洗浄方法
【課題】洗浄時の環境負荷をできるだけ低くし、かつ構造体の破壊のおそれがある片寄った物理的負荷を与えずに、電子部品あるいは微細構造を有する精密加工部品もしくは微細加工用金型等に付着した難洗浄性汚れを除去する。
【解決手段】被洗浄物を水、低級アルコール、または界面活性剤溶液に浸漬し、100MPa〜1000MPaの超高圧の静水圧を当該被洗浄物に付与することによって、難洗浄性汚れを除去する。
【解決手段】被洗浄物を水、低級アルコール、または界面活性剤溶液に浸漬し、100MPa〜1000MPaの超高圧の静水圧を当該被洗浄物に付与することによって、難洗浄性汚れを除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄方法に関し、詳しくは、部品、加工品、構造体または微細加工用金型(例えばナノインプリント用金型)等の被洗浄物に付着した汚染物を、当該被洗浄物に高圧力の静水圧を付与することにより汚染物質を除去する高圧洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、半導体装置等の電子部品あるいは微細構造を有する精密加工部品もしくは微細加工用金型等には、その製造工程または繰り返し使用工程等において、種々の汚染物質が付着する。これらの汚染物質(汚れ)には、部品加工時の微細研磨屑、ほこりなどの浮遊物、油状物質、樹脂もしくは樹脂状物質または微小金属粉等があり、これらの1種または2種以上の汚れが上記部品等に付着する。
【0003】
これらの電子部品や精密加工部品の清浄度に対する要求は非常に高く、以前はフロン系溶剤や塩素系溶剤が使用されていたが、環境保護上の問題から、高性能な準水系洗浄剤または水系洗浄剤が開発されて使用されている。また、汚れが粘着性の高い樹脂系のものや、それが酸化劣化等した、特に洗浄除去が困難な汚れの場合は、いまだに強アルカリ洗浄剤も使用され続けている。さらには、超音波洗浄、液中ジェット洗浄または高圧ジェットスプレー洗浄等の効率の高い洗浄方法が、洗浄剤と組み合わされて採用されている(特許文献1、2)。
【0004】
しかし、付着強度の強い汚れでは上記の洗浄剤および洗浄方法では汚れの除去が不十分であり、また、被洗浄物がミクロンあるいはナノレベルの超微細構造を有するような場合は、高圧ジェットスプレー等の高強度の物理的洗浄は微細構造を破壊するおそれもある。図4に高圧ジェットスプレーによる従来型洗浄の概念図を示すが、超微細構造を有する微小構造体は、本図で模式的に示すように、その構造体部分が高圧ジェットの強い物理力によって破壊され易い。
【0005】
したがって、電子部品および精密部品等の高度な清浄度要求に応えるため、一次洗浄後に、二酸化炭素等を用いた超臨界流体洗浄(特許文献3)、またはプラズマ等によるアッシング(灰化)による残存汚れの除去が必要となる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−144441号公報
【特許文献2】特開平09−010708号公報
【特許文献3】特開2003−031533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記超臨界流体あるいはアッシングによる方法では、装置が大掛かりとなり、それに伴って洗浄費用も高額になるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記のような大掛かりな装置を必要とせず、また構造体の破壊のおそれがある強くかつ片寄った物理的負荷を与えずに、電子部品あるいは微細構造を有する精密加工部品もしくは微細加工用金型等に付着した難洗浄性汚れを除去する、新規な洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、水、エタノール、または界面活性剤を使用した洗浄剤溶液もしくは洗浄剤分散液に被洗浄物を浸漬し、超高圧の静水圧を当該被洗浄物に付与する洗浄方法を開発し、本発明を完成した。なお、以後、洗浄剤溶液および洗浄剤分散液を特に区別せず、洗浄液と称することもある。
【0010】
すなわち、本発明によれば、液体媒体によって被洗浄物に100MPa〜1000MPaの圧力を付与することにより、該被洗浄物に付着している汚染物質を除去する、被洗浄物の洗浄方法が提供される。短時間で難洗浄性汚れを除去できる点で、400MPa以上の圧力を付与することが好ましい。
【0011】
本発明において、圧力を付与する好適な方法は、被洗浄物と洗浄液を、外部の圧力を内部に伝達できる洗浄容器内に入れ、該洗浄容器を介して前記液体媒体によって圧力を被洗浄物に付与する方法である。
【0012】
また、洗浄液は水、C1〜C4の低級アルコール、酸、またはこれらの混合物を含有することが好適である。
【0013】
あるいは、洗浄液は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤の少なくとも一種の界面活性剤を含有する、界面活性剤含有水溶液または界面活性剤含有水分散液であることが好適である。
【0014】
また、本発明の洗浄方法は、汚染物質が水不溶性または水難溶性の高分子物質に適用されることが好適である。
【0015】
被洗浄物の観点においては、本発明の洗浄方法は、最小加工寸法が20μm以下の微細構造を有する構造体である被洗浄物に適用されることが好適である。
【0016】
さらに、本発明の洗浄方法は、ナノインプリント用の微細加工用金型の洗浄に適用されることがより好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の洗浄方法によれば、超臨界流体等の特殊な洗浄剤を使用することなく、また、高圧ジェットスプレー等の、強くかつ片寄った物理的負荷を被洗浄物に与えることなく、強粘着性の樹脂(状)汚れ等の難洗浄性汚れを、容易かつ効率的に被洗浄物から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の洗浄方法に係る静水圧の作用を模式的に示した概念図である。
【図2】高圧洗浄用の内部容器を模式的に表した図である。
【図3】高圧洗浄用装置(加圧処理装置)を模式的に表した図である。
【図4】従来の高圧スプレー洗浄を模式的に表した図である。
【図5】樹脂状のモデル汚れを、微細加工用金型に付着させる方法の概略を表した図である。
【図6】実施例2および比較例2に係る洗浄実験結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の状態を、(b)は比較例2の条件における洗浄後の該金型の状態を、(c)および(d)は実施例2の条件における洗浄後の該金型の状態を示す。
【図7】実施例3および比較例3に係る洗浄実験結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の状態を、(b)は比較例3の条件における洗浄後の該金型の状態を、(c)は実施例3の条件における洗浄後の該金型の状態を示す。
【図8】実施例4における、洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4における、洗浄後の該金型の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例5における、洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例5における、洗浄後の該金型の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。まず、図1〜図3により、本発明の洗浄方法の全体概要および洗浄機能発現の予想メカニズムを説明する。予想メカニズムとする理由は、本発明の極めて優れた洗浄効果については、まだその発現メカニズムが詳細には判明していないからである。
【0020】
図1は本発明の洗浄メカニズムを説明するための、被洗浄物の洗浄時の状況を示す予想概念図であり、矢印は、被洗浄物および汚染物質に対する静水圧の作用を概念的に表したものである。汚染物質2が付着した被洗浄物1を、洗浄液3に浸漬して超高圧の静水圧を付与する。ここで静水圧とは、静止した水の中で働く力であり、「水中のある点における静水圧の強さはすべての方向で等しい」という性質のものである。なお、静水圧という場合、一般的にその圧力媒体は「水」であるため、「水」として説明したが、本発明においては、被洗浄物および汚染物質には、水に限らず、上記の洗浄液あるいはエタノール等を媒体として圧力を付与する。
【0021】
したがって、本発明では、水に限らず、上記の洗浄液あるいはエタノール等を媒体として圧力を付与する場合も静水圧と称することとする。また、以後、被洗浄物を浸漬し、静水圧をかけて汚染物質を被洗浄物から除去する効果を発揮する液体媒体を、エタノール等も含めて洗浄液と総称する。
【0022】
静水圧を付与する一つの方法としては、超高圧の圧力に耐えられるいわゆる加圧容器の中に、汚染物質の付着した被洗浄物および洗浄液を入れ、加圧器等でそのまま加圧する方法がある。また別の方法として、図2に示したような外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を有する内部容器10を使用する方法もある。すなわち、内部容器10を加圧容器内に収め、さらに、洗浄液とは異なる液体圧力媒体を加圧容器に充填して、加圧器等で加圧することにより、間接的に内部容器10内の被洗浄物等を加圧する方法である。洗浄液を節約できる点で、後者の方法が好ましい。
【0023】
ここで、液体圧力媒体とは、前記内部容器内の洗浄液、被洗浄物および汚染物質に間接的に所定の圧力(静水圧)を付与し、及びその圧力を維持するための物質のことをいう。液体としては特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、不凍液、食塩若しくは芒硝等の無機塩水溶液、又は糖類の水溶液、あるいはこれらの混合物等を使用することができるが、簡便さ、費用の点で水が好適である。
【0024】
内部容器10の材質としては、外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を有するものであれば特に制限は無いが、例えば、シリコーン樹脂、天然ゴム、SBR等の合成ゴム、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、及びテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂を使用することができる。なお、テフロン(登録商標)は硬いフッ素樹脂であり、圧力を内部の物質に伝達できないので、テフロン(登録商標)を使用する場合は、全ての部分に使用するのではなく、内部容器10の密封栓のような部分にのみ使用する。
【0025】
内部容器10の形態は、内部に圧力が伝達されるものであればどのような形態でもよく、例えば、球形、円筒形、又は点滴バッグのような袋状であってもよい。
【0026】
超高圧の静水圧を付与するという点においては、内部容器を使用してもしなくても基本的には同じであるので、内部容器を使用する場合を例として説明する。まず、図2に示すように、内部容器10内に汚染物質2の付着した被洗浄物1を収め、洗浄液3を充填してフッ素樹脂等の栓12で密栓する。内部容器10の胴体部11としては、外部の圧力を内部に伝達できる材質のもの、例えばシリコーンチューブを使用する。
【0027】
つづいて、図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21の中に当該内部容器10を入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填する。温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに水を循環させて、所望の処理温度になるよう温度制御しながら、加圧器23により100MPa〜1000MPaの圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で保持する。加圧時間は数10分から10時間程度である。洗浄効果の点で1時間以上が好ましく、洗浄効果に対する費用の点で5時間以下が好ましい。ただし、汚れの種類及び汚れの被洗浄物への付着履歴等によって、加圧時間(洗浄時間)は適した時間を選択するべきであるので、上記の時間はおおよその目安であり、この範囲から外れることも当然考えられる。加圧時の温度は、一般的な洗浄時の温度でよい。すなわち、0℃〜100℃であればよく、洗浄効果の点で室温から温水、具体的には、20℃以上、50℃以下程度の温度が好ましい。
【0028】
このような超高圧の静水圧を付与することにより、飛躍的な洗浄力を発揮する詳細理由は不明であるが、次のようなメカニズムが考えられる。まず第1に、超高圧の静水圧を付与するため、通常洗浄液が浸透しにくい微細加工部分に、洗浄液3が浸透しやすくなって洗浄効率を上げることができると推測できる。第2に、被洗浄物1と汚染物質2とで静水圧による収縮率が異なるため、静水圧が付与されたとき、被洗浄物1と汚染物質2との界面に収縮率の違いによる応力が働き、汚染物質2が当該界面から剥離しやすくなるものと考えられる。さらに、剥離しやすくなった界面への洗浄剤の浸透力が静水圧によって促進され、さらに汚染物質2の剥離が進行するものと考えられる。
【0029】
このような、静水圧による収縮率の違いは次のような理由によるものと考えられる。すなわち、被洗浄物1の材質は、通常、金属、合金または無機化合物であるのに対し、汚染物質2は、ほこりなどの浮遊物、油状物質、樹脂または樹脂状物質等の有機物であることが多く、被洗浄物1より収縮しやすいと考えられる。なお、汚染物質2には微細研磨屑または微小金属粉等の無機物もあるが、これらは油状物質(有機物)等がバインダーのような役割をし、該油状物質を介して被洗浄物1に付着していることが多いため、やはり、上記収縮率の違いが汚染物質2の剥離に影響するものと考えられる。
【0030】
本発明において付与する静水圧の範囲は100MPa〜1000MPaである。100MPa以上とするのは、汚染物質の被洗浄物からの剥離性に有効な、前記収縮率の相違が発生すると考えられるからであり、当該剥離性を高める上で200MPa以上がより好ましい。短時間で難洗浄性汚れを除去できる点で、400MPa以上とすることがさらに好ましい。一方、装置上の限界の点で1000MPa以下が好ましく、経済性の点で800MPa以下がより好ましい。
【0031】
本発明の洗浄液としては、水、エタノール、酸および洗浄剤水溶液等を適宜使用することができる。適宜とは、汚染物質の種類あるいは汚染物質の被洗浄物への付着強さ(汚染物質の除去の難易度)等によって、洗浄液を選択できるということである。洗浄後のすすぎ工程が簡易あるいは不要という点で、洗浄液は水、エタノール等の低級アルコールまたは両者の混合物が好ましく、イオン交換水または純水がより好ましい。低級アルコールとしては、C1〜C4の低級アルコールが洗浄効果の点で好ましく、安全性、臭気等の使い易さの点でエタノールまたはイソプロピルアルコール(IPA)がより好ましい。
【0032】
一方、汚染物質の除去の難易度が高い場合は、酸または界面活性剤溶液を使用することが好ましい。酸は、汚れの種類によっては当該汚れを分解あるいは溶解する効果を有しているからである。しかし、硫酸、塩酸、硝酸あるいは王水等の無機酸系の強酸は、被洗浄物自身を腐食あるいは分解等により損傷させるおそれがあるので、洗浄液としてはあまり望ましくない。したがって、酸を洗浄液として使用する場合は、ギ酸、酢酸、クエン酸およびトルエンスルホン酸等の有機酸が好ましい。また、洗浄液として使用するために、適当な濃度の水溶液として使用することが好ましい。なお、酸としては1価の酸に限らず、2価、3価等多価酸であってもよい。
【0033】
また、界面活性剤の使用が好ましいのは、洗浄液と汚染物質との間の界面張力を低下させて、洗浄液が浸透し易くなり、また、界面活性剤分子が汚染物質と被洗浄物との間に入り込んで汚染物質を剥離し易くさせるからである。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤の少なくとも一種の界面活性剤を使用する。
【0034】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール系、脂肪酸ポリエチレングリコール系、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン系、グリセリン脂肪酸エステル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、ショ糖脂肪酸エステル系、脂肪酸アルカノールアミド系、またはこれらの2種以上を組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0035】
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩(脂肪酸石鹸)、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、またはこれらの2種以上を組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0036】
カチオン界面活性剤としては、例えば、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、塩化トリメチルアルキルアンモニウム、臭化トリメチルアルキルアンモニウム、よう化トリメチルアルキルアンモニウム、塩化ジメチルジアルキルアンモニウム、臭化ジメチルジアルキルアンモニウム、よう化ジメチルジアルキルアンモニウム、またはこれらの2種以上を組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0037】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系、脂肪酸アミドプロピルベタイン系、アルキルアミンオキシド系、またはこれらの2種以上組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0038】
また、上記非イオン(ノニオン)、アニオン、カチオン、および両性の各界面活性剤を、界面活性剤成分が凝結や凝集を起こさないように組成物化して使用することもできる。該組成物化において、凝結や凝集を起こさないようにするため、下記のような界面活性助剤等を配合することもできる。
【0039】
すなわち、当該界面活性剤溶液は、コサーファクタント、ハイドロトロープ剤、キレート剤、その他の界面活性助剤、低級アルコール、およびこれらの2種以上の混合物を含有することもできる。これらを助剤と総称するが、界面活性剤溶液中にこれらの助剤を含有させることによって、界面張力低下能が向上したり、可溶化力が向上したり等の洗浄能力が向上する効果を有する。コサーファクタントとしては、例えばC3〜C8(炭素鎖長)のアルコールを使用することができ、ハイドロトロープ剤としては、p−トルエンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩などのアルキルスルホン酸塩を使用することができる。
【0040】
本発明の洗浄方法は、汚染物質が水不溶性または水難溶性の高分子物質(樹脂系汚れ)である場合に、特にその有効性を発揮する。油状汚れ、脂質系汚れ、あるいはこれらと微粒状無機物質との複合汚れ等には、界面活性剤組成を工夫することにより、優れた洗浄力を発揮することが多い。しかし、上記のような樹脂系汚れ、特に粘接着力の強い化合物(汚染物質)は、高性能界面活性剤組成物といえども当該樹脂系汚れを除去することが困難であるからである。なお、本発明の洗浄方法は当該樹脂系汚れに限らず、上記の油状汚れ等にも高い効果を発揮することは当然のことである。
【0041】
本発明の洗浄方法が効果的に応用できる分野としては、例えば、電子部品や精密加工部品の製造工程等での洗浄、あるいは、ナノインプリント分野での微細加工品またはナノインプリント用金型等、清浄度に対する要求が非常に高い分野である。該分野においては、高度な洗浄性能が要求されるが、微細加工されているがゆえに洗浄が困難で、簡便に汚れを除去することが困難である。この点について、ナノインプリント等で使用される微細加工用金型を例にとって説明すると、次のようになる。
【0042】
半導体装置等の電子部品分野において、これまでのリソグラフィおよびエッチング技術に代わって、ナノインプリント技術による超微細加工部品の製造法開発が期待されている。これは、数10μm以下、場合によっては、1μm以下、すなわちnmオーダーの形状を有する超微細加工部品を、微細加工用金型を使用して製造する技術である。これの基本原理は、基板に樹脂材料(樹脂原料)を塗布し、その上から所望の形状をプリントするための金型を押し付け、熱付与または紫外線照射して、樹脂材料を硬化させて微細形状を有する部品を製造するものである。
【0043】
この「プリント」を繰り返すことにより、微細加工用金型に上記(硬化)樹脂が少しずつ徐々に「難洗浄性汚れ」となって付着堆積する。微細加工用金型に付着堆積した、この「難洗浄性汚れ」の洗浄除去に、本発明の洗浄方法が優れた効果を発揮する。この樹脂系汚れは、経時による酸化劣化等によって、より一層除去が困難な架橋構造を形成している場合も考えられ、通常の界面活性剤組成物のみによる洗浄では、当該汚れの除去が不可能に近い。
【0044】
上記樹脂材料としては、鎖状あるいは環状のオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、または紫外線(UV)硬化型樹脂等が使用されている。また、微細加工用金型の材質としては、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、もしくはタングステン(W)等の金属材料、またはガラスもしくは石英等の無機化合物が使用されている。本発明の洗浄方法は、上記樹脂材料と金型材質のいずれの組み合わせから発生する汚れであっても優れた洗浄効果を発揮する。
【0045】
また、このような微細加工用金型は、いわゆる「微細パターン」等を形成するために、数10μm以下、場合によっては、数100nm、数10nmレベルの多数の微細構造を有しており、より一層洗浄を困難としている。このような非常に困難な洗浄状況において本発明の洗浄方法は非常に優れた効果を発揮する。以下にその具体的な洗浄例を詳細に述べる。
【0046】
<実施例>
1.モデル汚れによる洗浄例
<実施例1〜3、比較例1〜3>
(1)使用金型およびモデル汚れ
実施例1〜3および比較例1〜3では、樹脂状のモデル汚れを微細加工用金型に付着させて洗浄実験を行った。微細加工用金型(以後、単に金型と称する場合もある)としては、材質がシリコン(Si)で、ライン、ホールおよびドットの各パターンを有する金型を使用した。なお、金型の大きさは5mm四方であり、各パターン間隔は約10μmである。また、モデル汚れとしてはオレフィン系樹脂(ナノインプリント用汎用樹脂)、アクリル系樹脂(ナノインプリント用に汎用のポリメチルメタクリレート)、およびUV硬化型樹脂(東洋合成工業株式会社製 PAK−01)の3種類を使用した。また、本洗浄実験では、モデル汚れを付着させる金型表面には剥離剤を塗布していない。
【0047】
(2)モデル汚れの付着方法
モデル汚れを金型に付着させる方法の概略を図5に示す。オレフィン系樹脂およびアクリル系樹脂の場合は、樹脂(汚染物質2に相当)をスピンコートにより基板4上に一定の厚さで塗布する。次に、樹脂を加熱(約170℃)して軟化させた後、微細加工用金型(被洗浄物1に相当)を樹脂に押しつけて、樹脂を金型のパターン部分のほぼ全面に密着させた。その後、約80℃まで冷却して樹脂を硬化させることによりモデル汚れが付着した微細加工用金型を作成した。
UV硬化型樹脂の場合は、樹脂原料をスピンコートにより基板上に一定の厚さで塗布する。次に、当該樹脂原料に微細加工用金型を押し付けた後、紫外線を照射(照射エネルギー:約500mJ)して樹脂を硬化させることによりモデル汚れが付着した微細加工用金型を作成した。
【0048】
(3)洗浄条件および操作
上記のようにして各モデル汚れを付着させた5mm四方の微細加工用金型を、表1に示した洗浄液、圧力、温度および処理時間の各条件で洗浄した。具体的な洗浄操作としては、図2に示す内部容器10の中に、汚れの付着した金型(被洗浄物1+汚染物質2)と洗浄液3を入れ、洗浄液3で満たされた状態(空気が残存していない状態)で密栓した。当該洗浄液3は約3mL使用した。当該内部容器10の胴体部分はシリコーンチューブであり、チューブの両端をフッ素樹脂で栓をした。この内部容器10を図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21内に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填した。つづいて、表1に示した各条件となるよう、温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに温水を循環させて各温度に制御しながら、加圧器23により圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で各時間保持した。
【0049】
なお、比較例1は実施例1と対比するための実験例で、モデル汚れおよび金型パターンが同一で、洗浄条件を変えたものである。特に、圧力が略大気圧(0.1MPa)である点が実施例1と大きく異なる。比較例2および3も同様に実施例2および3と対比される実験例である。
【0050】
(4)洗浄結果
所定の加圧洗浄処理の後、金型を内部容器10から取り出し、純水ですすいで洗浄液を除去した。次に、水分を乾燥させた後、金型を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−5600)により観察して、次の基準で洗浄性を判定した。結果を表1に示す。
◎:樹脂汚れのほとんどが除去されている。
○:樹脂汚れが金型から剥離され、一部が除去されている。
△:樹脂汚れの一部が金型から剥離されているが、ほとんど除去されていない。
×:樹脂汚れのほとんどが金型から剥離されていない。
××:樹脂汚れが全く金型から剥離されていない。
【0051】
【表1】
【0052】
図6および7にモデル汚れの洗浄結果の一例として、洗浄前後の電子顕微鏡写真を示す。図6は、実施例2および比較例2の結果であり、図6(a)は洗浄前の状態、図6(b)は比較例2の条件における洗浄後の状態、図6(c)および(d)は実施例2の条件における洗浄後の状態を示す。なお、(c)と(d)は倍率を変えて観察したものである。本発明の洗浄方法による洗浄後を示す図6(c)および(d)では、ホール内のアクリル系樹脂のモデル汚れのほとんどが除去されていることが判る。
【0053】
図7は、実施例3および比較例3の結果であり、図7(a)は洗浄前の状態、図7(b)は比較例3の条件における洗浄後の状態、図7(c)は実施例3の条件における洗浄後の状態を示す。大気圧(比較例3)の場合は処理(洗浄)時間が48時間と長時間にもかかわらずモデル汚れが全く除去されていない。
それに比べ超高圧洗浄(実施例3)によれば、処理時間が0.5時間と短時間でもドットの周りのUV硬化型樹脂のモデル汚れのほとんどが除去されていることが図7(c)から判る。
【0054】
2.ナノインプリントを実施して付着した汚れの洗浄例
<実施例4、比較例4>
(1)使用金型および樹脂状汚れ
材質がニッケルで、図8に示したような格子状パターンを有する微細加工用金型(被洗浄物1に相当)に、「プリント」を100回以上行うことによって、図8(a)および(b)に示すような樹脂系汚れ(汚染物質2に相当)が付着したものを使用した。図8(a)は250倍、(b)は1500倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。当該金型は略正方形の穴が多数整然と開いており、その正方形の穴は一辺が約2μmの大きさである。また、当該樹脂汚れはオレフィン系樹脂によるものである。
【0055】
(2)洗浄操作
図2に示す内部容器10の中へ、10mm四方の上記汚れの付着した金型と洗浄液としてのエタノールを入れ、エタノールで満たされた状態(空気が残存していない状態)で密栓した。当該洗浄液は約3mL使用した。当該内部容器10の胴体部分はシリコーンチューブであり、チューブの両端をフッ素樹脂で栓をした。この内部容器10を図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21内に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填した。温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに水を循環させて、温度を約45℃に制御しながら、加圧器23により400MPaの圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で3時間保持した(実施例4)。
【0056】
また、比較例4として、圧力を付与せず大気圧下とする以外は、上記と同じ処理を行った。
【0057】
(3)洗浄結果
上記の実施例1〜3等と同様にして、金型を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−5600)により観察して、次の基準で洗浄性を判定した。
◎:樹脂系汚れが完全に除去されている。
○:樹脂系汚れのほとんどが除去されている。
△:樹脂系汚れが一部除去されているが、樹脂系汚れの残存が目立つ。
×:樹脂系汚れがほとんど除去されていない。
××:樹脂系汚れが全く除去されていない。
【0058】
判定結果は次の通りであった。
実施例4;400MPaでの高圧洗浄:○〜◎
比較例4;大気圧下での洗浄 :××
なお、400MPaでの高圧洗浄後の金型の電子顕微鏡写真を図9(a)および(b)に示す。(a)は250倍、(b)は1500倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。
【0059】
<実施例5、比較例5>
(1)使用金型および樹脂状汚れ
材質がニッケルで、図10に示したような格子状パターンを有する微細加工用金型に、「プリント」を100回以上行うことによって、図10(a)および(b)に示すような樹脂系汚れが付着したものを使用した。図10(a)は400倍、(b)は8000倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。当該金型は略正方形の穴が多数整然と開いており、その正方形の穴は一辺が約2μmの大きさである。また、当該樹脂汚れはオレフィン系樹脂によるものである。
【0060】
(2)洗浄操作
図2に示す内部容器10の中へ、10mm四方の上記汚れの付着した金型と洗浄液として、無機アルカリ性洗浄剤(横浜油脂工業株式会社製 セミクリーン L.G.L.)および樹脂用剥離剤(横浜油脂工業株式会社製 セミクリーン DF−7)の混合液を入れ、当該洗浄液で満たされた状態(空気が残存していない状態)で密栓した。当該洗浄液の有効成分濃度は約80%であり、約3mLを使用した。当該内部容器10の胴体部分はシリコーンチューブであり、チューブの両端をフッ素樹脂で栓をした。この内部容器10を図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21内に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填した。温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに水を循環させて、温度を約45℃に制御しながら、加圧器23により400MPaの圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で3時間保持した(実施例5)。
【0061】
また、比較例5として、圧力を付与せず大気圧下とする以外は、上記と同じ処理を行った。
【0062】
(3)洗浄結果
上記実施例4等と同様にして、金型を電子顕微鏡により観察して、次の基準で洗浄性を判定した。
◎:樹脂系汚れが完全に除去されている。
○:樹脂系汚れのほとんどが除去されている。
△:樹脂系汚れが一部除去されているが、樹脂系汚れの残存が目立つ。
×:樹脂系汚れがほとんど除去されていない。
××:樹脂系汚れが全く除去されていない。
【0063】
判定結果は次の通りであった。
実施例5;400MPaでの高圧洗浄:○〜◎
比較例5;大気圧下での洗浄 :×
なお、400MPaでの高圧洗浄後の金型の電子顕微鏡写真を図11(a)および(b)に示す。(a)は400倍、(b)は8000倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明の洗浄方法によれば、界面活性剤および界面活性助剤等の界面活性剤組成物の使用量を非常に少なくして、場合によっては全く使用することなく汚染物質を洗浄除去することができる。従って、半導体装置等の電子部品の洗浄等、界面活性剤成分等の残存を極度に嫌い、高度なすすぎ工程が必要な分野において、極めて有効な洗浄方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 被洗浄物
2 汚染物質(例;樹脂系汚れ)
3 洗浄液
4 基板
10 内部容器
11 内部容器の胴体部
12 内部容器の栓
20 高圧洗浄用装置
21 加圧容器
22 循環水供給装置
23 加圧器
24 圧力表示器
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄方法に関し、詳しくは、部品、加工品、構造体または微細加工用金型(例えばナノインプリント用金型)等の被洗浄物に付着した汚染物を、当該被洗浄物に高圧力の静水圧を付与することにより汚染物質を除去する高圧洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、半導体装置等の電子部品あるいは微細構造を有する精密加工部品もしくは微細加工用金型等には、その製造工程または繰り返し使用工程等において、種々の汚染物質が付着する。これらの汚染物質(汚れ)には、部品加工時の微細研磨屑、ほこりなどの浮遊物、油状物質、樹脂もしくは樹脂状物質または微小金属粉等があり、これらの1種または2種以上の汚れが上記部品等に付着する。
【0003】
これらの電子部品や精密加工部品の清浄度に対する要求は非常に高く、以前はフロン系溶剤や塩素系溶剤が使用されていたが、環境保護上の問題から、高性能な準水系洗浄剤または水系洗浄剤が開発されて使用されている。また、汚れが粘着性の高い樹脂系のものや、それが酸化劣化等した、特に洗浄除去が困難な汚れの場合は、いまだに強アルカリ洗浄剤も使用され続けている。さらには、超音波洗浄、液中ジェット洗浄または高圧ジェットスプレー洗浄等の効率の高い洗浄方法が、洗浄剤と組み合わされて採用されている(特許文献1、2)。
【0004】
しかし、付着強度の強い汚れでは上記の洗浄剤および洗浄方法では汚れの除去が不十分であり、また、被洗浄物がミクロンあるいはナノレベルの超微細構造を有するような場合は、高圧ジェットスプレー等の高強度の物理的洗浄は微細構造を破壊するおそれもある。図4に高圧ジェットスプレーによる従来型洗浄の概念図を示すが、超微細構造を有する微小構造体は、本図で模式的に示すように、その構造体部分が高圧ジェットの強い物理力によって破壊され易い。
【0005】
したがって、電子部品および精密部品等の高度な清浄度要求に応えるため、一次洗浄後に、二酸化炭素等を用いた超臨界流体洗浄(特許文献3)、またはプラズマ等によるアッシング(灰化)による残存汚れの除去が必要となる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−144441号公報
【特許文献2】特開平09−010708号公報
【特許文献3】特開2003−031533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記超臨界流体あるいはアッシングによる方法では、装置が大掛かりとなり、それに伴って洗浄費用も高額になるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記のような大掛かりな装置を必要とせず、また構造体の破壊のおそれがある強くかつ片寄った物理的負荷を与えずに、電子部品あるいは微細構造を有する精密加工部品もしくは微細加工用金型等に付着した難洗浄性汚れを除去する、新規な洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、水、エタノール、または界面活性剤を使用した洗浄剤溶液もしくは洗浄剤分散液に被洗浄物を浸漬し、超高圧の静水圧を当該被洗浄物に付与する洗浄方法を開発し、本発明を完成した。なお、以後、洗浄剤溶液および洗浄剤分散液を特に区別せず、洗浄液と称することもある。
【0010】
すなわち、本発明によれば、液体媒体によって被洗浄物に100MPa〜1000MPaの圧力を付与することにより、該被洗浄物に付着している汚染物質を除去する、被洗浄物の洗浄方法が提供される。短時間で難洗浄性汚れを除去できる点で、400MPa以上の圧力を付与することが好ましい。
【0011】
本発明において、圧力を付与する好適な方法は、被洗浄物と洗浄液を、外部の圧力を内部に伝達できる洗浄容器内に入れ、該洗浄容器を介して前記液体媒体によって圧力を被洗浄物に付与する方法である。
【0012】
また、洗浄液は水、C1〜C4の低級アルコール、酸、またはこれらの混合物を含有することが好適である。
【0013】
あるいは、洗浄液は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤の少なくとも一種の界面活性剤を含有する、界面活性剤含有水溶液または界面活性剤含有水分散液であることが好適である。
【0014】
また、本発明の洗浄方法は、汚染物質が水不溶性または水難溶性の高分子物質に適用されることが好適である。
【0015】
被洗浄物の観点においては、本発明の洗浄方法は、最小加工寸法が20μm以下の微細構造を有する構造体である被洗浄物に適用されることが好適である。
【0016】
さらに、本発明の洗浄方法は、ナノインプリント用の微細加工用金型の洗浄に適用されることがより好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の洗浄方法によれば、超臨界流体等の特殊な洗浄剤を使用することなく、また、高圧ジェットスプレー等の、強くかつ片寄った物理的負荷を被洗浄物に与えることなく、強粘着性の樹脂(状)汚れ等の難洗浄性汚れを、容易かつ効率的に被洗浄物から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の洗浄方法に係る静水圧の作用を模式的に示した概念図である。
【図2】高圧洗浄用の内部容器を模式的に表した図である。
【図3】高圧洗浄用装置(加圧処理装置)を模式的に表した図である。
【図4】従来の高圧スプレー洗浄を模式的に表した図である。
【図5】樹脂状のモデル汚れを、微細加工用金型に付着させる方法の概略を表した図である。
【図6】実施例2および比較例2に係る洗浄実験結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の状態を、(b)は比較例2の条件における洗浄後の該金型の状態を、(c)および(d)は実施例2の条件における洗浄後の該金型の状態を示す。
【図7】実施例3および比較例3に係る洗浄実験結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(a)は洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の状態を、(b)は比較例3の条件における洗浄後の該金型の状態を、(c)は実施例3の条件における洗浄後の該金型の状態を示す。
【図8】実施例4における、洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4における、洗浄後の該金型の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例5における、洗浄前の被洗浄物(微細加工用金型)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例5における、洗浄後の該金型の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。まず、図1〜図3により、本発明の洗浄方法の全体概要および洗浄機能発現の予想メカニズムを説明する。予想メカニズムとする理由は、本発明の極めて優れた洗浄効果については、まだその発現メカニズムが詳細には判明していないからである。
【0020】
図1は本発明の洗浄メカニズムを説明するための、被洗浄物の洗浄時の状況を示す予想概念図であり、矢印は、被洗浄物および汚染物質に対する静水圧の作用を概念的に表したものである。汚染物質2が付着した被洗浄物1を、洗浄液3に浸漬して超高圧の静水圧を付与する。ここで静水圧とは、静止した水の中で働く力であり、「水中のある点における静水圧の強さはすべての方向で等しい」という性質のものである。なお、静水圧という場合、一般的にその圧力媒体は「水」であるため、「水」として説明したが、本発明においては、被洗浄物および汚染物質には、水に限らず、上記の洗浄液あるいはエタノール等を媒体として圧力を付与する。
【0021】
したがって、本発明では、水に限らず、上記の洗浄液あるいはエタノール等を媒体として圧力を付与する場合も静水圧と称することとする。また、以後、被洗浄物を浸漬し、静水圧をかけて汚染物質を被洗浄物から除去する効果を発揮する液体媒体を、エタノール等も含めて洗浄液と総称する。
【0022】
静水圧を付与する一つの方法としては、超高圧の圧力に耐えられるいわゆる加圧容器の中に、汚染物質の付着した被洗浄物および洗浄液を入れ、加圧器等でそのまま加圧する方法がある。また別の方法として、図2に示したような外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を有する内部容器10を使用する方法もある。すなわち、内部容器10を加圧容器内に収め、さらに、洗浄液とは異なる液体圧力媒体を加圧容器に充填して、加圧器等で加圧することにより、間接的に内部容器10内の被洗浄物等を加圧する方法である。洗浄液を節約できる点で、後者の方法が好ましい。
【0023】
ここで、液体圧力媒体とは、前記内部容器内の洗浄液、被洗浄物および汚染物質に間接的に所定の圧力(静水圧)を付与し、及びその圧力を維持するための物質のことをいう。液体としては特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、不凍液、食塩若しくは芒硝等の無機塩水溶液、又は糖類の水溶液、あるいはこれらの混合物等を使用することができるが、簡便さ、費用の点で水が好適である。
【0024】
内部容器10の材質としては、外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質を有するものであれば特に制限は無いが、例えば、シリコーン樹脂、天然ゴム、SBR等の合成ゴム、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、及びテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂を使用することができる。なお、テフロン(登録商標)は硬いフッ素樹脂であり、圧力を内部の物質に伝達できないので、テフロン(登録商標)を使用する場合は、全ての部分に使用するのではなく、内部容器10の密封栓のような部分にのみ使用する。
【0025】
内部容器10の形態は、内部に圧力が伝達されるものであればどのような形態でもよく、例えば、球形、円筒形、又は点滴バッグのような袋状であってもよい。
【0026】
超高圧の静水圧を付与するという点においては、内部容器を使用してもしなくても基本的には同じであるので、内部容器を使用する場合を例として説明する。まず、図2に示すように、内部容器10内に汚染物質2の付着した被洗浄物1を収め、洗浄液3を充填してフッ素樹脂等の栓12で密栓する。内部容器10の胴体部11としては、外部の圧力を内部に伝達できる材質のもの、例えばシリコーンチューブを使用する。
【0027】
つづいて、図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21の中に当該内部容器10を入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填する。温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに水を循環させて、所望の処理温度になるよう温度制御しながら、加圧器23により100MPa〜1000MPaの圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で保持する。加圧時間は数10分から10時間程度である。洗浄効果の点で1時間以上が好ましく、洗浄効果に対する費用の点で5時間以下が好ましい。ただし、汚れの種類及び汚れの被洗浄物への付着履歴等によって、加圧時間(洗浄時間)は適した時間を選択するべきであるので、上記の時間はおおよその目安であり、この範囲から外れることも当然考えられる。加圧時の温度は、一般的な洗浄時の温度でよい。すなわち、0℃〜100℃であればよく、洗浄効果の点で室温から温水、具体的には、20℃以上、50℃以下程度の温度が好ましい。
【0028】
このような超高圧の静水圧を付与することにより、飛躍的な洗浄力を発揮する詳細理由は不明であるが、次のようなメカニズムが考えられる。まず第1に、超高圧の静水圧を付与するため、通常洗浄液が浸透しにくい微細加工部分に、洗浄液3が浸透しやすくなって洗浄効率を上げることができると推測できる。第2に、被洗浄物1と汚染物質2とで静水圧による収縮率が異なるため、静水圧が付与されたとき、被洗浄物1と汚染物質2との界面に収縮率の違いによる応力が働き、汚染物質2が当該界面から剥離しやすくなるものと考えられる。さらに、剥離しやすくなった界面への洗浄剤の浸透力が静水圧によって促進され、さらに汚染物質2の剥離が進行するものと考えられる。
【0029】
このような、静水圧による収縮率の違いは次のような理由によるものと考えられる。すなわち、被洗浄物1の材質は、通常、金属、合金または無機化合物であるのに対し、汚染物質2は、ほこりなどの浮遊物、油状物質、樹脂または樹脂状物質等の有機物であることが多く、被洗浄物1より収縮しやすいと考えられる。なお、汚染物質2には微細研磨屑または微小金属粉等の無機物もあるが、これらは油状物質(有機物)等がバインダーのような役割をし、該油状物質を介して被洗浄物1に付着していることが多いため、やはり、上記収縮率の違いが汚染物質2の剥離に影響するものと考えられる。
【0030】
本発明において付与する静水圧の範囲は100MPa〜1000MPaである。100MPa以上とするのは、汚染物質の被洗浄物からの剥離性に有効な、前記収縮率の相違が発生すると考えられるからであり、当該剥離性を高める上で200MPa以上がより好ましい。短時間で難洗浄性汚れを除去できる点で、400MPa以上とすることがさらに好ましい。一方、装置上の限界の点で1000MPa以下が好ましく、経済性の点で800MPa以下がより好ましい。
【0031】
本発明の洗浄液としては、水、エタノール、酸および洗浄剤水溶液等を適宜使用することができる。適宜とは、汚染物質の種類あるいは汚染物質の被洗浄物への付着強さ(汚染物質の除去の難易度)等によって、洗浄液を選択できるということである。洗浄後のすすぎ工程が簡易あるいは不要という点で、洗浄液は水、エタノール等の低級アルコールまたは両者の混合物が好ましく、イオン交換水または純水がより好ましい。低級アルコールとしては、C1〜C4の低級アルコールが洗浄効果の点で好ましく、安全性、臭気等の使い易さの点でエタノールまたはイソプロピルアルコール(IPA)がより好ましい。
【0032】
一方、汚染物質の除去の難易度が高い場合は、酸または界面活性剤溶液を使用することが好ましい。酸は、汚れの種類によっては当該汚れを分解あるいは溶解する効果を有しているからである。しかし、硫酸、塩酸、硝酸あるいは王水等の無機酸系の強酸は、被洗浄物自身を腐食あるいは分解等により損傷させるおそれがあるので、洗浄液としてはあまり望ましくない。したがって、酸を洗浄液として使用する場合は、ギ酸、酢酸、クエン酸およびトルエンスルホン酸等の有機酸が好ましい。また、洗浄液として使用するために、適当な濃度の水溶液として使用することが好ましい。なお、酸としては1価の酸に限らず、2価、3価等多価酸であってもよい。
【0033】
また、界面活性剤の使用が好ましいのは、洗浄液と汚染物質との間の界面張力を低下させて、洗浄液が浸透し易くなり、また、界面活性剤分子が汚染物質と被洗浄物との間に入り込んで汚染物質を剥離し易くさせるからである。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤の少なくとも一種の界面活性剤を使用する。
【0034】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール系、脂肪酸ポリエチレングリコール系、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン系、グリセリン脂肪酸エステル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、ショ糖脂肪酸エステル系、脂肪酸アルカノールアミド系、またはこれらの2種以上を組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0035】
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩(脂肪酸石鹸)、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、またはこれらの2種以上を組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0036】
カチオン界面活性剤としては、例えば、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、塩化トリメチルアルキルアンモニウム、臭化トリメチルアルキルアンモニウム、よう化トリメチルアルキルアンモニウム、塩化ジメチルジアルキルアンモニウム、臭化ジメチルジアルキルアンモニウム、よう化ジメチルジアルキルアンモニウム、またはこれらの2種以上を組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0037】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系、脂肪酸アミドプロピルベタイン系、アルキルアミンオキシド系、またはこれらの2種以上組み合わせた混合物系等を使用することができる。
【0038】
また、上記非イオン(ノニオン)、アニオン、カチオン、および両性の各界面活性剤を、界面活性剤成分が凝結や凝集を起こさないように組成物化して使用することもできる。該組成物化において、凝結や凝集を起こさないようにするため、下記のような界面活性助剤等を配合することもできる。
【0039】
すなわち、当該界面活性剤溶液は、コサーファクタント、ハイドロトロープ剤、キレート剤、その他の界面活性助剤、低級アルコール、およびこれらの2種以上の混合物を含有することもできる。これらを助剤と総称するが、界面活性剤溶液中にこれらの助剤を含有させることによって、界面張力低下能が向上したり、可溶化力が向上したり等の洗浄能力が向上する効果を有する。コサーファクタントとしては、例えばC3〜C8(炭素鎖長)のアルコールを使用することができ、ハイドロトロープ剤としては、p−トルエンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩などのアルキルスルホン酸塩を使用することができる。
【0040】
本発明の洗浄方法は、汚染物質が水不溶性または水難溶性の高分子物質(樹脂系汚れ)である場合に、特にその有効性を発揮する。油状汚れ、脂質系汚れ、あるいはこれらと微粒状無機物質との複合汚れ等には、界面活性剤組成を工夫することにより、優れた洗浄力を発揮することが多い。しかし、上記のような樹脂系汚れ、特に粘接着力の強い化合物(汚染物質)は、高性能界面活性剤組成物といえども当該樹脂系汚れを除去することが困難であるからである。なお、本発明の洗浄方法は当該樹脂系汚れに限らず、上記の油状汚れ等にも高い効果を発揮することは当然のことである。
【0041】
本発明の洗浄方法が効果的に応用できる分野としては、例えば、電子部品や精密加工部品の製造工程等での洗浄、あるいは、ナノインプリント分野での微細加工品またはナノインプリント用金型等、清浄度に対する要求が非常に高い分野である。該分野においては、高度な洗浄性能が要求されるが、微細加工されているがゆえに洗浄が困難で、簡便に汚れを除去することが困難である。この点について、ナノインプリント等で使用される微細加工用金型を例にとって説明すると、次のようになる。
【0042】
半導体装置等の電子部品分野において、これまでのリソグラフィおよびエッチング技術に代わって、ナノインプリント技術による超微細加工部品の製造法開発が期待されている。これは、数10μm以下、場合によっては、1μm以下、すなわちnmオーダーの形状を有する超微細加工部品を、微細加工用金型を使用して製造する技術である。これの基本原理は、基板に樹脂材料(樹脂原料)を塗布し、その上から所望の形状をプリントするための金型を押し付け、熱付与または紫外線照射して、樹脂材料を硬化させて微細形状を有する部品を製造するものである。
【0043】
この「プリント」を繰り返すことにより、微細加工用金型に上記(硬化)樹脂が少しずつ徐々に「難洗浄性汚れ」となって付着堆積する。微細加工用金型に付着堆積した、この「難洗浄性汚れ」の洗浄除去に、本発明の洗浄方法が優れた効果を発揮する。この樹脂系汚れは、経時による酸化劣化等によって、より一層除去が困難な架橋構造を形成している場合も考えられ、通常の界面活性剤組成物のみによる洗浄では、当該汚れの除去が不可能に近い。
【0044】
上記樹脂材料としては、鎖状あるいは環状のオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、または紫外線(UV)硬化型樹脂等が使用されている。また、微細加工用金型の材質としては、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、もしくはタングステン(W)等の金属材料、またはガラスもしくは石英等の無機化合物が使用されている。本発明の洗浄方法は、上記樹脂材料と金型材質のいずれの組み合わせから発生する汚れであっても優れた洗浄効果を発揮する。
【0045】
また、このような微細加工用金型は、いわゆる「微細パターン」等を形成するために、数10μm以下、場合によっては、数100nm、数10nmレベルの多数の微細構造を有しており、より一層洗浄を困難としている。このような非常に困難な洗浄状況において本発明の洗浄方法は非常に優れた効果を発揮する。以下にその具体的な洗浄例を詳細に述べる。
【0046】
<実施例>
1.モデル汚れによる洗浄例
<実施例1〜3、比較例1〜3>
(1)使用金型およびモデル汚れ
実施例1〜3および比較例1〜3では、樹脂状のモデル汚れを微細加工用金型に付着させて洗浄実験を行った。微細加工用金型(以後、単に金型と称する場合もある)としては、材質がシリコン(Si)で、ライン、ホールおよびドットの各パターンを有する金型を使用した。なお、金型の大きさは5mm四方であり、各パターン間隔は約10μmである。また、モデル汚れとしてはオレフィン系樹脂(ナノインプリント用汎用樹脂)、アクリル系樹脂(ナノインプリント用に汎用のポリメチルメタクリレート)、およびUV硬化型樹脂(東洋合成工業株式会社製 PAK−01)の3種類を使用した。また、本洗浄実験では、モデル汚れを付着させる金型表面には剥離剤を塗布していない。
【0047】
(2)モデル汚れの付着方法
モデル汚れを金型に付着させる方法の概略を図5に示す。オレフィン系樹脂およびアクリル系樹脂の場合は、樹脂(汚染物質2に相当)をスピンコートにより基板4上に一定の厚さで塗布する。次に、樹脂を加熱(約170℃)して軟化させた後、微細加工用金型(被洗浄物1に相当)を樹脂に押しつけて、樹脂を金型のパターン部分のほぼ全面に密着させた。その後、約80℃まで冷却して樹脂を硬化させることによりモデル汚れが付着した微細加工用金型を作成した。
UV硬化型樹脂の場合は、樹脂原料をスピンコートにより基板上に一定の厚さで塗布する。次に、当該樹脂原料に微細加工用金型を押し付けた後、紫外線を照射(照射エネルギー:約500mJ)して樹脂を硬化させることによりモデル汚れが付着した微細加工用金型を作成した。
【0048】
(3)洗浄条件および操作
上記のようにして各モデル汚れを付着させた5mm四方の微細加工用金型を、表1に示した洗浄液、圧力、温度および処理時間の各条件で洗浄した。具体的な洗浄操作としては、図2に示す内部容器10の中に、汚れの付着した金型(被洗浄物1+汚染物質2)と洗浄液3を入れ、洗浄液3で満たされた状態(空気が残存していない状態)で密栓した。当該洗浄液3は約3mL使用した。当該内部容器10の胴体部分はシリコーンチューブであり、チューブの両端をフッ素樹脂で栓をした。この内部容器10を図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21内に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填した。つづいて、表1に示した各条件となるよう、温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに温水を循環させて各温度に制御しながら、加圧器23により圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で各時間保持した。
【0049】
なお、比較例1は実施例1と対比するための実験例で、モデル汚れおよび金型パターンが同一で、洗浄条件を変えたものである。特に、圧力が略大気圧(0.1MPa)である点が実施例1と大きく異なる。比較例2および3も同様に実施例2および3と対比される実験例である。
【0050】
(4)洗浄結果
所定の加圧洗浄処理の後、金型を内部容器10から取り出し、純水ですすいで洗浄液を除去した。次に、水分を乾燥させた後、金型を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−5600)により観察して、次の基準で洗浄性を判定した。結果を表1に示す。
◎:樹脂汚れのほとんどが除去されている。
○:樹脂汚れが金型から剥離され、一部が除去されている。
△:樹脂汚れの一部が金型から剥離されているが、ほとんど除去されていない。
×:樹脂汚れのほとんどが金型から剥離されていない。
××:樹脂汚れが全く金型から剥離されていない。
【0051】
【表1】
【0052】
図6および7にモデル汚れの洗浄結果の一例として、洗浄前後の電子顕微鏡写真を示す。図6は、実施例2および比較例2の結果であり、図6(a)は洗浄前の状態、図6(b)は比較例2の条件における洗浄後の状態、図6(c)および(d)は実施例2の条件における洗浄後の状態を示す。なお、(c)と(d)は倍率を変えて観察したものである。本発明の洗浄方法による洗浄後を示す図6(c)および(d)では、ホール内のアクリル系樹脂のモデル汚れのほとんどが除去されていることが判る。
【0053】
図7は、実施例3および比較例3の結果であり、図7(a)は洗浄前の状態、図7(b)は比較例3の条件における洗浄後の状態、図7(c)は実施例3の条件における洗浄後の状態を示す。大気圧(比較例3)の場合は処理(洗浄)時間が48時間と長時間にもかかわらずモデル汚れが全く除去されていない。
それに比べ超高圧洗浄(実施例3)によれば、処理時間が0.5時間と短時間でもドットの周りのUV硬化型樹脂のモデル汚れのほとんどが除去されていることが図7(c)から判る。
【0054】
2.ナノインプリントを実施して付着した汚れの洗浄例
<実施例4、比較例4>
(1)使用金型および樹脂状汚れ
材質がニッケルで、図8に示したような格子状パターンを有する微細加工用金型(被洗浄物1に相当)に、「プリント」を100回以上行うことによって、図8(a)および(b)に示すような樹脂系汚れ(汚染物質2に相当)が付着したものを使用した。図8(a)は250倍、(b)は1500倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。当該金型は略正方形の穴が多数整然と開いており、その正方形の穴は一辺が約2μmの大きさである。また、当該樹脂汚れはオレフィン系樹脂によるものである。
【0055】
(2)洗浄操作
図2に示す内部容器10の中へ、10mm四方の上記汚れの付着した金型と洗浄液としてのエタノールを入れ、エタノールで満たされた状態(空気が残存していない状態)で密栓した。当該洗浄液は約3mL使用した。当該内部容器10の胴体部分はシリコーンチューブであり、チューブの両端をフッ素樹脂で栓をした。この内部容器10を図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21内に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填した。温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに水を循環させて、温度を約45℃に制御しながら、加圧器23により400MPaの圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で3時間保持した(実施例4)。
【0056】
また、比較例4として、圧力を付与せず大気圧下とする以外は、上記と同じ処理を行った。
【0057】
(3)洗浄結果
上記の実施例1〜3等と同様にして、金型を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−5600)により観察して、次の基準で洗浄性を判定した。
◎:樹脂系汚れが完全に除去されている。
○:樹脂系汚れのほとんどが除去されている。
△:樹脂系汚れが一部除去されているが、樹脂系汚れの残存が目立つ。
×:樹脂系汚れがほとんど除去されていない。
××:樹脂系汚れが全く除去されていない。
【0058】
判定結果は次の通りであった。
実施例4;400MPaでの高圧洗浄:○〜◎
比較例4;大気圧下での洗浄 :××
なお、400MPaでの高圧洗浄後の金型の電子顕微鏡写真を図9(a)および(b)に示す。(a)は250倍、(b)は1500倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。
【0059】
<実施例5、比較例5>
(1)使用金型および樹脂状汚れ
材質がニッケルで、図10に示したような格子状パターンを有する微細加工用金型に、「プリント」を100回以上行うことによって、図10(a)および(b)に示すような樹脂系汚れが付着したものを使用した。図10(a)は400倍、(b)は8000倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。当該金型は略正方形の穴が多数整然と開いており、その正方形の穴は一辺が約2μmの大きさである。また、当該樹脂汚れはオレフィン系樹脂によるものである。
【0060】
(2)洗浄操作
図2に示す内部容器10の中へ、10mm四方の上記汚れの付着した金型と洗浄液として、無機アルカリ性洗浄剤(横浜油脂工業株式会社製 セミクリーン L.G.L.)および樹脂用剥離剤(横浜油脂工業株式会社製 セミクリーン DF−7)の混合液を入れ、当該洗浄液で満たされた状態(空気が残存していない状態)で密栓した。当該洗浄液の有効成分濃度は約80%であり、約3mLを使用した。当該内部容器10の胴体部分はシリコーンチューブであり、チューブの両端をフッ素樹脂で栓をした。この内部容器10を図3に示す高圧洗浄用装置20の加圧容器21内に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器21内に充填した。温度制御用の循環水供給装置22から加圧容器21のジャケットに水を循環させて、温度を約45℃に制御しながら、加圧器23により400MPaの圧力を付与し、加圧容器21内を当該圧力で3時間保持した(実施例5)。
【0061】
また、比較例5として、圧力を付与せず大気圧下とする以外は、上記と同じ処理を行った。
【0062】
(3)洗浄結果
上記実施例4等と同様にして、金型を電子顕微鏡により観察して、次の基準で洗浄性を判定した。
◎:樹脂系汚れが完全に除去されている。
○:樹脂系汚れのほとんどが除去されている。
△:樹脂系汚れが一部除去されているが、樹脂系汚れの残存が目立つ。
×:樹脂系汚れがほとんど除去されていない。
××:樹脂系汚れが全く除去されていない。
【0063】
判定結果は次の通りであった。
実施例5;400MPaでの高圧洗浄:○〜◎
比較例5;大気圧下での洗浄 :×
なお、400MPaでの高圧洗浄後の金型の電子顕微鏡写真を図11(a)および(b)に示す。(a)は400倍、(b)は8000倍の倍率で拡大した電子顕微鏡写真である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明の洗浄方法によれば、界面活性剤および界面活性助剤等の界面活性剤組成物の使用量を非常に少なくして、場合によっては全く使用することなく汚染物質を洗浄除去することができる。従って、半導体装置等の電子部品の洗浄等、界面活性剤成分等の残存を極度に嫌い、高度なすすぎ工程が必要な分野において、極めて有効な洗浄方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 被洗浄物
2 汚染物質(例;樹脂系汚れ)
3 洗浄液
4 基板
10 内部容器
11 内部容器の胴体部
12 内部容器の栓
20 高圧洗浄用装置
21 加圧容器
22 循環水供給装置
23 加圧器
24 圧力表示器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体媒体によって被洗浄物に100MPa〜1000MPaの圧力を付与することにより、該被洗浄物に付着している汚染物質を除去する、
被洗浄物の洗浄方法。
【請求項2】
前記被洗浄物と洗浄液を、外部の圧力を内部に伝達できる洗浄容器内に入れ、該洗浄容器を介して前記液体媒体によって圧力を前記被洗浄物に付与する、
請求項1に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液は水、C1〜C4の低級アルコール、酸、またはこれらの混合物を含有する、
請求項2に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤の少なくとも一種の界面活性剤を含有する、界面活性剤含有水溶液または界面活性剤含有水分散液である、
請求項2または3に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項5】
前記汚染物質が水不溶性または水難溶性の高分子物質である、
請求項1〜4いずれか一項に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項6】
前記被洗浄物は、最小加工寸法が20μm以下の微細構造を有する構造体である、
請求項1〜5いずれか一項に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項7】
前記被洗浄物がナノインプリント用金型である、
請求項6に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項1】
液体媒体によって被洗浄物に100MPa〜1000MPaの圧力を付与することにより、該被洗浄物に付着している汚染物質を除去する、
被洗浄物の洗浄方法。
【請求項2】
前記被洗浄物と洗浄液を、外部の圧力を内部に伝達できる洗浄容器内に入れ、該洗浄容器を介して前記液体媒体によって圧力を前記被洗浄物に付与する、
請求項1に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液は水、C1〜C4の低級アルコール、酸、またはこれらの混合物を含有する、
請求項2に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または両性界面活性剤の少なくとも一種の界面活性剤を含有する、界面活性剤含有水溶液または界面活性剤含有水分散液である、
請求項2または3に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項5】
前記汚染物質が水不溶性または水難溶性の高分子物質である、
請求項1〜4いずれか一項に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項6】
前記被洗浄物は、最小加工寸法が20μm以下の微細構造を有する構造体である、
請求項1〜5いずれか一項に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【請求項7】
前記被洗浄物がナノインプリント用金型である、
請求項6に記載の被洗浄物の洗浄方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−159740(P2011−159740A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19302(P2010−19302)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(598123138)学校法人 創価大学 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(598123138)学校法人 創価大学 (49)
【Fターム(参考)】
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