説明

真空コーティング装置の動作方法

【課題】堆積プロセスの効率が低下しない、真空コーティング装置の動作方法を提供する。
【解決手段】フェーズIでは、コーティングチャンバ11がフッ素を含むガスによって洗浄された後、残留物13がチャンバ壁に付着している。フェーズIIでは、PECVD法を用いて基板なしで堆積ステップが行われ、コーティングチャンバ11の内壁全体に拡散防止層15が形成される。拡散防止層15は、フェーズIで残った残留物13の全てを覆い、当該の残留物13がチャンバ内へ拡散することを阻止する。フェーズIIIでは、拡散防止層15によって完全に覆われたコーティングチャンバ11に、ソーラーセルを製造するための基板17が配置され、従来のコーティングステップが開始される。Siを含む層を1回または複数回析出した後、再び、フッ素を含むガスによる洗浄ステップが行われ、その際に拡散防止層15が除去され、初期の状態(フェーズI)が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に薄膜ソーラーセルを製造するための、真空コーティング装置の動作方法に関する。ここでは、洗浄ガスを用いてコーティングチャンバを洗浄するステップが行われる。
【背景技術】
【0002】
最近の真空コーティング装置の重要な適用分野は、シリコン(ケイ素)ベースの薄膜ソーラーセルの製造である。ふつう、このために、PECVDプロセスが用いられる。
【0003】
薄膜ソーラーセルは種々の数のp型ドープ層およびn型ドープ層および真性半導体層から成る。公知の薄膜ソーラーセルの層構造タイプとして、2つの典型例、すなわち、図1のA,Bの例のようないわゆるタンデム型セルが挙げられる。
【0004】
図1のAによれば、透明な導電性の前面コンタクト層9を備えたガラス10が基板として用いられている。当該のガラス10の上にアモルファスケイ素から成るソーラーセルが配置される。このソーラーセルは、p型ドープ層8,真性半導体層7,n型ドープ層5から成る。当該のソーラーセルの上に、微結晶セルが析出される。この微結晶セルも、同様に、p型ドープ層4,真性半導体層3,n型ドープ層2から成る。最後に、ソーラーセルに、透明な導電性の背面コンタクト層1または透明な金属の背面コンタクト層1が設けられる。個々の層はそれぞれ複数の部分層を含んでいてもよい。
【0005】
図1のAの構成と、図1のBの修正された構成との相違点は、中間反射層6が下方の真性半導体層7と下方のn型ドープ層5とのあいだに設けられていることである。
【0006】
析出プロセスは、全体にわたって唯一のコーティングチャンバ内で行われてもよいし、通常のごとく複数のコーティングチャンバにおいてドープ層と真性半導体層とを別個に形成してもよい。1回または複数回のコーティングプロセスの後、チャンバ壁に不可避的に析出物が付着してしまうので、このチャンバ壁を洗浄する必要が生じる。これはフッ素を含むガスによって行われる。洗浄プロセスはフッ素ラジカルによって行われる。ここで、フッ素ラジカルはチャンバ壁のケイ素に結合してガス状のSiFとなり、その後、ポンプ管路を通って、チャンバから排出される。洗浄後には再びケイ素を含む層の析出が行われる。
【0007】
こうした形式の洗浄プロセスについては、独国出願第102006035596号明細書に記載されている。
【0008】
フッ素を含むガスによるコーティングチャンバの洗浄は、チャンバ壁へのフッ素の付着を引き起こす。こうしたフッ素残留物はその後のシリコンベースのソーラーセルの堆積の効率を低下させるという負の作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国出願第102006035596号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の基礎とする課題は、上述した従来技術の問題点を回避できる、真空コーティング装置の動作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、洗浄ガスを使用したコーティングチャンバの洗浄ステップの後、製品を製造するステップの前に、拡散防止層をコーティングチャンバの壁に被着するための層堆積ステップを行うことにより、解決される。
【0012】
他の有利な実施形態は従属請求項の対象となっている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】タンデム型の薄膜ソーラーセルの層構造の第1の実施例(A)と第2の実施例(B)とを示す図である。
【図2】本発明の方法を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フッ素による汚染を低減するため、付加的な層の析出ステップが導入される。当該の付加的な層は拡散防止層であって、フッ素を含むガスによるチャンバの洗浄後、次の基板の投入が行われる前に、同様にPECVDプロセスによって堆積される。当該の拡散防止層はチャンバ壁を覆い、ガスおよびコーティングの界面へのフッ素の拡散を低減する。このようにすれば表面のフッ素含有量が小さくなり、後のケイ素の堆積プロセスにおいて、気相のフッ素原子量またはフッ素分子量が低減される。
【0015】
薄膜ソーラーセルの製造の中間ステップとして、コーティングチャンバの洗浄に続いて当該の拡散防止層を堆積すれば、ソーラーセル構造体のフッ素負荷を低減することはできるが、高度に安定化された効率が損なわれてしまう。本発明は、これとは異なり、有利には、他の半導体製品の製造のための真空コーティング装置の動作時、あるいは、場合により、半導体技術以外の真空コーティング装置の動作時に、適用可能である。
【0016】
Si堆積プロセス、特に、シリコンベースの薄膜ソーラーセルの製造に関連して、本発明の有利な実施形態では、層堆積ステップにおいて、ケイ素および/またはケイ素酸化物および/またはケイ素炭化物および/またはケイ素窒化物を含む拡散防止層が被着される。
【0017】
ここで、ケイ素酸化物は、その密度が大きく、特に良好な拡散バリアとなることができるので、有利である。そのほか、アモルファスケイ素または微結晶ケイ素または相転移状態を有するケイ素を被着してもよい。アモルファスケイ素または微結晶ケイ素または相転移状態にあるケイ素の析出プロセスは、酸素原子または酸素を含む分子を有する不純物に対して比較的不感である。さらに、アモルファスケイ素炭化物を含む層を被着することもできる。
【0018】
これらの層の析出プロセスの個々のプロセスパラメータは当業者に良く知られているので、ここで詳細には説明しない。
【0019】
有利には、拡散防止層の層厚さは、層材料および堆積温度に基づいて、拡散防止層が真空コーティング装置の通常動作において完全に安定にチャンバ壁に付着するように調整される。当該の層厚さは、少なくとも数nmの値であり、層厚さが大きくなるにつれて、拡散防止効果も高まる。この点から、当該の層厚さは、5nmから500nmの範囲の値、特に50nmから300nmの範囲の値であると有利である。
【0020】
以下に、本発明を、図示の実施例に則して詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図2には、本発明の真空コーティング装置の動作方法の3つのフェーズがコーティングチャンバ11の内部の断面図によって示されている。フェーズIでは、コーティングチャンバ11がフッ素を含むガスによって洗浄される洗浄ステップの後、残留物13がチャンバ壁に付着している様子が示されている。フェーズIIでは、PECVD法を用いて基板なしで堆積ステップが行われ、コーティングチャンバ11の内壁全体に拡散防止層15が形成される。当該の拡散防止層15は、フェーズIで残った残留物13の全てを多い、当該の残留物13がチャンバ内へ拡散することを阻止する。
【0022】
フェーズIIIでは、拡散防止層15によって完全に覆われたコーティングチャンバ11に、ソーラーセルを製造するための基板17が配置され、従来のコーティングステップが開始される。Siを含む層を1回または複数回析出した後、再び、フッ素を含むガスによる洗浄ステップが行われ、その際に拡散防止層15が除去され、初期の状態(フェーズI)が達成される。
【0023】
なお、本発明は前述した特徴および前述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載にしたがった当業者の技術的適用によって、種々の修正が可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 背面コンタクト層、 2,5 n型ドープ層、 3,7 真性半導体層、 4,8 p型ドープ層、 6 中間反射層、 9 表面コンタクト層、 10 ガラス、 11 コーティングチャンバ、 13 残留物、 15 拡散防止層、 17 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜ソーラーセルを製造するための真空コーティング装置の動作方法において、
洗浄ガスを使用したコーティングチャンバ(11)の洗浄ステップの後、製品を製造するステップの前に、拡散防止層(15)を前記コーティングチャンバの壁に被着するための層堆積ステップを行う
ことを特徴とする真空コーティング装置の動作方法。
【請求項2】
前記コーティングチャンバの洗浄ステップではフッ素を含むガスを洗浄ガスとして用いる、請求項1記載の真空コーティング装置の動作方法。
【請求項3】
前記層堆積ステップにおいて、少なくともケイ素またはケイ素酸化物またはケイ素炭化物またはケイ素窒化物を含む前記拡散防止層(15)を被着する、請求項1または2記載の真空コーティング装置の動作方法。
【請求項4】
前記層堆積ステップにおいて、アモルファスケイ素または微結晶ケイ素または相転移状態を有するケイ素を被着する、請求項3記載の真空コーティング装置の動作方法。
【請求項5】
前記層堆積ステップにおいて、アモルファスケイ素炭化物を含む前記拡散防止層(15)を被着する、請求項3記載の真空コーティング装置の動作方法。
【請求項6】
前記拡散防止層(15)の層厚さを、層材料および堆積温度に基づいて、前記拡散防止層が前記コーティングチャンバ(11)の壁に付着するように調整する、請求項1から5までのいずれか1項記載の真空コーティング装置の動作方法。
【請求項7】
前記拡散防止層の層厚さを5nmから500nmの範囲の値へ調整する、請求項6記載の真空コーティング装置の動作方法。
【請求項8】
前記層堆積ステップに続く前記製品を製造するステップは、薄膜ソーラーセルのn型ドープSi層(2;5)またはp型ドープSi層(4;8)または真性Si層(3;7)を析出させるステップを含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の真空コーティング装置の動作方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−195586(P2012−195586A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−57384(P2012−57384)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】