説明

水晶振動子と水晶ユニットと水晶発振器の各製造方法

【課題】屈曲モードで振動する音叉型屈曲水晶振動子と水晶ユニットと水晶発振器の各製造方法を提供することにある。
【解決手段】音叉基部と第1音叉腕と第2音叉腕とを備えた音叉形状を水晶ウエハ内に形成する工程と、第1音叉腕と第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面に、又はその一面と音叉基部に溝を形成する工程と、音叉型屈曲水晶振動子の第1電極端子を形成するために、第1音叉腕の溝の面の上に配置された電極を、第2音叉腕の第1側面と第2側面に配置された電極に接続する工程と、音叉型屈曲水晶振動子の第2電極端子を形成するために、第2音叉腕の溝の面の上に配置された電極を、第1音叉腕の第1側面と第2側面に配置された電極に接続する工程と、音叉型屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比rが、2次高調波モード振動の容量比rより小さくなるように、音叉形状と溝と電極の寸法を決定する工程と、音叉型屈曲水晶振動子の周波数を調整する工程と、を含む水晶振動子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屈曲モードで振動する音叉腕と音叉基部を具えて構成される音叉形状の水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振器とその製造方法に関する。特に、小型化、高精度化、耐衝撃性、低廉化の要求の強い情報通信機器用の基準信号源として最適な水晶発振器で、新形状、新電極構成及び最適寸法を有する超小型の音叉形状の屈曲水晶振動子から構成され、基本波モード振動の周波数が出力信号である水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水晶発振器は増幅器とコンデンサーと抵抗素子と音叉腕の上下面と側面に電極が配置された音叉型屈曲水晶振動子から成る水晶発振器がよく知られている。図9には、この従来例の水晶発振器に用いられている音叉形状の屈曲水晶振動子200の概観図を示す。図9において水晶振動子200は2本の音叉腕201,202と音叉基部230とを具えている。図10には図9の音叉腕の断面図を示す。図10に示すように、励振電極は音叉腕の上下面と側面に配置されている。音叉腕の断面形状は一般的には長方形をしている。一方の音叉腕の断面の上面には電極203が下面には電極204が配置されている。側面には電極205と206が設けられている。他方の音叉腕の上面には電極207が下面には電極208が、更に側面には電極209,210が配置され2電極端子H−H′構造を成している。今、H−H′間に直流電圧を印加すると電界は矢印方向に働く。その結果、一方の音叉腕が内側に曲がると他方の音叉腕も内側に曲がる。この理由は、x軸方向の電界成分Exが各音叉腕の内部で方向が反対になるためである。交番電圧を印加することにより振動を持続することができる。又、特開昭56−65517と特開2000−223992(P2000−223992A)では、音叉腕に溝を設け、且つ、電極構成について開示されている。
【特許文献1】特開昭56−65517
【特許文献2】特開昭2000−223992(P2000−223992A)
【特許文献3】国際公開第00/44092
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
音叉型屈曲水晶振動子では、電界成分Exが大きいほど等価直列抵抗Rが小さくなり、品質係数Q値が大きくなる。しかしながら、従来から使用されている音叉型屈曲水晶振動子は、図10で示したように、各音叉腕の上下面と側面の4面に電極を配置している。そのために電界が直線的に働かず、かかる音叉型屈曲水晶振動子を小型化させると、電界成分Exが小さくなってしまい、等価直列抵抗Rが大きくなり、品質係数Q値が小さくなるなどの課題が残されていた。同時に、時間基準として高精度な、即ち、高い周波数安定性を有し、高調波モード振動を抑えた屈曲水晶振動子を得ることが課題として残されていた。又、前記課題を解決する方法として、例えば、特開昭56−65517では音叉腕に溝を設け、且つ、溝の構成と電極構成について開示している。しかしながら、溝の構成、寸法と振動モード並びに基本波モード振動での等価直列抵抗Rと高調波モード振動での等価直列抵抗Rとの関係及び周波数安定性に関係するフィガーオブメリットMについては全く開示されていない。又、従来の水晶振動子や前記溝を設けた振動子を従来の回路に接続し、水晶発振回路を構成すると、基本波振動モードの出力信号が衝撃や振動などの影響で出力信号が高調波モード振動の周波数に変化、検出される等の問題が発生していた。このようなことから、衝撃や振動を受けても、それらの影響を受けない高調波モード振動を抑えた基本波モードで振動する音叉形状の屈曲水晶振動子を具えた水晶発振器が所望されていた。更に、水晶発振器の消費電流を低減するために、負荷容量Cを小さくすると高調波モードの振動がし易くなり、基本波モード振動の出力周波数が得られない等の課題が残されていた。それ故、基本波モードで振動する超小型で、等価直列抵抗Rの小さい、品質係数Q値が高くなるような新形状で、電気機械変換効率の良い溝の構成と電極構成を有する音叉形状の屈曲水晶振動子を具え、出力信号が基本波モード振動の周波数で、高い周波数安定性(高い時間精度)を有し、消費電流の少ない水晶発振器が所望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の方法で従来の課題を有利に解決した屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子を具えた水晶発振器とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
すなわち、本発明の水晶振動子の製造方法の第1の態様は、音叉基部と前記音叉基部に接続された少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕とを備えて構成され、屈曲モードで振動する音叉型屈曲水晶振動子の製造方法で、研磨加工あるいはポリッシュ加工された水晶ウエハの上面と下面の各々に金属膜を形成する工程と、前記金属膜の上にレジストを塗布する工程と、前記音叉基部と前記第1音叉腕と前記第2音叉腕とを備えた音叉形状を形成する工程と、前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面に、又は前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面と前記音叉基部に溝を形成する工程と、前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面に形成された前記溝の面の上に電極を配置する工程と、前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の第1側面とその第1側面に対抗する第2側面の各々に電極を配置する工程と、前記音叉型屈曲水晶振動子の第1電極端子を形成するために、前記第1音叉腕の上面と下面の少なくとも一面に形成された前記溝の面の上に配置された前記電極を、前記第2音叉腕の第1側面と第2側面の各々に配置された前記電極に接続する工程と、前記音叉型屈曲水晶振動子の第2電極端子を形成するために、前記第2音叉腕の上面と下面の少なくとも一面に形成された前記溝の面の上に配置された前記電極を、前記第1音叉腕の第1側面と第2側面の各々に配置された前記電極に接続する工程と、前記音叉型屈曲水晶振動子の周波数を調整する工程と、を含み、前記音叉型屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比rが、前記音叉型屈曲水晶振動子の2次高調波モード振動の容量比rより小さくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法が決定されている水晶振動子の製造方法である。
本発明の水晶振動子の製造方法の第2の態様は、前記音叉型屈曲水晶振動子の前記基本波モード振動のフイガーオブメリットMが、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットMより大きくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法を決定する工程を備えている第1の態様に記載の水晶振動子の製造方法である。
【0006】
本発明の水晶ユニットの製造方法の第1の態様は、第1の態様または第2の態様の水晶振動子の製造方法を備え、前記音叉型屈曲水晶振動子は前記基本波モード振動において品質係数Qと周波数安定係数Sを備え、かつ、SがS=r/2Qによって定義され、前記音叉型屈曲水晶振動子は前記2次高調波モード振動において品質係数Qと周波数安定係数Sを備え、かつ、SがS=r/2Qによって定義され、SがSより小さくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法が決定されている水晶ユニットの製造方法である。
本発明の水晶発振器の製造方法の第1の態様は、第1の態様または第2の態様の水晶振動子の製造方法と、あるいは第1の態様の水晶ユニットの製造方法と、前記音叉型屈曲水晶振動子の前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットMが30より小さくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法を決定する工程と、増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを準備する工程と、前記音叉型屈曲水晶振動子の前記第1電極端子と前記第2電極端子を、前記増幅器と前記コンデンサーと前記抵抗素子に電気的に接続する工程とを備えている水晶発振器の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明は屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子を具えた水晶発振器で、しかも、音叉形状の溝と電極の構成を改善し、増幅回路と帰還回路との関係を示すことにより、高調波モード振動を抑え、基本波モードで振動する周波数を出力する水晶発振器を得る事ができる。
【0008】
加えて、音叉腕の中立線を挟んだ(含む)中央部に溝を設け、且つ、電極を配置し、溝の寸法の最適化を図る事により、等価直列抵抗Rが小さく、Q値が高く、電気機械変換効率の良い屈曲モードで振動する超小型の音叉形状の屈曲水晶振動子が得られる。と同時に、帰還回路の負荷容量を小さくできる。その結果、消費電流の少ない水晶発振器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づき具体的に述べる。図1は本発明の水晶発振器を構成する水晶発振回路図の一実施例である。本実施例では、水晶発振回路1は増幅器(CMOSインバータ)2、帰還抵抗4、ドレイン抵抗7、コンデンサー5,6と音叉形状の屈曲水晶振動子3から構成されている。即ち、水晶発振回路1は、増幅器2と帰還抵抗4から成る増幅回路8とドレイン抵抗7、コンデンサー5,6と屈曲水晶振動子3から成る帰還回路9から構成されている。更に、基本波モードで振動する音叉形状の屈曲水晶振動子3を具えて構成される水晶発振回路1の出力信号はバッファ回路(図示されていない)を通してドレイン側から出力される。即ち、基本波モード振動の周波数がバッファ回路を通して出力信号として出力される。本発明では、基本波モード振動の周波数は10kHz〜200kHzが用いられる。又、本発明では、前記出力信号の周波数を分周回路又は逓倍回路によって分周又は逓倍された周波数も基本波モード振動の周波数に含まれる。さらに詳細には、本実施例の水晶発振器は水晶発振回路とバッファ回路とを具えて構成されている。換言するならば、水晶発振回路は増幅回路と帰還回路から構成され、増幅回路は少なくとも増幅器から構成され、帰還回路は少なくとも音叉形状の屈曲水晶振動子とコンデンサーから構成されている。又、本実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子は図3から図6で詳述される。
【0010】
図2は図1の帰還回路図を示す。今、屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子の角周波数をω、ドレイン抵抗7の抵抗をR、コンデンサー5、6の容量をC、C、水晶のクリスタルインピーダンスをRei,入力電圧をV,出力電圧をVとすると、帰還率βはβ=|V/|Vで定義される。但し、iは屈曲振動モードの振動次数を表し、例えば、i=1のとき、基本波モード振動、i=2のとき、2次高調波モード振動、i=3のとき、3次高調波モード振動である。即ち、i=nのとき、n次高調波モード振動であるが、以下単に、高調波モード振動と言う。更に、負荷容量CはC=C/(C+C)で与えられ、C=C=CgsとRd>>Reiとすると、帰還率βはβ=1/(1+kC)で与えられる。但し、kはω、R、Reiの関数で表される。又、Reiは近似的に等価直列抵抗Rに等しくなる。
【0011】
このように、帰還率βと負荷容量Cとの関係から、負荷容量Cが小さくなると、基本波振動モードと高調波振動モードの共振周波数の帰還率はそれぞれ大きくなることが良く分かる。それ故、負荷容量Cが小さくなると、基本波モード振動よりも高調波モード振動の方が発振し易くなる。その理由は高調波モード振動の最大振動振幅が基本波モード振動の最大振動振幅より小さいために、発振持続条件である振幅条件と位相条件を同時に満足するためである。
【0012】
本発明の水晶発振器は、消費電流が少なく、しかも、出力周波数が高い周波数安定性(高い時間精度)を有する、基本波モード振動の周波数である水晶発振器を提供することを目的としている。それ故、消費電流を少なくするために、本実施例では、負荷容量Cは10pF以下を用いる。より消費電流を少なくするには、消費電流は負荷容量に比例するので、C=8pF以下が好ましい。ここで言う、容量C、Cは回路の浮遊容量を含まない数値であるが、実際には、回路構成により浮遊容量が存在する。それ故、本実施例では、この回路構成による浮遊容量を含んだ負荷容量Cは18pF以下を用いる。また、高調波モードの振動を抑え、発振器の出力信号が基本波モード振動の周波数を得るために、α/α>β/βとαβ>1を満足するように本実施例の水晶発振回路は構成される。但し、α、αは基本波モード振動と高調波モード振動の増幅回路の増幅率で、β、βは基本波モード振動と高調波モード振動の帰還回路の帰還率である。即ち、n=2、3のとき、それぞれ、2次、3次高調波モード振動である。
【0013】
換言するならば、増幅回路の基本波モード振動の増幅率αと高調波モード振動の増幅率αとの比が帰還回路の高調波モード振動の帰還率βと基本波モード振動の帰還率βとの比より大きく、かつ、基本波モード振動の増幅率αと基本波モード振動の帰還率βの積が1より大きくなるように構成される。このような構成により、消費電流の少ない、出力信号が基本波モード振動の周波数である水晶発振器が実現できる。更に、高い周波数安定性については後述される。
【0014】
又、本実施例の水晶発振回路を構成する増幅回路の増幅部は負性抵抗−RLでその特性を示すことができる。i=1のとき基本波モード振動の負性抵抗で、i=nのとき高調波モード振動の負性抵抗である。即ち、n=2,3のとき、2次、3次高調波モード振動の負性抵抗である。本実施例の水晶発振器は、増幅回路の基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|−RL|と基本波モード振動の等価直列抵抗Rとの比が増幅回路の高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|−RL|と高調波モード振動の等価直列抵抗Rとの比より大きくなるように発振回路が構成されている。即ち、|−RL|/R>|−RL|/Rを満足するように構成されている。このように水晶発振回路を構成することにより、高調波モード振動の発振起動が抑えられ、その結果、基本波モード振動の発振起動が得られるので基本波モード振動の周波数が出力信号として得られる。
【0015】
図3は本発明の第1実施例の水晶発振器に用いられる屈曲モードで振動する音叉形状の屈曲水晶振動子10の外観図とその座標系を示すものである。座標系O、電気軸x、機械軸y、光軸zからなるO−xyzを構成している。本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10は音叉腕20、音叉腕26と音叉基部40とから成り、音叉腕20と音叉腕26は音叉基部40に接続されている。また、音叉腕20と音叉腕26はそれぞれ上面と下面と側面とを有する。更に、音叉腕20の上面には中立線を挟んで、即ち、中立線を含むように溝21が設けられ、又、音叉腕26の上面にも音叉腕20と同様に溝27が設けられるとともに、さらに、音叉基部40に溝32と溝36とが設けられている。なお、角度θは、x軸廻りの回転角であり、通常0〜10°の範囲で選ばれる。又、音叉腕20、26の下面にも上面と同様に溝が設けられている。
【0016】
図4は、図3の音叉形状の屈曲水晶振動子10の音叉基部40のD−D′断面図を示す。図4では図3の水晶振動子の音叉基部40の断面形状並びに電極配置について詳述する。音叉腕20と連結する音叉基部40には溝21,22が設けられている。同様に、音叉腕26と連結する音叉基部40には溝27,28が設けられている。更に、溝21と溝27との間には更に溝32と溝36とが設けられている。又、溝22と溝28との間にも溝33と溝37とが設けられている。そして、溝21と溝22には電極23,24が、溝32,33,36,37には電極34,35,38,39が、溝27と溝28には電極29,30が配置され、音叉基部40の両側面には電極25,31が配置されている。詳細には、溝の側面に電極が配置され、前記電極に対抗して極性の異なる電極が配置されている。
【0017】
また、音叉形状の屈曲水晶振動子10は厚みtを有し、溝は厚みtを有している。ここで言う厚みtは溝の一番深いところの厚みを言う。その理由は水晶は異方性の材料のために、化学的エッチング法では各結晶軸の方向によりエッチングスピードが異なる。それ故、化学的エッチング法では溝の深さにバラツキが生じ、図4に示した一様な形状に加工するのが極めて難しいためである。本実施例では、溝の厚みtと音叉腕又は音叉腕と音叉基部の厚みtとの比(t/t)が0.79より小さくなるように、好ましくは、0.01〜0.79となるように溝が音叉腕又は音叉腕と音叉基部に形成されている。特に、音叉基部の歪みを大きくするために、音叉基部の溝の厚みと音叉基部の厚みの比を0.01〜0.025にする事が好ましい。このように形成することにより、音叉腕又は音叉腕と音叉基部の溝側面電極とそれに対抗する側面の電極との間の電界Exが大きくなる。すなわち、電気機械変換効率の良い屈曲振動子が得られる。即ち、容量比の小さい音叉形状の屈曲水晶振動子が得られる。更に、本実施例では、音叉基部の溝と溝との間にさらに溝32,33,36,37が設けられているので、その電界強度はより一層大きくなり、より電気機械変換効率が良くなる。又、本実施例では、音叉基部40の上面に溝32,36が、下面に溝33,37が設けられているが、片面にのみ設けても良い。
【0018】
更に、電極25,29,30,34,35は一方の同極に、電極23,24,31,37,38,39は他方の同極になるように配置されていて、2電極端子構造E−E′を構成する。即ち、z軸方向に対抗する溝電極は同極に、且つ、x軸方向に対抗する電極は異極になるように構成されている。今、2電極端子E−E′に直流電圧を印加(E端子に正極、E′端子に負極)すると電界Exは図4に示した矢印のように働く。電界Exは水晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により電極に垂直に、即ち、直線的に引き出されるので、電界Exが大きくなり、その結果、発生する歪の量も大きくなる。従って、音叉形状の屈曲水晶振動子を小型化させた場合でも、等価直列抵抗Rの小さい、品質係数Q値の高い屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子が得られる。
【0019】
図5は図3の音叉形状の屈曲水晶振動子10の上面図を示すものである。図5では溝21,27の配置及び寸法について特に詳述する。音叉腕20の中立線41を挟むようにして溝21が設けられている。他方の音叉腕26も中立線42を挟むようにして溝27が設けられている。更に、本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10では、音叉基部40の、溝21と溝27との間に挟まれた部分にも溝32と溝36とが設けられている。それら溝21,27及び溝32,36を設けたことで、音叉形状の屈曲水晶振動子10には、先に述べたように、電界Exが図4に示した矢印のように働き、電界Exは水晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により電極に垂直に、即ち、直線的に引き出され、特に音叉基部の電界Exが大きくなり、その結果、発生する歪の量も大きくなる。このように、本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10の形状と電極構成とは、音叉型屈曲水晶振動子を小型化した場合でも電気的諸特性に優れた、即ち、等価直列抵抗Rの小さい、品質係数Q値の高い水晶振動子が実現できる。
【0020】
更に、部分幅W、Wと溝幅Wとすると、音叉腕20,26の腕幅WはW=W+W+Wで与えられ、通常はWとWの一部又は全部がW≧Wまたは、W<Wとなるように構成される。又、溝幅WはW≧W,Wを満足する条件で構成される。更に具体的に述べると、本実施例では、溝幅Wと音叉腕幅Wとの比(W/W)が0.35より大きく、1より小さくなるように、好ましくは、0.35〜0.95で、溝の厚みtと音叉腕の厚みt又は音叉腕と音叉基部の厚みtとの比(t/t)が0.79より小さくなるように、好ましくは、0.01〜0.79となるように溝が音叉腕に形成されている。このように形成することにより、音叉腕の中立線41と42を基点とする慣性モーメントが大きくなる。即ち、電気機械変換効率が良くなるので、等価直列抵抗Rの小さい、Q値の高い、しかも、容量比の小さい音叉形状の屈曲水晶振動子を得る事ができる。
【0021】
これに対して、溝21および溝27の長さlについて本実施例では、溝21,27が音叉腕20,26から音叉基部40の長さlにまで延在し、基部の溝の長さlとなるような寸法とされている。それ故、音叉腕20,26に設けられた溝の長さは(l−l)で与えられ、Rの小さい振動子を得るために、(l−l)/(l−l)が0.4〜0.8の値を有する。更に、音叉形状の屈曲水晶振動子10の全長lは要求される周波数や収納容器の大きさなどから決定される。と共に、基本波モードで振動する良好な音叉形状の屈曲水晶振動子を得るためには、溝の長さlと全長lとの間には密接な関係が存在する。
【0022】
すなわち、音叉腕20,26又は音叉腕20,26と音叉基部40に設けられた溝の長さlと音叉形状の屈曲水晶振動子の全長lとの比(l/l)が0.2〜0.78となるように溝の長さは設けられる。このように形成する理由は、不要振動である高調波モード振動、特に、2次、3次高調波モード振動を抑圧する事ができると共に基本波モード振動の周波数安定性を高めることができる。それ故、基本波モードで容易に振動する良好な音叉形状の屈曲水晶振動子が実現できる。さらに詳述するならば、基本波モードで振動する音叉形状の屈曲水晶振動子の等価直列抵抗Rが高調波モード振動の等価直列抵抗Rより小さくなる。即ち、R<R(n=2,3のとき、2次、3次高調波モード振動の等価直列抵抗)となり、増幅器(CMOSインバータ)、コンデンサー、抵抗素子、本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子等から成る水晶発振器において、振動子が基本波モードで容易に振動する良好な水晶発振器が実現できる。又、溝の長さlは音叉腕の長さ方向に分割されていても良く、その中の少なくとも1個が前記辺比(l/l)を満足すれば良いか、又は、分割された溝の長さ方向の加えられた溝の長さが前記辺比(l/l)を満足すれば良い。
【0023】
また、この実施例では、音叉基部40は図5中、振動子10の長さlの下側部分全体とされ、又、音叉腕20及び音叉腕26は、図5中、振動子10の長さlの部分から上側の部分全体とされている。本実施例では音叉の叉部は矩形をしているが、本発明は前記形状に限定されるものではなく、音叉の叉部がU字型をしていても良い。この場合も矩形の形状と同じように、音叉腕と音叉基部との寸法の関係は前記関係と同じである。更に、本実施例では、溝は音叉腕と音叉基部に設けられているが、本発明はこれに限定されるものでなく、音叉腕にのみ溝を設けても良く、同様の効果が得られる。この場合、溝の長さl=0となる。また、本発明で言う溝の長さlとは、音叉腕にのみ溝が設けられている時には、溝幅Wと音叉腕幅Wとの比(W/W)が0.35より大きく、且つ、1より小さくなるように形成された溝の長さである。更に、前記音叉腕に設けられた溝が、音叉基部にまで延在し、音叉基部に延在した溝の間にさらに溝が設けられている時には、溝の長さlを含む長さがlである。しかし、音叉腕の溝が音叉基部に延在しているが、その溝の間にさらに溝が設けられていない時には、長さlは音叉腕の溝の長さである。
【0024】
換言するならば、音叉形状の音叉腕の中立線を挟んだ、即ち、中立線を含む音叉腕の上下面に各々少なくとも1個の溝が長さ方向に設けられ、前記溝の両側面に電極が配置され、前記溝側面の電極とその電極に対抗する音叉腕側面の電極とが互いに異極となるように構成されていて、音叉腕に生ずる慣性モーメントが大きくなるように前記各々少なくとも1個の溝の内少なくとも1個の溝幅Wと音叉腕幅Wとの比(W/W)が0.35より大きく、1より小さく、且つ、前記溝の厚みtと音叉腕の厚みtとの比(t/t)が0.79より小さくなるように溝が形成されている。
【0025】
更に、本実施例の音叉腕の間隔はWで与えられ、間隔Wと溝幅WはW≧Wを満足するように構成され、間隔Wは0.05mm〜0.35mmで、溝幅Wは0.03mm〜0.12mmの値を有する。このように構成する理由は超小型の屈曲水晶振動子で、かつ、音叉形状と音叉腕の溝をフオトリソグラフィ技術を用いて別々(別々の工程)に形成でき、更に、基本波モード振動の周波数安定性が高調波モード振動の周波数安定性より高くすることができる。この場合、厚みtは通常0.05mm〜0.15mmの水晶ウエハが用いられる。しかし、本発明は本実施例に限定されるものでなく、0.15mmより厚い水晶ウエハを使用してもよい。
【0026】
更に詳述するならば、音叉形状の屈曲水晶振動子の誘導性と電気機械変換効率と品質とを表すフイガーオブメリットMは屈曲水晶振動子の品質係数Q値と容量比rの比(Q/r)によって定義される。即ち、M=Q/rで与えられる。但し、iは音叉形状の屈曲水晶振動子の振動次数を表し、i=1のとき基本波モード振動、i=2のとき2次高調波モード振動、i=3のとき3次高調波モード振動である。また、音叉形状の屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数fと並列容量に依存する直列共振周波数fの周波数差ΔfはフイガーオブメリットMに反比例し、その値Mが大きい程Δfは小さくなる。従って、Mが大きい程、音叉形状の屈曲水晶振動子の共振周波数は並列容量の影響を受けないので、屈曲水晶振動子の周波数安定性は良くなる。即ち、時間精度の高い音叉形状の屈曲水晶振動子が得られる。
【0027】
さらに詳細には、前記音叉形状と溝と電極とその寸法の構成により、基本波モード振動のフイガーオブメリットMが高調波モード振動のフイガーオブメリットMより大きくなる。即ち、M>Mとなる。但し、nは高調波モード振動の振動次数を表し、n=2、3のとき、2次、3次高調波モード振動のフイガーオブメリットである。一例として、基本波モード振動の周波数が32.768kHzで、W/W=0.5、t/t=0.34、l/l=0.48のとき、製造によるバラツキが生ずるが、音叉形状の屈曲水晶振動子のM、MはそれぞれM>65、M<30となる。即ち、高い誘導性と電気機械変換効率の良い(容量比rと等価直列抵抗Rの小さい)、品質係数の大きい基本波モードで振動する屈曲水晶振動子を得ることができる。その結果、基本波モード振動の周波数安定性が2次高調波モード振動の周波数安定性より良くなると共に、2次高調波モード振動を抑圧することができる。従って、本実施例の屈曲水晶振動子から構成される水晶発振器は基本波モード振動の周波数が出力信号として得られ、かつ、高い周波数安定性(優れた時間精度)を有する。換言するならば、本実施例の水晶発振器はエージングによる周波数変化が極めて小さく成るという著しい効果を有する。また、本発明の基本波モード振動の基準周波数は既に述べたように、10kHz〜200kHzが用いられる。特に、32.768kHzは広く使用され、例えば、その周波数偏差は−100PPM〜+100PPMの範囲内にあるように周波数調整される。
【0028】
図6は本発明の第2実施例の水晶発振器に用いられる屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子45の上面図である。音叉形状の屈曲水晶振動子45は、音叉腕46,47と音叉基部48とを具えて構成されている。即ち、音叉腕46,47の一端部が音叉基部48に接続されている。本実施例では、音叉基部48に切り欠き部53、54が設けられている。又、音叉腕46、47には中立線51、52を挟んで(含む)溝49、50が設けられている。更に、本実施例では溝49、50は音叉腕46、47の一部に設けられていて、溝49、50はそれぞれ幅Wと長さlを有する。更に詳述するならば、溝の面積S=W×lで示し、Sは0.025〜0.12mmの値を有するように構成される。このように溝の面積を構成する理由は化学的エッチング法による溝の形成が容易で、しかも、電気機械変換効率が良くなる溝の形成ができる。と同時に、基本波モード振動の品質係数Q値の高い屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子が得られる。その結果、出力信号が基本波モード振動の周波数である水晶発振器が実現できる。
【0029】
上記溝の面積Sでは、溝と音叉腕を別々の工程で加工できる。しかし、音叉腕とそれに設けられた溝を同時に加工するには、音叉腕の厚みtと溝幅Wと音叉腕の間隔Wと面積Sを最適寸法にする必要が有る。即ち、音叉腕の厚みtが0.06mm〜0.15mmのとき、溝幅Wが0.02mm〜0.068mmの範囲内に、更に、面積Sは0.023mm〜0.088mmの範囲内にあり、間隔Wは0.05mm〜0.35mmとなるように構成される。このように構成する理由は水晶の結晶性を利用し、その結晶性から貫通穴でない溝(音叉腕の長さ方向に分割された溝を含む)と音叉形状を同時に形成することができる。また、図6には示されていないが、音叉腕46,47の下面にも溝49,50と対抗する位置に溝が設けられている。
【0030】
更に、音叉基部48に設けられた切り欠き部53、54の音叉部側の幅寸法はWで与えられ、切り欠き部53、54の端部側の寸法はWで与えられる。そして、音叉基部48の端部側で表面実装型のケースや円筒型のケースに半田や接着剤によって固定されるとき、振動子の振動エネルギーの損失を小さくするには、W6≧W5を満たす必要がある。また、切り欠き部53、54も振動子の固定による振動部のエネルギー損失を小さくすることができる。図6で示されている音叉腕の腕幅W、部分幅W、W、溝幅Wと間隔W及び溝の長さlと音叉振動子の全長lとの関係は図5で述べられているので、ここでは省略する。
【0031】
図7は本発明の第3実施例の水晶発振器に用いられる水晶ユニットの断面図である。水晶ユニット170は音叉形状の屈曲水晶振動子70、ケース71と蓋72を具えて構成されている。更に詳述するならば、振動子70はケース71に設けられた固定部74に導電性接着剤76や半田によって固定される。又、ケース71と蓋72は接合部材73を介して接合される。本実施例では、振動子70は図3と図6で詳細に述べられた音叉形状の屈曲水晶振動子10、45の内の一個と同じ振動子である。又、本実施例の水晶発振器では回路素子は水晶ユニットの外側に接続される。即ち、音叉形状の屈曲水晶振動子のみがユニット内に収納されている。この時、屈曲水晶振動子は真空中のユニット内に収納されている。本実施例では、表面実装型の水晶ユニットを示したが、円筒型のユニットに屈曲水晶振動子を収納しても良い。即ち、円筒型の水晶ユニットが得られる。
【0032】
更に、ケースの部材はセラミックスかガラス、蓋の部材は金属かガラス、そして、接合部材は金属か低融点ガラスでできている。又、本実施例で述べられた振動子とケースと蓋との関係は以下に述べられる図8の水晶発振器にも適用される。
【0033】
図8は本発明の第4実施例の水晶発振器の断面図を示す。水晶発振器190は水晶発振回路とケース91と蓋92とを具えて構成されている。本実施例では、水晶発振回路はケース91と蓋92から成る水晶ユニット内に収納されている。又、水晶発振回路は音叉形状の屈曲水晶振動子90と帰還抵抗を含む増幅器98とコンデンサー(図示されていない)とドレイン抵抗(図示されていない)とを具えて構成されていて、増幅器98はCMOSインバータが用いられる。
【0034】
更に、本実施例では、振動子90はケース91に設けられた固定部94に接着剤96や半田によって固定される。これに対して、増幅器98はケース91に固定されている。また、ケース91と蓋92は接合部材93を介して接合されている。本実施例の振動子90は図3と図6で詳細に述べられた音叉形状の屈曲水晶振動子10、45の中の振動子が用いられる。
【0035】
次に、本発明の水晶発振器の製造方法について述べる。上記音叉形状の屈曲水晶振動子は半導体の技術を用いたフオトリソグラフィ法と化学的エッチング法によって形成される。まず、研磨加工あるいはポリッシュ加工された水晶ウエハの上下面に金属膜(例えば、クロムそしてその上に金)をスパッタリング法又は蒸着法により形成する。次に、その金属膜の上にレジストが塗布される。そして、フオトリソ工程により、それらレジストと金属膜が音叉形状を残して除去された後、化学的エッチング法により、音叉腕と音叉基部を具えた音叉形状が形成される。この音叉形状を形成するときに、音叉基部に切り欠き部を形成しても良い。更に、音叉形状の面上に前記工程で示した金属膜とレジストが塗布され、フオトリソ工程と化学的エッチング法により、音叉腕又は音叉腕と音叉基部に溝が形成される。
【0036】
次に、溝を有する音叉形状に金属膜とレジストが再び塗布されて、フオトリソ工程により、電極が形成される。即ち、音叉腕の側面の電極と溝の側面の電極は極性が異なるように対抗して配置される。さらに詳述するならば、第1の音叉腕の側面電極と第2の音叉腕の溝の電極は同極に、第1の音叉腕の溝の電極と第2の音叉腕の側面電極は同極に構成され、第1の音叉腕の溝の電極と側面電極は極性が異なるように構成される。即ち。2電極端子が振動子に形成される。その結果、2電極端子に交番電圧を印加する事により、音叉腕は逆相で屈曲振動する。本実施例では、音叉形状の形成の後に溝を音叉腕又は音叉腕と音叉基部に形成しているが、本発明は前記実施例に限定されるものではなくて、まず、溝を形成してから音叉形状を形成してもよい。又は、音叉形状と溝を同時に形成しても良い。更に、この工程での溝の寸法等については前記した寸法と同じであり既に述べられているので、ここでは省略する。
【0037】
この実施例の工程により、水晶ウエハには多数個の音叉形状の屈曲水晶振動子が形成されている。それ故、次の工程では、このウエハの状態で、最初の周波数調整がレーザ又はプラズマエッチング又は蒸着にて行われる。と共に、不良振動子はマーキングされるかウエハから取り除かれる。また、本工程では10kHz〜200kHzの基準周波数に対して、周波数偏差は−9000PPM〜+5000PPMの範囲内にあるように周波数調整がなされる。更に、次の工程では、形成された振動子は表面実装型のケース、あるいは蓋又は円筒型のケースのリード線に接着材あるいは半田等で固定される。その固定後に、第2回目の周波数調整がレーザ又はプラズマエッチング又は蒸着にて行われる。本工程では、周波数偏差は−100PPM〜+100PPMの範囲内にあるように周波数調整がなされる。又、本発明での固定後に周波数調整が行われるということは、固定後すぐに周波数調整しても良いし、あるいは固定後にケースと蓋を接続した後に周波数調整をしても良い。即ち、固定後にいかなる工程を入れても、その後に周波数調整をすれば良く、本発明はこれらを全て包含するものである。又、ケースと蓋を接続した後の周波数調整はガラスを介してレーザで行われる。
【0038】
尚、第3回目の周波数調整がなされるときには、前記2回目の周波数調整による周波数偏差は−950PPM〜+950PPMの範囲内にあるように周波数調整がなされる。又、上記実施例では、前記ウエハの状態で、最初の周波数調整を行い、それと共に、不良振動子はマーキングされるかウエハから取り除かれているが、本発明はこれに限定されるものでなく、本発明は水晶ウエハにできた多数個の音叉形状の屈曲水晶振動子をウエハの状態で検査し、良振動子か不良振動子かを検査する工程を含めば良い。即ち、不良振動子はマーキングされるか、ウエハから取り除かれるか、コンピュタに記憶される。このような工程を含むことにより、不良振動子を早く見つけることができ、次工程に流れないので、歩留まりを上げることができる。その結果、安価な屈曲水晶振動子を得る事ができる。
【0039】
更に、周波数調整後に、前記振動子はケースと蓋となるユニットに真空中で収納され、水晶ユニットが得られる。蓋がガラスで構成されているときには、収納後、第3回目の周波数調整がレーザにて行われる。本工程では、周波数偏差は−50PPM〜+50PPMの範囲内にあるように周波数調整がなされる。本実施例では、周波数調整は3回の別々の工程で行われるが、少なくとも2回の別々の工程で行えば良い。例えば、第3回目の工程の周波数調整はしなくても良い。更に次の工程では、前記した振動子の2電極端子が増幅器とコンデンサーと抵抗素子に電気的に接続される。換言するならば、増幅回路はCMOSインバータと帰還抵抗素子とを具えて構成され、帰還回路は音叉形状の屈曲水晶振動子とドレイン抵抗素子とゲート側のコンデンサーとドレイン側のコンデンサーとを具えて構成されるように電気的に接続される。又、前記第3回目の周波数調整は水晶発振回路を構成後に行っても良い。
【0040】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものではなく、上記第1実施例から第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子では、音叉腕又は音叉腕と音叉基部に溝を設けているが、例えば、音叉腕に貫通穴(t=0)を設けてもよい。即ち、貫通穴は溝の特別の場合で、本発明の溝は前記貫通穴をも包含するものである。又、上記実施例では、音叉腕は2本で構成されているが、本発明は3本以上の音叉腕を包含するものである。この場合、少なくとも2本の音叉腕が逆相で振動するように電極が構成されていれば良い。
【0041】
更に、本実施例では、溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられているが、本発明はこれに限定されるものでなく、中立線を残して、その両側に溝を形成しても良い。この場合、音叉腕の中立線を含めた部分幅Wは0.05mmより小さくなるように構成される。又、各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成され、溝の厚みtと音叉腕の厚みtの比は0.79以下に成るように構成される。このような構成により、MをMより大きくする事ができる。
【0042】
更に、第1実施例〜第4実施例の水晶発振器とそれに用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子について述べてきたが、これらの実施例の水晶発振器に用いられる水晶振動子はケースと蓋とから構成される、いわゆるユニット内に収納され、水晶ユニットを構成する。即ち、ケース又は蓋に設けられた固定部に導電性接着剤又は半田等によって固定部に本実施例の振動子は固定され、さらに、ケースと蓋とは接合部材を介して接合されていて、ケース内は真空になるように構成されている。このように構成することにより、等価直列抵抗Rの小さい、超小型の水晶ユニットを実現することができる。
【0043】
更に、第1実施例〜第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比rは2次高調波モード振動の容量比rより小さくなるように構成されている。このような構成により、同じ負荷容量Cの変化に対して、基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなる。即ち、基本波モード振動の方が2次高調波モード振動より周波数の可変範囲を広くとることができる。さらに詳細には、負荷容量C=18pF付近では、そのC値が1pF変わると、基本波モード振動の周波数変化は2次高調波モード振動の周波数変化より大きくなる。それ故、基本波モード振動では、負荷容量Cの可変量が小さくても、周波数の可変範囲を広くできるという著しい効果を有する。これにより、コンデンサーの可変容量の範囲を小さくできるので、用いるコンデンサーの数を少なくできる。その結果、安価な水晶発振器が得られる。
【0044】
また、音叉形状の屈曲水晶振動子の容量比r、rはそれぞれr=C/C、r=C/Cで与えられる。但し、Cは等価回路の並列容量で、CとCは等価回路の基本波モード振動と2次高調波モード振動の等価容量である。更に、音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動と2次高調波モード振動の品質係数はQ値とQ値で与えられる。そして、前記実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子は、基本波モードで振動する共振周波数の並列容量による依存性が2次高調波モードで振動する共振周波数の並列容量による依存性より小さく成るように構成される。即ち、r/2Q2</2Qを満たすように構成されている。このような構成により、基本波モードで振動する共振周波数の並列容量による影響が無視できるほど極めて小さくなるので、高い周波数安定性を有する基本波モードで振動する屈曲水晶振動が得られる。又、本発明では、r/2Qとr/2QをそれぞれSとSと置き、SとSをそれぞれ基本波モード振動と2次高調波モード振動の周波数安定係数と呼ぶ。即ち、S=r/2QとS=r/2Qで与えられる。
【0045】
更に、本実施例の屈曲水晶振動子の音叉形状と溝は化学的、物理的と機械的方法の内の少なくとも一つの方法を用いて加工される。物理的方法では、例えば、イオン化した原子、分子を飛散させて加工するものである。又、機械的方法では、例えば、ブラスト加工用の粒子を飛散させて加工するものである。前例では、加工に粒子を用いるので、本発明では、これを粒子法による加工と言う。
【0046】
以上述べたように、本発明の水晶発振器とその製造方法を提供する事により多くの効果が得られることを既に述べたが、その中でも特に、次の如き著しい効果が得られる。
(1)音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動のフイガーオブメリットMが高調波モード振動のフイガーオブメリットMより大きい振動子を具えて水晶発振器は構成され、更に、増幅回路の基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|−RL|と基本波モード振動の等価直列抵抗Rとの比が増幅回路の高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|−RL|と高調波モード振動の等価直列抵抗Rとの比より大きくなるように水晶発振器は構成されているので、音叉形状の屈曲水晶振動子を具えて構成された水晶発振器の出力信号が基本波モード振動の周波数で、消費電流の少ない、かつ、高い周波数安定性を有する水晶発振器が得られる。
(2)更に、増幅回路の基本波モード振動の増幅率αと高調波モード振動の増幅率αとの比が帰還回路の高調波モード振動の帰還率βと基本波モード振動の帰還率βとの比より大きく、かつ、基本波モード振動の増幅率αと基本波モード振動の帰還率βの積が1より大きくなるように水晶発振器は構成されているので、負荷容量が小さくても、水晶発振器の出力信号は、基本波モード振動の周波数が出力信号として得られると共に、消費電流の少ない、高い時間精度を有する水晶発振器が実現できる。
(3)音叉形状と溝をフォトリソグラフィ法と化学的エッチング法によって形成でき、量産性に優れ、更に1枚の水晶ウェハ上に多数個の振動子を一度にバッチ処理にて形成できるので、安価な水晶振動子が得られる。と同時に、それを具えた安価な水晶ユニットと水晶発振器が実現できる。
(4)基本波モード振動のフイガーオブメリットMが高調波モード振動のフイガーオブメリットMより大きい振動子を具えて水晶発振器は構成されるので、出力信号が基本波モード振動の周波数が得られると共に、高い周波数安定性を有する水晶発振器が実現できる。即ち、高い時間精度を有する水晶発振器が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の音叉形状の屈曲水晶振動子は小型化しても、等価直列抵抗Rが小さく、かつ、容量比が小さくなる。それ故、その音叉形状の屈曲水晶振動子を搭載した水晶発振器は超小型で、高い周波数安定性を有するので、特に高い信頼性を必要とする情報通信機器等の電子機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の水晶発振器を構成する水晶発振回路図の一実施例である。
【図2】図1の帰還回路図を示す。
【図3】本発明の第1実施例の水晶発振器に用いられる屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子の外観図とその座標系を示す。
【図4】図3の音叉形状の屈曲水晶振動子の音叉基部のD−D′断面図を示す。
【図5】図3の音叉形状の屈曲水晶振動子の上面図を示す。
【図6】本発明の第2実施例の水晶発振器に用いられる屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子の上面図である。
【図7】本発明の第3実施例の水晶発振器に用いられる水晶ユニットの断面図である。
【図8】本発明の第4実施例の水晶発振器の断面図を示す。
【図9】従来の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の斜視図とその座標系を示す。
【図10】図9の音叉形状水晶振動子の音叉腕の断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 増幅回路
9 帰還回路
入力電圧
出力電圧
溝幅
W 音叉腕の腕幅
,W 音叉腕の部分幅
音叉腕の間隔
音叉腕の中立線を含む部分幅
溝の長さ
音叉基部の長さ
l 音叉形状の屈曲水晶振動子の全長
t 音叉腕又は音叉腕と音叉基部の厚み
溝の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音叉基部と前記音叉基部に接続された少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕とを備えて構成され、屈曲モードで振動する音叉型屈曲水晶振動子の製造方法で、
研磨加工あるいはポリッシュ加工された水晶ウエハの上面と下面の各々に金属膜を形成する工程と、
前記金属膜の上にレジストを塗布する工程と、
前記音叉基部と前記第1音叉腕と前記第2音叉腕とを備えた音叉形状を形成する工程と、
前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面に、又は前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面と前記音叉基部に溝を形成する工程と、
前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の上面と下面の少なくとも一面に形成された前記溝の面の上に電極を配置する工程と、
前記第1音叉腕と前記第2音叉腕の各々の第1側面とその第1側面に対抗する第2側面の各々に電極を配置する工程と、
前記音叉型屈曲水晶振動子の第1電極端子を形成するために、前記第1音叉腕の上面と下面の少なくとも一面に形成された前記溝の面の上に配置された前記電極を、前記第2音叉腕の第1側面と第2側面の各々に配置された前記電極に接続する工程と、
前記音叉型屈曲水晶振動子の第2電極端子を形成するために、前記第2音叉腕の上面と下面の少なくとも一面に形成された前記溝の面の上に配置された前記電極を、前記第1音叉腕の第1側面と第2側面の各々に配置された前記電極に接続する工程と、
前記音叉型屈曲水晶振動子の周波数を調整する工程と、を含み、前記音叉型屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比rが、前記音叉型屈曲水晶振動子の2次高調波モード振動の容量比rより小さくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法が決定されていることを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項2】
前記音叉型屈曲水晶振動子の前記基本波モード振動のフイガーオブメリットMが、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットMより大きくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法を決定する工程を備えていることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の水晶振動子の製造方法を備え、前記音叉型屈曲水晶振動子は前記基本波モード振動において品質係数Qと周波数安定係数Sを備え、かつ、SがS=r/2Qによって定義され、前記音叉型屈曲水晶振動子は前記2次高調波モード振動において品質係数Qと周波数安定係数Sを備え、かつ、SがS=r/2Qによって定義され、SがSより小さくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法が決定されていることを特徴とする水晶ユニットの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2の水晶振動子の製造方法と、あるいは請求項3の水晶ユニットの製造方法と、前記音叉型屈曲水晶振動子の前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットMが30より小さくなるように、前記音叉形状と前記溝と前記電極の寸法を決定する工程と、増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを準備する工程と、前記音叉型屈曲水晶振動子の前記第1電極端子と前記第2電極端子を、前記増幅器と前記コンデンサーと前記抵抗素子に電気的に接続する工程とを備えていることを特徴とする水晶発振器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−288306(P2010−288306A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173989(P2010−173989)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【分割の表示】特願2007−168148(P2007−168148)の分割
【原出願日】平成15年1月14日(2003.1.14)
【出願人】(500505197)有限会社ピエデック技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】