説明

発振回路

【課題】 クロック発振回路のジッタが音質に重要だとは気が付かなかったか、CMOSの発振回路のジッタ性能で十分だと思われていた。しかし、ジッタが多いと、音質的に十分でないことが判明した。そこで、高音質化のため低ジッタ化し、なおかつ高周波化、低電圧化、波形のエッジの急峻さ、波形の対称性を達成する必要性がある。
【解決手段】 CMOSよりもノイズ特性に優れるバイポーラトランジスタを使い、これをコンプリメンタリ接続にすることで、低ジッタ、高周波化、低電圧化、波形のエッジの急峻さ、高い対象性を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は主に高音質デジタルオーディオ用のクロック発振回路に関する。
【背景技術】
【0001】
一般的に、高音質デジタルオーディオ用のクロック発振回路はLSI内部のCMOSインバータ、またはCMOSIC(たとえば74HCU04やこの類似品など)を使って発振させている。理由は非常に簡単に発振回路を構成することができ、高周波化、低電圧化、波形のエッジの急峻さ、高い対象性を有しての動作が可能なので、とにかく便利なことにある。また、低消費電流でもある。そのため、近年では殆どの発振回路がこういったCMOS回路で構成されている。しかし、実はジッタが非常に多くて、音質的には十分でないことが認識されてきている。つまり、CMOS発振回路はジッタの多さこそが唯一の欠点といえる。また、デジタルオーディオ用のLSIの動作電圧が5Vから3.3Vに下がってきている傾向にあったり、クロック周波数が44.1kHzの256倍の11.2896MHzか、その1.5倍位が多かったが、最近ではその6倍の67.7376MHzの高い周波数の物さえ出てきている。そのため、低ジッタでありながらも、低電圧、高周波化、波形のエッジの急峻さ、できれば高い対象性に対応する必要性が高まってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
ジッタが音質的に重要だとは気が付かなかったため、ジッタの多いものが一般的であった。この問題を解決するため、先ずは低ジッタ化をし、なおかつ高周波化、低電圧化、波形のエッジの急峻さ、対称性を達成しなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0003】
ジッタの根本的な原因は後述するが増幅素子のノイズにある。そこでCMOSよりもノイズ特性に優れたバイポーラトランジスタを使い、これをコンプリメンタリ接続するなどの工夫をすることで高周波化、低電圧化、高い対象性を得ることができる。
【発明の効果】
【0004】
低ジッタ化により音質の向上が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】従来例で、CMOSを使った一般的な回路例。
【図2】本発明で、出力段にCMOSを使った回路例。
【図3】本発明で、出力段にバイポーラトランジスタのコンプリメンタリを使った回路例。
【図4】本発明で、初段はコンプリメンタリではない省略形にしたものの、出力段はバイポーラトランジスタのコンプリメンタリを使った回路例。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発振器は水晶振動子あるいはセラミック振動子あるいはインダクタンスとキャパシタンス素子といった周波数選択素子と増幅器を組み合わせ、これに正帰還を掛けて構成する。ジッタは増幅器のノイズがFM変調をし、これがジッタに化けたものである。したがって、ジッタの周波数成分を分析すると増幅器のノイズ成分そのものになる。そこで、ジッタを少なくするには低周波ノイズの少ない増幅素子で発振をさせなくてはならない。その点ではバイポーラトランジスが適している。ところが、低電圧動作には必ずしも向かないし、特に低周波でローノイズのトランジスタは必ずしも高周波動作に適している訳ではない。
【0007】
波形もリンギングのない範囲で、パルスのエッジの立ち上がりや立下りは急峻な方が好ましい。また、サイン波の様な滑らかな波形は後段のノイズの影響を受け易くなるので、リンギングが生じない範囲でシャープにするのが好ましい。一般にリンギングはオシロスコープではすぐに収まるように見えるが、拡大すれば次のエッジにまで影響を及ぼしている可能性がある。振幅の中心部の傾斜が緩やかだと、後段のノイズの影響を受け易くなるので、リンギングとエッジの急峻性はバランスを取る必要もある。また、水晶発振器出力の立ち上がりエッジを使うか、立下りエッジを使うかは、回路の都合によるので、どちらのエッジも適度なシャープさを持たせるのが理想である。この点から対称であることは好ましい。そこで本発明は以下の工夫を凝らした。
初段を低ジッタが可能なバイポーラトランジスタを使い、これをコンプリメンタリ接続にすることで低電圧動作と対象性を同時に満たした。これを基本として高速動作をさせるには、後段に高速なCMOSを組み合わせることで、低ジッタ、低電圧動作、高周波動作、適度な急峻性、波形の対象性を高いレベルで同時に達成した。
【実施例】
【0008】
図1はCMOSインバータを使った従来例なので動作の説明は省略する。本発明の基本原理は図1と同じなので動作の説明は省略する。図2から図4は本発明で、機能の記号は共通であるため、重複する部分の説明についても省略する。
図2はNPN110トランジスタとPNPトランジスタ111によるエミッター接地がコンプリメンタリ接続されている。トランジスタ110と111はジッタを少なくするためにノイズ特性がCMOSに比べて圧倒的に優れているバイポーラトランジスタを用いている。
抵抗102と抵抗103は回路を能動領域にするためのバイアス抵抗である。コンデンサ108トランジスタ110と111を交流的に並列にするためにある。水晶振動子106とコンデンサ105、107で発振回路が構成されるが、抵抗104は安定化のためである。CMOSインバータ112、113を2段追加したので、これにより、増幅とパルスの駆動に寄与し、高い周波数と低電圧と対象性を高いレベルで達成することができる。なお、抵抗118は波形を整えるための負荷抵抗である。CMOSインバータ112、113の代りに、高速のオペレーショナルアンプに置き換えることもできる。
【0009】
図3はCMOSインバータ2段の変わりに、コンプメンタリーのエミッターフォロア120と121を追加したものである。ダイオード116とコンデンサ117はバイアス回路で、抵抗118とコンデンサ122は波形調整用の負荷である。低電圧にはやや弱いがその他は良好である。なお、エミッターフォロアを構成するトランジスタ120と121は、FETのコンプリメンタリに置き換えソースフォロアとすることもできる。また、周波数や電源電圧によってはトランジスタ120と121、ダイオード116とコンデンサ117、抵抗118とコンデンサ122を省略した1段のみの構成とすることもできる。
図4は図3からトランジスタ111を省略したもので初段はコンプリメンタリになってはいないものの、出力はコンプリメンタリのエミッターフォロアアになっていて、高周波化と低電圧性にはやや弱いが、ジッタ性能は良好で対象性も十分ある。なお、エミッターフォロアである120と121はFETのコンプリメンタリに置き換え、ソースフォロアとすること、あるいはロジックICや高速オペレーショナルアンプにすることもできる。
いずれも図1と同様に抵抗104コンデンサ105と107、水晶発振子106で正帰還を掛けることで発振回路を構成している。本発明の最大の目的は低ジッタ化を達成する回路の提供にあるので、必要に応じて使い分けることができる。図の性能についてまとめると以下のようになる。
【0010】
図1のCMOS
ジッタ NG 高周波化 OK
低電圧 OK 急峻性 OK
対象性 OK
図2の本発明
ジッタ OK 高周波化 OK
低電圧 OK 急峻性 OK
対象性 OK
図3の本発明
ジッタ OK 高周波化 OK
低電圧 NG 急峻性 OK
対象性 OK
図4の本発明
ジッタ OK 高周波化 NG
低電圧 NG 急峻性 OK
対象性 OK
【産業上の利用可能性】
高音質デジタルオーディオ機器
【符号の説明】
抵抗:100、102、103、104、118
コンデンサ:101、105、107、108、117、122
水晶発振子:106
トランジスタ:110、111、120、121
IC:112、113
ダイオード:116

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子もしくはセラミック振動子と、増幅器とを組み合わせ、これに正帰還を掛けることで発振させる発振器において、少なくとも増幅器の初段がバイポーラトランジスタのエミッター接地で、なおかつコンプリメンタリ接続されていることを特徴とする発振器。(図2、3)
【請求項2】
請求項1の発振器において、2段目にロジックICを接続することを特徴とする発振器。(図2)
【請求項3】
請求項1の発振器において、2段目に高速オペレーショナルアンプを接続することを特徴とする発振器。
【請求項4】
請求項1の発振器において、2段目にコンプリメンタリのエミッターフォロアまたはコンプリメンタリのソースフォロアを接続することを特徴とする発振器。(図3)
【請求項5】
水晶振動子もしくはセラミック振動子と、増幅器とを組み合わせ、これに正帰還を掛けることで発振させる発振器において、初段がバイポーラトランジスタで、2段目にコンプリメンタリのエミッターフォロア、またはコンプリメンタリのソースフォロアを接続することを特徴とする発振器。(図4)
【請求項6】
請求項4の発振器において、2段目をロジックICもしくは高速オペレーショナルアンプに変更したことを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−120189(P2011−120189A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296027(P2009−296027)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(592169460)有限会社フィデリックス (1)
【Fターム(参考)】