説明

樹脂モールド軸材とその製造方法、及び、トルク検出装置

【課題】気温などの温度の変化により発生する樹脂成形体の破損が抑制されうる樹脂モールド軸材を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂モールド軸材は、軸本体1の外周面が樹脂成形体7で覆われている樹脂モールド軸材であり、樹脂成形体7の軸本体1に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部2と、その滑り止めを行わない平滑部4とが、軸本体1の外周面に対して円周方向に交互に形成され、平滑部4が、樹脂成形体7のウェルド部5と対応する周方向位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂モールド軸材に関するものである。より詳しくは、本発明は、トルク検出装置などのロータとして用いることができる樹脂モールド軸材、その製造方法、及び、例えば、電動パワーステアリング装置などのトルクを検出することができるトルク検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軸本体の外周面が樹脂成形体で覆われている樹脂モールド軸材は、例えば、サーボモータのロータなどの種々の分野で用いられている。前記サーボモータのロータとして用いられている樹脂モールド軸材としては、例えば、樹脂成形体であるボンド磁石で軸本体が覆われているロータなどが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1記載の樹脂モールド軸材は、円周方向表面全体にロートレット加工が施されて微小な凹部面が設けられた軸本体が、樹脂成形体であるボンド磁石で覆われている。そのため、かかる樹脂モールド軸材においては、軸本体とボンド磁石とが、強く締結されている。
【特許文献1】特開2005−237047号公報(図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1記載の樹脂モールド軸材は、気温などの温度の変化により、軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差が生じ、樹脂成形体の破損などが発生することがあるという欠点がある。
【0005】
本発明は、前記従来技術の欠点に鑑みてなされたものであり、気温などの温度の変化により発生する樹脂成形体の破損が抑制されうる樹脂モールド軸材を提供することを1つの課題とする。
【0006】
また、本発明は、得られる樹脂モールド軸材に、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などに対する耐久性を付与することができる、樹脂モールド軸材の製造方法を提供することを他の課題とする。
【0007】
さらに、本発明は、例えば、気温などの温度の変化があっても、高い耐久性を発揮するトルク検出装置を提供することをさらに他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1つの側面では、軸本体の外周面が樹脂成形体で覆われている樹脂モールド軸材であって、
前記樹脂成形体の前記軸本体に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記樹脂成形体のウェルド部と対応する周方向位置に配置されていることを特徴とする樹脂モールド軸材に関する。
【0009】
本発明の樹脂モールド軸材は、前記滑り止め加工部と前記平滑部とが、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記樹脂成形体のウェルド部と対応する周方向位置に配置されているため、前記樹脂成形体のウェルド部に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる前記軸本体と前記樹脂成形体との間の線膨張係数差による前記樹脂成形体の破損などの発生が抑制される。
【0010】
本発明の樹脂モールド軸材において、前記滑り止め加工部は、ローレット加工又はくぼみ加工により形成されていることが好ましい。本発明の樹脂モールド軸材では、前記滑り止め加工部がローレット加工又はくぼみ加工により形成されている場合、樹脂モールド軸材における軸本体と樹脂成形体との間の締結力をより高めることができる。
【0011】
本発明の樹脂モールド軸材において、前記樹脂成形体としては、S極とN極とを円周方向に交互に有するボンド磁石よりなるものが挙げられる。かかる樹脂モールド軸材は、前記ボンド磁石のウェルド部に応力集中が発生せず、温度の変化により生じる前記軸本体と前記ボンド磁石との間の線膨張係数差によるボンド磁石の破損などが抑制される。さらに、かかる樹脂モールド軸材は、ウェルド部への応力集中による破損などを考慮しなくてもよく、磁石を薄くすることができ、トルク検出装置を安価に小型化できる。かかる樹脂モールド軸材は、トルク検出装置のロータとして好適である。
【0012】
本発明は、他の側面では、次の工程(1)〜(3):
(1) 前記樹脂成形体の前記軸本体に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とを、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成する工程、
(2) 周方向の複数位置にゲートを有する金型を、周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置が前記平滑部と対応する周方向位置に来るように前記工程(1)で得られた軸本体の外周側にセットする工程、及び
(3) 前記工程(2)でセットした金型の各ゲートから同時かつ同速度で樹脂成形材料を噴出させて前記金型内を当該材料で充填することにより、前記軸本体の外周面を前記樹脂成形体で覆う工程
を含む、軸本体の外周面を樹脂成形体で覆う樹脂モールド軸材の製造方法に関する。
【0013】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、製造に際して、周方向の複数位置にゲートを有する金型を、周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置が前記平滑部と対応する周方向位置に来るように前記軸本体の外周側にセットするため、得られる樹脂モールド軸材において、樹脂成形材料を充填する際に形成されるウェルド部に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などの発生が抑制される。そのため、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、得られる樹脂モールド軸材に、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などに対する耐久性を付与することができる。
【0014】
本発明は、別の側面では、同軸状に連結された第一軸及び第二軸と、その第一軸の外周面に成形されたボンド磁石と、前記ボンド磁石の磁界内において磁気回路を構成すべく第二軸に取り付けられた複数の軟磁性体と、この軟磁性体で発生した磁束を検出する検出器とを備えているトルク検出装置であって、
前記ボンド磁石の前記第一軸に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記第一軸の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記ボンド磁石のウェルド部と対応する周方向位置に配置されていることを特徴とするトルク検出装置に関する。
【0015】
本発明のトルク検出装置は、前記滑り止め加工部と前記平滑部とが、前記第一軸の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記ボンド磁石のウェルド部と対応する周方向位置に配置されているため、気温などの温度の変化があっても、ボンド磁石の破損などが抑制されるため、高い耐久性を発揮し、長期間にわたって使用できる。
【発明の効果】
【0016】
前述のように、本発明の樹脂モールド軸材は、前記平滑部が、前記樹脂成形体のウェルド部と対応する周方向位置に配置されているため、ウェルド部に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる前記軸本体と前記樹脂成形体との間の線膨張係数差による前記樹脂成形体の破損などが抑制されるという優れた効果を奏する。
【0017】
また、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、製造に際して、周方向の複数位置にゲートを有する金型を、周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置が前記平滑部と対応する周方向位置に来るように前記軸本体の外周側にセットするため、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、得られる樹脂モールド軸材において、樹脂成形材料を充填する際に形成されるウェルド部に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などの発生が抑制される。そのため、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、得られる樹脂モールド軸材に、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などに対する耐久性を付与することができる。また、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法は、ウェルド部への応力集中による破損などを考慮しなくてもよく、磁石を薄くすることができ、トルク検出装置を安価に小型化できる。
【0018】
本発明のトルク検出装置は、前記樹脂モールド軸材であるロータを備えているので、気温などの温度の変化があっても、ボンド磁石の破損などが抑制され、高い耐久性を発揮し、長期間にわたって使用できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、1つの側面では、軸本体の外周面が樹脂成形体で覆われている樹脂モールド軸材であって、
前記樹脂成形体の前記軸本体に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記樹脂成形体のウェルド部と対応する周方向位置に配置されていることを特徴とする樹脂モールド軸材に関する。
【0020】
本明細書において、「樹脂成形体」とは、樹脂成形材料を成形することにより得られるものをいい、例えば、樹脂硬化物、ボンド磁石などが挙げられる。
【0021】
前記樹脂成形材料としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの樹脂;ボンド磁石成形材料などが挙げられる。前記ボンド磁石成形材料としては、例えば、磁性粉末と結合材料とを含有し、該磁性粉末同士が結合材料によって結合された状態となっている材料などが挙げられる。前記磁性粉末としては、特に限定されないが、例えば、希土類系磁石などが挙げられる。前記結合材料としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。また、前記熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂ポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)などが挙げられる。
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の樹脂モールド軸材の実施態様を説明する。図1及び図2は、本発明の樹脂モールド軸材の一例であるロータの一実施態様を示す概略説明図である。図1(a)及び図2(a)それぞれは、金型3を嵌合させたままの状態での樹脂モールド軸材の軸方向上方からの局部投影図であり、金型3のゲート6に、パイプ9を接続していない状態を示す。図1(b)及び図2(b)それぞれは、前記図1(a)及び図2(a)それぞれに対応して、本発明の樹脂モールド軸材の側面投影図である。
【0023】
本発明の樹脂モールド軸材は、図1(b)及び図2(b)に示されるように、樹脂成形体7の軸本体1に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部2とその滑り止めを行わない平滑部4とが、軸本体1の外周面に対して円周方向に交互に形成され、平滑部4が、樹脂成形体7のウェルド部5と対応する周方向位置に配置されている点に1つの大きな特徴がある。
【0024】
したがって、本発明の樹脂モールド軸材は、滑り止め加工部2により、樹脂成形体7の軸本体1に対する滑り止めが行われるとともに、平滑部4が樹脂成形体7のウェルド部5と対応する周方向位置に配置されていることにより、樹脂成形体7のウェルド部5への応力集中の発生が抑制されるという優れた効果を奏する。
【0025】
滑り止め加工部2は、樹脂成形体7の軸本体1に対する滑り止めを行うための部分である。これにより、樹脂成形体7と軸本体1との間の締結力が高められる。また、平滑部4は、滑り止めを行わない部分である。
【0026】
滑り止め加工部2としては、図1(b)に示されるようにローレット加工により形成されているローレット加工部、図2(b)に示されるようにくぼみ加工により形成されているくぼみ加工部などが挙げられる。本発明の樹脂モールド軸材では、滑り止め加工部2がローレット加工又はくぼみ加工により形成されている場合、樹脂モールド軸材における軸本体1と樹脂成形体7との間の締結力をより高めることができる点で有利である。
【0027】
前記ローレット加工としては、特に限定されないが、例えば、JIS B 0951に規定される平目加工、アヤ目加工などが挙げられる。前記ローレット加工部におけるローレット目の寸法は、樹脂成形体7と軸本体1との間の締結力を十分に発揮する範囲であればよい。
【0028】
滑り止め加工部2がくぼみ加工により形成されているものである場合、滑り止め加工部2は、軸本体1の外周面に複数のくぼみを加工し、配置することにより形成される。前記くぼみの大きさ及び数は、樹脂成形体7と軸本体1との間の締結力を十分に発揮する範囲であればよい。なお、滑り止め加工部2がくぼみ加工部である場合、平滑部4は、軸方向位置にくぼみが配置されていない部分となる。
【0029】
ウェルド部5は、通常、製造に際して、金型3の複数のゲート6から同時かつ同じ速度で、金型3内に前記樹脂成形材料を充填した際に、周方向で互いに隣接するゲート6,6間の中間位置に形成される。また、本発明の樹脂モールド軸材においては、当該樹脂モールド軸材の製造に際して用いられる金型3のゲート6の数と同じ数のウェルド部5が存在する。
【0030】
従来の樹脂モールド軸材では、図3(b)に示される従来のロータのように、軸本体1の周囲に樹脂成形体7(この場合、ボンド磁石)が一体に成形され、S極とN極とを円周方向に交互に有し、軸本体1の外周面に滑り止め加工部2が形成されている。そのため、かかる従来の樹脂モールド軸材では、ウェルド部5に応力集中が発生し、それにより、ウェルド部5にクラックが発生し、樹脂成形体7(この場合、ボンド磁石)の破損が生じる。
【0031】
しかし、本発明の樹脂モールド軸材は、図1(b)及び図2(b)それぞれに示されるように、平滑部4が、樹脂成形体7のウェルド部5と対応する周方向位置に配置されているため、ウェルド部5に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる軸本体1と樹脂成形体7との間の線膨張係数差による樹脂成形体7の破損などの発生を抑制することができる。
【0032】
本発明の樹脂モールド軸材において、軸本体1の外周面を覆った樹脂成形体7の径方向の厚さは、樹脂モールド軸材の用途などに応じて、適宜設定されうる。例えば、樹脂成形体7が、ボンド磁石である場合、樹脂成形体7の径方向の厚さは、ロータの用途、大きさなどに応じて、適宜設定されうる。
【0033】
樹脂成形体7としては、例えば、S極とN極とを円周方向に交互に有するボンド磁石よりなるものが挙げられる。樹脂成形体7がS極とN極とを円周方向に交互に有するボンド磁石よりなる樹脂モールド軸材は、前記ボンド磁石のウェルド部に応力集中が発生せず、温度の変化により生じる前記軸本体と前記ボンド磁石との間の線膨張係数差によるボンド磁石の破損などが抑制される点で有利である。かかる樹脂モールド軸材は、トルク検出装置のロータとして好適である。前記樹脂モールド軸材は、軸本体1の外周面がボンド磁石(図1中、樹脂成形体7)で覆われている樹脂モールド軸材であって、滑り止め加工部2と平滑部4とが、軸本体1の外周面に対して円周方向に交互に形成され、平滑部4が、前記ボンド磁石(図1中、樹脂成形体7)のウェルド部5と対応する周方向位置に配置され、前記ボンド磁石(図1中、樹脂成形体7)が、S極とN極とを円周方向に交互に有するように構成されている。前記樹脂モールド軸材は、平滑部4が、ボンド磁石(例えば、図1中、樹脂成形体7)のウェルド部5と対応する周方向位置に配置されているため、ウェルド部5に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる軸本体1とボンド磁石(例えば、図1中、樹脂成形体7)との間の線膨張係数差によるボンド磁石(例えば、図1中、樹脂成形体7)の破損などが抑制される。したがって、前記樹脂モールド軸材によれば、気温などの温度の変化があっても、高い耐久性を発揮し、長期間にわたって使用できるトルク検出装置を提供できる。また、前記樹脂モールド軸材によれば、ウェルド部への応力集中による破損などを考慮しなくてもよく、磁石を薄くすることができ、トルク検出装置を安価に小型化できる。
【0034】
本発明は、他の側面では、次の工程(1)〜(3):
(1) 前記樹脂成形体の前記軸本体に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とを、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成する工程
(2) 周方向の複数位置にゲートを有する金型を、周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置が前記平滑部と対応する周方向位置に来るように前記工程(1)で得られた軸本体の外周側にセットする工程、及び
(3) 前記工程(2)でセットした金型の各ゲートから同時かつ同速度で樹脂成形材料を噴出させて前記金型内を当該材料で充填することにより、前記軸本体の外周面を前記樹脂成形体で覆う工程
を含む、軸本体の外周面を樹脂成形体で覆う樹脂モールド軸材の製造方法に関する
【0035】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法は、製造に際して、周方向の複数位置にゲートを有する金型を、周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置が前記平滑部と対応する周方向位置に来るように前記軸本体の外周側にセットする点に1つの大きな特徴がある。したがって、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、樹脂成形材料を充填する際に、金型の周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置に形成されるウェルド部に、応力集中が発生せず、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などが抑制される。そのため、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法は、得られる樹脂モールド軸材に、温度の変化により生じる軸本体と樹脂成形体との間の線膨張係数差による樹脂成形体の破損などに対する耐久性を付与することができる。また、前記樹脂モールド軸材の製造方法によれば、ウェルド部への応力集中による破損などを考慮しなくてもよく、磁石を薄くすることができるため、トルク検出装置を安価に小型化できる。
【0036】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法の実施形態を説明する。図1(a)及び図2(a)は、それぞれ、前述のように、金型3を嵌合させた状態での樹脂モールド軸材の軸方向上方からの局部投影図であり、金型3のゲート6に、パイプを接続していない状態を示す。また、図4は、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。図4(a)は、軸本体1に金型3を嵌合させた状態の金型3の断面図であり、図4(b)は、図4(a)に対応する金型3の外観の斜視図である。
【0037】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、樹脂成形体7の軸本体1に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部2と、その滑り止めを行わない平滑部4とを、軸本体1の外周面に対して円周方向に交互に形成する〔工程(1)〕。
【0038】
前記工程(1)では、例えば、軸本体1の外周面に対する滑り止め加工部2と平滑部4との形成は、未加工の軸を、滑り止め加工部2形成用の部分と平滑部4形成用の部分とが交互に設けられた駒に強く押し当てて塑性変形させることなどにより行われうる。前記駒における滑り止め加工部2形成用の部分と平滑部4形成用の部分との間隔は、未加工の軸の外周の長さ及び用いられる金型3のゲート6の配置間隔に応じて適宜設定されうる。
【0039】
次に、周方向の複数位置にゲート6を有する金型3を、周方向で互いに隣接するゲート6,6間の中間位置が平滑部4と対応する周方向位置に来るように前記工程(1)で得られた軸本体1の外周側にセットする〔工程(2)〕。前記工程(2)では、図1(a)及び図2(a)に示されるように、滑り止め加工部2と平滑部4とが外周面に対して円周方向に交互に形成された軸本体1に、周方向の複数位置にゲート6を有する金型3を、周方向で互いに隣接するゲート6,6間の中間位置が平滑部4と対応する周方向位置に来るようにセットする。
【0040】
金型3は、図4(b)に示されるように、金型上型3aと金型下型3bとからなる。
【0041】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、軸本体1が用いられているため、金型3を、周方向で互いに隣接するゲート6,6間の中間位置が平滑部4と対応する周方向位置に来るように軸本体1の外周側にセットすることと相まって、得られる樹脂モールド軸材の樹脂成形体7のウェルド部5への応力集中の発生を抑制するように、該樹脂モールド軸材を製造することができる。
【0042】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、滑り止め加工部2は、図1に示されるように、ローレット加工により形成されてもよく、図2に示されるように、くぼみ加工により形成されてもよい。
【0043】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、金型上型3aに設けられるゲート6の数は、特に限定されるものではなく、製造対象の樹脂モールド軸材の大きさなどに応じて適宜設定されうる。
【0044】
金型上型3aのゲート6の内径は、パイプ9の外径に応じて適宜設定されうる。また、金型上型3aにおけるゲート6は、金型3の内心を頂角として、該内心と、周方向で互いに隣接するゲート6,6とで形成される円心角の角度が全て同一となるような位置に配置される。
【0045】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、その後、前記工程(2)でセットした金型3の各ゲート6から同時かつ同速度で樹脂成形材料を噴出させて金型3内を当該材料で充填することにより、軸本体1の外周面を樹脂成形体7で覆う〔工程(3)〕。具体的には、図4(a)及び図4(b)に示されるように、金型上型3aのゲート6に接続されたパイプ9(P,P1〜P6)から樹脂成形材料を噴出させて金型3内(図4中、空隙8)を樹脂成形材料で充填する。
【0046】
金型3内を樹脂成形材料で充填する際の充填速度は、樹脂成形材料の粘度などに応じて適宜設定されうる。また、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、各ゲート6から同時かつ同じ速度で樹脂成形材料を噴出させる。これにより、周方向で隣接するゲート6,6間の中間位置にウェルド部5が形成される。このように、滑り止め加工部2と平滑部4とが外周面に対して円周方向に交互に形成された軸本体1に、周方向の複数位置にゲート6を有する金型3を、周方向で互いに隣接するゲート6,6間の中間位置が平滑部4と対応する周方向位置に来るようにセットした状態で、金型3内を樹脂成形材料で充填することにより、ウェルド部5への応力集中の発生が抑制される。その結果、温度の変化により生じる軸本体1と樹脂成形体7との間の線膨張係数差による樹脂成形体7の破損などの発生が抑制される。また、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、ウェルド部への応力集中による破損などを考慮しなくてもよく、磁石を薄くすることができるため、トルク検出装置を安価に小型化できる。
【0047】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法では、金型3内を樹脂成形材料で充填することにより、軸本体1の外周面を樹脂成形体7で覆う。軸本体1の外周面は、用いられる樹脂成形材料中に含まれる樹脂の種類に応じた方法により、樹脂成形体7で覆われる。例えば、樹脂が熱硬化性樹脂である場合、前記方法としては、金型3内を樹脂成形材料で充填した後、該樹脂の硬化温度で該樹脂成形材料を保温する方法などが挙げられる。また、例えば、樹脂が熱可塑性樹脂である場合、前記方法としては、該樹脂の融点以上に加熱された樹脂成形材料で金型3内を充填し、その後、前記樹脂成形材料を該樹脂の融点未満の温度で保温する方法などが挙げられる。
【0048】
本発明の樹脂モールド軸材の製造方法によれば、前記樹脂成形材料として、ボンド磁石成形材料を、各ゲート6から同時かつ同速度で噴出させて金型3内を当該材料で充填することにより、軸本体1の外周面を前記ボンド磁石で覆うことができ、トルク検出器のロータに好適な樹脂モールド軸材を得ることができる。
【0049】
本発明は、別の側面では、同軸状に連結された第一軸及び第二軸と、その第一軸の外周面に成形されたボンド磁石と、前記ボンド磁石の磁界内において磁気回路を構成すべく第二軸に取り付けられた複数の軟磁性体と、この軟磁性体で発生した磁束を検出する検出器とを備えているトルク検出装置であって、
前記ボンド磁石の前記第一軸に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記第一軸の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記ボンド磁石のウェルド部と対応する周方向位置に配置されていることを特徴とするトルク検出装置(実施態様1)に関する。
【0050】
本発明のトルク検出装置は、前記ボンド磁石の前記第一軸に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記第一軸の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記ボンド磁石のウェルド部と対応する周方向位置に配置されているため、気温などの温度の変化があっても、ボンド磁石の破損などが抑制され、高い耐久性を発揮する。また、本発明のトルク検出装置では、ウェルド部への応力集中による破損などを考慮しなくてもよく、磁石を薄くすることができるため、当該トルク検出装置は、安価に小型化されうる。
【0051】
本発明の実施態様1のトルク検出装置の構成を示す概略説明図を図5に示す。図5(a)は、分解斜視図であり、図5(b)は、縦断面図である。
【0052】
本発明の実施態様1のトルク検出装置は、第一軸101と第二軸102とが、細径のトーションバー103を介して同軸状に連結されている。第一軸101及び第二軸102は、それぞれピン109によりトーションバー103に連結されている。
【0053】
第一軸101には、その第一軸101の外周面にボンド磁石105が成形されている。ボンド磁石105は、S極とN極とを円周方向に交互に有する。
【0054】
第二軸本体102には、半径方向に適当な隙間を設けてボンド磁石105を囲む2つの軟磁性体104a,104bが、同軸に固設されている。軟磁性体104a,104bは、板状のリングに、その板面に垂直な一方向に延びる12個の二等辺三角形状の爪110が等間隔に周設されている。2つの軟磁性体4a,4bは、それぞれの爪110が周方向に適当な間隔でずれるように対向している。
【0055】
軟磁性体104a,104bは、ボンド磁石105のS極及びN極の位置に対応して生じる磁界内に配置されており、それらの間のギャップに生じる磁束を検出する1又は複数の検出器106が、ギャップに挿入されている。
【0056】
検出器106としては、例えば、ホールICなどが挙げられる。検出器106は、例えば、ハウジングに固定され、検出器106のリード線107は、例えば、基板に半田付けされ、検出器6が作動する為の電源を供給し、検出器106が検出した出力を得ている。軟磁性体104a,104bは、トルクが加えられない中立状態で、それぞれの爪110の先端が、ボンド磁石105のN極及びS極の境界を指すように配置される。
【0057】
本発明の実施態様1のトルク検出装置において、第一軸101又は第二軸102にトルクが加えられないとき、軟磁性体104a,104bの各爪110は、図6(b)に示すように、ボンド磁石105のN極及びS極に対向する面積が等しくなり、N極から入る磁束とS極へ出る磁束とが等しくなるので、軟磁性体104a及び軟磁性体104b間には磁束は生じない。
【0058】
第一軸101又は第二軸102に一方向のトルクが加えられたとき、トーションバー103にねじれが生じて、軟磁性体104a,104bの各爪110及びボンド磁石105のN極及びS極が変化する。このとき、例えば、図6(a)に示すように、軟磁性体104aの各爪110に対向する面積が、N極の方がS極より大きくなり、N極から入る磁束の方がS極へ出る磁束より大きくなる。また、軟磁性体104bの各爪110に対向する面積が、N極の方がS極より小さくなり、N極から入る磁束の方がS極へ出る磁束より小さくなる。その結果、軟磁性体104aから軟磁性体104bへの磁束が生じ、該磁束の磁束密度は、各爪110に対向するN極及びS極の面積の差が大きい程、大きくなる。
【0059】
一方、第一軸101又は第二軸102に他方向のトルクが加えられたとき、上記とは逆方向に、トーションバー103にねじれが生じて、軟磁性体104a,104bの各爪110とボンド磁石105のS極及びN極との相対位置が変化する。このとき、例えば、図6(c)に示すように、軟磁性体104aの各爪110に対向する面積が、N極の方がS極より小さくなり、N極から入る磁束の方がS極へ出る磁束より小さくなる。また、軟磁性体104bの各爪110に対向する面積が、N極の方がS極より大きくなり、N極から入る磁束の方がS極へ出る磁束より大きくなる。その結果、軟磁性体104bから軟磁性体104aへの磁束が生じ、該磁束の磁束密度は、各爪110に対向するN極及びS極の面積の差が大きい程大きくなる。
【0060】
軟磁性体104a及び軟磁性体104b間のギャップに生じる磁束密度の変化を、トーションバー103のねじれ角である電気角−180〜180deg.(機械角−15〜15deg.)に対応させて図示すると、図6(d)に示すような正弦波状となる。実際に使用される範囲は、トーションバー103の剛性から、−90〜90deg.を超えることはなく、加えられたトルクに応じた磁束密度を検出することができる。つまり、検出した磁束密度に基づき、加えられたトルクを知ることができる。
【0061】
本発明のトルク検出装置は、前記軟磁性体に磁気結合され、該軟磁性体からの磁束を誘導する複数の補助軟磁性体をさらに備えてもよい。この場合、検出器は、前記補助軟磁性体に発生した磁束を検出する(実施態様2)。
【0062】
本発明の実施態様2のトルク検出装置の構成を示す概略説明図を図7に示す。図7(a)は、分解斜視図であり、図7(b)は、縦断面図である。このトルク検出装置は、軟磁性体104a,104bにそれぞれ磁気結合され、軟磁性体104a,104bからの磁束をそれぞれ誘導する2つの補助軟磁性体108,108を備えている。補助軟磁性体108,108は、平行に配置され、互いに他部分より近接する平板状の部分を有し、その近接する部分の隙間に、1又は複数の検出器106が挿入されている。補助軟磁性体108,108は、例えば、ハウジングに磁気的に絶縁された状態で固設されている。
【0063】
前記実施態様2のトルク検出装置では、軟磁性体104a,104bに生じた磁束は、補助軟磁性体108,108によりそれぞれ誘導され、誘導された磁束は、補助軟磁性体108,108の互いに近接する部分に集中し、検出器106により検出される。補助軟磁性体108,108により、検出器106は、軟磁性体104a,104bの全周で発生する磁束密度の平均を検出することができる。
【0064】
前記実施態様2のトルク検出装置では、複数の軟磁性体(例えば、図7中、軟磁性体104a,104b)が、第二軸102に固定されている。軟磁性体104a,104bは、ボンド磁石105のS極及びN極の位置に対応して生じる磁界内に配置されて磁気回路を形成する。また、複数の補助軟磁性体(例えば、図7中、補助軟磁性体108)が、前記軟磁性体(例えば、図7中、軟磁性体104a,104b)に磁気結合され、前記軟磁性体(例えば、図7中、軟磁性体104a,104b)からの磁束を誘導する。検出器106は、補助軟磁性体(例えば、図7中、補助軟磁性体108)が誘導した磁束を検出する。これにより、第一軸101又は第二軸102にトルクが加えられたときに、検出器106の出力に基づき、そのトルクが検出される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の樹脂モールド軸材の一例であるロータの一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】図2は、本発明の樹脂モールド軸材の一例であるロータの一実施態様を示す概略説明図である。
【図3】図3は、従来のボンド磁石一体成形ロータを示す概略説明図である。
【図4】図4は、本発明の樹脂モールド軸材の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【図5】本発明の実施態様1のトルク検出装置の構成を示す概略説明図である。
【図6】本発明の実施態様1のトルク検出装置の動作を示す概略説明図である。
【図7】本発明の実施態様1のトルク検出装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 軸本体
2 滑り止め加工部
3 金型
4 平滑部
5 ウェルド部
6 ゲート
7 樹脂成形体
8 空隙
9 パイプ
101 第一軸
102 第二軸
103 トーションバー
104a,104b 軟磁性体
105 ボンド磁石
106 検出器
107 リード線
108 補助軟磁性体
109 ピン
110 爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸本体の外周面が樹脂成形体で覆われている樹脂モールド軸材であって、
前記樹脂成形体の前記軸本体に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記樹脂成形体のウェルド部と対応する周方向位置に配置されていることを特徴とする樹脂モールド軸材。
【請求項2】
前記滑り止め加工部は、ローレット加工又はくぼみ加工により形成されている請求項1に記載の樹脂モールド軸材。
【請求項3】
前記樹脂成形体は、S極とN極とを円周方向に交互に有するボンド磁石よりなる請求項1又は2に記載の樹脂モールド軸材。
【請求項4】
次の工程(1)〜(3)を含む、軸本体の外周面を樹脂成形体で覆う樹脂モールド軸材の製造方法。
(1) 前記樹脂成形体の前記軸本体に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とを、前記軸本体の外周面に対して円周方向に交互に形成する工程、
(2) 周方向の複数位置にゲートを有する金型を、周方向で互いに隣接するゲート間の中間位置が前記平滑部と対応する周方向位置に来るように前記工程(1)で得られた軸本体の外周側にセットする工程、及び
(3) 前記工程(2)でセットした金型の各ゲートから同時かつ同速度で樹脂成形材料を噴出させて前記金型内を当該材料で充填することにより、前記軸本体の外周面を前記樹脂成形体で覆う工程
【請求項5】
同軸状に連結された第一軸及び第二軸と、その第一軸の外周面に成形されたボンド磁石と、前記ボンド磁石の磁界内において磁気回路を構成すべく第二軸に取り付けられた複数の軟磁性体と、この軟磁性体で発生した磁束を検出する検出器とを備えているトルク検出装置であって、
前記ボンド磁石の前記第一軸に対する滑り止めを行うための滑り止め加工部と、その滑り止めを行わない平滑部とが、前記第一軸の外周面に対して円周方向に交互に形成され、前記平滑部が、前記ボンド磁石のウェルド部と対応する周方向位置に配置されていることを特徴とするトルク検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−6589(P2009−6589A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170362(P2007−170362)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】