無機傾斜バリア膜及びそれらの製造方法
本発明は、層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、金属酸化物から構成される第1層と、該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物から構成される第2層と、該第2層上に配置される金属酸化物から構成される第3層と、を備える傾斜バリア膜に関する。本発明は、更に、この傾斜バリア膜を製造するスパッタリング方法、並びにこの傾斜バリア膜でカプセル化された装置に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年4月29日に出願された米国仮出願61/048,822の利益を要求する。これらの内容は全て参照することにより本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、バリア膜に関し、特に傾斜バリア膜に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光ディスプレイ(OLEDs)等のフレキシブルプラスチック電子機器は、既存のディスプレイ技術に替わるものとなる次世代ディスプレイ技術として広く認知されている。
【0004】
OLED構造及びその他の酸素及び/又は湿度に敏感な装置に関連して一般に知られる問題の一つは、それらが大気条件下で急速に劣化することである。これらの劣化を防止するために、各種のバリア膜が、エレクトロルミネセンス素子をその環境から隔離させるために用いられている。OLEDが10,000時間を越える寿命を有して信頼できる性能を達成するためには、OLEDの反応型エレクトロルミネセンス材料のカプセル化剤は、約5から10cc/m2/日未満の酸素透過速度(OTR)と、39℃、95%RHにおいて約10−5g/m2/日未満の水蒸気透過速度とを有するべきである。理想的な感湿電子機器用バリア膜は、ガラスのガスバリア性、耐化学性及び表面特性を、高分子の柔軟性、靭性及び加工性を組み合わせるものである。
【0005】
しかしながら、このような感度構造を大気から隔離させるために通常用いられる高分子系バリア膜には欠点がある。一般に、高分子膜110は、そのバリア性を向上させるために金属酸化物コーティング106で被覆されていても、ピンホール103、亀裂102、粒界101で生じる間隙等の欠陥に見舞われるため、通常高いバリア性は示さない(図4参照)。
【0006】
金属酸化物又は金属窒化物層等の付着被膜の完全性が、全体のガスバリア性を決定する上で重大な要素であり、また酸化物又は窒化物層内のピンホール、亀裂及び粒界等の欠陥の制御が重大な必要条件である。バリア膜厚が、バリア膜の成長中に臨界厚さを越える際には、亀裂の形成が固有応力の結果として観察される。通常30−60nmの厚さ範囲を有する最適厚さのバリア膜のバリア性は、大きな細孔径の欠陥によって制限される。ピンホールのサイズは、被膜を厚くすれば更に減少できるが、酸化物層が厚くなるほど固有応力が増加するため、固有応力がバリア性向上の制限要因となるであろう(図9参照)。
【0007】
現在の多層バリア膜技術は、欠陥が少なく、応力が低く、充填密度に優れた高品質の単一バリア酸化物層を必要としている。化学蒸着、電子ビーム蒸着及びフィルタ陰極真空アーク(FCVA)等の物理蒸着法を含む、バリア膜に適用するための従来のバリア層作成方法は、結果的にピンホール等の微細構造の下位特性をもたらし、これがガス透過バリアに不利益となる。多層バリア膜は単一バリア膜から構成されるので、これは同様に多層バリア膜の品質に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上記の問題のうち少なくともいくつかを克服することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の実施形態では、本発明は、層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、金属酸化物の第1層と、該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物の中間(第2)層と、該第2層上に配置される金属酸化物の第3層と、を備える傾斜バリア膜に関する。
【0010】
他の態様では、本発明は、単一の蒸着サイクルで請求項1から23のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜を製造する方法であって、該方法は、作動ガスを、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物である反応ガスと、交互に混合することによって、金属酸化物及び金属窒化物、或いは金属酸化物及び金属酸窒化物が交互に重なった層を基板上に蒸着する蒸着処理を備える製造方法に関する。
【0011】
他の態様では、本発明は、このような傾斜バリア膜を製造する方法で得られる傾斜バリア膜でカプセル化された装置に関する。
(図面の簡単な説明)
【0012】
本発明は、限定されない実施形態及び添付の図面とともに考慮する際に詳細な説明を参照することによって、より理解されるであろう。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す。金属窒化物又は金属酸窒化物55の中間層が、第1金属酸化物層52と第2金属酸化物層51との間に介在する。金属窒化物又は金属酸窒化物の中間層を導入することで、金属酸化物バリア層の欠陥を引き起こす固有応力を増加させずに金属酸化物バリア層の厚さを増すことができる。
【0014】
図2は、傾斜バリア膜の他の実施形態を示す。本実施形態では、図1に示すように傾斜バリア膜は、基板56上に配置される。
【0015】
図3は、本発明の更なる実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す。図1に示す傾斜バリア膜の実施形態と比較すると、本実施形態では、傾斜バリア膜は三層より多い層を含む。本実施形態では、二つの中間層55は、金属酸化物層52に挿入され、金属酸化物と金属窒化物又は金属酸窒化物とが交互に重なった層からなる層状構造を作る。この構造は、金属窒化物又は金属酸窒化物と金属酸化物とが交互に重なった層を更に加えることにより、更に広げることができる。
【0016】
図4は、当技術分野で周知のバリア膜の動作方式とこのようなバリア膜の制限を示す。このバリア膜は、三つの異なる層を含む。二つの金属酸化物層106は、高分子層110に介在されている。金属酸化物層は、高分子層の上部及び底部に塗布され、バリア性を向上させる。高分子と比較すると、金属酸化物は、高分子膜よりもよく水蒸気を吸着する(吸着を矢印107で示す)ことが知られている。しかしながら、導入部で既に説明したように、金属酸化物層は、金属酸化物層を形成する金属粒子101の境界で生じる欠陥、柔軟なバリア膜を曲げる際に生じうる亀裂102、ピンホール103等の、固有の構造的な欠陥を含んでいる。水分子108は、これらの欠陥を介して金属酸化物層を通過でき、高分子層110を通して拡散し(拡散を斜め方向の矢印104で示す)、金属酸化物層106の表面(脱着)から又は介して、保護すべき感湿装置が配置されている領域に放出される。
【0017】
図5及び図6は、カルシウムセンサを用いて作られたバリア膜のバリア膜特性の調査を実施するための設定を示す。
【0018】
図7は、傾斜バリア膜を製造するために本発明の一の実施形態で用いられるパルス反応性プラズマシステムを用いたマグネトロンスパッタリングシステムの一般的な設定を示す。マグネトロンスパッタリングを用いて、傾斜バリア層を平坦化基板上に蒸着できる。非平衡マグネトロンスパッタリング技術を用いて、高密度酸化物バリア膜を形成できる。このスパッタリング技術では、通常幾つかの単分子層である金属層が、非平衡マグネトロンから蒸着され、次に酸素又は窒素がシステムに導入されて、酸素又は窒素プラズマが生成される。これは基板に向かって高充填密度傾斜バリア膜のためにアルゴン及び酸素又は窒素イオン衝撃を与える。プラズマは、成長中の膜表面に向けられた酸素及び窒素の反応性の向上に役立ち、より望ましい膜の化学量論を提供する。過剰の固有応力を発生させずに高密度の膜を蒸着させるためには、高流量(2mA/cm2より多い)の低エネルギー(〜25eV)酸素及びアルゴンイオンを成長中のバリア酸化物膜に照射する。
【0019】
図8は、三つの異なる無機バリア膜構成のバリア性を決定するために、温度60℃、相対湿度90%で実施されたカルシウム分解度試験検討の結果を示す。100μmスケールバーは、各画像の右下に示す。図8の1列目は、50nm酸化アルミニウム膜(Al2O3)を用いた分解度試験の結果を示し、2列目は、50nm窒化アルミにム膜(AIN)を用いた分解度試験の結果を示す。27時間後、カルシウムセンサは、Al2O3及びAIN膜に対して分解の最初の兆候を示す。87時間後、Al2O3膜を用いる場合、カルシウムは完全に分解する。図8の3列目は、50nmAl2O3膜、25nmAIN膜及び50nmAl2O3膜からなる125nm傾斜バリア膜を用いた分解度試験の結果を示す。207時間後に初めて、カルシウムセンサが分解の最初の兆候を示し、414時間後でも、50時間後のAIN膜(2列目)よりも分解の程度が低かった。
【0020】
図9は、金属窒化物の厚さ、水蒸気透過速度及び拡散速度の関係を示す。左y軸に、水蒸気透過速度が表示し、右y軸に拡散係数D(m2/s)を表示する。x軸に、金属窒化物バリア層の厚さを表示する。グラフは、バリア性が金属窒化物の厚さとともに増加することを示している(WVTR及びDが減少)。これは、最初は層の厚さが増すとともにその層に形成される欠陥のサイズが小さいことによるものである。最良のバリア性は、金属窒化物層の厚さが約30nmから約60nmの間で得られる。しかしながら、金属窒化物層の厚さが60nmを越えると、層内の固有応力が増加し、成長中の層内部の固有応力のために金属窒化物バリア層に大きい欠陥が形成されるため、バリア性は悪くなる(WVTR及びDが増加)。表1から分かるように、同じ関係が金属酸化物バリア膜でも存在する。
【0021】
図10は、PET基板上の厚さ5nmのSiN膜における、1.5時間、3時間及び4時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す。
【0022】
図11は、PET基板上の厚さ15nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間及び6時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す。
【0023】
図12は、PET基板上の厚さ30nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す。
【0024】
図13は、PET基板上の厚さ30nmのSiN膜(基板バイアスが無い)における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す。
【0025】
図14は、PET基板上の厚さ90nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
金属酸化物又は金属窒化物層は、OLED等の感湿装置の分解を回避するために当技術分野で用いられる。このような金属酸化物又は金属窒化物層は、水分を吸着することができ、よって一般的な樹脂よりも効果的にガス透過率を減少させる。また周知のように、このような金属酸化物又は金属窒化物層は、ピンホールや亀裂等の小さい欠陥を含む。金属窒化物層を用いた実験(結果を図9に示す)で証明されたように、そのような欠陥のサイズは金属窒化物層の厚さが増すと小さくなる。しかしながら、金属窒化物層の厚さが増すと、層内の固有応力がより大きい欠陥を引き起こす。図9に示すように、最良のバリア性は、金属窒化物層が約30から60nmの間にあるときに得られ、金属窒化物層が60nmを越えると、金属窒化物層の欠陥のサイズが固有応力の増加により大きくなるため、バリア性が下がる。同様な結果(図示せず)が、金属酸化物層を試験し、その厚さを増加させる際に得られる。
【0027】
本発明者等は、金属酸化物及び金属窒化物又は金属酸窒化物が交互に重なった層を用いると、バリア性の損失無しに金属酸化物層又は金属窒化物層の厚さを更に増すことができることを見出した。よって、本発明は、第1の実施形態では、層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、金属酸化物を含む又はから構成される第1層と、該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物を含む又はから構成される第2(中間)層と、該第2(中間)層上に配置される金属酸化物を含む又はから構成される第3層と、を備える傾斜バリア膜を提供する。
【0028】
第2層は、金属酸窒化物又は金属窒化物を含む又はから構成される中間層又は応力解放層である。中間層を導入すると、金属酸化物層の厚さが増加する場合に必然的に生じる固有応力が減少する。この中間層のために、金属酸化物層の厚さを増すことができ、よってバリア性を向上できる。このような傾斜バリア膜の効果を、カルシウムセンサを用いて実施された実験で得られた図8に示す結果により例示する。上記の傾斜バリア膜は、温度60℃、相対湿度90%において207時間まで分解を防止する。
【0029】
「傾斜」バリア膜とは、複数の層が一連に配列されることを意味する。今回の場合、傾斜バリア膜は、金属酸化物及び金属酸窒化物又は金属窒化物が構造に重なった層を含む。金属窒化物又は金属酸窒化物層は、第1の金属酸化物層の上に配置される。その上に配置されることは、複数の層が特定配列で配置され、互いにつながっていることを意味する。
【0030】
傾斜バリア膜の複数の層の夫々は、約10オングストロームから約150nm又は1nmから約100nm又は1nmから約50nm又は1nmから約25nm又は10nmから約50nmの間の厚さを有することができる。一の実施形態では、第2の金属窒化物又は金属酸窒化物層は、第1及び第3層よりも薄い。一例では、第2層は、上に配置された金属酸化物層よりも約90、91、92、93、94、95又は96%薄い。第1及び第3層の厚さは、ここに示された厚さ範囲内の傾斜バリア膜全体における最大の所望厚さによって、同じ又は異なってよい。
【0031】
第2層は、約10オングストローム、50オングストローム、100オングストローム、500オングストローム又は1nmと29又は25nmとの間の厚さを有することができる。他の実施形態では、第2の金属窒化物又は金属酸窒化物層は、約10オングストローム、50オングストローム、100オングストローム、500オングストローム又は1nmから20nm、約1から約15nm、約1から約10nm、又は約1から約5nm、又は約1から約3nm、又は約1から約2nmの厚さを有する。その他の例では、第2層は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は28nmの厚さである。一より多い中間層が傾斜バリア膜に備わっている場合には、その複数の中間層の厚さは、ここに示された厚さ範囲内で互いに同じ又は異なってよい。
【0032】
金属酸化物層は、約30から約60nm、又は約40から約60nm、又は約40から約50nm、又は約50から約60nmの厚さを有する。その他の例では、第2層は、約30、35、40、45、50、55又は60nmの厚さである。
【0033】
傾斜バリア膜の全体の厚さを増すためには、金属窒化物又は金属酸窒化物及び金属酸化物の層を更に加えることもできる。よって、他の実施形態では、傾斜バリア膜は、金属酸化物層の後に該金属酸化物層上に配置される金属窒化物層又は金属酸窒化物層から構成される中間層が常に続く複数の層からなる。本実施形態の説明に役立つ実例(図3)は、金属窒化物又は金属酸窒化物55の複数の第2中間層を三層の金属酸化物53に挿入させた傾斜バリア膜を示す。傾斜バリア膜の総数ひいては厚さは、必要であれば更に増してバリア性を更に強化できる。傾斜バリア膜全体は、約50nmから約1μm、又は約50nmから約500nm、又は約50nmから約300nm、又は約50nmから約200nm、又は約50nmから約100nmの厚さ(全層を含む)を有することができる。一例では、傾斜バリア膜(基板を含まない)の全体の厚さは、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、110nm、120nm、125nm、130nm、又は140nm、又は200nm、又は250nm、又は300nmである。
【0034】
金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物は、水及び/又は酸素に敏感な金属、即ち、2族から14族(IUPACは2006年までのIUPAC推薦を考慮)の金属を含む、反応列(reactivity series)において水素よりも上の金属から構成できる。好適な金属は、2、4、10、12、13及び14族からの金属を含む。例えば、これらの金属は、Al、Mg、Ba及びCaから選択されてよい。例えば、Ti、Zn、Sn、Ni及びFeを含む反応性遷移金属を用いてもよい。他の実施形態では、これらの金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、インジウムドープスズ、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、クロム、タングステン、亜鉛、シリコン、ゲルマニウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、イットリウム及びバナジウムを含む。
【0035】
傾斜バリア膜で用いることができる金属酸化物の例は、TiO2、Al2O3、ZrO2、ZnO、BaO、SrO、CaO及びMgO、VO2、CrO2、MoO2、又はLiMn2O4を含む。ある実施形態では、金属酸化物は、スズ酸カドミウム(Cd2SnO4)、インジウム酸カドミウム(CdIn2O4)、スズ酸亜鉛(Zn2SnO4及びZnSnO3)、インジウム亜鉛酸化物(Zn2InO5)からなる群から選択される透明な導電性金属酸化物であってよい。
【0036】
傾斜バリア膜で用いることができる金属窒化物の例は、TiN、AlN、ZrN、Zn3N2、Ba3N2、Sr3N2、Ca3N2及びMg3N2、VN、CrN、又はMoNを含む。傾斜バリア膜で用いることができる金属酸窒化物の例は、TiON等のTiOxNy、AlON、ZrON、Zn3(N1−xOx)2−y、SrON、VON、CrON、MoON及びこれらの化学量論等価物を含む。第1及び第3層の金属は、同じ又は異なってよい。第2(応力解放)層で用いられる金属は、第1又は第3層で用いられる金属と同じでよい。
【0037】
第1及び第3層の金属酸化物は、同じ又は異なりうる。また、更なる実施形態では、複数の中間層が存在する場合、それらの金属窒化物又は金属酸窒化物の中間層は、同じ金属窒化物又は金属酸窒化物でもよく、或いは互いに異なってもよい。また他の実施形態では、複数の中間層が存在する場合、該複数の中間層は全て金属窒化物又は金属酸窒化物でよく、或いは、金属窒化物と金属酸窒化物の層を含む混合層状構造からなってよい。例えば、第1金属層は、Al2O3で構成でき、その後に中間CrN層が続き、その後にMoO2又はCrO2層が続く。更なる例では、傾斜バリア膜は、金属酸化物及び金属窒化物又は金属酸窒化物が交互に重なった複数の層から構成される。このような実施形態では、第1金属層は、Al2O3で構成でき、その後にAlN層が続き、その後にCrO2層が続き、その後にAlON層が続き、その後に他のCrO2層が続き、等々となる。
【0038】
他の実施形態では、第1金属酸化物層の後に金属酸窒化物層が続き、その後に金属窒化物層が続き、その後に第2金属酸化物層が続いてよい。よって、本実施形態では、中間層は、金属窒化物と金属酸窒化物とが交互に重なった層から構成される。
【0039】
良好な機械的強度を有するために傾斜バリア膜を必要とする用途に対しては、傾斜バリア膜を支持するための基板を備えてよい。この基板は、フレキシブル(柔らかい)でもリジット(硬い)でもよい。この基板は、有機又は無機高分子であってよい。例えば、この基板は、ポリアセテート、ポリプロピレン、セロファン、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(4−メチル−2−ペンチン)、ポリイミド、ポリカルボネート(PC)、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド又はポリジメチルフェニレンオキシド等の任意の適切な様々な材料からなってよい。更に、これらの例は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、ニトロセルロース、セルロース又はアセテート等の微孔性及びマクロ多孔性の高分子を含む。基板として用いることができる無機高分子の例は、説明に役立つ実例を挙げると、シリカ(ガラス)、インジウムスズ酸化物、ナノクレイ、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ビスシクロペンタジエニル鉄、又はポリホスファゼン及びこれらの誘導体を含む。基板は、有機及び無機高分子の混合物を含んでもよい。これらの高分子は、透明、半透明又は完全に不透明であってよい。
【0040】
ポリカーボネートは、プラスチック・エレクトロニクス加工工程と相性がよいので電子機器有用な基板である。ポリカーボネートも透明であり、任意の所望の寸法に切断できる。空気圧作動の中空型打ち抜き切断装置(pneumatically operated hollow die punch-cutting equipment)又はその他の従来の切断装置を用いて、サンプルを所望の寸法に切断できる。
【0041】
基板は外部環境に対向するように配置されてよく、及び又は傾斜バリア膜でカプセル化された環境に対向してよい。食品包装では、基板は、食品と接触する内側面に対向してよいが、傾斜バリア膜は、大気条件と接触する外側面を形成する。
【0042】
傾斜バリア膜は、更なる複数の層で被覆できる。
【0043】
例えば、傾斜バリア膜を機械的損傷から保護するためには、傾斜バリア膜は最終保護層でキャッピング又は覆われてよい。保護層は、良好な機械的強度を有する任意の材料で構成されてよく、傷がつきにくい。一の実施形態では、保護層はアクリル膜を含む。アクリル膜は、該アクリル膜に分散されるLiF及び/又はMgF2粒子を含むことができる。
【0044】
傾斜バリア膜は、UV中和層で覆うこともできる。紫外(UV)光中和層は、UV光をフィルタリングできる材料の層を含む。UV中和層を形成する基礎として、多くの種類の高分子を用いることができる。このような高分子は、炭化水素プラスチック、熱可塑性プラスチック、ゴム及び無機高分子を含みうる。適切な有機高分子の例は、紫外(UV)硬化可能エポキシ、ポリスルフィド、シリコーン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアルキレン、ポリイミド、ポリベンゾキサゾール及びポリアクリレートである。
【0045】
UV中和層の高分子は、無機及び有機材料を更に含みうる。例えば、酸化チタン及び酸化亜鉛ナノ粒子を含む保護被膜や、UV光線を吸着できる化学物質である。典型的なUVフィルタ材料は、低屈折の酸化物光学膜である二酸化ハフニウム(HfO2)、酸化マグネシウム(MgO)又は酸化バリウム(BaO)等の酸化物を含むが、これらに限定されない。二酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化シリコン(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、インジウムスズ酸化物(ITO)及び酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子を用いてもよい。インジウムスズ酸化物(ITO)及び酸化亜鉛(ZnO)は、高屈折の酸化物光学膜を提供する材料の例である。これら記載の金属酸化物は、全て、UV光中和層(エポキシ接着層等)内に組み込まれてよく、入射UVを吸着、反射及び散乱させて、UVが傾斜バリア膜の下に位置する任意の装置に届くことを防ぐ。UVフィルタリング材料として用いられる更に適切な材料は、フッ化マグネシウム(MgF2)又はフッ化バリウム(BaF2)等の無機ハロゲン化物を含む。いくつかの実施形態では、二酸化ハフニウム(ハフニア)は多層で二酸化ケイ素と結合されてよく、これにより硬く、傷のない、高密度で接着性の被膜が得られる。加えて、UV吸着剤としてカーボンナノチューブ等の有機材料を用いることもできる。
【0046】
或いは、又は加えて、入射UVを吸着し、それをエネルギーの二次形態で放出する化学被膜は、物理被膜の代わりに、又はそれと併せて用いてもよい。一の実施形態では、UV中和層は、UV光吸収体材料の層を含む。例として、4−メチルベンジリデンカンファ及びベンゾトリアゾールを含む。用いることのできる他の化合物は、メトキシケイヒ酸2−エチルヘキシルであり、入射UVを用いて化合物のシス−トランス光異性化をもたらす。
【0047】
一の典型的な実施形態では、UV中和層は、米国特許番号4,260,768に開示されたような共重合可能なベンゾトリアゾール化合物を含む。例えば、アクリロイル及びメタクリロイルラジカルを含む側鎖によって与えられるこのような化合物の不飽和二重結合の利用可能性により、このような化合物はUV中和層を形成するために用いられる上記のモノマーと有利に共重合され、よってUV保護の更なる層を加えることができる。
【0048】
OLED用途では、傾斜バリア膜は、OLED装置の活性成分を隔離するためのカプセル化剤の任意の部分上に積層されてよい。一の実施形態では、傾斜バリア膜を用いて、エレクトロルミネセンス成分の反応性層を支持する基板を形成する。縁部封止構造では、傾斜バリア膜を用いて、エレクトロルミネセンス成分の反応性層上に配置される硬質カバーを形成してよい。この硬質カバーは、接着層により基板に取り付けられてよく、この接着層は、少なくとも実質的に、反応性成分の周りに囲いを形成するカバー基板の端部に沿って配置される。反応性成分を含む囲いの中への酸素/水分の側方拡散を最小限にするために、被覆層又は接着層の幅は、傾斜バリア膜厚よりも大きく作成されてよい。
【0049】
傾斜バリア膜を用いて、任意の装置を、例えば傾斜バリア膜を有するこのような装置をカプセル化することにより、水分から保護できることが認識されている。カプセル化するとは、傾斜バリア膜を用いて装置を囲み外部環境から隔離することを意味する。カプセル化は、傾斜バリア膜を装置上に被覆することを必ずしも必要としないが、装置が配置される環境を囲むことを必要とする。従って、一の実施形態では、本発明は、傾斜バリア膜でカプセル化された装置に関する。
【0050】
傾斜バリア膜は、電子部品を含む任意の物体又は装置のカプセル化に適している。電子部品の例は、受動及び能動有機発光デバイス(OLEDs)、電荷結合素子(CCDs)、マイクロ・エレクトロ・メカニカルセンサ(MEMS)、薄膜トランジスタ(TFT)、並びにCu(InGa)Se2太陽電池、色素増感太陽電池(DSSC)、CdS/CdTe太陽電池、セレン化銅インジウム太陽電池(CIS)及び二セレン化銅インジウムガリウム太陽電池(CIGS)を含むがこれらに限定されない薄膜太陽電池に基づく有機又は無機光起電装置を含む。
【0051】
傾斜バリア膜を含みうる太陽電池等の光起電装置との関連において、現在の市場は、薄膜太陽光発電(TFPVはCIGS、CdTe、DSSC技術を含む)の固有利点に動かされており、薄膜太陽光発電は、低コスト、低重量、並びにフレキシブル基板上に製造して、壁、屋根及び窓にさえもソーラーパワー力を埋め込む能力を含んでいることに留意されたい。結晶シリコーンを用いるより多くの従来の太陽光発電(PV)とは異なり、TFPVは、微光条件化で動作する能力も有する。対照的に、TFPVは、上記の基板としてフレキシブル基板を用い、フレキシブルカプセル化法を用いた簡単な印刷又はその他のR2R(roll−to−roll)装置で製造できる。現在用いられているカプセル化法では、十分なバリア性が与えられないので、フレキシブルPVの寿命は2、3年のみであると推定される。例えば、現在のDSSC光起電装置は、酸素及び水分に対して極めて敏感である。これらの装置のインジウムスズ酸化物、電解質及び増感色素は、水蒸気及び酸素に敏感である。
【0052】
ここに記載の傾斜バリア膜を用いて、当技術分野で周知の既存バリア膜材料のバリア性を向上させることもできる。
【0053】
傾斜バリア膜は、スパッタリング法で製造できる。スパッタリングは、当技術分野で周知の基板に供給源から原子を制御可能に移動させることにより薄膜を蒸着させる物理工程である。基板は、ターゲットと称される原料物質とともに真空槽に置かれ、不活性作動ガス(アルゴン等)が低圧で導入される。ガスプラズマは、不活性ガスに放電された高周波(RF)又は直流(DC)グロー(二次電子の放出)に当たり、これによりガスがイオン化される。この工程中に形成されるイオンは、ターゲットの表面に向かって加速され、これにより原料物質の原子が蒸気の状態でターゲットからはがれ、基板上に凝縮する。
【0054】
RF及びDCスパッタリングのほかに、マグネトロンスパッタリングが第3のスパッタリング技術として知られている。マグネトロンスパッタリングには、反応性スパッタリングが望ましく且つその他の要因である場合には、ターゲット物質に応じて、DC、パルスDC,AC及びRF電源を用いることができる。ターゲット表面へのプラズマの閉じ込めは、永久磁石構造をターゲット表面の後ろに置くことにより達成される。この結果生じた磁界は、ターゲットからサイクロイドパスに放出される二次電子の軌道の形状を変える電子トラップとして作用する閉ループ環状パスを形成し、閉じ込めゾーン内のスパッタリングガスのイオン化の可能性を著しく増加させる。このプラズマからの正電荷を持つアルゴンイオンは、負にバイアスされたターゲット(カソード)に向かって加速され、その結果、物質がターゲット表面からスパッタリングされる。
【0055】
マグネトロンスパッタリングは、平衡及び非平衡マグネトロンスパッタリングを区別する。「非平衡」マグネトロンは、単に、ターゲットの後ろに置かれた磁石の一極からの磁束が他極と著しく異なるという設計であるが、「平衡」マグネトロンでは、磁石の両極間の磁束は等しい。平衡マグネトロンスパッタリングと比べて、非平衡マグネトロンスパッタリングは、基板イオン電流、ひいては基板被膜の密度を増加させる。
【0056】
本発明では、スパッタリング工程の新規性は、交互シーケンスにおける酸素及び窒素反応性イオンの使用に基づくものである。酸素及び窒素反応性イオンを用いて傾斜バリア膜を製造する工程は、以下の通りである。幾つかの単分子層である金属層が蒸着される。次に酸素がシステムに導入されて、酸素プラズマが生成される。該酸素プラズマは、基板に向かってアルゴン及び酸素イオン衝撃を与え、高充填密度酸素膜を実現する。金属窒化物又は酸窒化物層は、同様に形成される。先ず、幾つかの単分子層である金属層が蒸着され、次に窒素又は窒素及び酸素の混合物(金属酸窒化物層用)が、スパッタリング装置の反応槽に導入され、窒素プラズマ又は酸素/窒素プラズマを作り出す。
【0057】
プラズマは、成長中の膜表面に向かう酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物の反応性も増加させ、より望ましい構造を提供する。金属酸化物の第1層は、所望の厚さまで成長する。金属酸化物層が所望の厚さになった後、スパッタリング装置の反応槽への酸素流が切られ、他の幾つかの単分子層である金属層が、既に存在する金属酸化物層の上に蒸着される。これら初期単分子層が形成された後、窒素が反応槽に供給され、金属窒化物層が形成される。金属酸窒化物層が製造される場合は、窒素及び酸素の混合物が反応槽に供給される。基本的な蒸着と陽極酸化は、傾斜バリア膜の所望の厚さが得られるまで連続的に繰り返されてよい。
【0058】
従って、本発明に対する一の態様は、スパッタリング技術を用いて、単一の蒸着サイクルで傾斜バリア膜を製造する方法であって、該方法は、マグネトロンで用いられる作動ガスを、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物である反応ガスと、交互に混合することによって、金属酸化物及び金属窒化物、或いは金属酸化物及び金属酸窒化物が交互に重なった層を基板上に蒸着する蒸着処理を備える製造方法に関する。
【0059】
一の実施形態では、前記蒸着処理は、一の金属の複数の単分子層を前記基板の上にスパッタリングする処理と、金属酸化物及び金属窒化物又は金属酸窒化物を形成するための前記金属層を陽極酸化する反応性酸素又は窒素或いは酸素及び窒素を形成するために、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物を前記作動ガスとともに供給する処理と、により実施される。
【0060】
用いられるスパッタリング技術は、RFスパッタリング又はDCスパッタリング、或いはマグネトロンスパッタリングであってよく、DC又はACマグネトロンである。一の実施形態では、前記マグネトロンスパッタリングは、平衡又は非平衡マグネトロンスパッタリングである。スパッタリング技術は、基板で−10Vから−30又は−25Vまで自己バイアスをかけることができる。入射電流密度は、約2mA/cm2から約10mA/cm2、又は約2mA/cm2から約5mA/cm2、或いは約4mA/cm2から約5mA/cm2となりうる。高電流密度によって、過剰の固有応力を発生させずに、金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物の層を高密度にできる。金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物の蒸着は、室温で生じることができる。
【0061】
適切な連続フィードバック制御ループ(例えば、プラズマ発光監視制御ループ)を用いて、スパッタターゲットの状態に応じて酸素及び窒素のガス流を制御できる。精密流量制御器は、制御ループ内に置かれ、所与時間に交互シークエンスにおける酸素及び窒素流を調整する。
【0062】
図7は、マグネトロンが傾斜バリア膜を製造するために用いられる実施形態を示す。マグネトロン206の反応槽におけるガスの流れは、プラズマ発光/電圧パルス部204により制御される。バルブ203(酸素)及び202(窒素)を介して酸素及び窒素の流れを制御するプラズマ発光/電圧パルス部204は、圧電バルブ201等のバルブを制御する流量制御器205に接続される。流量制御器205を介したバルブ201の制御により、マグネトロン206の反応槽への酸素及び窒素の流れを制御できる。マグネトロン反応槽(レーストラック)の高強度プラズマにおけるスパッタリング金属により放出される光は、金属スパッタリング速度及び酸素分圧の指標であり、光電子増倍管208により測定される。この指標を用いて圧力を制御でき、故に正確な酸素膜の化学量論を達成できる。
【0063】
光電子増倍管は、データ伝送用にプラズマ発光/電圧パルス部204に接続される。マグネトロン206は、プラズマ発光/電圧パルス部204により制御される電源207に接続される。図7では、基板211は、二層の金属酸化物209と、金属窒化物又は金属酸窒化物の中間層212とを既に有する層傾斜バリア膜で被覆されることが示される。図7に示したマグネトロンは、プラズマ発光モニタから連続フィードバック制御部、即ちプラズマ発光/電圧パルス部204を用いており、再生可能な膜と所望のバリア膜とを得ることができる。
(実験)
【0064】
表面処理
【0065】
傾斜バリア膜の支持構造体として用いられる基板は、イソプロピルアルコール(IPA)で濯ぎ、窒素で乾かす。これらの工程は、基板表面上にある巨視的規模の吸着粒子の除去に役立つ。アセトン及びメタノール洗浄及び濯ぎは実施可能であるが、推奨されない。
【0066】
次に、吸着水分又は酸素を脱気するために、基板を真空オーブンに圧力10−1mbarで置いた。真空オーブンは、真空ポンプから真空オーブンへの炭化水素油の逆流を防止するためのフォアライントラップを備える。
【0067】
脱気の直後、基板をプラズマ処理槽(例えば、ULVAC SOLCIET、クラスターツール)に移した。高周波(RF)アルゴンプラズマを用いて、バリア膜の表面に低エネルギーイオンを照射し、表面の汚染物を除去する。処理槽のベース圧は、4×10−6mbar以下に保持した。アルゴン流速は70sccm(116.2*10−3Pa*m3/s)である。RFパワーは200Wに設定し、最適処理時間は、表面状態によるが、通常5から8分の処理時間を用いた。
【0068】
金属酸化物バリア層被膜
【0069】
スパッタリング技術を用いて、金属酸化物バリア層を蒸着した。高密度酸化物バリア膜を成長させるために非平衡マグネトロンスパッタリングシスタムを用いる。このスパッタリング技術では、通常幾つかの単分子層である金属層が、非平衡マグネトロンから蒸着される。次に酸素がシステムに導入されて、酸素プラズマを生成する。該酸素プラズマは、基板に向かってアルゴン及び酸素イオン衝撃を与え、高充填密度酸素膜を実現する。このプラズマは、成長中の膜表面に向けられた酸素の反応性も向上させ、より望ましい構造を提供する。過剰の固有応力を発生させずに高密度の膜を蒸着させるためには、高流量(2mA/cm2より多い)の低エネルギー(〜25eV)酸素及びアルゴンイオンを用いて、成長中のバリア酸化物膜に照射する。
【0070】
連続フィードバック制御部を用いて、反応性スパッタリング工程を制御する。マグネトロンレーストラックの高強度プラズマにおけるスパッタリング金属により放出される光は、金属スパッタリング速度及び酸素分圧の一の指標である。この指標を用いて圧力を制御でき、故に正確な酸素膜の化学量論を達成できる。プラズマ発光モニタから連続フィードバック制御部を用いることにより、再生可能な膜と所望のバリア膜とを得ることができる。
【0071】
窒化ケイ素(SiN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、及びインジウムスズ酸化物(ITO)を含む各種のバリア層を、従来の非平衡マグネトロンスパッタリング技術により作成し、単一バリア層の特性を試験する。
【0072】
実施例:傾斜バリア膜上でのカルシウム分解度試験
【0073】
プラズマ処理工程の後、バリア膜を真空下の真空蒸着槽(熱蒸着)に移す。バリア膜は、次に、WO2005/095924に記載のカルシウムセンサを用いてバリア性を判断する。WO2005/095924において参照されたカルシウムセンサにより、定性的評価及び定量的評価が可能である。定性的評価を可能とするカルシウムセンサの例を図5に示し、定量的評価を可能とするカルシウムセンサを図6に示す。
【0074】
定性的評価では、図5に示すテストセルを、製造されたカプセル化バリア膜を用いて形成する。簡単に言えば、大きさが2cm×2cmの二つの金属トラックを製作する。長さ1cm、幅2cm、厚さ150cmの検出素子を、二つの電極の間に形成する。検出素子の測定抵抗率は、0.37Ω−cmである。蒸着処理後、ロードロックシステムを用いて、室温、乾燥窒素下で試料をグローブボックスに移す。カルシウム蒸着303の後、100nmの銀保護層301を、図5に示すテストセルにおける定性分析のために蒸着した。
【0075】
図5に示すテストセルは、試験を実施するバリア膜305で被覆された基板306を備える。既に述べたように、カルシウムセンサ303を銀層301で被覆し、チャンバ内に置く。チャンバは、傍らにUV硬化可能エポキシ樹脂302を備えて隔離され、上部をガラススライド307で封止される。ゲッタ材料308をカバーグラススライドに装着し、エポキシ封止剤の浸透又はガス放出の結果として生成される水蒸気を吸着する。
【0076】
定量的抵抗測定では、図6に示すテストセルが用いた。このようなテストセルの一般的設定は、UV硬化可能エポキシを含むカプセル化剤/封止剤404とガラスカバー基板401とを組み入れるカルシウムセンサセルを備える。カプセル化剤404(エポキシ封止剤)の層を、一対の金属(導電性)トラック407の上に塗布し、電極を構成する。カルシウムを検出素子405として用いて、検出素子405表面の上部を、保護層408で被覆する。ガラスカバー表面401をカプセル化剤上に置いて、検出素子を封止する。検出素子の上に囲まれた空洞403を、窒素で充填する。
【0077】
ここで記載される実験には、300nmの銀を導電性トラックに用い、150nmのカルシウムを素子405として用い、また150nmのフッ化リチウムを保護層408として用いた。蒸着工程後、UV硬化可能エポキシ404をバリア膜406の縁部に塗布した(図6では、図の表現法によってUV硬化可能エポキシが金属トラックの上に塗布されているように見えることに留意されたい。しかしながら、実際は、UV硬化可能エポキシはバリア膜に塗布される)、全基板を35mm×35mmのガラススライド401で封止した。図5に示すセンサセルに関しては、ゲッタ材料402を35mm×35mmのカバーガラススライド401に装着し、エポキシ封止剤404の浸透又はガス放出の結果として生成される水蒸気を吸着した。ロードロックシステムを全工程に用い、室温、乾燥窒素下で、グローブボックスにおいてテストセルをカプセル化した。
【0078】
浸透試験を促進するために、試料を、夫々60℃及び90%相対湿度(RH)である一定温度及び湿度で、湿度室に配置した。試料を、定性的分解度試験及び欠陥分析のために一定間隔で光学的に観察し、定量的分解試験のために電気的に測定した。
【0079】
カルシウムテストセルの導電性トラック末端は、一定電流源(ケースレーソースメータ)に接続され、これはコンピュータでインターフェースされる。カルシウムセンサ/銀トラックの抵抗は、毎秒モニタリングされ、LabVIEWソフトウェアを用いるコンピュータによって自動的にプロットされる。高速フーリエ変換(FFT)分析を備えた動的信号分析器は、1秒の定期的周期で自動的にノイズスペクトル測定を行うために用いられる。
【0080】
実施例:従来のバリア膜成長及び厚さ依存性
【0081】
ポリ(エチレンテレフタレート)(PEN)基板上のSiN膜のバリア性は、それらの微細構造及び膜成長条件に依存する。膜成長を理解するために、厚さ5nm、15nm、30nm、60nm及び90nmのSiN膜をPET基板上に蒸着した。
【0082】
フィルム形成の各種段階に影響を与える要因について、厚さが5nmから90nmの範囲のSiN膜を用いて調べた。フィルム成長に影響を与える可能性がある要因は、表面モルホロジー、表面洗浄、蒸着条件及び蒸着技術である。
【0083】
気体/固体界面での不均一核形成膜作製は、薄膜成長における重要な第1段階である。準安定な島(island)が数よりもサイズにおいて成長し、最終的には、たがいに接触する程度に十分大きく成長する。プラズマ蒸着では、原子は表面に達して、プラズマ及びイオン衝撃からのエネルギーを消耗する。島状成長は、原子の移動度に強く依存し、これは続いてイオン衝撃から受けるエネルギーに対応する。島の成長は、基板モルホロジー、蒸着速度及表面エネルギーにも依存する。
【0084】
PET基板に被覆した厚さ5nmのSiNに対するカルシウム分解の画像を図10に示す。3時間後のカルシウム分解の画像は、厚さ5nmの初期の膜成長が連続でないことを示した。これは、核生成理論における島状成長段階に関連するであろう。カルシウム分解のクラスタは、表面のSiN被覆率が乏しいことを示し、これはSiNの島状成長を反映する。
【0085】
島が接触する程度に十分大きく成長すると、島は凝集する。二つの丸みがある島の凝集は、基板上の島の投影面積の減少と高さの増加とによって特徴づけられる。この挙動は、高分子基板上の被覆されていない領域の二次核生成を導く。図11は、厚さ15nmのSiN膜の凝集挙動を示す。
【0086】
膜は、凝集段階では連続となる。蒸着技術によって、これが生じる平均膜厚が変わってよい。初期の理論研究により、スパッタリングされた膜が蒸着膜よりも薄い厚さで連続となることが発見されており、この原因は、スパッタリングに関連する高反応のアルゴンイオン衝撃によるものであった。図12は、PET基板上の厚さ30nmのSiN膜におけるカルシウム分解パターンを示す。
【0087】
SiN膜は、RFスパッタリングで作成した。しかしながら、膜成長中、基板バイアスを用いなかった。基板バイアスを用いない場合は、膜成長中にイオン衝撃はない。膜成長中のイオン衝撃は、膜の充填密度を増加させる。穴、溝、亀裂及び細孔は、図12及び図13における連続SiN膜で観察されてもよい。
【0088】
図14のカルシウム分解度試験(CDT)の画像は、厚さ90nmのSiNが4.5時間後に酸化されていないことを示す。この遅延時間は、水蒸気が厚さ90nmのSiN層に拡散するのに要する時間として説明できる。拡散は、6.5から7.5時間後にマイクロ又はナノスケールの欠陥を介して生じ、カルシウムセンサは酸化される。バリア性の悪化の原因は、バリア膜の臨界厚さの値、約60nmを超えると生じる固有応力の解放から生じる亀裂による可能性がある。
【0089】
PET基板を被覆する厚さ5nm、15nm、30nm、60nm及び90nmのSiNについて、CDT法を用いて水蒸気輸送特性を定量分析した。膜厚に対する水蒸気輸送速度(WVTR)の依存性を図9に示す。
【0090】
PET基板に被覆された厚さ5nmのSiNは、単純PETのWVTR値に近い2g/m2/日のWVTRを示した。PET基板に被覆された厚さ15nmのSiNは、厚さ5nmのSiNと比べて、因子10の向上を示した。60nmでは、厚さ5nmのSiN膜と比べて、因子18の向上を示した。
【0091】
SiNの臨界厚さは60nmであり、これを超えると水蒸気透過速度(WVTR)が著しく増加する。この原因は、亀裂によって特徴づけられる固有応力の増加による。
【0092】
遅延時間法に基づいて拡散係数を算出した。PET基板に被覆されたSiN膜は単一の均一バリアスタックであるとし、拡散係数をWVTRとともにプロットした。拡散係数の挙動は、WVTRの挙動と同様である。従って、WVTRは膜の拡散係数に依存し、これは続いて膜の微細構造に依存する。
【0093】
実施例:傾斜バリア膜
【0094】
膜厚依存性の研究とともにバリア膜成長の分析から臨界厚さ60nmが示され、厚さ60nmを超えると、バリア被膜の固有応力により亀裂形成が観察された。最適厚さ50nmでは、バリア膜はそれまで通り大きな細孔径の欠陥を示す。しかしながら、被覆厚さを増加させると、ピンホールのサイズを更に減少できるが、固有応力が、バリア性向上の制限要因となるであろう。
【0095】
ここで試験される新たな傾斜バリア膜構造は、酸化アルミニウム/窒化アルミニウム/酸化アルミニウムから構成され、これは酸素及び窒素ガス流を交互に用いたマグネトロンスパッタリング法を用いて単一の蒸着サイクルでプラスチック基板上に製作される。傾斜バリア構造の固有応力を減らす際の窒化アルミニウムの役割と、最適厚さ50nmを有する従来の単一バリア層に対する全体の水蒸気透過性の比較とを調べた。
【0096】
従来のマグネトロンスパッタリングシステムを用いて、傾斜バリア構造の概念を示す。アルゴンガス流速5SCCM(sccm=標準温度及び圧力における毎分当たりの立方センチメートル)(8.3*10−3Pa*m3/s)で、マグネトロンパワー100Wを用いた。酸素及び窒素反応性ガスの流速は、夫々、4SCCM(6.7*10−3Pa*m3/s)及び3CCM(5*10−3Pa*m3/s)に最適化した。酸化アルミニウム及びアルミニウム膜を、夫々、8nm/min及び7nm/minの速度でPET基板上に蒸着した。一般に、酸素及び窒素分圧は、用いるスパッタ室に依存する。例えば、研究室規模のスパッタリングシステムのスパッタ室では、約15sccmから60sccm(24.9*10−3Pa*m3/sから99.6*10−3Pa*m3/s)の酸素及び窒素分圧を用いることができる。大規模のスパッタ室では、約100sccmから150sccm(166*10−3Pa*m3/sから249*10−3Pa*m3/s)の酸素及び窒素分圧を用いることができる。よって、反応ガスの分圧は、用いるスパッタリングシステムにも依存する。
【0097】
三つの試料を作成した。即ち、
試料1:PET基板に被覆された厚さ60nmの酸化アルミニウム
試料2:PET基板に被覆された厚さ50nmの窒化アルミニウム
試料3:PET基板の酸化アルミニウム(50nm)/窒化アルミニウム(25nm)/酸化アルミニウム(50nm)から構成される厚さ125nmの傾斜バリア膜構造
【0098】
上記三試料のバリア性を、定性分析を用いたカルシウム分解度試験法により試験した。カルシウム分解度試験は、ピンホール、亀裂及びナノ細孔等の欠陥に関する視覚的な定性的情報を提供する。なぜなら、透過した水蒸気が、基板の欠陥及びその(複数の)バリア層を介して拡散し、カルシウムセンサと反応するからである。透明被膜におけるピンホール及び亀裂等のミクロ細孔及びサブミクロンサイズ細孔は、精巧な表面顕微鏡技術(例えば、SEM)を用いても非常に識別又は研究しにくいことがよく知られている。
【0099】
図8の定性的なカルシウム分解画像は、傾斜バリア膜構造を有する試料3が、非常に高いバリア性を実証したことを示す。試料1のカルシウムセンサは、27時間後に分解し始め、87時間の前には全てのカルシウムが分解した。しかしながら、傾斜バリア膜上に製作されたカルシウムセンサ(試料3)は、207時間まで分解を示さなかった。従来の酸化アルミニウムを有する試料1と窒化アルミニウムを有する試料2は、乏しいバリア性を示した。以下の表1に示される結果から、窒化アルミニウム膜が、全厚125nmの傾斜バリア膜におけるバリア構造の固有応力を効率的に減少できることは明らかである。表1は、ここで先に記載していないその他のバリア膜構造の結果も示す。
【0100】
【表1】
表1−異なるバリア膜を被覆したプラスチック基板の水蒸気輸送特性分析の比較
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す図である。
【図2】傾斜バリア膜の他の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の更なる実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す図である。
【図4】当技術分野で周知のバリア膜の動作方式とこのようなバリア膜の制限を示す図である。
【図5】カルシウムセンサを用いて作られたバリア膜のバリア膜特性の調査を実施するための設定を示す図である。
【図6】カルシウムセンサを用いて作られたバリア膜のバリア膜特性の調査を実施するための設定を示す図である。
【図7】傾斜バリア膜を製造するために本発明の一の実施形態で用いられるパルス反応性プラズマシステムを用いたマグネトロンスパッタリングシステムの一般的な設定を示す図である。
【図8】三つの異なる無機バリア膜構成のバリア性を決定するために、温度60℃、相対湿度90%で実施されたカルシウム分解度試験検討の結果を示す図である。
【図9】金属窒化物の厚さ、水蒸気透過速度及び拡散速度の関係を示す図である。
【図10】PET基板上の厚さ5nmのSiN膜における、1.5時間、3時間及び4時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図11】PET基板上の厚さ15nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間及び6時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図12】PET基板上の厚さ30nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図13】PET基板上の厚さ30nmのSiN膜(基板バイアスが無い)における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図14】PET基板上の厚さ90nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0102】
51 第2金属酸化物層
52 第1金属酸化物層
55 金属窒化物又は金属酸窒化物層
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年4月29日に出願された米国仮出願61/048,822の利益を要求する。これらの内容は全て参照することにより本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、バリア膜に関し、特に傾斜バリア膜に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光ディスプレイ(OLEDs)等のフレキシブルプラスチック電子機器は、既存のディスプレイ技術に替わるものとなる次世代ディスプレイ技術として広く認知されている。
【0004】
OLED構造及びその他の酸素及び/又は湿度に敏感な装置に関連して一般に知られる問題の一つは、それらが大気条件下で急速に劣化することである。これらの劣化を防止するために、各種のバリア膜が、エレクトロルミネセンス素子をその環境から隔離させるために用いられている。OLEDが10,000時間を越える寿命を有して信頼できる性能を達成するためには、OLEDの反応型エレクトロルミネセンス材料のカプセル化剤は、約5から10cc/m2/日未満の酸素透過速度(OTR)と、39℃、95%RHにおいて約10−5g/m2/日未満の水蒸気透過速度とを有するべきである。理想的な感湿電子機器用バリア膜は、ガラスのガスバリア性、耐化学性及び表面特性を、高分子の柔軟性、靭性及び加工性を組み合わせるものである。
【0005】
しかしながら、このような感度構造を大気から隔離させるために通常用いられる高分子系バリア膜には欠点がある。一般に、高分子膜110は、そのバリア性を向上させるために金属酸化物コーティング106で被覆されていても、ピンホール103、亀裂102、粒界101で生じる間隙等の欠陥に見舞われるため、通常高いバリア性は示さない(図4参照)。
【0006】
金属酸化物又は金属窒化物層等の付着被膜の完全性が、全体のガスバリア性を決定する上で重大な要素であり、また酸化物又は窒化物層内のピンホール、亀裂及び粒界等の欠陥の制御が重大な必要条件である。バリア膜厚が、バリア膜の成長中に臨界厚さを越える際には、亀裂の形成が固有応力の結果として観察される。通常30−60nmの厚さ範囲を有する最適厚さのバリア膜のバリア性は、大きな細孔径の欠陥によって制限される。ピンホールのサイズは、被膜を厚くすれば更に減少できるが、酸化物層が厚くなるほど固有応力が増加するため、固有応力がバリア性向上の制限要因となるであろう(図9参照)。
【0007】
現在の多層バリア膜技術は、欠陥が少なく、応力が低く、充填密度に優れた高品質の単一バリア酸化物層を必要としている。化学蒸着、電子ビーム蒸着及びフィルタ陰極真空アーク(FCVA)等の物理蒸着法を含む、バリア膜に適用するための従来のバリア層作成方法は、結果的にピンホール等の微細構造の下位特性をもたらし、これがガス透過バリアに不利益となる。多層バリア膜は単一バリア膜から構成されるので、これは同様に多層バリア膜の品質に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上記の問題のうち少なくともいくつかを克服することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の実施形態では、本発明は、層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、金属酸化物の第1層と、該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物の中間(第2)層と、該第2層上に配置される金属酸化物の第3層と、を備える傾斜バリア膜に関する。
【0010】
他の態様では、本発明は、単一の蒸着サイクルで請求項1から23のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜を製造する方法であって、該方法は、作動ガスを、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物である反応ガスと、交互に混合することによって、金属酸化物及び金属窒化物、或いは金属酸化物及び金属酸窒化物が交互に重なった層を基板上に蒸着する蒸着処理を備える製造方法に関する。
【0011】
他の態様では、本発明は、このような傾斜バリア膜を製造する方法で得られる傾斜バリア膜でカプセル化された装置に関する。
(図面の簡単な説明)
【0012】
本発明は、限定されない実施形態及び添付の図面とともに考慮する際に詳細な説明を参照することによって、より理解されるであろう。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す。金属窒化物又は金属酸窒化物55の中間層が、第1金属酸化物層52と第2金属酸化物層51との間に介在する。金属窒化物又は金属酸窒化物の中間層を導入することで、金属酸化物バリア層の欠陥を引き起こす固有応力を増加させずに金属酸化物バリア層の厚さを増すことができる。
【0014】
図2は、傾斜バリア膜の他の実施形態を示す。本実施形態では、図1に示すように傾斜バリア膜は、基板56上に配置される。
【0015】
図3は、本発明の更なる実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す。図1に示す傾斜バリア膜の実施形態と比較すると、本実施形態では、傾斜バリア膜は三層より多い層を含む。本実施形態では、二つの中間層55は、金属酸化物層52に挿入され、金属酸化物と金属窒化物又は金属酸窒化物とが交互に重なった層からなる層状構造を作る。この構造は、金属窒化物又は金属酸窒化物と金属酸化物とが交互に重なった層を更に加えることにより、更に広げることができる。
【0016】
図4は、当技術分野で周知のバリア膜の動作方式とこのようなバリア膜の制限を示す。このバリア膜は、三つの異なる層を含む。二つの金属酸化物層106は、高分子層110に介在されている。金属酸化物層は、高分子層の上部及び底部に塗布され、バリア性を向上させる。高分子と比較すると、金属酸化物は、高分子膜よりもよく水蒸気を吸着する(吸着を矢印107で示す)ことが知られている。しかしながら、導入部で既に説明したように、金属酸化物層は、金属酸化物層を形成する金属粒子101の境界で生じる欠陥、柔軟なバリア膜を曲げる際に生じうる亀裂102、ピンホール103等の、固有の構造的な欠陥を含んでいる。水分子108は、これらの欠陥を介して金属酸化物層を通過でき、高分子層110を通して拡散し(拡散を斜め方向の矢印104で示す)、金属酸化物層106の表面(脱着)から又は介して、保護すべき感湿装置が配置されている領域に放出される。
【0017】
図5及び図6は、カルシウムセンサを用いて作られたバリア膜のバリア膜特性の調査を実施するための設定を示す。
【0018】
図7は、傾斜バリア膜を製造するために本発明の一の実施形態で用いられるパルス反応性プラズマシステムを用いたマグネトロンスパッタリングシステムの一般的な設定を示す。マグネトロンスパッタリングを用いて、傾斜バリア層を平坦化基板上に蒸着できる。非平衡マグネトロンスパッタリング技術を用いて、高密度酸化物バリア膜を形成できる。このスパッタリング技術では、通常幾つかの単分子層である金属層が、非平衡マグネトロンから蒸着され、次に酸素又は窒素がシステムに導入されて、酸素又は窒素プラズマが生成される。これは基板に向かって高充填密度傾斜バリア膜のためにアルゴン及び酸素又は窒素イオン衝撃を与える。プラズマは、成長中の膜表面に向けられた酸素及び窒素の反応性の向上に役立ち、より望ましい膜の化学量論を提供する。過剰の固有応力を発生させずに高密度の膜を蒸着させるためには、高流量(2mA/cm2より多い)の低エネルギー(〜25eV)酸素及びアルゴンイオンを成長中のバリア酸化物膜に照射する。
【0019】
図8は、三つの異なる無機バリア膜構成のバリア性を決定するために、温度60℃、相対湿度90%で実施されたカルシウム分解度試験検討の結果を示す。100μmスケールバーは、各画像の右下に示す。図8の1列目は、50nm酸化アルミニウム膜(Al2O3)を用いた分解度試験の結果を示し、2列目は、50nm窒化アルミにム膜(AIN)を用いた分解度試験の結果を示す。27時間後、カルシウムセンサは、Al2O3及びAIN膜に対して分解の最初の兆候を示す。87時間後、Al2O3膜を用いる場合、カルシウムは完全に分解する。図8の3列目は、50nmAl2O3膜、25nmAIN膜及び50nmAl2O3膜からなる125nm傾斜バリア膜を用いた分解度試験の結果を示す。207時間後に初めて、カルシウムセンサが分解の最初の兆候を示し、414時間後でも、50時間後のAIN膜(2列目)よりも分解の程度が低かった。
【0020】
図9は、金属窒化物の厚さ、水蒸気透過速度及び拡散速度の関係を示す。左y軸に、水蒸気透過速度が表示し、右y軸に拡散係数D(m2/s)を表示する。x軸に、金属窒化物バリア層の厚さを表示する。グラフは、バリア性が金属窒化物の厚さとともに増加することを示している(WVTR及びDが減少)。これは、最初は層の厚さが増すとともにその層に形成される欠陥のサイズが小さいことによるものである。最良のバリア性は、金属窒化物層の厚さが約30nmから約60nmの間で得られる。しかしながら、金属窒化物層の厚さが60nmを越えると、層内の固有応力が増加し、成長中の層内部の固有応力のために金属窒化物バリア層に大きい欠陥が形成されるため、バリア性は悪くなる(WVTR及びDが増加)。表1から分かるように、同じ関係が金属酸化物バリア膜でも存在する。
【0021】
図10は、PET基板上の厚さ5nmのSiN膜における、1.5時間、3時間及び4時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す。
【0022】
図11は、PET基板上の厚さ15nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間及び6時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す。
【0023】
図12は、PET基板上の厚さ30nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す。
【0024】
図13は、PET基板上の厚さ30nmのSiN膜(基板バイアスが無い)における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す。
【0025】
図14は、PET基板上の厚さ90nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
金属酸化物又は金属窒化物層は、OLED等の感湿装置の分解を回避するために当技術分野で用いられる。このような金属酸化物又は金属窒化物層は、水分を吸着することができ、よって一般的な樹脂よりも効果的にガス透過率を減少させる。また周知のように、このような金属酸化物又は金属窒化物層は、ピンホールや亀裂等の小さい欠陥を含む。金属窒化物層を用いた実験(結果を図9に示す)で証明されたように、そのような欠陥のサイズは金属窒化物層の厚さが増すと小さくなる。しかしながら、金属窒化物層の厚さが増すと、層内の固有応力がより大きい欠陥を引き起こす。図9に示すように、最良のバリア性は、金属窒化物層が約30から60nmの間にあるときに得られ、金属窒化物層が60nmを越えると、金属窒化物層の欠陥のサイズが固有応力の増加により大きくなるため、バリア性が下がる。同様な結果(図示せず)が、金属酸化物層を試験し、その厚さを増加させる際に得られる。
【0027】
本発明者等は、金属酸化物及び金属窒化物又は金属酸窒化物が交互に重なった層を用いると、バリア性の損失無しに金属酸化物層又は金属窒化物層の厚さを更に増すことができることを見出した。よって、本発明は、第1の実施形態では、層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、金属酸化物を含む又はから構成される第1層と、該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物を含む又はから構成される第2(中間)層と、該第2(中間)層上に配置される金属酸化物を含む又はから構成される第3層と、を備える傾斜バリア膜を提供する。
【0028】
第2層は、金属酸窒化物又は金属窒化物を含む又はから構成される中間層又は応力解放層である。中間層を導入すると、金属酸化物層の厚さが増加する場合に必然的に生じる固有応力が減少する。この中間層のために、金属酸化物層の厚さを増すことができ、よってバリア性を向上できる。このような傾斜バリア膜の効果を、カルシウムセンサを用いて実施された実験で得られた図8に示す結果により例示する。上記の傾斜バリア膜は、温度60℃、相対湿度90%において207時間まで分解を防止する。
【0029】
「傾斜」バリア膜とは、複数の層が一連に配列されることを意味する。今回の場合、傾斜バリア膜は、金属酸化物及び金属酸窒化物又は金属窒化物が構造に重なった層を含む。金属窒化物又は金属酸窒化物層は、第1の金属酸化物層の上に配置される。その上に配置されることは、複数の層が特定配列で配置され、互いにつながっていることを意味する。
【0030】
傾斜バリア膜の複数の層の夫々は、約10オングストロームから約150nm又は1nmから約100nm又は1nmから約50nm又は1nmから約25nm又は10nmから約50nmの間の厚さを有することができる。一の実施形態では、第2の金属窒化物又は金属酸窒化物層は、第1及び第3層よりも薄い。一例では、第2層は、上に配置された金属酸化物層よりも約90、91、92、93、94、95又は96%薄い。第1及び第3層の厚さは、ここに示された厚さ範囲内の傾斜バリア膜全体における最大の所望厚さによって、同じ又は異なってよい。
【0031】
第2層は、約10オングストローム、50オングストローム、100オングストローム、500オングストローム又は1nmと29又は25nmとの間の厚さを有することができる。他の実施形態では、第2の金属窒化物又は金属酸窒化物層は、約10オングストローム、50オングストローム、100オングストローム、500オングストローム又は1nmから20nm、約1から約15nm、約1から約10nm、又は約1から約5nm、又は約1から約3nm、又は約1から約2nmの厚さを有する。その他の例では、第2層は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は28nmの厚さである。一より多い中間層が傾斜バリア膜に備わっている場合には、その複数の中間層の厚さは、ここに示された厚さ範囲内で互いに同じ又は異なってよい。
【0032】
金属酸化物層は、約30から約60nm、又は約40から約60nm、又は約40から約50nm、又は約50から約60nmの厚さを有する。その他の例では、第2層は、約30、35、40、45、50、55又は60nmの厚さである。
【0033】
傾斜バリア膜の全体の厚さを増すためには、金属窒化物又は金属酸窒化物及び金属酸化物の層を更に加えることもできる。よって、他の実施形態では、傾斜バリア膜は、金属酸化物層の後に該金属酸化物層上に配置される金属窒化物層又は金属酸窒化物層から構成される中間層が常に続く複数の層からなる。本実施形態の説明に役立つ実例(図3)は、金属窒化物又は金属酸窒化物55の複数の第2中間層を三層の金属酸化物53に挿入させた傾斜バリア膜を示す。傾斜バリア膜の総数ひいては厚さは、必要であれば更に増してバリア性を更に強化できる。傾斜バリア膜全体は、約50nmから約1μm、又は約50nmから約500nm、又は約50nmから約300nm、又は約50nmから約200nm、又は約50nmから約100nmの厚さ(全層を含む)を有することができる。一例では、傾斜バリア膜(基板を含まない)の全体の厚さは、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、110nm、120nm、125nm、130nm、又は140nm、又は200nm、又は250nm、又は300nmである。
【0034】
金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物は、水及び/又は酸素に敏感な金属、即ち、2族から14族(IUPACは2006年までのIUPAC推薦を考慮)の金属を含む、反応列(reactivity series)において水素よりも上の金属から構成できる。好適な金属は、2、4、10、12、13及び14族からの金属を含む。例えば、これらの金属は、Al、Mg、Ba及びCaから選択されてよい。例えば、Ti、Zn、Sn、Ni及びFeを含む反応性遷移金属を用いてもよい。他の実施形態では、これらの金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、インジウムドープスズ、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、クロム、タングステン、亜鉛、シリコン、ゲルマニウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、イットリウム及びバナジウムを含む。
【0035】
傾斜バリア膜で用いることができる金属酸化物の例は、TiO2、Al2O3、ZrO2、ZnO、BaO、SrO、CaO及びMgO、VO2、CrO2、MoO2、又はLiMn2O4を含む。ある実施形態では、金属酸化物は、スズ酸カドミウム(Cd2SnO4)、インジウム酸カドミウム(CdIn2O4)、スズ酸亜鉛(Zn2SnO4及びZnSnO3)、インジウム亜鉛酸化物(Zn2InO5)からなる群から選択される透明な導電性金属酸化物であってよい。
【0036】
傾斜バリア膜で用いることができる金属窒化物の例は、TiN、AlN、ZrN、Zn3N2、Ba3N2、Sr3N2、Ca3N2及びMg3N2、VN、CrN、又はMoNを含む。傾斜バリア膜で用いることができる金属酸窒化物の例は、TiON等のTiOxNy、AlON、ZrON、Zn3(N1−xOx)2−y、SrON、VON、CrON、MoON及びこれらの化学量論等価物を含む。第1及び第3層の金属は、同じ又は異なってよい。第2(応力解放)層で用いられる金属は、第1又は第3層で用いられる金属と同じでよい。
【0037】
第1及び第3層の金属酸化物は、同じ又は異なりうる。また、更なる実施形態では、複数の中間層が存在する場合、それらの金属窒化物又は金属酸窒化物の中間層は、同じ金属窒化物又は金属酸窒化物でもよく、或いは互いに異なってもよい。また他の実施形態では、複数の中間層が存在する場合、該複数の中間層は全て金属窒化物又は金属酸窒化物でよく、或いは、金属窒化物と金属酸窒化物の層を含む混合層状構造からなってよい。例えば、第1金属層は、Al2O3で構成でき、その後に中間CrN層が続き、その後にMoO2又はCrO2層が続く。更なる例では、傾斜バリア膜は、金属酸化物及び金属窒化物又は金属酸窒化物が交互に重なった複数の層から構成される。このような実施形態では、第1金属層は、Al2O3で構成でき、その後にAlN層が続き、その後にCrO2層が続き、その後にAlON層が続き、その後に他のCrO2層が続き、等々となる。
【0038】
他の実施形態では、第1金属酸化物層の後に金属酸窒化物層が続き、その後に金属窒化物層が続き、その後に第2金属酸化物層が続いてよい。よって、本実施形態では、中間層は、金属窒化物と金属酸窒化物とが交互に重なった層から構成される。
【0039】
良好な機械的強度を有するために傾斜バリア膜を必要とする用途に対しては、傾斜バリア膜を支持するための基板を備えてよい。この基板は、フレキシブル(柔らかい)でもリジット(硬い)でもよい。この基板は、有機又は無機高分子であってよい。例えば、この基板は、ポリアセテート、ポリプロピレン、セロファン、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(4−メチル−2−ペンチン)、ポリイミド、ポリカルボネート(PC)、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド又はポリジメチルフェニレンオキシド等の任意の適切な様々な材料からなってよい。更に、これらの例は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、ニトロセルロース、セルロース又はアセテート等の微孔性及びマクロ多孔性の高分子を含む。基板として用いることができる無機高分子の例は、説明に役立つ実例を挙げると、シリカ(ガラス)、インジウムスズ酸化物、ナノクレイ、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ビスシクロペンタジエニル鉄、又はポリホスファゼン及びこれらの誘導体を含む。基板は、有機及び無機高分子の混合物を含んでもよい。これらの高分子は、透明、半透明又は完全に不透明であってよい。
【0040】
ポリカーボネートは、プラスチック・エレクトロニクス加工工程と相性がよいので電子機器有用な基板である。ポリカーボネートも透明であり、任意の所望の寸法に切断できる。空気圧作動の中空型打ち抜き切断装置(pneumatically operated hollow die punch-cutting equipment)又はその他の従来の切断装置を用いて、サンプルを所望の寸法に切断できる。
【0041】
基板は外部環境に対向するように配置されてよく、及び又は傾斜バリア膜でカプセル化された環境に対向してよい。食品包装では、基板は、食品と接触する内側面に対向してよいが、傾斜バリア膜は、大気条件と接触する外側面を形成する。
【0042】
傾斜バリア膜は、更なる複数の層で被覆できる。
【0043】
例えば、傾斜バリア膜を機械的損傷から保護するためには、傾斜バリア膜は最終保護層でキャッピング又は覆われてよい。保護層は、良好な機械的強度を有する任意の材料で構成されてよく、傷がつきにくい。一の実施形態では、保護層はアクリル膜を含む。アクリル膜は、該アクリル膜に分散されるLiF及び/又はMgF2粒子を含むことができる。
【0044】
傾斜バリア膜は、UV中和層で覆うこともできる。紫外(UV)光中和層は、UV光をフィルタリングできる材料の層を含む。UV中和層を形成する基礎として、多くの種類の高分子を用いることができる。このような高分子は、炭化水素プラスチック、熱可塑性プラスチック、ゴム及び無機高分子を含みうる。適切な有機高分子の例は、紫外(UV)硬化可能エポキシ、ポリスルフィド、シリコーン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアルキレン、ポリイミド、ポリベンゾキサゾール及びポリアクリレートである。
【0045】
UV中和層の高分子は、無機及び有機材料を更に含みうる。例えば、酸化チタン及び酸化亜鉛ナノ粒子を含む保護被膜や、UV光線を吸着できる化学物質である。典型的なUVフィルタ材料は、低屈折の酸化物光学膜である二酸化ハフニウム(HfO2)、酸化マグネシウム(MgO)又は酸化バリウム(BaO)等の酸化物を含むが、これらに限定されない。二酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化シリコン(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、インジウムスズ酸化物(ITO)及び酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子を用いてもよい。インジウムスズ酸化物(ITO)及び酸化亜鉛(ZnO)は、高屈折の酸化物光学膜を提供する材料の例である。これら記載の金属酸化物は、全て、UV光中和層(エポキシ接着層等)内に組み込まれてよく、入射UVを吸着、反射及び散乱させて、UVが傾斜バリア膜の下に位置する任意の装置に届くことを防ぐ。UVフィルタリング材料として用いられる更に適切な材料は、フッ化マグネシウム(MgF2)又はフッ化バリウム(BaF2)等の無機ハロゲン化物を含む。いくつかの実施形態では、二酸化ハフニウム(ハフニア)は多層で二酸化ケイ素と結合されてよく、これにより硬く、傷のない、高密度で接着性の被膜が得られる。加えて、UV吸着剤としてカーボンナノチューブ等の有機材料を用いることもできる。
【0046】
或いは、又は加えて、入射UVを吸着し、それをエネルギーの二次形態で放出する化学被膜は、物理被膜の代わりに、又はそれと併せて用いてもよい。一の実施形態では、UV中和層は、UV光吸収体材料の層を含む。例として、4−メチルベンジリデンカンファ及びベンゾトリアゾールを含む。用いることのできる他の化合物は、メトキシケイヒ酸2−エチルヘキシルであり、入射UVを用いて化合物のシス−トランス光異性化をもたらす。
【0047】
一の典型的な実施形態では、UV中和層は、米国特許番号4,260,768に開示されたような共重合可能なベンゾトリアゾール化合物を含む。例えば、アクリロイル及びメタクリロイルラジカルを含む側鎖によって与えられるこのような化合物の不飽和二重結合の利用可能性により、このような化合物はUV中和層を形成するために用いられる上記のモノマーと有利に共重合され、よってUV保護の更なる層を加えることができる。
【0048】
OLED用途では、傾斜バリア膜は、OLED装置の活性成分を隔離するためのカプセル化剤の任意の部分上に積層されてよい。一の実施形態では、傾斜バリア膜を用いて、エレクトロルミネセンス成分の反応性層を支持する基板を形成する。縁部封止構造では、傾斜バリア膜を用いて、エレクトロルミネセンス成分の反応性層上に配置される硬質カバーを形成してよい。この硬質カバーは、接着層により基板に取り付けられてよく、この接着層は、少なくとも実質的に、反応性成分の周りに囲いを形成するカバー基板の端部に沿って配置される。反応性成分を含む囲いの中への酸素/水分の側方拡散を最小限にするために、被覆層又は接着層の幅は、傾斜バリア膜厚よりも大きく作成されてよい。
【0049】
傾斜バリア膜を用いて、任意の装置を、例えば傾斜バリア膜を有するこのような装置をカプセル化することにより、水分から保護できることが認識されている。カプセル化するとは、傾斜バリア膜を用いて装置を囲み外部環境から隔離することを意味する。カプセル化は、傾斜バリア膜を装置上に被覆することを必ずしも必要としないが、装置が配置される環境を囲むことを必要とする。従って、一の実施形態では、本発明は、傾斜バリア膜でカプセル化された装置に関する。
【0050】
傾斜バリア膜は、電子部品を含む任意の物体又は装置のカプセル化に適している。電子部品の例は、受動及び能動有機発光デバイス(OLEDs)、電荷結合素子(CCDs)、マイクロ・エレクトロ・メカニカルセンサ(MEMS)、薄膜トランジスタ(TFT)、並びにCu(InGa)Se2太陽電池、色素増感太陽電池(DSSC)、CdS/CdTe太陽電池、セレン化銅インジウム太陽電池(CIS)及び二セレン化銅インジウムガリウム太陽電池(CIGS)を含むがこれらに限定されない薄膜太陽電池に基づく有機又は無機光起電装置を含む。
【0051】
傾斜バリア膜を含みうる太陽電池等の光起電装置との関連において、現在の市場は、薄膜太陽光発電(TFPVはCIGS、CdTe、DSSC技術を含む)の固有利点に動かされており、薄膜太陽光発電は、低コスト、低重量、並びにフレキシブル基板上に製造して、壁、屋根及び窓にさえもソーラーパワー力を埋め込む能力を含んでいることに留意されたい。結晶シリコーンを用いるより多くの従来の太陽光発電(PV)とは異なり、TFPVは、微光条件化で動作する能力も有する。対照的に、TFPVは、上記の基板としてフレキシブル基板を用い、フレキシブルカプセル化法を用いた簡単な印刷又はその他のR2R(roll−to−roll)装置で製造できる。現在用いられているカプセル化法では、十分なバリア性が与えられないので、フレキシブルPVの寿命は2、3年のみであると推定される。例えば、現在のDSSC光起電装置は、酸素及び水分に対して極めて敏感である。これらの装置のインジウムスズ酸化物、電解質及び増感色素は、水蒸気及び酸素に敏感である。
【0052】
ここに記載の傾斜バリア膜を用いて、当技術分野で周知の既存バリア膜材料のバリア性を向上させることもできる。
【0053】
傾斜バリア膜は、スパッタリング法で製造できる。スパッタリングは、当技術分野で周知の基板に供給源から原子を制御可能に移動させることにより薄膜を蒸着させる物理工程である。基板は、ターゲットと称される原料物質とともに真空槽に置かれ、不活性作動ガス(アルゴン等)が低圧で導入される。ガスプラズマは、不活性ガスに放電された高周波(RF)又は直流(DC)グロー(二次電子の放出)に当たり、これによりガスがイオン化される。この工程中に形成されるイオンは、ターゲットの表面に向かって加速され、これにより原料物質の原子が蒸気の状態でターゲットからはがれ、基板上に凝縮する。
【0054】
RF及びDCスパッタリングのほかに、マグネトロンスパッタリングが第3のスパッタリング技術として知られている。マグネトロンスパッタリングには、反応性スパッタリングが望ましく且つその他の要因である場合には、ターゲット物質に応じて、DC、パルスDC,AC及びRF電源を用いることができる。ターゲット表面へのプラズマの閉じ込めは、永久磁石構造をターゲット表面の後ろに置くことにより達成される。この結果生じた磁界は、ターゲットからサイクロイドパスに放出される二次電子の軌道の形状を変える電子トラップとして作用する閉ループ環状パスを形成し、閉じ込めゾーン内のスパッタリングガスのイオン化の可能性を著しく増加させる。このプラズマからの正電荷を持つアルゴンイオンは、負にバイアスされたターゲット(カソード)に向かって加速され、その結果、物質がターゲット表面からスパッタリングされる。
【0055】
マグネトロンスパッタリングは、平衡及び非平衡マグネトロンスパッタリングを区別する。「非平衡」マグネトロンは、単に、ターゲットの後ろに置かれた磁石の一極からの磁束が他極と著しく異なるという設計であるが、「平衡」マグネトロンでは、磁石の両極間の磁束は等しい。平衡マグネトロンスパッタリングと比べて、非平衡マグネトロンスパッタリングは、基板イオン電流、ひいては基板被膜の密度を増加させる。
【0056】
本発明では、スパッタリング工程の新規性は、交互シーケンスにおける酸素及び窒素反応性イオンの使用に基づくものである。酸素及び窒素反応性イオンを用いて傾斜バリア膜を製造する工程は、以下の通りである。幾つかの単分子層である金属層が蒸着される。次に酸素がシステムに導入されて、酸素プラズマが生成される。該酸素プラズマは、基板に向かってアルゴン及び酸素イオン衝撃を与え、高充填密度酸素膜を実現する。金属窒化物又は酸窒化物層は、同様に形成される。先ず、幾つかの単分子層である金属層が蒸着され、次に窒素又は窒素及び酸素の混合物(金属酸窒化物層用)が、スパッタリング装置の反応槽に導入され、窒素プラズマ又は酸素/窒素プラズマを作り出す。
【0057】
プラズマは、成長中の膜表面に向かう酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物の反応性も増加させ、より望ましい構造を提供する。金属酸化物の第1層は、所望の厚さまで成長する。金属酸化物層が所望の厚さになった後、スパッタリング装置の反応槽への酸素流が切られ、他の幾つかの単分子層である金属層が、既に存在する金属酸化物層の上に蒸着される。これら初期単分子層が形成された後、窒素が反応槽に供給され、金属窒化物層が形成される。金属酸窒化物層が製造される場合は、窒素及び酸素の混合物が反応槽に供給される。基本的な蒸着と陽極酸化は、傾斜バリア膜の所望の厚さが得られるまで連続的に繰り返されてよい。
【0058】
従って、本発明に対する一の態様は、スパッタリング技術を用いて、単一の蒸着サイクルで傾斜バリア膜を製造する方法であって、該方法は、マグネトロンで用いられる作動ガスを、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物である反応ガスと、交互に混合することによって、金属酸化物及び金属窒化物、或いは金属酸化物及び金属酸窒化物が交互に重なった層を基板上に蒸着する蒸着処理を備える製造方法に関する。
【0059】
一の実施形態では、前記蒸着処理は、一の金属の複数の単分子層を前記基板の上にスパッタリングする処理と、金属酸化物及び金属窒化物又は金属酸窒化物を形成するための前記金属層を陽極酸化する反応性酸素又は窒素或いは酸素及び窒素を形成するために、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物を前記作動ガスとともに供給する処理と、により実施される。
【0060】
用いられるスパッタリング技術は、RFスパッタリング又はDCスパッタリング、或いはマグネトロンスパッタリングであってよく、DC又はACマグネトロンである。一の実施形態では、前記マグネトロンスパッタリングは、平衡又は非平衡マグネトロンスパッタリングである。スパッタリング技術は、基板で−10Vから−30又は−25Vまで自己バイアスをかけることができる。入射電流密度は、約2mA/cm2から約10mA/cm2、又は約2mA/cm2から約5mA/cm2、或いは約4mA/cm2から約5mA/cm2となりうる。高電流密度によって、過剰の固有応力を発生させずに、金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物の層を高密度にできる。金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物の蒸着は、室温で生じることができる。
【0061】
適切な連続フィードバック制御ループ(例えば、プラズマ発光監視制御ループ)を用いて、スパッタターゲットの状態に応じて酸素及び窒素のガス流を制御できる。精密流量制御器は、制御ループ内に置かれ、所与時間に交互シークエンスにおける酸素及び窒素流を調整する。
【0062】
図7は、マグネトロンが傾斜バリア膜を製造するために用いられる実施形態を示す。マグネトロン206の反応槽におけるガスの流れは、プラズマ発光/電圧パルス部204により制御される。バルブ203(酸素)及び202(窒素)を介して酸素及び窒素の流れを制御するプラズマ発光/電圧パルス部204は、圧電バルブ201等のバルブを制御する流量制御器205に接続される。流量制御器205を介したバルブ201の制御により、マグネトロン206の反応槽への酸素及び窒素の流れを制御できる。マグネトロン反応槽(レーストラック)の高強度プラズマにおけるスパッタリング金属により放出される光は、金属スパッタリング速度及び酸素分圧の指標であり、光電子増倍管208により測定される。この指標を用いて圧力を制御でき、故に正確な酸素膜の化学量論を達成できる。
【0063】
光電子増倍管は、データ伝送用にプラズマ発光/電圧パルス部204に接続される。マグネトロン206は、プラズマ発光/電圧パルス部204により制御される電源207に接続される。図7では、基板211は、二層の金属酸化物209と、金属窒化物又は金属酸窒化物の中間層212とを既に有する層傾斜バリア膜で被覆されることが示される。図7に示したマグネトロンは、プラズマ発光モニタから連続フィードバック制御部、即ちプラズマ発光/電圧パルス部204を用いており、再生可能な膜と所望のバリア膜とを得ることができる。
(実験)
【0064】
表面処理
【0065】
傾斜バリア膜の支持構造体として用いられる基板は、イソプロピルアルコール(IPA)で濯ぎ、窒素で乾かす。これらの工程は、基板表面上にある巨視的規模の吸着粒子の除去に役立つ。アセトン及びメタノール洗浄及び濯ぎは実施可能であるが、推奨されない。
【0066】
次に、吸着水分又は酸素を脱気するために、基板を真空オーブンに圧力10−1mbarで置いた。真空オーブンは、真空ポンプから真空オーブンへの炭化水素油の逆流を防止するためのフォアライントラップを備える。
【0067】
脱気の直後、基板をプラズマ処理槽(例えば、ULVAC SOLCIET、クラスターツール)に移した。高周波(RF)アルゴンプラズマを用いて、バリア膜の表面に低エネルギーイオンを照射し、表面の汚染物を除去する。処理槽のベース圧は、4×10−6mbar以下に保持した。アルゴン流速は70sccm(116.2*10−3Pa*m3/s)である。RFパワーは200Wに設定し、最適処理時間は、表面状態によるが、通常5から8分の処理時間を用いた。
【0068】
金属酸化物バリア層被膜
【0069】
スパッタリング技術を用いて、金属酸化物バリア層を蒸着した。高密度酸化物バリア膜を成長させるために非平衡マグネトロンスパッタリングシスタムを用いる。このスパッタリング技術では、通常幾つかの単分子層である金属層が、非平衡マグネトロンから蒸着される。次に酸素がシステムに導入されて、酸素プラズマを生成する。該酸素プラズマは、基板に向かってアルゴン及び酸素イオン衝撃を与え、高充填密度酸素膜を実現する。このプラズマは、成長中の膜表面に向けられた酸素の反応性も向上させ、より望ましい構造を提供する。過剰の固有応力を発生させずに高密度の膜を蒸着させるためには、高流量(2mA/cm2より多い)の低エネルギー(〜25eV)酸素及びアルゴンイオンを用いて、成長中のバリア酸化物膜に照射する。
【0070】
連続フィードバック制御部を用いて、反応性スパッタリング工程を制御する。マグネトロンレーストラックの高強度プラズマにおけるスパッタリング金属により放出される光は、金属スパッタリング速度及び酸素分圧の一の指標である。この指標を用いて圧力を制御でき、故に正確な酸素膜の化学量論を達成できる。プラズマ発光モニタから連続フィードバック制御部を用いることにより、再生可能な膜と所望のバリア膜とを得ることができる。
【0071】
窒化ケイ素(SiN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、及びインジウムスズ酸化物(ITO)を含む各種のバリア層を、従来の非平衡マグネトロンスパッタリング技術により作成し、単一バリア層の特性を試験する。
【0072】
実施例:傾斜バリア膜上でのカルシウム分解度試験
【0073】
プラズマ処理工程の後、バリア膜を真空下の真空蒸着槽(熱蒸着)に移す。バリア膜は、次に、WO2005/095924に記載のカルシウムセンサを用いてバリア性を判断する。WO2005/095924において参照されたカルシウムセンサにより、定性的評価及び定量的評価が可能である。定性的評価を可能とするカルシウムセンサの例を図5に示し、定量的評価を可能とするカルシウムセンサを図6に示す。
【0074】
定性的評価では、図5に示すテストセルを、製造されたカプセル化バリア膜を用いて形成する。簡単に言えば、大きさが2cm×2cmの二つの金属トラックを製作する。長さ1cm、幅2cm、厚さ150cmの検出素子を、二つの電極の間に形成する。検出素子の測定抵抗率は、0.37Ω−cmである。蒸着処理後、ロードロックシステムを用いて、室温、乾燥窒素下で試料をグローブボックスに移す。カルシウム蒸着303の後、100nmの銀保護層301を、図5に示すテストセルにおける定性分析のために蒸着した。
【0075】
図5に示すテストセルは、試験を実施するバリア膜305で被覆された基板306を備える。既に述べたように、カルシウムセンサ303を銀層301で被覆し、チャンバ内に置く。チャンバは、傍らにUV硬化可能エポキシ樹脂302を備えて隔離され、上部をガラススライド307で封止される。ゲッタ材料308をカバーグラススライドに装着し、エポキシ封止剤の浸透又はガス放出の結果として生成される水蒸気を吸着する。
【0076】
定量的抵抗測定では、図6に示すテストセルが用いた。このようなテストセルの一般的設定は、UV硬化可能エポキシを含むカプセル化剤/封止剤404とガラスカバー基板401とを組み入れるカルシウムセンサセルを備える。カプセル化剤404(エポキシ封止剤)の層を、一対の金属(導電性)トラック407の上に塗布し、電極を構成する。カルシウムを検出素子405として用いて、検出素子405表面の上部を、保護層408で被覆する。ガラスカバー表面401をカプセル化剤上に置いて、検出素子を封止する。検出素子の上に囲まれた空洞403を、窒素で充填する。
【0077】
ここで記載される実験には、300nmの銀を導電性トラックに用い、150nmのカルシウムを素子405として用い、また150nmのフッ化リチウムを保護層408として用いた。蒸着工程後、UV硬化可能エポキシ404をバリア膜406の縁部に塗布した(図6では、図の表現法によってUV硬化可能エポキシが金属トラックの上に塗布されているように見えることに留意されたい。しかしながら、実際は、UV硬化可能エポキシはバリア膜に塗布される)、全基板を35mm×35mmのガラススライド401で封止した。図5に示すセンサセルに関しては、ゲッタ材料402を35mm×35mmのカバーガラススライド401に装着し、エポキシ封止剤404の浸透又はガス放出の結果として生成される水蒸気を吸着した。ロードロックシステムを全工程に用い、室温、乾燥窒素下で、グローブボックスにおいてテストセルをカプセル化した。
【0078】
浸透試験を促進するために、試料を、夫々60℃及び90%相対湿度(RH)である一定温度及び湿度で、湿度室に配置した。試料を、定性的分解度試験及び欠陥分析のために一定間隔で光学的に観察し、定量的分解試験のために電気的に測定した。
【0079】
カルシウムテストセルの導電性トラック末端は、一定電流源(ケースレーソースメータ)に接続され、これはコンピュータでインターフェースされる。カルシウムセンサ/銀トラックの抵抗は、毎秒モニタリングされ、LabVIEWソフトウェアを用いるコンピュータによって自動的にプロットされる。高速フーリエ変換(FFT)分析を備えた動的信号分析器は、1秒の定期的周期で自動的にノイズスペクトル測定を行うために用いられる。
【0080】
実施例:従来のバリア膜成長及び厚さ依存性
【0081】
ポリ(エチレンテレフタレート)(PEN)基板上のSiN膜のバリア性は、それらの微細構造及び膜成長条件に依存する。膜成長を理解するために、厚さ5nm、15nm、30nm、60nm及び90nmのSiN膜をPET基板上に蒸着した。
【0082】
フィルム形成の各種段階に影響を与える要因について、厚さが5nmから90nmの範囲のSiN膜を用いて調べた。フィルム成長に影響を与える可能性がある要因は、表面モルホロジー、表面洗浄、蒸着条件及び蒸着技術である。
【0083】
気体/固体界面での不均一核形成膜作製は、薄膜成長における重要な第1段階である。準安定な島(island)が数よりもサイズにおいて成長し、最終的には、たがいに接触する程度に十分大きく成長する。プラズマ蒸着では、原子は表面に達して、プラズマ及びイオン衝撃からのエネルギーを消耗する。島状成長は、原子の移動度に強く依存し、これは続いてイオン衝撃から受けるエネルギーに対応する。島の成長は、基板モルホロジー、蒸着速度及表面エネルギーにも依存する。
【0084】
PET基板に被覆した厚さ5nmのSiNに対するカルシウム分解の画像を図10に示す。3時間後のカルシウム分解の画像は、厚さ5nmの初期の膜成長が連続でないことを示した。これは、核生成理論における島状成長段階に関連するであろう。カルシウム分解のクラスタは、表面のSiN被覆率が乏しいことを示し、これはSiNの島状成長を反映する。
【0085】
島が接触する程度に十分大きく成長すると、島は凝集する。二つの丸みがある島の凝集は、基板上の島の投影面積の減少と高さの増加とによって特徴づけられる。この挙動は、高分子基板上の被覆されていない領域の二次核生成を導く。図11は、厚さ15nmのSiN膜の凝集挙動を示す。
【0086】
膜は、凝集段階では連続となる。蒸着技術によって、これが生じる平均膜厚が変わってよい。初期の理論研究により、スパッタリングされた膜が蒸着膜よりも薄い厚さで連続となることが発見されており、この原因は、スパッタリングに関連する高反応のアルゴンイオン衝撃によるものであった。図12は、PET基板上の厚さ30nmのSiN膜におけるカルシウム分解パターンを示す。
【0087】
SiN膜は、RFスパッタリングで作成した。しかしながら、膜成長中、基板バイアスを用いなかった。基板バイアスを用いない場合は、膜成長中にイオン衝撃はない。膜成長中のイオン衝撃は、膜の充填密度を増加させる。穴、溝、亀裂及び細孔は、図12及び図13における連続SiN膜で観察されてもよい。
【0088】
図14のカルシウム分解度試験(CDT)の画像は、厚さ90nmのSiNが4.5時間後に酸化されていないことを示す。この遅延時間は、水蒸気が厚さ90nmのSiN層に拡散するのに要する時間として説明できる。拡散は、6.5から7.5時間後にマイクロ又はナノスケールの欠陥を介して生じ、カルシウムセンサは酸化される。バリア性の悪化の原因は、バリア膜の臨界厚さの値、約60nmを超えると生じる固有応力の解放から生じる亀裂による可能性がある。
【0089】
PET基板を被覆する厚さ5nm、15nm、30nm、60nm及び90nmのSiNについて、CDT法を用いて水蒸気輸送特性を定量分析した。膜厚に対する水蒸気輸送速度(WVTR)の依存性を図9に示す。
【0090】
PET基板に被覆された厚さ5nmのSiNは、単純PETのWVTR値に近い2g/m2/日のWVTRを示した。PET基板に被覆された厚さ15nmのSiNは、厚さ5nmのSiNと比べて、因子10の向上を示した。60nmでは、厚さ5nmのSiN膜と比べて、因子18の向上を示した。
【0091】
SiNの臨界厚さは60nmであり、これを超えると水蒸気透過速度(WVTR)が著しく増加する。この原因は、亀裂によって特徴づけられる固有応力の増加による。
【0092】
遅延時間法に基づいて拡散係数を算出した。PET基板に被覆されたSiN膜は単一の均一バリアスタックであるとし、拡散係数をWVTRとともにプロットした。拡散係数の挙動は、WVTRの挙動と同様である。従って、WVTRは膜の拡散係数に依存し、これは続いて膜の微細構造に依存する。
【0093】
実施例:傾斜バリア膜
【0094】
膜厚依存性の研究とともにバリア膜成長の分析から臨界厚さ60nmが示され、厚さ60nmを超えると、バリア被膜の固有応力により亀裂形成が観察された。最適厚さ50nmでは、バリア膜はそれまで通り大きな細孔径の欠陥を示す。しかしながら、被覆厚さを増加させると、ピンホールのサイズを更に減少できるが、固有応力が、バリア性向上の制限要因となるであろう。
【0095】
ここで試験される新たな傾斜バリア膜構造は、酸化アルミニウム/窒化アルミニウム/酸化アルミニウムから構成され、これは酸素及び窒素ガス流を交互に用いたマグネトロンスパッタリング法を用いて単一の蒸着サイクルでプラスチック基板上に製作される。傾斜バリア構造の固有応力を減らす際の窒化アルミニウムの役割と、最適厚さ50nmを有する従来の単一バリア層に対する全体の水蒸気透過性の比較とを調べた。
【0096】
従来のマグネトロンスパッタリングシステムを用いて、傾斜バリア構造の概念を示す。アルゴンガス流速5SCCM(sccm=標準温度及び圧力における毎分当たりの立方センチメートル)(8.3*10−3Pa*m3/s)で、マグネトロンパワー100Wを用いた。酸素及び窒素反応性ガスの流速は、夫々、4SCCM(6.7*10−3Pa*m3/s)及び3CCM(5*10−3Pa*m3/s)に最適化した。酸化アルミニウム及びアルミニウム膜を、夫々、8nm/min及び7nm/minの速度でPET基板上に蒸着した。一般に、酸素及び窒素分圧は、用いるスパッタ室に依存する。例えば、研究室規模のスパッタリングシステムのスパッタ室では、約15sccmから60sccm(24.9*10−3Pa*m3/sから99.6*10−3Pa*m3/s)の酸素及び窒素分圧を用いることができる。大規模のスパッタ室では、約100sccmから150sccm(166*10−3Pa*m3/sから249*10−3Pa*m3/s)の酸素及び窒素分圧を用いることができる。よって、反応ガスの分圧は、用いるスパッタリングシステムにも依存する。
【0097】
三つの試料を作成した。即ち、
試料1:PET基板に被覆された厚さ60nmの酸化アルミニウム
試料2:PET基板に被覆された厚さ50nmの窒化アルミニウム
試料3:PET基板の酸化アルミニウム(50nm)/窒化アルミニウム(25nm)/酸化アルミニウム(50nm)から構成される厚さ125nmの傾斜バリア膜構造
【0098】
上記三試料のバリア性を、定性分析を用いたカルシウム分解度試験法により試験した。カルシウム分解度試験は、ピンホール、亀裂及びナノ細孔等の欠陥に関する視覚的な定性的情報を提供する。なぜなら、透過した水蒸気が、基板の欠陥及びその(複数の)バリア層を介して拡散し、カルシウムセンサと反応するからである。透明被膜におけるピンホール及び亀裂等のミクロ細孔及びサブミクロンサイズ細孔は、精巧な表面顕微鏡技術(例えば、SEM)を用いても非常に識別又は研究しにくいことがよく知られている。
【0099】
図8の定性的なカルシウム分解画像は、傾斜バリア膜構造を有する試料3が、非常に高いバリア性を実証したことを示す。試料1のカルシウムセンサは、27時間後に分解し始め、87時間の前には全てのカルシウムが分解した。しかしながら、傾斜バリア膜上に製作されたカルシウムセンサ(試料3)は、207時間まで分解を示さなかった。従来の酸化アルミニウムを有する試料1と窒化アルミニウムを有する試料2は、乏しいバリア性を示した。以下の表1に示される結果から、窒化アルミニウム膜が、全厚125nmの傾斜バリア膜におけるバリア構造の固有応力を効率的に減少できることは明らかである。表1は、ここで先に記載していないその他のバリア膜構造の結果も示す。
【0100】
【表1】
表1−異なるバリア膜を被覆したプラスチック基板の水蒸気輸送特性分析の比較
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す図である。
【図2】傾斜バリア膜の他の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の更なる実施形態に係る傾斜バリア膜の一般的構造を示す図である。
【図4】当技術分野で周知のバリア膜の動作方式とこのようなバリア膜の制限を示す図である。
【図5】カルシウムセンサを用いて作られたバリア膜のバリア膜特性の調査を実施するための設定を示す図である。
【図6】カルシウムセンサを用いて作られたバリア膜のバリア膜特性の調査を実施するための設定を示す図である。
【図7】傾斜バリア膜を製造するために本発明の一の実施形態で用いられるパルス反応性プラズマシステムを用いたマグネトロンスパッタリングシステムの一般的な設定を示す図である。
【図8】三つの異なる無機バリア膜構成のバリア性を決定するために、温度60℃、相対湿度90%で実施されたカルシウム分解度試験検討の結果を示す図である。
【図9】金属窒化物の厚さ、水蒸気透過速度及び拡散速度の関係を示す図である。
【図10】PET基板上の厚さ5nmのSiN膜における、1.5時間、3時間及び4時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図11】PET基板上の厚さ15nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間及び6時間後(左から右)のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図12】PET基板上の厚さ30nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図13】PET基板上の厚さ30nmのSiN膜(基板バイアスが無い)における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す図である。
【図14】PET基板上の厚さ90nmのSiN膜における、0時間、3時間、4時間、6時間及び7時間20分後のカルシウム分解パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0102】
51 第2金属酸化物層
52 第1金属酸化物層
55 金属窒化物又は金属酸窒化物層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、
金属酸化物から構成される第1層と、
該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物から構成される第2層と、
該第2層上に配置される金属酸化物から構成される第3層と、
を備えることを特徴とする傾斜バリア膜。
【請求項2】
前記傾斜バリア膜は、基板上に配置されることを特徴とする請求項1に記載の傾斜バリア膜。
【請求項3】
前記傾斜バリア膜は、前記基板の対向面上に配置されることを特徴とする請求項2に記載の傾斜バリア膜。
【請求項4】
前記傾斜バリア膜は、有機高分子又は無機高分子或いはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の傾斜バリア膜。
【請求項5】
前記有機高分子は、ポリアセテート、ポリプロピレン、セロファン、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(4−メチル−2−ペンチン)、ポリイミド、ポリカルボネート(PC)、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリジメチルフェニレンオキシド、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、ニトロセルロース、セルロース及びアセテートからなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の傾斜バリア膜。
【請求項6】
前記無機高分子は、シリカ(ガラス)、ナノクレイ、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ビスシクロペンタジエニル鉄、インジウムスズ酸化物、ポリホスファゼン及びこれらの誘導体からなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の傾斜バリア膜。
【請求項7】
前記高分子は、透明又は半透明又は不透明であることを特徴とする請求項4に記載の傾斜バリア膜。
【請求項8】
前記複数の層で用いられる金属は、同じ又は異なることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項9】
前記第1層及び前記第3層に用いられる前記金属酸化物は、同じ又は異なることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項10】
前記第2層で前記金属窒化物又は金属酸窒化物に用いられる金属は、前記第1層及び前記第3層で前記金属酸化物に用いられる金属と同じ又は異なることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項11】
前記複数の層で用いられる金属は、周期律表の2族から14族の金属からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項12】
前記複数の層で用いられる金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、インジウムドープスズ、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、クロム、タングステン、亜鉛、シリコン、ゲルマニウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、イットリウム及びバナジウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項13】
各層は、約10オングストロームから約150nmの厚さを有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項14】
前記第2層は、前記第1層及び前記第3層よりも薄いことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項15】
前記第1層及び前記第3層は、互いに独立して約30から60nmの厚さを有することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項16】
前記第2層は、約1から25nmの厚さを有することを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項17】
前記傾斜バリア膜は、金属酸化物層の後に該金属酸化物層上に配置される金属窒化物層又は金属酸窒化物層から構成される中間層が常に続く複数の層からなることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項18】
前記複数の層で用いられる金属は、同じ又は異なることを特徴とする請求項17に記載の傾斜バリア膜。
【請求項19】
金属酸化物から構成される前記複数の層に用いられる前記金属酸化物は、同じ又は異なることを特徴とする請求項17に記載の傾斜バリア膜。
【請求項20】
前記中間層で前記金属窒化物又は金属酸窒化物に用いられる金属は、金属酸化物から構成される前記複数の層で用いられる前記金属と同じ又は異なることを特徴とする請求項17に記載の傾斜バリア膜。
【請求項21】
前記傾斜バリア膜は、約30オングストロームから約1μmの厚さを有することを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項22】
前記傾斜バリア膜上に更なる膜が配置され、当該更なる膜は、UV中和膜、酸化亜鉛層、保護層及びバリア膜からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項23】
前記更なる膜は、前記傾斜バリア膜の一面のみに又は両面に配置されることを特徴とする請求項22に記載の傾斜バリア膜。
【請求項24】
単一の蒸着サイクルで請求項1から23のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜を製造する方法であって、該方法は、
作動ガスを、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物である反応ガスと、交互に混合することによって、金属酸化物及び金属窒化物、或いは金属酸化物及び金属酸窒化物が交互に重なった層を基板上に蒸着する蒸着処理を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項25】
前記蒸着処理は、
一の金属の複数の単分子層を前記基板の上にスパッタリングする処理と、
前記金属層を陽極酸化する反応性酸素又は窒素或いは酸素及び窒素を形成するために、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物を前記作動ガスとともに供給する処理と、
により実施されることを特徴とする請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記スパッタリング技術は、マグネトロンスパッタリング又は高周波(RF)スパッタリング或いは直流(DC)スパッタリングであることを特徴とする請求項24又は25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記マグネトロンスパッタリングは、平衡又は非平衡マグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項26に記載の製造方法。
【請求項28】
前記スパッタリング技術は、非平衡マグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項24又は25に記載の製造方法。
【請求項29】
前記スパッタリング技術は、約2mA/cm2から約10mA/cm2の入射電流密度で動作することを特徴とする請求項24から28のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項30】
請求項1から23のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜でカプセル化された、或いは請求項24から29のいずれか一項に記載の方法で得られたことを特徴とする装置。
【請求項31】
前記装置は、有機発光デバイス(OLED)、電荷結合素子(CCD)、マイクロ・エレクトロ・メカニカルセンサ(MEMS)、及び薄膜太陽電池に基づく有機又は無機光起電装置からなる群から選択されることを特徴とする請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記薄膜太陽電池に基づく有機又は無機光起電装置は、Cu(InGa)Se2太陽電池、色素増感太陽電池(DSSC)、CdS/CdTe太陽電池、セレン化銅インジウム太陽電池(CIS)及び二セレン化銅インジウムガリウム太陽電池(CIGS)からなる群から選択されることを特徴とする請求項31に記載の装置。
【請求項1】
層状構造を備える傾斜バリア膜であって、前記層状構造は、
金属酸化物から構成される第1層と、
該第1層上に配置される金属窒化物又は金属酸窒化物から構成される第2層と、
該第2層上に配置される金属酸化物から構成される第3層と、
を備えることを特徴とする傾斜バリア膜。
【請求項2】
前記傾斜バリア膜は、基板上に配置されることを特徴とする請求項1に記載の傾斜バリア膜。
【請求項3】
前記傾斜バリア膜は、前記基板の対向面上に配置されることを特徴とする請求項2に記載の傾斜バリア膜。
【請求項4】
前記傾斜バリア膜は、有機高分子又は無機高分子或いはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の傾斜バリア膜。
【請求項5】
前記有機高分子は、ポリアセテート、ポリプロピレン、セロファン、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(4−メチル−2−ペンチン)、ポリイミド、ポリカルボネート(PC)、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリジメチルフェニレンオキシド、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、ニトロセルロース、セルロース及びアセテートからなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の傾斜バリア膜。
【請求項6】
前記無機高分子は、シリカ(ガラス)、ナノクレイ、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ビスシクロペンタジエニル鉄、インジウムスズ酸化物、ポリホスファゼン及びこれらの誘導体からなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の傾斜バリア膜。
【請求項7】
前記高分子は、透明又は半透明又は不透明であることを特徴とする請求項4に記載の傾斜バリア膜。
【請求項8】
前記複数の層で用いられる金属は、同じ又は異なることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項9】
前記第1層及び前記第3層に用いられる前記金属酸化物は、同じ又は異なることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項10】
前記第2層で前記金属窒化物又は金属酸窒化物に用いられる金属は、前記第1層及び前記第3層で前記金属酸化物に用いられる金属と同じ又は異なることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項11】
前記複数の層で用いられる金属は、周期律表の2族から14族の金属からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項12】
前記複数の層で用いられる金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、インジウムドープスズ、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、クロム、タングステン、亜鉛、シリコン、ゲルマニウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、イットリウム及びバナジウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項13】
各層は、約10オングストロームから約150nmの厚さを有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項14】
前記第2層は、前記第1層及び前記第3層よりも薄いことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項15】
前記第1層及び前記第3層は、互いに独立して約30から60nmの厚さを有することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項16】
前記第2層は、約1から25nmの厚さを有することを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項17】
前記傾斜バリア膜は、金属酸化物層の後に該金属酸化物層上に配置される金属窒化物層又は金属酸窒化物層から構成される中間層が常に続く複数の層からなることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項18】
前記複数の層で用いられる金属は、同じ又は異なることを特徴とする請求項17に記載の傾斜バリア膜。
【請求項19】
金属酸化物から構成される前記複数の層に用いられる前記金属酸化物は、同じ又は異なることを特徴とする請求項17に記載の傾斜バリア膜。
【請求項20】
前記中間層で前記金属窒化物又は金属酸窒化物に用いられる金属は、金属酸化物から構成される前記複数の層で用いられる前記金属と同じ又は異なることを特徴とする請求項17に記載の傾斜バリア膜。
【請求項21】
前記傾斜バリア膜は、約30オングストロームから約1μmの厚さを有することを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項22】
前記傾斜バリア膜上に更なる膜が配置され、当該更なる膜は、UV中和膜、酸化亜鉛層、保護層及びバリア膜からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜。
【請求項23】
前記更なる膜は、前記傾斜バリア膜の一面のみに又は両面に配置されることを特徴とする請求項22に記載の傾斜バリア膜。
【請求項24】
単一の蒸着サイクルで請求項1から23のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜を製造する方法であって、該方法は、
作動ガスを、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物である反応ガスと、交互に混合することによって、金属酸化物及び金属窒化物、或いは金属酸化物及び金属酸窒化物が交互に重なった層を基板上に蒸着する蒸着処理を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項25】
前記蒸着処理は、
一の金属の複数の単分子層を前記基板の上にスパッタリングする処理と、
前記金属層を陽極酸化する反応性酸素又は窒素或いは酸素及び窒素を形成するために、酸素又は窒素或いは酸素及び窒素の混合物を前記作動ガスとともに供給する処理と、
により実施されることを特徴とする請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記スパッタリング技術は、マグネトロンスパッタリング又は高周波(RF)スパッタリング或いは直流(DC)スパッタリングであることを特徴とする請求項24又は25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記マグネトロンスパッタリングは、平衡又は非平衡マグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項26に記載の製造方法。
【請求項28】
前記スパッタリング技術は、非平衡マグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項24又は25に記載の製造方法。
【請求項29】
前記スパッタリング技術は、約2mA/cm2から約10mA/cm2の入射電流密度で動作することを特徴とする請求項24から28のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項30】
請求項1から23のいずれか一項に記載の傾斜バリア膜でカプセル化された、或いは請求項24から29のいずれか一項に記載の方法で得られたことを特徴とする装置。
【請求項31】
前記装置は、有機発光デバイス(OLED)、電荷結合素子(CCD)、マイクロ・エレクトロ・メカニカルセンサ(MEMS)、及び薄膜太陽電池に基づく有機又は無機光起電装置からなる群から選択されることを特徴とする請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記薄膜太陽電池に基づく有機又は無機光起電装置は、Cu(InGa)Se2太陽電池、色素増感太陽電池(DSSC)、CdS/CdTe太陽電池、セレン化銅インジウム太陽電池(CIS)及び二セレン化銅インジウムガリウム太陽電池(CIGS)からなる群から選択されることを特徴とする請求項31に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−523977(P2011−523977A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507378(P2011−507378)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000154
【国際公開番号】WO2009/134211
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000154
【国際公開番号】WO2009/134211
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
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