説明

液圧ブレーキシステム

【目的】マスタシリンダに、増圧装置とストロークシミュレータとが接続される場合に、運転者の操作フィーリングの低下を抑制する。
【解決手段】マスタシリンダ62の加圧室72には、ストロークシミュレータ200とメカ式増圧装置96とが接続される。液圧ブレーキシステムが正常であり、ブレーキシリンダ42,52に動力式液圧源64の液圧が増圧リニア制御弁172の制御により制御されて供給される場合に、シミュレータ制御弁202が開状態とされ、入力側遮断弁148が閉状態とされる。入力側遮断弁148も開状態にある場合には、ストロークシミュレータ200の作動が開始された後に、メカ式可動部98の作動が開始し、ブレーキペダル60の入り込みが生じる。それに対して、入力側遮断弁148が閉状態とされれば、ブレーキペダル60の入り込みを抑制し、運転者のブレーキ操作フィーリングの低下を抑制し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキを備えた液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)マスタシリンダと、(c)アキュムレータと、(d)そのアキュムレータの液圧を利用して、電気アクチュエータの駆動により作動させられる増圧機構と、(e)その増圧機構の液圧とマスタシリンダの液圧とのうち高い方を選択して液圧ブレーキのブレーキシリンダに供給する選択バルブとを備えた液圧ブレーキシステムが記載されている。
特許文献2には、(a)車両の前後左右の車輪に設けられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)マスタシリンダと、(c)マスタシリンダと前輪の液圧ブレーキのブレーキシリンダとの間に設けられた機械式倍力機構と、(d)高圧源およびその高圧源の液圧を制御する電磁弁とを備えた液圧ブレーキシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−502645号公報
【特許文献2】特開平10−287227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、液圧ブレーキシステムの改良を図ることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係る液圧ブレーキシステムは、増圧装置とマニュアル式液圧源との間に、電磁開閉弁である入力側遮断弁が設けられたものである。
入力側遮断弁を設ければ、例えば、増圧装置を作動させる必要性が低い場合に閉状態とすることができ、マニュアル式液圧源の液圧が増圧装置に供給されないようにすることができる。
入力側遮断弁の開状態において、原則として、増圧装置の作動が許容されるが、入力側遮断弁の閉状態において、増圧装置の作動が禁止あるいは抑制される。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付する形式で記載する。請求可能発明を構成する構成要素は、以下の各項に記載されたもの、各項の2つ以上の組に記載されたものとすることができる。また、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
【0007】
(1)車両に設けられ、運転者によって操作可能なブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させる少なくとも1つのマニュアル式液圧源と、
少なくとも、前記少なくとも1つのマニュアル式液圧源のうちの1つの液圧により作動させられ、前記1つのマニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を出力可能な増圧装置と、
その増圧装置と前記1つのマニュアル式液圧源との間に設けられた電磁開閉弁である入力側遮断弁と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
マニュアル式液圧源は、マスタシリンダの加圧室としたり、液圧ブースタとしたりすることができる。液圧ブレーキシステムに、1つの加圧室を有するマスタシリンダと液圧ブースタとが設けられる場合には、液圧ブレーキシステムに2つのマニュアル式液圧源が含まれると考えることができる。また、マスタシリンダが2つの加圧室を含む場合にも同様に2つのマニュアル式液圧源が含まれると考えることができる。
入力側遮断弁は、少なくとも、開状態と閉状態とをとり得る電磁開閉弁である。電磁開閉弁は、ソレノイドに供給される電流量を(厳密にいえば、ソレノイドに含まれるコイルに電流が供給されるのであるが、以下、ソレノイドに電流が供給されると略称する)連続的に制御することにより、前後の差圧(および/または開度)が連続的に制御可能とされるリニア制御弁としても、供給電流のON/OFF制御により、開状態と閉状態とのいずれかに切り換えられる単なる開閉弁としてもよい。以下、本明細書において、「リニア制御弁」、「単なる開閉弁」と記載しない限り、電磁開閉弁、電磁制御弁、液圧制御弁等の「弁」は、「リニア制御弁」であっても、「単なる開閉弁」であってもよいものとする。
増圧装置に接続された1つのマニュアル式液圧源は、増圧装置接続マニュアル式液圧源と称することができる。
特許文献1,2のいずれにも、増圧装置とマニュアル式液圧源との間に電磁開閉弁を設けることは記載されていない。特許文献1には、増圧装置と、マスタシリンダと、アキュムレータとの間に方向切換弁が設けられるが、方向切換弁と開閉弁とは異なる。
(2)当該液圧ブレーキシステムが、前記車両に設けられた複数の車輪の各々に対応して設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキを含むとともに、前記マニュアル式液圧源を2つ含み、かつ、
それら2つのマニュアル式液圧源の一方が、前記複数のブレーキシリンダのうちの少なくとも1つである第1ブレーキシリンダに前記増圧装置をバイパスして第1マニュアル通路を介して接続され、
前記2つのマニュアル式液圧源のうちの他方が、前記複数のブレーキシリンダのうちの少なくとも1つである第2ブレーキシリンダに前記増圧装置を介して接続され、
前記入力側遮断弁が、その他方のマニュアル式液圧源と前記増圧装置との間に設けられた常開弁とされる。
第1ブレーキシリンダ、第2ブレーキシリンダは、それぞれ、1つであっても2つ以上であってもよい。また、第1ブレーキシリンダ、第2ブレーキシリンダは、互いに、同じものであっても、異なるものであっても、一部が同じものであっても、一方が他方を含んでいてもよい。
例えば、第1ブレーキシリンダを左右前輪のいずれか一方のブレーキシリンダとし、第2ブレーキシリンダを左右前輪のブレーキシリンダを含む2つ以上のブレーキシリンダとすることができる。第2ブレーキシリンダは第1ブレーキシリンダを含むものとすることができる。
具体的には、第1ブレーキシリンダを右前輪のブレーキシリンダとして、第2ブレーキシリンダを左右前輪のブレーキシリンダとしたり、左右前輪および左右後輪の少なくとも一方のブレーキシリンダとしたりすること等ができる。
(3)前記他方のマニュアル式液圧源と前記第2ブレーキシリンダのうちの少なくとも1つとが、前記増圧装置をバイパスして第2マニュアル通路を介して接続される。
第2ブレーキシリンダのうちの少なくとも1つ(以下、第3ブレーキシリンダと称することがある)には、他方のマニュアル式液圧源が、増圧装置を介して接続されるとともに、第2マニュアル通路を介して直接接続される。
第2マニュアル通路に、マニュアル遮断弁が設けられれば、マニュアル遮断弁と入力側遮断弁との両方の制御により、第3ブレーキシリンダに、他方のマニュアル式液圧源が直接連通させられるマニュアル液圧源連通状態と、他方のマニュアル式液圧源が増圧装置を介して接続される増圧装置連通状態とに選択的に切り換え可能となる。
一方、増圧装置が、他方のマニュアル式液圧源と第2ブレーキシリンダとを連通可能な増圧装置内通路を含む場合には、増圧装置内連通路を含む液通路により第3マニュアル通路が構成されると考えることができる。
なお、第1マニュアル通路、第2マニュアル通路は、増圧装置をバイパスしてマニュアル式液圧源とブレーキシリンダとを直接接続する直結型マニュアル通路であり、第3マニュアル通路は、増圧装置を通って、マニュアル液圧源とブレーキシリンダとを接続する非直結型(迂回型)マニュアル通路である。
(4)当該液圧ブレーキシステムが、前記第1マニュアル通路に設けられた常閉の電磁開閉弁である第1マニュアル遮断弁と、前記第2マニュアル通路に設けられた常閉の電磁開閉弁である第2マニュアル遮断弁とを含む。
電気系統の異常時には、第2マニュアル遮断弁が閉状態とされ、入力側遮断弁が開状態とされるため、第3ブレーキシリンダには、増圧装置の出力液圧であるサーボ圧が供給される。そのため、他方のマニュアル式液圧源の液圧が直接供給される場合に比較して、第3ブレーキシリンダに供給される液圧を大きくすることができる。
なお、入力側遮断弁は、第3マニュアル通路に設けられた常開のマニュアル遮断弁であると考えることができる。
(5)当該液圧ブレーキシステムが、前記複数のブレーキシリンダが接続された共通通路を含み、前記増圧装置が、(a)少なくとも、前記他方のマニュアル式液圧源の液圧により作動可能なピストンを備えた可動部と、(b)その可動部をバイパスして、前記他方のマニュアル式液圧源と前記共通通路とを接続するバイパス通路と、(c)そのバイパス通路に設けられ、前記共通通路から前記他方のマニュアル式液圧源への作動液の流れを阻止し、前記他方のマニュアル式液圧源から前記共通通路へ向かう作動液の流れを許容する入力側逆止弁とを含むものとすることができる。
入力側遮断弁を閉状態とすれば、ピストンの前進を抑制または阻止することができる。可動部の作動を抑制し、増圧装置の作動を抑制することができる。
(6)当該液圧ブレーキシステムが、前記共通通路に接続され、電気エネルギの供給により液圧を発生させる動力式液圧源と、その動力式液圧源の液圧を利用して前記複数のブレーキシリンダの液圧を制御可能な動力液圧制御装置とを含む。
動力式液圧源は、例えば、電気エネルギの供給により液圧を発生させるポンプ装置を含むが、ポンプ装置から吐出された作動液を加圧した状態で蓄えるアキュムレータを含むものとすることができる。アキュムレータに作動液が加圧された状態で蓄えられている間は、増圧装置に高圧の作動液を供給することができる。
動力液圧制御装置は、動力式液圧源と共通通路との間に設けられた液圧制御弁を含み、その液圧制御弁の制御により共通通路に供給される液圧を制御可能なものとしたり(共通通路と低圧源との間に設けられた液圧制御弁を含むものとすることもできる)、動力式液圧源を制御(例えば、ポンプモータの制御等)して共通通路に供給される液圧を制御可能なものとしたりすること等ができる。
また、動力式液圧源と共通通路との間に設けられた液圧制御弁は、動力式液圧源を共通通路から遮断する出力側遮断弁としての機能も有する。
(7)当該液圧ブレーキシステムが、前記動力液圧制御装置が前記複数のブレーキシリンダの液圧を制御可能な状態である場合に、前記入力側遮断弁を閉状態とする第2入力側遮断弁制御装置を含む。
複数のブレーキシリンダの液圧が動力液圧制御装置により制御される場合には、増圧装置を作動させる必要性は低い。この場合には、入力側遮断弁が閉状態とされることが望ましい。増圧装置を作動させる必要性が低い場合に入力側遮断弁を閉状態とすれば、振動を抑制したり、作動音を軽減したりすることができる。
なお、動力液圧制御装置が正常であり、かつ、ブレーキ操作が行われた場合に、入力遮断弁が閉状態とされるようにすることもできる。
(8)当該液圧ブレーキシステムが、
前記他方のマニュアル式液圧源に接続されたストロークシミュレータと、
そのストロークシミュレータの作動が許可された場合に、前記入力側遮断弁を閉状態とし、前記ストロークシミュレータの作動が阻止された場合に、前記入力側遮断弁を開状態とする第1入力側遮断弁制御装置と
を含むものとすることができる。
例えば、ストロークシミュレータが、他方のマニュアル式液圧源に接続されるとともに、他方のマニュアル式液圧源とストロークシミュレータとの間にシミュレータ制御弁が設けられる場合には、シミュレータ制御弁の開状態において、ストロークシミュレータが他方のマニュアル式液圧源に連通させられ、ストロークシミュレータの作動が許可される。シミュレータ制御弁の閉状態において、ストロークシミュレータが他方のマニュアル式液圧源から遮断されて、ストロークシミュレータの作動が阻止される。ストロークシミュレータは、ブレーキシリンダの液圧が動力液圧制御装置によって制御される場合に許可される。
仮に、入力側遮断弁が設けられていない場合には、他方のマニュアル式液圧源にストロークシミュレータと増圧装置との両方が連通させられた状態にある。そして、ストロークシミュレータも、増圧装置も、それに加えられる液圧が、スプリングのセット荷重、可動部の摩擦力等(摺動抵抗等)で決まる作動の開始に必要が力に対応する液圧(作動開始圧)より小さい間は、作動しないが、作動開始圧より大きくなると、作動させられる。この場合において、ストロークシミュレータの作動開始圧と増圧装置の作動開始圧とは同じであるとは限らない。ストロークシミュレータの作動開始圧が増圧装置の作動開始圧より小さい場合には、ストロークシミュレータの作動が開始された後に、増圧装置が作動することになるのであり、増圧装置の作動開始に起因してブレーキ操作部材の入り込みが生じる。
それに対して、ストロークシミュレータの作動が許可された場合に入力側遮断弁が閉状態とされれば、ブレーキ操作力が増圧装置の作動開始圧以上になった場合の、ブレーキ操作部材の入り込みを防止し、運転者の操作フィーリングの悪化を抑制することができる。
(9)前記増圧装置と前記動力式液圧源との間に、高圧遮断弁を設けることができる。
高圧遮断弁を開状態とすれば増圧装置の作動が許容され、閉状態とされれば、原則として、増圧装置の作動が阻止される。そのため、高圧遮断弁の開状態において入力側遮断弁を開状態として、高圧遮断弁の閉状態において、増圧装置を閉状態とすることが望ましい。
また、高圧遮断弁を閉状態とするとともに入力側遮断弁を閉状態とすれば、増圧装置と共通通路との間に出力側遮断弁を設けなくても、増圧装置の非作動状態に保持することができる。
なお、高圧遮断弁は、常開の電磁開閉弁とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の共通の実施例である液圧ブレーキシステムが搭載された車両全体を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路を表す回路図である。
【図3】上記液圧ブレーキ回路に含まれる増圧リニア制御弁の断面図である。
【図4】上記液圧ブレーキ回路に含まれる入力側逆止弁を示す図である。(a)はカップシート式の逆止弁の断面図であり、(b-i)はボール式の逆止弁の断面図であり、(b-ii)は、(b-i)のAA断面図であり、(c)は、磁力式の逆止弁を概念的に示す図である。
【図5】上記液圧ブレーキシステムに含まれるブレーキECUの記憶部に記憶された液圧供給状態制御プログラムを表すフローチャートである。
【図6】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の状態を示す図である(正常な場合)。
【図7】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の別の状態を示す図である(制御系が異常な場合)。
【図8】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の別の状態を示す図である(制御系が異常な場合)。
【図9】上記液圧ブレーキシステムにおいて、イグニッションスイッチがOFFの状態を示す図である(液漏れの可能性がある場合)。
【図10】本発明の実施例2に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である。
【図11】本発明の実施例3に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である。
【図12】(a)本発明の実施例4に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【図13】(a)本発明の実施例5に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【図14】(a)本発明の実施例6に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【図15】(a)本発明の実施例7に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【図16】本発明の実施例8に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である。
【図17】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の状態を示す図である(システムが正常である場合)。
【図18】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の別の状態を示す図である(制御系が異常な場合)。
【図19】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の別の状態を示す図である(制御系が異常な場合)。
【図20】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合のさらに別の状態を示す図である(液漏れの可能性がある場合)。
【図21】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUの記憶部に記憶されたチェックプログラムを示すフローチャートである。
【図22】(a)上記液圧ブレーキシステムにおいて、チェックプログラムが実行される場合の状態を示す図である(チェック1)。(b)増圧装置の入力側の液圧と出力側の液圧との関係を示す図である。
【図23】上記液圧ブレーキシステムにおいて、チェックプログラムが実行される場合の状態を示す図である(チェック2−1)。
【図24】上記液圧ブレーキシステムにおいて、チェックプログラムが実行された場合の別の状態を示す図である(チェック2−2)。
【図25】チェック2が行われた場合の小径側室の液圧の変化を示す図である。(a)目標液圧となるように制御された場合の液圧の変化を示す図である。(b)高圧遮断弁が閉状態から開状態に切り換えられた場合の液圧の変化を示す図である。(c)チェック1,2とは別のチェックが行われる場合の小径側室の液圧の変化を示す図である。
【図26】前記チェックプログラムの一部を示すフローチャート(チェック2が実行される場合)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複数の実施例である液圧ブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。最初に、本発明の複数の実施例である液圧ブレーキシステムである液圧ブレーキシステムが搭載された車両について説明する。
本車両は、図1に示すように、駆動装置として電動モータとエンジンとを含むハイブリッド車両である。ハイブリッド車両において、駆動輪としての左右前輪2,4は、電気的駆動装置6と内燃的駆動装置8とを含む駆動装置10によって駆動される。駆動装置10の駆動力はドライブシャフト12,14を介して左右前輪2,4に伝達される。内燃的駆動装置8は、エンジン16,エンジン16の作動状態を制御するエンジンECU18等を含むものであり、電気的駆動装置6は電動モータ20,蓄電装置22,モータジェネレータ24,電力変換装置26,モータECU28、動力分割機構30等を含む。動力分割機構30には、電動モータ20、モータジェネレータ24、エンジン16が連結され、これらの制御により、出力部材32に電動モータ20の駆動トルクのみが伝達される場合、エンジン16の駆動トルクと電動モータ20の駆動トルクとの両方が伝達される場合、エンジン16の出力がモータジェネレータ24と出力部材32とに出力される場合等に切り換えられる。出力部材32に伝達された駆動力は、減速機、差動装置を介してドライブシャフト12,14に伝達される。電力変換装置26は、インバータ等を含むものであり、モータECU28によって制御される。インバータの電流制御により、少なくとも、電動モータ20に蓄電装置22から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動により発電器として機能することにより蓄電装置22に電気エネルギを充電する充電状態とに切り換えられる。充電状態においては、左右前輪2,4に回生制動トルクが加えられる。その意味において、電気的駆動装置6は回生ブレーキ装置であると考えることができる。
【0010】
液圧ブレーキシステムは、左右前輪2,4に設けられた液圧ブレーキ40のブレーキシリンダ42,左右後輪46,48(図2等参照)に設けられた液圧ブレーキ50のブレーキシリンダ52と、これらブレーキシリンダ42,52の液圧を制御可能な液圧制御部54等を含む。液圧制御部54は、コンピュータを主体とするブレーキECU56によって制御される。また、車両には、ハイブリッドECU58が設けられ、これらハイブリッドECU58,ブレーキECU56,エンジンECU18,モータECU28は、CAN(Car area Network)59を介して接続されている。これらは、互いに通信可能とされており、適宜必要な情報が通信される。
【0011】
なお、本液圧ブレーキシステムは、ハイブリッド車輪に限らず、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両に搭載することもできる。電気自動車においては、内燃的駆動装置8が不要となる。燃料電池車両においては、駆動用モータが燃料電池スタック等によって駆動される。また、本液圧ブレーキシステムは、内燃駆動車両に搭載することもできる。電気的駆動装置6が設けられていない車両においては、駆動輪2,4に回生制動トルクが加えられることがないため、回生協調制御が行われることはない。
【0012】
以下、液圧ブレーキシステムについて説明するが、ブレーキシリンダ、液圧ブレーキ、後述する種々の電磁開閉弁等を、前後左右の車輪の位置に対応して区別する必要がある場合には、車輪位置を表す符号(FL,FR,RL,RR)を付して記載し、代表して、あるいは、区別する必要がない場合には、符号を付さないで記載する。
【実施例1】
【0013】
実施例1に係る液圧ブレーキシステムは、図2に示すブレーキ回路を含む。60はブレーキ操作部材としてのブレーキペダルであり、62はブレーキペダル60の操作により液圧を発生させるマスタシリンダである。64はポンプ装置65とアキュムレータ66とを含む動力式液圧源である。液圧ブレーキ40,50は、ブレーキシリンダ42,52の液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制するものであり、本実施例においては、ディスクブレーキである。なお、液圧ブレーキ40,50は、ドラムブレーキとすることができる。また、前輪2,4の液圧ブレーキ40をディスクブレーキとし、後輪46,48の液圧ブレーキ50をドラムブレーキとすることもできる。
マスタシリンダ62は、2つの加圧ピストン68,69を備えたタンデム式のものであり、加圧ピストン68,69のそれぞれの前方が加圧室70,72とされる。本実施例においては、加圧室70,72がそれぞれマニュアル式液圧源に該当する。また、加圧室72,70には、それぞれ、マニュアル通路としてのマスタ通路74,76を介して、左前輪2の液圧ブレーキ40FLのブレーキシリンダ42FL、右前輪4の液圧ブレーキ40FRのブレーキシリンダ42FRが接続される。また、加圧室70,72は、加圧ピストン68,69が後退端に達した場合に、それぞれ、リザーバ78に連通させられる。リザーバ78の内部は、作動液を収容する複数の収容室80,82,84に仕切られている。収容室80,82は、それぞれ、加圧室70,72に対応して設けられ、収容室84はポンプ装置65に対応して設けられたものである。
【0014】
動力式液圧源64において、ポンプ装置65は、ポンプ90およびポンプモータ92を含み、ポンプ90によりリザーバ78の収容室84から作動液が汲み上げられて吐出されて、アキュムレータ66に蓄えられる。ポンプモータ92は、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の圧力が予め定められた設定範囲内にあるように制御される。また、リリーフ弁93により、ポンプ90の吐出圧が過大になることが防止される。
【0015】
動力式液圧源64とマスタシリンダ62とブレーキシリンダ42,52との間には増圧装置としてのメカ式増圧装置96が設けられる。メカ式増圧装置96は、可動部としてのメカ式可動部98と、入力側逆止弁99と、高圧側逆止弁100とを含む。メカ式可動部98は、ハウジング102と、ハウジング102に液密かつ摺動可能に嵌合された段付きピストン104とを含み、段付きピストン104の大径側に大径側室110が設けられ、小径側に小径側室112が設けられる。大径側室110には加圧室72が接続されるのであり、本実施例においては、加圧室72が増圧装置接続マニュアル式液圧源(1つのマニュアル式液圧源)に対応する。小径側室112には、動力式液圧源64に接続された高圧室114が連通させられ、小径側室112と高圧室114との間に、高圧供給弁116が設けられる。高圧供給弁116は、ハウジング102に形成された弁座122と、弁座122に対して接近、離間可能に設けられた弁子120と、スプリング124とを含み、スプリング124の付勢力が、弁子120を弁座122に押し付ける向きに作用する。高圧供給弁116は常閉弁である。小径側室112には、弁子120に対向して開弁部材125が設けられ、開弁部材125と段付きピストン104との間にスプリング126が設けられる。スプリング126の付勢力は、開弁部材125と段付きピストン104とを互いに離間させる向きに作用する。開弁部材125は、高圧供給弁116の構成要素であると考えることもできる。
【0016】
段付きピストン104の段部とハウジング102との間には、スプリング128(リターンスプリング)が設けられ、段付きピストン104を後退方向に付勢する。なお、段付きピストン104とハウジング102との間には図示しないストッパが設けられ、段付きピストン104の前進端位置を規制する。また、段付きピストン104の内部には、大径側室110と小径側室112とを連通させるピストン内連通路129が形成され、ピストン内連通路129の途中にピストン内逆止弁130が設けられる。ピストン内逆止弁130は、大径側室110から小径側室112へ向かう作動液の流れを阻止し、小径側室112から大径側室110へ向かう作動液の流れを許容する。
【0017】
高圧側逆止弁100は、高圧室114と動力式液圧源64とを接続する高圧供給通路132の途中に設けられる。高圧側逆止弁100は、動力式液圧源64の液圧が高圧室114の液圧より高い場合には、動力式液圧源64から高圧室114への作動液の流れを許容するが、動力式液圧源64の液圧が高圧室114の液圧以下の場合には閉状態にあり、双方向の流れを阻止する。そのため、仮に、電気系統の異常により、動力液圧源64の液圧が低くなっても、小径側室112の液圧の低下が防止される。
【0018】
入力側逆止弁99は、マスタ通路74とメカ式可動部98の出力側(小径側室112でもよい)とを、メカ式可動部98をバイパスして接続する可動部バイパス通路としてのバイパス通路136の途中に設けられる。バイパス通路136は、マスタ通路74と共通通路94とを、メカ式可動部98をバイパスして接続する通路であると考えることもできる。入力側逆止弁99は、マスタ通路74からメカ式可動部98の出力側への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止するものであり、開弁圧が設定圧のものである。設定圧は、マスタリザーバ78とブレーキシリンダ42との間の高低差に起因する液圧差に基づいて決まる値である(マスタリザーバ78がブレーキシリンダ42より鉛直方向の上方にある)。設定圧は、高低差対応設定圧と称することができる。
【0019】
ブレーキペダル60の非操作状態において、マスタシリンダ62の加圧室72はマスタリザーバ78に連通させられ、ほぼ大気圧である。また、ブレーキシリンダ42の液圧もほぼ大気圧であるが、これらの間には、高低差に起因する液圧差がある。それに対して、入力側逆止弁99の開弁圧を高低差に起因する液圧差に基づいて決まる大きさとすれば、ブレーキペダル60の非操作状態におけるマスタリザーバ78からの作動液の流出を阻止することができるのであり、仮に、ブレーキシリンダ42の周辺に漏れがあったとしても、マスタリザーバ78からブレーキシリンダ42に向かう作動液の流れを阻止することができる。また、ブレーキペダル60が作用操作(液圧ブレーキ40,50が作用状態になるように行われる操作であり、通常は、踏み込み操作である)され、加圧室72の液圧が高くなると、入力側逆止弁99の前後の差圧(マスタシリンダ側の液圧から共通通路側の液圧を引いた値)は高低差対応設定圧より大きくなり、入力側逆止弁99は開状態に切り換えられる。それにより、マスタシリンダ62からブレーキシリンダへ向かう作動液の流れが許容される。
【0020】
入力側逆止弁99は、例えば、図4に示す構造を成したものとすることができる。例えば、図4(a)に示すように、カップシール式の逆止弁99xとしたり、図4(b)に示すように、ボール式の逆止弁99yとしたり、図4(c)に示すように、磁力式の逆止弁99zとしたりすること等ができる。
【0021】
図4(a)において、逆止弁99xは、バイパス通路136に固定的に設けられたハウジング140と、ハウジング140に支持された環状のシール部材142とを含む。シール部材142はゴム等の弾性変形し易い材料により成形されたものであり、矢印Xの方向に撓み易く、逆方向に撓み難い形状を成したものである。本実施例においては、矢印Xの上流側にマスタ通路74が接続され、下流側に共通通路94が接続される。シール部材142は、前後の差圧(マスタ通路74の液圧から共通通路94の液圧を引いた値)が高低差対応設定圧以下である場合には撓むことがない。逆止弁99xは閉状態にあり、マスタリザーバ78からの作動液の流出が阻止される。前後の差圧が高低差対応設定圧より大きくなるとシール部材142が撓む。逆止弁99xは開状態に切り換えられ、マスタシリンダ62からの流出が許容される。なお、逆向き、すなわち、共通通路94からマスタ通路74へ向かう作動液の流れは阻止される。
【0022】
逆止弁99yは、図4(b)-(i)が示すように、(a)ハウジング142と、(b)ハウジング142に形成された弁座143と、(c)弁座143に対して接近・離間可能な弁子144とを含むシーティング弁である。逆止弁99yにおいて、弁子144が球状を成したものであり、スプリングが設けられていない。また、図4(b)-(ii)に示すように、ハウジング142の弁座143が設けられた側との反対側には、抜け止め部145が設けられる。本実施例において逆止弁99yは、図4(b)-(i)に示すように、逆止弁99yの軸線Lが水平線Hに対して角度θだけ傾いた姿勢で配設される。また、弁子144に作用する重力G(=mg)の軸線方向の成分Ga(=mgsinθ)の下流側にマスタ通路74が接続され、上流側に共通通路94が接続される。
【0023】
逆止弁99yにおいて、前後の差圧(マスタリザーバ78の液圧から小径側室112の液圧を引いた値)が、成分Gaに対応する大きさ以下の場合には、弁子144は弁座143に着座した状態にある。逆止弁99yは閉状態にあり、マスタリザーバ78から増圧装置98の出力側への作動液の流れは阻止される。前後の差圧が、成分Gaに対応する大きさより大きくなると、弁子144が弁座143から離間させられ、逆止弁99yが開状態とされ、マスタ通路74から共通通路94へ向かう作動液の流れが許容される。この場合に、抜け止め部145が設けられるため、弁子144が逆止弁99yから抜け出すことが防止される。また、共通通路94からマスタ通路74に向かう作動液の流れが生じると、吸引力が作用し、弁子144は弁座143に向かって移動させられ、着座させられる。換言すれば、成分Gaが高低差対応設定圧に対応する力となる姿勢で(角度θだけ傾いた姿勢で)逆止弁99yが設けられる。
【0024】
図4(c)において、逆止弁99zは、弁子146と弁座147とを含むものであるが、スプリングを有していない。また、弁子146,弁座147のうち少なくとも一方は強磁性材料から製造された永久磁石であり、磁力によって互いに接近するようにされている。弁子146と弁座147との間に作用する磁力(吸引力)は、高低差対応設定圧に対応する大きさとされる。磁力に対向する方向に、マスタ通路74の液圧と共通通路94の液圧との差圧が作用するように、すなわち、矢印Zの上流側にマスタ通路74が接続され、反対側に共通通路94が接続される。前後の差圧が高低差対応設定圧以下である場合には、逆止弁99zは閉状態にあり、マスタリザーバ78からの作動液の流出が阻止される。前後の差圧が、高低差対応設定圧より大きくなると、弁子146が磁力に抗して弁座147から離間し、逆止弁99zが開状態に切り換えられる。それにより、マスタ通路74から共通通路96に向かう作動液の流れが許容される。なお、逆止弁99zにおいても、図示を省略する抜け止め部を設けることができる。
本実施例においては、バイパス通路136,ピストン内連通路129により増圧装置内連通路が構成され、入力側逆止弁99x,99y,99z等により第1逆止弁が構成され、ピストン内逆止弁130により第2逆止弁が構成される。
【0025】
なお、マスタ通路74とメカ式増圧装置96との間には、入力側遮断弁148が設けられる。入力側遮断弁148は、ソレノイドのコイルに電流(以下、ソレノイドに電流と略称する)が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。
【0026】
一方、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FR、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRは、それぞれ、ブレーキ側通路、個別ブレーキ側通路としての個別通路150FL,FR,RL,RRを介して共通通路94に接続される。個別通路150FL,FR,RL,RRには、それぞれ、保持弁(SHij:i=F,R、j=L,R)153FL,FR,RL,RRが設けられるとともに、ブレーキシリンダ42FL,FR、52RL,52RRとリザーバ78との間には、それぞれ、減圧弁(SRij:i=F,R、j=L,R)156FL,FR,RL,RRが設けられる。本実施例においては、左右前輪2,4に対応して設けられた保持弁153FL,FRが、ソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁であり、左右後輪46,48に対応して設けられた保持弁153RL,RRがソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。また、左右前輪2,4に対応して設けられた減圧弁156FL,FRが、ソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であり、左右後輪46,48に対応して設けられた減圧弁156RL,RRがソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。
【0027】
共通通路94には、ブレーキシリンダ42,52に加えて、動力式液圧源64、メカ式増圧装置96も接続される。動力式液圧源64は、動力液圧通路170を介して共通通路94に接続される。動力液圧通路170に増圧リニア制御弁(SLA)172が設けられる。増圧リニア制御弁172は、ソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であり、ソレノイドへの供給電流の大きさの連続的な制御により、共通通路94の液圧の大きさを連続的に制御可能なものである。
【0028】
図3に示すように、増圧リニア制御弁172は、弁子180と弁座182とを含むシーティング弁と、スプリング184と、ソレノイド(コイルとプランジャとを含む)186とを含み、スプリング184の付勢力F2は、弁子180を弁座182に接近させる向きに作用し、ソレノイド186に電流が供給されることにより電磁駆動力F1が弁子180を弁座182から離間させる向きに作用する。また、増圧リニア制御弁172において、動力式液圧源64と共通通路94との差圧に応じた差圧作用力F3が弁子180を弁座182から離間させる向きに作用する(F1+F3:F2)。ソレノイド186への供給電流の制御により、差圧作用力F3が制御され、動力液圧通路170の液圧が制御される。また、増圧リニア制御弁172は、動力式液圧源64の出力液圧を制御する出力液圧制御弁と称することもできる。なお、共通通路94の減圧制御を行う場合には、保持弁153の開状態において、少なくとも1つの減圧弁156が開閉させられる。本実施例においては、増圧リニア制御弁172、減圧弁156のうちの少なくとも1つ等により動力液圧制御装置が構成される。
【0029】
メカ式増圧装置96はサーボ圧通路190を介して共通通路94に接続される。サーボ圧通路190には、増圧装置遮断弁としての出力側遮断弁(SREG)192が設けられる。出力側遮断弁192はソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。
【0030】
一方、マスタ通路74,76が、それぞれ、左右前輪2,4の個別通路150FL,FRの保持弁153FL,FRの下流側に接続される。すなわち、マスタ通路74,76は、メカ式増圧装置96、共通通路94をバイパスして、加圧室72,70と、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42とを直接接続するものである(マスタ通路74,76は直結型マニュアル通路と称することができる)。マスタ通路74,76の途中にそれぞれマニュアル遮断弁としてのマスタ遮断弁(SMCFL,FR)194FL,FRが設けられる。マスタ遮断弁194FL,FRはソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。さらに、マスタ通路74には、ストロークシミュレータ200がシミュレータ制御弁202を介して接続される。シミュレータ制御弁202は常閉の電磁開閉弁である。
【0031】
以上のように、本実施例においては、ポンプ装置65,増圧リニア制御弁172,マスタ遮断弁194,保持弁153,減圧弁156,入力側遮断弁148,出力側遮断弁192等により液圧制御部54が構成される。液圧制御部54はブレーキECU56の指令に基づいて制御される。ブレーキECU56は、図1に示すように、実行部、入出力部、記憶部等を含むコンピュータを主体とするものであり、入出力部には、ブレーキスイッチ218,ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222,アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226,レベルウォーニング228,車輪速度センサ230、イグニッションスイッチ234等が接続されるとともに液圧制御部54等が接続される。
【0032】
ブレーキスイッチ218は、ブレーキペダル60が操作されるとOFFからONになるスイッチである。
ストロークセンサ220は、ブレーキペダル60の操作ストローク(STK)を検出するものであり、本実施例においては、2つのセンサが設けられ、同様に、ブレーキペダル60の操作ストロークが検出される。このように、ストロークセンサ220が2つ設けられるため、一方が故障しても他方により操作ストロークを検出することができる。
マスタシリンダ圧センサ222は、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧(PMCFL)を検出するものであり、本実施例においては、マスタ通路74に設けられる。
【0033】
アキュムレータ圧センサ224は、アキュムレータ66に蓄えられている作動液の圧力(PACC)を検出するものである。
ブレーキシリンダ圧センサ226は、ブレーキシリンダ42,52の液圧(PWC)を検出するものであり、共通通路94に設けられる。保持弁153の開状態において、ブレーキシリンダ42,52と共通通路94とは連通させられるため、共通通路94の液圧をブレーキシリンダ42,52の液圧とすることができる。
レベルウォーニング228は、マスタリザーバ78に収容された作動液が予め定められた設定量以下になるとONとなるスイッチである。本実施例においては、3つの収容室80、82,84のいずれか1つに収容された作動液量が設定量以下になると、ONとなる。
車輪速度センサ230は、左右前輪2,4、左右後輪46,48に対応してそれぞれ設けられ、車輪の回転速度を検出する。また、4輪の回転速度に基づいて車両の走行速度が取得される。
イグニッションスイッチ(IGSW)234は、車両のメインスイッチである。
記憶部には、種々のプログラム、テーブル等が記憶されている。
【0034】
<液圧ブレーキシステムにおける作動>
本実施例において、正常である場合、漏れの可能性がある場合、制御系が異常である場合の各々において、ブレーキシリンダ42,52への液圧の供給状態が制御される。
図5のフローチャートで表される供給状態制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、制動要求があるか否かが判定される。ブレーキスイッチ218がONである場合、あるいは、自動ブレーキを作動させる要求がある場合等には制動要求があるとされて、判定がYESとなる。自動ブレーキは、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御、車間距離制御、衝突回避制御において作動させられる場合があり、これらの制御開始条件が満たされた場合に、制動要求があるとされることがある。
制動要求がある場合には、S2、3において、液漏れの可能性があるか否か、制御系が異常であるか否かの判定結果が読み込まれる。
【0035】
液漏れの可能性の有無とは、液漏れの可能性の高低、液漏れの量の多少を問わない。そのため、液漏れの可能性が非常に低い場合、あるいは、漏れ量が非常に少ない場合であっても、液漏れでないと断定できない場合には可能性が有るとする。そのため、液漏れの可能性が有ると検出された場合であっても、液漏れが実際に生じていない場合がある{液漏れ以外の原因によって、後述する(b)〜(e)の条件が満たされる場合があり得る}。
例えば、(a)レベルウォーニングスイッチ228がONである場合、(b)ブレーキ操作が行われた場合において、ブレーキペダル60のストロークとマスタシリンダ62の液圧との間に予め定められた関係が成立する場合には液漏れがないとされるが、マスタシリンダ62の液圧がストロークに対して小さい場合には液漏れの可能性が有るとされる。また、(c)ポンプ92が予め定められた設定時間以上継続して作動してもアキュムレータ圧センサ224の検出値が液漏れ判定しきい値以上にならない場合、(d)回生協調制御が行われていない場合において、マスタシリンダ圧センサ222の検出値に対してブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が小さい場合、(e)前回のブレーキ作動時に、液漏れの可能性が有ると検出された場合(左右前輪2,4のブレーキシリンダ42にマスタシリンダ62の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52にポンプ圧が供給された場合)等には、液漏れの可能性が有るとされる。
【0036】
制御系の異常とは、ブレーキシリンダ42,52の液圧あるいは共通通路94の液圧を、動力式液圧源64の液圧を利用して制御できない状態をいう。
例えば、(i)電磁開閉弁等を指令通りに作動させることができない場合{増圧リニア制御弁172等の電磁開閉弁(例えば、保持弁153,減圧弁156,マスタ遮断弁194,出力側遮断弁192等)において断線が生じている場合等}、(ii)ブレーキシリンダ42,52の液圧の制御に必要な検出値が得られない場合(正確に得られない場合も含む)[
各センサ(ブレーキスイッチ218,ストロークセンサ220、マスタシリンダ圧センサ222、アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226,車輪速度センサ230等)において断線が生じている場合等]、(iii)各電磁開閉弁、センサ等に電力(電気エネルギ、電流と称することもできる)を供給できない場合(蓄電装置22等の電源の異常、あるいは、配線の断線が生じている場合等)、(iv)動力式液圧源64から高圧の作動液を供給できない場合{例えば、ポンプモータ92の異常、ポンプモータ92に電力を供給できない場合(電源の異常に起因する場合を含む)等}が該当する。
【0037】
S2,3のいずれの判定もNOであり、当該液圧ブレーキシステムが正常である場合(本実施例においては、制御系が正常で、かつ、液漏れの可能性が無いとされた場合)には、S4において、正常時制御が行われる。動力式液圧源64の出力液圧が増圧リニア制御弁172によって制御されて、その動力制御圧が共通通路94に供給され、ブレーキシリンダ42,52に供給される。
制御系が異常である場合には、S3の判定がYESとなり、S5において、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、原位置に戻される。また、ポンプモータ92は停止状態に保たれる。
液漏れの可能性が有ると検出された場合には、S2の判定がNOとなり、S6において、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42にマスタシリンダ62の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52に動力式液圧源64の出力液圧が制御されて供給される。制御系の異常と液漏れの可能性との両方が生じることは稀であるため、液漏れの可能性が有るとされても制御系は正常であり、各バルブの制御、ポンプモータ92の駆動は可能であると考えられる。
また、本実施例においては、制御系が異常であるとされた場合、液漏れの可能性が有るとされた場合には自動ブレーキは作動させられないようにされている。
【0038】
1)システムが正常な場合
図6に示すように、前後左右の4輪2,4,46,48のブレーキシリンダ42,52には、動力式液圧源64の液圧が制御されて(制御された液圧を動力制御圧と称する)供給されるのであり、原則として回生協調制御が行われる。
回生協調制御は、駆動輪2,4に加わる回生制動トルクと、駆動輪2,4と従動輪46,48との両方に加わる摩擦制動トルクとの和である総制動トルクが総要求制動トルクとなるように行われる制御である。
総要求制動トルクは、ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222の検出値等に基づいて取得される場合(運転者が要求する制動トルク)、車両の走行状態に基づいて取得される場合(トラクション制御、ビークルスタビリティ制御において必要な制動トルク)等がある。そして、ハイブリッドECU58から供給された情報(電動モータ20の回転数等に基づいて決まる回生制動トルクの上限値である発電側上限値、蓄電装置22の充電容量等に基づいて決まる上限値である蓄電側上限値)と、上述の総要求制動トルク(要求値)とのうちの最小値が要求回生制動トルクとして決定され、この要求回生制動トルクを表す情報がハイブリッドECU58に供給される。
ハイブリッドECU58は要求回生制動トルクを表す情報をモータECU28に出力する。モータECU28は、電動モータ20によって左右前輪2,4に加えられる制動トルクが要求回生制動トルクとなるように、電力変換装置26に制御指令を出力する。電動モータ20は、電力変換装置26によって制御される。
電動モータ20の実際の回転数等の作動状態を表す情報がモータECU28からハイブリッドECU58に供給される。ハイブリッドECU58において、電動モータ20の実際の作動状態に基づいて実際に得られた実回生制動トルクが求められ、その実回生制動トルク値を表す情報をブレーキECU56に出力する。
ブレーキECU56は、総要求制動トルクから実回生制動トルクを引いた値等に基づいて要求液圧制動トルクを決定し、ブレーキシリンダ液圧が要求液圧制動トルクに対応する目標液圧に近づくように、増圧リニア制御弁172、減圧弁156等を制御する。
【0039】
回生協調制御においては、原則として、前後左右の各輪2,4,46,48の保持弁153FL,FR,RL,RRがすべて開状態とされ、減圧弁156FL,FR,RL,RRがすべて閉状態とされる。また、マスタ遮断弁194FL,FRは閉状態とされ、シミュレータ制御弁202が開状態とされ、入力側遮断弁148が閉状態とされ、出力側遮断弁192が閉状態とされる。共通通路94がメカ式増圧装置96から遮断され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL、FRがマスタシリンダ62から遮断された状態で、増圧リニア制御弁172の制御により、動力式液圧源64の出力液圧が制御され、その動力制御圧が共通通路94に供給され、4輪のブレーキシリンダ42,52に共通に供給される。なお、共通通路94の液圧を減少させる場合には、減圧弁156FL,FR,RL,RRのうちの1つ以上が制御される。
【0040】
このように、本実施例においては、正常作動時に、入力側遮断弁148が閉状態とされる。
仮に、入力側遮断弁148が開状態にある場合を想定する。
出力側遮断弁192は閉状態にあるため、メカ式増圧装置96は非作動状態にあるのが原則である。しかし、高圧室114の容積と、小径側室112の容積と、大径側室110の容積との和がほぼ一定に保たれる範囲内で、段付きピストン104の前進は許容される。一方、シミュレータ制御弁202は開状態にあるため、マスタ通路74の液圧がストロークシミュレータ200の作動開始圧より大きくなると、ストロークシミュレータ200が作動させられるが、本実施例において、ストロークシミュレータ200の作動開始圧は、メカ式可動部98の作動開始圧より小さい。
ブレーキペダル60が作用操作され、マスタ通路74の液圧が、ストロークシミュレータ200の作動開始圧より大きくなると、ストロークシミュレータ200が作動させられ、ブレーキペダル60の前進が許容される。その後、メカ式可動部98の作動開始圧より大きくなると、段付きピストン104が前進させられ、それにより、ブレーキペダル60の入り込みが生じるのであり、運転者は違和感を感じる。
それに対して、本実施例においては、入力側遮断弁148が閉状態とされる。その結果、ブレーキペダル60はストロークシミュレータ200の作動に伴って前進が許容される。急激な入り込みが抑制されるのであり、運転者の違和感を軽減することができる。
また、入力側遮断弁148を閉状態とすることにより、振動を軽減したり、作動音を軽減したりすること等ができる。
ストロークシミュレータ200の作動開始圧は、スプリングのセット荷重、ピストンとハウジングとの間の摩擦等の摺動抵抗等で決まる値であり、ピストンに作用する液圧が作動開始圧より大きくなると、ピストンの移動が許容される。作動開始圧は、スプリングのセット荷重、摩擦力等で決まる。
メカ式可動部98の作動開始圧も同様であり、スプリング126のセット荷重、段付きピストン104とハウジング102との間に作用する摩擦力等の摺動抵抗等で決まる値である。
【0041】
なお、この状態で、車輪2,4,46,48のスリップが過大となり、アンチロック制御開始条件が満たされると、保持弁153、減圧弁156が別個独立にそれぞれ開閉させられ、各ブレーキシリンダ42,52の液圧が制御される。前後左右の各輪2,4,46,48のスリップ状態が適正な状態とされる。
また、液圧ブレーキシステムが電気的駆動装置8を備えていない車両に搭載された場合等回生協調制御が行われない車両においては、システムが正常である場合に、総要求制動トルクと液圧制動トルクとが等しくなるように、増圧リニア制御弁172等が制御される。
なお、ブレーキECU56の液圧供給状態制御プログラムのS4を記憶する部分、実行する部分等により、第1入力側遮断弁制御装置、第2入力側遮断弁制御装置が構成される。また、これらは、動力制御圧供給部と称することもできる。
また、ブレーキECU56のS4を記憶する部分、実行する部分、動力式液圧源64,増圧リニア制御弁172,共通通路94,個別通路150、ブレーキシリンダ42,52等により動力液圧系が構成される。
【0042】
2)制御系が異常である場合
図7,8に示すように、各バルブは原位置に戻される。
増圧リニア制御弁172は、ソレノイド186に電流が供給されないことにより閉状態とされて、動力式液圧源64が共通通路94から遮断される。
また、マスタ遮断弁194は閉状態とされるため、ブレーキシリンダ42は、マスタシリンダ62から遮断される。
さらに、入力側遮断弁148、出力側遮断弁192は開状態とされるため、メカ式増圧装置96が、マスタ通路74,共通通路94に連通させられる。
さらに、保持弁153RL,RRは閉状態にあり、保持弁153FL,FRは開状態にあるため、共通通路94に左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが連通させられ、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRが遮断される。
このように、制御系の異常時に、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが作動させられるため、車両の重心が左右方向のほぼ中心にある場合に、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。
【0043】
2−1)大径側室110の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧以下の場合
図7に示すように、大径側室110の液圧が、メカ式可動部98の作動開始圧以下の場合には、加圧室72の液圧(マニュアル液圧としてのマスタ液圧と称する)は、マスタ通路74,バイパス通路136、サーボ圧通路190を経て共通通路94に供給され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42に供給される。
入力側逆止弁99の開弁圧は非常に小さいため、ブレーキペダル60の操作に伴って速やかにブレーキシリンダ42に作動液を供給することが可能となり、液圧ブレーキ40の効き遅れを小さくすることができる。
【0044】
2−2)大径側室110の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧より大きい場合
2−2−1)アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作用許可圧より大きい場合
ポンプ装置65の作動が停止させられても、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が設定圧より大きい場合には、メカ式可動部98の作動が許可される。設定圧は、メカ式可能部98を作動させ得る大きさであり、換言すれば、メカ式可動部98の高圧室114に液圧を供給し得る大きさであり、高圧室114(小径側室112)の液圧より大きい値であると考えることができる。設定圧を作動許可圧と称することができる。
図8の実線が示すように、大径側室110の液圧によって段付きピストン104が前進させられ、開弁部材125に当接し、高圧供給弁116が開状態に切り換えられる。小径側室112が大径側室110から遮断され、アキュムレータ66から高圧側逆止弁100を経て高圧室114に高圧の作動液が供給され、小径側室112に供給される。小径側室112の液圧は、マスタシリンダ62の液圧より高くされ、開状態にある出力側遮断弁192を経て共通通路94に供給され、保持弁153FL,FRを経て左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,42RRに供給される。
小径側室112の液圧Poutは、仮に、作動開始圧が0であるとした場合に、マスタシリンダ62の液圧(大径側室110の液圧)Pinに、段付きピストン104の大径部側の受圧面積Sinと小径部側の受圧面積Soutとの比率(Sin/Sout)を掛けた値
Pout=Pin・(Sin/Sout)
となる。この液圧Poutをサーボ圧と称する。また、このことから、小径側室112は制御圧室と称することができる。
なお、メカ式増圧装置96は加圧室72の液圧により作動させられるため、広義のマニュアル液圧源であると考えることができる。本実施例においては、加圧室72が第1マニュアル式液圧源としての増圧装置接続マニュアル式液圧源に対応し、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【0045】
2−2−2)アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧以下である場合
アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧以下である場合には、図7に示す状態と同様に、マスタシリンダ62の加圧室72のマスタ液圧が、マスタ通路74,バイパス通路136,サーボ圧通路190,共通通路94を経て左右前輪2,4のブレーキシリンダ42に供給される。
一方、メカ式可動部98の作動によりアキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が低下して作動許可圧より低くなると、アキュムレータ66から高圧室114に作動液が供給されなくなる。それにより、メカ式可動部98が作動し難くなる。例えば、ポンピングブレーキ操作が行われた場合には、アキュムレータ66の作動液の消費量が多くなり、アキュムレータ圧が作動許可圧より低くなる。段付きピストン104の前進が阻止され(ストッパに当接するまで前進させられ、その後、前進が阻止されると考えられる)、小径側室112の液圧はそれ以上高くなることがないのであり、メカ式可動部98は倍力機能を発揮できなくなる。そして、小径側室112の液圧より加圧室72の液圧の方が高くなると、図8の破線が示すように、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧が、バイパス通路136,サーボ圧通路190を経て共通通路94に供給される。マスタシリンダ62の加圧室72の液圧は、倍力されることなく、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,42FRに供給される。
【0046】
また、保持弁153RL、RRは閉状態にあるため、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL、52RRには、メカ式可動部98の液圧が供給されないようにされている。その結果、液不足が抑制され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL、FRの増圧不足を抑制することができる。
さらに、マスタシリンダ62において加圧室72の容積を大きくすることができる。加圧室72の容積を大きくすれば、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRの両方に作動液が供給される場合であっても、液量不足が生じることを回避することができる。この場合には、運転者のブレーキペダル60のストロークが大きくなることもある。
本実施例においては、保持弁153FL,FRが常開弁であること、入力側遮断弁148,出力側遮断弁192が常開弁であること、ブレーキECU56のS5を記憶する部分、実行する部分等により異常時サーボ圧供給装置が構成される。また、ブレーキECU56のS5を記憶する部分、実行する部分等によりサーボ圧供給部が構成される。
【0047】
3)液漏れの可能性が有ると検出された場合
図9に示すように、左右前輪2,4の保持弁153FL,FRが閉状態とされ、左右後輪46,48の保持弁153RL,RRが開状態とされる。また、マスタ遮断弁194FL,FRは開状態とされ、入力側遮断弁148,出力側遮断弁192,シミュレータ制御弁202は閉状態とされる。さらに、すべての減圧弁156は閉状態とされる。
左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRには、それぞれ、マスタシリンダ62の加圧室72,70の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRには、ポンプ装置65の液圧が制御されて供給される。
このように、左右前輪2,4の保持弁153FL,FRが遮断状態とされるため、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが互いに独立とされる。また、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRと左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRとが遮断される。前輪2,4、後輪46,48のブレーキシリンダ同士が互いに遮断されるとともに、前輪側において、左前輪2、右前輪4のブレーキシリンダ同士が遮断される。すなわち、(左前輪2のブレーキシリンダ42FLを含むブレーキ系統250FL)、(右前輪4のブレーキシリンダ42FRを含むブレーキ系統250FR)、(左右後輪46,48のブレーキシリンダ52FL,RRを含むブレーキ系統250R)の3つのブレーキ系統が互いに遮断される。その結果、たとえ、これら3つのブレーキ系統のうちの1つに液漏れが生じた場合であっても、他のブレーキ系統に影響が及ばないようにすることができる。
この意味において、保持弁153FL、FRが、ブレーキ系統250FR,FL,Rを分離する分離弁としての機能を有する。
【0048】
本実施例において、ブレーキ系統250FRは、ブレーキシリンダ42FR、マスタ通路76,加圧室70,収容室80等を含むものであり、ブレーキ系統250FLは、ブレーキシリンダ42FL、マスタ通路74,加圧室72,収容室82等を含むものであり、ブレーキ系統250Rは、ブレーキシリンダ52RL,RR,個別通路150RL、RR,動力式液圧源64,収容室84等を含むものである。したがって、ブレーキ系統250FR,FL,Rが互いに独立にされるということは、リザーバ78の収容室80,82,84も互いに独立にされるということである。
本実施例においては、ブレーキECU56のS6を記憶する部分、実行する部分等によりマニュアル液圧・動力制御圧供給部が構成される。
【0049】
また、液漏れの可能性がない場合であっても、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より低い場合には、図9の状態とすることができる。アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より低くなるのは、ポンプ装置65の異常等に起因すると考えられる(電磁開閉弁の制御は可能である)が、この場合には、制御系の異常であるとされて、図7,8の状態に切り換えられることになる。しかし、図7,8の状態とされても、メカ式可動部98は作動不能な状態となり、図8の破線が示すように、ブレーキシリンダ42FL,FRには、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧が供給される。それに対して、図9の状態に切り換えられれば、ブレーキシリンダ42FL、FRにそれぞれ加圧室72,70が連通させられるため、液圧不足を抑制することができる。なお、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が低いことに起因して、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRの液圧を効果的に制御できない場合には、増圧リニア制御弁172を閉状態として、保持弁153RL,RRを閉状態とすることが望ましい。
【0050】
4)液圧ブレーキが解除される場合
ブレーキ操作が解除されると、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、図2の原位置に戻される。メカ式増圧装置96において、段付きピストン104は後退端にある(あるいは、後退端に戻される)。段付きピストン104は開弁部材125から離間させられ、ピストン内連通路129は開放される。左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRの液圧はピストン内連通路129,ピストン内逆止弁130を経てマスタシリンダ62(マスタリザーバ78)に戻される。また、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRの液圧は、減圧弁156を経てリザーバ78に戻される。
【0051】
5)イグニッションスイッチ234のOFF状態
すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなるなることにより図2の原位置とされる。
a)図2に示すように、増圧リニア制御弁172が閉状態にあるため、動力式液圧源64が共通通路94から遮断される。そのため、たとえ、共通通路94より下流側(ブレーキシリンダ42FL,FR)において液漏れがあったとしても、リザーバ78の収容室84から動力液圧通路170を経て作動液が流出させられることは防止される。
b)マスタ遮断弁194が閉状態にあるため、仮に、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FR周辺において液漏れがあったとしても、リザーバ収容室80,82からマスタ通路74,76を経て作動液が流出させられることは防止される。
c)入力側逆止弁99、ピストン内逆止弁130が設けられるため、仮に、共通通路94の下流側に液漏れがあったとしても、マスタリザーバ78の収容室82からメカ式増圧装置96を通る作動液の流出を防止することができる。仮に、共通通路94の下流側に液漏れがあったとしても、マスタリザーバ78の収容室82からピストン内連通路129を通る作動液の流出が阻止されるのであり、入力側逆止弁99,ピストン内逆止弁130等により流出防止装置260が構成される。
【0052】
このように、本実施例においては、イグニッションスイッチ234のOFF状態において、仮に、共通通路94の下流側に液漏れがあったとしても、マスタリザーバ78の収容室80,82,84からの作動液の流出を良好に阻止することができる。それにより、液圧ブレーキ40,50を良好に作用させることができる。
本実施例においては、入力側逆止弁99,ピストン内逆止弁130等により流出防止装置260が構成されるが、その他、マスタ遮断弁194,増圧リニア制御弁172,保持弁153RL,RR等によりマスタリザーバ78からの流出が防止される。
【実施例2】
【0053】
流出防止装置270が、図10に示すように、共通通路94のサーボ圧通路190の接続部と個別通路150FRの保持弁153FRが設けられた部分との間の任意の位置に設けられる。その他の部分については、実施例1における場合と同様である。流出防止装置270は、互いに並列に設けられた第1逆止弁272,第2逆止弁274を含む。第1逆止弁272は、実施例1の入力側逆止弁99と同様に、開弁圧が高低差対応設定圧とされたものであり、第2逆止弁274は、実施例1のピストン内逆止弁130と同様に、ブレーキシリンダ42FRからマスタリザーバ78へ向かう作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止するものである。流出防止装置270によれば、ブレーキペダル60の作用操作が行われない場合に、リザーバ収容室82からメカ式増圧装置96を通って、ブレーキシリンダ42FRに向かう作動液の流出を防止することができる。特に、右前輪4のブレーキシリンダ42FRの周辺に液漏れが生じた場合のリザーバ収容室82の作動液の流出を防止することができるのであり、液圧ブレーキ40,50を作動させた場合の制動力不足を抑制することができる。なお、メカ式増圧装置96において、ピストン内逆止弁は不要である。また、入力側逆止弁276の開弁圧の大きさは問わない。入力側逆止弁276の開弁圧は、高低差に起因する液圧差とは関係ない大きさに設定することができる。
【実施例3】
【0054】
流出防止装置280は、図11に示すように、メカ式増圧装置96の内部の、サーボ圧通路190の小径側室112とバイパス通路136の接続部との間に設けることができる。流出防止装置280は、実施例2における場合と同様に、互いに並列に設けられた第1逆止弁282,第2逆止弁284を含む。その他の部分については、実施例1における場合と同様である。流出防止装置280によれば、ブレーキペダル60が作用操作されない場合に、マスタリザーバ78の収容室82からピストン内連通路129を通る作動液の流出を阻止することができる。流出防止装置280は、サーボ圧通路190のいずれに設けてもよく、バイパス通路136の下流側に設けても、さらに、出力側遮断弁192の下流側(共通通路側)に設けてもよい。
【その他の実施例】
【0055】
なお、ブレーキ回路の構造は問わない。
例えば、マスタ通路74にメカ式増圧装置96を直接接続することもできる。換言すれば、入力側遮断弁148は不可欠ではないのである。また、流出防止装置を設けることも不可欠ではない。さらに、マスタ遮断弁194FL,FRの両方を常閉弁とすることも不可欠ではなく、少なくとも一方を常開弁とすることもできる。
また、左右後輪46,48の保持弁153RL,RRの少なくとも一方を常開の電磁開閉弁として、それに対応する減圧弁156RL,RRの少なくとも一方を常閉の電磁開閉弁とすることができる。本実施例においては、制御系の異常時に、3輪または4輪のブレーキシリンダ42,52にメカ式増圧装置96の出力液圧を供給することができる。制御系の異常時に、メカ式増圧装置96に連通させられるブレーキシリンダは、マスタシリンダ62の加圧室72の容積等に基づき、作動液の供給が可能な範囲において決定することができる。また、マスタシリンダ62の容積を大きくする場合には、運転者のブレーキペダル60の操作ストロークが大きくなったり、反力が大きくなったり(大きな操作力が必要になったり)する場合があるが、マスタシリンダ62の容積は、運転者の操作フィーリング、制御系の異常時に作用作動させる液圧ブレーキの個数等を考慮して適宜設計することができる。
【実施例4】
【0056】
図12(a)に示すように、左右後輪46,48のうちのいずれか一方である右後輪48のブレーキシリンダ52RRに対応する保持弁153RR1を常開の電磁開閉弁とし、減圧弁156RR1を常閉の電磁開閉弁とすることができる。本実施例においては、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96の出力液圧が、左右前輪2,4,右後輪48のブレーキシリンダ42FL,FR,52RRに供給される。図12(b)に示すように、運転席が前進方向の右側にある(操舵部材300が、前進方向の右側にある)車両、いわゆる、右ハンドルの車両であって、比較的小形の車両においては、運転者等を含む車両全体の重心G1が、左右方向の中心より右側に位置することがある。その他の部分については実施例1における場合と同様である。この車両においては、重心G1から左側車輪2,46の路面との接地点までのアームの長さrLは右側車輪4,48の路面との接地点までのアームの長さrRより長くなる(rL>rR)。この場合において、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96の液圧が左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRに液圧が供給される場合には、左旋回方向のヨーモーメントγが作用する。
γ=rR・(FFR)−rL・(FFL)<0
【0057】
それに対して、本実施例においては、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96の液圧であるサーボ圧が、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRおよび右後輪48のブレーキシリンダ52RRに供給されるのであり、これら3輪のブレーキシリンダ42FL,FR,RRの液圧はほぼ同じになる(PFL=PFR=PRR)。そのため、左側車輪2,46のブレーキシリンダ42FL,52RLに供給される液圧に起因する制動力(路面とタイヤとの間に作用する力)の和(左後輪46のブレーキシリンダ52RLには液圧は供給されない)が右側車輪4,48のブレーキシリンダ42FR,RRに供給される液圧に起因する制動力の和より小さくなる(FFL<FFR+FRR)。
そして、この車両に作用するヨーモーメントγの絶対値は、
|γ|=|rR・(FFR+FRR)−rL・(FFL)|
となるが、上述のように、アームrLはアームrRより長いため、作用するヨーモーメントγの絶対値を小さくすることができる。
【0058】
このように、本実施例においては、制御系の異常時に、前後左右の4輪のうちの3輪のブレーキシリンダにメカ式増圧装置96のサーボ圧が供給されるのであり、左側車輪2,46に作用する制動力の和と右側車輪4,48に作用する制動力の和とが等しくならない。しかし、メカ式増圧装置96のサーボ圧が、重心Gが車両の左右方向の中心から外れた位置にある場合に、重心Gからのアームが短い側の制動力の和がアームが長い側の制動力の和より大きくなるように配分される。そのため、制御系の異常時に、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。本実施例においては、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FL,FR,RR、常開の保持弁153FL,FR,RR1、ブレーキシリンダ42FL,FR,52RR等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、単一型液圧分配部を含む。なお、前述のように、メカ式増圧装置96の出力液圧はサーボ圧であるが、サーボ圧は広義のマニュアル液圧であると考えることができる。
【0059】
なお、本実施例において、ピストン内逆止弁130、入力側遮断弁148は不可欠ではない。
【実施例5】
【0060】
さらに、図13(a)に示す液圧ブレーキ回路においては、左右後輪46,48のうちの左後輪46のブレーキシリンダ52RLに対応する保持弁153RL2が常開弁とされ、減圧弁156RL2が常閉弁とされる。本実施例においては、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96のサーボ圧が、左右前輪2,4,左後輪46のブレーキシリンダ42FL,FR,52RLに供給される。図13(b)に示すように、運転席が前進方向の左側にある(操舵部材302が前進方向の左側にある)車両(左ハンドルの車両)であって、運転者等を含む車両全体の重心G2が、左右方向の中心より左側に位置する。その他の部分については、実施例1における場合と同様である。
本実施例において、制御系の異常時に、車両に作用するヨーモーメントγの絶対値は、
|γ|=|rR(FFR)−rL(FFL+FRL)|
となる。この場合において、右側車輪4,48に作用する制動力の和が左側車輪2,46に作用する制動力の和より小さく{(FFR)<(FFL+FRL)}、重心G2から右側車輪4,48の路面に対する接地点までのアームrRが左側車輪2,46の接地点までのアームrLより長い(rR>rL)ため、作用するヨーモーメントγの絶対値を小さくすることができる。本実施例においては、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FL,FR,RL、常開の保持弁153FL,FR,RL2,ブレーキシリンダ42FL,FR,52RR等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、単一型液圧分配部を含む。
【実施例6】
【0061】
図14(a)の液圧ブレーキ回路においては、右前輪4のブレーキシリンダ42FRに対応するマスタ遮断弁194FR3が常開弁であり、保持弁153FR3が常閉弁である。また、右後輪48のブレーキシリンダ52RRに対応する保持弁153RR3が常開弁であり、減圧弁153RR3が常閉弁である。制御系の異常時には、右前輪4のブレーキシリンダ42FRにはマスタ圧が供給され、対角輪(左前輪2、右後輪48)のブレーキシリンダ42FL,52RRにはメカ式増圧装置96のサーボ圧が供給される。
運転席が前進方向の左側にある車両(ステアリングホイール302が左側にある車両)に作用する右旋回方向のヨーモーメントγは、
γ=rR(FFR+FRR)−rL(FFL
となる。上式において、マスタシリンダ62の液圧Pmがメカ式増圧装置96のサーボ圧Pbより小さい(Pm<Pb)。また、ブレーキシリンダ液圧が同じ場合に、後輪に作用する制動力は前輪に作用する制動力より小さい。そのため、左側車輪2,46に作用する制動力の和と右側車輪4,8に作用する制動力の和とはほぼ同じとなる。
(FFL)≒(FFR+FRR
【0062】
一方、アームrRの長さはアームrLの長さより長い(rR>rL)ため、本実施例において、ヨーモーメントγは正の値となる(γ>0)。したがって、図14(b)に示すように、制御系の異常時に、左ハンドルの車両には、右旋回方向のヨーモーメントが作用する。この制御系の異常時に作用するヨーモーメントは、左ハンドルの車両が法規により右側を走行する地域において、車両が対向車線から外れる方向となる。その結果、例えば、運転者が修正操作を行う場合において、対向車線に近づく方向のヨーモーメントが作用する場合より、車両の安全性を向上させることができる。本実施例においては、動力式液圧源64,増圧リニア制御弁172、共通通路94.個別通路150,保持弁153、ブレーキシリンダ42,52等により動力液圧系が構成され、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FL,RR、常開の保持弁153FL3,RR3,マスタ通路76,常開のマスタ遮断弁194FL3,ブレーキシリンダ42FL,FR,52RR等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、混合型液圧分配部を含む。
【0063】
なお、このことは、左ハンドルの車両が図2に示すブレーキ回路を有する場合においても、同様の効果を奏することができる。
【実施例7】
【0064】
図15(a)に示す液圧ブレーキ回路においては、左前輪2のブレーキシリンダ42FLに対応するマスタ遮断弁194FL4が常開弁であり、保持弁153FL4が常閉弁である。また、左後輪46に対応する保持弁153RL4が常開弁であり、減圧弁153RL4が常閉弁である。制御系の異常時には、左前輪2のブレーキシリンダ42FLにマスタ圧が供給され、対角輪(右前輪4,左後輪46)のブレーキシリンダ42FR,52RLにはメカ式増圧装置96のサーボ圧が供給される。
運転席が前進方向の右側にある車両(ステアリングホイール300が右側にある車両)に作用する右旋回方向のヨーモーメントγは、
γ=rR(FFR)−rL(FFL+FRL
となる。上式において、左側車輪2,46に作用する制動力の和と右側車輪4,8に作用する制動力の和とはほぼ同じとなる。
(FFR)≒(FFL+FRL
【0065】
一方、アームrLはアームrRより長いため(rL>rR)、図15(b)に示すように、ヨーモーメントγは負の値となり(γ<0)、左旋回方向のヨーモーメントとなる。
このヨーモーメントは、右ハンドルの車両が法規により左側車線を走行する地域において、車両は対向車線から外れる方向となる。その結果、制御系の異常時の走行安全性を向上させることができる。
本実施例においては、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FR,RL、常開の保持弁153FR4,RL4,マスタ通路76,常開のマスタ遮断弁194FR4,ブレーキシリンダ42FL,FR,52RL等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、単一型液圧分配部を含む。
【0066】
また、制御系の異常時に、互いに対角位置にある車輪のブレーキシリンダにサーボ圧が供給されるようにすることができる。例えば、図14(a)に示すブレーキ回路において、マスタ遮断弁194FR3を常閉弁とすることができる。本実施例においては、左前輪2,右後輪48のブレーキシリンダ42FL,52RRにサーボ圧が供給される。図14(b)に示すように、ステアリングホイール302が左側に設けられた車両において、右側車輪(アームが長い方)に加えられる制動力が左側車輪(アームが短い方)に加えられる制動力より小さくなるため、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。同様に、図15(a)に示すブレーキ回路において、マスタ遮断弁194FL4を常閉弁とすることができる。本実施例においては、右前輪4,左後輪46のブレーキシリンダ42FR,52RLにサーボ圧が供給される。図15(b)に示すように、ステアリングホイール300が右側に設けられた車両において、左側車輪(アームが長い方)に加えられる制動力が右側車輪(アームが短い方)に加えられる制動力より小さくなるため、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。
【実施例8】
【0067】
液圧ブレーキシステムは、図16に示すブレーキ回路を含むものとすることができる。その他の部分については実施例1における場合と同様である。図16に示す液圧ブレーキ回路において、マスタシリンダ62の加圧室72には、メカ弁入力通路310を介してメカ式増圧装置96に接続される。また、メカ式増圧装置96には、バイパス通路136が設けられるため、加圧室72は、メカ弁入力通路310,バイパス通路136,サーボ圧通路190,共通通路94,個別通路150FL,150FRを介してブレーキシリンダ42FL,FRに接続されることになる。そのため、これらメカ弁入力通路310,バイパス通路136,サーボ圧通路190,共通通路94,個別通路150FL,FR等によりマスタ通路(メカ式増圧装置96をバイパスしない通路であり、非直結型マニュアル通路311と称することができる)が構成されると考えることができる。
【0068】
また、メカ式増圧装置96と動力式液圧源64との間の高圧通路132には、高圧側逆止弁100と直列に、高圧遮断弁312が設けられる。本実施例において、高圧遮断弁312が高圧側逆止弁100より動力式液圧源64側に設けられるが、配置は問わない。高圧遮断弁312の開状態においては、高圧側逆止弁100の機能が発揮される。メカ式増圧装置96から動力式液圧源64へ向かう作動液の流れが阻止され、動力式液圧源64の液圧がメカ式増圧装置96の液圧より大きい場合に、動力式液圧源64からメカ式増圧装置96への作動液の流れが許容される。しかし、高圧遮断弁312の閉状態においては、高圧側逆止弁100の機能が発揮されない。高圧室114における作動液の流入・流出が阻止され、メカ式増圧装置96の作動が阻止される。
【0069】
さらに、メカ弁入力通路310の途中には、実施例1における場合と同様に、入力側遮断弁148が設けられるが、入力側遮断弁148は、閉状態において、ブレーキシリンダへのマスタシリンダ62の作動液の流入を阻止するため、マスタ遮断弁に対応すると考えることができる。入力側遮断弁148は非直結型マニュアル通路に設けられるのであり、常開弁である。また、本実施例においては、減圧リニア制御弁316が共通通路94とリザーバ78との間に設けられる。減圧リニア制御弁316は図3に示す増圧リニア制御弁172と構造はほぼ同じものであり、共通通路94の液圧とリザーバ78の液圧との差圧に応じた差圧作用力が弁子180を弁座182から離間させる方向に作用する。そして、ソレノイド186への供給電流の連続的な制御により、共通通路94の液圧の大きさが制御される。なお、減圧リニア制御弁316は不可欠ではなく、実施例1における場合と同様に、保持弁153の開状態において、減圧弁156を用いて共通通路94の液圧を減圧制御することもできる。
【0070】
さらに、共通通路94の、サーボ圧通路190の接続部と個別通路150RRの接続部との間には分離弁320が設けられる。分離弁320は、常閉の電磁開閉弁である。換言すれば、メカ式増圧装置96は、共通通路94の分離弁320が設けられた部分より前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが接続される側の部分に接続される。また、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRに対応して設けられた保持弁153RLa,RRaは、常開弁とされる。
【0071】
なお、分離弁320は不可欠ではない。また、保持弁153RLa,RRaは常閉弁とすることもできる。
【0072】
一方、本実施例において、出力側遮断弁192は設けられない。高圧遮断弁312の閉状態においてメカ式可動部98が作動し難くされる。また、入力側遮断弁148の閉状態においてマスタシリンダ62の液圧が大径側室110に供給されることがないのであり、マスタシリンダ62の液圧により段付きピストン104が前進させられることはない。そのため、高圧遮断弁312が閉状態とされ、かつ、入力側遮断弁148が閉状態とされることにより、出力側遮断弁を閉状態にした場合とほぼ同様の効果が得られる。そのため、出力側遮断弁をメカ式増圧装置96の出力側に設ける必要性は低いのである。また、加圧室72にマスタ通路74(直結型マスタ通路)が接続されていなし。マスタ通路311(非直結型マスタ通路)が設けられているため、並行して、マスタ通路74を設ける必要性は低いのである。さらに、マスタ通路76に、マスタシリンダ圧センサ222FRが設けられる。マスタシリンダ圧センサが2つ設けられることにより、一方が異常になっても他方によりマスタシリンダ圧を検出することができる。
【0073】
<液圧ブレーキ装置における作動>
1)システムが正常である場合
図17に示すように入力側遮断弁148が閉状態とされ、シミュレータ制御弁202が開状態とされ、高圧遮断弁312が閉状態とされる。また、左右後輪46,48の減圧弁156RL,RRが閉状態とされ、分離弁320が開状態とされる。ブレーキシリンダ42FRがマスタシリンダ62から遮断され、メカ式増圧装置96の作動が禁止された状態で、動力式液圧源64の出力液圧を利用して、共通通路94の液圧が、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁316により制御され、ブレーキシリンダ42,52に供給される。共通通路94とメカ式増圧装置96の小径側室112とは連通状態にあるが、入力側遮断弁148が閉状態にあるため、小径側室112の液圧がマスタ入力通路310に戻されることはない。また、高圧遮断弁312が閉状態にあるため、アキュムレータ66の液圧が高圧室114に供給されることはないのであり、小径側室112の液圧は保持される。後述するように、小径側室112の液圧がピストン内逆止弁130を経て大径側室110に供給されることにより、段付きピストン104が前進させられ、開弁部材125に当接して、ピストン内連通路129が塞がれる。また、入力側遮断弁148が閉状態にあるため、原則として、段付きピストン104の後退は阻止される。そのため、このことが、共通通路94の液圧の制御に影響を与えることは殆どないと考えられる。
本実施例においては、保持弁153RLa,RRaが常開弁とされるため、通常のブレーキ作動時にソレノイドに電流を供給する必要がなくなり、その分、消費電力の低減を図ることができる。
【0074】
2)制御系が異常である場合
図18、19に示すように、すべてのソレノイドに電流が供給されなくなることにより原位置に戻される。
2−1)大径側室110の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧以下の場合
図18に示すように、大径側室110の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧以下の場合には、加圧室72の液圧は、メカ弁入力通路310,バイパス通路136、サーボ圧通路190を経て共通通路94に供給され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42に供給される。入力側逆止弁99の開弁圧は非常に小さいため、ブレーキペダル60の操作に伴って速やかにブレーキシリンダ42に作動液を供給することが可能となり、液圧ブレーキ40の効き遅れを小さくすることができる。このように、制御系の異常時に、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが作動させられるため、車両の重心が左右方向のほぼ中心にある場合に、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。
【0075】
2−2)加圧室72の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧より大きい場合
2−2−1)アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より大きい場合
ポンプ装置65の作動が停止させられても、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より大きい場合には、メカ式可動部98の作動が許可される。図19の実線が示すように、大径側室110の液圧によって段付きピストン104が前進させられ、開弁部材125に当接し、高圧供給弁116が開状態に切り換えられる。小径側室112が大径側室110から遮断され、アキュムレータ66から高圧側逆止弁100を経て高圧室114に高圧の作動液が供給される。小径側室112の液圧(サーボ圧)は、マスタシリンダ62の液圧より高くされ、共通通路94に供給され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,42RRに供給される。小径側室112の液圧は、大径側室110の液圧と、段付きピストン104の大径部と小径部との受圧面積の比率とで決まる大きさとされる。
【0076】
2−2−2)アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧以下である場合
アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が設定圧以下である場合には、図18に示す場合と同様に、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧は、メカ弁入力通路310,バイパス通路136,サーボ圧通路190,共通通路94を経て左右前輪2,4のブレーキシリンダ42に供給される。一方、液圧ブレーキ40の作動当初は、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より高い状態にあったが、メカ式可動部98の作動によりアキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が低下して作動許可圧より低くなると、アキュムレータ66から高圧室114に作動液が供給されなくなる。それにより、メカ式可動部98の作動が不能となる。例えば、ポンピングブレーキ操作が行われた場合には、アキュムレータ66の作動液の消費量が多くなり、アキュムレータ圧が低くなることがある。段付きピストン104の前進が阻止され(ストッパに当接すると考えられる)、小径側室112の液圧はそれ以上高くなることがないのであり、メカ式可動部98は倍力機能を発揮できなくなる。小径側室112の液圧より加圧室72の液圧の方が高くなり、図19の破線が示すように、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧が、バイパス通路136,サーボ圧通路190を経て共通通路94に供給される。マスタシリンダ62の加圧室72の液圧は、倍力されることなく、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,42FRに供給される。
【0077】
また、分離弁320が閉状態にあるため、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL、52RRに、メカ式可動部98の液圧が供給されないようにされている。その結果、液不足が抑制され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL、FRの増圧不足を抑制することができる。さらに、マスタシリンダ62において加圧室72の容積を大きくすることができる。加圧室72の容積を大きくすれば、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRの両方に作動液が供給される場合であっても、液量不足が生じることを回避することができる。この場合には、運転者のブレーキペダル60のストロークが大きくなることもある。
【0078】
3)漏れの可能性がある場合
図20に示すように、入力側遮断弁148が開状態とされ、高圧遮断弁312が閉状態とされ、マスタ遮断弁194FRが開状態とされる。また、左右後輪46,48について減圧弁156RL,RRが閉状態とされる。また、分離弁320が閉状態とされ、右前輪4の保持弁153FRが閉状態とされる。
(a)左右後輪46,48のブレーキシリンダ52は、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42から遮断された状態で、動力式液圧源64の液圧が増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁316によって制御されて、供給される。
(b)右前輪4のブレーキシリンダ42FRには、3輪のブレーキシリンダ42FL、52RL、RRから遮断された状態で、マスタシリンダ62の加圧室70の液圧が供給される。
(c)左前輪2のブレーキシリンダ42FLには、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RR、右前輪4のブレーキシリンダ42FRから遮断された状態で、加圧室72の液圧が、メカ式増圧装置96(バイパス通路136)を通って供給される。
この場合において、高圧遮断弁312が閉状態にあるため、入力側遮断弁148が開状態にあってもメカ式可動部98の作動が阻止される。そのため、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRには、等しい液圧が供給される。
【0079】
また、高圧遮断弁312が閉状態とされることにより、動力式液圧源64の液圧がメカ式増圧装置96に供給されることが阻止され、3つのブレーキ系統330FL,FR,Rを互いに独立にすることができる。仮に、高圧遮断弁312が開状態にある場合(高圧遮断弁312が設けられていない場合)には、動力式液圧源64の液圧が、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52を含むブレーキ系統330Rにも、左前輪2のブレーキシリンダ42FLを含むブレーキ系統330FLにも供給され、これらブレーキ系統330R、330FLを独立にすることができない。そのため、仮に、ブレーキ系統330FLにおいて液漏れが生じたとした場合には、動力式液圧源64の液圧がブレーキ系統330FLにおいて消費され、ブレーキ系統330Rにも影響が及ぶ場合がある。それに対して、高圧遮断弁312が閉状態とされれば、仮に、ブレーキ系統330FLにおいて液漏れが生じた場合であっても、動力式液圧源64からメカ式増圧装置96を経て流出させられることを阻止することができる。
【0080】
すなわち、高圧遮断弁312が閉状態とされ、かつ、分離弁320が閉状態とされることにより、それぞれ、3つのブレーキ系統330FL,FR,Rを互いに独立とすることができる。そのため、これら3つのブレーキ系統のうちの1つにおいて液漏れが生じても、それの影響が他のブレーキ系統に及ばないようにすることができる。ブレーキ系統330FRは、ブレーキシリンダ42FR、マスタ通路76,加圧室70,収容室80等を含むものであり、ブレーキ系統330FLは、ブレーキシリンダ42FL、個別通路150FL,共通通路94,サーボ圧通路190,メカ式増圧装置96,マスタ入力通路310,加圧室72,収容室82等を含むものであり、ブレーキ系統330Rは、ブレーキシリンダ52RL,RR,個別通路150RL、RR,動力式液圧源64,収容室84等を含むものである。したがって、ブレーキ系統330FR,FL,Rが互いに独立にされるということは、マスタリザーバ78の収容室80,82,84も互いに独立にされるということである。
【0081】
また、制御系が異常(例えば、ポンプ装置65の作動が不能であるが、電磁開閉弁の制御が可能)であり、かつ、アキュムレータ66に蓄えられた液圧が作動許可圧より低い場合には、図18の状態に切り換えるより、図20の状態に切り換えた方が有効な場合がある。メカ式可動部98の作動が禁止された状態においては、図18の状態において、左右前輪のブレーキシリンダ42FL,FRに、加圧室72の液圧が供給されるのに対して、図20の状態においては、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRに、それぞれ、加圧室72,70が連通させられる。それにより、ブレーキシリンダ42FL,FRの各々における作動液不足が生じ難くすることができる。
【0082】
4)液圧ブレーキが解除される場合
ブレーキ操作が解除されると、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、図16の原位置に戻される。また、メカ式増圧装置96において、段付きピストン104が開弁部材125から離間させられる。左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRの液圧はピストン内連通路129,ピストン内逆止弁130を経てマスタシリンダ62(マスタリザーバ78)に戻される。また、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRの液圧は、減圧弁156を経てリザーバ78に戻される。
【0083】
5)イグニッションスイッチ234のOFF状態
すべての電磁開閉弁のソレノイドに電流が供給されなくなることにより、図16に示す原位置に戻される。実施例1における場合と同様に、3つのブレーキ系統330FR,FL,Rが独立にされるため、1つの系統で液漏れが生じても、他の系統に、その影響が及ぶことが良好に回避される。また、メカ式増圧装置96には流出防止装置が設けられるため、メカ式増圧装置96を通るマスタリザーバ78からの作動液の流出を阻止ることができる。
【0084】
6)メカ式増圧装置96のチェック
本実施例においては、予め定められたチェック条件が成立すると、メカ式増圧装置96の作動が正常であるか否かのチェックが行われる。
図21のフローチャートで表されるチェックプログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。S11において、チェック条件が成立するか否かが判定される。チェック条件が成立しない場合には、チェックが行われることはないが、チェック条件が成立すると、S12においてメカ式増圧装置96の作動チェックが行われる。本実施例においては、(i)イグニッションスイッチ234がOFFからONに切り換えられた後の最初にブレーキペダル60が作用操作された場合、(ii)車両が停止状態にある場合に成立したとされる。車輪速度センサ230の検出値に基づいて取得された車両の走行速度が停止状態にあるとみなし得る設定速度以下である場合に、車両が停止状態にあると考えることができる。
【0085】
このように、チェックは、ブレーキペダル60の作用操作状態で行われる。また、チェックは車両の停止状態において行われることが望ましいが、停止状態に行うことは不可欠ではない。さらに、チェックにはチェック1,チェック2の2つの方法がある。チェック1,2は、適宜、選択的に行われるようにしても、チェック条件が成立した場合に、チェック1,2の両方が行われるようにしても、マスタシリンダ液圧が設定圧以上の場合にチェック1が行われ、設定圧より低い場合にチェック2が行われるようにすることができる。後述するように、マスタシリンダ液圧の設定圧は、チェック1によってメカ式増圧装置96の作動が正常であるか否かの判定を正確に行い得る大きさとすることができる。設定圧はチェック可能圧と称することができる。
【0086】
6−1)チェック1
チェック1においては、メカ弁可動部98の入力液圧Pin(Pm)とメカ弁可動部98の出力液圧Pout(Pwc)とを比較して、メカ式増圧装置96の作動が正常であるか否かが検出される。図22(a)に示すように、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁316を閉状態として、入力側遮断弁148を開状態、高圧遮断弁314を開状態として、メカ式増圧装置96の作動を許可する。そして、マスタシリンダ圧センサ222FLの検出値Pm(メカ弁可動部98の入力液圧Pin)と、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値Pw(メカ弁可動部98の出力液圧Pout)とを比較する。これらが、図22(b)に示す正常領域R内に属する場合に、メカ式増圧装置96の作動は正常であると判定することができる。それに対して、正常領域R内にない場合には、メカ式増圧装置96の作動が異常であると判定される。図22(b)の実線は、メカ式増圧装置96の作動が正常である場合のPinとPoutとの関係を示す。
【0087】
メカ式増圧装置96の作動が異常であるのは、(a)動力式液圧源64の異常(動力式液圧源64の出力液圧が低い場合、動力式液圧源64から高圧の液圧が供給されない場合であり、例えば、アキュムレータ66の液漏れ、ポンプモータ92の故障、高圧通路132の液漏れ等の原因が考えられる)、(b)高圧遮断弁312の閉固着異常、(c)メカ式増圧装置96の異常(メカ式可動部98が作動しない場合であり、例えば、段付きピストン104の食い付き等の作動不能異常、高圧供給弁116の閉固着異常等の原因が考えられる)、(d)入力側遮断弁148の開固着異常等のうちの少なくとも1つが原因であると考えられる。また、マスタシリンダ圧センサ222FL、ブレーキシリンダ圧センサ226の異常、分離弁320の閉固着異常、液漏れ等も考えられる。それに対して、メカ式増圧装置96の作動が正常である場合には、メカ式可動部98の作動が正常であり、かつ、動力式液圧源64から高圧の作動液が供給され、高圧遮断弁312,入力側遮断弁148が指令通りに開状態に切り換わったと考えられる。換言すれば、メカ式増圧装置96の作動が正常である場合には、メカ式増圧装置96が正常である場合のみならず、メカ式増圧装置96の作動に関連する部材、装置等も正常であると判定することができる。
【0088】
なお、入力液圧Pinとして、マスタシリンダ圧センサ222FLの検出値を利用したが、マスタシリンダ圧センサ222FRの検出値を利用したり、ストロークセンサ218の検出値に基づいて推定した値を利用したりすること等もできる。
また、上述の(a)動力式液圧源64、(b)高圧遮断弁312、(c)メカ式増圧装置96、(d)入力側遮断弁148のうちの少なくとも1つが正常であることが予めわかっている場合、あるいは、さらに詳細に、これらの構成部材が正常であることが分かっている場合において、メカ式増圧装置96の作動が異常であると判定された場合には、その異常の原因を取得することができる場合がある。
【0089】
6−2)チェック2
チェック2において、メカ式入力側遮断弁148の閉状態、高圧遮断弁312の閉状態で、段付きピストン104が前進して、高圧供給弁114が開状態に切り換わるように、小径側室112の液圧を増加させる。その後、高圧遮断弁312を開状態に切り換わるように制御した後の、小径側室112の液圧の変化に基づいて、メカ式増圧装置96の作動が正常であるか否かが判定される。
6−2−1)チェック前制御
図23に示すように、メカ式入力側遮断弁148、高圧遮断弁312の閉状態で、増圧リニア制御弁172、減圧リニア制御弁316の制御により、共通通路94の液圧が目標液圧Pref1とされる。目標液圧Pref1は、段付きピストン104の作動開始圧より大きい値であり、高圧供給弁116が開状態に切り換えられたはずの値である。段付きピストン104が後退端位置にある場合には、ピストン内連通路129により、小径側室112と大径側室110とが連通した状態にある。小径側室112に液圧が供給されることにより、液圧がピストン内連通路129,ピストン内逆止弁130を経て大径側室110に供給される。大径側室110の液圧が作動開始圧より小さい場合には、ピストン内連通路129は開放状態に保たれ、図25(a)の実線に沿って、小径側室112の液圧の増加に伴って大径側室110の液圧が増加させられる。これらの液圧は同じ大きさにある(Pin=Pout)。
【0090】
その後、大径側室110の液圧が作動開始圧に達すると、段付きピストン104が前進させられる。段付きピストン104が開弁部材125に当接することによりピストン内連通路129が塞がれ、開弁部材125が前進させられ、高圧供給弁116が開状態に切り換えられるはずである。小径側室112の液圧は、大径側室110の液圧より大きくなるのであり、サーボ圧となる。図25(a)の一点鎖線が示すように、小径側室112の液圧の増加に伴って大径側室110の液圧も大きくされる。そして、小径側室112の液圧(ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値)が、増圧リニア制御弁172の制御により、目標液圧Pref1に近づけられる。目標液圧Pref1に達した後に、主として減圧リニア制御弁316の制御により、小径側室112の液圧が減圧させられ、目標液圧Pref2に近づけられる。図25(a)に示すように、メカ式可動部98のヒステリシスにより、小径側室112の液圧と大径側室110の液圧とがほぼ等しくなる。本実施例においては、小径側室112の液圧の増加により段付きピストン104が前進させられた後に、小径側室112の液圧を減少させるため、通常のブレーキ作動時と比較すると、液圧変化の向きが逆になる(ヒステリシスが逆になる)。
【0091】
なお、ブレーキペダル60が作用操作された状態でチェックが行われるため、保持弁153は開状態、減圧弁156が閉状態にあるのであり、すべてのブレーキシリンダ42,52の液圧は目標液圧Pref1とされる。この意味において、目標液圧Pref1は、運転者の要求制動力で決まる大きさにすることができる。たいていの場合には、作動開始圧より大きいという要件は満たす。
【0092】
6−2−2)高圧遮断弁312の切換え
次に、図24に示すように、増圧リニア制御弁172、減圧リニア制御弁316を閉状態として、小径側室112の周辺に閉空間を形成する。小径側室112およびブレーキシリンダ液圧センサ226を含む空間を、リザーバ78,動力式液圧源64から遮断するとともに、マスタシリンダ62からも遮断する(マスタ遮断弁194FRは閉状態とされている)。この状態で、高圧遮断弁312が閉状態から開状態に切り換わるように、ソレノイドへの供給電流を制御する(供給電流を0とする)。動力式液圧源64から高圧の作動液が小径側室112に供給されれば、小径側室112の液圧が直ちに増加させられる。本実施例においては、図25(b)に示すように、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値PwcがPref1まで増加させられ、その後、一点鎖線に沿って増加させられるはずである。したがって、高圧遮断弁312が閉状態から開状態に切り換わるようにソレノイドへの供給電流を制御した後に、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が、液圧Pref1より低い場合、換言すれば、検出値Pwcの増加量ΔPwcが判定しきい値ΔPth(=Pref1−Pref2)より小さい場合には、メカ式増圧装置96の作動が正常でないと判定される。
【0093】
S12において、チェック2が行われる場合についてのルーチンを図26に示す。
S21において、入力側遮断弁148が閉状態となるように制御するとともに、高圧遮断弁312が閉状態となるように制御する。S22において、増圧リニア制御弁172への供給電流の制御により、小径側室112(共通通路94、ブレーキシリンダ42,52)の液圧が増圧制御される。そして、S23において、ブレーキシリンダ液圧センサ226の検出値Pwcが目標液圧Pref1に近づいたか否かが判定される。目標液圧Pref1に近づくまでの間、S22,23が繰り返し実行される。目標液圧Pref1に近づいた場合には、S24において、主として減圧リニア制御弁316の制御により、小径側室112の液圧が減圧制御される。S25において、小径側室112の液圧がほぼ目標液圧Pref2に近づいたか否かが判定される。目標液圧Pref2に近づくまで減圧リニア制御弁316の制御が継続させられる。その後、S26において、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁312が閉状態とされ、高圧遮断弁312が開状態とされることにより、閉空間が形成される。そして、S27において、ブレーキシリンダ液圧センサ226の検出値PwcがPref1以上になったか否かが判定される。ブレーキシリンダ液圧が増加した場合には、S28において、メカ式増圧装置96の作動が正常であると判定され、増加しない場合には、S29において、メカ式増圧装置96の作動は正常でないと判定される。
【0094】
このように、本実施例においては、ブレーキペダル60が作用操作された状態で、すなわち、通常制動時にチェックを行うことができる。そのため、チェックの機会を増やすことができ、液圧ブレーキシステムの信頼性を向上させることができる。
また、入力側遮断弁148が閉状態にあるため、ブレーキペダル60に加えられる反力が、チェックに起因して変化することがなく、運転者の操作フィーリングの低下を抑制することができる。
さらに、入力側遮断弁148が閉状態にあるため、目標液圧Prefを運転者のブレーキ操作状態とは関係がない大きさとすることもできる。チェック1においては、入力液圧Pmがチェック可能圧より低い場合には、メカ式増圧装置96の作動が正常であるか否かの判定を正確に行うことができない。それに対して、チェック2においては、目標液圧Pref1,2を、任意の大きさ(作動開始圧より大きい範囲で)とすることができるため、メカ式増圧装置96の作動が正常であるか否かの判定を正確に行うことが可能となり、液圧ブレーキシステムの信頼性を向上させることができる。
【0095】
なお、S27が実行される前に、予め定められた設定時間が経過するまで待つこともできる。本実施例においては、小径室側112の液圧の変化の有無を正確に検出することができる。
また、目標液圧Pref1の大きさは、運転者の要求制動トルクに応じた大きさとすることは不可欠ではない。高圧供給弁116を開状態に切り換え可能な大きさ以上であれば、目標液圧の大きさは問わない。
さらに、チェック2は、ブレーキペダル60の非操作状態において、換言すれば、図示しないパーキングブレーキが作用状態にある場合(シフト位置がパーキング位置にある場合でもよい)に、実行することができる。その場合には、すべての保持弁153を閉状態としたり、左右後輪のブレーキシリンダ52に対応する保持弁153RL,RRを閉状態とすることができる。本実施例においては、小径側室112,ブレーキシリンダ圧センサ226を含む閉空間を狭くすることができ、小径側室112の液圧変化を正確に検出することができる。また、目標液圧Pref1の大きさを、運転者の要求制動トルクに応じた大きさとする必要性が低い。
【0096】
また、チェック2において、S24,25のステップは不可欠ではない。小径側室112の液圧が目標液圧Pref1に達した後に(S23の判定がYESの場合)、高圧側遮断弁312を閉状態から開状態に切り換える制御を行うことができる。その場合には、小径側室112の液圧、すなわち、ブレーキシリンダ液圧は、図25(c)に示すように、一点鎖線に沿って増加するはずである。そのため、高圧側遮断弁312が閉状態から開状態に切り換える制御が行われた後の予め定められた設定時間が経過した後の、ブレーキシリンダ液圧が、液圧Pref1より異常判定しきい値ΔPth以上増加した場合に、メカ式可動部98の作動が正常であるとされる。
【0097】
さらに、S23において、目標液圧Pref1に設定時間内に達しなかった場合、S25において、目標液圧Pref2に設定時間内に達したなかった場合にも、メカ式増圧装置96の作動が正常でないと判定することができる。
また、高圧遮断弁312を、閉状態から開状態に切り換わるように制御した後に、ブレーキシリンダ液圧Pwcが過渡的に増加した場合に、メカ式増圧装置の作動が正常であると判定することも可能である。
さらに、イグニッションスイッチ234がONからOFFに切り換えられた後にチェックが実行されるようにすることもできる。この場合には、小径側室112の目標液圧の大きさを任意の大きさとすることができる。
また、第1チェック部によってチェックが行われる場合においても小径側室112の液圧が制御されるようにすることも可能である。
さらに、本実施例は、液圧ブレーキシステムに限らず、広く液圧作動システムに適用することができる。
【0098】
本実施例においては、ブレーキECU56のチェックプログラムを記憶する部分、実行する部分により増圧装置チェック装置が構成される。そのうちの、S12を記憶する部分、実行する部分により、第1チェック部、第2チェック部が構成される。第1チェック部、第2チェック部は、入力遮断状態チェック実行部、作用中チェック部でもある。第1チェック部において、第1チェックを実行することによりメカ式増圧装置96の作動が正常であると判定する部分により第1正常判定部が構成され、第2チェック部において、S27,28を記憶する部分、実行する部分等により第2正常判定部、サーボ状態移行時正常判定部(S24,25が実行されなかった場合には、サーボ状態増圧時正常判定部)が構成され、S26を記憶する部分、実行する部分等により高圧遮断弁制御部が構成され、S22〜26を記憶する部分、実行する部分等により、チェック前出力側液圧制御部が構成され、そのうちの、S22,23を記憶する部分、実行する部分等により増圧制御部が構成され、S24,25を記憶する部分、実行する部分等により減圧制御部が構成される。また、S26を記憶する部分、実行する部分等により閉空間形成部が構成される。
【0099】
以上、複数の実施例について説明したが、これら複数の実施例のうちの2つ以上を互いに組み合わせて実施することもできる。
その他、本発明は、複数の実施例を組み合わせた態様で実施することができる等、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0100】
40,50:液圧ブレーキ 42,52:ブレーキシリンダ 54:液圧制御部 56:ブレーキECU 60:ブレーキペダル 62:マスタシリンダ 64:動力式液圧源 66:アキュムレータ 70,72:加圧室 74,76:マスタ通路 94:共通通路 96:メカ式増圧装置 98:メカ式可動部 99:入力側逆止弁 100:高圧側逆止弁 104:段付きピストン 110:大径側室 112:小径側室 116:高圧供給弁 132:高圧側逆止弁 136:バイパス通路 148:入力側遮断弁 150:個別通路 153:保持弁 156;減圧弁 170:動力液圧通路 172:増圧リニア制御弁 190:サーボ圧通路 192:出力側遮断弁 218:ブレーキスイッチ 220:ストロークセンサ 222:マスタシリンダ圧センサ 226:ブレーキシリンダ圧センサ 228:レベルウォーニング 250FL,FR,R:ブレーキ液圧系統 260,270,280:流れ抑制装置 272、282:第1逆止弁 274.284:第2逆止弁 300,302:ステアリングホイール 330FL,FR,R:ブレーキ液圧系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、運転者によって操作可能なブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させる少なくとも1つのマニュアル式液圧源と、
少なくとも、前記少なくとも1つのマニュアル式液圧源のうちの1つの液圧により作動させられ、前記1つのマニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を出力可能な増圧装置と、
その増圧装置と前記1つのマニュアル式液圧源との間に設けられた電磁開閉弁である入力側遮断弁と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
当該液圧ブレーキシステムが、前記車両に設けられた複数の車輪の各々に対応して設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられ、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキを含むとともに、前記マニュアル式液圧源を2つ含み、かつ、
それら2つのマニュアル式液圧源の一方が、前記複数のブレーキシリンダのうちの少なくとも1つである第1ブレーキシリンダに前記増圧装置をバイパスして第1マニュアル通路を介して接続され、
前記2つのマニュアル式液圧源のうちの他方が、前記複数のブレーキシリンダのうちの少なくとも1つである第2ブレーキシリンダに前記増圧装置を介して接続され、
前記入力側遮断弁が、その他方のマニュアル式液圧源と前記増圧装置との間に設けられた常開弁であり、
前記他方のマニュアル式液圧源が前記1つのマニュアル式液圧源に対応する請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
当該液圧ブレーキシステムが、
前記他方のマニュアル式液圧源に接続されたストロークシミュレータと、
そのストロークシミュレータの作動が許可された場合に、前記入力側遮断弁を閉状態とし、前記ストロークシミュレータの作動が阻止された場合に、前記入力側遮断弁を開状態とする第1入力側遮断弁制御装置と
を含む請求項1または2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
当該液圧ブレーキシステムが、
前記車両の複数の車輪にそれぞれ設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させる動力式液圧源と、
その動力式液圧源の液圧を利用して、前記複数のブレーキシリンダの液圧を電気的に制御可能な動力液圧制御装置と、
その動力液圧制御装置が前記複数のブレーキシリンダの液圧を制御可能な状態である場合に、前記入力側遮断弁を閉状態とする第2入力側遮断弁制御装置と
を含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−116344(P2012−116344A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268323(P2010−268323)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】