説明

無段変速機の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】ショックを小さくすることができる無段変速機の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供する。
【解決手段】ECUは、フットブレーキスイッチがオンであり(S100)、車速がしきい値以下であると(S104)、通常値よりも大きい値までベルト挟圧力を増大させ(S108)、フットブレーキスイッチがオンであり、車速がしきい値より高い状態からしきい値以下の状態に変化すると(S106)、ベルト挟圧力の増大を禁止する(S114)ことを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関し、特に、無段変速機の伝動ベルトに付与する挟圧力を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溝幅が可変の一対のプーリに伝動ベルトを巻き掛けた無段変速機が知られている。このような無段変速機においては、伝動ベルトが滑らないような挟圧力が伝動ベルトに付与される。ところが、たとえば車両の急制動時においては、無段変速機の出力回転数が急低下されるため、伝動ベルトに伝達されるトルクが過大になる。そのため、伝動ベルトが滑り得る。急制動時における伝動ベルトの滑りを防止するために、急制動時に伝動ベルトに付与する挟圧力を増大する技術がある。
【0003】
特開平8−210450号公報(特許文献1)は、Vベルト式無段変速機におけるライン圧を、車両の制動時において過不足なく適正に制御し得るライン圧制御装置を開示する。特許文献1に記載のライン圧制御装置は、Vベルトを巻き掛けした一対のプーリのうち、一方のプーリの可動フランジにライン圧を作用させ、他方のプーリの可動フランジには、ライン圧を変速制御弁により減圧して得た変速制御圧を作用させ、変速制御圧とライン圧との差圧により変速比を無段階に制御するようにしたVベルト式無段変速機を搭載した車両の制動中を検知する制動検知部と、Vベルト式無段変速機の実変速比を演算する変速比演算部と、車両の制動中はライン圧を実変速比に応じて決定した値に上昇させる制動時ライン圧上昇部とを含む。
【0004】
この公報に記載のライン圧制御装置によれば、車両制動中は、ライン圧が、無段変速機の実変速比に応じて決定した値に上昇される。よって、車両の制動中この制動により車輪が急減速される場合でも、Vベルトが滑らないようにライン圧を制御することができる。そのため、Vベルトの耐久性が低下するのを防止することができる。
【特許文献1】特開平8−210450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平8−210450号公報に記載のライン圧制御装置においては、制動中はライン圧が増大されることから、高車速時であっても、ベルトの挟圧力が増大される。ところが、車速が高いときには、ベルトに過大なトルクが入力されない。したがって、低車速時における制動時にベルトに付与する挟圧量を増大するようにすることが考えられる。しかしながら、このようにすると、車速が高い状態で制動を開始した場合に、車速が低くなった時点でベルトの挟圧力がステップ的に増大され、ブレーキ操作がなされたタイミングにずれてショックが発生し得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ショックを小さくすることができる無段変速機の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る無段変速機の制御装置は、溝幅が可変の一対のプーリと、一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御装置である。この制御装置は、車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するための手段と、車速が予め定められた車速以下か否かを判断するための手段と、ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が予め定められた車速以下であると判断された場合に伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するための手段と、ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が予め定められた車速より高い状態から予め定められた車速以下の状態に変化したことを条件として、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するための禁止手段とを含む。第6の発明に係る無段変速機の制御方法は、第1の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の要件を備える。
【0008】
第1または第6の発明によると、車両のブレーキ操作がなされているか否かおよび車速が予め定められた車速以下か否かが判断される。ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が予め定められた車速以下であると判断された場合に伝動ベルトに付与する挟圧力が増大される。ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が予め定められた車速より高い状態から予め定められた車速以下の状態に変化したことを条件として、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大が禁止される。これにより、車速が高い状態から低い状態に移行する際に伝動ベルトに付与される挟圧力がステップ的に増大することを抑制することができる。そのため、ショックを小さくすることができる無段変速機の制御装置または制御方法を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る無段変速機の制御装置は、第1の発明の構成に加え、車両の減速度が予め定められた減速度以下であるか否かを判断するための手段をさらに含む。禁止手段は、車両の減速度が予め定められた減速度以下であると判断されたことをさらに条件として、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するための手段を含む。第7の発明に係る無段変速機の制御方法は、第2の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の要件を備える。
【0010】
第2または第7の発明によると、車両の減速度が予め定められた減速度以下であるか否かが判断される。車両の減速度が予め定められた減速度以下であると判断されたことをさらに条件として、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大が禁止される。これにより、車両の減速度が予め定められた減速度より大きい急制動時には、伝動ベルトに付与する挟圧力を増大することができる。一方、車両の減速度が予め定められた減速度以下である緩制動時には、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止することができる。そのため、伝動ベルトに過大なトルクが入力する場合には挟圧力を増大して伝動ベルトの滑りを小さくしつつ、伝動ベルトに過大なトルクが入力しない場合には挟圧力を増大せずにショックを小さくすることができる。
【0011】
第3の発明に係る無段変速機の制御装置は、第1または2の発明の構成に加え、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であるか否かを判断するための手段をさらに含む。禁止手段は、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であると判断されたことをさらに条件として、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するための手段を含む。第8の発明に係る無段変速機の制御方法は、第3の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の要件を備える。
【0012】
第3または第8の発明によると、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であるか否かが判断される。ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であると判断されたことをさらに条件として、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大が禁止される。これにより、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間より短いために、急制動中である可能性がある場合には、伝動ベルトに付与する挟圧力を増大することができる。一方、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であるために、緩制動中であるといえる場合には、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止することができる。そのため、伝動ベルトに過大なトルクが入力する場合には挟圧力を増大して伝動ベルトの滑りを小さくしつつ、伝動ベルトに過大なトルクが入力しない場合には挟圧力を増大せずにショックを小さくすることができる。
【0013】
第4の発明に係る無段変速機の制御装置は、溝幅が可変の一対のプーリと、一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御装置である。この制御装置は、車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するための手段と、車速が予め定められた車速以下か否かを判断するための手段と、ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が予め定められた車速以下であると判断された場合に伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するための手段と、ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が予め定められた車速より高い状態から予め定められた車速以下の状態に変化した場合、そうでない場合に比べて伝動ベルトに付与する挟圧力の増大速度を低くするための手段とを含む。第9の発明に係る無段変速機の制御方法は、第4の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の要件を備える。
【0014】
第4または第9の発明によると、車両のブレーキ操作がなされているか否かおよび車速が予め定められた車速以下か否かが判断される。ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が予め定められた車速以下であると判断された場合に伝動ベルトに付与する挟圧力が増大される。ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が予め定められた車速より高い状態から予め定められた車速以下の状態に変化した場合、そうでない場合に比べて伝動ベルトに付与する挟圧力の増大速度が低くされる。これにより、車速が高い状態から低い状態に移行する際に伝動ベルトに付与される挟圧力がステップ的に増大することを抑制することができる。そのため、ショックを小さくすることができる無段変速機の制御装置または制御方法を提供することができる。
【0015】
第5の発明に係る無段変速機の制御装置は、溝幅が可変の一対のプーリと、一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御装置である。この制御装置は、車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するための手段と、車速が予め定められた車速以下か否かを判断するための手段と、ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が予め定められた車速以下であると判断された場合に伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するための手段と、車速が予め定められた車速より高い場合に伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量を零に設定し、車速が予め定められた車速以下である場合に伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量を車速が低いほどより大きい値に設定するための手段とを含む。第10の発明に係る無段変速機の制御方法は、第5の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の要件を備える。
【0016】
第5または第10の発明によると、車両のブレーキ操作がなされているか否かおよび車速が予め定められた車速以下か否かが判断される。ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が予め定められた車速以下であると判断された場合に伝動ベルトに付与する挟圧力が増大される。車速が予め定められた車速より高い場合には、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量が零に設定される。車速が予め定められた車速以下である場合には、伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量が車速が低いほどより大きい値に設定される。これにより、挟圧力を増大する際、車速が高いほど、増大量を小さくすることができる。そのため、車速が高い状態から低い状態に移行する際に伝動ベルトに付与される挟圧力がステップ的に増大することを抑制することができる。その結果、ショックを小さくすることができる無段変速機の制御装置または制御方法を提供することができる。
【0017】
第11の発明に係るプログラムは、第6〜10のいずれかの発明に係る無段変速機の制御方法をコンピュータに実現させるプログラムであって、第12の発明に係る記録媒体は、第6〜10のいずれかの発明に係る無段変速機の制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0018】
第11または第12の発明によると、コンピュータ(汎用でも専用でもよい)を用いて、第6〜10のいずれかの発明に係る無段変速機の制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両に搭載された駆動装置100のエンジン200の出力は、トルクコンバータ300および前後進切換装置400を介して、ベルト式無段変速機500に入力される。ベルト式無段変速機500の出力は、減速歯車600および差動歯車装置700に伝達され、左右の駆動輪800へ分配される。駆動装置100は、後述するECU(Electronic Control Unit)900により制御される。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU900のROM(Read Only Memory)930に記憶されたプログラムをECU900が実行することにより実現される。
【0021】
トルクコンバータ300は、エンジン200のクランク軸に連結されたポンプ翼車302と、タービン軸304を介して前後進切換装置400に連結されたタービン翼車306とから構成されている。ポンプ翼車302およびタービン翼車306の間にはロックアップクラッチ308が設けられている。ロックアップクラッチ308は、係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切換えられることにより、係合または解放されるようになっている。
【0022】
ロックアップクラッチ308が完全係合させられることにより、ポンプ翼車302およびタービン翼車306は一体的に回転させられる。ポンプ翼車302には、ベルト式無段変速機500を変速制御したり、ベルト挟圧力を発生させたり、各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ310が設けられている。
【0023】
前後進切換装置400は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。トルクコンバータ300のタービン軸304はサンギヤ402に連結されている。ベルト式無段変速機500の入力軸502はキャリア404に連結されている。キャリア404とサンギヤ402とはフォワードクラッチ406を介して連結されている。リングギヤ408は、リバースブレーキ410を介してハウジングに固定される。フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は油圧シリンダによって摩擦係合させられる。フォワードクラッチ406の入力回転数は、タービン軸304の回転数、すなわちタービン回転数NTと同じである。
【0024】
フォワードクラッチ406が係合させられるとともに、リバースブレーキ410が解放されることにより、前後進切換装置400は前進用係合状態となる。この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機500に伝達される。リバースブレーキ410が係合させられるとともにフォワードクラッチ406が解放されることにより、前後進切換装置400は後進用係合状態となる。この状態で、入力軸502はタービン軸304に対して逆方向へ回転させられる。これにより、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機500に伝達される。フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410が共に解放されると、前後進切換装置400は動力伝達を遮断するニュートラル状態になる。
【0025】
ベルト式無段変速機500は、入力軸502に設けられたプライマリプーリ504と、出力軸506に設けられたセカンダリプーリ508と、これらのプーリに巻き掛けられた伝動ベルト510とから構成される。各プーリと伝動ベルト510との間の摩擦力を利用して、動力伝達が行われる。
【0026】
各プーリは溝幅が可変であるように、油圧シリンダから構成されている。プライマリプーリ504の油圧シリンダの油圧が制御されることにより、各プーリの溝幅が変化する。これにより、伝動ベルト510の掛かり径が変更され、変速比GR(=プライマリプーリ回転数NIN/セカンダリプーリ回転数NOUT)が連続的に変化させられる。
【0027】
図2に示すように、ECU900には、エンジン回転数センサ902、タービン回転数センサ904、車速センサ906、スロットル開度センサ908、冷却水温センサ910、油温センサ912、アクセル開度センサ914、フットブレーキスイッチ916、ポジションセンサ918、プライマリプーリ回転数センサ922およびセカンダリプーリ回転数センサ924が接続されている。
【0028】
エンジン回転数センサ902は、エンジン200の回転数(エンジン回転数)NEを検出する。タービン回転数センサ904は、タービン軸304の回転数(タービン回転数)NTを検出する。車速センサ906は、車速Vを検出する。スロットル開度センサ908は、電子スロットルバルブの開度θ(TH)を検出する。冷却水温センサ910は、エンジン200の冷却水温T(W)を検出する。油温センサ912は、ベルト式無段変速機500などの油温T(C)を検出する。アクセル開度センサ914は、アクセルペダルの開度A(CC)を検出する。フットブレーキスイッチ916は、フットブレーキの操作の有無を検出する。ブレーキペダルの操作がなされると、フットブレーキスイッチ916がオンになる。ブレーキペダルの操作がなされないと、フットブレーキスイッチ916がオフになる。
【0029】
ポジションセンサ918は、シフトポジションと対応する位置に設けられた接点がONであるかOFFであるかを判別することにより、シフトレバー920のポジションP(SH)を検出する。プライマリプーリ回転数センサ922は、プライマリプーリ504の回転数NINを検出する。セカンダリプーリ回転数センサ924は、セカンダリプーリ508の回転数NOUTを検出する。各センサの検出結果を表す信号が、ECU900に送信される。タービン回転数NTは、フォワードクラッチ406が係合された前進走行時にはプライマリプーリ回転数NINと一致する。車速Vは、セカンダリプーリ回転数NOUTと対応した値になる。したがって、車両が停車状態にあり、かつフォワードクラッチ406が係合された状態では、タービン回転数NTは0となる。
【0030】
ECU900は、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよび入出力インターフェースなどを含む。CPUはメモリに記憶されたプログラムに従って信号処理を行なう。これにより、エンジン200の出力制御、ベルト式無段変速機500の変速制御、ベルト挟圧力制御、フォワードクラッチ406の係合/解放制御およびリバースブレーキ410の係合/解放制御などを実行する。
【0031】
エンジン200の出力制御は電子スロットルバルブ1000、燃料噴射装置1100、点火装置1200などによって行なわれる。ベルト式無段変速機500の変速制御、ベルト挟圧力制御、フォワードクラッチ406の係合/解放制御およびリバースブレーキ410の係合/解放制御は、油圧制御回路2000によって行なわれる。
【0032】
図3を参照して、油圧制御回路2000の一部について説明する。オイルポンプ310が発生した油圧は、ライン圧油路2002を介してプライマリレギュレータバルブ2100、モジュレータバルブ(1)2310およびモジュレータバルブ(3)2330に供給される。
【0033】
プライマリレギュレータバルブ2100には、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210のいずれか一方から選択的に制御圧が供給される。本実施の形態において、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210の両方は、ノーマルオープン(非通電時に出力される油圧が最大になる)のソレノイドバルブである。なお、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210がノーマルクローズ(非通電時に出力される油圧が最小(「0」)になる)であるようにしてもよい。
【0034】
プライマリレギュレータバルブ2100のスプールは、供給された制御圧に応じて上下に摺動する。これにより、オイルポンプ310で発生した油圧がプライマリレギュレータバルブ2100により調圧(調整)される。プライマリレギュレータバルブ2100により調圧された油圧がライン圧PLとして用いられる。本実施の形態においては、プライマリレギュレータバルブ2100に供給される制御圧が高いほど、ライン圧PLがより高くなる。なお、プライマリレギュレータバルブ2100に供給される制御圧が高いほど、ライン圧PLがより低くなるようにしてもよい。
【0035】
SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210には、ライン圧PLを元圧としてモジュレータバルブ(3)2330により調圧された油圧が供給される。
【0036】
SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210は、ECU900から送信されたデューティ信号によって決まる電流値に応じて制御圧を発生させる。
【0037】
SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧(出力油圧)およびSLSリニアソレノイドバルブ2210の制御圧(出力油圧)うち、プライマリレギュレータバルブ2100へ供給される制御圧は、コントロールバルブ2400により選択される。
【0038】
コントロールバルブ2400のスプールが図3において(A)の状態(左側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200からプライマリレギュレータバルブ2100へ制御圧が供給される。すなわち、SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧に応じて、ライン圧PLが制御される。
【0039】
コントロールバルブ2400のスプールが図3において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLSリニアソレノイドバルブ2210からプライマリレギュレータバルブ2100へ制御圧が供給される。すなわち、SLSリニアソレノイドバルブ2210の制御圧に応じて、ライン圧PLが制御される。
【0040】
なお、コントロールバルブ2400のスプールが図3において(B)の状態にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧は、後述するマニュアルバルブ2600に供給される。
【0041】
コントロールバルブ2400のスプールは、スプリングにより一方向へ付勢される。このスプリングの付勢力に対向するように、変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520から油圧が供給される。
【0042】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520の両方からコントロールバルブ2400に油圧が供給された場合、コントロールバルブ2400のスプールは図3において(B)の状態になる。
【0043】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520の少なくともいずれか一方からコントロールバルブ2400に油圧が供給されていない場合、コントロールバルブ2400のスプールは、スプリングの付勢力により図3において(A)の状態になる。
【0044】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520には、モジュレータバルブ(4)2340により調圧された油圧が供給される。モジュレータバルブ(4)2340は、モジュレータバルブ(3)2330から供給された油圧を一定の圧力に調圧する。
【0045】
モジュレータバルブ(1)2310は、ライン圧PLを元圧として調圧された油圧を出力する。モジュレータバルブ(1)2310から出力された油圧は、セカンダリプーリ508の油圧シリンダに供給される。セカンダリプーリ508の油圧シリンダには、伝動ベルト510が滑りを生じないような油圧が供給される。
【0046】
モジュレータバルブ(1)2310には、軸方向へ移動可能なスプールおよびそのスプールを一方へ付勢するスプリングが設けられている。モジュレータバルブ(1)2310は、ECU900によりデューティ制御されるSLSリニアソレノイドバルブ2210の出力油圧をパイロット圧として、モジュレータバルブ(1)2310に導入されるライン圧PLを調圧する。モジュレータバルブ(3)により調圧された油圧は、セカンダリプーリ508の油圧シリンダに供給される。モジュレータバルブ(1)2310からの出力油圧に応じてベルト挟圧力が増減させられる。
【0047】
SLSリニアソレノイドバルブ2210は、アクセル開度A(CC)および変速比GRをパラメータとしたマップに従い、ベルト滑りが生じないベルト挟圧力になるように制御される。具体的には、SLSリニアソレノイドバルブ2210に対する励磁電流をベルト挟圧力に対応するデューティ比で制御する。本実施の形態においては、加減速時などに伝達トルクが急に変化する場合には、ベルト挟圧力を増大補正してベルト滑りが抑制される。
【0048】
セカンダリプーリ508の油圧シリンダに供給される油圧は、プレッシャセンサ2312により検知される。
【0049】
図4を参照して、マニュアルバルブ2600について説明する。マニュアルバルブ2600は、シフトレバー920の操作に従って機械的に切換えられる。これにより、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は係合させられたり、解放させられたりする。
【0050】
シフトレバー920は、駐車用の「P」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジションおよび「B」ポジションへ操作される。
【0051】
「P」ポジションおよび「N」ポジションでは、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410内の油圧は、マニュアルバルブ2600からドレンされる。これにより、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は解放される。
【0052】
「R」ポジションでは、マニュアルバルブ2600からリバースブレーキ410に油圧が供給される。これによりリバースブレーキ410が係合させられる。一方、フォワードクラッチ406内の油圧がマニュアルバルブ2600からドレンされる。これによりフォワードクラッチ406が解放される。
【0053】
コントロールバルブ2400が図4において(A)の状態(左側の状態)にある場合、図示しないモジュレータバルブ(2)から供給されたモジュレータ圧PMが、コントロールバルブ2400を介してマニュアルバルブ2600に供給される。このモジュレータ圧PMによりリバースブレーキ410が係合状態に保持される。
【0054】
コントロールバルブ2400が図4において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200により調圧された油圧が、マニュアルバルブ2600に供給される。SLTリニアソレノイドバルブ2200により油圧を調圧することにより、リバースブレーキ410が緩やかに係合され、係合時のショックが抑制される。
【0055】
「D」ポジションおよび「B」ポジションでは、マニュアルバルブ2600からフォワードクラッチ406に油圧が供給される。これによりフォワードクラッチ406が係合させられる。一方、リバースブレーキ410内の油圧がマニュアルバルブ2600からドレンされる。これによりリバースブレーキ410が解放される。
【0056】
コントロールバルブ2400が図4において(A)の状態(左側の状態)にある場合、図示しないモジュレータバルブ(2)から供給されたモジュレータ圧PMが、コントロールバルブ2400を介してマニュアルバルブ2600に供給される。このモジュレータ圧PMによりフォワードクラッチ406が係合状態に保持される。
【0057】
コントロールバルブ2400が図4において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200により調圧された油圧が、マニュアルバルブ2600に供給される。SLTリニアソレノイドバルブ2200により油圧を調圧することにより、フォワードクラッチ406が緩やかに係合され、係合時のショックが抑制される。
【0058】
SLTリニアソレノイドバルブ2200は、通常はコントロールバルブ2400を介してライン圧PLを制御する。SLSリニアソレノイドバルブ2210は、通常はモジュレータバルブ(1)2310を介してベルト挟圧力を制御する。
【0059】
一方、シフトレバー920が「D」ポジションである状態で車両が停止した(車速が「0」になった)という条件を含むニュートラル制御実行条件が成立した場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200は、フォワードクラッチ406の係合力が低下するように、フォワードクラッチ406の係合力を制御する。SLSリニアソレノイドバルブ2210は、モジュレータバルブ(1)2310を介してベルト挟圧力を制御するとともに、SLTリニアソレノイドバルブ2200に代わって、ライン圧PLを制御する。
【0060】
シフトレバー920が「N」ポジションから「D」ポジションまたは「R」ポジションへ操作されるガレージシフトが行なわれた場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200は、フォワードクラッチ406もしくはリバースブレーキ410が緩やかに係合するように、フォワードクラッチ406もしくはリバースブレーキ410の係合力を制御する。SLSリニアソレノイドバルブ2210は、モジュレータバルブ(1)2310を介してベルト挟圧力を制御するとともに、SLTリニアソレノイドバルブ2200に代わって、ライン圧PLを制御する。
【0061】
図5を参照して、変速制御を行なう構成について説明する。変速制御は、プライマリプーリ504の油圧シリンダに対する油圧の供給および排出を制御することにより行なわれる。プライマリプーリ504の油圧シリンダに対する作動油の給排は、レシオコントロールバルブ(1)2710およびレシオコントロールバルブ(2)2720を用いて行なわれる。
【0062】
プライマリプーリ504の油圧シリンダには、ライン圧PLが供給されるレシオコントロールバルブ(1)2710と、ドレンに接続されたレシオコントロールバルブ(2)2720とが連通されている。
【0063】
レシオコントロールバルブ(1)2710は、アップシフトを実行するためのバルブである。レシオコントロールバルブ(1)2710は、ライン圧PLが供給される入力ポートとプライマリプーリ504の油圧シリンダに連通された出力ポートとの間の流路をスプールによって開閉するように構成されている。
【0064】
レシオコントロールバルブ(1)2710のスプールの一端部にはスプリングが配置されている。スプールを挟んでスプリングとは反対側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(1)2510からの制御圧が供給されるポートが形成されている。また、スプリングが配置されている側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(2)2520からの制御圧が供給されるポートが形成されている。
【0065】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510からの制御圧を高くするとともに、変速制御用デューティソレノイド(2)2520から制御圧を出力しないようにすると、レシオコントロールバルブ(1)2710のスプールが図5において(D)の状態(右側の状態)になる。
【0066】
この状態では、プライマリプーリ504の油圧シリンダに供給される油圧が増加してプライマリプーリ504の溝幅が狭くなる。そのため、変速比が低下する。すなわちアップシフトする。またその際の作動油の供給流量を増大させることにより、変速速度が速くなる。
【0067】
レシオコントロールバルブ(2)2720は、ダウンシフトを実行するためのバルブである。レシオコントロールバルブ(2)2720のスプールの一端部にはスプリングが配置されている。スプリングが配置されている側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(1)2510からの制御圧が供給されるポートが形成されている。スプールを挟んでスプリングとは反対側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(2)2520からの制御圧が供給されるポートが形成されている。
【0068】
変速制御用デューティソレノイド(2)2520からの制御圧を高くするとともに、変速制御用デューティソレノイド(1)2510から制御圧を出力しないようにすると、レシオコントロールバルブ(2)2720のスプールが図5において(C)の状態(左側の状態)になる。同時に、レシオコントロールバルブ(1)2710のスプールが図5において(C)の状態(左側の状態)になる。
【0069】
この状態では、レシオコントロールバルブ(1)2710およびレシオコントロールバルブ(2)2720を介して、プライマリプーリ504の油圧シリンダから作動油が排出される。そのため、プライマリプーリ504の溝幅が広くなる。その結果、変速比が増大する。すなわちダウンシフトする。またその際の作動油の排出流量を増大させることにより、変速速度が速くなる。
【0070】
図6を参照して、車両に制動力を付与するブレーキシステム1300について説明する。ブレーキペダル1302は、マスターシリンダ1304に連結されている。ブレーキペダル1302を操作すると、ブレーキ操作量に応じた油圧がマスターシリンダ1304で発生する。
【0071】
マスターシリンダ1304で発生した油圧は、キャリパ1311〜1314に供給される。各キャリパ1311〜1314に油圧が供給されることにより、車両に制動力が付与される。なお、油圧で作動するキャリパの代わりに、電力で作動するキャリパを設けるようにしてもよい。
【0072】
図7を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアにより実現してもよい。
【0073】
ECU900は、ブレーキ判断部940と、車速判断部942と、減速度判断部944と、計測部946と、経過時間判断部948と、増大部950と、禁止部952とを含む。
【0074】
ブレーキ判断部940は、フットブレーキスイッチ916がオンであるかオフであるか、すなわちブレーキ操作がなされているか否かを判断する。車速判断部942は、車速がしきい値V(0)以下か否かを判断する。
【0075】
減速度判断部944は、車速を微分して得られる減速度がしきい値DV(0)以下であるか否かを判断する。なお、本実施の形態において、減速度は正値として算出される。
【0076】
計測部946は、常時、時間を計測するとともに、フットブレーキスイッチ916がオフである場合に計測した時間をリセットする(「0」にする)ことで、フットブレーキスイッチ916がオンになってからの経過時間、すなわちブレーキ操作がなされてからの経過時間を計測する。経過時間判断部948は、ブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)以上であるか否かを判断する。
【0077】
増大部950は、ブレーキ判断部940によりブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速判断部942により車速がしきい値V(0)以下であると判断された場合に、ブレーキ操作がなされない(フットブレーキスイッチ916がオフである)場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力がステップ的に増大するようにSLSリニアソレノイドバルブ2210を制御する。
【0078】
禁止部952は、ブレーキ判断部940によりブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態からしきい値V(0)以下である状態に変化し、減速度がしきい値DV(0)以下であり、かつブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)以上であることを条件として、ベルト挟圧力の増大を禁止する。
【0079】
図8を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは、予め定められた周期で繰返し実行される。
【0080】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU900は、フットブレーキスイッチ916から送信された信号に基づいて、フットブレーキスイッチ916がオンであるか否か、すなわちブレーキ操作がなされたか否かを判断する。フットブレーキスイッチ916がオンであると(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS116に移される。
【0081】
S102にて、ECU900は、車速センサ906から送信された信号に基づいて車速を検出する。S104にて、ECU900は、車速がしきい値V(0)以下であるか否かを判断する。車速がしきい値V(0)以下であると(S104にてYES)、処理はS106に移される。もしそうでないと(S104にてNO)、処理はS116に移される。
【0082】
S106にて、ECU900は、フットブレーキスイッチ916がオンであると判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態からしきい値V(0)以下の状態に変化したか否かを判断する。フットブレーキスイッチ916がオンであると判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態からしきい値V(0)以下の状態に変化すると(S106にてYES)、処理はS110に移される。もしそうでないと(S106にてNO)、処理はS108に移される。
【0083】
S108にて、ECU900は、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力を増大する。
【0084】
S110にて、ECU900は、車両の減速度がしきい値DV(0)以下であるか否かを判断する。車両の減速度がしきい値DV(0)以下であると(S110にてYES)、処理はS112に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS108に移される。
【0085】
S112にて、ECU900は、ブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)以上であるか否かを判断する。ブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)以上であると(S112にてYES)、処理はS114に移される。もしそうでないと(S112にてNO)、処理はS108に移される。
【0086】
S114にて、ECU900は、ベルト挟圧力の増大を禁止する。S116にて、ECU900は、ベルト挟圧力を、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)にする。
【0087】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の動作について説明する。
【0088】
車両の走行中、フットブレーキスイッチ916から送信された信号に基づいて、フットブレーキスイッチ916がオンであるか否かが判定される(S100)。フットブレーキスイッチ916がオフであると(S100にてNO)、すなわち、運転者に制動する意思がなく、ブレーキ操作(フットブレーキの操作)がなされていないと、ベルト挟圧力が、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)にされる(S116)。
【0089】
フットブレーキスイッチ916がオンであると(S100にてYES)、車速センサ906から送信された信号に基づいて車速が検出される(S102)。車速がしきい値V(0)より高いと(S104にてNO)、制動時であっても、伝動ベルト510に入力されるトルクが過大になり難い。そのため、この場合、ベルト挟圧力が、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)にされる(S116)。
【0090】
車速がしきい値V(0)以下であると(S104にてYES)、急制動時には、伝動ベルト510に入力されるトルクが過大になり得る。伝動ベルト510に入力されるトルクが過大になると、伝動ベルト510が滑り得る。
【0091】
そこで、フットブレーキスイッチ916がオンであると判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態からしきい値V(0)以下の状態に変化していないと(S106にてNO)、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力が増大される(S108)。すなわち、車速がしきい値V(0)以下である状態で、フットブレーキスイッチ916がオフからオンになるようにブレーキ操作がなされると、ベルト挟圧力が増大される。これにより、伝動ベルト510の滑りを小さくすることができる。
【0092】
ところで、フットブレーキスイッチ916がオンであると判断された状態、すなわちブレーキ操作がなされたと判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態からしきい値V(0)以下の状態に変化した場合に(S106にてYES)、ベルト挟圧力を増大すると、ブレーキ操作がなされたタイミングにずれて、ショックが発生し得る。このようなショックは、運転者に違和感を与え得る。
【0093】
この場合、車両の減速度がしきい値DV(0)以下であり(S110にてYES)、ブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)以上であると(S112にてYES)、ベルト挟圧力の増大が禁止される(S114)。すなわち、減速度が低く、かつブレーキ操作が長時間なされていることから、緩制動中であるといえる場合、ベルト挟圧力の増大が禁止される。これにより、ショックを小さくすることができる。
【0094】
一方、車両の減速度がしきい値DV(0)より高いと(S110にてNO)、車両が急制動中であるといえる。また、ブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)より短いと(S112にてNO)、緩制動ではない状態、すなわち急制動中である可能性がある。いずれの場合においても、伝動ベルト510に入力されるトルクが過大になる可能性がある。
【0095】
したがって、車両の減速度がしきい値DV(0)より高い場合(S110にてNO)もしくはブレーキ操作がなされてからの経過時間がしきい値T(0)より短い場合(S112にてNO)は、通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力が増大される(S108)。これにより、伝動ベルト510の滑りを小さくすることができる。
【0096】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、ブレーキ操作がなされたと判断され、かつ車速がしきい値V(0)以下であると判断されると、伝動ベルトに付与されるベルト挟圧力が増大される。ブレーキ操作がなされたと判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態から、しきい値V(0)以下である状態に変化した場合、ベルト挟圧力の増大が禁止される。これにより、制動時に発生し得るショックを小さくすることができる。
【0097】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、ベルト挟圧力の増大を禁止する代わりに、ベルト挟圧力の増大速度を低くする点で、前述の第1の実施の形態と相違する。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。それらについての機能も同じである。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0098】
図9を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアにより実現してもよい。また、前述の第1の実施の形態と同じ構成については同じ符号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0099】
ECU900は、ブレーキ判断部940と、車速判断部942とに加えて、増大部954と、漸増部956とをさらに含む。
【0100】
本実施の形態における増大部954は、ブレーキ判断部940によりブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速判断部942は、車速がしきい値V(0)以下であると判断された状態において、ブレーキ操作がなされない場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力がステップ的に増大するようにSLSリニアソレノイドバルブ2210を制御する。
【0101】
漸増部956は、ブレーキ判断部940によりブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速がしきい値V(0)より高い状態からしきい値V(0)以下である状態に変化した場合、通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力が予め定められた勾配で漸増するようにSLSリニアソレノイドバルブ2210を制御する。すなわち、漸増部956は、増大部954に比べて、ベルト挟圧力の増大速度を低くする。
【0102】
図10を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは、予め定められた周期で繰返し実行される。また、前述の第1の実施の形態におけるプログラムと同じ処理については、同じステップ番号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0103】
S200にて、ECU900は、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力をステップ的に増大する。
【0104】
S202にて、ECU900は、フットブレーキスイッチ916がオフである場合のベルト挟圧力として定められる通常値P(OFF)よりも大きい値P(ON)まで、ベルト挟圧力を予め定められた勾配で漸増する。
【0105】
このようにすれば、前述の第1の実施の形態と同様の効果に加えて、急制動時における伝動ベルト510の滑りを抑制することができる。
【0106】
<第3の実施の形態>
以下、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、ベルト挟圧力の増大を禁止する代わりに、車速に応じた増大量でベルト挟圧力の増大する点で、前述の第1の実施の形態と相違する。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。それらについての機能も同じである。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0107】
図11を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアにより実現してもよい。また、前述の第1の実施の形態と同じ構成については同じ符号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0108】
ECU900は、ブレーキ判断部940と、車速判断部942とに加えて、設定部958と、増大部960とをさらに含む。
【0109】
本実施の形態における設定部958は、増大部960によるベルト挟圧力の増大量を、車速に応じて設定する。車速がしきい値V(0)より高い場合、増大量が零に設定される。車速がしきい値V(0)以下である場合、増大量には、車速が低いほどより大きな値が設定される。
【0110】
本実施の形態における増大部960は、ブレーキ判断部940によりブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速判断部942により車速がしきい値V(0)以下であると判断された場合に、設定部958により設定された増大量だけベルト挟圧力を増大するようにSLSリニアソレノイドバルブ2210を制御する。
【0111】
図12を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは、予め定められた周期で繰返し実行される。また、前述の第1の実施の形態におけるプログラムと同じ処理については、同じステップ番号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0112】
S300にて、ECU900は、車速センサ906から送信された信号に基づいて車速を検出する。S301にて、ECU900は、車速に応じて増大量を設定する。S302にて、ECU900は、設定された増大量だけベルト挟圧力を増大する。
【0113】
このようにすれば、挟圧力を増大する際、車速が高いほど、ベルト挟圧力の増大量を小さくすることができる。そのため、前述の第1の実施の形態と同様に、伝動ベルトに付与される挟圧力がステップ的に増大することを抑制することができる。また、ベルト挟圧力は増大されるため、急制動時における伝動ベルト510の滑りを抑制することができる。
【0114】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUを搭載した車両のスケルトン図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUを示す制御ブロック図である。
【図3】油圧制御回路を示す図(その1)である。
【図4】油圧制御回路を示す図(その2)である。
【図5】油圧制御回路を示す図(その3)である。
【図6】ブレーキシステムを示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0116】
100 駆動装置、200 エンジン、300 トルクコンバータ、500 ベルト式無段変速機、504 プライマリプーリ、508 セカンダリプーリ、510 伝動ベルト、900 ECU、906 車速センサ、916 フットブレーキスイッチ、926 油圧センサ、940 ブレーキ判断部、942 車速判断部、944 減速度判断部、946 計測部、948 経過時間判断部、950,954,960 増大部、952 禁止部、956 漸増部、958 設定部、1300 ブレーキシステム、1302 ブレーキペダル、1304 マスターシリンダ、1311,1312,1313,1314 キャリパ、2000 油圧制御回路、2210 SLSリニアソレノイドバルブ、2310 モジュレータバルブ(1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御装置であって、
車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するための手段と、
車速が予め定められた車速以下か否かを判断するための手段と、
ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が前記予め定められた車速以下であると判断された場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するための手段と、
ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が前記予め定められた車速より高い状態から前記予め定められた車速以下の状態に変化したことを条件として、前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するための禁止手段とを含む、無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記車両の減速度が予め定められた減速度以下であるか否かを判断するための手段をさらに含み、
前記禁止手段は、前記車両の減速度が予め定められた減速度以下であると判断されたことをさらに条件として、前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するための手段を含む、請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であるか否かを判断するための手段をさらに含み、
前記禁止手段は、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が前記予め定められた時間以上であると判断されたことをさらに条件として、前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するための手段を含む、請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御装置であって、
車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するための手段と、
車速が予め定められた車速以下か否かを判断するための手段と、
ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が前記予め定められた車速以下であると判断された場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するための手段と、
ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が前記予め定められた車速より高い状態から前記予め定められた車速以下の状態に変化した場合、そうでない場合に比べて前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大速度を低くするための手段とを含む、無段変速機の制御装置。
【請求項5】
溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御装置であって、
車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するための手段と、
車速が予め定められた車速以下か否かを判断するための手段と、
ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が前記予め定められた車速以下であると判断された場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するための手段と、
車速が前記予め定められた車速より高い場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量を零に設定し、車速が前記予め定められた車速以下である場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量を車速が低いほどより大きい値に設定するための手段とを含む、無段変速機の制御装置。
【請求項6】
溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御方法であって、
車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するステップと、
車速が予め定められた車速以下か否かを判断するステップと、
ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が前記予め定められた車速以下であると判断された場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するステップと、
ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が前記予め定められた車速より高い状態から前記予め定められた車速以下の状態に変化したことを条件として、前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するステップとを含む、無段変速機の制御方法。
【請求項7】
前記制御方法は、前記車両の減速度が予め定められた減速度以下であるか否かを判断するステップをさらに含み、
前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するステップは、前記車両の減速度が予め定められた減速度以下であると判断されたことをさらに条件として、前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するステップを含む、請求項6に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項8】
前記制御方法は、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が予め定められた時間以上であるか否かを判断するステップをさらに含み、
前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するステップは、ブレーキ操作がなされてからの経過時間が前記予め定められた時間以上であると判断されたことをさらに条件として、前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大を禁止するステップを含む、請求項6または7に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項9】
溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御方法であって、
車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するステップと、
車速が予め定められた車速以下か否かを判断するステップと、
ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が前記予め定められた車速以下であると判断された場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するステップと、
ブレーキ操作がなされていると判断された状態で、車速が前記予め定められた車速より高い状態から前記予め定められた車速以下の状態に変化した場合、そうでない場合に比べて前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大速度を低くするステップとを含む、無段変速機の制御方法。
【請求項10】
溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機の制御方法であって、
車両のブレーキ操作がなされているか否かを判断するステップと、
車速が予め定められた車速以下か否かを判断するステップと、
ブレーキ操作がなされていると判断され、かつ車速が前記予め定められた車速以下であると判断された場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力が増大するように制御するステップと、
車速が前記予め定められた車速より高い場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量を零に設定し、車速が前記予め定められた車速以下である場合に前記伝動ベルトに付与する挟圧力の増大量を車速が低いほどより大きい値に設定するステップとを含む、無段変速機の制御方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラム。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−95901(P2008−95901A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280462(P2006−280462)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】