説明

消振システム

【課題】 複数個の慣性力発生装置により、ステージ装置からテーブルが受ける力を外部に影響を与えることなく小さくすることができ、さらに、同じ慣性力発生装置により、設置床等からの振動を打ち消す。
【解決手段】 駆動装置によってウェイトを動かして慣性力を発生する複数個の慣性力発生装置11a〜11dと、ステージ装置2の可動部の動きを検出する動き検出器12と、動き検出器からの信号に基づいて指示値を算出する演算装置13とを有し、演算装置13により算出した指示値を操作量として、慣性力発生装置の駆動装置により、ウェイトの少なくとも2つを異なる方向に移動し、これらのウェイトの慣性力により、ステージ装置2が発生するテーブルの振動を低減させる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置が搭載され、設置床等に振動絶縁装置によって支持されたテーブルを備えた消振システムに関し、具体的には、複数個の慣性力発生装置により、前記ステージ装置が発生する力をキャンセルすることにより、前記テーブルの振動(水平・垂直方向の振動や水平軸を中心とする回転振動)を小さくすることにより、前記振動絶縁装置を介して前記設置床へ伝達される振動を低減することができ、さらに、同じ慣性力発生装置により、前記設置床等の振動からテーブルを絶縁する振動絶縁性能を向上させることができる消振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウェハーの大型化、液晶基板の大型化に伴い、半導体回路や液晶回路の製造装置も大型化しており、装置自身が発生する振動も大きくなっている。この振動を抑えるために種々の提案がなされている。
【0003】
たとえば、大型のウェハーや液晶基板を搬送するための機構(ステージ装置)は、いわゆるアクティブ除振台(テーブル部と、テーブル・床間に設けられた複数の除振機構とを備える)上で作動する。アクティブ除振台は、ステージ装置が駆動される場合、当該ステージ装置の動作に対応して大きい制振力を発生することができる。
【0004】
しかし、通常、アクティブ除振台では、除振機構はテーブル部の振動を抑制することができても、制振力に対応する大きな反作用が床に加わり、同じ床に設置された他装置に影響を与えることになる。
【0005】
また、アクティブ除振台においては、ステージ装置が動作したときの反力でモーメントが生じ、これが振動の一因になることがある。この振動は、たとえば、特許文献1に記載のように、アクティブ除振台の周囲に慣性体を水平移動できるように取り付け、装置にモーメントが生じるときは、これらの慣性体を適宜の方向に移動することで、解消することができる。
【特許文献1】特開2001−242937公報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、ステージ装置の反力に起因するヨーモーメント(鉛直軸を中心とする回転モーメント)を低減するには効果的であるが、水平軸を中心とするモーメントを低減するには、リニアモータが水平方向に動作すること等の理由から不向きである。
【0007】
本発明の目的は、ステージ装置が搭載され、設置床等に振動絶縁装置によって支持されたテーブルを備えた消振システムに関し、具体的には、複数個の慣性力発生装置により、前記ステージ装置が発生する力をキャンセルし、前記テーブルの振動(水平・垂直方向の振動や水平軸を中心とする回転振動)を小さくすることにより、前記振動絶縁装置を介して前記設置床へ伝達される振動を低減することができ、さらに、同じ慣性力発生装置により、前記設置床等の振動からテーブルを絶縁する振動絶縁性能を向上させることができる振動消去技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)「 ステージ装置が搭載されたテーブルを備えた消振システムであって、
前記テーブルが前記ステージ装置から受ける反力、または当該反力に対応する物理量を検出する検出器と、
前記反力を相殺するために必要な慣性を計算する慣性演算手段と、
テーブルに設けられ、少なくとも1つが前記反力と異なる方向に慣性力を発生させる複数の慣性力発生装置と、
を備え、
前記検出器は、前記ステージ装置から前記反力または前記物理量を取得して前記慣性演算手段に出力し、
前記慣性演算手段は、前記反力または前記物理量から前記慣性力を計算して当該計算結果を前記慣性力発生装置に送出し、
前記慣性力発生装置は、前記慣性力を発生させる、
ことを特徴とする消振システム。」
【0009】
(2)「 前記慣性力発生装置は、前記テーブルに支持されたウェイトと、当該ウェイトを相対変位させる前記テーブルに設置された駆動装置を有し、
前記検出器は前記ステージ装置の可動部の動きを検出し、
前記演算装置は、動き検出器からの信号に基づいて指示値を算出する第1演算装置の機能を有し、
前記第1演算装置により算出した前記指示値を操作量として、前記慣性力発生装置の駆動装置により、前記ウェイトの少なくとも1つを、前記可動部が動く方向とは異なる方向に移動し、
これらのウェイトの慣性力により、前記ステージ装置が作動するときに発生する前記テーブルの振動を低減させる、
ことを特徴とする(1)に記載の消振システム。」
本発明では、ステージ装置が動作するとステージ装置がテーブルに反力を与える。動き検出器は、ステージ装置の動きを検出しており、検出結果は第1演算装置に送られる。第1演算装置では、慣性力発生装置(複数)に送出するべき操作量を演算する。慣性力発生装置(複数)は、操作量にしたがってウェイトを駆動する。第1演算装置は、反力と各慣性力発生装置の発生する力のベクトル和が実質上ゼロとなるよう、各慣性力発生装置の発生する力を計算することができる。したがって、前記テーブルの振動が低減される。
【0010】
(3)「 前記演算装置は、第2演算装置の機能をさらに備えるとともに、
前記テーブルの動きを検出するテーブル動き検出器が少なくとも1個当該テーブルに具備され、
前記第2演算装置は、前記テーブル動き検出器からの信号に基づいて、前記駆動装置に与えるべき指示値を算出し、
前記第1演算装置により算出された指示値と、
前記第2演算装置により算出された指示値と、
により求めた操作量により前記各ウェイトを動かすことを特徴とする(2)に記載の消振システム。」
【0011】
(4)「 第1演算装置および前記第2演算装置が単一の演算装置により共用されることを特徴とする(3)に記載の消振システム。」
上記操作量は、典型的には、「第1演算装置により算出された操作量」と「第2演算装置により算出された操作量」を単純に加算して算出することができるし、適宜の演算処理を行って算出することもできる。
【0012】
(2),(3)の消振システムでは、テーブル自体が床に対して低周波数で振動しているような場合には、当該振動による影響を低減できない場合がある。このような場合には(4)におけるように、第2演算装置により、テーブル自体の動きに対応する操作量を演算し、第1演算装置により演算した操作量に加算することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステージ装置が搭載され、設置床等に振動絶縁装置によって支持されたテーブルを備えた消振システムに関し、具体的には、複数個の慣性力発生装置により、前記ステージ装置が発生する力をキャンセルし、前記テーブルの振動(水平・垂直方向の振動や水平軸を中心とする回転振動)を小さくすることにより、前記振動絶縁装置を介して前記設置床へ伝達される振動を低減することができ、さらに、同じ慣性力発生装置により、前記設置床等からの振動からテーブルを絶縁する振動絶縁性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明の基本態様を図1により説明する。
図1において、消振システム6は、ステージ装置7を備えたテーブル61を備えている。
制御系は、反力検出手段62(図1では反力ベクトル検出手段となっている。)と、慣性演算手段63とを備えている。駆動系は、テーブル61に搭載された慣性力発生装置8および慣性力発生装置81である。ステージ装置7が水平方向に操作子を持つ場合には、慣性力発生装置8は、慣性体がこの方向と同一方向に動くものでなければならず、慣性力発生装置81はこの方向と異なる方向に動くものでなければならない。
【0015】
反力検出手段62は、ステージ装置7から反力情報Infを取得して慣性演算手段63に出力する。この反力情報Infは、たとえばステージ装置7がリニアモータで駆動されるときには、可動子の位置や、駆動電流の値であってもよい。反力F1は、ステージ装置7が駆動したときにテーブルにおよぼす力である。
慣性演算手段63は、上記の反力情報Infから、操作信号Sを演算し慣性力発生装置8に出力する。そして、慣性力発生装置8は、反力キャンセル力F2を発生する。このときF1はF2によりキャンセルされるが、F1とF2の偶力からモーメントM1が発生する。慣性演算手段63は操作信号Sの演算と同時に操作信号S1も演算し、慣性力発生装置81に出力する。そして、慣性力発生装置81は、モーメントM1をキャンセルする力F21を発生する。
【0016】
また、たとえば、慣性力発生装置81が水平軸方向に回転する慣性モーメント発生装置であってもモーメントM1をキャンセルすることができる。なお、本発明においては、アクチュエータの種類や動作は任意であり、既存の電磁コイル式、エアー式、油圧式等、種々のものが使用できる。
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。図2,図3および図4(A),(B)は本発明の第1実施形態を示す説明図である。
図2において、消振システム1は、ステージ装置2が搭載され、振動絶縁装置4によって支持されたテーブル3を備えており、5つの慣性力発生装置11(11a〜11e)と、ステージ装置可動部動き検出器12と、第1演算装置13と、ドライブ信号生成装置14とを備えている。図3に、図2からステージ装置可動部動き検出器12、演算装置13、ドライブ信号生成装置14を除いた制御消振システム1を示す。
【0018】
図4(A)に慣性力発生装置11a〜11dをリニアアクチュエータにより構成した例を、図4(B)に慣性力発生装置11eをリニアアクチュエータにより構成した例を示す。
慣性力発生装置11a〜11dは、テーブル3に対し鉛直方向に相対変位可能に支持されたウェイト111a〜111dとこれらウェイトを相対変位させるテーブル3に設置された駆動装置112a〜112dとを有し、駆動装置112a〜112dはウェイト111a〜111eを動かして鉛直方向に慣性力を発生する。慣性力発生装置11eは水平方向に慣性力を発生する。
【0019】
ステージ装置可動部動き検出器12は、ステージ装置2の可動部21の動きを検出する。この動きは、図示はしないが距離センサ、速度センサ、加速度センサ等により、距離や運動を表す物理量(距離、速度、加速度等)を直接観測してもよい。また、運動を表さないが直接観測できるステージの動きに相関のある物理量等(モータの駆動電流,電流指示値、トルク指示値等)から上記動きを検出してもよい。さらに、距離、速度、加速度等、モータの駆動電流,電流指示値、トルク指示値、圧力指示値等の1つまたは複数から可動部21の動きを演算(あるいは推定)するようにしてもよい。
ステージ装置2を駆動する指令信号(位置指令、速度指令、加速度指令、推力指令、トルク指令等)の入力値、当該指令信号の出力値等として検出してもよい。
【0020】
第1演算装置13は、ステージ装置可動部動き検出器12からの信号に基づいて、駆動装置112に与えるべき操作量Aを算出する。そして、第1演算装置13は、算出した操作量Aに応じて、駆動装置112によりウェイト111を駆動する。当該駆動によって生じたウェイト111の慣性力がステージ装置2の動作により発生するテーブル3の振動を低減する。
【0021】
ドライブ信号生成装置14は、第1演算手段13からドライブ信号目標値を受け取り、これに基づきドライブ信号を生成する。
本実施形態では、ステージ装置2が駆動することにより生じる水平方向の力は、駆動装置112eが発生する力によりキャンセルされる。また、ステージ装置2が駆動することにより生じるモーメントは、駆動装置112a,112cと駆動装置112b,112dとが発生するモーメントによりキャンセルされる。
【0022】
図5により本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、テーブル3の動きを検出する複数個のテーブル動き検出器15がテーブル3に具備されている。また、テーブル動き検出器15からの信号に基づいて、駆動装置112に与えるべき操作量Bを算出する第2演算装置16を備えている。テーブル動き検出器15は、通常、水平方向の動きを検出するもの、鉛直方向の動きを検出するものが必要である。最大6自由度に対応する個数のテーブル動き検出器15を設けることでテーブルの動きをほぼ完全に把握することができる。
【0023】
第2実施形態では、第1演算装置13により算出された操作量Aと、第2演算装置16により算出された操作量Bとを合算器17が加算して操作量Cを作り、これをドライブ信号生成装置14に出力している。ドライブ信号生成装置14は、慣性力発生装置11を駆動して、駆動装置112によりウェイト111を動かすことができる。
【0024】
第2実施形態では、テーブル動き検出器15にテーブル自体の動きを検出しており、外部からの低周波の振動(たとえば、1Hz〜10Hz程度)を消去することができる。
【0025】
図6から図8は、図2に示した消振システム1の実験結果を示す図であり、図6はテーブルの水平方向の加速度の時刻歴応答図、図7はテーブルの右鉛直方向の加速度の時刻歴応答図、図8は振動絶縁装置(空気式除振マウント)の内圧(鉛直方向)の時刻歴応答図である。また、図6から図8は、点線が図2の慣性力発生装置がない場合の結果を、実線が図2に示した消振システム1の実験結果を示している。
【0026】
図6、図7、図8からわかるように、本発明を適用した消振システムでは、水平方向の振動と、重心を中心にした回転振動の双方を複数の慣性力発生装置が発生する力およびモーメントにより低減することができている。また、この実験の場合は前記空気式除振マウントの内圧が設置床に伝わる力に相当するが、設置床に伝わる力も低減できている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の概念を示す説明図である。
【図2】本発明の消振システムの第1実施形態を示す説明図である。
【図3】図2からステージ装置可動部動き検出器、演算装置、ライブ信号生成装置を除いた制御消振システムを示す図である。
【図4】(A)は水平にウェイトが動く慣性力発生装置の例を示す図、(B)は鉛直にウェイトが動く慣性力発生装置の例を示す図である。
【図5】本発明の消振システムの第2実施形態を示す説明図である。
【図6】テーブルの中央水平方向の加速度の時刻歴応答を示す図である。
【図7】テーブルの右鉛直方向の加速度の時刻歴応答である。
【図8】空気式除振マウントの内圧(鉛直方向)の時刻歴応答である。
【符号の説明】
【0028】
1 消振システム
2 ステージ装置
3 テーブル
4 振動絶縁装置
11a〜11e 慣性力発生装置
12 ステージ装置可動部動き検出器
13 第1演算装置
14 ドライブ信号生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ装置が搭載されたテーブルを備えた消振システムであって、
前記テーブルが前記ステージ装置から受ける反力、または当該反力に対応する物理量を検出する検出器と、
前記反力を相殺するために必要な慣性を計算する慣性演算手段と、
テーブルに設けられ、少なくとも1つが前記反力と異なる方向に慣性力を発生させる複数の慣性力発生装置と、
を備え、
前記検出器は、前記ステージ装置から前記反力または前記物理量を取得して前記慣性演算手段に出力し、
前記慣性演算手段は、前記反力または前記物理量から前記慣性力を計算して当該計算結果を前記慣性力発生装置に送出し、
前記慣性力発生装置は、前記慣性力を発生させる、
ことを特徴とする消振システム。
【請求項2】
前記慣性力発生装置は、前記テーブルに支持されたウェイトと、当該ウェイトを相対変位させる前記テーブルに設置された駆動装置を有し、
前記検出器は前記ステージ装置の可動部の動きを検出し、
前記演算装置は、動き検出器からの信号に基づいて指示値を算出する第1演算装置の機能を有し、
前記第1演算装置により算出した前記指示値を操作量として、前記慣性力発生装置の駆動装置により、前記ウェイトの少なくとも1つを、前記可動部が動く方向とは異なる方向に移動し、
これらのウェイトの慣性力により、前記ステージ装置が作動するときに発生する前記テーブルの振動を低減させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の消振システム。
【請求項3】
前記演算装置は、第2演算装置の機能をさらに備えるとともに、
前記テーブルの動きを検出するテーブル動き検出器が少なくとも1個当該テーブルに具備され、
前記第2演算装置は、前記テーブル動き検出器からの信号に基づいて、前記駆動装置に与えるべき指示値を算出し、
前記第1演算装置により算出された指示値と、
前記第2演算装置により算出された指示値と、
により求めた操作量により前記各ウェイトを動かすことを特徴とする請求項2に記載の消振システム。
【請求項4】
第1演算装置および前記第2演算装置が単一の演算装置により共用されることを特徴とする請求項3に記載の消振システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−51330(P2008−51330A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258018(P2006−258018)
【出願日】平成18年8月27日(2006.8.27)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】