説明

真空蒸着装置

【課題】基板ホルダ内における温度の均一性を保持しつつ、基板ホルダ表面への成膜材料の付着(蒸着)を実質的に防止可能とする真空蒸着装置を提供すること。
【解決手段】基板に成膜材料を真空蒸着させて膜を形成する真空蒸着装置であって、前記基板を保持する基板ホルダを、基板保持部と蒸着領域規制部材(マスク)とから構成し、前記基板保持部と蒸着領域規制部材(マスク)とを異なる材料から構成するとともに、前記基板保持部を熱伝導率100W/m・K以上、かつ比重4.0×10kg/m以下の材料で、前記蒸着領域規制部材(マスク)を融点1300℃以上の材料でそれぞれ構成してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断装置,非破壊検査機器等に用いられる放射線検出器を製造するのに好適に用い得る真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療用の診断画像の撮影や工業用の非破壊検査などに、被写体を透過した放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を電気的な信号として取り出すことにより放射線画像を撮影する、放射線画像検出器が利用されている。
この放射線画像検出器としては、放射線を電気的な画像信号として取り出す放射線固体検出器(いわゆる「Flat Panel Detector」:以下、FPDともいう)や、放射線像を可視像として取り出すX線イメージ管などがある。
【0003】
また、FPDには、例えば放射線の入射によってアモルファスセレンなどの光導電膜が発した電子−正孔対(e−hペア)を収集して電化信号として読み出す、いわば放射線を直接的に電気信号に変換する直接方式と、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体で形成された蛍光体層(シンチレータ層)を有し、この蛍光体層によって放射線を可視光に変換し、この可視光を光電変換素子で読み出す、いわば放射線を可視光として電気信号に変換する間接方式との、2つの方式がある。
【0004】
上述のような放射線検出器を製造する際には、光検出器上に、蛍光体を所定の厚みに蒸着(真空蒸着)するのが一般的である。これは、蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗料を調製して、この塗料をガラスまたは樹脂製のシート状の支持体に塗布し、乾燥する、塗布方法により作製される蛍光体層に比較して、蒸着によって作製される蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、バインダなどの蛍光体以外の成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有しているためである。
【0005】
ところで、上述のような真空蒸着方式による成膜装置(以下、真空蒸着装置ともいう)では、ガラスまたは樹脂製のシート状の支持体(基板)だけでなく、蒸着を行う真空チャンバの内壁面にも蒸着物質(蛍光体)が堆積するため、後工程として行われるその除去などの保守作業を容易にする目的で、真空チャンバの内壁面に防着板と呼ばれる着脱可能な保護治具が取り付けられているのが一般的である。これにより、蒸着工程における真空チャンバの内壁面への蒸着物質(蛍光体)の堆積が防止されるため、真空蒸着装置の保守作業としては、上述の防着板を取り替えるだけで済み、真空チャンバの内壁面を洗浄する費用と時間が大幅に削減される。
【0006】
この種の防着板を備えた成膜装置としては、特許文献1に記載の「成膜装置」がある。この成膜装置は、基板を保持して搬送する基板キャリアを備え、この基板キャリア上の基板に蒸着材料粒子を付着させて膜を形成する成膜装置であって、基板以外の領域(例えば上記基板キャリアの枠上等)への成膜材料粒子の付着を防止する着脱自在の防着部材を上記基板キャリアの当該表面に装着したことを特徴とするものである。この装置では、上記防着部材により上記基板キャリアへの膜の付着が防止され、メンテナンスの際には、上記基板キャリアから膜が付着した防着部材を取り外して交換すればよく、成膜装置のメンテナンスに要する費用と時間を大幅に削減することが可能になるとしている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−316797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、これとは別に、真空蒸着装置における基板ホルダ等に付着した成膜材料の剥離方法としては、一般的に、ブラスト処理(サンドブラスト処理、ガラスビーズブラスト処理)が知られているが、近年、成膜位置に対する要求が高まっていることから、基板ホルダを損傷しない(変形させない)方式として、真空加熱方式が考案されている。ここで、真空加熱方式とは、真空中で、基板ホルダ自体を加熱して、基板ホルダに付着した成膜材料を蒸発させて除去(清浄化:クリーニング)しようというものである。
【0009】
ここで問題になるのは、清浄化(クリーニング)対象となる基板ホルダは、操作性を向上させるための軽量化の一環として、アルミ合金系の材料の使用が一般的になっており、耐熱性の低いアルミ合金系の材料が使用された場合には、上述の真空加熱方式における使用温度範囲が限定されてしまうことである。
この問題に対しては、基板ホルダを構成する材料を高耐熱性の材料、例えばステンレス鋼(いわゆる、SUS)等に変更することが考えられる。
【0010】
しかしながら、一方で、真空蒸着装置では、膜品質を確保するため、基板(被蒸着物)の各部の温度を均一に制御する必要がある。ところが、上述のステンレス鋼(SUS)のような高耐熱性の材料は、一般に熱伝導率が低く、基板ホルダ内における、温調プレートからの熱を基板に伝えるという点では、良好な性能が得られないという別の問題を有するものである。
【0011】
すなわち、基板ホルダをアルミ合金系の材料で構成した場合には、耐熱性が不足しているため、真空加熱方式における使用温度範囲が限定されてしまうという問題があり、これを回避するために、基板ホルダを高耐熱性の材料であるステンレス鋼(SUS)で構成した場合には、基板ホルダ内における温度の均一性が実現できないという問題が生ずるということである。
【0012】
さらに、基板ホルダは、基板全体を支えるものであるため、通常それ自体が大サイズとなり、自重撓みが無視できないものとなる。蒸着中に自重撓みが進行すると、これも膜品質に悪影響を及ぼす。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記従来技術における問題点を解消して、基板ホルダ内における温度の均一性を保持しつつ、基板ホルダ表面への成膜材料の付着(蒸着)を実質的に防止可能とする真空蒸着装置を提供することにある。
より具体的には、本発明の目的は、基板ホルダ表面の成膜材料が付着しやすい部分については、この部分を真空加熱方式による付着成膜材料除去可能な構成として、簡単に繰り返し使用を可能とした真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る真空蒸着装置は、基板に成膜材料を真空蒸着させて膜を形成する真空蒸着装置において、前記基板を保持する基板ホルダを、基板保持部と蒸着領域規制部材(マスク)とから構成し、前記基板保持部と前記蒸着領域規制部材とを異なる材料から構成するとともに、前記基板保持部を熱伝導率100W/m・K以上、かつ比重4.0×10kg/m以下の材料で、前記蒸着領域規制部材を融点1300℃以上の材料でそれぞれ構成してなることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記蒸着領域規制部材(マスク)が、前記基板を保持する基板ホルダと脱着可能に構成されてなることが好ましい。
また、前記基板保持部を構成する熱伝導率100W/m・K以上、かつ比重4.0×10kg/m以下の材料が、アルミニウム並びにアルミニウム合金のいずれかであり、前記蒸着領域規制部材(マスク)を構成する融点1300℃以上の材料が、ステンレス鋼、鉄、チタン、白金、クロム、モリブデン、タンタル、タングステンのいずれかであることが好ましい。
【0016】
ここで、アルミニウム合金としては、A1050、A1100,A2011,A2017,A2024,A5052,A5056,A5063,A6061,A6063,A7075等が好適に用い得る。
また、ステンレス鋼としては、SUS202、SUS303、SUS304、SUS305、SUS308、SUS309、SUS316、SUS330、SUS347、SUS403、SUS405、SUS410、SUS420、SUS430、SUS434、SUS651、SUS661等が好適に用い得る。
(参考URL:http://www.matweb.com/index.asp 等)
【0017】
表1および表2に、各種金属(および合金)についての、熱伝導率、融点並びに比重の一覧を示す。なお、表1は、これらの金属を熱伝導率の低いものから順に、表2は、融点の低いものから順に配列したものであり、これから、前記基板保持部を構成する材料としてはアルミニウム並びにアルミニウム合金が好ましく(表1参照)、また、前記蒸着領域規制部材(マスク)を構成する材料としてはステンレス鋼、鉄、チタン、白金、クロム、モリブデン、タンタル、タングステンが好ましい(表2参照)ことが示される。なお、表1と表2とは、挙げてある物質は同一であるが、比較の便宜のためそれぞれ熱伝導率、融点順に並べたものである。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基板ホルダ内における温度の均一性を保持しつつ、基板ホルダ表面への成膜材料の付着を防止可能とする真空蒸着装置を実現できるという顕著な効果を奏するものである。
より具体的には、基板ホルダ表面の成膜材料が付着しやすい部分については、この部分を真空加熱方式による付着成膜材料除去可能な構成として、簡単に繰り返し使用を可能とした真空蒸着装置を実現できるという顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明においては、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、この蓄積された電荷を薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor )により読み取る方式の放射線固体検出器を製造する場合を例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用して読み取る、いわゆる光読取方式の放射線固体検出器を製造する場合にも好適に用い得るものである。
【0022】
図1(a)〜(c)は、本実施形態に係る真空蒸着装置により製造されるTFT方式の放射線固体検出器(FPD)100の構成を示す図で、(a)は概略構成図、(b)はその1画素単位の構成示す断面図、(c)は同平面図である。
図1(a)に示す放射線固体検出器(FPD)100は、例えば、Seからなり、電磁波導電性を示す光導電層104を備え、この上に単一のバイアス電極101が、下に複数の電荷収集電極107aが形成されている。各電荷収集電極107aは、それぞれ電荷蓄積容量107cおよびスイッチ素子107bに接続されている。また、光導電層104とバイアス電極101との間には、正孔注入阻止層102が設けられている。
また、光導電層104と電荷収集電極107aとの間には電子注入阻止層106が設けられており、また、正孔注入阻止層102と光導電層104との間と、電子注入阻止層106と光導電層104との間とには、それぞれ結晶化防止層103,105が設けられている。なお、電荷収集電極107aとスイッチ素子107bと電荷蓄積容量107cとから電荷検出層107が形成され、ガラス基板108と電荷検出層107とから、後述するアクティブマトリックス基板150が構成されている。
【0023】
図1(b)は放射線画像検出器100の1画素単位の構造を示す断面図であり、図1(c)はその平面図である。図1(b),図1(c)に示す1画素のサイズは、0.1mm×0.1mm〜0.3mm×0.3mm程度であり、放射線画像検出器全体としてはこの画素がマトリクス状に500×500〜3000×3000画素程度配列されている。
【0024】
図1(b)に示すように、アクティブマトリックス基板150は、ガラス基板108、ゲート電極111、電荷蓄積容量電極(以下、Cs電極と称する)118、ゲート絶縁膜113、ドレイン電極112、チャネル層115、コンタクト電極116、ソース電極110、絶縁保護膜117、層間絶縁膜120、および電荷収集電極107aを有している。また、ゲート電極111やゲート絶縁膜113、ソース電極110、ドレイン電極112、チャネル層115、コンタクト電極116等により薄膜トランジスタ(TFT)からなるスイッチ素子107bが構成されており、Cs電極118やゲート絶縁膜113、ドレイン電極112等により電荷蓄積容量107cが構成されている。
【0025】
ガラス基板108は支持基板であり、ガラス基板108としては、例えば、無アルカリガラス基板(例えば、コーニング社製#1737等)を用いることができる。ゲート電極111及びソース電極110は、図1(c)に示すように、格子状に配列された電極配線であり、その交点には薄膜トランジスタ(TFT)からなるスイッチ素子107bが形成されている。
スイッチ素子107bのソース・ドレインは、各々ソース電極110とドレイン電極112とに接続されている。ソース電極110は、信号線としての直線部分と、スイッチ素子107bを構成するための延長部分とを備えており、ドレイン電極112は、スイッチ素子107bと電荷蓄積容量107cとをつなぐように設けられている。
【0026】
ゲート絶縁膜113はSiNXやSiOX等からなっている。ゲート絶縁膜113は、ゲート電極111及びCs電極118を覆うように設けられており、ゲート電極111上に位置する部位がスイッチ素子107bにおけるゲート絶縁膜として作用し、Cs電極118上に位置する部位は電荷蓄積容量107cにおける誘電体層として作用する。つまり、電荷蓄積容量107cは、ゲート電極111と同一層に形成されたCs電極118とドレイン電極112との重畳領域によって形成されている。なお、ゲート絶縁膜113としては、SiNXやSiOXに限らず、ゲート電極111及びCs電極118を陽極酸化した陽極酸化膜を併用することもできる。
【0027】
また、チャネル層(i層)115はスイッチ素子107bのチャネル部であり、ソース電極110とドレイン電極112とを結ぶ電流の通路である。コンタクト電極(n+層)116はソース電極110とドレイン電極112とのコンタクトを図る。
【0028】
絶縁保護膜117は、ソース電極110及びドレイン電極112上、つまり、ガラス基板108上に、ほぼ全面(ほぼ全領域)にわたって形成されている。これにより、ドレイン電極112とソース電極110とを保護すると共に、電気的な絶縁分離を図っている。また、絶縁保護膜117は、その所定位置、つまり、ドレイン電極112においてCs電極118と対向している部分上に位置する部位に、コンタクトホール121を有している。
【0029】
電荷収集電極107aは、非晶質透明導電酸化膜からなっている。電荷収集電極107aは、コンタクトホール121を埋めるようにして形成されており、ソース電極110上及びドレイン電極112上に積層されている。電荷収集電極107aと光導電層104とは電気的に導通しており、光導電層104で発生した電荷を電荷収集電極107aで収集できるようになっている。
【0030】
層間絶縁膜120は、感光性を有するアクリル樹脂からなり、スイッチ素子107bの電気的な絶縁分離を図っている。層間絶縁膜120には、コンタクトホール121が貫通しており、電荷収集電極107aはドレイン電極112に接続されている。コンタクトホール121は、図1(b)に示すように逆テーパ形状で形成されている。
【0031】
バイアス電極101とCs電極118との間には、図示しない高圧電源が接続されている。この高圧電源により、バイアス電極101とCs電極118との間に電圧が印加される。これにより、電荷蓄積容量107cを介してバイアス電極101と電荷収集電極107aとの間に電界を発生させることができる。このとき、光導電層104と電荷蓄積容量107cとは、電気的に直列に接続された構造になっているので、バイアス電極101にバイアス電圧を印加しておくと、光導電層104内で電荷(電子−正孔対)が発生する。光導電層104で発生した電子は+電極側に、正孔は−電極側に移動し、その結果、電荷蓄積容量107cに電荷が蓄積される。
【0032】
放射線画像検出器全体としては、電荷収集電極107aは1次元または2次元に複数配列されると共に、電荷収集電極107aに個別に接続された電荷蓄積容量107cと、電荷蓄積容量107cに個別に接続されたスイッチ素子107bとを複数備えている。これにより、1次元または2次元の電磁波情報を一旦電荷蓄積容量107cに蓄積し、スイッチ素子107bを順次走査していくことで、1次元または2次元の電荷情報を簡単に読み出すことができる。
【0033】
以下に、放射線画像検出器100の製造工程の一例について説明する。まず、ガラス基板108上に、TaやAl等の金属膜をスパッタ蒸着により厚さ約300nmに成膜した後、所望の形状にパターニングすることにより、ゲート電極111及びCs電極118を形成する。そして、このゲート電極111及びCs電極118を覆うようにして、ガラス基板108の略全面にSiNXや、SiOX等からなるゲート絶縁膜113をCVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ約350nmに成膜する。なお、ゲート絶縁膜113としては、SiNXやSiOXに限らず、ゲート電極111及びCs電極118を陽極酸化した陽極酸化膜を併用することもできる。また、ゲート絶縁膜113を介して、ゲート電極111の上方にチャネル層115が配されるように、CVD法により、アモルファスシリコン(以下、a-Siと称する)を、厚さ約100nmに成膜した後、所望の形状にパターニングすることにより、チャネル層115を形成する。チャネル層115の上層にコンタクト電極116が配されるように、CVD法によりa−Siを厚さ約40nmに成膜した後、所望の形状にパターニングすることにより、コンタクト電極116を形成する。
【0034】
さらに、コンタクト電極116上に、TaやAl等の金属膜をスパッタ蒸着により厚さ約300nmに成膜した後、所望の形状にパターニングすることにより、ソース電極110及びドレイン電極112を形成する。このようにしてスイッチ素子107b及び電荷蓄積容量107c等を形成したガラス基板108の略全面を覆うようにSiNXをCVD法で厚さ約300nmに成膜することにより、絶縁保護膜117を形成する。その後、コンタクトホール121となるドレイン電極112上の所定の部分に形成されたSiNX膜を除去しておく。上記絶縁保護膜117上の略全面を覆うように、感光性を有するアクリル樹脂等を厚さ約3μmに成膜し、層間絶縁膜120を形成する。そして、フォトリソグラフィ技術によるパターニングを行い、絶縁保護膜117におけるコンタクトホール121となる部分と位置合わせをしてコンタクトホール121を形成する。
【0035】
層間絶縁膜120上に、ITO(Indium-Tin-Oxide)等の非晶質透明導電酸化膜をスパッタ蒸着法にて厚さ約200nmに成膜し、所望の形状にパターニングして電荷収集電極107aを形成する。この時、絶縁保護膜117及び層間絶縁膜120に設けたコンタクトホール121を介して、電荷収集電極107aとドレイン電極112とを電気的に導通させる(短絡させる)。なお、本実施の形態では上述したように、アクティブマトリックス基板150として電荷収集電極107aがスイッチ素子107bの上方にオーバーラップする、いわゆる屋根型構造(マッシュルーム電極構造)を採用しているが、非屋根型構造を採用してもかまわない。また、スイッチ素子107bとしてa−Siを用いたTFTを用いたが、これに限らず、p−Si(ポリシリコン)を用いてもよい。
【0036】
上記のように形成されたアクティブマトリックス基板150の画素配列領域をすべて覆うように、電子注入阻止層106(10〜100nm程度、より好ましくは20〜100nm程度)を形成し、結晶化防止層105(10〜100nm程度)を形成後、a-Se(アモルファスセレン)にAs、GeSbをドープした材料からなり電磁波導電性を有する光導電層104を真空蒸着法により膜厚が約0.5mm〜1.5mmになるように成膜する。引き続き、結晶化防止層103(10〜100nm程度)を形成し、正孔注入阻止層102(30〜100nm程度)を形成後、最後に、光導電層104の略全面にAu、Alなどからなるバイアス電極101を真空蒸着法により約200nmの厚さで形成する。
【0037】
結晶化防止層103、105としてはGeSe、GeSe2、Sb2Se3、a-As2Se3や、Se−As、Se−Ge、Se−Sb系化合物等を用いることが可能である。正孔注入阻止層102としては、酸化物系や硫化物系化合物(ZnS)などが可能であるが、低温で形成できるZnSが好ましい。但し、As2Se3の場合は、正孔注入阻止層として機能するので、正孔注入阻止層を形成しなくても良い。電子注入阻止層106としては、Sb2S3などを用いることができる。
【0038】
光導電層104としては、暗抵抗が高く、X線照射に対して良好な電磁波導電性を示し、真空蒸着法により低温で大面積成膜が可能な非晶質(アモルファス)材料が好まれ、アモルファスSe(a-Se)膜が用いられているがアモルファスSeにAs、Sb、Geをドープした材料が熱安定性が良く好適な材料である。
【0039】
以上で説明した放射線画像検出器100を構成する複数の層のうち、例えば、結晶化防止層103、光導電層104、結晶化防止層105等の層を本発明の真空蒸着装置を用いて形成することができる。
【0040】
具体的には、真空蒸着装置の処理室内に、それらの各形成すべき層毎に、その層を形成するための複数種類の成膜材料を収容する成膜材料蒸発装置を用意し、アクティブマトリックス基板150上に電子注入阻止層106が予め形成されている上に、結晶化防止層105と、光導電層104と、結晶化防止層103とをこの順に各層に対応して用意された各成膜材料蒸発装置を用いて順次形成する。
【0041】
これにより、それぞれ複数の成膜材料からなる化合物の均一な成分比を有する、結晶化防止層103、光導電層104、結晶化防止層105を有する放射線画像検出器100を製造することができる。
【0042】
図2は、本実施形態に係る真空蒸着装置により上述の放射線固体検出器(FPD)100を製造(真空蒸着)する際に用いられる、支持体(ここでは、先に説明したように、アクティブマトリックス基板150の画素配列領域をすべて覆うように、電子注入阻止層106を形成し、結晶化防止層105を形成した状態のものを指す)12を保持するホルダ30の一実施例の詳細な構成を示す断面図である。
【0043】
図2において、12は上述のような状態の支持体、32は四角形の枠型に構成されているフレームであり、図示されているように、上記支持体12を保持するための段差部32aと、後述するベース34を嵌め込むための段差部32bとを有している。
【0044】
また、34は上述のフレーム32の裏面側に嵌め込まれているベースで、上記支持体12をフレーム32中に保持する機能を有するものである。
また、36は上述のフレーム32の表面側に着脱可能に係止されているマスクであり、フレーム32の開口部よりやや小さな開口部を有している、四角形の枠型形状のものである。
【0045】
なお、上述の、マスク36とフレーム32との係止方法には特に限定はなく、ビス等の係止部材を用いる方法、マスク36とフレーム32との一方に溝を、他方にこれに嵌合する突条部を設けて、これらを嵌合させる方法、あるいは、マスク36とフレーム32との一方にスプリング作用を有する溝つき突起を、他方にこれを収容可能な係止機能付き受容部を設けてこれらを嵌合させる方法など、各種の方法が利用可能である。
【0046】
本実施形態に係る真空蒸着装置において用いられる実施例のホルダ30は、上述のフレーム32およびベース34については、これを、熱伝導性の高いアルミ合金A5083(熱伝導率:117W/m・K、比重:2.66×10kg/m)により構成しており、また、マスク36については、これを、真空加熱での使用に耐え得る耐熱部材として、SUS430(融点:1425−1510℃)により構成している。
【0047】
図3は、上述のように構成されるホルダ30を用いて、図1に示した構成を有する放射線固体検出器(FPD)を作成するために、支持体12に複数のセレンを含む層を蒸着させるための、本実施例に係る真空蒸着装置40の概略構成を示す断面図である。
図3において、42は真空ポンプ50が接続されている真空チャンバ、44はセレンを含む蒸着材料(成膜材料)を加熱蒸発させるための加熱蒸発手段を示しており、44aは加熱用の電源を示している。
【0048】
この加熱蒸発手段44は、異なる蒸着材料(成膜材料)を順次蒸着させるために、通常は複数設けられるが、ここでは、1個で代表させている。この場合、複数の加熱蒸発手段44には、それぞれに蒸着材料(成膜材料)の蒸着開始・終了に対応して開閉するシャッタを設けて、蒸着成分の選択的制御を行うことが好ましい。
また、46は先に示したホルダ30のベース34の裏面に取り付けられているヒータで、ベース34を介して、支持体12を裏面から均一に加熱するためのものである。
【0049】
本実施例に係る真空蒸着装置(以下、単に装置ともいう)40は、基本的に、真空チャンバ42と、この真空チャンバ42内に配置されている支持体12を保持するホルダ30の支持機構48と、ホルダ30の裏面に取り付けられているヒータ46と、蒸着材料(成膜材料)を加熱蒸発させるための加熱蒸発手段44とから構成されており、ホルダ30の下面に保持されている基板12の表面に、複数のセレンを含む層を蒸着させて、放射線固体検出器(FPD)を製造する装置である。
【0050】
真空チャンバ42は、鉄,ステンレス,アルミニウム等で形成される、真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。
真空チャンバ42の側面には、真空排気手段を構成する真空ポンプ50が接続されている。この真空ポンプは、例えば、油拡散ポンプが用いられる。なお、真空ポンプは、特に限定されるものではなく、必要な到達真空度を達成できるものであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。一例として、クライオポンプ,ターボモレキュラポンプ等を利用することができ、さらに、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。なお、本実施例に係る装置10においては、真空チャンバ42内の到達真空度は、8.0×10−4Pa以下であるのが好ましい。
【0051】
支持体12を保持するホルダ30の支持機構48は、ホルダ30を、公知の係止方法により保持するものであり、ホルダ30を構成している材料と同様の材料、すなわち、耐熱性が略同等の材料により構成されている。
また、この支持機構48は、軸48aを固定軸として固定されていてもよく、また、この軸48aを回転軸として回転するように構成してもよい。
【0052】
真空チャンバ42の下方には、蒸着材料(成膜材料)を加熱蒸発させるための加熱蒸発手段44が配置される。加熱蒸発手段44は、前述のように、複数のセレンを含む層を蒸着させるために、一般に複数個配置される。また、各加熱蒸発手段44の上には、各加熱蒸発手段44からの蒸着材料の蒸気を遮蔽するための、それぞれが独立に制御可能に構成されたシャッタ(図示は省略)が配置されていて、このシャッタの開閉制御を行うことにより、各蒸着材料(成膜材料)の蒸発工程を実行することができる。
【0053】
なお、加熱蒸発手段44の加熱手段としては、各種のヒータ(シースヒータ)を用いることが可能である。また、加熱蒸発手段44の容器自体を通電により加熱源として用いる(いわゆる、抵抗加熱方式)ことも可能である。さらに、電子ビーム加熱や高周波加熱等を用いる加熱方式を用いること等も可能である。
また、加熱蒸発手段44を構成する容器(蒸発容器)の形状は、蒸発量に応じて、各種の公知の形状が採用可能である。例えば、ボートタイプ,ドラムタイプ,ポットタイプ等、種々の形状のものが使用可能である。サイズ(開口面積,深さ等)についても、蒸発量に応じて適宜決定することができる。
【0054】
上記の構成により、蒸着を行う際には、蒸着材料を収容した蒸発容器を真空チャンバ42内に設置し、真空チャンバ42内を真空にした状態で、ヒータにより各蒸発容器を加熱して、蒸発容器内の蒸着材料を加熱溶融し、蒸発させる。蒸発した蒸着材料は、支持体12表面に達し、膜が形成される。ここで、上述の図示されていないシャッタは、蒸着材料の加熱時初期は閉じられており、加熱が進み、蒸発速度が定常状態になったときにシャッタを開放して蒸着を開始する。
【0055】
所定厚みの膜が形成(成膜)されたら、シャッタを閉じ、真空チャンバ42内に清浄な空気を導入して、蒸着の完了した放射線固体検出器(FPD)100を取り出す。
取り出された放射線固体検出器(FPD)100は、所定の温度まで冷却し、各種の性能検査等に供される。
【0056】
一方、蒸着操作の完了した真空チャンバ42については、今回の蒸着操作の結果、支持体12を保持するホルダ30のチェックを行う。このチェックは、前述したように、放射線固体検出器(FPD)100を製造するために用いられた蒸着材料(成膜材料)が、過剰に上記ホルダ30の表面に付着していないかどうかをチェックするものである。
なお、このチェックは、1回の蒸着操作で付着する蒸着材料(成膜材料)の量が予め計測されていれば、それから推算して、前述の真空加熱方式による付着成膜材料除去処理を行う時期を決定すればよい。
【0057】
図4は、真空加熱方式による清浄化(付着成膜材料除去処理)のために別工程として行われる処理の概要を示すフローチャートである。
図4に示すように、真空加熱方式による付着成膜材料除去処理は、まず、真空蒸着装置の真空チャンバ42内のホルダ30から、所定の方法でマスク36を取り外して、取り外したマスク36を真空加熱装置内にセットする(ステップ201)。
【0058】
そして、真空加熱装置内を所定の真空度まで真空引きした後(ステップ202)、真空加熱装置内を所定の温度(例えば、250℃〜400℃)まで加熱して(ステップ203)、マスク36に付着した蒸着材料(成膜材料)を蒸発させることにより除去し、マスク36の清浄化を行うため、この真空加熱状態を予め設定されている時間だけ維持する(ステップ204でN)。
ここで、上記所定の温度の下限は材料の融点である。また、上限は加熱対象物の耐熱性により定まる。実際の温度は、これら上限下限と、所望のクリーニング時間とから適宜決定してよい。
【0059】
上記所定の時間が経過したら(ステップ204でY)、真空加熱装置内に清浄な空気を導入して真空加熱装置内を大気圧に戻すとともに、真空加熱装置内を常温に戻して、清浄化されたマスク36を真空加熱装置から取り出す(ステップ205)。
その後、取り出したマスク36について、目視検査等の方法により、付着成膜材料除去処理の結果を確認する(ステップ206)。なお、この検査では、付着成膜材料の除去具合に加えて、熱による変形の有無も検査することが好ましい。
【0060】
前述のように、本実施例においては、ホルダ30を、フレーム32については、これを熱伝導性の高いアルミ合金A5083により構成しており、また、マスク36については、これを高耐熱性を有するSUS430により構成している。このため、真空加熱方式による付着成膜材料除去処理の条件が所定範囲内に保たれていれば、マスク36の付着した蒸着材料(成膜材料)は蒸発により完全に除去されるばかりでなく、マスク36が熱により変形するというような悪影響は起こらない。
【0061】
本実施例に続けて、先に説明した好ましく用い得る材料の種々の組み合わせについて、上述の真空加熱装置を用いての同様の処理を行った結果では、いずれも良好な結果が得られた。
また、好適に用い得る範囲を外れる材料についても、数種類の組み合わせについて、同様の処理を行った結果では、いずれも良好な結果は得られなかった。
これにより、本発明に係る真空蒸着装置の有効性が確認された。
【0062】
なお、上記実施形態は、本発明の一例を示したものであり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更や改良を行ってもよいことはいうまでもない。
【0063】
例えば、上記実施形態の説明においては、本発明を、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、この蓄積された電荷を薄膜トランジスタ(TFT )により読み取る方式の放射線固体検出器を製造する場合を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用して読み取る、いわゆる光読取方式の放射線固体検出器を製造する場合にも好適に用い得るものであることは、前述の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a),(b)は、本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置により製造されるTFT方式の放射線固体検出器(FPD)の概略構成を示す断面図、(c)はその平面図である。
【図2】一実施形態に係る真空蒸着装置に用いられるホルダの一実施例の詳細な構成を示す断面図である。
【図3】一実施形態に係る真空蒸着装置の概略構成を示す断面図である。
【図4】一実施形態に係る真空加熱方式による清浄化(付着成膜材料除去処理)の概要を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
12 支持体
30 ホルダ
32 フレーム
32a 支持体を保持するための段差部
32b ベースを嵌め込むための段差部
34 ベース
36 マスク
40 真空蒸着装置
42 真空チャンバ
44 加熱蒸発手段
44a 加熱用の電源
46 ヒータ
48 ホルダの支持機構
50 真空ポンプ
100 放射線固体検出器(FPD)
101 バイアス電極
102 正孔注入阻止層
103,105 結晶化防止層
104 光導電層
106 電子注入阻止層
107 電荷検出層
108 ガラス基板
150 アクティブマトリックス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に成膜材料を真空蒸着させて膜を形成する真空蒸着装置において、
前記基板を保持する基板ホルダを、基板保持部と蒸着領域規制部材とから構成し、
前記基板保持部と前記蒸着領域規制部材とを異なる材料から構成するとともに、
前記基板保持部を伝導率100W/m・K以上、かつ比重4.0×10kg/m以下の材料で、
前記蒸着領域規制部材を融点1300℃以上の材料で
それぞれ構成してなることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸着領域規制部材が、前記基板を保持する基板ホルダと脱着可能に構成されてなる請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記基板保持部を構成する熱伝導率100W/m・K以上、かつ比重4.0×10kg/m以下の材料が、アルミニウム並びにアルミニウム合金のいずれかであり、前記蒸着領域規制部材を構成する融点1300℃以上の材料が、ステンレス鋼、鉄、チタン、白金、クロム、モリブデン、タンタル、タングステンのいずれかである請求項1または2に記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248311(P2008−248311A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90566(P2007−90566)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】