説明

無段階に可変の変速比を有する車両変速機

本発明は、無段階に可変の変速比を有する車両変速機(18)であって、第1の軸(15)に配置された第1の円錐形ディスク対(9)と、第2の軸(16)に配置された第2の円錐形ディスク対(8)と、両円錐形ディスク対(8,9)の間に配置された巻掛け手段(17)と、相対回動可能に支承された出力歯車(7)を備えた入力軸(11)とが設けられており、該入力軸(11)が、第1の軸(15)または第2の軸(16)に選択的に回転係合可能であり、出力歯車(7)が、それぞれ他方の軸(15,16)に回転係合可能であり、入力軸(11)と第1の軸(15)および第2の軸(16)との間に、回転力伝達のためのそれぞれ1つの多板クラッチ(K1,K4)が設けられており、出力歯車(7)が、他方の軸(15,16)にそれぞれ噛合いクラッチ(K2,K3)によって回転係合可能である形式のものに関する。本発明によれば、第1の多板クラッチ(K1)と第1の噛合いクラッチ(K2)とが、ハイドロリック操作式の第1の装置によって操作可能であり、第2の多板クラッチ(K4)と第2の噛合いクラッチ(K3)とが、ハイドロリック操作式の第2の装置によって操作可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段階に可変の変速比を有する車両変速機であって、第1の軸に配置された第1の円錐形ディスク対と、第2の軸に配置された第2の円錐形ディスク対と、両円錐形ディスク対の間に配置された巻掛け手段と、相対回動可能に支承された出力歯車を備えた入力軸とが設けられており、該入力軸が、第1の軸または第2の軸に選択的に回転係合可能であり、出力歯車が、それぞれ他方の軸に回転係合可能であり、入力軸と第1の軸および第2の軸との間に、回転力伝達のためのそれぞれ1つの多板クラッチが設けられており、出力歯車が、他方の軸にそれぞれ噛合いクラッチによって回転係合可能である形式のものに関する。
【0002】
本出願人に遡る米国特許出願第60/999964号明細書につき、無段階に可変の変速比を有する車両変速機が公知である。
【0003】
この公知の変速機は、いわゆる「i変速機」である。このi変速機において、「i」は、円錐形ディスク式巻掛け変速機のバリエータの変速比を表しており、「2」は、バリエータの変速比範囲が二重に通過されることを表している。
【0004】
こうして、高い駆動トルクを伝達することができる、大きな変速比幅を有する変速機を達成することができる。
【0005】
前述した変速機はすでに有利であると判っているにもかかわらず、この変速機は、比較的複雑な構造の欠点を有している。なぜならば、この変速機が全部で5つのクラッチを有しているからである。これらのクラッチのうち、1つのクラッチは後進レンジに割り当てられているが、4つのクラッチは、円錐形ディスク式巻掛け変速機の変速比幅の2回の通過のために必要となる。これらのクラッチは相応に制御されなければならない。このことは、複雑な切換動作に繋がる。4つのクラッチは、それぞれ固有のアクチュエータ機構によって制御されなければならない多板クラッチである。
【0006】
すでに、入出力ユニットを備えた変速機も公知である。入出力ユニットでは、出力歯車が駆動軸に相対回動可能に配置されている。この駆動軸を介して、入力トルクを変速機に導入することができる。出力歯車はクラッチユニットによって両側で挟まれる。このクラッチユニットは多板クラッチと噛合いクラッチとを有している。両クラッチは出力歯車に選択的に係合することができ、これによって、各クラッチユニットから出力歯車へのトルク伝達を行うことができる。この公知の入出力ユニットでも、多板クラッチと噛合いクラッチとが、それぞれ固有のアクチュエータ機構によって制御される。当然ながら、このような制御は多くの構成部材を要し、ひいては、高価である。
【0007】
ここから出発して、本発明の課題は、冒頭に述べた形式の車両変速機の構造ひいては回転力を伝達する個々の構成部材の制御を簡単にすることである。
【0008】
この課題を解決するために本発明に係る車両変速機では、第1の多板クラッチと第1の噛合いクラッチとが、ハイドロリック操作式の第1の装置によって操作可能であり、第2の多板クラッチと第2の噛合いクラッチとが、ハイドロリック操作式の第2の装置によって操作可能であるようにした。
【0009】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、前記両装置が、入力軸に沿って同軸的に延びる2つの流体管路によって圧力流体で押圧可能である。
【0010】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、前記圧力流体が、入力軸に流体連通するように配置された2つのロータリジョイントによって供給可能である。
【0011】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、前記各装置が、圧力室を有しており、該圧力室が、多板クラッチを接続するための構成部材を入力軸に対して相対的に軸方向に変位させるようにばね装置に抗して押圧するようになっている。
【0012】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、多板クラッチを接続するための構成部材が、係合区分を備えており、該係合区分が、出力歯車に解除可能に相対回動不能に形状接続係合可能であり、係合区分にばね装置によって出力歯車に向かってプリロードがかけられている。
【0013】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、ばね装置が、多板クラッチとばね装置との間で入力軸に相対回動可能に配置された歯車に支持されている。
【0014】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、多板クラッチを接続するための作用方向への構成部材の軸方向の変位によって、該構成部材と出力歯車との間の係合位置が開放されるようになっている。
【0015】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、歯車が、軸長手方向に切欠きを有しており、該切欠きが、軸方向で構成部材から離れる方向に延びる爪によって貫通されており、該爪が、多板クラッチの摩擦板を押圧するために形成されている。
【0016】
本発明に係る車両変速機の有利な態様によれば、前記車両変速機が、第2の軸から、出力歯車に回転係合するように配置された反転段に回転力伝達するために設けられたクラッチを有している。
【0017】
本発明は、無段階に可変の変速比を有する車両変速機であって、第1の軸に配置された第1の円錐形ディスク対と、第2の軸に配置された第2の円錐形ディスク対と、両円錐形ディスク対の間に配置された巻掛け手段と、相対回動可能に支承された出力歯車を備えた入力軸とが設けられており、この入力軸が、第1の軸または第2の軸に選択的に回転係合可能であり、出力歯車が、それぞれ他方の軸に回転係合可能であり、入力軸と第1の軸および第2の軸との間に、回転力伝達のためのそれぞれ1つの多板クラッチが設けられており、出力歯車が、他方の軸にそれぞれ噛合いクラッチによって回転係合可能である形式のものにおいて、第1の多板クラッチと第1の噛合いクラッチとが、ハイドロリック操作式の第1の装置によって操作可能であり、第2の多板クラッチと第2の噛合いクラッチとが、ハイドロリック操作式の第2の装置によって操作可能であることを提供している。
【0018】
したがって、本発明に係る車両変速機は、多板クラッチと噛合いクラッチとの著しく簡単な操作を有している。なぜならば、それぞれ1つの多板クラッチと1つの噛合いクラッチとがまとめられて、ハイドロリック操作式の装置によって操作することができるクラッチユニットが形成されているからである。したがって、本発明に係る車両変速機では、前進走行レンジの2回の通過のために設けられた4つのクラッチを操作するために、ハイドロリック操作式のただ2つの装置しか必要とならない。
【0019】
本発明の改良態様によれば、ハイドロリック操作式の両装置が、入力軸に沿って同軸的に延びる2つの流体管路によって圧力流体で押圧可能であることが提案されている。これは、言い換えると、入力軸が2つの流体管路を有しており、両流体管路を通して、たとえばポンプ装置によって圧力流体を案内することができるかもしくは内部に設けられた圧力流体に圧力を加えることができ、この加圧によって、多板クラッチと噛合いクラッチとをトルク伝達のために断続する操作装置を変位させることができることを意味している。
【0020】
本発明の改良態様によれば、圧力流体が、入力軸に流体連通するように配置された2つのロータリジョイントによって供給可能であることが提案されている。すなわち、両ロータリジョイントによって、圧力流体を両装置に供給することができるかもしくは両装置から導出することができるかもしくは両装置および流体管路に存在する圧力流体に両ロータリジョイントを介して圧力を加えることができるかもしくは加圧によって形成された、ハイドロリック操作式の両装置および流体管路における圧力をロータリジョイントを介して減少させることができる。
【0021】
すなわち、両ロータリジョイントは流体管路またはこれに類するものを介して、ハイドロリック操作式の装置内の増圧および減圧のために働く装置に流体接続されさえすればよい。
【0022】
本発明の改良態様によれば、各装置が、圧力室を有しており、この圧力室が、多板クラッチを接続するための構成部材を入力軸に対して相対的に軸方向に変位させるようにばね装置に抗して押圧することができる。圧力室内の増圧によって、構成部材が軸方向に変位することができ、この構成部材が多板クラッチをトルク伝達のために接続することができる。圧力室内の圧力が減少させられると、ばね装置によって、入力軸に対して相対的な構成部材の軸方向の変位ひいては予め接続された多板クラッチを介したトルク伝達の遮断が生じる。
【0023】
本発明の改良態様によれば、多板クラッチを接続するための前述した構成部材が、係合区分を備えていてよく、この係合区分が、出力歯車に解除可能に相対回動不能に形状接続係合されてよく、係合区分にばね装置によって出力歯車に向かってプリロードがかけられていてよい。これは、言い換えると、構成部材が、圧力室の、圧力が全く供給されていない状態または少ない圧力が供給されている状態において出力歯車に形状接続係合され、この出力歯車と一緒に回転することができることを意味している。
【0024】
圧力室に圧力が加えられると、これによって、出力歯車と構成部材との間の形状接続係合が開放(解除)され、入力軸に対して相対的な構成部材の軸方向の変位を介して、相応の多板クラッチが接続される。
【0025】
本発明の改良態様によれば、ばね装置が、多板クラッチとばね装置との間で入力軸に相対回動可能に配置された歯車に支持されていることが提案されている。この歯車は多板クラッチに、たとえばアンダカットされた軸方向歯列または、全く簡単には、溶接結合を介して相対回動不能に係合することができ、これによって、多板クラッチの接続時に歯車へのトルク伝達が行われ、この歯車から、第1の軸または第2の軸に相対回動不能に配置された歯車へのトルク伝達を行うことができる。
【0026】
すなわち、本発明によれば、多板クラッチを接続するための作用方向への構成部材の軸方向の変位によって、この構成部材と出力歯車との間の係合位置が開放される、つまり、係合が解除されるようになっていることが提案されている。それぞれ他方の多板クラッチは、切られた状態にあるので、この他方の多板クラッチの噛合いクラッチは出力歯車に形状接続係合されており、これによって、この他方の多板クラッチと噛合いクラッチとの間に配置された歯車から出力歯車への相応のトルク伝達を行うことができる。
【0027】
すでに前述したように、歯車は入力軸の軸方向で構成部材と多板クラッチとの間に配置された状態で位置している。本発明の改良態様は、歯車が、軸長手方向に切欠きを有しており、この切欠きが、軸方向で構成部材から離れる方向に延びる爪によって貫通されており、この爪が、多板クラッチの摩擦板を押圧するために形成されていることを提案している。
【0028】
すなわち、構成部材は、圧力室を介して歯車と多板クラッチとに対して相対的に軸方向で入力軸において変位可能であり、爪は多板クラッチの摩擦板を多板クラッチの接続のために押圧することができる。圧力室内の圧力が減少させられると、ばね装置によって、多板クラッチの摩擦板から離れる方向への、ひいては、多板クラッチを切断するための構成部材ひいては構成部材の爪の軸方向の変位が生じる。
【0029】
最後、本発明は、さらに、第2の軸から、出力歯車に回転係合するように配置された反転段に回転力伝達するために配置されたクラッチも提案している。このクラッチが接続されると、第2の軸から、出力歯車に回転係合された反転段へのトルク伝達が行われる。この走行位置は、本発明に係る車両変速機の後進位置に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る車両変速機の実施の形態の構造の概略図および車両変速機に設けられたクラッチの位置のマトリックスを示す図である。
【図2】本発明に係る車両変速機の走行レンジ「Low」を示す図である。
【図3】本発明に係る車両変速機の走行レンジ「High」を示す図である。
【図4】本発明に係る車両変速機の走行レンジ「Rev」を示す図である。
【図5】本発明に係る車両変速機の実施の形態の構成の概略的な斜視図である。
【図6】クラッチユニットの斜視的な分解図である。
【図7】本発明に係る車両変速機の入出力ユニットのニュートラル位置における部分断面図である。
【図8】走行レンジ「Low」における入出力ユニットを図7に類似して示す図である。
【図9】走行レンジ「High」における入出力ユニットを図8に類似して示す図である。
【図10】走行レンジ「後進」における入出力ユニットを図7および図8に類似して示す図である。
【0031】
本発明を以下に図面につき詳しく説明する。
【0032】
図1には、本発明に係る車両変速機18の実施の形態の概略図が示してある。
【0033】
この車両変速機18は、第1の軸15に配置された第1の円錐形ディスク対9と、第2の軸16に配置された第2の円錐形ディスク対8とを有している。両円錐形ディスク対8,9の間には、たとえばリンクプレートチェーンの形の巻掛け手段17が配置されている。
【0034】
車両変速機18には、原動機(図示せず)によって発生させられた駆動トルクを入力軸11を介して導入することができる。この入力軸11には、歯車4が相対回動可能に配置された状態で位置している。この歯車4を介して、第1の軸15に相対回動不能に配置された歯車3にトルクを導入することができる。
【0035】
さらに、入力軸11には、歯車1が相対回動可能に配置された状態で位置している。この歯車1を介して、入力軸11から、第2の軸16に相対回動不能に配置された歯車2にトルクを導入することができる。入力軸11には、出力歯車7が相対回動可能に配置されている。この出力歯車7は、車両変速機18から、図5に示した、車両のパワートレーン(図示せず)の一部であってよい歯車セット10,13,14,14’へのトルク引渡しのために働く。
【0036】
第2の軸16には、歯車5が相対回動可能に配置されている。この歯車5は後進クラッチKRを介してトルク伝達部材に連結することができる。歯車5は反転段6に噛み合っていて、第2の軸16から出力歯車7にトルクを伝達することができる。このトルク伝達時には、本発明に係る車両変速機18が後進位置に位置している。
【0037】
入力軸11は、歯車1,4,7およびクラッチK1,K2,K3,K4によって補われて、入出力ユニット19を形成している。
【0038】
図1に示したマトリックスからも判るように、本発明に係る車両変速機18は4つの切換位置もしくは走行位置をとることができる。符号「R」で示した第1の走行位置では、後進クラッチKRとクラッチK1とが接続されている。ニュートラル位置「N」では、全てのクラッチが切断されている。走行位置「Low」では、クラッチK4,K2が接続されている。走行位置「High」では、クラッチK1,K3が接続されている。
【0039】
図2、図3および図4には、本発明に係る車両変速機18の各走行位置が示してある。
【0040】
図2には、走行位置「Low」が示してある。この走行位置「Low」では、パワーフローが、入力軸11から、接続されたクラッチK4と歯車1とを介して歯車2に形成され、第2の軸16から第2の円錐形ディスク対8を介して巻掛け手段17に形成され、そこから、第1の円錐形ディスク対9と歯車3とに形成され、この歯車3から歯車4に形成され、接続されたクラッチK2を介して出力歯車7に形成される。
【0041】
同期点では、図3に示した走行位置「High」への切換を行うことができる。この走行位置「High」では、トルク伝達が、接続されたクラッチK1を介して歯車4に行われ、そこから、歯車3を介して第1の軸15と第1の円錐形ディスク対9とに行われる。
【0042】
巻掛け手段17を介して、回転力(ねじり力)、つまり、トルクが第2の円錐形ディスク対8に伝達され、そこから、第2の軸16に伝達される。この第2の軸16から、回転力は歯車2を介して、入力軸11に設けられた歯車1に伝達され、そこから、接続されたクラッチK3を介して出力歯車7に伝達される。
【0043】
図4には、本発明に係る車両変速機18の後進位置「Rev」が示してある。
【0044】
入力軸11に入力されたトルクは、接続されたクラッチK1を介して歯車4に伝達され、そこから、歯車3と第1の軸15とに伝達される。第1の円錐形ディスク対9を介して、回転力は巻掛け手段17に伝達され、そこから、第2の円錐形ディスク対8と第2の軸16とに伝達される。
【0045】
この第2の軸16にパワーフロー係合可能な後進クラッチKRを介して、回転力が、出力歯車7に回転係合された反転段6に伝達される。
【0046】
図5には、本発明に係る形成された車両変速機18が斜視図で示してある。
【0047】
入力軸11には、多板クラッチK1が、図6に見ることができる嵌合キー40を介して相対回動不能に位置固定されている。
【0048】
入力軸11には、別の多板クラッチK4も同じく相対回動不能に位置固定されている。図6には、多板クラッチK1,K4の各構造が示してある。入力軸11において軸方向に摺動可能な爪付き環状部材31は爪42を有している。この爪42は歯車1の切欠き41を貫通することができ、クラッチアウタリング35を介して鋼製ディスク36と摩擦板37とを押圧することができ、これによって、この鋼製ディスク36と摩擦板37との間で回転力伝達が行われるようになっている。
【0049】
摩擦板37は内側歯列を有している。この内側歯列は、嵌合キー40を介して入力軸11に相対回動不能に位置固定された内側のクラッチリング39の外側歯列に噛み合っている。
【0050】
爪付き環状部材31の軸方向の摺動は、クラッチアウタリング35の加圧ひいては多板クラッチK4の接続に繋がる。
【0051】
クラッチK1の構造は、図6につき説明したクラッチK4の構造に対応しているものの、入力軸11に軸受け34を介して相対回動可能に配置された歯車1の代わりに、図5につき見ることができる歯車4が設けられている点で異なっている。
【0052】
図7には、入出力ユニット19の構造が示してある。入力軸11には、嵌合キー40を介して多板クラッチK1が相対回動不能に配置された状態で位置している。この多板クラッチK1は爪付き環状部材31を介して接続することができる。歯車4はクラッチアウタリング35に溶接されており、これによって、多板クラッチK1の接続時にクラッチアウタリング35の回転運動が歯車4に伝達される。
【0053】
爪付き環状部材31には、出力歯車7に向かって皿ばね32がプリロードをかけている(予備荷重を加えている)。爪付き環状部材31は歯列43を有している。この歯列43は、出力歯車7に形成された内側歯列に噛み合っていて、したがって、この内側歯列と一緒に第1の噛合いクラッチK2を形成している。
【0054】
出力歯車7は第2の内側歯列を有している。この第2の内側歯列は第2の爪付き環状部材31の歯列43と共に第2の噛合いクラッチK3を形成している。第2の爪付き環状部材31を介して、第2の多板クラッチK4のクラッチアウタリング35が押圧されて、第2の多板クラッチK4を接続することができる。爪付き環状部材31には、入力歯車7に向かって第2の皿ばね32がプリロードをかけており、これによって、爪付き環状部材31の歯列43が出力歯車7の歯列に噛み合っている。
【0055】
入力軸11は、互いに同軸的に配置された2つの流体管路56,57を有している。両流体管路56,57は、シール部材を備えた管55を介して互いに分離されている。流体管路56を介して、圧力流体を圧力室58内に供給することができる。類似して、流体管路57を介して、圧力流体を圧力室59内に供給することができる。図7には、入出力ユニット19の位置が、本発明に係る車両変速機18のニュートラル位置で示してある。
【0056】
入力軸11の、クラッチK1と反対側の端部には、2つのロータリジョイント(図示せず)を配置することができる。両ロータリジョイントを介して、圧力流体を流体管路56,57内に供給することができる。
【0057】
図8には、入出力ユニット19の位置が走行レンジ「Low」で示してある。車両の発進のためには、流体管路57内の圧力が増加させられる。圧力室59内のこの増圧によって、爪付き環状部材31の軸方向の変位ひいては多板クラッチK4の接続が行われる。この多板クラッチK4の回転運動は歯車1に伝達される。図2に関連して説明したトルク伝達路を介して、回転力が歯車4に伝達され、そこから、接続された噛合いクラッチK2を介して出力歯車7に伝達される。
【0058】
圧力室59内の圧力による爪付き環状部材31の軸方向の変位によって、噛合いクラッチK3の係合位置が無効にされており、出力歯車7は、単に歯車4とクラッチK2とによって、回転力を伝達する係合位置に位置している。
【0059】
図9には、入出力ユニット19の位置が走行レンジ「High」で示してある。流体管路56を介した圧力室58の加圧によって、図面で見て左側の爪付き環状部材31が多板クラッチK1に向かって軸方向で入力軸11に対して相対的に変位させられる。これによって、多板クラッチK1が接続され、噛合いクラッチK2が切断される。
【0060】
同時に、同期点では、流体管路57を介した圧力室59の加圧が減少させられ、図面で見て右側の皿ばね32が、対応配置された爪付き環状部材31を左側に向かって変位させ、これによって、一方では、多板クラッチK4が切断され、他方では、噛合いクラッチK3が接続される。これによって、出力歯車7が、回転力を伝達するように歯車1に係合され、これによって、図3と一緒に説明した、本発明に係る車両変速機18における力伝達路が得られる。
【0061】
最後、図10には、入出力ユニット19の位置が、本発明に係る車両変速機18の走行レンジ「後進」で示してある。噛合いクラッチK2,K3が圧力室58,59の同時の加圧によって切断され、多板クラッチK1がトルク伝達のために接続される。同時に、後進クラッチKRが、反転段6へのトルク伝達のために接続される。
【0062】
本発明に係る車両変速機は、この車両変速機の入力軸に設けられた2つのロータリジョイントを介して圧力流体が供給される2つの圧力室を有するハイドロリック操作式のただ2つの装置によって、設けられた円錐形ディスク式巻掛け変速機の変速比幅の二重の通過が可能となる点で優れている。
【0063】
これによって、前進のために設けられた4つのクラッチの断続のための構成部材の個数が著しく減少させられており、車両変速機の構造が簡略化されており、車両変速機によって必要となる構成スペースも減少させられている。
【0064】
なお、個々に詳しく前述していない本発明の特徴については、請求項および図面に詳細に記載してある。
【符号の説明】
【0065】
1 歯車
2 歯車
3 歯車
4 歯車
5 歯車
6 反転段
7 出力歯車
8 第2の円錐形ディスク対
9 第1の円錐形ディスク対
10 歯車
11 入力軸
13 歯車
14 歯車
15 第1の軸
16 第2の軸
17 巻掛け手段
18 車両変速機
19 入出力ユニット
31 爪付き環状部材
32 皿ばね
34 軸受け
35 クラッチアウタリング
36 鋼製ディスク
39 内側のクラッチリング
40 嵌合キー
41 切欠き
42 爪
43 歯列
55 管
56 流体管路
57 流体管路
58 圧力室
59 圧力室
K1 第1の多板クラッチ
K2 第1の噛合いクラッチ
K3 第2の噛合いクラッチ
K4 第2の多板クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段階に可変の変速比を有する車両変速機(18)であって、第1の軸(15)に配置された第1の円錐形ディスク対(9)と、第2の軸(16)に配置された第2の円錐形ディスク対(8)と、両円錐形ディスク対(8,9)の間に配置された巻掛け手段(17)と、相対回動可能に支承された出力歯車(7)を備えた入力軸(11)とが設けられており、該入力軸(11)が、第1の軸(15)または第2の軸(16)に選択的に回転係合可能であり、出力歯車(7)が、それぞれ他方の軸(15,16)に回転係合可能であり、入力軸(11)と第1の軸(15)および第2の軸(16)との間に、回転力伝達のためのそれぞれ1つの多板クラッチ(K1,K4)が設けられており、出力歯車(7)が、他方の軸(15,16)にそれぞれ噛合いクラッチ(K2,K3)によって回転係合可能である形式のものにおいて、第1の多板クラッチ(K1)と第1の噛合いクラッチ(K2)とが、ハイドロリック操作式の第1の装置によって操作可能であり、第2の多板クラッチ(K4)と第2の噛合いクラッチ(K3)とが、ハイドロリック操作式の第2の装置によって操作可能であることを特徴とする、無段階に可変の変速比を有する車両変速機。
【請求項2】
前記両装置が、入力軸(11)に沿って同軸的に延びる2つの流体管路(56,57)によって圧力流体で押圧可能である、請求項1記載の車両変速機。
【請求項3】
前記圧力流体が、入力軸(11)に流体連通するように配置された2つのロータリジョイントによって供給可能である、請求項1または2記載の車両変速機。
【請求項4】
前記各装置が、圧力室(58,59)を有しており、該圧力室(58,59)が、多板クラッチ(K1,K4)を接続するための構成部材(31)を入力軸(11)に対して相対的に軸方向に変位させるようにばね装置(32)に抗して押圧するようになっている、請求項1から3までのいずれか1項記載の車両変速機。
【請求項5】
多板クラッチ(K1,K4)を接続するための構成部材(31)が、係合区分(43)を備えており、該係合区分(43)が、出力歯車(7)に解除可能に相対回動不能に形状接続係合可能であり、係合区分(43)にばね装置(32)によって出力歯車(7)に向かってプリロードがかけられている、請求項1から4までのいずれか1項記載の車両変速機。
【請求項6】
ばね装置(32)が、多板クラッチ(K1,K4)とばね装置(32)との間で入力軸(11)に相対回動可能に配置された歯車(1,4)に支持されている、請求項4または5記載の車両変速機。
【請求項7】
多板クラッチ(K1,K4)を接続するための作用方向への構成部材(31)の軸方向の変位によって、該構成部材(31)と出力歯車(7)との間の係合位置が開放されるようになっている、請求項4から6までのいずれか1項記載の車両変速機。
【請求項8】
歯車(1,4)が、軸長手方向に切欠き(41)を有しており、該切欠き(41)が、軸方向で構成部材(31)から離れる方向に延びる爪(42)によって貫通されており、該爪(42)が、多板クラッチ(K1,K4)の摩擦板を押圧するために形成されている、請求項4から7までのいずれか1項記載の車両変速機。
【請求項9】
前記車両変速機が、第2の軸(16)から、出力歯車(7)に回転係合するように配置された反転段(6)に回転力伝達するために設けられたクラッチ(KR)を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載の車両変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−509444(P2012−509444A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536735(P2011−536735)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001486
【国際公開番号】WO2010/057456
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(510068035)シェフラー テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【Fターム(参考)】