説明

燃料噴射装置の異常判定方法

【課題】噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる燃料噴射装置を対象とした異常判定方法を提供する。
【解決手段】インジェクタ(燃料噴射弁)と、コモンレール(蓄圧容器)に対して噴射孔に近い側に配置されて燃料圧力を検出する圧力センサと、を備えた燃料噴射装置の異常を判定する方法であって、噴射指令信号の出力後に現れる圧力センサの検出圧力の変動態様を試験により測定する測定手順(M20)と、その測定手順(M20)にて測定された前記変動態様と、基準となる基準変動態様とのずれ量が、予め設定された閾値よりも大きい場合に前記異常であると判定する異常判定手順(M21)と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄圧容器から分配される燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた燃料噴射装置の異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン(内燃機関)の燃焼に用いる燃料を高圧状態でコモンレール(蓄圧容器)に蓄圧させ、コモンレールから各気筒に向けて燃料を分配して燃料噴射弁から噴射するコモンレール式の燃料噴射装置が知られている。この種の従来装置は、コモンレールに取り付けられた圧力センサ(レール圧センサ)により蓄圧された燃料の圧力を検出し、その検出結果に基づき、コモンレールに燃料を供給する燃料ポンプ等、燃料供給系を構成する各種装置の駆動を制御するのが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の燃料噴射装置では、燃料噴射弁の開弁時間Tqを制御することで噴射量Qを制御している。そして、同じ型式の燃料噴射弁であっても開弁時間と噴射量との関係には個体差があるため、燃料噴射弁を工場出荷する前にその噴射特性(Tq−Q特性)を試験している。試験により得られた噴射特性は個体差情報としてQRコード(登録商標)に記憶され、そのQRコードは燃料噴射弁に貼り付けられている。
【0004】
QRコードに記憶された個体差情報はスキャナ装置により読み込まれ、その後、エンジンの運転状態を制御するエンジンECUに記憶される。そして、燃料噴射弁をエンジンに搭載した工場出荷後の状態において、エンジンECUは、記憶された個体差情報を用いて開弁時間Tqを制御し、これにより噴射量Qを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−200378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら近年では、工場出荷後のエンジン搭載状態において1回の開弁による噴射量Qを制御するのみならず、その噴射の実噴射開始時期や最大噴射率到達時期等、噴射量Q以外についての噴射状態をも詳細に制御することが要求されている。つまり、同じ噴射量Qであっても実噴射開始時期や最大噴射率到達時期等の噴射状態が異なれば、エンジンの燃焼状態が異なり、ひいてはエンジンの出力トルクや排気の状態が異なってくる。
【0007】
特に、ディーゼルエンジンにおいて1燃焼サイクルあたりに複数回燃料を噴射する多段噴射を行う燃料噴射装置では、噴射状態を制御するにあたり、噴射量Q以外の噴射状態(例えば実噴射開始時期や最大噴射率到達時期等)についても詳細に制御することが要求される。
【0008】
これに対し、燃料噴射弁の個体差情報としてTq−Q特性のみを試験して記憶させている上記特許文献1記載の装置では、噴射量Q以外の噴射状態については個体差を把握できていないので、噴射量Q以外の噴射状態までは高精度に制御することが困難である。
【0009】
上記課題に対し本発明者らは、蓄圧容器に対して噴射孔に近い側に配置された圧力センサを備えることで、燃料噴射弁の噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる燃料噴射装置を検討した。そしてさらに、このような燃料噴射装置の異常を容易に判定できる異常判定方法を想起した。
【0010】
本発明は、噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる燃料噴射装置を対象とした異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0012】
本発明者らは、先述の如く蓄圧容器に対して噴射孔に近い側に配置された圧力センサを備える燃料噴射装置については、以下に説明する請求項1〜8のいずれか1つに記載の異常判定方法を採用することで、燃料噴射装置の異常を容易に判定できることを想起した。
【0013】
すなわち、請求項1記載の発明では、噴射指令信号の出力後に現れる、前記圧力センサの検出圧力の変動態様を、試験により測定する測定手順と、前記測定手順にて測定された前記変動態様と、基準となる基準変動態様とのずれ量が、予め設定された閾値よりも大きい場合に前記異常であると判定する異常判定手順と、を有することを特徴とする。
【0014】
圧力センサの取付位置ばらつきや圧力センサの個体差ばらつきが許容範囲を超えて大きい場合には、測定された変動態様と基準変動態様とのずれ量が閾値よりも大きくなるので、測定手順及び異常判定手順を有する上記請求項1記載の発明によれば、このような圧力センサの異常を容易に判定できる。これらの手順の実施場所としては、燃料噴射弁を工場出荷する前の製造工場や、市場出荷後に各種修理及び検査を行うサービス工場等が挙げられる。
【0015】
請求項2記載の発明では、前記測定手順では、前記噴射孔からの燃料噴射開始から、前記燃料噴射開始に伴う前記圧力センサの検出圧力の変動が生じる時までの噴射応答遅れ時間を、前記変動態様として測定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項3記載の発明では、異常判定の対象となる燃料噴射弁及び圧力センサとは別のマスター燃料噴射弁及びマスターセンサについて、噴射指令信号の出力後に現れる、前記マスターセンサの検出圧力の変動態様である既知の基準変動態様を、試験により測定する第1測定手順と、異常判定の対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて、前記変動態様を試験により測定する第2測定手順と、前記第2測定手順にて測定された前記変動態様と前記基準変動態様との誤差量が、予め設定された閾値よりも大きい場合に前記異常であると判定する異常判定手順と、を有することを特徴とする。
【0017】
圧力センサの取付位置ばらつきや圧力センサの個体差ばらつきが許容範囲を超えて大きい場合、或いは、燃料噴射弁の個体差ばらつきに起因した指令−噴射遅れ時間(無効時間)のばらつきが許容範囲を超えて大きい場合には、測定された変動態様と基準変動態様との誤差量が閾値よりも大きくなるので、第1測定手順、第2測定手順及び異常判定手順を有する上記請求項3記載の発明によれば、このような圧力センサ又は燃料噴射弁の異常を容易に判定できる。これらの手順の実施場所としては、燃料噴射弁を工場出荷する前の製造工場や、市場出荷後に各種修理及び検査を行うサービス工場等が挙げられる。
【0018】
請求項4記載の発明では、前記第1測定手順では、噴射開始指令信号が出力されてから、前記噴射孔からの燃料噴射開始に伴う前記マスターセンサの検出圧力の変動が生じる時までの指令−検出遅れ時間である基準時間を、前記基準変動態様として測定し、前記第2測定手順では、噴射開始指令信号が出力されてから、前記噴射孔からの燃料噴射開始に伴う前記圧力センサの検出圧力の変動が生じる時までの指令−検出遅れ時間を、前記変動態様として測定することを特徴とする。
【0019】
本発明者らは、上記異常判定方法に適用される燃料噴射装置について、以下の発明も想起している。
【0020】
〔発明1〕燃料を蓄圧する蓄圧容器から分配される燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置され、燃料圧力を検出する圧力センサと、試験により得られた前記燃料噴射弁の噴射特性を示す個体差情報が記憶された記憶手段と、を備え、前記試験の対象となる燃料噴射弁及び圧力センサとは別のマスター燃料噴射弁及びマスターセンサについて、噴射指令信号の出力後に現れる、前記マスターセンサの検出圧力の変動態様を既知の基準変動態様とした場合において、前記個体差情報は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた前記変動態様と前記基準変動態様との誤差量であることを特徴とする。
【0021】
ところで、燃料噴射弁の噴射孔における燃料の圧力は燃料の噴射に伴い変動する。そして、このような噴射孔での圧力変動と噴射状態(例えば実噴射開始時期や最大噴射率到達時期等)とは相関が強い。本発明者はこの点に着目しており、前記圧力変動を検出することで噴射量Q以外の噴射状態まで詳細に検知することを検討した。しかしながら上記特許文献1記載の装置では、圧力センサ(レール圧センサ)は、蓄圧容器内の燃料圧力を検出することを目的としているため蓄圧容器に取り付けられている。そのため、噴射に伴い生じる圧力変動は蓄圧容器内で減衰してしまう。よって、こうした従来装置では前記圧力変動を精度よく検出することは困難である。
【0022】
これに対し本発明では、圧力センサを、蓄圧容器から噴射孔に至るまでの燃料通路のうち蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置しているので、噴射孔での圧力変動を蓄圧容器内で減衰する前に検出することができる。よって、噴射に伴い生じる圧力変動を精度よく検出することができるので、その検出結果を用いて噴射状態を詳細に検知することができる。これにより、燃料噴射弁の噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる。
【0023】
また、上記発明1によれば、マスター燃料噴射弁及びマスターセンサ(以下、単にマスター装置と呼ぶ)の噴射特性を予め測定して既知の値としておけば、その既知の値と前記誤差量とに基づき、試験対象となる燃料噴射弁の噴射特性が算出可能となる。
【0024】
さらに上記発明1によれば、内燃機関の各種制御に用いる各種パラメータをマスター装置について適合させた適合値を測定しておき、記憶手段に記憶された誤差量に応じて前記適合値を補正すれば、試験対象の燃料噴射弁に対する適合値を容易に取得することができる。なお、上記各種パラメータの具体例としては、機関回転速度NE及び機関負荷に対する最適噴射パターン(噴射量、噴射時期、多段噴射における各段の噴射量及び噴射時期等)等が挙げられる。
【0025】
〔発明2〕噴射指令信号が出力された時点から、前記マスターセンサの検出圧力の変動が生じる変動発生時点までの指令−検出遅れ時間を前記基準変動態様とし、前記誤差量は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた前記指令−検出遅れ時間と前記基準時間との指令−検出誤差量であることを特徴とする。
【0026】
これによれば、マスター装置の噴射特性を予め測定して既知の値としておけば、その既知の値と指令−検出誤差量(ΔT10)とに基づき、試験対象となる燃料噴射弁について、例えば応答遅れ時間(T1)等が算出可能となる。なお、前記既知の値の具体例としては、燃料噴射開始から、噴射孔からの燃料噴射開始に伴う圧力センサの検出圧力の変動が生じる時までの噴射−検出遅れ時間(図13中の符号T1m参照)が挙げられる。この場合、記憶手段に記憶された指令−検出誤差量(ΔT10)に、マスター装置の噴射−検出遅れ時間(T1m)を加算することで、応答遅れ時間(T1)を算出できる。
【0027】
さらに上記発明2によれば、内燃機関の各種制御に用いる各種パラメータをマスター装置について適合させた適合値を測定しておき、記憶手段に記憶された指令−検出誤差量(ΔT10)に応じて前記適合値を補正すれば、試験対象の燃料噴射弁に対する適合値を容易に取得することができる。なお、上記各種パラメータの具体例としては、機関回転速度NE及び機関負荷に対する最適噴射パターン(噴射量、噴射時期、多段噴射における各段の噴射量及び噴射時期等)等が挙げられる。
【0028】
〔発明3〕前記マスター燃料噴射弁及び前記マスター圧力センサについて、前記噴射指令信号が出力されてから前記燃料噴射開始までの指令−噴射遅れ時間を既知の基準無効時間とした場合において、前記個体差情報は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた前記指令−噴射遅れ時間と前記基準無効時間との無効誤差量、又は前記指令−検出誤差量から前記無効誤差量を差し引いて得られるセンサ誤差量を含むことを特徴とする。
【0029】
ここで、指令−検出誤差量には、燃料噴射弁の個体差ばらつきに起因した無効誤差量と、圧力センサの取付位置ばらつきや圧力センサの個体差ばらつきに起因したセンサ誤差量とが含まれている。なお、図13の例では無効誤差量はゼロであるため、指令−検出誤差量ΔT10=センサ誤差量ΔT10となっている。したがって、指令−検出誤差量ΔT10に加えて無効誤差量又はセンサ誤差量を記憶手段に記憶させる上記発明3によれば、指令−検出誤差量に含まれる無効誤差量及びセンサ誤差量の内訳をも情報として取得できるので、燃料噴射弁の噴射状態を、より一層詳細かつ高精度に制御できる。
【0030】
前記変動発生時点の具体例として、以下の発明4が挙げられる。すなわち、前記変動発生時点とは、実噴射開始に伴い生じる変動発生時点(P3,P3m)、最大噴射率到達に伴い生じる変動発生時点(P4,P4m)、噴射率降下開始に伴い生じる変動発生時点(P7,P7m)、及び実噴射終了に伴い生じる変動発生時点(P8,P8m)のいずれかであることを特徴とする。これによれば、試験対象となる燃料噴射弁の噴射特性を好適に算出できる。
【0031】
〔発明5〕噴射率の上昇に起因して前記マスターセンサの検出圧力が下降したときの下降率(Pαm)を前記基準変動態様とし、前記誤差量は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた前記下降率と前記基準変動態様との下降率誤差量であることを特徴とする。これによれば、試験対象となる燃料噴射弁の噴射特性を好適に算出できる。
【0032】
〔発明6〕噴射率の下降に起因して前記マスターセンサの検出圧力が上昇したときの上昇率(Pγm)を前記基準変動態様とし、前記誤差量は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた前記上昇率と前記基準変動態様との上昇率誤差量であることを特徴とする。これによれば、試験対象となる燃料噴射弁の噴射特性を好適に算出できる。
【0033】
〔発明7〕噴射開始から最大噴射率到達までの期間に対応して生じた前記マスターセンサの検出圧力の降下量(Pβm)を前記基準変動態様とし、前記誤差量は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた前記降下量と前記基準変動態様との降下誤差量であることを特徴とする。これによれば、試験対象となる燃料噴射弁の噴射特性を好適に算出できる。
【0034】
〔発明8〕前記個体差情報は、前記燃料噴射弁への燃料の供給圧力を異ならせた複数パターンの試験条件で試験されており、前記複数パターンの各々と対応付けて複数記憶されていることを特徴とする。これによれば、噴射状態と検出圧力の変動との関連が燃料噴射弁への燃料の供給圧力によって異なる場合であっても、噴射状態を制御するにあたり供給圧力に応じた個体差情報を用いて制御できるので、噴射状態を高精度に制御できる。
【0035】
〔発明9〕前記記憶手段はICメモリであることを特徴とする。よって、従来用いていたQRコード(登録商標)に比べて記憶手段の記憶容量を容易に大きくできるので、個体差情報の情報量が多くなることに容易に対応でき、好適である。
【0036】
〔発明10〕上記発明にかかる燃料噴射装置と、燃料を蓄圧するとともにその蓄圧燃料を複数の前記燃料噴射弁に分配する蓄圧容器と、を備えることを特徴とする燃料噴射システムである。この燃料噴射システムによれば、上述の各種効果を同様に発揮することができる。
【0037】
ここで、上記発明1では、燃料噴射装置が備える圧力センサの検出圧力及び燃料噴射弁を組み合わせて試験した結果得られた個体差情報を用いるので、内燃機関の運転時に実際に用いる圧力センサの検出特性が個体差情報に反映される。
【0038】
より詳細に説明すると、圧力センサの検出特性にも個体差があり、同じ圧力であっても出力電圧が異なる場合がある。よって、工場出荷前の上記試験を実施するにあたり、燃料噴射装置が備える圧力センサとは異なる圧力センサを用いて試験すると、内燃機関の運転時に実際に用いる圧力センサの検出特性が個体差情報に反映されないこととなる。これに対し本発明では、「前記個体差情報は、前記試験対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて試験により得られた・・・誤差量である」との構成要件を備える。つまり、燃料噴射装置が備える圧力センサの検出圧力及び燃料噴射弁を組み合わせて試験した結果得られた個体差情報を用いている。よって、内燃機関の運転時に実際に用いる圧力センサの検出特性が個体差情報に反映されるので、燃料噴射弁の噴射状態を高精度に制御できる。
【0039】
そこで、請求項5記載の発明の如く圧力センサを燃料噴射弁に取り付けるように構成すれば、工場出荷前の噴射特性試験で用いた圧力センサを、対応する燃料噴射弁とは別の燃料噴射弁に対して組み付けてしまうといった組み付け誤作業を防止できる。
【0040】
しかも、上記請求項5記載の発明によれば、蓄圧容器と燃料噴射弁とを接続する配管に圧力センサを取り付ける場合に比べて、圧力センサの取り付け位置が燃料噴射弁の噴射孔に近い位置となる。よって、噴射孔での圧力変動が前記配管にて減衰してしまった後の圧力変動を検出する場合に比べて、噴射孔での圧力変動をより的確に検出することができる。
【0041】
上述の如く圧力センサを燃料噴射弁に取り付けるにあたり、請求項6記載の発明では前記燃料噴射弁の燃料流入口に取り付けることを特徴とし、請求項7記載の発明では、前記燃料噴射弁の内部に取り付け、前記燃料噴射弁の燃料流入口から前記噴射孔に至るまでの内部燃料通路の燃料圧力を検出することを特徴とする。
【0042】
上述の如く燃料流入口に取り付ける場合には、燃料噴射弁の内部に取り付ける場合に比べて圧力センサの取付構造を簡素にできる。一方、燃料噴射弁の内部に取り付ける場合には、燃料流入口に取り付ける場合に比べて圧力センサの取り付け位置が燃料噴射弁の噴射孔に近い位置となるので、噴射孔での圧力変動をより的確に検出することができる。
【0043】
請求項8記載の発明では、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の燃料流入口までの燃料通路には、蓄圧容器内の燃料の圧力脈動を減衰させるオリフィスが備えられており、前記圧力センサは前記オリフィスの燃料流れ下流側に配置されていることを特徴とする。ここで、前記オリフィスの上流側に圧力センサを配置した場合には、噴射孔での圧力変動がオリフィスにより減衰してしまった後の圧力変動を検出することとなる。これに対し上記請求項8記載の発明によれば、オリフィスの下流側に圧力センサを配置するので、オリフィスにより減衰する前の状態の圧力変動を検出することができ、噴射孔での圧力変動をより的確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態について、該システムの概略を示す構成図。
【図2】同システムに用いられる燃料噴射弁の内部構造を模式的に示す内部側面図。
【図3】本実施形態に係る燃料噴射制御処理の基本的な手順を示すフローチャート。
【図4】本実施形態に係る噴射特性試験の概要を示す図。
【図5】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図6】個体差情報の算出作業及びICメモリへの書き込み作業の手順を示す図。
【図7】個体差情報の算出作業及びICメモリへの書き込み作業の手順を示す図。
【図8】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図9】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図10】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図11】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図12】(a)及び(b)は、それぞれ本実施形態に係る噴射特性の検出態様を示すタイミングチャート。
【図13】本発明の第2実施形態について、マスター装置による基準特性及び誤差量を説明するタイミングチャート。
【図14】第2実施形態において、試験対象となる燃料噴射装置の異常を判定するための手順を示す図。
【図15】本発明の第3実施形態について、試験対象となる燃料噴射装置の異常を判定するための手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明に係る燃料噴射装置及び燃料噴射システムを具体化した各実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0046】
(第1実施形態)
本実施形態の装置は、例えば4輪自動車用エンジン(内燃機関)を対象にするコモンレール式燃料噴射システムに搭載されており、ディーゼルエンジンのエンジンシリンダ内の燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射供給(直噴供給)する際に用いられる。
【0047】
はじめに、図1を参照して、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射システム(車載エンジンシステム)の概略について説明する。なお、本実施形態では多気筒(例えば直列4気筒)エンジンを想定している。詳しくは、4ストロークのレシプロ式ディーゼルエンジン(内燃機関)である。このエンジンでは、吸排気弁のカム軸に設けられた気筒判別センサ(電磁ピックアップ)にてその時の対象シリンダが逐次判別され、4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらしてシリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。図中のインジェクタ20(燃料噴射弁)は、燃料タンク10側から、それぞれシリンダ#1,#2,#3,#4用のインジェクタである。
【0048】
同図1に示されるように、このシステムは、大きくは、ECU(電子制御ユニット)30が、各種センサからのセンサ出力(検出結果)を取り込み、それら各センサ出力に基づいて燃料供給系を構成する各装置の駆動を制御するように構成されている。ECU30は、吸入調整弁11cに対する電流供給量を調整して燃料ポンプ11の燃料吐出量を所望の値に制御することで、コモンレール12(蓄圧容器)内の燃料圧力(圧力センサ20aにて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御(例えばPID制御)している。そして、その燃料圧力に基づいて、対象エンジンの所定シリンダに対する燃料噴射量、ひいては同エンジンの出力(出力軸の回転速度やトルク)を所望の大きさに制御している。
【0049】
燃料供給系を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、コモンレール12、及びインジェクタ20の順に配設されている。このうち、燃料タンク10と燃料ポンプ11とは、燃料フィルタ10bを介して配管10aにより接続されている。
【0050】
ここで、燃料タンク10は、対象エンジンの燃料(軽油)を溜めておくためのタンク(容器)である。また、燃料ポンプ11は、高圧ポンプ11a及び低圧ポンプ11bを有し、低圧ポンプ11bによって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を、高圧ポンプ11aにて加圧して吐出するように構成されている。そして、高圧ポンプ11aに送られる燃料圧送量、ひいては燃料ポンプ11の燃料吐出量は、燃料ポンプ11の燃料吸入側に設けられた吸入調整弁(SCV:Suction Control Valve)11cによって調量されるようになっている。すなわち、この燃料ポンプ11では、吸入調整弁11c(例えば非通電時に開弁するノーマリオン型の調整弁)の駆動電流量(ひいては弁開度)を調整することで、同ポンプ11からの燃料吐出量を所望の値に制御することができるようになっている。
【0051】
燃料ポンプ11を構成する2種のポンプのうち、低圧ポンプ11bは、例えばトロコイド式のフィードポンプとして構成されている。これに対し、高圧ポンプ11aは、例えばプランジャポンプからなり、図示しない偏心カムにて所定のプランジャ(例えば3本のプランジャ)をそれぞれ軸方向に往復動させることにより加圧室に送られた燃料を逐次所定のタイミングで圧送するように構成されている。いずれのポンプも、駆動軸11dによって駆動されるものである。ちなみにこの駆動軸11dは、対象エンジンの出力軸であるクランク軸41に連動し、例えばクランク軸41の1回転に対して「1/1」又は「1/2」等の比率で回転するようになっている。すなわち、上記低圧ポンプ11b及び高圧ポンプ11aは、対象エンジンの出力によって駆動される。
【0052】
こうした燃料ポンプ11により燃料タンク10から燃料フィルタ10bを介して汲み上げられた燃料は、コモンレール12へ加圧供給(圧送)される。そして、コモンレール12は、その燃料ポンプ11から圧送された燃料を高圧状態で蓄えてこれを、シリンダ毎に設けられた高圧配管14を通じて、各シリンダ#1〜#4のインジェクタ20へそれぞれ分配供給する。これらインジェクタ20(#1)〜(#4)の燃料排出口21は、それぞれ余分な燃料を燃料タンク10へ戻すための配管18とつながっている。また、コモンレール12と高圧配管14との間には、コモンレール12から高圧配管14に流れる燃料の圧力脈動を減衰させるオリフィス12a(燃料脈動軽減手段)が備えられている。
【0053】
図2に、上記インジェクタ20の詳細構造を示す。なお、上記4つのインジェクタ20(#1)〜(#4)は基本的には同様の構造(例えば図2に示す構造)となっている。いずれのインジェクタ20も、燃焼用のエンジン燃料(燃料タンク10内の燃料)を利用した油圧駆動式の燃料噴射弁であり、燃料噴射に際しての駆動動力の伝達が油圧室Cd(制御室)を介して行われる。同図2に示されるように、このインジェクタ20は、非通電時に閉弁状態となるノーマリクローズ型の燃料噴射弁として構成されている。
【0054】
インジェクタ20のハウジング20eに形成された燃料流入口22には、コモンレール12から送られてくる高圧燃料が流入し、流入した高圧燃料の一部は油圧室Cdに流入し、他は噴射孔20fに向けて流れる。油圧室Cdには制御弁23により開閉されるリーク孔24が形成されており、制御弁23によりリーク孔24が開放されると、油圧室Cdの燃料はリーク孔24から燃料排出口21を経て燃料タンク10に戻される。
【0055】
このインジェクタ20の燃料噴射に際しては、二方電磁弁を構成するソレノイド20bに対する通電状態(通電/非通電)に応じて制御弁23を作動させることで、油圧室Cdの密閉度合、ひいては同油圧室Cdの圧力(ニードル弁20cの背圧に相当)が増減される。そして、その圧力の増減により、スプリング20d(コイルばね)の伸張力に従って又は抗して、ニードル弁20cがハウジング20e内を往復動(上下)することで、噴射孔20f(必要な数だけ穿設)までの燃料供給通路25が、その中途(詳しくは往復動に基づきニードル弁20cが着座又は離座するテーパ状のシート面)で開閉される。
【0056】
ここで、ニードル弁20cの駆動制御は、オンオフ制御を通じて行われる。すなわち、ニードル弁20cの駆動部(上記二方電磁弁)には、ECU30からオンオフを指令するパルス信号(通電信号)が送られる。そして、パルスオン(又はオフ)によりニードル弁20cがリフトアップして噴射孔20fが開放され、パルスオフ(又はオン)によりリフトダウンして噴射孔20fが閉塞される。
【0057】
ちなみに、上記油圧室Cdの増圧処理は、コモンレール12からの燃料供給によって行われる。他方、油圧室Cdの減圧処理は、ソレノイド20bへの通電により制御弁23を作動させてリーク孔24を開放させることによって行われる。これにより、当該インジェクタ20と燃料タンク10とを接続する配管18(図1)を通じてその油圧室Cd内の燃料が上記燃料タンク10へ戻される。つまり、油圧室Cd内の燃料圧力を制御弁23の開閉作動により調整することで、噴射孔20fを開閉するニードル弁20cの作動が制御される。
【0058】
このように、上記インジェクタ20は、弁本体(ハウジング20e)内部での所定の往復動作に基づいて噴射孔20fまでの燃料供給通路25を開閉(開放・閉鎖)することにより当該インジェクタ20の開弁及び閉弁を行うニードル弁20cを備える。そして、非駆動状態では、定常的に付与される閉弁側への力(スプリング20dによる伸張力)でニードル弁20cが閉弁側へ変位するとともに、駆動状態では、駆動力が付与されることにより上記スプリング20dの伸張力に抗してニードル弁20cが開弁側へ変位する。そしてこの際、それら非駆動状態と駆動状態とでは、ニードル弁20cのリフト量が略対称に変化する。
【0059】
インジェクタ20には、燃料圧力を検出する圧力センサ20a(図1も併せ参照)が取り付けられている。具体的には、ハウジング20eに形成された燃料流入口22と高圧配管14とを治具20jで連結させ、この治具20jに圧力センサ20aを取り付けている。なお、インジェクタ20を製造工場から出荷する段階では、治具20j、圧力センサ20a及び後述のICメモリ26(図1及び図4参照)がインジェクタ20に取り付けられた状態で出荷される。
【0060】
このようにインジェクタ20の燃料流入口22に圧力センサ20aを取り付けることで、燃料流入口22における燃料圧力(インレット圧)の随時の検出が可能とされている。具体的には、この圧力センサ20aの出力により、当該インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の変動パターンや、燃料圧力レベル(安定圧力)、燃料噴射圧力等を検出(測定)することができる。
【0061】
圧力センサ20aは、複数のインジェクタ20(#1)〜(#4)の各々に対して設けられている。そして、これら圧力センサ20aの出力に基づいて、所定の噴射について、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の変動パターンを高い精度で検出することができるようになっている(詳しくは後述)。
【0062】
また、図示しない車両(例えば4輪乗用車又はトラック等)には、上記各センサの他にもさらに、車両制御のための各種のセンサが設けられている。例えば対象エンジンの出力軸であるクランク軸41の外周側には、所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ42(例えば電磁ピックアップ)が、同クランク軸41の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度)等を検出するために設けられている。また、アクセルペダルの状態(変位量)に応じた電気信号を出力するアクセルセンサ44が、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検出するために設けられている。
【0063】
こうしたシステムの中で、本実施形態の燃料噴射装置として機能するとともに、電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU30である。このECU30(エンジン制御用ECU)は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいて対象エンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記吸入調整弁11cやインジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。
【0064】
また、このECU30に搭載されるマイクロコンピュータは、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM、プログラムメモリとしてのROM、データ保存用メモリとしてのEEPROM、バックアップRAM(ECU30の主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)等を備えて構成されている。そして、ROMには、当該燃料噴射制御に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、対象エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
【0065】
本実施形態では、ECU30が、随時入力される各種のセンサ出力(検出信号)に基づいて、その時に出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(要求トルク)、ひいてはその要求トルクを満足するための燃料噴射量を算出する。こうして、インジェクタ20の燃料噴射量を可変設定することで、各シリンダ内(燃焼室)での燃料燃焼を通じて生成されるトルク(生成トルク)、ひいては実際に出力軸(クランク軸41)へ出力される軸トルク(出力トルク)を制御する(要求トルクへ一致させる)ようになっている。
【0066】
すなわち、このECU30は、例えば時々のエンジン運転状態や運転者によるアクセルペダルの操作量等に応じた燃料噴射量を算出し、所望の噴射時期に同期して、その燃料噴射量での燃料噴射を指示する噴射制御信号(駆動量)を上記インジェクタ20へ出力する。そしてこれにより、すなわち同インジェクタ20の駆動量(例えば開弁時間)に基づいて、対象エンジンの出力トルクが目標値へ制御されることになる。
【0067】
なお周知のように、ディーゼルエンジンにおいては、定常運転時、新気量増大やポンピングロス低減等の目的で、同エンジンの吸気通路に設けられた吸気絞り弁(スロットル弁)が略全開状態に保持される。したがって、定常運転時の燃焼制御(特にトルク調整に係る燃焼制御)としては燃料噴射量のコントロールが主となっている。
【0068】
以下、図3を参照して、本実施形態に係る燃料噴射制御の基本的な処理手順について説明する。なお、この図3の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、対象エンジンの各シリンダについてそれぞれ1燃焼サイクルにつき1回の頻度で順に実行される。すなわち、このプログラムにより、1燃焼サイクルで休止シリンダを除く全てのシリンダに燃料の供給が行われることになる。
【0069】
同図3に示すように、この一連の処理においては、まずステップS11で、所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度(クランク角センサ42による実測値)及び燃料圧力(燃圧センサ20aによる実測値)、さらには運転者によるその時のアクセル操作量(アクセルセンサ44による実測値)等を読み込む。
【0070】
続くステップS12では、上記ステップS11で読み込んだ各種パラメータに基づいて噴射パターンを設定する。例えば単段噴射の場合にはその噴射の噴射量(噴射時間)が、また多段噴射の噴射パターンの場合にはトルクに寄与する各噴射の総噴射量(総噴射時間)が、それぞれ上記出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(要求トルク、いわばその時のエンジン負荷に相当)に応じて可変設定される。そして、その噴射パターンに基づいて、上記インジェクタ20に対する指令値(指令信号)が設定されることになる。これにより、車両の状況等に応じて、前述したパイロット噴射、プレ噴射、アフタ噴射、ポスト噴射等が適宜メイン噴射と共に実行されることになる。
【0071】
なお、この噴射パターンは、例えば上記ROMに記憶保持された所定のマップ(噴射制御用マップ、数式でも可)及び補正係数に基づいて取得される。詳しくは、例えば予め上記所定パラメータ(ステップS11)の想定される範囲について試験により最適噴射パターン(適合値)を求め、その噴射制御用マップに書き込んでおく。ちなみに、この噴射パターンは、例えば噴射段数(1燃焼サイクル中の噴射回数)、並びにそれら各噴射の噴射時期(噴射タイミング)及び噴射時間(噴射量に相当)等のパラメータにより定められるものである。こうして、上記噴射制御用マップは、それらパラメータと最適噴射パターンとの関係を示すものとなっている。
【0072】
そして、この噴射制御用マップで取得された噴射パターンを、別途更新されている補正係数(例えばECU30内のEEPROMに記憶)に基づいて補正する(例えば「設定値=マップ上の値/補正係数」なる演算を行う)ことで、その時に噴射すべき噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応した上記インジェクタ20に対する指令信号を得る。補正係数(厳密には複数種の係数のうちの所定の係数)は、別途の処理により内燃機関の運転中に逐次更新されている。
【0073】
なお、上記噴射パターンの設定(ステップS12)には、同噴射パターンの要素(上記噴射段数等)毎に別々に設けられた各マップを用いるようにしても、あるいはこれら噴射パターンの各要素を幾つか(例えば全て)まとめて作成したマップを用いるようにしてもよい。
【0074】
こうして設定された噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応する指令値(指令信号)は、続くステップS13で使用される。すなわち、同ステップS13では、その指令値(指令信号)に基づいて(詳しくは上記インジェクタ20へその指令信号を出力して)、同インジェクタ20の駆動を制御する。そして、このインジェクタ20の駆動制御をもって、図3の一連の処理を終了する。
【0075】
次に、前述したステップS12で用いられる噴射制御用マップの作成手順について説明する。
【0076】
この噴射制御用マップは、インジェクタ20を工場出荷する前に予め試験された結果に基づき作成されている。噴射制御用マップを作成するための一連の手順を説明すると、先ず、インジェクタ20(#1)〜(#4)の各々について前記試験(噴射特性試験)を行い、その試験により得られたインジェクタ20の噴射特性を示す個体差情報を各々のICメモリ26(記憶手段)に記憶させる。その後、ECU30に備えられた通信手段31(図1及び図4参照)を介して、各々のICメモリ26からECU30へ個体差情報を送信する。当該送信は非接触の無線送信でもよいし有線送信でもよい。
【0077】
上記噴射特性試験は図4に示す態様で行われる。すなわち、インジェクタ20の先端を容器50内に入れる。その後、インジェクタ20の燃料流入口22に高圧燃料を供給して、噴射孔20fから容器50内に燃料を噴射させる。この時、高圧燃料の供給は図1に示す燃料ポンプ11を用いて供給してもよいし、図4に示す試験用の燃料ポンプ52を用いて供給してもよい。また、インジェクタ20に取り付けられた圧力センサ20aに、図1に示す高圧配管14及びコモンレール12が接続されている必要はなく、燃料ポンプ11(または試験用の燃料ポンプ52)から圧力センサ20aに高圧燃料を直接供給するようにしてもよい。
【0078】
容器50の内周面には歪みゲージ51が備えられている。この歪みゲージ51は試験噴射された燃料により変化する圧力を検出し、その検出値を計測器53に出力する。計測器53は、マイコン等からなる制御部を備えており、当該制御部を用いて、歪みゲージ51の検出値(噴射圧力)に基づきインジェクタ20からの燃料の噴射率を算出する。インジェクタ20のソレノイド20bに入力される指令信号は、図4に示すように計測器53から出力されている。圧力センサ20aによる検出値(検出圧力)は計測器53に入力される。
【0079】
なお、歪みゲージ51で検出した噴射圧力により噴射率の変化を算出することに替え、噴射指令内容から噴射率の変化を推定するようにしてもよい。この場合には歪みゲージ51を不要にできる。
【0080】
図5は、上記試験による各種値の時間変化を示すものであり、図5(a)はソレノイド20bに入力される指令信号(駆動電流)の変化、図5(b)は噴射率の変化、図5(c)は圧力センサ20aによる検出圧力の変化を示す。当該試験結果は噴射孔20fを1回開閉させた場合の結果である。
【0081】
本実施形態ではこのような試験を、燃料流入口22への燃料供給圧力(図5(c)中のP1以前の圧力P0)を互いに異ならせた複数パターンの試験条件で行っている。これは、噴射特性のばらつきが、インジェクタ20の個体差によって一義的に定まらないことによる。すなわち、噴射特性のばらつきは、燃料供給圧力(コモンレール12内の圧力)によっても変化する。そこで本実施形態では、燃料供給圧力を様々に設定したときの実測値を用いることで、燃料供給圧力による影響を適切に加味しつつ個体差による噴射特性のばらつきを補償する。
【0082】
図5(b)に示す噴射率の変化について説明すると、先ず、符号Isの時点でソレノイド20bへの通電を開始した後、噴射孔20fから燃料が噴射開始されることに伴い、噴射率は変化点R3にて上昇を開始する。つまり実際の噴射が開始される。その後、変化点R4にて最大噴射率に到達し、噴射率の上昇は停止する。これは、R3の時点でニードル弁20cがリフトアップを開始してR4の時点でリフトアップ量が最大になったことに起因する。
【0083】
なお、本明細書における「変化点」は次のように定義される。すなわち、噴射率(又は圧力センサ20aの検出圧力)の2階微分値を算出し、その2階微分値の変化を示す波形の極値(変化が最大となる点)、つまり2階微分値波形の変曲点が、噴射率又は検出圧力の波形の変化点である。
【0084】
次に、符号Ieの時点でソレノイド20bへの通電を遮断した後、変化点R7にて噴射率は下降を開始する。その後、変化点R8にて噴射率はゼロとなり、実際の噴射が終了する。これは、R7の時点でニードル弁20cがリフトダウンを開始し、R8の時点で完全にリフトダウンして噴射孔20fが閉弁されたことに起因する。
【0085】
図5(c)に示す圧力センサ20aの検出圧力の変化について説明すると、変化点P1以前の圧力P0は試験条件としての燃料供給圧力であり、先ず、駆動電流がレノイド20bに流れた後、噴射率がR3の時点で上昇を開始する前に、検出圧力は変化点P1にて下降する。これは、P1の時点で制御弁23がリーク孔24を開放し、油圧室Cdが減圧処理されることに起因する。その後、油圧室Cdが十分に減圧された時点で、変化点P2にてP1からの下降が一旦停止する。
【0086】
次に、R3の時点で噴射率が上昇を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P3にて下降を開始する。その後、R4の時点で噴射率が最大噴射率に到達したことに伴い、検出圧力の下降は変化点P4にて停止する。なお、変化点P3からP4までの下降量は、P1からP2までの下降量に比べて大きい。
【0087】
次に、検出圧力は変化点P5にて上昇する。これは、P5の時点で制御弁23がリーク孔24を閉塞し、油圧室Cdが増圧処理されることに起因する。その後、油圧室Cdが十分に増圧された時点で、変化点P6にてP5からの上昇が一旦停止する。
【0088】
次に、R7の時点で噴射率が下降を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P7にて上昇を開始する。その後、R8の時点で噴射率がゼロになり実際の噴射が終了したことに伴い、検出圧力の上昇は変化点P8にて停止する。なお、変化点P7から変化点P8までの上昇量はP5からP6までの上昇量に比べて大きい。P8以降の検出圧力は、一定の周期Tb(図8参照)で下降と上昇を繰り返しながら減衰する。
【0089】
噴射制御用マップを作成するにあたり、先ず、図5に示す試験結果から得られる噴射特性(つまり図5に示す検出圧力変化及び噴射率変化)に基づき、後述する個体差情報A1〜A7,B1,B2,C1〜C3を算出する。そして、算出した各種個体差情報をICメモリ26に記憶させる。その後、ICメモリ26に記憶された個体差情報をECU30へ送信し、ECU30にて個体差情報に基づき噴射制御用マップを作成(調整)する。
【0090】
<個体差情報A1〜A7について>
次に、個体差情報A1〜A7の内容を詳細に説明するとともに、これら個体差情報A1〜A7の算出作業及びICメモリ26への書き込み作業の手順を、図6及び図7を用いて説明する。なお、本実施形態では、上記算出作業及び書込作業(図6及び図7に示す作業)は計測器53を用いて計測作業者により実行される。なお、図6及び図7に相当する一連の作業を、計測器53が自動で実行するようにしてもよい。
【0091】
ここで、圧力センサ20aはインジェクタ20に取り付けられている。つまり、コモンレール12から噴射孔20fに至るまでの燃料通路のうちコモンレール12に対して燃料流れ下流側(噴射孔20fに近い側)に圧力センサ20aは配置されることとなる。そのため、圧力センサ20aの検出圧力の波形には、コモンレール12に取り付けた場合には得ることのできなかった噴射率の変化に起因した変動を情報として得ることができる。そして、このような検出圧力の変動は、図5の試験結果から分かるように噴射率の変化との相関が強い。よって、この相関に基づき、検出圧力の波形の変動から実際の噴射率の変化を推定することが可能となる。
【0092】
個体差情報A1〜A7は、このような噴射率変化と検出圧力の変動との相関を取得することに着目したものである。つまり個体差情報A1〜A7は、インジェクタ20から燃料を噴射させた時の変化点R3からR8に至るまでの噴射率の変化(噴射状態)と、その噴射に伴い生じる圧力センサ20aの検出圧力の変動(P1からP8に至るまでの変化)との関連を表した情報である。
【0093】
図6の作業において、先ず、ソレノイド20bへの通電を開始した時点Isでの検出圧力P0を取得する(S10)。次に、検出圧力のうち実噴射開始R3に起因した変化点P3での圧力を取得するとともに、実噴射開始時点R3(第1基準時期)から変化点P3が出現するまでの経過時間T1(第1時間)を計測する(S20)。次に、通電開始時点Isから実噴射が開始するまでにリークにより生じた検出圧力の降下量として、圧力差P0−P3を算出する(S30)。次に、経過時間T1と圧力差P0−P3との関係を個体差情報A1とし、その個体差情報A1をICメモリ26に書き込んで記憶させる(S40)。
【0094】
個体差情報A2〜A4についても同様の手順(S21〜S41,S22〜S42,S23〜S43)でICメモリ26に記憶させる。具体的には、検出圧力のうち最大噴射率到達R4、噴射率下降開始R7及び実噴射終了R8の各々に起因した変化点P4,P7,P8での圧力を取得するとともに、実噴射開始時点R3(第2、第3、第4基準時期)から変化点P4,P7,P8が出現するまでの経過時間T2(第2時間),T3(第3時間),T4(第4時間)を計測する(S21〜23)。
【0095】
次に、通電開始時点Isから最大噴射率に到達するまでにリーク及び噴射により生じた検出圧力の降下量として、圧力差P3−P4を算出する(S31)。また、通電開始時点Isから噴射率下降が開始するまでに生じた検出圧力の変化量として、圧力差P3−P7を算出する(S32)。また、通電開始時点Isから実噴射が終了するまでに生じた検出圧力の変化量として、圧力差P3−P8を算出する(S33)。なお、圧力差P0−P3,P3−P4,P3−P7は正の値となり圧力降下を示し、圧力差P3−P8は負の値となり圧力上昇を示す。
【0096】
次に、経過時間T2と圧力差P3−P4との関係を個体差情報A2とし、経過時間T3と圧力差P3−P7との関係を個体差情報A3とし、経過時間T4と圧力差P3−P8との関係を個体差情報A4とし、これらの個体差情報A2〜A4をICメモリ26に書き込んで記憶させる(S41,S42,S43)。以上により、インジェクタ20の工場出荷前に実行される図6の作業を終了する。
【0097】
図7の作業においては、先ず、ソレノイド20bへの通電を開始した時点Isでの検出圧力P0を取得する(S50)。次に、検出圧力のうち実噴射開始R3に起因した変化点P3での圧力を取得する(S60)。次に、検出圧力のうち最大噴射率到達R4に起因した変化点P4での圧力を取得するとともに、実噴射開始R3に起因した変化点P3が出現した時点(第5基準時期)から変化点P4が出現するまでの期間T5(噴射率上昇期間)を計測する(S70)。次に、取得した変化点P3,P4での圧力及び期間T5に基づき、圧力下降率Pα(Pα=(P3−P4)/T5)を算出する。そして、噴射率の上昇率Rαと圧力下降率Pαとの関係を個体差情報A5とし、その個体差情報A5をICメモリ26に書き込んで記憶させる(S80)。
【0098】
個体差情報A6についても同様の手順(S71,S72)でICメモリ26に記憶させる。具体的には、検出圧力のうち噴射率下降開始R7及び実噴射終了R8の各々に起因した変化点P7,P8での圧力を取得するとともに、噴射率下降開始R7に起因した変化点P7が出現した時点(第6基準時期)から変化点P8が出現するまでの期間T6(噴射率下降期間)を計測する(S71)。次に、取得した変化点P7,P8での圧力及び期間T6に基づき、圧力下降率Pγ(Pγ=(P7−P8)/T6)を算出する。そして、噴射率の下降率Rγと圧力上昇率Pγとの関係を個体差情報A6とし、その個体差情報A6をICメモリ26に書き込んで記憶させる(S81)。
【0099】
また、実噴射開始R3に起因した変化点P3が出現した時期(第5基準時期)から最大噴射率到達R4に起因した変化点P4が出現した時期までの時間T5(第5時間)で生じた検出圧力の降下量Pβを算出する。この降下量Pβは圧力差P3−P4と同じであるため、図6のS41に示す作業で算出した圧力差P3−P4の値を降下量Pβの値として用いればよい。そして、このように算出された降下量Pβと最大噴射率Rβとの関係を個体差情報A7とし、その個体差情報A7をICメモリ26に書き込んで記憶させる。
【0100】
<個体差情報B1,B2について>
次に、個体差情報B1,B2の内容を詳細に説明する。なお、これら個体差情報B1,B2の算出作業及びICメモリ26への書き込み作業は、個体差情報A1〜A7と同様にして計測器53を用いて実行される。
【0101】
ここで、圧力センサ20aはインジェクタ20に取り付けられている。つまり、コモンレール12から噴射孔20fに至るまでの燃料通路のうちコモンレール12に対して燃料流れ下流側(噴射孔20fに近い側)に圧力センサ20aは配置されることとなる。そのため、圧力センサ20aの検出圧力の波形には、コモンレール12に取り付けた場合には得ることのできなかった噴射率の変化に起因した変動を情報として得ることができる。
【0102】
そして、このように噴射孔20fで生じた圧力変動を圧力センサ20aで検出するにあたり、噴射孔20fで圧力変動が生じてから圧力センサ20aにその圧力変動が伝搬されるまでの時間、図5の試験結果から分かるように応答遅れ(噴射応答遅れ時間T1)が生じる。同様にして、リーク孔24からの燃料リーク開始から、その燃料リーク開始に伴う圧力センサ20aの検出圧力の変動が生じる時までも応答遅れ(リーク応答遅れ時間Ta)が生じる。
【0103】
また、噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taには、同じ型式のインジェクタ20であっても圧力センサ20aの取り付け位置、つまり、噴射孔20fから圧力センサ20aまでの燃料流路長La(図2参照)や、リーク孔24から圧力センサ20aまでの燃料流路長Lb(図2参照)、燃料流路断面積等に起因して個体差が生じる。よって、噴射制御用マップを作成したり燃料噴射制御を行うにあたり、噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taのうち少なくとも一方に基づけば、噴射制御の精度を向上できる。
【0104】
個体差情報B1,B2は、このような噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taを取得することに着目したものである。つまり個体差情報B1は、実噴射が開始される時点R3から、実噴射開始R3に起因した変化点P3が出現した時点までの噴射応答遅れ時間T1を表した情報である。噴射応答遅れ時間T1は経過時間T1(第1時間)と同じであるため、図6のS20に示す作業で算出した経過時間T1の値を噴射応答遅れ時間T1の値として用いればよい。
【0105】
個体差情報B2は、ソレノイド20bへの通電を開始した時点Isから、リーク孔24からの燃料リーク開始に起因した変化点P1が出現した時点までのリーク応答遅れ時間Taを表した情報である。本実施形態では、リークが実際に開始された時点Isはソレノイド20bへの通電を開始した時点と同じとみなしている。そして、このように算出された噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taを個体差情報B1,B2とし、これらの個体差情報B1,B2をICメモリ26に書き込んで記憶させる。
【0106】
なお、このように作業S20にて噴射応答遅れ時間T1を検出することに替えて、以下に説明する体積弾性係数K及び前述の燃料流路長La,Lbを計測し、体積弾性係数K及び燃料流路長Laから噴射応答遅れ時間T1を算出し、体積弾性係数K及び燃料流路長Lbからリーク応答遅れ時間Taを算出するようにしてもよい。
【0107】
体積弾性係数Kは、高圧ポンプ11aの吐出口11eから各々のインジェクタ20(#1)〜(#4)の噴射孔20fに至るまでの燃料経路内全体の燃料を対象とした燃料の体積弾性係数である。また、体積弾性係数Kは、所定の流体における圧力変化について、「ΔP=K・ΔV/V」(K:体積弾性係数、ΔP:流体の体積変化に伴う圧力変化量、V:体積、ΔV:体積Vからの体積変化量)なる関係式を満足させる係数Kであり、この係数Kの逆数は圧縮率に相当する。
【0108】
以下に、流路長La及び体積弾性係数Kを用いて噴射応答遅れ時間T1を算出する一例を説明する。燃料の流速をvとすると、噴射応答遅れ時間T1はT1=La/vの算出式で表すことができ、流速vは体積弾性係数Kに基づき算出することができる。同様にして、リーク応答遅れ時間TaはTa=Lb/vの算出式で表すことができ、流速vは体積弾性係数Kに基づき算出することができる。
【0109】
このように、体積弾性係数K及び燃料流路長La,Lbをパラメータとして噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taを算出することができるので、噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taに替えてこれらのパラメータK,La,Lbを個体差情報B1,B2としてICメモリ26に記憶させるようにしてもよい。
【0110】
<個体差情報C1〜C3について>
次に、個体差情報C1〜C3の内容を、図8〜図12を用いて詳細に説明する。なお、これら個体差情報C1〜C3の算出作業及びICメモリ26への書き込み作業は、個体差情報A1〜A7と同様にして計測器53を用いて実行される。図8は図5と同様にして得られた試験結果を示し、図9〜図12において、(a)はインジェクタ20に対する指令信号(駆動電流)を示すタイミングチャート、(b)は、その指令信号に基づく検出圧力の変動波形を示すタイミングチャートである。
【0111】
ここで、1燃焼サイクルあたりに複数回燃料を噴射させる多段噴射制御を実行する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、前記変動波形のうち1回目噴射以降のn回目噴射に対応する部分の変動パターンには、n回目より前のm回目噴射(本実施形態では1回目噴射)に伴い生じる変動波形のうち噴射終了後に対応する部分(図8中の一点鎖線Peに示す部分)の変動パターンが重畳(干渉)する。以下、前記変動パターンを噴射後変動パターンPeと呼ぶ。
【0112】
より具体的に説明すると、図9に示されるように2回噴射を行った場合では、図9(a)中に実線L2aにて示す通電パルスに対して、図9(b)に実線L2bにて示す変動波形となっている。すなわち、図中に示す2つの噴射のうち、後段側の噴射(後段噴射)の噴射開始タイミング近傍においては、この後段噴射のみに起因した変動パターンと前段側の噴射(前段噴射)の変動パターンとが互いに干渉してしまっており、後段噴射のみに起因した変動パターンを認識することは困難である。
【0113】
図10に示されるように、前段噴射のみを行った場合では、図10(a)中に実線L1aにて示す通電パルスに対して、図10(b)に実線L1bにて示す変動波形となっている。図11は、図9の変動波形(実線L2a,L2b)と図10の変動波形(破線L1a,L1b)とを重ねて示したものである。そして、図9の変動波形L2bから図10の変動波形L1bを減算(対応箇所をそれぞれ減算)して差し引けば、図12に示すように後段噴射のみに起因した変動パターン(実線L2c)を抽出することができる。
【0114】
個体差情報C1〜C3は、後段噴射のみに起因した変動パターンL2cを抽出するために必要な情報である。つまり、噴射孔20fからの1回の燃料噴射に伴い生じる圧力センサ20aの検出圧力の変動波形のうち、先に説明した噴射後変動パターンPeに関する情報である。図8を用いて説明すると、個体差情報C1は噴射後変動パターンPeの振幅Sを表す情報であり、個体差情報C2は噴射後変動パターンPeの周期T7を表す情報である。
【0115】
また、個体差情報C3は、噴射後変動パターンPeの振幅S及び周期T7から算出される正弦波形(図8中の点線Pxに示す波形)に対し、その正弦波形Pxの周期よりも短い周期で現れる部分的な脈動パターン(図8中の実線Pyに示す波形)を表す情報である。例えば、正弦波形Pxから脈動パターンPyを減算(対応箇所をそれぞれ減算)して得られた、各対応箇所の減算量を個体差情報C3とすることが具体例として挙げられる。また、噴射後変動パターンPeの減衰率等の減衰に関する情報を個体差情報としてもよい。
【0116】
なお、各個体差情報A1〜A7,B1,B2,C1〜C3に含まれる値が予め設定された上限値を超えた場合には、異常が発生していると判定することが望ましい。例えば、噴射後変動パターンPeに関する振幅S及び周期T7等の値が上限値を超えた場合、計測器53等により異常発生判定をさせることが具体例として挙げられる。
【0117】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0118】
(1)実噴射開始時点R3から実噴射終了時点R8に至るまでの噴射率の変化(噴射状態)と、その噴射に伴い生じる圧力センサ20aの検出圧力の変動(P1からP8に至るまでの変化)との関連を表した個体差情報A1〜A7をICメモリ26に記憶させている。そのため、これらの個体差情報A1〜A7を噴射制御用マップに反映させて噴射制御を行うことができる。よって、Tq−Q特性を個体差情報として記憶させてそのTq−Q特性を用いて噴射制御を行う従来装置に比べ、インジェクタ20の噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる。
【0119】
(2)噴射応答遅れ時間T1及びリーク応答遅れ時間Taを個体差情報B1,B2としてICメモリ26に記憶させている。そのため、これらの個体差情報B1,B2を噴射制御用マップに反映させて噴射制御を行うことができるので、インジェクタ20の噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる。
【0120】
(3)噴射後変動パターンPeに関する情報を個体差情報C1〜C3としてICメモリ26に記憶させている。そのため、これらの個体差情報B1,B2を噴射制御用マップに反映させて噴射制御を行うことができるので、インジェクタ20の噴射状態を詳細かつ高精度に制御できる。
【0121】
(4)個体差情報を取得するための試験を行うにあたり、複数のインジェクタ20(#1〜#4)がエンジンに搭載された状態において、それぞれ対応するインジェクタ20(例えば#1のインジェクタ)と圧力センサ20a(例えば#1の圧力センサ)とを組み合わせて試験している。よって、エンジン運転時に実際に用いる圧力センサ20aの検出特性が個体差情報A1〜A7に反映されるので、燃料噴射弁の噴射状態を高精度に制御できる。
【0122】
(5)圧力センサ20aをインジェクタ20に取り付けている。そのため、工場出荷前の噴射特性試験で用いた圧力センサ(例えば#1のインジェクタ)を、対応するインジェクタ20(例えば#1のインジェクタ)とは別のインジェクタ20(#2〜#4)に対して組み付けてしまうといった組み付け誤作業を防止できる。しかも、コモンレール12とインジェクタ20とを接続する高圧配管14に圧力センサ20aを取り付ける場合に比べて、圧力センサ20aの取り付け位置が噴射孔20fに近い位置となる。よって、噴射孔20dでの圧力変動が高圧配管14にて減衰してしまった後の圧力変動を検出する場合に比べて、噴射孔20fでの圧力変動をより的確に検出することができる。
【0123】
(第2実施形態)
本実施形態では、試験の対象となるインジェクタ20及び圧力センサ20aとは別の、マスターインジェクタ及びマスターセンサ(以下、これらを併せて単にマスター装置と呼ぶ)を準備し、そのマスター装置による特性を、基準特性(基準変動態様)として予め試験により測定しておく。そして、試験の対象となるインジェクタ20及び圧力センサ20a(以下、これらを併せて単に試験対象装置と呼ぶ)の特性について、前記基準特性との誤差量について測定し、測定した誤差量を個体差情報としてICメモリ26(記憶手段)に記憶させておく。
【0124】
なお、マスターインジェクタの構成は試験対象インジェクタ20と設計上同一であり、マスターインジェクタへの圧力センサの取り付け位置も、試験対象インジェクタ20への圧力センサ20aの取り付け位置と設計上同一である。但し、これら両インジェクタの個体差、圧力センサ20aの個体差、及び圧力センサ20a取り付け位置ばらつき等により、先述した噴射応答遅れ時間T1等にばらつきが生じており、このようなばらつきを上記特性として取り扱っている。
【0125】
以下、図13を用いて、上記基準特性及び誤差量について説明する。
【0126】
図13(c)中の一点鎖線は、マスター装置について図4の測定作業を実施した結果を現しており、図13の例では、マスターセンサの検出圧力変化は、実線に示す試験対象圧力センサ20aの検出圧力変化に比べて早いタイミングで変化するよう位相がずれている(図13(a)(c)参照)。図13(c)中の符号P1m,P3m,P4m,P7m,P8mは、マスターセンサの検出圧力変化の変化点を示すものであり、試験対象圧力センサ20aの変化点P1,P3,P4,P7,P8にそれぞれ対応する。また、符号Pαm,Pβm,Pγmは、試験対象圧力センサ20aについての圧力下降率Pα、降下量Pβ、圧力下降率Pγにそれぞれ対応する。
【0127】
図13の例では、ソレノイド20bへの通電開始時点Is(噴射開始指令信号が出力された時点)から実噴射開始時点R3までの無効噴射時間Tnoについて、マスターインジェクタの無効噴射時間Tnomと試験対象インジェクタ20の無効噴射時間Tnoとは同一となっている(図13(a)(b)参照)。
【0128】
そして、マスター装置について、ソレノイド20bへの通電開始時点Is(噴射開始指令信号が出力された時点)から、燃料噴射開始に伴う圧力センサ20aの検出圧力の変動が生じる時点P3mまでの指令−検出遅れ時間T10mを、本実施形態では基準時間(基準変動態様)としている。そして、このような基準時間T10mをマスター装置について予め測定しておくとともに、試験対象インジェクタ20及び試験対象圧力センサ20aから構成される試験対象装置についても指令−検出遅れ時間T10を測定する。そして、マスター装置の基準時間T10mに対する試験対象装置の指令−検出遅れ時間T10の誤差量ΔT10を、指令−検出誤差量として算出し、ICメモリ26に記憶させておく。
【0129】
ここで、先述した噴射制御用マップに関し、先ず、マスター装置について各種試験を行い取得した適合値となるよう噴射制御用マップを作成する。次に、マスター装置について適合された噴射制御用マップを、ICメモリ26に記憶された指令−検出誤差量ΔT10に応じて補正する。具体的には、噴射制御用マップに記憶された噴射パターンを指令−検出誤差量ΔT10に応じて進遅角させるよう補正する。
【0130】
以上により、本実施形態によれば、試験対象装置について指令−検出遅れ時間T10を測定すれば、噴射制御用マップを適合値に補正することが可能になるので、図13(b)に示す噴射率を試験対象インジェクタ20について測定することを不要にできる。よって、噴射制御用マップの作成作業の作業性を向上できる。
【0131】
(第2実施形態の変形例)
上記第2実施形態では、噴射指令開始時点Isから、燃料噴射開始に伴う圧力センサ20aの検出圧力の変動が生じる時点P3mまでの指令−検出遅れ時間T10mを、基準時間(基準変動態様)としている。この点を以下のように変更させてもよい。
【0132】
・噴射指令開始時点Isから、最大噴射率到達に伴う圧力センサ20aの検出圧力の変動が生じる時点P4mまでの時間を、基準時間(基準変動態様)とする。そして、当該基準時間と試験対象装置のIs〜P4までの時間との誤差量をICメモリ26に記憶させる。
【0133】
・噴射指令開始時点Isから、噴射率降下開始に伴う圧力センサ20aの検出圧力の変動が生じる時点P7mまでの時間を、基準時間(基準変動態様)とする。そして、当該基準時間と試験対象装置のIs〜P7までの時間との誤差量をICメモリ26に記憶させる。
【0134】
・噴射指令開始時点Isから、実噴射終了に伴う圧力センサ20aの検出圧力の変動が生じる時点P8mまでの時間を、基準時間(基準変動態様)とする。そして、当該基準時間と試験対象装置のIs〜P8までの時間との誤差量をICメモリ26に記憶させる。
【0135】
・噴射指令開始時点Isから各時点P3m,P4m,P7m,P8mまでの時間を基準時間とすることに替え、各時点P3m,P4m,P7m,P8mのうち任意の2つの時点の間の時間を基準時間とする。
【0136】
・噴射率の上昇に起因してマスターセンサの検出圧力が下降したときの下降率Pαmを基準下降率(基準変動態様)とする。そして、当該基準下降率Pαmと試験対象装置の下降率Pαとの下降率誤差量をICメモリ26に記憶させる。
【0137】
・噴射率の下降に起因してマスターセンサの検出圧力が上昇したときの上昇率Pγmを基準上昇率(基準変動態様)とする。そして、当該基準上昇率Pγmと試験対象装置の上昇率Pγとの上昇率誤差量をICメモリ26に記憶させる。
【0138】
・噴射開始に伴い生じた変化点P3から最大噴射率到達に伴い生じた変化点P4までの期間に対応して生じた、マスターセンサの検出圧力の降下量Pβmを、基準降下量(基準変動態様)とする。そして、当該基準降下量Pβmと試験対象装置の降下量Pβとの降下量誤差量をICメモリ26に記憶させる。
【0139】
(第3実施形態)
本実施形態では、上記第2実施形態における噴射制御用マップの作成の他に、試験対象装置についての異常検出をも実施する。
【0140】
この異常検出にかかる作業は、図4に示す計測器53を用いて計測作業者により実行され、図14にその作業手順を示す。なお、当該作業は、圧力センサ20aが取り付けられた状態のインジェクタ20を工場出荷する前の製造工場や、市場出荷後に各種修理及び検査を行うサービス工場等にて実施される。
【0141】
先ず、手順M10(第1測定手順)において、マスターセンサが取り付けられた状態のマスターインジェクタ(マスター装置)について、通電開始時点Isから燃料噴射開始時点R3までの指令−噴射遅れ時間Tnomを、基準無効時間として測定するとともに、先述した基準時間T10m(基準変動態様)を測定する。
【0142】
次に、手順M11(第2測定手順)において、試験対象圧力センサ20aが取り付けられた状態の試験対称インジェクタ20(試験対象装置)について、先述した指令−噴射遅れ時間Tno(無効時間)及び指令−検出遅れ時間T10を測定する。
【0143】
次に、手順M12において、マスター装置の基準時間T10mに対する試験対象装置の指令−検出遅れ時間T10の誤差量ΔT10を算出するとともに、マスター装置の基準無効時間Tnomに対する試験対象装置の無効時間Tnoの誤差量ΔTnoを算出する。
【0144】
次に、手順M13(異常判定手順)において、指令−検出遅れ時間T10の誤差量ΔT10が予め設定された閾値thT10よりも大きい場合には、試験対象装置が異常であると判定する。また、その異常が、インジェクタ20及び圧力センサ20aのいずれであるかを、以下に説明するように判定する。
【0145】
すなわち、指令−検出遅れ時間T10の誤差量ΔT10には、インジェクタ20の個体差ばらつきに起因した無効誤差量と、圧力センサ20aの取付位置ばらつきや圧力センサ20aの個体差ばらつきに起因したセンサ誤差量とが含まれている。この点を鑑み手順M13では、指令−検出遅れ時間T10の誤差量ΔT10と、無効時間Tnoの誤差量ΔTnoとに基づき、インジェクタ20及び圧力センサ20aのいずれが異常であるかを判定している。例えば、試験対象装置が異常であると判定された場合において、無効時間Tnoの誤差量ΔTnoが予め設定された閾値よりも小さい場合には、異常箇所が圧力センサ20aであると判定する。
【0146】
以上により、本実施形態によれば、試験対象となる燃料噴射装置の異常有無を容易に判定することができ、しかも、その異常箇所が圧力センサ20aであるか否かをも容易に判定できる。なお、本実施形態において、異常箇所の判定を実施しない場合においては、試験対象装置について噴射率を計測することを不要にできる。
【0147】
(第3実施形態の変形例)
上記第3実施形態では、指令−検出遅れ時間T10mを基準変動態様とし、当該基準変動態様に対する試験対象装置についての指令−検出遅れ時間の誤差量ΔT10に基づき異常の有無を判定している。この点を、上記「第2実施形態の変形例」と同様にして、以下のように変更させてもよい。
【0148】
・噴射指令開始時点Isから、各時点P3m,P4m,P7m,P8mまでの時間を基準変動態様とする。
【0149】
・噴射指令開始時点Isから各時点P3m,P4m,P7m,P8mまでの時間を基準変動態様とすることに替え、各時点P3m,P4m,P7m,P8mのうち任意の2つの時点の間の時間を基準時間とする。
【0150】
・下降率Pαm、上昇率Pγm又は降下量Pβmを基準変動態様とする。そして、当該基準変動態様に対する試験対象装置についての下降率Pα、上昇率Pγ又は降下量Pβの誤差量に基づき異常の有無を判定する。
【0151】
(第4実施形態)
図15は、本実施形態にかかる異常検出作業の手順を示す。なお、当該異常検出の作業は、図4に示す計測器53を用いて計測作業者により実行され、圧力センサ20aが取り付けられた状態のインジェクタ20を工場出荷する前の製造工場や、市場出荷後に各種修理及び検査を行うサービス工場等にて実施される。
【0152】
先ず手順M20(測定手順)において、試験対象圧力センサ20aが取り付けられた状態の試験対称インジェクタ20(試験対象装置)について、先述した噴射応答遅れ時間T1(図5参照)を測定する。次に、手順M21(異常判定手順)において、測定した噴射応答遅れ時間T1が予め設定された閾値よりも長い場合には、試験対象圧力センサ20aが異常であると判定する。したがって、本実施形態によれば、試験対象圧力センサ20aの異常有無を容易に判定することができる。
【0153】
(その他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、上記各実施形態の特徴的構造をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。また、例えば次のように実施しても良い。
【0154】
・検出圧力の下降量又は上昇量とともに、その変化量に対するばらつき量も個体差情報A8としてICメモリ26に記憶させてもよい。すなわち、例えば図5に示す試験を同じ条件下で複数回行った結果、得られた検出圧力の変動波形にばらつきが見られることがある。このようなばらつき量を上記個体差情報A1〜A7と併せて記憶させることが具体例として挙げられる。
【0155】
・噴射後変動パターンPeに関する情報として、個体差情報C1〜C3とともに、噴射後変動パターンPeが開始される起点を個体差情報C4としてICメモリ26に記憶させてもよい。前記起点は、噴射孔20fからの1回の燃料噴射に伴い生じる圧力センサ20aの検出圧力の変動波形のうち、実噴射終了に起因した変化点P8であることが望ましい。
【0156】
・上記実施形態では第1〜第4基準時期を実噴射開始時点R3としているが、他の時点としてもよい。第5及び第6基準時期についても上記実施形態とは別の時点としてもよい。変化点P7が出現した時点から変化点P8が出現するまでの期間を噴射率下降期間T6とし、この噴射率下降期間T6における圧力下降量に基づき圧力下降率Pγを算出しているが、変化点P7〜P8の間に含まれる他の期間を噴射率下降期間とし、当該噴射率下降期間の圧力下降量に基づき圧力下降率Pγを算出してもよい。同様に、P3〜P4の間に含まれる他の期間を噴射率上昇期間とし、当該噴射率上昇期間の圧力上昇量に基づき圧力上昇率Pαを算出してもよい。
【0157】
・上記実施形態では個体差情報を記憶させる記憶手段としてICメモリ26を採用しているが、QRコード(登録商標)等の他の記憶装置を採用してもよい。
【0158】
・上記実施形態ではICメモリ26(記憶手段)をインジェクタ20に取り付けているが、インジェクタ20以外の部位に取り付けてもよい。但し、インジェクタ20を工場出荷する時点においては、インジェクタ20と記憶手段とが一体に組み付けられた状態になっていることが望ましい。
【0159】
・図2に例示した電磁駆動式のインジェクタ20に替えて、ピエゾ駆動式のインジェクタを用いるようにしてもよい。また、リーク孔24等からの圧力リークを伴わない燃料噴射弁、例えば駆動動力の伝達に油圧室Cdを介さない直動式のインジェクタ(例えば近年開発されつつある直動式ピエゾインジェクタ)等を用いることもできる。そして、直動式のインジェクタを用いた場合には、噴射率の制御が容易となる。
【0160】
・圧力センサ20aをインジェクタ20に取り付けるにあたり、上記実施形態では、インジェクタ20の燃料流入口22に圧力センサ20aを取り付けているが、図2中の一点鎖線200aに示すようにハウジング20eの内部に圧力センサ200aを組み付けて、燃料流入口22から噴射孔20fに至るまでの内部燃料通路25の燃料圧力を検出するように構成してもよい。
【0161】
そして、上述の如く燃料流入口22に取り付ける場合には、ハウジング20eの内部に取り付ける場合に比べて圧力センサ20aの取付構造を簡素にできる。一方、ハウジング20eの内部に取り付ける場合には、燃料流入口22に取り付ける場合に比べて圧力センサ20aの取り付け位置が噴射孔20fに近い位置となるので、噴射孔20fでの圧力変動をより的確に検出することができる。
【0162】
・高圧配管14に圧力センサ20aを取り付けるようにしてもよい。この場合、コモンレール12から一定距離だけ離間した位置に圧力センサ20aを取り付けることが望ましい。
【0163】
・コモンレール12と高圧配管14との間に、コモンレール12から高圧配管14に流れる燃料の流量を制限する流量制限手段を備えてもよい。この流量制限手段は、高圧配管14やインジェクタ20等の損傷による燃料漏れにより過剰な燃料流出が発生した時に、流路を閉塞するよう機能するものであり、例えば過剰流量時に流路を閉塞するように作動するボール等の弁体により構成することが具体例として挙げられる。なお、オリフィス12aと流量制限手段とを一体に構成したフローダンパを採用してもよい。
【0164】
・また、圧力センサ20aをオリフィス及び流量制限手段の燃料流れ下流側に配置する構成の他に、オリフィス及び流量制限手段の少なくとも一方に対して下流側に配置するよう構成してもよい。
【0165】
・上記実施形態では、図4に示す試験を実施するにあたり、歪みゲージ51を用いて試験噴射された燃料により変化する圧力を検出しているが、歪みゲージ51に替えて容器50内に配置した試験用圧力センサを用いてもよい。
【0166】
・図4に示す試験を実施するにあたり、圧力センサ20aの検出値(検出圧力)の変化状態から燃料の噴射率の変化状態を推定するようにしてもよい。さらに、その推定結果と、歪みゲージ51又は試験用圧力センサにより得られた実際の噴射率の変化状態とを比較し、個体差情報A1〜A7,B1,B2,C1〜C3を作成するにあたり、前記算出したずれ量を反映させて作成してもよい。
【0167】
・圧力センサ20aの数は任意であり、例えば1つのシリンダの燃料流通経路に対して2つ以上のセンサを設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では燃圧センサ20aを各シリンダに対して設けるようにしたが、このセンサを一部のシリンダ(例えば1つのシリンダ)だけに設け、他のシリンダについてはそのセンサ出力に基づく推定値を用いるようにしてもよい。
【0168】
・圧力センサ20aのセンサ出力を、試験時に計測器53で取得するにあたり、又は内燃機関運転時(噴射制御時)にECU30で取得するにあたり、「50μsec」よりも短い間隔(例えば20μsec)で取得するように構成することが、圧力変動の傾向を捉える上で望ましい。
【0169】
・上記実施形態で説明した圧力センサ20aに加えて、さらにコモンレール12内の圧力を測定するレール圧センサを備える構成とすることも有効である。こうした構成であれば、上記圧力センサ20aによる圧力測定値に加え、コモンレール12内の圧力(レール圧)も取得することができるようになり、より高い精度で燃料圧力を検出することができるようになる。
【0170】
・制御対象とするエンジンの種類やシステム構成も、用途等に応じて適宜に変更可能である。例えば、上記実施形態ではディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について言及したが、例えば火花点火式のガソリンエンジン(特に直噴エンジン)等についても、基本的には同様に本発明を適用することができる。直噴式ガソリンエンジンの燃料噴射システムでは、燃料(ガソリン)を高圧状態で蓄えるデリバリパイプを備えており、このデリバリパイプに対して燃料ポンプから燃料が圧送されるとともに、同デリバリパイプ内の高圧燃料が複数のインジェクタ20に分配され、エンジン燃焼室内に噴射供給される。なお、かかるシステムでは、デリバリパイプが蓄圧容器に相当する。また、本発明は、シリンダ内に燃料を直接的に噴射する燃料噴射弁に限らず、エンジンの吸気通路又は排気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁についても適用できる。
【0171】
・上記第3実施形態では、誤差量ΔT10が閾値thT10を超えて大きい場合に異常判定しているが、当該異常判定にあたり、閾値thT10を可変設定してもよい。例えば、基準時間T10m及び指令−検出遅れ時間T10を測定した時の、インジェクタに供給される燃料の圧力に応じて可変設定することが挙げられる。
【符号の説明】
【0172】
12…コモンレール、20…インジェクタ(燃料噴射弁)、20a,200a…圧力センサ、20f…噴射孔、26…ICメモリ(記憶手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を蓄圧する蓄圧容器から分配される燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置され、燃料圧力を検出する圧力センサと、を備える燃料噴射装置に適用され、
前記燃料噴射装置の異常を判定する燃料噴射装置の異常判定方法であって、
噴射指令信号の出力後に現れる、前記圧力センサの検出圧力の変動態様を、試験により測定する測定手順と、
前記測定手順にて測定された前記変動態様と、基準となる基準変動態様とのずれ量が、予め設定された閾値よりも大きい場合に前記異常であると判定する異常判定手順と、
を有することを特徴とする燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項2】
前記測定手順では、前記噴射孔からの燃料噴射開始から、前記燃料噴射開始に伴う前記圧力センサの検出圧力の変動が生じる時までの噴射応答遅れ時間を、前記変動態様として測定し、
前記異常判定手順では、前記測定手順にて測定された噴射応答遅れ時間が予め設定された閾値よりも長い場合に、前記ずれ量が大きいとみなして前記異常であると判定することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項3】
燃料を蓄圧する蓄圧容器から分配される燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の噴射孔に至るまでの燃料通路のうち前記蓄圧容器に対して前記噴射孔に近い側に配置され、燃料圧力を検出する圧力センサと、を備える燃料噴射装置に適用され、
前記燃料噴射装置の異常を判定する燃料噴射装置の異常判定方法であって、
異常判定の対象となる燃料噴射弁及び圧力センサとは別のマスター燃料噴射弁及びマスターセンサについて、噴射指令信号の出力後に現れる、前記マスターセンサの検出圧力の変動態様である既知の基準変動態様を、試験により測定する第1測定手順と、
異常判定の対象となる燃料噴射弁及び圧力センサについて、前記変動態様を試験により測定する第2測定手順と、
前記第2測定手順にて測定された前記変動態様と前記基準変動態様との誤差量が、予め設定された閾値よりも大きい場合に前記異常であると判定する異常判定手順と、
を有することを特徴とする燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項4】
前記第1測定手順では、噴射開始指令信号が出力されてから、前記噴射孔からの燃料噴射開始に伴う前記マスターセンサの検出圧力の変動が生じる時までの指令−検出遅れ時間である基準時間を、前記基準変動態様として測定し、
前記第2測定手順では、噴射開始指令信号が出力されてから、前記噴射孔からの燃料噴射開始に伴う前記圧力センサの検出圧力の変動が生じる時までの指令−検出遅れ時間を、前記変動態様として測定することを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項5】
前記圧力センサは前記燃料噴射弁に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項6】
前記圧力センサは前記燃料噴射弁の燃料流入口に取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項7】
前記圧力センサは、前記燃料噴射弁の内部に取り付けられ、前記燃料噴射弁の燃料流入口から前記噴射孔に至るまでの内部燃料通路の燃料圧力を検出するよう構成されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射装置の異常判定方法。
【請求項8】
前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁の燃料流入口までの燃料通路には、コモンレール内の燃料の圧力脈動を減衰させるオリフィスが備えられており、
前記圧力センサは前記オリフィスの燃料流れ下流側に配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の燃料噴射装置の異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−138915(P2010−138915A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65604(P2010−65604)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【分割の表示】特願2009−163664(P2009−163664)の分割
【原出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】