説明

異方性熱伝導要素およびその製造方法

強度を維持し厚さ方向に高い効率で熱源からの熱を伝導することができる異方性熱伝導要素と、その異方性熱伝導要素を製造する方法に関する。これを実現するために、異方性熱伝導要素は、積層グラファイト・シートを有する構造体がグラファイト・シートの厚さ方向を横切って熱源との接触面を有し、積層グラファイト・シートの周囲を被覆して、支持部が形成され、熱源からの熱を伝導することができる。切断処理は、被覆処理の後に、スタック方向にその表面に沿って切断することによって、行える。切断処理の後に、表面処理加工によって、一切片に表面処理を施すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、或る装置からの熱を伝導させるための熱拡散器(ヒート・スプレッダ)に関し、その熱拡散器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品(コンポーネント、構成要素)はより小さくなり、その一方で熱放散(dissipation:放出)の必要性(要求)がより大きくなっている。これらの電子部品によって発生された熱を放散させるために、その電子部品とヒート・シンク(吸熱部)との間に熱拡散器が使用される。熱拡散器は固体(ソリッド)の熱伝導性金属で形成することができる。固体伝導性金属には熱を放散する能力に限界(限度)があり、また熱伝導特性にも限界がある。ベンゼン環を含む各グラファイト(黒鉛)シートは、積層結晶構造を有する共有結合によって結合されており、その各グラファイト層は、ファンデルワールス力(van der Waals forces)によって結合されている。その各グラファイト・シートが熱伝導要素(element:エレメント、部材、素子)の一部として用いられて、電子機器および電子装置(デバイス)によって生じるホットスポット(熱い領域)が減少される。この熱伝導要素は、熱源(ヒート・ソース)からの熱を伝導させて、熱を効率良く放射することができる。
【0003】
熱伝導要素として使用するためには、熱源を機械的に密接に接触(密着)させる必要があったが、熱源に接触させて取付または設置部品(installation parts)で固定することによって、機械的(機械の)ストレス(応力)に起因して損傷を生じる懸念があった。その理由は、グラファイトは、一般的に脆く(fragile)崩れやすいという特性を有するからである。グラファイトは、その表面を、樹脂またはアルミニウムまたはPETで被覆することが可能であるが、通常は、被覆部分の厚さが大きいと熱伝導効率が低下するという問題があった。
【0004】
日本特開2008−28283号公報には、一片のグラファイトに金属が埋め込まれて、熱伝導要素(熱伝導体)が形成され、その金属に接触する熱源からの熱を或る部品が受け取るようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−28283号公報(A)
【特許文献2】米国特許公開第2009/0095461号明細書(A1)
【発明の概要】
【0006】
本発明は、異方性熱伝導要素およびその製造方法に関する。
【0007】
グラファイトが、熱源と例えば放熱フィン(羽)のような熱放射(放熱、熱輻射)要素との間に配置されたとき、シリコーン(silicone)およびエポキシ基の樹脂材料が接着剤として各伝導層に使用されていたが、その接着剤による熱抵抗(heat resistance:耐熱性)が問題になっていた。
【0008】
本発明は、厚さ方向において効率良く熱源からの熱を伝導する異方性熱伝導要素の製造方法に関する。
【0009】
本発明の異方性熱伝導要素の構造体(structure)は、熱源からの熱を伝導することができる異方性熱伝導要素である。この構造体は、積層された複数のグラファイト・シート(グラファイト・シートの積層体)であり、それ(構造体、積層体)は、その厚さ方向およびその積層シートによって形成される平面上の別の方向において相対的に(比較的)高い熱伝導度(thermal conductivity:熱伝導率)を有し、その積層シートによって形成される平面とは(の)別の方向において相対的に(比較的)低い熱伝導度を有する。その積層シートの少なくとも2つは熱源に接触しており、その少なくとも2つの積層シートによって形成される構造体は、少なくとも部分的に被覆されて、異方性熱伝導要素の支持部分を形成している。
【0010】
上述した構造体によれば、その構造体は積層グラファイト・シートから成り、その積層グラファイト・シートは、少なくとも2つのグラファイト・シートの平面の方向(a direction:1つの方向)、および異方性熱伝導要素の厚さ方向において高い熱伝導度を有して、熱源の熱を効率良く伝導する。その異方性熱伝導要素は、異方性熱伝導要素のスタック方向(stacking direction:積み重ね方向、積層方向)に相対的に(比較的)低い熱伝導度を有することができる。また、その構造体は、或る被覆によって少なくとも部分的に包囲され(囲まれ)ている。その被覆がその支持部分を形成している。従って、熱源と取付部分との間の接触部における固定(clamping:圧着、締め付け)による機械的(機械の)ストレス(応力)による損傷が回避される。
【0011】
別の実施形態では、熱源との接触面に金属層が形成される。異方性熱伝導要素は、簡単にその金属層にはんだづけする(solder)ことによって、熱源と接触し得るであろう。
【0012】
別の実施形態では、熱源との接触面にセラミック層が形成される。異方性熱伝導要素は熱源から熱を効率良く伝導することができ、異方性熱伝導要素を不所望な電気伝導(導電体)から絶縁することができ得るであろう。
【0013】
別の実施形態では、異方性熱伝導要素の機械的強度は、その構造体に樹脂を含浸させることによって改良される。
【0014】
別の実施形態では、高配向性(highly oriented:高い配向性の)熱分解グラファイトを各積層グラファイト・シートとして使用することによって、通常のグラファイトを使用するよりもより高い熱伝導性(conductance:伝導度、伝導率)を有することになり、それによって熱伝導効率がかなり(有意に)増加する。
【0015】
別の実施形態では、異方性熱伝導要素における各積層グラファイト・シートとして高配向性熱分解グラファイトを用いることによって、熱伝導効率がかなり(有意に)増加し、また、それによって、高配向性熱分解グラファイトを用いることによる1500W/mK(ケルビン)(W・m−1・K−1)より大きい熱伝導度が得られる。それ(熱伝導度)は、ニューヨーク州、ニューヨークのミンテック・インターナショナル社(MINTEQ International Inc.)製の商標名パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)の製品によって達成できる。
【0016】
別の実施形態では、異方性熱伝導要素は取付もしくは設置部分(部品)または取付もしくは設置手段を有し、それによって、熱源をその支持部分(部品)に隣接して設置することが可能になり(許容され)、また、可能性としてその支持部分中に存在するように、その取付部分を設ける(establish:定める、設定する)ことによってその構造体に損傷を与えることなく、熱源を固定することができる。
【0017】
別の実施形態では、異方性熱伝導要素は、電気または電子機器(デバイス)と組み合わせることができる。
【0018】
その異方性熱伝導要素は、或る製造方法によって製造することができ、その製造方法では、被覆処理(工程、方法)によって、積層グラファイト・シートによって形成される構造体を被覆し、1つまたは複数の支持部分を形成する。被覆処理(工程、方法)の後で、切断処理(工程、方法)によって、スタック方向を横切って(across:を横断して、と交差して、にわたって)切断する。切断処理の後、表面処理(工程、方法)を施すことができる。
【0019】
別の実施形態では、その製造法は、上述の被覆処理の前に上記構造体に樹脂を含浸させるための含浸工程を含んでいる。その含浸工程によって、さらに、上記構造体に樹脂を含浸させることによって異方性熱伝導要素の機械的強度が改良される。
【0020】
別の実施形態では、多数の構造体がスタック方向に積み重ねられて被覆され、それによって1つまたは複数の支持部分が1つのユニット(一装置、単位)として形成され、スタック方向に沿った多数の構造体の積層による熱伝導を有する(を用いた)大きい(広い)接触領域を有する異方性熱伝導要素が製造される。
【0021】
本発明によれば、異方性熱伝導要素の製造法が開示され、厚さ方向に熱源からの熱を効率良く伝導することができ強度を保つことができる異方性熱伝導要素が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明による異方性熱伝導要素の或る実施形態を示している。
【図2】図2は、グラファイト・シートの構造体の例を示している。
【図3】図3は、本発明による異方性熱伝導要素の熱伝導方向を示している。
【図4】図4は、本発明による異方性熱伝導要素の製造方法の或る実施形態を示している。
【図5】図5は、本発明による異方性熱伝導要素の製造方法の実施形態を示している。
【図6】図6は、本発明による異方性熱伝導要素の実施形態の分解図を示している。
【図7】図7は、本発明による異方性熱伝導要素の実施形態の断面図を示している。
【図8】図8は、本発明による異方性熱伝導要素用の高配向性熱分解グラファイトの製造方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の明細書および非限定的な例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0024】
この分野の専門家であれば、前述の説明を利用すれば、さらに詳細な説明を加えなくても、本発明を最大限利用することができるものと確信する。従って、以下の実施形態(実施例)は、単なる例示と解釈され、如何なる点においても開示の残りの部分を限定または制限するものではない。
【0025】
以下は、本発明による異方性熱伝導要素とその製造方法についての説明である。
【0026】
図1から分かるように、異方性熱伝導要素1は、熱源Hからの熱を伝導することができる。積層グラファイト・シートの構造体3は、熱源の表面に沿った(along)または対向する(opposed:を向いた)層を形成しており、構造体3はその周囲を支持部4によって被覆され(覆われ)ている。
【0027】
図2から分かるように、グラファイト・シート2は0.25mm乃至20mmの厚さから成り、双方(2つ)の横方向の寸法または四角形の形態が(最大)300mmまでのサイズを有する。このグラファイト・シート2は、1つの積層結晶構造の中に六方晶系の(hexagonal)共有結合を有し、各グラファイト・シート2中の複数のグラファイト層は、ファンデルワールス力(van der Waals forces)によって結合されている。このグラファイト・シート2は、グラファイト・シート2のX−Y面上に、厚さ方向すなわちZ軸方向よりも大きい熱伝導度を有する。
【0028】
図3から分かるように、構造体3のグラファイト・シート2のX−Y面を、図5に示された異方性熱伝導要素1の一部とすることができ、それは、図3に示された接触面Cに熱電源Hを配置することによって、X−Y面の高い熱伝導度を利用するものである。各グラファイト・シート2のX−Y面は、熱源との接触面と実効的に直角にまたは平行以外の或る角度で交差させることができ、構造体3の厚さ方向に効率良く熱を伝導することができる。
【0029】
図4には、本発明による異方性熱伝導要素1の別の実施形態が示されている。本発明による異方性熱伝導要素の製造方法を、図4を参照して説明する。その方法は、複数の積層グラファイト・シート2の構造体3の少なくとも一部分を覆って各支持部分4を形成する被覆工程と、次いでその被覆処理の後でスタック方向を横切って(across:を横断して、と交差して、にわたって)切断する切断工程とを含む。任意選択的に、その切断工程の後、構造体3または支持部分4の切片(section:部分、一片、一区分)に対して表面処理を施すために表面処理加工工程(surface treatment process step)を行うことができる。
【0030】
支持部分4を形成する樹脂は、構造体3の表面を、被覆処理によって、被覆がグラファイトの厚さを含めないで厚さ0.5mm乃至12mmとなるように被覆している。それは、複数のダイヤモンド・カッタを用いて、図4に示されているように、約0.5mm乃至12mm間隔に設定された指定された間隔または単位で、切断処理によって樹脂が凝固した後の状態でグラファイト・シート2のX−Y面に対して実質的に直角となるP平面に沿って、切断することによって、処理または加工することができる。その結果、図1に示されているような、異方性熱伝導要素1が提供される。
【0031】
例えば、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂またはシリコーン系樹脂のような熱硬化性樹脂が適している。構造体3は、その成型(モールド)においてその指定された位置に固定され、熱硬化性樹脂に硬化剤を加えて加熱処理を行うことによって、樹脂で構造体3の表面を被覆することができ、それ(加熱処理、樹脂、等)は、耐熱温度を考慮して適切に選択される。
【0032】
さらに、その熱可塑性樹脂には、例えば、エンプラ(engineering plastic:産業用樹脂、エンジニアリングプラスチック)である汎用ポリカーボネート(general-purpose polycarbonate)、スーパーエンプラ(super engineering plastic)であるポリアミンイミド(polyamineimides)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide:ポリフェニレンサルファイド)、ポリエーテルスルホン(polyether sulfone)、ポリフェニレンエーテル(polyphenylene ether)、ポリスルホン(polysulfone)、テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)のようなものがある。
【0033】
さらに、上記の熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂において、無機充填剤および有機改質充填剤(modified filler:変性充填剤)化合物を使用することによって、熱に対する耐熱性および寸法形状(dimensional)安定性を改善する樹脂を使用することができる。さらに、粘着性(cohesive:凝集性)の改良のために、付加されたアミン基、シリコーン基を有する樹脂を使用することができる。
【0034】
さらに、高温環境の下で特に高いコヒーレンス(coherency:干渉性)を有するUV(紫外線)硬化性のエポキシ樹脂、アクリル酸樹脂、シリコーン樹脂およびエポキシ樹脂を使用することができる。
【0035】
樹脂のほかに、金属またはセラミック材料を支持部分4として使用することができ、それ(支持部分4)は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)のような金属によって構造体3の周囲を被覆することができるものであり、その材料は、例えばスパッタリングのような乾式法または例えばめっき(plating)のような湿式法のいずれかによって塗布、貼り付けまたは被着(applied)される。
さらに、下塗り(下層被覆)としての例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ニッケルクロム(NiCr)または白金(Pt)のような含有物(ingredient:材料、成分)が含まれている合金または炭素と一般的に適合し(match:整合)易い金属を用いることによって、凝集性(cohesion:結合、密着)が良好になる(improve:向上する)。
【0036】
構造体3の周囲は、例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素(silicon carbide)、窒化ホウ素(boron nitride)または窒化アルミニウム(nitride aluminum:アルミニウムの窒化)のようなセラミックによって被覆することができる。セラミックがスラリー(slurry:懸濁液)の形態にされた後、例えばスパッタリングまたはホット・プレス法のような乾式法が使用でき、構造体3の周囲を被覆することができる。
さらに、上述のように、グラファイト表面の金属化(metallization:メタライゼーション、メッキ)によって、粘着力(adhesion:接着力、密着性)および熱的ストレス(応力)の軽減(relief:レリーフ、除去)が改善できる。
【0037】
被覆処理の前に例えば真空含浸法などによって構造体3に樹脂を含浸させる含浸処理が行われた場合、その構造体の機械的強度が改善できる。含浸に使用される樹脂は、上述のものと類似しまたは同様であるが、特にエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を使用することが好ましい。
【0038】
さらに、図2に示された構造体3上の被覆厚さが薄いとき、初めにグラファイト・シートのスタック方向に沿って積層され各支持部分4によって被覆された複数の積層構造体3を、1つのユニット(一装置、単位)として、その積層された多数の構造体3は、熱Hを伝導するための大きな接触面積(領域)を有する異方性熱伝導要素を形成することができるであろう。
図5(a)に見られるように、切断処理の後で、構造体3の表面を研磨する研磨加工工程が実行され、その表面は研磨装置30によって滑らかで清浄(きれい)になる。図5(b)に示されているように、その表面に金属層Mを形成する膜(film:薄膜、被膜)形成処理工程を施すことができる。
【0039】
膜形成処理において、活性種(active species)としてのチタン(Ti)第1層5が構造体3および支持部分4の表面上に形成され、その(頂部)上にニッケル(Ni)層または銅(Cu)第2層6が形成され、その第2層の上にさらに金(Au)第3層7が形成される。各々の金属層の膜厚は約0.3μmであることが好ましい。
【0040】
膜形成(製造)方法として、例えばめっき法のような湿式法、または例えばスパッタリングおよび蒸着のような乾式法が利用できる。
【0041】
はんだ付けではグラファイト構造体3と熱源Hを直接結合(接続)することができないので、膜処理で金属層Mを形成し、金属層5をその金属層(M)において熱源Hにはんだ付けして、構造体3が、そのような金属層(M)を介してはんだ付けすることによって、熱源Hと強く結合できるようにする。この場合、金属層Mの膜厚は約1μmなので、熱伝導の減少はほとんどない。
【0042】
さらに、熱伝導を行い、かつ熱源Hに対して電気的に絶縁状態にする必要があるとき、研磨処理の後に、構造体3の表面に、例えば、アルミナ、シランダム(silundum)、窒化ホウ素、窒化アルミニウム(nitriding aluminium:アルミニウムの窒化)のようなセラミックを含むセラミック溶射(thermal ceramic spray)を行うことによって、セラミックから成る絶縁膜を容易に形成することができる。
【0043】
溶射処理法(thermal spray process)でのセラミックの接着性能は、溶射処理の前に、構造体3の表面にプラズマまたはレーザを使用する表面処理を適用してその構造体3の表面を活性化させることによって、改善できる。
【0044】
その表面処理の適用または適用例に応じて、金属層Mおよびそのセラミック層を構造体3における支持部分4の前後両面に形成することができる。支持部分4の耐熱性という観点から、熱源に対面する(を向いた)構造体3の表面にだけセラミック層を形成することが好ましい。
【0045】
換言すれば、本発明による表面処理法(加工)は、被覆処理または研磨処理、および溶射処理、またはそれらの処理の組み合わせによって行われる。
【0046】
さらに、図5(c)に見られるように、構造体3を少なくとも部分的に包囲するカプセル化(封入化)を可能とする被覆である支持部分4に、任意の熱源Hまたはヒート・シンク(吸熱部)に対する取付もしくは設置部分(部品)または手段としてネジ穴4aを形成することによって、構造体3を損傷することなく容易にかつ強力に熱源Hを固定することが可能である。
【0047】
さらに、構造体3は、熱源Hと接触する構造体3の接触面に接着剤を塗布することによって、熱源Hに接着力で接着することができる。
【0048】
図6および7は、上述のように製造された異方性熱伝導要素1を使用して熱源Hからの熱を伝導するための、本発明における実施形態の一例を示している。
【0049】
構造体3の厚さ方向は、セラミック板10に接着または結合されている熱源Hからの熱を異方性熱伝導要素1を介して伝導させる。この例において、熱は、異方性熱伝導要素1の後部(背面)に配置されたヒート・シンク11に伝導する。異方性熱伝導要素1は、セラミック板10とヒート・シンク11(ここでは放熱フィン)の間に挟まれており、セラミック板10と異方性熱伝導要素1、異方性熱伝導要素1とヒート・シンク11は、密着し(非常に密に接触し)、それぞれに形成されているねじ穴10a、4a、11aを通して固定手段のねじ12およびナット13によって、強く固定される。
【0050】
さらに、図7において、参照番号8ははんだ層を示し、参照番号9はセラミック板10上に形成された金属層を示している。
【0051】
上述したように、異方性熱伝導要素1に使用される構造体3として或る種の高配向性熱分解グラファイトを選択することが適している。通常のグラファイトより高い熱伝導性を有する高配向性熱分解グラファイトを用いることによって、熱伝導効率を大幅に上げることが可能である。
【0052】
1500W/m°K(すなわちW/(m・°K))より大きい熱伝導度を有する高配向性熱分解グラファイトを用いるのが好ましく、特に用いるのに適した例は、ニューヨーク州、ニューヨークのミンテック・インターナショナル社(MINTEQ International Inc)製の商標名パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)である。
【0053】
一般的に、熱伝導度は自由電子および格子振動によって生じる。ダイヤモンドの高い熱伝導率(1000〜2000W/m°K)は、格子振動によるものであるが、一方、極端に高い異方性のパイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)グラファイトの熱伝導度は、自由電子と格子振動の双方に起因して、ダイヤモンドと等しいかまたはそれより小さい(以下である)。
【0054】
しかし、パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)熱分解グラファイトは、次のような多くの有用な特性を有する。例えば、密度(density)2.22g/cc、抗張力(tensile strength)28900kPa(a方向)、弾性率(elastic modulus:弾性係数)50GPa(a方向)、曲げ弾性率(flexural modulus)33200MPa(a方向)、熱膨張率(coefficient of thermal expansion:熱膨張係数)0.6×10−6/℃(a方向)、25×10−6/℃(c方向)、熱伝導度(thermal conductivity)1700W/m°K(a方向)、7W/m°K(c方向)、電気比抵抗(electric specific resistance)5.0×10−4Ωcm(a方向)、0.6Ωcm(c方向)、酸化閾値(oxidation threshold)650℃(a方向)、および透過性(permeability:浸透性、ヘリウム透過性)10−6mmHgである。
【0055】
パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)熱分解グラファイトのa方向における熱伝導度は、他の材料の熱伝導度に比べて、極めて高く、例えば窒化アルミニウム(AlN)およびベリリア(BeO)の値の約6倍、特に銅(Cu)の材料の全体的熱拡散の値の約4倍である。
さらに、そのa方向は、複数のグラファイト・シートの平面方向(a plane direction)内のラミネート方向(laminating direction:薄板方向、積層方向)であり、c方向はa方向に対して垂直である。
【0056】
パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)熱分解グラファイトの密度は、グラファイトの理論的密度2.3g/ccとほぼ同じであり、弾性率(elastic modulus)が50GPa(a方向)と高いので、機械的振動の期間におけるようなストレスが加わると壊れやすく、処理または加工しにくい。しかし、期待された熱伝導性能を維持することは可能であり、処理(加工)時に、熱源への取付(設置)時の機械のストレスおよび取付後のその機械の振動に起因して壊れることはない。その理由は、被覆の形態の支持部分4による支持が、上述のように構造体3の周囲の少なくとも一部分に形成されているからである。
【0057】
パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)熱分解グラファイトは、図8に示されているように、CVD法によって製造される。真空ポンプ21による真空引き状態のチャンバ20内で、原料ガスとしてシリンダ22から供給される炭化水素ガスは、そのガスがヒータ23によって2000℃より高い温度に加熱されることによって、熱によって分解される(decomposed)。一方、微細な炭素の核(nucleus)Cは、基質24上に被着(deposit:堆積)し結晶化して層状構造で(in stratified formation)積層し堆積して、パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)熱分解グラファイトが生成される。
【0058】
パイロイド・エイチ・ティー(PYROID(登録商標)HT)熱分解グラファイトは、厚さ0.25mm乃至20mmのものが市販されており(入手可能であり)、積層、堆積時間を制御することによって、300mm角(square)程度の種々のサイズの四角形状構造の板として生成することができる。
【0059】
上述したように、異方性熱伝導要素1は熱源Hからの熱を伝導する。このような熱源Hと共に異方性熱伝導要素1を含む、例えば、半導体集積回路、電力用半導体、半導体レーザ、電子装置(デバイス)のような各電子装置が、多くの分野(領域)で利用できる。
【0060】
それは、特に、近年顕著な電子的な進歩の影響を受けて来た任意の自動車用に使用されるときに耐振性を必要とする用途(適用例)に使用することができる。
【0061】
従って、本発明の上述の説明は、この分野の専門家によって大幅な変形、変更および適応化が可能であり、このような変形、変更および適応化についても、添付されたクレームに定められている本発明の範囲に含まれることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源からの熱を伝導するための異方性熱伝導要素であって、
グラファイト・シートの積層体を含み、
前記グラファイト・シートの各々が、平面状であり、各グラファイト・シートによって形成される平面の方向に高い熱伝導度と、各グラファイト・シートの厚さ方向に低い熱伝導度とを有し、
前記グラファイト・シートは、前記グラファイト・シートの厚さ方向を横切って(across:を横断して、と交差して)前記熱源に接触するための接触面を有し、
前記グラファイト・シートの積層体は、少なくとも部分的に被覆され、それによって前記異方性熱伝導要素の支持部が形成されているものである、
異方性熱伝導要素。
【請求項2】
前記グラファイト・シートが前記熱源に接触する位置に、金属層が形成されている、請求項1に記載の異方性熱伝導要素。
【請求項3】
前記グラファイト・シートが前記熱源に接触する位置に、セラミック層が形成されている、請求項1に記載の異方性熱伝導要素。
【請求項4】
前記異方性熱伝導要素は樹脂が含浸されたものである、請求項1乃至3のいずれかに記載の異方性熱伝導要素。
【請求項5】
前記グラファイト・シートが高配向性熱分解グラファイトである、請求項1乃至3のいずれかに記載の異方性熱伝導要素。
【請求項6】
前記高配向性熱分解グラファイトは、1500W/mKより大きい熱伝導度を有するものである、請求項5に記載の異方性熱伝導要素。
【請求項7】
さらに、前記熱源を前記支持部に固定するための取付部を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の異方性熱伝導要素。
【請求項8】
熱源を有する電子機器との組み合わせで、前記熱源からの熱を伝導する、請求項1乃至3のいずれかに記載の異方性熱伝導要素。
【請求項9】
請求項1に記載の異方性熱伝導要素を製造する方法であって、
前記グラファイト・シートの積層体を供給する工程を含み、
前記グラファイト・シートの各々は、平面状であり、各グラファイト・シートによって形成される平面の方向に高い熱伝導度と、各グラファイト・シートの厚さ方向に低い熱伝導度とを有するものであり、
さらに、前記グラファイト・シート上に、前記グラファイト・シートの厚さ方向を横切って前記熱源に接触するための接触面を形成する工程と、
前記グラファイト・シートを少なくとも部分的に被覆する工程であって、それによって前記異方性熱伝導要素の支持部が形成される工程と、
を含む、異方性熱伝導要素の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記グラファイト・シートの積層体の前記接触面の少なくとも一部に表面処理を施す工程を含む、請求項9に記載の異方性熱伝導要素の製造方法。
【請求項11】
さらに、前記グラファイト・シートを被覆する前に、前記グラファイト・シートの積層体に樹脂を含浸させる工程を含む、請求項9に記載の前記異方性熱伝導要素の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の異方性熱伝導要素を製造する方法であって、
グラファイト・シートの第1の積層体を供給する供給工程を含み、
前記グラファイト・シートの各々は、平面状であり、各グラファイト・シートによって形成される平面の方向に高い熱伝導度と、各グラファイト・シートの厚さ方向に低い熱伝導度とを有するものであり、
さらに、前記グラファイト・シートの第1の積層体を少なくとも部分的に被覆して、前記グラファイト・シートの第1の積層体に被覆を形成する、被覆工程と、
前記グラファイト・シートの前記第1の積層体を前記グラファイト・シートの厚さ方向を横切って(across:を横断して、を横切って、にわたって)切断して、前記異方性熱伝導要素の支持部分を形成する被覆を少なくとも一部分に有しかつ前記グラファイト・シートの厚さ方向を横切って前記熱電源に接触するための接触面を有するグラファイト・シートの第2の積層体を形成する、切断工程と、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−533882(P2012−533882A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520652(P2012−520652)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/039949
【国際公開番号】WO2011/008467
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(502159859)スペシャルティ ミネラルズ (ミシガン) インコーポレーテツド (6)
【Fターム(参考)】