説明

樹脂ガラス用積層体及びその製造方法

【課題】従来のようなプライマ塗装を施す必要がなく、樹脂ガラス用高分子基板とハードコート層との付着性が十分に高く、しかも樹脂ガラス用高分子基板の紫外線による劣化が十分に防止できる高度な耐候性を発揮できるとともに優れた耐擦傷性を発揮することが可能な樹脂ガラス用積層体、並びに、その樹脂ガラス用積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な樹脂ガラス用積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂ガラス用高分子基板と、前記樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着してなる無機層と、前記無機層を介して前記樹脂ガラス用高分子基板に積層されたアルコキシシラン含有ハードコート層とを備えることを特徴とする樹脂ガラス用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ガラス用積層体並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂等の樹脂ガラス用高分子基板は一般的にその表面自由エネルギーが低いことからハードコートの付着性が低く、通常は何らかの表面処理(コート前処理)を行わないと十分な付着性が得られない。そのため、従来からこのようなコート前処理の方法として各種のプライマ塗装が行われてきた(本間精一編、「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1992年8月28日発行(非特許文献1)参照)。
【0003】
しかしながら、このようなプライマ塗装においては、有機溶剤で希釈されている場合が多いため、環境負荷が大きいといった問題があった。また、このようなプライマ塗装においては、プライマの塗布を複数回に分けて行う必要があるため、多大な時間が必要であった。更に、このようなプライマ塗装においては、樹脂ガラス用高分子基板の紫外線劣化を防ぐために、プライマに紫外線吸収剤を多量に含ませる必要があったことから、経済性の面でも問題があった。
【非特許文献1】本間精一編、「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1992年8月28日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、従来のようなプライマ塗装を施す必要がなく、樹脂ガラス用高分子基板とハードコート層との付着性が十分に高く、しかも樹脂ガラス用高分子基板の紫外線による劣化が十分に防止できる高度な耐候性を発揮できるとともに優れた耐擦傷性を発揮することが可能な樹脂ガラス用積層体、並びに、その樹脂ガラス用積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な樹脂ガラス用積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、樹脂ガラス用高分子基板に特定の金属等の微粒子を付着させ、その微粒子が付着してなる無機層を介して特定の有機化合物を含有するハードコート層を積層せしめることにより、驚くべきことに、従来のようなプライマ塗装を施す必要がなく、樹脂ガラス用高分子基板とハードコート層との付着性が十分に高く、しかも樹脂ガラス用高分子基板の紫外線による劣化が十分に防止できる高度な耐候性を発揮できるとともに優れた耐擦傷性を発揮できる樹脂ガラス用積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の樹脂ガラス用積層体は、樹脂ガラス用高分子基板と、前記樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着してなる無機層と、前記無機層を介して前記樹脂ガラス用高分子基板に積層されたアルコキシシラン含有ハードコート層とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
上記本発明にかかる前記無機層としては、アルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂ガラス用高分子基板上に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着せしめることで形成された層であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の樹脂ガラス用積層体の製造方法は、樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着せしめて無機層を形成させる工程と、
樹脂ガラス用高分子基板上に前記無機層を介してアルコキシシラン含有ハードコート層を積層する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0009】
上記本発明の樹脂ガラス用積層体の製造方法においては、前記無機層を形成させる工程が、アルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂ガラス用高分子基板に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着させて無機層を形成させる工程であることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の樹脂ガラス用積層体の製造方法においては、前記レーザー光がパルス幅100ピコ秒〜100ナノ秒でかつ照射強度が10W/cm〜1012W/cmであるパルスレーザー光であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明の樹脂ガラス用積層体の製造方法においては、減圧状態、及び/又は、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス及びアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも一種のガスを含有するシールドガス雰囲気下において前記樹脂ガラス用高分子基板の表面に前記飛散粒子を付着せしめることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明にかかる前記樹脂ガラス用高分子基板としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、透明アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂、透明ポリスチレン樹脂、透明エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、透明ナイロン樹脂、透明ポリブチレンテレフタレート、透明フッ素樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、透明フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂及び透明フェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有してなるものであることが好ましく、ポリカーボネート樹脂からなるものであることであることがより好ましい。
【0013】
なお、本発明の樹脂ガラス用積層体、並びにその製造方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、先ず、表面自由エネルギーが低い前記樹脂ガラス用高分子基板の表面に、高い表面エネルギーを有するアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子が付着されているため、前記樹脂ガラス用高分子基板の表面は活性な状態に維持される。そのため、ハードコート層と前記樹脂ガラス用高分子基板との付着性が向上する。また、本発明においては、ハードコート層にアルコキシシランが含有されている。このようなアルコキシシランは、前述のアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子と高い反応性をもって容易に反応をすることから、他の材料を用いたハードコート層よりもより高い付着性を発揮させることが可能となる。更に、驚くべきことに、本発明にかかるある特定の無機層が高度な耐候性を発揮できることを見出したが、この理由としては前記樹脂ガラス用高分子基板が劣化する波長域の紫外光に対する反射率が高いためであると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のようなプライマ塗装を施す必要がなく、樹脂ガラス用高分子基板とハードコート層との付着性が十分に高く、しかも樹脂ガラス用高分子基板の紫外線による劣化が十分に防止できる高度な耐候性を発揮できるとともに優れた耐擦傷性を発揮することが可能な樹脂ガラス用積層体、並びに、その樹脂ガラス用積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な樹脂ガラス用積層体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明の本発明の樹脂ガラス用積層体について説明する。すなわち、本発明の樹脂ガラス用積層体は、樹脂ガラス用高分子基板と、前記樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着してなる無機層と、前記無機層を介して前記樹脂ガラス用高分子基板に積層されたアルコキシシラン含有ハードコート層とを備えることを特徴とするものである。
【0017】
本発明にかかる樹脂ガラス用高分子基板としては、樹脂ガラスに用いることができる高分子の樹脂により形成された基板であればよく特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、透明アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂、透明ポリスチレン樹脂、透明エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、透明ナイロン樹脂、透明ポリブチレンテレフタレート、透明フッ素樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、透明フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂及び透明フェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有してなるものであることが好ましい。また、このような樹脂ガラス用高分子基板の中でも透明性がより高く、しかも優れた高靱性を発揮できるという観点から、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂ガラス用高分子基板が特に好ましい。
【0018】
このような樹脂ガラス用高分子基板の厚みは得られる樹脂ガラス用積層体の設計に応じて適宜変更されるものであるため特に制限されるものではないが、例えば、自動車等で使用する場合には1〜10mm程度のものを用いることが好ましい。前記下限未満では、剛性が低いためにたわみ、実用性に乏しくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られる樹脂ガラス用積層体の重量が大きくなり、実用性に乏しくなる傾向にある。また、このような樹脂ガラス用高分子基板の形状も特に制限されず、得られる樹脂ガラス用積層体の用途等によって各種形状を適宜選択することができる。
【0019】
また、本発明にかかる無機層は、前記樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着してなるものである。
【0020】
このようなアルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物としては特に制限されないが、アルミニウム、ケイ素及びチタンの酸化物、窒化物、炭化物、硫化物の他、アルミニウム、ケイ素又はチタンの複合化合物等が挙げられる。このようなアルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物としては、具体的には、シリカ、アルミナ、ガラス、石英、カオリン、マイカ、タルク、クレイ、水和アルミナ、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素が挙げられる。更に、このようなアルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物の中でも、ハードコート層に含有されるアルコキシシランとの反応性がより高く、ハードコート層により高度の付着性を付与できるという観点から、シリカ、アルミナ、ガラス、石英、カオリン、マイカ、タルク、クレイ、水和アルミナ、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、酸化チタンが好ましく、シリカ、アルミナ、ガラス、石英、カオリン、酸化チタンがより好ましい。
【0021】
また、このような無機層としては、アルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂ガラス用高分子基板上に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着せしめることで形成された層であるが好ましい。このような無機層によって、樹脂ガラス用高分子基板とハードコート層との付着性がより向上する傾向にある。
【0022】
なお、ここでいう波長50nm〜100nmの真空紫外光とは、50nm〜100nmの波長領域における少なくとも一部の波長を有する真空紫外光のことをいうが、以下の条件のうちの少なくとも一つの条件を満たしていることが好ましい。
(i)50nm〜100nmの波長領域に少なくとも一つの光強度のピークを有すること、
(ii)50nm〜100nmの波長領域の光の全エネルギーが100nm〜150nmの波長領域の光の全エネルギーより高いこと、
(iii)50nm〜100nmの波長領域の光の全エネルギーが50nm以下の波長領域の光の全エネルギーより高いこと
(iv)50nm〜100nmの波長領域の光のエネルギー密度が前記樹脂ガラス用高分子基板上で0.1μJ/cm〜10mJ/cm(より好ましくは1μJ/cm〜100μJ/cm)であること。なお、基板上における前記エネルギー密度が0.1μJ/cmより低くなると処理に要する時間が過度に長くなってしまう傾向にあり、他方、10mJ/cmより高くなると基板が分解されてしまう傾向にある。
【0023】
さらに、このようなレーザー光を照射させて飛散粒子を付着せしめる方法を採用する場合においては、シールドガス雰囲気下において前記樹脂ガラス用高分子基板の表面に前記飛散粒子を付着せしめる場合に、例えば、内部が減圧状態となっている容器を用いると、真空紫外光が空気中の酸素等の真空紫外光吸収物質に吸収されることなく樹脂ガラス用高分子基板の表面に照射され、樹脂ガラス用高分子基板の表面がより効率良く活性化される傾向にある。また、シールドガス雰囲気下で処理をすると、減圧状態とせずとも真空紫外光が真空紫外光吸収物質に吸収されることなく樹脂ガラス用高分子基板の表面に照射され、基板表面がより効率良く活性化される傾向にある。さらに、後者の場合、前者の場合に比べて真空ポンプや耐圧容器を用いる必要がなくなるため、装置の簡便性および低コストという点でより好ましい傾向にある。
【0024】
また、前記無機層の厚みとしては0.5〜1000nmであることが好ましく、1〜100nmであることがより好ましい。前記無機層の厚みが前記下限未満では、無機層を形成する微粒子の量が少ないため、表面自由エネルギーが十分に高くならない傾向にあり、他方、他方前記上限を超えると残留歪から発生する応力により無機層が自然に剥離してしまう傾向にある。なお、前記無機層は必ずしも膜状になっている必要はなく、前記微粒子が分散した状態で付着していてもよい。
【0025】
さらに、前記微粒子の平均粒子径としては特に制限されないが、0.1〜500nm程度であることが好ましい。前記平均粒子径が前記下限未満では、シールドガス雰囲気下の処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると処理が不均一となる傾向にある。
【0026】
また、本発明にかかるハードコート層は、前記無機層を介して前記樹脂ガラス用高分子基板に積層されたアルコキシシラン含有ハードコート層である。このように本発明にかかるハードコート層においてはアルコキシシランを含有しており、そのアルコキシシランが前記無機層を形成するアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種との反応性が高いため、アルコキシシランの分子と前記樹脂ガラス用高分子基板の表面とが強固に結合され、ハードコート層の高度な付着性を達成することが可能となる。
【0027】
このようなハードコート層を形成させるための材料としては、アルコキシシランを含有しているものであればよく特に制限されず、アルコキシシランを含有している市販のハードコート材料を適宜用いることができる。このような市販のハードコート材料として、例えば、トスガード510(GE東芝シリコーン社製)、ソルガードNP−720及びソルガードNP−730(日本ダクロシャムロック社製)、KP−851及びKP−854(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0028】
また、このようなハードコート材料としては、アルコキシシランとして下記一般式(1):
(RSi(OR4−n (1)
(式(1)中、Rは同一であっても又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜10の1価の有機基を示し、nは0〜2の整数を示し、Rは同一であっても又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は1価の有機基を示す。)
で表されるオルガノシランの加水分解縮合物からなるオルガノポリシロキサン組成物を含有しているものが好ましい。
【0029】
また、このようなハードコート層の厚みとしては特に制限されないが、加熱硬化後の厚さが0.2〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましい。このようなハードコート層の厚みが前記下限未満では、所望の硬度と耐摩耗性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると熱硬化時に発生する応力によりクラックが発生したり、密着性が低下したりする傾向にある。
【0030】
以上、本発明の樹脂ガラス用積層体について説明したが、以下において、上記本発明の樹脂ガラス用積層体を製造するために好適な本発明の樹脂ガラス用積層体の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の樹脂ガラス用積層体の製造方法は、樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着せしめて無機層を形成させる工程(無機層形成工程)と、
樹脂ガラス用高分子基板上に前記無機層を介してアルコキシシラン含有ハードコート層を積層する工程(ハードコート層積層工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0032】
(無機層形成工程)
このような無機層を形成する工程は特に制限されず、例えば、レーザーアブレーション法を採用して無機層を形成する工程、プラズマCVD法を採用して無機層を形成する工程、スパッター法を採用して無機層を形成する工程を採用することができる。このような無機層を形成する工程の中でも、よりハードコート層の付着性を向上させることができるという観点からレーザーアブレーション法を採用して無機層を形成する工程を採用することが好ましい。そして、このようなレーザーアブレーション法を採用して無機層を形成する工程の中でも、アルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂ガラス用高分子基板に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着させて無機層を形成させる工程を採用することが好ましい。
【0033】
以下、図面を参照しながら無機層形成工程として好適なレーザーアブレーション法を採用して無機層を形成する工程の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
先ず、このようなレーザーアブレーション法を採用して無機層を形成する工程を実施するのに好適な装置について説明する。
【0035】
図1は、無機層を形成する工程を実施するのに好適な装置の一実施形態の基本構成を示す模式図であり、図1に示す装置はいわゆるレーザーアブレーション装置1として構成されている。すなわち、図1に示すレーザーアブレーション装置1は、レーザー光源2と、レーザー光源2から発せられたレーザー光Lが導入される処理容器3とを備えており、処理容器3の内部にはレーザー光Lが照射されるターゲット4と、表面に活性化された無機層5が形成されるべき基板6とが配置されている。
【0036】
レーザー光源2は、パルス幅が100ピコ秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射することができるレーザー光発生装置であればよく、特に制限されないが、例えばYAGレーザー装置、エキシマレーザー装置によって構成され、中でもYAGレーザー装置によって構成されることが好ましい。そして、レーザー光源2は、処理容器3の内部に配置されているターゲット4に向かってレーザー光Lを照射する位置に配置されている。また、図示はしていないが、レーザー光Lをターゲット4に照射した際にターゲット4の表面からアルミニウム、ケイ素、チタン又それらの化合物を含む飛散粒子aおよび真空紫外光Lが効率的に発生するように、レーザー光Lの光路の途中にレンズ、鏡等を適宜配置してレーザー光のエネルギー密度や照射角度を調整してもよい。特に、集光レンズ(図示せず)を処理容器3の内部または外部に配置して、ターゲット4に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度が10W/cm〜1012W/cmとなるようにすることが好ましく、10W/cm〜1011W/cmとなるようにすることが特に好ましい。
【0037】
処理容器3は、少なくともターゲット4と基板6とを内部に収容するための容器(例えばステンレス鋼製の容器)であり、レーザー光Lを容器3内に配置されたターゲット4の表面に導入するための窓7(例えば石英製の窓)を備えている。また、処理容器3には真空ポンプ(図示せず)が接続されており、容器3の内部を所定圧力の減圧状態に維持することが可能となっている。このように内部が減圧状態となる容器3を用いると、真空紫外光Lが空気中の酸素等の真空紫外光吸収物質に吸収されることなく基板6の表面に照射され、基板6の表面がより効率良く活性化される。なお、容器3の内部を減圧状態に維持する際の圧力としては、1Torr以下の圧力が好ましく、1×10−3Torr以下の圧力がより好ましい。また、酸素分圧及び/又は窒素分圧が1Torr以下の圧力となるようにすることが好ましい。
【0038】
ターゲット4は、前述のレーザー光Lの照射によりアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物又はチタン化合物を含む飛散粒子を発生する材料からなるものであればよい。さらに、ターゲット4は、このようなアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物又はチタン化合物を複合してなるものであってもよい。なお、ターゲット4の形状等は特に制限されず、板状、ロッド状等に成形された前記ターゲット材料からなるバルク材や、前記ターゲット材料をテープ上に塗布、蒸着等によって形成したテープ状ターゲット等を用いることができる。また、このようなアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物としては、上記本発明の樹脂ガラス用積層体において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0039】
基板6は、その表面に微粒子が付着されるべき樹脂ガラス用高分子基板であり、具体的には得られる樹脂ガラス積層体の用途等によって適宜決定される。このような樹脂ガラス用高分子基板としては、上記本発明の樹脂ガラス用積層体において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0040】
上述の基板6とターゲット4との位置的関係は特に限定されず、基板6の表面にターゲット4の表面から発生した真空紫外光Lが確実に照射されかつ飛散粒子aが効率良く付着するようにターゲット4に対して基板6が適宜配置され、図1においてはターゲット4の法線に対する角度θが45°となる位置に基板6が配置されている。また、ターゲット4にはターゲット駆動装置(例えばターゲット回転台、図示せず)が接続され、レーザー光Lの照射位置にターゲットの新鮮な面(レーザー光未照射面)が順次繰り出されるようになっている。さらに、基板6にも基板駆動装置(例えば基板回転台、図示せず)が接続され、基板6の表面がより均一に活性化されるようになっていてもよい。
【0041】
以上、本発明にかかる無機層を形成する工程を実施するのに好適な装置の一実施形態について説明したが、このような工程を実施するのに好適な装置は上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、例えば、上記実施形態では処理容器3が真空ポンプ(図示せず)に接続されているが、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガスおよびアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも一種のシールドガスを導入するためのガスボンベ(図示せず)に接続されていてもよく、その場合は容器3の内部を所定のシールドガス雰囲気に維持することが可能となる。このように内部がシールドガス雰囲気となっている容器3を用いると、容器3内を減圧状態とせずとも真空紫外光Lが真空紫外光吸収物質に吸収されることなく基板6の表面に照射され、基板6の表面がより効率良く活性化される。また、処理容器3に真空ポンプ(図示せず)及びガスボンベ(図示せず)の双方を接続し、容器3の内部を所定のシールドガス雰囲気にすると共に所定の圧力条件に維持することが好適である。このような条件としては、例えばヘリウムガス雰囲気で大気圧以下の圧力が好ましく、500Torr以下の圧力がより好ましい。また、酸素分圧及び/又は窒素分圧が1Torr以下の圧力となるようにすることが好ましい。
【0042】
また、上記実施形態ではレーザー光源2が処理容器3の外部に配置されているが、処理容器3の内部に配置されていてもよく、その場合はレーザー光Lを容器3内に導入するための窓7は不要となる。
【0043】
更に、上記実施形態ではターゲット4の法線に対する角度Θが45°となる位置に基板6が配置されているが、このような位置関係に特に限定されるものではなく、ターゲット4の法線に対する角度Θが10°〜60°程度の範囲となる位置に基板6が配置されていてもよい。また、例えば炭素原子含有材料からなる基板6としてレーザー光Lを透過可能なものを用い、基板6をレーザー光源2とターゲット4との間にターゲット4に対して対向配置せしめ、基板6を透過したレーザー光Lがターゲット4に照射されるようにしてもよい。
【0044】
また、ターゲット4としてレーザー光Lを透過可能なものを用い、ターゲット4をレーザー光源2と基板6との間に配置せしめ、ターゲット4の裏面(透明フィルム側)から表面(ターゲット材料側)に透過したレーザー光Lによってターゲット4の表面(ターゲット材料側)から真空紫外光Lおよび飛散粒子aが発生し、それらが基板6の表面に供給されるようにしてもよい。このような構成にすると、比較的大型の基板に対して無機層の形成がより容易になる傾向にある。また、このような構成に用いるターゲットとしては、レーザー光に対して透明なフィルム(例えばPETフィルム)上に前述のターゲット材料を蒸着、貼着等により積層したテープ状ターゲットが好ましい。
【0045】
次に、図1を参照しながら本発明にかかる無機層を形成する工程の好適な一実施形態について説明する。
【0046】
このような無機層を形成する工程においては、先ず、前述のターゲット4にパルス幅100ピコ秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光Lがレーザー光源2から照射される。すると、ターゲット4の表面に高温のプラズマPが形成され、そのプラズマPから波長50nm〜100nmの真空紫外光Lが発生する。また、それと同時に、レーザー光Lが照射されたターゲット4の表面からはターゲットを構成する材料に応じて金属原子や炭素原子を含む分子が高いエネルギーをもって飛散するほか、プラズマP内部もしくはプラズマPにより加熱されたターゲット4の表面からは、ターゲットを構成する分子が分解することにより形成された中性原子、イオン、並びに前記の分子、中性原子およびイオンのうちのいくつかが結合して形成されたクラスタが高いエネルギーをもって飛散する。なお、パルスレーザー光Lのパルス幅が100ピコ秒未満では短時間にレーザーのエネルギーが集中してターゲットに照射されるため波長50nm未満の光が発生するようになり、他方、100ナノ秒を超えるとレーザーのエネルギーが時間的に十分集中して照射されないため発生する光の波長が100nmを超えてしまう。また、発生する光Lの波長が50nm未満の場合並びに100nm超の場合はいずれも、炭素原子含有材料に対する光Lの吸収率が低くなり、基板の表面が十分に活性化されず、ハードコート層と基板との付着強度が不十分となる。さらに、ターゲット4に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度が10W/cm〜1012W/cmであることが好ましい。パルスレーザー光Lの照射強度が10W/cm未満では波長50nm〜100nmの真空紫外光Lが十分に発生しない傾向にあり、他方、1012W/cmを超えるとターゲットに照射されたときに発生する電磁波の主たる波長域が50nm以下の波長域になるため、波長50nm〜100nmの真空紫外光Lの光量が減少してしまう傾向にある。
【0047】
そして、このようにパルスレーザー光Lの照射によりターゲット4の表面から発生した各種飛散粒子(アブレータ)aは、真空紫外光Lと共に樹脂ガラス用高分子基板6の表面に供給される。このようにして基板6の表面に照射された真空紫外光Lは樹脂ガラス用高分子基板を構成する材料に対する吸収率が高いので、真空紫外光Lが照射された樹脂ガラス用高分子基板6の表面は十分に活性化される。そこに、飛散粒子aが高いエネルギーをもって到達するため、飛散粒子aは基板6上に強固に付着し、基板表面が活性な状態に維持される。このようにして炭素原子含有基板6の表面がムラなく活性な状態に長時間にわたって維持されるようになり、このように活性化されている基板表面上にハードコート層を積層させることでハードコート層が含有するとアルコキシシラン分子と基板表面とが強固に結合して付着性の高いハードコート層が積層される。
【0048】
なお、上述の無機層を形成する工程においては、基板6の表面を活性化させる際に基板を高温に加熱する必要はなく、基板温度は特に制限されないが、一般的には室温〜50℃程度であればよい。また、基板6の表面を活性化させるのに要する時間(レーザー光照射時間)も特に制限されず、ハードコート層と基板との付着性が最適となるように適宜決定されるが、一般的には1秒〜10分程度が好ましく、5秒〜1分程度が特に好ましい。
【0049】
(ハードコート層積層工程)
次に、本発明にかかるハードコート層積層工程は、樹脂ガラス用高分子基板上に前記無機層を介してアルコキシシラン含有ハードコート層を積層する工程である。
【0050】
このようなハードコート層を形成させるための材料(ハードコート材料)としては、上記本発明の樹脂ガラス用積層体において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0051】
また、前記樹脂ガラス用高分子基板上に前記ハードコート層を積層する方法は特に制限されず、前記樹脂ガラス用高分子基板上に前記ハードコート層を積層することが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、前記ハードコート材料を塗布してハードコート層を積層する方法を採用することが挙げられる。このような塗布の方法としては特に制限されないが、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法等の各種の塗装方法を採用することができる。また、ハードコート層を形成(硬化)させる方法としては焼付け、常温又は加熱乾燥等により硬化させる方法が挙げられる。このような加熱乾燥により硬化させる方法としては特に制限されないが、100〜140℃の範囲で30分〜2時間加熱硬化させる方法を採用することが好ましい。
【0052】
本発明においては、前述の無機層形成工程によって活性な状態に維持されている樹脂ガラス用高分子基板の表面にハードコート材料を塗布し、また、前記無機層を形成する微粒子とハードコート材料分子との反応性が高いため、ハードコート材料分子と基板表面とが強固に結合する。そのため、従来のようなプライマ塗装を施すことなく付着性の高いハードコートが形成される。また、前述の無機層形成工程において活性化された基板表面は長時間にわたって活性状態に維持されるため、前述の無機層形成工程の直後にハードコート層積層工程を実施する必要は必ずしもなく、例えば無機層形成工程の実施から約1ヶ月以上経過した後にハードコート層積層工程を実施してもハードコート層の高度の付着性が達成される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1〜3及び比較例1〜6)
無機層形成工程に図1に示すような構造の装置を用いるレーザーアブレーション法を採用し、樹脂ガラス用積層体を製造した。すなわち、先ず、レーザー光をターゲット4に集光してプラズマを発生させ、樹脂ガラス用高分子基板6上に真空紫外光を照射しつつアブレータaを付着させて無機層を形成させた。
【0055】
樹脂ガラス用高分子基板6としては、ポリカーボネート(PC)からなる基板(三菱エンジニアリングプラスチックス製の商品名「ユーピロンシート」、グレードNF2000VU)を用いた。また、樹脂ガラス用高分子基板のサイズは、縦40mm、横40mm、厚み2mmとした。
【0056】
また、ターゲット4としては、表1に示す原料からなるターゲットを用いた。
【0057】
【表1】

【0058】
また、レーザー光源2としては、Spectra−Physics社製のパルスレーザー(Nd−YAG)装置を用い、レーザー光の波長を532nm(パルス幅7ns,エネルギー1J)とした。
【0059】
さらに、ターゲット4と樹脂ガラス用高分子基板6は、図2に示すレーザー光Lとターゲット4の表面の角度θ1が25°であり、樹脂ガラス用高分子基板6の法線とレーザー光Lとのなす角度θ2が60°であり、ターゲット4と樹脂ガラス用高分子基板6との距離Xが80mmとなるようにして配置した。また、ターゲット4と樹脂ガラス用高分子基板6は、均一な処理ができるようにモータによってそれぞれ6rpmと48rpmで回転させた。更に、実験中は処理容器3内の真空度を10−3Torr以下とした。
【0060】
また、レーザー光の集光形状を平均直径が3.2mmとなるように調整し、照射強度条件を1.7GW/cmとした。なお、照射強度は、レーザー光の集光サイズ(ターゲット上におけるレーザー光のスポット面積)によって決めることができ、照射強度と集光サイズの関係は下記式(1)によって示される。
(照射強度)=(レーザー光エネルギー)/{(パルス幅)×(集光サイズ)} (1)
さらに、このようなレーザー光による処理時間は30秒間とした。
【0061】
次に、ハードコート層積層工程として、アルコキシシラン含有のハードコート材料(信越化学工業株式会社製の「KP−851」)をディッピングにより塗布して乾燥させて、前記樹脂ガラス用高分子基板に前記無機層を介してハードコート層を積層せしめた。このようにして樹脂ガラス用積層体を得た。このようなハードコート材料の塗布条件と乾燥条件は、前記無機層が形成された基板に対してディッピングコートを1回(約1分間)行った後、これをセッティングのために20分間放置した後、130℃の温度条件で60分間焼付けを行った。なお、得られた樹脂ガラス用積層体におけるハードコート層の厚みは4μmであった。
【0062】
(実施例4)
樹脂ガラス用高分子基板として下記のようにして製造されたポリメタクリル酸メチルからなる基板を用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は実施例2と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。
【0063】
〔ポリメタクリル酸メチルからなる基板〕
材料としてポリメタクリル酸メチル(PMMA:旭化成株式会社製の商品名「デルペット」、グレード80N)を用い、前記デルペットを射出成形機(日精樹脂工業社製の商品名「NEX1000−9E TWF−200HHDN」)を型締圧力80tonの条件で2mmの厚みに成形し、得られた成形体から縦40mm、横40mm、厚み2mmの大きさの基板を切り出し、ポリメタクリル酸メチルからなる基板を得た。
【0064】
(実施例5)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は実施例3と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。
【0065】
(比較例7)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は比較例5と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。
【0066】
(比較例8)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は比較例6と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。
【0067】
<実施例1〜5及び比較例1〜8で得られた樹脂ガラス用積層体の特性の評価>
〈初期付着性〉
実施例1〜5及び比較例1〜8で得られた樹脂ガラス用積層体に対してテープ剥離試験を行い、初期付着性を評価した。すなわち、テープ剥離試験として、各樹脂ガラス用積層体のハードコート層にカッターナイフでクロスカットを入れた後、クロスカットした部分にニチバン株式会社製のセロテープ(登録商標)CT−24を貼り付け、これを引き剥がしてハードコートの剥れの有無で初期付着性を評価した。なお、評価基準を以下に示す。
[初期付着性の評価基準]
○:ハードコートが剥れなかった(合格)。
×:ハードコートが剥れた(不合格)。
得られた結果を表2に示す。なお、初期付着性の悪かった比較例5〜8については、以下の評価は実施しなかった。
【0068】
〈耐熱性〉
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂ガラス用積層体の耐熱性を評価した。すなわち、各樹脂ガラス用積層体を110℃の温度条件下で720時間保持する耐熱性試験を行った後、初期付着性の測定に採用された方法と同様の方法を採用してテープ剥離試験を行い、耐熱性を評価した。なお、評価基準は、初期付着性の評価基準と同様にした。得られた結果を表2に示す。
【0069】
〈耐湿性〉
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂ガラス用積層体の耐湿性を評価した。すなわち、各樹脂ガラス用積層体を温度50℃、相対湿度95%の条件下で720時間保持する耐湿性試験を行った後、初期付着性の測定に採用された方法と同様の方法を採用してテープ剥離試験を行い、耐湿性を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0070】
〈耐水性〉
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂ガラス用積層体の耐水性を評価した。すなわち、各樹脂ガラス用積層体を温度40℃の水に720時間浸漬する耐水性試験を行った後、初期付着性の測定に採用された方法と同様の方法を採用してテープ剥離試験を行い、耐水性を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0071】
〈耐ヒートショック性〉
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂ガラス用積層体の耐ヒートショック性を評価した。すなわち、各樹脂ガラス用積層体を90分間おきに温度が−30℃と110℃となるようにし、これを100サイクル行う耐ヒートショック性試験の後、初期付着性の測定に採用された方法と同様の方法を採用してテープ剥離試験を行い、耐ヒートショック性を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0072】
〈耐候性〉
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂ガラス用積層体の耐候性を評価した。すなわち、下記に示す促進耐候性試験を行い、耐候性を評価した。このような促進耐候性試験には、試験機として光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機(ダイプラ・ウインテス株式会社製の商品名「KU−R5C1−A」)を用い、光の照射、暗黒、結露の3条件を連続で負荷した後、ハードコートが自然に剥れるまでのサイクル数を測定した。なお、前記照射の条件は、照度90mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件下で4時間光を照射するものであり、前記暗黒の条件は光を照射せずにブラックパネル温度70℃、相対湿度90%の条件下で4時間保持するものであり、前記結露の条件は、光を照射せずに相対湿度98%の条件下でブラックパネル温度を70℃から30℃に自然冷却させて4時間保持するものである。得られた結果を表2に示す。
【0073】
〈耐擦傷性〉
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られた樹脂ガラス用積層体の耐擦傷性を評価するためにテーバー摩耗試験を行った。すなわち、各樹脂ガラス用積層体に対して、テーバー試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着し、片輪500g荷重で500回転テーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗試験後のヘイズとテーバー摩耗試験前のヘイズとの差ΔHを測定して耐擦傷性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
(実施例6〜9)
無機層形成工程にスパッター法を採用し、ハードコート層積層工程には実施例1で採用されたハードコート層積層工程と同様の方法を採用して樹脂ガラス用積層体を製造した。 すなわち、スパッターリング装置(アルバック社製)を用いてスパッター処理を行って、樹脂ガラス用高分子基板上に無機膜を形成させた後、ハードコート層を積層させて樹脂ガラス用積層体を得た後、ハードコート層積層工程を施して樹脂ガラス用積層体を製造した。なお、このようなスパッター処理においては、ターゲットとして、実施例6及び7では実施例2で用いた原料と同様の原料からなる基材を用い、実施例8及び9では実施例3で用いた原料と同様の原料からなる基材を用いた。また、樹脂ガラス用高分子基板としては、実施例1で用いたものと同様のポリカーボネート(PC)からなる基板を用いた。
【0076】
また、スパッター処理においては、先ず、前記スパッターリング装置内の試料ホルダーに、縦40mm、横40mmに切断した前記基板を取り付けた後、2×10−6Torrとなるまで真空ポンプと油拡散ポンプで真空引きを行い、2×10−6Torrに達した後にArガス(ターゲットがSiの場合(実施例6及び7の場合))又はArガスとOの混合ガス(ターゲットがTiOの場合(実施例8及び9の場合))を3×10−6Torrの圧力状態になるように装置内に導入した。次いで、ターゲットの電源に50W(実施例6及び7の場合)あるいは150W(実施例8及び9の場合)の電力を投入してプラズマを発生させた。このようにしてプラズマを発生させた後、所定の時間(実施例6:90秒、実施例7:50秒、実施例8:330秒、実施例9:155秒)の間、プラズマを前記基板に照射した。その後、ターゲットの電源を切断し、ターゲットが冷却するのをまって窒素ガスで大気圧に戻した後、基板を装置から取り出した。得られた無機層の厚みを表3に示す。
【0077】
(実施例10)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は実施例6と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。得られた無機層の厚みを表3に示す。
【0078】
(実施例11)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は実施例7と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。得られた無機層の厚みを表3に示す。
【0079】
(実施例12)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は実施例8と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。得られた無機層の厚みを表3に示す。
【0080】
(実施例13)
樹脂ガラス用高分子基板として、実施例4で用いられたポリメタクリル酸メチルからなる基板と同様のものを用い、100℃の温度条件で120分間焼付けを行った以外は実施例9と同様にして樹脂ガラス用積層体を製造した。得られた無機層の厚みを表3に示す。
【0081】
<実施例6〜13で得られた樹脂ガラス用積層体の特性の評価>
実施例6〜13で得られた樹脂ガラス用積層体の初期付着性、耐熱性、耐候性及び耐擦傷性を評価した。このような初期付着性、耐熱性、耐候性及び耐擦傷性の評価方法としては、前述の実施例1〜5及び比較例1〜8で得られた樹脂ガラス用積層体の初期付着性、耐熱性、耐候性及び耐擦傷性の評価方法を採用した。得られた結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表2及び表3に示した結果から明らかなように、無機層がアルミニウム、ケイ素、チタニアにより形成された本発明の樹脂ガラス用積層体(実施例1〜13)においては、全ての特性が優れたものとなることが確認された。一方、無機層がアルミニウム、ケイ素、チタニア以外により形成された樹脂ガラス積層体(比較例1〜7)においては、全ての樹脂ガラスの耐水性及び耐候性が、本発明の樹脂ガラス用積層体(実施例1〜5)よりも劣ったものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明によれば、従来のようなプライマ塗装を施す必要がなく、樹脂ガラス用高分子基板とハードコート層との付着性が十分に高く、しかも樹脂ガラス用高分子基板の紫外線による劣化が十分に防止できる高度な耐候性を発揮できるとともに優れた耐擦傷性を発揮することが可能な樹脂ガラス用積層体、並びに、その樹脂ガラス用積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な樹脂ガラス用積層体の製造方法を提供することが可能となる。
【0085】
したがって、本発明の樹脂ガラス用積層体は、付着性及び耐候性に優れるため、自動車等のウィンドウ部に用いられる樹脂ガラスの材料等として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】無機層を形成するのに好適な装置の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図である。
【図2】処理容器内に配置されたターゲットと樹脂ガラス用高分子基板の位置関係を示す摸式図である。
【符号の説明】
【0087】
1…レーザーアブレーション装置、2…レーザー光源、3…処理容器、4…ターゲット、5…活性化された無機層、6…基板、7…窓、L…パルスレーザー光、L…真空紫外光、a…飛散粒子、P…プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ガラス用高分子基板と、前記樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着してなる無機層と、前記無機層を介して前記樹脂ガラス用高分子基板に積層されたアルコキシシラン含有ハードコート層とを備えることを特徴とする樹脂ガラス用積層体。
【請求項2】
前記無機層が、アルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂ガラス用高分子基板上に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着せしめることで形成された層であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂ガラス用積層体。
【請求項3】
前記樹脂ガラス用高分子基板が、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、透明アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂、透明ポリスチレン樹脂、透明エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、透明ナイロン樹脂、透明ポリブチレンテレフタレート、透明フッ素樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、透明フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂及び透明フェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有してなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂ガラス用積層体。
【請求項4】
前記樹脂ガラス用高分子基板が、ポリカーボネート樹脂からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂ガラス用積層体。
【請求項5】
樹脂ガラス用高分子基板上にアルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子を付着せしめて無機層を形成させる工程と、
樹脂ガラス用高分子基板上に前記無機層を介してアルコキシシラン含有ハードコート層を積層する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂ガラス用積層体の製造方法。
【請求項6】
前記無機層を形成させる工程が、アルミニウム、ケイ素、チタン、アルミニウム化合物、ケイ素化合物及びチタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂ガラス用高分子基板に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着させて無機層を形成させる工程であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂ガラス用積層体の製造方法。
【請求項7】
前記レーザー光が、パルス幅100ピコ秒〜100ナノ秒でかつ照射強度が10W/cm〜1012W/cmであるパルスレーザー光であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂ガラス用積層体の製造方法。
【請求項8】
減圧状態、及び/又は、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス及びアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも一種のガスを含有するシールドガス雰囲気下において前記樹脂ガラス用高分子基板の表面に前記飛散粒子を付着せしめることを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂ガラス用積層体の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂ガラス用高分子基板が、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂、透明アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂、透明ポリスチレン樹脂、透明エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、透明ナイロン樹脂、透明ポリブチレンテレフタレート、透明フッ素樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、透明フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂及び透明フェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有してなるものであることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の樹脂ガラス用積層体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂ガラス用高分子基板が、ポリカーボネート樹脂からなるものであることを特徴とする請求項5〜9のうちのいずれか一項に記載の樹脂ガラス用積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−313804(P2007−313804A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147343(P2006−147343)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】