温度ひび割れセンサ
【課題】所定の温度条件下で所定の周波数帯の振動を検出してひび割れを検出する温度ひび割れセンサを提供する。
【解決手段】所定の温度条件下で所定の周波数帯の振動を検出してひび割れを検出する温度ひび割れセンサ1であって、コイル状に巻かれ所定の接着剤7で固められた光ファイバ4と、ひび割れが発生したときに生じる振動が印加される振動印加部2と、光ファイバ4への入射光L1と出射光L2との間の周波数変化に基づいて振動を検出する振動検出部3とを備える。所定の温度条件は−162℃以上0℃以下、所定の周波数帯は10kHz以上1000kHz以下、所定の接着剤は水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有する。
【解決手段】所定の温度条件下で所定の周波数帯の振動を検出してひび割れを検出する温度ひび割れセンサ1であって、コイル状に巻かれ所定の接着剤7で固められた光ファイバ4と、ひび割れが発生したときに生じる振動が印加される振動印加部2と、光ファイバ4への入射光L1と出射光L2との間の周波数変化に基づいて振動を検出する振動検出部3とを備える。所定の温度条件は−162℃以上0℃以下、所定の周波数帯は10kHz以上1000kHz以下、所定の接着剤は水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度条件下において所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出する温度ひび割れセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を構成するコンクリートの健全性をモニタリングするために、コンクリート内部におけるひび割れの進行度合いを検出する技術がある。例えば、このような技術では、コンクリート内部においてひび割れが生じたときに発生する振動(AE:Acoustic Emission、以下単に「AE」ともいう。)を検出してコンクリート内部におけるひび割れの進行度合いを検出する。
【0003】
このAEを検出できるセンサとして、例えば特許文献1には、高いS/N比を実現可能な振動センサが記載されている。このセンサは、コイル状に形成された光ファイバを有し、光ファイバを通過する光の波長の変化を用いて、センサに印加された振動を検出する。また、このAEを検出できるセンサとして、低温条件環境において使用可能な圧電素子型の振動センサが製品化されている。このセンサは、圧電素子に加えられた力に応じて出力される電圧の変化を用いて、センサに印加された振動を検出する。
【0004】
一方、光ファイバをコイル状に成形させるために、接着剤が用いられる。代表的な接着剤として、エポキシ樹脂からなるものが挙げられる。エポキシ樹脂は硬化剤によって硬化させることができ、加工性、絶縁性等に優れるため、電気・電子関係の分野で利用されている。しかしながら、耐熱性が不足する問題がある。この問題の解決のため本出願人らは、ビスフェノール型エポキシ樹脂とメトキシシラン部分縮合物とを脱メタノール反応させてなるメトキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂を用いることで、当該樹脂を硬化してなる硬化物がガラス転移点を消失し、高耐熱性材料となることを、既に見出している(特許文献2、3)。この方法では、硬化物を得るために、樹脂組成物中のメトキシシリル基をゾル−ゲル硬化させ、エポキシ基をエポキシ硬化させて、エポキシ樹脂−シリカハイブリッド硬化物とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3121936号公報
【特許文献2】特許3077695号
【特許文献3】特許3570380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたセンサを低温環境において使用したときはセンサ自身が発する自己ノイズが問題になる。これ故、対象物においてひび割れが生じたときに発生するAEを検出して、精度良く対象物のひび割れを検出することが困難になるおそれがある。また、低温環境において使用可能な圧電素子型のセンサであっても、−100℃以下の極低温環境下では、AEを検出して精度良く対象物のひび割れを検出することが困難になるおそれがある。
【0007】
上記問題に対して、本発明は、所定の温度条件下において所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出することができる温度ひび割れセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温度ひび割れセンサは、所定の温度条件下で対象物の所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出する温度ひび割れセンサであって、コイル状に巻かれ所定の接着剤で固められた光ファイバを有し、対象物の振動が印加される振動印加部と、光ファイバの一端に入射される入射光と光ファイバの他端から出射される出射光との間における周波数の変化に基づいて対象物の振動を検出する振動検出部と、を備え、所定の温度条件は摂氏マイナス162度以上摂氏0度以下であり、所定の周波数帯は10kHz以上1000kHz以下であり、所定の接着剤は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有する。
【0009】
この温度ひび割れセンサは、対象物の振動が印加される振動印加部が、コイル状に巻かれ所定の接着剤で固められた光ファイバを有している。この光ファイバに光を通過させた状態で振動印加部に振動が印加されると、光ファイバを通過する光の周波数が変化する。そして、対象物の振動を検出する振動検出部が、光ファイバの一端に入射される入射光と光ファイバの他端から出射される出射光の間における周波数の変化に基づいて、対象物に印加された振動を検出する。これ故、対象物においてひび割れが生じたときに発生する所定の周波数帯の振動を検出して、対象物のひび割れを検出できる。さらに、所定の接着剤はアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有する。これ故、温度ひび割れセンサ自身が発する自己ノイズを低減できる。従って、−162℃以上0℃以下の温度条件下において、10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを精度良く検出できる。
【0010】
また、本発明の温度ひび割れセンサは、対象物が、天然ガス貯槽のコンクリート壁であるとしてもよい。
【0011】
液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas、以下単に「LNG」ともいう。)は、気体である天然ガスを−162℃以下に冷却して液体にしたものである。これ故、LNGを貯蔵する貯槽を構成するコンクリート壁は、−162℃以上0℃以下の温度範囲まで冷却される可能性がある。本発明の温度ひび割れセンサは、−162℃以上0℃以下の温度条件下において10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を精度良く検出できる。従って、天然ガス貯槽のコンクリート壁の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、コンクリート壁の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【0012】
また、本発明の温度ひび割れセンサは、対象物が、天然ガス貯槽を覆う岩盤であるとしてもよい。この場合、コンクリート壁を覆う岩盤の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、岩盤の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による温度ひび割れセンサによれば、所定の温度条件下において所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る温度ひび割れセンサを適用したLNG貯槽の構成を説明するための図である。
【図2】図1に示されたLNG貯槽の構成を説明するための図である。
【図3】本実施形態に係る温度ひび割れセンサの構成を説明するための図である。
【図4】温度ひび割れセンサの実施例を説明するための図である。
【図5】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図6】比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図7】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図8】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図9】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図10】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図11】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図12】温度ひび割れセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態の温度ひび割れセンサ1が適用された貯槽30の構成を示す図である。図1を参照して、貯槽30の構成について説明する。貯槽30は内部に天然ガスを貯蔵する設備である。天然ガスは、貯槽30の内部において液体(LNG)33又は気体34の状態で貯蔵されている。貯槽30は地表35から100m程度の地下に設けられる。貯槽30は、地表35へLNGを払い出す箇所にピット36を備えている。ピット36には、貯槽30のLNGを吸い上げるためのポンプ37が配置されている。貯槽30の内部は、天然ガスを液化した状態で貯蔵するために、−162℃の低温状態にされている。そのため、貯槽30は、複数の層を有する隔壁31により周囲の岩盤32と貯槽30の内部とが隔てられている。隔壁31の内部には、ひび割れの発生に起因するAEを検出するための温度ひび割れセンサ1が複数埋設されている。また、貯槽30の周囲の岩盤32の内部にも、ひび割れの発生に起因するAEを検出するための温度ひび割れセンサ1が複数埋設されている。
【0016】
原油、液化石油ガスに続くエネルギー資源として、LNGが注目されている。LNGは、メタンを主成分とした天然ガスを冷却して液化した無色透明の液体である。LNGは−162℃まで冷却すると液体になる。液化された天然ガスの体積は、気体の天然ガスの体積の約600分の1である。LNGは、液化すると体積が減少する性質を利用することによりLNGガスを大量に輸送し、貯蔵することができる。
【0017】
また、地上空間の有効活用等の理由から、貯槽30は地下に建設される。貯槽30では、−162℃まで冷却されたLNGを貯槽30の内部に保持している。このため、覆工コンクリート壁を含む隔壁31の内側31aと外側31bとでは、温度差が生じる。この温度差のため、隔壁31の内部には温度応力が生じる可能性がある。さらに、貯槽30周辺の岩盤32も伝導で低温になる。この岩盤32を一枚の岩と仮定すると、岩盤32が低温に晒されて収縮する。貯槽30の隔壁31に引張応力が内在すると共に、岩盤32には水で飽和された亀裂が内在すると想定すると、岩盤32は亀裂に存在する水が凍ることにより膨張する。そうすると、貯槽30の隔壁31に圧縮応力が作用する。従って、隔壁31の内部にひび割れが発生する要因となりえる。
【0018】
このように地下に建設された隔壁31を有する貯槽30にひび割れが発生すると、LNGは液体の状態を保持できないので、貯槽30から漏出するおそれがある。そのため、貯槽30の構造の健全性は、貯槽30の運用中に常時モニタリングする必要がある。貯槽30の健全性は、例えば隔壁31の内部において発生するひび割れの進行度合いにより評価される。
【0019】
図2を参照して、貯槽30の隔壁31の構成について説明する。図2(a)を参照すると、隔壁31は、貯槽30の内部の側から順に、メンブレン41、耐火板42、保冷材43、覆工コンクリート壁44を有している。さらに、覆工コンクリート壁44は地中連壁45を介して地盤46に接している。地盤46の所定の位置には、ヒータ47が設けられている。例えば、メンブレン41は、およそ2mmの厚さを有する鋼板(SUS304等)からなる。例えば、耐火板42は、およそ2mmの厚さを有する。例えば、保冷材43は、およそ200mmの厚さを有するポリウレタンフォーム(PUF)からなる。例えば、覆工コンクリート壁44は、およそ2300mmの厚さを有する。例えば、地中連壁45は、およそ1200mmの厚さを有する。地中連壁45からおよそ2000mmだけ離間した位置に、ヒータ47が配置されている。例えば、メンブレン41の表面温度がおよそ−162℃であるとき、保冷材43と覆工コンクリート壁44とが接する面はおよそ−50℃程度である。また、例えば、メンブレン41の表面温度がおよそ−162℃であるとき、地中連壁45と地盤46とが接する面はおよそ0℃程度である。このような構成を有する隔壁31において、例えば、覆工コンクリート壁44の内部に温度ひび割れセンサ1が埋設される。
【0020】
また、隔壁31は、図2(b)に示される隔壁31Bのような構成を有することもできる。図2(a)の構成と相違する点は、覆工コンクリート壁44の外側に、防水シート44bを介して吹付コンクリート48が配置され、さらに吹付コンクリート48は岩盤49に接している点である。このような構成では、例えば、覆工コンクリート壁44は、およそ400mmの厚さを有する。例えば、防水シート44bは、およそ2mmの厚さを有する。吹付けコンクリート48は、およそ200mmの厚さを有する。例えば、メンブレン41の表面温度がおよそ−162℃であるとき、吹付コンクリート48と岩盤49とが接する面はおよそ−40℃程度である。このような構成を有する隔壁31Bにおいて、例えば覆工コンクリート壁44の内部に温度ひび割れセンサ1が埋設される。
【0021】
次に、温度ひび割れセンサ1の構成について詳細に説明する。本実施形態の温度ひび割れセンサ1は、低温条件下で対象物の所定の周波数帯の振動を検出して、対象物のひび割れを検出する。本実施形態では、貯層30を構成する覆工コンクリート壁44、又は覆工コンクリート壁44を囲む岩盤32が対象物である。図3を参照すると、温度ひび割れセンサ1は、振動印加部2と振動検出部3とを備えている。コイル部6は接着剤7で固められている。コイル部6は光ファイバ4を所定の方向Aに積層され、且つ方向Aと直交する方向に積層されて、コイル状の形状をなす。このようにコイル状に巻かれて厚みを持たせた形状に構成されることで、光ファイバ4の長さを長くしてセンサ感度を向上させることができる。
【0022】
コイル部6は略円筒状の外形形状を有する。コイル部6の中心部は中空であり、ボビンのような支持部材は配置されていない。光ファイバ4は、入射部(一端)8と、出射部(他端)9を有している。入射部8は、カプラ11を介して振動検出部3と光学的に接続されている。また、出射部9は、カプラ12を介して振動検出部3と光学的に接続されている。光ファイバ4は、ポリイミド樹脂で被覆された石英ガラスファイバである。入射部8には、振動検出部3からカプラ11を介して入射光L1が入射される。この入射光L1は、振動計測が可能な程度に位相が揃ったコヒーレントな光である。出射部9は、カプラ12を介してコイル部6を通過した出射光L2を振動検出部3に出射する。
【0023】
振動検出部3は、光ファイバ4の入射部8に入射された入射光L1と出射部9から出射された出射光L2との間における周波数変化を検出する。振動検出部3は、周波数変化を検出することにより、振動印加部2に印加された振動v1を検出する。振動検出部3は、光源13、検出部14、及び処理部15を備えている。
【0024】
接着剤7はコイル部6の端面6a,6b、側周面6c、及び内壁面6dに配置されている。接着剤7は、コイル部6の光ファイバ4の束に含浸され硬化されてコイル部6を固め、光ファイバ4をコイル状の形状に保つ。接着剤7は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有している。
【0025】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させることによって得られる。
【0026】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の原料である、水酸基含有エポキシ樹脂(A)(以下、単にエポキシ樹脂(A)という)は、アルコキシシラン部分縮合物(C)と脱アルコール反応しうる水酸基を含有するエポキシ樹脂であれば、特に限定されないが、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンまたはβ−メチルエピクロルヒドリン等のハロエポキシドとの反応により得られたビスフェノール型エポキシ樹脂が機械的性質、化学的性質、電気的性質、汎用性などを考慮して好適である。ビスフェノール類としてはフェノールとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のアルデヒド類もしくはケトン類との反応の他、ジヒドロキシフェニルスルフィドの過酸による酸化、ハイドロキノン同士のエーテル化反応等により得られるものがあげられる。また当該エポキシ樹脂(A)としては、2,6−ジハロフェノールなどハロゲン化フェノールから誘導されたハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂、リン化合物を化学反応させたリン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂など、難燃性に特徴があるものを使用することもできる。ビスフェノール類以外のエポキシ樹脂としては、例えば上記ビスフェノール型エポキシ樹脂を水添して得られる脂環式エポキシ樹脂の他、下記のような公知エポキシ樹脂(a)中のエポキシ基の一部に酸、アミン、フェノール類を反応させ当該エポキシ基を開環してなる水酸基含有エポキシ樹脂が挙げられる。このようなエポキシ樹脂(a)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂にハロエポキシドを反応させて得られるノボラック型エポキシ樹脂;フタル酸、ダイマー酸などの多塩基酸類およびエピクロロヒドリンを反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸などのポリアミン類とエピクロロヒドリンを反応させて得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸などの過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂および脂環式エポキシ樹脂、ビフェノール類とエピクロロヒドリンを反応させて得られるビフェニル型エポキシ樹脂などがあげられる。
【0027】
エポキシ樹脂(A)は、アルコキシシラン部分縮合物(C)との脱アルコール縮合反応により、珪酸エステルを形成しうる水酸基を有するものである。当該水酸基は、エポキシ樹脂(A)を構成する全ての分子に含まれている必要はなく、これら樹脂として、水酸基を有していればよい。上記のようなエポキシ樹脂(A)のなかでも、汎用性を考えるとビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、特に、ビスフェノール類としてビスフェノールAを用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂が、低価格であり好ましい。
【0028】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、一般式(a):
【0029】
【化1】
【0030】
で表される化合物である。例えば、上記一般式(a)においてmは、m=1〜5の整数である。
【0031】
なお、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)において、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、特に限定されず、エポキシ樹脂(A)の構造により、用途に応じたものを適宜に選択して使用できる。しかしながら、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を無溶剤下に製造する場合には、エポキシ樹脂(A)として、1種類以上のビスフェノール型エポキシ樹脂を用いて、全体としてのエポキシ当量を200〜400g/eqとなる様に調整するのが好ましい。すなわち、無溶剤下にアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を製造する場合には、溶剤系で反応させる場合よりも反応系内の粘度が上昇するため、当該粘度を調整する観点からエポキシ樹脂(A)の種類を選択するものである。
【0032】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)において、エポキシ樹脂(A)と1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)(以下、単にエポキシ化合物(B)という)はいずれも、アルコキシシラン部分縮合物(C)と脱アルコール縮合反応して、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を与える。そのため、エポキシ樹脂(A)中には、水酸基が存在しなければならないが、例えば、一般式(a)のビスフェノールA型エポキシ樹脂の場合には、水酸基を持たない分子(一般式(a)におけるm=0の分子)も存在する。水酸基を持たないエポキシ樹脂分子はアルコキシシラン部分縮合物(C)とは反応しないため、未反応のままアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中に存在している。当該分子は、硬化時にエポキシ樹脂硬化剤を介してシラン変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂分子と化学結合することになるが、エポキシ樹脂(A)中に水酸基を持たない分子が多く含まれる場合には、最終的に得られる硬化物が十分な耐熱性を発現しない。
【0033】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)では、水酸基を持たないエポキシ樹脂分子が多く存在するエポキシ樹脂(A)を使用した場合であっても、得られる硬化物に十分な耐熱性を付与するために、エポキシ化合物(B)を必須構成成分としたものである。すなわち、エポキシ化合物(B)は、硬化物の耐熱性の低下を防止する作用効果を有する。アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造に際して、エポキシ化合物(B)の使用量は特に限定されず、エポキシ樹脂(A)中の水酸基を持たない分子の含有量に応じて適宜に決定すればよい。硬化物の耐熱性の観点から、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が200g/eq未満の場合には、エポキシ化合物(B)の重量/エポキシ樹脂(A)の重量=0.05以上であり、当該エポキシ当量が200〜300g/eqの場合には該重量比が0.03以上であり、当該エポキシ当量が300g/eqを超える場合は該重量比が0.01以上であるのが好ましい。なお、エポキシ化合物(B)は、多少の毒性を有するものも多いため、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のエポキシ化合物(B)残存量を極力少なくするのがよい。上記重量比が0.3を超える場合には、未反応エポキシ化合物(B)を低減させるためにアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造時間が長くなり、製造効率が低下する。
【0034】
エポキシ化合物(B)としては、1分子中に水酸基を1つもつエポキシ化合物であれば、エポキシ基の数は特に限定されない。また、エポキシ化合物(B)としては、分子量が小さいもの程、エポキシ樹脂(A)やアルコキシシラン部分縮合物(C)に対する相溶性がよく、耐熱性付与効果が高いことから、炭素数が15以下のものが好適である。その具体例としては、エピクロロヒドリンと、水、2価アルコールまたはフェノール類とを反応させて得られる分子末端に1つの水酸基を有するモノグリシジルエーテル類;エピクロロヒドリンとグリセリンやペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールとを反応させて得られる分子末端に1つの水酸基を有するポリグリシジルエーテル類;エピクロロヒドリンとアミノモノアルコールとを反応させて得られる分子末端に1つの水酸基を有するエポキシ化合物;分子中に1つの水酸基を有する脂環式炭化水素モノエポキシド(例えば、エポキシ化テトラヒドロベンジルアルコール)などが例示できる。これらのエポキシ化合物の中でも、グリシドールが耐熱性付与効果の点で最も優れており、またアルコキシシラン部分縮合物(C)との反応性も高いため、最適である。
【0035】
また、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂を構成するアルコキシシラン部分縮合物(C)としては、酸又は塩基触媒の存在下、下記アルコキシシラン化合物および水を加え、部分的に加水分解、縮合したものを用いることができる。
【0036】
当該アルコキシシラン化合物としては、例えば、一般式(b):
R1pSi(OR2)4−p
(式中、pは0または1を示す。R1は、炭素原子に直結した官能基を持っていてもよい低級アルキル基、アリール基または不飽和脂肪族残基を示す。R2はメチル基またはエチル基を示し、R2同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で表される化合物を例示できる。
【0037】
アルコキシシラン部分縮合物(C)の構成原料である上記アルコキシシランの具体的としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等があげられる。
【0038】
上記アルコキシシラン部分縮合物(C)としては、当該構成原料であるアルコキシシラン化合物のうちのメトキシシラン類から得られるものが、エポキシ樹脂(A)やエポキシ化合物(B)との反応性に富み、比較的低温で硬化物を調製できるため好ましく、特に汎用性を考慮するとテトラメチトキシシラン、メチルトリメトキシシランが更に好ましい。
【0039】
アルコキシシラン部分縮合物(C)は、例えば次の一般式(c)または(d)で示される。一般式(c):
【0040】
【化2】
【0041】
(式中、R1は、炭素原子に直結した官能基を持っていてもよい低級アルキル基、アリール基又は不飽和脂肪族残基を示す。R2はメチル基またはエチル基を示し、R2同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0042】
一般式(d):
【0043】
【化3】
【0044】
(一般式(d)中、R2は一般式(c)中のR2と同じ。)
【0045】
当該アルコキシシラン部分縮合物(C)の数平均分子量は230〜2000程度、一般式(c)および(d)において、平均繰り返し単位数nは2〜11が好ましい。nの値が11を超えると、溶解性が悪くなり、反応温度において、エポキシ樹脂(A)との相溶性が著しく低下し、エポキシ樹脂(A)やエポキシ化合物(B)との反応性が落ちる傾向があるため好ましくない。nが2未満であると反応途中に反応系外にアルコールと一緒に留去されてしまい好ましくない。
【0046】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を、溶剤の存在下または無溶剤下に脱アルコール縮合反応させることにより得られる。エポキシ樹脂(A)およびエポキシ化合物(B)と、アルコキシシラン部分縮合物(C)との使用重量比は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中にアルコキシ基が実質的に残存するような割合であれば特に制限はされないが、エポキシ樹脂(A)の水酸基とエポキシ化合物(B)の水酸基との合計当量/アルコキシシシラン部分縮合物(C)のアルコキシ基の当量(当量比)=0.1〜0.6であることが好ましい。更に好ましくは0.13〜0.5である。
【0047】
なお、エポキシ樹脂(A)として平均エポキシ当量400以上の高分子量のものやアルコキシシラン部分縮合物(C)として前記一般式(C)の平均繰り返し単位数n>7を使用原料とする場合には、エポキシ樹脂(A)の水酸基が完全に消失するまで、脱アルコール縮合反応を行うと高粘度化、ゲル化する傾向が見られる場合がある。このような場合には、脱アルコール反応を反応途中で、停止させたり、エポキシ化合物(B)/エポキシ樹脂(A)(水酸基当量比)が0.33を超えるような条件を選択するなどの方法により高粘度化、ゲル化を防ぐことが可能である。たとえば、反応を途中で停止させる方法としては、高粘度化してきた時点で、反応系を還流系にして、反応系からメタノールの留去量を調整したり、反応系を冷却し反応を終了させる方法等を採用できる。
【0048】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)の製造は、前記のように、溶剤存在下または無溶剤下で行うことができる。この脱アルコール縮合反応では、反応温度は50〜130℃程度、好ましくは70〜110℃であり、全反応時間は1〜15時間程度である。この反応は、アルコキシシラン部分縮合物(C)自体の重縮合反応を防止するため、実質的に無水条件下で行うのが好ましい。またアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造は、反応時間を短くするため、エポキシ化合物(B)が蒸発しない範囲で、減圧下で行うこともできる。
【0049】
また、上記の脱アルコール縮合反応に際しては、反応促進のために従来公知の触媒の内、エポキシ環を開環しないものを使用することができる。該触媒としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、硼素、カドミウム、マンガンのような金属;これら金属の酸化物、有機酸塩、ハロゲン化物、アルコキシド等があげられる。これらのなかでも、特に有機錫、有機酸錫が好ましく、具体的には、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等が有効である。
【0050】
また、上記の脱アルコール縮合反応は、溶剤存在下または無溶剤下で行うことができる。しかしながら、エポキシ樹脂(A)やアルコキシシラン部分縮合物(C)の分子量が大きい時には、反応温度において、反応系が不均一となる場合が見られ反応が進行しにくくなるため、溶剤を使用するのが好ましい。溶剤としては、エポキシ樹脂(A)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を溶解し、且つこれらに対し非活性である有機溶剤であれば特に制限はない。このような有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンなどの非プロトン性極性溶媒が例示できる。
【0051】
こうして得られたアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)は、アルコキシシラン部分縮合物のアルコキシ基が、エポキシ樹脂残基やグリシジル基で置換されたものを主成分とするが、当該樹脂中には未反応のエポキシ樹脂(A)、エポキシ化合物(B)、アルコキシシラン部分縮合物(C)が含有されていてもよい。なお、未反応のアルコキシシラン部分縮合物(C)は、ゾル−ゲル硬化反応によりシリカとすることができる。
【0052】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)は、その分子中にアルコキシシラン部分縮合物(C)に由来するアルコキシ基を有している。当該アルコキシ基の含有量は、特に限定はされないが、このアルコキシ基は溶剤の蒸発や加熱処理により、又は水分(湿気)との反応により、ゾル−ゲル反応や脱アルコール縮合して、相互に結合した硬化物を形成するために必要となるため、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂は通常、反応原料となるアルコキシシラン部分縮合物(C)のアルコキシ基の30〜95モル%、好ましくは40〜80モル%を未反応のままで保持しておくのが良い。かかる硬化物は、ゲル化した微細なシリカ部位(シロキサン結合の高次網目構造)を有するものである。かかる硬化物は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の固形残分中のSi含有量が、シリカ重量換算で2〜50重量%となることが好ましい。固形残分中のシリカ重量換算Si含有量とは、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のアルコキシシリル部位が上記ゾル−ゲル硬化反応を経て、シリカ部位に硬化した時のシリカ部位の重量パーセントである。
【0053】
このような構成を有する化合物として、荒川化学工業株式会社製コンポラセンEシリーズを用いることができる。
【0054】
また、エポキシ樹脂用硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されている、フェノール樹脂系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、ポリカルボン酸系硬化剤、イミダゾール系硬化剤等を特に制限なく使用できる。具体的には、フェノール樹脂系のものとしては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリp−ビニルフェノール等があげられ、ポリアミン系硬化剤としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジシアンジアミド、ポリアミドアミン(ポリアミド樹脂)、ケチミン化合物、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、m−キシレンジアミンとスチレンの反応生成物、m−フェニレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−3,3′―ジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジシアンジアミド等があげられ、ポリカルボン酸系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸があげられ、またイミダゾール系硬化剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルへキシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウム・トリメリテート、2−フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート等があげられる。上記エポキシ樹脂用硬化剤は、エポキシ環と反応して開環硬化させるだけではなく、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のアルコキシシリル部位やアルコキシ基が互いにシロキサン縮合していく反応の触媒ともなる。
【0055】
エポキシ樹脂用硬化剤の使用割合は、通常、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し、硬化剤中の活性水素を有する官能基が0.2〜1.5当量程度となるような割合で配合して調製される。
【0056】
また、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進するための硬化促進剤を含有することができる。例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などをあげることができる。
【0057】
また、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)中のエポキシ基はエポキシ重合触媒が存在する限り、硬化反応が進行するため、必ずしもエポキシ樹脂硬化剤を必要ではない。このようなエポキシ重合触媒としては、ルイス酸とそのトリアルキルオキソニウム塩、カルボニウム塩やアンモニウム塩などのカチオン重合触媒や3級アミンなどアニオン重合触媒が挙げられる。特にアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂に対する溶解性やポットライフを考慮すると、アンモニウムテトラフルオロボレートなどルイス酸のアンモニウム塩やトリエチルアミンなど脂肪族3級アミンが好適である。
【0058】
前記の硬化促進剤やエポキシ重合触媒は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂のエポキシ基や任意成分として用いたエポキシ樹脂の合計エポキシ基に対して、それぞれ0.1〜5重量部の割合で使用するのが好ましい。また、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のアルコキシシリル部位やアルコキシ基のシロキサン縮合の促進には、従来公知の酸又は塩基性触媒、金属系触媒などのゾル−ゲル硬化触媒を配合することが出来る。これらのなかでも、オクチル酸錫やジブチル錫ジラウレート、テトラプロポキシチタンなど金属系触媒が、活性が高く好ましい。
【0059】
温度ひび割れセンサ1の動作について説明する。貯槽30を構成する覆工コンクリート壁44に配置された温度ひび割れセンサ1に振動が印加されると、コイル部6を通過する光の周波数が振動v1に対応して変化する。このため、入射部8に入射された入射光L1と振動v1が印加されたコイル部6を通過した出射光L2との間では、周波数が異なっている。振動検出部3は、この周波数の変化を検出する。そして、周波数の変化に対応した振動v1のレベルを算出する。
【0060】
温度ひび割れセンサ1を冷却して、低温環境の使用に用いることができることを試験により実際に確認した。この試験では、比較例として3つのセンサを準備した。
【0061】
試験に用いた温度ひび割れセンサ1には、接着剤7として、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)としてはメチルトリメトキシシラン変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(荒川化学工業株式会社製:商品名「コンポセランE201」、エポキシ当量285g/eq)を100g、硬化剤としてはm−キシレンジアミンとスチレンの反応生成物(荒川化学工業株式会社製:商品名「コンポセランAD033」、活性水素当量103g/eq)を36.1g(エポキシ基と活性水素との当量比(モル比)が1:1となる量)を、良く混合して用いた。80℃で12時間保持する1次硬化工程を実施した後に、150℃で3時間保持する2次硬化工程を実施して、上記化合物と硬化剤を含む接着剤7を硬化させた。
【0062】
比較のための第1のセンサとして、光ファイバを被覆しているポリイミドにより光ファイバをコイル状に成形したセンサを用いた。第1のセンサは、光ファイバを被覆しているポリイミド樹脂により接着しているので、第1のセンサに占める樹脂の分量を低減できる構成を有する。このセンサに用いられている光ファイバは、温度ひび割れセンサ1に用いられている光ファイバ4と同様に、ポリイミドにより被覆された石英ガラスからなる光ファイバである。この光ファイバは、石英ガラスからなるボビンに巻かれてコイル状に成形されている。従って、第1のセンサは、光ファイバを成形する接着剤が温度ひび割れセンサ1と異なる。さらに、光ファイバが石英ガラスからなるボビンに巻かれている点で温度ひび割れセンサ1と異なる。その他の構成は、温度ひび割れセンサ1と同じである。
【0063】
また、比較のための第2のセンサとして、エポキシ系接着剤により光ファイバをコイル状に成形したセンサを用いた。このセンサに用いられている光ファイバは、温度ひび割れセンサ1に用いられている光ファイバと同様に、ポリイミドにより被覆された石英ガラスからなる光ファイバである。従って、第2のセンサは、光ファイバを成形する接着剤のみが温度ひび割れセンサ1と異なり、その他の構成は同じである。
【0064】
さらに、比較のための第3のセンサとして、市販されている低温用ピエゾセンサ(以下、PZTセンサともいう)を用いた。PZTセンサは、圧電素子型のセラミック振動子を用いた振動センサである。このPZTセンサは、圧電素子で検知した振動の外力により、圧電素子に生じる電荷を電圧に変換することにより振動を検知する。圧電素子は、例えばコバールからなるケースの内部に配置されている。
【0065】
次に、比較試験の方法と、試験に用いた装置について説明する。試験装置には、センサの温度を所定の温度に設定することが可能な第1の試験装置50と、センサを短時間で冷却することが可能な第2の試験装置60とがある。
【0066】
図4(a)を参照すると、第1の試験装置50には、断熱容器51が用いられている。断熱容器51の底部51aから開口51bまでの距離は27cmである。断熱容器51の底部51aには液体窒素52Lが配置されている。液体窒素52Lの量は、100〜300ml(ミリリットル)程度である。さらに、液体窒素52Lの上側にある空間51cには、窒素ガス52Gが配置されている。このように構成された第1の試験装置50の内部には、底部51a側が低温側であり、開口51b側が室温側になるように一定の温度勾配を有する空間が形成される。この第1の試験装置50の内部に、針金等の保持具により保持された温度ひび割れセンサ1等を底部51aから所定の高さに保持することにより、温度ひび割れセンサ1等を所定の温度に保つことができる。また、温度ひび割れセンサ1等の近傍には、温度を測定するための熱電対53が配置されている。この熱電対53は、温度ひび割れセンサ1等に接触しておらず、温度ひび割れセンサ1等の近傍の窒素ガス52Gの温度を測定している。なお、熱電対53が温度ひび割れセンサ1等に接触している場合と、温度ひび割れセンサ1等に接触していない場合との温度差は、1℃未満であることが確認されている。
【0067】
図4(b)を参照すると、第2の試験装置60には、第1の試験装置50と同様の断熱容器51が用いられている。断熱容器51の底部51aには金属製のヒートシンク61が配置されている。このヒートシンク61は予め液体窒素を用いて所定の温度に冷却されている。ヒートシンク61の上面61aには、ヒートシンク61の温度を測定するための熱電対62が配置されている。このヒートシンク61の上面61aに温度ひび割れセンサ1等を載置して、温度ひび割れセンサ1等を冷却する。温度ひび割れセンサ1等には、温度ひび割れセンサ1等の温度を測定するための熱電対63が温度ひび割れセンサ1等と接触するように配置されている。
【0068】
第1の試験装置50では、比熱が小さく熱伝導率の低い窒素ガス52Gにより温度ひび割れセンサ1等を冷却するので、温度ひび割れセンサ1等の冷却にある程度の時間を要する。一方、第2の試験装置60は、比熱が大きく、熱伝導率が高いヒートシンク61を用いているので、温度ひび割れセンサ1等を急速に冷却することができる。
【0069】
<段階降温試験>
まず、温度ひび割れセンサ1及び第1〜第3のセンサを段階的に冷却して、自己ノイズが発生する様子を確認した。温度ひび割れセンサ1等の表面温度を安定させるために、各温度ステップにおいて所定の時間保持した。この状態では、温度ひび割れセンサ1等の表面温度と温度ひび割れセンサ1等の内部温度とはほぼ同じ温度になっていると考えられる。図5は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第1のセンサの自己ノイズの発生の様子とを示す図である。図6は第2のセンサの自己ノイズの発生の様子と、第3のセンサの自己ノイズの発生の様子とを示す図である。
【0070】
図5(a)のグラフG1は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図5(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図5(b)のグラフG2は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図5(b)のグラフG3は、温度ひび割れセンサ1が測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1は、室温から−160℃程度まで冷却しても自己ノイズの受振数は1秒当たり1個以下であった。また、累積受振数は40個程度であった。
【0071】
図5(c)のグラフG4は第1のセンサの温度を表し、図5(c)の棒グラフは、第1のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図5(d)のグラフG5は第1のセンサの温度を表し、図5(d)のグラフG6は、第1のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1のセンサは、室温から−160℃程度まで冷却すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり9個程度であり、累積受振数は1900個程度であった。
【0072】
図6(a)のグラフG7は第2のセンサの温度を表し、図6(a)の棒グラフは、第2のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図6(b)のグラフG8は第2のセンサの温度を表し、図6(b)のグラフG9は、第2のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第2のセンサは、室温から−160℃程度まで冷却すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり4個程度であった。また、累積受振数は600個程度であった。
【0073】
図6(c)のグラフG10は第3のセンサの温度を表し、図6(c)の棒グラフは、第3のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図6(d)のグラフG11は第3のセンサの温度を表し、図6(d)のグラフG12は、第3のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第3のセンサは、室温から−160℃程度まで冷却すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり20個以上であった。また、累積受振数は2000個以上であった。
【0074】
図7は、温度ひび割れセンサ1及び第1〜第3のセンサの累積受振数と、冷却過程における温度との関係を示す。温度範囲は、20℃〜−150℃である。グラフG19は、温度ひび割れセンサ1の累積受振数であり、グラフG20は第2のセンサの累積受振数であり、グラフG21は第1のセンサの累積受振数であり、グラフG22は第3のセンサの累積受振数である。グラフG19を確認すると、温度ひび割れセンサ1では、累積受振数が−70℃付近から微増し、−130℃付近で増大した。グラフG21を確認すると、第1のセンサでは、累積受振数が室温から増加し、−75℃以下において急増した。グラフG20を確認すると、第2のセンサでは、累積受振数が−40℃付近から微増し、−110℃付近で増大した。グラフG22を確認すると、第3のセンサでは、累積受振数が室温から増加し、0℃以下で増大した。また、累積受振数は温度ひび割れセンサ1が最も少なく、自己ノイズの発生が抑制されていることがわかった。
【0075】
<段階昇温試験>
25℃間隔で温度ひび割れセンサ1等の温度を昇温し、自己ノイズが発生する様子を確認した。降温試験と同様に、温度ひび割れセンサ1等の表面温度を安定させるために、各温度ステップにおいて所定の時間保持した。図8は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第1のセンサの自己ノイズの発生の様子とを対比した図である。
【0076】
図8(a)のグラフG23は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図8(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図8(b)のグラフG24は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図8(b)のグラフG25は、温度ひび割れセンサ1が測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1は、−150℃付近の低温から室温まで昇温しても自己ノイズの受振数は1秒当たり1個以下であり、累積受振数は10個程度であった。
【0077】
図8(c)のグラフG26は第1のセンサの温度を表し、図8(c)の棒グラフは、第1のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図8(d)のグラフG27は第1のセンサの温度を表し、図8(d)のグラフG28は、第1のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1のセンサは、−150℃付近の低温から室温まで昇温すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり6個以上であり、累積受振数は400個程度であった。
【0078】
図9は、温度ひび割れセンサ1及び第1〜第3のセンサの累積受振数と、昇温過程における温度との関係を示す。温度範囲は、−145℃〜16℃である。グラフG29は、温度ひび割れセンサ1の累積受振数であり、グラフG30は第1のセンサの累積受振数であり、グラフG31は第2のセンサの累積受振数であり、グラフG32は第3のセンサの累積受振数である。グラフG29を確認すると、温度ひび割れセンサ1は昇温過程において自己ノイズは殆ど発生しなかった。グラフG30を確認すると、第1のセンサは−145℃から累積的に累積受振数が増加した。グラフG31を確認すると、第2のセンサは昇温過程において自己ノイズは殆ど発生しなかったが、温度ひび割れセンサ1の自己ノイズよりやや多かった。グラフG32を確認すると、−140℃付近において累積受振数が急激に増加した。また、累積受振数は温度ひび割れセンサ1が最も少なく、自己ノイズの発生が抑制されていることがわかった。
【0079】
<繰り返し降温試験>
温度ひび割れセンサ1と第1のセンサに、冷却と昇温を繰り返す温度負荷を与えて自己ノイズの発生の様子を確認した。温度負荷は、第1の温度ステップが−20℃であり第2の温度ステップが−130℃であるパターンと、第3の温度ステップが−20℃であり第4の温度ステップが−100℃であるパターンとの、2つのパターンについて行った。図10は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第1のセンサの自己ノイズの発生の様子とを対比した図である。
【0080】
図10(a)のグラフG33は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図10(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図10(b)のグラフG34は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図10(b)のグラフG35は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1の温度ステップが−20℃であり第2の温度ステップが−130℃であるパターンであるとき、1回目の降温時(グラフG35a)に最も多い50個程度の自己ノイズが確認された。また、第3の温度ステップが−20℃であり第4の温度ステップが−100℃であるとき、1回の降温及び昇温の過程において10個程度の自己ノイズが確認された。
【0081】
図10(c)のグラフG36は第1のセンサの温度を表し、図10(c)の棒グラフは、第1のセンサが1秒当たりに受賑した自己ノイズの受振数を表す。図10(d)のグラフG37は第1のセンサの温度を表し、図10(d)のグラフG37は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1の温度ステップが−20℃であり第2の温度ステップが−130℃であるパターンであるとき、1回の降温及び昇温の過程において最大1200個程度の自己ノイズが確認された。また、第3の温度ステップが−20℃であり第4の温度ステップが−100℃であるとき、1回の降温及び昇温の過程において最大600個程度の自己ノイズが確認された。
【0082】
<低温保持試験>
温度ひび割れセンサ1と第3のセンサを一定の温度に長時間保持し、自己ノイズの発生の様子を確認した。温度ひび割れセンサ1等は−80℃〜−100℃の低温環境に2時間程度保持した。図11は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第3のセンサの自己ノイズの発生の様子とを対比した図である。
【0083】
図11(a)のグラフG39は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図11(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図11(b)のグラフG40は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図11(b)のグラフG41は、温度ひび割れセンサ1が測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1では、−94℃までに30個程度の自己ノイズが確認された。その後、低温保持中において自己ノイズの累積受振数は40個程度に収束した。
【0084】
図11(c)のグラフG42は第3のセンサの温度を表し、図11(c)の棒グラフは、第3のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図11(d)のグラフG43は第3のセンサの温度を表し、図11(d)のグラフG44は、第3のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第3のセンサでは、−80℃までに200個程度の自己ノイズが確認された。その後、−94℃まで降温し、低温保持することで、自己ノイズの累積受振数は2000個を上回った。
【0085】
<温度勾配試験>
温度ひび割れセンサ1が冷却される速度により、自己ノイズの発生数がどのように変化するか確認した。ここでは、毎分−10℃の速度で冷却するパターンと、毎分−37℃の速度で冷却するパターンを温度ひび割れセンサ1に印加して、自己ノイズの発生の様子を確認した。
【0086】
図12(a)及び(b)は、毎分−10℃の速度で冷却したときの温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子を示す図である。図12(a)のグラフG45は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図12(b)のグラフG46は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(b)のグラフG46は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1に毎分−10℃の速度で冷却するパターンを印加したとき、30個程度の自己ノイズが確認された。
【0087】
図12(c)及び(d)は、毎分−37℃の速度で冷却したときの温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子を示す図である。図12(c)のグラフG48は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(c)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図12(d)のグラフG49は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(d)のグラフG50は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1に毎分−37℃の速度で冷却するパターンを印加したとき、40個程度の自己ノイズが確認された。
【0088】
以上の試験により、
第1のセンサであるポリイミドで光ファイバを接着したセンサは、段階降温試験及び段階昇温試験において、室温から−160℃までの温度範囲で、自己ノイズが発生することが確認された。第2のセンサであるエポキシ系接着剤で光ファイバを接着したセンサは、約−40℃以下から自己ノイズが発生し、−110℃では自己ノイズが急増することが確認された。従って、第2のセンサは低温条件下において対象物のひび割れを検出するセンサとして用いることが困難であることが確認された。第3のセンサである低温用PZTセンサでは、約0℃から自己ノイズが発生することが確認された。
【0089】
これらに対して、温度ひび割れセンサ1は、室温から−162℃までの温度範囲で自己ノイズの発生が抑制されていることが確認された。特に、室温から−70℃までの温度範囲では自己ノイズを殆ど生じることがなく、さらに−162℃までの温度範囲でも自己ノイズが好適に抑制されていた。また、温度ひび割れセンサ1は、0℃以下の温度範囲において、繰り返しの温度変動が印加されても自己ノイズの発生する数が増加することがなかった。また、−90℃付近の低温環境に保持されても自己ノイズの発生数が所定数よりも増加することはなかった。従って、温度ひび割れセンサ1は、−162℃以上0℃以下で用いる温度ひび割れセンサ1として好適であることが確認された。従って、温度ひび割れセンサ1は、貯槽30を構成する覆工コンクリート壁44及び岩盤32の内部に設置され、覆工コンクリート壁44及び岩盤32のひび割れの発生を検知するために好適に用いることができることが確認された。
【0090】
本実施形態の温度ひび割れセンサ1は、覆工コンクリート壁44の内部でひび割れが発生したときに生じる振動が印加される振動印加部2が、コイル状に巻かれ所定の接着剤7で固められた光ファイバ4を有している。この光ファイバ4に光を通過させた状態で振動印加部2に振動v1が印加されると、光ファイバ4を通過する光の周波数が変化する。そして、振動v1を検出する振動検出部3が、光ファイバ4の入射部8に入射される入射光L1と光ファイバの出射部9から出射される出射光L2の間における周波数の変化に基づいて、振動v1を検出する。これ故、覆工コンクリート壁44の内部においてひび割れが生じたときに発生する所定の周波数帯の振動を検出して、覆工コンクリート壁44のひび割れを検出できる。
【0091】
さらに、上述の試験で示されたように、接着剤7を用いた温度ひび割れセンサ1によれば、温度ひび割れセンサ1自身が発する自己ノイズを低減できる。従って、−162℃以上0℃以下の温度条件下において、10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを精度良く検出できる。また、覆工コンクリート壁44又は岩盤32に埋設することができるので、ひび割れの発生を地表35から常時モニタリングすることができる。
【0092】
また、温度ひび割れセンサ1は、光ファイバ4に通過させた光の周波数変化に基づいて振動を検出する。このように、温度ひび割れセンサ1は、主として赤外線のような電磁波を媒体として振動を検出する。このため、電圧が発生しないので、可燃性ガスを含む雰囲気中において温度ひび割れセンサ1を使用する場合に着火源となることがなく、いわゆる防爆性を有している。これ故、LNGを貯蔵する貯槽30のひび割れを検知するセンサとして好適に用いることができる。また、長期の耐久性を有することができる。また、貯槽30の健全性のモニタリングだけでなく、貯槽30の構造設計の妥当性検証や、運用後の貯槽30の維持管理に温度ひび割れセンサ1を用いることもできる。
【0093】
また、温度ひび割れセンサ1の対象物は、天然ガスの貯槽30の覆工コンクリート壁44である。温度ひび割れセンサ1は、−162℃以上0℃以下の温度条件下において10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を精度良く検出できる。従って、天然ガスの貯槽30における覆工コンクリート壁44の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、覆工コンクリート壁44の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【0094】
また、温度ひび割れセンサ1の対象物は、天然ガスの貯槽30を覆う岩盤32であるとしてもよい。この場合、覆工コンクリート壁44を覆う岩盤32の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、岩盤32の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【符号の説明】
【0095】
1…温度ひび割れセンサ、2…振動印加部、3…振動検出部、4…光ファイバ、7…接着剤、30…貯槽、44…覆工コンクリート壁、L1…入射光、L2…出射光。
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度条件下において所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出する温度ひび割れセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を構成するコンクリートの健全性をモニタリングするために、コンクリート内部におけるひび割れの進行度合いを検出する技術がある。例えば、このような技術では、コンクリート内部においてひび割れが生じたときに発生する振動(AE:Acoustic Emission、以下単に「AE」ともいう。)を検出してコンクリート内部におけるひび割れの進行度合いを検出する。
【0003】
このAEを検出できるセンサとして、例えば特許文献1には、高いS/N比を実現可能な振動センサが記載されている。このセンサは、コイル状に形成された光ファイバを有し、光ファイバを通過する光の波長の変化を用いて、センサに印加された振動を検出する。また、このAEを検出できるセンサとして、低温条件環境において使用可能な圧電素子型の振動センサが製品化されている。このセンサは、圧電素子に加えられた力に応じて出力される電圧の変化を用いて、センサに印加された振動を検出する。
【0004】
一方、光ファイバをコイル状に成形させるために、接着剤が用いられる。代表的な接着剤として、エポキシ樹脂からなるものが挙げられる。エポキシ樹脂は硬化剤によって硬化させることができ、加工性、絶縁性等に優れるため、電気・電子関係の分野で利用されている。しかしながら、耐熱性が不足する問題がある。この問題の解決のため本出願人らは、ビスフェノール型エポキシ樹脂とメトキシシラン部分縮合物とを脱メタノール反応させてなるメトキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂を用いることで、当該樹脂を硬化してなる硬化物がガラス転移点を消失し、高耐熱性材料となることを、既に見出している(特許文献2、3)。この方法では、硬化物を得るために、樹脂組成物中のメトキシシリル基をゾル−ゲル硬化させ、エポキシ基をエポキシ硬化させて、エポキシ樹脂−シリカハイブリッド硬化物とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3121936号公報
【特許文献2】特許3077695号
【特許文献3】特許3570380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたセンサを低温環境において使用したときはセンサ自身が発する自己ノイズが問題になる。これ故、対象物においてひび割れが生じたときに発生するAEを検出して、精度良く対象物のひび割れを検出することが困難になるおそれがある。また、低温環境において使用可能な圧電素子型のセンサであっても、−100℃以下の極低温環境下では、AEを検出して精度良く対象物のひび割れを検出することが困難になるおそれがある。
【0007】
上記問題に対して、本発明は、所定の温度条件下において所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出することができる温度ひび割れセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温度ひび割れセンサは、所定の温度条件下で対象物の所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出する温度ひび割れセンサであって、コイル状に巻かれ所定の接着剤で固められた光ファイバを有し、対象物の振動が印加される振動印加部と、光ファイバの一端に入射される入射光と光ファイバの他端から出射される出射光との間における周波数の変化に基づいて対象物の振動を検出する振動検出部と、を備え、所定の温度条件は摂氏マイナス162度以上摂氏0度以下であり、所定の周波数帯は10kHz以上1000kHz以下であり、所定の接着剤は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有する。
【0009】
この温度ひび割れセンサは、対象物の振動が印加される振動印加部が、コイル状に巻かれ所定の接着剤で固められた光ファイバを有している。この光ファイバに光を通過させた状態で振動印加部に振動が印加されると、光ファイバを通過する光の周波数が変化する。そして、対象物の振動を検出する振動検出部が、光ファイバの一端に入射される入射光と光ファイバの他端から出射される出射光の間における周波数の変化に基づいて、対象物に印加された振動を検出する。これ故、対象物においてひび割れが生じたときに発生する所定の周波数帯の振動を検出して、対象物のひび割れを検出できる。さらに、所定の接着剤はアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有する。これ故、温度ひび割れセンサ自身が発する自己ノイズを低減できる。従って、−162℃以上0℃以下の温度条件下において、10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを精度良く検出できる。
【0010】
また、本発明の温度ひび割れセンサは、対象物が、天然ガス貯槽のコンクリート壁であるとしてもよい。
【0011】
液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas、以下単に「LNG」ともいう。)は、気体である天然ガスを−162℃以下に冷却して液体にしたものである。これ故、LNGを貯蔵する貯槽を構成するコンクリート壁は、−162℃以上0℃以下の温度範囲まで冷却される可能性がある。本発明の温度ひび割れセンサは、−162℃以上0℃以下の温度条件下において10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を精度良く検出できる。従って、天然ガス貯槽のコンクリート壁の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、コンクリート壁の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【0012】
また、本発明の温度ひび割れセンサは、対象物が、天然ガス貯槽を覆う岩盤であるとしてもよい。この場合、コンクリート壁を覆う岩盤の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、岩盤の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による温度ひび割れセンサによれば、所定の温度条件下において所定の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る温度ひび割れセンサを適用したLNG貯槽の構成を説明するための図である。
【図2】図1に示されたLNG貯槽の構成を説明するための図である。
【図3】本実施形態に係る温度ひび割れセンサの構成を説明するための図である。
【図4】温度ひび割れセンサの実施例を説明するための図である。
【図5】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図6】比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図7】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図8】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図9】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図10】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図11】温度ひび割れセンサ及び比較例のセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【図12】温度ひび割れセンサの自己ノイズを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態の温度ひび割れセンサ1が適用された貯槽30の構成を示す図である。図1を参照して、貯槽30の構成について説明する。貯槽30は内部に天然ガスを貯蔵する設備である。天然ガスは、貯槽30の内部において液体(LNG)33又は気体34の状態で貯蔵されている。貯槽30は地表35から100m程度の地下に設けられる。貯槽30は、地表35へLNGを払い出す箇所にピット36を備えている。ピット36には、貯槽30のLNGを吸い上げるためのポンプ37が配置されている。貯槽30の内部は、天然ガスを液化した状態で貯蔵するために、−162℃の低温状態にされている。そのため、貯槽30は、複数の層を有する隔壁31により周囲の岩盤32と貯槽30の内部とが隔てられている。隔壁31の内部には、ひび割れの発生に起因するAEを検出するための温度ひび割れセンサ1が複数埋設されている。また、貯槽30の周囲の岩盤32の内部にも、ひび割れの発生に起因するAEを検出するための温度ひび割れセンサ1が複数埋設されている。
【0016】
原油、液化石油ガスに続くエネルギー資源として、LNGが注目されている。LNGは、メタンを主成分とした天然ガスを冷却して液化した無色透明の液体である。LNGは−162℃まで冷却すると液体になる。液化された天然ガスの体積は、気体の天然ガスの体積の約600分の1である。LNGは、液化すると体積が減少する性質を利用することによりLNGガスを大量に輸送し、貯蔵することができる。
【0017】
また、地上空間の有効活用等の理由から、貯槽30は地下に建設される。貯槽30では、−162℃まで冷却されたLNGを貯槽30の内部に保持している。このため、覆工コンクリート壁を含む隔壁31の内側31aと外側31bとでは、温度差が生じる。この温度差のため、隔壁31の内部には温度応力が生じる可能性がある。さらに、貯槽30周辺の岩盤32も伝導で低温になる。この岩盤32を一枚の岩と仮定すると、岩盤32が低温に晒されて収縮する。貯槽30の隔壁31に引張応力が内在すると共に、岩盤32には水で飽和された亀裂が内在すると想定すると、岩盤32は亀裂に存在する水が凍ることにより膨張する。そうすると、貯槽30の隔壁31に圧縮応力が作用する。従って、隔壁31の内部にひび割れが発生する要因となりえる。
【0018】
このように地下に建設された隔壁31を有する貯槽30にひび割れが発生すると、LNGは液体の状態を保持できないので、貯槽30から漏出するおそれがある。そのため、貯槽30の構造の健全性は、貯槽30の運用中に常時モニタリングする必要がある。貯槽30の健全性は、例えば隔壁31の内部において発生するひび割れの進行度合いにより評価される。
【0019】
図2を参照して、貯槽30の隔壁31の構成について説明する。図2(a)を参照すると、隔壁31は、貯槽30の内部の側から順に、メンブレン41、耐火板42、保冷材43、覆工コンクリート壁44を有している。さらに、覆工コンクリート壁44は地中連壁45を介して地盤46に接している。地盤46の所定の位置には、ヒータ47が設けられている。例えば、メンブレン41は、およそ2mmの厚さを有する鋼板(SUS304等)からなる。例えば、耐火板42は、およそ2mmの厚さを有する。例えば、保冷材43は、およそ200mmの厚さを有するポリウレタンフォーム(PUF)からなる。例えば、覆工コンクリート壁44は、およそ2300mmの厚さを有する。例えば、地中連壁45は、およそ1200mmの厚さを有する。地中連壁45からおよそ2000mmだけ離間した位置に、ヒータ47が配置されている。例えば、メンブレン41の表面温度がおよそ−162℃であるとき、保冷材43と覆工コンクリート壁44とが接する面はおよそ−50℃程度である。また、例えば、メンブレン41の表面温度がおよそ−162℃であるとき、地中連壁45と地盤46とが接する面はおよそ0℃程度である。このような構成を有する隔壁31において、例えば、覆工コンクリート壁44の内部に温度ひび割れセンサ1が埋設される。
【0020】
また、隔壁31は、図2(b)に示される隔壁31Bのような構成を有することもできる。図2(a)の構成と相違する点は、覆工コンクリート壁44の外側に、防水シート44bを介して吹付コンクリート48が配置され、さらに吹付コンクリート48は岩盤49に接している点である。このような構成では、例えば、覆工コンクリート壁44は、およそ400mmの厚さを有する。例えば、防水シート44bは、およそ2mmの厚さを有する。吹付けコンクリート48は、およそ200mmの厚さを有する。例えば、メンブレン41の表面温度がおよそ−162℃であるとき、吹付コンクリート48と岩盤49とが接する面はおよそ−40℃程度である。このような構成を有する隔壁31Bにおいて、例えば覆工コンクリート壁44の内部に温度ひび割れセンサ1が埋設される。
【0021】
次に、温度ひび割れセンサ1の構成について詳細に説明する。本実施形態の温度ひび割れセンサ1は、低温条件下で対象物の所定の周波数帯の振動を検出して、対象物のひび割れを検出する。本実施形態では、貯層30を構成する覆工コンクリート壁44、又は覆工コンクリート壁44を囲む岩盤32が対象物である。図3を参照すると、温度ひび割れセンサ1は、振動印加部2と振動検出部3とを備えている。コイル部6は接着剤7で固められている。コイル部6は光ファイバ4を所定の方向Aに積層され、且つ方向Aと直交する方向に積層されて、コイル状の形状をなす。このようにコイル状に巻かれて厚みを持たせた形状に構成されることで、光ファイバ4の長さを長くしてセンサ感度を向上させることができる。
【0022】
コイル部6は略円筒状の外形形状を有する。コイル部6の中心部は中空であり、ボビンのような支持部材は配置されていない。光ファイバ4は、入射部(一端)8と、出射部(他端)9を有している。入射部8は、カプラ11を介して振動検出部3と光学的に接続されている。また、出射部9は、カプラ12を介して振動検出部3と光学的に接続されている。光ファイバ4は、ポリイミド樹脂で被覆された石英ガラスファイバである。入射部8には、振動検出部3からカプラ11を介して入射光L1が入射される。この入射光L1は、振動計測が可能な程度に位相が揃ったコヒーレントな光である。出射部9は、カプラ12を介してコイル部6を通過した出射光L2を振動検出部3に出射する。
【0023】
振動検出部3は、光ファイバ4の入射部8に入射された入射光L1と出射部9から出射された出射光L2との間における周波数変化を検出する。振動検出部3は、周波数変化を検出することにより、振動印加部2に印加された振動v1を検出する。振動検出部3は、光源13、検出部14、及び処理部15を備えている。
【0024】
接着剤7はコイル部6の端面6a,6b、側周面6c、及び内壁面6dに配置されている。接着剤7は、コイル部6の光ファイバ4の束に含浸され硬化されてコイル部6を固め、光ファイバ4をコイル状の形状に保つ。接着剤7は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有している。
【0025】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させることによって得られる。
【0026】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の原料である、水酸基含有エポキシ樹脂(A)(以下、単にエポキシ樹脂(A)という)は、アルコキシシラン部分縮合物(C)と脱アルコール反応しうる水酸基を含有するエポキシ樹脂であれば、特に限定されないが、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンまたはβ−メチルエピクロルヒドリン等のハロエポキシドとの反応により得られたビスフェノール型エポキシ樹脂が機械的性質、化学的性質、電気的性質、汎用性などを考慮して好適である。ビスフェノール類としてはフェノールとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のアルデヒド類もしくはケトン類との反応の他、ジヒドロキシフェニルスルフィドの過酸による酸化、ハイドロキノン同士のエーテル化反応等により得られるものがあげられる。また当該エポキシ樹脂(A)としては、2,6−ジハロフェノールなどハロゲン化フェノールから誘導されたハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂、リン化合物を化学反応させたリン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂など、難燃性に特徴があるものを使用することもできる。ビスフェノール類以外のエポキシ樹脂としては、例えば上記ビスフェノール型エポキシ樹脂を水添して得られる脂環式エポキシ樹脂の他、下記のような公知エポキシ樹脂(a)中のエポキシ基の一部に酸、アミン、フェノール類を反応させ当該エポキシ基を開環してなる水酸基含有エポキシ樹脂が挙げられる。このようなエポキシ樹脂(a)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂にハロエポキシドを反応させて得られるノボラック型エポキシ樹脂;フタル酸、ダイマー酸などの多塩基酸類およびエピクロロヒドリンを反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸などのポリアミン類とエピクロロヒドリンを反応させて得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸などの過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂および脂環式エポキシ樹脂、ビフェノール類とエピクロロヒドリンを反応させて得られるビフェニル型エポキシ樹脂などがあげられる。
【0027】
エポキシ樹脂(A)は、アルコキシシラン部分縮合物(C)との脱アルコール縮合反応により、珪酸エステルを形成しうる水酸基を有するものである。当該水酸基は、エポキシ樹脂(A)を構成する全ての分子に含まれている必要はなく、これら樹脂として、水酸基を有していればよい。上記のようなエポキシ樹脂(A)のなかでも、汎用性を考えるとビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、特に、ビスフェノール類としてビスフェノールAを用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂が、低価格であり好ましい。
【0028】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、一般式(a):
【0029】
【化1】
【0030】
で表される化合物である。例えば、上記一般式(a)においてmは、m=1〜5の整数である。
【0031】
なお、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)において、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、特に限定されず、エポキシ樹脂(A)の構造により、用途に応じたものを適宜に選択して使用できる。しかしながら、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を無溶剤下に製造する場合には、エポキシ樹脂(A)として、1種類以上のビスフェノール型エポキシ樹脂を用いて、全体としてのエポキシ当量を200〜400g/eqとなる様に調整するのが好ましい。すなわち、無溶剤下にアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を製造する場合には、溶剤系で反応させる場合よりも反応系内の粘度が上昇するため、当該粘度を調整する観点からエポキシ樹脂(A)の種類を選択するものである。
【0032】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)において、エポキシ樹脂(A)と1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)(以下、単にエポキシ化合物(B)という)はいずれも、アルコキシシラン部分縮合物(C)と脱アルコール縮合反応して、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を与える。そのため、エポキシ樹脂(A)中には、水酸基が存在しなければならないが、例えば、一般式(a)のビスフェノールA型エポキシ樹脂の場合には、水酸基を持たない分子(一般式(a)におけるm=0の分子)も存在する。水酸基を持たないエポキシ樹脂分子はアルコキシシラン部分縮合物(C)とは反応しないため、未反応のままアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中に存在している。当該分子は、硬化時にエポキシ樹脂硬化剤を介してシラン変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂分子と化学結合することになるが、エポキシ樹脂(A)中に水酸基を持たない分子が多く含まれる場合には、最終的に得られる硬化物が十分な耐熱性を発現しない。
【0033】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)では、水酸基を持たないエポキシ樹脂分子が多く存在するエポキシ樹脂(A)を使用した場合であっても、得られる硬化物に十分な耐熱性を付与するために、エポキシ化合物(B)を必須構成成分としたものである。すなわち、エポキシ化合物(B)は、硬化物の耐熱性の低下を防止する作用効果を有する。アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造に際して、エポキシ化合物(B)の使用量は特に限定されず、エポキシ樹脂(A)中の水酸基を持たない分子の含有量に応じて適宜に決定すればよい。硬化物の耐熱性の観点から、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が200g/eq未満の場合には、エポキシ化合物(B)の重量/エポキシ樹脂(A)の重量=0.05以上であり、当該エポキシ当量が200〜300g/eqの場合には該重量比が0.03以上であり、当該エポキシ当量が300g/eqを超える場合は該重量比が0.01以上であるのが好ましい。なお、エポキシ化合物(B)は、多少の毒性を有するものも多いため、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のエポキシ化合物(B)残存量を極力少なくするのがよい。上記重量比が0.3を超える場合には、未反応エポキシ化合物(B)を低減させるためにアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造時間が長くなり、製造効率が低下する。
【0034】
エポキシ化合物(B)としては、1分子中に水酸基を1つもつエポキシ化合物であれば、エポキシ基の数は特に限定されない。また、エポキシ化合物(B)としては、分子量が小さいもの程、エポキシ樹脂(A)やアルコキシシラン部分縮合物(C)に対する相溶性がよく、耐熱性付与効果が高いことから、炭素数が15以下のものが好適である。その具体例としては、エピクロロヒドリンと、水、2価アルコールまたはフェノール類とを反応させて得られる分子末端に1つの水酸基を有するモノグリシジルエーテル類;エピクロロヒドリンとグリセリンやペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールとを反応させて得られる分子末端に1つの水酸基を有するポリグリシジルエーテル類;エピクロロヒドリンとアミノモノアルコールとを反応させて得られる分子末端に1つの水酸基を有するエポキシ化合物;分子中に1つの水酸基を有する脂環式炭化水素モノエポキシド(例えば、エポキシ化テトラヒドロベンジルアルコール)などが例示できる。これらのエポキシ化合物の中でも、グリシドールが耐熱性付与効果の点で最も優れており、またアルコキシシラン部分縮合物(C)との反応性も高いため、最適である。
【0035】
また、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂を構成するアルコキシシラン部分縮合物(C)としては、酸又は塩基触媒の存在下、下記アルコキシシラン化合物および水を加え、部分的に加水分解、縮合したものを用いることができる。
【0036】
当該アルコキシシラン化合物としては、例えば、一般式(b):
R1pSi(OR2)4−p
(式中、pは0または1を示す。R1は、炭素原子に直結した官能基を持っていてもよい低級アルキル基、アリール基または不飽和脂肪族残基を示す。R2はメチル基またはエチル基を示し、R2同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で表される化合物を例示できる。
【0037】
アルコキシシラン部分縮合物(C)の構成原料である上記アルコキシシランの具体的としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等があげられる。
【0038】
上記アルコキシシラン部分縮合物(C)としては、当該構成原料であるアルコキシシラン化合物のうちのメトキシシラン類から得られるものが、エポキシ樹脂(A)やエポキシ化合物(B)との反応性に富み、比較的低温で硬化物を調製できるため好ましく、特に汎用性を考慮するとテトラメチトキシシラン、メチルトリメトキシシランが更に好ましい。
【0039】
アルコキシシラン部分縮合物(C)は、例えば次の一般式(c)または(d)で示される。一般式(c):
【0040】
【化2】
【0041】
(式中、R1は、炭素原子に直結した官能基を持っていてもよい低級アルキル基、アリール基又は不飽和脂肪族残基を示す。R2はメチル基またはエチル基を示し、R2同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0042】
一般式(d):
【0043】
【化3】
【0044】
(一般式(d)中、R2は一般式(c)中のR2と同じ。)
【0045】
当該アルコキシシラン部分縮合物(C)の数平均分子量は230〜2000程度、一般式(c)および(d)において、平均繰り返し単位数nは2〜11が好ましい。nの値が11を超えると、溶解性が悪くなり、反応温度において、エポキシ樹脂(A)との相溶性が著しく低下し、エポキシ樹脂(A)やエポキシ化合物(B)との反応性が落ちる傾向があるため好ましくない。nが2未満であると反応途中に反応系外にアルコールと一緒に留去されてしまい好ましくない。
【0046】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を、溶剤の存在下または無溶剤下に脱アルコール縮合反応させることにより得られる。エポキシ樹脂(A)およびエポキシ化合物(B)と、アルコキシシラン部分縮合物(C)との使用重量比は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中にアルコキシ基が実質的に残存するような割合であれば特に制限はされないが、エポキシ樹脂(A)の水酸基とエポキシ化合物(B)の水酸基との合計当量/アルコキシシシラン部分縮合物(C)のアルコキシ基の当量(当量比)=0.1〜0.6であることが好ましい。更に好ましくは0.13〜0.5である。
【0047】
なお、エポキシ樹脂(A)として平均エポキシ当量400以上の高分子量のものやアルコキシシラン部分縮合物(C)として前記一般式(C)の平均繰り返し単位数n>7を使用原料とする場合には、エポキシ樹脂(A)の水酸基が完全に消失するまで、脱アルコール縮合反応を行うと高粘度化、ゲル化する傾向が見られる場合がある。このような場合には、脱アルコール反応を反応途中で、停止させたり、エポキシ化合物(B)/エポキシ樹脂(A)(水酸基当量比)が0.33を超えるような条件を選択するなどの方法により高粘度化、ゲル化を防ぐことが可能である。たとえば、反応を途中で停止させる方法としては、高粘度化してきた時点で、反応系を還流系にして、反応系からメタノールの留去量を調整したり、反応系を冷却し反応を終了させる方法等を採用できる。
【0048】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)の製造は、前記のように、溶剤存在下または無溶剤下で行うことができる。この脱アルコール縮合反応では、反応温度は50〜130℃程度、好ましくは70〜110℃であり、全反応時間は1〜15時間程度である。この反応は、アルコキシシラン部分縮合物(C)自体の重縮合反応を防止するため、実質的に無水条件下で行うのが好ましい。またアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の製造は、反応時間を短くするため、エポキシ化合物(B)が蒸発しない範囲で、減圧下で行うこともできる。
【0049】
また、上記の脱アルコール縮合反応に際しては、反応促進のために従来公知の触媒の内、エポキシ環を開環しないものを使用することができる。該触媒としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、硼素、カドミウム、マンガンのような金属;これら金属の酸化物、有機酸塩、ハロゲン化物、アルコキシド等があげられる。これらのなかでも、特に有機錫、有機酸錫が好ましく、具体的には、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等が有効である。
【0050】
また、上記の脱アルコール縮合反応は、溶剤存在下または無溶剤下で行うことができる。しかしながら、エポキシ樹脂(A)やアルコキシシラン部分縮合物(C)の分子量が大きい時には、反応温度において、反応系が不均一となる場合が見られ反応が進行しにくくなるため、溶剤を使用するのが好ましい。溶剤としては、エポキシ樹脂(A)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を溶解し、且つこれらに対し非活性である有機溶剤であれば特に制限はない。このような有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンなどの非プロトン性極性溶媒が例示できる。
【0051】
こうして得られたアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)は、アルコキシシラン部分縮合物のアルコキシ基が、エポキシ樹脂残基やグリシジル基で置換されたものを主成分とするが、当該樹脂中には未反応のエポキシ樹脂(A)、エポキシ化合物(B)、アルコキシシラン部分縮合物(C)が含有されていてもよい。なお、未反応のアルコキシシラン部分縮合物(C)は、ゾル−ゲル硬化反応によりシリカとすることができる。
【0052】
アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)は、その分子中にアルコキシシラン部分縮合物(C)に由来するアルコキシ基を有している。当該アルコキシ基の含有量は、特に限定はされないが、このアルコキシ基は溶剤の蒸発や加熱処理により、又は水分(湿気)との反応により、ゾル−ゲル反応や脱アルコール縮合して、相互に結合した硬化物を形成するために必要となるため、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂は通常、反応原料となるアルコキシシラン部分縮合物(C)のアルコキシ基の30〜95モル%、好ましくは40〜80モル%を未反応のままで保持しておくのが良い。かかる硬化物は、ゲル化した微細なシリカ部位(シロキサン結合の高次網目構造)を有するものである。かかる硬化物は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂の固形残分中のSi含有量が、シリカ重量換算で2〜50重量%となることが好ましい。固形残分中のシリカ重量換算Si含有量とは、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のアルコキシシリル部位が上記ゾル−ゲル硬化反応を経て、シリカ部位に硬化した時のシリカ部位の重量パーセントである。
【0053】
このような構成を有する化合物として、荒川化学工業株式会社製コンポラセンEシリーズを用いることができる。
【0054】
また、エポキシ樹脂用硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されている、フェノール樹脂系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、ポリカルボン酸系硬化剤、イミダゾール系硬化剤等を特に制限なく使用できる。具体的には、フェノール樹脂系のものとしては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリp−ビニルフェノール等があげられ、ポリアミン系硬化剤としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジシアンジアミド、ポリアミドアミン(ポリアミド樹脂)、ケチミン化合物、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、m−キシレンジアミンとスチレンの反応生成物、m−フェニレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−3,3′―ジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジシアンジアミド等があげられ、ポリカルボン酸系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸があげられ、またイミダゾール系硬化剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルへキシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウム・トリメリテート、2−フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート等があげられる。上記エポキシ樹脂用硬化剤は、エポキシ環と反応して開環硬化させるだけではなく、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のアルコキシシリル部位やアルコキシ基が互いにシロキサン縮合していく反応の触媒ともなる。
【0055】
エポキシ樹脂用硬化剤の使用割合は、通常、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し、硬化剤中の活性水素を有する官能基が0.2〜1.5当量程度となるような割合で配合して調製される。
【0056】
また、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進するための硬化促進剤を含有することができる。例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などをあげることができる。
【0057】
また、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)中のエポキシ基はエポキシ重合触媒が存在する限り、硬化反応が進行するため、必ずしもエポキシ樹脂硬化剤を必要ではない。このようなエポキシ重合触媒としては、ルイス酸とそのトリアルキルオキソニウム塩、カルボニウム塩やアンモニウム塩などのカチオン重合触媒や3級アミンなどアニオン重合触媒が挙げられる。特にアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂に対する溶解性やポットライフを考慮すると、アンモニウムテトラフルオロボレートなどルイス酸のアンモニウム塩やトリエチルアミンなど脂肪族3級アミンが好適である。
【0058】
前記の硬化促進剤やエポキシ重合触媒は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂のエポキシ基や任意成分として用いたエポキシ樹脂の合計エポキシ基に対して、それぞれ0.1〜5重量部の割合で使用するのが好ましい。また、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂中のアルコキシシリル部位やアルコキシ基のシロキサン縮合の促進には、従来公知の酸又は塩基性触媒、金属系触媒などのゾル−ゲル硬化触媒を配合することが出来る。これらのなかでも、オクチル酸錫やジブチル錫ジラウレート、テトラプロポキシチタンなど金属系触媒が、活性が高く好ましい。
【0059】
温度ひび割れセンサ1の動作について説明する。貯槽30を構成する覆工コンクリート壁44に配置された温度ひび割れセンサ1に振動が印加されると、コイル部6を通過する光の周波数が振動v1に対応して変化する。このため、入射部8に入射された入射光L1と振動v1が印加されたコイル部6を通過した出射光L2との間では、周波数が異なっている。振動検出部3は、この周波数の変化を検出する。そして、周波数の変化に対応した振動v1のレベルを算出する。
【0060】
温度ひび割れセンサ1を冷却して、低温環境の使用に用いることができることを試験により実際に確認した。この試験では、比較例として3つのセンサを準備した。
【0061】
試験に用いた温度ひび割れセンサ1には、接着剤7として、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)としてはメチルトリメトキシシラン変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(荒川化学工業株式会社製:商品名「コンポセランE201」、エポキシ当量285g/eq)を100g、硬化剤としてはm−キシレンジアミンとスチレンの反応生成物(荒川化学工業株式会社製:商品名「コンポセランAD033」、活性水素当量103g/eq)を36.1g(エポキシ基と活性水素との当量比(モル比)が1:1となる量)を、良く混合して用いた。80℃で12時間保持する1次硬化工程を実施した後に、150℃で3時間保持する2次硬化工程を実施して、上記化合物と硬化剤を含む接着剤7を硬化させた。
【0062】
比較のための第1のセンサとして、光ファイバを被覆しているポリイミドにより光ファイバをコイル状に成形したセンサを用いた。第1のセンサは、光ファイバを被覆しているポリイミド樹脂により接着しているので、第1のセンサに占める樹脂の分量を低減できる構成を有する。このセンサに用いられている光ファイバは、温度ひび割れセンサ1に用いられている光ファイバ4と同様に、ポリイミドにより被覆された石英ガラスからなる光ファイバである。この光ファイバは、石英ガラスからなるボビンに巻かれてコイル状に成形されている。従って、第1のセンサは、光ファイバを成形する接着剤が温度ひび割れセンサ1と異なる。さらに、光ファイバが石英ガラスからなるボビンに巻かれている点で温度ひび割れセンサ1と異なる。その他の構成は、温度ひび割れセンサ1と同じである。
【0063】
また、比較のための第2のセンサとして、エポキシ系接着剤により光ファイバをコイル状に成形したセンサを用いた。このセンサに用いられている光ファイバは、温度ひび割れセンサ1に用いられている光ファイバと同様に、ポリイミドにより被覆された石英ガラスからなる光ファイバである。従って、第2のセンサは、光ファイバを成形する接着剤のみが温度ひび割れセンサ1と異なり、その他の構成は同じである。
【0064】
さらに、比較のための第3のセンサとして、市販されている低温用ピエゾセンサ(以下、PZTセンサともいう)を用いた。PZTセンサは、圧電素子型のセラミック振動子を用いた振動センサである。このPZTセンサは、圧電素子で検知した振動の外力により、圧電素子に生じる電荷を電圧に変換することにより振動を検知する。圧電素子は、例えばコバールからなるケースの内部に配置されている。
【0065】
次に、比較試験の方法と、試験に用いた装置について説明する。試験装置には、センサの温度を所定の温度に設定することが可能な第1の試験装置50と、センサを短時間で冷却することが可能な第2の試験装置60とがある。
【0066】
図4(a)を参照すると、第1の試験装置50には、断熱容器51が用いられている。断熱容器51の底部51aから開口51bまでの距離は27cmである。断熱容器51の底部51aには液体窒素52Lが配置されている。液体窒素52Lの量は、100〜300ml(ミリリットル)程度である。さらに、液体窒素52Lの上側にある空間51cには、窒素ガス52Gが配置されている。このように構成された第1の試験装置50の内部には、底部51a側が低温側であり、開口51b側が室温側になるように一定の温度勾配を有する空間が形成される。この第1の試験装置50の内部に、針金等の保持具により保持された温度ひび割れセンサ1等を底部51aから所定の高さに保持することにより、温度ひび割れセンサ1等を所定の温度に保つことができる。また、温度ひび割れセンサ1等の近傍には、温度を測定するための熱電対53が配置されている。この熱電対53は、温度ひび割れセンサ1等に接触しておらず、温度ひび割れセンサ1等の近傍の窒素ガス52Gの温度を測定している。なお、熱電対53が温度ひび割れセンサ1等に接触している場合と、温度ひび割れセンサ1等に接触していない場合との温度差は、1℃未満であることが確認されている。
【0067】
図4(b)を参照すると、第2の試験装置60には、第1の試験装置50と同様の断熱容器51が用いられている。断熱容器51の底部51aには金属製のヒートシンク61が配置されている。このヒートシンク61は予め液体窒素を用いて所定の温度に冷却されている。ヒートシンク61の上面61aには、ヒートシンク61の温度を測定するための熱電対62が配置されている。このヒートシンク61の上面61aに温度ひび割れセンサ1等を載置して、温度ひび割れセンサ1等を冷却する。温度ひび割れセンサ1等には、温度ひび割れセンサ1等の温度を測定するための熱電対63が温度ひび割れセンサ1等と接触するように配置されている。
【0068】
第1の試験装置50では、比熱が小さく熱伝導率の低い窒素ガス52Gにより温度ひび割れセンサ1等を冷却するので、温度ひび割れセンサ1等の冷却にある程度の時間を要する。一方、第2の試験装置60は、比熱が大きく、熱伝導率が高いヒートシンク61を用いているので、温度ひび割れセンサ1等を急速に冷却することができる。
【0069】
<段階降温試験>
まず、温度ひび割れセンサ1及び第1〜第3のセンサを段階的に冷却して、自己ノイズが発生する様子を確認した。温度ひび割れセンサ1等の表面温度を安定させるために、各温度ステップにおいて所定の時間保持した。この状態では、温度ひび割れセンサ1等の表面温度と温度ひび割れセンサ1等の内部温度とはほぼ同じ温度になっていると考えられる。図5は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第1のセンサの自己ノイズの発生の様子とを示す図である。図6は第2のセンサの自己ノイズの発生の様子と、第3のセンサの自己ノイズの発生の様子とを示す図である。
【0070】
図5(a)のグラフG1は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図5(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図5(b)のグラフG2は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図5(b)のグラフG3は、温度ひび割れセンサ1が測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1は、室温から−160℃程度まで冷却しても自己ノイズの受振数は1秒当たり1個以下であった。また、累積受振数は40個程度であった。
【0071】
図5(c)のグラフG4は第1のセンサの温度を表し、図5(c)の棒グラフは、第1のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図5(d)のグラフG5は第1のセンサの温度を表し、図5(d)のグラフG6は、第1のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1のセンサは、室温から−160℃程度まで冷却すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり9個程度であり、累積受振数は1900個程度であった。
【0072】
図6(a)のグラフG7は第2のセンサの温度を表し、図6(a)の棒グラフは、第2のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図6(b)のグラフG8は第2のセンサの温度を表し、図6(b)のグラフG9は、第2のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第2のセンサは、室温から−160℃程度まで冷却すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり4個程度であった。また、累積受振数は600個程度であった。
【0073】
図6(c)のグラフG10は第3のセンサの温度を表し、図6(c)の棒グラフは、第3のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図6(d)のグラフG11は第3のセンサの温度を表し、図6(d)のグラフG12は、第3のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第3のセンサは、室温から−160℃程度まで冷却すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり20個以上であった。また、累積受振数は2000個以上であった。
【0074】
図7は、温度ひび割れセンサ1及び第1〜第3のセンサの累積受振数と、冷却過程における温度との関係を示す。温度範囲は、20℃〜−150℃である。グラフG19は、温度ひび割れセンサ1の累積受振数であり、グラフG20は第2のセンサの累積受振数であり、グラフG21は第1のセンサの累積受振数であり、グラフG22は第3のセンサの累積受振数である。グラフG19を確認すると、温度ひび割れセンサ1では、累積受振数が−70℃付近から微増し、−130℃付近で増大した。グラフG21を確認すると、第1のセンサでは、累積受振数が室温から増加し、−75℃以下において急増した。グラフG20を確認すると、第2のセンサでは、累積受振数が−40℃付近から微増し、−110℃付近で増大した。グラフG22を確認すると、第3のセンサでは、累積受振数が室温から増加し、0℃以下で増大した。また、累積受振数は温度ひび割れセンサ1が最も少なく、自己ノイズの発生が抑制されていることがわかった。
【0075】
<段階昇温試験>
25℃間隔で温度ひび割れセンサ1等の温度を昇温し、自己ノイズが発生する様子を確認した。降温試験と同様に、温度ひび割れセンサ1等の表面温度を安定させるために、各温度ステップにおいて所定の時間保持した。図8は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第1のセンサの自己ノイズの発生の様子とを対比した図である。
【0076】
図8(a)のグラフG23は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図8(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図8(b)のグラフG24は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図8(b)のグラフG25は、温度ひび割れセンサ1が測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1は、−150℃付近の低温から室温まで昇温しても自己ノイズの受振数は1秒当たり1個以下であり、累積受振数は10個程度であった。
【0077】
図8(c)のグラフG26は第1のセンサの温度を表し、図8(c)の棒グラフは、第1のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図8(d)のグラフG27は第1のセンサの温度を表し、図8(d)のグラフG28は、第1のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1のセンサは、−150℃付近の低温から室温まで昇温すると自己ノイズの受振数は最大1秒当たり6個以上であり、累積受振数は400個程度であった。
【0078】
図9は、温度ひび割れセンサ1及び第1〜第3のセンサの累積受振数と、昇温過程における温度との関係を示す。温度範囲は、−145℃〜16℃である。グラフG29は、温度ひび割れセンサ1の累積受振数であり、グラフG30は第1のセンサの累積受振数であり、グラフG31は第2のセンサの累積受振数であり、グラフG32は第3のセンサの累積受振数である。グラフG29を確認すると、温度ひび割れセンサ1は昇温過程において自己ノイズは殆ど発生しなかった。グラフG30を確認すると、第1のセンサは−145℃から累積的に累積受振数が増加した。グラフG31を確認すると、第2のセンサは昇温過程において自己ノイズは殆ど発生しなかったが、温度ひび割れセンサ1の自己ノイズよりやや多かった。グラフG32を確認すると、−140℃付近において累積受振数が急激に増加した。また、累積受振数は温度ひび割れセンサ1が最も少なく、自己ノイズの発生が抑制されていることがわかった。
【0079】
<繰り返し降温試験>
温度ひび割れセンサ1と第1のセンサに、冷却と昇温を繰り返す温度負荷を与えて自己ノイズの発生の様子を確認した。温度負荷は、第1の温度ステップが−20℃であり第2の温度ステップが−130℃であるパターンと、第3の温度ステップが−20℃であり第4の温度ステップが−100℃であるパターンとの、2つのパターンについて行った。図10は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第1のセンサの自己ノイズの発生の様子とを対比した図である。
【0080】
図10(a)のグラフG33は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図10(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図10(b)のグラフG34は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図10(b)のグラフG35は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1の温度ステップが−20℃であり第2の温度ステップが−130℃であるパターンであるとき、1回目の降温時(グラフG35a)に最も多い50個程度の自己ノイズが確認された。また、第3の温度ステップが−20℃であり第4の温度ステップが−100℃であるとき、1回の降温及び昇温の過程において10個程度の自己ノイズが確認された。
【0081】
図10(c)のグラフG36は第1のセンサの温度を表し、図10(c)の棒グラフは、第1のセンサが1秒当たりに受賑した自己ノイズの受振数を表す。図10(d)のグラフG37は第1のセンサの温度を表し、図10(d)のグラフG37は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第1の温度ステップが−20℃であり第2の温度ステップが−130℃であるパターンであるとき、1回の降温及び昇温の過程において最大1200個程度の自己ノイズが確認された。また、第3の温度ステップが−20℃であり第4の温度ステップが−100℃であるとき、1回の降温及び昇温の過程において最大600個程度の自己ノイズが確認された。
【0082】
<低温保持試験>
温度ひび割れセンサ1と第3のセンサを一定の温度に長時間保持し、自己ノイズの発生の様子を確認した。温度ひび割れセンサ1等は−80℃〜−100℃の低温環境に2時間程度保持した。図11は温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子と、第3のセンサの自己ノイズの発生の様子とを対比した図である。
【0083】
図11(a)のグラフG39は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図11(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図11(b)のグラフG40は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図11(b)のグラフG41は、温度ひび割れセンサ1が測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1では、−94℃までに30個程度の自己ノイズが確認された。その後、低温保持中において自己ノイズの累積受振数は40個程度に収束した。
【0084】
図11(c)のグラフG42は第3のセンサの温度を表し、図11(c)の棒グラフは、第3のセンサが1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図11(d)のグラフG43は第3のセンサの温度を表し、図11(d)のグラフG44は、第3のセンサが測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、第3のセンサでは、−80℃までに200個程度の自己ノイズが確認された。その後、−94℃まで降温し、低温保持することで、自己ノイズの累積受振数は2000個を上回った。
【0085】
<温度勾配試験>
温度ひび割れセンサ1が冷却される速度により、自己ノイズの発生数がどのように変化するか確認した。ここでは、毎分−10℃の速度で冷却するパターンと、毎分−37℃の速度で冷却するパターンを温度ひび割れセンサ1に印加して、自己ノイズの発生の様子を確認した。
【0086】
図12(a)及び(b)は、毎分−10℃の速度で冷却したときの温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子を示す図である。図12(a)のグラフG45は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(a)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図12(b)のグラフG46は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(b)のグラフG46は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1に毎分−10℃の速度で冷却するパターンを印加したとき、30個程度の自己ノイズが確認された。
【0087】
図12(c)及び(d)は、毎分−37℃の速度で冷却したときの温度ひび割れセンサ1の自己ノイズの発生の様子を示す図である。図12(c)のグラフG48は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(c)の棒グラフは、温度ひび割れセンサ1が1秒当たりに受振した自己ノイズの受振数を表す。図12(d)のグラフG49は温度ひび割れセンサ1の温度を表し、図12(d)のグラフG50は、測定開始時から受振した自己ノイズの数を累積した累積受振数を表す。これらによると、温度ひび割れセンサ1に毎分−37℃の速度で冷却するパターンを印加したとき、40個程度の自己ノイズが確認された。
【0088】
以上の試験により、
第1のセンサであるポリイミドで光ファイバを接着したセンサは、段階降温試験及び段階昇温試験において、室温から−160℃までの温度範囲で、自己ノイズが発生することが確認された。第2のセンサであるエポキシ系接着剤で光ファイバを接着したセンサは、約−40℃以下から自己ノイズが発生し、−110℃では自己ノイズが急増することが確認された。従って、第2のセンサは低温条件下において対象物のひび割れを検出するセンサとして用いることが困難であることが確認された。第3のセンサである低温用PZTセンサでは、約0℃から自己ノイズが発生することが確認された。
【0089】
これらに対して、温度ひび割れセンサ1は、室温から−162℃までの温度範囲で自己ノイズの発生が抑制されていることが確認された。特に、室温から−70℃までの温度範囲では自己ノイズを殆ど生じることがなく、さらに−162℃までの温度範囲でも自己ノイズが好適に抑制されていた。また、温度ひび割れセンサ1は、0℃以下の温度範囲において、繰り返しの温度変動が印加されても自己ノイズの発生する数が増加することがなかった。また、−90℃付近の低温環境に保持されても自己ノイズの発生数が所定数よりも増加することはなかった。従って、温度ひび割れセンサ1は、−162℃以上0℃以下で用いる温度ひび割れセンサ1として好適であることが確認された。従って、温度ひび割れセンサ1は、貯槽30を構成する覆工コンクリート壁44及び岩盤32の内部に設置され、覆工コンクリート壁44及び岩盤32のひび割れの発生を検知するために好適に用いることができることが確認された。
【0090】
本実施形態の温度ひび割れセンサ1は、覆工コンクリート壁44の内部でひび割れが発生したときに生じる振動が印加される振動印加部2が、コイル状に巻かれ所定の接着剤7で固められた光ファイバ4を有している。この光ファイバ4に光を通過させた状態で振動印加部2に振動v1が印加されると、光ファイバ4を通過する光の周波数が変化する。そして、振動v1を検出する振動検出部3が、光ファイバ4の入射部8に入射される入射光L1と光ファイバの出射部9から出射される出射光L2の間における周波数の変化に基づいて、振動v1を検出する。これ故、覆工コンクリート壁44の内部においてひび割れが生じたときに発生する所定の周波数帯の振動を検出して、覆工コンクリート壁44のひび割れを検出できる。
【0091】
さらに、上述の試験で示されたように、接着剤7を用いた温度ひび割れセンサ1によれば、温度ひび割れセンサ1自身が発する自己ノイズを低減できる。従って、−162℃以上0℃以下の温度条件下において、10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を検出して対象物のひび割れを精度良く検出できる。また、覆工コンクリート壁44又は岩盤32に埋設することができるので、ひび割れの発生を地表35から常時モニタリングすることができる。
【0092】
また、温度ひび割れセンサ1は、光ファイバ4に通過させた光の周波数変化に基づいて振動を検出する。このように、温度ひび割れセンサ1は、主として赤外線のような電磁波を媒体として振動を検出する。このため、電圧が発生しないので、可燃性ガスを含む雰囲気中において温度ひび割れセンサ1を使用する場合に着火源となることがなく、いわゆる防爆性を有している。これ故、LNGを貯蔵する貯槽30のひび割れを検知するセンサとして好適に用いることができる。また、長期の耐久性を有することができる。また、貯槽30の健全性のモニタリングだけでなく、貯槽30の構造設計の妥当性検証や、運用後の貯槽30の維持管理に温度ひび割れセンサ1を用いることもできる。
【0093】
また、温度ひび割れセンサ1の対象物は、天然ガスの貯槽30の覆工コンクリート壁44である。温度ひび割れセンサ1は、−162℃以上0℃以下の温度条件下において10kHz以上1000kHz以下の周波数帯の振動を精度良く検出できる。従って、天然ガスの貯槽30における覆工コンクリート壁44の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、覆工コンクリート壁44の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【0094】
また、温度ひび割れセンサ1の対象物は、天然ガスの貯槽30を覆う岩盤32であるとしてもよい。この場合、覆工コンクリート壁44を覆う岩盤32の内部においてひび割れが生じた場合、ひび割れに起因するAEを検出することができるので、岩盤32の内部のひび割れを精度良く検出できる。
【符号の説明】
【0095】
1…温度ひび割れセンサ、2…振動印加部、3…振動検出部、4…光ファイバ、7…接着剤、30…貯槽、44…覆工コンクリート壁、L1…入射光、L2…出射光。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度条件下で対象物の所定の周波数帯の振動を検出して前記対象物のひび割れを検出する温度ひび割れセンサであって、
コイル状に巻かれ所定の接着剤で固められた光ファイバを有し、前記対象物の振動が印加される振動印加部と、
前記光ファイバの一端に入射される入射光と前記光ファイバの他端から出射される出射光との間における周波数の変化に基づいて前記対象物の振動を検出する振動検出部と、
を備え、
前記所定の温度条件は摂氏マイナス162度以上摂氏0度以下であり、
前記所定の周波数帯は10kHz以上1000kHz以下であり、
前記所定の接着剤は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有することを特徴とする温度ひび割れセンサ。
【請求項2】
前記対象物は、天然ガス貯槽のコンクリート壁であることを特徴とする請求項1に記載の温度ひび割れセンサ。
【請求項3】
前記対象物は、天然ガス貯槽を覆う岩盤であることを特徴とする請求項1に記載の温度ひび割れセンサ。
【請求項1】
所定の温度条件下で対象物の所定の周波数帯の振動を検出して前記対象物のひび割れを検出する温度ひび割れセンサであって、
コイル状に巻かれ所定の接着剤で固められた光ファイバを有し、前記対象物の振動が印加される振動印加部と、
前記光ファイバの一端に入射される入射光と前記光ファイバの他端から出射される出射光との間における周波数の変化に基づいて前記対象物の振動を検出する振動検出部と、
を備え、
前記所定の温度条件は摂氏マイナス162度以上摂氏0度以下であり、
前記所定の周波数帯は10kHz以上1000kHz以下であり、
前記所定の接着剤は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、1分子中に1つの水酸基を持つエポキシ化合物(B)およびアルコキシシラン部分縮合物(C)を脱アルコール縮合反応させて得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(1)を含有することを特徴とする温度ひび割れセンサ。
【請求項2】
前記対象物は、天然ガス貯槽のコンクリート壁であることを特徴とする請求項1に記載の温度ひび割れセンサ。
【請求項3】
前記対象物は、天然ガス貯槽を覆う岩盤であることを特徴とする請求項1に記載の温度ひび割れセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−92435(P2013−92435A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234279(P2011−234279)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(504066081)株式会社レーザック (11)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(504066081)株式会社レーザック (11)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】
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