説明

欠陥検出方法、欠陥検出装置、これらを用いたフィルムの製造方法及び装置

【課題】少ない情報量で単純に画像処理することができ、簡易かつ迅速に欠陥を検出する欠陥検出方法、欠陥検出装置、これらを用いたフィルムの製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】(1)検査対象物を撮像する工程と、(2)前記(1)の工程で得られた画像信号から複数の特徴信号を得る工程、(3)前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が、特徴信号ごとに予め設定された閾値を超えている部位を欠陥と特定する工程と、(4)前記欠陥と特定した部位の各特徴信号のピーク値が、前記各特徴信号ごとに予め設定された閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定した部位ごとにビットパターンを得る工程と、(5)前記ビットパターンに基づいて、前記欠陥を分類する工程と、を含む、欠陥検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥検出方法および欠陥検出装置に関する。特に、樹脂フィルム等の欠陥を、その製造工程において簡易かつ迅速に光学的に検出する欠陥検出方法および欠陥検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像認識技術は、画像や画像化した検査対象物の欠陥等の形状を検出する方法として利用されている。画像認識方法は、一般的に、CCD等の光学画像検出器から得られた画像の明暗信号と、その位置情報とのマトリックスで検査対象画像をパターン化し、多変量解析等の手法を用いてパターンをマッチングすることにより、画像内の検査対象物を判別するために用いられる。
【0003】
例えば、予め検査対象毎に検出すべき欠陥を登録し、その画像信号および該画像信号を加工した信号と、検査対象画像の画像信号および該画像信号を加工した信号とを用いてパターンのマッチングを行い、欠陥を判別する方法が開示されている(特許文献1を参照)。しかしながら、検査対象画像の画素毎に処理するため、検出したい欠陥が複数の画素から構成される場合、取り扱う情報量が多くなり、処理が煩雑になるという問題があった。また、予め検査対象毎に検出すべき欠陥を登録しなくては、欠陥を判別することができないという問題もあった。
【0004】
予め検査対象毎に検出すべき欠陥を登録しなくても欠陥を検出する方法として、例えば、特定の縞状パターンを有する検査対象面を撮像して得られる検査対象画像について、局所領域を設定し、該領域内の画素の濃度勾配により定まる角度データのヒストグラムを作成し、該ヒストグラムの角度データと、既知の上記特定の縞状パターンとを照合することにより欠陥を判別する欠陥検出方法が開示されている(特許文献2を参照)。これによれば、縞状パターンの形成位置や大きさにばらつきがあっても、そのばらつきが欠陥の検出精度に影響を及ぼさないように画素情報を解析できるとされている。しかしながら、データの解析処理が複雑であるという問題があった。
【0005】
これらのことから、検査対象物の大きさや形状のゆがみ等により影響を受け難く、少ない情報で単純に画像処理することにより、簡易かつ迅速に欠陥を検出する技術が求められていた。
【特許文献1】特開2008−139074号公報
【特許文献2】特開2008−139262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、少ない情報量で単純に画像処理することができ、簡易かつ迅速に欠陥を検出する欠陥検出方法、欠陥検出装置、これらを用いたフィルムの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来のようにCCD等から得た明暗信号を、フーリエ変換等の高度な処理を行うことなく、欠陥の特徴を捉えたいくつかの特徴信号を抽出して、パターン化して、欠陥を検出する方法である。具体的には、欠陥を含む一定範囲の画像ごとに、複数の特徴信号のそれぞれが閾値を越えているかどうかに基づいて2値化してビットパターンを得て、得られたビットパターンにより欠陥を分類する。
【0008】
すなわち、本発明の第1は、以下の欠陥検出方法等である。
[1] (1)検査対象物を撮像する工程と、
(2)前記(1)の工程で得られた画像信号から特徴信号を得る工程であって、前記特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を超えている部位を欠陥と特定する工程と、
(4)前記欠陥と特定された部位における特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を越えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る工程と、
(5)前記ビットパターンに基づいて、前記検査対象物の欠陥を分類する工程と、を含む、欠陥検出方法。
[2] 前記特徴信号は、さらに
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
を含む、[1]記載の欠陥検出方法。
[3] 前記検査対象物がフィルムである、[1]または[2]記載の欠陥検出方法。
[4] [3]記載の欠陥検出方法を用いたフィルム製造方法であって、前記欠陥の分類結果に基づいて、前記欠陥の発生因子を調整する工程を含む、フィルムの製造方法。
[5] (1)検査対象物を撮像する撮像手段と、
(2)前記撮像手段により得られた画像信号から特徴信号を得る手段であって、前記特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を越えた部位を欠陥と特定する手段と、
(4)前記欠陥と特定された部位における特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る手段と、
(5)前記ビットパターンに基づいて、前記検査対象物の欠陥を分類する手段と、を含む、欠陥検出装置。
[6] 前記特徴信号は、さらに
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
を含む、[5]記載の欠陥検出装置。
[7] [5]または[6]に記載の欠陥検出装置を備えたフィルム製造装置。
【0009】
また、本発明の第2は、以下の欠陥検出方法等である。
[8] (1)第1の検査対象物を撮像する工程と、
(2)前記(1)の工程で得られた画像信号から、第1の特徴信号を得る工程であって、前記第1の特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記第1の特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記第1の特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を超えた部位を欠陥と特定する工程と、
(4)前記欠陥と特定された部位における前記第1の特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る工程と、
(5)前記ビットパターンに基づいて、前記第1の検査対象物の欠陥を分類できるか否かを判断する工程と、を備え、
(6)前記第1の検査対象物の欠陥を分類できないと判断した場合、さらに、
(7)前記欠陥と特定された部位における、前記第1の特徴信号のそれぞれから、第1の属性値を得る工程であって、前記第1の属性値は、
X軸方向寸法;
Y軸方向寸法;
ピーク強度;
面積;
を含み、
(8)請求項1記載の方法により欠陥群ごとに既に分類されている、第2の検査対象物の欠陥のそれぞれにおける各特徴信号から、第2の属性値を得る工程であって、前記第2の属性値は、
X軸方向寸法;
Y軸方向寸法;
ピーク強度;
面積;
を含み、
(9)前記分類された各欠陥群ごとに、各欠陥群に分類された欠陥の第2の属性値から、第2の属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列を求める工程と、
(10)前記(9)において前記欠陥群ごとに得られた、前記第2の属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列と、前記(7)で得られた、第1の検査対象物の欠陥の前記第1の属性値とから、前記第1の検査対象物の欠陥と、前記各欠陥群とのマハラノビスの距離をそれぞれ算出する工程と、
(11)前記第1の検査対象物の欠陥を、前記各欠陥群のうちの、前記マハラノビスの距離が最も短い欠陥群の欠陥に分類する工程と、
を含む、欠陥検出方法。
[9] 前記第1の検査対象物および第2の検査対象物の特徴信号は、それぞれ以下の2つの特徴信号をさらに含む、[8]記載の欠陥検出方法。
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
[10] 前記第1の検査対象物は多層フィルムであり、前記第2の検査対象物は単層フィルムである、[8]または[9]記載の欠陥検出方法。
[11] 前記第2の検査対象物は、前記多層フィルムに含まれる単層フィルムである、[10]記載の欠陥検出方法。
[12] [8]〜[11]のいずれかに記載の欠陥検出方法を用いたフィルム製造方法であって、前記欠陥を分類した結果に基づいて、前記欠陥の発生因子を調整する工程を含む、フィルムの製造方法。
[13] (1)検査対象物を撮像する撮像手段と、
(2)前記撮像手段により得られた画像信号から特徴信号を得る手段であって、前記特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を超えている部位を欠陥と特定する手段と、
(4)前記欠陥と特定された部位における前記特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る手段と、
(5)前記欠陥と特定された部位における前記特徴信号のそれぞれの属性値を得る手段であって、前記属性値は、
X軸方向寸法;
Y軸方向寸法;
ピーク強度;
面積;
を含み、
(6)欠陥群ごとに既に分類されている欠陥について、前記各属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列が入力されたメモリと、
(7)欠陥群ごとに既に分類されている欠陥群の各属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列と、分類されていない欠陥の属性値と、を用いてマハラノビスの距離を算出する手段とを含む、欠陥検出装置。
[14] 前記特徴信号は、さらに
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
を含む、[13]記載の欠陥検出装置。
[15] [13]または[14]記載の欠陥検出装置を備えたフィルム製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、欠陥形状の特徴を捉えたわずか6種類の特徴信号を抽出すれば、欠陥を分類しうるので、少ない情報量で、簡易かつ迅速に欠陥を分類する方法が提供される。また、欠陥の大きさや形のゆがみ等による影響を受けることなく、同じ特徴をもつ欠陥をビットパターンに基づいて判別できるので、検査対象物ごとに処理方式を設定する煩雑な処理が不要となる。
【0011】
さらに、本発明の欠陥検出方法を適用したフィルム製造方法により、フィルムの凹凸やスジ等の複雑な欠陥を、その特徴を捉えて正確に判別できる。このため、欠陥検出結果に基づいてフィルム製造条件を最適化することで、フィルムに形成される欠陥を低減でき、品質を向上し、フィルム製造工程における品質管理を簡易かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.欠陥検出方法
[第1の欠陥検出方法]
図1は、本発明の第1の欠陥検出方法を説明するフローチャートである。
本発明の第1の欠陥検出方法は、図1に示されるように、検査対象物を撮像する工程(S1)、撮像して得られた画像信号から特徴信号を得る工程(S2)、特徴信号に基づいて欠陥を特定する工程(S3)、特定した欠陥ごとに各特徴信号を2値化して予め決めた順序で並べ、ビットパターンを得る工程(S4)、および、得られたビットパターンに基づいて欠陥を分類する工程(S5)、を含む。
【0013】
検査対象物は、特に限定されるものではないが、例えば各種フィルム(例えば樹脂フィルムや金属フィルム)などである。
【0014】
検査対象物を撮像する工程(S1)では、検出対象物(例えば、フィルム等)を撮像して画像信号を得る。画像信号とは、例えば明暗画像信号であり;明暗画像とは、例えばグレースケール化された画像である。具体的には、光源から発せられた光が検査対象物に照射され、検査対象物から反射または透過した光を、CCDカメラ等により2次元の明暗信号として得る。明暗信号はデジタル化される。
【0015】
得られた画像信号から特徴信号を得る工程(S2)では、工程(S1)で得られた信号(例えば明暗信号)から、6種類の特徴信号(明信号、暗信号、X軸方向の明信号の差分、Y軸方向の明信号の差分、X軸方向の暗信号の差分、Y軸方向の暗信号の差分)、好ましくは8種類の特徴信号(さらに、面方向の信号差分、線方向の信号差分)を抽出する。
【0016】
また、検出精度を高めたい場合は9種類以上の特徴信号を設定してもよいし、検出精度を低くする場合は6または7種類の特徴信号を設定してもよい。以下、8種類の特徴信号を抽出した例を説明するが、抽出される特徴信号の種類およびその数は限定されない。
【0017】
ここでX軸とY軸は互いに平行でないこと、つまりX軸とY軸との交差角度が0度を超えてれいばよい。搬送される検査対象物(例えば樹脂フィルム)を検査する場合には、画像処理を簡易化する上で、検査対象物表面と平行な面上にX軸とY軸とを設定し、X軸とY軸のうちの一方を検査対象物の搬送方向に対して平行に設定し、他方を検査対象物の搬送方向に対して直角に設定することが好ましい。また、X軸とY軸との交差角度は、検出する欠陥の種類によって設定されてもよく、例えば検出したい欠陥の多くが、検査対象物の搬送方向と平行または直角のスジ状である場合、交差角度を30〜45度程度に設定することが好ましい。
【0018】
図2は、撮像した検出対象物の画像から、X軸方向に沿って明信号および暗信号の強度データを取得する例;およびY軸方向に沿って明信号および暗信号の強度データを取得する例、を示す図である。図2では、X軸とY軸との交差角度を90度とした。図2のX軸方向の明信号および暗信号の強度データのうちの一部を抜き出して、図3に示した。図3の横軸はX軸方向に関する位置を示し、縦軸は明信号および暗信号(明暗信号)の強度を示す。
【0019】
明暗信号の強度は、検出対象物の欠陥の、予め得られた明暗信号の強度の平均値からの変位の大きさを表す。明信号とは、明暗信号の強度の平均よりも、強度の大きい明暗信号をいう。一方、暗信号とは、明暗信号の強度の平均よりも、強度の小さい明暗信号をいう。
【0020】
図3には、X軸方向に沿った明暗信号を示したが、Y軸方向に沿った明暗信号についても同様に、所定の検出範囲における明信号と暗信号とを得る。
【0021】
X軸方向の明信号の差分および暗信号の差分、Y軸方向の明信号の差分および暗信号の差分は、検出対象物の明暗信号の強度の変化の大きさを表す。
「X軸方向の明信号の差分」は、図3において、明信号のピーク1へ向かう明暗信号の傾き(右肩上がりの直線Aの傾き)である。「X軸方向の暗信号の差分」は、暗信号のピーク2へ向かう信号強度の傾き(右肩下がりの直線Bの傾き)である。より具体的には、X軸方向について(n−1)番目のピクセルの明暗信号の強度をxn−1として、n番目のピクセルの明暗信号の強度をxとしたときに、X軸方向の信号差分Δxは、下記式により求まる。
【0022】
【数1】

【0023】
「Y軸方向の明信号の差分」および「Y軸方向の暗信号の差分」も、同様にして得る。
【0024】
図3に示される明暗信号は、暗信号のピーク2の右側に、明信号のピーク1があるが;明信号のピークの右側に、暗信号のピークがある明暗信号もありうる。この場合にも、X軸方向の明信号の差分は「明信号のピークへむかう、右肩上がり明暗信号の傾き」であり;一方、X軸方向の暗信号の差分は、「暗信号のピークへむかう、右肩下がりの明暗信号の傾き」である。
【0025】
面方向の信号差分は、明暗信号の強度の平均値からの変位量や形状変化の大きさでは捉えにくい不明瞭な欠陥を検出する。図4(A)は、面方向の信号差分の概念を説明する図である。
面方向の信号差分は、図4(A)に示される所定領域(n−1)における各画素の明暗信号の強度の和(積分値)Wn−1と、所定領域(n)における各画素の明暗信号の強度の和(積分値)Wとの差分である。所定領域(n)とは、所定領域(n−1)を、X軸方向またはY軸方向に、所定の移動量(例えば、1ピクセル分)移動させた領域である。所定領域の形状や、面積や、所定の移動量は、任意に設定される。
【0026】
線方向の信号差分は、明暗信号の強度の平均値からの変位量や形状変化の大きさでは捉えにくい、細いスジ状欠陥を検出する。図4(B)は、線方向の信号差分の概念を説明する図である。
線方向の信号差分は、図4(B)に示されるY軸方向に平行な線分状の領域(m−1)における各画素の明暗信号の強度の和(積分値)wm−1と、線分状の領域(m)における各画素の明暗信号の強度の和(積分値)wとの差分である。線分状の領域(m)とは、線分状の領域(m−1)を、X軸方向またはY軸方向に、所定の移動量(例えば、1ピクセル分)移動させた領域である。線分状の領域の形状や、面積や、所定の移動量は、任意に設定される。
【0027】
このようにして得られた特徴信号のそれぞれには、閾値が設定される。閾値は、特徴信号ごとに、検査対象物や検査目的に応じて任意に設定される。特徴信号ごとに設定される閾値の変更することによって、欠陥の分類精度も調整されうる。
【0028】
欠陥を特定する工程(S3)では、上記6種類(好ましくは8種類)の特徴信号のうちの少なくとも1種類の強度が閾値を超える部位を、欠陥と特定する。つまり、欠陥と特定される部位で、少なくとも1種類の特徴信号が閾値を超えていればよい。欠陥と特定される部位において、当該1種類以外の種類の特徴信号の強度は、閾値を超えていてもいなくてもよいし;当該1種類の特徴信号の強度が、複数回繰り返し閾値を超えてもよい。欠陥と特定される部位の設定は、上記の規則に従えばよく、任意に行えばよい。
【0029】
「1つの欠陥」と特定される部位は、上記6種類(好ましくは8種類)の特徴信号のうち少なくとも1種類の強度が閾値を超えてから閾値を下回る範囲とすることができる。
欠陥の種類にもよるが、例えば、ある1つの特徴信号(例えば、明信号)が閾値を越える地点Aがあり、次いで閾値を下回った後、上記6種類(好ましくは8種類)の特徴信号の何れも閾値を超えない領域があった後、別の特徴信号(例えば、暗信号)が閾値を越える地点Bがある場合を想定する。
この場合、ある1つの特徴信号(例えば、明信号)が閾値を越える地点Aから、別の特徴信号(例えば、暗信号)が閾値を越える地点Bまでの、上記6種類(好ましくは8種類)の特徴信号の何れも閾値を超えない領域を含む範囲を、「地点Aを含む1つの欠陥」と特定してもよい。
また、いずれの特徴信号も閾値を越えない領域が連続する場合、ある1つの特徴信号(例えば、明信号)が閾値を越える地点Aから、該閾値を下回った後、いずれの特徴信号も閾値を越えない領域のうち予め(寸法等が)設定された範囲までを、「地点Aを含む1つの欠陥」と特定してもよい。
あるいは、ある1つの特徴信号が閾値を越える地点Aから、別の特徴信号が閾値を越えた後(地点Bを越えた後)、該閾値を下回る点までを含む範囲を「地点Aおよび地点Bを含む、1つの欠陥」と特定してもよい。
このように、実際は「1つの欠陥」と特定される部位において、1つの特徴信号が閾値を上回ったり、下回ったりを繰り返す結果、いずれの特徴信号も閾値を越えない部分が存在することがある。このいずれの特徴信号も閾値を越えない部分も含めて「1つの欠陥」とみなすためには、このような何らかの約束事を決めて、この部分も1つの欠陥の一部とみなす操作が必要となる。
【0030】
次に、欠陥と特定された部位において、6種類(好ましくは8種類)の特徴信号のそれぞれの最大ピーク値を求める。つまり、欠陥と特定された部位において、
1)明暗信号のうちの最大ピークである「明信号のピーク強度」と、明暗信号のうちの最小ピークである「暗信号のピーク強度」とを求め、
2)X軸方向の明信号の差分のうちの最大値である「X軸方向の明信号の差分のピーク強度」と、X軸方向の暗信号の差分のうちの最大値である「X軸方向の暗信号の差分のピーク強度」とを求め、
3)Y軸方向の明信号の差分のうちの最大値である「Y軸方向の明信号の差分のピーク強度」と、Y軸方向の暗信号の差分のうちの最大値である「Y軸方向の暗信号の差分のピーク強度」とを求め、さらに好ましくは、
4)面方向の信号差分(X軸方向とY軸方向のいずれも含む)のうちの最大の信号差分である「面方向の信号差分のピーク強度」と、線方向(X軸方向とY軸方向のいずれも含む)の信号差分のうちの最大の信号差分である「線方向の信号差分のピーク強度」とを求める。
【0031】
ビットパターンを得る工程(S4)では、まず、欠陥と特定された部位のそれぞれについて、6種類(好ましくは8種類)の特徴信号のそれぞれの最大ピーク値が、予め設定された閾値を超えているかどうかを判断して2値化する。例えば、6種類(好ましくは8種類)の特徴信号のそれぞれについて、最大ピーク値が閾値を超えている場合を「1」、超えていない場合を「0」とする。その2値化した値を、予め決めた順序に並べて、6桁(好ましくは8桁)のビットパターンを得る。欠陥と特定された部位のそれぞれに対応して、1つのビットパターンが得られる。
【0032】
図5には、8種類の特徴信号のそれぞれを2値化してビットを得る例が示される。なお、同図では、明信号の差分と暗信号の差分を、それぞれ絶対値で示している。図5に示されるように、特徴信号のそれぞれのピーク強度(最大値)と、特徴信号ごとに予め設定された閾値とを比較する。ピーク強度の絶対値が、閾値の絶対値を超えているものを「1」とし、閾値を超えていないものを「0」としてビットに置き換える。
【0033】
ビットパターンに基づき欠陥を分類する工程(S5)では、欠陥と特定された部位に対応して得られた1つのビットパターンに基づいて、欠陥を分類する。つまり、同一のビットパターンである場合には、同一種類の欠陥であるとする。必要に応じて、1つのビットパターンに対応する欠陥の種類(内容)を解析することもできる。
【0034】
本発明の第1の欠陥検出方法により得られる1つのビットパターンに対して、1種類の欠陥を対応させることができる。例えば、欠陥の種類には、フィッシュアイ型の欠陥や、レンズ型の欠陥などがあるが、それぞれに対応する1のビットパターンが導きだされる。このため、ビットパターンごとに欠陥の数を集計することで、欠陥の種類毎に、その欠陥の個数を求めることもできる。
【0035】
本発明の第1の欠陥検出方法は、予め登録した欠陥と対比する必要がなく、欠陥の特徴を過不足なく捉えた、少なくとも6種類の特徴信号を抽出することにより、少ない情報量で簡易かつ迅速に欠陥を分類することができる。さらに、検査対象ごとに処理方式を設定する等の煩雑な処理も不要であり、検査対象物の欠陥形状の特徴を、その大きさやゆがみに影響を受けることなく、精度よく分類することができる。
【0036】
[第2の欠陥検出方法]
検査対象物の種類によっては、第1の欠陥検出方法によって、同一のビットパターンに、異なる種類の欠陥が分類されることがあり、適切な欠陥の判別が困難なことがある。このような判別が困難である欠陥についても、簡易かつ迅速に分類することが望まれる。
【0037】
本発明の第2の欠陥検出方法の検査対象物は、例えば多層フィルムである。多層フィルムは、複数の層が重ねられているので、それに含まれる欠陥の分類が困難な場合がある。第2の欠陥検出方法によれば、多層フィルムに含まれる欠陥をも、適切に分類しうる。検査対象物となる多層フィルムは、複数の層が積層されたフィルムであり、このうち少なくとも1層のフィルムは、その欠陥が上述した第1の欠陥検出方法により分類されていることが好ましい。
【0038】
図6は、本発明の第2の欠陥検出方法の概要を説明するフローチャートである。本発明の第2の欠陥検出方法は、図6に示されるように、第1の検査対象物(例えば多層フィルム)の欠陥を、前記第1の欠陥検出方法により分類する工程(ビットパターン分級工程)と、欠陥が分類されたかどうかを判断する工程とを含む。さらに、欠陥が分類されたと判断されると処理を終了し;一方で、欠陥が適切に分類されなかったと判断されると、第1の検査対象物(多層フィルム)の欠陥をさらにマハラノビスの距離に基づいて分類する工程(マハラノビス分級工程)と、を含む。
【0039】
図7は、本発明の第2の欠陥検出方法の詳細を説明するフローチャートである。ビットパターン分級工程は、図7に示されるように、前述の[第1の欠陥検出方法]と同様であり、つまり、第1の検査対象物(多層フィルム)を撮像する工程(S1)、撮像して得られた明暗信号から6種類(好ましくは8種類)の第1の特徴信号を得る工程(S2)、欠陥を特定する工程(S3)、および欠陥ごとに各第1の特徴信号を2値化して予め決めた順序で並べ、1つのビットパターンを得る工程(S4)、を含む。
【0040】
上記S1〜S4の工程は、前述の第1の欠陥検出方法と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0041】
第1の検査対象物(多層フィルム)の欠陥が分類されたか否かを判断する工程(S5)は、例えば、1のビットパターンに、同種類の欠陥が選択的に分類されたか否かを判断する。同一のビットパターンに、異なる2種類の欠陥が分類されている場合には、欠陥が適切に分類されなかったと判断すればよい。適切に分類されなかったと判断した場合には、マハラノビス分級工程に進む(NOのケース)。ビットパターンごとに欠陥が正しく分類された場合は、処理を終了する(YESのケース)。
【0042】
マハラノビス分級工程は、第1の検査対象物(多層フィルム)の欠陥であると特定された部位について、第1の特徴信号のそれぞれから、第1の属性値を得る工程(S6)を含む。
【0043】
工程(S6)で得られる第1の属性値とは、工程(S2)で得られた第1の特徴信号のそれぞれから得られる数値であり、互いに独立している変数である。第1の属性値には、例えば以下の4種類の互いに独立している変数(X軸方向寸法、Y軸方向寸法、ピーク強度および面積)が含まれる。得られる第1の属性値は、後述するマハラノビスの距離を算出するために必要なパラメータである。
【0044】
第1の特徴信号のそれぞれから得る、前記4種類の第1の属性値について図8を参照して説明する。図8では、特徴信号のうちの明信号の属性値の概念を説明する。
【0045】
図8には、欠陥と特定された部位における、予め設定された閾値を超えている強度の明信号を有する画素(ピクセル)群が示される(斜線部分)。
「X軸方向寸法」とは、X軸方向に沿って閾値を超えている画素数をカウントしたときの最大数をいう。つまり、図8におけるX軸方向寸法は、6である。
一方、「Y軸方向寸法」とは、Y軸方向に沿って閾値を超えている画素数をカウントしたときの最大数をいう。図8におけるY軸方向寸法は、9である。
「面積」とは、閾値を超えている強度の明信号を有する画素(ピクセル)の総数である。図8における「面積」は、37である。
「ピーク強度」は、上記第1の欠陥検出方法における「明信号のピーク強度」と同義であり、明信号のうちの最大の信号強度である。
【0046】
明信号以外の各特徴信号(暗信号;X軸方向の明信号の差分;Y軸方向の明信号の差分;X軸方向の暗信号の差分;Y軸方向の暗信号の差分;面方向の信号差分;線方向の信号差分)からも、同様に4種類の属性値(X軸方向寸法、Y軸方向寸法、面積およびピーク強度)を得る。これにより、欠陥と特定された部位ごとに、32種類(8種類の特徴信号×4種類の属性値)の属性値が得られる。
【0047】
マハラノビス分級工程は、工程(S6)に加えて、
前記第1の欠陥検出方法により、既に、その欠陥が各欠陥群に分類された第2の検査対象物(例えば、単層フィルム)の各特徴信号から、欠陥ごとに第2の属性値を得る工程(S7)、
欠陥群ごとに、第2の検査対象物の欠陥の分布を取得する工程(S8)、
欠陥群ごとに、「欠陥の第2の各属性値ごとの平均値」および「第2の各属性値の分散共分散行列の逆行列」を求める工程(S9)、
第1の検査対象物(多層フィルム)の欠陥と、第2の検査対象物(単層フィルム)の欠陥群との、「マハラノビスの距離」を求める工程(S10)、
第1の検査対象物(多層フィルム)の欠陥を判別する工程(S11)と、をさらに含む。
【0048】
第2の検査対象物は、単層フィルムであることが好ましく;第1の検査対象物である多層フィルムを構成する一つの単層フィルムであることがより好ましい。
【0049】
第2の検査対象物に含まれる欠陥は、第1の欠陥検出方法によって、すでに欠陥群ごとに分類されている。つまり、第2の検査対象物を撮像しており、画像信号から特徴信号が取得されており、欠陥を含む部位が特定されている。
【0050】
第2の検査対象物に含まれる欠陥は、すでに分類されている(例えば、欠陥群A,欠陥群B,欠陥群Cに分類されているとする)ので、欠陥群Aに分類された欠陥のそれぞれについて、各特徴信号から、第2の属性値を得る(工程(S7))。第2の属性値は、第1の属性値と同様とし;例えば、X軸方向寸法、Y軸方向寸法、ピーク強度および面積の4種類の変数とする。欠陥群Bおよび欠陥群Cに分類された欠陥のそれぞれについても、各特徴信号から第2の属性値を得る。
【0051】
特徴信号の種類が8種類であり、属性値が4種類であれば、32(=8×4)種類の第2の属性値が得られる。
【0052】
次に、欠陥の分布を取得する工程(S8)において、32種類の第2の属性値のそれぞれを軸とする分布を得る。図9に示される分布図は、2種類の第2の属性値(属性値Aと属性値B)を軸として、「欠陥群Aに含まれる欠陥の分布」、「欠陥群Bに含まれる欠陥の分布」および「欠陥群Cに含まれる欠陥の分布」とを示す。実際には、属性値の種類の数に応じて、多次元の分布図となる。例えば、32種類の属性値(8種類の特徴信号ごとに4種類の属性値=32種類の属性値)を得た場合には、32次元の分布図となる。
【0053】
欠陥群ごとに欠陥の分布を得たら、各欠陥群の「重心」を求める。「重心」とは、各欠陥群に分類された欠陥が有する「属性値それぞれの平均値」からなる位置である。つまり、32種類の属性値を得た場合には、各欠陥が有する32種類の属性値のそれぞれについて平均値を求める(工程S9)。欠陥群Aの重心、欠陥群Bの重心、欠陥群Cの重心をそれぞれ求める。
【0054】
また、各欠陥群に含まれる欠陥の、第2の属性値の「分散共分散行列の逆行列」を求める(工程S9)。すなわち、32種類の第2の属性値から、各欠陥群ごとに分散共分散逆行列を算出する。分散共分散行列の逆行列は、公知の方法で求めることができる。
【0055】
マハラノビスの距離を算出する工程(S10)では、第1の検査対象物(多層フィルム)の欠陥のうち「判別したい欠陥の第1の属性値」と、第2の検査対象物(単層フィルム)の「各欠陥群の重心」との距離を求める。すなわち、工程S6で得られた「欠陥の第1の属性値」と、S9の工程で得られた「欠陥群に含まれる欠陥の第2の属性値の平均値」と「分散共分散行列の逆行列」とを、下記式(1)にあてはめて、マハラノビスの距離djを算出する。
【0056】
【数2】

dj :マハラノビスの距離
X :第1検査対象物の欠陥のうち、判別したい欠陥の第1の属性値
μj :第2の検査対象物の各欠陥群に含まれる欠陥の第2の属性値の平均値
Σj−1 :単層フィルムの分散共分散行列の逆行例
【0057】
第1検査対象物(多層フィルム)の欠陥を分類する工程(S11)では、前述したマハラノビスの距離に基づいて、第1検査対象物の判別したい欠陥を判別する。図9は、第2の検査対象物(単層フィルム)の欠陥群と、第1検査対象物の判別したい欠陥とのマハラノビスの距離から、その欠陥を分類する概念を説明する図である。図9は、2種類の属性値(属性値Aおよび属性値B)を軸とする2次元で表わされているが、実際は上述したように32種類の属性値を軸とする32次元となる。
【0058】
マハラノビスの距離は、図9に示されるように、第2の検査対象物(単層フィルム)の欠陥群Aの重心、欠陥群Bの重心、および欠陥群Cの重心と;第1の検査対象物(多層フィルム)の判別したい欠陥との距離として表される。そして、3つのマハラノビスの距離の中でも最も短い欠陥群(図9の態様では、欠陥群A)を特定する。これにより、第1の検査対象物(多層フィルム)の判別したい欠陥は、欠陥群Aに属する欠陥であると判断される。欠陥の分類精度は、抽出する特徴信号の種類、各特徴信号ごとに設定される閾値、抽出する属性値の種類等を変更することで、調整することができる。
【0059】
単層フィルムは、上記第1の欠陥検出方法により、既に欠陥が分類されたものであればいずれでもよい。欠陥のビットパターンが、単層フィルムの種類によって異なる可能性があることから、単層フィルムは、多層フィルムを構成するフィルムの一部と同じ種類であることが好ましく、多層フィルムを構成するフィルム自体であることがより好ましい。
【0060】
2.欠陥検出装置
図10は、本発明の第1の欠陥検出方法を実現する欠陥検出装置の一例を示す模式図である。欠陥検出装置10は、検査対象物12に光を照射する光源14と、検査対象物12を撮像する撮像手段16と、撮像手段16により得られた明暗信号から8つの特徴信号を抽出する抽出回路18(特定信号を得る手段)と、各特徴信号を2値化して得られる1つのビットパターンに基づき、検査対象物12の欠陥を判別する判別回路20(欠陥を分類する手段)と、を備えている。
【0061】
光源14は、一般的に用いられるものでもよく、特に限定されないが、具体的には蛍光灯、アパーチャー管、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED、レーザー、ブラックライト等が含まれる。撮像手段16は、一般的に用いられるものでもよく、特に限定されないが、具体的にはCCDカメラ等である。
【0062】
検査対象物12、光源14および撮像手段16の設置態様は、光源14から発せられた光が検査対象物12に照射され、反射または透過した光が撮像手段16で検出できる態様であれば、特に限定されない。検査対象物12が、光源14から照射される光を透過しにくい場合は、反射光を撮像手段16により検出する方式を採るのが好ましい。
【0063】
抽出回路18は、撮像手段16から転送された画像信号を明暗信号に変換し、明暗信号から前記8つの特徴信号を抽出する。
【0064】
判別回路20は、抽出された特徴信号から得られるビットパターンに基づき、検査対象物12の欠陥を分類する。
【0065】
図11は、本発明の第2の欠陥検出方法を実現する欠陥検出装置の一例を示す模式図である。同図において、図10と同じ機能を有する部材には、同一の符号を付す。
第2の欠陥検出方法を実現する欠陥検出装置30は、さらに抽出回路18で得られた特徴信号から4つ属性値を抽出する抽出回路22(属性値を得る手段)と、既に欠陥が分類されている欠陥群ごとに各属性値の平均値および分散共分散行列の逆行列が入力されたメモリ24と、マハラノビスの距離を計算する計算回路26(マハラノビスの距離を算出する手段)と、を有する以外は図10の欠陥検出装置とほぼ同様に構成される。
【0066】
3.欠陥検出方法を適用したフィルム製造方法
本発明の欠陥検出方法は、フィルム製造工程において製造されるフィルムの検査に適用されうる。検査精度の観点から、検査対象物が最も単純な形態であるフィルムの製膜工程に適用することが好ましい。本発明の欠陥検出方法を適用したフィルム製造方法によれば、フィルムを検査して得られる検査結果に基づいて、フィルム製造条件を調整することができる。
【0067】
製膜装置は、一般的には、樹脂ペレットを溶融混練する押出機と、押出機から押し出された溶融樹脂を吐出するダイと、吐出された溶融樹脂を冷却固化してフィルム状に製膜する冷却ドラムと、製膜されたフィルムを巻き取る巻き取り装置とを備えている。そして、巻き取り装置の前段に本発明の欠陥検出装置が設置されることが好ましい。
【0068】
樹脂ペレットを押出機により溶融混練しながら押出した後、ダイから吐出された溶融樹脂を冷却ドラム上で固化してフィルム状に製膜した後、リール状に巻き取る。このフィルムを巻き取る直前に、本発明の欠陥検出方法によりフィルムの欠陥を検出することが好ましい。得られた欠陥検出結果に基づき、欠陥を発生させる製造条件を調整することができる。例えば、上記製膜工程で発生する欠陥の一つにフィッシュアイ型の欠陥がある。この欠陥を発生させるフィルム製造条件には、押出機のシリンダー温度や押出量、押出圧力、ダイの温度、スクリュー回転速度、引き取り速度等が考えられる。そこで、これらの製造条件を調整して、欠陥を生じさせない条件を検討すればよい。
【0069】
フィルム製造条件の調整は、手動で行ってもよく自動で行ってもよい。フィルム製造条件を自動で調整する場合は、上記検出結果を押出機に転送し、プログラム等により自動的に押出条件を調整することが好ましい。
【0070】
フィルム製造方法には、上記製膜工程だけでなく、塗布・乾燥工程、複数のフィルムの貼り合わせる等の加工工程等も含まれる。塗布・乾燥工程には、例えば、粘着剤や各種コーティング剤を基材フィルム上に塗布する工程、および乾燥炉で乾燥する工程等が含まれる。加工工程には、例えば、複数のフィルムや金属箔を加熱または加圧下で貼り合わせる工程、フィルムを所定幅にスリットするスリット工程等が含まれる。
【0071】
塗布工程で発生する欠陥には、例えばレンズ、スジ、はじき等がある。これらの欠陥を発生させるフィルム製造条件は、例えばコーティングロールの回転速度、コーティングロールとメタリングロールとの速度比、塗布後の乾燥炉の温度およびフィルムの搬送速度等である。
フィルム製造条件には、上記の他にも、フィルムに与える張力(テンション)や温度、複数のフィルムを貼り合わせる工程ではフィルムを積層する際の温度等がある。
複数のフィルムを貼り合わせる工程においてフィルム製造条件を調整するには、本発明の欠陥検出方法で得られた結果を、フィルムの積層装置や加圧装置に転送し、プログラム等により自動的に調整することができる。
【0072】
本発明の欠陥検出方法をフィルム製造方法に適用することで、フィルム上に現れる凹凸やスジ等の複雑な欠陥を、その特徴を捉えて正確に判別できる。このため、欠陥の少なくなるようにフィルム製造条件を最適化することができ、ロット差や製造工程の外温等による影響をなくして品質を向上させ、かつ品質管理を簡易かつ迅速に行うことができる。
特に、オンラインでフィルム上の欠陥を検出するためには、簡易かつ迅速な欠陥検出方法が必要となる。また、フィルム製造条件にフィードバックするための入力信号の種類が多くなると、フィルム製造条件を調整するのが複雑かつ困難となる。このため、フィルム製造条件を最適化できず発散したり、変動が起こり易くなったりするという問題がある。
本発明の欠陥検出方法をオンラインのフィルム製造方法に適用することで、少ない情報量(特徴信号)で欠陥を分類できるので、簡易かつ迅速にフィルム製造条件を最適化することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の第1の欠陥検出方法の実施例について説明するが、本発明は本実施例により限定されない。
【0074】
以下の3種類のフィルムを検査対象物として、欠陥を検出した。
原反A:EVA(エチレンビニルアセテート)単層フィルム
原反B:ポリエチレンフィルム
原反C:セパレーターOPP
【0075】
本発明の第1の欠陥検出方法により、各原反から検出されたた各欠陥を、ビットパターンに変換し、ビットパターンごとに検出数を集計した。8桁のビットパターンを10進数で表したものをパターン番号とし、該パターン番号ごとの発生比率(%)を棒グラフで表した結果を図12〜14に示す。このうち、図12は原反Aの欠陥検出結果であり、図13は原反Bの欠陥検出結果であり、図14は原反Cの欠陥検出結果である。
【0076】
発生比率は、下記式より求めた。
発生比率(%)=(パターン番号の検出数/全検出数)×100
【0077】
図12〜14に示されるように、原反フィルムA〜Cのいずれからも検出された欠陥は20000個を超えているが、256個のビットパターンの組み合わせのうち僅か5〜10個のビットパターンに分類されることがわかる。
【0078】
表1は、図12において分類されたビットパターンのうち2つのビットパターンについて、欠陥の種類との対応関係を示す表である。
【0079】
【表1】

【0080】
図12に示されるように、パターン番号67に分類された欠陥は、全て写真(A)で示される欠陥Aであった。同様に、パターン番号227に分類された欠陥は、全て写真(B)で示される欠陥Bであった。その他についても、同じビットパターンであれば同じ種類の欠陥であることを確認することができた。
【0081】
これにより、明暗信号から8種類の特徴信号を抽出し、簡易な2値化によるビットパターンを得ることで、フィルムの欠陥の特徴を捉えることができ、簡易かつ迅速に欠陥を分類することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の欠陥検出方法の流れを説明するフローチャートである。
【図2】撮像した検出対象物の画像からX軸方向の信号強度データとY軸方向の信号強度データを取得する例を示す図である。
【図3】図2のX軸方向の信号強度データのうち一部を抜き出したグラフである。
【図4】面方向の信号差分および線方向の信号差分の概念を説明する図である。
【図5】特徴信号をビットパターンへ変換する様子を示す表である。
【図6】第2の欠陥検出方法の概略を説明するフローチャートである。
【図7】第2の欠陥検出方法の詳細を説明するフローチャートである。
【図8】属性値の概念を説明する図である。
【図9】マハラノビスの距離から欠陥を分類する概念を説明する図である。
【図10】欠陥検出装置の一例を示す模式図である。
【図11】欠陥検出装置の他の例を示す模式図である。
【図12】原反Aについての欠陥検出結果を示すグラフである。
【図13】原反Bについての欠陥検出結果を示すグラフである。
【図14】原反Cについての欠陥検出結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
10、30…欠陥検出装置、12…検査対象物、14…光源、16…撮像手段、20…判別回路、18、22…抽出回路、24…メモリ、26…計算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)検査対象物を撮像する工程と、
(2)前記(1)の工程で得られた画像信号から特徴信号を得る工程であって、前記特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を超えている部位を欠陥と特定する工程と、
(4)前記欠陥と特定された部位における特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を越えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る工程と、
(5)前記ビットパターンに基づいて、前記検査対象物の欠陥を分類する工程と、
を含む、欠陥検出方法。
【請求項2】
前記特徴信号は、さらに
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
を含む、請求項1記載の欠陥検出方法。
【請求項3】
前記検査対象物がフィルムである、請求項1または2記載の欠陥検出方法。
【請求項4】
請求項3記載の欠陥検出方法を用いたフィルム製造方法であって、
前記欠陥の分類結果に基づいて、前記欠陥の発生因子を調整する工程を含む、フィルムの製造方法。
【請求項5】
(1)検査対象物を撮像する撮像手段と、
(2)前記撮像手段により得られた画像信号から特徴信号を得る手段であって、前記特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を越えた部位を欠陥と特定する手段と、
(4)前記欠陥と特定された部位における特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る手段と、
(5)前記ビットパターンに基づいて、前記検査対象物の欠陥を分類する手段と、
を含む、欠陥検出装置。
【請求項6】
前記特徴信号は、さらに
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
を含む、請求項5記載の欠陥検出装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の欠陥検出装置を備えたフィルム製造装置。
【請求項8】
(1)第1の検査対象物を撮像する工程と、
(2)前記(1)の工程で得られた画像信号から、第1の特徴信号を得る工程であって、前記第1の特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記第1の特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記第1の特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を超えた部位を欠陥と特定する工程と、
(4)前記欠陥と特定された部位における前記第1の特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る工程と、
(5)前記ビットパターンに基づいて、前記第1の検査対象物の欠陥を分類できるか否かを判断する工程と、を備え、
(6)前記第1の検査対象物の欠陥を分類できないと判断した場合、さらに、
(7)前記欠陥と特定された部位における、前記第1の特徴信号のそれぞれから、第1の属性値を得る工程であって、前記第1の属性値は、
X軸方向寸法;
Y軸方向寸法;
ピーク強度;
面積;
を含み、
(8)請求項1記載の方法により欠陥群ごとに既に分類されている、第2の検査対象物の欠陥のそれぞれにおける各特徴信号から、第2の属性値を得る工程であって、前記第2の属性値は、
X軸方向寸法;
Y軸方向寸法;
ピーク強度;
面積;
を含み、
(9)前記分類された各欠陥群ごとに、各欠陥群に分類された欠陥の第2の属性値から、第2の属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列を求める工程と、
(10)前記(9)において前記欠陥群ごとに得られた、前記第2の属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列と、前記(7)で得られた、第1の検査対象物の欠陥の前記第1の属性値とから、前記第1の検査対象物の欠陥と、前記各欠陥群とのマハラノビスの距離をそれぞれ算出する工程と、
(11)前記第1の検査対象物の欠陥を、前記各欠陥群のうちの、前記マハラノビスの距離が最も短い欠陥群の欠陥に分類する工程と、
を含む、欠陥検出方法。
【請求項9】
前記第1の検査対象物および第2の検査対象物の特徴信号は、それぞれ以下の2つの特徴信号をさらに含む、請求項8記載の欠陥検出方法。
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
【請求項10】
前記第1の検査対象物は多層フィルムであり、前記第2の検査対象物は単層フィルムである、請求項8または9記載の欠陥検出方法。
【請求項11】
前記第2の検査対象物は、前記多層フィルムに含まれる単層フィルムである、請求項10記載の欠陥検出方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の欠陥検出方法を用いたフィルム製造方法であって、前記欠陥を分類した結果に基づいて、前記欠陥の発生因子を調整する工程を含む、フィルムの製造方法。
【請求項13】
(1)検査対象物を撮像する撮像手段と、
(2)前記撮像手段により得られた画像信号から特徴信号を得る手段であって、前記特徴信号は、
明信号;
暗信号;
X軸方向の明信号の差分;
Y軸方向の明信号の差分;
X軸方向の暗信号の差分;
Y軸方向の暗信号の差分;
を含み、
(3)前記特徴信号ごとに閾値が設定されており、前記特徴信号のうちのいずれか1以上の強度が閾値を超えている部位を欠陥と特定する手段と、
(4)前記欠陥と特定された部位における前記特徴信号のそれぞれのピーク値が、閾値を超えているか否かに基づいて2値化して、前記欠陥と特定された部位ごとにビットパターンを得る手段と、
(5)前記欠陥と特定された部位における前記特徴信号のそれぞれの属性値を得る手段であって、前記属性値は、
X軸方向寸法;
Y軸方向寸法;
ピーク強度;
面積;
を含み、
(6)欠陥群ごとに既に分類されている欠陥について、前記各属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列が入力されたメモリと、
(7)欠陥群ごとに既に分類されている欠陥群の各属性値ごとの平均値および分散共分散行列の逆行列と、分類されていない欠陥の属性値と、を用いてマハラノビスの距離を算出する手段とを含む、欠陥検出装置。
【請求項14】
前記特徴信号は、さらに
面方向の信号差分;
線方向の信号差分;
を含む、請求項13記載の欠陥検出装置。
【請求項15】
請求項13または14記載の欠陥検出装置を備えたフィルム製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−139379(P2010−139379A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316113(P2008−316113)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】