓄積領域と溶液絞込領域との連結位置の近傍において有機溶液の過飽和度が局所的に上昇するため、温度勾配を有する有機溶液中において、低温側の部分における狭い範囲に結晶核が形成されると共に、高温側の部分では低温側の部分に形成された結晶核を起点として結晶が成長する。このため、有機溶液を用いた溶液成長により単結晶の有機薄膜が形成される。しかも、製膜用基体と移動体との間の距離に応じて有機薄膜の厚さが制御されると共に、溶液蓄積領域および溶液絞込領域の平面形状に応じて有機薄膜の大きさが制御される。その上、支持体よりも高温の移動体が有機溶液に接触するため、その有機溶液中の溶媒を蒸発させる(溶質を結晶化させる)ために要する時間が短くなる。よって、厚さおよび大きさを制御しながら単結晶の有機薄膜を迅速かつ容易に形成できる。
【0014】
また、本発明の有機デバイスの製造方法によれば、上記した本発明の有機薄膜の形成方法および形成装置を用いて有機薄膜を形成しているので、有機薄膜の厚さおよび大きさが制御されると共に、その有機薄膜が迅速かつ容易に形成される。よって、有機デバイスを安定、迅速かつ容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態における有機薄膜の形成装置の構成を表すブロック断面図および平面図である。
【図2】有機薄膜の形成方法に用いられる製膜用基体の構成を表す平面図である。
【図3】有機薄膜の形成方法における一工程を説明するための断面図および平面図である。
【図4】図3に続く工程を説明するための断面図および平面図である。
【図5】図4に続く工程を説明するための断面図および平面図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面図および平面図である。
【図7】図6に続く工程を説明するための断面図および平面図である。
【図8】有機薄膜の形成条件を説明するための図である。
【図9】溶液蓄積領域および溶液絞込領域の平面形状に関する変形例を表す平面図である。
【図10】有機薄膜の形成方法に関する変形例を説明するための平面図である。
【図11】有機薄膜の形成方法に関する他の変形例を説明するための断面図および平面図である。
【図12】図11に続く工程を説明するための断面図および平面図である。
【図13】有機薄膜の形成装置および形成方法が適用される有機デバイスの構成および製造方法を説明するための断面図である。
【図14】有機デバイスの構成に関する変形例を表す断面図である。
【図15】有機デバイスの構成に関する他の変形例を表す断面図である。
【図16】有機デバイスの構成に関するさらに他の変形例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.有機薄膜の形成方法および形成装置
1−1.形成装置
1−2.形成方法
2.有機デバイスの製造方法
【0017】
<1.有機薄膜の形成方法および形成装置>
<1−1.形成装置>
まず、本発明の一実施形態における有機薄膜の形成装置(以下、「製膜装置」という。)の構成について説明する。図1は、製膜装置のブロック断面構成(A)および平面構成(B)を表しており、図1(A)では、図1(B)に示したA−A線に沿った断面を示している。図2は、有機薄膜を形成するために用いられる製膜用基体10の平面構成を表している。
【0018】
ここで説明する製膜装置は、製膜用基体10の一面に有機溶液を供給(塗布)して溶液成長により単結晶の有機薄膜を形成するために用いられるものであり、いわゆるバーコータである。なお、有機溶液は、溶媒およびそれに溶解された有機材料を含んでおり、必要に応じて、それら以外の他の材料を含んでいてもよい。
【0019】
この製膜装置は、例えば、図1に示したように、フード2により覆われた支持体1と、その支持体1およびフード2により囲まれた空間(製膜室3)の内部に収容された移動体4と、支持体1の温度TSを制御する温度制御手段5と、移動体4の温度TMおよび移動をそれぞれ制御する温度制御手段6および移動制御手段7とを備えている。この製膜室3には、移動体4と一緒に製膜用基体10も収容される。なお、図1(B)では、フード2、温度制御手段5,6および移動制御手段7の図示を省略しており、後述する図3以降においても同様である。
【0020】
支持体1は、製膜用基体10を支持するものである。温度制御手段5は、例えば、ヒータなどを含んでおり、支持体1の温度TSを所望の温度となるように制御する。なお、支持体1および温度制御手段5は、一体品でもよいし、別体品でもよい。ここでは、支持体1および温度制御手段5は、例えば、温度制御機能を有するサセプタなどの一体品である。
【0021】
フード2は、製膜室3を密閉するものであり、例えば、ガラスなどにより形成されている。これにより、製膜室3の内部の圧力(蒸気圧)Pは、所望の蒸気圧となるように維持される。
【0022】
移動体4は、例えば、いわゆるバーコータ用のバーであり、例えば、クロム(Cr)が鍍金された銅(Cu)などにより形成されている。この移動体4は、支持体1に対向配置されていると共に、その支持体1から離間されている。また、移動体4は、例えば、支持体1の表面に沿って延在する略円柱状の立体形状を有しており、その延在方向(X軸方向)と交差する方向(Y軸方向)において高さ(支持体1と移動体4との間の距離)を維持しながら移動可能になっている。この移動体4の移動範囲は、支持体1の一端側における位置S1から、他端側における位置S2までである。ただし、移動体4の立体形状は、必ずしも略円柱状に限られない。なお、移動体4は、製膜用基体10の一面に有機溶液が供給された際に、その有機溶液に接触しながら移動する。
【0023】
温度制御手段6は、例えば、ヒータなどを含んでおり、移動体4の温度TMを所望の温度となるように制御する。ただし、温度制御手段6は、支持体1の温度TSとは独立して移動体4の温度TMを制御可能になっている。移動制御手段7は、例えば、モータなどを含んでおり、移動体4の移動速度を所望の移動速度となるように制御する。
【0024】
製膜用基体10は、有機溶液が供給されると共に有機薄膜が形成される基体であり、例えば、ガラス、プラスチック材料または金属材料などの基板でもよいし、プラスチック材料または金属材料などのフィルムでもよい。なお、製膜用基体10は、上記した基板またはフィルムなどの上に1層または2層以上の各種膜が設けられたものでもよい。
【0025】
この製膜用基体10は、図2に示したように、有機薄膜が形成される側の一面に、有機溶液が供給される溶液蓄積領域11およびそれに連結された溶液絞込領域12を有している。溶液蓄積領域11は、有機薄膜を形成するために消費される有機溶液を蓄積しておくための領域であり、溶液絞込領域12は、溶液蓄積領域11に供給された有機溶液を絞り込むための領域である。ただし、溶液絞込領域12の幅は、溶液蓄積領域11の幅よりも狭くなっていると共に、その溶液絞込領域12は、溶液蓄積領域11よりも移動体4の移動方向における後方(移動体4の移動開始位置である位置S1に近い側)に配置されている。
【0026】
製膜用基体10が幅広の溶液蓄積領域11および幅狭の溶液絞込領域12を有しているのは、気相(製膜室3の内部の大気または蒸気)と接する液相(有機溶液)の面積に差異を生じさせるためである。気相と接する面積が大きい(幅が広い)溶液蓄積領域11では、有機溶液中の溶媒が蒸発しやすくなるのに対して、気相と接する面積が小さい(幅が狭い)溶液絞込領域12では、有機溶液中の溶媒が蒸発しにくくなる。これにより、溶液蓄積領域11と溶液絞込領域12との連結位置の近傍において溶媒の蒸発が局所的に速くなるため、有機溶液の過飽和度が局所的に上昇する。本発明では、有機溶液を用いた溶液成長により有機薄膜を形成するために、上記した過飽和度の局所的上昇を利用して有機溶液中の溶質(有機材料)を結晶化させる。この有機薄膜の形成メカニズムに関する詳細については、後述する。
【0027】
特に、製膜用基体10は、例えば、図2に示したように、一面に親液性領域13および撥液性領域14を有しており、上記した溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12は、親液性領域13であることが好ましい。この場合には、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12が有機溶液に対して親液性(親液性領域13)になるのに対して、それ以外の領域が有機溶液に対して撥液性(撥液性領域14)になる。ここでは、親液性領域13の数(溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の組数)は、例えば、1つ(1組)である。
【0028】
親液性領域13は、有機溶液に対して濡れやすい領域であり、製膜用基体10の表面において有機溶液を定着させる性質を有している。一方、撥液性領域14は、有機溶液に対して濡れにくい領域であり、製膜用基体10の表面において有機溶液をはじく性質を有している。親液性領域13および撥液性領域14を有する製膜用基体10は、例えば、親液性の基板などの表面に撥液性の表面処理または膜形成処理が施されたものでもよいし、撥液性の基板などの表面に親液性の表面処理または膜形成処理が施されたものでもよい。前者の場合には、表面処理などが施された領域が撥液性領域14になり、それ以外の領域が親液性領域13になる。後者の場合には、表面処理などが施された領域が親液性領域13になり、それ以外の領域が撥液性領域14になる。一例を挙げると、製膜用基体10は、シリコン基板の一面を覆うように設けられた有機絶縁膜(ポリビニルピロリドンフィルム)の上に、アモルファスフッ素樹脂膜(旭硝子株式会社製サイトップ)が部分的に形成されたものである。すなわち、アモルファスフッ素樹脂膜が形成された領域は撥液性領域14であり、それ以外の領域は親液性領域13である。
【0029】
製膜用基体10が親液性領域13および撥液性領域14を有しているのは、濡れ性の違いを利用して有機溶液を所望の領域(親液性領域13)に定着させるためである。これにより、有機溶液の存在範囲が正確に制御される。なお、親液性領域13および撥液性領域14のそれぞれの濡れ性(表面エネルギー)は、親液性領域13に有機溶液を定着させることができる程度に異なっていればよい。
【0030】
溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状は、両者の間に上記した幅の大小関係および位置関係が成立していれば、任意に設定可能である。中でも、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状は、有機薄膜の平面形状に対応していることが好ましい。製膜用基体10の表面における有機溶液の存在範囲に応じて有機薄膜の平面形状が決定されるため、その有機薄膜の平面形状を所望の形状となるように制御できるからである。
【0031】
ここでは、溶液蓄積領域11は、例えば、滴型(ティアドロップ型)の平面形状を有しており、その幅は、移動体4の移動方向に向かって広がったのちに狭まっている。また、溶液絞込領域12は、例えば、矩形型の平面形状を有しており、その幅は、移動体4の移動方向において一定である。
【0032】
なお、製膜装置は、上記以外の図示しない他の構成要素を備えていてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、有機溶液を供給するための溶液ポンプなどが挙げられる。
【0033】
<1−2.形成方法>
次に、製膜装置を用いた有機薄膜の形成方法について説明する。図3〜図7は、有機薄膜30の形成工程を説明するためのものであり、いずれも図1に対応する断面構成および平面構成を表している。また、図8は、有機薄膜30の形成条件を説明するために、有機溶液20に関する溶解度曲線Y1および過溶解度曲線Y2を表しており、横軸および縦軸はそれぞれ濃度Cおよび温度Tである。
【0034】
有機薄膜30を形成する場合には、最初に、図3に示したように、移動体4を位置S1に待機させると共に、支持体1の上に製膜用基体10を固定する。この場合には、移動体4の高さ(製膜用基体10と移動体4との間の距離)Gに応じて有機薄膜30の厚さが決定されるため、その高さGを所望の値となるように調整する。
【0035】
なお、製膜室3の内部に有機溶液20中の溶媒と同じ種類の溶媒(補助溶媒)の蒸気を満たして蒸気圧Pを調整しておくことが好ましい。蒸気圧Pが溶媒の蒸発量に影響を及ぼすことを抑制するためである。この場合には、例えば、補助溶媒を入れたビーカーなどの容器を製膜用基体10と一緒に支持体1の上に置いておけばよい。支持体1により有機溶液20の温度と補助溶媒の温度とが一緒に制御されるからである。ただし、製膜室3の内部には、補助溶媒の蒸気と一緒に1種または2種以上の他の気体(例えば窒素ガスなど)が満たされていてもよい。
【0036】
続いて、製膜用基体10の一面(溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12)に有機溶液20(任意の濃度C1:図8)を供給する。この場合には、例えば、溶液蓄積領域11に有機溶液20を供給して、その溶液蓄積領域11から溶液絞込領域12に有機溶液20を流入させる。溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12は有機溶液に対して親液性(親液性領域13)であるため、その有機溶液20は溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を満たす。有機溶液20の供給量は、任意であり、少なくとも溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を満たすことができる量であればよい。
【0037】
図3〜図6では、後工程において有機薄膜30の形成メカニズムを説明するために、有機溶液20のうち、移動体4と最初に接触する部分(一端部20A)と、その後に移動体4と接触する部分(中央部20Bおよび他端部20C)とを示している。この一端部20Aは、例えば、溶液絞込領域12に存在している。
【0038】
有機溶液20を調製するために用いる溶媒の種類は、溶質である有機材料を溶解できる液体であれば特に限定されないが、中でも、多くの種類の有機材料を安定に溶解させやすいと共に優れた揮発性を有する有機溶剤が好ましい。また、有機材料の種類は、有機薄膜30の機能などに応じて任意に選択可能である。一例を挙げると、有機材料は、例えば、結晶の成長方向(有機分子の配列方向)に応じて電気的特性(電子移動度など)が変化する有機半導体材料などである。
【0039】
ここで、支持体1の温度TSおよび移動体4の温度TMは、図8に示した溶解度曲線Y1および過溶解度曲線Y2に基づいて設定される。このため、溶解度曲線Y1および過溶解度曲線Y2は、有機薄膜30を形成するために用いる有機材料およびそれを溶解させる溶媒について、有機薄膜30の形成作業を行う前にあらかじめ準備(測定)されていることが好ましい。
【0040】
図8に示した範囲R1〜R3は、有機溶液20の状態を表している。溶解度曲線Y1よりも高温側の範囲R3は、結晶が溶解する状態(溶液状態)である。溶解度曲線Y1と過溶解度曲線Y2との間の範囲R2は、結晶核を起点として結晶が成長する状態(結晶成長状態)である。過溶解度曲線Y2よりも低温側の範囲R1は、結晶核が形成される状態(結晶核形成状態)である。なお、点A〜点Cは、有機薄膜30を形成する際の温度条件の一例を表している。
【0041】
支持体1の温度TSは、溶解度曲線Y1と過溶解度曲線Y2との間(範囲R2)に位置する温度であり、より具体的には、例えば、点Bに対応するT2となるように設定される。一方、移動体4の温度TMは、溶解度曲線Y1よりも高温側(範囲R3)に位置する温度であり、より具体的には、例えば、点Aに対応するT1となるように設定される。この場合には、製膜室3の内部の蒸気圧Pが温度T2における飽和蒸気圧であることが好ましい。液層(有機溶液20)と気相(蒸気)とが平衡状態になるため、有機溶液20中の溶媒が意図せずに蒸発することを抑制できるからである。
【0042】
製膜用基体10の一面に有機溶液20が供給された状態では、支持体1は製膜用基体10を介して有機溶液20に間接的に接触しているのに対して、移動体4は有機溶液20に接触していない。このため、有機溶液20の初期状態の温度Tは、支持体1の温度TS(=T2)に等しくなる。これにより、有機溶液20は結晶成長状態(範囲R2)になるが、その有機溶液20中に結晶核は未だ形成されていないため、結晶成長は生じない。
【0043】
支持体1の温度TSをT2にするのは、温度TSを過溶解度曲線Y2よりも低温側(範囲R1)に位置する温度、例えば点Cに対応するT3にすると、有機溶液20が最初から結晶核形成状態になるため、その有機溶液20中において結晶核がランダムに形成されてしまうからである。この場合には、バルク状の結晶が形成されてしまう。
【0044】
続いて、図4〜図6に示したように、移動体4を位置S1から位置S2まで移動させる。この場合には、有機溶液20のうち、支持体1より高温の移動体4と接触した部分の温度Tが順次上昇すると共に、接触後(移動体4の通過後)の部分の温度Tが支持体1により順次冷却されるため、有機溶液20中には、移動体4の移動方向に向かって次第に高くなるように温度勾配が生じる。これにより、有機溶液20中に結晶核が形成されると共に、その結晶核を起点として結晶が成長する。
【0045】
詳細には、移動体4が位置S1から位置S2まで移動する場合には、図4に示したように、支持体1(温度TS=T2)よりも高温の移動体4(温度TM=T1)が最初に有機溶液20の一端部20Aに接触する。これにより、一端部20Aは移動体4により加熱され、その温度TはT2からT1まで上昇するため、一端部20Aは溶液状態(範囲R3)になる。
【0046】
続いて、移動体4が有機溶液20の途中まで到達すると、図5に示したように、移動体4が一端部20Aに続いて中央部20Bに接触する。この場合には、中央部20Bが高温の移動体4により加熱されると共に、一端部20Aが低温の支持体1により冷却されるため、有機溶液20中には、一端部20Aから中央部20Bに向かって次第に温度が高くなるように温度勾配が生じる。これにより、中央部20Bの温度TはT2からT1まで上昇するため、その中央部20Bは溶液状態(範囲R3)になる。一方、一端部20Aの温度TはT1からT2まで低下するため、その一端部20Aは結晶成長状態(範囲R2)に戻る。
【0047】
ここで、結晶成長状態に戻る一端部20Aでは、未だ結晶核が形成されていないため、本来であれば、結晶核の形成も結晶の成長も生じないはずである。ところが、一端部20Aでは、以下の理由により、有機溶液20中に結晶核が形成されると共に、その結晶核を起点として結晶が成長する。
【0048】
有機溶液20は、幅広の溶液蓄積領域11および幅狭の溶液絞込領域12に存在しているため、溶液蓄積領域11よりも溶液絞込領域12において絞り込まれている。これにより、上記したように、溶液蓄積領域11に存在している有機溶液20と溶液絞込領域12に存在している有機溶液20とでは、気相と接する面積に差異が生じる。このため、気相と接する面積が大きい溶液蓄積領域11では、有機溶液20中の溶媒が蒸発しやすくなるのに対して、気相と接する面積が小さい溶液絞込領域12では、有機溶液20中の溶媒が蒸発しにくくなる。この気相と接する面積の違いに応じて蒸発速度に差異が生じ、有機溶液20中における連結位置の近傍において溶媒の蒸発が局所的に速くなるため、その有機溶液20の過飽和度が局所的に上昇する。これにより、過飽和度が局所的に上昇した領域では、有機溶液20が過溶解度曲線Y2よりも低温側(範囲R1)の結晶核形成状態と同様の状態になるため、その有機溶液20中の溶質が結晶化する。この結果、有機溶液20中における狭い範囲(連結位置の近傍)に結晶核が形成される。また、有機溶液20中における溶質の拡散現象により、その有機溶液20から溶質を供給されながら結晶核を起点として結晶が成長する。これにより、単結晶の有機薄膜30が形成される。この場合には、溶液絞込領域12の幅が十分に狭いと、実質的に単一の結晶核が形成される。
【0049】
続いて、移動体4がさらに移動すると、図6に示したように、移動体4が中央部20Bに続いて他端部20Cに接触する。この場合には、他端部20Cが高温の移動体4により加熱されると共に、中央部20Bが低温の支持体1により冷却されるため、有機溶液20中には、一端部20Aから他端部20Cに向かって次第に温度が高くなるように温度勾配が生じる。これにより、他端部20Cの温度TはT2からT1まで上昇するため、その端端部20Cは溶液状態(範囲R3)になる。一方、中央部20Bの温度TはT1からT2まで低下するため、その中央部20Bは結晶成長状態(範囲R2)に戻る。
【0050】
よって、結晶成長状態に戻る中央部20Bでは、先に結晶成長状態に戻っている一端部20Aについて説明した場合と同様の理由により、結晶核が形成されるはずである。ところが、一端部20Aにおいて既に結晶核が形成されているため、中央部20Bでは、その一端部20Aに既に形成されている結晶核を起点として結晶が成長することになる。このため、有機溶液20中では、移動体4の移動方向、すなわち一端部20Aから他端部20Cに向かって、溶質が連続的に結晶化される。
【0051】
最後に、移動体4が位置S2に到達すると、図7に示したように、上記した有機溶液20中における連続的な結晶成長が完了する。このため、製膜用基体10の一面における親液性領域13に、厚さHを有する有機薄膜30が形成される。ここでは、例えば、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12のうち、溶液蓄積領域11の全部と溶液絞込領域12の一部とを占有するように有機薄膜30が形成される。ただし、有機薄膜30の形成範囲は、必ずしもこれに限られない。
【0052】
なお、ここでは説明および図示内容を簡略化するために、移動体4が位置S2に到達すると有機薄膜30が形成されることとしている。しかしながら、実際には、上記した有機薄膜30の形成メカニズムから明らかなように、有機薄膜30は、移動体4の移動に応じて一端部20Aから他端部20Cに向かって順次形成されていく。
【0053】
[有機薄膜の形成方法および形成装置に関する作用および効果]
この有機薄膜の形成方法および形成装置では、支持体1(温度TS)により支持された製膜用基体10の一面(幅広の溶液蓄積領域11およびそれに連結された幅狭の溶液絞込領域12)に有機溶液20を供給したのち、移動体4(温度TM)を有機溶液20に接触させながら支持体1の表面に沿って移動させている。この支持体1の温度TSは、溶解度曲線Y1と過溶解度曲線Y2との間(範囲R2)に位置する温度T2となるように設定されると共に、移動体4の温度TMは、溶解度曲線Y1よりも高温側(範囲R3)に位置する温度T1となるように設定される。
【0054】
この場合には、図1〜図8を参照して説明したように、有機溶液20中において一端部20Aから他端部20Cに向かって次第に高くなるように温度勾配が生じると共に、溶液蓄積領域11と溶液絞込領域12との連結位置の近傍において有機溶液20の過飽和度が局所的に上昇する。これにより、一端部20Aにおける狭い範囲に結晶核が形成されると共に、中央部20Bおよび他端部20Cでは一端部20Aに形成された結晶核を起点として結晶が成長する。このため、有機溶液20を用いた溶液成長により単結晶の有機薄膜30が形成される。
【0055】
また、製膜用基体10と移動体4との間の距離Gにより、有機薄膜30の形成に用いられる有機溶液20(溶質)の量が決定されるため、その距離Gに応じて有機薄膜30の厚さHが制御される。また、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の形成範囲により有機薄膜30の形成範囲が決定されるため、その溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状に応じて有機薄膜30の大きさが制御される。
【0056】
しかも、支持体1よりも高温の移動体4が有機溶液20に接触するため、その有機溶液20中の溶質を結晶化させるために必要な溶媒の蒸発が促進される。これにより、溶媒を自然蒸発させる場合と比較して、溶質を結晶化させるために要する時間が短くなる。
【0057】
よって、厚さおよび大きさを制御しながら単結晶の有機薄膜30を迅速に形成できる。
【0058】
特に、単結晶の有機薄膜30を形成するためには、支持体1(温度TS)により支持された製膜用基体10の一面に有機溶液20を供給したのち、移動体4(温度TM)を有機溶液20に接触させながら移動させるだけでよい。よって、減圧環境などの特別な環境を必要とせず、特殊な装置なども必要としないため、単結晶の有機薄膜30を容易に形成できる。
【0059】
また、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12が有機溶液20に対して親液性(親液性領域13)であると共にそれ以外の領域が有機溶液20に対して撥液性(撥液性領域14)であれば、濡れ性の違いを利用して有機溶液20が所望の範囲(親液性領域13)に定着しやすくなる。よって、上記した有機溶液20の過飽和度の上昇が確実に生じるため、有機薄膜30の形成位置を正確に制御できる。
【0060】
[変形例]
なお、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状は、図2に示した場合に限られず、任意に変更可能である。有機薄膜30の平面形状は、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状に基づいて決定されるため、その溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状の平面形状に応じて、有機薄膜30の平面形状を制御できる。ここで、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状に関する他の例は、図9に示した通りである。
【0061】
図9(A)〜(D)では、それぞれ溶液蓄積領域11の平面形状を菱形、階段状形状、円形または三角形に変更している。図9(E),(F)では、それぞれ図2および図9(A)に示した場合において、溶液蓄積領域11を移動体4の移動方向に(位置S1から位置S2に向かって)拡張している。この場合には、図9(E)に示したように、溶液蓄積領域11の幅を一定にしてもよいし、図9(F)に示したように、溶液蓄積領域11の幅を変化させてもよい。図9(G)では、図9(A)に示した場合において、溶液蓄積領域11(親液性領域13)の内側に撥液性領域14を設けている。この場合においても、溶液蓄積領域11を有するため、図2に示した場合と同様に単結晶の有機薄膜30を形成できる。図9(H),(I)では、それぞれ図2および図9(D)に示した場合において、溶液蓄積領域11から溶液絞込領域12に向かって幅を連続的に減少させている。この場合には、有機溶液20中において結晶核の形成範囲がより狭い範囲に絞られるため、実質的に単一の結晶核を形成できる。
【0062】
図2および図9を参照して説明した一連の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状に関する特徴は、任意に組み合わされてもよい。一例を挙げると、図9(A)の代わりに図9(C)などに示した場合において、図9(G)に示したように溶液蓄積領域11(親液性領域13)の内側に撥液性領域14を設けてもよい。また、図2の代わりに図9(B)などに示した場合において、図9(E),(F)に示したように溶液蓄積領域11を拡張してもよい。
【0063】
なお、図9(E),(F)に示したように、溶液蓄積領域11を拡張した場合には、溶液蓄積領域11の一部および溶液絞込領域12だけに有機溶液20を供給しておき、必要に応じて溶液ポンプなどを用いて溶液蓄積領域11に有機溶液20を追加供給しながら有機薄膜30を形成してもよい。この場合には、有機溶液20の供給量に応じて有機薄膜30の形成範囲が広がるため、有機薄膜30の大きさ(平面サイズ)を制御できる
【0064】
また、製膜用基体10の一面に溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を1組だけ設けるようしたが、図2に対応する図10に示したように、複数組の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を設けてもよい。この場合において、複数組の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の配列の仕方は、特に限定されない。一例を挙げると、図10(A)に示したように、移動体4の移動方向において各列における位置が一致するように複数組の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を配列してもよいし、図10(B)に示したように、移動体4の移動方向において各列における位置が交互にずれるように複数組の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を配列してもよい。この場合には、各組の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12に有機薄膜30が形成されるため、複数の有機薄膜30を一括形成できる。もちろん、複数組の溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12の平面形状は、図2に示した平面形状に限られず、図9に示した平面形状のいずれかでもよいし、2種類以上の平面形状が混在してもよい。
【0065】
また、図3〜図7に示したように、製膜用基体10の一面に有機溶液20を供給してから移動体4を移動させる代わりに、図11および図12に示したように、製膜用基体10の一面に有機溶液20を供給しながら移動体4を移動させてもよい。
【0066】
この場合には、最初に、図11に示したように、位置S1に待機している移動体4の上部に平坦部(テーパ部)4Fを形成し、その平坦部4Fに少量の有機溶液20を供給する。この有機溶液20は、移動体4の側面部(曲面部)に沿って製膜用基体10の一面(撥液性領域14)に到達するが、その撥液性領域14に定着することはできない。
【0067】
こののち、図3〜図7を参照して説明した場合と同様に、移動体4を位置S1から位置S2まで移動させる。この場合には、図12に示したように、有機溶液20が移動体4と一緒に移動するため、その移動体4が親液性領域13に到達すると、有機溶液20が親液性領域13に定着する。しかも、有機溶液20が親液性領域13に定着されながら移動体4が移動する過程において、親液性領域13に定着させるために有機溶液20が消費されても、移動体4の平坦部4Fの上に蓄えられている有機溶液20が追加供給される。よって、移動体4が位置S1から位置S2まで移動すると、製膜用基体10の一面に有機溶液20を供給してから移動体4を移動させた場合と同様に、親液性領域13(溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12)に有機溶液20が供給される。
【0068】
この場合においても、図3〜図7を参照して説明した場合と同様の作用が得られるため、有機溶液20を用いた溶液成長により単結晶の有機薄膜30が形成される。よって、厚さおよび大きさを制御しながら単結晶の有機薄膜30を迅速かつ容易に形成できる。特に、有機溶液20を供給しながら移動体4を移動させる場合には、溶液蓄積領域11および溶液絞込領域12を満たすために要する有機溶液20の量が少なくて済むと共に、移動体4の平坦部4Fに有機溶液20を供給するだけで済む。よって、少量の有機溶液20を用いて単結晶の有機薄膜30を簡単に形成できる。
【0069】
<2.有機デバイスの製造方法>
次に、上記した有機薄膜の形成方法の適用例について説明する。
【0070】
有機薄膜の形成方法は、有機薄膜を用いた多様な有機デバイスの製造方法に適用可能である。ここでは、有機薄膜の形成方法の適用例として、有機半導体材料を用いて形成された有機薄膜をチャネル層として利用する有機薄膜トランジスタ(TFT)の製造方法について説明する。
【0071】
[有機TFTの構成]
図13は、有機薄膜の形成方法を用いて製造される有機TFTの断面構成を表している。この有機TFTは、例えば、基体41の上に、ゲート電極42と、ゲート絶縁層43と、ソース電極44およびドレイン電極45と、チャネル層46とがこの順に積層されたものである。この有機TFTは、ゲート電極42がチャネル層46の下側(基体41に近い側)に位置すると共にソース電極44およびドレイン電極45がチャネル層46の下側に重なるボトムゲート・ボトムコンタクト型である。
【0072】
基体41は、例えば、上記した製膜用基体10と同様の基板またはフィルムなどである。
【0073】
ゲート電極42は、基体41の上において、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、アルミニウム、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル、それらの化合物、またはそれらの合金などにより形成されている。
【0074】
ゲート絶縁層43は、ゲート電極42およびその周辺の基体41を覆っており、例えば、無機絶縁性材料または有機絶縁性高分子材料などにより形成されている。無機絶縁性材料は、例えば、酸化ケイ素(SiO2 )または窒化ケイ素(Si3 4 )などである。有機絶縁性高分子材料は、例えば、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミドまたはフッ素樹脂などである。
【0075】
ソース電極44およびドレイン電極45は、ゲート絶縁層43の上において互いに分離されており、例えば、無機導電性材料または有機導電性材料などにより形成されている。無機導電性材料は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、錫(Sn)、マンガン(Mn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ルビジウム(Rb)、それらの化合物、またはそれらの合金などである。有機導電性材料は、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)またはテトラチアフルバレン−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)などである。
【0076】
チャネル層46は、有機薄膜の形成方法を用いて形成される有機薄膜であり、ゲート絶縁層42、ソース電極44およびドレイン電極45の上に形成されている。このチャネル層46は、例えば、以下の有機半導体材料により形成されている。(1)ポリピロールおよびその誘導体、(2)ポリチオフェンおよびその誘導体、(3)ポリイソチアナフテンなどのイソチアナフテン類、(4)ポリチェニレンビニレンなどのチェニレンビニレン類、(5)ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(p−フェニレンビニレン)類、(6)ポリアニリンおよびその誘導体、(7)ポリアセチレン類、(8)ポリジアセチレン類、(9)ポリアズレン類、または(10)ポリピレン類である。(11)ポリカルバゾール類、(12)ポリセレノフェン類、(13)ポリフラン類、(14)ポリ(p−フェニレン)類、(15)ポリインドール類、(16)ポリピリダジン類、(17)ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、ピレン、ジベンゾピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレンまたはサーカムアントラセンなどのアセン類、(18)アセン類のうちの炭素の一部が窒素(N)、硫黄(S)または酸素(O)などの原子、あるいはカルボニル基などの官能基により置換された誘導体、例えば、トリフェノジオキサジン、トリフェノジチアジンまたはヘキサセン−6,15−キノンなど、(19)ポリビニルカルバゾール、ポリフエニレンスルフィドまたはポリビニレンスルフィドなどの高分子材料および多環縮合体、または(20)これらの高分子材料と同じ繰り返し単位を有するオリゴマー類である。(21)金属フタロシアニン類、(22)テトラチアフルバレンおよびその誘導体、(23)テトラチアペンタレンおよびその誘導体、(24)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ビス(4−トリフルオロメチルベンジル)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミドと共に、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロオクチル)、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロブチル)およびN,N’−ジオクチルナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド誘導体、(25)ナフタレン2,3,6,7テトラカルボン酸ジイミドなどのナフタレンテトラカルボン酸ジイミド類、(26)アントラセン2,3,6,7−テトラカルボン酸ジイミドなどのアントラセンテトラカルボン酸ジイミド類に代表される縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、(27)C60、C70、C76、C78またはC84などのフラーレン類、(28)単層ナノチューブ(SWNT)などのカーボンナノチューブ、(29)メロシアニン色素類またはヘミシアニン色素類などの色素である。
【0077】
[有機TFTの製造方法]
有機TFTを製造する場合には、最初に、基体41の一面に、ゲート電極42をパターン形成する。この場合には、例えば、気相成長法などを用いて基体41の表面を覆うようにゲート電極42の形成材料を堆積させて電極層(図示せず)を形成したのち、フォトリソグラフィ法およびエッチング法などを用いて電極層をパターニングする。気相成長法は、例えば、スパッタリング法、蒸着法または化学気相成長(CVD)法などである。エッチング法は、例えば、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法などのドライエッチング法、あるいはウェットエッチング法などである。なお、パターニング工程では、電極層の表面にフォトレジストを塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト膜をパターニングしたのち、そのフォトレジスト膜をマスクとして電極層をエッチングする。
【0078】
続いて、気相成長法などを用いて、ゲート電極42およびその周辺の基体41を覆うようにゲート絶縁層43を形成する。
【0079】
続いて、ゲート絶縁層43の上に、ソース電極44およびドレイン電極45をパターン形成する。この場合には、例えば、ゲート絶縁層43の表面を覆うようにソース電極44およびドレイン電極45の形成材料を堆積させて電極層(図示せず)を形成したのち、その電極層をパターニングする。なお、電極層の形成方法およびパターニング方法は、例えば、ゲート電極42を形成した場合と同様である。
【0080】
最後に、上記した有機薄膜の形成装置および形成方法を用いて、ゲート絶縁層43、ソース電極44およびドレイン電極45の上に、有機薄膜膜であるチャネル層46を形成する。この場合には、必要に応じて、親液性領域13または撥液性領域14(図2)を形成するために表面処理(任意の膜形成処理など)を行ってもよい。この有機薄膜の形成方法により形成されるチャネル層46では、結晶の成長方向に応じて電気的特性(例えば電子移動度など)が変化する。このため、チャネル層46を形成する場合には、ソース電極44およびドレイン電極45の位置関係に応じて所望の電気的特性が得られるように、チャネル層46を形成する向きを設定することが好ましい。これにより、有機TFTが完成する。
【0081】
[有機TFTの製造方法の作用および効果]
この有機TFTの製造方法では、上記した有機薄膜の形成装置および形成方法を用いてチャネル層46を形成しているので、チャネル層46の厚さおよび大きさが制御されると共に、そのチャネル層46が迅速かつ容易に形成される。よって、有機TFTを安定、迅速かつ容易に製造できる。これ以外の作用および効果は、有機薄膜の形成方法と同様である。
【0082】
[変形例]
有機TFTは、例えば、図13に対応する図14に示したように、ソース電極44およびドレイン電極45がチャネル層46の上側に重なるボトムゲート・トップコンタクト型でもよい。この場合には、有機TFTは、基体41の上に、ゲート電極42と、ゲート絶縁層43と、チャネル層46と、ソース電極44およびドレイン電極45とがこの順に積層されたものになる。このトップコンタクト型の有機TFTは、チャネル層46を形成してからソース電極44およびドレイン電極45を形成することを除いて、ボトムコンタクト型の有機TFTと同様の製造手順により製造される。この場合においても、単結晶のチャネル層46が形成されるため、有機TFTの性能を向上させることができる。特に、トップコンタクト型の有機TFTを製造する場合には、チャネル層46を形成する際にソース電極44およびドレイン電極45が未だ形成されていないため、ゲート絶縁層43の表面が平坦であれば、その平坦なゲート絶縁層43の上にチャネル層46を容易かつ高精度に形成できる。
【0083】
また、有機TFTは、例えば、図13に対応する図15および図16に示したように、ゲート電極42がチャネル層46の上側(基体41から遠い側)に位置するトップゲート型でもよい。トップゲート・ボトムコンタクト型の有機TFTは、図15に示したように、基体41の上に、ソース電極44およびドレイン電極45と、チャネル層46と、ゲート絶縁層43と、ゲート電極42とがこの順に積層されたものになる。また、トップゲート・トップコンタクト型の有機TFTは、図16に示したように、基体41の上に、チャネル層46と、ソース電極44およびドレイン電極45と、ゲート絶縁層43と、ゲート電極42とがこの順に積層されたものになる。これらの場合においても、同様の効果を得ることができる。
【0084】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施形態において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の有機薄膜の形成方法において用いられる有機材料の種類は、有機半導体材料に限られず、他の種類の材料でもよい。また、本発明の有機薄膜の形成方法は、有機TFT以外の他の有機デバイスの製造方法に適用されてもよい。このような他の有機デバイスとしては、例えば、有機薄膜を偏光フィルタとして利用する光デバイスなどが挙げられる。この光デバイスでは、結晶の成長方向(配向方向)に応じて偏光方向が変化する。
【符号の説明】
【0085】
1…支持体、2…フード、3…製膜室、4…移動体、10…製膜用基体、11…溶液蓄積領域、12…溶液絞込領域、13…親液性領域、14…撥液性領域、20…有機溶液、30…有機薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を制御可能である支持体により支持された製膜用基体の一面における溶液蓄積領域およびそれに連結された溶液絞込領域に、溶媒およびそれに溶解された有機材料を含む有機溶液を供給し、
前記製膜用基体から離間されるように前記支持体に対向配置されると共に前記支持体とは独立して温度を制御可能である移動体を、前記有機溶液に接触させながら前記支持体の表面に沿って移動させるようにし、
前記溶液絞込領域の幅を前記溶液蓄積領域の幅よりも狭くすると共に、前記溶液絞込領域を前記溶液蓄積領域よりも前記移動体の移動方向における後方に配置し、
前記有機溶液に関する溶解度曲線(濃度対温度)と過溶解度曲線(濃度対温度)との間の温度となるように前記支持体の温度を設定すると共に、前記溶解度曲線よりも高温側の温度となるように前記移動体の温度を設定する、
有機薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記溶液蓄積領域および前記溶液絞込領域は前記有機溶液に対して親液性であり、それ以外の領域は前記有機溶液に対して撥液性である、請求項1記載の有機薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記有機溶液の周辺環境の蒸気圧を前記支持体の温度における飽和蒸気圧にする、請求項1記載の有機薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記有機薄膜は単結晶である、請求項1記載の有機薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記有機材料は有機半導体材料である、請求項1記載の有機薄膜の形成方法。
【請求項6】
製膜用基体と、
前記製膜用基体を支持すると共に温度を制御可能である支持体と、
前記製膜用基体から離間されるように前記支持体に対向配置され、前記支持体の表面に沿って移動可能であると共に前記支持体とは独立して温度を制御可能である移動体と、を備え、
前記製膜用基体は、溶媒およびそれに溶解された有機材料を含む有機溶液が供給される溶液蓄積領域およびそれに連結された溶液絞込領域を一面に有し、
前記溶液絞込領域の幅は、前記溶液蓄積領域の幅よりも狭くなっていると共に、前記溶液絞込領域は、前記溶液蓄積領域よりも前記移動体の移動方向における後方に配置されており、
前記移動体は、前記溶液蓄積領域および前記溶液絞込領域に供給された前記有機溶液に接触しながら移動する、
有機薄膜の形成装置。
【請求項7】
前記支持体の温度は、前記有機溶液に関する溶解度曲線(濃度対温度)と過溶解度曲線(濃度対温度)との間の温度となるように設定されると共に、前記移動体の温度は、前記溶解度曲線よりも高温側の温度となるように設定される、請求項6記載の有機薄膜の形成装置。
【請求項8】
前記溶液蓄積領域および前記溶液絞込領域は前記有機溶液に対して親液性であり、それ以外の領域は前記有機溶液に対して撥液性である、請求項6記載の有機薄膜の形成装置。
【請求項9】
前記有機溶液の周辺環境の蒸気圧は前記支持体の温度における飽和蒸気圧である、請求項7記載の有機薄膜の形成装置。
【請求項10】
有機薄膜を用いた有機デバイスを製造するために、
温度を制御可能である支持体により支持された製膜用基体の一面における溶液蓄積領域およびそれに連結された溶液絞込領域に、溶媒およびそれに溶解された有機材料を含む有機溶液を供給し、
前記製膜用基体から離間されるように前記支持体に対向配置されると共に前記支持体とは独立して温度を制御可能である移動体を、前記有機溶液に接触させながら前記支持体の表面に沿って移動させるようにし、
前記溶液絞込領域の幅を前記溶液蓄積領域の幅よりも狭くすると共に、前記溶液絞込領域を前記溶液蓄積領域よりも前記移動体の移動方向における後方に配置し、
前記有機溶液に関する溶解度曲線(濃度対温度)と過溶解度曲線(濃度対温度)との間の温度となるように前記支持体の温度を設定すると共に、前記溶解度曲線よりも高温側の温度となるように前記移動体の温度を設定する、
有機デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−44111(P2012−44111A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186436(P2010−186436)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】