説明

癌の治療のための免疫リポソーム

本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を患っているヒト患者の多重治療のための免疫リポソーム、および、その方法に用いられる組成物に関する。本発明はさらに、癌療法における多剤耐性の治療のための免疫リポソームの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌治療の分野におけるものである。特に本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を患っているヒト患者の一次〜より高次の治療に関し、該方法に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮成長因子受容体(EGFR)は多くの上皮腫瘍において異常に活性化されるErbBファミリーのチロシンキナーゼ受容体である。受容体活性化はいくつかの下流細胞内基質の動員およびリン酸化を引き起こし、有糸分裂シグナリングおよび他の腫瘍促進性の細胞活性につながる。ヒト腫瘍において、受容体過剰発現はより悪性度の高い臨床経過と相関している(1、2)。リガンド結合細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体、および受容体のチロシンキナーゼの低分子量阻害剤は、現在、臨床開発の後期段階にある。
【0003】
入手可能な抗EGFR MAbの中で、最も詳しく特徴づけられているものはキメラヒト:マウスMAbセツキシマブである。セツキシマブは、活性オートクリンEGFRループを有する培養癌細胞の成長の強力な阻害剤である。単独で、または化学療法もしくは放射線照射との併用で投与したセツキシマブの一連の第I相、第II相および第III相試験が完了している。セツキシマブは安全であることが判明したが、全治療患者の最大40〜70%におけるざ瘡様皮膚発疹および患者の2%で発生したアナフィラキシー様反応またはアナフィラキシー反応を含む、いくつかの副作用を示した。キメラ抗体に対するヒト非中和抗体が患者の4%で検出された。抗体クリアランスの飽和によってもとめた最適な生物学的用量は、1週間あたり200から400mg/m2の範囲であることが判明した(3)。セツキシマブは現在、多くの国で結腸直腸癌および頭頸部腫瘍の患者における標準治療法の一部と考えられている。
【0004】
ドキソルビシンは固形腫瘍および血液悪性腫瘍の治療用に最も広く用いられている抗癌剤の一つである。これは様々な癌のタイプに対して活性で、単剤として、および併用化学療法において広く用いられている。乳癌の治療における中心的役割に加えて、ドキソルビシンは卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、胃癌、膀胱癌、および小細胞肺癌、子宮肉腫、急性リンパ芽球性白血病、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、ならびに軟部組織および骨肉腫においても抗腫瘍活性を示している。ドキソルビシンはすぐれた抗腫瘍活性を示すが、臨床医療におけるその使用は薬物関連毒性、特に骨髄抑制および心毒性によって制限される(引用:"Principals and Practice of Oncology, DeVita, 6th edition")。
【0005】
薬物の組織分布および薬物動態を変えるため、ならびにその治療指数を高めるために、ドキソルビシンのリポソーム封入が用いられた。ペグ化リポソームドキソルビシン(DOXYL、Ortho Biotech Products LP, Bridgewater, NJ;CAELYX、Schering Plough, Kenilworth, NJ)はドキソルビシンの新しい製剤である。ペグ化は単核食細胞系による検出からリポソームを保護し、循環時間を延ばして、腫瘍細胞に対するドキソルビシンの指向性がより高い送達を可能にする。
【0006】
ペグ化リポソームドキソルビシンは、転移または再発した乳癌患者における単剤として有効性を示しており、客観的反応率は9%から33%の範囲である(4、5)。通常のドキソルビシンと比較して、ペグ化リポソームドキソルビシンは類似の有効性および改善された安全性を有し、心毒性の発生率が著しく低下しかつ心事象が顕著に少なく、また骨髄抑制、粘膜炎、悪心、嘔吐、および脱毛の発生率も低下している。
【0007】
その一方で、ペグ化リポソームドキソルビシンは、遊離ドキソルビシンではほとんどまたは全く見られなかった毒性である手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)を伴う。
【0008】
乳癌における使用に加えて、リポソームドキソルビシンはカポジ肉腫(6、7)および再発卵巣癌(8)の治療において十分に確立された役割を果たし、異なるタイプのリンパ腫、多発性骨髄腫、軟部組織肉腫、神経膠腫、黒色腫、中皮腫、尿路上皮管(urothelial tract)の移行上皮癌の患者において、ならびに子宮内膜癌、膵臓癌、胃癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌、肝細胞癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、頭頸部癌と、胆管癌においても使用が成功している(概要:(9))。
【0009】
前臨床試験のために、リポソーム膜に共有結合させたキメラMAbセツキシマブ(C225、セツキシマブ、アービタックス、ImClone Systems Corp., NY, USA;Merck KGaA, Darmstadt, Germany)のFab'断片を用いて、抗EGFR免疫リポソームが構築された。このアプローチは、安定で、非免疫原性であり、長寿命で血中および組織滞留時間が長く、かつ多様なタイプの薬物を大量に送達することが可能な、受容体を標的とする内部移行薬物担体による、癌細胞への最大の薬物送達を提供するために設計された。MAb断片の最適化と並行して、結合法も最適化された。あらかじめ形成された薬物担持リポソームへのMAb断片の2段階結合を含む、新しいミセル取り込み法が開発された(10)。まず、溶液中で誘導体化PEG-ホスファチジル-エタノールアミン(MAL-PEG-DSPE)リンカーにMAb断片(Fab')を共有結合させ、自発的にミセルを形成する傾向がある免疫複合体を生じた。次に、制御加熱によりあらかじめ薬物を担持したリポソームへと複合体を取り込ませ、PEG鎖の末端に共有結合しかつリポソームに固定されたMAb断片を得た。
【0010】
C225のFab'が免疫リポソーム上に中等度の密度でのみ存在する場合(リポソーム1つあたり30 Fab')に、これらの免疫リポソームは、蛍光顕微鏡検査およびFACSによって示されるとおり、一連のEGFRまたはEGFRvIII過剰発現癌細胞株において非常に効率的な結合および内部移行を示した(11)。これらの癌には類表皮癌細胞(A431)、乳癌細胞(MDA-MB-468)、悪性神経膠腫細胞(U87)、およびEGFRvIII安定形質移入体NR6-M細胞が含まれる。これに対して、無関係の免疫リポソーム(抗HER2)および対照リポソーム(MAbなし)はA431、MDA-MB468、U87、およびNR6-M細胞に結合することもその中に蓄積することもなかった。同様に、抗EGFR免疫リポソームはEGFR非過剰発現細胞(乳癌細胞株SKBR-3またはMCF-7)に検出可能に結合することもその中に蓄積することもなかった。
【0011】
インビトロでの条件下で、免疫リポソーム取り込み、内部移行、および細胞内薬物送達の定量的試験を、pH感受性プローブ(HPTS)を担持した抗EGFR免疫リポソームを用いて実施した。この方法は、中性pH(表面結合)と酸性pH(エンドサイトーシス関連)での免疫リポソーム取り込みの動力学の定量分析を可能にする(12)。MDA-MB-468細胞において、抗EGFR免疫リポソームは5分以内に結合し、続いて細胞内蓄積が15分で始まり、240分まで増加した。MDA-MB-468細胞におけるEGFRを標的とした免疫リポソームの全取り込みは、飽和濃度で存在する場合、リン脂質1.70fmol/細胞で、これは13,000リポソーム/細胞の取り込みに相当する。MDA-MB-468細胞における非標的指向リポソームの取り込みは<300リポソーム/細胞であり、標的指向送達によって>43倍増加することを示している。EGFR非過剰発現MCF-7細胞における抗EGFR免疫リポソームの取り込みは450 IL/細胞で、EGFR過剰発現MDA-MB-468細胞には28倍蓄積されることを示している。
【0012】
インビボでは、抗EGFR免疫リポソーム(IL)は、1回の静脈内投与後に正常成獣ラットにおいて安定な構築物として非常に長い循環を示し、薬物動態は立体的に安定化された(「ステルス」)リポソームと識別不能であった(13)。さらに、反復投与してもクリアランスの上昇は見られず、免疫リポソームがステルスリポソームの長い循環および非免疫原性の特徴を保持していることがさらに確認された。様々な抗癌剤を担持した抗EGFR免疫リポソーム(C225-IL-dox)の治療効力の可能性が、一連の腫瘍異種移植モデル(MDA-MB-468、U-87およびU-87vIII)で評価された(13)。
【0013】
臨床状況でのヒト治療法における使用についての、抗EGFR免疫リポソーム系の可能性はまだ示されていない。これに関する主な問題の一つは、例えばリポソーム封入したドキソルビシン(ドキシル、Caelyx)などの抗EGFR免疫リポソームの公知の毒性に関する。ここで、最も顕著な毒性副作用は手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)であり、これは日常的腫瘍医療において標準的な4週間ごとの短時間注入形式での40〜50mg/m2の用量で観察されうる。同様に、セツキシマブなどの抗EGFR抗体の重要な副作用は皮膚毒性であり、通常は顔および体幹のざ瘡様発疹として発現する。この副作用はおそらく、表皮がEGFRを比較的高レベルで発現するという事実の結果である。したがって、臨床状況で抗EGFR免疫リポソームを用いることの主な安全上の問題の一つは、例えばセツキシマブなどの抗EGFR抗体によって上記リポソームをEGFR過剰発現細胞に指向させることにより薬物の皮膚毒性も高める可能性があるということである。
【0014】
さらに、例えばドキソルビシン、ビノレルビンまたはメトトレキセートなどの化学療法剤を封入している抗EGFR免疫リポソーム(ILS)を、1種または複数の標準治療(一次、二次、三次など)をすでに受けているが反応の見られない患者群、すなわち非反応者群での治療的適用に用いることが可能かどうかも、まだ明らかにされておらず、予測が非常に難しい。
【0015】
複次治療で観察された反応性の欠如についての可能性のある理由の一つは、癌細胞の多剤耐性の発生である。
【0016】
薬物耐性は癌治療における主要な課題であり続けている。内因性のまたは獲得された薬剤耐性はほとんどの癌で高頻度に起こり、複数の薬剤に対する耐性(多剤耐性、MDR)を同時に含むことが多い。薬物耐性についてのいくつかのメカニズムが説明されている。これらには下記が含まれる:P-糖タンパク質(PGP)および多剤耐性タンパク質(MRP)などの薬物運び出しポンプの過剰発現;葉酸キャリアの変化などの薬物取り込みの低下;グルタチオン仲介性の還元などの薬物の不活化;アップレギュレートされたチミジル酸シンターゼなどの標的酵素の過剰発現;トポイソメラーゼIIなどの薬物標的の変化;DNA修復能力の増大;アポトーシスを起こす能力の低下;ならびにその他(総説:(30)および(31))。これらのメカニズムの中で、多剤耐性におけるPGPの役割は最も集中的に試験されたものの1つである。MDR1遺伝子によってコードされるPGPは、ABC(ATP結合カセット)輸送タンパク質ファミリーのメンバーであり、MDR表現型において過剰発現されることが多い。薬物流出を仲介することができる他の膜結合輸送体には、多剤耐性タンパク質MRPおよび他の関連タンパク質が含まれる((32)、(33)および(34))。これらのタンパク質は、アントラサイクリン、ビンカアルカロイド、ミトキサントロン、パクリタキセル、およびその他を含む様々な複素環物質を、細胞から外へ、または他の細胞区画の中へ活発に輸送する((32)、(33)および(34))。
【0017】
これらの耐性メカニズムの特異的阻害剤が、薬物感受性を回復するための手段として広く追求されている(総説は(35)参照)。いまだ活発に研究が続けられているが、特異的耐性阻害剤はまだ臨床使用のための登録がなされていない。治療的成功への前進は、不十分な特異性、予測可能なおよび不可能な毒性、公知の耐性メカニズムの真の有病率および寄与率についての不確定性、特定のメカニズムに依存する腫瘍を同定するための予測的分析の不十分さ、ならびに耐性メカニズムの多様性および重複性などの問題によって妨害されている((35))。
【0018】
したがって、癌を発症した患者、特に非反応者の群に属する患者、すなわち従来の癌化学療法に反応しないかもはや反応しなくなった患者の安全な治療処置のための代替戦略を提供する必要がある。特に、癌療法において内因性のまたは獲得された薬物耐性を克服するための代替戦略を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0019】
この代替戦略を提供する必要性は、EGFR標的指向免疫リポソームを含む薬物送達系に基づく治療アプローチを提供することにより、本発明の範囲内で満たすことができると考えられ、これは、EGFR過剰発現細胞の細胞質において大規模な内部移行を示す(最大30,000IL/細胞)が、非過剰発現細胞においては内部移行を示さず、かつまた、いくつかの化学療法薬(ドキソルビシン、ビノレルビンおよびメトトレキセート)のいずれかを封入している場合に顕著な細胞毒性を示す。
【0020】
臨床状況において抗EGFR免疫リポソーム、特に、例えばドキソルビシン、ビノレルビン、またはメトトレキセートなどのいくつかの化学療法薬のいずれかを含む免疫リポソームを、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を患っておりかつ化学療法を受けたことがないヒト患者に、特に、少なくとも1種の標準治療(一次)、特に少なくとも2種の標準治療(二次)、特に少なくとも3種の標準治療(三次)、特にすべての利用可能な標準治療(複次)を受けたが反応が見られなかったか反応が停止したヒト患者に投与すると、疾患の安定化、特に部分反応、特に完全寛解が引き起こされるのみならず、副作用が全くまたは実質的に全く示されず、特に手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)および/または皮膚毒性が全くまたは実質的に全く示されないことが、本発明の範囲内で驚くべきことに見いだされた。
【0021】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次治療〜複次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームが提供される。
【0022】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の二次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0023】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の三次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0024】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の四次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0025】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の五次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0026】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の六次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0027】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の七次およびより高次の治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0028】
一つの態様において、本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を有しかつ化学療法を受けたことがないヒト患者、特に、少なくとも1種の標準治療、特に少なくとも2種の標準治療、特に少なくとも3種の標準治療、特にすべての利用可能な標準治療を受けたが反応の見られなかったヒト患者の治療、特に複次治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0029】
一つの態様において、本発明は、本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍を有するヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関し、該腫瘍はまだ進行中である。
【0030】
一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有するヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームが提供され、本リポソームは抗癌化合物、特に細胞増殖抑制性化合物、特にダウノマイシン、イダルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、シスプラチンおよび他の白金類縁体、ビンクリスチン、エピルビシン、アクラシノマイシン、メトトレキセート、エトポシド、ドキソルビシン、エピルビシン、ビノレルビン、シトシンアラビノシド、フルオロウラシルおよび他のフッ化ピリミジン、フッ化プリン、またはフッ化ヌクレオシド、特にゲムシタビン、ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン、ダクチノマイシン、シクロホスファミドおよびその誘導体、チオテパ、BCNU、パクリタキセル、ドセタキセルおよび他のタキサン誘導体と単離体、カンプトテシン、ポリペプチド、核酸、ホスホロチオエートヌクレオチド間連結を有する核酸、ならびにポリアミドヌクレオチド間連結を有する核酸からなる群より選択される化合物、特にドキソルビシン、エピルビシン、およびビノレルビンからなる群より選択される化合物、特にドキソルビシンを封入している。
【0031】
一つの態様において、本発明は、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有するヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関し、患者の非反応性は多剤耐性メカニズムによって引き起こされる。
【0032】
一つの態様において、本発明は、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有しかつ多剤耐性が生じているヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームに関する。
【0033】
一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有する、非反応者の群に属するヒト患者、特に多剤耐性が生じている患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームが提供され、該免疫リポソームは、標準のMTT検定で評価して、1.0μg/mlから5.0μg/mlの間、特に0.8μg/mlから3.5μg/mlの間、特に0.7μg/mlから2.5μg/mlの間、特に0.6μg/mlから2.0μg/mlの間、特に0.5μg/mlから1.5μg/mlの間、特に0.4μg/mlから1.0μg/mlの間、特に0.3μg/mlから0.5μg/mlの間、特に0.2μg/mlから0.4μg/mlの間のIC50を有する。免疫リポソームは特にドキソルビシンを含む免疫リポソームである。
【0034】
本発明の一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有する、非反応者の群に属するヒト患者、特に多剤耐性メカニズムが生じた患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームが提供され、該免疫リポソームは、遊離の抗癌剤よりも3倍から5倍、5倍から20倍、10倍から30倍、15倍から40倍、20倍から50倍、25倍から60倍、30倍から70倍、35倍から80倍、40倍から90倍、50倍から100倍高い、80倍から150倍、120倍から250倍高い細胞毒性を有する。
【0035】
本発明の一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を有するヒト患者の治療、特に複次治療のための免疫リポソームが提供され、該治療は疾患の安定化、特に部分反応、特に完全寛解を引き起こす。
【0036】
本発明の一つの態様において、抗EGFR免疫リポソームを体表面1m2あたり10mgおよび40mg、特に30mg/m2から50mg/m2、特に40mg/m2から60mg/m2、特に50mg/m2から70mg/m2、特に60mg/m2から80mg/m2、特に70mg/m2から90mg/m2、特に75mg/m2から100mg/m2の用量レベルで、2から6週間ごと、特に3から5週間ごと、特に4週間ごとの短時間注入として投与する。短時間注入とは、少なくとも10分間、特に少なくとも20分間、特に少なくとも30分間、特に少なくとも40分間、特に少なくとも60分間、特に少なくとも90分間、特に少なくとも120分間、特に少なくとも240分間の注入時間を意味する。
【0037】
一つの態様において、本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を患っているヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した免疫リポソームに関し、該治療は毒性副作用を全くまたは実質的に全く示さず、特に手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)および/または皮膚毒性を全くまたは実質的に全く示さない。
【0038】
一つの態様において、本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を患っているヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した免疫リポソーム、特にドキソルビシン化合物を含む免疫リポソームに関し、該治療は、体表面1m2あたり5mgから20mg、特に10mg/m2から40mg/m2、特に30mg/m2から50mg/m2、特に40mg/m2から60mg/m2、特に50mg/m2から70mg/m2、特に60mg/m2から80mg/m2、特に70mg/m2から90mg/m2、特に75mg/m2から100mg/m2の免疫リポソーム濃度で、毒性副作用を全くまたは実質的に全く示さず、特に手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)および/または皮膚毒性を全くまたは実質的に全く示さない。
【0039】
本発明の一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有するヒト患者の治療、特に複次治療のための免疫リポソームが提供され、抗体または抗体断片はリポソーム膜に共有結合しており、特にリポソームに固定されたリンカー分子の末端に共有結合している。リンカー分子は特に親水性ポリマー、特にポリエチレングリコールである。
【0040】
本発明の一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有するヒト患者の治療、特に複次治療のために提供される、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームは、EGF受容体のリガンド結合細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体、特に、例えばキメラMAb C225などのキメラ抗体または、例えばヒト化MAb EMD72000などのヒト化抗体を含む。
【0041】
一つの態様において、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、治療対象の癌は乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、胃癌、膀胱癌、子宮肉腫、多発性骨髄腫、ならびに軟部組織および骨肉腫である。
【0042】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームが提供され、該患者はカポジ肉腫、再発卵巣癌、軟部組織肉腫、神経膠腫、黒色腫、中皮腫、尿路上皮管の移行上皮癌、子宮内膜癌、膵臓癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌、肝細胞癌、腎細胞癌、食道癌、結腸直腸癌、肛門癌、膣癌、外陰癌、前立腺癌、皮膚の基底細胞癌、頭頸部癌、ならびに胆管癌からなる群より選択される癌を患っており、この癌は特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される。
【0043】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の治療、特に複次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、食道癌、結腸癌、および直腸癌からなる群より選択される癌を患っており、この癌は特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される。
【0044】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者はホルモン治療および/またはドセタキセル治療および/またはミトキサントロン治療の際に腫瘍が進行した前立腺癌を患っている。
【0045】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、ゲムシタビン治療および/またはカペシタビン治療および/またはオキサリプラチン治療の際に腫瘍が進行した膵臓癌または胆嚢癌を患っている。
【0046】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、インターフェロン治療および/またはカペシタビン治療および/またはスニチニブ治療および/またはソラフィニブ治療の際に腫瘍が進行した腎臓癌を患っている。
【0047】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはゲムシタビンおよび/またはドキソルビシンおよび/またはメトトレキセートおよび/またはビンクリスチンの際に腫瘍が進行した尿路上皮癌を患っている。
【0048】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはゲムシタビンおよび/またはビノレルビンおよび/またはペメトレキセドおよび/またはドセタキセルおよび/またはゲフィチニブの際に腫瘍が進行した非小細胞肺癌を患っている。
【0049】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはエトポシドおよび/またはイリノテカンおよび/またはドキソルビシンおよび/またはビンクリスチンおよび/またはシクロホスファミドおよび/またはトポテカンの際に腫瘍が進行した小細胞肺癌を患っている。
【0050】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはゲムシタビンおよび/またはペメトレキセドの際に腫瘍が進行した中皮腫を患っている。
【0051】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはドキソルビシンおよび/またはビンクリスチンおよび/またはシクロホスファミドおよび/またはパクリタキセルおよび/またはドセタキセルおよび/またはゲムシタビンおよび/またはビノレルビンおよび/またはカペシタビンおよび/またはマイトマイシンおよび/またはメトトレキセートおよび/またはミトキサントロンおよび/またはベバシズマブおよび/またはトラスツズマブの際に腫瘍が進行した乳癌を患っている。
【0052】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、シスプラチン治療および/または5-FU治療および/またはドセタキセル治療および/またはセツキシマブ治療の際に腫瘍が進行した食道癌を患っている。
【0053】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、テモゾロミドおよび/またはベバシズマブおよび/またはイリノテカンおよび/またはビンクリスチンおよび/またはプロカルバシンおよび/またはCCNUおよび/またはBCNUの際に進行した脳腫瘍を患っている。
【0054】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、スニチニブおよび/またはソラフェニブの際に腫瘍が進行した肝細胞癌を患っている。
【0055】
一つの態様において、臨床状況におけるヒト患者の複次治療、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、または該免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供され、該患者は、セツキシマブ治療および/またはベバシズマブ治療および/またはオキサリプラチン治療および/またはイリノテカン治療および/またはカペシタビン治療および/または5-FU治療の際に腫瘍が進行した結腸および/または直腸癌を患っている。
【0056】
本発明の一つの態様において、癌、特に本明細書において前述した局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有するヒト患者の治療、特に複次治療のための免疫リポソームが提供され、5%から10%、特に7%から15%、特に9%から20%、特に12%から25%、特に18%から30%、特に22%から35%、特に28%から40%、特に32%から45%、特に38%から50%、特に42%から55%、特に48%から60%、特に52%から60%、特に52%から70%、特に52%から75%、特に58%から80%、特に62%から85%、特に68%から90%、特に72%から95%、および最大100%の反応率が達成される。
【0057】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者、特に非反応者の群に属するヒト患者、特に多剤耐性が生じている非反応者の群に属するヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次〜複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームを、薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤と共に含む、薬学的組成物に関する。
【0058】
一つの態様において、本発明は、臨床状況におけるヒト患者、特に非反応者の群に属するヒト患者、特に多剤耐性が生じている非反応者の群に属するヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次〜複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療の方法であって、該ヒト患者に、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームまたは薬学的組成物を投与することによる方法に関する。
【0059】
一つの態様において、本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を有しかつ化学療法を受けたことがないヒト患者、特に、少なくとも1種の標準治療、特に少なくとも2種の標準治療、特に少なくとも3種の標準治療、特にすべての利用可能な標準治療を受けたが反応の見られなかった患者を、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームまたは薬学的組成物で治療する方法に関する。
【0060】
特に本発明は、多剤耐性が生じているヒト患者を治療する方法に関する。
【0061】
一つの態様において、本発明は、ヒト患者、特に非反応者の群に属するヒト患者、特に多剤耐性が生じている非反応者の群に属するヒト患者の、臨床状況における癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次〜複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療において用いる薬剤調製のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームまたは薬学的組成物の使用法に関する。
【0062】
一つの態様において、本発明は、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を有しかつ化学療法を受けたことがないヒト患者、特に、少なくとも1種の標準治療、特に少なくとも2種の標準治療、特に少なくとも3種の標準治療、特にすべての利用可能な標準治療を受けたが反応の見られなかった患者の治療において用いる薬剤調製のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームまたは薬学的組成物の使用法に関する。
【0063】
特に本発明は、多剤耐性が生じているヒト患者の治療において用いる薬剤調製のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームまたは薬学的組成物の使用法に関する。
【0064】
一つの態様において、多剤耐性が生じている患者または患者群においてそのような多剤耐性を治療するための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含み、かつ、内部に抗腫瘍化合物をさらに封入している、本明細書において前述した本発明の免疫リポソーム、またはそのような免疫リポソームを含む薬学的組成物が提供される。
【0065】
一つの態様において、本発明は、多剤耐性、特にドセタキセル、ミトキサントロン、ゲムシタビン、カペシタビン、オキサリプラチン、インターフェロン、スニチニブ、ソラフィニブ、シスプラチンもしくはカルボプラチン、ドキソルビシン、メトトレキセート、ビンクリスチン、ビノレルビン、ペメトレキセド、ゲフィチニブ、エトポシド、イリノテカン、シクロホスファミド、トポテカン、シクロホスファミド、パクリタキセル、マイトマイシン、ベバシズマブ、トラスツズマブ、5-FU、セツキシマブ、テモゾロミド、ベバシズマブ、プロカルバシン、CCNU、およびBCNUからなる群より選択される1つまたは複数の抗癌剤による治療に対する多剤耐性が生じている患者または患者群の癌の治療、特に乳癌もしくは結腸直腸癌、または両方の治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームを、薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤と共に含む、薬学的組成物に関する。
【0066】
一つの態様において、前記多剤耐性は、ドセタキセル、ミトキサントロン、ゲムシタビン、カペシタビン、オキサリプラチン、スニチニブ、ソラフィニブ、シスプラチン、5-FU、セツキシマブ、ベバシズマブ、オキサリプラチン、およびイリノテカンからなる群より選択される1つまたは複数の抗癌剤を含む。
【0067】
一つの態様において、癌の治療、特に複次治療、特に乳癌もしくは結腸直腸癌、または両方の治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームを、薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤と共に含む、薬学的組成物が提供され、該免疫リポソームは、ドキソルビシンを封入しかつ、抗体MAb C225もしくは抗体EMD72000または該抗体の一方もしくは両方の特異的結合特性を示すそれらの断片をさらに含む。
【0068】
一つの態様において、多剤耐性、特にドセタキセル、ミトキサントロン、ゲムシタビン、カペシタビン、オキサリプラチン、インターフェロン、スニチニブ、ソラフィニブ、シスプラチンもしくはカルボプラチン、ドキソルビシン、メトトレキセート、ビンクリスチン、ビノレルビン、ペメトレキセド、ゲフィチニブ、エトポシド、イリノテカン、シクロホスファミド、トポテカン、シクロホスファミド、パクリタキセル、マイトマイシン、ベバシズマブ、トラスツズマブ、5-FU、セツキシマブ、テモゾロミド、ベバシズマブ、プロカルバシン、CCNU、およびBCNUからなる群より選択される1つまたは複数の抗癌剤による治療に対する多剤耐性が生じている患者または患者群の癌の治療、特に乳癌もしくは結腸直腸癌、または両方の治療のための、本明細書において前述した本発明の免疫リポソームを、薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤と共に含む、薬学的組成物が提供され、該免疫リポソームはドキソルビシンを封入しかつ、抗体MAb C225もしくは抗体EMD72000または該抗体の一方もしくは両方の特異的結合特性を示すそれらの断片をさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0069】
定義
「含む(comprise)」なる用語は一般には含む(include)、すなわち1つまたは複数の特徴または成分を存在させるという意味で用いられる。
【0070】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを規定しない限り、複数の言及を含む。例えば、「患者(a patient)」なる用語は複数の患者を含む。「免疫リポソーム(an immunoliposome)」なる用語は、その混合物を含む、複数の免疫リポソームを含む。
【0071】
「EGF受容体」または「EGFR」、「ErbB1」、「HER1」なる用語は、当技術分野において認められている用語であり、本明細書において同義に用いられ、EGFR(ErbB1、HER1)、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)およびHER4(ErbB4)を含む、受容体チロシンキナーゼ(RTK)のクラスIファミリーのメンバーである受容体タンパク質を意味すると理解される。標的抗原として、EGFRは容易に利用可能な細胞表面受容体であり、これは多くのヒト固形腫瘍で過剰発現される。この定義に同様に含まれるのは、EGFRの突然変異体、特に、例えばEGFRvIIIなどのクラスIII突然変異体で、これはECD内のエキソン2〜7に欠失を含み、コード配列の801bpのインフレーム欠失および融合境界部分の新規グリシン残基の生成を引き起こす。
【0072】
本明細書において用いられる「一次治療」または「一次療法」なる用語は、当技術分野において認められている用語であり、癌の最初の化学療法を意味すると理解され、これは手術および/または放射線療法と組み合わせてもよく、初回治療または初回療法とも呼ばれる。
【0073】
本明細書において用いられる「二次治療」または「二次療法」なる用語は、当技術分野において認められている用語であり、最初のまたは初回治療(一次または初回療法)が作用しないかまたは作用停止した場合に施与する化学療法を意味すると理解される。
【0074】
本明細書において用いられる「三次、四次、五次治療など」または「三次、四次、五次療法など」なる用語は、当技術分野において認められている用語であり、最初の、またはその後のいずれの治療(一次、二次、三次療法など)も作用しないかまたは作用停止した場合に施与する化学療法を意味すると理解される。
【0075】
「複次治療」なる用語は、一般用語であり、本明細書において、作用しないかまたは作用停止した最初のまたは初回治療(一次または初回療法)に続く任意の高次治療を意味すると理解される。
【0076】
本明細書において用いられる「実質的に副作用を示さない」または「実質的に有害副作用を示さない」なる用語は、当技術分野において認められている用語であり、軽度から中等度の薬物関連作用または毒性を意味すると理解され、これは用量を制限しない。
【0077】
本明細書において用いられる「EGFR陽性腫瘍」なる用語は、例えばFDAが承認したEGFR pharmaDxキット(「DAKO」試験;DAKO Notrth America, Inc)、Zymed EGFRキットまたはVentana EGFR 3C6抗体などの免疫組織化学試験によって検出される、少なくとも1%、特に少なくとも2%、3%、4%または5%、特に少なくとも10%のEGFR陽性細胞を含む腫瘍を意味すると理解される。特に、前記EGFR陽性細胞はEGFR抗原および/またはEGFRの突然変異体、特に、例えばEGFRvIIIなどのクラスIII突然変異体を過剰発現する。
【0078】
「薬学的有効量」とは、ヒトまたは動物に投与した場合に、検出可能な薬理的および/または生理的効果を誘導する化学物質または化合物を意味する。
【0079】
それぞれの薬学的有効量は、治療対象の特定の患者、治療対象の疾患および投与法に依存しうる。さらに、薬学的有効量は、特に、使用する特定のタンパク質が前述したまたは前述していない薬物をさらに含む場合に、該タンパク質に依存する。治療は、通常は数時間、数日間または数週間の間隔の、薬学的組成物の複数回投与を、通常含む。本発明の免疫リポソームの用量単位の薬学的有効量は通常は、治療対象の患者の体表面1m2あたり5mgから100mgの範囲である。
【0080】
「薬学的に許容される」なる語句は、ヒトに投与した場合に、生理的に耐容可能でありかつ、アレルギー反応または胃の不調、眩暈などの類似の有害反応を典型的には生じない、分子実体および組成物を意味する。
【0081】
本明細書において用いられる「抗体」なる用語は、当技術分野において認められている用語であり、公知の抗原に結合する分子または分子の活性断片を意味すると理解され、特に「抗体」なる用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原に免疫特異的に結合する結合部位を含む分子を意味する。本発明の免疫グロブリンは、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(IgG、IgM、IgD、IgE、IgAおよびIgY)またはクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)もしくはサブクラスのものでありうる。
【0082】
「抗体」は、本発明の範囲内で、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、1本鎖抗体、二重特異性抗体、サル化抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体ならびにその活性断片を含むことが意図される。「断片」なる用語は、無傷または完全な抗体または抗体鎖よりも少ないアミノ酸残基を含む、抗体または抗体鎖の一部または部分を意味する。公知の抗原に結合する分子の活性断片の例には、Fab免疫グロブリン発現ライブラリの生成物ならびに前述の抗体および断片のいずれかのエピトープ結合断片を含む、分離したL鎖およびH鎖、Fab、Fab/c、Fv、Fab'およびF(ab')2断片が含まれる。断片は無傷または完全な抗体または抗体鎖の化学処理または酵素処理によって得ることができる。断片は、組換え手段によって得ることもできる。例示的断片には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fabcおよび/またはFv断片が含まれる。「抗原結合断片」なる用語は、抗原に結合するか、または抗原結合(すなわち、特異的結合)に関して無傷の抗体(すなわち、それらの誘導元になる無傷の抗体)と競合する免疫グロブリンまたは抗体のポリペプチド断片を意味する。
【0083】
抗体結合断片は、組換えDNA技術により、または無傷の免疫グロブリンの酵素的切断もしくは化学的切断により生成される。結合断片には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fabc、Fv、一本鎖、および一本鎖抗体が含まれる。
【0084】
これらの活性断片は、いくつかの技術により所与の抗体から誘導することができる。例えば、精製モノクローナル抗体を、ペプシンなどの酵素で切断し、HPLCゲルろ過にかけることができる。次いで、Fab断片を含む適当な画分を集め、膜ろ過などにより濃縮することができる。抗体の活性断片を単離するための一般技術のさらなる記載については、例えば(14);(15)を参照されたい。
【0085】
「キメラ抗体」は、抗体の1つまたは複数の領域が1つの動物種由来でありかつ該抗体の1つまたは複数の領域が異なる動物種由来である、抗体である。好ましいキメラ抗体は、霊長類免疫グロブリン由来の領域を含む抗体である。ヒト臨床的使用のためのキメラ抗体は、非ヒト動物、例えば齧歯類由来の可変領域とヒト由来の定常領域とを有すると典型的には理解される。これに対して、ヒト化抗体は、可変フレームワーク領域のほとんどまたはすべておよび定常領域のすべてがヒト免疫グロブリン由来である、非ヒト抗体由来のCDRを用いる。ヒトキメラ抗体は、典型的には、齧歯類由来の可変領域を有すると理解される。典型的なヒトキメラ抗体は、ヒトH鎖定常領域およびヒトL鎖定常領域を有し、H鎖およびL鎖の可変領域が両方とも齧歯類由来である。キメラ抗体は、ヒト定常領域の本来のアミノ酸配列および本来の齧歯類可変領域配列に、いくつかの変化を含んでいてもよい。キメラおよびヒト化抗体は、CDR移植アプローチ(例えば、米国特許第5,843,708号;第6,180,370号;第5,693,762号;第5,585,089号;第5,530,101号参照)、鎖シャッフリング戦略(例えば、米国特許第5,565,332号;(16)参照、分子モデリング戦略(米国特許第5,639,641号)などを含む、当技術分野において周知の方法によって調製してもよい。
【0086】
「ヒト化抗体」とは、少なくとも1つのヒト化免疫グロブリンまたは抗体鎖もしくはその断片、特に少なくとも1つのヒト化L鎖またはH鎖を組み込んだ改変抗体のタイプを意味する。前記ヒト化免疫グロブリンまたは抗体鎖もしくはその断片、特に少なくとも1つのヒト化L鎖またはH鎖は、非ヒト供給源、特に非ヒト抗体、典型的には齧歯類起源の非ヒト抗体由来である。前記ヒト化抗体に対する非ヒトの寄与は、典型的には、1つ(または複数)のヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域の間で散在する少なくとも1つのCDR領域の形で提供される。加えて、フレームワーク支持残基は、結合親和性を保存するために変更してもよい。
【0087】
ヒト化抗体は、定常領域(例えば、L鎖の場合には少なくとも1つの定常領域またはその部分、およびH鎖の場合には好ましくは3つの定常領域)をさらに含んでいてもよい。
【0088】
「ヒト化抗体」を得る方法は、当業者には周知である(17)。
【0089】
「ヒト化抗体」は、例えばウサギなどの大きな動物における親和性成熟ヒト様ポリクローナル抗体の産生を可能にする、新規遺伝子操作アプローチによって得ることもできる(http://www.rctech.com/bioventures/-therapeutic.php)。
【0090】
「免疫リポソーム用量」または「免疫リポソーム濃度」なる用語は一般に、リポソームに捕捉された抗癌剤の濃度を意味する。
【0091】
「リポソーム」とは、脂質からなる、特に水中で脂質二重層構造へと自発的に整列可能で、その疎水性部分が二重層膜の内部の疎水性領域に接触しかつその頭部部分が膜の外側の極性表面に向かって配向される、小胞形成脂質からなる、小さな球状の小胞を意味する。小胞形成脂質は、典型的には、2つの炭化水素鎖、特にアシル鎖、および、極性または非極性いずれかの頭部を有する。小胞形成脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、およびスフィンゴミエリンなどのリン脂質を含む、天然脂質または合成起源のもののいずれかからなり、ここで2つの炭化水素鎖は、典型的には、長さ約14〜22炭素原子で、様々な程度の不飽和を有する。アシル鎖が様々な程度の飽和を有する、前述の脂質およびリン脂質は、市販されているか、または発表されている方法に従って調製することができる。本発明の組成物において用いるのに適した他の脂質には、糖脂質およびコレステロールなどのステロール、ならびに同じくリポソームで用いうるその様々な類縁体が含まれる。
【0092】
典型的にステロール、アシルまたはジアシル鎖などの親油性部分を有し、脂質が全体の正味の正電荷を有する、カチオン脂質も、リポソームにおいて適当に用いることができる。脂質の頭部は、典型的には、正電荷を有する。例示的カチオン脂質には、1,2-ジオレイルオキシ-3-(トリメチルアミノ)プロパン(DOTAP);臭化N-[1-(2,3,-ジテトラデシルオキシ)プロピル]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);臭化N-[1-(2,3,-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORIE);塩化N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);3[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol);およびジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)が含まれる。カチオン小胞形成脂質は、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)などの中性脂質またはポリリジンもしくは他のポリアミン脂質などのカチオン脂質で誘導体化された、リン脂質などの両親媒性脂質であってもよい。
【0093】
リポソームは、リポソーム表面上の親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成するために、親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成脂質を含むこともできる。小胞形成脂質、特にジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)などのリン脂質を親水性ポリマーに共有結合させてもよく、これはリポソームの周りに親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成する。小胞形成脂質との誘導体化に適した親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルタミドおよび親水性ペプチド配列が含まれる。ポリマーはホモポリマーまたはブロックコポリマーもしくはランダムコポリマーとして用いてもよい。
【0094】
好ましい親水性ポリマー鎖はポリエチレングリコール(PEG)、好ましくは200〜20,000ダルトン、より好ましくは500〜10,000ダルトン、さらにより好ましくは750〜5000ダルトンの分子量を有するPEG鎖である。PEGのメトキシまたはエトキシ-キャップ類縁体も、様々なサイズ、例えば120〜20,000ダルトンで市販されている好ましい親水性ポリマーである。
【0095】
脂質-ポリマー結合体の形で、リポソーム形成時に脂質混合物に加えた追加のポリマー鎖は、リポソームの脂質二重層の内側および外側表面の両方から伸びるポリマー鎖を生じる。リポソーム形成時の脂質-ポリマー結合体の追加は、典型的には、0.5〜20モルパーセントのポリマー誘導体化脂質を残りのリポソーム形成成分、例えば小胞形成脂質と共に含めることによって達成される。
【0096】
親水性ポリマーで誘導体化した小胞形成脂質の調製は、例えば米国特許第5,395,619号、米国特許第5,013,556号、米国特許第5,631,018号および国際公開公報第98/07409号に記載されている。親水性ポリマーは脂質に安定に結合させてもよく、または不安定な連結を通じて結合させてもよく、これによりコーティングされたリポソームは、血流中を循環しながらまたは刺激に反応してポリマー鎖のコーティングを脱離可能となることが理解されるであろう。
【0097】
「内部移行抗体」とは、細胞表面上の受容体または他のリガンドに結合した後、細胞内、例えばリゾチームもしくは他の細胞小器官内または細胞質内に輸送される抗体である。
【0098】
本発明は、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次〜複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療のための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識し、これに結合し、かつ少なくとも1つの抗腫瘍剤を含む、抗体または抗体断片を含む免疫リポソームに関する。
【0099】
したがって、本発明の免疫リポソーム組成物は、腫瘍由来細胞の表面のEGF受容体を特異的に認識しかつこれに結合する、Fab、Fab'、F(ab')2、Fabc、Fv、一本鎖、および一本鎖抗体を含む抗体または抗体断片も含む。もう一つの態様において、抗体は、腫瘍由来細胞の表面のEGF受容体に特異的に結合する、少なくとも1つの結合ドメインを含む。別の態様において、抗体は、腫瘍由来細胞の表面のEGF受容体に特異的に結合する、少なくとも1つの結合ドメインを含む一本鎖抗体である。
【0100】
抗体を、当技術分野において公知の共有結合法によってリポソームに結合させてもよい。抗体をリポソームに共有結合させるために、末端官能基化したポリエチレングリコール鎖を含む誘導体化脂質をリポソームに組み込む。リポソーム形成後、末端官能基化した基は抗体のリポソームへの結合のために抗体と反応することができる。
【0101】
選択した親水性ポリマーを選択した脂質に結合させて、選択したリガンドとの反応のためにポリマーの遊離の未結合末端を活性化するための多様な技術があり、特に親水性ポリマーのポリエチレングリコール(PEG)は広く研究されている(18;19;20;21;22)。
【0102】
一般に、PEG鎖を、例えば多様なリガンドに存在するスルフヒドリル、アミノ基、およびアルデヒドまたはケトン(典型的には、抗体の炭水化物部分の緩和な酸化から誘導される)との結合に適した反応性基を含むよう官能基化する。そのようなPEG末端反応性基の例には、マレイミド(スルフヒドリル基との反応用)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはNHS-カルボン酸エステル(一級アミン投与の反応用)、ヒドラジドまたはヒドラジン(アルデヒドまたはケトンとの反応用)、ヨードアセチル(スルフヒドリル基と優先的に反応性)およびジチオピリジン(チオール反応性)が含まれる。捕捉された薬剤を含み、かつ表面結合した標的指向性リガンドを有するリポソーム、すなわち、標的指向治療用リポソームを、これらのアプローチのいずれかにより調製する。好ましい調製法は挿入法で、この方法ではあらかじめ形成したリポソームを標的指向性結合体と共にインキュベートして、標的指向性結合体のリポソーム二重層内への挿入を達成する。このアプローチにおいて、リポソームは(23)に記載のものなどの様々な技術によって調製されるが、本発明を支持して調製されたリポソームの具体例を以下に記載する。典型的には、リポソームは多重膜小胞(MLV)で、単純な脂質膜水和技術によって形成することができる。この方法において、適当な有機溶媒中に溶解した前述のタイプのリポソーム形成脂質の混合物を容器中で蒸発させて薄膜を形成し、次いでこれを水性媒質で覆う。脂質膜は水和して、典型的には約0.1から10ミクロンの粒径のMLVを形成する。リポソームは、リポソーム表面に親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成するために、親水性ポリマーで誘導体化した小胞形成脂質を含むことができる。下記の挿入段階の後、リポソームは脂質-ポリマー-標的指向性リガンドを含むため、脂質-ポリマー結合体の追加は任意である。リポソーム形成時に脂質-ポリマー結合体の形で、脂質混合物に加えた追加のポリマー鎖は、リポソームの脂質二重層の内側および外側表面の両方から伸びるポリマー鎖を生じる。リポソーム形成時の脂質-ポリマー結合体の追加は、典型的には、0.5〜20モルパーセントのポリマー誘導体化脂質を残りのリポソーム形成成分、例えば小胞形成脂質と共に含めることによって達成される。ポリマー誘導体化脂質の調製およびポリマーコーティングリポソームの形成の例示的方法は、米国特許第5,013,556号、第5,631,018号および第5,395,619号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。親水性ポリマーは脂質に安定に結合させてもよく、または不安定な連結を通じて結合させてもよく、この不安定な連結によって、コーティングされたリポソームが血流中を循環しながらまたは刺激に反応して、ポリマー鎖のコーティングを脱離することが可能になることが理解されるであろう。
【0103】
または、抗体-脂質誘導体を最初に形成し、次いでリポソームに組み込んでもよい。一例として、抗体を遊離DSPE-PEG分子のマレイミド基に結合させる。次いで、抗体結合DSPE-PEG分子を用いて小胞を形成する。
【0104】
リポソームの形成後、標的指向性リガンドを組み込んで、細胞標的指向治療用リポソームを得る。標的指向性リガンドは、あらかじめ形成したリポソームを、前述のとおりに調製した脂質-ポリマー-リガンド結合体と共にインキュベートすることにより組み込む。あらかじめ形成したリポソームおよび結合体を、結合体とリポソームとの結合に有効な条件下でインキュベートするが、これは、結合体とリポソーム二重層外部との相互作用またはリポソーム二重層内への結合体の挿入を含みうる。より具体的には、標的指向性リガンドがリポソーム表面から外向きに配向され、したがってその同族受容体との相互作用のために利用可能となるような様式で結合体とリポソームとの結合を達成する条件下で、2つの成分を一緒にインキュベートする。そのような結合または挿入を達成するのに有効な条件は、インキュベーション温度が高くなればなるほど挿入速度が速くなりうる所望の挿入速度、リガンドをその活性に影響することなく安全に加熱しうる温度、および程度は低いが、脂質および脂質組成物の相転移温度を含む、いくつかの変数に基づいて決定されることが理解されるであろう。同様に、挿入は、ポリエチレングリコールおよびエタノールを含む両親媒性溶媒などの溶媒、または界面活性剤の存在によって変動しうることも理解されるであろう。
【0105】
脂質-ポリマー-リガンド結合体の形の標的指向性結合体は、該結合体を水性溶媒と混合すると、典型的にはミセルの溶液を形成するであろう。結合体とリポソームとのインキュベーションおよび結合またはリポソーム脂質二重層内への結合体の挿入のために、結合体のミセル溶液とあらかじめ形成したリポソームの懸濁液とを混合する。インキュベーションは、脂質-ポリマー-リガンド結合体とリポソームの二重層外葉との結合または挿入を達成して、免疫リポソームを形成するために有効である。
【0106】
調製後、免疫リポソームは好ましくは、例えば30℃または90℃での動的光散乱により測定して、約200nm未満、好ましくは約85〜120nm、より好ましくは90〜110nmの粒径を有する。
【0107】
リポソーム組成物は、典型的には、約30〜75パーセントの小胞形成脂質、25〜40パーセントのコレステロール、0.5〜20パーセントのポリマー誘導体化脂質、および0.0001〜10モルパーセントの抗体結合のために用いる脂質誘導体のモル比で存在する脂質成分で調製する。
【0108】
一般に、形成したリポソーム中に薬物を捕捉するために、下記のとおりリポソーム形成前に治療薬を小胞形成脂質に加えることにより、薬物をリポソーム中に組み込む。薬物が疎水性である場合、薬物を疎水性混合物中に直接加える。薬物が親水性である場合、薬物を蒸発させた脂質の薄膜を覆う水性媒質中に加えることができる。
【0109】
本発明において用いるリポソームは抗腫瘍剤を含む。本発明における使用が企図される抗腫瘍化合物には、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびエトポシドなどの植物アルカロイド;ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシンを含むアントラサイクリン抗生物質;フルオロウラシル;ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン、ダクチノマイシンを含む抗生物質;カンプトテシンおよびその類縁体などのトポイソメラーゼ阻害剤;ならびにシスプラチンおよびカルボプラチンなどのその類縁体を含む白金化合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。使用に適した他の伝統的化学療法剤は当業者には公知で、アスパラギナーゼ、ブスルファン、クロランブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、リン酸エストラムスチンナトリウム、フロクスウリジン、フルオロウラシル(5-FU)、ヒドロキシ尿素(ヒドロキシカルバミド)、イフォスファミド、ロムスチン(CCNU)、メクロレタミンHCl(ナイトロジェンマスタード)、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキセート(MTX)、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、チオグアニン、チオテパ、アムサクリン(m-AMSA)、アザシチジン、ヘキサメチルメラミン(HMM)、ミトグアゾン(メチル-GAG;メチルグリオキサールビスグアニルヒドラゾン;MGBG)、セムスチン(メチル-CCNU)、テニポシド(VM-26)および硫酸ビンデシンが含まれる。
【0110】
本発明の一つの態様において、リポソームは固形腫瘍内への浸潤に適した粒径を有する。これは、リポソームがその血中循環寿命を延ばすための親水性ポリマー鎖の表面コーティングも含む場合に、特に有用である。より長期間、例えば約2〜5時間よりも長く循環中に残存しているリポソームは、損傷した漏れやすい脈管構造または内皮障壁を示す、腫瘍および感染部位内への浸潤が可能である。そのようなリポソームは、典型的には、約40〜200nm、より好ましくは50〜150nm、最も好ましくは70〜120nmである。
【0111】
(i)薬剤の水溶液で脂質膜を水和することによる水溶性化合物の受動的捕捉、(ii)薬剤を含む脂質膜を水和することによる親油性化合物の受動的捕捉、および(iii)リポソームの内部/外部pH勾配に対するイオン化可能薬物の担持を含む標準的方法により、選択した薬剤をリポソーム中に組み込む。逆相蒸発などの他の方法も適当である。
【0112】
または、あらかじめ形成したリポソーム中に、能動輸送メカニズムにより薬物を組み込んでもよい。典型的に、この場合には、カリウムまたは水素イオン濃度差に反応して、薬物がリポソーム中に取り込まれる(Mayer, 1986; Mayer 1989)。
【0113】
リポソーム形成後、実質的に均質な粒径範囲、典型的には約0.01から0.5ミクロン、より好ましくは0.03〜0.40ミクロンを有するリポソーム集団を得るために、リポソームの粒径を調整することができる。REVおよびMLVのための1つの有効な粒径調整法は、リポソームの水性懸濁液を0.03から0.2ミクロン、典型的には0.05、0.08、0.1、または0.2ミクロンの範囲の選択した均一の孔径を有する一連のポリカーボネート膜を通して押し出すことを含む。膜の孔径は、特に調製物を同じ膜を通して複数回押し出す場合には、その膜を通しての押出により生成したリポソームの最も大きな粒径にほぼ対応する。リポソームを100nm以下の粒径に小型化するために、ホモジナイゼーション法も有用である(24)。
【0114】
捕捉された薬剤を含み、表面結合した標的指向性リガンドを有するリポソーム、すなわち、標的指向治療用リポソームを、これらのアプローチのいずれかにより調製してもよい。好ましい調製法は挿入法で、この方法ではあらかじめ形成したリポソームを標的指向性結合体と共にインキュベートして、標的指向性結合体のリポソーム二重層内への挿入を達成する。このアプローチにおいて、リポソームは(23)に記載のものなどの様々な技術によって調製されるが、本発明を支持して調製したリポソームの具体例を以下に記載する。典型的には、リポソームは多重膜小胞(MLV)または一枚膜小胞(ULV)である。
【0115】
MLVは単純な脂質膜水和技術によって形成することができる。この方法において、適当な有機溶媒中に溶解した前述のタイプのリポソーム形成脂質の混合物を容器中で蒸発させて薄膜を形成し、次いでこれを水性媒質で覆う。脂質膜は水和して、典型的には約0.1から10ミクロンの粒径のMLVを形成する。
【0116】
ULVは反復凍結-解凍法によって形成することができる。この方法において、1-2-オレオイル-3-sn-グリセロホスホコリンおよびChol、またはDSPCおよびChol(モル比3:2)をmPEGDSPE(0.5〜5mol%のリン脂質)と混合する。リポソームを続いて0.1、0.08および0.05μmの規定の孔径を有するポリカーボネートフィルターを通して数回押し出す。これにより、典型的には70〜120nmの粒径のリポソームが得られる。リポソームの粒径は動的光散乱によってもとめてもよい。リポソーム濃度は標準のリン酸検定によって測定することができる。
【0117】
前述の方法のいずれかによって得られる抗EGFR免疫リポソームは臨床における妥当性を有し、癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を患っているヒト患者の二次およびより高次の治療において用いることができる。本発明における使用が企図される免疫リポソームは、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含む。特に、免疫リポソームはFab、Fab'、F(ab')2、Fabc、Fv断片を含むか、または一本鎖抗体である。
【0118】
本発明における使用が企図される免疫リポソームは、抗腫瘍剤、特にドキソルビシン、エピルビシン、およびビノレルビンからなる群より選択される抗腫瘍剤、特にドキソルビシンをさらに含む。
【0119】
本発明の免疫リポソームを、薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/または賦形剤と共に該免疫リポソームを含む薬学的組成物の形で、ヒト患者に投与してもよい。本発明の薬学的組成物の製剤は、当業者には公知の標準的方法に従って達成することができる。
【0120】
本発明の免疫リポソームまたは該免疫リポソームを含む薬学的組成物を、薬学的に有効な適当な用量の固体、液体またはエアロゾルの形で被検者に投与してもよい。固体組成物の例には、丸剤、クリーム、および埋め込み可能な投与単位が含まれる。丸剤は経口投与してもよい。治療用クリームは局所投与してもよい。埋め込み可能な投与単位は局所、例えば腫瘍部位に投与してもよく、または治療組成物の全身放出のために、例えば皮下に埋め込んでもよい。液体組成物の例には、注入に適合させた製剤、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内注射に適合させた製剤、ならびに局所および眼内投与のための製剤が含まれる。エアロゾル製剤の例には、肺への投与のための吸入製剤が含まれる。
【0121】
本発明の免疫リポソームまたは該免疫リポソームを含む薬学的組成物を、標準の投与経路により投与してもよい。一般に、組成物は局所、経口、直腸、鼻、皮内、腹腔内、または非経口(例えば、静脈内、皮下、または筋肉内)経路によって投与してもよい。加えて、組成物を、生体分解性ポリマーなどの徐放性マトリックス内に組み込み、このポリマーを送達が望まれる、例えば腫瘍の部位の近くに埋め込んでもよい。この方法には、1回投与、所与の間隔での反復投与、および所与の期間の持続投与が含まれる。
【0122】
薬学的組成物の用量は、例えば治療中の状態、用いる特定の組成物や、患者の体重、サイズ、性別および一般的健康状態などの他の臨床因子、体表面積、投与する特定の化合物または組成物、同時に投与中の他の薬物、ならびに投与経路などの様々な因子に依存するであろうことは、関連する分野の技術者には周知である。
【0123】
本発明の免疫リポソームまたは該免疫リポソームを含む組成物を、生物活性物質もしくは化合物との組み合わせで、または、本発明の抗体ならびに任意に薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/または賦形剤と共に該生物活性物質もしくは化合物、特に抗腫瘍化合物、特に少なくとも1つの細胞増殖抑制性化合物、特にダウノマイシン、イダルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、シスプラチンおよび他の白金類縁体、ビンクリスチン、エピルビシン、アクラシノマイシン、メトトレキセート、エトポシド、ドキソルビシン、シトシンアラビノシド、フルオロウラシルおよび他のフッ化ピリミジン、フッ化プリン、またはフッ化ヌクレオシド、特にゲムシタビン、ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン、ダクチノマイシン、シクロホスファミドおよびその誘導体、チオテパ、BCNU、パクリタキセル、ドセタキセルおよび他のタキサン誘導体と単離体、カンプトテシン、ポリペプチド、核酸、ホスホロチオエートヌクレオチド間連結を有する核酸、ならびにポリアミドヌクレオチド間連結を有する核酸からなる群より選択される化合物、特にドキソルビシン、エピルビシン、およびビノレルビンを含む他の組成物との組み合わせで、投与してもよい。
【0124】
免疫リポソームに捕捉された薬学的活性物質、特に抗腫瘍化合物は、1回用量あたり体表面1m2につき0.1mgから2.5gの量で含まれていてもよい。一般に、投与法は本発明の抗腫瘍化合物0.5mg/m2から1000mg/m2の範囲、特に1.0mg/m2から500mg/m2の範囲、特に5.0mg/m2から250mg/m2の範囲、特に10.0mg/m2から150mg/m2の範囲であるべきで、これらの範囲内に入るすべての個々の数字も本発明の一部である。投与を持続注入によって行う場合、より適当な用量は、1時間に体重1キログラムあたり0.01μgから10mg単位の範囲であり得、これらの範囲内に入るすべての個々の数字も本発明の一部である。
【0125】
免疫リポソームの抗体濃度は、リン脂質1μmolあたり抗体または抗体断片1μgから150μgの範囲、特にリン脂質1μmolあたり抗体または抗体断片5μgから100μgの範囲、特にリン脂質1μmolあたり抗体または抗体断片10μgから100μgの範囲、特にリン脂質1μmolあたり抗体または抗体断片20μgから50μgの範囲、特にリン脂質1μmolあたり抗体または抗体断片30μgから40μgの範囲である。
【0126】
本発明の免疫リポソーム製剤は、例えば静脈内、皮下もしくは筋肉内注射によるまたは静脈内点滴注入による非経口投与のために、当業者には周知の薬学的に許容される担体中に溶解または分散した単離または精製免疫リポソームを含む、薬学的組成物の形で調製してもよい。
【0127】
非経口投与のための薬学的組成物に関して、賦形剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、滑沢剤、希釈剤、吸収増強剤、緩衝化剤、界面活性剤、可溶化剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、注射用の可溶化剤、pH調節剤などの、任意の通常の添加物を用いてもよい。
【0128】
活性化合物の、薬学的に用いることができる製剤への加工を容易にする、許容される担体、希釈剤および補助剤は、用いる用量および濃度で受容者に対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/またはTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤を含む。
【0129】
薬学的組成物の投与形態は全身または局所であってもよい。例えば、そのような組成物の投与は、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、鼻内、経皮、口腔経路または埋め込み装置によるなどの様々な非経口経路であってもよく、蠕動手段によって送達してもよい。
【0130】
投与は一般に非経口、例えば静脈内、特に注入の形である。非経口投与のための製剤には、無菌水性または非水性液剤、懸濁剤および乳剤が含まれる。非水性溶媒には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。水性溶媒は、水、アルコール/食塩水を含む水性溶液、乳液または懸濁液および緩衝化媒質からなる群より選択してもよい。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液、または固定油が含まれる。静脈内媒体には、液体および栄養補充物、電解質補充物(リンガーのデキストロースを基にするものなど)およびその他が含まれる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどの保存剤を含んでいてもよい。
【0131】
薬学的組成物は、例えば血清アルブミンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質性担体、特にヒト起源のものをさらに含んでいてもよい。本発明の薬学的組成物中に、その意図される使用に依存して、さらなる生物活性物質が含まれていてもよい。
【0132】
本発明の一つの局面において、癌療法におけるより良い転帰に対する重要な障害のままである薬物耐性メカニズムを、このアプローチによって克服することが可能かどうかを調べるために、EGFRに結合して標的細胞内への抗癌剤の有効な抗体による細胞内送達を提供する、本明細書に記載の免疫リポソーム(IL)を生成した。
【0133】
ILを、様々な薬物またはプローブを含む安定化リポソームに共有結合した、例えばC225(セツキシマブ、Erbitux(登録商標))からのFab'などのキメラ抗体または、例えばEMD72000などのヒト化抗体を含む、様々なMAbまたはMAb断片を用いてモジュール式に構築してもよい。
【0134】
次いで、例えばヒト乳癌細胞株MDA-MB-231/mdrまたは結腸直腸癌細胞株HT-29/mdrなどの、mdr仲介性多剤耐性も特徴とするEGFR過剰発現細胞を、そのように生成されたILで治療することができる。
【0135】
多剤耐性細胞株において、ドキソルビシン(dox)を担持したILは遊離ドキソルビシンよりも15〜86倍高い細胞毒性を生じることを示すことができた(例えば、HT-29/mdr細胞におけるIL-doxのIC50=0.37であるのに対し、遊離doxのIC50=6.0(μg dox/ml)。非耐性HT-29細胞において、ドキソルビシンの免疫リポソームでの細胞毒性は、遊離薬物のものと同等であった(IC50=0.23対0.36μg dox/ml)が、非標的指向リポソームでのドキソルビシン(IC50>27μg dox/ml)よりも顕著に細胞毒性が高かった。興味深いことに、MDA-MB-231/mdr細胞における細胞内分布試験により、遊離doxおよび免疫リポソームdoxの送達には特有の差が明らかとなった。遊離doxはこの多剤耐性腫瘍細胞から効率的に排出されたが、同じ濃度の免疫リポソームdoxでは、dox蓄積が細胞質では3.5〜8倍、核では3.5〜4.9倍に達した。
【0136】
最後に、MDA-MB-231/mdr異種移植モデルにおけるインビボでの治療試験は、抗EGFR IL-doxの多剤耐性細胞を効率的に標的とする能力を確認した。遊離doxは、この高度多剤耐性腫瘍モデルにおいて、そのMTDでいかなる活性も示すことはできなかったが、抗EGFR IL-doxはめざましい抗腫瘍効果を示し、明らかにすべての他の治療よりもすぐれていた。
【0137】
したがって、本明細書において開示する本発明の免疫リポソームは、EGFR過剰発現腫瘍細胞への効率的な標的指向薬物送達を提供し、多剤耐性細胞に対しても強力な活性を示す。
【0138】
当業者であれば、本明細書に記載の発明は具体的に記載したもの以外の変更および改変を許容可能であることを理解するであろう。本発明は、その精神または基本的特徴から逸脱することなく、すべてのそのような変更および改変を含むことが理解されるべきである。また本発明は、本明細書において言及または示される段階、特徴、組成物および化合物のすべてを個々に、または集合的に含み、かつこれらの段階または特徴の任意およびすべての組み合わせ、またはその複数も含む。したがって、本発明の開示は、例示したすべての局面のとおりであると考えられるべきであるが、それらに限定されるわけではなく、添付の特許請求の範囲によって示されているる本発明の範囲、ならびに同等の意味および範囲内に入るすべての変更はその中に含まれることが意図される。
【0139】
様々な参照文献が本明細書の全体において引用されており、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0140】
前述の記載は以下の実施例を参照すればさらに完全に理解されるであろう。しかし、そのような実施例は本発明を実施する方法を例示するものであって、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0141】
実施例
標的集団は、すべての利用可能な治療を受けた、EGFR過剰発現固形腫瘍を有する患者である。
【0142】
特に、患者は下記の癌を患っており、腫瘍は下記の治療の際に進行している:
ホルモン治療、ドセタキセル、ミトキサントロンの際に腫瘍が進行した、前立腺癌。
ゲムシタビン、カペシタビン、オキサリプラチンの際に腫瘍が進行した、膵臓および胆嚢癌。
インターフェロン、カペシタビン、スニチニブ、ソラフィニブの際に腫瘍が進行した、腎臓癌。
シスプラチンまたはカルボプラチン、ゲムシタビン、ドキソルビシン、メトトレキセート、ビンクリスチンの際に腫瘍が進行した、尿路上皮癌。
シスプラチンまたはカルボプラチン、ゲムシタビン、ビノレルビン、ペメトレキセド、ドセタキセル、ゲフィチニブの際に腫瘍が進行した、非小細胞肺癌。
シスプラチンまたはカルボプラチン、エトポシド、イリノテカン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、トポテカンの際に腫瘍が進行した、小細胞肺癌。
シスプラチンまたはカルボプラチン、ゲムシタビン、ペメトレキセドの際に腫瘍が進行した、中皮腫。
シスプラチンまたはカルボプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビン、カペシタビン、マイトマイシン、メトトレキセート、ミトキサントロン、ベバシズマブ、トラスツズマブの際に腫瘍が進行した、乳癌。
シスプラチンまたはカルボプラチン、5-FU、ドセタキセルの際に腫瘍が進行した、食道癌。
シスプラチンまたはカルボプラチン、5-FU、ドセタキセル、セツキシマブの際に腫瘍が進行した、頭頸部癌。
テモゾロミド、ベバシズマブ、イリノテカン、ビンクリスチン、プロカルバシン、CCNU、BCNUの際に腫瘍が進行した、脳腫瘍。
スニチニブ、ソラフェニブの際に腫瘍が進行した、肝細胞癌。
セツキシマブ、ベバシズマブ、オキサリプラチン、イリノテカン、カペシタビン、5-FUの際に腫瘍が進行した、結腸および直腸癌。
【0143】
治験において試験した治療化合物はC225-IL-doxで、EGFR特異抗体C225がドキソルビシン含有リポソームの脂質膜に共有結合している構築物である。この化合物を用いる根拠は、ドキソルビシンが多くのヒト腫瘍において最も活性な薬剤の一つであるという事実、および高いパーセンテージのこれらの悪性腫瘍がEGFRを発現するという事実である。
【0144】
A:第I相試験CC1の治験実施計画書
1. 選択基準
1.1. 患者総数
約30名。
【0145】
1.2. 登録基準
試験登録前に、候補者は以下の基準のすべてに適合しなければならない:
1. 局所進行性または転移性の固形腫瘍が組織検査により証明された。
2. ECOGの全身状態≦2。
3. 患者のために利用可能なこれ以上の標準治療がない。
4. 最も新しい評価可能腫瘍組織で調べて、EGFR過剰発現(DAKO EGFR pharmDx - Testによる)。
5. 同時に抗腫瘍療法を行っていない(ステロイドは許可され、乳癌および前立腺癌において、ステロイド用量は試験期間中安定に推移しなければならない)。
6. 任意の以前の抗腫瘍治療停止以降、少なくとも4週間(ニトロソ尿素またはマイトマイシンCの場合は6週間)。
7. 以前にアントラサイクリン曝露を受けた患者では、正常な心エコー図(LVEF >50%)が必要。
8. 18歳以上。
9. 男性または女性。
10. 生殖可能年齢の男女の患者は有効な避妊法を用いていなければならない。
11. 試験参加前にインフォームド・コンセントに署名し、試験期間中は治験実施計画書に従う意志があり、それが可能である。
【0146】
1.3. 除外基準
以下の基準のいずれかに合致したら、候補者を試験から除外しなければならない:
1. 妊娠中および/または授乳中。
2. 以下の検査値を有する患者
-好中球<1.5×109/L
-血小板<100×109/L
-血清オルニチン>3.0×正常上限値
-ALAT、ASAT>3.0×正常上限値(酵素値変化の唯一の可能性がある原因として肝転移を有する患者では5.0×)
-アルカリ性ホスファターゼ>3.0×正常上限値(酵素値変化の唯一の可能性がある原因として肝または骨転移を有する患者では5.0×)
-ビリルビン>3.0×正常上限値
3. 治療開始前4週間以内の任意の治験薬試験への参加。
4. 臨床上顕著でコントロールされていない腎または肝疾患を有する患者。
5. 臨床上顕著な心疾患:うっ血性心不全(ニューヨーク心臓協会クラスIIIまたはIV);症候性冠動脈疾患;薬物治療でうまくコントロールされていない心不整脈;12ヶ月以内の心筋梗塞。
6. 患者の治験に参加する能力を損ないうる、任意の重篤な根源的医学状態(治験責任医師の判断で)(例えば、活発な自己免疫疾患、コントロールされていない糖尿病など)。
7. Swissmedic承認製品情報に従って、Erbitux(商標)またはCaelyx(商標)を投与している場合は、いかなる併用薬物も禁忌。
8. >300mg/m2 BSAの累積ドキソルビシン用量(または心毒性のアントラサイクリン等価物)。
9. 治験責任医師が臨床上顕著で、インフォームド・コンセントを妨害または遵守を妨げると判断した、コントロールされていない発作、中枢神経系障害または精神障害の病歴がある患者。
【0147】
2. 安全性パラメーター
2.1. 有害事象(一次目標)
臨床試験中に生じたすべての有害事象を、患者の病歴ファイルに記録する。
【0148】
臨床有害事象の強度をNCI CTC等級付けシステムバージョン3.0(http://ctep.info.nih.gov/reporting/ctc.html)に従って等級付ける。
【0149】
2.2. 検査パラメーター
試験開始前に、関与する検査の正常値を記録しなければならない。以下の検査法を試験中に実施しなければならない:
毎週(適当な場合には試験薬の新規投与の前):
-ヘモグロビン-血球分類を含む白血球数
-血小板数
4週間に1回(試験薬の新規投与の前):
-ASAT-ALAT
-ビリルビン
-アルカリ性ホスファターゼ
-血清クレアチニン
-LDH
-カルシウム
-尿分析(「U-状態」:赤血球、白血球およびタンパク質尿の検出)
第1周期中のみ薬物動態試験:
-0、24、48、96時間および第8日に血液試料(2×7.5ml血清チューブ)
【0150】
2.3. 生命徴候および理学的検査
以下の生命徴候および理学的検査の結果を試験開始前に記録しなければならない:
-体温
-血圧
-心拍数
-身長(スクリーニング時に1回)
-体重
-全身状態(ECOG)
【0151】
2.4. 特別試験
薬物動態試験のために、血液試料(2×7.5ml血清チューブ)を0、24、48および96時間ならびに第8日に採取する。全血から血漿を遠心沈降により分離し、さらなる分析のために-80℃で凍結する。ドキソルビシン濃度を蛍光により定量する。遊離ドキソルビシンの速やかなクリアランスにより、この単純な分析は循環中の無傷のC225-IL-doxのすぐれた尺度を提供した。薬物動態パラメーターを、PK Solution 2.0ソフトウェア(Summit Research Serviced, Montrose, CO, USA)を用いて非コンパートメント薬物動態データ解析により調べる。
【0152】
2.5. 毒性のための用量改変
これは用量漸増試験(第I相)である。詳細については10.3.2.項も参照されたい。
【0153】
毒性(DLT)を経験するが、治療から利益を受ける個々の患者において、主となる治験責任医師の臨床判断により決定して、低い用量での治療継続は任意である(試験外)。
【0154】
可能であれば、毒性を対症的に管理すべきである。毒性が起これば、悪心および嘔吐のための制吐剤、下痢のための止瀉薬、薬物発熱のために解熱剤および抗ヒスタミン剤、ならびに皮膚毒性のための50%DMSO軟膏を含む、適当な治療を用いて徴候および症状を改善する。
【0155】
2.6. 支持的処置
2.6.1. 悪心/嘔吐
予防的制吐処置を第一周期から患者に投与すべきである。5-HT3-受容体拮抗剤の使用が推奨される。より積極的な制吐予防を、前の周期で等級≧3の悪心/嘔吐を経験する任意の患者に投与すべきである。
【0156】
適当な薬物治療にもかかわらず、等級≧3の悪心/嘔吐が持続する場合、患者は試験を中止しなければならない。
【0157】
2.6.2. 下痢
第一周期には予防的止瀉処置は推奨されない。しかし、最初の下痢発症後、患者はロペラミドによる対症治療を受けるべきである:最初の発症後4mg、次いで下痢の回復まで、それぞれの新しい発症後に2mg(1日に16mg以下)。
【0158】
適当な薬物治療にもかかわらず、等級≧3の下痢が持続する場合、患者は試験を中止しなければならない。
【0159】
2.6.3. 手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)
予防的処置を第一周期から患者に投与すべきである。患者に第-1〜4日にはデキサメタゾン8mgを1日2回経口で、第5日には4mgを1日2回、および第6日には4mgを投与すべきである。加えて、患者に治療期間中毎日ピリドキシン(ビタミンB6)150mgを経口投与すべきである(20)。適当な薬物治療にもかかわらず、等級2または3のPPEが起こる場合、C225-IL-doxの投与を最大14日間中断すべきである。PPEの重症度がCTC等級1まで低下すれば、患者は治療を続けてもよい(DLTと規定されなければ)。
【0160】
予防または対症治療にもかかわらず、等級2または3の毒性が残る場合、患者は試験を中止しなければならない。
【0161】
3. 疾患評価(有効性基準)
3.1. 全体の反応率(二次目標)
反応率は本試験の一次終点ではないが、測定可能な疾患を有する患者を標準的基準で評価する。腫瘍評価をスクリーニング中および治療2、4および6周期後に行う。治療完了後、最初の1年間は3ヶ月ごと、次いで臨床上の必要に応じて評価を実施する。進行が記録されたら、試験内でそれ以上の評価を行う必要はない。反応している患者において、反応が初めて記録されてから少なくとも4週間後に反応を確認しなければならない。
【0162】
第一の有効性基準は、付録1に示す癌治療の結果報告のためのRECIST基準に従って評価する、全般的反応率である。
【0163】
病変を評価するために治療期間を通じて同じ技術を用いる各患者のすべての評価中、連続するCTスキャンおよびX線の一貫性(例えば、対比の使用など)を確実にしなければならない。
【0164】
3.2. 進行までの時間
進行までの時間を、患者が治療を開始した時点から、患者が初めて疾患進行を有すると記録されるまで測定する。
【0165】
疾患進行を十分に記録し、RECIST基準に従って評価しなければならない。
【0166】
4. 試験手順
4.1. スクリーニング
いかなる試験に特有のスクリーニング手順を行う前にも、インフォームド・コンセントを得なければならない。
【0167】
スクリーニング手順は2段階で行いうる。第一の評価群は、第1日の治療開始前4週間以内のいかなる時点で行ってもよい。第二群は治療開始前7日以内に行わなければならない。評価を第1日に行う場合、試験薬投与前に完了しなければならない。
【0168】
第-28日から第1日(C225-IL-doxの初日、薬物投与前)の評価

【0169】
第-7日から第1日(C225-IL-doxの初日、薬物投与前)の評価

【0170】
4.2. 治療中
腫瘍評価をスクリーニング中および治療2、4および6周期後に行う。治療完了後、最初の1年間は3ヶ月ごと、その後臨床上の必要に応じて評価を実施する。進行が記録されたら、試験内でそれ以上の評価を行う必要はない。反応している患者において、反応が初めて記録されてから少なくとも4週間後に反応を確認しなければならない。
【0171】
試験上の安全性評価:
-ヘモグロビン、白血球および血小板を、臨床的に特に指示されないかぎり、第一周期中は毎週と、その後の周期中は2週間に1回分析する。
-トランスアミナーゼ、ビリルビン、アルカリ性ホスファターゼ、クレアチニン、カルシウム、LDHおよび尿の状態を4週間に1回分析する。
【0172】
有害事象を各来診時に記録する。
【0173】
心エコー検査を、すべての患者で、治療前、2および6周期後(または試験終了時)、ならびに臨床的に指示される場合に実施する。
【0174】
5. 試験デザイン
本試験は一施設開放試験である。
【0175】
患者の募集は2段階で行う。第一に、患者を10.3.2項に従って登録する(投与法および用量調節)。第二段階は、MTDと規定された用量でさらに最大6名の患者の追加募集を可能とする。
【0176】
治療段階(24週)を完了し、完全寛解または部分反応ならびに疾患の安定を示す患者は、試験の観察段階に入る。この段階は最後の患者が含まれてから12ヶ月後に終了する。
【0177】
治療段階または観察段階の任意の時点で、付録1に示す癌治療の結果報告のためのRECIST基準に従って疾患進行の徴候がある、または許容できない毒性により治療を中止した患者は、試験をやめ、治験責任医師の裁量で治療を行う。
【0178】
6. 試験薬物
6.1. 薬物名、製剤、保存
C225-IL-doxを、経口投与のための20mlバイアルにドキソルビシン10mgの溶液(ドキソルビシン0.5mg/ml)として用いるために供給する。C225-IL-doxは2〜8℃で保存すべきである。
【0179】
6.1.1. リポソーム調製
リポソームを、脂質膜を水和するための反復凍結-解凍を用いる脂質膜水和-押出法により調製した(23)。リポソームは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)およびコレステロール(モル比3:2)ならびにメトキシポリエチレングリコール(mPEG)-1,2-ジステアロイル-3-sn-グリセロホスホエタノール-アミン(DSPE;脂質の0.5〜5mol%;Avanti Polar Lipids;Alabaster, AL)で構成されていた。水和後、リポソームをポリカーボネートフィルター(孔径0.1μm)を通して10回押し出した。リポソーム粒径を動的光散乱によりもとめた(典型的には80〜100nm)。リン脂質濃度をリン酸検定(25)によって測定した。
【0180】
ADS645WS(American Dye Source, Quebec, Canada)を担持したリポソームについて、蛍光色素(5mmol/L)を乾燥脂質の再水和用の緩衝液に溶解した。受動的担持の後、封入されていない色素をSephadex G-75クロマトグラフィーを用いて除去した。
【0181】
化学療法剤のドキソルビシン(Bedford Laboratories, Bedford, OH)およびエピルビシン(Pharmacia, Kalamazoo, MI)の封入のために、硫酸アンモニウムを用いての標準の遠隔担持法を行った(26、27)。ビノレルビンの封入のために、トリエチルアンモニウムスクロース8硫酸塩(TEA8SOS;0.65mol/LTEA、pH5.2〜5.5)の溶液中での水和後、リポソームを前述のとおりに調製した。封入されていないTEA8SOSをSepharose CL-4Bサイズ排除カラムで除去した。ビノレルビンをリン脂質1molあたり薬物350gの薬物-リン脂質比および1N HClで6.5に調節したpHで加えた後、担持を60℃で30分間行った。得られたリポソーム性ビノレルビンをSephadex G-75カラムで精製して、封入されていない薬物を除去した。
【0182】
6.1.2. モノクローナル抗体断片および免疫リポソームの調製
無傷のC225 mAb(セツキシマブ、Erbitux;ImClone Systems, In., New York, NY)を以前に記載されたとおりに切断し、還元した(11)。Fab'断片をPEG-DSPE鎖(Mal-PEG-DSPE;Nektar, Huntsville, AL;ref. 8)の末端のマレイミド基に共役結合させた。C225-Fab'の結合効率は典型的には30%から50%であった。あらかじめ形成したリポソームまたは市販のPLD(Doxil, Alza Pharmaceuticals, Palo Alto, CA)への組み込みのために、mAb結合体をリン脂質1μmolあたりFab' 30μgのタンパク質/リポソーム比、55℃で30分間共にインキュベートすることによりリポソーム中に組み込み、70%から80%の組み込み効率を得た(11)。
【0183】
6.1.3. 製剤
C225-IL-doxをUniversity Hospital of Basel(Prof. C. Surber)の薬局で調製する。C225-IL-doxは、pH6〜7のHEPES緩衝化食塩水(0.9%NaCl;HEPES 2mM)中、ドキソルビシン0.5mg/mlの濃度で保存する。注射のために、C225-IL-doxを5%グルコース250mlに加える(用量レベル50mg/m2以上については500ml)。この製剤はグルコース中の希釈後24時間以内に使用しなければならない。希釈したC225-IL-doxは、いかなる凝集の徴候もない、澄明で赤みを帯びた溶液であるべきである。
【0184】
6.1.4. 保存必要条件
C225-IL-doxのバイアルは、物理的および生化学的に完全な状態を最適に確保するために、2℃〜8℃の範囲の温度で冷蔵庫に保存しなければならない。試験薬を凍結するとリポソームが破裂するため、凍結しないことが重要である。C225-IL-doxはずれ応力(例えば、撹拌またはシリンジからの急速な駆出)に感受性でありうる。C225-IL-dox溶液の激しい取り扱い(振盪など)は、タンパク質の凝集を引き起こすことがあり、混濁溶液を生じることがある。バイアルは1回だけ使用するために設計されている。
【0185】
6.2. 包装およびラベル
試験薬C225-IL-doxのバイアルのラベルは以下のとおりに表記する:
臨床試験での使用に限る
試験CC1
C225-IL-dox
全内容物:ドキソルビシン0.5mg/mlで20ml=10mg/バイアル
2〜8℃の間で保存(凍結はしないこと)
有効期限:
バッチID:
治験責任医師名:
患者識別:
【0186】
6.3. 試験治療
6.3.1. 用量選択の根拠
多くの第II相および第III相試験ならびに日常的腫瘍医療において用いられるCaelyxの標準的用量は、4週間ごとの短時間注入として与えられる40〜50mg/m2である。その用量で投与したこの薬物の主な毒性の一つは、手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)である。同様に、セツキシマブで起こりうる重要な副作用は皮膚毒性で、通常は顔および体幹のざ瘡様発疹として発現する。この副作用はおそらく、表皮がEGFRを比較的高レベルで発現するという事実の結果である。したがって、この試験の主な安全上の問題は、抗EGFR抗体セツキシマブによってCaelyxをEGFR過剰発現細胞に指向させることは薬物の皮膚毒性も高める可能性があるということである。
【0187】
この第I相試験における治療は非常に低用量のCaelyx、すなわち、標準的用量の10分の1の薬物(確立されている臨床法における250mg/m2(担持用量400mg/m2)と比べて、約0.9mg/m2の抗体(セツキシマブ)用量に対応する)で行い、用量を少量ずつ漸増させた。
【0188】
6.3.2. 投与法および用量調節
患者を各3名のコホートで以下の用量レベル(C225-IL-doxの数量化および用量レベルはドキソルビシンmgで規定する)で治療する:
レベル1=5mg/m2
レベル2=10mg/m2
レベル3=20mg/m2
レベル4=30mg/m2
レベル5=40mg/m2
レベル6=50mg/m2
レベル7=60mg/m2
レベル8=70mg/m2
レベル9=80mg/m2
各用量レベルで、患者3名を同時に登録してもよい。次に高い用量レベルへの漸増は、所与の用量レベルの患者3が少なくとも1回の治療全周期を受けた後、その用量レベルで用量制限毒性(DLT)が起こらなければ許可される。次の用量レベルに進む決定は、前の群の入手可能な毒性データをすべて調べた後に、チームによって行う。DLTは、任意の等級4の毒性、1週間を越えて持続する任意の等級3の毒性および/または熱性好中球減少等級3(好中球<1.0×109/lおよび発熱>38.5℃と規定)と規定する。悪心、嘔吐、食欲不振、および脱毛(等級2)は用量制限毒性としては除外する。同様に、疾患進行などの明らかに原発性腫瘍に関連する有害事象もDLTとは考えない。加えて、DLTを規定し、解析する際には、既存の毒性を考慮に入れなければならない。
【0189】
DLTと考えられる等級3の毒性の例:
・PPD(手足症候群)の場合、等級3の毒性は潰瘍性皮膚炎または機能を妨害する痛みを伴う皮膚変化と規定され、したがってDLTと考えられる。
・下痢の場合、等級3の毒性は基準値と比べて1日に>7回の便通増加;失禁;i.v.注入液>24時間および/または入院と規定され、したがってDLTと考えられる。
・左心室機能の場合、等級3の毒性は介入に反応しての症候性心機能不全および/または駆出率<40%の減少と規定され、したがってDLTと考えられる。
【0190】
いずれかの用量レベルにてDLTが起こる場合、以下の規則を適用する:

【0191】
連続的な用量漸増は、DLTが同じ用量レベルで治療した患者3〜6名のうち3名で観察されるまで許可される。この時点で、さらなる用量漸増は許可されない。次いで、未来に行う可能性がある試験のための最大耐容用量(MTD)を、用量漸増を停止しなければならなかった用量よりも低いレベルと規定する。
【0192】
毒性を経験する個々の患者において、主となる治験責任医師の臨床的判断に従い、かつ6.5章に詳述する規則に従って決定する、用量を減らしての治療の継続は任意である。
【0193】
6.3.3. 治療持続期間
患者を、疾患進行まで、または最大6周期の間治療する。
【0194】
6.4. 併用治療
すべての併用薬物を症例報告書に報告しなければならない。
【0195】
7. 早期中止
患者は、適当な治療に対するその権利に影響を受けることなく、任意の時点で、いかなる理由によっても、試験を中止してもよい。治験責任医師は、介入疾患、有害事象、治療失敗または治験実施計画書違反を含む、患者のための任意の理由により患者を中止させる権利がある。
【0196】
試験中に妊娠した患者は中止させる。離脱の理由を治験実施計画書違反と分類すべきで、妊娠を重篤な有害事象として報告すべきである。
【0197】
可能であれば中止は避けるべきであるが、試験中に中止は起こりうることが理解される。患者が、いかなる理由であっても、試験を中止する場合は常に、最終試験評価をその患者について完了し、中止の理由を公開しなければならない。患者に関するすべての文書作成を可能なかぎり完了しなければならない。
【0198】
8. 警告および注意
重篤と考えられるいかなる有害事象も、Dr. Christoph MamotまたはProf. Christoph Rochlitz(いずれもDivision of Oncology, University Hospital of Basel;関係は本治験実施計画書の表題ページを参照されたい)にただちに(1仕事日以内)報告しなければならない。
【0199】
C225-IL-dox療法は、癌患者の治療の経験がある医師の監督の下でのみ開始すべきである。これはUniversity Hospital in BaselのDivision of Oncologyで行わう一施設試験であるため、この部門の医師のみが治験責任医師と緊密に協力して治療を行う。
【0200】
皮膚毒性に関しては、10.3.1(用量選択の根拠)も参照されたい。
【0201】
9. 統計法および考察
9.1. 全般的考察
本試験は、進行性固形腫瘍の患者におけるC225-IL-doxの安全性を評価するための第I相試験である。有効性は本試験の二次終点であり、したがって、治療前、治療中、および治療後の腫瘍測定は、C225-IL-doxへの腫瘍反応においてもいくらかの予備的データを提供するであろう。しかし、有効性の解析は純粋に記述的であって、正式な統計試験は行わない。
【0202】
9.2. 被検者の規模
本試験の被検者の規模は、試験中に用量制限毒性(DLT)が起こる場合の安全停止規則を提供するために用いる試験デザインに基づいている。試験計画は各用量レベルに3名の患者を登録し、さらに最大3名の患者を毒性に応じてこれらの用量レベルのそれぞれで加えるものである。試験は、特定の用量レベルで患者3から6名のうち3名がDLTを経験する場合に停止する(DLT用量)。
【0203】
ある用量レベルの真の毒性率を「P」とすると、その用量を毒性(DLT用量)と宣言する確率は以下のとおりである:

【0204】
9.3. 一次および二次分析
9.3.1. 一次変数
各用量レベルの患者の有害事象プロフィールを、事象の頻度および数に関してまとめる。同様に、DLTを経験する患者の数および比率もまとめる。すべての有害事象のリストおよび検査データを提供する。
【0205】
9.3.2. 二次変数
反応の各カテゴリ(7.2.1参照)に属する患者の比率を表にする。
【0206】
10. 倫理的考察
本治験実施計画書は書面にされており、試験はヘルシンキ宣言、ICHによる医薬品の臨床試験の実施の基準に関するガイドライン、およびスイス規制当局の要求に従って実施される。
【0207】
いかなる患者を本試験に登録する前にも、治験責任医師は本試験が施設の倫理委員会によって承認されており、Swissmedicは施設を公開していることを確認しなければならない。
【0208】
10.1. インフォームド・コンセントおよび患者情報
インフォームド・コンセントは施設の倫理委員会によって認められ、患者が署名した書面で得る。2通のインフォームド・コンセントに署名が必要で、そのうちの1通を患者に渡す。
【0209】
インフォームド・コンセントをもとめる際に、付録に提供する患者情報を用いるべきであり(施設の倫理委員会の要求に従って改訂)、1通のコピーを患者に渡すべきである。
【0210】
インフォームド・コンセントの手順は、ICHおよびSwissmedicによる医薬品の臨床試験の実施の基準に関するガイドラインに準拠していなければならない。
【0211】
すべての患者に試験の目的、可能な有害経験、有害事象が発生した場合の対処の仕方、ならびに患者が曝される手順および可能な危険を告知する。患者に患者データの機密保護について告知するが、患者の医療記録は治療を行う医師の他に認定された個人により試験の目的のために調べられうることを知らせる必要がある。
【0212】
治験責任医師は患者に、参加するかどうかを考え、強制または過度の影響を最小限にするための、十分な機会を提供しなければならない。提供する情報は、患者が理解できる言語であるべきで、患者の何らかの法的権利を放棄するように見える、または治験責任医師、治験依頼者、もしくは治験実施医療機関を過失の責任から免れさせるように見える、いかなる内容も含んではならない。
【0213】
参加は随意であり、患者が欲するときにはいつでも、治験実施計画書におけるそれ以上の参加を拒絶しうることが強調される。患者のその後の医療に害を与えることはない。
【0214】
損益比を変える新しいデータが得られた場合、患者は再度同意すべきである。
【0215】
11.
11. 付録
11.1. Recist基準
固形腫瘍の治療効果判定基準(RECIST)(29)
測定可能な疾患を有するすべての患者を反応について評価する。
【0216】
測定可能な疾患−少なくとも1つの測定可能な病変の存在。測定可能な疾患が孤立病変に限られる場合、その新生物性を細胞学/組織学検査により確認すべきである。
・測定可能な病変:少なくとも1つの寸法を正確に測定することができ、最長の直径が通常の技術を用いて3 20mmまたはスパイラルCTスキャンで3 10mmの病変。
・測定不可能な病変:小さな病変(最長直径が通常の技術で<20mmまたはスパイラルCTスキャンで<10mm)を含むすべての他の病変、すなわち、骨病変、軟髄膜疾患、腹水、胸膜/心外膜滲出液、炎症性乳房疾患、皮膚/肺リンパ管炎、嚢胞性病変、および画像法により確認および追跡されていない腹部腫瘤。
【0217】
病変の評価
標的病変Aの評価
・完全寛解(CR):すべての標的病変の消失
・部分反応(PR):基準時合計最長直径(LD)を標準として、標的病変のLDの合計の少なくとも30%の減少。
・進行(PD):治療開始以来記録された最小合計LDを標準として、標的病変のLDの合計の少なくとも20%の増加、または1つもしくは複数の新しい病変の出現。
・安定疾患(SD):治療開始以来の最小合計LDを標準として、PRと認定するのに十分な収縮も、PDと認定するのに十分な増加もない。

A すべての関与する器官を代表する最大10病変までのすべての測定可能な病変を標的病変として特定し、基準時に記録および測定すべきである。標的病変はそのサイズ(最長直径を有する病変)および正確な反復測定(画像法または臨床のいずれかによる)に対する適合性に基づいて選択すべきである。すべての標的病変について最長直径(LD)の合計を計算し、基準時LD合計として報告する。基準時合計LDを標準として用いて、疾患の測定可能な寸法の客観的腫瘍反応をさらに特徴付ける。
【0218】
非標的病変Bの評価
・完全寛解(CR):すべての非標的病変の消失および腫瘍マーカーレベルの正常化。
・非完全寛解:1つまたは複数の非標的病変(非CR)の残存および/または腫瘍マーカーレベルの正常限界よりも高レベル維持。
・進行(PD):1つもしくは複数の新しい病変の出現および/または既存の非標的病変の明確な進行C

B すべての他の病変(または疾患の部位)を非標的病変として特定すべきで、基準時に記録すべきである。測定は必要ではないが、それぞれの有無を追跡期間中を通じて記述すべきである。
C 「非標的」病変のみの明らかな進行は例外的であるが、そのような場合、治療を行う医師の意見を優先すべきで、進行状態を審査委員会(または試験委員長)が後に確認すべきである。
【0219】
注:
・反応を評価するために腫瘍マーカーだけを用いることはできない。腫瘍マーカーの初期値が正常限界よりも高い場合、すべての病変が消失した時に患者を臨床的完全寛解と考えるには、腫瘍マーカーが正常化されなければならない。
・細胞学および組織学検査:測定可能な疾患が孤立病変に限られる場合、その新生物性を細胞学/組織学検査により確認すべきである。
【0220】
これらの技術を用いて、珍しい症例(例えば、公知の残存良性腫瘍が残ることがある、胚細胞腫瘍などの腫瘍タイプにおける残存病変)のPRおよびCRを区別することができる。
【0221】
測定可能な腫瘍が反応または安定疾患の基準に適合した場合、治療中に出現または悪化した任意の浸出液が新生物起源であるかを細胞学的に確認することは、反応または安定疾患(浸出液が治療の副作用でありうる)および進行性疾患を区別するために必須である。
【0222】
最良の全般反応の評価
最良の全般反応は、治療開始から疾患進行/再発までに記録された最良の反応である(進行性疾患について、治療開始以来記録された最小測定値を標準として)。患者の最良の反応の割付は、測定および確認基準の両方の達成に依存する。

【0223】
注:
・その時点で疾患進行の客観的証拠なしに治療の中止を必要とする健康状態の包括的悪化を有する患者は、「症候性悪化」と報告すべきである。治療中止後でも、客観的進行を記録するためにあらゆる努力をすべきである。
・いくつかの場合に、残存疾患を正常組織から識別するのが困難なこともある。完全寛解の評価をこの決定に依存する場合、完全寛解状態を確認する前に残存病変を調査(穿刺吸引/生検)することが推奨される。
【0224】
測定可能な疾患の評価に関するガイドライン
すべての測定値を定規またはカリパスを用いてメートル表記で記録すべきである。すべての基準時評価を、評価のスケジュールに従い、登録前14日以内に行うべきである。
【0225】
注:
以前に放射線照射した領域の腫瘍病変は最適と考えられる測定可能な疾患ではない。
【0226】
基準時および追跡期間中に特定され、報告された各病変を特徴付けるために、同じ評価法および同じ技術を用いるべきである。反応評価のために選択した標的病変を測定するために、CTおよびMRIが現在利用可能な最良かつ再現性のある方法である。治療の抗腫瘍効果を評価するために両方の方法を用いた場合、臨床検査による評価のために画像による評価が好ましい。
・臨床病変は、それらが表在性(例えば、皮膚小結節、触知可能なリンパ節)である場合にのみ測定可能と考えられる。皮膚病変の場合、病変のサイズを推定するための定規を含むカラー写真による記録が推奨される。
・胸部X線上の病変は、それらの輪郭が明確に示され、周囲が酸素供給された肺である場合に、測定可能な病変として許容される。しかし、CTが好ましい。
・通常のCTおよびMRTは、近接して切片の厚さ10mm以下の断層で行うべきである。スパイラルCTは、5mmの近接する再構築アルゴリズムを用いて行うべきである。これを胸部、腹部、および骨盤に適用する。頭頸部の末端は通常は特別なプロトコルを必要とする。
・試験の一次終点が客観的反応評価である場合、臨床的には容易に接触できない腫瘍病変を測定するために、超音波(US)を用いるべきである。これは表在性の触知可能な結節、皮下病変、および甲状腺結節の臨床測定の、可能な代替法である。USは、通常は臨床検査で評価する表在性病変の完全な消失を確認するためにも有用でありうる。
【0227】
確認測定/反応持続期間
確認
PRまたはCRの状態に割り付けるために、腫瘍測定値の変化を繰り返し試験によって確認しなければならず、試験は反応の基準に初めて合致した後4週間行うべきである。SDの場合、追跡測定値は7週間の時点で試験後少なくとも1回はSD基準に合致していなければならない(評価のスケジュール、付録23.18参照)。
【0228】
全般的反応の持続期間
全般的反応の持続期間を、CR/PRについて測定値基準に合致する時点(どちらでも最初に記録されたもの)から再発性または進行性疾患が客観的に記録される最初の日まで測定する(進行性疾患について、治療開始以来記録された最小測定値を標準として)。
【0229】
全般的完全寛解の持続期間を、CRについて測定値基準に合致する時点から再発性または進行性疾患が客観的に記録される最初の日まで測定する。
【0230】
安定疾患の持続期間
安定疾患を、治療開始以来記録された最小測定値を標準として、治療開始から進行の基準に合致するまで測定する。
【0231】
11.2. 適格性書式
登録基準
試験登録前に、候補者は以下の基準のすべてに適合しなければならない(OKであればそれぞれの襴に印をつける):
1. 局所進行性または転移性の固形腫瘍が組織検査により証明された。
2. ECOGの全身状態≦2。
3. 患者のために利用可能なこれ以上の標準治療がない。
4. 最も新しい評価可能腫瘍組織で調べて、EGFR過剰発現(DAKO EGFR pharmDx - Testによる)。
5. 同時に抗腫瘍療法を行っていない(ステロイドは許可され、乳癌および前立腺癌において、ステロイド用量は試験期間中安定に推移しなければならない)。
6. 任意の以前の抗腫瘍治療停止以降、少なくとも4週間(ニトロソ尿素またはマイトマイシンCの場合は6週間)。
7. 以前にアントラサイクリン曝露を受けた患者では、正常な心エコー図(LVEF >50%)が必要。
8. 18歳以上。
9. 男性または女性。
10. 生殖可能年齢の男女の患者は有効な避妊法を用いていなければならない。
11. 試験参加前にインフォームド・コンセントに署名し、試験期間中は治験実施計画書に従う意志があり、それが可能である。
【0232】
除外基準
以下の基準のいずれかに合致したら、候補者を試験から除外しなければならない(OKであればそれぞれの襴に印をつける):
1. 妊娠中および/または授乳中。
2. 以下の検査値を有する患者
-好中球<1.5×109/L
-血小板<100×109/L
-血清オルニチン>3.0×正常上限値
-ALAT、ASAT>3.0×正常上限値(酵素値変化の唯一の可能性がある原因として肝転移を有する患者では5.0×)
-アルカリ性ホスファターゼ>3.0×正常上限値(酵素値変化の唯一の可能性がある原因として肝または骨転移を有する患者では5.0×)
-ビリルビン>3.0×正常上限値
3. 治療開始前4週間以内の任意の治験薬試験への参加。
4. 臨床上顕著でコントロールされていない腎または肝疾患を有する患者。
5. 臨床上顕著な心疾患:うっ血性心不全(ニューヨーク心臓協会クラスIIIまたはIV);症候性冠動脈疾患;薬物治療でうまくコントロールされていない心不整脈;12ヶ月以内の心筋梗塞。
6. 患者の治験に参加する能力を損ないうる、任意の重篤な根源的医学状態(治験責任医師の判断で)(例えば、活発な自己免疫疾患、コントロールされていない糖尿病など)。
7. Swissmedic承認製品情報に従って、Erbitux(商標)またはCaelyx(商標)を投与している場合は、いかなる併用薬物も禁忌。
8. >300mg/m2 BSAの累積ドキソルビシン用量(または心毒性のアントラサイクリン等価物)。
9. 治験責任医師が臨床上顕著で、インフォームド・コンセントを妨害または遵守を妨げると判断した、コントロールされていない発作、中枢神経系障害または精神障害の病歴がある患者。
10. 脳転移。
【0233】
12. 結果
第I相試験の予備的結果を以下の表に示す。これらの結果は、最大50mg/m2の濃度で薬物関連の毒性作用は全くまたはほとんど観察されないことを示している。特に、より高用量でも、皮膚毒性、特に手掌足底紅斑は全く見られなかったが、同時に、用いた最低用量でも、有効性の明らかな徴候が観察された。
【0234】
(表1)第I相試験の予備的結果

*2周期後の最小腫瘍進行。遡及的に、18ヶ月でPSA減少および肺転移の緩解)。
(これまで治療した全16名で皮膚毒性は全くなし)
PD 進行
SD 安定疾患
SD(MR) 安定疾患(最小反応)
PR 部分反応
n.e. 評価していない
【0235】
B 多剤耐性試験
1. 材料
1.1 試薬
リポソーム調製のための試薬には下記が含まれた:DilC18(3)-DS(Molecular Probes; Leiden, Netherlands);DSPC、コレステロール、およびmPEG-DSPE(Avanti Polar Lipids; Alabaster, AL, USA);Mal-PEG(2000/3400)-DSPE(Nektar; Huntsville, AL, USA);有機溶媒、ならびに試薬純度の他の化学物質(Sigma-Aldrich AG; Buchs, Switzerland)。
【0236】
ドキソルビシン(Adriblastin RD(登録商標);Pfizer AG, Zurich, Switzerland)およびペグ化リポソームドキソルビシン(Caelyx(登録商標), Essex Chemie AG, Luzern, Switzerland)は薬局から購入した。
【0237】
免疫リポソームはC225(セツキシマブ、Erbitux)またはEMD72000(マツズマブ;両方ともMerck KGaA, Darmstadt, Germany)由来のFab'のいずれかを含んでいた。これらのモノクローナル抗体はいずれも組換えIgGで、EGFRの細胞外ドメイン(ECD)に結合し、それによりEGFおよびTGF-αなどのEGFRリガンドによる活性化を阻止する(36)。MAb C225はキメラMAbであるが、EMD72000は形質転換マウス由来のヒト化MAbである(37)。
【0238】
MAb EMD72000はMerck KGaA, Darmstadt, Germanyからご供与いただいた。
【0239】
1.2. 細胞株
MDA-MB-231ヒト乳癌および結腸直腸癌細胞株HT29癌細胞株は、University of Baselの研究部門または米国の細胞バンク(American Type Culture Collection、ATCC)から入手した。これらの細胞株の耐性株はSusan Bates(MDA-MB-231 Vb100; NIH, Bethesda, USA)およびDr. Schafer(HT-29 RDB; Charite, Berlin, Germany)によって供給を受けた。MDA-MB-231細胞は「改善MEM亜鉛選択(Improved MEM Zinc Option)」培地(invitrogen AG, Basel, Switzerland)中、HT-29はRPMI-1640(Sigma-Aldrich AG, Buchs, Switzerland)中、10%ウシ胎仔血清、100IU/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを補足し、95%空気および5%CO2の加湿雰囲気下、37℃で維持した。
【0240】
2. リポソーム調製、担持および抗体組み込み
2.1 リポソーム調製
一枚膜リポソームを、DSPCおよびコレステロール(モル比3:2)とmPEG-DSPE(リン脂質の0.5〜5mol%)を用い、反復凍結-解凍法(23)に従って調製した。簡単に言うと、続いてリポソームを0.1μmの孔径を有するポリカーボネートフィルターを通して10回押し出し、動的光散乱によりもとめて90〜120nmの直径のリポソームを得た。リポソーム濃度をリン酸検定によって測定した。
【0241】
取り込みおよび内部移行試験のために、リポソームを0.1〜0.3mol%のDilC18(3)-DSで標識したが、これはリポソーム膜に安定に組み込むことができる蛍光脂質である((38)(39))。
【0242】
ドキソルビシンの封入のために、硫酸アンモニウムを用いての遠隔担持法を行った((27)(26))。まず、乾燥脂質を250mM硫酸アンモニウム(pH5.5)中で再水和し、続いて前述のとおりに押し出した。遊離の硫酸アンモニウムをSephadex G-75カラム/HEPES緩衝化食塩水(pH7.0)を用いてサイズ排除クロマトグラフィーにより除去した。次いで、リポソームをドキソルビシンと共に60℃で30分間インキュベートした。これらの条件下で、リン脂質1μmolあたり150μgの薬物を用いた場合の担持効率は典型的には95〜100%の範囲であった。すべての封入されていないドキソルビシンを、Sephadex G-75カラムを用いてサイズ排除クロマトグラフィーにより除去した。加えて、ペグ化リポソームドキソルビシン(PLD/Caelyx(登録商標)/Doxil(登録商標))は購入した。
【0243】
2.2 MAb断片調製、結合、およびリポソーム組み込み
C225-およびEMD72000-Fab'については、無傷のMAbをペプシンとともに(重量比1:20)、0.1M酢酸ナトリウム(pH3.7)中、37℃で3時間インキュベートし、続いてHEPES緩衝化食塩水(pH6.0)に対して透析した。得られたF(ab)2を2-メルカプトエチルアミンまたは2-メルカプトエタノールで、アルゴン雰囲気下、37℃で15分間還元し、次いでSephadex G-25を用いてのゲルろ過により回収した。還元効率は典型的には70〜90%であった。
【0244】
Fab'を前述のとおりMal-PEG-DSPEに結合させた((11)(12))。結合効率を、遊離MAb断片と結合体の比較を可能にするSDS-PAGEにより評価した。結合効率は典型的に、C225については30〜50%、EMD72000については40〜60%であった。調製したリポソーム薬物およびプローブまたは市販のペグ化リポソームドキソルビシンを含む、あらかじめ形成したリポソーム中への組み込みのために、ミセル溶液を形成するMAb断片結合体(Fab'-Mal-PEG-DSPE)を55℃で30分間共にインキュベートすることによりリポソーム中に組み込んだ。結果として、結合体はリポソームの外側の脂質層に、疎水性DSPEドメインを介して連結される。組み込まれていない結合体および遊離薬物をSepharose CL-4Bゲルろ過により免疫リポソームから分離した。DilC18(3)-DS-標識リポソームを用いた場合、蛍光の<5%がミセル画分と共会合し、このマーカーの最小限の転移が示された。結合MAb断片の組み込み効率を、一連のタンパク質標準を用いてのSDS-PAGEおよびゲル走査および前述の定量により推定した。C225およびEMD72000のいずれについても、典型的には加えたMAb結合体の75〜85%が免疫リポソームに組み込まれ、これはリポソーム1個あたり30〜40のFab'断片に相当する。
【0245】
3. 試験デザイン
3.1 結合および内部移行試験
フローサイトメトリー試験のために、250,000細胞を12穴プレートで食塩水(対照)、リポソームまたはDilC18(3)-DSで標識したEGFR標的指向免疫リポソームと共に37℃で2時間インキュベートし、PBSで十分に洗浄し、続いて分離し、フローサイトメトリーにかけるまで氷上で保存した。蛍光顕微鏡検査を、12穴プレートから細胞を分離する以外は同様に行った。
【0246】
ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231において、対照リポソームは背景レベルの蛍光しか示さなかったが、C225-Fab'を含む免疫リポソームはこれらの細胞において、対照リポソームよりも約2桁大きな蓄積を示した。同様のパターンが多剤耐性亜細胞株MDA-MB-231 Vb100でも認められた。
【0247】
C225−Fab'含有免疫リポソームの結合および取り込みを、EGFR過剰発現結腸癌HT-29細胞およびその多剤耐性亜細胞株HT-29 RDBでも評価した。ここで、免疫リポソームはEGFR過剰発現HT-29細胞において1桁を上回る取り込みを示し、mdr細胞株HT-29 RDBでも同等の知見が得られた。EGFR非過剰発現対照細胞株MCF-7では、非標的指向リポソームと抗EGFR免疫リポソームとの間の取り込み/結合に差はなかった(データは示していない)。これらの結果は、そのmdr特性にかかわらず、両方の同質遺伝子細胞株における免疫リポソーム取り込みに対する高い選択性を示すものである。
【0248】
対照リポソームとのインキュベーション後に標的細胞において最小限の蛍光取り込みしか見られなかったことは、ペグ化リポソームの非反応性と一致し((12)(40))、DilC18(3)-DSは、細胞膜への著しい交換を起こさず、安定なリポソーム型マーカーとして用いうることが確認される。
【0249】
3.2 細胞毒性試験
ドキソルビシンを含むEGFR標的指向免疫リポソームの特異的細胞毒性を、96穴プレートにウェルごとに8,000細胞の密度で播種し、一晩培養した標的細胞で評価した。免疫リポソームまたは対照処理を37℃で2時間行い、続いてPBSで洗浄し、増殖培地を再度加えた。細胞を37℃で3日間さらにインキュベートし、臭化3-(4,5ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム(MTT)染色を用いて細胞生存度を分析した(41)。流出ポンプ阻害剤ベラパミルを用いての細胞毒性試験のために、全実験中、この化合物を培地に100μMの濃度で加えた。
【0250】
EGFR過剰発現HT-29野生型結腸癌細胞において、EGFR標的指向免疫リポソームドキソルビシンは2時間の処理後に実質的なインビトロ細胞毒性を示し(IC50=0.25μg/ml)、これは遊離ドキソルビシンの値(IC50=0.3μg/ml)に接近した(表2)。したがって、ドキソルビシンのEGFR標的指向免疫リポソーム送達は、インビトロで細胞膜を容易に通過する小さな両親媒性分子である遊離ドキソルビシンの迅速な拡散と同程度に効率的であった。その一方で、C225-Fab'のPLDへの結合によって誘導した、EGFR標的指向免疫リポソームドキソルビシンは、HT-29細胞において、非標的指向PLD自体(IC50に達しなかった)よりもはるかに高い細胞毒性を示し、送達は抗体依存性であることが示された(表2)。特に、抗体C225だけで2時間同様に処理した場合、この検定では細胞毒性は見られず、免疫リポソーム活性が標的指向薬物送達によるもので、この短時間のインキュベーション時間ではC225の抗増殖効果の可能性には関係ないことが確認された。さらに、C225-Fab'を含むが、封入薬物を含まない免疫リポソーム(「空の免疫リポソーム」)は同様に、これらの検定条件下で細胞毒性を示さなかった。また、EGF受容体を持たないMCF-7細胞において、C225-免疫リポソーム-doxの効果は見られなかった(陰性対照;データは示していない)。
【0251】
同じ実験を多剤耐性亜細胞株HT-29 RDBにおいて実施した。特に、この細胞株において、ドキソルビシンの免疫リポソーム送達(IC50=0.5μg/ml)は遊離薬物(IC50=9.5μg/ml;=19倍)およびリポソーム薬物(IC50に達しなかった)よりもすぐれていた。我々の試験のこの部分を要約すると、遊離ドキソルビシンは野生型に比べて、HT-29細胞株の多剤耐性変異体において細胞毒性がはるかに低かったが、細胞株における異なるmdr特性には関係なく、免疫リポソーム化合物にほとんど差はなく、免疫リポソームはこの状況では多剤耐性メカニズムを迂回しうることを示している。
【0252】
ドキソルビシンによる免疫リポソーム仲介細胞毒性を、多剤耐性を特徴とするEGFR過剰発現ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231 Vb100においても評価し、mdrを持たないその親細胞株MDA-MB-231による結果と比較した。親野生型MDA-MB-231において、C225-Fab'を含むILはドキソルビシン送達において、細胞膜を容易に透過しうる遊離ドキソルビシン自体と同程度に効率的で、非標的指向リポソームドキソルビシン/PLDよりも明らかに細胞毒性が高かった(IC50=0.3対0.6対120μg/ml)。
【0253】
興味深いことに、高度に薬剤耐性のMDA-MB-231 Vb 100細胞株において、ドキソルビシン(dox)を担持するILは遊離doxの216倍の細胞毒性を生じ、非標的指向リポソームドキソルビシンよりも顕著に細胞毒性が高かった(IC50=0.6対130対>900μg/ml)。
【0254】
耐性MDA-MB-231 Vb100細胞における同じ実験を、ベラパミル存在下で繰り返した。この物質は流出ポンプを阻害することができ、したがって多剤耐性の特定のメカニズムを逆転させることができる。事実、この実験にベラパミルを加えることにより、多剤メカニズムを有効に逆転させることができ、その結果、遊離ドキソルビシンは野生型MDA-MB-231細胞株におけるのと同程度に効率的であった(IC50=0.9μg/ml)。これとは対照的に、ベラパミルを加えても抗EGFR免疫リポソームによって送達されるドキソルビシンの有効性をそれ以上高めることはなく(IC50=0.5μg/ml)、したがって、ILは多剤メカニズムを克服することができ、この送達系は流出ポンプの存在によって影響されないという我々の知見が確認された。
【0255】
(表2)細胞毒性試験の結果概要

PLD 非標的指向リポソームドキソルビシン
C225-IL-dox C225抗体標的指向リポソームドキソルビシン
【0256】
3.3 細胞質および核におけるドキソルビシンの蓄積
比較蓄積試験のために、腫瘍細胞(HT-29、HT-29 RDB、MDA-MB-231またはMDA-MB-231 Vb100)を12穴プレートにウェルごとに200,000細胞の密度で播種した。遊離ドキソルビシン、非標的指向リポソームドキソルビシン(PLD)および免疫リポソームドキソルビシンを3μg/mlのドキソルビシン濃度で37℃で2時間適用し、続いて培地で2回洗浄した。ベラパミルを実験に0、10または100μMの濃度で加えた。いかなる処理もせず、さらに2時間インキュベートした後、細胞を下記のとおりに分析した:
【0257】
培地を除去した後、細胞をFCS含有培地1mlで1回、続いてカルシウムおよびマグネシウムを含むPBS 1mlにより室温(RT)で3分間洗浄した。PBSをC100T溶液(2.1gのクエン酸および0.5mlのTWEEN20を含む100ml)400μlで置き換えた。300サイクル/分で10〜15分間振盪し、鏡検により確認して、細胞膜を可溶化し、核を放出した。各ウェルの全内容物を透明の0.5ml PCRチューブに移し、室温、1200rcfで5分間遠心分離した。この様式で、核はチューブの先端に沈降し、これはその後の処理にとって重大である。細胞質中のドキソルビシンの定量のために、上清から350μlを取り出し、350μlの酸メタノール(1Mオルトリン酸を含むメタノール)と混合した。ドキソルビシンの核蓄積のために、核を含むペレットを1%C100Tを含むPBS 500μlで2回洗浄した後、前述の遠心沈降を用いた。最終上清を注意深く除去し、ペレットからドキソルビシンを50%酸メタノール400μlで一晩抽出した。
【0258】
細胞質および核抽出物の両方から、300μlを96穴プレートに移し、「SpertraMax Gemini Fluorimeter」(Molecular Devices)で測定した。
【0259】
3.4 腫瘍異種移植モデル
非標的指向性リポソームに対する抗EGFR免疫リポソームの有効性をMDA-MB-231野生型および耐性乳癌異種移植モデルで試験した。スイスnu/nuマウス(5〜6週齢;Charles River, France)の背部にEGFR過剰発現MDA-MB-231腫瘍細胞(1×107細胞、野生型または耐性)を皮下(s.c.)注射した。腫瘍異種移植片がいったん樹立され、腫瘍測定値が150〜250mm3になったら、マウスを異なる処置群(試験に応じて、8〜10匹/群)に無作為に割り付けた。すべての静脈内処置を尾静脈注射により、典型的には100〜200μlの量で実施した。リポソームおよび抗EGFR免疫リポソーム(C225-およびEMD72000-)を、10mgドキソルビシン/kg/投与の用量で1週間に1回3週間、全量30mg dox/kgで静脈内投与した。遊離薬物を、リポソームまたは免疫リポソームと同じスケジュールで、ドキソルビシンの30mg dox/kgのMTDで静脈内注射した。対照群では、食塩水を同じ注射量およびスケジュールで静脈内投与した。
【0260】
腫瘍成長を、腫瘍移植後55〜100日間モニターした。1週間に3回、マウスの体重を計測し、毒性について調べた。腫瘍測定を1週間に2〜3回、カリパスを用いて行い、腫瘍体積を以下の式を用いて算出した:(長さ×幅2)/2。
【0261】
mdr特性を持たない野生型MDA-MB-231異種移植モデルにおいて、全用量30mg dox/kgを週3回用量10mg/kgに分割して、抗EGFR免疫リポソーム-doxを静脈内投与した。抗EGFR免疫リポソームは抗EGFR MAb C225またはEMD72000のいずれかから調製した。対照処置には下記が含まれた:免疫リポソームと同じ用量およびスケジュールでの食塩水;遊離ドキソルビシンおよび非標的指向リポソームドキソルビシン(市販のペグ化リポソームドキソルビシン;PLD)。
【0262】
遊離ドキソルビシンは食塩水処置と比べると、いくらかの腫瘍成長阻害を示した。この高用量でのドキソルビシンのPLDによる非標的指向リポソーム送達は、腫瘍の退縮を誘導し、遊離薬物よりも明らかに有効性が高まった。抗EGFR免疫リポソーム-doxによる処置は、C225またはEMD72000のいずれを用いたかに関係なく、実質的な腫瘍の退縮を引き起こし、全般的に最も有効な処置であった。第77日までに、腫瘍退縮はPLD、C225-IL-doxおよびEMD72000-IL-dox群でほぼ同等であった。しかし、追跡期間中、非標的指向PLDで処置した腫瘍はすべて再成長を始めたが、C225-IL-doxおよびEMD72000-IL-dox両方の免疫リポソームドキソルビシンで処置した腫瘍は観察終了(第100日)まで成長活性を示さず、以前に他の異種移植腫瘍モデルで報告された抗EGFR免疫リポソームの治癒能力さえ示唆された。
【0263】
同じ実験を、非常に類似のEGFR過剰発現(データは示していない)を特徴とするが、さらに多剤耐性を有する、MDA-MB-231 Vb100異種移植モデルで繰り返した。ここでも、C225またはEMD72000のいずれか由来の抗EGFR免疫リポソーム-doxを、全用量30mg dox/kgを1週間に3回10mg/kgに分割して、静脈内投与した。比較群には、免疫リポソームと同じ用量およびスケジュールでの食塩水、遊離ドキソルビシンおよび非標的指向リポソームドキソルビシン(市販のペグ化リポソームドキソルビシン;PLD)が含まれた。
【0264】
この高度多剤耐性モデルにおいて、遊離ドキソルビシンは食塩水処置と比べて、いかなる腫瘍成長阻害も示さなかった。この高用量でのドキソルビシンのPLDによる非標的指向リポソーム送達は、いくらかの腫瘍成長阻害を示した。興味深く、重要なことに、抗EGFR免疫リポソーム-doxによる処置は、C225またはEMD72000のいずれを用いたかに関係なく、実質的な腫瘍の退縮を引き起こし、全般的に最も有効な処置であった。C225-IL-doxはEMD72000-IL-doxに比べて、中等度に有効性が高いように見えた。しかし、これは傾向にすぎず、統計的に有意ではなかった。全般に、この実験の結果は、抗EGFR免疫リポソームが多剤耐性腫瘍に対しても有効で、mdrメカニズムを克服しうることを示すものである。(表3参照)
【0265】
両方のモデルにおいて、マウスは抗EGFR免疫リポソーム-doxに対する高い耐容性を示した。抗EGFR免疫リポソーム-doxによる処置は大きな体重減少を伴うことはなかった:
【0266】
(表3)腫瘍異種移植試験の結果

【0267】
3.5 統計学的解析
結果の統計学的有意性を評価するために、腫瘍体積を解析し、異なる処置群を各時点についてスチューデントt検定(2試料個別t検定)を用いて比較した。加えて、多変量(順位)解析を各マウスについて順位和に基づいて実施した。最後の処置後の各時点での腫瘍サイズを、その日について全マウスで順位付けし、順位を合計した。2つの処置について、順位和をそれぞれの場合に2試料t検定を用いて比較した(42)。
【0268】
引用文献





【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含み、かつ、内部に抗腫瘍化合物をさらに封入している、臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌の複次治療のための免疫リポソーム。
【請求項2】
前記腫瘍がEGFR陽性腫瘍である、請求項1記載の免疫リポソーム。
【請求項3】
細胞増殖抑制性化合物を封入している、請求項1または2記載の免疫リポソーム。
【請求項4】
抗腫瘍化合物が、ダウノマイシン、イダルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、シスプラチンおよび他の白金類縁体、ビンクリスチン、エピルビシン、アクラシノマイシン、メトトレキセート、エトポシド、ドキソルビシン、シトシンアラビノシド、フルオロウラシルおよび他のフッ化ピリミジン、フッ化プリン、またはフッ化ヌクレオシド、特にゲムシタビン、ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン、ダクチノマイシン、シクロホスファミドおよびその誘導体、チオテパ、BCNU、パクリタキセル、ドセタキセルおよび他のタキサン誘導体と単離体、カンプトテシン、ポリペプチド、核酸、ホスホロチオエートヌクレオチド間連結を有する核酸、ならびにポリアミドヌクレオチド間連結を有する核酸からなる群より選択される化合物である、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項5】
細胞増殖抑制性化合物がドキソルビシン、エピルビシン、およびビノレルビンからなる群より選択される化合物である、請求項4記載の免疫リポソーム。
【請求項6】
ヒト患者の二次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項7】
ヒト患者の三次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項8】
ヒト患者の四次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項9】
ヒト患者の五次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項10】
ヒト患者の六次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項11】
ヒト患者の七次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項12】
すべての利用可能な標準治療を受けたが反応の見られなかった患者群の複次治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項13】
腫瘍がまだ進行中である、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項14】
患者に多剤耐性が生じている、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項15】
治療が疾患の安定化につながる、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項16】
治療が部分反応につながる、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項17】
治療が完全寛解につながる、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項18】
治療が毒性副作用を全くまたは実質的に全く示さない、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項19】
治療が皮膚毒性を示さない、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項20】
治療が手掌足底紅斑(PPE=手足症候群)を示さない、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項21】
5mg/m2から80mg/m2の間の濃度において治療が毒性副作用を全くまたは実質的に全く示さない、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項22】
最大40mg/m2の濃度において治療が毒性副作用を全くまたは実質的に全く示さない、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項23】
抗体または抗体断片がリポソーム膜に共有結合している、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項24】
リポソームに固定されたリンカー分子の末端に抗体が共有結合している、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項25】
リンカー分子がポリエチレングリコールである、請求項24記載の免疫リポソーム。
【請求項26】
抗体がEGF受容体のリガンド結合細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項27】
カポジ肉腫、再発卵巣癌、軟部組織肉腫、神経膠腫、黒色腫、中皮腫、尿路上皮管(urothelial tract)の移行上皮癌、子宮内膜癌、膵臓癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌、肝細胞癌、腎細胞癌、食道癌、結腸直腸癌、肛門癌、膣癌、外陰癌、前立腺癌、皮膚の基底細胞癌、頭頸部癌、ならびに胆管癌からなる群より選択されるヒト患者臨床状況における癌の治療のための免疫リポソームであって、該癌が、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項28】
前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、尿路上皮癌、食道癌、頭頸部癌、結腸直腸癌、肝細胞癌および中皮腫からなる群より選択されるヒト患者臨床状況における癌の治療のための免疫リポソームであって、該癌が、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項29】
臨床状況におけるヒト患者が、ホルモン治療および/またはドセタキセル治療および/またはミトキサントロン治療の際に腫瘍が進行した前立腺癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項30】
臨床状況におけるヒト患者が、ゲムシタビン治療および/またはカペシタビン治療および/またはオキサリプラチン治療の際に腫瘍が進行した膵臓癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項31】
臨床状況におけるヒト患者が、インターフェロン治療および/またはカペシタビン治療および/またはスニチニブ治療および/またはソラフィニブ治療の際に腫瘍が進行した腎臓癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項32】
臨床状況におけるヒト患者が、シスプラチン治療および/または5-FU治療および/またはドセタキセル治療および/またはセツキシマブ治療の際に腫瘍が進行した食道癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項33】
臨床状況におけるヒト患者が、セツキシマブ治療および/またはベバシズマブ治療および/またはオキサリプラチン治療および/またはイリノテカン治療および/またはカペシタビン治療および/または5-FU治療の際に腫瘍が進行した結腸および/または直腸癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項34】
臨床状況におけるヒト患者が、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはゲムシタビンおよび/またはドキソルビシンおよび/またはメトトレキセートおよび/またはビンクリスチンの際に腫瘍が進行した尿路上皮癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項35】
臨床状況におけるヒト患者が、シスプラチンもしくはカルボプラチンおよび/またはゲムシタビンおよび/またはペメトレキセドの際に腫瘍が進行した中皮腫を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項36】
臨床状況におけるヒト患者が、スニチニブおよび/またはソラフェニブの際に腫瘍が進行した肝細胞癌を患っている、該患者の癌の複次治療のための前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項37】
癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍に代表される癌を有する、臨床状況におけるヒト患者の治療のための免疫リポソームであって、5%から95%の間の反応率が達成される、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソーム。
【請求項38】
臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次〜複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームを、薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
【請求項39】
臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次〜複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療の方法であって、該ヒト患者に、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームまたは薬学的組成物を投与することによる方法。
【請求項40】
癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を有しかつ化学療法を受けたことがないヒト患者、特に、少なくとも1種の標準治療、特に少なくとも2種の標準治療、特に少なくとも3種の標準治療、特にすべての利用可能な標準治療を受けたが反応の見られなかった患者を治療する方法であって、該ヒト患者に、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームまたは薬学的組成物を投与することによる方法。
【請求項41】
臨床状況におけるヒト患者の癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌の一次から複次、特に二次、特に三次、特に四次、特に五次、特に六次、特に七次およびより高次の治療において用いる薬剤の調製のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームまたは薬学的組成物の使用法。
【請求項42】
癌、特に局所進行性または転移性の腫瘍、特にEGFR陽性腫瘍に代表される癌を有しかつ化学療法を受けたことがないヒト患者、特に、少なくとも1種の標準治療、特に少なくとも2種の標準治療、特に少なくとも3種の標準治療、特にすべての利用可能な標準治療を受けたが反応の見られなかった患者の治療において用いる薬剤の調製のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームまたは薬学的組成物の使用法。
【請求項43】
多剤耐性が生じた患者または患者群においてそのような多剤耐性を治療するための、固形腫瘍表面上のEGF受容体抗原を認識しかつ結合する抗体または抗体断片を含み、かつ、内部に抗腫瘍化合物をさらに封入している、免疫リポソーム。
【請求項44】
多剤耐性が生じた患者または患者群の癌の治療のための、前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームを薬学的に許容される担体または賦形剤または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
【請求項45】
乳癌の治療のための、請求項44記載の薬学的組成物。
【請求項46】
結腸直腸癌の治療のための、請求項44記載の薬学的組成物。
【請求項47】
前記多剤耐性がドセタキセル、ミトキサントロン、ゲムシタビン、カペシタビン、オキサリプラチン、インターフェロン、スニチニブ、ソラフィニブ、シスプラチンもしくはカルボプラチン、ドキソルビシン、メトトレキセート、ビンクリスチン、ビノレルビン、ペメトレキセド、ゲフィチニブ、エトポシド、イリノテカン、シクロホスファミド、トポテカン、シクロホスファミド、パクリタキセル、マイトマイシン、ベバシズマブ、トラスツズマブ、5-FU、セツキシマブ、テモゾロミド、ベバシズマブ、プロカルバシン、CCNU、およびBCNUからなる群より選択される1つまたは複数の抗癌剤を含む、請求項44記載の薬学的組成物。
【請求項48】
前記多剤耐性がドセタキセル、ミトキサントロン、ゲムシタビン、カペシタビン、オキサリプラチン、スニチニブ、ソラフィニブ、シスプラチン、5-FU、セツキシマブ、ベバシズマブ、オキサリプラチン、およびイリノテカンからなる群より選択される1つまたは複数の抗癌剤を含む、請求項47記載の薬学的組成物。
【請求項49】
前記請求項のいずれか一項記載の免疫リポソームを含む薬学的組成物であって、該免疫リポソームが、ドキソルビシンを封入しかつ、抗体MAb C225もしくは抗体EMD72000または該抗体の一方もしくは両方の特異的結合特性を示すそれらの断片をさらに含む、薬学的組成物。

【公表番号】特表2010−540498(P2010−540498A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526311(P2010−526311)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062958
【国際公開番号】WO2009/040426
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(510084138)
【Fターム(参考)】