説明

液状樹脂組成物と半導体装置

【課題】半導体パッケージ実装に際しての接続補強において、補強効果の低下を伴わず、耐温度サイクル性との両立を図ることのできる新しい液状樹脂組成物と、これを用いて接続補強された半導体装置を実現する。
【解決手段】
(A)常温で液状のエポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂、(B)硬化剤並びに(C)硬化促進剤を必須成分とする液状樹脂組成物であって、(D)エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物であるビニルエステル樹脂と(E)ラジカル重合開始剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状樹脂組成物とその硬化物によりフリップチップ接続部等のパッケージ接続部が補強された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型携帯電子機器の普及についてLSI装置の小型化が進んでいる。このため、CSP、BGAなどの各種のパッケージが普及している。そして、これらのパッケージの実装面積を小さくするためのフリップチップ接続法等の実装にともなうパッケージの接続についての様々な工夫、改良が進められている。
【0003】
例えばフリップチップ接続においては接続部での半田によるバンプを補強するために、アンダーフィルとしての液状エポキシ樹脂等の硬化物による補強が試みられている(たとえば特許文献1)。
【0004】
ただ、このような半導体パッケージの接続補強においては、機械的な衝撃によって破壊されることを抑制する低応力性を付与することと、高温・低温の環境に対しての耐温度サイクル性とを両立することは必ずしも容易でなく、実際上の大きな課題になっている。
【0005】
例えば従来では、一般的に樹脂組成物に低応力性を付与する際には、シリコーン系改質剤やポリブタジェン系改質剤などが添加されている(たとえば特許文献2)。しかしながら、これらの改質剤の添加については、樹脂組成物の粘度を増大させるためその添加量に限界があり、実質的に十分な低応力化ができていないのが実状である。また他には、樹脂組成物の硬化状態においてゴム状領域をより低温側にシフトすることで低応力化を図ることも考えられている。しかし、このようなシフトによれば、高温側でのバンプ補強効果が低下してしまうという問題があった。
【0006】
このように、低応力化と耐温度サイクル性の両立は大きな課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3819148号公報
【特許文献2】特開2009−132779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解消して、半導体パッケージ実装に際しての接続補強において、補強効果の低下を伴わず、耐温度サイクル性との両立を図ることのできる新しい液状樹脂組成物と、これを用いた接続補強された半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液状樹脂組成物は、前記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0010】
第1:(A)常温で液状のエポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂、(B)硬化剤並びに(C)硬化促進剤を必須成分とする液状樹脂組成物として、(D)エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物であるビニルエステル樹脂と(E)ラジカル重合開始剤を含有する。
【0011】
第2:前記ビニルエステル樹脂(D)成分を、前記エポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂(A)成分100質量部に対して10〜200質量部の範囲内で含有する。
【0012】
第3:前記ビニルエステル樹脂(D)成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物である。
【0013】
第4:前記エポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂(A)成分100質量部に対して、無機充填材を150質量部以下の割合で含有する。
【0014】
また、本発明は、以上いずれかの液状樹脂組成物の硬化物によってパッケージの接続部が補強されていることを特徴とする半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上記第1の発明によれば、半導体パッケージ実装に際しての接続補強において、補強効果の低下を伴わず、耐温度サイクル性との両立を図ることができる。
【0016】
また、ビニルエステル樹脂(D)成分を特定割合で配合する第2の発明並びにこれを特定の反応生成物とする第3の発明によれは、高温時の補強機能の向上をより確実に、顕著なものとすることができる。
【0017】
無機充填材を特定割合で配合する第4の発明によれば、高温時の補強機能をより顕著に向上させることができる。
【0018】
そして、第5の発明においては以上のとおりの効果が、接続補強された半導体装置において実現される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における液状樹脂組成物を構成する樹脂成分としての(A)常温で液状のエポキシ樹脂またはエポキシアクリレート樹脂については、一分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物の樹脂であることが好ましい。これらは、いわゆる「常温」としての、大気圧下での室温18℃前後、目安としての5℃〜28℃の温度範囲において液状の各種のものであってよい。
【0020】
室温において液状となれば、市販されている液体のエポキシ樹脂や固体のエポキシ樹脂を適宜併用することができる。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有すビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができる。
【0021】
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0022】
また、本発明では、エポキシアクリレート樹脂についても同様に各種のものであってよい。これらは1種単独でもよいし、2種以上、さらには前記エポキシ樹脂との併用であってもよい。
【0023】
(B)硬化剤についても同様に通常エポキシ樹脂を硬化するものであればよい。たとえば、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン等のアミン系硬化剤。無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等の酸無水物硬化剤を挙げることができる。
【0024】
また、本発明において用いられる(C)硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機ホスフィン系硬化促進剤、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン7、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン系硬化促進剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0025】
以上の(A)成分樹脂、(B)硬化剤、そして(C)硬化促進剤の配合割合については、通常は、質量比として(B)/(A)=0.5〜0.8、(C)/(B)=0.01〜0.1の範囲を考慮することができる。また、(A)成分樹脂については、後述の無機充填材の配合の有無等も考慮して、一般的には、目的とする液状樹脂組成物の全体量に対して8〜80質量%の範囲内とする。
【0026】
(D)エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物であるビニルエステル樹脂については、これを得るためにメタクリル酸と反応させるエポキシ樹脂としては特に限定されるものではなく、室温において樹脂組成物が液状となれば、市販されている液体のエポキシ樹脂や固体のエポキシ樹脂を適宜併用することができる。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができる。
【0027】
なかでも、硬化物による高温時のバンプ等の補強機能を顕著に向上させるとの観点からはビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0028】
この(D)エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物であるビニルエステル樹脂は、前記の(A)常温で液状のエポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂100質量部に対して一般的には0.5〜500質量部の範囲内において配合することが考慮される。このビニルエステル樹脂の配合量を少くする場合にはチップ等への接続応力を低減することができ、配合量を増やすことで高温時のバンプ等の補強機能を向上させることができる。
【0029】
本発明の液状樹脂組成物の用途、目的に応じて接続応力の低減と接続の補強機能の向上とのバランスをとることになるが、10〜200質量部の範囲内で配合することがより好ましい。
【0030】
(E)ラジカル重合開始剤の具体例としては、たとえば、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシド、イソブチルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、クメンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のアルキルパーエステル類、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチルカーボネート等のパーカーボネート類等の有機化酸化物や、過酸化水素等の無機酸化物が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
この(E)ラジカル重合開始剤については、前記(D)成分ビニルエステル樹脂に対する質量比として、(E)/(D)=0.01〜0.1の範囲とすることが一般的に考慮される。
【0032】
さらに本発明の液状樹脂組成物については必要に応じて無機充填材を配合してもよい。この配合により高温時の補強機能の向上が期待される。
【0033】
無機充填材としては、特に制限なく適宜のものを用いることができる。その具体例としては、溶融シリカ、結晶シリカ、微粉シリカ、アルミナ、窒化珪素、マグネシアなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用しても用いてもよい。
【0034】
無機充填材の配合量は、液状樹脂組成物の全量に対して好ましくは30〜75質量%である。無機充填材の配合量が過小であると、熱膨張係数が大きくなり半導体の信頼性が低下する場合がある。無機充填材の量が過剰であると、粘度が高くなり半導体チップと回路基板との隙間への充填性が低下する場合がある。無機充填材の平均粒子径としては、通常は0.1〜20μmの範囲内であることが考慮される。
【0035】
本発明の液状樹脂組成物の製造に際しては、前記のエポキシ樹脂またはエポキシアクリレート樹脂とともに、硬化剤、硬化促進剤、ビニルエステル樹脂、ラジカル重合開始剤、およびその他の所要の添加剤を同時または別々に配合、必要に応じて熱処理や冷却処理を行いながら、攪拌、溶解、混合、分散を行う。ついでこの混合物に無機充填材を加え、必要に応じて加熱処理や冷却処理を行いながら、再度、攪拌、混合、分散を行うことにより、本発明の液状樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
本発明の液状樹脂組成物は、従来と同様にしてフリップチップ方式の半導体装置のバンプ接続の補強に用いることができる。また、フリップチップ方式の半導体装置以外にも、BGA型、POP型BGA、TAB型BGA、CSPなどの接続を補強する二次補強の用途にも適用可能である。
【0037】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。
【0038】
もちろん、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
表1に示した液状樹脂組成物を調製するための成分として以下のものを用いた。
【0040】
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:東都化成YD8125 エポキシ当量170
・硬化剤:新日本理化 MH−700
・硬化促進剤:四国化成 2E4M2−CN
・ビニルエステル樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメタクリル酸の反応物であるビニルエステル樹脂
・ラジカル重合開始剤:日本化薬 クメンハイドロパーオキサイド
・無機充填材:QS9(MRCユニテック、平均粒子径9μm)
これらの成分を表1に示した配合割合および、前記方法に従って攪拌混合した液状樹脂組成物を調製した。
【0041】
得られた液状樹脂組成物について以下の方法によってその性能を評価した。
<温度サイクル(TC)試験評価>
半導体PKG用のチップとして(チップサイズ0.75mm厚、10mm角)を用い、回路基板として、FR−4の回路基板を用いた。半導体PKG用のチップを回路基板に実装した後、樹脂組成物を半導体チップと回路基板との隙間に注入充填し、165℃5時間で硬化させることにより半導体装置を製造した。
【0042】
硬化後の半導体装置について電気的動作をおこない、良品であったものについて−55℃で5分、150℃5分を1サイクルとする液相の温度サイクル試験を行い、1000サイクル後の半導体装置の動作を行い良否を判定した。不良率が0〜30%の場合を○、40%〜60%の場合を△、70%〜100%の場合を×として評価した。
<チップへの応力評価>
半導体PKG用のチップ(チップサイズ0.1mm厚、10mm角)を用いた。チップ裏面に樹脂を塗布し高さがハンダバンプと同じになるよう調整する。165℃5時間で硬化させた。硬化後のチップのそり量をモアレを使用して計測しアンダーフィルがチップに与える応力を評価した。
【0043】
この応力評価では、160以下であることが好ましいものとして判定される。より好ましくは140以下である。
<評価結果>
以上の方法による結果も表1に示した。本発明の実施例1〜6によれば、半導体パッケージ実装に際しての接続補強において、補強効果の低下を伴わず、耐温度サイクル性との両立を図ることのできる新しい液状樹脂組成物と、これを用いて接続補強された半導体装置が実現されることがわかる。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)常温で液状のエポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂、(B)硬化剤並びに(C)硬化促進剤を必須成分とする液状樹脂組成物であって、(D)エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物であるビニルエステル樹脂と(E)ラジカル重合開始剤を含有することを特徴とする液状樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビニルエステル樹脂(D)成分を、前記エポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂(A)成分100質量部に対して10〜200質量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1に記載の液状樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビニルエステル樹脂(D)成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメタクリル酸との反応生成物であることを特徴とする請求項1または2に記載の液状樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂もしくはエポキシアクリレート樹脂(A)成分100質量部に対して、無機充填材を150質量部以下の割合で含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の液状樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の液状樹脂組成物の硬化物によってパッケージの接続部が補強されていることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2011−202134(P2011−202134A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73516(P2010−73516)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】