説明

無段変速機

【課題】簡易な構成で複数の油路が形成される無段変速機、を提供する。
【解決手段】無段変速機は、油圧により駆動する可動シーブ270を備え、潤滑油および可動シーブ270の作動油が供給される無段変速機である。無段変速機10は、中心軸201の軸線方向に貫通する孔22が形成され、可動シーブ270が設けられるシーブシャフト21と、孔22の一方端22pに接続され、作動油を供給するための油圧供給孔52が形成されるスリーブ51とを備える。スリーブ51は、孔22内で油圧供給孔52の端部を閉塞する底部58を含む。孔22の他方端22qからシーブシャフト21に潤滑油が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、無段変速機に関し、より特定的には、油圧によって駆動されるベルト式の無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の無段変速機に関して、たとえば、特開2000−27959号公報には、単純な構造において、ディスク対の迅速な調節を可能とすることを目的とした円錐形ディスク式巻き掛け伝動装置が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された伝動装置は、入力軸が一体に形成された一方の円錐形ディスクと、入力軸に対してその軸方向に相対的に運動可能に結合された他方の円錐形ディスクとを含む。入力軸の一方端および他方端には、それぞれ軸方向孔が形成されている。軸方向孔には、円錐形ディスクを作動させるためのハイドロリック液が供給される。
【0003】
また、特開平9−329208号公報には、プーリの製造時にベルト接触面に発生する湾曲を、特別な機械加工を施すことなく解消することを目的とした無段変速機用の可動側プーリの製造方法が開示されている(特許文献2)。特許文献2では、回転軸に固定側プーリが一体に形成されている。回転軸はスリーブ形状を有し、その内側にインプットシャフトが嵌合されている。インプットシャフトの内部には、油路が形成されている。
【0004】
また、特開2006−170404号公報には、軸方向に延びる複数の中空管の組み付け性を向上させ、中空管における油路を確保することを目的とした回転軸の油供給構造が開示されている(特許文献3)。特許文献3では、変速機カウンタシャフトに軸端部から軸方向に延びる軸方向孔が形成されている。軸方向孔には、外側管と、外側管よりも径の小さい内側管とが挿入されている。内側管の外周と外側管の内周とに囲まれた位置には、可動プーリを作動させるための作動油が供給される。内側管内には、ギヤ等への潤滑油が供給される。
【0005】
また、特開2002−106659号公報には、十分な剛性を確保しつつ、プーリを有するシャフトの重量を低減することを目的としたベルト式無段変速機が開示されている(特許文献4)。特許文献4では、固定プーリと一体となった回転シャフトに、潤滑油を案内するための中空孔が形成されている。
【特許文献1】特開2000−27959号公報
【特許文献2】特開平9−329208号公報
【特許文献3】特開2006−170404号公報
【特許文献4】特開2002−106659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油圧によって駆動されるベルト式の無段変速機では、軸部材に、可動プーリに作動油を供給するための油路と、ベルトやベアリングに潤滑油を供給するための油路とが設けられる場合がある。たとえば、上記の特許文献3では、変速機カウンタシャフトに挿入された外側管および内側管によって、2つの油路が形成されている。しかしながら、この場合、径の異なる2つの中空管が必要となる。また、変速機カウンタシャフトに外側管および内側管をそれぞれ嵌合させるため、シャフトの内径に段差を設ける必要がある。このため、油の供給構造が複雑になるおそれがある。
【0007】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、簡易な構成で複数の油路が形成される無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に従った無段変速機は、油圧により駆動するシーブを備え、潤滑油およびシーブの作動油が供給される無段変速機である。無段変速機は、軸方向に貫通する孔が形成され、シーブが設けられる中空シャフトと、孔の一方端に接続され、潤滑油および作動油のいずれか一方を供給するための油供給孔が形成されるスリーブとを備える。スリーブは、孔内で油供給孔の端部を閉塞する底部を含む。孔の他方端から中空シャフトに、潤滑油および作動油のいずれか他方が供給される。
【0009】
このように構成された無段変速機によれば、油供給孔への潤滑油および作動油のいずれか一方の供給により、孔の一方端から他方端に向かう方向の荷重がスリーブに作用し、孔の他方端への潤滑油および作動油のいずれか他方の供給により、孔の他方端から一方端に向かう方向の荷重がスリーブに作用する。すなわち、作動油および潤滑油の供給によって、スリーブに互いに打ち消しあう方向の荷重が作用する。このため、この荷重の相殺を利用して、スリーブを孔内の所定の位置に保持することができる。結果、作動油および潤滑油を供給するための複数の油路を、簡易に構成することができる。
【0010】
また好ましくは、無段変速機は、中空シャフトを回転自在に支持するベアリングと、シーブによって形成されるプーリに掛け渡されるベルトとをさらに備える。潤滑油は、ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方に供給される。このように構成された無段変速機によれば、ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方に潤滑油を供給するための油路を、簡易に構成することができる。
【0011】
また好ましくは、無段変速機は、第1スプールバルブおよび第2スプールバルブをさらに備える。第1スプールバルブおよび第2スプールバルブは、制御圧の供給により作動するスプールを含む。第1スプールバルブおよび第2スプールバルブは、スプールの作動に基づき、シーブに供給する作動油の圧力と、ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方に供給する潤滑油の圧力とをそれぞれ制御する。作動油の圧力の上昇に伴って、ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方の発熱が増大する。第1スプールバルブに制御圧を供給するソレノイドバルブと、第2スプールバルブに制御圧を供給するソレノイドバルブとが共用されている。
【0012】
このように構成された無段変速機によれば、ソレノイドバルブの共用により、シーブに供給する作動油の圧力と、ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方に供給する潤滑油の圧力とを比例させる。これにより、作動油の圧力上昇に伴い発熱が大きくなるベアリングまたはベルトを、効果的に冷却することができる。
【0013】
また好ましくは、無段変速機は、スリーブが嵌合された孔の一方端に設けられ、孔の他方端から一方端に向かう方向のスリーブの移動を規制する蓋体をさらに備える。潤滑油および作動油のいずれか他方の供給によってスリーブに作用する、孔の他方端から一方端に向かう方向の荷重が、潤滑油および作動油のいずれか一方の供給によってスリーブに作用する、孔の一方端から他方端に向かう方向の荷重よりも大きく設定される。このように構成された無段変速機によれば、孔の一方端から他方端に向かう方向および他方端から一方端に向かう方向のスリーブの移動を、確実に防ぐことができる。
【0014】
また好ましくは、中空シャフトは、孔を規定する内周面を含む。内周面の少なくとも一部が、非切削面である。このように構成された無段変速機によれば、鍛造成形された中空材を中空シャフトの素材として用いることにより、製造コストの削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、この発明に従えば、簡易な構成で複数の油路が形成される無段変速機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1における無段変速機を模式的に表わす図である。図1を参照して、無段変速機10は、車両に搭載される。無段変速機10は、回転力が入力される駆動側のプライマリシャフト200と、回転力を出力する従動側のセカンダリシャフト300とを含む。プライマリシャフト200とセカンダリシャフト300とは、互いに間隔を隔てて平行に配置されている。無段変速機10は、プライマリシャフト200の回転数とセカンダリシャフト300の回転数との比率、すなわち変速比を無段階に(連続的に)変化させる。
【0018】
無段変速機10は、プライマリプーリ250と、セカンダリプーリ350と、ベルト400とを含む。プライマリプーリ250は、プライマリシャフト200に連結されている。セカンダリプーリ350は、セカンダリシャフト300に連結されている。ベルト400は、プライマリプーリ250およびセカンダリプーリ350間に掛け渡されている。
【0019】
プライマリプーリ250は、仮想軸である中心軸201を中心に回転する。プライマリプーリ250は、固定シーブ260と可動シーブ270とを含む。固定シーブ260および可動シーブ270により、ベルト400が巻き掛けられるプーリ溝280が形成されている。プーリ溝280は、V溝形状を有する。プライマリプーリ250には、可動シーブ270を中心軸201の軸方向に移動させ、固定シーブ260および可動シーブ270間を近接または離間させる油圧アクチュエータ290が設けられている。
【0020】
セカンダリプーリ350は、仮想軸である中心軸301を中心に回転する。同様に、セカンダリプーリ350は、固定シーブ360と可動シーブ370とを含む。固定シーブ360および可動シーブ370により、プーリ溝380が形成されている。セカンダリプーリ350には、可動シーブ370を中心軸301の軸方向に移動させ、固定シーブ360および可動シーブ370間を近接または離間させる油圧アクチュエータ390が設けられている。
【0021】
図2は、図1中の無段変速機の最増速比時の状態を示す図である。図1中には、無段変速機10の最減速比時の状態が示されている。
【0022】
図1および図2を参照して、油圧アクチュエータ290および390の作動により、プーリ溝280および380の溝幅が制御される。これに伴い、プライマリプーリ250およびセカンダリプーリ350に対するベルト400の巻き掛け半径(有効係り径)が大小に変化し、変速が実行される。
【0023】
図3は、図1中のプライマリプーリを示す断面図である。なお、以下では代表的にプライマリプーリ250について説明するが、セカンダリプーリ350についても同様に本発明を適用することができる。
【0024】
図3を参照して、図中の上側に示すプライマリプーリ250は、図1中の最増速時の状態に対応し、図中の下側に示すプライマリプーリ250は、図2中の最減速時の状態に対応する。
【0025】
ベルト400は、スチールリング420およびエレメント410を含む。スチールリング420は、金属から形成され、可撓性を有する。スチールリング420は、環状の帯体である。エレメント410は、金属から形成されている。複数のエレメント410が、スチールリング420の長手方向に配列されている。各エレメント410は、スチールリング420に嵌め合わされている。エレメント410は、プーリ溝280の壁面と接触して設けられている。
【0026】
無段変速機10は、シーブシャフト21を含む。シーブシャフト21は、中心軸201の軸線方向に延びる。シーブシャフト21には、固定シーブ260が一体に形成されている。固定シーブ260は、シーブシャフト21の外周面から鍔状に広がって形成されている。
【0027】
可動シーブ270は、シーブシャフト21の外周面に嵌め合わされている。可動シーブ270およびシーブシャフト21には、それぞれ溝44および溝26が形成されている。溝44および溝26は、互いに対向し、中心軸201の軸線方向に延びる。溝44と溝26との間には、複数のボール28が配置されている。このような構成により、可動シーブ270は、シーブシャフト21に対して中心軸201の軸線方向に移動可能に設けられている。
【0028】
無段変速機10は、ベアリング41および42を含む。シーブシャフト21は、ベアリング41および42によって、中心軸201を中心に回転自在に支持されている。ベアリング41およびベアリング42は、中心軸201の軸方向において、固定シーブ260および可動シーブ270の両側に配置されている。ベアリング41は固定シーブ260と隣り合って配置され、ベアリング42は可動シーブ270と隣り合って配置されている。
【0029】
シーブシャフト21には、孔22が形成されている。孔22は、中心軸201の軸線方向に延び、貫通する。シーブシャフト21は、筒形状を有する。中心軸201の軸線方向に貫通する孔22の両端には、一方端22pおよび他方端22qが規定されている。一方端22p側に可動シーブ270が配置され、他方端22q側に固定シーブ260が配置されている。孔22の他方端22qには、ベルト400およびベアリング41を潤滑するための潤滑油が供給される。
【0030】
シーブシャフト21には、潤滑油供給孔24が形成されている。潤滑油供給孔24は、ベルト400に対向するシーブシャフト21の外周面から孔22の内壁まで達するように形成されている。シーブシャフト21には、作動油供給孔23が形成されている。作動油供給孔23は、可動シーブ270に対向するシーブシャフト21の外周面から孔22の内壁まで達するように形成されている。潤滑油供給孔24と作動油供給孔23とは、中心軸201の軸線方向においてずれた位置に形成されている。
【0031】
シーブシャフト21は、中空材から形成されている。シーブシャフト21の製造時、金型を用いた鍛造工程により、中空材の外周面に固定シーブ260を成形する。さらに、中空材の内周面に適当な切削加工を施すことによって、孔22を形成する。
【0032】
中実材を用いてシーブシャフト21を製造する場合、鍛造によって中空形状を成形するには非常に大きい荷重が必要であり、困難である。また、切削加工によって中空形状を形成しても、加工時間の長期化や切りくずの発生等の問題がある。これに対して、本実施の形態では、シーブシャフト21の素材として中空材を用いることにより、製造コストの削減を図ることができる。
【0033】
孔22を規定するシーブシャフト21の内周面の少なくとも一部は、非切削面を含む。本実施の形態では、中空材の内周面に最低限必要となる切削加工のみを施すため、シーブシャフト21の内周面に、非切削面すなわち中空材の素材面が残る。孔22を規定するシーブシャフト21の内周面の全体が、非切削面であってもよい。また、このような構成に限られず、中空材の内周面の全体が加工されてもよい。
【0034】
図4は、図3中の2点鎖線IVで囲まれた範囲を拡大して示す断面図である。図3および図4を参照して、油圧アクチュエータ290は、インナシリンダ31、ピストン部材32およびアウタシリンダ33を含む。インナシリンダ31、ピストン部材32およびアウタシリンダ33は、シーブシャフト21の外周上に配置されている。インナシリンダ31、ピストン部材32およびアウタシリンダ33は、中心軸201の軸線方向において、可動シーブ270に対して固定シーブ260の反対側に配置されている。
【0035】
可動シーブ270とインナシリンダ31との間には、油圧室34が形成されている。インナシリンダ31とピストン部材32との間には、空気室36が形成されている。空気室36は、可動シーブ270に形成された通気路37によって、大気開放されている。ピストン部材32とアウタシリンダ33との間には、油圧室35が形成されている。油圧室34、空気室36および油圧室35は、中心軸201を中心にリング状に延びて形成されている。
【0036】
可動シーブ270には、油圧室34と作動油供給孔23とを連通させる作動油供給溝39が形成されている。インナシリンダ31には、油圧室34と油圧室35との間を連通させる作動油供給孔38が形成されている。
【0037】
図5は、図4中のV−V線上に沿ったスリーブの断面図である。図3から図5を参照して、無段変速機10は、スリーブ51を含む。スリーブ51は、孔22の一方端22pに接続されている。スリーブ51は、孔22の一方端22pにシール部材としてのシールリング47および48を介在させて接続されている。スリーブ51は、有底の筒形状を有する。
【0038】
スリーブ51には、油供給孔としての油圧供給孔52が形成されている。油圧供給孔52には、可動シーブ270を駆動させるための作動油が供給される。スリーブ51は、底部58を含む。底部58は、油圧供給孔52の端部を閉塞する。中心軸201の軸線方向において、油圧供給孔52は、一方端22p側で開口し、他方端22q側で底部58によって閉塞されている。底部58は、孔22の内部に配置されている。孔22は、他方端22q側で開口し、一方端22p側でスリーブ51によって閉塞されている。
【0039】
スリーブ51には、孔52gおよび溝52hが形成されている。溝52hは、作動油供給孔23に対向する位置でスリーブ51の外周面から凹み、周方向に延びる。孔52gは、中心軸201を中心とする半径方向に延び、溝52hと油圧供給孔52との間を連通させる。スリーブ51の外周面には、シールリング47および48が設けられている。シールリング47およびシールリング48は、中心軸201の軸線方向において、溝52hの両側に配置されている。シールリング47および48によって、溝52hと作動油供給孔23との間のシールが確保されている。シールリング47および48によって、孔22の一方端22pと他方端22qとの間がシールされている。
【0040】
無段変速機10は、蓋体としてのケース61を含む。ケース61は、孔22の一方端22pに設けられている。ケース61には、油路62が形成されている。油路62は、油圧供給孔52と連通する。
【0041】
スリーブ51は、中心軸201の軸線方向に移動可能な状態で、一方端22pに嵌合されている。スリーブ51は、一方端22pから他方端22qに向かう方向の移動が許容された状態で、一方端22pに嵌合されている。ケース61によって、他方端22qから一方端22pに向かう方向のスリーブ51の移動が規制されている。スリーブ51は、ケース61に圧入されてもよい。
【0042】
図3および図4を参照して、油路62から油圧供給孔52に供給された作動油は、作動油供給孔23および作動油供給溝39を順に通って、油圧室34に導入される。作動油は、さらに作動油供給孔38を通って油圧室35に供給される。このとき、油圧室34および35が中心軸201の軸線方向に膨張し、空気室36が中心軸201の軸線方向に縮小する。これに伴って、可動シーブ270が固定シーブ260に近接する方向に移動し、プーリ溝280の溝幅が狭く調整される。
【0043】
一方、孔22の他方端22qに供給された潤滑油は、孔22を通ってプーリ溝280に導入される。プーリ溝280に導入された潤滑油は、エレメント410とプーリ溝280との摺動面や、エレメント410とスチールリング420との接触面を潤滑する。また、孔22の他方端22qに供給された潤滑油は、図3中の矢印99に示す経路を通って、ベアリング41に導入される。
【0044】
中心軸201の軸線方向に沿ったスリーブ51の両端から、それぞれ、互いに異なる目的で供給される油、本実施の形態では作動油および潤滑油が供給される。作動油および潤滑油がそれぞれ供給される油路は、スリーブ51に形成された孔22内で、スリーブ51の底部58によって区画されている。すなわち、作動油が供給される油路および潤滑油が供給される油路は、底部58を隔てた両側にそれぞれ形成される。
【0045】
油圧供給孔52に作動油が供給されると、スリーブ51を一方端22pから他方端22qに向けて移動させる方向の荷重が発生する。本実施の形態では、孔22の他方端22qに潤滑油を供給することによって、作動油の供給により発生した荷重を打ち消す方向の、他方端22qから一方端22pに向かう方向の荷重をスリーブ51に作用させる。
【0046】
油圧供給孔52に供給される作動油の供給圧をPmとし、他方端22qに供給される潤滑油の供給圧をPnとする。中心軸201の軸線方向において、一方端22p側から見たスリーブ51の投影面積をS(d1)とし、他方端22q側から見たスリーブ51の投影面積をS(d2)とする。この場合、油圧供給孔52への作動油の供給によって、スリーブ51には、Pm・S(d1)の荷重が、一方端22pから他方端22qに向かう方向に作用する。また、他方端22qへの潤滑油の供給によって、スリーブ51には、Pn・S(d2)の荷重が、他方端22qから一方端22pに向かう方向に作用する。
【0047】
本実施の形態では、ケース61によって他方端22qから一方端22pに向かう方向のスリーブ51の移動が規制されている。このため、Pm・S(d1)<Pn・S(d2)の関係を満たせば、スリーブ51を孔22内の所定の位置に保持することができる。この場合、潤滑油の供給圧Pnが下記の(1)式および(2)式が成り立つように決定される。
【0048】
Pn>Pm・(S(d1)/S(d2))…(1)式
Pn>Pm・K(定数)…(2)式
この発明の実施の形態1における無段変速機10は、油圧により駆動するシーブとしての可動シーブ270を備え、潤滑油および可動シーブ270の作動油が供給される無段変速機である。無段変速機10は、軸方向としての中心軸201の軸線方向に貫通する孔22が形成され、可動シーブ270が設けられる中空シャフトとしてのシーブシャフト21と、孔22の一方端22pに接続され、潤滑油および作動油のいずれか一方としての作動油を供給するための油供給孔としての油圧供給孔52が形成されるスリーブ51とを備える。スリーブ51は、孔22内で油圧供給孔52の端部を閉塞する底部58を含む。孔22の他方端22qからシーブシャフト21に、潤滑油および作動油のいずれか他方としての潤滑油が供給される。
【0049】
このように構成された、この発明の実施の形態1における無段変速機10によれば、作動油および潤滑油を供給する油路を簡易な構成とできる。
【0050】
スリーブ51の移動を防ぐ手段として、スナップリング等の固定手段をスリーブ51に設ける方法や、ケース61に対するスリーブ51の圧入代を大きく設定する方法などが考えられる。しかしながら、固定手段を設けた場合、部品点数が増大したり組み付け時の作業性が低下するといった問題が生じる。また、圧入代を大きく設定した場合、スリーブ51の圧入が困難になったり、スリーブ51およびケース61の塑性変形を防ぐため、これらの部品の直径が大きくなるといった問題が生じる。
【0051】
これに対して、本実施の形態では、孔22の他方端22qに潤滑油を供給することによって、潤滑油の供給による荷重とは反対方向の荷重をスリーブ51に作用させ、スリーブ51を孔22内の所定の位置に保持することができる。このため、上記の問題を解消しつつ、作動油および潤滑油の確実な供給を実現することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、スリーブ51に作動油が供給され、孔22の他方端22qに潤滑油が供給される構成としたが、これに限らず、スリーブ51に潤滑油が供給され、孔22の他方端22qに作動油が供給される構成であってもよい。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1における無段変速機10に油を供給する油圧回路について説明を行なう。図6は、図1中の無段変速機の油圧回路を示す図である。
【0054】
図6を参照して、無段変速機10は、オイルポンプ71、プライマリレギュレータバルブ72、セカンダリレギュレータバルブ73、シーブ圧コントロールソレノイドバルブ74、ソレノイド減圧バルブ75およびシーブ圧コントロールバルブ76を含む。
【0055】
プライマリレギュレータバルブ72は、オイルポンプ71によって油圧回路内に供給された油の圧力を、ライン圧Ppに調圧する。ソレノイド減圧バルブ75は、ライン圧Ppを元圧として、シーブ圧コントロールソレノイドバルブ74に供給するためのソレノイドモジュレータ圧を生成する。
【0056】
セカンダリレギュレータバルブ73およびシーブ圧コントロールバルブ76は、図示しないスプールを含み、そのスプールの作動に基づいて、図3中のベルト400およびベアリング41に供給する潤滑油の供給圧Pnおよび図3中の油圧供給孔52に供給する作動油の供給圧Pmをそれぞれ制御する。
【0057】
セカンダリレギュレータバルブ73およびシーブ圧コントロールバルブ76のスプールは、シーブ圧コントロールソレノイドバルブ74から供給される油圧を制御圧として作動する。すなわち、本実施の形態では、セカンダリレギュレータバルブ73に制御圧を供給するソレノイドバルブと、シーブ圧コントロールバルブ76に制御圧を供給するソレノイドバルブとが共用されている。
【0058】
図7は、図6中のシーブ圧コントロールソレノイドバルブから供給される制御圧Psと、作動油の供給圧Pmおよび潤滑油の供給圧Pnとの関係を示すグラフである。図6および図7を参照して、シーブ圧コントロールバルブ76に供給される制御圧と、シーブ圧コントロールバルブ76から出力される作動油の供給圧Pmとは、比例関係を示す。同様に、セカンダリレギュレータバルブ73に供給される制御圧と、セカンダリレギュレータバルブ73から出力される潤滑油の供給圧Pnとは、比例関係を示す。本実施の形態では、制御圧を供給するシーブ圧コントロールソレノイドバルブ74が共用されているため、作動油の供給圧Pmと潤滑油の供給圧Pnとの間にも、比例関係が成立する。なお、図7中では、供給圧Pmと供給圧Pnとは傾きが同じであるが、上述の(2)式が成立する範囲内であれば、この限りではない。
【0059】
一方、作動油の供給圧Pmが増大すると、ベルト400に負荷する張力が大きくなり、ベルト400とプーリ溝280との間の摩擦による発熱が増大する。また、ベアリング41に負荷する荷重が大きくなるため、ベアリング41で発生する熱量も増大する。この場合に、本実施の形態では、潤滑油の供給圧Pnが作動油の供給圧Pmと同期して増減するため、発熱に応じた供給圧の潤滑油をベルト400およびベアリング41に随時、供給することができる。
【0060】
このように構成された、この発明の実施の形態2における無段変速機10によれば、実施の形態1に記載の効果を同様に得ることができる。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の実施の形態1における無段変速機を模式的に表わす図である。
【図2】図1中の無段変速機の最増速比時の状態を示す図である。
【図3】図1中のプライマリプーリを示す断面図である。
【図4】図3中の2点鎖線IVで囲まれた範囲を拡大して示す断面図である。
【図5】図4中のV−V線上に沿ったスリーブの断面図である。
【図6】図1中の無段変速機の油圧回路を示す図である。
【図7】図6中のシーブ圧コントロールソレノイドバルブから供給される制御圧Psと、作動油の供給圧Pmおよび潤滑油の供給圧Pnとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
10 無段変速機、21 シーブシャフト、22 孔、22p 一方端、22q 他方端、41 ベアリング、51 スリーブ、52 油圧供給孔、58 底部、61 ケース、73 セカンダリレギュレータバルブ、74 シーブ圧コントロールソレノイドバルブ、76 シーブ圧コントロールバルブ、201 中心軸、270 可動シーブ、400 ベルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧により駆動するシーブを備え、潤滑油および前記シーブの作動油が供給される無段変速機であって、
軸方向に貫通する孔が形成され、前記シーブが設けられる中空シャフトと、
前記孔の一方端に接続され、前記潤滑油および前記作動油のいずれか一方を供給するための油供給孔が形成されるスリーブとを備え、
前記スリーブは、前記孔内で前記油供給孔の端部を閉塞する底部を含み、
前記孔の他方端から前記中空シャフトに、前記潤滑油および前記作動油のいずれか他方が供給される、無段変速機。
【請求項2】
前記中空シャフトを回転自在に支持するベアリングと、
前記シーブによって形成されるプーリに掛け渡されるベルトとをさらに備え、
前記潤滑油は、前記ベアリングおよび前記ベルトの少なくともいずれか一方に供給される、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
制御圧の供給により作動するスプールを含み、前記スプールの作動に基づき、前記シーブに供給する前記作動油の圧力と、前記ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方に供給する前記潤滑油の圧力とをそれぞれ制御する第1スプールバルブおよび第2スプールバルブをさらに備え、
前記作動油の圧力の上昇に伴って、前記ベアリングおよびベルトの少なくともいずれか一方の発熱が増大し、
前記第1スプールバルブに制御圧を供給するソレノイドバルブと、前記第2スプールバルブに制御圧を供給するソレノイドバルブとが共用される、請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記スリーブが嵌合された前記孔の一方端に設けられ、前記孔の他方端から一方端に向かう方向の前記スリーブの移動を規制する蓋体をさらに備え、
前記潤滑油および作動油のいずれか他方の供給によって前記スリーブに作用する、前記孔の他方端から一方端に向かう方向の荷重が、前記潤滑油および作動油のいずれか一方の供給によって前記スリーブに作用する、前記孔の一方端から他方端に向かう方向の荷重よりも大きく設定される、請求項1から3のいずれか1項に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記中空シャフトは、前記孔を規定する内周面を含み、
前記内周面の少なくとも一部が、非切削面である、請求項1から4のいずれか1項に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−223903(P2008−223903A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63657(P2007−63657)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】