説明

発光半導体素子のための成長方法

複数の前駆体及びインジウム表面賦活剤を用いて1つ以上のn型層またはp型層を多重量子井戸(MQW)サブアセンブリに重ねて形成するため、MQWサブアセンブリが低温気相成長プロセスにかけられる、光電発光半導体素子を作製する方法が提供される。前駆体及びインジウム表面賦活剤は1つ以上のキャリアガスを用いてそれぞれの流量で気相成長プロセスに導入され、キャリアガスの少なくとも1つはHを含む。インジウム表面賦活剤は低温気相成長プロセス中に形成されるp型層の結晶品質を向上させるに十分な量のインジウムを含み、それぞれの前駆体の流量及びキャリアガスのH含有量はn型層またはp型層内のインジウム表面賦活剤からのインジウムのモル分率をほぼ1%未満に維持するように選ばれる。別の実施形態において、低温気相成長プロセスは低温Tにおいて実行され、ここで、T≦T±5%であり、TはMQW障壁層成長温度である。他の実施形態も開示され、特許請求される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は2009年12月8日に出願された米国特許出願第12/633216号の優先権の恩典を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は光電発光半導体素子に関し、さらに詳しくは、光電発光半導体素子の作製方法に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示にしたがえば、光電発光半導体素子を、またはその一部を、作製する方法が提供される。一実施形態にしたがえば、多重量子井戸(MQW)サブアセンブリが、複数の前駆体及びインジウム表面賦活剤を用いてMQWサブアセンブリを覆う1つ以上のn型層またはp型層を形成するための、低温気相成長処理にかけられる、光電発光半導体素子を作製する方法が提供される。前駆体及びインジウム表面賦活剤は、1つ以上のキャリアガスを用いてそれぞれの流量で気相成長プロセスに導入され、キャリアガスの少なくとも1つはHを含む。インジウム表面賦活剤は低温気相成長プロセス中に形成されるp型層の結晶品質を向上させるに十分な量のインジウムを含み、それぞれの前駆体の流量及びキャリアガスのH含有量はn型層またはp型層内のインジウム表面賦活剤からのインジウムのモル分率をほぼ1%未満に維持するように選ばれる。別の実施形態において、低温気相成長プロセスは低温Tにおいて実行される。ここで、T≦T±5%であり、TはMQWバリア層成長温度である。別の実施形態が開示され、特許請求される。
【0004】
本開示の特定の実施形態の以下の詳細な説明は、同様の構造が同様の参照数字で示される、添付図面とともに読まれたときに最善に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は本開示の教示にしたがって作製することができる光電発光半導体素子の一タイプの略図である。
【図2】図2は本開示にしたがう気相成長プロセスの略図である。
【図3】図3は、GaNの成長に対して本開示の方法において用いられる適する前駆体及び流量のいくつかの略図である。
【図4】図4は、AlGaNの成長に対して本開示の方法において用いられる適する前駆体及び流量のいくつかの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1は、多重量子井戸(MQW)活性領域10,p型GaN層20,n型層30,p側コンタクト層40及びn側コンタクト層50を有する、レーザダイオードウエハ100を示す。レーザダイオードウエハは一般に、p型電子阻止層12(例えば、AlGaNまたは他の適する材料)、1つ以上の導波路層15(例えば、GaN,GaInN,等)及び1つ以上のクラッド層25(例えば、AlGaN,AlGaInN,AlGaN/GaNまたはAlGaInN/GaNの超格子、等)をさらに有するであろう。一般に、MQW活性領域10の上にある層はp型層であり、MQW活性層10の下になる層はn型層であろう。MQW活性領域10は、活性領域10への電子の注入に応答して発光し、n型層30に重ねて形成される。本明細書に開示される技術にかかわる技術者には当然であろうように、本開示の方法は、図1に示される構成と同様の構成並びに、レーザダイオード及び発光ダイオードに対する、従来の構成及び今後開発されるであろう構成を含むが、これらには限定されない、多重量子井戸(MQW)活性領域、p型GaN層及びn型層を有する、様々な発光半導体素子に適用できるであろう。
【0007】
図2を参照すれば、n型層30は、一般にほぼ900℃より高い、n型成長温度Tを特徴とする比較的高温の気相成長プロセスにより、気相成長チャンバ200内で成長させることができる。MQW活性領域10は、MQW活性領域10の量子井戸の成長に対して選ばれた量子井戸成長温度T及びMQW活性領域10の障壁層の成長に対して選ばれた障壁層成長温度Tにおける気相成長プロセスにより、同じ気相成長チャンバ内でn型層30に重ねて形成することができる。障壁層成長温度Tは一般に場合に応じて変わるであろうが、一般には量子井戸成長温度T以上である。得られたMQW活性領域10及びn型層30を有するMQWサブアセンブリは、図2に簡略に示されるように、p型GaN層20を、またMQWサブアセンブリに重なるその他のいずれのウエハ層も形成するために低温気相成長プロセスにかけられる。
【0008】
さらに図2に簡略に示されるように、低温気相成長プロセスでは複数の前駆体及びインジウム表面賦活剤P1,P2,P3,P4及びP5が用いられる。低温気相成長プロセスに用いられる前駆体はp型GaN層20の形成のための材料を供給するように構成され、前駆体には、例えば、窒素源(例えばアンモニア)、1つ以上の有機金属Ga源(例えばTMG)、及び1つ以上の有機金属結晶格子ドーパント源(例えばCpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム))を含めることができる。インジウム界面活性剤は、低温気相成長プロセス中にMQWサブアセンブリに重ねて形成される、p型GaN層20の結晶品質を、また他のいずれのウエハ層の結晶品質も、向上させるに十分な量のインジウムを含み、インジウム界面活性剤には、例えば、TMI,TEI,等から選ばれる有機金属源を含めることができる。
【0009】
前駆体及びインジウム表面賦活剤P1〜P5は、窒素は気相成長に用いられる一般的なキャリアガスであるから、またキャリアガスの少なくとも1つは水素であるから、図2に簡略に‘N,H’として表示される、1つ以上のキャリアガスを用いてそれぞれの流量で気相成長プロセスに導入される。この低温気相成長プロセスは低温Tにおいて実行され、ここでT≦T±5%であり、この関係は、TをTより低くするか、Tに等しくするか、またはTより若干高くし得るであろうことを意味する。それぞれの前駆体の流量及びHベースキャリアガスのH含有量は、p型GaN層20内、または低温気相成長プロセス中にMQWサブアセンブリに重ねて成長される−機能的に有意な量のInを含有するように設計されているいずれのウエハ層も除く−他のいずれのウエハ層内の、インジウム表面賦活剤からのインジウムモル分率もほぼ1%未満に維持されるように選ばれる。一般に、インジウム表面賦活剤からのインジウムモル分率は、p型GaN層20内でほぼ0.1%未満であり、本明細書で考えられる方法にしたがえば、p型GaN層20内で0.025%未満になり得る。機能的に有意な量のInを含有するように設計されたウエハ層に対し、本発明の発明者は、In含有ウエハ層、例えばGaInNの成長に用いられる前駆体は既に有意な量のInを含んでいるであろうから、表面賦活剤としてさらにInを供給する必要はないことを認めた。これらのタイプのIn含有層の形成に用いられるキャリアガスは一般に、Hには層へのInの導入を妨げる傾向があるから、Hを含まないであろう。
【0010】
発明者は、青緑色及び緑色の波長帯で発光する窒化ガリウム層が、インジウム含有量が高い、GaInN量子井戸を有することを認めた。高インジウム含有量は量子井戸を熱損傷を非常に受け易くするので、量子井戸上に井戸を損傷させずに導波路層、クラッド層及びコンタクト層を成長することは難題になり得る。本開示の方法にしたがえば、障壁層成長温度Tより低いかまたは若干高い、低温Tで低温気相成長プロセスが実行されるから、そのような損傷が軽減され得る。例えば、考えられる実施形態の1つにおいて、障壁層成長温度Tはほぼ875℃であり、低温Tはほぼ900℃より低い。他の実施形態において、低温Tはほぼ700℃とほぼ900℃の間とすることができる。
【0011】
本明細書に開示される方法の別の態様において、Hベースキャリアガスの流量は、低温気相成長中にp型GaN層の表面からインジウムをエッチングするに十分な量の水素を供給するように選ばれる。このようにすれば、インジウム表面賦活剤からのインジウムのレベルを上述したレベルより低くしておくことができる。限定としてではなく、例として、キャリアガスは実質的に純粋な水素とすることができ、あるいは限定された量だけの水素を他の適するキャリアガスとともに含むことができる。例えば、僅かにほぼ0.1体積%の水素しか含んでいないキャリアガスを供給することで、本開示のコンセプトを実施することができると考えられる。
【0012】
好ましい流量に関し、前駆体または表面賦活剤の流量への本明細書における言及が、モル/分またはμモル/分で表される前駆体または表面賦活剤の絶対流量を指していることに注意されたい。窒素前駆体の場合、流量は標準状態におけるリットル/分(slpm)で与えられる。上記説明を受け、GaNに対する図3に与えられる流量の略記を参照すれば、窒素前駆体が流量FRで導入され、Ga前駆体が流量FRGaで導入され、ドーパント前駆体が流量FRで導入され、インジウム表面賦活剤が流量FRで導入されることに注意されたい。本開示の一実施形態にしたがえば、流量FR,FRGa,FR及びFRのそれぞれは、本明細書に説明される成長特性及び層特性が得られるように選ばれる。
【0013】
実流量に関し、流量FR,FRGa,FR及びFRのそれぞれは:
FR≒1.0〜15 slpm,
FR≒0.75〜76.0 μモル/分,
FR≒0.005〜0.500 μモル/分,
FRGa≒4.00〜440 μモル/分,
を満たすように選ぶことができるが、使用できる特定の成長炉の寸法及び構造にしたがい、流量は上に示される値より小さくするかまたは大きくすることができるであろうと考えられる。特定の実施形態の1つに対し、流量FR,FRGa,FR及びFRのそれぞれは:
FR≒1.0〜15 slpm,
FR≒19 μモル/分,
FR≒0.00843 μモル/分,
FRGa≒44 μモル/分,
を満たすように選ぶことができる。一般に、本開示のコンセプトは、インジウムモル分率が5%と70%の間の成長炉を用い、関係:
FRGa>FR>FR
にしたがうことにより、実施できると考えられるが、これらの一般的パラメータから外れた実施も考えられる。
【0014】
成長に続いて、ほぼ650℃より低い温度で、さらに好ましくはほぼ550℃の温度で、p型GaN層をアニールにかけることができる。発明者は、そのような比較的低いアニール温度が素子の動作完全性の維持に特に良く適していて、成長チャンバ200から素子を取り出さずにその場で実行できることを認めた。さらに、発明者は、実質的に無酸素のアニール雰囲気においてさえも上述したアニールが有効であることを認めたが、アニールは酸素含有雰囲気においても行い得ると考えられる。
【0015】
最後に、図4を参照すれば、AlGaN層の成長に本開示の方法を適合させ得ると考えられる。この場合、TMAのような、Alの有機金属源の形態にあることが好ましい前駆体がさらに供給されるであろう。Al前駆体の流量は固相内の所望のAlモル分率に依存する。一般に、Al前駆体はGaの有機金属源に関わる流量より低流量で供給される。
【0016】
特定の特性を、特定の態様で機能を、具現化するために「構成されている」本開示のコンポーネントの本明細書における叙述は、目的用途の叙述ではなく、構造叙述であることに注意されたい。さらに詳しくは、コンポーネントが「構成される」態様への本明細書における言及はコンポーネントの既存の物理的状態を表し、したがって、コンポーネントの構造特性の限定された叙述としてとられるべきである。さらに、別の層、サブアセンブリまたは他の構造に「重ねて」形成されている層への本明細書における言及には、形成される層とその層が重ねて形成される構造の間の1つ以上の介在層の存在を排除する目的はないことに注意されたい。
【0017】
「好ましくは」、「普通に」及び「一般に」のような語句は、本明細書に用いられる場合、特許請求される本発明の範囲を限定するため、あるいは特許請求される本発明の構造または機能にある特徴が、必須であるか、肝要であるか、または重要であることさえも意味するために用いられてはいないことにも注意されたい。むしろ、これらの語句は、本開示の一実施形態の特定の態様を識別すること、あるいは本開示の特定の実施形態に用いられても用いられなくとも差し支えない、代わりのまたは追加の特徴を強調することが意図されているに過ぎない。
【0018】
本発明を説明し、定める目的のため、語句「ほぼ」は、本明細書において、いずれかの量的比較、値、測定またはその他の表現に帰因させ得る固有の不確定性の大きさを表すために用いられることに注意されたい。
【0019】
本開示の主題を詳細に、またその特定の実施形態を参照することで、説明したが、添付される特許請求の範囲に定められる本発明の範囲を逸脱することなく改変及び変形が可能であることは明らかであろう。さらに詳しくは、MQWサブアセンブリに重ねてp型GaN層が形成される発光半導体素子を参照して本開示のコンセプトを説明したが、本開示のコンセプトは、n型GaN層がMQWサブアセンブリに重ねて形成され、p型GaN層がMQWサブアセンブリの下側に形成される場合にも等しく適用可能であろうと考えられ、この場合は、障壁層成長温度T及びn型層のための低温Tはいずれもp型層成長温度より低いであろう。本質的に、MQWの上に成長させる層は、それがn型層であるかまたはp型層であるかにかかわらず、障壁層成長温度に近い温度で成長させることになろう。
【0020】
同様に、p型及びn型のGaN層に関して本開示の概念を説明したが、p型層及びn型層は、GaN,GaInN,AlGaN,AlGaInN,AlGaN/GaN超格子、AlGaInN/GaN超格子及びこれらの組合せとすることができると考えられる。さらに、本開示のいくつかの態様は本明細書において、好ましいまたはある程度有利であるとされているが、本開示はそれらの態様に限定される必要はないと考えられる。
【0021】
添付される特許請求項の1つ以上において「〜を特徴とする(wherein)」が移行句として用いられていることに注意されたい。本発明を定める目的のため、この語句は構造の一連の特徴の叙述を導入するために用いられる制約の無い移行句として特許請求項に導入されており、より普通に用いられる制約の無い前置句「含む(comprising)」と同様の態様で解されるべきであることに注意されたい。
【符号の説明】
【0022】
10 多重量子井戸(MQW)活性領域
12 p型電子阻止層
15 導波路層
20 p型GaN層
25 クラッド層
30 n型層
40 p側コンタクト層
50 n側コンタクト層
100 レーザダイオードウエハ
200 気相成長チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重量子井戸(MQW)活性領域、1つ以上のp型層及び1つ以上のn型層を有する光電発光半導体素子の作製方法において、
前記MQW活性領域が気相成長プロセスにおいて前記n型層に重ねて量子井戸成長温度T及び障壁層成長温度Tで形成され、ここでT≦Tである、
前記MQW活性領域及び前記n型層を含むMQWサブアッセンブリが、前記MQWサブアッセンブリに重ねて1つ以上の前記p型層を形成するため、複数の前駆体及びインジウム表面賦活剤を利用する低温気相成長プロセスにかけられる、
前記前駆体及び前記インジウム表面賦活剤が1つ以上のキャリアガスを用いてそれぞれの流量で前記気相成長プロセスに導入され、前記キャリアガスの少なくとも1つはHを含む、
前記低温気相成長プロセスが低温Tで実行され、ここでT≦T±5%である、
前記低温気相成長プロセスに用いられる前記前駆体が、前記p型層の前記形成のための材料を供給するように構成される、
前記インジウム表面賦活剤が前記低温気相成長プロセス中に形成される前記p型層の結晶品質を向上させるに十分な量のインジウムを含む、及び
前記低温気相成長プロセス中の前記それぞれの前駆体流量及び前記キャリアガスの前記Hの含有量が、前記p型層内の前記インジウム表面賦活剤からのインジウムのモル分率をほぼ1%未満に維持するように選ばれる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記インジウム表面賦活剤及び前記キャリアガスの前記H成分が、機能的に有意な量のインジウムを含むp型層−そのような層に対する組成前駆体は前記層の形成中に表面賦活剤として作用するに十分な量のインジウムを含む−の形成には利用されない、及び
前記インジウム表面賦活剤が前記低温気相成長プロセス中に、導波路層、クラッド層、キャップ層、障壁層、コンタクト層、電子阻止層またはこれらの組合せから選ばれる、1つ以上のp型層を形成するために用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低温Tがほぼ700℃とほぼ900℃の間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Hベースキャリアガスの前記流量が前記低温気相成長中に前記p型層の表面からインジウムをエッチングするに十分な量の水素を供給するに十分であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記キャリアガスが体積でほぼ0.1%とほぼ100%の間の水素を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−513251(P2013−513251A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543194(P2012−543194)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/059210
【国際公開番号】WO2011/071864
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】