炭化珪素基板の表面処理方法および半導体装置
【課題】より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供する。
【解決手段】炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置する工程と、固体状シリコン上に蓋材を設置する工程と、蓋材の設置後に固体状シリコンが設置された炭化珪素基板を固体状シリコンの融点以上の温度に加熱して固体状シリコンを溶融させる工程と、固体状シリコンの溶融後に固化した固化シリコンから炭化珪素基板を分離する工程とを含む炭化珪素基板の表面処理方法とその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置である。
【解決手段】炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置する工程と、固体状シリコン上に蓋材を設置する工程と、蓋材の設置後に固体状シリコンが設置された炭化珪素基板を固体状シリコンの融点以上の温度に加熱して固体状シリコンを溶融させる工程と、固体状シリコンの溶融後に固化した固化シリコンから炭化珪素基板を分離する工程とを含む炭化珪素基板の表面処理方法とその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素基板の表面処理方法および半導体装置に関し、特に、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)はシリコン(Si)に比べて、バンドギャップが約3倍、絶縁破壊電圧が約10倍および電子飽和速度が約2倍大きく、シリコンにはない特性を有している。したがって、炭化珪素は、パワーデバイスの用途において非常に優れた物性を有している。そのため、炭化珪素を用いたパワーデバイスの研究が盛んに行なわれているが、炭化珪素を用いたパワーデバイスの中でもノーマリオフ構造を有するMOSFETの研究が特に盛んに行なわれている。
【0003】
炭化珪素は、シリコンと同様に熱酸化によって酸化膜を形成できることから、容易に半導体と絶縁膜との界面を形成することができる。
【0004】
しかしながら、半導体である炭化珪素と絶縁膜である酸化膜との界面においては半導体としてシリコンを用いた場合と比べて、炭化珪素と酸化膜との界面における炭化珪素の界面準位密度が非常に大きくなるという問題があった。
【0005】
したがって、炭化珪素を用いたMOSFETにおいては、絶縁膜の直下の炭化珪素の表面を制御するため、炭化珪素の界面準位密度を低減することが必要であることから様々な手法が検討されている。
【0006】
たとえば特許文献1には、炭化珪素の界面準位密度を低減する手法の一例が提案されている。通常、炭化珪素基板の表面は(0001)面と所定の角度を有するオフ角をつけてスライスすることにより形成されるため、多くの欠陥が存在すると考えられる。
【0007】
そこで、特許文献1の方法においては、炭化珪素基板の表面にシリコン膜を形成した後に加熱することによって、炭化珪素基板の表面が再構成されて、炭化珪素基板の表面には、水平方向に対して所定の角度に傾斜する(0001)面からなるテラスが形成される。このテラスは、特許文献1の方法による処理前の炭化珪素基板の表面の(0001)面の面積よりも広くなるように形成される。
【0008】
このように特許文献1に記載の方法により表面処理を行なった炭化珪素基板を用いてMOSFETを作製した場合には、テラスの形成により電子移動度の向上が確認され、絶縁膜との界面における炭化珪素の界面準位密度が低減できることが確認されている。
【特許文献1】特開2007−1800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で形成された炭化珪素基板の表面の(0001)面であるテラスの幅は約1〜2μm程度となり、非常に狭いために、その改善が望まれていた。
【0010】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置する工程と、固体状シリコン上に蓋材を設置する工程と、蓋材の設置後に固体状シリコンが設置された炭化珪素基板を固体状シリコンの融点以上の温度に加熱して固体状シリコンを溶融させる工程と、固体状シリコンの溶融後に固化した固化シリコンから炭化珪素基板を分離する工程と、を含む炭化珪素基板の表面処理方法である。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置し、固体状シリコン上に蓋材を設置した状態で加熱することによって、炭化珪素基板の表面に十分な量のシリコンを供給することで炭化珪素基板の表面の再構成が活性化し、広いテラスの形成が可能となる。
【0012】
ここで、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、蓋材が炭化珪素基板であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より効率的に炭化珪素基板の表面処理を行なうことができる。
【0013】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固化シリコンをフッ硝酸に浸漬させることにより除去することが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面を傷つけることなく、炭化珪素基板の表面処理を行なうことができる。
【0014】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固体状シリコンが、炭化珪素基板の表面上に堆積されたシリコン膜であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面処理を均一に行なうことができる。
【0015】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、シリコン膜の厚さが1nm以上5000nm以下であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面処理をより均一に行なうことができる。
【0016】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固体状シリコンが、シリコン基板であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面処理をより好適に行なうことができる。
【0017】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の表面上にシリコン膜を形成した後に固体状シリコンを設置することが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板と固体状シリコンとの濡れ性が向上し、炭化珪素基板の表面をより均一に処理することができる傾向にある。このとき、そのシリコン膜の厚さが1nm以上1000nm以下であることがより好ましい。この場合には、炭化珪素基板の表面をさらに均一に処理することができる傾向にある。
【0018】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の表面に段差が形成されていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0019】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、段差は炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向の少なくとも一方に伸びていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0020】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、段差の高さが0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0021】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、段差が少なくとも2つ形成されており、隣り合う2つの段差の間隔が20μm以下であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、結晶の自己整合を利用したテラスの結合による幅の広いテラスの形成が可能となる。
【0022】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向または<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向に伸びる溝が少なくとも1つ形成されており、溝により段差が構成されていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0023】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向にそれぞれ辺を有する四角形を底面とする四角柱が少なくとも1つ形成されており、四角柱により段差が構成されていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、結晶の自己整合を利用した幅の広いテラスの形成が可能となる。
【0024】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の表面が<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、直線性の良い、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0025】
また、本発明は、上記のいずれかの炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理が施された炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置である。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度の半導体装置とすることができる。
【0026】
また、本発明は、半導体装置がMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)であることが好ましい。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度のMOSFETとすることができる。
【0027】
また、本発明は、MOSFETのチャネルにおける電子の走行がライザを跨がないようにして行なわれる半導体装置である。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度のMOSFETとすることができる。
【0028】
また、本発明は、MOSFETのチャネルにおける電子の走行がテラスの内部で行なわれる半導体装置である。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度のMOSFETとすることができる。
【0029】
なお、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法において、<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向には<1−100>方向に対して傾斜していない方向(<1−100>方向)が含まれる。
【0030】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法において、<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向には<11−20>方向に対して傾斜していない方向(<11−20>方向)が含まれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0033】
(固体状シリコン設置工程)
本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、まず、図1の模式的断面図に示すように、炭化珪素基板1の表面上に固体状シリコン2を設置する工程が行なわれる。
【0034】
ここで、固体状シリコン2は、固体であるシリコンであれば特に限定されないが、炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜であることが好ましい。固体状シリコン2が炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜である場合には、たとえば真空蒸着法またはスパッタリング法等の物理的蒸着法によって炭化珪素基板1の表面上に形成したシリコン膜とすることができる。
【0035】
また、固体状シリコン2が炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜である場合には、固体状シリコン2の厚さtが1nm以上5000nm以下であることが好ましい。炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜からなる固体状シリコン2の厚さtが1nm以上5000nm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法における表面処理後の炭化珪素基板1の表面処理を均一に行なうことができる傾向にある。
【0036】
また、固体状シリコン2としては、シリコン基板を用いることも好ましい。固体状シリコン2としてシリコン基板を用いる場合には、シリコン基板としてはたとえば単結晶シリコンからなる基板または多結晶シリコンからなる基板を用いることができる。また、固体状シリコン2がシリコン基板である場合には、固体状シリコン2の厚さtが100μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0037】
なお、固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面は(0001)面とすることが好ましい。
【0038】
また、炭化珪素基板1の表面上にシリコン膜を形成した後に固体状シリコン2を設置することが好ましい。この場合には、炭化珪素基板1と固体状シリコン2との濡れ性が向上し、炭化珪素基板1の表面をより均一に処理することができる傾向にある。また、炭化珪素基板1と固体状シリコン2との間のシリコン膜の厚さは1nm以上1000nm以下であることがより好ましい。この場合には、炭化珪素基板1の表面をさらに均一に処理することができる傾向にある。
【0039】
図2に、図1に示す固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面の一例の模式的な平面図を示す。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面となる表面には、直線状の4本の溝3が<11−20>方向に沿って伸びるようにして形成されている。また、溝3は、<11−20>方向に直交する方向である<1−100>方向に配列するように1本ずつ所定の間隔をあけて形成されている。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0040】
図3に、図1に示す固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面の他の一例の模式的な平面図を示す。ここで、図3に示す炭化珪素基板1の(0001)面となる表面においては、直線状の溝3が<1−100>方向に延びるようにして形成されている点で図2に示す炭化珪素基板1の表面と異なっている。すなわち、この例において、炭化珪素基板1の(0001)面となる表面には、直線状の4本の溝3が<1−100>方向に沿って伸びるようにして形成されている。また、溝3は、<1−100>方向に直交する方向である<11−20>方向に配列するように1本ずつ所定の間隔をあけて形成されている。ここでも、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0041】
本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面に段差が形成されていることが好ましい。ここで、炭化珪素基板1の表面に形成された段差としては、たとえば図2および図3に示すように、炭化珪素基板1の表面に形成された溝3の一方の側壁を含む段差等を挙げることができる。
【0042】
ここで、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図2または図3に示すような溝3からなる場合には、たとえば図3のIV−IVに沿った模式的な断面図である図4に示す段差の高さ(溝3の深さ)hは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。この段差の高さ(溝3の深さ)hが0.1μm以上10μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。
【0043】
また、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図2または図3に示すような溝3からなる場合には、たとえば図4に示す隣り合う2つの段差の間隔(溝3の底面の<11−20>方向の幅)dは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。この段差間の間隔(溝3の底面の<11−20>方向の幅)dが20μm以下である場合、好ましくは10μm以下である場合、さらに好ましくは5μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板1の表面処理時における結晶の自己整合によって、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。これは、後述する固体状シリコンの加熱工程時において隣り合う溝3同士が結合して、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅が広くなると考えられるためである。
【0044】
図5に、図1に示す固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面のさらに他の一例の模式的な平面図を示す。この炭化珪素基板1においては、炭化珪素基板1の(0001)面となる表面の<11−20>方向に辺4aを有し、<1−100>方向に辺4bを有する四角形状の表面を含む四角柱状に上方に突出したパターンである凸部4を有している。この例においては、炭化珪素基板1の表面に形成される段差としては凸部4の側部から構成される段差が挙げられる。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0045】
ここで、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図5に示すような凸部4の側部から構成される場合には、たとえば図5のVI−VIに沿った模式的な断面図である図6に示す段差の高さ(凸部4の高さ)hは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。この段差の高さ(凸部4の高さ)hが0.1μm以上10μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。
【0046】
また、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図5に示すような凸部4の側部から構成される場合には、たとえば図6に示す隣り合う2つの段差の間隔(隣り合う凸部4の側面間の<11−20>方向の距離)dは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
この段差の間隔(隣り合う凸部4の側面間の<11−20>方向の距離)dが20μm以下である場合、好ましくは10μm以下である場合、さらに好ましくは5μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板1の表面処理時における結晶の自己整合によって、本発明の炭化珪素基板1の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。これは、後述する固体状シリコンの加熱工程時において隣り合う溝3同士が結合してテラスの幅が広くなると考えられるためである。
【0048】
また、本発明で用いられる炭化珪素基板1の表面は、<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面であることが好ましい。
【0049】
このように炭化珪素基板1の(0001)面となる表面が<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅が大きくなる傾向にある。ここで、オフ角としては、炭化珪素基板1の表面の(0001)面が水平方向に対してたとえば8°程度の角度の傾斜を有するようなオフ角とすることが好ましい。
【0050】
(蓋材設置工程)
炭化珪素基板1の表面上に固体状シリコン2を設置する工程が行なわれた後には、たとえば図7の模式的断面図に示すように、固体状シリコン2上に蓋材5を設置する工程が行なわれる。
【0051】
ここで、蓋材5の材質は特に限定されないが、蓋材5としては炭化珪素基板を用いることが好ましい。蓋材5として炭化珪素基板を用いた場合には、固体状シリコン2の両面に設置されている炭化珪素基板1および蓋材5である炭化珪素基板の2枚の炭化珪素基板のそれぞれの表面について本発明の表面処理を同時に行なうことができるため、本発明の炭化珪素基板の表面処理をより効率的に行なうことができる傾向にある。
【0052】
なお、蓋材5として炭化珪素基板を用いた場合には、その蓋材5となる炭化珪素基板の表面にも上記で説明したような溝や凸部等からなる段差が形成されていることが好ましく、また、蓋材5となる炭化珪素基板の表面は、上記で説明したような角度のオフ角を有するようにスライスして露出した(0001)面であることが好ましい。
【0053】
(固体状シリコン加熱工程)
次に、図7に示すように炭化珪素基板1の表面上に設置された固体状シリコン2上に蓋材5を設置した後に、固体状シリコン2が設置された炭化珪素基板1を固体状シリコン2の融点以上の温度に加熱することによって固体状シリコン2を溶融させる工程が行なわれる。
【0054】
これにより、炭化珪素基板1の表面上に設置された固体状シリコン2が加熱により溶融し、固体状シリコン2から炭化珪素基板1の表面にシリコン原子が供給されること等によって、炭化珪素基板1の表面の原子配列が再構成され、炭化珪素基板1の表面に(0001)面の幅の広いテラスが形成されることになる。
【0055】
ここで、固体状シリコン2の融点以上の温度としては、たとえば1414℃以上の温度が挙げられる。また、固体状シリコン2の加熱温度の上限は、加熱条件に合わせて適宜設定することができ、たとえば2000℃程度とすることができる。また、固体状シリコン2の加熱方法は特に限定されず、たとえば従来から公知の加熱方法を用いることができる。
【0056】
(炭化珪素基板分離工程)
次に、固体状シリコン2を加熱して溶融させた後に固化することにより形成された固化シリコンから炭化珪素基板1を分離する工程が行なわれる。
【0057】
ここで、固化シリコンの除去は、たとえばフッ酸と硝酸との混合液であるフッ硝酸に固化シリコンを浸漬させることにより行なうことができる。これにより、固化シリコンがフッ硝酸に溶解して、固化シリコンから炭化珪素基板1を分離することができる。
【0058】
固化シリコンから分離した後の炭化珪素基板1の表面には、たとえば図8の模式的断面図に示すように、炭化珪素結晶の(0001)面であるテラス6とテラス6に隣接する面であるライザ7とが形成される。なお、図8における破線部は、本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の表面に形成されていた溝部分を図示している。
【0059】
図9に、本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の表面に形成されている段差の一例の模式的な拡大断面図を示す。また、図10に、図9に示す炭化珪素基板1の表面について本発明の炭化珪素基板の表面処理を行なった後のテラスの一例の模式的な拡大断面図を示す。
【0060】
図9および図10に示す例においても、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって、鉛直方向に形成されている炭化珪素基板1の表面の段差からその鉛直方向から所定の角度を形成して傾斜するように炭化珪素結晶の(0001)面であるテラス6とテラス6に隣接する面であるライザ7とが形成されていることがわかる。
【0061】
図11に、本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の(0001)面に<11−20>方向および<1−100>方向にそれぞれ辺を有する四角形状の表面を含む四角柱状に上方に突出したパターンである凸部4が本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によってどのように変化するかを示した模式的な拡大平面図を示す。なお、図11の左側の図面が本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の凸部4の表面形状を示しており、図11の右側の図面が本発明の炭化珪素基板の表面処理後の炭化珪素基板1の凸部4の表面形状を示している。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0062】
図11に示す例においては、六方晶である炭化珪素基板1の結晶構造に起因して、本発明の炭化珪素基板1の表面処理時における結晶の自己整合によって、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる六角形状に形成される。
【0063】
以上に例示されたような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、特許文献1に記載された方法によって得られる従来のテラスの幅である約1〜2μmと比べてテラスの幅を大幅に広くすることができる。
【0064】
これは、特許文献1の方法においては、炭化珪素基板の表面にシリコン膜を形成した後の加熱時にシリコン膜を構成するシリコンの大部分が蒸発してしまい、炭化珪素基板の表面の再構成に必要なシリコン原子をシリコン膜から十分に供給することができないと考えられる。しかしながら、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板上の固体状シリコンに蓋材を設置した状態で固体状シリコンを加熱しているために固体状シリコンからのシリコンの蒸発を抑え、炭化珪素基板の表面の再構成に必要なシリコン原子を炭化珪素基板の表面に十分に供給することができているためと考えられる。
【0065】
(横型MOSFET)
図12に、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての横型MOSFETの一例の模式的な断面図を示す。
【0066】
ここで、この横型MOSFETは、n型の炭化珪素基板1と、炭化珪素基板1の表面上にp型炭化珪素結晶がエピタキシャル成長することにより形成されたp型層8と、p型層8の表面の一部にn型ドーパントが拡散することにより形成されたn型層9aと、n型層9aと所定の間隔をあけてp型層8の表面にn型ドーパントが拡散することにより形成されたn型層9bとを有している。
【0067】
また、n型層9aの表面上にはソース電極10が形成されており、n型層9bの表面上にはドレイン電極11が形成されている。また、p型層8の表面上にはゲート酸化膜12が形成されており、ゲート酸化膜12の表面上にはゲート電極13が形成されている。
【0068】
この横型MOSFETには、上述した本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板1を用いていることから、炭化珪素基板1の表面には幅の広いテラスとそれに隣接するライザとが形成されており、そのエピタキシャル成長層となるp型層8の表面ならびにそのp型層8の表面に形成されたn型層9aおよびn型層9bにも炭化珪素基板1の表面のテラスとそれに隣接するライザとが引き継がれることになる。
【0069】
ここで、この横型MOSFETにおける電子の走行方向は、図13の模式的拡大平面図の矢印に示されるように、幅の広いテラス6の形成方向に沿った方向とすることが好ましく、ライザ7と交差しない方向とすることが好ましい。これは、電子はテラス6の内部ではその進行を妨げられることなく移動することができるが、ライザ7は電子の進行を妨げるために電子のスムーズな移動が妨げられてしまうためである。
【0070】
図14に、横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例では、電子の走行がテラス6の内部で行なわれるように、ソース電極10、ゲート電極13、ドレイン電極11およびゲート酸化膜12のすべてをテラス6の内部に形成している点に特徴がある。
【0071】
ここで、電子は、ソース電極10からドレイン電極11に矢印の方向に沿って進行することになる。このような構成とすることによって、横型MOSFETの電子のチャネルをテラス6の内部に形成することができることから、横型MOSFETのチャネルにおける電子の走行をスムーズなものとすることができる点で好ましい。
【0072】
すなわち、図14に示す例においては、ライザ7は電子の走行方向と直交する方向に形成されているが、電子はライザ7間のテラス6の内部を走行するために電子の走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0073】
図15に、横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例においては、電子の走行がテラス6の内部で行なわれるように、電子の走行方向(図15の矢印の方向)をライザ7の伸張方向と平行にして、ソース電極10、ゲート電極13、ドレイン電極11およびゲート酸化膜12を配置している点に特徴がある。ここで、電子は、ソース電極10からドレイン電極11に矢印の方向に沿って進行することになる。このような構成とすることによっても、横型MOSFETの電子のチャネルをテラス6の内部に形成することができることから、横型MOSFETのチャネルにおける電子の走行をスムーズなものとすることができる点で好ましい。
【0074】
すなわち、図15に示す例においては、ライザ7は電子の走行方向と平行する方向に形成されているが、電子はライザ7間のテラス6の内部を走行するために電子の走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0075】
(縦型MOSFET)
図16に、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての縦型MOSFETの一例の模式的な断面図を示す。
【0076】
この縦型MOSFETは、n型の炭化珪素基板1と、炭化珪素基板1の表面上にn型炭化珪素結晶がエピタキシャル成長することにより形成されたn型層9と、n型層9の表面の一部にp型ドーパントが拡散することにより形成されたp型層8と、p型層8の表面の一部にn型ドーパントが高濃度で拡散することにより形成されたn+型層14とを有している。ここで、n+型層14に含有されているn型ドーパント濃度は、n型層9に含有されているn型ドーパント濃度よりも高くなっている。
【0077】
n+型層14の表面上にはソース電極10が形成されており、p型層8の表面上にはゲート酸化膜12が形成されている。また、ゲート酸化膜12の表面上にはゲート電極13が形成されている。さらに、炭化珪素基板1の裏面にはドレイン電極11が形成されている。
【0078】
この縦型MOSFETには、上述した本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板1を用いていることから、炭化珪素基板1の表面には幅の広いテラスとそれに隣接するライザとが形成されており、そのエピタキシャル成長層となるn型層9の表面ならびにそのn型層9の表面に形成されたp型層8およびn+型層14にも炭化珪素基板1の表面のテラスとそれに隣接するライザとが引き継がれることになる。
【0079】
図17に、図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例では、図中の矢印で示される電子の走行方向がライザ7の伸張方向と平行になるように構成して、電子の移動がテラス6の内部で行なわれるように、ソース電極10、ゲート電極13およびゲート酸化膜12を形成している点に特徴がある。
【0080】
ここで、電子は、図17に示す矢印の方向に沿ってソース電極10からn+型層14、p型層8、n型層9およびn型の炭化珪素基板1を順次通って炭化珪素基板1の裏面のドレイン電極11に到達することになる。
【0081】
図17に示す例では、電子は、テラス6の内部で走行することから、ライザ7によってその走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0082】
図18に、図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例では、図中の矢印で示される電子の走行方向がテラス6の内部で行なわれるように、ソース電極10、ゲート電極13およびゲート酸化膜12をすべて、隣り合うライザ7の間のテラス6の内部に形成している点に特徴がある。図18に示す例においては、ソース電極10の表面を円形状にして、ソース電極10の外周を取り囲むようにゲート酸化膜12を環状に形成し、その環状のゲート酸化膜12の表面上に環状のゲート電極13を形成している構成となっている。
【0083】
ここで、電子は、図18に示す矢印の方向に沿ってソース電極10からn+型層14、p型層8、n型層9およびn型の炭化珪素基板1を順次通って炭化珪素基板1の裏面のドレイン電極11に到達することになる。
【0084】
図18に示す例においても、電子は、テラス6の内部で走行することから、ライザ7によってその走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0085】
以上の図15および図17等を参照して説明したように、横型MOSFETおよび縦型MOSFETのそれぞれのMOSFETの表面のチャネルにおける電子の走行がライザ7を跨がないようにすることによって、MOSFETの表面のチャネルにおける電子の走行がスムーズなものとなり、高電子移動度および大電流密度のMOSFETを得ることができる。
【0086】
また、以上の図14および図18等を参照して説明したように、横型MOSFETおよび縦型MOSFETのそれぞれのMOSFETの表面のチャネルを隣り合うライザ7間のテラス6の内部に形成し、電子をテラス6の内部のみで走行させるようにすることによって、MOSFETの表面のチャネルにおける電子の走行がスムーズなものとなり、高電子移動度および大電流密度のMOSFETを得ることができる。
【0087】
なお、上記においては、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法を用いて得られた炭化珪素基板を用いて作製した半導体装置の例として、横型MOSFETおよび縦型MOSFETについて説明したが、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法を用いて得られた炭化珪素基板を用いて作製されている半導体装置であれば横型MOSFETおよび縦型MOSFETには限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0088】
(実施例1)
まず、図19のSEM(Scanning Electron Microscope)写真に示すように、炭化珪素基板の表面((0001)面)上にU字状のパターンを形成した。ここで、炭化珪素基板の表面は、炭化珪素結晶インゴットを<1−100>方向にオフ角を有するようにスライスして形成したものである。また、U字状のパターンは、炭化珪素基板の表面の一部をエッチングにより除去して形成した。また、U字状のパターンの高さ(すなわち、炭化珪素基板の表面に形成されたU字部分の段差の高さ)は1.84μmであった。
【0089】
次に、図19に示すようにU字状のパターンが形成された2枚の炭化珪素基板の表面の間に400μmの厚さのシリコン基板が設置されるように2枚の炭化珪素基板でシリコン基板を挟んだ。
【0090】
次に、シリコン基板の融点以上の温度である1700℃にシリコン基板とそのシリコン基板を挟んだ2枚の炭化珪素基板とを加熱することによってシリコン基板を溶融させた。ここで、上記の加熱は、シリコン基板を挟んだ2枚の炭化珪素基板を加熱炉内に設置した後に、1700℃のアルゴン雰囲気中で20分間加熱することにより行なわれた。
【0091】
次に、上記の加熱により溶融したシリコンが固化して形成された固化シリコンにより密着した2枚の炭化珪素基板をフッ硝酸(フッ酸の質量:硝酸の質量=1:1)に浸漬させて、2枚の炭化珪素基板の間の固化シリコンを溶解することにより、2枚の炭化珪素基板を固化シリコンからそれぞれ分離した。
【0092】
図20に、上記処理前の炭化珪素基板の表面と、上記処理後の炭化珪素基板の表面とのSEM写真を示す。ここで、図20の右側のSEM写真が上記処理前の炭化珪素基板の表面に該当し、図20の左側のSEM写真が上記処理後の炭化珪素基板の表面に該当する。
【0093】
図20に示すように、図20の右側のSEM写真におけるU字状のパターンの先端部の段差は、図20の左側のSEM写真に示すように六角形状のテラスに再構成されており、幅の広いテラスが形成されていることがわかる。このテラスの幅(図20の左右方向の長さ)は約15μm程度であった。
【0094】
したがって、上記処理によれば、炭化珪素基板の表面に(0001)面の広いテラスが得られることが確認できた。
【0095】
また、シリコン基板をシリコン原子の供給源として用いることによって、上記加熱時の炭化珪素基板の表面の再構成を活性化し、その結果、より幅の広い炭化珪素結晶の(0001)面のテラスが形成できることが可能となった。
【0096】
(実施例2)
まず、図21のSEM写真に示すように、炭化珪素基板の(0001)面である表面上に複数の溝を形成した。ここで、図21に示すように、炭化珪素基板の表面に形成された複数の溝は所定の方向に伸びるようにして形成されている。
【0097】
次に、図21に示すように溝が形成された2枚の炭化珪素基板の間に400μmの厚さのシリコン基板が設置されるように2枚の炭化珪素基板でシリコン基板を挟んだ。
【0098】
次に、実施例1と同様にして、シリコン基板を挟んだ2枚の炭化珪素基板を加熱炉内に設置した後に、1700℃のアルゴン雰囲気中で20分間加熱した。
【0099】
次に、実施例1と同様にして、上記の加熱により溶融したシリコンが固化して形成された固化シリコンにより密着した2枚の炭化珪素基板をフッ硝酸(フッ酸の質量:硝酸の質量=1:1)に浸漬させて、2枚の炭化珪素基板の間の固化シリコンを溶解することにより、2枚の炭化珪素基板を固化シリコンからそれぞれ分離した。
【0100】
図22に、上記処理後の炭化珪素基板の表面のSEM写真を示す。図22に示すように、溝の側壁に相当する段差部分は、幅の広いテラスに再構成されており、この例においても、広い幅を有する(0001)面のテラスが形成されることが確認された。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明において炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置した状態の一例の模式的な断面図である。
【図2】図1に示す炭化珪素基板の表面の一例の模式的な平面図である。
【図3】図1に示す炭化珪素基板の表面の他の一例の模式的な平面図である。
【図4】図3のIV−IVに沿った模式的な断面図である。
【図5】図1に示す炭化珪素基板の表面の他の一例の模式的な平面図である。
【図6】図5のVI−VIに沿った模式的な断面図である。
【図7】本発明において炭化珪素基板の表面上の固体状シリコン上に蓋体を設置した状態の一例の模式的な断面図である。
【図8】本発明の炭化珪素基板の表面処理後の炭化珪素基板の一例の模式的な断面図である。
【図9】本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板の表面に形成されている段差の一例の模式的な拡大断面図である。
【図10】図9に示す炭化珪素基板の表面について本発明の炭化珪素基板の表面処理を行なった後のテラスの一例の模式的な拡大断面図である。
【図11】本発明において炭化珪素基板に形成された凸部が本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によってどのように変化するかを図解した模式的な拡大平面図である。
【図12】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての横型MOSFETの一例の模式的な断面図である。
【図13】横型MOSFETにおける電子の走行方向の好ましい一例を示す模式的な拡大平面図である。
【図14】図12に示す横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図である。
【図15】図12に示す横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図16】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての縦型MOSFETの一例の模式的な断面図である。
【図17】図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図である。
【図18】図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図19】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施前の炭化珪素基板の表面の一例のSEM写真である。
【図20】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施前と実施後の炭化珪素基板の表面の一例のSEM写真である。
【図21】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施前の炭化珪素基板の表面の他の一例のSEM写真である。
【図22】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施後の炭化珪素基板の表面の他の一例のSEM写真である。
【符号の説明】
【0104】
1 炭化珪素基板、2 固体状シリコン、3 溝、4 凸部、4a,4b 辺、5 蓋材、8 p型層、9,9a,9b n型層、10 ソース電極、11 ドレイン電極、12 ゲート酸化膜、13 ゲート電極、14 n+型層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素基板の表面処理方法および半導体装置に関し、特に、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)はシリコン(Si)に比べて、バンドギャップが約3倍、絶縁破壊電圧が約10倍および電子飽和速度が約2倍大きく、シリコンにはない特性を有している。したがって、炭化珪素は、パワーデバイスの用途において非常に優れた物性を有している。そのため、炭化珪素を用いたパワーデバイスの研究が盛んに行なわれているが、炭化珪素を用いたパワーデバイスの中でもノーマリオフ構造を有するMOSFETの研究が特に盛んに行なわれている。
【0003】
炭化珪素は、シリコンと同様に熱酸化によって酸化膜を形成できることから、容易に半導体と絶縁膜との界面を形成することができる。
【0004】
しかしながら、半導体である炭化珪素と絶縁膜である酸化膜との界面においては半導体としてシリコンを用いた場合と比べて、炭化珪素と酸化膜との界面における炭化珪素の界面準位密度が非常に大きくなるという問題があった。
【0005】
したがって、炭化珪素を用いたMOSFETにおいては、絶縁膜の直下の炭化珪素の表面を制御するため、炭化珪素の界面準位密度を低減することが必要であることから様々な手法が検討されている。
【0006】
たとえば特許文献1には、炭化珪素の界面準位密度を低減する手法の一例が提案されている。通常、炭化珪素基板の表面は(0001)面と所定の角度を有するオフ角をつけてスライスすることにより形成されるため、多くの欠陥が存在すると考えられる。
【0007】
そこで、特許文献1の方法においては、炭化珪素基板の表面にシリコン膜を形成した後に加熱することによって、炭化珪素基板の表面が再構成されて、炭化珪素基板の表面には、水平方向に対して所定の角度に傾斜する(0001)面からなるテラスが形成される。このテラスは、特許文献1の方法による処理前の炭化珪素基板の表面の(0001)面の面積よりも広くなるように形成される。
【0008】
このように特許文献1に記載の方法により表面処理を行なった炭化珪素基板を用いてMOSFETを作製した場合には、テラスの形成により電子移動度の向上が確認され、絶縁膜との界面における炭化珪素の界面準位密度が低減できることが確認されている。
【特許文献1】特開2007−1800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で形成された炭化珪素基板の表面の(0001)面であるテラスの幅は約1〜2μm程度となり、非常に狭いために、その改善が望まれていた。
【0010】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置する工程と、固体状シリコン上に蓋材を設置する工程と、蓋材の設置後に固体状シリコンが設置された炭化珪素基板を固体状シリコンの融点以上の温度に加熱して固体状シリコンを溶融させる工程と、固体状シリコンの溶融後に固化した固化シリコンから炭化珪素基板を分離する工程と、を含む炭化珪素基板の表面処理方法である。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置し、固体状シリコン上に蓋材を設置した状態で加熱することによって、炭化珪素基板の表面に十分な量のシリコンを供給することで炭化珪素基板の表面の再構成が活性化し、広いテラスの形成が可能となる。
【0012】
ここで、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、蓋材が炭化珪素基板であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より効率的に炭化珪素基板の表面処理を行なうことができる。
【0013】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固化シリコンをフッ硝酸に浸漬させることにより除去することが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面を傷つけることなく、炭化珪素基板の表面処理を行なうことができる。
【0014】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固体状シリコンが、炭化珪素基板の表面上に堆積されたシリコン膜であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面処理を均一に行なうことができる。
【0015】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、シリコン膜の厚さが1nm以上5000nm以下であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面処理をより均一に行なうことができる。
【0016】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固体状シリコンが、シリコン基板であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板の表面処理をより好適に行なうことができる。
【0017】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の表面上にシリコン膜を形成した後に固体状シリコンを設置することが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、炭化珪素基板と固体状シリコンとの濡れ性が向上し、炭化珪素基板の表面をより均一に処理することができる傾向にある。このとき、そのシリコン膜の厚さが1nm以上1000nm以下であることがより好ましい。この場合には、炭化珪素基板の表面をさらに均一に処理することができる傾向にある。
【0018】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の表面に段差が形成されていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0019】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、段差は炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向の少なくとも一方に伸びていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0020】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、段差の高さが0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0021】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、段差が少なくとも2つ形成されており、隣り合う2つの段差の間隔が20μm以下であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、結晶の自己整合を利用したテラスの結合による幅の広いテラスの形成が可能となる。
【0022】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向または<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向に伸びる溝が少なくとも1つ形成されており、溝により段差が構成されていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0023】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向にそれぞれ辺を有する四角形を底面とする四角柱が少なくとも1つ形成されており、四角柱により段差が構成されていることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、結晶の自己整合を利用した幅の広いテラスの形成が可能となる。
【0024】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板の表面が<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面であることが好ましい。このような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、直線性の良い、より広い幅のテラスの形成が可能となる。
【0025】
また、本発明は、上記のいずれかの炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理が施された炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置である。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度の半導体装置とすることができる。
【0026】
また、本発明は、半導体装置がMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)であることが好ましい。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度のMOSFETとすることができる。
【0027】
また、本発明は、MOSFETのチャネルにおける電子の走行がライザを跨がないようにして行なわれる半導体装置である。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度のMOSFETとすることができる。
【0028】
また、本発明は、MOSFETのチャネルにおける電子の走行がテラスの内部で行なわれる半導体装置である。このような本発明の半導体装置は、高電子移動度および高電流密度のMOSFETとすることができる。
【0029】
なお、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法において、<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向には<1−100>方向に対して傾斜していない方向(<1−100>方向)が含まれる。
【0030】
また、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法において、<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向には<11−20>方向に対して傾斜していない方向(<11−20>方向)が含まれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0033】
(固体状シリコン設置工程)
本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、まず、図1の模式的断面図に示すように、炭化珪素基板1の表面上に固体状シリコン2を設置する工程が行なわれる。
【0034】
ここで、固体状シリコン2は、固体であるシリコンであれば特に限定されないが、炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜であることが好ましい。固体状シリコン2が炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜である場合には、たとえば真空蒸着法またはスパッタリング法等の物理的蒸着法によって炭化珪素基板1の表面上に形成したシリコン膜とすることができる。
【0035】
また、固体状シリコン2が炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜である場合には、固体状シリコン2の厚さtが1nm以上5000nm以下であることが好ましい。炭化珪素基板1の表面上に堆積されたシリコン膜からなる固体状シリコン2の厚さtが1nm以上5000nm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法における表面処理後の炭化珪素基板1の表面処理を均一に行なうことができる傾向にある。
【0036】
また、固体状シリコン2としては、シリコン基板を用いることも好ましい。固体状シリコン2としてシリコン基板を用いる場合には、シリコン基板としてはたとえば単結晶シリコンからなる基板または多結晶シリコンからなる基板を用いることができる。また、固体状シリコン2がシリコン基板である場合には、固体状シリコン2の厚さtが100μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0037】
なお、固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面は(0001)面とすることが好ましい。
【0038】
また、炭化珪素基板1の表面上にシリコン膜を形成した後に固体状シリコン2を設置することが好ましい。この場合には、炭化珪素基板1と固体状シリコン2との濡れ性が向上し、炭化珪素基板1の表面をより均一に処理することができる傾向にある。また、炭化珪素基板1と固体状シリコン2との間のシリコン膜の厚さは1nm以上1000nm以下であることがより好ましい。この場合には、炭化珪素基板1の表面をさらに均一に処理することができる傾向にある。
【0039】
図2に、図1に示す固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面の一例の模式的な平面図を示す。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面となる表面には、直線状の4本の溝3が<11−20>方向に沿って伸びるようにして形成されている。また、溝3は、<11−20>方向に直交する方向である<1−100>方向に配列するように1本ずつ所定の間隔をあけて形成されている。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0040】
図3に、図1に示す固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面の他の一例の模式的な平面図を示す。ここで、図3に示す炭化珪素基板1の(0001)面となる表面においては、直線状の溝3が<1−100>方向に延びるようにして形成されている点で図2に示す炭化珪素基板1の表面と異なっている。すなわち、この例において、炭化珪素基板1の(0001)面となる表面には、直線状の4本の溝3が<1−100>方向に沿って伸びるようにして形成されている。また、溝3は、<1−100>方向に直交する方向である<11−20>方向に配列するように1本ずつ所定の間隔をあけて形成されている。ここでも、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0041】
本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面に段差が形成されていることが好ましい。ここで、炭化珪素基板1の表面に形成された段差としては、たとえば図2および図3に示すように、炭化珪素基板1の表面に形成された溝3の一方の側壁を含む段差等を挙げることができる。
【0042】
ここで、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図2または図3に示すような溝3からなる場合には、たとえば図3のIV−IVに沿った模式的な断面図である図4に示す段差の高さ(溝3の深さ)hは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。この段差の高さ(溝3の深さ)hが0.1μm以上10μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。
【0043】
また、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図2または図3に示すような溝3からなる場合には、たとえば図4に示す隣り合う2つの段差の間隔(溝3の底面の<11−20>方向の幅)dは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。この段差間の間隔(溝3の底面の<11−20>方向の幅)dが20μm以下である場合、好ましくは10μm以下である場合、さらに好ましくは5μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板1の表面処理時における結晶の自己整合によって、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。これは、後述する固体状シリコンの加熱工程時において隣り合う溝3同士が結合して、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅が広くなると考えられるためである。
【0044】
図5に、図1に示す固体状シリコン2が設置される炭化珪素基板1の表面のさらに他の一例の模式的な平面図を示す。この炭化珪素基板1においては、炭化珪素基板1の(0001)面となる表面の<11−20>方向に辺4aを有し、<1−100>方向に辺4bを有する四角形状の表面を含む四角柱状に上方に突出したパターンである凸部4を有している。この例においては、炭化珪素基板1の表面に形成される段差としては凸部4の側部から構成される段差が挙げられる。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0045】
ここで、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図5に示すような凸部4の側部から構成される場合には、たとえば図5のVI−VIに沿った模式的な断面図である図6に示す段差の高さ(凸部4の高さ)hは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。この段差の高さ(凸部4の高さ)hが0.1μm以上10μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。
【0046】
また、炭化珪素基板1の表面に形成された段差がたとえば図5に示すような凸部4の側部から構成される場合には、たとえば図6に示す隣り合う2つの段差の間隔(隣り合う凸部4の側面間の<11−20>方向の距離)dは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
この段差の間隔(隣り合う凸部4の側面間の<11−20>方向の距離)dが20μm以下である場合、好ましくは10μm以下である場合、さらに好ましくは5μm以下である場合には、本発明の炭化珪素基板1の表面処理時における結晶の自己整合によって、本発明の炭化珪素基板1の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる傾向にある。これは、後述する固体状シリコンの加熱工程時において隣り合う溝3同士が結合してテラスの幅が広くなると考えられるためである。
【0048】
また、本発明で用いられる炭化珪素基板1の表面は、<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面であることが好ましい。
【0049】
このように炭化珪素基板1の(0001)面となる表面が<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面である場合には、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅が大きくなる傾向にある。ここで、オフ角としては、炭化珪素基板1の表面の(0001)面が水平方向に対してたとえば8°程度の角度の傾斜を有するようなオフ角とすることが好ましい。
【0050】
(蓋材設置工程)
炭化珪素基板1の表面上に固体状シリコン2を設置する工程が行なわれた後には、たとえば図7の模式的断面図に示すように、固体状シリコン2上に蓋材5を設置する工程が行なわれる。
【0051】
ここで、蓋材5の材質は特に限定されないが、蓋材5としては炭化珪素基板を用いることが好ましい。蓋材5として炭化珪素基板を用いた場合には、固体状シリコン2の両面に設置されている炭化珪素基板1および蓋材5である炭化珪素基板の2枚の炭化珪素基板のそれぞれの表面について本発明の表面処理を同時に行なうことができるため、本発明の炭化珪素基板の表面処理をより効率的に行なうことができる傾向にある。
【0052】
なお、蓋材5として炭化珪素基板を用いた場合には、その蓋材5となる炭化珪素基板の表面にも上記で説明したような溝や凸部等からなる段差が形成されていることが好ましく、また、蓋材5となる炭化珪素基板の表面は、上記で説明したような角度のオフ角を有するようにスライスして露出した(0001)面であることが好ましい。
【0053】
(固体状シリコン加熱工程)
次に、図7に示すように炭化珪素基板1の表面上に設置された固体状シリコン2上に蓋材5を設置した後に、固体状シリコン2が設置された炭化珪素基板1を固体状シリコン2の融点以上の温度に加熱することによって固体状シリコン2を溶融させる工程が行なわれる。
【0054】
これにより、炭化珪素基板1の表面上に設置された固体状シリコン2が加熱により溶融し、固体状シリコン2から炭化珪素基板1の表面にシリコン原子が供給されること等によって、炭化珪素基板1の表面の原子配列が再構成され、炭化珪素基板1の表面に(0001)面の幅の広いテラスが形成されることになる。
【0055】
ここで、固体状シリコン2の融点以上の温度としては、たとえば1414℃以上の温度が挙げられる。また、固体状シリコン2の加熱温度の上限は、加熱条件に合わせて適宜設定することができ、たとえば2000℃程度とすることができる。また、固体状シリコン2の加熱方法は特に限定されず、たとえば従来から公知の加熱方法を用いることができる。
【0056】
(炭化珪素基板分離工程)
次に、固体状シリコン2を加熱して溶融させた後に固化することにより形成された固化シリコンから炭化珪素基板1を分離する工程が行なわれる。
【0057】
ここで、固化シリコンの除去は、たとえばフッ酸と硝酸との混合液であるフッ硝酸に固化シリコンを浸漬させることにより行なうことができる。これにより、固化シリコンがフッ硝酸に溶解して、固化シリコンから炭化珪素基板1を分離することができる。
【0058】
固化シリコンから分離した後の炭化珪素基板1の表面には、たとえば図8の模式的断面図に示すように、炭化珪素結晶の(0001)面であるテラス6とテラス6に隣接する面であるライザ7とが形成される。なお、図8における破線部は、本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の表面に形成されていた溝部分を図示している。
【0059】
図9に、本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の表面に形成されている段差の一例の模式的な拡大断面図を示す。また、図10に、図9に示す炭化珪素基板1の表面について本発明の炭化珪素基板の表面処理を行なった後のテラスの一例の模式的な拡大断面図を示す。
【0060】
図9および図10に示す例においても、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって、鉛直方向に形成されている炭化珪素基板1の表面の段差からその鉛直方向から所定の角度を形成して傾斜するように炭化珪素結晶の(0001)面であるテラス6とテラス6に隣接する面であるライザ7とが形成されていることがわかる。
【0061】
図11に、本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の(0001)面に<11−20>方向および<1−100>方向にそれぞれ辺を有する四角形状の表面を含む四角柱状に上方に突出したパターンである凸部4が本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によってどのように変化するかを示した模式的な拡大平面図を示す。なお、図11の左側の図面が本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板1の凸部4の表面形状を示しており、図11の右側の図面が本発明の炭化珪素基板の表面処理後の炭化珪素基板1の凸部4の表面形状を示している。ここで、炭化珪素基板1の(0001)面は、(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面であってもよく、<11−20>方向は<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよく、<1−100>方向は<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向であってもよい。
【0062】
図11に示す例においては、六方晶である炭化珪素基板1の結晶構造に起因して、本発明の炭化珪素基板1の表面処理時における結晶の自己整合によって、本発明の炭化珪素基板の表面処理後に形成されるテラスの幅がより広くなる六角形状に形成される。
【0063】
以上に例示されたような本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によれば、特許文献1に記載された方法によって得られる従来のテラスの幅である約1〜2μmと比べてテラスの幅を大幅に広くすることができる。
【0064】
これは、特許文献1の方法においては、炭化珪素基板の表面にシリコン膜を形成した後の加熱時にシリコン膜を構成するシリコンの大部分が蒸発してしまい、炭化珪素基板の表面の再構成に必要なシリコン原子をシリコン膜から十分に供給することができないと考えられる。しかしながら、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法においては、炭化珪素基板上の固体状シリコンに蓋材を設置した状態で固体状シリコンを加熱しているために固体状シリコンからのシリコンの蒸発を抑え、炭化珪素基板の表面の再構成に必要なシリコン原子を炭化珪素基板の表面に十分に供給することができているためと考えられる。
【0065】
(横型MOSFET)
図12に、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての横型MOSFETの一例の模式的な断面図を示す。
【0066】
ここで、この横型MOSFETは、n型の炭化珪素基板1と、炭化珪素基板1の表面上にp型炭化珪素結晶がエピタキシャル成長することにより形成されたp型層8と、p型層8の表面の一部にn型ドーパントが拡散することにより形成されたn型層9aと、n型層9aと所定の間隔をあけてp型層8の表面にn型ドーパントが拡散することにより形成されたn型層9bとを有している。
【0067】
また、n型層9aの表面上にはソース電極10が形成されており、n型層9bの表面上にはドレイン電極11が形成されている。また、p型層8の表面上にはゲート酸化膜12が形成されており、ゲート酸化膜12の表面上にはゲート電極13が形成されている。
【0068】
この横型MOSFETには、上述した本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板1を用いていることから、炭化珪素基板1の表面には幅の広いテラスとそれに隣接するライザとが形成されており、そのエピタキシャル成長層となるp型層8の表面ならびにそのp型層8の表面に形成されたn型層9aおよびn型層9bにも炭化珪素基板1の表面のテラスとそれに隣接するライザとが引き継がれることになる。
【0069】
ここで、この横型MOSFETにおける電子の走行方向は、図13の模式的拡大平面図の矢印に示されるように、幅の広いテラス6の形成方向に沿った方向とすることが好ましく、ライザ7と交差しない方向とすることが好ましい。これは、電子はテラス6の内部ではその進行を妨げられることなく移動することができるが、ライザ7は電子の進行を妨げるために電子のスムーズな移動が妨げられてしまうためである。
【0070】
図14に、横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例では、電子の走行がテラス6の内部で行なわれるように、ソース電極10、ゲート電極13、ドレイン電極11およびゲート酸化膜12のすべてをテラス6の内部に形成している点に特徴がある。
【0071】
ここで、電子は、ソース電極10からドレイン電極11に矢印の方向に沿って進行することになる。このような構成とすることによって、横型MOSFETの電子のチャネルをテラス6の内部に形成することができることから、横型MOSFETのチャネルにおける電子の走行をスムーズなものとすることができる点で好ましい。
【0072】
すなわち、図14に示す例においては、ライザ7は電子の走行方向と直交する方向に形成されているが、電子はライザ7間のテラス6の内部を走行するために電子の走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0073】
図15に、横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例においては、電子の走行がテラス6の内部で行なわれるように、電子の走行方向(図15の矢印の方向)をライザ7の伸張方向と平行にして、ソース電極10、ゲート電極13、ドレイン電極11およびゲート酸化膜12を配置している点に特徴がある。ここで、電子は、ソース電極10からドレイン電極11に矢印の方向に沿って進行することになる。このような構成とすることによっても、横型MOSFETの電子のチャネルをテラス6の内部に形成することができることから、横型MOSFETのチャネルにおける電子の走行をスムーズなものとすることができる点で好ましい。
【0074】
すなわち、図15に示す例においては、ライザ7は電子の走行方向と平行する方向に形成されているが、電子はライザ7間のテラス6の内部を走行するために電子の走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0075】
(縦型MOSFET)
図16に、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての縦型MOSFETの一例の模式的な断面図を示す。
【0076】
この縦型MOSFETは、n型の炭化珪素基板1と、炭化珪素基板1の表面上にn型炭化珪素結晶がエピタキシャル成長することにより形成されたn型層9と、n型層9の表面の一部にp型ドーパントが拡散することにより形成されたp型層8と、p型層8の表面の一部にn型ドーパントが高濃度で拡散することにより形成されたn+型層14とを有している。ここで、n+型層14に含有されているn型ドーパント濃度は、n型層9に含有されているn型ドーパント濃度よりも高くなっている。
【0077】
n+型層14の表面上にはソース電極10が形成されており、p型層8の表面上にはゲート酸化膜12が形成されている。また、ゲート酸化膜12の表面上にはゲート電極13が形成されている。さらに、炭化珪素基板1の裏面にはドレイン電極11が形成されている。
【0078】
この縦型MOSFETには、上述した本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板1を用いていることから、炭化珪素基板1の表面には幅の広いテラスとそれに隣接するライザとが形成されており、そのエピタキシャル成長層となるn型層9の表面ならびにそのn型層9の表面に形成されたp型層8およびn+型層14にも炭化珪素基板1の表面のテラスとそれに隣接するライザとが引き継がれることになる。
【0079】
図17に、図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例では、図中の矢印で示される電子の走行方向がライザ7の伸張方向と平行になるように構成して、電子の移動がテラス6の内部で行なわれるように、ソース電極10、ゲート電極13およびゲート酸化膜12を形成している点に特徴がある。
【0080】
ここで、電子は、図17に示す矢印の方向に沿ってソース電極10からn+型層14、p型層8、n型層9およびn型の炭化珪素基板1を順次通って炭化珪素基板1の裏面のドレイン電極11に到達することになる。
【0081】
図17に示す例では、電子は、テラス6の内部で走行することから、ライザ7によってその走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0082】
図18に、図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。この構成例では、図中の矢印で示される電子の走行方向がテラス6の内部で行なわれるように、ソース電極10、ゲート電極13およびゲート酸化膜12をすべて、隣り合うライザ7の間のテラス6の内部に形成している点に特徴がある。図18に示す例においては、ソース電極10の表面を円形状にして、ソース電極10の外周を取り囲むようにゲート酸化膜12を環状に形成し、その環状のゲート酸化膜12の表面上に環状のゲート電極13を形成している構成となっている。
【0083】
ここで、電子は、図18に示す矢印の方向に沿ってソース電極10からn+型層14、p型層8、n型層9およびn型の炭化珪素基板1を順次通って炭化珪素基板1の裏面のドレイン電極11に到達することになる。
【0084】
図18に示す例においても、電子は、テラス6の内部で走行することから、ライザ7によってその走行が妨げられずスムーズな電子の走行が可能となる。
【0085】
以上の図15および図17等を参照して説明したように、横型MOSFETおよび縦型MOSFETのそれぞれのMOSFETの表面のチャネルにおける電子の走行がライザ7を跨がないようにすることによって、MOSFETの表面のチャネルにおける電子の走行がスムーズなものとなり、高電子移動度および大電流密度のMOSFETを得ることができる。
【0086】
また、以上の図14および図18等を参照して説明したように、横型MOSFETおよび縦型MOSFETのそれぞれのMOSFETの表面のチャネルを隣り合うライザ7間のテラス6の内部に形成し、電子をテラス6の内部のみで走行させるようにすることによって、MOSFETの表面のチャネルにおける電子の走行がスムーズなものとなり、高電子移動度および大電流密度のMOSFETを得ることができる。
【0087】
なお、上記においては、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法を用いて得られた炭化珪素基板を用いて作製した半導体装置の例として、横型MOSFETおよび縦型MOSFETについて説明したが、本発明の炭化珪素基板の表面処理方法を用いて得られた炭化珪素基板を用いて作製されている半導体装置であれば横型MOSFETおよび縦型MOSFETには限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0088】
(実施例1)
まず、図19のSEM(Scanning Electron Microscope)写真に示すように、炭化珪素基板の表面((0001)面)上にU字状のパターンを形成した。ここで、炭化珪素基板の表面は、炭化珪素結晶インゴットを<1−100>方向にオフ角を有するようにスライスして形成したものである。また、U字状のパターンは、炭化珪素基板の表面の一部をエッチングにより除去して形成した。また、U字状のパターンの高さ(すなわち、炭化珪素基板の表面に形成されたU字部分の段差の高さ)は1.84μmであった。
【0089】
次に、図19に示すようにU字状のパターンが形成された2枚の炭化珪素基板の表面の間に400μmの厚さのシリコン基板が設置されるように2枚の炭化珪素基板でシリコン基板を挟んだ。
【0090】
次に、シリコン基板の融点以上の温度である1700℃にシリコン基板とそのシリコン基板を挟んだ2枚の炭化珪素基板とを加熱することによってシリコン基板を溶融させた。ここで、上記の加熱は、シリコン基板を挟んだ2枚の炭化珪素基板を加熱炉内に設置した後に、1700℃のアルゴン雰囲気中で20分間加熱することにより行なわれた。
【0091】
次に、上記の加熱により溶融したシリコンが固化して形成された固化シリコンにより密着した2枚の炭化珪素基板をフッ硝酸(フッ酸の質量:硝酸の質量=1:1)に浸漬させて、2枚の炭化珪素基板の間の固化シリコンを溶解することにより、2枚の炭化珪素基板を固化シリコンからそれぞれ分離した。
【0092】
図20に、上記処理前の炭化珪素基板の表面と、上記処理後の炭化珪素基板の表面とのSEM写真を示す。ここで、図20の右側のSEM写真が上記処理前の炭化珪素基板の表面に該当し、図20の左側のSEM写真が上記処理後の炭化珪素基板の表面に該当する。
【0093】
図20に示すように、図20の右側のSEM写真におけるU字状のパターンの先端部の段差は、図20の左側のSEM写真に示すように六角形状のテラスに再構成されており、幅の広いテラスが形成されていることがわかる。このテラスの幅(図20の左右方向の長さ)は約15μm程度であった。
【0094】
したがって、上記処理によれば、炭化珪素基板の表面に(0001)面の広いテラスが得られることが確認できた。
【0095】
また、シリコン基板をシリコン原子の供給源として用いることによって、上記加熱時の炭化珪素基板の表面の再構成を活性化し、その結果、より幅の広い炭化珪素結晶の(0001)面のテラスが形成できることが可能となった。
【0096】
(実施例2)
まず、図21のSEM写真に示すように、炭化珪素基板の(0001)面である表面上に複数の溝を形成した。ここで、図21に示すように、炭化珪素基板の表面に形成された複数の溝は所定の方向に伸びるようにして形成されている。
【0097】
次に、図21に示すように溝が形成された2枚の炭化珪素基板の間に400μmの厚さのシリコン基板が設置されるように2枚の炭化珪素基板でシリコン基板を挟んだ。
【0098】
次に、実施例1と同様にして、シリコン基板を挟んだ2枚の炭化珪素基板を加熱炉内に設置した後に、1700℃のアルゴン雰囲気中で20分間加熱した。
【0099】
次に、実施例1と同様にして、上記の加熱により溶融したシリコンが固化して形成された固化シリコンにより密着した2枚の炭化珪素基板をフッ硝酸(フッ酸の質量:硝酸の質量=1:1)に浸漬させて、2枚の炭化珪素基板の間の固化シリコンを溶解することにより、2枚の炭化珪素基板を固化シリコンからそれぞれ分離した。
【0100】
図22に、上記処理後の炭化珪素基板の表面のSEM写真を示す。図22に示すように、溝の側壁に相当する段差部分は、幅の広いテラスに再構成されており、この例においても、広い幅を有する(0001)面のテラスが形成されることが確認された。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、より広い幅を有するテラスを形成することができる炭化珪素基板の表面処理方法およびその炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理された炭化珪素基板を用いて製造された半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明において炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置した状態の一例の模式的な断面図である。
【図2】図1に示す炭化珪素基板の表面の一例の模式的な平面図である。
【図3】図1に示す炭化珪素基板の表面の他の一例の模式的な平面図である。
【図4】図3のIV−IVに沿った模式的な断面図である。
【図5】図1に示す炭化珪素基板の表面の他の一例の模式的な平面図である。
【図6】図5のVI−VIに沿った模式的な断面図である。
【図7】本発明において炭化珪素基板の表面上の固体状シリコン上に蓋体を設置した状態の一例の模式的な断面図である。
【図8】本発明の炭化珪素基板の表面処理後の炭化珪素基板の一例の模式的な断面図である。
【図9】本発明の炭化珪素基板の表面処理前の炭化珪素基板の表面に形成されている段差の一例の模式的な拡大断面図である。
【図10】図9に示す炭化珪素基板の表面について本発明の炭化珪素基板の表面処理を行なった後のテラスの一例の模式的な拡大断面図である。
【図11】本発明において炭化珪素基板に形成された凸部が本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によってどのように変化するかを図解した模式的な拡大平面図である。
【図12】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての横型MOSFETの一例の模式的な断面図である。
【図13】横型MOSFETにおける電子の走行方向の好ましい一例を示す模式的な拡大平面図である。
【図14】図12に示す横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図である。
【図15】図12に示す横型MOSFETのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図16】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法によって得られた炭化珪素基板を用いて作製された半導体装置としての縦型MOSFETの一例の模式的な断面図である。
【図17】図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の一例の模式的な拡大平面図である。
【図18】図16に示す縦型MOSFETのソース電極、ゲート電極およびゲート酸化膜の構成の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図19】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施前の炭化珪素基板の表面の一例のSEM写真である。
【図20】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施前と実施後の炭化珪素基板の表面の一例のSEM写真である。
【図21】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施前の炭化珪素基板の表面の他の一例のSEM写真である。
【図22】本発明の炭化珪素基板の表面処理方法の実施後の炭化珪素基板の表面の他の一例のSEM写真である。
【符号の説明】
【0104】
1 炭化珪素基板、2 固体状シリコン、3 溝、4 凸部、4a,4b 辺、5 蓋材、8 p型層、9,9a,9b n型層、10 ソース電極、11 ドレイン電極、12 ゲート酸化膜、13 ゲート電極、14 n+型層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置する工程と、
前記固体状シリコン上に蓋材を設置する工程と、
前記蓋材の設置後に前記固体状シリコンが設置された前記炭化珪素基板を前記固体状シリコンの融点以上の温度に加熱して前記固体状シリコンを溶融させる工程と、
前記固体状シリコンの前記溶融後に固化した固化シリコンから前記炭化珪素基板を分離する工程と、
を含む、炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項2】
前記蓋材が炭化珪素基板であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項3】
前記固化シリコンをフッ硝酸に浸漬させることにより除去することを特徴とする、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項4】
前記固体状シリコンが、前記炭化珪素基板の表面上に堆積されたシリコン膜であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項5】
前記シリコン膜の厚さが1nm以上5000nm以下であることを特徴とする、請求項4に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項6】
前記固体状シリコンが、シリコン基板であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項7】
前記炭化珪素基板の表面上にシリコン膜を形成した後に前記固体状シリコンを設置することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項8】
前記シリコン膜の厚さが1nm以上1000nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項9】
前記炭化珪素基板の表面に段差が形成されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項10】
前記段差は、前記炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向の少なくとも一方に伸びていることを特徴とする、請求項9に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項11】
前記段差の高さが0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする、請求項9または10に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項12】
前記段差が少なくとも2つ形成されており、隣り合う2つの前記段差の間隔が20μm以下であることを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項13】
前記炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向または<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向に伸びる溝が少なくとも1つ形成されており、前記溝により前記段差が構成されていることを特徴とする、請求項9から12のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項14】
前記炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向にそれぞれ辺を有する四角形を底面とする四角柱が少なくとも1つ形成されており、前記四角柱により前記段差が構成されていることを特徴とする、請求項9から13のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項15】
前記炭化珪素基板の表面が<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面であることを特徴とする、請求項1から14のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理が施された炭化珪素基板を用いて作製された、半導体装置。
【請求項17】
前記半導体装置がMOSFETであることを特徴とする、請求項16に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記MOSFETのチャネルにおける電子の走行がライザを跨がないようにして行なわれることを特徴とする、請求項17に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記MOSFETのチャネルにおける電子の走行がテラスの内部で行なわれることを特徴とする、請求項17または18に記載の半導体装置。
【請求項1】
炭化珪素基板の表面上に固体状シリコンを設置する工程と、
前記固体状シリコン上に蓋材を設置する工程と、
前記蓋材の設置後に前記固体状シリコンが設置された前記炭化珪素基板を前記固体状シリコンの融点以上の温度に加熱して前記固体状シリコンを溶融させる工程と、
前記固体状シリコンの前記溶融後に固化した固化シリコンから前記炭化珪素基板を分離する工程と、
を含む、炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項2】
前記蓋材が炭化珪素基板であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項3】
前記固化シリコンをフッ硝酸に浸漬させることにより除去することを特徴とする、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項4】
前記固体状シリコンが、前記炭化珪素基板の表面上に堆積されたシリコン膜であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項5】
前記シリコン膜の厚さが1nm以上5000nm以下であることを特徴とする、請求項4に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項6】
前記固体状シリコンが、シリコン基板であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項7】
前記炭化珪素基板の表面上にシリコン膜を形成した後に前記固体状シリコンを設置することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項8】
前記シリコン膜の厚さが1nm以上1000nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項9】
前記炭化珪素基板の表面に段差が形成されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項10】
前記段差は、前記炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向の少なくとも一方に伸びていることを特徴とする、請求項9に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項11】
前記段差の高さが0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする、請求項9または10に記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項12】
前記段差が少なくとも2つ形成されており、隣り合う2つの前記段差の間隔が20μm以下であることを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項13】
前記炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向または<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向に伸びる溝が少なくとも1つ形成されており、前記溝により前記段差が構成されていることを特徴とする、請求項9から12のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項14】
前記炭化珪素基板の(0001)面若しくは(0001)面から10°以下の範囲内で傾斜した表面に<1−100>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向および<11−20>方向に対して±5°の範囲内で傾斜した方向にそれぞれ辺を有する四角形を底面とする四角柱が少なくとも1つ形成されており、前記四角柱により前記段差が構成されていることを特徴とする、請求項9から13のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項15】
前記炭化珪素基板の表面が<1−100>方向に対して10°以下の範囲内で傾斜したオフ角を有するようにスライスして形成された(0001)面であることを特徴とする、請求項1から14のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の炭化珪素基板の表面処理方法により表面処理が施された炭化珪素基板を用いて作製された、半導体装置。
【請求項17】
前記半導体装置がMOSFETであることを特徴とする、請求項16に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記MOSFETのチャネルにおける電子の走行がライザを跨がないようにして行なわれることを特徴とする、請求項17に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記MOSFETのチャネルにおける電子の走行がテラスの内部で行なわれることを特徴とする、請求項17または18に記載の半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−170457(P2009−170457A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3475(P2008−3475)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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