説明

石炭灰を原料とした傾斜機能材料及びその製造方法

【課題】石炭灰を有効に利用でき、かつ、強度低下の原因となる欠陥が少ない傾斜機能材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】例えば、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層、あるいは、基材上に設けた合金層の上に、合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、合金と石炭灰との混合組成が異なる複数の混合物を用いて、合金層側が石炭灰の濃度が最も低く、合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成し、中間層上に石炭灰からなる石炭灰層を形成することにより、石炭灰を有効に利用でき、かつ、強度低下の原因となる欠陥が少ない傾斜機能材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰を有効に利用した傾斜機能材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、火力発電所などの石炭燃焼に伴い排出される石炭灰は、セメント分野(セメント原材料、セメント混和材、コンクリート混和材)、土木分野(地盤改良材、土木工事用、電力工事用、道路路盤材、アスファルト・フィラー材、炭坑充填材)、建築分野(建材ボード、人工軽量骨材、コンクリート2次製品)、農林・水産分野(肥料、融雪材、土壌改良剤)、下水汚水処理分野(下水汚水処理剤)等に有効に利用されているが、一部の石炭灰が産業廃棄物として埋め立て処分されており、埋め立て処分場の不足が懸念されている。そのため、石炭灰を更に有効に利用することができる技術の開発が求められている。
【0003】
石炭灰の有効利用技術としては、石炭灰を放電プラズマ焼結法により焼結することにより得られるバルク体が開発されている (非特許文献1)。このバルク体は、直接高温条件下で使用できないため、金属(例えば、FeまたはNiを主成分とする合金)等の構造母材と接合する必要があるが、構造母材と接合する際に強度低下の原因となる欠陥(例えば、亀裂、剥離など)が多く導入される可能性がある。従って、強度低下の原因となる欠陥が少なく、石炭灰を有効に利用できるバルク体の開発が求められている。
【0004】
また、石炭灰の有効利用技術としては、基材上に石炭灰からなるコーティング層を形成した構造用素材が開発されている(特許文献1)。しかしながら、この素材においては、石炭灰のコーティング層と基材(例えば、金属など)との熱膨張率が大きく異なると、溶射施工の際に強度低下の原因となる欠陥(例えば、亀裂など)が多く導入されるという問題がある。従って、強度低下の原因となる欠陥が少なく、石炭灰を有効に利用できる素材の開発が求められている。
【非特許文献1】粉体粉末冶金協会講演概要集平成17年度秋季大会、金子玄洋、森美穂子、北川裕之、長谷崎和洋、田中等、「放電プラズマ焼結法(SPS)によるFly Ashバルク材の作製と評価」、P68
【特許文献1】特開2006−21946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、石炭灰を有効に利用でき、かつ、強度低下の原因となる欠陥が少ない傾斜機能材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層または合金板、あるいは、基材上に設けた前記合金層と石炭灰層との間に、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を設け、中間層の合金層側または合金板側が前記合金の濃度が高く、中間層の石炭灰層側が前記合金の濃度が低くなるようにし、合金層または合金板に接する中間層の領域を合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる層とした傾斜機能材料は、石炭灰の有効利用に資することができるばかりではなく、強度低下の原因となる欠陥(亀裂や剥離など)が少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る傾斜機能材料は、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層あるいは合金板と、石炭灰からなる石炭灰層と、前記合金層あるいは前記合金板と前記石炭灰層との間に設けられ、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層と、を有し、前記中間層は、前記合金層側あるいは前記合金板側が前記合金の濃度が高く、前記石炭灰層側が前記合金の濃度が低く構成され、前記合金層あるいは前記合金板に接する前記中間層の領域が、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る傾斜機能材料は、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層あるいは合金板と、前記合金層あるいは前記合金板の上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる第1の中間層と、前記第1の中間層上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を50重量部で混合した混合物からなる第2の中間層と、前記第2の中間層上に設けられた石炭灰からなる石炭灰層と、を有する。
【0009】
さらに、本発明に係る傾斜機能材料は、基材と、前記基材上に設けられた、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層と、石炭灰からなる石炭灰層と、前記合金層と前記石炭灰層との間に設けられ、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層と、を有し、前記中間層は、前記合金層側が前記合金の濃度が高く、前記石炭灰層側が前記合金の濃度が低く構成され、前記合金層に接する前記中間層の領域が、前記合金100重量部に対して石炭灰10重量部以下で混合した混合物からなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る傾斜機能材料は、基材と、前記基材上に設けられた、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層と、石炭灰からなる石炭灰層と、前記合金層と前記石炭灰層との間に設けられた中間層と、を有するものであって、前記中間層は、前記合金層上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる第1の中間層と、前記第1の中間層上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を50重量部で混合した混合物からなる第2の中間層と、を有する。
【0011】
本発明に係る傾斜機能材料の製造方法は、FeまたはNiを主成分とする合金粉末からなる合金粉末層あるいは合金板の上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が異なる複数の混合物を、前記合金粉末層側から前記石炭灰粉末の濃度が低い混合物から順に積層して、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成する工程と、前記中間層上に石炭灰粉末からなる石炭灰粉末層を形成する工程と、前記合金粉末層、前記中間層、及び前記石炭灰粉末層を含む積層物を焼結する工程と、を含む。
【0012】
また、本発明に係る傾斜機能材料の製造方法は、FeまたはNiを主成分とする合金粉末からなる合金粉末層あるいは合金板の上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した混合物からなる第1の中間層を形成する工程と、前記第1の中間層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を50重量部で混合した混合物からなる第2の中間層を形成する工程と、前記第2の中間層上に石炭灰粉末からなる石炭灰粉末層を形成する工程と、前記合金粉末層、前記第1の中間層、前記第2の中間層、及び前記石炭灰粉末層を含む積層物を焼結する工程と、を含む。
なお、前記焼結は、例えば、パルス通電加圧焼結法などにより行ってもよい。
【0013】
さらに、本発明に係る傾斜機能材料の製造方法は、基材上に、FeまたはNiを主成分とする合金粉末を溶射して合金層を形成する工程と、前記合金層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が異なる複数の混合物を、前記合金粉末層側から前記石炭灰粉末の濃度が低い混合物から順に溶射し、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成する工程と、前記中間層上に石炭灰粉末を溶射して石炭灰層を形成する工程と、を含む。
【0014】
また、本発明に係る傾斜機能材料の製造方法は、基材上に、FeまたはNiを主成分とする合金粉末を溶射して合金層を形成する工程と、前記合金層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した混合物を溶射して第1の中間層を形成する工程と、前記第1の中間層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を50重量部で混合した混合物を溶射して第2の中間層を形成する工程と、前記第2の中間層上に石炭灰粉末を溶射して石炭灰層を形成する工程と、を含む。
なお、前記溶射は、例えば、プラズマ溶射法などにより行ってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、石炭灰を有効に利用でき、かつ、強度低下の原因となる欠陥が少ない傾斜機能材料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0017】
==本発明に係る傾斜機能材料==
実施例に示すように、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層または合金板、あるいは、基材上に設けた前記合金層と石炭灰層との間に、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を設け、中間層の合金層側または合金板側が前記合金の濃度が高く、中間層の石炭灰層側が前記合金の濃度が低くなるようにし、合金層または合金板に接する中間層の領域を合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる層とした、本発明に係る傾斜機能材料は、石炭灰の有効利用に資することができるばかりではなく、強度低下の原因となる欠陥(亀裂や剥離など)が少ない。特に、上述の合金層または合金板、中間層、石炭灰層を有する焼結体(バルク体)は、合金層または合金板を有することから耐熱性においても優れている。また、基材上に上述の合金層、中間層、及び石炭灰層を有する石炭灰コーティング部材は、熱サイクル特性に優れている。
【0018】
従って、本発明に係る傾斜機能材料は、耐摩耗部品や石炭灰セラミックスコーティング部材等のセラミックス製品(例えば、タイル、レンガ、回路基板など)などに有用であり、これらの製品などを低コストで提供することができるようになる。また、石炭灰の有効利用率を向上させて、埋め立て処分場不足を緩和するとともに新しいセラミックス製品製造および産業創出に寄与することができるようになる。
【0019】
なお、本発明に係る傾斜機能材料の中間層は、FeまたはNiを主成分とする合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化するものであって、合金層に接する領域が、FeまたはNiを主成分とする合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる層であれば特に制限されるものではなく、例えば、前記合金と石炭灰との混合組成が異なる2つの混合物(例えば、FeまたはNiを主成分とする合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物と、前記合金100重量部に対して石炭灰を50重量部で混合した混合物)からなるものであってもよいし、3以上の混合物からなるものであってもよい。
【0020】
==本発明に係る傾斜機能材料の製造方法==
上述のような傾斜機能材料は、例えば、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層または合金板、あるいは、基材上に設けた前記合金層の上に、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、前記合金と石炭灰との混合組成が異なる複数の混合物を用いて、合金層側が石炭灰の濃度が最も低く、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成し、中間層上に石炭灰からなる石炭灰層を形成することにより製造することができる。
【0021】
上述の各層は、例えば、FeまたはNiを主成分とする合金粉末からなる合金粉末層あるいは合金板の上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、前記合金と石炭灰との混合組成が異なる複数の混合物を、前記合金粉末層側から石炭灰の濃度が低い混合物から順に積層して、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成し、中間層上に石炭灰粉末からなる石炭灰粉末層を型内で形成した後、この積層物を焼結することにより形成することができる。また、各層を形成させるための粉末を基材上あるいは層上にそれぞれ溶射してコーティングすることにより形成することができる。
【0022】
上述の焼結は、例えば、パルス通電加圧焼結法(放電プラズマ焼結法、放電焼結法、放電加圧焼結法、プラズマ活性化焼結法等を含む。)、ホットプレス法などの公知の方法により行うことができる。また、上述の溶射は、例えば、プラズマ溶射法、ガス燃焼フレーム溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法、線爆溶射法、水プラズマ溶射法などの公知の方法により行うことができる。
【0023】
なお、上述の基材としては、基材自体が、あるいは、少なくとも基材の表面が、例えば、金属板、合金板、セラミックス(ガラス、陶磁器、耐火レンガ、セメント、タイル、ファインセラミックス等)などで構成されているものを用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
[実施例1]
まず、原料として石炭灰粉と合金粉とを用いて、パルス通電加圧焼結法により石炭灰層、Ni-Cr合金/石炭灰傾斜層(中間層)、Ni-Cr合金層等を有する焼結体(バルク体:図1参照)を作製し、得られたバルク体の各層間の接合界面にキズ(亀裂)があるかどうかを浸透探傷試験により調べた。
【0026】
石炭灰粉末(粒径:1〜100μm程度、主成分としてSiO2:63.5±5.1%、Al2O3:22.5±3.0%、Fe2O3:4.3±1.0%、C:2.5±2.0%、CaO:1.8±1.3%を含む。)及びNi-Cr粉末(粒径:145μm以下、組成=Cr:20.0±1.5%、残部Ni)を電子天秤にて秤量してこれらの粉末を適宜混合し、表1に示す各層の原料粉を調製した。調製した各層の原料粉(総重量を30gとした。)を第1層から順にPLASMAN(エスエスアロイ株式会社製)の30.0mmφのダイス内に積層した後、パンチで挟み、装置内の圧力を10Paに減圧し、パンチに50MPaの圧力を加えながら、1000℃までパルス電流(100Aで最大電圧5.0V)を加えた。その後、10分間で常温に冷却し、No.1〜No.3のバルク体(直径3cm×高さ1.8cm)を製造した。
【表1】

【0027】
得られたバルク体をそれぞれ切断し、JIS Z 2343「非破壊試験−第一部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類」に準じた浸透探傷試験を行った。その結果を表2に示す。
【表2】

【0028】
表2に示すように、従来の、合金と石炭灰とを混合した混合物からなる層を有していないバルク体、すなわち、合金層と石炭灰層とからなるバルク体(No.2のバルク体)では、合金層と石炭灰層との接合界面からそれぞれの層が剥離しているのが観察されたが、10:100の重量比で石炭灰と合金とを混合した原料粉からなる層(第2層)を合金層(第1層)上に有するバルク体(No.1のバルク体)では、浸透探傷試験により各層間の接合界面においてキズ(亀裂)を検出するのが困難であった。また、15:100の重量比で石炭灰と合金とを混合した原料粉からなる層(第2層)を合金層(第1層)上に有するバルク体(No.3のバルク体)では、第1層と第2層との接合界面において亀裂が観察された。
【0029】
以上のことから、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層(合金板であってもよい。)と石炭灰層との間に前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を設け、中間層の合金層側が前記合金の濃度が高く、中間層の石炭灰層側が前記合金の濃度が低くなるようにし、合金層に接する中間層の領域を前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる層とすることにより、各層の接合界面において強度低下の原因となる欠陥(亀裂や剥離など)の発生を抑制できることがわかった。また、このような層からなるバルク体は、石炭灰の有効利用に資することができ、合金層や合金板を有することから高温部にさらされる場所でも使用でき、耐熱性に優れている。
【0030】
さらに、合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる層上に、少なくとも合金100重量部に対して石炭灰を50重量部以下で混合した混合物からなる層を設けることにより、強度低下の原因となる亀裂の発生を抑制できることが示された。
【0031】
また、石炭灰からなる石炭灰層と接する中間層の領域を、少なくとも合金100重量部に対して石炭灰を50重量部以上で混合した混合物からなる層とすることにより、強度低下の原因となる亀裂の発生を抑制できることが示された。
【0032】
[実施例2]
次に、原料として石炭灰粉と合金粉とを用いて、金属板表面に石炭灰粉、合金粉、石炭灰粉と合金粉との混合物等をコーティングし、石炭灰層、Ni-Cr合金/石炭灰傾斜層(中間層)、Ni-Cr合金層等を有する基材(石炭灰コーティング部材)を作成し、各層間の接合界面にキズ(亀裂)があるかどうかを浸透探傷試験により調べた。なお、本実施例においては、金属板として構造用炭素鋼SS400を用いた。
【0033】
金属板表面の油脂をアセトンで除去した後、下地処理として昭和電工製褐色アルミナ(品名:A43)粒度#20を用いて金属板表面のブラスト処理を行った。その後、石炭灰粉末(粒径:1〜100μm程度)をスプレードライヤーで平均粒径が100μm程度になるように造粒し、この石炭灰及びNi-Cr粉末を用いて、表3に示す各層の原料粉を調製した。調製した各層の原料粉を第1層から順に金属板表面にプラズマ溶射し、No.4〜No.6の石炭灰コーティング部材を製造した。なお、各層の厚みは0.1mmとした。また、プラズマ溶射は、スルザーメテコ社製F-4プラズマ溶射装置(アルゴンガス流量:40liter/min、水素ガス流量:10liter/min、電流:600A)を用いて行った。
【表3】

【0034】
得られた石炭灰コーティング部材をそれぞれ切断し、JIS Z 2343「非破壊試験−第一部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類」に準じた浸透探傷試験を行った。その結果を表4に示す。
【表4】

【0035】
表4に示すように、従来の、合金と石炭灰とを混合した混合物からなる層を有していない石炭灰コーティング部材、すなわち、合金層と石炭灰層とからなる石炭灰コーティング部材(No.5の石炭灰コーティング部材)では、合金層と石炭灰層との接合界面からそれぞれの層が剥離しているのが観察されたが、10:100の重量比で石炭灰と合金とを混合した原料粉からなる層(第2層)を合金層(第1層)上に有する石炭灰コーティング部材(No.4の石炭灰コーティング部材)では、浸透探傷試験により各層間の接合界面においてキズ(亀裂)を検出するのが困難であった。また、15:100の重量比で石炭灰と金属とを混合した原料粉からなる層(第2層)を合金層(第1層)上に有する石炭灰コーティング部材(No.6の石炭灰コーティング部材)では、第1層と第2層との接合界面において亀裂が観察された。
【0036】
以上のことから、基材上のFeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層と石炭灰層との間に前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を設け、中間層の合金側が前記合金の濃度が高く、中間層の石炭灰層側が前記合金の濃度が低くなるようにし、合金層に接する中間層の領域を前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなるコーティング層とすることにより、各層の接合界面において強度低下の原因となる欠陥(亀裂や剥離など)の発生を抑制できることがわかった。また、このようなコーティング層からなる石炭灰コーティング部材は、石炭灰の有効利用に資することができる。
【0037】
[実施例3]
次に、No.4及びNo.6の石炭灰コーティング部材に対してヒートサイクル試験を実施し、熱サイクル特性を評価した。なお、ヒートサイクル試験は、300℃の高温大気に20分間保持した後、圧力0.3MPaの圧縮空気で2分間空冷する操作を1サイクルとして、10, 30, 100, または300サイクル行った。その結果を表5に示す。
【表5】

【0038】
表5に示すように、No.6の石炭灰コーティング部材は、全てのヒートサイクル試験において外観に割れの発生がみられたが、No.4の石炭灰コーティング部材は、どのヒートサイクル試験においても外観上にひび割れやその他の異常もみられず、健全であった。
【0039】
以上のことから、各層の接合界面において強度低下の原因となる亀裂を検出できないNo.4の石炭灰コーティング部材は、熱サイクル特性におけて優れていることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例において、石炭灰及び合金(Ni-Cr)を原料として製造した、石炭灰層、Ni-Cr合金/石炭灰傾斜層、Ni-Cr合金層等を有するバルク体の概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層あるいは合金板と、石炭灰からなる石炭灰層と、前記合金層あるいは前記合金板と前記石炭灰層との間に設けられ、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層と、を有し、
前記中間層は、前記合金層側あるいは前記合金板側が前記合金の濃度が高く、前記石炭灰層側が前記合金の濃度が低く構成され、
前記合金層あるいは前記合金板に接する前記中間層の領域が、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなることを特徴とする傾斜機能材料。
【請求項2】
FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層あるいは合金板と、
前記合金層あるいは前記合金板の上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる第1の中間層と、
前記第1の中間層上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を50重量部で混合した混合物からなる第2の中間層と、
前記第2の中間層上に設けられた石炭灰からなる石炭灰層と、を有することを特徴とする傾斜機能材料。
【請求項3】
基材と、前記基材上に設けられた、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層と、石炭灰からなる石炭灰層と、前記合金層と前記石炭灰層との間に設けられ、前記合金と石炭灰との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層と、を有し、
前記中間層は、前記合金層側が前記合金の濃度が高く、前記石炭灰層側が前記合金の濃度が低く構成され、
前記合金層に接する前記中間層の領域が、前記合金100重量部に対して石炭灰10重量部以下で混合した混合物からなることを特徴とする傾斜機能材料。
【請求項4】
基材と、前記基材上に設けられた、FeまたはNiを主成分とする合金からなる合金層と、石炭灰からなる石炭灰層と、前記合金層と前記石炭灰層との間に設けられた中間層と、を有する傾斜機能材料であって、
前記中間層は、
前記合金層上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を10重量部以下で混合した混合物からなる第1の中間層と、
前記第1の中間層上に設けられた、前記合金100重量部に対して石炭灰を50重量部で混合した混合物からなる第2の中間層と、を有することを特徴とする傾斜機能材料。
【請求項5】
FeまたはNiを主成分とする合金粉末からなる合金粉末層あるいは合金板の上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が異なる複数の混合物を、前記合金粉末層側から前記石炭灰粉末の濃度が低い混合物から順に積層して、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成する工程と、
前記中間層上に石炭灰粉末からなる石炭灰粉末層を形成する工程と、
前記合金粉末層、前記中間層、及び前記石炭灰粉末層を含む積層物を焼結する工程と、を含むことを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項6】
FeまたはNiを主成分とする合金粉末からなる合金粉末層あるいは合金板の上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した混合物からなる第1の中間層を形成する工程と、
前記第1の中間層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を50重量部で混合した混合物からなる第2の中間層を形成する工程と、
前記第2の中間層上に石炭灰粉末からなる石炭灰粉末層を形成する工程と、
前記合金粉末層、前記第1の中間層、前記第2の中間層、及び前記石炭灰粉末層を含む積層物を焼結する工程と、を含むことを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項7】
前記焼結をパルス通電加圧焼結法により行うことを特徴とする請求項5または6に記載の傾斜機能材料の製造方法。
【請求項8】
基材上に、FeまたはNiを主成分とする合金粉末を溶射して合金層を形成する工程と、
前記合金層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した1又は2以上の混合物を含む、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が異なる複数の混合物を、前記合金粉末層側から前記石炭灰粉末の濃度が低い混合物から順に溶射し、前記合金粉末と前記石炭灰粉末との混合組成が連続的または段階的に変化する中間層を形成する工程と、
前記中間層上に石炭灰粉末を溶射して石炭灰層を形成する工程と、を含むことを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項9】
基材上に、FeまたはNiを主成分とする合金粉末を溶射して合金層を形成する工程と、
前記合金層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を10重量部以下で混合した混合物を溶射して第1の中間層を形成する工程と、
前記第1の中間層上に、前記合金粉末100重量部に対して石炭灰粉末を50重量部で混合した混合物を溶射して第2の中間層を形成する工程と、
前記第2の中間層上に石炭灰粉末を溶射して石炭灰層を形成する工程と、を含むことを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項10】
前記溶射をプラズマ溶射法により行うことを特徴とする請求項8または9に記載の傾斜機能材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88517(P2008−88517A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272118(P2006−272118)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】