説明

画像検査装置、画像検査方法およびプログラム

【課題】少ない数の入力画像により高精度に画像検査を行うことができ、かつデータ処理の負担を低減することのできる画像検査装置を提供する。
【解決手段】基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割部104と、分割基準画像それぞれのマハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定部110と、被検査画像を、複数の分割被検査画像に分割する第2分割部124と、分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離に基づいて、代表値を決定する代表値決定部128と、代表値が閾値よりも大きい場合に、被検査画像に異常があると判定する良否判定部130とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の画像を利用して製品の検査を行う画像検査装置、画像検査方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、CCDカメラなどのカメラにより撮影した製品外観の画像に対し、フィルタリング処理、2値化処理などの画像処理を施し、処理後の画像を用いて、欠陥候補を検出し、製品の良否を判定する画像検査方法が知られている。このような画像検査方法の1つに、マハラノビス・タグチ法(以下、「MT法」と呼ぶ)がある。
【0003】
MT法においては、正常な状態の複数の製品画像(製品の分布において、最も出現頻度の高い製品群とするのが一般的である)から、画像の状態を表す複数の項目にしたがい特徴量を抽出し、基準空間を設定し、基準空間から閾値を決定する。そして、画像検査の対象となる被検査画像、すなわち状態が不明な製品画像のマハラノビス距離を算出する。そして、マハラノビス距離と閾値とを比較することにより異常の有無を判断する。
【0004】
このように、MT法は多変量解析の手法を用いて製品の状態を判定するので、作業員が目視で製品の状態を判定する目視検査と同様に、様々な情報(特徴量)を基にした総合的な判定を行うことができる。
【0005】
MT法の問題点の一つに、多重共線性がある。多重共線性を生じると、相関行列の逆行列を求めることができなくなる。つまり、マハラノビス距離を算出することができなくなる。多重共線性の要因としては、i)特徴量間の相関が強すぎる、ii)基準空間を構成するサンプル数が特徴量の総数よりも少ないという2点が上げられる。要因ii)に関し、基準空間を構成するサンプル数は、特徴量の総数の2倍以上が適当であると言われている。
【0006】
画像検査のように画像を扱う場合、画像データの各ピクセルの情報を使うことが多いが、精度良く検査を行うためには、可能な限り細かい基準で、かつ画像全体から特徴量を抽出する必要がある。このため、特徴量は画像サイズの増加とともに増加する。その結果、基準空間作成のために必要な入力画像の数も増加し、データ処理の負担が非常に重くなるという問題があった。例えば、画像サイズが210×1320ピクセルであり、各データ行から10項目に該当する特徴量を抽出するとした場合、特徴量の総数は2100(210行×10項目)となる。つまり、基準空間作成のために必要な入力画像は、4200枚(特徴量の総数の2倍)以上と膨大な数となってしまう。
【0007】
このような問題を解決するものとして、特許文献1には、画像データから抽出した所定の特徴量分布(輝度分布など)に基づいて、マハラノビス距離を算出することにより、少ない特徴量で画像全体のデータから検査を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−252451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、項目数を減らすことは出来るが、膨大な数の入力画像が必要なことに変わりはなかった。前述の例で説明すると、項目を10から5に減らすことが出来たとしても、特徴量の総数は1050(210行×5項目)であり、2100枚(特徴量の総数の2倍)以上という、膨大な数の入力画像が必要なことに変わりはなかった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、特徴量を減らすことなく、少ない数の入力画像により高精度に画像検査を行うことができ、かつデータ処理の負担を低減することのできる画像検査装置、画像検査方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、マハラノビス距離により画像検査を行う画像検査装置であって、基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割手段と、前記第1分割手段により得られた複数の前記分割基準画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第1算出手段と、前記第1算出手段により算出された複数の前記マハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定手段と、前記被検査画像を、前記分割基準画像と同一サイズ、同一形状の複数の分割被検査画像に分割する第2分割手段と、前記第2分割手段により得られた複数の前記分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第2算出手段と、前記第2算出手段により算出された前記マハラノビス距離に基づいて、前記被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する代表値決定手段と、前記被検査画像の前記マハラノビス距離の前記代表値が前記閾値よりも大きい場合に、前記被検査画像に異常があると判定する良否判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、他の形態は、マハラノビス距離により画像検査を行う画像検査方法であって、分割手段が、基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割ステップと、第1算出手段が、前記第1分割ステップで得られた複数の前記分割基準画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第1算出ステップと、閾値決定手段が、前記第1算出ステップで算出された複数の前記マハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定ステップと、第2分割手段が、前記被検査画像を、前記基準分割画像と同一サイズ、同一形状の複数の分割被検査画像に分割する第2分割ステップと、第2算出手段が、前記第2分割ステップで得られた複数の前記分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第2算出ステップと、代表値決定手段が、前記第2算出ステップで算出された前記マハラノビス距離に基づいて、前記被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する代表値決定ステップと、良否判定手段が、前記被検査画像の前記マハラノビス距離の前記代表値が前記閾値よりも大きい場合に、前記被検査画像に異常があると判定する良否判定ステップとを有することを特徴とする。
【0013】
また、他の形態は、マハラノビス距離による画像検査処理をコンピュータに実行させるための画像検査プログラムであって、基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割ステップと、前記第1分割ステップで得られた複数の前記分割基準画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第1算出ステップと、前記第1算出ステップで算出された複数の前記マハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定ステップと、前記被検査画像を、前記基準分割画像と同一サイズ、同一形状の複数の分割被検査画像に分割する第2分割ステップと、前記第2分割ステップで得られた複数の前記分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第2算出ステップと、前記第2算出ステップで算出された前記マハラノビス距離に基づいて、前記被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する代表値決定ステップと、前記被検査画像の前記マハラノビス距離の前記代表値が前記閾値よりも大きい場合に、前記被検査画像に異常があると判定する良否判定ステップとを前記コンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特徴量を減らすことなく、少ない数の入力画像により高精度に画像検査を行うことができ、かつデータ処理の負担を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる画像検査装置10の全体構成を示す図である。
【図2】図2は、電子計算機14の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、分割基準画像を示す図である。
【図4】図4は、基準空間を作成する際の電子計算機14の処理を示すフローチャートである。
【図5】図5は、輝度波形を説明するための図である。
【図6−1】図6−1は、輝度波形の微分値および積分値を説明するための図である。
【図6−2】図6−2は、輝度波形の微分値および積分値を説明するための図である。
【図7】図7は、特徴量Xmnkの行列を示す図である。
【図8】図8は、規準化した特徴量xmnkの行列を示す図である。
【図9】図9は、マハラノビス距離の算出処理を説明するための図である。
【図10】図10は、電子計算機14による被検査画像の良否判定処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、マハラノビス距離の算出処理を説明するための図である。
【図12】図12は、第1の変更例を説明するための図である。
【図13】図13は、第2の変更例を説明するための図である。
【図14】図14は、第3の変更例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる画像検査装置、画像検査方法およびプログラムの最良な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態にかかる画像検査装置10の全体構成を示す図である。画像検査装置10は、検査対象であるワーク20の概観を撮影し、得られた画像データに基づいて検査を行う。ワーク20は、例えば切削加工した金属部品であり、ワーク20の表面にある、傷、バリ、異物などの欠陥の有無の検査を要するものである。画像検査装置10は、このワーク20を被検査品とし、ワーク20の欠陥の有無の検査を行う。
【0018】
画像検査装置10は、カメラ12と、照明13と、電子計算機14と、表示装置15とを備えている。カメラ12は、ワーク20の概観を撮影し、ワーク20の画像データである被検査画像を得る。カメラ12は、具体的にはCCDカメラである。なお、他の例としては、カメラ12として、CMOSカメラ、アナログカメラなどを使用してもよい。照明13は、カメラ12によりワーク20の概観を撮像する際に、ワーク20の撮像箇所の明るさを調整する。照明13は、具体的にはLEDリング照明である。他の例としては、照明13として、ファイーバー照明、LED照明、リング照明、同軸落射照明などを使用してもよい。
【0019】
カメラ12により撮影された被検査画像は、電子計算機14に送られる。電子計算機14は、被検査画像に対する画像処理を施した後、画像処理後の被検査画像に基づいて、ワーク20の欠陥の有無の判定、すなわち良否判定を行い、良否判定の結果を表示装置15に表示させる。
【0020】
なお、カメラ12は、良品であることがわかっている製品の撮影も行う。これにより、基準画像を得る。ここで、基準画像は、最も正常な状態にある複数の製品それぞれの画像である。すなわち、出現頻度が最も高くなる良品画像群の画像データであり、マハラノビス基準空間を作成するために利用する画像群である。電子計算機14は、複数の基準画像に基づいて、良品判定の際に利用するマハラノビス基準空間を作成する。
【0021】
図2は、電子計算機14の構成を示すブロック図である。電子計算機14は、基準画像取得部100と、第1画像処理部102と、第1分割部104と、第1マハラノビス距離算出部106と、基準空間記憶部108と、閾値決定部110と、閾値記憶部112と、被検査画像取得部120と、第2画像処理部122と、第2分割部124と、第2マハラノビス距離算出部126と、代表値決定部128と、良否判定部130とを備えている。
【0022】
基準画像取得部100は、カメラ12から複数の基準画像を取得する。第1画像処理部102は、基準画像取得部100が取得した基準画像に対して、フィルタリングやエッジ強調などの画像処理を施す。第1分割部104は、画像処理後の基準画像を複数の分割基準画像に分割する。図3は、分割基準画像を示す図である。このように、第1画像処理部102は、基準画像を横方向に延びる分割線により横方向にn分割し、n個の分割基準画像を得る。例えば、210×1320ピクセルの画像を、10×1320ピクセルの21個の分割基準画像に分割する。
【0023】
第1マハラノビス距離算出部106は、第1分割部104により得られた分割基準画像を用いて、マハラノビス距離を算出する。第1マハラノビス距離算出部106は、マハラノビス距離およびマハラノビス距離を算出する際に用いたパラメータを基準空間記憶部108に格納する。閾値決定部110は、第1マハラノビス距離算出部106により得られたマハラノビス距離に基づいて、ワーク20の画像、すなわち被検査画像に異常があるか否かの良否判定に利用する閾値を決定する。閾値決定部110はさらに決定した閾値を閾値記憶部112に格納する。
【0024】
被検査画像取得部120は、カメラ12から、カメラ12により撮影された被検査品の画像である、被検査画像を取得する。第2画像処理部122は、被検査画像に対して第1画像処理部102と同様の画像処理を施す。このように、画像処理を施すことにより、欠陥の検出を容易にすることができる。なお、基準画像と被検査画像に対し、同一条件化で検査を行うべく、基準画像に対しても画像処理を施すこととしている。
【0025】
第2分割部124は、被検査画像を複数の分割被検査画像に分割する。なお、第2分割部124は、第1分割部104と同一形状および同一サイズの複数の画像に分割する。
【0026】
第2マハラノビス距離算出部126は、基準空間記憶部108が記憶しているパラメータを利用して、第2分割部124により得られた各分割被検査画像のマハラノビス距離を算出する。代表値決定部128は、第2マハラノビス距離算出部126により得られた複数のマハラノビス距離に基づいて、被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する。良否判定部130は、閾値記憶部112が記憶している閾値と代表値とを比較することにより、被検査画像に対応する製品が良品であるか不良品であるかの判定を行う。具体的には、代表値が閾値よりも大きい場合に異常がある、すなわち不良品であると判定し、代表値が閾値以下である場合に異常なし、すなわち良品であると判定する。
【0027】
図4は、基準空間を作成する際の電子計算機14の処理を示すフローチャートである。基準空間作成処理においては、まず基準画像取得部100は、カメラ12により撮影された、最も正常な状態にある製品の画像、すなわち基準画像を取得する(ステップS100)。基準画像取得部100は、例えばM個の基準画像を取得する。次に、第1画像処理部102は、基準画像に対して画像処理を施す(ステップS102)。次に、第1分割部104は、画像処理後の各基準画像を複数の分割基準画像に分割する(ステップS104)。
【0028】
次に、第1マハラノビス距離算出部106は、各分割基準画像に演算処理を施し、予め規定されている数の項目に基づいて、各分割基準画像の各行(ライン)の特徴量を抽出する(ステップS106)。特徴量は、例えば、輝度波形の微分値、積分値、輝度最大値と輝度最小値の差分など輝度情報に関する情報である。
【0029】
図5は、輝度波形を説明するための図である。図5のグラフの横軸は分割基準画像の所定のラインにおける画素位置を示し、縦軸は各画素の輝度値を示している。グラフ上の曲線が輝度波形である。輝度波形は、画素の行(ライン)毎に各画素の輝度値を波形化したもの、すなわち各行に含まれる各画素と各画素における輝度値との関係を示す波形である。
【0030】
図6−1および図6−2は、輝度波形の微分値および積分値を説明するための図である。第1マハラノビス距離算出部106は、輝度波形に対して任意の輝度値の直線、すなわち横線を引き、横線と輝度波形の交点数を微分値として得る。また、横線よりも上の輝度波形の区間総和を積分値として得る。第1マハラノビス距離算出部106は、例えば所定の行に含まれる複数の輝度値の平均値をμ、標準偏差をσとし、μ±σ、μ±0.8σ、μ±0.6σ、・・・のように等間隔に横線を設定し、各横線に対する微分値、積分値を特徴量として算出する。このようにして、第1マハラノビス距離算出部106は、合計K個の特徴量を抽出する。なお、本実施の形態においては、100の項目(K=100)に対する特徴量を抽出することとする。
【0031】
第1マハラノビス距離算出部106は、さらに図7に示すように、各部分基準画像の特徴量Xmnkを基準画像毎、分割基準画像毎、項目毎に配置し行列とする。ここで、添え字m(I,II,…M)は、基準画像を識別する番号(基準画像No)、添え字n(1,2,・・・N)は、基準画像中の分割基準画像を識別する番号(分割基準画像No)、添え字k(1,2,・・・K)は項目を識別する番号(項目No)を示している。図7は、特徴量Xmnkの行列を示す図である。このように、M個の基準画像それぞれがN個の分割基準画像を有し、すべての分割画像についてK個の項目に対する特徴量が抽出される。
【0032】
さらに、第1マハラノビス距離算出部106は、各特徴量を規準化する(ステップS108)。具体的には、項目毎に特徴量の平均値μと、標準偏差σを算出し、(式1)により、規準化した特徴量xmnkを算出し、図8に示すように特徴量xmnkの行列とする。
【数1】

【0033】
次に、第1マハラノビス距離算出部106は、(式2)により項目pと項目qの相関係数rpqを算出し、各相関係数を要素とする相関係数行列Rを得る(ステップS110)。
【数2】

相関係数行列Rは、(式3)に示すように、相関係数を画像毎、項目毎に並べたものである。
【数3】

【0034】
次に、第1マハラノビス距離算出部106は、相関係数行列Rの逆行列Aを算出する(ステップS112)。逆行列Aは、(式4)で表される。
【数4】

【0035】
次に、第1マハラノビス距離算出部106は、(式5)により、m番目の基準画像のn番目の分割基準画像のマハラノビス距離MDmnを算出する(ステップS114)。なお、第1マハラノビス距離算出部106は、図9に示すように、すべての基準画像のすべての分割基準画像のマハラノビス距離MDを算出する。
【数5】

次に、第1マハラノビス距離算出部106は、項目毎の平均値μ、標準偏差σ、逆行列Aを基準空間のパラメータとして基準空間記憶部108に格納する(ステップS116)。
【0036】
次に、閾値決定部110は、第1マハラノビス距離算出部106により算出された複数のマハラノビス距離から、単位空間を代表する1つのマハラノビス距離MDを特定する(ステップS118)。具体的には、複数のマハラノビス距離MDI1〜MDMNの最大値を単位空間を代表するマハラノビス距離MDとする。そして、閾値決定部110は、誤差範囲を考慮し、このマハラノビス距離MDよりもわずかに大きい値を閾値として決定し、これを閾値記憶部112に格納する(ステップS120)。例えば、マハラノビス距離MDTが1.9である場合には、閾値を2.0と決定してもよい。また、他の例としては、マハラノビス距離MDを閾値としてもよい。以上で、基準空間作成処理が完了する。
【0037】
図10は、電子計算機14による被検査画像の良否判定処理を示すフローチャートである。良否判定処理においては、まず被検査画像取得部120は、カメラ12から被検査画像を取得する(ステップS200)。次に、第2画像処理部122は、被検査画像に対して画像処理を施す(ステップS202)。なお、被検査画像に対して施す画像処理は、基準画像に対して施す画像処理と同様のものである。
【0038】
次に、第2分割部124は、被検査画像を複数の分割被検査画像に分割する(ステップS204)。なお、第2分割部124は、第1分割部104と同一形状、同一サイズの画像に分割する。具体的には、第2分割部124も第1分割部104と同様に、図3に示すように被検査画像の縦辺を分割し、n個の分割被検査画像を得る。
【0039】
次に、第2マハラノビス距離算出部126は、各分割画像の特徴量を抽出し(ステップS206)、特徴量を規準化する(ステップS208)。なお、規準化においては、基準空間記憶部108が記憶している、単位空間作成時の項目毎の平均値μ、標準偏差σを利用する。
【0040】
次に、第2マハラノビス距離算出部126は、図11に示すように、すべての分割被検査画像のマハラノビス距離MD〜MDを算出する(ステップS210)。なお、マハラノビス距離の算出においては、基準空間記憶部108が記憶する逆行列Aを利用する。なお、特徴量の抽出、規準化、およびマハラノビス距離算出の処理は、上記のように一部パラメータが異なる点と対象とする画像が異なる点を除いては、基準空間を作成する際の特徴量の抽出、規準化、およびマハラノビス距離算出の処理と同様である。
【0041】
次に、代表値決定部128は、第2マハラノビス距離算出部126により算出された複数のマハラノビス距離MD〜MDから、被検査画像のマハラノビス距離を代表する代表値MDを決定する(ステップS212)。具体的には、複数のマハラノビス距離MD〜MDの最大値を被検査画像のマハラノビス距離の代表値MDとする。
【0042】
次に、良否判定部130は、閾値記憶部112が記憶している閾値と、代表値決定部128が決定した代表値とを比較することにより、被検査画像の良否判定を行う。代表値が閾値よりも大きい場合には(ステップS214,Yes)、被検査画像に異常がある、すなわちワーク20は不良品であると判定する(ステップS216)。一方、代表値が閾値以下である場合には(ステップS214,No)、被検査画像は正常である、すなわちワーク20は良品であると判定する(ステップS218)。次に、良否判定部130は、異常の有無、すなわち良品であるか不良品であるかを示す判定結果を表示装置15に出力し(ステップS220)、表示装置15に判定結果が表示される。以上で、被検査画像の良否判定処理が完了する。
【0043】
例えば、閾値が2.0に設定されており、被検査画像の代表値MDが2.3である場合には、代表値が閾値よりも大きいので、被検査画像に異常があり不良品であると判定される。
【0044】
以上のように、本実施の形態にかかる画像検査装置10は、入力画像としての基準画像を複数の分割基準画像に分割し、この分割基準画像毎にマハラノビス距離を算出し、この複数のマハラノビス距離から算出した一つのマハラノビス距離を用いて、良否判定を行うものである。このように、基準空間を構成するサンプルが入力画像ではなく、分割画像となるため、項目数を減らすことなく、少ない入力画像で基準空間を作成し、高精度に画像検査を行うことができる。
【0045】
例えば、項目数が100、画像サイズが210×1320ピクセルであり、入力画像の各行から特徴量を抽出するとした場合、従来の方法では、特徴量の総数は21000(210行×100項目)となるため、42000枚(特徴量の総数の2倍)以上という膨大な数の入力画像が必要である。これに対し、本実施の形態にかかる画像検査装置10においては、入力画像を10×1320ピクセルの画像に分割すれば、特徴量の総数は1000(10行×100項目)となり、2000枚(特徴量の総数の2倍)以上の入力画像が必要となるものの、一つの入力画像から21個(210行÷10行)の分割画像を得ることができるため、必要な入力画像は約100枚(2000枚÷21)と従来の1/20に大幅に削減することができる。
【0046】
さらに、本実施の形態にかかる画像検査装置10においては、基準空間における複数のマハラノビス距離のうち最大値を閾値とし、また被検査画像の複数のマハラノビス距離のうち最大値を代表値とすることにより、欠陥検出精度を向上させることができる。
【0047】
また、実施の形態にかかる画像検査装置10の第1の変更例としては、第1分割部104および第2分割部124は、サイズおよび大きさの異なる複数の画像に分割してもよい。例えば、欠陥が発生する箇所に傾向が見られる場合がある。このような場合には、図12に示すように、欠陥が多発することが予めわかっている多発領域を他の領域に比べて小さい画像に分割することとしてもよい。これにより、異常発生箇所をより細かい精度で特定することができる。このように、処理量を増加させることなく、欠陥の検出精度をより向上させることができる。
【0048】
また、第2の変更例としては、欠陥の形状が予め予想可能な場合には、この形状に応じたサイズおよび形状の画像に分割してもよい。例えば、図13に示すように、画像の横方向に延びる欠陥が多発するとする。この場合には、実施の形態において説明したように画像の横方向に延びる分割線により横方向に分割した場合、ある分割被検査画像に欠陥部分が一様に分布する可能性がある。このように一様に欠陥が含まれると異常として検出されなくなるため好ましくない。そこで、画像の横方向に延びる欠陥が多発する場合には、図13に示すように縦方向に延びる分割線により縦方向に分割し、n個の画像に分割する。このように、欠陥の形状に応じたサイズおよび形状の分割画像に分割することにより、欠陥検出精度をより向上させることができる。
【0049】
また、第3の変更例としては、図14に示すように1つの画像を縦方向の複数の分割画像に分割し、さらに横方向の複数の分割画像に分割してもよい。これにより、例えば横方向に延びる欠陥と縦方向に延びる欠陥とが混在する場合、すなわち縦方向に分割したほうが検出しやすい欠陥と、横方向に分割した方が検出しやすい欠陥とが混在している場合においても、欠陥検出精度を向上させることができる。さらには、画像のうち右半分を縦方向に分割し、左半分を横方向に分割するなど、領域毎に異なる形状およびサイズの画像に分割してもよい。
【0050】
なお、電子計算機14は、CPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、HDD、CDドライブ装置などの外部記憶装置と、キーボードやマウスなどの入力装置を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0051】
電子計算機14で実行される画像検査プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0052】
また、電子計算機14で実行される画像検査プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、電子計算機14で実行される画像検査プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、画像検査プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0053】
電子計算機14で実行される画像検査プログラムは、上述した各部を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体から画像検査プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、各部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【符号の説明】
【0054】
10 画像検査装置
12 カメラ
13 照明
14 電子計算機
15 表示装置
100 基準画像取得部
102 第1画像処理部
104 第1分割部
106 第1マハラノビス距離算出部
108 基準空間記憶部
110 閾値決定部
112 閾値記憶部
120 被検査画像取得部
122 第2画像処理部
124 第2分割部
126 第2マハラノビス距離算出部
128 代表値決定部
130 良否判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マハラノビス距離により画像検査を行う画像検査装置であって、
基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割手段と、
前記第1分割手段により得られた複数の前記分割基準画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第1算出手段と、
前記第1算出手段により算出された複数の前記マハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定手段と、
前記被検査画像を、前記分割基準画像と同一サイズ、同一形状の複数の分割被検査画像に分割する第2分割手段と、
前記第2分割手段により得られた複数の前記分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第2算出手段と、
前記第2算出手段により算出された前記マハラノビス距離に基づいて、前記被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する代表値決定手段と、
前記被検査画像の前記マハラノビス距離の前記代表値が前記閾値よりも大きい場合に、前記被検査画像に異常があると判定する良否判定手段と
を備えたことを特徴とする画像検査装置。
【請求項2】
前記閾値決定手段は、前記第1算出手段により算出された複数の前記マハラノビス距離の最大値を前記閾値と決定することを特徴とする請求項1に記載の画像検査装置。
【請求項3】
前記閾値決定手段は、前記第1算出手段により算出された複数のマハラノビス距離の平均値を前記閾値として決定することを特徴とする請求項1に記載の画像検査装置。
【請求項4】
前記代表値決定手段は、前記第2算出手段により算出された複数の前記マハラノビス距離の最大値を前記被検査画像の前記代表値と決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の画像検査装置。
【請求項5】
前記マハラノビス距離決定手段は、前記第2算出手段により算出された複数の前記マハラノビス距離の平均値を前記被検査画像の前記代表値と決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の画像検査装置。
【請求項6】
前記第1分割手段は、縦横のサイズが異なる複数の前記基準分割画像に分割することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の画像検査装置。
【請求項7】
前記第1分割手段は、前記基準画像のうち、前記被検査画像において異常が多発することが予めわかっている多発領域に対応する領域を他の領域に比べて小さいサイズの分割画像に分割することを特徴とする請求項6に記載の画像検査装置。
【請求項8】
前記第1分割手段は、前記基準画像のうち、前記被検査画像に発生することが予めわかっている異常の形状に基づいて設定されたサイズの前記分割基準画像に分割することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の画像検査装置。
【請求項9】
マハラノビス距離により画像検査を行う画像検査方法であって、
分割手段が、基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割ステップと、
第1算出手段が、前記第1分割ステップで得られた複数の前記分割基準画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第1算出ステップと、
閾値決定手段が、前記第1算出ステップで算出された複数の前記マハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定ステップと、
第2分割手段が、前記被検査画像を、前記基準分割画像と同一サイズ、同一形状の複数の分割被検査画像に分割する第2分割ステップと、
第2算出手段が、前記第2分割ステップで得られた複数の前記分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第2算出ステップと、
代表値決定手段が、前記第2算出ステップで算出された前記マハラノビス距離に基づいて、前記被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する代表値決定ステップと、
良否判定手段が、前記被検査画像の前記マハラノビス距離の前記代表値が前記閾値よりも大きい場合に、前記被検査画像に異常があると判定する良否判定ステップと
を有することを特徴とする画像検査方法。
【請求項10】
マハラノビス距離による画像検査処理をコンピュータに実行させるための画像検査プログラムであって、
基準空間の算出に利用する基準画像を複数の分割基準画像に分割する第1分割ステップと、
前記第1分割ステップで得られた複数の前記分割基準画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第1算出ステップと、
前記第1算出ステップで算出された複数の前記マハラノビス距離に基づいて、画像検査の対象となる被検査画像の良否判定に利用する閾値を決定する閾値決定ステップと、
前記被検査画像を、前記基準分割画像と同一サイズ、同一形状の複数の分割被検査画像に分割する第2分割ステップと、
前記第2分割ステップで得られた複数の前記分割被検査画像それぞれのマハラノビス距離を算出する第2算出ステップと、
前記第2算出ステップで算出された前記マハラノビス距離に基づいて、前記被検査画像のマハラノビス距離の代表値を決定する代表値決定ステップと、
前記被検査画像の前記マハラノビス距離の前記代表値が前記閾値よりも大きい場合に、前記被検査画像に異常があると判定する良否判定ステップと
を前記コンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−286353(P2010−286353A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140308(P2009−140308)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】