説明

画像診断支援装置

【課題】正常異常の判別をより高精度に行い、その検出率を向上させ、偽陽性数を極力削減する。
【解決手段】これは、断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別するものであり、正常異常の判別方法の一つとして、原画像と補間画像とのそれぞれのテクスチャー情報に基づいて正常異常の判別を行なうようにした。これ以外にも、原画像と補間画像との間の濃度テクスチャー情報、又は原画像と補間画像との間の陰影形状の相似度に基づいて、正常異常の判別を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ画像処理を用いて医用画像から病巣候補とされる陰影等を抽出し、抽出された病巣の候補とされる陰影を識別可能に表示する画像診断支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CT装置やMRI装置、超音波診断装置などで撮影された画像の陰影をコンピュータを用いて解析し、その陰影の中から病巣候補を絞り込んで医者に提示し、医者の判断を仰ぐという診断支援が行われている。陰影の中から病巣候補を絞り込むものとして、肺野の医用画像を例にしたものが種々報告されている。その中の一つとして、肺野の医用画像の中から細長い血管陰影と円形に近い癌陰影を識別する方法として、例えば"クオイトフ ィルタ"(1999年11月第9回コンピュータ支援画像診断学会大会論文集21ページ に記載)が報告されている。肺野の医用画像には、癌などの陰影のほか、血管、血管の断面、気管支の断面などが混在して写っているので、これらの画像の中から癌候補と思われる陰影を抽出して医者に提示することが望ましい。
【0003】
しかしながら、実際の陰影は大きさも形も様々であり、陰影の識別能力をあげるにはパラメータの調節に多くの労力を要し、使いにくいものであった。大きさや形の異なる陰影を統一的に扱える方法があれば、コンピュータプログラムを作成するのも容易となり、識別能力をあげるためのパラメータの調節も容易となる。また、簡単な処理で陰影の中から病巣候補を絞り込むことができれば、コンピュータの演算時間も少なくて済み、早く正確な病巣候補を抽出することができるようになる。また、抽出された病巣候補を医者に瞬時に表示することが可能となるので望ましい。
【0004】
本願発明者は、このような異常候補陰影の検出処理を行なうものとして、特許文献1に示すものを提案している。特許文献1に記載されたものは、原断層像をしきい値処理などにより二値化し、二値化画像の細かい部分は切断処理して孤立化し、その円形度や縦横比などの計算により選別して異常候補陰影としていた。
【特許文献1】特開2002−325761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンピュータ演算で見つけた異常陰影候補数は、実際の(医者が認める)異常より多いのが一般的である。すなわち、異常陰影候補には、真の異常と誤って異常と判定したものが含まれている。CAD(Computer Aided Detection)装置の画面には、本物の異常陰影にマーカを付けたものと、正常陰影を間違って異常としてマーカを付けたもの(偽陽性)が表示される。この偽陽性は少ないほど医師はよけいなものを見ないで済む。股、真の異常陰影に付けるマーカの割合、すなわち検出率も向上させたい。
【0006】
偽陽性数を減らす手段の一つは、画像濃度の相関値又は画像間の濃度あるいは形状の相関を利用することである。特許文献1に記載されたCAD装置では、隣り合う原画像間での陰影の位置的ズレを求めて正常異常の判別を行い、偽陽性を少なくしていた。しかし、癌陰影の形状などは非常に複雑で、上述のような一種類の方法では正常異常を精度良く区別することは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、陰影の正常異常の判別をより高精度に行い、その検出率を向上させ、偽陽性数を極力削減することのできる画像診断支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像診断支援装置の第1の特徴は、断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別する画像診断支援装置において、補間画像上でのテクスチャー情報と原画像上でのテクスチャー情報に基づいて陰影の正常異常を判別し、その判別結果に関する識別情報を前記断層像に付加して表示することにある。
断層像には、癌などの陰影のほか、血管、血管の断面、気管支の断面などが混在して写っているので、この断層像から病巣の候補とされる病巣候補陰影を抽出することは非常に困難である。特に癌陰影などの形は非常に複雑で、一種類の方法で正常異常を区別できるものは少ない。これは、正常異常の判別方法の一つとして、原画像と補間画像とのそれぞれのテクスチャー情報に基づいて正常異常の判別を行なうようにしたものである。
【0009】
本発明の画像診断支援装置の第2の特徴は、断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別する画像診断支援装置において、補間画像と原画像との間での濃度テクスチャー情報に基づいて陰影の正常異常を判別し、その判別結果に関する識別情報を前記断層像に付加して表示することにある。
これは、原画像と補間画像との間の濃度テクスチャー情報に基づいて正常異常の判別を行なうようにしたものである。
【0010】
本発明の画像診断支援装置の第3の特徴は、断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別する画像診断支援装置において、補間画像と原画像との間での陰影形状の相似度に基づいて陰影の正常異常を判別し、その判別結果に関する識別情報を前記断層像に付加して表示することにある。
これは、原画像と補間画像との間の陰影形状の相似度に基づいて正常異常の判別を行なうようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正常異常の判別をより高精度に行い、その検出率を向上させ、偽陽性数を極力削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下添付図面に従って本発明に係る画像診断支援装置の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明が適用される画像診断支援装置全体のハードウエア構成を示すブロック図である。この画像診断支援装置は、例えばX線CT装置等で被検体の対象部位について収集した複数の断層像(CT画像など)に基づいて、抽出された病巣候補陰影等を表示したり、抽出された病巣候補陰影等の中から確信度の高いものを絞り込んで表示した。また、これらの処理の途中における画像を表示したりするものである。
【0013】
この画像診断支援装置は、各構成要素の動作を制御する中央処理装置(CPU)10と、装置の制御プログラムが格納された主メモリ11と、複数の断層像データ及びプログラム等が格納された磁気ディスク12と、表示用の画像データを一時記憶する表示メモリ13と、この表示メモリ13からの画像データに基づいて画像を表示する表示装置としてのCRTディスプレイ14と、画面上のソフトスイッチを操作するマウス15及びそのコントローラ16と、各種パラメータ設定用のキーやスイッチを備えたキーボード17と、スピーカ18と、上記各構成要素を接続する共通バス19とから構成される。
【0014】
この実施の形態では、主メモリ11以外の記憶装置として、磁気ディスク12のみが接続されている場合を示しているが、これ以外にフロッピディスクドライブ、ハードディスクドライブ、CD−ROMドライブ、光磁気ディスク(MO)ドライブ、ZIPドライブ、PDドライブ、DVDドライブなどが接続されていてもよい。さらに、図示していない通信インターフェイスを介してLAN (ローカルエリアネットワーク)やインターネット、電話回線などの種々の通信ネットワーク1a上に接続可能とし、他のコンピュータやCT装置1bなどとの間で画像データのやりとりを行えるようにしてもよい。また、画像データのやりとりは、X線CT装置やMRI装置などの被検体の断層像が収集可能な医用画像診断装置を上記LAN等の通信ネットワーク1aと接続して行ってもよい。
【0015】
以下、図1の画像診断支援装置の動作例について図面を用いて説明する。図2は、画像診断支援装置が実行するメインフローの一例を示す図である。図1のCPU40は、このメインフローに従って動作する。図3は、このメインフローによってCT画像がどのように処理されるのかを示す図であり、非線形補間による補間画像の作成方法と、濃度相関を利用した判定法の一例を示している。以下、このメインフローの詳細をステップ順に説明する。
【0016】
[ステップS20]
CPU10は、原画像前後の画像を用いて補間画像を作る。例えば、図3に示すように画像番号N,N+1,N+3から補間画像(N+2)′を作成する。
【0017】
[ステップS21]
CPU10は、それぞれの画像内で、又は原画像と補間画像間で、コントラスト、相関、一様性などのテクスチャを求める。例えば、図3に示すように、画像番号(N+2)の原画像について相関画像Cを求め、さらに前のステップS20で作成された補間画像(N+2)′について相関画像C′を求める。なお、求める画像は、相関のみならず、コントラスト、一様性などのテクスチャでもよい。
【0018】
ここでのテクスチャーには、コントラスト、一様性、相関などを含む概念である。これらは、同時濃度生起行列をPδ(I,J)とすると、
コントラスト:ΣΣ(I−J)2 ・Pδ(I,J)
一様性:ΣΣ{Pδ(I,J)}2
相関:{ΣΣI・J・Pδ(I,J)−μIμJ}/σIσJ
(μK :Kについての平均,σK :Kについての標準偏差)
によって演算によって求められる値である。
【0019】
なお、テクスチャーとしては、統計レベルのテクスチャ解析として用いられる濃度共起行列(空間濃度レベル依存法(SGLDM))を用いる方法、例えば、エネルギー(energy)、エントロピー(entropy)、相関(correlation)、局所一様性(local homogeneity)、慣性(inertia)や差分統計量(濃度差分行列(GLDM))を用いる方法、例えば、コントラスト(contrast)、角度別2次モーメント(angular second moment)、エントロピー(entropy)、平均(mean)、逆差分モーメント(inverse difference moment)などがある。
【0020】
[ステップS22]
前のステップS21で求められた相関画像同士の小領域のコントラスト、一様性、相関を含む演算結果の大小比較、または直接の大小比較により、その小領域が異常か否かを判定する。最終的な結果の表示までには、本発明の判定に加え、特許文献1に記載された他の特徴量による判定処理31を行なうことも必要な場合がある。例えば、図3に示すように、相関画像Cと相関画像C′内の小領域のコントラスト、一様性、相関を含む演算結果の大小比較により、小領域が異常か否かを判定し、特許文献1に記載された他の特徴量による判定処理31を行なうことによって、その小領域が異常か否かを判定する。
【0021】
なお、陰影が異常陰影か正常陰影かを、陰影領域における原画像と補間画像間のコントラストの大小比較、一様性の大小比較、相関の大小比較で判定してもよい。図4は、線型補間による補間画像の作成方法と、画像間の濃度相関を利用した判定法の一例を示している。ここでは、画像番号N+2の原画像内の小領域(形状は任意)Aと、画像番号(N+2)′の補間画像内の小領域(形状は任意)A′内の画素値の相関による場合を示す。画像番号(N+2)′の補間画像は、画像番号N+2の原画像前後の画像(画像番号(N+1)と画像番号(N+3))を用いて作成されている。
【0022】
小領域Aの陰影が異常陰影か正常陰影かの判定は、陰影領域における原画像と補間画像との間の相関値を予め設定した値と比較することによって判定してもよい。たとえば、小領域A,A′の画素(濃度)値の差の平均値予め設定した値との大小比較により、その小領域Aが異常か否かを判定する。
【0023】
また、判定しようとする画像の部分領域内で原画像と補間画像間で、差分の絶対値や差の標準偏差や差の分散値を求めて判定してもよい。例えば、差の和=Σabs(原画像の画素値−原画像に対応する座標の補間画像の画素値)などである。補間画像の作成は、図3のように非線形補間でも図4のように線形補間を行なってもよい。その他、差を2乗してさらに定数を掛け算してもよい。また、小領域の最大値を引いてもよい。さらには、小領域の最小値を引いてもよく、小領域の平均値を引いてもよい。最終的な結果の表示までには、本発明の判定に加えて、特許文献1に記載された他の特徴量による判定処理31を行なうことも必要な場合がある。
【0024】
なお、相関には、前述したような濃度(画素値)の相関と、次に説明する形状の相関がある。簡単な形状相関はしきい値で二値化し、形の相似度を用いて異常陰影か否かを判定する場合である。非相似度の簡単な測定方法は、一方の二値化陰影を拡大縮小させて大きさを規格化し、さらに角度を回転をさせるごとに、他方の規格化した二値化陰影との差分をとり、360度方向にわたって取った複数差分値なかから最小の差分値を使う方法である。相似度は、前記非相似度の逆数として求まる。また、陰影の辺縁のみの形状を取り出して、上記と同様に相似度を測ることも可能である。
【0025】
上述の実施の形態では、N枚目の上下2枚(3枚以上でもよい)から補間してN′を作り相関に用いたが、N枚目とN−1枚目の相関、N枚目とN+1枚目の相関を別々にとり、その平均値(広義には任意の演算値)を用いて判定してもよく、または、二つの相関値のいずれか一方(例えば大きい方)を用いてもよい。
【0026】
図5は、一方の小領域の画素値と他方の小領域の画素値を入力とし、判定用の値を出力するニューラルネットの構成例を示す図である。図5に示すように、図4の画像番号N+2の原画像内の小領域Aと、画像番号(N+2)′の補間画像内の小領域A′の画素値をそれぞれニューラルネット50に入力して、その出力で判定するようにしてもよい。この場合、当然、ニューラルネット50は予め学習させておくものとする。
【0027】
図6は、断層像の全身の撮影例を示す図である。上述の実施の形態では、小領域などの各部位について説明したが、図6に示すように、被験者の全身の断層像に関しても有効である。
【0028】
図7及び図8は、超音波の診断画像に対しても同様の処理を行なう場合を示す図である。図7は、扇形超音波画像に上述の判定方法を適用して、リアルタイムに画像間の相関値をとる場合の一例を示す図であり、図8は、平行超音波画像に上述の判定方法を適用して、リアルタイムに画像間の相関値をとる場合の一例を示す図である。超音波診断画像の場合、図7に示すように超音波探触子71の被検体の接触部から所定の広がりを持って扇形の断層像を得ることができる。この場合、各断層像a〜fについて、その前後の断層像を用いて補間画像を作成し、断層像と補間画像との間の相関値に基づいて偽陽性の判断を行なう。例えば、図7の場合、画像eの前後の画像d,fを用いて補間画像e1を作成し、画像eと補間画像e1との間の相関値を求め、偽陽性の判断を行なう。図8の場合は、超音波探触子81を被検体の表面に沿って移動させ、その移動に伴って取得された画像a〜fについて同様の処理を行なうものである。このようにして、超音波画像の場合にも陽性又は偽陽性の判断を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明が適用される画像診断支援装置全体のハードウエア構成を示すブロック図である。
【図2】画像診断支援装置が実行するメインフローの一例を示す図である。
【図3】このメインフローによってCT画像がどのように処理されるのかを示す図であり、非線形補間による補間画像の作成方法と、濃度相関を利用した判定法の一例を示す。
【図4】線型補間による補間画像の作成方法と、画像間の濃度相関を利用した判定法の一例を示す図である。
【図5】一方の小領域の画素値と他方の小領域の画素値を入力とし、判定用の値を出力するニューラルネットの構成例を示す図である。
【図6】断層像の全身の撮影例を示す図である。
【図7】扇形超音波画像に上述の判定方法を適用して、リアルタイムに画像間の相関値をとる場合の一例を示す図である。
【図8】平行超音波画像に上述の判定方法を適用して、リアルタイムに画像間の相関値をとる場合の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10…中央処理装置(CPU)
11…主メモリ
12…磁気ディスク
13…表示メモリ
14…CRTディスプレイ
15…マウス
16…コントローラ
17…キーボード
18…スピーカ
19…共通バス
1a…通信ネットワーク
1b…他のコンピュータやCT装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別する画像診断支援装置において、補間画像上でのテクスチャー情報と原画像上でのテクスチャー情報に基づいて陰影の正常異常を判別し、その判別結果に関する識別情報を前記断層像に付加して表示することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項2】
断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別する画像診断支援装置において、補間画像と原画像との間での濃度テクスチャー情報に基づいて陰影の正常異常を判別し、その判別結果に関する識別情報を前記断層像に付加して表示することを特徴とする画像診断支援装置。
【請求項3】
断層像のテクスチャー情報を用いて陰影の正常異常を判別する画像診断支援装置において、補間画像と原画像との間での陰影形状の相似度に基づいて陰影の正常異常を判別し、その判別結果に関する識別情報を前記断層像に付加して表示することを特徴とする画像診断支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−14967(P2006−14967A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196288(P2004−196288)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】