説明

発光装置の製造方法

【課題】光学部品の位置を精密に調整しながら該光学部品を強固に固定でき、高精度で且つ信頼性の高い光学系を備えた発光装置を生産性良く製造する。
【解決手段】光学部品25を保持する保持部材20と、前記光学部品25の光軸40方向に前記保持部材20と嵌合して該保持部材20を支持する支持部材30と、前記光学部品25に光を入射する光源15を有する光源部10と、を具備する発光装置100の製造方法であって、前記保持部材20と前記支持部材30とを溶接する溶接工程を備え、該溶接工程において、前記保持部材20および前記支持部材30に形成される溶接部50の面積を大きくすることにより、前記保持部材20の前記光軸40方向の位置を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置の製造方法に関し、特に光学部品を所定位置に溶接して固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズや光ファイバなどの光学部品を備えた発光装置の製造方法において、これらの光学部品を筐体や支持部材の所定位置に固定する方法として、信頼性や生産性の観点から、溶接による固定方法が採用されている。この方法では、例えばレンズホルダ等の保持部材に光学部品を搭載し、予め光学部品・保持部材の位置調整を行った後、保持部材および筐体・支持部材の一部に高出力のレーザ光を照射して両部材を溶接固定する。
【0003】
例えば特許文献1には、光ファイバを有する光結合装置において、半導体レーザが設置されたケースの側面に予め取り付けられたパイプの端面に、レンズホルダの略全周囲をレーザ溶接により固定する方法が記載されている。この方法では、レンズホルダの中心軸に対して120°間隔で3分岐されたレーザ照射ヘッドからレーザ照射を行い、ケースを順次回転させてレーザ溶接を繰り返すことで、光出力損失を増加させずに固定できるとされている。
【0004】
また特許文献2には、光ファイバを保持するフェルールの先端部を挿入保持するホルダと光学レンズ部品との当接部分を、円周方向に亘って三等分するようにYAGレーザ等で同時に溶接することで、レーザの衝撃による光学レンズ部品の位置ずれを防止できることが記載されており、またそのホルダとフェルールとも同様にレーザ溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−121886号公報
【特許文献2】特開2003−279793号公報
【特許文献3】特開2001−111155号公報
【特許文献4】特開平9−311252号公報
【特許文献5】特開昭63−161419号公報
【特許文献6】米国特許出願公開番号2008/0019011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2等に記載されたレーザ溶接による保持部材の固定方法によれば、溶融部分の膨張および凝固後の収縮などに伴う保持部材の位置ずれを低減することはできるが、それでもミクロンオーダの微量の位置ずれが残存する。特に、ホログラフィックデータストレージのような高密度光記録・再生装置用の光源など、出射光に高い光学性能が要求される発光装置の製造においては、光学部品の高精度の位置調整が要求され、また溶接による固定方法では一旦溶接を行えば元の状態に戻すことが困難なため、このような微量の位置ずれであっても、調整作業を煩雑にし、歩留まりの低下に繋がる要因となる。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、光学部品の位置を精密に調整しながら該光学部品を強固に固定でき、高精度で且つ信頼性の高い光学系を備えた発光装置を生産性良く製造することができる発光装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発光装置の製造方法は、下記(1)〜(7)の構成により、上記目的を達成することができる。
(1) 光学部品を保持する保持部材と、前記光学部品の光軸方向に前記保持部材と嵌合して該保持部材を支持する支持部材と、前記光学部品に光を入射する光源を有する光源部と、を具備する発光装置の製造方法であって、前記保持部材と前記支持部材とを溶接する溶接工程を備え、該溶接工程において、前記保持部材および前記支持部材に形成される溶接部の面積を大きくすることにより、前記保持部材の前記光軸方向の位置を調整することを特徴とする。
(2) 前記支持部材は筒状体であって、一端が前記光源部と接合されており、前記溶接部の面積を大きくすることにより、前記保持部材が前記光源部に近づく方向に変位することを特徴とする。
(3) 前記支持部材は円筒状であって、前記保持部材は該支持部材に嵌入されており、前記溶接部は、前記支持部材上から貫通溶接することにより形成することを特徴とする。
(4) 前記溶接部は、前記光軸を中心として略等配された複数の箇所に同時形成することを繰り返して該面積を大きくすることを特徴とする。
(5) 前記溶接部は、前記光軸を中心として周回方向に該面積を大きくすることを特徴とする。
(6) 前記溶接部は、前記光軸に対して略垂直な1つの面上に形成することを特徴とする。
(7) 前記溶接部は、レーザ溶接により形成し、該レーザ溶接において、レーザ光を前記光軸に対し略垂直に照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発光装置の製造方法によれば、溶接に伴う保持部材の変位を制御し、該変位作用を利用して光学部品の光軸方向の位置を調整することができる。すなわち、溶接の増進つまり溶接部の形成量、面積を変化させることにより保持部材を精密に変位させ、光学部品の位置を高精度に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態に係る発光装置およびその製造方法を説明する概略断面斜視図である。
【図2】実施の形態に係る発光装置の製造方法を説明する概略断面図である。
【図3】実施の形態に係る発光装置の製造方法の一例を示す概略斜視図である。
【図4】溶接回数と保持部材の変位との関係を示すグラフである。
【図5】溶接回数とパワー値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する発光装置およびその製造方法は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を以下のものに特定しない。特に、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、以下に記載されている実施の形態についても同様に、特に排除する記載が無い限りは各構成等を適宜組み合わせて適用できる。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置およびその製造方法を説明する概略断面斜視図である。図1に示す例の発光装置100は、主として光源部10と、光学部品25を保持する保持部材20と、該保持部材20を支持する支持部材30と、から構成されている。光源部10は、基体11の内部に半導体レーザ素子がステム上に実装された半導体レーザ装置である光源15を保持している。保持部材20は、コリメータレンズである光学部品25を内部に保持する、例えばレンズホルダである。支持部材30は、例えばスリーブなどの筒状体であって、保持部材20が光軸40(Z軸)に沿って可動であるように、光学部品の光軸40の方向に保持部材20と嵌合されている。また支持部材30は、光学部品の光軸40と光源15の中心軸とが一致するように予め調整され、その一端が光源部10と接合されている。
【0013】
上記のような構成において、保持部材20と支持部材30との嵌合部の一部を溶接して両部材同士を固着する。この溶接工程において、溶接部50には両部材の溶融、凝固により溶接ビードが形成される。この溶接部50の形成により、保持部材20の光軸40方向への変位作用を奏させ、溶接部50つまり溶接ビードの形成量、面積を変化させることによって、光学部品25の光軸40方向の位置を調整することができる。また本実施の形態のように、支持部材30が光源部10に接合されている場合、溶接部50の形成により保持部材20は、光源部10に近づく方向に変位する傾向が見出されている。これは、溶接部50の形成による構成部材の収縮によるものと考えられる。なお、1回の点状の溶接部50(溶接点)の形成による保持部材20の光軸方向への変位はサブミクロンオーダで可能であり、精密な位置調整が可能である。また、溶接部50の形成により可能な保持部材20の光軸方向への最大変位量は数μm〜数十μm程度であり、保持部材20の光軸40方向の位置の粗調整を予め行った状態で溶接することが好ましい。
【0014】
以下、この溶接工程について詳述する。図2は、本発明の実施の形態に係る発光装置の製造方法の一例を説明する、溶接部における概略断面図である。また図3は、本発明の実施の形態に係る発光装置の製造方法の一例をより具体的に示す概略斜視図である。
【0015】
本発明において、溶接方法は、溶接部50つまり溶接ビードを1mm以下の径に絞ることができるものが好ましく、これにより精密な変位作用を奏させることができる。特に、精密かつ信頼性、生産性に優れるレーザ溶接により行うことが好ましい。レーザ溶接は、レーザ光を熱源とし、金属などに集光した状態で照射して局部的に溶融、凝固させることによって接合する方法である。なかでも、YAGレーザは集光性に優れ、また光ファイバを用いてスポット径を小さくすることができる。また更に集光性に優れる高出力のファイバレーザを用いてもよい。COレーザは出力を高めることができ、1mm以上の比較的肉厚の大きい金属も溶接することができる。このほか、電子ビーム溶接なども適用できる。
【0016】
また図1,2に示すように、本発明における溶接は、保持部材20と支持部材30との嵌合部において、その周部上からの貫通溶接により行うことが好ましい。貫通溶接は、複数の溶接部50を形成する場合に、溶接点の位置精度に依存せず、各溶接部50の形状が揃ったものとなりやすく、溶接による保持部材20の光軸方向の変位作用を制御しやすい。このほか、保持部材20と支持部材30との嵌合部の外縁をすみ肉溶接してもよい。
【0017】
また、溶接部50は、図2,3に示すように、光学部品25の光軸40を中心として周回方向に略等配された複数個所に同時形成することにより、保持部材20の光軸方向への変位作用を制御しやすくなる。また光軸40に垂直な方向の位置ずれを抑制する効果もある。また溶接をレーザ溶接により行う場合には、保持部材20の変位がレーザ出力にも依存するため、各溶接部50を同じレーザ出力で形成することで、変位作用の制御性を高めることができる。すなわち、光軸40中心に向かって照射される各レーザ光を出力(強度)とその向きとを各々有するベクトルとして考えると、その各ベクトルの合成が零ベクトルとなることが好ましい。1回の溶接において同時形成する溶接部50の数は限定されないが、特に120°間隔で等配されていることが好ましく、レーザ溶接では120°間隔で等配された3分岐のレーザ出射部(レーザ出射ポート)60からレーザ照射を行うことが好ましい。
【0018】
さらに好ましくは、まず光軸40を中心として周回方向に略等配された複数個所に、同時に、第1の溶接部を形成する。次に、保持部材20と支持部材30との嵌合部における第1の溶接部とは異なる部位に、新たに第2の溶接部を同様に形成する。そして、これを順次繰り返すことにより、溶接部50の形成を増進させ溶接部50の総面積を徐々に大きくしていくことで、溶接による保持部材20の光軸方向への変位作用を好適に制御することができる。
【0019】
なお、保持部材20の光軸方向への変位作用は、溶接部50の形成量、面積の変化に伴って生じるため、第1の溶接部と第2の溶接部とを離間して形成することで、効率良く変位作用を奏させることができる。ただし、例えば溶接をレーザ溶接により行う場合は、レーザ光の照射中心が離間していればよく、形成される円形状の溶接ビードの一部が、近隣の溶接部同士で重なり合っていてもよい。また保持部材20を最適位置に調整するために必要な溶接部50の形成量、数は未知であり、上記等配された複数個所への同時溶接を繰り返す場合には、第2の溶接部はその直前の第1の溶接部の近隣に形成することが好ましい。例えば保持部材20又は支持部材30の径が10〜20mm程度で、レーザ光のスポット径が300〜500μm程度の場合、保持部材20と支持部材30とを光軸40を中心として2〜4°回転させて順次溶接を行う。
【0020】
なお、この場合、溶接工程の少なくとも途中段階において、保持部材20と支持部材30の嵌合部の周部には、複数の溶接部50が集合して形成された溶接領域51と、未だ溶接されていない未溶接領域55が交互に形成される。本発明では、溶接による光学部品25の光軸方向の位置調整完了後において、上述の未溶接領域55が残存していてもよい。このとき、溶接領域51では、溶接部50が第1の間隔(溶接部同士が重なり合って第1の間隔が0となる場合を含む)で分布しており、各溶接領域51は第1の間隔より大きい第2の間隔(未溶接領域55の幅)で互いに離間されている。このような未溶接領域55を残存させることにより、全周を溶接する場合に比べて、溶接による残留応力を分散させて緩和することができる。なお、発光装置の耐環境性の観点においては、溶接部50は3点以上形成することが好ましい。また保持部材20と支持部材30とはその全周を溶接する必要はないが、光学部品25の最適位置への調整のため、結果的に略全周が溶接されてもよい。
【0021】
図4は、レーザ照射角、つまり光軸40に対して垂直な方向からのレーザ光の傾斜角が0°、−15°、および+30°の場合において、YAGレーザによる溶接回数と保持部材20の光軸方向の変位量との関係を各々示したグラフである。1回の溶接におけるレーザ照射条件は、出力0.9kW、照射時間(パルス幅)4msecで、光軸40を中心として120°間隔で等配された3ポートから同時照射するものであり、光軸40を回転中心軸として周回方向に溶接を繰り返す。また、1〜5回目までの溶接と6〜10回までの溶接とで、光軸40に平行な方向に溶接箇所を変更している。なお、保持部材20の光軸方向の変位は保持部材20から光源部10へ向かう方向をマイナス方向とし、レーザ光の照射角は光軸に垂直な面(X−Y平面)から光源部10側に傾斜する方向をマイナス方向とする。
【0022】
図4に示すように、いずれのレーザ照射角においても、溶接により保持部材20がマイナス方向へ変位する傾向が見て取れる。また図4から、光軸に平行な方向に溶接箇所を変更した1〜5回目の溶接と6〜10回目の溶接とで、変位の傾向が若干ながら変化していることが伺え、保持部材20の変位の方向や量は、保持部材20と支持部材30の嵌合部における光軸方向の溶接位置にも依存している。溶接部50は、光軸40に平行な方向に溶接部50を増やしてもよいが、光軸40を中心として周回方向に増やすほうが、保持部材20の光軸方向への変位作用を制御しやすく、好ましい。さらに詳しくは、図2に示すように、光軸40に対して略垂直な1つの面上に溶接部50を形成することが好ましく、これにより比較的安定した光軸方向の変位作用が得られ、また溶接部50の形成を小さい領域に収めることができる。例えば1回の溶接部の形成を終える毎に、嵌合された保持部材20と支持部材30とを光軸40を中心軸として回転させ順次溶接を行い、これを繰り返せば、作業性が良い。
【0023】
また図4を見れば、特にレーザ光の照射角0°で溶接した場合において、他の照射角−15°および+30°の場合に比べて、保持部材20のマイナス方向への変位が安定的に得られており、サブミクロンオーダの調整が制御性良く行えることがわかる。このように、溶接をレーザ溶接により行う場合、レーザ光を光軸40に対して略垂直に照射すれば、保持部材20の光軸方向への変位作用を制御しやすく、選択的に一方向に緩やかに変位させることができ、好ましい。ただし、本明細書でいう「略垂直」とは、上述した機能を実質的に発揮できればよく、例えば光軸40に対して90°±5°程度の範囲を含むものとすることができる。
【0024】
なお、本発明の溶接による光学部品の光軸方向の位置調整は、調整治具等により保持部材20が固定、支持されていない状態で行うことが好ましく、これにより残留応力の発生を抑制しながら光軸方向の変位作用を制御しやすくすることができる。例えば保持部材20の一部を調整治具により支持した状態で粗調整および支持部材30への仮溶接を行った後、該調整治具による保持部材20の支持を解き、上述の溶接部50の形成による光軸方向の位置調整を行うと良い。
【0025】
以下、本発明の発光装置の製造方法における各部材、構成について説明する。
【0026】
(光源部)
光源部10は、少なくとも、光学部品25に光を入射する光源15と、該光源15を内部に固定・保持する基体11と、から構成される。光源15は、半導体レーザ(LD:LASER Diode)、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などの半導体発光素子、有機EL(Electro-Luminescence)素子、又はこれらの素子が実装された光源装置のほか、ハロゲンランプなどのランプ光源などを用いることができる。紫外光や短波長の可視光を発光可能な窒化物半導体発光素子は、高精度、高分解能の光学系に好適な光源であるが、他方そのような性能を実現するために高精度の光学調整が必要となるため、本発明の発光装置の製造方法が特に効果を奏する。
【0027】
光源15を保持する基体11は、ステンレス鋼のほか、光源の放熱性、機械的強度、組立精度などの観点から、クラッド材、例えば鉄材料でクラッドした鋼材を用いて構成することができる。また、基体11への光源15の固定は、基体11に光源15と嵌合する凹部を設け、該凹部内に光源15を嵌入してレーザ溶接により行う。このほかネジ止め及び/又は接着剤の塗布などにより固定してもよい。
【0028】
(光学部品)
光学部品25には、レンズ、ミラー、プリズム、光学フィルタなどの光学素子のほか、レーザロッドや波長変換用の非線形光学結晶などの光学結晶、あるいは光ファイバなどを用いることができる。特に、光学部品25が開口数(NA)の高い(例えば0.4≦NA)コリメータレンズなどの場合、レンズの光軸方向の位置精度がビーム平行度の精度に大きく影響し高精度の位置調整が必要となるため、本発明の発光装置の製造方法が特に効果を奏する。このほか、例えば光学部品がミラーやプリズムなどの光偏向素子であって、レンズ等による集束光の焦点位置を高精度に調整することが必要な光学系などにも、本発明の発光装置の製造方法を適用できる。
【0029】
(保持部材)
保持部材20は、光学部品25を保持する各種ホルダなどであり、例えば光学部品25がレンズの場合にはそのレンズホルダ又は鏡筒である。保持部材20は、少なくとも溶接可能な材料で構成され、例えばステンレス鋼(オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系)、鉄鋼材料(機械構造用炭素鋼、一般構造用圧延鋼)、スーパーインバー、コバールなどを用いることができ、特に温度依存性の点でスーパーインバー、コバール等が好ましい。溶接性、耐食性が優れ比較的安価なステンレス鋼も適している。保持部材20は、光学部品25の光軸40を中心軸とする筒状体であって、その内部に光学部品25を保持し、光学部品25への入射光を光軸方向にそのまま透過させる形態であれば、光学系および発光装置の小型化を図ることができ好ましい。また保持部材20が支持部材30に嵌入する嵌合構造の場合、保持部材20の外面の断面形状は、支持部材30と嵌合し光軸40の方向に比較的滑らかな変位、またその制御が可能なように、小さい表面粗さで加工しやすい円形が好ましい。またその嵌合構造において、保持部材20の先端部を一時的に支持して保持部材20の光軸方向の位置の粗調整を行う際には、図1に示すように、保持部材20が支持部材30より突出していることが好ましい。なお、保持部材20への光学部品25の固定は、保持部材20の内面に光学部品25の位置決めをするための突起部を設け、該突起部に光学部品25を当接させ、接着剤の塗布などにより行う。
【0030】
(支持部材)
支持部材30は、光軸40の方向に保持部材20と嵌合して該保持部材20を支持する部材であり、筒状体、各種スリーブなどである。支持部材30は、溶接可能なように上述の保持部材20と同様の材料により構成することができ、スーパーインバー、コバール等が好ましい。溶接性、耐食性が優れ比較的安価なステンレス鋼も適している。また保持部材20が支持部材30に嵌入する嵌合構造の場合、支持部材30の内面の断面形状は、上述のように保持部材20との嵌合のため円形であることが好ましい。さらに支持部材30の周部を貫通溶接する場合には、外面も内面と同じ円形である円筒形が好ましい。特に内面と外面とが略同心円状、つまりその肉厚が部位に依らず略一定であることで、各溶接部50の形状、深さが揃ったものとなりやすく、溶接による保持部材20の光軸方向の変位作用を制御しやすい。なお、支持部材30の溶接部50を形成する部分の肉厚は、貫通溶接が可能な厚さにすることが好ましく、YAGレーザを使用する場合には0.30mm以下が好ましく、より好ましくは0.25mm以下とする。また図1,2に示すように、保持部材20と支持部材30との嵌合部において、支持部材30に他の部位より肉厚の小さい薄肉部31を設けて、該薄肉部31において溶接部50を形成するようにしてもよい。全体の肉厚を小さくするより、その一部を薄肉部31とすることで、支持部材30の加工時の面精度、および加工後の機械的強度を高めることができる。
【0031】
また、保持部材20と支持部材30との嵌合構造は、保持部材20の内部に光学部品25を保持する場合が多く、発光装置の小型化のため、保持部材20を支持部材30に嵌入する形態が好ましいが、これに限らず、支持部材30を保持部材20に嵌入する構造であってもよい。
【0032】
(光源部と支持部材の接合)
保持部材20と支持部材30とを光軸方向に嵌合させる場合、光源15に対する光学素子25の光軸40に垂直な方向(X−Y面内)の位置調整は、光源部10と支持部材30との位置関係をX−Y方向に変化させて行う。光源部10と支持部材30とを接合する場合には、溶接を用いてもよい。例えば光学部品の光軸40と光源15の中心軸(光軸)とが一致するように調整した後、図1に示すように、光源部の基体11と支持部材30の接合部(界面)近傍の周部(側面)を溶接して固定する。保持部材20と支持部材30の嵌め合いは、例えば下記実施例では隙間が5〜35μm(精転合;JIS―B0401規格)程度の精密嵌め合いであって、光源15に対する光学部品25のX−Y面内の位置精度は、この工程における調整および固定によりほぼ決定される。この溶接においても、レーザ溶接を用いることが好ましく、また光軸40を中心として周回方向に略等配された複数個所を同時溶接することにより、溶接による位置ずれを抑制することができる。
【0033】
なお、図1に示すように、溶接により変形を伴う光源部の基体11や保持部材20は、複数の部材で構成してもよい。すなわち、少なくとも、光源15や光学部品25を保持する内側の第1部材(12,21)と、該第1部材の外側にあって他の構成要素と溶接固定される部位を含む第2部材(13,22)と、から構成し、第1部材と第2部材とはネジ止めなど脱着可能な固定方法により接合する。これにより、内側の第1部材は、外側の第2部材に保護され、溶接による固着および変形を伴わず元の形状を維持できるため、溶接後も個別に取り出し再利用することができる。
【0034】
(外部共振器型レーザ装置)
ホログラフィックデータストレージなど高密度光記録・再生装置用の光源として用いる波長可変の外部共振器型レーザ装置においては、光源15として、出射側端面に反射防止膜(ARコート:Anti-Reflection Coating)が設けられ、モニタ側端面に高反射率の反射膜が設けられた半導体レーザ素子をステムに実装した半導体レーザ装置を用いる。光学素子25はコリメータレンズとし、該コリメータレンズの前方に回転機構搭載の回折格子を配置し、該回折格子にコリメータレンズからの平行光を照射して、その回折光の一部を選択的にレーザ素子に帰還させて、単一縦モードでレーザ発振させる。このような外部共振器型レーザ装置において安定したレーザ発振を得るには、コリメータレンズからの出射光が高精度の平行光である必要があり、本発明の溶接工程において、コリメータレンズを、その光軸方向の位置を調整して高精度のビーム平行度を達成すると共に、耐環境性良好に固定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0036】
本実施例の発光装置100は、図1に示すような、半導体レーザ装置15がレーザホルダ11に固定された光源部10と、コリメータレンズ25を保持するレンズホルダ20と嵌合かつ接合されたスリーブ30から構成されるレンズユニット70と、が接合されて構成される。半導体レーザ装置15は、ステムに発光中心波長405nmの窒化物半導体レーザ素子が実装されたものであり、コリメータレンズ25によりその平行光を出射可能な光源装置である。
【0037】
レーザホルダ11は、ステンレス製であり、半導体レーザ装置15を保持する円盤状の第1レーザホルダ12と、その外縁を包囲するリング状の第2レーザホルダ13と、からなっており、第1および第2レーザホルダ12,13はネジで互いに連結され、一体化されている。またレンズホルダ20は、ステンレス製で、レーザホルダ11と同様にコリメータレンズ25を内部に保持する第1レンズホルダ21と、その外側を包囲する筒状の第2レンズホルダ22と、がネジで連結されて構成されている。スリーブ30は、ステンレス製で、外径が15mmの円筒形であり、レーザ溶接部を形成するための肉厚0.25mmの薄肉部31がその先端部に設けられ、該薄肉部31以外の肉厚は0.9mmである。このような発光装置100において、光源部10に対してレンズユニット70を、次のようにYAGレーザ溶接により位置調整し且つ接合する。
【0038】
まず、図3に示すように、発光装置100の光学調整をするための光学系を備える調整治具は、少なくとも、XYZ各軸の調整機構を備える第1および第2調整治具80,90と、YAGレーザ溶接するための複数のレーザ出射部60を備えるレーザ出射光学部と、から構成されている。光源部10を搭載する第1調整治具80は、XYZ各軸回りの回転調整機構も備えている。そして、光源部10を第1調整治具80上に設置し、その光源部10上にレンズユニット70を搭載し、レンズホルダ20の先端部を第2調整治具90により保持させる。レーザ出射部60は、第1調整治具80上に設置した光源部10およびレンズユニット70に向かって、Z軸回りに120°間隔で等配し、Z軸に対して垂直にレーザ光を照射可能なように設置する。そして、第1および第2調整治具80,90により、発光装置100の光軸角度(X−Y軸)およびフォーカス(Z軸)を予め調整しておく。
【0039】
次に、光源部10およびレンズユニット70の接合界面の周部に、YAGレーザ光を出力2kW、照射時間(パルス幅)4msecで照射し溶接する。レーザ溶接は3回(合計9箇所)程度行って、半導体レーザ装置15に対するコリメータレンズ25のX−Y方向の位置を固定する。
【0040】
最後に、Z軸方向の調整、固定を次のように行う。第2調整治具90をZ軸方向に移動させ、レンズホルダ20を光源部10から離れる方向に所定量、例えば干渉計によるパワー値(ゼルニケ多項式のフォーカスの項の2倍;Power Term)の測定値で+1.2λ(RMS・λ)相当分オフセットさせる。なお、本実施例において、コリメータレンズ25のNAは約0.6であり、上記パワー値における±0.1λの変化は、コリメータレンズ25のZ軸方向の±0.8μm程度の変位に相当する。その後、支持部材30の薄肉部31にYAGレーザ光を出力2kW、照射時間4msecで照射して貫通溶接した後、レンズホルダ20を第2調整治具90から開放する。このとき、まだ+0.9λ程度のパワー値が残存している。このパワー値を0に近づけるため、第1調整治具80をZ軸回りに約3°回転調整させる毎に上記レーザ照射条件と同条件で貫通溶接を繰り返す。なお、このとき形成される1つの溶接ビードは直径が300〜500μm程度の円形状で、各溶接ビードの間隔(中心間距離)は300〜500μm程度である。
【0041】
図5は、このときの溶接回数とパワー値(ビーム平行度)の変化との関係を示すものである。図5に示すように、溶接回数の増加すなわち溶接部50の形成量、面積の増大に伴ってパワー値が緩やかに減少しており、溶接後のビーム平行度を観察することによって、Z軸(光軸)方向において所望の位置精度に調整が可能である。また溶接回数の増加、つまり溶接部の面積の拡大に伴って、保持部材20と支持部材30との固着が次第に強固になるため、同条件で溶接を繰り返しても、1回の溶接によるパワー値の変化量、すなわち保持部材20の光軸方向の変位量が徐々に小さくなっており、精密な位置調整を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の発光装置の製造方法およびそれにより製造される発光装置は、出射光に高精度の光学性能を要する光源、発光装置に好適であり、ホログラフィックデータストレージなど高密度光記録・再生装置用光源のほか、レーザディスプレイ、レーザプリンタ、光通信デバイスなどの光源に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…光源部(11…基体(12…第1部材、13…第2部材)、15…光源)
20…保持部材(21…第1部材、22…第2部材)
25…光学部品
30…支持部材(31…薄肉部)
40…光軸
50…溶接部
51…溶接領域
55…未溶接領域
60…レーザ出射部
70…レンズユニット
80…第1調整治具
90…第2調整治具
100…発光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品を保持する保持部材と、
前記光学部品の光軸方向に前記保持部材と嵌合して該保持部材を支持する支持部材と、
前記光学部品に光を入射する光源を有する光源部と、を具備する発光装置の製造方法であって、
前記保持部材と前記支持部材とを溶接する溶接工程を備え、
該溶接工程において、前記保持部材および前記支持部材に形成される溶接部の面積を大きくすることにより、前記保持部材の前記光軸方向の位置を調整することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記支持部材は筒状体であって、一端が前記光源部と接合されており、
前記溶接部の面積を大きくすることにより、前記保持部材が前記光源部に近づく方向に変位することを特徴とする請求項1に記載の発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記支持部材は円筒状であって、前記保持部材は該支持部材に嵌入されており、
前記溶接部は、前記支持部材上から貫通溶接することにより形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記溶接部は、前記光軸を中心として略等配された複数の箇所に同時形成することを繰り返して該面積を大きくすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記溶接部は、前記光軸を中心として周回方向に該面積を大きくすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記溶接部は、前記光軸に対して略垂直な1つの面上に形成することを特徴とする請求項5に記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記溶接部は、レーザ溶接により形成し、
該レーザ溶接において、レーザ光を前記光軸に対し略垂直に照射することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276840(P2010−276840A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129037(P2009−129037)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】