説明

硬化性樹脂フィルム、接着性エポキシ樹脂フィルム、非導電性フィルム及びダイアタッチフィルム

【課題】 硬化前は取り扱い性に優れ、硬化後は、各種接着信頼性を発現し得る硬化性樹脂フィルム、及びこの硬化性樹脂フィルムからなる接着性エポキシ樹脂フィルム、非導電性フィルム、並びにダイアタッチフィルムを提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂と、エポキシ基を有しエポキシ当量が100 〜1000のポリマー(好ましくは、Mwが20万以上100 万未満でアクリルニトリルに由来する構造単位を有する)と、エポキシ樹脂用硬化剤とを有する硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなる硬化性樹脂フィルムであって、上記ポリマーの配合部数が好ましくは上記エポキシ樹脂との合計量100 重量部に対し10重量部以上50重量部未満であり、かつ、硬化前のフィルムの温度23℃の被膜強度が9.8 ×105 N/m2 以上で伸び率が10%以上であるフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用接着剤として好適に用いられる硬化性樹脂フィルム、接着性エポキシ樹脂フィルム、非導電性フィルム及びダイアタッチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置に対する小型化や高性能化の要求に対し、様々な電子材料用接着剤が開発されてきた。
これらの電子材料用接着剤には、各特性に対する高度の信頼性が求められるために、硬化収縮が少なくて高い接着力を有し、かつ、種類が豊富で配合設計が容易なエポキシ樹脂が最も良く用いられている。一般に作業性に優れている点で、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂やビスフェノールF型液状エポキシ樹脂等の汎用液状エポキシ樹脂が多用されている。
しかし、現在の各種信頼性に対するさらに高い要求には、これら汎用の液状エポキシ樹脂を用いた電子材料用接着剤では十分には対応できなくなって来つつあり、新しいエポキシ樹脂、又は新しいエポキシ系樹脂組成物の開発が要請されている。
【0003】
電子材料用接着剤として求められる具体的な要求性能としては、例えば、接着信頼性(耐熱性、耐湿性、耐冷熱サイクル性、耐ハンダリフロー性)、貯蔵安定性、即硬化性等が挙げられる。
中でも、耐湿性及び耐ハンダリフロー性の観点から、硬化した接着剤の吸水率が低く吸水量が小さいことが必ず必要とされている。これは、硬化した接着剤の吸水率が高いと接着界面に水が浸入しやすくなって、界面の接着力を低下させる恐れがあるからである。また200〜260℃に達するハンダリフロー温度によって水分が急激に気化し、電子部品が破壊される恐れがあるからである。
【0004】
また、耐冷熱サイクル性を向上させるために、無機フィラーを多量に充填して線膨張係数(線膨張率)を小さくすることが行われているが、無機フィラーを多量に充填すると、線膨張係数は小さくなるものの、接着剤の弾性率が高くなるため、硬化した接着剤が応力緩和し難くなるという問題点があった。
そこで、上記発生する応力を低減させるため、エポキシ樹脂とアクリルゴムとを含有させた、回路接続用フィルム状接着剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、ゴムポリマーを添加したフィルム状接着剤では、耐熱性を低下させるという犠牲を払って応力緩和を達成させているため、耐冷熱サイクル性は向上するものの、高い耐熱性・耐湿性と高い耐冷熱サイクル性とを両立させることは、実質上困難であった。
【0005】
また、接着剤をフィルム状に加工した接着フィルムとして用いる場合には、充填されている無機フィラーが、硬化前の接着フィルムの強度を低下させてしまったり、ビア孔を必要とする基板に用いる際にはレーザーによる加工を難しくしたり、精度の高いビア孔の形成を困難にするという問題点があった。
更に、現在、電子材料用接着材として、例えば、シリコンウエハの加工にダイアタッチフィルムが用いられており、エポキシ樹脂(B−1)とエポキシ樹脂用硬化剤(B−2)との樹脂組成物が熱硬化型接着成分(B)として用いられているものが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、エポキシ樹脂を用いた硬化性樹脂フィルムという点でみると、後述するような問題点がある。
【0006】
尚、ダイアタッチフィルムは、半導体ウェハーを加工する際、例えば、シリコンチップと、金属フレーム・多層板・有機基板(ビルドアップ基板等)・セラミクス基板等とを接合する際に用いられるフィルム絶縁材料であり、上述の電子材料用接着剤として求められる要求性能と同様な性能が求められる。
【0007】
【特許文献1】特許第3342703号明細書:請求項2等
【特許文献2】特開2002−294177号公報:請求項1及び段落0030等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、電子材料用接着剤としてエポキシ系の硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなるダイアタッチフィルムの研究を進める過程で、シリコンウエハへの貼付・接合に始まりダイシング、ボンディングという一連の作業に適用されるダイアタッチフィルムについては、フィルムの物性によっては、一連の加工プロセス中にフィルムの割れや変形・破断が生じること、即ち、ダイアタッチフィルムにはハンドリング性(取り扱い性)も要求されることを確認した。
【0009】
本発明は、エポキシ系の硬化性樹脂組成物に関する従来の技術及び上記発明者等の知見を下に完成されたものであり、その目的は、硬化前は取り扱い性に優れ、硬化後は、各種接着信頼性を発現し得る硬化性樹脂フィルム、及びこの硬化性樹脂フィルムからなる接着性エポキシ樹脂フィルム、非導電性フィルム、並びにダイアタッチフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明(以下、「本発明1」と記す)の硬化性樹脂フィルムは、エポキシ樹脂と、エポキシ基を有しエポキシ当量が100〜1000であるポリマーと、エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなる硬化性樹脂フィルムであって、硬化前のフィルムの温度23℃における被膜強度が9.8×105 N/m2 以上であり、かつ伸び率が10%以上であることを特徴とする。
請求項2に記載の発明(以下、「本発明2」と記す)の硬化性樹脂フィルムは、請求項1記載の硬化性樹脂フィルムにおいて、エポキシ基を有するポリマーが、重量平均分子量が20万以上100万未満であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明(以下、「本発明3」と記す)の硬化性樹脂フィルムは、請求項1又は2記載の硬化性樹脂フィルムにおいて、エポキシ基を有するポリマーの配合部数が、エポキシ樹脂との合計量100重量部に対し10重量部以上50重量部未満であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明(以下、「本発明4」と記す)の硬化性樹脂フィルムは、請求項1〜3の何れかに記載の硬化性樹脂フィルムにおいて、エポキシ基を有するポリマーが、アクリルニトリルに由来する構造単位を有していることを特徴とする。
請求項5に記載の発明(以下、「本発明5」と記す)の接着性エポキシ樹脂フィルムは、請求項1〜4の何れかに記載の硬化性樹脂フィルムからなることを特徴とする。
請求項6に記載の発明(以下、「本発明6」と記す)の非導電性フィルムは、請求項5記載の接着性エポキシ樹脂フィルムからなることを特徴とする。
請求項7に記載の発明(以下、「本発明7」と記す)のダイアタッチフィルムは、請求項5記載の接着性エポキシ樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0012】
次に各発明内容について詳述する。
なお、本発明でいう接着剤には粘着剤も包含されるものとする。
【0013】
本発明1の硬化性樹脂フィルムは、エポキシ樹脂と、エポキシ基を有しエポキシ当量が100〜1000であるポリマーと、エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなるものである。ここで「エポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を2個以上有する未硬化の樹脂をいう。
【0014】
エポキシ樹脂の種類は特に限定されないが、多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂であることが好ましい。多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂を含有すると、その硬化物は、剛直で分子の運動が阻害されるものとなり、優れた機械的強度や耐熱性を発現するとともに、吸水性も低くなるため優れた耐湿性を発現することとなるからである。また、エポキシ基を有しエポキシ当量が100〜1000であるするポリマーを含有すると、その硬化物は、優れた可撓性を発現することとなる。
【0015】
即ち、本発明1の硬化性樹脂フィルムの硬化物は、上記多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂に由来する優れた機械的強度、優れた耐熱性、優れた耐湿性等と、上記エポキシ基を有するポリマーに由来する優れた可撓性とを兼備することとなるので、耐冷熱サイクル性、耐ハンダリフロー性、寸法安定性等に優れるものとなり、高い接着信頼性や高い導通信頼性を発現することとなる。
【0016】
上記エポキシ基を有するポリマーとしては、末端及び/又は側鎖(ペンダント位)にエポキシ基を有するポリマーであれば良いが、本発明の硬化性樹脂フィルムの機械的強度や耐熱性がより優れ、硬化前の被膜強度を上げるものとして、エポキシ基を有するアクリル樹脂が好適に用いられる。
エポキシ基を有するアクリル樹脂を構成するモノマーとしては、アクリル酸もしくはメタクリル酸エステルモノマー、又はアクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体等が挙げられ、具体的には、例えば、ブチルアクリレート(BA)、メチルメタクリレート(MMA)、ノルマルブチルメタクリレート(nBMA)、グリシジルメタクリレート(GMA)や、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、アクリロニトリル(AN)等が挙げられ、通常、これらの2種以上が共重合される。
【0017】
また、一般にアクリル系樹脂(アクリル系ポリマー)は溶剤を媒体とした溶液重合法で製造されることが多いが、溶液重合法では、高分子量のアクリル系樹脂が生成する際に、溶液の粘度が極端に上昇したり、場合によってはゲル化する恐れがあるため、高分子量のアクリル系樹脂を得ることが難しい。また、溶液重合法では、未反応のモノマーが残留しやすいため、残留モノマーを溶剤とともに除去する必要が生じ、製造工程が煩雑になる。
【0018】
例えば、エポキシ基を有するアクリル系モノマーとしてグリシジルメタクリレート(GMA)を用い、他のアクリル系モノマー中にGMAを多量に添加して溶液重合を行うと、エポキシ基自体の凝集力によって、比較的低分子量(重量平均分子量10000未満)のエポキシ基を有するアクリル樹脂しか得ることができず、より高分子量のエポキシ基を有するアクリル樹脂を得ようとすると、上記のような極度の粘度上昇やゲル化が起こりやすくなる。
一方、上記GMA等を用いて、エポキシ基を有するアクリル樹脂の製造を水又は非溶剤を媒体とした懸濁重合法で行うと、エポキシ基を多く含み、かつ、高分子量のエポキシ基を有するアクリル樹脂を得ることができる。このエポキシ基を有するアクリル樹脂は、モノマーが殆ど残留しないクリーンな樹脂であるとともに、重合系からの分離操作も容易であるので、製造工程が簡略になる。
【0019】
即ち、本発明の硬化性樹脂フィルムに用いられるエポキシ基を有するポリマー、好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂は、懸濁重合法で製造されたポリマーであることが好ましい。懸濁重合法で製造されたエポキシ基を有するポリマー、好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂、を用いることにより、本発明の硬化性樹脂フィルムの硬化物は、より優れた機械的強度や耐熱性を発現するものとなる。
【0020】
また本発明の硬化性樹脂フィルムは、硬化前のフィルムの温度23℃における被膜強度が9.8×105 N/m2 以上であり、かつ伸び率が10%以上であることを必要とする。
本発明における硬化前のフィルムの被膜強度とは、硬化前のフィルムに引張り試験を施した際に、破断に到るまでの応力−歪み曲線(S−Sカーブ)における最大値から算出されるもので、所謂、最大被膜強度となるものである。
9.8×105 N/m2 未満であると被膜が弱く、変形、伸びなどフィルムが変形し易く、また伸び率が10% 未満であると、被膜強度が9.8×105 N/m2 以上であってもフィルムとして脆いため、フィルムのカット・裁断時にフィルムの割れが発生し易く、また、引っ張り、曲げによる破断、割れなどの問題が発生し易く取り扱いが困難になるからである。
【0021】
また、上記エポキシ基を有するポリマー(好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂)は、そのエポキシ当量の下限が100、上限が1000であることを必要とし、特に下限が200,上限が800であることが好ましい。
エポキシ基を有するポリマー、好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ当量が100未満であると、硬化性樹脂組成物の硬化物の可撓性が充分に向上しないことがあり、逆にエポキシ基を有するポリマー、好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ当量が1000を超えると、硬化性樹脂組成物の硬化物の機械的強度や耐熱性が不充分となることがある。
【0022】
硬化前のフィルムにおいて高い被膜強度を得るには、上記エポキシ基を有するポリマー、好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂は、重量平均分子量が20万以上100万未満であることが好ましく、特に30万以上50万未満であることが好ましい。
エポキシ基を有するポリマー、好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂、の重量平均分子量が20万未満であると、硬化前のフィルムの被膜強度が弱くフィルム単独としての取り扱いが困難であり、また100万を越えると溶剤への溶解性が悪くなり溶液化が困難になる傾向がある。
一方、重量平均分子量が20万以上の場合は、ポリマー単体での被膜強度が添加量を上げることによりポリマー単体での被膜特性が発現し、硬化前のフィルムの被膜強度が高くなり機械的強度が向上する。
【0023】
上記エポキシ基を有するポリマーの添加量は、特に限定されるものではないが、本発明におけるエポキシ樹脂との合計量100重量部に対し10重量部以上50重量部未満の割合で配合することが好ましく、特に好ましくはエポキシ樹脂との合計量100重量部に対し、15重量部以上30重量部未満である。
10重量部以上50重量部未満の割合で配合することによって、ガラス転移温度が上昇しても硬化前の被膜強度が向上し初期に割れのないハンドリング性に優れたフィルムを形成することがきる。10重量部未満であるとポリマー単体での被膜強度の特性が発現せずに被膜が脆くなり、また50重量部以上になると、室温における貯蔵安定性が低下するとともに、上記エポキシ樹脂の相対的割合が低下するために被膜強度が上がらず硬化後の接合信頼性が悪化する恐れがある。
また、被膜強度の向上によってガラス転移温度を上げることが可能となり、硬化前の状態でタックの無い状態としてよりハンドリング性に優れたフィルムとすることができる。
【0024】
また、エポキシ基を有するポリマー(好ましくはエポキシ基を有するアクリル樹脂)は、アクリルニトリルに由来する構造単位を有していること、具体的には、重合に供するモノマーにはアクリルニトリルをも含有させることが好ましい。
即ち、本発明4の硬化性樹脂フィルムは、「エポキシ基を有するポリマーが、アクリルニトリルを構成単位として有する重合体であることを特徴としている」と換言することができる。
アクリルニトリルモノマーは炭素窒素間の三重結合に基づく極性が強いため、その構造単位が導入されたポリマーは分子間相互作用が大きいので、硬化前のフィルムの被膜強度が高くなり、アクリルニトリルを供しなかった場合よりも、硬化性樹脂フィルムの機械的強度がより向上することとなる。
【0025】
本発明における硬化性樹脂組成物では、たとえば、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、ナフタレン型エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂用硬化剤とが混合されてなるエポキシ樹脂組成物に、コアのガラス転移温度が20℃以下であり、シェルのガラス転移温度が40℃以上であるコアシェル構造のゴム粒子が含有されてなる組成物が好ましい。
【0026】
本発明の硬化性樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されず、例えば、先ず、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、攪拌脱泡機、ニーダー、2本ロール、3本ロール、押出機等の公知の各種混練機を単独で用いるか又は併用して、それぞれの必須成分の各所定量と、含有されていても良い各種成分の各所定量と、添加されていても良い各種添加剤の1種類若しくは2種類以上の各所定量とを、常温下若しくは加熱下で、常圧下、減圧下、加圧下若しくは不活性ガス気流下等の条件下で均一に混練することにより、所望の硬化性樹脂組成物を製造することができる。
【0027】
こうして得られる硬化性樹脂組成物を流延法(溶剤キャスト法)や場合により押出成形法等によりフィルム状に成形することによって、本発明の硬化性樹脂フィルムは、フィルム状における硬化前の被膜強度が、温度23℃のとき被膜強度9.8×105 N/m2 以上かつ伸び率が10%以上とすることができる。
本発明の硬化性樹脂フィルムにおいて、被膜強度と伸び率を上記特定の範囲にすることによって、良好なハンドリング性(取り扱い性)を確保するには、例えば、エポキシ基を有するポリマーとしてアクリルニトリルに由来する構造単位を有しているポリマーを用い、その重量平均分子量を20万以上100万未満とし、更にその配合部数を、硬化性樹脂組成物100重量部に対し10重量部以上50重量部未満とすることなどが挙げられる。
【0028】
本発明5の接着性エポキシ樹脂フィルムは、本発明1〜4の何れかの硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなるものである。
本発明6の非導電性フィルム、及び、本発明7のダイアタッチフィルムは、本発明5の接着性エポキシ樹脂フィルムからなるものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明1の硬化性樹脂フィルムは、エポキシ樹脂と、エポキシ基を有しエポキシ当量が100〜1000であるポリマーと、エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなり、硬化前のフィルムの温度23℃における被膜強度が9.8×105 N/m2 以上であり、かつ伸び率が10%以上とされているので、硬化前は取り扱い性に優れ、硬化後は、各種の高い接着信頼性(耐熱性、耐湿性、耐ハンダリフロ ー性、耐冷熱サイクル性、ハンダ耐熱性等)を奏する。
本発明2の硬化性樹脂フィルムは、エポキシ基を有するポリマーが、重量平均分子量が20万以上100万未満であるので、硬化後は、上記に加えて、優れた可撓性を発現するものである。
本発明3の硬化性樹脂フィルムは、エポキシ基を有するポリマーの配合部数が、エポキシ樹脂との合計量100重量部に対し10重量部以上50重量部未満であるので、よりハンドリング性に優れたフィルムを提供し得る。
本発明4の硬化性樹脂フィルムは、エポキシ基を有するポリマーが、アクリルニトリルに由来する構造単位を有しているので、機械的強度がより向上した硬化性樹脂フィルムの提供が可能となる。
本発明5の接着性エポキシ樹脂フィルムは、上記本発明1〜4の何れかに記載の硬化性樹脂フィルムからなるものであるので、上記硬化性樹脂フィルムの特性を備えた接着性エポキシ樹脂フィルムである。
本発明6の非導電性フィルム、又は本発明7のダイアタッチフィルムは、本発明5の接着性エポキシ樹脂フィルムからなるので、上記硬化性樹脂フィルム及び接着性エポキシ樹脂フィルムの特性を備えた非導電性フィルム、又はダイアタッチフィルムである。
【実施例】
【0030】
本実施例においては、特に示した場合を除き以下の原材料を用いた。
1.エポキシ樹脂
(1)ジシクロペンタジエン型固形エポキシ樹脂(商品名「EXA−7200HH」、大日本インキ化学工業社製)
(2)ナフタレン型液状エポキシ樹脂(商品名「HP−4032D」、大日本インキ化学 工業社製)
2.エポキシ基を有するポリマー
以下に、エポキシ基を有するポリマーとしての、アクリル樹脂1〜アクリル樹脂6に おける、重合体を構成するコモノマー、重合法、エポキシ当量、重量平均分子量 (Mw) ガラス転移温度(Tg)等を記載した。
(1)アクリル樹脂−1 BA,AN,MMA,GMA 共重合体 懸濁重合法、エポキシ当量:400 、Mw:48.5万 Tg(粘弾性tan δ):57℃
(2)アクリル樹脂−2 BA,AN,n-BMA,GMA 共重合体 懸濁重合法、エポキシ当量:40 0、Mw:38.1万、Tg(粘弾性tan δ):57℃
(3)アクリル樹脂−3 n-BMA,GMA,2-HEMA共重合体 懸濁重合法、エポキシ当量:40 0、Mw平均分子量:36.3万、Tg(粘弾性tan δ):66℃
(4)アクリル樹脂−4 BA,AN,n-BMA,GMA,2-HEMA 共重合体 懸濁重合法、エポキシ当 量:400、Mw:36.3万、Tg(粘弾性tan δ):54℃
(5)アクリル樹脂―5 商品名「マープルーフG−2050M」 懸濁重合法、エポキ シ当量:340、Mw:20万、Tg(粘弾性tan δ):92℃、日本油脂社製
(6)アクリル樹脂―6 GMA,MMA 共重合体 懸濁重合法、エポキシ当量:340、Mw :9.56万、Tg(粘弾性tan δ):77℃
【0031】
3.エポキシ樹脂用硬化剤
(1)トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(商品名「YH−307」、ジャパンエポ キシレジン社製)
4.硬化促進剤
(1)イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール(商品名「2MAOK−PW」、四国化 成社製)
5.接着性付与剤
(1)アミノシランカップリング剤(商品名「S320」、チッソ社製)
6.フィラー
(1)表面疎水化ヒュームドシリカ(商品名「レオロシールMT−10」、平均粒子径: 1μm以下、トクヤマ社製)
7.応力緩和性付与剤
(1)水酸基含有コアシェル型アクリルゴム粒子(商品名「スタフィロイドAC−403 0」、ガンツ化成社製)
8.溶剤
(1)酢酸エチル
(2)メチルエチルケトン(MEK)
【0032】
(参考例)
本発明におけるエポキシ基を有するポリマー(アクリル樹脂)を調製し、その特性値を測定し、結果を表1に示した。
ポリマー単体でのエポキシ基を有するアクリル樹脂5及び6については酢酸エチル溶液(固形分15〜20%)、エポキシ基を有するアクリル樹脂1〜4についてはMEK溶液(固形分15〜20%)を作製し、上記で得られた硬化性樹脂組成物の酢酸エチル溶液または、MEK溶液を、表面に離型処理が施された厚み50μm のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの離型処理面上に、乾燥後の厚みが25μmとなるようにバーコーターを用いて塗工したあと、110度で3分間乾燥して、ポリマー単体からなるフィルムを作製した。
上記エポキシ基を有するポリマー単体でのフィルム性能等(1.被膜強度、2.伸び率、3.ガラス転移温度(粘弾性tan δピーク温度℃)4.重量平均分子量)を、以下の通り、本発明硬化性樹脂フィルムと同様の方法で測定し、表1に示した。
【0033】
尚、重量平均分子量は、日本ウォーターズ株式会社製の測定機器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法に拠って、次の条件で測定した。
〔分析条件〕
(1)カラム:GPCLF−804(300mmL×8.0mmI.D.)を2本接続
(2)移動相:ヒトラヒドロフラン
(3)流 量:1.0mL/分
(4)温 度:40℃
(5)注入量:100μL
(6)検 出:示差屈折率検出器RID−10A
セル温度:40℃
Response:5
AUXRANGE:2
【0034】
【表1】

表1によると分子量が20万以上あるポリマーの皮膜強度が高い結果となっていた。
【0035】
(実施例1)
表2に示す如く、ジシクロペンタジエン型固形エポキシ樹脂55重量部、ナフタレン型液状エポキシ樹脂15重量部、エポキシ基含有アクリル樹脂30重量部、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸34重量部、イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール8重量部、アミノシランカップリング剤2重量部、表面疎水化ヒュームドシリカ4重量部及び水酸基含有コアシェル型アクリルゴム粒子5重量部を均一に混練して、MEKに溶解させ、ホモディスパー型攪拌機を用いて、攪拌速度3000rpmの条件で均一に攪拌混合して、固形分が50重量%の硬化性樹脂組成物のMEK溶液を調整した。
次に、上記で得られた硬化性樹脂組成物の酢酸エチル溶液を、表面に離型処理が施された厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの離型処理面上に、乾燥後の厚みが25μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、110度で3分間乾燥して、硬化性樹脂樹脂フィルム(接着性エポキシ樹脂フィルム)を作製した。
【0036】
(実施例2〜7及び比較例1,2)
接着性エポキシ樹脂フィルム(硬化性樹脂組成物)の配合組成を比較表2に示す組成としたこと以外は実施例1の場合と同様にして、実施例2,及び比較例1は硬化性樹脂組成物の酢酸エチル溶液(固形分重量20%)を得て接着性エポキシ樹脂フィルムを、実施例3〜7及び比較例2は硬化性樹脂組成物のMEK溶液(固形分重量15%)を得て接着性エポキシ樹脂フィルムを作製した。
実施例1〜7及び比較例1,2で得られた接着性エポキシ樹脂フィルムの性能(1.最大皮膜強度、2.伸び率、3.硬化前のガラス転移温度℃(示差熱量分析)、4.常態接着力、5.PCT100時間後接着力、6.180℃曲げ評価、7.裁断評価、8.ハンダ耐熱性)を以下の方法によって評価し、その結果を表2に示した。
【0037】
1.被膜強度
参考例で得たポリマー単体フィルム、及び硬化性樹脂樹脂フィルムを温度23℃の環 境において、幅10mm、長さ50mm(厚み25μm)長辺側両端10mm部分を掴 み、50mm/分の引っ張り速度で上下に引っ張り、破断までのS−Sカーブにおける 最大値を求め、最大値g/10mm/0.025mmを求めて、被膜強度とした(表1 においては、104 N/m2 として表示した)。
2.伸び率
上記1.被膜強度測定における被膜破断時の伸びを測定し、破断時の伸び(mm/3 0mm)×100(%)を求めて伸び率とした。
3.硬化前ガラス転移温度
硬化性樹脂フィルムを室温23℃雰囲気でフィルムを未硬化のままDSC(示差熱量 分析)にてー40℃から100℃まで3℃/分で昇温させた時のガラス転移温度(℃) (Tg)を測定した。
4.初期接着力(常態接着力)
5mm角に裁断した硬化性樹脂フィルムをFR−4のガラスエポキシ基板の上に貼り 付け、その上にSiO2パシベーションを有するシリコンチップを貼付、プレスして密 着させた後、170℃で30分間加熱硬化して接合体を作製した。次いで、得られた接 合体の上下に治具を取り付け、5mm/分の引っ張り速度で上下に引っ張り、最大破断 強度(N/25mm2 )を求めて、初期接着力とした。
【0038】
5.PCT100時間後接着力
上記「初期接着力」を測定する場合と同様に作製した接合体のプレッシャークッカー試 験(PCT)を120℃―85%RHの条件で100時間行った後、接合体を取り出し 、「初期接着力」の場合と同様にして最大破断強度(N/25mm2 )を求めて、PC T100時間後の接着力とした。
6.180℃曲げ評価
硬化性樹脂フィルムを180℃に2つ折りにしたときの、曲げ部の変形量(厚み変化 、変形曲げ跡等)及び割れについて目視による評価を行った。
7.裁断評価
カッターによるフィルム裁断時の裁断部のフィルム割れの有無について目視による評 価を行った(フィルムに対しNTカッターを10℃傾けての裁断したときのカット面評 価)。
8.ハンダ耐熱性
初期接着力を測定する場合と同様に作製した接合体を、乾燥条件が125℃×6時間 、湿潤条件が30℃/80%×48時間で処理した後、ハンダリフロー250℃×30 秒となるプロファイルで処理を行い、層間剥離の有無を確認した。ハンダリフロー後サ ンプルを、再び、湿潤条件が30℃/80%×48時間で処理した後、ハンダリフロー 250℃×30秒となるプロファイルで処理を行い、リフロー処理2回目の後の層間剥 離の有無をも確認して、ハンダ耐熱性評価とした。
尚、層間の剥離は超音波探査映像装置(日立建機ファインテック社製、mi−sco pe hyper II)を用いて確認した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2において、実施例1〜3、比較例1で得られた接着性エポキシ樹脂フィルムについて、エポキシ基を有するポリマーとしてのアクリル樹脂の分子量の影響をみると、被膜強度を上げた場合、何れも、被膜強度が100×104 N/m2 以上になるが、実施例1,2,3の伸び率が10%以上あるのに対し比較例1(分子量が20万未満のエポキシ基を有するアクリル樹脂使用)では、殆ど伸びず3%の伸び率で被膜としてはかなり脆いものとなっていた。
ハンドリング評価でも比較例1は180℃曲げ(割れ)及び裁断時割れ評価において共にフィルムに割れが発生した。分子量が20万以上のアクリル樹脂を使用したものは、被膜強度が高くかつ柔軟性のあるフィルムが形成され、高接着(常態接着力)、高接合信頼性(PCT100hr後接着力)を確保した結果となっている。
【0041】
また、実施例4,5、比較例2で得られた接着性エポキシ樹脂フィルムについてアクリル樹脂の配合重量部数の影響をみると、アクリル樹脂の配合重量部数が多くなると伸び率が同等レベルに対し被膜強度が高くなっている。実施例4,5のアクリル樹脂10重量部以上のフィルムは被膜強度が100×104 N/m2 以上でかつフィルム伸び率が300%以上の被膜強度が高くかつ柔軟性のあるフィルムが形成されている。
それに対し比較例2のアクリル樹脂が10重量部未満のフィルムは伸び率は300%以上であるが被膜強度が実施例4,5の半分以下の強度で弱いものとなっている。
ハンドリング性を見た場合、比較例2のみ被膜が弱く変形が大きく曲げ跡が残る結果となっている。実施例4,5については変形量も小さく曲げ、裁断による割れも見られない結果となっている。また、比較例1同様高接着、高接合信頼性の高い結果となっている。
【0042】
更に、実施例1,2,4,6,7で得られた接着性エポキシ樹脂フィルムについてアクリル樹脂のアクリルニトリル含有量の影響をみる。
実施例4、6、7は、アクリルニトリルが15〜30重量%の割合で仕込まれて得られたアクリル樹脂を用いた場合である。アクリルニトリルを含有せず、被膜強度が100×104 N/m2 程度の実施例1,2と比較すると、被膜強度が2倍程度以上になり、実施例1,2と同等の伸び率を有する被膜強度の高いフィルムが形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明1の硬化性樹脂フィルムの用途は、特に限定されず、例えば、本発明5の接着性エポキシ樹脂フィルム等に加工され、電子材料の固定等に好適に使用される。フィルムをシリコーンウェーハ等に貼付、接着剤として使用しても良い。
硬化前のシリコーン貼付時のフィルムのカット、打ち抜き加工、貼付工程でもフィルムの破断、割れなく貼付可能であり、硬化後は高接着、信頼性の高い接合体として利用することができる。
また、本発明1の硬化性樹脂フィルムは、例えば半導体チップ固定用の、接着フィルムとして用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、エポキシ基を有しエポキシ当量が100〜1000であるポリマーと、エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物がフィルム状に成形されてなる硬化性樹脂フィルムであって、硬化前のフィルムの温度23℃における被膜強度が9.8×105 N/m2 以上であり、かつ伸び率が10%以上であることを特徴とする硬化性樹脂フィルム。
【請求項2】
エポキシ基を有するポリマーが、重量平均分子量が20万以上100万未満であることを特徴とする請求項1記載の硬化性樹脂フィルム。
【請求項3】
エポキシ基を有するポリマーの配合部数が、エポキシ樹脂との合計量100重量部に対し10重量部以上50重量部未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の硬化性樹脂フィルム。
【請求項4】
エポキシ基を有するポリマーが、アクリルニトリルに由来する構造単位を有していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の硬化性樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の硬化性樹脂フィルムからなることを特徴とする接着性エポキシ樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項5記載の接着性エポキシ樹脂フィルムからなることを特徴とする非導電性フィルム。
【請求項7】
請求項5記載の接着性エポキシ樹脂フィルムからなることを特徴とするダイアタッチフィルム。


【公開番号】特開2006−22194(P2006−22194A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201108(P2004−201108)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】