説明

有機薄膜トランジスタ、その製造方法及びそれを備える装置

【課題】塗布法や印刷法などによって簡便に成膜することができ、有機トランジスタ用絶縁体材料に求められる低表面エネルギー、高誘電率、良絶縁性、良表面平坦性などの特徴を有する優れた有機絶縁体材料を提供し、これを適用することで、低閾値電圧、高電界効果移動度の有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、絶縁体層及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタであって、該絶縁体層が、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランとテトラアルコキシシランとを共加水分解・縮重合して、あるいは、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランを加水分解・縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを、薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ、その製造方法及びそれを備える装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ、その製造方法及びそれを備える装置に関し、特に、絶縁体層を改良することで、応答速度、動作電圧、オン/オフ比、信頼性等の素子特性に優れる有機薄膜トランジスタ、その製造方法及びそれを備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(以下、TFTと略記する場合がある。)は、液晶表示装置等の表示用のスイッチング素子として広く用いられている。
従来、TFTは、アモルファスや多結晶のシリコンを用いて作製されていたが、このようなシリコンを用いたTFTの作製に用いられるCVD装置は、高額であり、TFTを用いた表示装置等の大型化は、製造コストの大幅な増加を伴うという問題点があった。また、アモルファスや多結晶のシリコンを成膜するプロセスは非常に高い温度下で行われるので、基板として使用可能な材料の種類が限られてしまい、軽量で、且つ柔軟性の付与が可能で自由に形状設計ができる樹脂基板等は使用できないという問題があった。軽量の樹脂基板の上にTFTの製造が可能になると携帯用電子デバイスへの応用が可能になると期待される。
このような問題を解決するために、有機半導体を用いたTFT(以下、有機TFTと略記する場合がある。)が提案されている。有機半導体でTFTを形成する際に用いる成膜方法として真空蒸着法や塗布法等が知られているが、これらの成膜方法によれば、製造コストの上昇を抑えつつ素子の大型化が実現可能になり、成膜時に必要となるプロセス温度を比較的低温にすることができる。また、有機物を用いたTFTでは、基板に用いる材料の選択時の制限が少ないといった利点があり、その実用化が期待されている。
有機薄膜トランジスタの素子構成としては、トップコンタクト型、ボトムコンタクト型、ボトムコンタクト・トップゲート型等が知られているが、いずれの構成においても、絶縁体層は有機薄膜トランジスタの性能を左右する重要な構成要素である。有機薄膜トランジスタの望ましい特性、すなわち大きな取出し電流、低動作電圧、高オン/オフ電流比、高信頼性を実現するために、様々な絶縁体材料が検討されている。
【0003】
このような状況下、有機TFTの絶縁体層について様々な材料が検討されている。
無機系の絶縁膜材料としては、SiO2、Si34、Al23、BZT、Ta25、TiO2などが上げられる。ヘビードープされたシリコン基板をゲート電極として用いる場合、その表面の熱酸化SiO2膜は優れた絶縁膜となり、有機半導体材料の評価では広く用いられている。一般に、熱酸化SiO2膜の表面には、Si−OH欠陥や、水が存在しており、これらのもたらす表面準位が、電荷トラップとなって、電界効果移動度の低下や、ヒステリシス、閾値電圧に悪影響を及ぼす。上記の問題を回避するために、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)などによって表面処理を行い、表面エネルギーの低い撥水性表面にする(水接触角を大きくする)手法が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。無機系の材料の成膜には、蒸着やスパッタ、CVDなどの成膜プロセスが用いられるが、これらは真空槽を必要とするため高コストであり、かつ、運転コストも高いというデメリットがある。また、良好な膜質を得るのに、高温での成膜が必要である場合もあり、フレキシブルなフィルム基板などへの適用は難しい。
また、ポリマー系材料は、塗布成膜などの溶液プロセスとの相性が良く、低コスト化が可能との期待から、盛んに検討されている。代表的なポリマー材料は、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリイソブチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリパラキシリレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミドなどである。ポリマー絶縁膜は、概して平滑な表面が得られるが、比誘電率は3程度であり、絶縁性を確保するために膜厚を厚くするとゲート容量が小さくなり、薄膜トランジスタ素子の動作が高電圧化しやすい。極性が強く、比誘電率の大きな材料、例えば、シアノプルランなども提案されている。しかし極性の高いポリマーは、概して表面に存在するトラップによりFET性能が低下させたり、ヒステリシスを誘発したりするため、好ましくないとされている。
以上のように様々な絶縁体材料やその構成が検討されているが、一種類の絶縁体材料で所望の特性を得るのは困難である。そこで、複数の絶縁体材料の組み合わせ使用や無機微粒子と有機材料の混合、表面処理による絶縁体表面の改質などを組み合わせて用いることが試みられているが、製造プロセスが煩雑となり、コスト的にも不利である。
【0004】
上記の課題を解決するために、シロキサンネットワークを基礎とする有機・無機ハイブリッド膜を絶縁体層に用いる試みがなされている。
例えば、特許文献1は絶縁体層にラダー型のシルセスキオキサン骨格を有する樹脂成分を含有する有機半導体素子の発明に関し、この絶縁体層は印刷やスピンコートなどの簡易な工程により低温成膜可能であり、その素子は低電圧駆動が可能であり、安定動作することが開示されている。しかしながら、上記樹脂成分の構造では、側鎖が短いため、膜の均一性が十分でない。このため、得られた有機トランジスタの性能は、特にオン/オフ電流比において不十分であった。また、比誘電率も3.8であり、素子の低電圧化に寄与するには、不十分な値である。
また、特許文献2は絶縁体層にシルセスキオキサン骨格を有する樹脂成分を含有する有機半導体素子の発明に関し、側鎖構造に活性基(水酸基、または水酸基の水素原子を疎水性基で置換した基)を導入することで、緻密な膜を得たとしており、これにより低電圧駆動が可能で、かつ、駆動電圧値が安定した有機半導体素子を製造できるとしている。しかしながら、側鎖構造に水酸基等の活性基が入ることで、絶縁膜表面は低表面エネルギー化し、その膜上に形成される有機半導体材料の結晶成長を阻害し、トランジスタ特性を下げるという問題があった。
【0005】
その他、特許文献3には、絶縁膜材料に、有機−無機ハイブリッド物質であるメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランの重合体を使用してなる有機TFTが開示されている。
特許文献4には、絶縁膜として、シロキシ/金属酸化物ハイブリッド組成物から調製した誘電材料を用いた有機TFTが開示されており、該シロキシ/金属酸化物ハイブリッド組成物のシロキシ成分としては、シロキサン又はシルセスキオキサンなどが記載されており、金属酸化物としては、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ストロンチウム、イットリウム、ランタンなどの酸化物が記載されている。
特許文献5には、約250℃未満の温度で処理されたゾルゲルシリカ含有配合物を含んでなる、薄膜トランジスタのゲート絶縁層が開示されている。
特許文献6には、高度に配列制御されたシロキサン系分子膜を用いてなる有機デバイスが開示されており、高い安定性が発現するとされている。
特許文献7には、絶縁膜として、アミノ基含有のポリシロキサンを用いてなる半導体素子が開示されている。
さらに、非特許文献2には、側鎖にメチル基とシアノエチル基を有するポリシルセスキオキサンを絶縁膜に用いたTFTが記載されている。
非特許文献3には、側鎖に種々の官能基を導入したポリシルセスキオキサンを用いたTFTが記載されている。
非特許文献4には、側鎖にエポキシ基を導入したポリシルセスキオキサンを用いたTFTが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−304121号公報
【特許文献2】特開2007−258663号公報
【特許文献3】特開2005−120371号公報
【特許文献4】特開2006−135327号公報
【特許文献5】特開2008−124431号公報
【特許文献6】特開2007−145984号公報
【特許文献7】特開2007−103921号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Veresら、Chem.Mater.,Vol.16,4543、2004年
【非特許文献2】2008年秋季 第69回応用物理学会技術講演会 講演予稿集、No.3、p1204、2008年
【非特許文献3】高分子学会 2008年秋季 講演予稿集、Vol.57、No.2、p2912、2008年
【非特許文献4】高分子学会 2008年秋季 講演予稿集 Vol.57、No.2、p3995、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、3官能トリメトキシシランを加水分解・縮重合を行って得られるポリシルセスキオキサン系絶縁では、本質的に側鎖のアルキル鎖構造を長くすることは困難であり、また、側鎖構造を長くすると、シロキサンネットワークと有機側鎖のバランスが悪化し、膜の均一性が損なわれ、半導体材料の結晶化に悪影響をおよぼし、トランジスタとしての性能を低下させていた。また、得られる膜は、本質的にアモルファスの膜で、秩序を持たない構造であった。
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、塗布法や印刷法などによって簡便に成膜することができ、有機トランジスタ用絶縁体材料に求められる低表面エネルギー、高誘電率、良絶縁性、良表面平坦性などの特徴を有する優れた有機絶縁体材料を提供し、これを適用することで、低閾値電圧、高電界効果移動度の有機薄膜トランジスタ、その製造方法及びそれを備える装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランを、(共)加水分解・縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを、薄膜に成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜を用いることを見出した。このシリカ系有機無機ハイブリッド膜においては、両親媒性オリゴマーが膜を形成する過程において、親水性基と疎水性基の相互作用によって自己組織化が起こり、膜中に長距離の秩序がもたらされる。また、重合条件を選ぶことで、秩序のおよぶ距離を制御する(アモルファス構造にする)こともできる。これによって、低表面エネルギー、高誘電率、良絶縁性、良表面平坦性などの望ましい特性が同時に満たされ、有機薄膜トランジスタの絶縁膜に適用した場合、有機半導体材料の性能を引き出し、すぐれたトランジスタ特性を実現できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1.少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、絶縁体層及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタであって、該絶縁体層が、下記一般式(1−a)で表される鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAと、下記一般式(2)で表されるテトラアルコキシシランとを共加水分解・縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを、薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ、
【化1】

(式中、R1は炭素数6以上の鎖状炭化水素基であり、R2は、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基である。)
Si(OR54 (2)
(式中、R5はメチル基又はエチル基である。)
2.少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、絶縁体層及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタであって、該絶縁体層が、下記一般式(1−b)で表される鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBを加水分解・縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを、薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ、
【化2】

(式中、R6は炭素数6以上の鎖状炭化水素基であり、R7〜R9は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基である。3つのR7、R8及びR9は、それぞれにおいて互いに同一であっても異なっていてもよい。)
3.前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、層状シリカ系ハイブリッド膜である上記1又は2記載の有機薄膜トランジスタ、
4.前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、アモルファスシリカ系ハイブリッド膜である上記1又は2記載の有機薄膜トランジスタ、
5.前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜である上記2記載の有機薄膜トランジスタ、
6.前記一般式(1−b)におけるR6が炭素数14〜18の鎖状炭化水素基であり、前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、層状シリカ系ハイブリッド膜である上記2記載の有機薄膜トランジスタ、
7.前記一般式(1−b)におけるR6が炭素数6〜13の鎖状炭化水素基であり、前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜である上記2記載の有機薄膜トランジスタ、
8.両親媒性オリゴマーを塗布してシリカ系有機無機ハイブリッド膜を形成することを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタの製造方法、及び
9.上記1〜7のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタを備える装置、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機薄膜トランジスタは、塗布法や印刷法などによって簡便に成膜可能であり、かつ、低表面エネルギー、高誘電率、良絶縁性、良表面平滑性などの特性に優れた絶縁体層を有するため、低閾値電圧及び高電界効果移動度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】トップコンタクト型有機薄膜トランジスタの一例を示す断面図である。
【図2】ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタの一例を示す断面図である。
【図3】ボトムコンタクト・トップゲート型有機薄膜トランジスタの一例を示す断面図である。
【図4】鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA及びテトラアルコキシシランから得られる両親媒性オリゴマーの層状構造を示す模式図である。
【図5】鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA及びテトラアルコキシシランを用いてなる層状シリカ系ハイブリッド膜を示す模式図である。
【図6】鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBから得られる両親媒性オリゴマーの層状構造を示す模式図である。
【図7】鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBを用いてなる層状シリカ系ハイブリッド膜を示す模式図である。
【図8】アモルファスシリカ系ハイブリッド膜を示す模式図である。
【図9】両親媒性オリゴマーのシリンダー状の集合体を示す模式図である。
【図10】棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、絶縁体層及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタであって、該絶縁体層が、両親媒性オリゴマーを、薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタを提供する。
【0014】
以下、本発明の有機TFTの詳細について説明する。
(素子構成)
本発明の有機薄膜トランジスタの素子構成としては、少なくとも基板上にゲート電極、絶縁体層、ソース電極、ドレイン電極、有機半導体層を有し、絶縁体層が有機シラン分子を加水分解縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜で構成される。
図1〜3に、代表的な有機薄膜トランジスタの断面構成を示す。
図1は、有機半導体層4を介して、ソース電極2及びドレイン電極3と基板6が対向しているトップコンタクト(TC)型の素子構成を示す。TC型の有機薄膜トランジスタは、基板6上にゲート電極1、絶縁体層5および有機半導体層4をこの順に有し、さらに有機半導体層4上に、所定の間隔をあけて形成されたソース電極2及びドレイン電極3を有する。このような構成の有機薄膜トランジスタでは、有機半導体層4がチャネル領域を成しており、ゲート電極1に印加される電圧によってソース電極2とドレイン電極3の間を流れる電流を制御することができる。この構成は、基板6/ゲート電極1/絶縁体層5を形成した基板の上に、有機半導体層4を真空蒸着や、スピンコート・ディップコート・キャスティングなどの溶液塗布プロセスによって形成し、その上にソース電極2及びドレイン電極3を、例えば蒸着マスクを用いた真空蒸着によって形成することで実現できる。
図2は、ソース電極2及びドレイン電極3上に有機半導体層4を有するボトムコンタクト(BC)型の素子構成を示す。BC型の有機薄膜トランジスタは、まず基板6上にゲート電極1及び絶縁体層5を有し、その上にソース電極2及びドレイン電極3の回路パターンを有し、さらにその上に有機半導体層4を有する。この場合、電極の形成には従来のフォトリソグラフィー法などを適用することができるため、高精細で大面積の回路パターンを容易に作製することができる。また、あらかじめ形成された回路パターン上に有機半導体層4を形成するので、電極形成に伴う物理的・化学的ストレスによって有機半導体材料4を劣化させることがないという利点を有する。
図3は、基板6上に、ソース電極2及びドレイン電極3、有機半導体層4、絶縁体層5をこの順に有し、その上にゲート電極1を有するボトムコンタクト・トップゲート型の素子構成を示す。
【0015】
本発明の有機薄膜トランジスタは、絶縁体層の構成およびその製造方法に特徴を有するものであって、その素子構成は、図1に示すトップコンタクト型、図2に示すボトムコンタクト型、図3に示すボトムコンタクト・トップゲート型に限定されるものではなく、有機半導体層と、相互に所定の間隔をあけて対向するように形成されたソース電極及びドレイン電極と、ソース電極、ドレイン電極からそれぞれ所定の距離をあけて形成されたゲート電極とを有し、ゲート電極に電圧を印加することによってソース−ドレイン電極間に流れる電流を制御するものであればよい。ここで、ソース電極とドレイン電極の間隔は本発明の有機薄膜トランジスタを用いる用途によって決定され、通常は0.1μm〜1mm程度であり、好ましくは1μm〜100μm、さらに好ましくは5μm〜100μmである。
【0016】
(ソース電極及びドレイン電極)
ソース電極及びドレイン電極には、一般的に有機薄膜トランジスタにおいて、ソース・ドレイン電極として用いられる金属材料、合金材料等の導電性材料であれば特に限定されず、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、銀ペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられる。
【0017】
前記電極の形成方法としては、例えば、蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法、電着法、無電解メッキ法、スピンコーティング法、印刷又はインクジェット等の手段が挙げられる。また、必要に応じてパターニングする方法としては、上記の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等によりレジストを形成しエッチングする方法がある。このようにして形成された電極の膜厚は電流の導通さえあれば特に制限はないが、好ましくは0.2nm〜10μm、さらに好ましくは4nm〜300nmの範囲である。膜厚が0.2nm以上であれば、膜厚が薄いことにより抵抗が高くなり電圧降下を生じることがない。また、膜厚が10μm以下であれば、膜形成に時間がかからず、保護層や有機半導体層など他の層を積層する場合に、段差が生じることが無く積層が円滑にできる。
【0018】
また、電極が、上記金属層と、酸化物層の積層構造をとってもよい。酸化物層には、電気伝導性を有し、有機半導体層に対して電荷注入機能を発現するものであれば、各種の材料を用いることができる。例えば、GeO2、SiO2、MoO3、V25、VO2、V23、MnO、Mn34、ZrO2、WO3、TiO2、In23、ZnO、NiO、HfO2、Ta25、ReO3、PbO2などの金属酸化物が望ましい。また、GeOx(1≦x≦2)、SnO2、PbO、ZnO、GaO、CdO、ZnOS、MgInO,CdInO,MgZnOなども好適である。
また、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化インジウム・亜鉛(IZO)、酸化インジウム・スズ・亜鉛(ITZO)などの酸化物や、それら酸化物にCe、Nd、Sm、Eu、Tb、Hoなどの元素を添加したものも、好適に用いることができる。
【0019】
前記酸化物層は、例えば、蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、印刷又はインクジェット等の手段により形成され、必要に応じて熱処理等の後処理を併用する。また、上記の方法を用いて形成した酸化物層をパターニングする方法としては、蒸着やスパッタリング時に金属マスクを用いる方法、製膜された薄膜に対し公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いてパターンを形成する方法、インクジェット等によりパターンを直に形成する方法などがある。
このようにして形成された酸化物層の膜厚は特に制限はないが、好ましくは0.2nm〜100nm、さらに好ましくは1nm〜10nmの範囲である。膜厚が0.2nm以上であると、酸化物層の電荷注入効果が発現する。膜厚が100nm以下であると、ソース・ドレイン電極に介在する内部抵抗が小さくなり、閾値電圧が低下しやすい。
また、電極と後述する有機半導体層の電気的接触を改善する目的で、金属表面を表面修飾してもよい。表面修飾の材料としては、前記金属電極と親和性を有し、この金属層を覆って表面修飾を施すことのできる各種材料、特に自己組織化単分子膜(SAMs)剤として知られる材料を好適に用いることができるが、特にカップリング反応により金属層表面に付着し得る末端基を有するものがより好適である。
具体的には、ペンタフルオロチオフェノール(PFTF)、フルオロチオフェノール、トリフルオロメチルチオフェノール(TFMTP)、ニトロチオフェノール(NTP)、クロロチオフェノール(CTP)、メトキシチオフェノール(MOTP)などのチオフェノール類、ペンタンチオール(PT)、オクタンチオール(OT)、デカンチオール(DT)、ステアリルメルカプタン(SM)などのアルカンチオール類、またはそれらを部分フッ素化した、ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール(HDFDT),トリデカフルオロ−1−オクタンチオール(TDFOT)などのフッ素化アルカンチオール、(ω−(ビフェニル−4−イル)アルカンチオール)などの芳香族アルカンチオール類などであるが、これらには限定されない。
有機薄膜層の金属層上への形成は、当該材料をジクロロメタンやエタノールといった溶媒に溶解させ、金属層が形成された基板を浸漬することによって行うことができる。溶液の濃度は0.1〜100mM、より好ましくは0.1〜10mMである。浸漬時間は用いる材料や溶液の温度によるが、室温で1分から24時間の間、好ましくは10分から6時間である。
【0020】
(有機半導体層)
本発明の有機TFTで用いられる有機半導体としては特に制限を受けるものではない。一般に開示されている有機薄膜トランジスタに用いられる有機半導体を広く用いることができる。例えば、Chemical Review、107巻、1066頁、2007年に記載の有機半導体材料などが挙げられる。また、本発明において、有機半導体層には、上記有機半導体材料から選ばれる複数の材料を組み合わせても良く、複数の材料は混合しても、積層しても良い。具体的には、以下にあげるようなものを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0021】
(1)ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン等の、置換基のついてもよいアセン類
具体的には、1,4−ビススチリルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン(4MSB)、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、ポリフェニレンビニレンなどC65−CH=CH−C65で表されるスチリル構造を有する化合物、このような化合物のオリゴマーやポリマー。また、これらをF,CF3,C25等のフッ素,フルオロアルキル基で置換した化合物。
【0022】
(2)チオフェン環を含む化合物
i)α−4T、α−5T、α−6T、α−7T、α−8Tの誘導体等の置換基を有してもよいチオフェンオリゴマー
ii)ポリヘキシルチオフェン、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル−コ−ビチオフェン)等のチオフェン系高分子
iii)ビスベンゾチオフェン誘導体、α,α’−ビス(ジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]チオフェン)、ジチエノチオフェン−チオフェンのコオリゴマー、ペンタチエノアセン等の縮合オリゴチオフェン特にチエノベンゼン骨格またはジチエノベンゼン骨格を有する化合物、ジベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体が好ましい。
また、上記i〜iiiの化合物をF,CF3,C25等のフッ素,フルオロアルキル基で置換した化合物。
【0023】
(3)セレノフェンオリゴマー、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、鉛フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、白金ポルフィリン、ポルフィリン、ベンゾポルフィリンなどのポルフィリン類、テトラチアフルバレン(TTF)及びその誘導体、ルブレン及びその誘導体など。
また、これらをF,CF3,C25等のフッ素,フルオロアルキル基で置換した化合物。
【0024】
(4)n型有機半導体
例えば、単独でn型半導体として知られている、テトラシアノキノジメタン(TCNQ),11,11,12,12−テトラシアノナフト−2,6−キノジメタン(TCNNQ)らのキノイドオリゴマー,C60,C70,PCBM等のフラーレン類及びその誘導体,N,N’−ジフェニル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド,N,N’−ジオクチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(C8−PTCDI),N,N’−ジトリデシル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(C13−PTCDI),NTCDA,1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシルジイミド(NTCDI)等のテトラカルボン酸類,テトラチアフルバレン(TTF)及びその誘導体。
【0025】
有機半導体には、材料の純度の高いものを用いることにより電界効果移動度やオン/オフ比の高いデバイスを得ることができる。したがって必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、再結晶、蒸留、昇華などの手法により精製を加えることが望ましい。好ましくはこれらの精製方法を繰り返し用いたり、複数の方法を組み合わせたりすることにより純度を向上させることが可能である。さらに精製の最終工程として昇華精製を少なくとも2回以上繰り返すことが望ましい。これらの手法を用いることによりHPLCで測定した純度90%以上の材料を用いることが好ましく、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の材料を用いることにより、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度やオン/オフ比を高め、本来材料の持っている性能を引き出すことができる。
本発明の有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層の膜厚は、特に制限されることはないが、通常、0.5nm〜1μmであり、2nm〜250nmがより好ましい。膜厚が0.5nm以上であると、電荷を輸送するチャネルが有効に形成される。膜厚が1μm以下であると、結晶粒塊が発達して剥離しやすくなるなどの不具合が生じない。
有機半導体層の形成方法は特に限定されることはなく公知の方法を適用でき、例えば、分子線蒸着法(MBE法)、真空蒸着法、化学蒸着、材料を溶媒に溶かした溶液のディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の印刷、塗布法及びベーキング、エレクトロポリマラインゼーション、分子ビーム蒸着、溶液からのセルフ・アセンブリ、及びこれらの組合せた手段により、前記したような有機半導体層の材料で形成される。有機半導体層の結晶性を向上させると電界効果移動度が向上するため、気相からの成膜(蒸着、スパッタ等)を用いる場合は成膜中の基板温度を高温で保持することも効果的である。その温度は40〜250℃が好ましく、70〜150℃であるとさらに好ましい。また、成膜方法に関わらず、成膜後にアニーリングを実施すると高性能デバイスが得られるため好ましい。アニーリングの温度は50〜200℃が好ましく、70〜200℃であるとさらに好ましく、時間は10分〜12時間が好ましく、1〜10時間であるとさらに好ましい。
【0026】
(ゲート電極)
ゲート電極には、一般的に有機薄膜トランジスタにおいて、ソース・ドレイン電極、ゲート電極として用いられる金属材料、合金材料、金属酸化物材料等、導電性を有し、膜を形成するものを広く用いることができる。
具体的には、前記ソース・ドレイン電極の材料と同様の材料を好適に用いることができる。特に好ましいのは、Au、Ag、Cu、Alなどの金属、それらを含む合金材料やペースト材料、ITOやIZOなどの酸化物透明電極である。ゲート電極のパターンニングも、前記ソース・ドレイン電極と同様の方法で行うことができる。
【0027】
(基板)
本発明の有機薄膜トランジスタにおける基板は、有機薄膜トランジスタの構造を支持する役目を担うものであり、材料としてはガラスの他、金属酸化物や窒化物などの無機化合物、プラスチックフィルム(PET、PES、PC)や金属基板又はこれら複合体や積層体なども用いることが可能である。また、基板以外の構成要素により有機薄膜トランジスタの構造を十分に支持し得る場合には、基板を使用しないことも可能である。また、基板の材料としてはシリコン(Si)ウエハが用いられることが多い。この場合、Si自体をゲート電極兼基板として用いることができる。
【0028】
(絶縁体層)
本発明の有機薄膜トランジスタにおける絶縁体層は、両親媒性オリゴマーを成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜で構成される。なお、このシリカ系有機無機ハイブリッド膜については、A. SHIMOJIMA, Journal of the Ceramic Society of Japan,116,278(2008)に詳しく記載されている。
【0029】
上記両親媒性オリゴマーの代表的製法を、以下に示す。
(両親媒性オリゴマーの製造方法1)
下記一般式(1−a)で表される鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAと、下記一般式(2)で表されるテトラアルコキシシランとを共加水分解・縮重合する。
【化3】

(式中、R1は炭素数6以上の鎖状炭化水素基であり、R2は、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基である。)
Si(OR54 (2)
(式中、R5はメチル基又はエチル基である。)
【0030】
上記一般式(1−a)において、R1は、好ましくは炭素数6〜18の鎖状炭化水素基であり、より好ましくは炭素数8〜12の鎖状炭化水素基である。鎖状炭化水素基の炭素数が上記範囲内にあると、絶縁体層の形成時に自己組織化が促進され、膜質が改善する。これによって有機半導体材料の結晶配列が均一となり、本発明の有機薄膜トランジスタの特性が改善し、シリカ系有機無機ハイブリッド膜にピンホールなどが生じにくくなり、絶縁耐電圧が向上する。
また、R1で表わされる鎖状炭化水素基は、飽和鎖状炭化水素基であってもよく、また、不飽和鎖状炭化水素基であってもよい。飽和鎖状炭化水素基の具体例としては、Cn2n+1で表されるメチレン鎖が挙げられる。また、R1を1つ以上の二重結合を有する不飽和鎖状炭化水素基とすることで、熱重合性を持たせて膜強度を向上させたり、光重合性を持たせてフォトリソグラフィによるパターニングを可能にすることができる。さらに、誘電率を向上させる目的で、−CN、−OH、−NH2、−SH、−NCOなどの極性の高い基を導入することもできる。
【0031】
上記炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基は、Cn2n+1(nは1〜3の整数)で表わされ、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。
上記炭素数1〜3のアルコキシ基は、OCm2m+1(mは1〜3の整数)で表わされ、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基及びイソプロピル基が挙げられる。
【0032】
上記一般式(1−a)で表わされる鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAとしては、以下に示す構造のものが好ましく用いられる。
1Si(OCH33 (1−a−1)
1Si(OCH2CH33 (1−a−2)
1Si(CH3)(OCH32 (1−a−3)
1Si(CH32(OCH3) (1−a−4)
1Si(CH2CH3)(OCH32 (1−a−5)
1Si(CH2CH32(OCH3) (1−a−6)
1Si(CH3)(OCH2CH32 (1−a−7)
1Si(CH32(OCH2CH3) (1−a−8)
1Si(CH2CH3)(OCH2CH32 (1−a−9)
1Si(CH2CH32(OCH2CH3) (1−a−10)
【0033】
上記一般式(1−a)で表わされる鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAの具体例としては、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(2)で表されるテトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、エトキシトリメトキシシラン、ジエトキシメトキシシラン、トリエトキシメトキシシラン等が好適に用いることができ、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが特に好適に用いられる。
【0035】
(両親媒性オリゴマーの製造方法2)
下記一般式(1−b)で表される鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBを加水分解・縮重合する。
【化4】

(式中、R6は炭素数6以上の鎖状炭化水素基であり、R7〜R9は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基である。3つのR7、R8及びR9は、それぞれにおいて互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0036】
上記一般式(1−b)において、R6は、好ましくは炭素数6〜18の鎖状炭化水素基であり、より好ましくは炭素数10〜16の鎖状炭化水素基である。鎖状炭化水素基の炭素数が上記範囲内にあると、絶縁体層の形成時に自己組織化が促進され、膜質が改善する。これによって有機半導体材料の結晶配列が均一となり、本発明の有機薄膜トランジスタの特性が改善し、シリカ系有機無機ハイブリッド膜にピンホールなどが生じにくくなり、絶縁耐電圧が向上する。
また、R6で表わされる鎖状炭化水素基は、飽和鎖状炭化水素基であってもよく、また、不飽和鎖状炭化水素基であってもよい。飽和鎖状炭化水素基の具体例としては、Cm2m+1で表されるメチレン鎖が挙げられる。また、R6を1つ以上の二重結合を有する不飽和鎖状炭化水素基とすることで、熱重合性を持たせて膜強度を向上させたり、光重合性を持たせてフォトリソグラフィによるパターニングを可能にすることができる。(さらに、誘電率を向上させる目的で、極性の高い基を導入することもできる。)
6で表わされる鎖状炭化水素基において、炭素数を14以上とすることで、あとに述べる層状シリカ系ハイブリッド膜を、炭素数を13以下とすることで、棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜を得ることができる。
【0037】
上記一般式(1−b)で表わされる鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBとしては、以下に示す構造のものが好ましく用いられる。
6Si[OSi(OCH333 (1−b−1)
6Si[OSi(OC2533 (1−b−2)
6Si[OSi(OCH33][OSi(OC2532 (1−b−3)
6Si[OSi(OCH332[OSi(OC253] (1−b−4)
【0038】
上記一般式(1−b)で表わされる鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBの具体例を以下に示す。
1021Si[OSi(OCH333
1021Si[OSi(OC2533
1021Si[OSi(OCH33][OSi(OC2532
1021Si[OSi(OCH332[OSi(OC253
817Si[OSi(OCH333
817Si[OSi(OC2533
817Si[OSi(OCH33][OSi(OC2532
817Si[OSi(OCH332[OSi(OC253
【0039】
(シリカ系有機無機ハイブリッド膜)
上記シリカ系有機無機ハイブリッド膜としては、以下に説明する(1)層状シリカ系ハイブリッド膜、(2)アモルファスシリカ系ハイブリッド膜及び(3)棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)層状シリカ系ハイブリッド膜
以下に層状シリカ系ハイブリッド膜の具体的な製造方法を説明する。
前記鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA 1モルに対して、テトラアルコキシシラン1〜20モル程度(好ましくは3〜6モル)、THF5〜100モル程度(好ましくは15〜50モル)、水5〜80モル程度(好ましくは15〜30モル)及びHClを0.0001モル以上0.1モル未満(好ましくは0.001〜0.01モル)混合し、0.5〜24時間程度、好ましくは1〜12時間攪拌する。
すると、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA(例えば、C1021Si(OMe)3)とテトラアルコキシシラン(例えば、Si(OMe)4)が共加水分解・縮重合を起こし、両親媒性オリゴマー(例えば、C1021Si(OSi(OH)33)が形成される。
この溶液を、THF:Si比が1:2〜20程度(モル比)、好ましくは1:3〜10(モル比)となるようにTHFで希釈し、得られた希釈溶液を用いてスピンコート法により基板上に成膜したあと、乾燥させる。このとき、40〜120℃程度に加熱して、乾燥を促進することができる。溶媒としては、THFの代わりにエタノールなどを用いても良い。
基板上に成膜された両親媒性オリゴマーは、親水性部位と疎水性部位の相互作用により自己組織化され、図4に示すようにシラノール末端を含む親水性部位と、鎖状炭化水素基からなる疎水性部位が交互に積層してなる層状構造を形成する。ここで、このオリゴマー化のステップを経ることが、均一な膜を得る上で重要である。オリゴマーの形態を経ない場合は、薄膜化において鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAとテトラアルコキシシランとの相分離が起こり、均一な膜が得られない。
【0040】
成膜直後は、両親媒性オリゴマーは、図4に示すように配列構造をとった液晶状態にあるが、経時的にシラノール部の縮重合がさらに進んで、シロキサンネットワーク層が形成され、強固な固体膜を形成する(図5参照)。
シロキサンネットワーク層は、−Si−O−Si−のシロキサン結合の繰り返し単位を基本とする網目状構造をとるが、その厚みはケイ素数原子層程度(1〜1.5nm)の2次元構造である。層構造の形成は、X線解析により、層間隔に相当する回折ピークが観察されることで確認できる。また、電子顕微鏡観察により、層状の構造を直接確認することができる。
【0041】
また、次のようにして、層状シリカ系ハイブリッド膜を得ることもできる。前記一般式(1−b)で表され、R6が炭素数14以上の鎖状炭化水素基である鎖状炭化水素基含有アルコキシシランB 1モルに対して、THF5〜100モル程度(好ましくは15〜50モル)、水5〜80モル程度(好ましくは15〜30モル)及びHClを0.0001〜0.1モル程度(好ましくは0.001〜0.01モル)混合し、0.5〜24時間程度、好ましくは1〜12時間攪拌する。
すると、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランB(例えば、C1633Si(OMe)3)が加水分解を起こし、両親媒性オリゴマー(例えば、下記式で示される化合物)が形成される。
【0042】
【化5】

【0043】
この溶液を、THF:Si比が1:2〜20程度(モル比)、好ましくは1:3〜10(モル比)となるようにTHFで希釈し、得られた希釈溶液を用いてスピンコート法、またはディップコート法により基板上に成膜したあと、乾燥させる。このとき、40〜120℃程度に加熱して、乾燥を促進することができる。溶媒としては、THFの代わりにエタノールなどを用いても良い。基板上に成膜された両親媒性オリゴマーは、親水性部位と疎水性部位の相互作用により自己組織化され、図6に示すようにシラノール末端を含む親水性部位と、鎖状炭化水素基からなる疎水性部位が交互に積層してなる層状構造を形成する。ここで、このオリゴマー化のステップを経ることが、均一な膜を得る上で重要である。鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAから得られる層状構造との違いは、鎖状炭化水素部位が、互いに入れ子状の構造になるかどうかの違いである。
【0044】
成膜直後は、両親媒性オリゴマーは、図6に示すように配列構造をとった液晶状態にあるが、経時的にシラノール部の縮重合がさらに進んで、シロキサンネットワーク層が形成され、強固な固体膜を形成する(図7参照)。
層構造の形成は、X線解析により、層間隔に相当する回折ピークが観察されることで確認できる。また、電子顕微鏡観察により、層状の構造を確認することができる。
【0045】
(2)アモルファスシリカ系ハイブリッド膜
鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA 1モルに対して、テトラアルコキシシラン1〜20モル程度(好ましくは3〜6モル)、THF5〜100モル程度(好ましくは15〜50モル)、水5〜80モル程度(好ましくは15〜30モル)及びHClを0.1〜5.0モル(好ましくは0.1〜1.0モル)混合し、0.5〜24時間程度、好ましくは5〜12時間攪拌する。
すると、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA(例えば、C1021Si(OMe)3)とテトラアルコキシシラン(例えば、Si(OMe)4)が共加水分解・縮重合を起こし、両親媒性オリゴマー(例えば、C1021Si(OSi(OH)33)が形成される。この条件では、この段階で両親媒性オリゴマーの縮重合もある程度進んで、部分的にシロキサンネットワークが形成される。
この溶液をさらにTHF:Si比が1:2〜20程度(モル比)、好ましくは1:3〜10(モル比)となるようにTHFで希釈し、得られた希釈溶液を用いてスピンコート法により基板上に成膜したあと、乾燥させる。溶媒としては、THFの代わりにエタノールなどを用いても良い。このとき、40〜120℃程度に加熱して、乾燥を促進することができる。すると、図8に示すように、網目状シロキサンネットワークと疎水性炭化水素鎖部とが部分的に混ざり合い、部分的秩序層がランダムに積み重なったアモルファス層が形成される。X線解析において、層間隔に相当する回折ピークが存在しない場合、膜はアモルファス状態にあると確認できる。
基板上への塗布成膜後、経時的にシロキサンネットワークの形成がさらに進行し、強固な固体膜が形成される。
上記鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA及びテトラアルコキシシランを用いた場合、最終的に形成された膜が、層状態になるか、アモルファス状態になるかは、オリゴマー形成状態で、部分的なシロキサンネットワークの形成をどこまで進行させるかで決まる。具体的には、HClの添加量によって、この進行過程を制御することができる。HClの添加量を増やすことで、部分的なシロキサンネットワークの形成がより速く進行し、最終的に形成される膜は、アモルファス状態となる。すなわち、上述のように、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランA 1モルに対してHClを0.1モル未満用いることで、層状シリカ系ハイブリッド膜が得られ、0.1モル以上用いることでアモルファスシリカ系ハイブリッド膜が得られる。
【0046】
(3)棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜
前記一般式(1−b)で表され、R6が炭素数13以下の鎖状炭化水素基である鎖状炭化水素基含有アルコキシシランB 1モルに対して、THF5〜100モル程度(好ましくは15〜50モル)、水5〜80モル程度(好ましくは15〜30モル)及びHClを0.0001〜0.1モル程度(好ましくは0.001〜0.01モル)混合し、0.5〜24時間程度、好ましくは1〜12時間攪拌する。すると、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランB(例えば、C1225Si(OSi(OCH333が加水分解・縮重合を起こし、鎖状炭化水素基含有アルコキシシランB分子のシラノール化が進行し、両親媒性オリゴマー(例えば、C1225Si(OSi(OH)33)が形成される。この溶液をさらにTHF:Si比が1:2〜20程度(モル比)、好ましくは1:3〜10(モル比)となるようにTHFで希釈し、得られた希釈溶液を用いてスピンコート法により基板上に成膜したあと、乾燥させる。溶媒としては、THFの代わりにエタノールなどを用いても良い。このとき、40〜120℃程度に加熱して、乾燥を促進することができる。この場合、疎水性基を形成するテイルグループの長さ、および占有体積が小さく、親水性基を形成するヘッドグループのサイズが大きいため、(1)の層状シリカ系ハイブリッド膜の場合のようなラメラ構造をとることができず、シラノール部が集合してシリンダー状の壁を形成し、最終的に棒状の秩序化された集合体を形成する(図9参照)。この集合体においては、経時的にシラノール部の縮重合がさらに進んで、シロキサンネットワーク層が形成され、強固な固体膜を形成する。このとき断面が六角形状のシリカ骨格が形成され、その内部および表面を鎖状炭化水素基が埋めた構造の薄膜が形成される(図10参照)。X線解析より、棒状形状の基板表面に対して垂直方向の繰り返し周期に相当する回折ピークが得られることから、この形態を成すことを確かめることができる。また、透過型電子顕微鏡を用いた観察からも、断面が六角形状の構造になっていることを確かめることができる。また、SEM観察などから、六角形状の柱構造は、その長軸が基板に対して平行になるように積層していることがわかる。
【0047】
上記シリカ系ハイブリッド膜の最大の特徴は、誘電率が大きいことである。後述の実施例中で詳細に示すように、ITO電極付ガラス基板に前記シリカハイブリッド膜を成膜し、対向電極として金属マスクを用いて金を蒸着した積層体を形成し、LCRメーターを用いて誘電率を測定したところ、膜厚500nmの素子で、比誘電率は6〜8(周波数2kHzでの値)である。通常のポリマー絶縁膜の比誘電率が3前後であるのに比べると、非常に大きな値である。これは、両親媒性オリゴマーを成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜によって発現した予期せぬ性質であると言える。これは有機薄膜トランジスタの絶縁膜として非常に望ましい特性であり、トランジスタの低電圧動作をもたらす。
また、上記シリカ系ハイブリッド膜の最表面は、両親媒性オリゴマーの疎水性部位を形成する鎖状炭化水素基で覆われているため、高撥水性を示す。実際、ガラス基板上にスピンコート法で作製したこれらの膜面に対する、超純水の水接触角は100〜110程度である。したがって、これらのシリカ系ハイブリッド膜の表面エネルギーは低く、有機半導体材料を成膜した時、有機半導体の良好な結晶成長を促し、優れた電界効果特性を発揮することができる。こうした高い撥水性を得るには、通常、フッ素系のポリマー絶縁膜を用いたり、SAM膜などによる付加的な表面処理を行うことが必要である。
上記シリカ系ハイブリッド膜は、溶液の塗布成膜で容易に形成可能であり、単独膜で高い誘電率と高撥水性を兼ね備える。このことは、有機半導体用絶縁膜の製造スループットを向上させ、コストダウンに非常に有利である。
本発明は、上述のように両親媒性オリゴマーを溶液状などとして塗布し、シリカ系有機無機ハイブリッド膜を形成する上記有機薄膜トランジスタの製造方法をも提供する。
【0048】
上記シリカ系ハイブリッド膜の厚みは、特に限定されないが、有機トランジスタ用の絶縁膜としては、膜厚50〜5000nmが好ましく、100〜1500nmがより好ましい。膜厚が50nm未満であると、絶縁性が不足して、ソース・ドレイン電極と、ゲート電極の間に漏れ電流が生じ、トランジスタ特性の低下を招く。また、膜厚が1500nmを超えると、ゲート容量が小さくなり、閾値電圧の増加等の望ましくない効果をおよぼす。
【0049】
(装置)
本発明はまた、上記有機薄膜トランジスタを備える装置をも提供する。
本発明の装置は、上記有機薄膜トランジスタを用いる装置であれば特に限定されず、その具体例としては、回路、パーソナルコンピュータ、ディスプレイ、携帯電話機等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
実施例1
[絶縁体層の形成]
まずジオマティック社製のITO透明電極付ガラス基板を用意した。ガラス基板の形状は、25mm×20mm×0.7mm厚であり、ITO膜厚は120nmであり、ITOはフォトリソグラフィ法を用いてストライプ状に加工されており、これをゲート電極とした。この基板をイソプロピルアルコール中で5分間超音波洗浄した後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。
デシルトリメトキシシラン(C1021Si(OMe)3)、テトラメトキシシラン(Si(OMe)4)、テトラヒドロフラン(THF)、水、HClを、モル比で、1:4:15:19:0.002で混合し、室温で6時間攪拌し、両親媒性オリゴマー溶液を調製した。この両親媒性オリゴマー溶液を、スピンコート法(3000rpm、10秒)を用いて上述のガラス基板上に塗布したあと、室温で1日乾燥させ、絶縁体層を形成した。同条件で複数枚の基板上に絶縁体層を形成し、以下の絶縁体層の評価と、有機薄膜トランジスタ素子の作製に供した。
下記X線解析及び透過型電子顕微鏡観察の結果、絶縁体層が層間隔約3.3nmの層状構造を成すことがわかった。
【0051】
[絶縁体層の評価]
上述のようにして形成した絶縁体層について、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
(膜厚測定)
触針式膜厚計(ET3000、小坂研究所製)で絶縁体層の膜厚を測定した。
(表面粗さ測定)
また、AFM(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用い、10μm角の領域の表面粗さ(RMS)を測定した。
(水接触角)
水接触角計(DropMaster 500、協和界面科学社製)を用い、超純水に対する絶縁膜表面の水接触角を測定した。
(比誘電率)
蒸着法を用い、絶縁体層上に金属マスクを通して金電極(厚さを80nm)を成膜し、絶縁体層を挟んでITO電極と対向するようにし、LCRメーター(HP4284A、ヒューレット・パッカード社製)を用いて、周波数2kHzにおける絶縁体層の比誘電率を測定した。
(X線解析)
M03X−HF (Bruker AXS社製)を用いてX線解析を行い、回折ピーク位置から層状シリカ系ハイブリッド膜の層間距離又は棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜の繰り返し周期の距離を導出した。これらの距離に相当するピークを有しないものはアモルファス状とした。
(透過型電子顕微鏡観察)
JEOL JEM2010(日本電子社製)を用いて観察した。
【0052】
[有機薄膜トランジスタの製造]
前述のようにして絶縁体層を形成した基板を、真空蒸着装置(EX−400、ULVAC社製)内に設置し、ペンタセンを蒸着速度0.05nm/sで膜厚50nmになるように成膜して、有機半導体層を形成した。さらに金属マスクを通して、金を蒸着速度0.05nm/sで膜厚50nmになるように成膜して、ソース電極及びドレイン電極とし、トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ素子を得た(図1参照)。電極は、間隔(チャンネル長L)が75μm、幅(チャンネル幅W)が5mmとなるようにした。
得られた有機薄膜トランジスタのゲート電極に0〜−100Vのゲート電圧を印加し、ソース−ドレイン電極間に電圧を印加して電流を流した。この場合、正孔が有機半導体層のチャンネル領域(ソース−ドレイン電極間)に誘起され、p型トランジスタとして動作した。
下記式(A)を用い、電界効果移動度μと閾値電圧VTを算出したところ、それぞれ5.0cm2/Vs、+4.0Vであった。パリレン絶縁体層を用いた素子(比較例1、後述)と比較して、高移動度、低閾値電圧であった。結果を表1に示す。
D=(W/2L)・Cμ・(VG−VT2 (A)
(式中、IDはソース−ドレイン間電流、Wはチャンネル幅、Lはチャンネル長、Cはゲート絶縁体層の単位面積あたりの電気容量、VTはゲート閾値電圧、VGはゲート電圧である。)
【0053】
実施例2
絶縁体層を以下のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造した。
実施例1と同様にして調製した両親媒性オリゴマー溶液を、さらに、THF:Si比が40:5(モル比)となるようにTHFで希釈した。この希釈両親媒性オリゴマー溶液を、スピンコート法(3000rpm、10秒)を用いてガラス基板上に塗布したあと、室温で1日乾燥させ、絶縁体層を形成した。
実施例1と同様にして絶縁体層及び有機薄膜トランジスタを評価した。結果を表1に示す。また、X線解析及び透過型電子顕微鏡観察の結果、絶縁体層は実施例1と同様の層状構造であることがわかった。
【0054】
実施例3
絶縁体層を以下のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造した。
デシルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、THF、水、HClを、モル比で、1:4:15:19:0.2で混合し、室温で6時間攪拌し、両親媒性オリゴマー溶液を調製した。この溶液をさらにTHF:Si比が40:5(モル比)となるようにTHFで希釈した。この希釈両親媒性オリゴマー溶液を、スピンコート法(3000rpm、10秒)を用いて先のガラス基板上に塗布したあと、室温で1日乾燥させ、絶縁体層を形成した。
実施例1と同様にして絶縁体層及び有機薄膜トランジスタを評価した。結果を表1に示す。また、X線解析の結果、絶縁体層は、長距離構造を持たないアモルファス状態であることがわかった。
【0055】
実施例4
絶縁体層を以下のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造した。
ドデシルトリス(トリメトキシシロキシ)シラン、THF、水、HClを、モル比で、1:50:18:0.002で混合し、室温で6時間攪拌し、両親媒性オリゴマー溶液を調製した。この両親媒性オリゴマー溶液をさらに水:Si比が50:4(モル比)となるように水で希釈した。この溶液を、スピンコート法(3000rpm、10秒)を用いて上述のガラス基板上に塗布したあと、室温で1日乾燥させ、絶縁体層を形成した。
実施例1と同様にして絶縁体層及び有機薄膜トランジスタを評価した。結果を表1に示す。また、X線解析および透過型電子顕微鏡観察により、本絶縁体層は棒状集合構造を持つことがわかった。
【0056】
実施例5
有機半導体材料として、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン(4MSB)を用いた以外は、実施例1と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造し、それぞれを評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
実施例6
有機半導体材料として、4MSBを用いた以外は、実施例2と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造し、それぞれを評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
実施例7
有機半導体材料として、4MSBを用いた以外は、実施例3と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造し、それぞれを評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
実施例8
有機半導体材料として、4MSBを用いた以外は、実施例4と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造し、それぞれを評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
比較例1
絶縁体層の形成を以下のようにした以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを製造した。
実施例1と同様にして準備、洗浄したITO付ガラス基板を、熱CVD装置の成膜部にセットした。一方、原料の蒸発部には、絶縁体層の原料として、ポリパラキシレン誘導体[ポリパラ塩化キシレン(パリレン)](商品名;diX−C,第三化成株式会社製)250mgをシャーレに入れて設置した。熱CVD装置を真空ポンプで真空に引き、5Paまで減圧した後、蒸発部を180℃、重合部を680℃まで加熱して2時間放置しゲート電極上に厚さ800nmの絶縁体層を形成した。
実施例1と同様にして絶縁体層及び有機薄膜トランジスタを評価した。結果を表1に示す。また、X線解析の結果、パリレンの結晶に起因する弱い回折ピークが観測されたが、層構造のような明確な構造は観測されなかった。
【0061】
比較例2
有機半導体材料として、4MSBを用いた以外は、比較例1と同様にして、絶縁体層を形成し、有機薄膜トランジスタを製造し、それぞれを評価した。評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳細に説明したように、本発明の有機TFTは、高い移動度と低閾値電圧を有するため、トランジスタとして有用である。
【符号の説明】
【0064】
1:ゲート電極
2:ソース電極
3:ドレイン電極
4:有機半導体層
5:絶縁体層
6:基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、絶縁体層及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタであって、該絶縁体層が、下記一般式(1−a)で表される鎖状炭化水素基含有アルコキシシランAと、下記一般式(2)で表されるテトラアルコキシシランとを共加水分解・縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを、薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【化1】

(式中、R1は炭素数6以上の鎖状炭化水素基であり、R2は、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基である。)
Si(OR54 (2)
(式中、R5はメチル基又はエチル基である。)
【請求項2】
少なくとも基板上にゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、絶縁体層及び有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタであって、該絶縁体層が、下記一般式(1−b)で表される鎖状炭化水素基含有アルコキシシランBを加水分解・縮重合して得られる両親媒性オリゴマーを、薄膜成膜して得られるシリカ系有機無機ハイブリッド膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【化2】

(式中、R6は炭素数6以上の鎖状炭化水素基であり、R7〜R9は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基である。3つのR7、R8及びR9は、それぞれにおいて互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、層状シリカ系ハイブリッド膜である請求項1又は2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、アモルファスシリカ系ハイブリッド膜である請求項1又は2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜である請求項2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記一般式(1−b)におけるR6が炭素数14〜18の鎖状炭化水素基であり、前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、層状シリカ系ハイブリッド膜である請求項2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記一般式(1−b)におけるR6が炭素数6〜13の鎖状炭化水素基であり、前記シリカ系有機無機ハイブリッド膜が、棒状集合構造シリカ系ハイブリッド膜である請求項2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
両親媒性オリゴマーを塗布してシリカ系有機無機ハイブリッド膜を形成することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタを備える装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−165930(P2010−165930A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7871(P2009−7871)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】