説明

洗浄装置および洗浄方法

【課題】 本発明は、超音波による洗浄装置および洗浄方法に関するものである。
【解決手段】 本発明の洗浄装置は、超音波を発生する超音波振動子と、超音波振動子に固定されて超音波を洗浄液に照射する超音波照射面が扁平な振動体とを具備する振動体ユニットと、振動体ユニットを回転して超音波照射面に交わる方向を軸として超音波照射面の角度を変える照射面角度制御部と、洗浄対象の基板を保持し基板を回転させる基板回転部と、振動体の超音波照射面を洗浄面に向けて一定間隔を保持しながら振動体ユニットを移動させる振動体移動機構と、超音波照射面と洗浄面との間に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、を備えるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波による洗浄装置および洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造工程においては、各工程で半導体ウエハ(以降、単にウエハと言う)の洗浄が行われている。このウエハの洗浄は、従来では複数枚のウエハを同時に大型の浸漬槽に浸けるディップ式洗浄が行なわれてきたが、ウエハサイズの大口径化に伴って近年では枚葉式の超音波を用いたスピン洗浄(以降、単にスピン洗浄と言う)が主流になりつつある。スピン洗浄が用いられる理由は、大口径のウエハ面内を均一に洗浄できること、洗浄により除去した汚染物質の再付着が少ないこと、洗浄液やリンス用純水の使用量を抑制できること等がディップ式洗浄に較べて有利であることによる。
【0003】
スピン洗浄の方法は、洗浄チャンバ内でウエハを回転させながらウエハ表面に超音波ノズルから洗浄液を吐出し、同時に超音波ノズルに内蔵されている超音波振動子を発振させて洗浄液を介してウエハ表面に伝播させ、超音波の振動エネルギーを利用してウエハ表面の洗浄を行うものである。ウエハ表面上に吐出された洗浄液は、超音波洗浄により浮き出た汚染物質を伴ってウエハの回転に伴う遠心力により外周方向へと移動し、ウエハの外周縁部から洗浄チャンバ内に流れ出る。このため、汚染物質のウエハへの再付着が起こりにくい理由となっている。
【0004】
ところで、近年において半導体素子の配線の微細化が進んでおり、微細なパターンが形成されたウエハを洗浄しなければならない工程が増えている。例えば、比誘電率の値を下げる目的で、ポアと呼ばれる微細な空孔を成膜した内部に一様に分布させた多孔質シリカ(ポーラスシリカ)から成る層間絶縁膜に対して、パターン幅が100nmを下回るような微細パターンを形成することが行なわれている。このようなウエハに対して上記したスピン洗浄を用いると、超音波強度が強過ぎることによりウエハ表面に形成したパターンを破壊する場合がある。このようなパターン破壊を回避するためには、ウエハ表面に形成されたパターンの構造的な強度に応じて、ウエハ表面の単位面積当たりに照射する超音波エネルギーを小さくすることが必要となる。このため、形成したパターンの構造に応じて超音波振動子を駆動する超音波発振器の出力を調整するが、その調整範囲は限定的で充分に対応できるものではない。超音波振動子は、形状や構造によって決まる固有の振動条件があり、駆動出力がある下限を下回ると安定した振動が得られず振動が停止してしまう、からである。
【0005】
超音波出力の調整範囲が限定的である問題に対して、超音波振動子に振動体を設け、この振動体を介してウエハ表面に超音波を照射する方法が知られている。振動体は前述の超音波ノズルに較べて広い超音波照射面を有し、超音波出力を分散させる役割をなすものである。超音波照射面の振動は、超音波振動子と振動体の材質や形状で定まり、これらはシミュレーションによって予測できるので必要とする超音波出力に応じた振動体を設計すればよい。このため、ウエハに形成したパターンに対応した振動体を用いることによりパターン破壊を抑制しながら洗浄ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−181394号公報
【特許文献2】特開2003−31540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
振動体を設けたスピン洗浄においては、回転するウエハの表面から1mm程度の高さの位置に振動体の超音波照射面を保持し、この間隙(ウエハ表面と超音波照射面の間の間隙)に洗浄液ノズルから洗浄液を吐出しながら超音波の照射を行なう。ウエハ全体に対して超音波照射を行なうために、振動体を回転しているウエハの外周部と中心部の間を往復運動させてウエハ全面を走査することを行なうが、外周部と中心部の線速度が異なるため(外周部の線速度が中心部の線速度に較べて大きい)、ウエハの受ける超音波エネルギーは中心部ほど大きくなる。従って、ウエハの中心部ほど洗浄が早く完了し、外周部ほど洗浄の完了が遅いという現象が発生する。ウエハ全体の洗浄の仕上がりを考えると、外周部の洗浄が完了するまで洗浄は継続しなければならない。そのため、中心部では洗浄が完了した後も、さらに過剰な超音波エネルギーが照射され続けることになり、回転の中心付近ではパターンの破壊が生じるという場合があった。このパターン破壊を防止するために、中心部に合わせて超音波出力を設定すると外周部では超音波エネルギーが不足して充分な洗浄が行なわれないことになる。
【0008】
ウエハの半径方向の位置によって異なる周速度により印加される超音波エネルギーが異なる問題は、ウエハの外周部を洗浄している時にはウエハの回転数を小さくする、といった方法で回避することが考えられる。しかし、回転速度を変化させることで洗浄液の膜厚が遠心力により変化し、振動体の超音波照射面とウエハ表面間が洗浄液で満たされなくなる状態が発生する場合がある、という問題が出てくる。即ち、振動体を用いた場合は、ウエハの回転を等速にする必要がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑み、振動体を用いたスピン洗浄においてウエハ全体に均一な密度の超音波エネルギーを照射して洗浄を行なう洗浄装置および洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の一観点によれば、本発明の洗浄装置は、超音波を発生する超音波振動子と、超音波振動子に固定されて超音波を洗浄液に照射する超音波照射面が扁平な振動体とを具備する振動体ユニットと、振動体ユニットを回転して超音波照射面に交わる方向を軸として超音波照射面の角度を変える照射面角度制御部と、洗浄対象の基板を保持し基板を回転させる基板回転部と、振動体の超音波照射面を基板の洗浄面に向けて一定間隔を保持しながら振動体ユニットを移動させる振動体移動機構と、超音波照射面と洗浄面との間に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、を備える洗浄装置が提供される。
【0011】
発明の他の一観点によれば、本発明の洗浄方法は、洗浄面を上方に向けた基板を保持しながら基板を回転させ、超音波振動子に固定された振動体の扁平な超音波照射面を洗浄面に向けて一定間隔を保持し、その間隔に洗浄液を満たしながら振動体を基板の半径方向に移動し、移動に伴って超音波照射面の角度を洗浄面に交わる方向を軸として変化させながら超音波を照射する、洗浄方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
超音波照射面が扁平な振動体を基板上を移動させるとき、移動に伴って超音波照射面の角度を変化するようにしたので、基板上の位置によって異なる線速度に合わせて角度を変えてウエハ全体に均一な密度の超音波エネルギーを照射できる洗浄装置、および洗浄方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】超音波ノズルによるスピン洗浄例である。
【図2】振動体を用いたスピン洗浄例である。
【図3】振動体のウエハ上の位置における線速度例である。
【図4】振動体ユニットとサーボモーターの連結例である。
【図5】超音波照射時の振動体ユニットの配置例である。
【図6】超音波照射面の向き(角度)の変化例である。
【図7】振動体移動機構の構造例(ウエハ交換中)である。
【図8】振動体移動機構の構造例(洗浄中)である。
【図9】洗浄装置の構造例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
最初に一般的なスピン洗浄方法について説明する。図1は、超音波ノズルを用いたスピン洗浄の例を示し、超音波ノズル30の中に超音波振動子を内蔵し、併せて超音波ノズル30の先端から洗浄液20を吐出できる構造となっている。洗浄の方法は、基板であるウエハ10を水平方向に保持しながら回転(円弧矢印はウエハ10の回転方向を示す)し、ウエハ10の表面から超音波ノズル30を僅か浮かした状態で洗浄液を吐出し、超音波振動子を作動させて超音波を照射する。このとき、超音波ノズル30をアーム40によってウエハ10の半径方向に往復運動(直線矢印は往復運動の方向を示す)させ、ウエハ10全面に超音波照射を行って洗浄する。
【0015】
図2は、振動体を用いた場合のスピン洗浄の方法を説明する図で、図2(a)は主要部を模式的に示した図であり、図2(b)は超音波照射部の部分拡大図である。超音波の照射は、超音波振動子50に固着した振動体51によって成される。ここに示した振動体51は、材質がセラミックスで三角柱の形状をなし、三角柱の一つの面51aが超音波振動子50に固着されている。三角柱のウエハ10に対向する面が超音波照射面51bであり、ウエハ10の洗浄面とわずかな距離を隔てこの面から超音波を照射する。洗浄液供給ノズル60から洗浄液20を供給し、超音波照射面51bとウエハ10との間に洗浄液20が満たされるようにする。この状態で超音波振動子50を駆動させると、発生した超音波は振動体51の内部を伝播し、超音波照射面51bから洗浄液20へと伝えられ、ウエハ10の表面へと届く。なお、ここでは振動体51の材質をセラミックスとし、形状を三角柱としたが、材質、形状共に様々なものが用いられる。
【0016】
振動体51は、超音波ノズルによる方法と同様にウエハ10の表面をウエハ10の半径方向に等速で移動するが(図2(a)の直線の矢印)、ウエハ10上の半径方向の位置によって線速度は異なる。図3は振動体51の超音波照射面51bがウエハ10の中心からr1、r2、r3の距離にあるP1、P2、P3の各位置の線速度を示した図である。P1、P2、P3位置の線速度は、角速度をωとするとそれぞれr1*ω、r2*ω、r3*ωとなり、これらはr1*ω<r2*ω<r3*ωの関係にある。即ち、ウエハ10上の位置における線速度は、回転の中心に近いほど小さく、回転の中心から遠ざかるほど大きくなる(なお、回転の中心の点の線速度は、ゼロとなる)。従って、ウエハ10の各位置(P1、P2、P3)が受ける超音波エネルギーの強さはP1>P2>P3となり、前述したように外周部(図3のP3の位置の部分)の洗浄に適した超音波出力に設定すると中心部(図3のP1の位置の部分)には多くの超音波エネルギーが照射され、パターン破壊を起こすことになる。
【0017】
上記の問題を踏まえて発明した本発明の実施形態を説明する。図4は、本発明のポイントとなる振動体ユニット100とこの振動体ユニット100の回転角度を変える照射面角度制御部130との連結した構造の例を示した図である。振動体ユニット100は超音波振動子120と振動体110とで構成し、振動体110の一面が超音波振動子120に固着している。この振動体ユニット100は照射面角度制御部130が備える回転軸に連結しており、照射面角度制御部130はさらに支持アーム140に固定され、支持アーム140は後述するウエハ上を往復運動させる振動体移動機構に固定されている。詳細は後述するが、超音波振動子120に固着された振動体110は振動体移動機構によってウエハ上を半径方向に往復運動すると共に、照射面角度制御部130によって回転して角度を変える。次に、図4に示した各構成要素ついて説明する。
【0018】
まず、振動体110はここでは楕円柱としており、下方の先端の面(楕円面)がウエハに対して超音波を照射する超音波照射面111である(図4の下方の楕円形状は、超音波照射面111の形状を示している)。楕円面なす形状の短径と長径の長さの比は、1:4としている。超音波照射面111の形状は、必ずしも楕円形である必要はなく、超音波照射面111の角度を変化させたとき(図の円弧矢印は角度の変化方向を示している)、ウエハ上の半径方向の位置によって受ける超音波エネルギーが変化するような扁平な形状であればよく、例えば細長い長方形であってもよい。超音波照射面111の短径と長径の長さの比は、実験の結果から、少なくとも長径が短径の3倍以上であれば、本発明の効果が充分に得られることが明らかになっている。また、長径が短径に比べてより長くなれば、それだけウエハの外周部の洗浄において、超音波を照射する時間を相対的に長くすることができるが、余り長すぎては外周部に照射する超音波エネルギーの量が中心部に較べて多くなる。従って、長径は短径に対して3〜5倍程度であることが好ましい。振動体110の材質は、ここでは合成石英を用いている。しかし、振動体110の材質は合成石英に限定されることはなく、洗浄液によって腐食されることがなく、不純物の溶出が少なく、超音波振動を良好に伝播させる材質であれば自由に選択されてよい。
【0019】
超音波振動子120は、図示しない高周波電力ケーブルによって高周波電源に接続されており、ここでは周波数3MHz、出力60Wで超音波振動する。
【0020】
照射面角度制御部130は、例えばサーボモーターとその制御部を含んで構成され、振動体ユニット100を精密に回転し、超音波照射面111の向き(角度)をウエハ上で変化させる。この照射面角度制御部130の動作は、支持アーム140が固定されている前述の振動体移動機構の往復運動の動作に連携しており、振動体移動機構と照射面角度制御部130は図示しない制御用コンピューターにより制御される。
【0021】
次に振動体ユニット100のウエハ10上における配置と動作について説明する。図5は、振動体ユニット100の超音波照射面111が洗浄対象であるウエハ10の表面から上方に一定の間隔(ここでは1mm程度)離れた位置に配置された状態を示している。この状態で超音波照射面111はウエハ10の表面(洗浄面)と対向している。ウエハ10は図示しないウエハチャック上に水平に載置され、例えば真空吸着により固定され、ウエハチャックの回転により水平回転する。
【0022】
振動体ユニット100の近くには、洗浄液供給ノズル150を配置し、ウエハ10の表面に洗浄液20を吐出する。ウエハ10が回転しているため、ウエハ10表面に吐出された洗浄液20はウエハ10上に均一に濡れ広がり、均一な厚さの洗浄液20の膜が形成される。これにより、超音波照射面111とウエハ10表面との間は洗浄液20で満たされることになる。前述した洗浄液供給部が洗浄液供給ノズル150に相当する。
【0023】
次に、振動体ユニット100が振動体移動機構によりウエハ10の半径方向に往復運動し、ウエハ10の半径方向の位置によって超音波照射面111の向きを変化させる例を説明する。図6は、ウエハ10上のQ0、Q1、Q2・・Q4の各位置における超音波照射面111の向き(角度)を示している。ここで、Q0の位置はウエハ10の回転中心位置であり、Q4の位置はウエハ10の外周縁に振動体110の外周縁が略接する位置で、Q0−Q4間の長さLを振動体ユニット100は往復運動する(Q1〜Q4の位置はLを4等分した位置である)。Q0の位置で超音波照射面111の向きは超音波照射面111の長手方向と往復運動の方向とが一致する(超音波照射面111は水平になる。即ち、0°)ようにし、Q4の位置で超音波照射面111の長手方向と往復運動の方向とが直交する向き(超音波照射面111は垂直になる。即ち90°)となるようにする。そしてQ0とQ4の間は直線的、且つ連続的に角度が変化するようにしている。即ち、超音波照射面111の角度(A)と、ウエハの中心から半径方向への移動距離(X)は次式で示される(Lは、図6に示すウエハ中心から外周縁までの距離)。
A=(90/L)*X (0≦X≦L)
【0024】
超音波照射面111の向きを上記のように変化させることにより、ウエハ10の外周位置にある部分が受ける超音波エネルギーの照射量は図3に示した例より多くなり、中心位置にある部分が受ける超音波エネルギーの照射量は少なくなる。即ち、振動体110がウエハ10の中心から外周方向に移動するに従って超音波照射面111が水平(0°)から垂直(90°)に変化すること、あるいは外周から中心方向に移動するに従って垂直から水平に変化することで、ウエハ10全面に渡って均一に超音波照射することができる。これにより、回転の中心付近に過剰な超音波エネルギーが照射されるという問題が解消される。また、過剰な超音波照射を不要とすることで洗浄に要する時間が短縮される。
【0025】
前述の制御用コンピュータは、振動体ユニット100がウエハ10の回転の中心から半径方向にどれだけの距離にあるかに基づいて、超音波照射面111の向きを演算し、その結果を照射面角度制御部130に指令して振動体110(即ち、超音波照射面111)の角度を制御している。
【0026】
次に、振動体ユニット100の往復運動を行なう振動体移動機構について説明する。図7は、洗浄チャンバー300内に置かれたウエハ10に対して振動体ユニット100を半径方向に移動させる振動体移動機構200の構造を示すもので、図7(a)は上面図を、図7(b)は上面図に示したA−A’の断面図である。
【0027】
振動体移動機構200の説明の前に、洗浄チャンバー300とウエハ10を支持、回転するウエハチャック320について説明する。洗浄チャンバー300は、後述する洗浄装置の上面に埋め込まれた空間で、上方に向けて円形の広い開口部を持っている。洗浄チャンバー300の底面のほぼ中心に洗浄対象物であるウエハ10を水平に支持し、さらに回転させるためのウエハチャック320を配置している。ウエハチャック320は、図示しないモーターに連結され、回転自在である。洗浄チャンバー300の上方の外縁部には、ウエハ10の回転によって洗浄液が洗浄チャンバー300の外部に飛散するのを防止するためのカップ310を設けている。
【0028】
次に、振動体移動機構200の構造について説明する。振動体移動機構200は洗浄装置の上面に配置され、上記した洗浄チャンバー300の上部に位置する。振動体移動機構200は、ビーム210、ガイドレール220、およびスライダー230で構成する。2本のガイドレール220は、図7(a)に示すように洗浄チャンバー300を挟んで配置され、そのガイドレール220をビーム210がスライダー230を介して滑動するようになっている。ビーム210の中央には、支持アーム140と照射面角度制御部130を介して振動体ユニット100が設置している。また、洗浄液供給ノズル150もビーム210上に配置している。
【0029】
振動体移動機構200は、図示しない駆動ユニットによってガイドレール220の支柱か洗浄装置の筐体内を上下に昇降できる構造となっている。図7はウエハ10交換中の状態を示しており、ガイドレール220は駆動ユニットによって上昇した位置にあり、振動体ユニット100は洗浄チャンバー300から外れた退避スポット330に退避している。
【0030】
次に、洗浄中の状態を図8を用いて説明する。図8(a)は上面図を、図8(b)は上面図に示したB−B’の断面図である。図8(b)に示すように、ガイドレール220は駆動ユニットによって洗浄装置の筐体内に降下した位置(沈み込んだ状態)にあり、降下により振動体ユニット100の超音波照射面111をウエハ10の表面から所定の間隔になるように近づけている。この状態で、ビーム210上に搭載された振動体ユニット100は、矢印に示すようにウエハ10の回転中心と外周部との間を往復運度する。そして振動体ユニット100は、この往復運動に連携して照射面角度制御部130によって超音波照射面111の向き(角度)を変える。
【0031】
より詳細に洗浄の動作を説明する。洗浄作業の開始時点では振動体ユニット100は退避スポット330にあり、ガイドレール220は上方に持ち上げられた状態(図7の状態)にある。この状態から、振動体ユニット100をウエハ10の外周部の所定位置(例えば、図6のQ4の上方の位置)まで移動させる。振動体ユニット100の移動は、スライダー230をガイドレール220上に滑動させて行なう。振動体ユニット100が所定位置に到達したらガイドレール220を降下し、振動体110の超音波照射面111をウエハ10から約1mm離れた位置に近づける。この位置で、超音波照射面111の長手方向は往復運動の方向に対して直角になるようにする。
【0032】
続いて、ウエハ10を回転させ、ウエハ10上に洗浄液供給ノズル150から洗浄液を供給し、ウエハ10の表面に洗浄液の膜を形成する。超音波振動子120を作動させ、スライダー230が、ガイドレール220上を図8に示す矢印の方向に往復運動することで、超音波照射面111がウエハ10の全面を掃引し、洗浄する。先に説明したように、スライダー230の移動動作と照射面角度制御部130の角度変更動作は連携しており、超音波照射面111のウエハ10上の半径方向の位置に応じて、照射面角度制御部130により超音波照射面111の向き(角度)を変化させている。上記の一連の動作は図示しない制御用コンピュータにより制御される。なお、ここでは、振動体110はウエハ10の外周と中心との間を往復運動するようにしたが、外周から中心を通り点対象にある外周まで移動して折り返すような往復運動にしてもよい。また、振動体移動機構200は振動体ユニット100をウエハ10の半径方向に直線移動するようにしたが、洗浄チャンバー300外の所定の位置を支点としたアームを設け、アーム先端に振動体ユニット100と照射面角度制御部130とを配置し、振動体ユニット100が円弧を描いてウエハ10の外周と中心とを往復運動するようにしてもよい。
【0033】
次に、上記した振動体ユニット100および振動体移動機構200を搭載した洗浄装置500の全体構造を図9に示す。図9の上方の図は洗浄装置500の上面図、下方の左は正面図、下方の右は側面図を示している。洗浄装置500の筐体400の上面に、図7および図8に示した洗浄チャンバー300や振動体移動機構200などの洗浄作業を行うための構成要素が水平に配置されている。さらに、洗浄前後のウエハを収容するためのウエハラック410や、ウエハラック410と洗浄チャンバー300の間のウエハの搬送を行うためのウエハ搬送機構420などの構成要素も設置されている。これらの構成要素が雰囲気中の浮遊異物によって汚染されることを防止するため、筐体400の上面には、これらの構成要素を覆い隠すように、クリーンブース430を設置し、その内部は清浄度の高い環境に維持されている。洗浄の処理はこのクリーンブース430内で行なうようになっている。前述した図示しない制御用コンピュータは筐体400内に設置され、洗浄装置500の一連の処理はこの制御用コンピュータに接続した操作パネル440を介してオペレータの指示を受け付け、自動化された洗浄処理レシピにより行われる。
【0034】
次に、本実施例に示した洗浄装置500を用いた確認実験の結果について説明する。実験に供したウエハは、直径8インチ(200mm)のシリコンウエハで、そのウエハの表面に厚さ200nmのポーラスシリカの膜を形成した。この膜に対してドライエッチングにより加工を行い、L/S(Line/Space)=60/60nm、深さ100nmの一様な縞状パターンを形成した。このウエハの表面に平均粒径0.15μmのシリカ(SiO2)微粒子を片面当たり5万個程度付着させて試料とした。
【0035】
洗浄の評価は、洗浄前後でウエハ表面に付着しているシリカ粒子の数を計測し、シリカ粒子の除去率が99%以上となったときを洗浄完了して、洗浄完了に要する時間を計測することとした。また、洗浄完了後のパターンの破壊状態をパターン検査装置を使用して観察することとした。
【0036】
本実験での振動体の超音波照射面の形状は、短径10mm、長径40mmの楕円形であり、洗浄においては実施例に記したように超音波照射面の向きをウエハの位置によって変えることを行なう。本発明の効果を確認するため、直径15mmの円形の超音波照射面を持つ振動体によっても洗浄を行った。この場合は、超音波照射面の向きは一定である(向きを変えても円形であるため一定となる)。振動体の材質はいずれも合成石英で、超音波振動子で発生させる超音波の振動周波数は3MHz、出力は60Wである。
【0037】
ウエハは、150rpmの速度で回転させた。洗浄液供給ノズルからは、超純水中に水素ガスを1.5mg/Lの濃度で溶解させた水素溶解水を供給し、ウエハが回転している状態で、ウエハ表面に厚さ約2mmの膜を形成するように流量を調整した。超音波照射面とウエハの表面の間隔は、1.0mmで一定とした。振動体ユニットは、ウエハ上で50mm/secの一定速度で、ウエハの中心と外周の間で往復運動をさせた。
【0038】
まず、円形の超音波照射面を備えた振動体を用いて洗浄を行った。その結果、ウエハ全面の洗浄が完了するまでには、平均で720秒を要した。また、パターンの破壊状態は、ウエハの中心から半径30mmの範囲において、多数のパターン倒れが確認された。
【0039】
次に、本発明の楕円形の超音波照射面を持つ振動体では、洗浄は460秒で完了し、パターンの破壊は認められなかった。これにより、ウエハに照射される超音波エネルギーのばらつきを抑制し、過剰な超音波エネルギー照射によるウエハ中心部でのパターンの破壊を防止できたことが確認された。また、本発明の方法を用いることでウエハ全体の洗浄時間の短縮を図ることが確認された。
【0040】
以上、本発明の洗浄装置と洗浄方法の実施例を説明したが、これらは上記した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0041】
10 ウエハ
20 洗浄液
30 超音波ノズル
40 アーム
50 超音波振動子
51 振動体
51a 面
51b 超音波照射面
60 洗浄液供給ノズル
100 振動体ユニット
110 振動体
111 超音波照射面
120 超音波振動子
130 照射面角度制御部
140 支持アーム
150 洗浄液供給ノズル
200 振動体移動機構
210 ビーム
220 ガイドレール
230 スライダー
300 洗浄チャンバー
310 カップ
320 ウエハチャック
330 退避スポット
400 筐体
410 ウエハラック
420 ウエハ搬送機構
430 クリーンブース
440 操作パネル
500 洗浄装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生する超音波振動子と、前記超音波振動子に固定されて前記超音波を洗浄液に照射する超音波照射面が扁平な振動体とを具備する振動体ユニットと、
前記振動体ユニットを回転して、前記超音波照射面に交わる方向を軸として前記超音波照射面の角度を変える照射面角度制御部と、
洗浄対象の基板を保持し、前記基板を回転させる基板回転部と、
前記振動体の超音波照射面を前記基板の洗浄面に向けて一定間隔を保持しながら前記振動体ユニットを移動させる振動体移動機構と、
前記超音波照射面と前記洗浄面との間に前記洗浄液を供給する洗浄液供給部と
を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記振動体移動機構は、前記振動体ユニットを前記基板の第1の外周位置と前記基板の中心位置の間、または前記第1の外周位置から前記中心位置を通って第2の外周位置までの間を往復移動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記振動体ユニットが前記第1または前記第2の外周位置にあるとき、前記振動体の超音波照射面の長手方向は前記振動体ユニットの移動方向に対して直角に向き、前記振動体ユニットが前記中心位置にあるとき、前記長手方向は前記振動体ユニットの移動方向に対して平行に向き、前記移動に伴って前記直角の向きから前記平行の向きに、または前記平行の向きから前記直角の向きに連続して角度を変化させる
ことを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記振動体は、超音波照射面の長手寸法が短手寸法に較べて少なくとも3倍の長さを有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項5】
洗浄面を上方に向けた基板を保持しながら前記基板を回転させ、
超音波振動子に固定された振動体の扁平な超音波照射面を前記洗浄面に向けて一定間隔を保持し、前記間隔に洗浄液を満たしながら前記振動体を前記基板の半径方向に移動し、
前記移動に伴って前記超音波照射面の角度を前記洗浄面に交わる方向を軸として変化させながら超音波を照射する
ことを特徴とする洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−129387(P2012−129387A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280247(P2010−280247)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】