説明

相対位置推定装置及びプログラム

【課題】少ないデータ通信量で、他の装置との相対位置を精度良く推定することができるようにする。
【解決手段】位置・速度ベクトル算出部24によって自車両の位置及び速度ベクトルを算出する。無線通信部18によって、相手車両の位置及び速度ベクトルを受信する。位置差分相対位置算出部26によって、受信された相手車両の位置から、各時刻について相手車両の相対位置を算出する。軌跡算出部32によって、自車両の速度ベクトルを積算して軌跡を算出する。相手軌跡算出部34によって、受信された速度ベクトルを積算して相手車両の軌跡を算出する。軌跡利用相対位置推定部36によって、自車両の軌跡と、相手車両の軌跡と、各時刻について算出された相対位置とに基づいて、相手車両の軌跡の最適値を推定し、軌跡上の特定点における相対位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対位置推定装置及びプログラムに係り、特に、他の装置と移動体との相対位置を推定するための相対位置推定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3台以上の移動体間の相対位置をGPSの干渉測位によって求めると共に、干渉測位に関する信頼性判定を効率的に行う相対位置検知装置が知られている(特許文献1)。この相対位置検知装置では、3台以上の移動体が互いに通信可能な所定の場所において、基準移動体が観測データを含むデータを非基準移動体に送信し、非基準移動体は観測データ及び基準移動体から受信した観測データを含むデータを用いた干渉測位を行なって基準移動体との相対位置を算出する。そして、他の非基準移動体から整数値バイアスを含むデータを受信して干渉測位に関する信頼性判定を行なっている。
【0003】
また、測位衛星受信手段および無線通信手段を利用して、任意の移動体と他の移動体間の相対位置を検出する相対位置検出システムが知られている(特許文献2)。この相対位置検出システムでは、衛星の組み合わせがより一致するように、過去に使用している衛星の状態から衛星の使用度を算出し、そのデータを基に衛星が一致しやすいように共通に使用する衛星を選択している。
【0004】
また、複数の車両が保持するGPS受信機、測域センサ、および車車間通信を利用した、車両の安全走行支援アプリケーションのための協調型位置推定手法が提案されている(非特許文献1)。この協調型位置推定手法では、車載器非搭載車両が混在する環境において、自車両および周辺車両の位置を高精度に推定するために、異なる車両が保持するGPSおよび測域センサの異なる時間の観測結果を推定に利用している。また、中心極限定理に基づき各推定結果の精度を求めることにより、最も高精度な推定結果を車両間で共有している。本手法の考え方は、基本的に、さまざまなセンサの計測値を利用して確率論を応用し、自車両の位置精度を向上させる手法(例えば、カルマンフィルタ等を用いる方法)を、車両間の相対位置に適用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−264844号公報
【特許文献2】特願平11−2675号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤井彩恵、山口弘純、東野輝夫、金田茂、高井峰生、「車車間通信を用いた協調型車両位置推定手法」、情報処理学会第43回高度交通システム研究会(ITS)、2010年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術では、GPSの干渉測位を実施するために、受信した搬送波を通信する必要がある、という問題がある。また、上記の特許文献1では、三台以上の車両の相対位置を算出する際における通信データ量の低減手法が提案されているが、二台の場合には適用できない、という問題がある。また、搬送波の整数値バイアスの算出を利用した相対位置信頼度算出法が提案されているが、マルチパスを受けている際には、そもそも整数値バイアスの推定が困難である、という問題がある。
【0008】
また、上記の特許文献2に記載の技術では、衛星を共通化することで、相対位置の精度を向上させることはできるが、そもそも共通している衛星が4以下の場合には測位ができない、という問題がある。
【0009】
また、上記の非特許文献1に記載の技術では、マルチパスが発生している場合には、正しい値を推定することができない、という問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、少ないデータ通信量で、他の装置との相対位置を精度良く推定することができる相対位置推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の相対位置推定装置は、移動体と他の装置との相対位置を推定する、前記移動体に搭載される相対位置推定装置であって、複数の情報発信源の各々から発信された前記情報発信源の各々の位置に関する情報、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報を含む発信源情報を取得する取得手段と、前記移動体の運動状態を検出する検出手段と、前記取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記移動体の位置と、前記移動体の速度ベクトル、又は前記移動体の速度及び前記移動体の方位角を示す速度情報とを算出する算出手段と、他の装置の位置及び前記速度情報を受信する受信手段と、前記受信手段によって受信された前記他の装置の位置と、前記算出手段により算出された前記移動体の位置との差分から、各時刻又は各地点について、前記移動体と前記他の装置との相対位置を算出する相対位置算出手段と、前記算出手段により算出された前記移動体の速度ベクトル又は前記速度情報を所定時間分積算して、前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡を算出する第1軌跡算出手段と、前記受信手段によって受信された前記速度情報を前記所定時間分積算して、前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡を算出する第2軌跡算出手段と、前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する相対位置推定手段と、を含んで構成されている。
【0012】
本発明に係る相対位置推定プログラムは、コンピュータを、移動体と他の装置との相対位置を推定する、前記移動体に搭載される相対位置推定装置の各手段として機能させるための相対位置推定プログラムであって、前記コンピュータを、複数の情報発信源の各々から発信された前記情報発信源の各々の位置に関する情報、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報を含む発信源情報を取得する取得手段、前記取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記移動体の運動状態を検出する検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記移動体の位置と、前記移動体の速度ベクトル、又は前記移動体の速度及び前記移動体の方位角を示す速度情報とを算出する算出手段、他の装置の位置及び前記速度情報を受信する受信手段によって受信された前記他の装置の位置と、前記算出手段により算出された前記移動体の位置との差分から、各時刻又は各地点について、前記移動体と前記他の装置との相対位置を算出する相対位置算出手段、前記算出手段により算出された前記移動体の速度ベクトル又は前記速度情報を所定時間分積算して、前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡を算出する第1軌跡算出手段、前記受信手段によって受信された前記速度情報を前記所定時間分積算して、前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡を算出する第2軌跡算出手段、及び前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する相対位置推定手段として機能させるための相対位置推定プログラムである。
【0013】
本発明によれば、取得手段によって、複数の情報発信源の各々から発信された前記情報発信源の各々の位置に関する情報、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報を含む発信源情報を取得する。検出手段によって、前記移動体の運動状態を検出する。検出手段は慣性センサであり、例えば、自車両の角速度または角加速度を検出するジャイロセンサや、方位角を検出する磁気方位計、自車両の速度を検出する速度センサを用いることができる。
【0014】
そして、算出手段によって、取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記移動体の位置と、前記移動体の速度ベクトル、又は前記移動体の速度及び前記移動体の方位角を示す速度情報とを算出する。受信手段によって、他の装置の位置及び前記速度情報を受信する。相対位置算出手段によって、前記受信手段によって受信された前記他の装置の位置と、前記算出手段により算出された前記移動体の位置との差分から、各時刻又は各地点について、前記移動体と前記他の装置との相対位置を算出する。
【0015】
そして、第1軌跡算出手段によって、前記算出手段により算出された前記移動体の速度ベクトル又は前記速度情報を所定時間分積算して、前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡を算出する。第2軌跡算出手段によって、前記受信手段によって受信された前記速度情報を前記所定時間分積算して、前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡を算出する。
【0016】
そして、相対位置推定手段によって、前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する。
【0017】
このように、他の装置の位置及び速度情報を受信すると共に、移動体の位置の軌跡と、他の装置の位置の軌跡と、移動体と他の装置との相対位置を算出して、移動体の位置の軌跡と、他の装置の位置の軌跡と、各時刻又は各地点の相対位置とに基づいて、軌跡上の特定点における相対位置を推定することにより、少ないデータ通信量で、他の装置との相対位置を精度良く推定することができる。
【0018】
本発明に係る相対位置は、前記移動体の位置を基準とした前記他の装置の相対位置であり、前記相対位置推定手段は、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡、及び前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置から求められる各時刻又は各地点の前記他の装置の位置との差分の和を最小とする、前記他の装置の位置の軌跡を求め、前記求められた前記他の装置の位置の軌跡と前記移動体の位置の軌跡とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定するようにすることができる。これによって、他の装置との相対位置を精度良く推定することができる。
【0019】
本発明に係る相対位置は、前記他の装置の位置を基準とした前記移動体の相対位置であり、前記相対位置推定手段は、前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡、及び前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置から求められる各時刻又は各地点の前記移動体の位置との差分の和を最小とする、前記移動体の位置の軌跡を求め、前記求められた前記移動体の位置の軌跡と前記他の装置の位置の軌跡とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定するようにすることができる。これによって、他の装置との相対位置を精度良く推定することができる。
【0020】
また、上記の相対位置推定装置は、前記差分の和が最小とされたときの前記差分の各々に基づいて、前記相対位置推定手段によって推定された前記相対位置の誤差を算出する相対位置誤差算出手段を更に含むようにすることができる。これによって、推定された相対位置の誤差を精度良く算出することができる。
【0021】
また、上記の他の装置は、複数の情報発信源の各々から発信された前記発信源情報を取得する第2取得手段と、前記他の装置の運動状態を検出する第2検出手段と、前記第2取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記第2検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記他の装置の位置と、前記速度情報とを算出する第2算出手段と、前記第2算出手段によって算出された前記他の装置の位置、前記速度情報、及び前記第2取得手段によって取得した前記発信源情報を発信した前記情報発信源の識別情報を送信する送信手段を含み、前記受信手段は、前記送信手段によって送信された前記他の装置の位置、前記速度情報、及び前記情報発信源の識別情報を受信し、前記相対位置推定手段は、前記受信手段によって受信した前記識別情報が示す前記情報発信源を全て含む複数の情報発信源からの前記発信源情報に基づいて算出された前記移動体の位置に基づく前記相対位置について求められる前記差分を、他の相対位置について求められる前記差分より小さくするように、前記差分の和を最小とする軌跡を求め、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定するようにすることができる。これによって、他の装置との相対位置をより精度良く推定することができる。
【0022】
また、上記の算出手段は、前記情報発信源の各々の位置に関する情報、及び前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報から得られる前記移動体の位置に基づいて、前記移動体から見た前記情報発信源の各々の方向を算出し、時系列の前記情報発信源の各々の位置に関する情報に基づいて、前記情報発信源の各々の速度を算出し、前記移動体から見た前記情報発信源の各々の方向、前記情報発信源の各々の速度、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報に基づいて、前記移動体の情報発信源の各々の方向の速度を算出し、複数の前記移動体の情報発信源の各々の方向の速度に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを算出することができる。
【0023】
また、上記の情報発信源を、前記情報発信源の各々の位置に関する情報として衛星軌道情報を、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報として擬似距離情報を、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報としてドップラー周波数情報を発信するGPS衛星とすることができる。情報発信源としては、例えば、擬似衛星やビーコンなどのように、発信源情報を発信するものであればよいが、代表的には、GPS衛星とすることができる。
【0024】
なお、本発明の相対位置推定プログラムを記憶する記憶媒体は、特に限定されず、ハードディスクであってもよいし、ROMであってもよい。また、CD−ROMやDVDディスク、光磁気ディスクやICカードであってもよい。更にまた、該プログラムを、ネットワークに接続されたサーバ等からダウンロードするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の相対位置推定装置及びプログラムによれば、他の装置の位置及び速度情報を受信すると共に、移動体の位置の軌跡と、他の装置の位置の軌跡と、移動体と他の装置との相対位置を算出して、移動体の位置の軌跡と、他の装置の位置の軌跡と、各時刻又は各地点の相対位置とに基づいて、軌跡上の特定点における相対位置を推定することにより、少ないデータ通信量で、他の装置との相対位置を精度良く推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る相対位置推定装置及び車載器を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る相対位置推定装置の位置・速度ベクトル算出部を示すブロック図である。
【図3】三角測量の原理に従って自車両の位置が推定される様子を示すイメージ図である。
【図4】各GPS衛星の速度ベクトル及び各GPS衛星の方向に基づいて、GPS衛星方向の自車両の速度を算出する様子を示すイメージ図である。
【図5】自車両と相手車両とにおけるGPS誤差を説明するための図である。
【図6】相手車両の軌跡をフィッティングする様子を示すイメージ図である。
【図7】残差が大きい相対位置を棄却してから、相手車両の軌跡を再度フィッティングする様子を示すイメージ図である。
【図8】軌跡に誤差があり、残差のばらつきが大きくなっている様子を示すイメージ図である。
【図9】マルチパスが全域で発生して、残差のばらつきが大きくなっている様子を示すイメージ図である。
【図10】第1の実施の形態に係る相対位置推定装置のコンピュータにおける位置速度算出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図11】第1の実施の形態に係る相対位置推定装置のコンピュータにおけるGPS情報に基づく自車両方位角推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図12】第1の実施の形態に係る相対位置推定装置のコンピュータにおける速度ベクトル算出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図13】第1の実施の形態に係る相対位置推定装置のコンピュータにおける相対位置推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る相対位置推定装置の位置・速度ベクトル算出部を示すブロック図である。
【図15】(A)使用するGPS衛星を共通化できない場合を説明するための図、及び(A)使用するGPS衛星を共通化できる場合を説明するための図である。
【図16】第2の実施の形態に係る相対位置推定装置のコンピュータにおける位置速度算出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第3の実施の形態に係る路側機を示すブロック図である。
【図18】路側機の軌跡をフィッティングする様子を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、第1の実施の形態では、車両に搭載され、GPS衛星から発信されたGPS情報を取得すると共に、他の車両と車車間通信を行い、自車両に対する他の車両の相対位置を推定する相対位置推定装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0028】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る相対位置推定装置10は、GPS衛星からの電波を受信するGPS受信部12と、自車両のヨーレートを検出するジャイロセンサ14と、自車両の速度を検出する速度センサ16と、他の車両と車車間通信を行うための無線通信部18と、GPS受信部12によって受信されたGPS衛星からの受信信号、無線通信部18によって受信したデータ、並びにジャイロセンサ14及び速度センサ16の検出値に基づいて、自車両に対する当該他の車両の相対位置を推定する処理を実行するコンピュータ20と、を備えている。なお、ジャイロセンサ14及び速度センサ16が、検出手段の一例であり、無線通信部18が、受信手段の一例である。
【0029】
GPS受信部12は、複数のGPS衛星からの電波を受信して、受信した全てのGPS衛星からの受信信号から、GPS衛星の情報として、GPS衛星の衛星番号、GPS衛星の軌道情報(エフェメリス)、GPS衛星が電波を送信した時刻、受信信号の強度、周波数などを取得し、コンピュータ20に出力する。
【0030】
無線通信部18は、他の車両に搭載されている車載器80から送信されたデータを受信する。なお、以下では、当該他の車両を、相手車両と称する。
【0031】
ここで、車載器80は、相対位置推定装置10と同様に、GPS衛星からの電波を受信するGPS受信部82と、相手車両のヨーレートを検出するジャイロセンサ84と、相手車両の速度を検出する速度センサ86と、車車間通信を行うための無線通信部88と、相手車両の位置及び速度ベクトルを算出する処理を実行するコンピュータ90と、を備えている。コンピュータ90は、GPS受信部82によって受信されたGPS衛星からの受信信号、無線通信部88によって受信したデータ、並びにジャイロセンサ84及び速度センサ86の検出値に基づいて、相手車両の位置及び速度ベクトルを算出する位置・速度ベクトル算出部92を備えている。位置・速度ベクトル算出部92は、後述する位置・速度ベクトル算出部24と同様の構成であるため、説明を省略する。なお、ジャイロセンサ84及び速度センサ86が、第2検出手段の一例であり、無線通信部88が、送信手段の一例であり、位置・速度ベクトル算出部92が、第2取得手段及び第2算出手段の一例である。
【0032】
車載器80は、所定時間間隔で、相手車両の位置及び速度ベクトルを算出して、各時刻について、位置及び速度ベクトルと、位置を算出する処理で使用したGPS衛星の衛星番号とを含む計測データを、無線通信部88によって送信する。なお、計測データには、更に、算出された位置がいつの位置であるかを示す時刻、すなわち、車載器80でGPS衛星からの電波を受信した時刻が含まれている。無線通信部88によって送信されるデータを表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
コンピュータ20は、CPU、後述する位置速度算出処理ルーチン及び相対位置推定処理ルーチン及びを実現するためのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、及びHDD等の記憶装置で構成されている。
【0035】
コンピュータ20を以下で説明する位置速度算出処理ルーチン及び相対位置推定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、図1に示すように、無線通信部18によって受信した相手車両からの計測データを記憶する受信データ記憶部22と、GPS受信部12によって受信されたGPS衛星からの受信信号、並びにジャイロセンサ14及び速度センサ16の検出値に基づいて、各時刻における自車両の位置及び速度ベクトルを算出する位置・速度ベクトル算出部24と、各時刻について、算出された自車両の位置及び受信した計測データに含まれる相手車両の位置の差分を算出して自車両を基準とした相手車両の相対位置を算出する位置差分相対位置算出部26と、各時刻で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号及び受信した計測データに含まれるGPS衛星の衛星番号に基づいて、各時刻に対する重みを算出する重み算出部28と、各時刻について算出された、自車両の位置、速度ベクトル、相対位置、及び重みを記憶するデータ記憶部30とを備えている。なお、位置・速度ベクトル算出部24は、算出手段の一例であり、位置差分相対位置算出部26が、相対位置算出手段の一例である。
【0036】
受信データ記憶部22は、無線通信部18によって相手車両からの計測データを受信するたびに、計測データを記憶し、蓄積する。
【0037】
位置・速度ベクトル算出部24は、図2に示すように、GPS受信部12から、電波を受信した全てのGPS衛星について、GPS衛星の情報を取得すると共に、GPS擬似距離データ、ドップラー周波数、及びGPS衛星の位置座標を算出して取得するGPS情報取得部50と、取得したGPS情報に基づいて、自車両の位置を算出する位置算出部51と、取得したGPS情報に基づいて、自車両の方位角を推定する方位角推定部52と、推定された方位角、ジャイロセンサ14の検出値、及び速度センサ16の検出値を対応させて記憶するデータ記憶部54と、データ記憶部54に記憶された各種データに基づいて、自車両の速度ベクトルを推定する速度ベクトル推定部56と、を含んだ構成で表すことができる。なお、GPS情報取得部50が、取得手段の一例である。
【0038】
GPS情報取得部50は、GPS受信部12から、電波を受信した全てのGPS衛星について、GPS衛星の情報を取得すると共に、GPS衛星が電波を送信した時刻及び自車両で電波を受信した時刻に基づいて、GPS擬似距離データを算出する。また、GPS情報取得部50は、各GPS衛星から送信される信号の既知の周波数と、各GPS衛星から受信した受信信号の周波数とに基づいて、各GPS衛星からの受信信号のドップラー周波数を各々算出する。なお、ドップラー周波数は、GPS衛星と自車との相対速度による、搬送波周波数のドップラーシフト量を観測したものである。また、GPS情報取得部50は、GPS衛星の軌道情報及びGPS衛星が電波を送信した時刻に基づいて、GPS衛星の位置座標を各々算出する。また、GPS情報取得部50は、取得したGPS衛星の情報に含まれる各GPS衛星の衛星番号を、重み算出部28へ出力する。
【0039】
位置算出部51は、以下のように、GPS情報取得部50によって取得された各GPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、自車両の位置を算出する。
【0040】
GPSを用いた測位では、図3に示すように、既知であるGPS衛星の位置座標と、各GPS衛星から受信した受信信号の伝播距離である擬似距離とに基づいて、三角測量の原理に従って、自車両の位置が推定される。
【0041】
ここで、GPS衛星までの真の距離rは、以下の(1)式で表され、GPSで観測される擬似距離ρは、以下の(2)式で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
ただし、(X,Y,Z)がGPS衛星jの位置座標であり、(x,y,z)が自車両の位置座標である。sは、GPS受信部12の時計誤差による距離誤差である。
【0044】
上記(1)式、(2)式より、4つ以上のGPS衛星のGPS擬似距離データから得られる以下の(3)式の連立方程式を解くことによって、自車両の位置(x、y、z)が算出される。
【0045】
【数2】

【0046】
また、方位角推定部52は、さらに、取得した各GPS衛星のドップラー周波数に基づいて、各GPS衛星に対する自車両の相対速度を算出する相対速度算出部60と、取得した各GPS衛星の位置座標の時系列データに基づいて、各GPS衛星の速度ベクトルを算出する衛星速度算出部62と、算出された自車両の位置及び各GPS衛星の位置座標に基づいて、各GPS衛星の方向(角度の関係)を算出する衛星方向算出部66と、算出された相対速度、各GPS衛星の速度ベクトル、及び各GPS衛星の方向に基づいて、各GPS衛星方向の自車両の速度を算出する衛星方向自車速算出部68と、算出された複数の各GPS衛星方向の自車両の速度に基づいて、自車両の速度ベクトルを算出する自車両速度算出部70と、算出された自車両の速度ベクトルに基づいて自車両の方位角を算出する自車両方位角算出部72と、を備えた構成で表すことができる。
【0047】
相対速度算出部60は、ドップラー周波数とGPS衛星に対する相対速度との関係を表わす以下の(4)式に従って、各GPS衛星からの受信信号のドップラー周波数から、各GPS衛星に対する自車両の相対速度を算出する。
【0048】
【数3】

【0049】
ただし、vはGPS衛星jに対する相対速度であり、D1はGPS衛星jから得られるドップラー周波数(ドップラーシフト量)である。また、Cは光速であり、Fは、GPS衛星から送信される信号の既知のL1周波数である。
【0050】
衛星速度算出部62は、取得した各GPS衛星の位置座標の時系列データから、ケプラーの方程式の微分を用いて、各GPS衛星の速度ベクトル(3次元速度VX、VY、VZ)を算出する。例えば、非特許文献(Pratap Misra and Per Enge原著 日本航海学会GPS研究会訳:“精説GPS基本概念・測位原理・信号と受信機”正陽文庫,2004.)に記載された方法を用いて、各GPS衛星の速度ベクトルを算出することができる。
【0051】
衛星方向算出部66は、算出された自車両の位置及び各GPS衛星の位置座標に基づいて、各GPS衛星jの位置と自車両の位置との角度関係(水平方向に対する仰角θ、北方向に対する方位角φ)を、各GPS衛星の方向として算出する。
【0052】
衛星方向自車速算出部68は、図4に示すように、算出された各GPS衛星に対する自車両の相対速度v、各GPS衛星の速度ベクトル(VX、VY、VZ)、及び各GPS衛星の方向R(θ、φ)に基づいて、以下の(5)式に従って、各GPS衛星jの方向の自車両の速度Vvを算出する。
【0053】
【数4】

【0054】
は、GPS衛星jに対する自車両の相対速度(衛星方向におけるGPS衛星との相対速度)である。また、Vsは、自車方向のGPS衛星jの速度であり、Vs=R[VX,VY,VZにより求まる。また、Vvは、GPS衛星jの方向の自車速であり、vCbは、クロックバイアス変動である。
【0055】
上述したように、GPS衛星方向の自車速は、GPS衛星位置の三次元位置ではなく、GPS衛星との方位関係によってのみ算出される。GPS衛星は遥か遠方にあり、1日で地球をほぼ2周するため1分間の角度変化は0.5度である。通常、GPS衛星とGPS受信機との時計誤差は通常1msec以下であるため、GPS衛星との方位関係に大きな影響はない。また、同じくGPS衛星は遥か遠方にあるため、自車の位置決定に数100m程度の誤差が生じていたとしても、GPS衛星との方位関係に大きな影響はない。このため、擬似距離に誤差が乗りやすい状況であったとしても、GPS衛星方向の自車速は、擬似距離に比較して正確に算出され得る。
【0056】
自車両速度算出部70は、以下に説明するように、自車両の速度ベクトルの最適推定を行う。
【0057】
まず、自車の速度ベクトルを(Vx,Vy,Vz)としたとき、GPS衛星方向の自車両の速度Vvとの関係は以下の(6)式で表される。
【0058】
【数5】

【0059】
各GPS衛星jについて得られる上記(6)式より、Vx,Vy,Vz及びvCbを推定値とした、以下の(7)式で表される連立方程式が得られる。
【0060】
【数6】

【0061】
電波を受信したGPS衛星が4個以上である場合に、上記(7)式の連立方程式を解くことによって、自車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)の最適値を算出する。
【0062】
自車両方位角算出部72は、自車両速度算出部70により算出された自車両の速度ベクトルから三角関数を用いて自車両の方位角を算出し、方位角推定部52での方位角の推定結果としてデータ記憶部54に記憶する。ここで推定された方位角は、GPS情報に基づいて推定された方位角であるので、以下、「推定方位角」という。これに対し、ジャイロセンサ14の検出値から求まる自車両の方位角を「観測方位角」という。ただし、ジャイロセンサ14では、方位角の変化分しか計測できないため、ある初期値を基準に時間経過分を積分することで、ジャイロセンサ14の検出値から観測方位角を算出する。例えば、下記(8)式では、ある時間tの初期値Ψinit(t)を基準にk秒前の観測方位角Ψ(t−k)を算出している。つまり、データ記憶部54にジャイロセンサ14の検出値Ψgyroの微分値を記憶しておくことで、観測方位角が算出可能になる。
【0063】
【数7】

【0064】
なお、データ記憶部54には、所定時間分の推定方位角と共に、対応する所定時間内に検出されたジャイロセンサ14の検出値、及び速度センサ16の検出値が記憶される。
【0065】
また、速度ベクトル推定部56は、さらに、推定方位角と観測方位角とを統合して方位角の最適値を推定する最適推定部74と、推定された最適値と推定方位角との残差の分散に基づいて、推定方位角の精度を判定する精度判定部76と、精度判定部76での判定結果に基づいて自車両の方位角を推定し、推定した方位角を用いて速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出部78と、を含んだ構成で表すことができる。
【0066】
最適推定部74は、データ記憶部54から所定時間分のジャイロセンサ14の検出値である自車両のヨーレートを読み出し、観測毎のヨーレートを各々積分して時系列に積算して自車両の観測方位角を算出する。また、対応する所定期間内に推定された推定方位角をデータ記憶部54から読み出す。
【0067】
また、最適推定部74は、最小二乗法等に代表される最適計算により、推定方位角と観測方位角とを統合した方位角の最適値を推定する。例えば、最小二乗法では、下記(9)式により推定方位角Ψgpsと、観測方位角Ψとの一定時間における差の和が最小になるように、観測方位角Ψの算出の基準となる最適な初期値Ψinit(t)を探索することで、方位角の最適値を推定する。
【0068】
【数8】

【0069】
精度判定部76は、最適推定部74で推定された方位角の最適値と推定方位角の各々との残差を算出し、所定時間分の残差のばらつき(分散または標準偏差)が所定の閾値以下か否かにより、方位角の最適値の精度を判定する。
【0070】
速度ベクトル算出部78は、最適推定部74により推定された所定時間分の方位角の最適値が精度判定部76により精度が高いと判定された場合には、その方位角の最適値及び速度センサ16で検出された速度を用いて、速度ベクトルを算出する。一方、精度が低いと判定された最適値については、速度ベクトルの算出に用いない。その間の速度ベクトルは、過去に推定された方位角を用いてジャイロセンサ14の検出値を積算して方位角を算出して、速度センサ16で検出された速度を用いて算出する。速度ベクトル算出部78は、算出した速度ベクトルを速度ベクトルの推定結果として出力する。
【0071】
また、位置差分相対位置算出部26は、自車両を、相対位置を算出する基準として、各時刻について、算出された自車両の位置及び受信した計測データに含まれる相手車両の位置の差分により、相対位置を算出する。このように、位置差分相対位置算出部26は、単純に二台の車両の位置の差分を計算することで、相対位置の算出を行う。このとき、100m程度以下の距離にある二台の車両の相対位置を算出する場合においては、図5に示すように、GPSの成層圏、対流圏に起因する誤差が共通化されるため、各車両の絶対位置よりも相対位置が正確になる。そのため、単純に位置の差分を計算することにより、マルチパスが発生していない箇所では、ばらつきがあるが、正確な相対位置が算出することができる。
【0072】
また、重み算出部28は、各時刻について、受信した計測データに含まれるGPS衛星の衛星番号のうち、自車両で取得したGPS衛星の情報に含まれる各GPS衛星の衛星番号と共通になっている衛星番号の割合が大きいほど、後述する重み付き最小二乗法で用いられる重みを大きく算出する。すなわち、自車両で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号が、受信した計測データに含まれるGPS衛星の衛星番号の全てを含む場合に、最大の重みを算出する。
【0073】
また、コンピュータ20は、更に、所定時間分の自車両の速度ベクトルを積算して、所定時間における自車両の位置の軌跡を算出する軌跡算出部32と、受信した測定データから得られる所定時間分の相手車両の速度ベクトルを積算し、当該所定時間における相手車両の位置の軌跡を算出する相手軌跡算出部34と、自車両及び相手車両の軌跡と位置の差分により算出された相対位置とに基づいて、自車両に対する相手車両の相対位置を推定する軌跡利用相対位置推定部36と、推定された相対位置の誤差を算出する相対位置誤差算出部38とを備えている。なお、軌跡算出部32が、第1軌跡算出手段の一例であり、相手軌跡算出部34が、第2軌跡算出手段の一例である。
【0074】
軌跡算出部32は、算出された所定時間分の自車両の速度ベクトルをデータ記憶部30から取得し、取得した所定時間分の自車両の速度ベクトルを積算して、当該所定時間における自車両の位置の軌跡を算出する。また、相手軌跡算出部34は、受信データ記憶部22に記憶された測定データから、同じ所定時間分の相手車両の速度ベクトルを取得し、取得した相手車両の速度ベクトルを積算して、当該所定時間における相手車両の位置の軌跡を算出する。
【0075】
軌跡利用相対位置推定部36は、以下に説明するように、自車両に対する相手車両の相対位置を推定する。
【0076】
まず、自車両及び相手車両の軌跡と、軌跡上の各時刻の位置の差分による相対位置とが既知である。ここで、軌跡は正解であるが、位置の差分による相対位置には、ノイズによるばらつきと、マルチパスによる大きな誤差が含まれている可能性がある。
【0077】
そこで、軌跡利用相対位置推定部36は、最小二乗法等に代表される最適計算により、軌跡と位置の差分による相対位置とに対して、軌跡のフィッティングを行って、軌跡の最適値を推定する。図6に示すように、まず、自車両の軌跡を基準にして、各時刻の位置差分による相対位置から、各時刻の相手車両の予測位置を算出する。そして、相手車両の予測位置に対して、最小二乗法により相手車両の軌跡のフィッティングを行って、相手車両の軌跡の最適値を求め、求められた相手車両の軌跡の最適値を用いて、軌跡上の特定点(例えば、終端点)における自車両に対する相手車両の相対位置を算出する。
【0078】
ここで、特に二台の車両で共通した衛星を使用して測位を行っていた場合には、よりGPSの誤差が共通化されるため、誤差が小さくなる特徴がある。この特徴を利用し、最小二乗の計算の際に、重み算出部28によって、共通化されている衛星の割合に応じて算出された重みを、データ記憶部30から取得し、取得した重みを適用して、以下の(10)式に従って、重み付き最小二乗法による相手車両の軌跡のフィッティングを行う。
【0079】
【数9】

【0080】
ただし、Δyは、観測量(相手車両の軌跡上の位置)と予測値(予測された相手車両の位置)との差(残差)であり、Δxは未知数であり、Gは、一般行列である。また、Wが、各時刻の重みを示す重み行列である。
【0081】
上記(10)式では、観測量と予測値との差(残差)Δyが予め設定した重み行列Wに応じて最小化されるように、未知数Δxの算出を行う。重み行列Wは、予め既知である誤差の共分散を基に設定することで、誤差の大きさを考慮した推定が可能なことが知られており、共分散の逆数を重み行列Gに設定する手法が用いられることが多い。二台の車両で共通した衛星を使用して測位した場合では、相対位置の誤差が小さくなることは知られているため、位置の算出に使用したGPS衛星の衛星番号に基づいて重み行列Wを設定することで、より正確な相対位置を推定することができる。なお、重み行列Wは一致している衛星の数の割合で算出する必要はなく、完全に一致しているか、否か、の二種類で設定してもよい。例えば、衛星番号が完全に一致している時刻については重み「1」を設定し完全に一致していない時刻については重み「0.5」を設定するようにしてもよい。
【0082】
また、軌跡利用相対位置推定部36は、相手車両の軌跡の最適値と、軌跡上の各時刻の相手車両の位置の予測値との残差(最小二乗の際の残差)について、閾値判定を行い、図7に示すように、残差が閾値以上となる時刻についての位置差分による相対位置を棄却してから、再度、軌跡と位置の差分による相対位置とに対してフィッティングを行って、軌跡の最適値を推定することで、マルチパスの影響を除去する。
【0083】
相対位置誤差算出部38は、軌跡利用相対位置推定部36で求められた相手車両の軌跡の最適値と、軌跡上の各時刻の相手車両の位置の予測値との残差の標準偏差を算出し、相対位置誤差の指標として出力する。
軌跡を利用して相対位置を算出する手法で誤差が発生する場合は、図8に示すような「軌跡に誤差がある場合」と図9に示すような「全域でマルチパスが発生している場合」とである。共に、最小二乗の際の残差のばらつきが大きくなるため、残差の標準偏差を、相対位置誤差の指標とすることができる。
【0084】
なお、軌跡の最適値を利用して算出した相対位置と、単純に位置の差分により算出した相対位置とを利用して、算出した相対位置の誤差を算出してもよい。
【0085】
次に、第1の実施の形態に係る相対位置推定装置10の作用について説明する。
【0086】
まず、無線通信部18によって、相手車両の車載器80から送信された、位置、速度ベクトル、及び衛星番号を含む測定データを受信する毎に、相対位置推定装置10のコンピュータ20は、受信した測定データを受信データ記憶部22に記憶する。
【0087】
また、GPS受信部12によって、複数のGPS衛星から電波を繰り返し受信しているときに、コンピュータ20において、図10に示す位置速度算出処理ルーチンが繰り返し実行される。
【0088】
ステップ100で、GPS受信部12から複数のGPS衛星の情報を取得すると共に、複数のGPS衛星のGPS擬似距離データ、ドップラー周波数、及びGPS衛星の位置座標を算出して取得する。
【0089】
そして、ステップ102において、各GPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、上記(1)〜(3)式に従って、自車両の位置を算出する。
【0090】
次に、ステップ104で、ジャイロセンサ14の検出値である自車両のヨーレート、及び速度センサ16の検出値である自車両の速度を取得して、データ記憶部54に記憶する。
【0091】
次に、ステップ106で、後述するGPS情報に基づく自車両方位角処理を実行して、推定方位角を推定し、次に、ステップ108で、後述する速度ベクトル算出処理を実行して、速度ベクトルを推定する。
【0092】
そして、ステップ110において、上記ステップ100で取得したGPS衛星の情報と同一時刻(電波の受信時刻が同一)の測定データを、受信データ記憶部22から取得する。ステップ112では、上記ステップ100で取得したGPS衛星の情報から得られる衛星番号と、上記ステップ110で取得した測定データから得られる衛星番号とに基づいて、重みを算出する。
【0093】
そして、ステップ114において、上記ステップ102で算出した自車両の位置と、上記ステップ110で取得した測定データから得られる相手車両の位置との差分から、自車両に対する相手車両の相対位置を算出する。次のステップ116では、上記ステップ102、106、112、114による算出結果を、データ記憶部30に記憶し、位置速度算出処理ルーチンを終了する。
【0094】
上記位置速度算出処理ルーチンが、繰り返し実行されることにより、各時刻について算出された自車両の位置、速度ベクトル、重み、及び相対位置が、データ記憶部30に記憶される。
【0095】
次に、図11を参照して、GPS情報に基づく自車両方位角推定処理ルーチンについて説明する。
【0096】
ステップ1060で、上記(4)式に従って、各GPS衛星からの受信信号のドップラー周波数から、各GPS衛星に対する自車両の相対速度vを算出する。
【0097】
次に、ステップ1062で、取得した各GPS衛星の位置座標の時系列データから、ケプラーの方程式の微分を用いて、各GPS衛星の速度ベクトル(VX、VY、VZ)を算出する。
【0098】
次に、ステップ1066で、上記ステップ102で算出された自車両の位置、及び上記ステップ100で取得された各GPS衛星の位置座標に基づいて、各GPS衛星jの位置と自車両の位置との角度関係R(水平方向に対する仰角θ、北方向に対する方位角φ)を、各GPS衛星の方向として算出する。
【0099】
次に、ステップ1068で、上記ステップ1060で算出された各GPS衛星に対する自車両の相対速度v、上記ステップ1062で算出された各GPS衛星の速度ベクトルV(VX、VY、VZ)、及び上記ステップ1066で算出された各GPS衛星の方向R(θ、φ)に基づいて、上記(5)式に従って、各GPS衛星jの方向の自車両の速度Vvを算出する。(5)式における自車方向のGPS衛星jの速度Vsは、Vs=R[VX,VY,VZにより算出する。
【0100】
次に、ステップ1070で、上記(6)式、及び(7)式に従って、自車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)の最適値を算出する。
【0101】
次に、ステップ1072で、上記ステップ1070で算出された自車両の速度ベクトルから三角関数を用いて自車両の方位角を算出し、算出した方位角を推定方位角としてデータ記憶部54に記憶して、リターンする。
【0102】
次に、図12を参照して、速度ベクトル推定処理ルーチンについて説明する。
【0103】
ステップ1080で、データ記憶部54から所定期間分のジャイロセンサ14の検出値である自車両のヨーレートを読み出し、観測毎のヨーレートを各々時系列に積算して自車両の観測方位角を算出する。
【0104】
次に、ステップ1082で、所定期間内に推定された推定方位角をデータ記憶部54から読み出し、上記ステップ1080で算出した観測方位角の時系列データを平行移動して探索しながら、最小二乗法等に代表される最適計算により、方位角の最適値を推定する。
【0105】
次に、ステップ1084で、上記ステップ1082で推定された方位角の最適値と推定方位角の各々との残差を算出し、所定期間分の残差の分散を算出する。
【0106】
次に、ステップ1086で、上記ステップ1084で算出した残差の分散が予め定めた閾値以下か否可を判定することにより、方位角の最適値の精度を判定する。残差の分散が閾値以下の場合には、方位角の最適値の精度が高いと判断してステップ1088へ移行し、上記ステップ1082で推定された方位角の最適値を、方位角の推定値として採用する。一方、残差の分散が閾値を超える場合には、方位角の最適値の精度が低いと判断して、ステップ1090へ移行し、過去に推定された方位角を用いてジャイロセンサ14の検出値を積算して算出した方位角を、方位角の推定値として採用する。
【0107】
次に、ステップ1092で、データ記憶部54から速度センサ16で検出された速度を読み出し、上記ステップ1088または1090で採用された方位角の推定値及び読み出した速度を用いて速度ベクトルを算出し、算出した速度ベクトルを速度ベクトルの推定結果としてデータ記憶部30に記憶して、リターンする。
【0108】
また、データ記憶部30に、所定時間分の自車両の位置、速度ベクトル、重み、及び相対位置が記憶されると、コンピュータ20において、図13に示す相対位置推定処理ルーチンが実行される。
【0109】
ステップ120において、データ記憶部30から所定時間分の速度ベクトルを取得し、所定時間分の自車両の速度ベクトルを積算して、所定時間における自車両の軌跡を算出する。次のステップ122では、受信データ記憶部22から対応する所定時間分の相手車両の速度ベクトルを取得し、所定時間分の相手車両の速度ベクトルを積算して、所定期間における相手車両の軌跡を算出する。
【0110】
そして、ステップ124において、データ記憶部30から、対応する所定時間内の各時刻について算出された相対位置を取得する。ステップ126では、上記ステップ120で算出された自車両の軌跡と、上記ステップ124で取得した各時刻の相対位置とに基づいて、対応する所定時間内の各時刻における相手車両の予測位置を算出する。
【0111】
次のステップ128では、データ記憶部30から、対応する所定時間内の各時刻について算出された重みを取得し、取得した重みを適用した最小二乗法により、上記ステップ126で算出された相手車両の予測位置に対して、上記ステップ122で算出された相手車両の軌跡をフィッティングし、最適値を推定する。
【0112】
そして、ステップ130において、上記ステップ128で推定された相手車両の軌跡の最適値と、各時刻の相手車両の予測位置とに基づいて、最小二乗法の残差を各時刻について算出し、ステップ132において、上記ステップ130で算出された残差が閾値以上となる地点(時刻)が存在するか否かを判定する。残差が閾値以上となる地点(時刻)が存在する場合には、ステップ134において、該当地点(時刻)の相対位置を棄却して、ステップ136へ移行する。
【0113】
ステップ136では、上記ステップ120で算出された自車両の軌跡と、上記ステップ124で取得した各時刻の相対位置のうち、上記ステップ134で棄却された相対位置以外の相対位置とに基づいて、対応する所定時間内の各時刻における相手車両の予測位置を算出する。
【0114】
次のステップ138では、上記ステップ128と同様に、重みを適用した最小二乗法により、上記ステップ136で算出された相手車両の予測位置に対して、上記ステップ122で算出された相手車両の軌跡をフィッティングし、最適値を推定する。
【0115】
そして、ステップ140において、上記ステップ138で推定された相手車両の軌跡の最適値と、各時刻の相手車両の予測位置とに基づいて、最小二乗法の残差を各時刻について算出し、ステップ142へ移行する。
【0116】
一方、上記ステップ132で、残差が閾値以上となる地点(時刻)が存在しないと判定された場合には、ステップ142へ移行する。
【0117】
ステップ142では、上記ステップ128又はステップ138で推定された相手車両の軌跡の最適値と、上記ステップ120で算出された自車両の軌跡とに基づいて、軌跡上の終端点における相対位置を算出し、出力する。
【0118】
次のステップ144では、上記ステップ130又はステップ140で算出された各時刻の残差に基づいて、上記ステップ142で算出された相対位置の誤差を算出して出力し、相対位置推定処理ルーチンを終了する。
【0119】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る相対位置推定装置によれば、相手車両の位置及び速度ベクトルを受信すると共に、自車両の位置の軌跡と、相手車両の位置の軌跡と、自車両に対する相手車両の相対位置とを算出して、自車両の位置の軌跡と、相手車両の位置の軌跡と、各時刻の相対位置とに基づいて、相手車両の軌跡の最適値を推定し、軌跡上の終端点における相対位置を推定することにより、GPSの観測データを通信する特許文献1よりも、少ないデータ通信量で、相手車両との相対位置を精度良く推定することができる。GPSの観測データは、各衛星の擬似距離、ドップラー周波数、搬送波位相等から構成され、その通信容量は衛星に比例する。GPSで測位を実施するためには4つ以上の衛星が必要なため、少なくとも4×3(擬似距離、ドップラー周波数、搬送波位相)=12個のデータを通信する必要がある。一方、本発明では、通信データは上記表1に示すデータに限られ、位置(3次元)、速度ベクトル(3次元)、時刻、及び衛星番号でよい。衛星番号を、各衛星の使用状況を示すビットで表せば、GPSであれば最大32個の衛星が想定されるため、32bit=4byteの容量でよい。よって、従来手法と比較して、少なく、かつ一定の通信容量で相対位置の推定が可能である。
【0120】
また、GPSドップラーと慣性センサを組み合わせることで、精度が高い軌跡が算出可能である。マルチパスが発生している場所においても、正確な軌跡を算出することができる。加えて、100m程度の相対位置では、共に測位に用いている衛星が共通化されていることが多いため、マルチパスが無い場所では単純にGPS測位結果の差分を用いたとしても、ばらつきはあるが精度が高い相対位置を計測することができる。以上の技術的な背景により、位置の差分による相対位置と二台の車両の軌跡に基づいて、最小二乗法によるフィッティングにより、ばらつきが抑えられた相対位置を推定することができ、残差で閾値を設定することでマルチパスの棄却ができる。加えて、衛星が共通化されている箇所に対して、重み付き最小二乗法で用いる重みを大きくすることで、推定した相対位置の精度を高めることができる。
【0121】
また、二台の車両の軌跡を利用して相対位置を算出することで、残差を利用したマルチパスの影響の除去することができると共に、GPSが受信できない場所でも相対位置を計測することができる。
【0122】
また、GPSの観測データ(擬似距離・ドップラー・搬送波位相)等を無線により通信する必要がないため、通信データ量の少なくすることができる。
【0123】
次に、第2の実施の形態に係る相対位置推定装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0124】
第2の実施の形態では、自車両の位置を算出する際に、相手車両の位置の算出において使用したGPS衛星と共通となるように、使用するGPS衛星を選択している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0125】
第2の実施の形態に係る相対位置推定装置では、図14に示すように、位置・速度ベクトル算出部224を、GPS情報取得部50と、取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号、及び受信した測定データから得られる衛星番号に基づいて、位置の算出で使用するGPS衛星を選択する衛星選択部250と、位置算出部51と、方位角推定部52と、データ記憶部54と、速度ベクトル推定部56と、を含んだ構成で表すことができる。
【0126】
衛星選択部250は、GPS情報取得部50によって取得したGPS衛星の情報から衛星番号を取得すると共に、受信データ記憶部22に記憶されている同時刻の測定データから、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星の衛星番号を取得する。そして、衛星選択部250は、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星の衛星番号の全てが、自車両で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号に含まれている場合には、完全に衛星を共通化させるように、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星の全てを、位置の算出において使用するGPS衛星として選択する。一方、衛星選択部250は、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星の衛星番号の少なくとも1つが、自車両で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号に含まれていない場合には、GPS衛星の選択を行わない。
【0127】
例えば、図15(A)に示すように、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星の衛星番号の少なくとも1つが、自車両で取得したGPS衛星の情報の衛星番号に含まれていない場合には、位置算出部51において、自車両で電波を受信した全てのGPS衛星を使用して、自車両の位置を算出する。
【0128】
一方、図15(B)に示すように、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星の衛星番号の全てが、自車両で取得したGPS衛星の情報の衛星番号に含まれている場合には、位置算出部51において、相手車両の位置の計算で使用したGPS衛星と同じGPS衛星を用いて、自車両の位置を算出する。
【0129】
これによって、自車両と相手車両で共通したGPS衛星を使用して測位を行っていた場合を増やすことができる。
【0130】
位置算出部51は、GPS情報取得部50によって取得された各GPS衛星のGPS擬似距離データ、又は衛星選択部250によって選択された各GPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、自車両の位置を算出する。
【0131】
次に、第2の実施の形態における位置速度算出処理ルーチンについて図16を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0132】
ステップ100で、GPS受信部12から複数のGPS衛星の情報を取得すると共に、複数のGPS衛星のGPS擬似距離データ、ドップラー周波数、GPS衛星の位置座標を算出して取得する。次のステップ110で、取得したGPS衛星の情報と同一時刻の測定データを、受信データ記憶部22から取得する。
【0133】
そして、ステップ270において、上記ステップ100で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号が、上記ステップ110で取得した測定データに含まれる衛星番号を全て含むか否かを判定する。自車両で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号が、測定データに含まれる衛星番号の少なくとも1つを含まない場合には、ステップ102へ移行する。一方、自車両で取得したGPS衛星の情報に含まれる衛星番号が、測定データに含まれる衛星番号を全て含む場合には、ステップ272において、自車両の位置の算出で使用するGPS衛星として、上記ステップ110で取得した測定データに含まれる全ての衛星番号のGPS衛星を選択する。
【0134】
そして、ステップ102において、上記ステップ272で選択された各GPS衛星のGPS擬似距離データ、又はGPS情報を取得した全てのGPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、自車両の位置を算出する。
【0135】
次に、ステップ104で、自車両のヨーレート、及び自車両の速度を取得して、データ記憶部54に記憶する。次に、ステップ106で、GPS情報に基づく自車両方位角処理を実行して、推定方位角を推定し、次に、ステップ108で、速度ベクトル算出処理を実行して、速度ベクトルを推定する。
【0136】
そして、ステップ112では、上記で取得したGPS衛星の情報から得られる衛星番号と、上記で取得した測定データから得られる衛星番号とに基づいて、最小二乗法で用いられる重みを算出する。
【0137】
そして、ステップ114において、自車両に対する相手車両の相対位置を算出する。次のステップ116では、上記ステップ102、106、112、114における算出結果を、データ記憶部30に記憶し、位置速度算出処理ルーチンを終了する。
【0138】
なお、第2の実施の形態に係る相対位置推定装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0139】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る相対位置推定装置によれば、自車両と相手車両で共通したGPS衛星を使用して測位を行っていた場合を増やすことができるため、より精度よく相対位置を推定することができる。
【0140】
なお、上記の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、自車両及び相手車両が移動中である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、自車両及び相手車両の何れか一方が停車していてもよい。この場合には、停止している車両の速度ベクトルが0となるため、算出される軌跡が点となるが、上述した軌跡利用相対位置推定部36と同様に、自車両に対する相手車両の相対位置を推定することができる。
【0141】
次に、第3の実施の形態に係る相対位置推定装置について説明する。なお、第3の実施の形態に係る相対位置推定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0142】
第3の実施の形態では、路車間通信により、路側機と通信して、自車両に対する路側機の相対位置を推定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0143】
第3の実施の形態では、相対位置推定装置10が、図17に示すような路側機380と路車間通信を行う。路側機380は、GPS受信部82と、無線通信部88と、GPS受信部82によって受信されたGPS衛星からの受信信号に基づいて、路側機380の位置を算出する処理を実行するコンピュータ390と、を備えている。
【0144】
コンピュータ390は、位置算出部392を備えており、位置算出部392は、GPS受信部82から、電波を受信した全てのGPS衛星について、GPS衛星の情報を取得すると共に、GPS衛星が電波を送信した時刻及び路側機380で電波を受信した時刻に基づいて、GPS擬似距離データを算出する。位置算出部392は、取得した各GPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、路側機380の位置を算出して、無線通信部88へ出力すると共に、車速を0とした速度ベクトルを無線通信部88へ出力する。
【0145】
無線通信部88は、所定時間間隔で、各時刻について、位置及び速度ベクトルと、位置を算出する処理で使用したGPS衛星の衛星番号とを含む計測データを送信する。なお、計測データには、更に、算出された位置がいつの位置であるかを示す時刻、すなわち、路側機380でGPS衛星から電波を受信した時刻が含まれている。
【0146】
なお、第3の実施の形態に係る相対位置推定装置10の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0147】
第3の実施の形態に係る相対位置推定装置10が、軌跡を利用した相対位置を推定する場合には、図18に示すように、通信相手である路側機380の軌跡が点になる。
【0148】
そして、自車両の軌跡を基準にして、各時刻の位置差分による相対位置から、各時刻の路側機380の予測位置を算出する。そして、路側機380の予測位置に対して、最小二乗法により路側機380の軌跡(点)のフィッティングを行うことで、路側機380の軌跡(点)の最適値を求め、求められた路側機380の軌跡(点)の最適値を用いて、軌跡上の終端点における自車両に対する路側機380の相対位置を算出する。
【0149】
このように、自車両を基準とした相対位置を算出する対象が、静止物であっても、精度よく相対位置を推定することができる。
【0150】
なお、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態では、ドップラー周波数を用いて、速度ベクトルを算出して、自車両の方位角を算出し、所定期間分の自車両の方位角の算出結果を用いて最適推定を行って、速度ベクトルを算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。ドップラー周波数を用いた他の手法により、速度ベクトルを算出してもよい。例えば、自車両速度算出部70による算出結果を、そのまま自車両の速度ベクトルとして用いてもよい。
【0151】
また、上記実施の形態では、速度ベクトルを算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、自車両の方位角を算出すると共に、自車両の速度を検出し、自車両の方位角と速度からなる速度情報を用いてもよい。この場合には、所定時間分の自車両の方位角と速度とから軌跡を算出するようにすればよい。
【0152】
また、上記実施の形態では、所定時間間隔で、相対位置及び速度ベクトルを算出して、各時刻の相対位置及び速度ベクトルを求める場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、所定の距離間隔で、相対位置及び速度ベクトルを算出して、各地点の相対位置及び速度ベクトルを求めるようにしてもよい。
【0153】
また、上記実施の形態では、自車両を基準とした相対位置を推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、相手車両又は路側機を基準とした自車両の相対位置を推定してもよい。この場合には、相手車両又は路側機の軌跡を基準にして、各時刻の位置差分による相対位置から、各時刻の自車両の予測位置を算出する。そして、自車両の予測位置に対して、最小二乗法により自車両の軌跡のフィッティングを行うことで、自車両の軌跡の最適値を求め、求められた自車両の軌跡の最適値を用いて、相手車両又は路側機に対する自車両の相対位置を推定するようにすればよい。
【0154】
また、上記実施の形態では、重み付き最小二乗法を用いて、相手車両の軌跡の最適値を求める場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、重みなしの最小二乗法を用いて相手車両の軌跡の最適値を求めてもよい。この場合には、以下の(11)式、(12)式を用いて、相手車両の軌跡の最適値を求めればよい。
【0155】
【数10】


ただし、Δyは、観測量(相手車両の軌跡上の位置)と予測値(予測された相手車両の位置)との差(残差)であり、Δxは未知数であり、Gは、一般行列である。上記(11)式は観測量と予測値との差(残差)Δyと未知数Δx、一般行列Gの関係を示している。上記(12)式は、一般的な未知数Δxを推定する方法である。
【0156】
また、GPSの計測値とジャイロ、速度センサの組み合わせによる複合航法結果を用いて、自車両の位置を算出するようにしてもよい。
【0157】
また、上記実施の形態では、GPS情報に基づいて自車両の方位角を推定して精度の判定に用いる場合について説明したが、精度の判定に速度を用いてもよい。具体的には、自車両速度算出部70で算出された速度ベクトルから自車両の速度の絶対値を算出し、最適推定部74において、速度センサ16で検出された速度と算出された速度の絶対値とを統合して、速度の最適値を推定し、この最適値と算出された速度の絶対値との残差の分散に基づいて、精度を判定することができる。そして、精度が高いと判定された所定期間の速度ベクトルから推定方位角を算出して、観測方位角と統合した方位角を推定するようにするとよい。
【0158】
また、上記実施の形態では、最適値と推定方位角との残差の分散に基づいて、精度を判定する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、残差の分布がガウス分布に適合しているか否かにより精度を判定してもよい。
【0159】
また、上記実施の形態では、観測方位角を得るために、ジャイロセンサを用いる場合について説明したが、慣性航法系のセンサであればよく、磁気方位計でもよい。
【0160】
また、上記実施の形態では、GPS衛星のGPS情報を用いる場合について説明したが、情報発信源の位置に関する情報、情報発信源と移動体との距離に関する情報、及び情報発信源と移動体との相対速度に関する情報を含む発信源情報を発信する情報発信源からの情報が取得できればよい。例えば、擬似衛星から発信される情報を受信するようにしてもよい。
【0161】
また、衛星測位システムは、一般的にGNSS(Global Navigation Satelite System)と呼ばれ、GPSだけでなく、ロシアのグロナス(GLONASS)、欧州のガリレオ(Galileo)、日本の準天頂衛星システムも予定され、一部は既に適用されている。本発明はGPSに限るものではなく、広くGNSSに適用可能な技術である。そのため、上記GNSSから発信される情報を受信するようにしてもよい。
【0162】
また、上記実施の形態では、車両に搭載される相対位置推定装置について説明したが、本発明の相対位置推定装置が搭載される移動体は車両に限定されない。例えば、相対位置推定装置をロボットに搭載してもよいし、歩行者が携帯できるように相対位置推定装置をポータブル端末として構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0163】
10 相対位置推定装置
12、82 GPS受信部
14、84 ジャイロセンサ
16、86 速度センサ
18、88 無線通信部
20、90、390 コンピュータ
24、56、92、224 位置・速度ベクトル算出部
26 位置差分相対位置算出部
28 重み算出部
30 データ記憶部
32 軌跡算出部
34 相手軌跡算出部
36 軌跡利用相対位置推定部
38 相対位置誤差算出部
50 情報取得部
51 位置算出部
52 方位角推定部
80 車載器
250 衛星選択部
380 路側機
392 位置算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と他の装置との相対位置を推定する、前記移動体に搭載される相対位置推定装置であって、
複数の情報発信源の各々から発信された前記情報発信源の各々の位置に関する情報、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報を含む発信源情報を取得する取得手段と、
前記移動体の運動状態を検出する検出手段と、
前記取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記移動体の位置と、前記移動体の速度ベクトル、又は前記移動体の速度及び前記移動体の方位角を示す速度情報とを算出する算出手段と、
他の装置の位置及び前記速度情報を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信された前記他の装置の位置と、前記算出手段により算出された前記移動体の位置との差分から、各時刻又は各地点について、前記移動体と前記他の装置との相対位置を算出する相対位置算出手段と、
前記算出手段により算出された前記移動体の速度ベクトル又は前記速度情報を所定時間分積算して、前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡を算出する第1軌跡算出手段と、
前記受信手段によって受信された前記速度情報を前記所定時間分積算して、前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡を算出する第2軌跡算出手段と、
前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する相対位置推定手段と、
を含む相対位置推定装置。
【請求項2】
前記相対位置は、前記移動体の位置を基準とした前記他の装置の相対位置であり、
前記相対位置推定手段は、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡、及び前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置から求められる各時刻又は各地点の前記他の装置の位置との差分の和を最小とする、前記他の装置の位置の軌跡を求め、前記求められた前記他の装置の位置の軌跡と前記移動体の位置の軌跡とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する請求項1記載の相対位置推定装置。
【請求項3】
前記相対位置は、前記他の装置の位置を基準とした前記移動体の相対位置であり、
前記相対位置推定手段は、前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡、及び前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置から求められる各時刻又は各地点の前記移動体の位置との差分の和を最小とする、前記移動体の位置の軌跡を求め、前記求められた前記移動体の位置の軌跡と前記他の装置の位置の軌跡とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する請求項1記載の相対位置推定装置。
【請求項4】
前記差分の和が最小とされたときの前記差分の各々に基づいて、前記相対位置推定手段によって推定された前記相対位置の誤差を算出する相対位置誤差算出手段を更に含む請求項2又は3記載の相対位置推定装置。
【請求項5】
前記他の装置は、複数の情報発信源の各々から発信された前記発信源情報を取得する第2取得手段と、前記他の装置の運動状態を検出する第2検出手段と、前記第2取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記第2検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記他の装置の位置と、前記速度情報とを算出する第2算出手段と、前記第2算出手段によって算出された前記他の装置の位置、前記速度情報、及び前記第2取得手段によって取得した前記発信源情報を発信した前記情報発信源の識別情報を送信する送信手段を含み、
前記受信手段は、前記送信手段によって送信された前記他の装置の位置、前記速度情報、及び前記情報発信源の識別情報を受信し、
前記相対位置推定手段は、前記受信手段によって受信した前記識別情報が示す前記情報発信源を全て含む複数の情報発信源からの前記発信源情報に基づいて算出された前記移動体の位置に基づく前記相対位置について求められる前記差分を、他の相対位置について求められる前記差分より小さくするように、前記差分の和を最小とする軌跡を求め、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する請求項2〜請求項4の何れか1項記載の相対位置推定装置。
【請求項6】
前記算出手段は、前記情報発信源の各々の位置に関する情報、及び前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報から得られる前記移動体の位置に基づいて、前記移動体から見た前記情報発信源の各々の方向を算出し、時系列の前記情報発信源の各々の位置に関する情報に基づいて、前記情報発信源の各々の速度を算出し、前記移動体から見た前記情報発信源の各々の方向、前記情報発信源の各々の速度、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報に基づいて、前記移動体の情報発信源の各々の方向の速度を算出し、複数の前記移動体の情報発信源の各々の方向の速度に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを算出する請求項1〜請求項5の何れか1項記載の相対位置推定装置。
【請求項7】
前記情報発信源を、前記情報発信源の各々の位置に関する情報として衛星軌道情報を、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報として擬似距離情報を、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報としてドップラー周波数情報を発信するGPS衛星とした請求項1〜請求項6の何れか1項記載の相対位置推定装置。
【請求項8】
コンピュータを、移動体と他の装置との相対位置を推定する、前記移動体に搭載される相対位置推定装置の各手段として機能させるための相対位置推定プログラムであって、
前記コンピュータを、
複数の情報発信源の各々から発信された前記情報発信源の各々の位置に関する情報、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報を含む発信源情報を取得する取得手段、
前記取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記移動体の運動状態を検出する検出手段によって検出された運動状態に基づいて、前記移動体の位置と、前記移動体の速度ベクトル、又は前記移動体の速度及び前記移動体の方位角を示す速度情報とを算出する算出手段、
他の装置の位置及び前記速度情報を受信する受信手段によって受信された前記他の装置の位置と、前記算出手段により算出された前記移動体の位置との差分から、各時刻又は各地点について、前記移動体と前記他の装置との相対位置を算出する相対位置算出手段、
前記算出手段により算出された前記移動体の速度ベクトル又は前記速度情報を所定時間分積算して、前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡を算出する第1軌跡算出手段、
前記受信手段によって受信された前記速度情報を前記所定時間分積算して、前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡を算出する第2軌跡算出手段、及び
前記第1軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記移動体の位置の軌跡と、前記第2軌跡算出手段によって算出された前記所定時間における前記他の装置の位置の軌跡と、前記相対位置算出手段によって前記所定時間内に各時刻又は各地点について算出された前記相対位置とに基づいて、前記軌跡上の特定点における前記相対位置を推定する相対位置推定手段
として機能させるための相対位置推定プログラム。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1〜請求項7の何れか1項記載の相対位置推定装置の各手段として機能させるための相対位置推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−203721(P2012−203721A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68814(P2011−68814)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】