説明

熱硬化性エポキシ樹脂組成物及びその用途

【課題】 粘度安定性に優れるとともに、厚みが厚くても均質で、ヒートサイクルでのクラック発生がなく、しかも耐熱性および透明性に優れた硬化物を得ることのできる液状のエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとで構成される主剤、(D)硬化剤及び(E)硬化促進剤を含む液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物、又は、前記(A)、(B)、(C)で構成される主剤、及び(D’)硬化触媒を含む液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物および光半導体装置に関する。さらに詳しくは、加熱によって硬化させることができ、透明性を低下させることなく、曲げ強度の向上した硬化物が得られる液状エポキシ樹脂組成物、該液状エポキシ樹脂組成物の樹脂硬化物、および該液状エポキシ樹脂組成物を封止剤として用いた光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子封止用のエポキシ樹脂組成物には、透明性、耐熱性が良好な脂環骨格を有する液状のエポキシ化合物が多用される。このようなエポキシ化合物として、例えば、いずれもダイセル化学工業株式会社製のセロキサイド2021[3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート]、セロキサイド2081[3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレートとε−カプロラクトンの2量体の付加物]、セロキサイド3000(1,2,8,9−ジエポキシリモネン)などが挙げられる。
【0003】
セロキサイド2021に代表される3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート構造を持った脂環エポキシ化合物からは、硬化することにより耐熱性、透明性に優れた硬化物が得られるため、LEDなどの光半導体封止用樹脂として使用されている。しかし、セロキサイド2021などの脂環エポキシ化合物は、単独で用いるとヒートサイクル性が十分でなく、クラックの発生により電子部品の信頼性を低下させる場合がある。
【0004】
従来、衝撃強度向上やクラック発生抑止などエポキシ樹脂の物性を改善しようとする提案としては、以下のものが知られている。例えば、特開平9−255764号公報には水添されたビスフェノールAのジグリシジルエーテルを含む光半導体封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。また、特開平10−156952号公報には脂環式エポキシ化合物を用いた光学的立体造形用樹脂組成物が開示されている。また、特開2000−63485号公報には特定の脂環式エポキシ化合物と多価フェノール骨格を有する多価エポキシ化合物との組成物を用いるビルドアップ用硬化性組成物が記載されている。さらに、特開平9−71636号公報には脂環式エポキシ化合物を用いた活性エネルギー線硬化性組成物が記載されている。また、国際公開第2006/064736号パンフレットには、ポリオールオリゴマーを含む熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−255764号公報
【特許文献2】特開平10−156952号公報
【特許文献3】特開2000−63485号公報
【特許文献4】特開平9−71636号公報
【特許文献5】国際公開第2006/064736号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特開平9−255764号公報に記載されている光半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物は着色や耐候性、耐熱性等の点で問題があり、また、特開平10−156952号公報には、光半導体封止用としての利用については記載されていない。また、特開2000−63485号公報に記載されているビルドアップ用硬化性組成物は耐熱性、透明性に特徴を見出したものではない。特開平9−71636号公報に記載されている活性エネルギー線硬化性組成物は活性エネルギー線を用いて硬化させるため、肉厚の硬化物を製造する場合、部分的に硬化不良を起こすことがあり、光学的に均質な硬化物が得られない場合がある上、厚膜では、硬化物の表面で波打ちが発生したり焼け深部及び照射不足部位の硬化不良が発生するという問題がある。また、国際公開第2006/064736号パンフレットに記載されているポリオールオリゴマーを含む熱硬化性樹脂組成物は、弾性特性は改良されているものの主剤の粘度安定性に問題があり、硬化の工程で問題を起こすことが多かった。
【0007】
従って、本発明の目的は、粘度安定性に優れるとともに、厚みが厚くても均質で、ヒートサイクルでのクラック発生がなく、しかも耐熱性および透明性に優れた硬化物を得ることのできる液状のエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる樹脂硬化物、および該エポキシ樹脂組成物によって光半導体素子が封止されてなる光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、脂環式エポキシ樹脂の弾性特性を改良することによりヒートサイクル性の問題を改善できることを見出した。また、脂環式エポキシ樹脂と特定のポリオールを必須構成成分とすることで、光学的に均質な硬化物が得られ、かつ、硬化不良部位発生という問題がなく、硬化物の透明性、耐熱性を維持したまま耐ヒートサイクル性を付与できる光半導体封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物が得られることを見出した。さらに、亜リン酸エステルを構成成分とすることで、主剤の粘度安定性が大幅に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとで構成される主剤、(D)硬化剤及び(E)硬化促進剤を含む液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0010】
本発明の第2は、(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとで構成される主剤、及び(D’)硬化触媒を含む液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0011】
本発明の第3は、
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物:95〜50重量部
(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール:5〜50重量部
(C)亜リン酸エステル:0.005〜5重量部
からなる主剤[成分(A)と成分(B)の合計量は100重量部である]および
(D)硬化剤:成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、50〜150重量部
(E)硬化促進剤:成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、0.05〜5重量部
を配合してなる上記発明1に記載の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0012】
本発明の第4は、
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物:95〜50重量部
(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール:5〜50重量部
(C)亜リン酸エステル:0.005〜5重量部
からなる主剤[成分(A)と成分(B)の合計量は100重量部である]および
(D’)硬化触媒:成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、0.01〜15重量部
を配合してなる上記発明2に記載の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0013】
本発明の第5は、光半導体封止用である上記発明1〜4の何れかに記載の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0014】
本発明の第6は、(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとを含む液状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0015】
本発明の第7は、光半導体封止用である上記発明6に記載の液状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0016】
本発明の第8は、上記発明1〜7の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物を提供する。
【0017】
本発明の第9は、光学的に均質である上記発明8に記載の樹脂硬化物を提供する。
【0018】
本発明の第10は、前記の発明5又は7に記載の光半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物によって光半導体素子が封止されてなる光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物は粘度安定性が高く、これを熱硬化させて得られる硬化物は光学的に均質であり、硬化不良部位の発生という問題がなく、低曲げ弾性率、高曲げ強度であり、ガラス転移温度及び透明性が高く、光半導体封止用として好適である。また、ヒートサイクル性の問題を解消できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物]
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、光半導体を封止する際の加工性の観点から、液状であり、粘度(25℃)は20000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは15000mPa・s以下である。なお、本発明において、液状とは常温(25℃)にて液状であることを意味する。
【0021】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂は、主剤と(D)硬化剤及び(E)硬化促進剤、または、主剤と(D’)硬化触媒を含んでなる。本発明における主剤は、(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール、(C)亜リン酸エステルから構成される。本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、前記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含む組成物である。
【0022】
以下に、本発明における各成分(A)〜(E)について説明する。
【0023】
[(A)脂環式エポキシ化合物]
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂に用いられる脂環式エポキシ化合物(A)は、分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する化合物であればよく、特に限定されないが、エポキシ基は環状脂肪族骨格を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されているものが好ましい。このような脂環式エポキシ化合物(A)としては、下記のような化合物が挙げられる。
【0024】
【化1】

【0025】
上記一般式(I)で表される脂環式エポキシ化合物は、対応する脂環式オレフィン化合物を脂肪族過カルボン酸等によって酸化させることにより製造され、実質的に無水の脂肪族過カルボン酸を用いて製造されたものが高いエポキシ化率を有する点で好ましい(特開2002−275169号公報等)。
【0026】
上記一般式(I)において、Yは単結合又は連結基を示し、連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、アミド結合(−CONH−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びこれらが複数個連結した基などが挙げられる。上記2価の炭化水素基としては、炭素数1〜18(特に1〜6)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基や2価の脂環式炭化水素基(特に2価のシクロアルキレン基)等が好ましく例示される。さらに、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基などが挙げられる。また、2価の脂環式炭化水素基としては、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2−シクロへキシレン、1,3−シクロへキシレン、1,4−シクロへキシレン、シクロヘキシリデン基などが挙げられる。
【0027】
上述の化合物としては、具体的には、下記のような化合物が例示される。
【0028】
【化2】

【0029】
上記nは、1〜30の整数である。
【0030】
本発明の成分(A)である脂環式エポキシ化合物としては、上記の他、2つのエポキシ基のうち1つのみが環状脂肪族骨格を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで形成されている、例えば、リモネンジエポキシドや、エポキシ基が環状脂肪族骨格を構成する炭素原子を含まない、グリシジルエーテル化合物(例えば、環状脂肪族骨格とグリシジルエーテル基を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物など)も使用可能である。上述の化合物としては、具体的には下記のような化合物が例示される。
【0031】
【化3】

【0032】
さらに、その他にも、3以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を用いることも可能である。具体的には下記のような化合物が例示される。
【0033】
【化4】

【0034】
上記式中、a、b、c、d、e、fは、0〜30の整数である。上記式中、Rはq価のアルコール[R−(OH)q]からq個のOHを除した基、pは1〜50の整数、qは1〜10の整数を示す。q個の括弧内の基において、pはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。q価のアルコール[R−(OH)q]としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール等の1価のアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどの3価以上のアルコールが挙げられる。前記アルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。前記アルコールとしては、炭素数1〜10の脂肪族アルコール(特に、トリメチロールプロパン等の脂肪族多価アルコール)が好ましい。
【0035】
成分(A)である脂環式エポキシ化合物の配合量は、成分(A)および後記する成分(B)の合計量100重量部中95〜50重量部が好ましく、より好ましくは、90〜55重量部、さらに好ましくは、80〜60重量部である。脂環式エポキシ化合物の配合量が95重量部を超えると、後記する成分(B)の添加効果が発揮されず、逆に50重量部未満では、曲げ強度は向上するが耐熱性及び透明性が低下しやすくなる。
【0036】
成分(A)として用いられる脂環式エポキシ化合物の中でも、低粘度の化合物、例えば、25℃における粘度が500mPa・s以下の低粘度シクロアルキレングリコールジグリシジルエーテル等は、それ以外の成分(A)と共に用いることによって、反応性希釈剤としての役割も担うことができる。このようなシクロアルキレングリコールジグリシジルエーテルとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0037】
さらに、成分(A)以外にも、反応性希釈剤としては、液状のビスフェノールA型、F型などの芳香族環を有するグリシジル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等を使用してもよい。成分(A)以外の反応性希釈剤を用いる場合の、反応性希釈剤の配合量は、成分(A)である脂環式エポキシ化合物100重量部に対して、20重量部以下、好ましくは、15重量部以下である。この反応性希釈剤の配合量が20重量部を超えると、所望の性能が得られにくい。
【0038】
本発明の成分(A)として用いられる脂環式エポキシ化合物は、調合時、注型時の作業性を向上させる観点から、液状であることが好ましい。ただし、単体としては固形のエポキシ化合物であっても、各成分を配合した後の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の粘度として、前記の通り、25℃で、例えば20000mPa・s以下になるものであれば使用することは可能である。また、成分(A)以外のエポキシ化合物についても同様である。使用可能な固形のエポキシ化合物としては、例えば、固形のビスフェノール型のエポキシ化合物、ノボラック型のエポキシ化合物、グリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、EHPE−3150[ダイセル化学工業(株)製のエポキシ化シクロヘキサンポリエーテル]などが挙げられる。これら固形のエポキシ化合物は、1種を単独で併用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。固形のエポキシ化合物の配合量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の粘度が、25℃で、例えば20000mPa・sを超えない量である。
【0039】
[(B)ポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール]
次に、本発明における成分(B)について述べる。本発明で用いられる成分(B)は、分子内に2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールである。なお、上記水酸基は、アルコール性水酸基でもフェノール性水酸基であってもよい。成分(B)は、成分(A)等と配合された後に、液状の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を形成できればよく、特に限定されないが、成分(B)自体も液状であることが好ましい。ポリエステルポリオール、またはポリカーボネートポリオールの数平均分子量は200〜10000が好ましく、より好ましくは、300〜5000、さらに好ましくは、400〜4000である。分子量が200未満では、低弾性率化、曲げ強度向上の効果が低下する場合があり、分子量が10000を超えると、常温(25℃)にて液状ではなくなる場合がある。ポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールの配合量(総量)は、上記成分(A)および成分(B)の合計量100重量部中5〜50重量部が好ましく、より好ましくは、10〜45重量部、さらに好ましくは、20〜40重量部である。成分(B)の配合量が50重量部を超えると、曲げ強度は向上するが耐熱性や透明性が低下する場合があり、逆に5重量部未満では、成分(B)を添加することにより得られる効果が小さくなる場合がある。
【0040】
本発明のポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール(B)は、直鎖状のポリオール、分岐鎖状のポリオールのいずれから構成されていてもよく、2種以上の直鎖状、分岐鎖状のポリオールから構成されていたり、また、直鎖状ポリオールと分岐鎖状ポリオールから構成されていてもよい。
【0041】
本発明における成分(B)がエステル骨格を分子内に有するポリエステルポリオールである場合、成分(B)は通常のポリエステルポリオールを製造する方法と同じくエステル交換反応、ラクトンの開環重合などにより合成される。ポリエステルポリオールの合成で用いられるポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,12−ドデカンジオール、ポリブタジエンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−ジヒドロキシアセトン、ヘキシレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられる。ポリエステルポリオールの合成で用いられるカルボン酸としては、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、クエン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シトラコン酸、1,10−デカンジカルボン酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、乳酸、りんご酸、グリコール酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などが挙げられる。また、ラクトンの開環重合の際のラクトン類としては、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0042】
このようなポリエステルポリオールの市販品としては、プラクセル205U、L205AL、L208AL、L212AL、L220AL、L230AL、220ED、220EC、220EB、303、305、308,312、L312AL、320、L320AL、410、410D、P3403、E227、DC2009、DC2016、DC2209[以上、ダイセル化学工業(株)製]などが挙げられる。
【0043】
本発明における成分(B)が、カーボネート骨格を有するポリカーボネートポリオールである場合、成分(B)は、通常のポリカーボネートポリオールを製造する方法と同じくホスゲン法または、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートのようなジアルキルカーボネートまたはジフェニルカーボネートを用いるカーボネート交換反応(特開昭62−187725号公報、特開平2−175721号公報、特開平2−49025号公報、特開平3−220233号公報、特開平3−252420号公報等)などで合成される。カーボネート結合は熱分解を受けにくいため、ポリカーボネートポリオールからなる樹脂硬化物は高温高湿下でも優れた安定性を示す。
【0044】
ジアルキルカーボネートと共にカーボネート交換反応で用いられるポリオールとしては、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,12−ドデカンジオール、ブタジエンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0045】
成分(B)であるポリカーボネートポリオールの数平均分子量は200〜10000が好ましく、より好ましくは、300〜5000、さらに好ましくは、400〜4000である。数平均分子量が200未満では、低弾性率化、曲げ強度向上の効果が低下する場合があり、数平均分子量が10000を超えると、常温(25℃)にて液状ではなくなる場合がある。
【0046】
このようなポリカーボネートポリオールの市販品としては、プラクセルCD 205、CD 210、CD 220、CD 205PL、CD 205HL、CD 210PL、CD 210HL、CD 220PL、CD 220HL、CD 220EC、CD 221T[以上、ダイセル化学工業(株)製]、ETERNACOLL UH−CARB50、UH−CARB100、UH−CARB300、UH−CARB90(1/3)、UH−CARB90(1/1)、UH−CARB100[以上、宇部興産(株)製]、デュラノールT6002、T5652、T4672、T4692、G3452[以上、旭化成ケミカルズ(株)製]等が挙げられる。
【0047】
成分(B)であるポリカーボネートポリオールの配合量は、上記成分(A)および成分(B)の合計量100重量部中5〜50重量部が好ましく、より好ましくは、10〜45重量部、さらに好ましくは、20〜40重量部である。成分(B)の配合量が50重量部を超えると、曲げ強度は向上するが透明性が低下する場合があり、逆に5重量部未満では、成分(B)を添加することにより得られる効果が小さくなる場合がある。
【0048】
[(C)亜リン酸エステル]
次に、本発明における成分(C)である亜リン酸エステルについて述べる。本発明に使用される亜リン酸エステル化合物(C)は、同一分子内にリンを一つ以上有する化合物であれば特に制限されない。
【0049】
亜リン酸エステル化合物(C)の好ましい例としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ、ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリスイソデシルホスファイト等が挙げられる。
【0050】
亜リン酸エステル化合物(C)の配合量は、前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、0.005〜5重量部が好ましく、より好ましくは、0.01〜1重量部、さらに好ましくは、0.05〜0.5重量部である。亜リン酸エステル化合物(C)の配合量が5重量部を超えると、耐加水分解性が悪化する場合があり、0.005重量部より少ない場合は、主剤としての粘度安定性が不十分となる場合がある。
【0051】
このような亜リン酸エステルとしては、例えば、JP−360、JP−308E[以上、城北化学工業(株)製]、IRGAFOS168[チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製]、Sanko Epoclean[三光(株)製]、アデカスタブ3010、アデカスタブPEP−36[以上、(株)ADEKA製]等が挙げられる。
【0052】
[(D)硬化剤]
次に、本発明における成分(D)である硬化剤について述べる。本発明における硬化剤(D)は酸無水物である。酸無水物としては、一般にエポキシ樹脂用硬化剤として慣用されているものの中から任意に選択して使用することができる。本発明において使用する酸無水物としては、常温で液状のものが好ましく、具体的には、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等を挙げることができる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物の含浸性に悪影響を与えない範囲で、常温で固体の酸無水物、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等を使用することができる。常温で固体の酸無水物を使用する場合には、常温で液状の酸無水物に溶解させ、常温で液状の混合物として使用することが好ましい。
【0053】
硬化剤の配合量は、主剤のうち前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、50〜150重量部が好ましく、より好ましくは、52〜145重量部、さらに好ましくは、55〜140重量部である。より詳しくは、硬化剤としての効果を発揮し得る有効量、すなわち、通常、前記成分(A)である脂環式エポキシ化合物および任意に添加されるその他のエポキシ化合物におけるエポキシ基1当量当たり、0.5〜1.5の酸無水物当量になるような割合で使用することが好ましい。
【0054】
[(E)硬化促進剤]
次に、本発明における成分(E)である硬化促進剤について述べる。本発明における成分(E)である硬化促進剤は、一般に使用されるものであれば特に制限はないが、ジアザビシクロウンデセン系又はリン系硬化促進剤が好ましく、これを単独で用いてもよいし、また、50重量%までの他のエポキシ樹脂用硬化促進剤、例えば、3級もしくは4級アミンとの混合物でもよい。このジアザビシクロウンデセン系又はリン系の硬化促進剤が硬化促進剤の全量中少なくとも50重量%を占めていることが好ましい。このジアザビシクロウンデセン系又はリン系の硬化促進剤の割合が50重量%よりも少ないと、硬化物の色相が悪くなる場合があり、さらに良好な色相を保つには、70重量%以上にすることが好ましい。
【0055】
このようなジアザビシクロウンデセン系硬化促進剤としては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)及びその塩を挙げることができるが、特に1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のオクチル酸塩、スルホン酸塩又はPX−4ET(日本化学工業製)等が好ましい。硬化促進剤は、このジアザビシクロウンデセン系硬化促進剤単独でもよいし、また50重量%までの他のエポキシ樹脂用硬化促進剤、例えば、慣用されている第三級アミン系硬化促進剤やトリフェニルホスフィンなどのリン系との混合物でもよい。
【0056】
この成分(E)である硬化促進剤は、主剤のうち前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部当り、0.05〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部、最も好ましくは、0.25〜2.5重量部の割合で用いられる。この量が0.05重量部未満では硬化促進効果が不十分となる場合があり、また5重量部を超えると、硬化物における色相が悪化する場合がある。成分(E)である硬化促進剤は、エポキシ化合物が酸無水物により硬化する際、硬化反応を促進する機能を有する化合物である。
【0057】
本発明において成分(E)として使用できる他の硬化促進剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物、三級アミン塩、四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛等の金属塩等の公知の化合物を挙げることができる。
【0058】
[(D’)硬化触媒]
次に、本発明における成分(D’)である硬化触媒について述べる。本発明で用いる硬化触媒(D’)はカチオン重合開始剤である。このカチオン重合開始剤は、加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出する開始剤であり、主剤のうち前記成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して0.01〜15重量部が好ましく、より好ましくは、0.05〜12重量部、さらに好ましくは、0.1〜10重量部の範囲で配合される。この範囲で配合することにより、耐熱性、透明性、耐候性等の良好な硬化物を得ることができる。カチオン重合開始剤としては、例えば、アリールジアゾニウム塩[例えば、PP−33、(株)ADEKA製]、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩[例えば、FC−509、スリーエム(株)製]、UVE1014[G.E.(株)製]、CP−66、CP−77[(株)ADEKA製]、SI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L[三新化学工業(株)製]が挙げられる。
【0059】
さらに、アルミニウムやチタンなど金属とアセト酢酸エステルまたはジケトン類とのキレート化合物とシラノールまたはフェノール類との系も含む。キレート化合物としては、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスアセト酢酸エチル等がある。シラノールまたはフェノール類としては、トリフェニルシラノールやビスフェノールS等が挙げられる。
【0060】
[各種の添加剤]
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて水酸基を有する低分子量化合物を添加することで反応を緩やかに進行させることができる。水酸基を有する化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。なお、上記添加物は低分子量体であり、本発明のポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールとは異なる。
【0061】
また、その他にも、本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物には、粘度や透明性等に悪影響を与えない範囲で各種の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、例えば、シリコーン系やフッ素系の消泡剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、充填剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等を挙げることができる。これら各種の添加剤の配合量は樹脂組成物に対して重量基準で5%以下である。
【0062】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、ガラス転移温度及び透明性が高く、吸水率が低いため、光半導体などの封止用途、電子部品の接着用途、液晶パネル用シート、シーラー等として好ましく用いることができる。中でも、光半導体封止用の樹脂組成物として特に好適である。
【0063】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、熱により硬化させて樹脂硬化物とすることができる。硬化の際に紫外線などの活性エネルギー線を用いると、特に硬化物が厚物である場合などには、硬化物の表層と内層で硬化度合いに違いが生じ、「しわ」などのトラブルが生じ生産性が低下する場合がある。
【0064】
[樹脂硬化物]
本発明の樹脂硬化物は、前記本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物又は液状エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得られる。本発明の樹脂硬化物は、分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物(A)に由来する部位と、2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール(B)に由来する部位を含んでいる。
【0065】
本発明の樹脂硬化物のガラス転移温度は、110〜195℃が好ましく、より好ましくは120〜185℃である。
【0066】
本発明の樹脂硬化物の曲げ弾性率は、1700〜2800MPaが好ましく、より好ましくは1800〜2750MPaである。また、樹脂硬化物の曲げ強度は、50MPa以上(例えば、50〜100MPa)が好ましく、より好ましくは60〜95MPaである。曲げ強度が50MPa未満である場合には、樹脂硬化物の加工工程や使用工程において、小さな応力で変形が生じ、封止している素子が破損する場合がある。
【0067】
本発明の樹脂硬化物は、光学的に均質であることが好ましい。光学的に均質であるとは、例えば、樹脂硬化物中で屈折率が均一であることなどをいい、後述のように、光の透過率が高いことや光散乱などにより判断することが可能である。光学的な均質は樹脂硬化物の硬化度合いが硬化物中で均一であることなどにより達成される。
【0068】
本発明の樹脂硬化物の波長380nmの光の透過率は、70T%以上が好ましく、より好ましくは75T%以上である。また、本発明の樹脂硬化物の波長400nmの光の透過率は78T%以上が好ましく、より好ましくは81T%以上である。透過率が上記範囲を下回る場合には、光半導体素子の封止剤として使用する際に、発光効率が低下し、性能が低下する場合がある。
【0069】
本発明の樹脂硬化物の吸水率は、0.1〜0.8%が好ましく、より好ましくは0.2〜0.7%である。吸水率が0.8%を超える場合には、半導体のパッケージを実装する工程でパッケージクラックが生じる場合がある。
【0070】
[光半導体装置]
本発明の光半導体装置は、光半導体封止用に用いられる本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物又は液状エポキシ樹脂組成物によって光半導体素子が封止されてなる。
【0071】
なお、本発明においては、主剤と硬化剤、硬化促進剤または主剤と硬化触媒を配合することにより、優れた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物が得られるため好ましいが、本発明の主剤(成分(A)と成分(B)、成分(C)の混合物)は、主剤単体でも液状エポキシ樹脂組成物として用いることが可能である。その場合、該液状エポキシ樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物用途等に好ましく用いられる。
【0072】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を製造するには、公知の方法を用いることができる。例えば、所定量の各成分(A)、(B)、(C)の主剤、または(A)、(B)、(C)、(D)、(E)または(A)、(B)、(C)、(D’)および任意に使用される添加剤等を配合して、好ましくは真空加熱下で気泡を排除しつつ撹拌・混合することにより調製される。撹拌・混合する際の温度は、通常、10〜150℃に設定されることが好ましい。調製時の設定温度が10℃未満では、粘度が高すぎて均一な撹拌・混合作業が困難になり、逆に、調製時の温度が150℃を超えると、硬化反応が起き、正常な液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物が得られないので、好ましくない。撹拌・混合する際には、減圧装置を備えた1軸または多軸エクストルーダー、ニーダー、ディソルバーのような汎用の機器を使用し、例えば10分間程度撹拌・混合することにより調製してもよい。
【0073】
この調製された液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、所定の成形型内に注入され、所定の条件で加熱硬化されて光半導体封止などを行う。本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、温度100〜200℃、好ましくは、100〜190℃、さらに好ましくは、100〜180℃で、硬化時間30〜600分、好ましくは、45〜540分、さらに好ましくは、60〜480分で硬化させることができる。硬化温度と硬化時間が上記範囲下限値より低い(短い)場合は、硬化が不十分となり、逆に上記範囲上限値より高い(長い)場合、樹脂成分の分解が起きる場合があるので、何れも好ましくない。硬化条件は種々の条件に依存するが、硬化温度が高い場合は硬化時間は短く、硬化温度が低い場合は硬化時間は長く、適宜調整することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各例における液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物から調製された硬化物の物性は、次に示す方法に従って測定した。
【0075】
[粘度安定性]
80℃にて3日間放置したときの粘度を測定した。粘度は、E型粘度計[東機産業(株)製TVE−22H]を用いて測定した(25℃)。
【0076】
[耐熱性]
実施例、比較例で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物を110℃で2時間+180℃で2時間(実施例7〜8、比較例2は、100℃で1時間+160℃で3時間)の条件で熱硬化させた試験片(長さ10mm、幅5mm、厚さ5mm)を、熱機械測定装置(TMA)(セイコーインスツルメント(株)製)でガラス転移温度(Tg、℃)を測定して耐熱性の指標とした。
【0077】
[透明性]
上記耐熱性の試験と同じ条件で熱硬化させて、厚み3mmの樹脂硬化物を作製し、試験片とした。これについて、波長400nm及び380nmにおける光透過率を分光光度計[島津(株)製UV−2450]を用いて透過率(T%)を測定して透明性の指標とした。
【0078】
[曲げ強度試験(曲げ弾性率および曲げ強度)]
曲げ強度試験用の試験片は、上記耐熱性試験用試験片の作製条件で作製した硬化物を5mm×10mm×80mmに加工して作製した。曲げ強度試験はJIS K 6911に準拠して、曲げ速度1mm/分で行った。
【0079】
[吸水率試験]
上記と同様にして、樹脂硬化物を作製し、試験片とした。JIS K 6991に準拠して、23℃にて、24時間水中に放置し、試験前後の重量差から吸水率を求めた。
【0080】
実施例1
成分(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」、脂環式エポキシ樹脂、液状(25℃)、エポキシ当量134)80重量部、成分(B)として、ポリカプロラクトントリオール(ダイセル化学工業(株)製、商品名「プラクセル305」、液状(25℃)、数平均分子量550)20重量部、成分(C)として、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド(三光(株)製、商品名「Sanko Epoclean」)0.5重量部を主剤として用いた。成分(D’)としては、芳香族スルホニウム塩系カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製、商品名「サンエイド SI−100L」)0.5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:153℃、光透過率(400nm):80.5T%、光透過率(380nm):70.2T%、曲げ弾性率:2440MPa、曲げ強度:106MPa、吸水率:0.39%であり、優れた耐熱性、透明性、曲げに対する特性などを有していた。なお、本実施例に用いた主剤の粘度安定性を確認すると432mPa・sであった(主剤配合後の粘度:410mPa・s)。
【0081】
実施例2
成分(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」、脂環式エポキシ樹脂、液状(25℃)、エポキシ当量134)80重量部、成分(B)として、1,6−ヘキサンジオールをポリオール成分の1成分として用いたポリカーボネートジオール(ダイセル化学工業(株)製、商品名「プラクセルCD205PL」、液状(25℃)、数平均分子量500)20重量部、成分(C)として、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド(三光(株)製、商品名「Sanko Epoclean」)0.5重量部を主剤として用いた。成分(D)としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製、商品名「リカシッド MH−700」)103.4重量部、成分(E)としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のオクチル酸塩(サンアプロ(株)製、商品名「U−CAT SA−102」)0.5重量部を用いた。さらに、エチレングリコール(和光純薬(株)製)を1.1重量部用いた。
これらを、シンキー(株)製「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:173℃、光透過率(400nm):85.7T%、光透過率(380nm):81.2T%、曲げ弾性率:2705MPa、曲げ強度:101MPa、吸水率:0.38%であり、優れた耐熱性、透明性、曲げに対する特性などを有していた。なお、本実施例に用いた主剤の粘度安定性を確認すると370mPa・sであった(主剤配合後の粘度:298mPa・s)。
【0082】
実施例3
実施例2より、成分(B)を、1,6−ヘキサンジオールをポリオール成分の1成分として用いたポリカーボネートジオール(ダイセル化学工業(株)製、商品名「プラクセルCD210PL」、液状(25℃)、数平均分子量1000)に変更し、さらに、各成分の配合量を、成分(A)70重量部、成分(B)30重量部、成分(D)87.6重量部、成分(E)0.45重量部に変更した。また、成分(C)を、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト((株)ADEKA製、商品名「アデカスタブPEP−36」)0.5重量部に変更した。なお、エチレングリコールは添加しなかった。これを実施例1と同様に配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:181℃、光透過率(400nm):81.4T%、光透過率(380nm):74.4T%、曲げ弾性率:2505MPa、曲げ強度:111MPa、吸水率:0.41%であり、優れた耐熱性、透明性、曲げに対する特性などを有していた。なお、本実施例に用いた主剤の粘度安定性を確認すると865mPa・sであった(主剤配合後の粘度:850mPa・s)。
【0083】
実施例4
成分(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」)80重量部、成分(B)として、ポリカーボネートジオール(ダイセル化学工業(株)製、商品名「プラクセルCD220PL」)20重量部、成分(C)として、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト((株)ADEKA製、商品名「アデカスタブPEP−36」)0.5重量部を主剤として用いた。成分(D’)としては、芳香族スルホニウム塩系カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製、商品名「サンエイド SI−100L」)0.5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:148℃、光透過率(400nm):81.1T%、光透過率(380nm):78.9T%、曲げ弾性率:2310MPa、曲げ強度:109MPa、吸水率:0.40%であり、優れた耐熱性、透明性、曲げに対する特性などを有していた。なお、本実施例に用いた主剤の粘度安定性を確認すると1,070mPa・sであった(主剤配合後の粘度:1,040mPa・s)。
【0084】
比較例1
成分(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」)100重量部を主剤とした。成分(B)は用いなかった。成分(D)としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製、商品名「リカシッド MH−700」)129重量部、成分(E)としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のオクチル酸塩(サンアプロ(株)製、商品名「U−CAT SA−102」)0.65重量部を用いた。さらに、エチレングリコール(和光純薬(株)製)を0.65重量部用いた。
これらを、実施例1と同様にして、シンキー(株)製「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:198℃、光透過率(400nm):86.5T%、光透過率(380nm):81.4T%、曲げ弾性率:3020MPa、曲げ強度:56.3MPa、吸水率:0.60%であり、曲げ弾性率が高すぎ、曲げ強度の劣る特性であった。
【0085】
比較例2
成分(C)の9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド(三光(株)製、商品名「Sanko Epoclean」)を用いない以外は、実施例1と同様に配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:149℃、光透過率(400nm):80.5T%、光透過率(380nm):72.8T%、曲げ弾性率:2420MPa、曲げ強度:104MPa、吸水率:0.38%であり、優れた耐熱性、透明性、曲げに対する特性などを有していたものの、本比較例に用いた主剤の粘度安定性を確認すると5620mPa・sであった(主剤配合後の粘度:408mPa・s)。
【0086】
比較例3
成分(C)のビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト((株)ADEKA製、商品名「アデカスタブPEP−36」)を用いない以外は、実施例3と同様に配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
得られた液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を上記の条件で熱硬化させ、それぞれの物性を測定した。結果、該樹脂硬化物は、ガラス転移温度:147.2℃、光透過率(400nm):84.6T%、光透過率(380nm):80.9T%、曲げ弾性率:2360MPa、曲げ強度:109MPa、吸水率:0.63%であり、優れた耐熱性、透明性、曲げに対する特性などを有していたものの、比較例に用いた主剤の粘度安定性を確認すると12,480mPa・sであった(主剤配合後の粘度:990mPa・s)。
【0087】
上記のように、前記各成分(A)、(B)、(C)の主剤、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)または(A)、(B)、(C)、(D’)を配合した樹脂組成物から調製された硬化物においては、透明性(光の透過率)を低下させず、低弾性率化、高曲げ強度化を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、硬化不良部位の発生という問題がなく、光学的に均質であり、透明性が高い。また、ガラス転移温度が高く耐熱性に優れ、低曲げ弾性率、高曲げ強度であり、ヒートサイクル性の問題を生じない。さらには、主剤の貯蔵安定性が優れるため、取り扱いが容易である。このため、光半導体などの封止用途、電子部品の接着用途などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとで構成される主剤、(D)硬化剤及び(E)硬化促進剤を含む液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとで構成される主剤、及び(D’)硬化触媒を含む液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物:95〜50重量部
(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール:5〜50重量部
(C)亜リン酸エステル:0.005〜5重量部
からなる主剤[成分(A)と成分(B)の合計量は100重量部である]および
(D)硬化剤:成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、50〜150重量部
(E)硬化促進剤:成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、0.05〜5重量部
を配合してなる請求項1に記載の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物:95〜50重量部
(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオール:5〜50重量部
(C)亜リン酸エステル:0.005〜5重量部
からなる主剤[成分(A)と成分(B)の合計量は100重量部である]および
(D’)硬化触媒:成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して、0.01〜15重量部
を配合してなる請求項2に記載の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
光半導体封止用である請求項1〜4のいずれかの項に記載の液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
(A)分子内に環状脂肪族骨格と2個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物と、(B)2個以上の末端水酸基を有するポリエステルポリオールおよび/またはポリカーボネートポリオールと、(C)亜リン酸エステルとを含む液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
光半導体封止用である請求項6に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物。
【請求項9】
光学的に均質である請求項8に記載の樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項5又は7に記載の光半導体封止用のエポキシ樹脂組成物によって光半導体素子が封止されてなる光半導体装置。

【公開番号】特開2012−52052(P2012−52052A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197300(P2010−197300)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】