説明

炭素膜、炭素膜の製造方法及びCMPパッドコンディショナー

【課題】炭素膜と基材との界面における残留応力を抑制し、炭素膜のクラックや剥離を防止し、性能が安定して確保される炭素膜、炭素膜の製造方法及びCMPパッドコンディショナーを提供する。
【解決手段】基材1を被覆する炭素膜2であって、DLCからなる第1炭素膜11と、平均粒径が200nm以下のダイヤモンド粒子からなる第2炭素膜12と、平均粒径が200nmを超えるダイヤモンド粒子からなる第3炭素膜13と、を備え、前記第1、第2、第3炭素膜11、12、13が、前記基材1側からこの順に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、耐摩耗性、硬さ、剛性等の力学的特性が要求される工具や部材等を被覆する炭素膜、炭素膜の製造方法、及び、この炭素膜を用いたCMPパッドコンディショナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学気相蒸着(CVD)法により、ダイヤモンド粒子やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる炭素膜を、電子デバイスや工具等に利用する研究が活発に行われている。すなわち、前記炭素膜を工具や部材等に成膜することによって、これらの工具や部材等に求められる耐摩耗性、硬さ、剛性等の力学的特性に対応するようにしている。このような炭素膜としては、例えば、特許文献1、2に記載されたものが知られている。
【0003】
一方、半導体産業の進展とともに、金属、半導体、セラミックスなどの表面を高精度に仕上げる加工の必要性が高まっており、特に、半導体ウェーハでは、その集積度の向上とともにナノメーターオーダーの表面仕上げが要求されている。このような高精度の表面仕上げに対応するために、半導体ウェーハに対して、多孔性のCMPパッドを用いたCMP(ケミカルメカニカルポリッシュ)研磨が一般に行われている。
【0004】
半導体ウェーハ等の研磨加工に用いられるCMPパッドは、研磨時間が経過していくにつれ目詰まりや圧縮変形を生じ、その表面状態が次第に変化していく。すると、研磨速度の低下や不均一研磨等の好ましくない現象が生じるので、CMPパッドコンディショナーを用い、CMPパッドの表面を研削加工することにより、CMPパッドの表面状態を一定に保って、良好な研磨状態を維持する工夫が行われている。
【0005】
このようなCMPパッドコンディショナーは、例えば、円板状の基板(基材)と、この基板のCMPパッド側を向く表面に形成された複数の切刃とを有している。そして、これらの切刃を、ダイヤモンド粒子からなる前記炭素膜で被覆して、鋭い切れ味や耐摩耗性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−9882号公報
【特許文献2】特開平2−223437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述のように、ダイヤモンド粒子からなる炭素膜を基材に成膜した場合、炭素膜と基材との界面に比較的大きな残留応力が生じて、炭素膜にクラックが発生したり、炭素膜が基材から剥離したりすることがあった。すなわち、炭素膜の格子定数と基材の格子定数との相違により、過大な残留応力が発生して、炭素膜の基材に対する結合強度や機械的強度が確保できないことがあった。
【0008】
また、基材によって、炭素膜の膜厚を変更する場合があるが、ダイヤモンド粒子からなる炭素膜においては、その膜厚に応じて、生成されるダイヤモンド粒子の平均粒径が比較的大きく変動することとなる。従って、前記炭素膜の表面粗さや機械的強度が変動しやすく、炭素膜の性能を安定して確保することが難しかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、炭素膜と基材との界面における残留応力を抑制し、炭素膜のクラックや剥離を防止し、性能が安定して確保される炭素膜、炭素膜の製造方法及びCMPパッドコンディショナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、基材を被覆する炭素膜であって、DLCからなる第1炭素膜と、平均粒径が200nm以下のダイヤモンド粒子からなる第2炭素膜と、平均粒径が200nmを超えるダイヤモンド粒子からなる第3炭素膜と、を備え、前記第1、第2、第3炭素膜が、前記基材側からこの順に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る炭素膜によれば、DLC(Diamond−Like Carbon)からなる第1炭素膜と、平均粒径が200nm以下のダイヤモンド粒子、すなわち、所謂ナノクリスタルダイヤモンドからなる第2炭素膜と、平均粒径が200nmを超えるダイヤモンド粒子からなる第3炭素膜とが、基材側からこの順に形成されているので、炭素膜にクラックが生じたり、炭素膜が基材から剥離したりするようなことが防止される。尚、前記DLCとは、主として炭化水素、或いは、炭素の同素体からなる非晶質(アモルファス)の硬質炭素膜を示す。
【0012】
詳しくは、この炭素膜において、基材に成膜された第1炭素膜が、SP結合及びSP結合の混在するアモルファスのDLCからなるので、この第1炭素膜と基材との界面に残留応力が発生するようなことが確実に抑制される。従って、炭素膜の前述の剥離が防止され、基材に対する結合強度が飛躍的に高められる。
【0013】
また、炭素膜の表層をなす第3炭素膜が、SP結合の比較的粒径の大きいダイヤモンド粒子からなるので、炭素膜の剛性が充分に確保される。
また、このような第1、第3炭素膜の間に配された第2炭素膜が、比較的粒径の小さい前記ナノクリスタルダイヤモンドからなることから、第1炭素膜及び第3炭素膜に対して強固に結合する。すなわち、第2炭素膜は、その隣接する第1炭素膜及び第3炭素膜の面形状に夫々対応するように緻密に形成され、第1、第3炭素膜に対して充分に密着して、結合強度が高められている。また、第2炭素膜が前記ナノクリスタルダイヤモンドからなることから、炭素膜は、第1、第2、第3炭素膜の順に漸次剛性が高められている。従って、この炭素膜に面方向(すなわち膜厚方向に直交する方向)の外力が加わった際に、せん断力の発生を確実に抑制でき、該炭素膜の基材に対する剥離強度がより高められる。
【0014】
また、このように炭素膜のクラックや剥離が防止されることから、第3炭素膜内のダイヤモンド粒子の平均粒径を、比較的自由に設定することができる。従って、炭素膜の表面粗さや機械的強度を種々に設定でき、この炭素膜を工具や部材等に用いた場合に、様々な用途に対応可能である。
【0015】
また、基材によって、炭素膜の膜厚を変更するような場合であっても、炭素膜の性能を安定して確保することができる。すなわち、第3炭素膜の膜厚を変えずに、第1炭素膜又は/及び第2炭素膜の膜厚を増減させることによって、炭素膜全体の膜厚を調整できることから、表層の第3炭素膜を安定して形成できる。従って、炭素膜の膜厚に係わらず、第3炭素膜内のダイヤモンド粒子の平均粒径を安定させることができ、炭素膜の表面粗さや機械的強度が安定する。
【0016】
また、本発明に係る炭素膜において、前記第1、第2、第3炭素膜が、この順で繰り返し成膜されていることとしてもよい。
【0017】
本発明に係る炭素膜によれば、この炭素膜を工具や部材等に用いた場合に、種々の用途に対応可能である。詳しくは、例えば、この炭素膜を切削工具や研削工具に用いた場合、切削加工や研削加工によって外側の第1、第2、第3炭素膜が摩耗しても、その内側(すなわち基材側)の新たな第1、第2、第3炭素膜が露出し自己再生するようになっていることから、工具寿命が延長する。
また、炭素膜を比較的厚膜に形成するような場合、従来のように、ダイヤモンド粒子からなる炭素膜のみで成膜すると、膜厚が厚くなるに連れダイヤモンド粒子の平均粒径が増大して、所望の表面粗さや機械的強度を有する炭素膜を得ることが難しい。これに対比して、本発明の炭素膜では、第1、第2、第3炭素膜がこの順で繰り返し成膜されているので、表層の第3炭素膜の膜厚を一定に制御できるとともに、該第3炭素膜におけるダイヤモンド粒子の平均粒径を一定に保てることから、所望の表面粗さや機械的強度を有する炭素膜が安定して得られる。
【0018】
また、本発明に係る炭素膜において、前記第1炭素膜の膜厚が3〜5μmの範囲内に設定され、前記第2炭素膜の膜厚が3〜5μmの範囲内に設定され、前記第3炭素膜の膜厚が5〜15μmの範囲内に設定されることとしてもよい。
【0019】
本発明に係る炭素膜によれば、第1、第2炭素膜の膜厚が3〜5μmの範囲内に夫々設定されているので、第1、第2炭素膜が、均一に精度よく形成できる。すなわち、前記膜厚が3μm未満に設定された場合には、膜厚が安定しなかったり空隙が形成されたりして、均一に成膜できないことがある。また、前記膜厚が5μmを超えて設定された場合には、製造コストが比較的嵩むこととなり、好ましくない。
【0020】
また、第3炭素膜の膜厚が5〜15μmの範囲内に設定されているので、第3炭素膜内のダイヤモンド粒子の平均粒径を、比較的自由に設定することができる。従って、炭素膜の表面粗さや機械的強度を種々に設定できる。
【0021】
また、本発明は、前述した炭素膜の製造方法であって、CVD法により、前記第1、第2、第3炭素膜を連続して成膜することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る炭素膜の製造方法によれば、CVD法により、第1、第2、第3炭素膜を連続して成膜することから、例えば、これらの第1、第2、第3炭素膜を、同一の反応容器内で成膜できる。従って、炭素膜を比較的容易に、かつ、精度よく形成できる。
【0023】
また、本発明に係る炭素膜の製造方法において、前記基材に前記第1炭素膜を成膜するに際し、この基材に、種結晶のダイヤモンド粉末を付着させた後、第1炭素膜を成膜することとしてもよい。
【0024】
本発明に係る炭素膜の製造方法によれば、基材に、種結晶のダイヤモンド粉末を付着させた後、第1炭素膜を成膜するので、基材に分散されたダイヤモンド粉末が核となり、第1炭素膜が比較的早期に成長するとともに、該基材に精度よく均一に形成される。
【0025】
また、本発明は、基材に形成された切刃を用いて、前記基材に対向配置されたCMPパッドに研削加工を施すCMPパッドコンディショナーであって、前記切刃が炭素膜で被覆され、この炭素膜として、前述の炭素膜を用いたことを特徴としている。
【0026】
本発明に係るCMPパッドコンディショナーによれば、前述の炭素膜を用いて基材の切刃を被覆しているので、切刃の切れ味が高められるとともに剛性が確保され、CMPパッドに対する研削性能が向上する。また、炭素膜のクラックや剥離が防止されることから、工具寿命が延長し、長期に亘り安定してCMPパッドを研削加工できるとともに、半導体ウェーハ等のスクラッチが確実に防止される。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る炭素膜によれば、炭素膜と基材との界面における残留応力が抑制され、炭素膜のクラックや剥離が防止され、性能が安定して確保される。
また、本発明に係る炭素膜の製造方法によれば、このような炭素膜を比較的容易かつ高精度に製造することができる。
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナーによれば、前述の炭素膜で切刃が被覆されるので、CMPパッドを精度よく安定して研削加工でき、工具寿命が延長する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るCMPパッドコンディショナーを示す部分側断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るCMPパッドコンディショナーの変形例を示す部分側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本実施形態のCMPパッドコンディショナー10は、円板状又は円環板状をなし、その中心軸周りに回転する基板(基材)1と、この基板1に形成された複数の切刃(不図示)とを有し、これらの切刃を用いて、基板1に対向配置されたCMPパッドに研削加工を施すものである。また、これらの切刃は、例えば、多角錐状、多角柱状、円錐状又は切頭円錐状等をなし、基板1において前記CMPパッド側を向く表面から突出して形成されている。また、CMPパッドは、半導体ウェーハに対して研磨加工を施す。
【0030】
基板1は、炭化珪素(SiC)や窒化珪素(Si)等のセラミックス材料からなり、図1に示すように、基板1のCMPパッド側を向く表面1Aは、炭素膜2で被覆されている。また、図示しないが、表面1Aに形成された前記切刃も炭素膜2で被覆されている。
【0031】
また、炭素膜2は、基板1の表面1Aに、第1炭素膜11、第2炭素膜12及び第3炭素膜13を順次積層するように形成されている。
第1炭素膜11は、基板1の表面1Aに成膜され、SP結合及びSP結合の混在するアモルファスのDLCからなる。また、第1炭素膜11の膜厚は、3〜5μmの範囲内に設定される。
【0032】
また、第2炭素膜12は、第1炭素膜11においてCMPパッド側を向く表面11Aに成膜され、平均粒径が200nm以下に設定されたダイヤモンド粒子、すなわち、所謂ナノクリスタルダイヤモンドからなる。また、第2炭素膜12は、ラマンシフトスペクトルにおいて1150cm−1付近に特徴的なピークを有する。また、第2炭素膜12の膜厚は、3〜5μmの範囲内に設定される。
【0033】
また、第3炭素膜13は、第2炭素膜12においてCMPパッド側を向く表面12Aに成膜され、SP結合のダイヤモンド粒子からなる。詳しくは、第3炭素膜13は、平均粒径が200nmを超える比較的粒径の大きい共有結合のダイヤモンド粒子からなる。また、第3炭素膜13は、ラマンシフトスペクトルにおいて1332cm−1付近に特徴的なピークを有する。また、第3炭素膜13の膜厚は、5〜15μmの範囲内に設定される。また、第3炭素膜13は、炭素膜2の表層をなしている。
【0034】
次に、このCMPパッドコンディショナー10を製造する手順について説明する。
まず、基板1を用意する。尚、基板1の表面1Aには、予め前記切刃に対応する形状を付与しておく。
【0035】
次いで、この基板1の表面1Aに、種結晶のダイヤモンド粉末を付着させる。詳しくは、種結晶としてダイヤモンド微粒子からなるダイヤモンド粉末を用い、該ダイヤモンド粉末を、表面1Aに塗布等によって分散させ均一に付着させる。
【0036】
次いで、気相合成法熱フィラメント炉からなる反応容器を用い、CVD法により、第1、第2、第3炭素膜11、12、13をこの順に連続して成膜する。詳しくは、同一の反応容器内において、まず、メタン(CH)濃度:5%程度の設定で第1炭素膜11を成膜し、次に、CH濃度:3.5%程度の設定で第2炭素膜12を成膜し、次に、CH濃度:1%程度の設定で第3炭素膜13を成膜し、炭素膜2を形成する。
このようにして、CMPパッドコンディショナー10が製造される。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナー10によれば、基板1の表面1Aに、DLCからなる第1炭素膜11と、平均粒径が200nm以下のダイヤモンド粒子、すなわち、所謂ナノクリスタルダイヤモンドからなる第2炭素膜12と、平均粒径が200nmを超えるダイヤモンド粒子からなる第3炭素膜13と、が順次成膜され、炭素膜2が形成されているので、炭素膜2にクラックが生じたり、炭素膜2が基板1から剥離したりするようなことが防止される。
【0038】
詳しくは、炭素膜2において、基板1の表面1Aに成膜された第1炭素膜11が、SP結合及びSP結合の混在するアモルファスのDLCからなるので、この第1炭素膜11と基板1との界面に残留応力が発生するようなことが確実に抑制される。すなわち、従来のCMPパッドコンディショナーにおいては、ダイヤモンド粒子からなる炭素膜の格子定数と基板1の格子定数との相違により、炭素膜と基板1との界面に数百MPa程度に及ぶ過大な残留応力が発生し、工具に衝撃が加わった際に、炭素膜の微小クラックから剥離に至ることがあり、炭素膜の基板1に対する結合強度や機械的強度が確保できなかった。一方、本実施形態のCMPパッドコンディショナー10では、前述のように界面の残留応力が抑制され、数十MPa程度に緩和されるので、炭素膜2の剥離が防止され、基板1に対する結合強度が飛躍的に高められる。
【0039】
また、炭素膜2の表層をなす第3炭素膜13が、SP結合の比較的粒径の大きいダイヤモンド粒子からなるので、炭素膜2の剛性が充分に確保される。
また、このような第1、第3炭素膜11、13の間に配された第2炭素膜12が、比較的粒径の小さい前記ナノクリスタルダイヤモンドからなることから、第1炭素膜11及び第3炭素膜13に対して強固に結合する。すなわち、第2炭素膜12は、その隣接する第1炭素膜11の表面11A及び第3炭素膜13の基板1側を向く表面13Bの形状に夫々対応するように緻密に形成され、第1、第3炭素膜11、13に対して充分に密着して、結合強度が高められている。また、第2炭素膜12が前記ナノクリスタルダイヤモンドからなることから、炭素膜2は、第1、第2、第3炭素膜11、12、13の順に漸次剛性が高められている。従って、この炭素膜2に面方向(すなわち膜厚方向に直交する方向)の外力が加わった際に、せん断力の発生を確実に抑制でき、該炭素膜2の基板1に対する剥離強度がより高められる。
【0040】
また、このように炭素膜2のクラックや剥離が防止されることから、第3炭素膜13内のダイヤモンド粒子の平均粒径を、比較的自由に設定することができる。従って、炭素膜2の表面粗さや機械的強度を種々に設定できる。
【0041】
また、基板1によって、炭素膜2の膜厚を変更するような場合であっても、炭素膜2の性能を安定して確保することができる。すなわち、第3炭素膜13の膜厚を変えずに、第1炭素膜11又は/及び第2炭素膜12の膜厚を増減させることによって、炭素膜2全体の膜厚を調整できることから、表層の第3炭素膜13を安定して形成できる。従って、炭素膜2の膜厚に係わらず、第3炭素膜13内のダイヤモンド粒子の平均粒径を安定させることができ、炭素膜2の表面粗さや機械的強度が安定する。
【0042】
また、第1、第2炭素膜11、12の膜厚が3〜5μmの範囲内に夫々設定されているので、第1、第2炭素膜11、12が、均一に精度よく形成できる。すなわち、前記膜厚が3μm未満に設定された場合には、膜厚が安定しなかったり空隙が形成されたりして、均一に成膜できないことがある。また、前記膜厚が5μmを超えて設定された場合には、製造コストが比較的嵩むこととなり、好ましくない。
【0043】
また、第3炭素膜13の膜厚が5〜15μmの範囲内に設定されているので、第3炭素膜13内のダイヤモンド粒子の平均粒径を、比較的自由に設定することができる。従って、炭素膜2の表面粗さや機械的強度を種々に設定できる。
【0044】
また、本実施形態の炭素膜2の製造方法によれば、CVD法により、第1、第2、第3炭素膜11、12、13を連続して成膜することから、これらの第1、第2、第3炭素膜11、12、13を、同一の反応容器内で成膜できる。従って、炭素膜2を比較的容易に、かつ、精度よく形成できる。
【0045】
また、基板1の表面1Aに、種結晶のダイヤモンド粉末を付着させた後、第1炭素膜11を成膜するので、表面1Aに分散されたダイヤモンド粉末が核となり、第1炭素膜11が比較的早期に成長するとともに、該表面1Aに精度よく均一に形成される。
【0046】
また、このCMPパッドコンディショナー10は、前述の炭素膜2を用いて基板1の切刃を被覆しているので、切刃の切れ味が高められるとともに剛性が確保され、CMPパッドに対する研削性能が向上する。また、炭素膜2のクラックや剥離が防止されることから、工具寿命が延長し、長期に亘り安定してCMPパッドを研削加工できるとともに、半導体ウェーハのスクラッチが確実に防止される。
【0047】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態では、炭素膜2をCMPパッドコンディショナー10に用いることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、この炭素膜2を、ドリル、エンドミル、バイト等の切削工具に用いたり、電子デバイス等の部材に用いたりしてもよい。
【0048】
また、炭素膜2が、基板1の表面1Aに、第1、第2、第3炭素膜11、12、13を順次積層するように形成されていることとしたが、これに限定されるものではない。図2のCMPパッドコンディショナー20は、本実施形態の変形例を示している。このCMPパッドコンディショナー20では、第1、第2、第3炭素膜11、12、13が、この順で繰り返し成膜され、炭素膜22とされている。
【0049】
詳しくは、基板1の表面1Aに、第1、第2、第3炭素膜11、12、13が順次成膜された後、さらに、この第3炭素膜13のCMPパッド側を向く表面13Aに、第1、第2、第3炭素膜11、12、13が順次成膜されて、6層からなる炭素膜22が形成されている。
【0050】
この炭素膜22によれば、該炭素膜22を工具や部材等に用いた場合に、種々の用途に対応可能である。詳しくは、例えば、この炭素膜22を切削工具や研削工具に用いた場合、切削加工や研削加工によって外側の第1、第2、第3炭素膜11、12、13が摩耗しても、その内側(すなわち基材側)の新たな第1、第2、第3炭素膜11、12、13が露出し自己再生するようになっていることから、工具寿命が延長する。
また、炭素膜を比較的厚膜に形成するような場合、従来のように、ダイヤモンド粒子からなる炭素膜のみで成膜すると、膜厚が厚くなるに連れダイヤモンド粒子の平均粒径が増大して、所望の表面粗さや機械的強度を有する炭素膜を得ることが難しい。これに対比して、図2の炭素膜22では、第1、第2、第3炭素膜11、12、13がこの順で繰り返し成膜されているので、炭素膜22を比較的厚膜に形成するような場合であっても、表層の第3炭素膜13の膜厚を一定に制御できるとともに、該第3炭素膜13におけるダイヤモンド粒子の平均粒径を一定に保てることから、所望の表面粗さや機械的強度を有する炭素膜22が安定して得られる。
【0051】
また、前記炭素膜22の表層をなす第3炭素膜13の表面13Aに、さらに、第1、第2、第3炭素膜11、12、13を順次成膜して、例えば、9層、12層、15層…等からなる炭素膜としても構わない。
【0052】
また、本実施形態では、基板1が、SiCやSi等からなることとしたが、それ以外のセラミックス材料で形成されていても構わない。
また、第1、第2、第3炭素膜11、12、13の各膜厚は、本実施形態で説明した前述の範囲内に限定されるものではない。
【0053】
また、本実施形態では、第1、第2、第3炭素膜11、12、13を、同一の反応容器内で成膜することとしたが、これに限定されるものではなく、別々の反応容器内において、夫々成膜することとしても構わない。
また、成膜の前に、予め基板1の表面1Aに種結晶のダイヤモンド粉末を付着させることとしたが、該表面1Aに、前記ダイヤモンド粉末を付着させずに第1炭素膜11を成膜しても構わない。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
実施例1として、まず、SiCからなる基板1、及び、Siからなる基板1を夫々用意し、これらの基板1の表面1Aに、種結晶のダイヤモンド粉末を均一に夫々付着させ、種付け処理した。次いで、これらの基板1の表面1Aに、気相合成法熱フィラメント炉を用いたCVD法により、第1、第2、第3炭素膜11、12、13を順次成膜して、炭素膜2を形成した。このようにして、CMPパッドコンディショナー10を夫々作製した。
【0056】
詳しくは、第1炭素膜11は、CH濃度:5%の設定で、膜厚3μmとなるように成膜した。また、第2炭素膜12は、CH濃度:3.5%の設定で、膜厚3μmとなるように成膜した。また、第3炭素膜13は、CH濃度:1%の設定で、膜厚10μmとなるように成膜した。尚、前記第3炭素膜13内のダイヤモンド粒子は、その平均粒径が比較的均一に制御され、1μm程度に形成された。
【0057】
次いで、これらのCMPパッドコンディショナー10の基板1と炭素膜2との界面における残留応力を測定した。尚、前記残留応力は、X線回析装置を用いて、格子面間隔のひずみを測定することにより求めた。詳しくは、数十μm程度の薄膜の場合、残留応力σは、σ=KMで表される。ここで、K=−E/2(1+ν)×πcotθ/180、M=∂(2θ)/∂(sinψ)、E:ヤング率、ν:ポアソン比、θ:無ひずみ状態の格子面間隔を規定した回析角、θ:回析角、ψ:試料法線方向と格子面法線方向のなす角、である。2θ−sinψをプロットすることとし、最小二乗法でその傾きを求めることでMが得られる。また、Kは物質により決まった定数である。
結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
また、比較例1として、基板1の表面1Aに、平均粒径が2μm程度に設定されたSP結合のダイヤモンド粒子からなる炭素膜のみを成膜し、CMPパッドコンディショナーを作製した。詳しくは、前記炭素膜は、CH濃度:1%の設定で、膜厚16μmとなるように成膜した。それ以外は、実施例1と同様の条件として測定を行った。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示す通り、実施例1においては、前記界面に発生する残留応力は、50MPa程度に夫々抑制された。
一方、比較例1においては、前記界面に発生する残留応力は、500MPa程度にも達した。
すなわち、実施例1では、比較例1に対比して、前記残留応力が1/10程度にまで抑制されることが確認された。尚、前記残留応力は、圧縮応力として発生した。
【符号の説明】
【0061】
1 基板(基材)
2、22 炭素膜
10、20 CMPパッドコンディショナー
11 第1炭素膜
12 第2炭素膜
13 第3炭素膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を被覆する炭素膜であって、
DLCからなる第1炭素膜と、
平均粒径が200nm以下のダイヤモンド粒子からなる第2炭素膜と、
平均粒径が200nmを超えるダイヤモンド粒子からなる第3炭素膜と、を備え、
前記第1、第2、第3炭素膜が、前記基材側からこの順に形成されていることを特徴とする炭素膜。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素膜であって、
前記第1、第2、第3炭素膜が、この順で繰り返し成膜されていることを特徴とする炭素膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭素膜であって、
前記第1炭素膜の膜厚が3〜5μmの範囲内に設定され、
前記第2炭素膜の膜厚が3〜5μmの範囲内に設定され、
前記第3炭素膜の膜厚が5〜15μmの範囲内に設定されることを特徴とする炭素膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素膜を製造するための炭素膜の製造方法であって、
CVD法により、前記第1、第2、第3炭素膜を連続して成膜することを特徴とする炭素膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の炭素膜の製造方法であって、
前記基材に前記第1炭素膜を成膜するに際し、この基材に、種結晶のダイヤモンド粉末を付着させた後、第1炭素膜を成膜することを特徴とする炭素膜の製造方法。
【請求項6】
基材に形成された切刃を用いて、前記基材に対向配置されたCMPパッドに研削加工を施すCMPパッドコンディショナーであって、
前記切刃が炭素膜で被覆され、前記炭素膜として、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素膜を用いたことを特徴とするCMPパッドコンディショナー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202911(P2010−202911A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47961(P2009−47961)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】