磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダ
【課題】 特に、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能な磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダを提供することを目的としている。
【解決手段】 基板23の裏面に第2の永久磁石25を設け、前記基板23の表面23aに形成された全ての磁気抵抗効果素子のフリー磁性層の磁化方向33aを、固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交する方向で且つ同一方向に向ける。これにより、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能である。
【解決手段】 基板23の裏面に第2の永久磁石25を設け、前記基板23の表面23aに形成された全ての磁気抵抗効果素子のフリー磁性層の磁化方向33aを、固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交する方向で且つ同一方向に向ける。これにより、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能な磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用した磁気抵抗効果素子(GMR素子)は、磁気エンコーダに使用できる。
【0003】
図10は、従来における磁気エンコーダの部分断面図である。図10に示す磁石1の表面は、磁気センサ2の相対移動方向に向けてN極とS極とが交互に配列された着磁面となっている。
【0004】
図10に示すように、前記磁気センサ2は、基板3と前記基板3の表面に形成された磁気抵抗効果素子4,5とを有して構成される。
【0005】
前記磁気抵抗効果素子4,5は直列接続されている。前記磁石1のN極とS極間の中心幅(ピッチ)は、λ(図11を参照)である。また直列接続された前記磁気抵抗効果素子4,5の中心間の間隔もλとなっている。前記磁気抵抗効果素子4,5は共に同じ積層体6で構成される。前記積層体6は下から反強磁性層7、固定磁性層8、非磁性材料層9、フリー磁性層10及び保護層11の順で積層される。
【0006】
図10に示すように、前記固定磁性層8は、前記反強磁性層7との間で生じる交換結合磁界(Hex)により図示X1方向に磁化固定されている。図10には前記固定磁性層8の磁化方向が「PIN」と表示されている。
【0007】
また前記フリー磁性層10と前記固定磁性層8との間には層間結合磁界Hinが生じており、前記フリー磁性層10は前記層間結合磁界Hinの方向に磁化されている。前記層間結合磁界Hinは前記固定磁性層8の磁化方向と平行方向あるいは反平行方向のどちらかに生じる。図10では前記層間結合磁界Hinは前記固定磁性層8の磁化方向と平行な方向に生じている。
【0008】
図10に示すように、前記磁気抵抗効果素子4,5が、夫々、磁石1のN極とS極との境界部の真下に位置すると、前記磁気抵抗効果素子4には、前記磁石1から図示X2方向に向う外部磁界H1が支配的に流入し、前記磁気抵抗効果素子5には、前記磁石1から図示X1方向に向う外部磁界H2が支配的に流入する。
【0009】
前記磁気センサ2が前記磁石1に対し図示X1方向に向けて相対移動すると、前記磁気抵抗効果素子4,5に流入する外部磁界Hの方向が変化することで、各磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値が変化する。前記電気抵抗値の変化に基づく電圧変化は、略矩形状の出力波形として得られ、前記出力波形により、前記磁石1の移動速度や移動距離等を知ることが可能となっている。
【特許文献1】特開2003−60256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記フリー磁性層10には、前記固定磁性層8の磁化方向(PIN方向)と同じ方向である図示X1方向に層間結合磁界Hinが生じているので、図示X1方向に外部磁界H2が作用しても、図10に示す前記磁気抵抗効果素子5の電気抵抗値は変化しない。
【0011】
すなわち前記磁気抵抗効果素子4,5を構成するフリー磁性層10は、外部磁界Hの方向によって向きやすさ(感度)が異なっている。よって図10に示す従来構成では、検出精度を適切に向上させることが出来なかった。
【0012】
一方、図11に示すように、磁気抵抗効果素子4,5の固定磁性層8の磁化方向(PIN方向)を図示X1方向に固定しておき、前記固定磁性層8とフリー磁性層10との間に生じる層間結合磁界Hinをゼロになるように調整する構成も考えられる。前記層間結合磁界Hinは、例えば、前記固定磁性層8と前記フリー磁性層10との間に設けられる非磁性材料層9の膜厚によって調整できる。
【0013】
図12は、図11に示す層間結合磁界Hinをゼロに調整した磁気抵抗効果素子4,5のR−H曲線12を示している。
【0014】
図12に示すようにR−H曲線12のループ部13は横軸方向(外部磁界H方向)に所定幅を有しており、この所定幅がヒステリシスである。
【0015】
図11に示すように、磁気抵抗効果素子4,5の真上に磁石1の各磁極中心が位置したとき、前記磁気抵抗効果素子4,5には膜面と垂直方向(図示Z1方向、あるいは図示Z2方向)から外部磁界H3,H4が作用する。
【0016】
前記磁気抵抗効果素子4,5のフリー磁性層10は前記外部磁界H3,H4に対して磁化変動しない。すなわち前記磁気抵抗効果素子4,5に外部磁界Hが作用していない無磁場状態と同じ状態となる。
【0017】
無磁場状態における磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値を、図12に示すR−Hグラフで見ると、磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値はR1かR2となっている。すなわち、無磁場状態では、磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値は一定にならず、不安定となっている。
【0018】
そして層間結合磁界Hinがゼロに調整された磁気抵抗効果素子4,5を有する磁気センサ2の出力波形を調べると、平滑でなく乱れが生じており(波打っており)、出力波形が不安定となることがわかった。
【0019】
特許文献1に記載された発明では、磁気エンコーダの上記した問題点について何ら言及していない。加えて、特許文献1では、特許文献1の図6に示すように、フリー磁性層の磁化方向と固定磁性層の磁化方向とが平行あるいは反平行であり、図10で指摘した磁化方向と同じである。
【0020】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能な磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、基板上に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子を有する磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は複数個、前記基板上に設けられるとともに、磁化が一方向に固定された固定磁性層と、前記外部磁界に対して磁化変動するフリー磁性層とが、非磁性材料層を介して積層された積層部分を有し、
全ての前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向は平行であるか、あるいは少なくとも一つの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向が、残りの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向に対して反平行であり、
前記磁気抵抗効果素子と離れた位置に永久磁石が設けられ、無磁場状態において、全ての前記磁気抵抗効果素子の前記フリー磁性層が、前記永久磁石からの同じバイアス磁界によって、前記固定磁性層の磁化方向と直交方向で且つ同一方向に、磁化されていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、各磁気抵抗効果素子のフリー磁性層の磁化方向を前記固定磁性層の固定磁化方向に対して直交する方向に向けている。特に、永久磁石を用いて、全ての前記磁気抵抗効果素子の前記フリー磁性層を、前記永久磁石からの同じバイアス磁界によって同一方向に向けているので、簡単な構成で、前記フリー磁性層の磁化調整を行うことが可能である。
【0023】
このように全ての磁気抵抗効果素子のフリー磁性層の磁化を固定磁性層の固定磁化方向に対して直交させることで、出力波形の乱れを従来に比べて改善でき、また外部磁界の作用方向に対する磁気感度の違いを改善でき、したがって従来に比べて検出精度を向上できる。
【0024】
本発明では、前記基板の表面に前記磁気抵抗効果素子が設けられ、前記基板の裏面に前記永久磁石が設けられることが好ましい。これにより磁気センサの構成を簡単に出来る。
【0025】
また本発明では、前記磁気抵抗効果素子は、幅方向の寸法よりも前記幅方向と直交する長さ方向の寸法のほうが長く形成された形状であり、前記固定磁性層が、前記幅方向に磁化固定され、フリー磁性層が前記長さ方向に磁化されている構成に特に好ましく適用できる。
【0026】
また本発明は、表面に、N極とS極が交互に着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、上記のいずれかに記載された磁気センサとを備える磁気エンコーダであって、
前記N極及びS極は、前記磁気センサの相対移動方向あるいは相対回転方向に交互に配列されて、前記磁気センサには、相対移動あるいは相対回転に伴って、前記相対移動方向あるいは前記相対回転方向に向う(+)方向への外部磁界と、前記(+)方向とは逆方向の(−)方向への外部磁界とが交互に作用し、
直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記基板の中心を相対回転方向上の接点としたときの接線方向と平行な方向に、ずれて配置され、
各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が、夫々、前記相対移動方向と平行あるいは反平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行あるいは反平行な方向に磁化固定されていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の磁気センサは、上記したように磁気エンコーダに好ましく適用できる。これにより出力波形の安定化を図ることができ、移動速度や移動距離を適切に検出することが出来る。
【0028】
本発明では、前記N極と前記S極の中心間距離をλとしたとき、直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行な方向に、λの中心間距離を空けて配置されており、
全ての磁気抵抗効果素子の前記固定磁性層が、同一方向に磁化固定されている構成に特に好ましく適用できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明における磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダでは、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は本実施形態の磁気エンコーダの部分斜視図、図2は、磁気センサの部分拡大平面図、図3は図2に示すA−A線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、図4は、図3の状態から磁気センサが、λ/2だけ相対移動したときの前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、図5は、図2に示すB−B線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気センサの拡大断面図、図6は、図5の変形例を示す磁気センサの断面図、図7は、磁気センサの回路図、図8は磁気抵抗効果素子のH//PIN方向のR−H曲線を示すグラフ、である。
【0031】
各図におけるX1−X2方向、Y1−Y2方向、及びZ1−Z2方向の各方向は残り2つの方向に対して直交した関係となっている。X1方向は、磁石あるいは磁気センサの移動方向である。Z1−Z2方向は前記磁石と磁気センサとが所定の間隔を空けて対向する方向である。
【0032】
図1に示すように磁気エンコーダ20は、第1の永久磁石21と磁気センサ22を有して構成される。
【0033】
前記第1の永久磁石(磁界発生部材)21は図示X1−X2方向に延びる棒形状であり、図示X1−X2方向に所定幅にてN極とS極とが交互に着磁されている。N極の着磁面と、隣接するS極の着磁面との間の中心幅(ピッチ)はλである。
【0034】
図1に示すように前記第1の永久磁石21と前記磁気センサ22との間には所定の間隔S1が空けられている。
【0035】
図1に示すように前記磁気センサ22は、基板23と、同一の前記基板23の表面(第1の永久磁石21との対向面)23aに設けられた複数の磁気抵抗効果素子24a〜24hと、前記基板23の裏面23bに設けられた1個の第2の永久磁石25とを有して構成される。
【0036】
図1及び図2に示すように、8個の磁気抵抗効果素子24a〜24hは、X1−X2方向に4個ずつ、Y1−Y2方向に2個ずつマトリクス状に配列している。図2に示すようにX1−X2方向にて隣り合う各磁気抵抗効果素子の幅方向(図示X1−X2方向)の中心間の間隔はλ/2となっている。
【0037】
図3に示すように各磁気抵抗効果素子24a〜24hは全て同じ積層体35で構成される。図3には、磁気抵抗効果素子24a〜24cのみが図示されているが、磁気抵抗効果素子24d〜24hも同じ積層体で形成される。このように全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hが同じ積層体35で形成されるので、これら磁気抵抗効果素子24a〜24hを全て同じ製造工程で形成でき、しかも後述するように各磁気抵抗効果素子24a〜24hの磁化方向も同じであるので、容易に製造できる。
【0038】
図3に示すように磁気抵抗効果素子は、下から反強磁性層30、固定磁性層31、非磁性材料層32、フリー磁性層33及び保護層34の順で積層された積層体35で形成される。前記積層体35は前記反強磁性層30と前記基板23との間に下地層が形成されたり、積層体35の膜構成は図3に限定されない。また、前記積層体35は下からフリー磁性層33、非磁性材料層32、固定磁性層31、反強磁性層30及び保護層34の順に積層されてもよい。
【0039】
前記反強磁性層30は例えばPtMnやIrMnで形成される。前記固定磁性層31及びフリー磁性層33は例えば、NiFeやCoFeで形成される。前記非磁性材料層32は例えばCuで形成される。また前記保護層34は例えばTaで形成される。
【0040】
前記反強磁性層30と前記固定磁性層31との間には交換結合磁界(Hex)が生じて前記固定磁性層31の磁化は一方向に固定されている。図2,図3に示すように全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hの固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)は図示X1方向(相対移動方向)に固定されている。一方、前記フリー磁性層33の磁化方向は固定されておらず外部磁界(センシング磁界)によって磁化変動する。なお、前記固定磁性層31の磁化方向は図示X2方向(相対移動方向に対して反平行)でもよい。
【0041】
なお本実施形態では、前記非磁性材料層32が非磁性導電材料で形成された巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用したGMR素子に代えて、前記非磁性材料層32がAl2O3等の絶縁材料で形成されたトンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)を用いてもよい。
【0042】
本実施形態では、全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hのフリー磁性層33には、図3,図5に示すように、前記基板23の裏面23bに設けられた第2の磁石25から生じたバイアス磁界biasが印加されている。これにより全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hの前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、図2,図5に示すように、図示Y1方向に向けられている。
【0043】
図2に示すように、前記フリー磁性層33の磁化方向33aと固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)とは直交した関係にある。図8が各磁気抵抗効果素子24a〜24hのR−H曲線40である。図12に示す従来の磁気抵抗効果素子のように、ヒステリシスが生じておらず、直線状のR−H曲線40を形成している。
【0044】
次に以下では、磁気抵抗効果素子24aを第1の磁気抵抗効果素子24a、磁気抵抗効果素子24bを第2の磁気抵抗効果素子24b、磁気抵抗効果素子24cを第3の磁気抵抗効果素子24c、磁気抵抗効果素子24dを第4の磁気抵抗効果素子24d、磁気抵抗効果素子24eを第5の磁気抵抗効果素子24e、磁気抵抗効果素子24fを第6の磁気抵抗効果素子24f、磁気抵抗効果素子24gを第7の磁気抵抗効果素子24g、磁気抵抗効果素子24hを第8の磁気抵抗効果素子24hと称することとする。
【0045】
図7に示すように、第1の磁気抵抗効果素子24a、第3の磁気抵抗効果素子24c、第5の磁気抵抗効果素子24e及び第7の磁気抵抗効果素子24gによりA相のブリッジ回路が構成されている。第1の磁気抵抗効果素子24aと第3の磁気抵抗効果素子24cとが第1の出力取り出し部50を介して直列接続され、第5の磁気抵抗効果素子24eと第7の磁気抵抗効果素子24gとが第2の出力取り出し部51を介して直列接続されている。また、図7に示すように第1の磁気抵抗効果素子24aと第7の磁気抵抗効果素子24gとが入力端子52を介して並列接続され、前記第3の磁気抵抗効果素子24cと前記第5の磁気抵抗効果素子24eとがアース端子53を介して並列接続されている。
【0046】
図7に示すように第1の出力取り出し部50と第2の出力取り出し部51は、第1の差動増幅器58の入力部側に接続され、前記第1の差動増幅器58の出力側が第1の出力端子59に接続されている。
【0047】
また本実施形態ではもう一つB相のブリッジ回路が、第2の磁気抵抗効果素子24b、第4の磁気抵抗効果素子24d、第6の磁気抵抗効果素子24f及び第8の磁気抵抗効果素子24hにより構成されている。第2の磁気抵抗効果素子24bと第4の磁気抵抗効果素子24dとが第3の出力取り出し部54を介して直列接続され、第6の磁気抵抗効果素子24fと第8の磁気抵抗効果素子24hとが第4の出力取り出し部55を介して直列接続されている。また、図7に示すように第2の磁気抵抗効果素子24bと第8の磁気抵抗効果素子24hとが入力端子56を介して並列接続され、前記第4の磁気抵抗効果素子24dと前記第6の磁気抵抗効果素子24fとがアース端子57を介して並列接続されている。
【0048】
図7に示すように第3の出力取り出し部54と第4の出力取り出し部55は、第2の差動増幅器60の入力部側に接続され、前記第2の差動増幅器60の出力側が第2の出力端子61に接続されている。
【0049】
図2に示すように、図7に示すブリッジ回路にて直列接続される磁気抵抗効果素子どうしの中心間の間隔はλとなっている。
【0050】
本実施形態では、磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21のどちらか一方が図示X1―図示X2方向と平行な方向に直線移動可能に支持されている。本実施形態では前記磁気センサ22の相対移動空間内に、前記第1の永久磁石21から生じる外部磁界領域が形成されている。ここで相対移動方向(図1では図示X1方向)を(+)方向と、相対移動方向と逆方向(図1では図示X2方向)を(−)方向と定めると、図1に示すように、前記外部磁界領域では、前記相対移動方向に向う(+)方向への外部磁界H5と、前記相対移動方向とは逆方向に向う(−)方向への外部磁界H6とが交互に発生している。
【0051】
図3に示すように、ちょうど、第1の磁気抵抗効果素子24aの頭上に、第1の永久磁石21のN極の中心が対向した位置関係になると、前記第1の磁気抵抗効果素子24aのフリー磁性層33には、前記(+)方向及び(−)方向の外部磁界H5,H6のベクトル成分のうち、図示Z1方向(紙面下方向)へのベクトル成分の外部磁界H7が支配的に流入する。前記外部磁界H7は、第1の磁気抵抗効果素子24aの膜面(X−Y面と平行な面)に対して垂直方向であるため、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは変動せず、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交した関係を維持する。よって前記第1の磁気抵抗効果素子24aには外部磁界Hが作用していない無磁場状態と同じ状態が作用し、前記第1の磁気抵抗効果素子24aの電気抵抗値は変動しない。
【0052】
また、前記第1の磁気抵抗効果素子24aと直列接続され、前記第1の磁気抵抗効果素子24aとλの中心間距離を空けた第3の磁気抵抗効果素子24cの頭上には、第1の永久磁石21のS極の中心が対向した位置関係になる。このとき、前記第3の磁気抵抗効果素子24cのフリー磁性層33には、前記(+)方向及び(−)方向の外部磁界H5,H6のベクトル成分のうち、図示Z2方向(紙面上方向)へのベクトル成分の外部磁界H8が支配的に流入する。前記外部磁界H8は、第3の磁気抵抗効果素子24cの膜面(X−Y面と平行な面)に対して垂直方向であるため、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは変動せず、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交した関係を維持する。よって前記第3の磁気抵抗効果素子24cには外部磁界Hが作用していない無磁場状態と同じ状態が作用し、前記第3の磁気抵抗効果素子24cの電気抵抗値は変動しない。
【0053】
図3の状態では、第1の磁気抵抗効果素子24a及び第3の磁気抵抗効果素子24cのみならず、A相のブリッジ回路を構成する他の第5の磁気抵抗効果素子24e及び第7の磁気抵抗効果素子24gの電気抵抗値も変動しない。
【0054】
よって図7に示す第1の出力取り出し部50及び第2の出力取り出し部51からは夫々中点電位が出力され、差動電位はゼロである。
【0055】
本実施形態では、前記フリー磁性層33の磁化方向33aを無磁場状態において、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交する方向に規制し、図8に示すヒステリシスのないR−H曲線40を得ることが出来る。図11,図12で説明した従来構造では、無磁場状態でのフリー磁性層の磁化の不安定化によって磁気抵抗効果素子の電気抵抗値がばらつき、その結果、出力波形に乱れが生じたが、本実施形態では、従来に比べて出力波形の乱れを改善でき波形を平滑化できる。
【0056】
次に、前記磁気センサ22が図示X1方向にλ/2だけ相対移動すると図4のようになる。
【0057】
図4に示すように前記第1の磁気抵抗効果素子24aには、(−)方向の外部磁界H6のうち、図示X2方向へのベクトル成分の外部磁界H9が支配的に流入する。
【0058】
この結果、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交方向である図示Y1方向(図2参照)から図示X2方向に磁化変動する。前記フリー磁性層33の磁化方向33aは前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と逆方向であるから、前記第1の磁気抵抗効果素子24aの電気抵抗値は大きくなる。
【0059】
一方、前記第1の磁気抵抗効果素子24aと直列接続され、図示X1方向にλの中心間距離を空けた位置にある第3の磁気抵抗効果素子24cには、(+)方向の外部磁界H5のうち、図示X1方向へのベクトル成分の外部磁界H10が支配的に流入する。
【0060】
この結果、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交方向である図示Y1方向(図2参照)から図示X1方向に磁化変動する。前記フリー磁性層33の磁化方向33aは前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と同じ方向であるから、前記第3の磁気抵抗効果素子24aの電気抵抗値は小さくなる。
【0061】
また第1の磁気抵抗効果素子24a及び第3の磁気抵抗効果素子24cとブリッジ回路を構成する前記第5の磁気抵抗効果素子24eには、前記第1の磁気抵抗効果素子24eに流入する外部磁界H9が流入し、前記第7の磁気抵抗効果素子24gには、前記第3の磁気抵抗効果素子24cに流入する外部磁界H10が流入する。
【0062】
よって図7に示す第1の出力取り出し部50からは、中点電位よりも低い電圧が出力され、前記第2の出力取り出し部51からは、中点電位よりも高い電圧が出力される。そして差動電位を取ると電圧値が倍となる。
【0063】
A相のブリッジ回路を構成する第1の磁気抵抗効果素子24a、第3の磁気抵抗効果素子24c、第5の磁気抵抗効果素子24e及び第7の磁気抵抗効果素子24gは、夫々、前記磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21の移動により、電気抵抗値が変化し、第1の出力端子59からは略矩形状の出力波形が得られる。
【0064】
一方、B相のブリッジ回路を構成する第2の磁気抵抗効果素子24b、第4の磁気抵抗効果素子24d、第6の磁気抵抗効果素子24f及び第8の磁気抵抗効果素子24hも、夫々、前記磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21の移動により、電気抵抗値が変化し、第2の出力端子61からは略矩形状の出力波形が得られる。
【0065】
前記第1の出力端子59から出力される出力波形と、前記第2の出力端子61から出力される出力波形は位相がずれている。出力により、前記磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21の移動速度や移動距離を検出できる。またA相とB相のブリッジ回路を設けて出力を2系統にすることで、前記第1の出力端子59からの出力波形に対する前記第2の出力端子61からの出力波形の位相のずれ方向がどちら方向であるかにより、移動方向を知ることが可能である。
【0066】
上記のようにフリー磁性層33の磁化方向33aを、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交する方向に制御することで、図3に示すA相のブリッジ回路に対する無磁場状態から図4の状態に変化したとき、第1の磁気抵抗効果素子24aのフリー磁性層33、及び第3の磁気抵抗効果素子24cのフリー磁性層33の双方が、同じように磁化変動する。すなわちフリー磁性層33は、(+)方向の外部磁界H5が作用したときと、(−)方向の外部磁界H6が作用したときとで、磁気感度が夫々同じである。また、一方の磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が大きくなれば、直列接続された他方の磁気抵抗効果素子の電気抵抗値は必ず下がる関係にある。したがって図10に示す従来構造に比べて、(+)方向の外部磁界H5及び(−)方向の外部磁界H6に対する磁気感度のアンバランスを改善できる。
【0067】
以上のように本実施形態では、出力波形の乱れを従来に比べて改善でき、また(+)方向の外部磁界が作用したときと(−)方向の外部磁界が作用したときとで各磁気抵抗効果素子の検出感度を同じにでき、したがって従来に比べて検出精度を向上できる。
【0068】
しかも本実施形態では、基板23の裏面23bに一つの第2の永久磁石25を設け、全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hのフリー磁性層33の磁化方向33aを、前記第2の永久磁石25からの同じバイアス磁界biasによって制御するので、簡単な構成で、前記フリー磁性層33の磁化方向33aの制御を行うことが可能となっている。
【0069】
前記第2の永久磁石25の図示X1−X2方向への幅寸法は、図示X1−X2方向に配列された磁気抵抗効果素子の両側に位置する第1の磁気抵抗効果素子24aと前記第4の磁気抵抗効果素子24d間の間隔、及び前記第5の磁気抵抗効果素子24eと前記第8の磁気抵抗効果素子24h間の間隔よりも大きい。これによって全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hに対して前記第2の永久磁石25から同じバイアス磁界biasを印加でき、全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hのフリー磁性層33を適切に磁化制御できる。
【0070】
前記第2の永久磁石25はバルク材であることが好ましい。例えば、前記第2の永久磁石25は前記基板23の裏面23bに接着剤を介して貼り付けられる。
【0071】
図2に示すように各磁気抵抗効果素子24a〜24hは、図示X1−X2方向の幅寸法T1よりも、図示Y1−Y2方向の長さ寸法L1のほうが長く形成されている。前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)は、図示X1−X2方向に磁化され、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、長手方向である図示Y1−Y2方向に磁化される。各磁気抵抗効果素子24a〜24hの幅寸法T1は、2〜100μm程度、長さ寸法L1は100〜300μm程度である。このように長さ寸法L1が非常に長くなっている。よって例えば、前記磁気抵抗効果素子24a〜24hの図示Y1−Y2方向の両側に、CoPt等のハードバイアス層をスパッタ法で形成して、前記ハードバイアス層によるバイアス磁界によって前記フリー磁性層33を図示Y1方向に磁化するには、前記バイアス磁界が弱すぎ、前記フリー磁性層33を適切に磁化制御できない。したがって本実施形態ではバルク材の第2の永久磁石25を用いている。そして、これにより、全ての前記フリー磁性層33の磁化制御を一度に行うことが出来る。
【0072】
前記第2の永久磁石25から前記フリー磁性層33に作用するバイアス磁界biasの大きさは、前記第1の永久磁石21から前記フリー磁性層33に作用する外部磁界Hの大きさに比べて小さい。これによって前記フリー磁性層33は、適切に前記第1の永久磁石21からの外部磁界Hによって磁化変動する。
【0073】
また、図6に示すように、前記基板23と磁気抵抗効果素子24a〜24hとを有する磁気センサ22を収納した筐体70の外側に、前記第2の永久磁石25を設けてもよい。
【0074】
本実施形態の磁気エンコーダ20は、図1に示すように磁気センサ22が第1の永久磁石21に対して直線的に相対移動するものであったが、図9に示すように、例えば表面80aにN極とS極とが交互に着磁された回転ドラム80と前記磁気センサ22とを有し、前記回転ドラム80の回転によって得られた出力により、回転速度や回転数、回転方向を検知できる回転型の磁気エンコーダであってもよい。
【0075】
図9の拡大図に示すように、図1に示す直線移動の磁気エンコーダと同様に、N極とS極の中心間距離(ピッチ)をλとしたとき、直列接続される各磁気抵抗効果素子どうしの中心間距離はλに制御されている。
【0076】
図9に示すように、各磁気抵抗効果素子24a〜24hの固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)は、前記磁気センサ22の基板23の中心を、前記磁気センサ22の相対回転方向上の接点としたときの接線方向と平行な方向に固定されている。ここで「接線方向」とは、接線に方向性を持たせたものであり、その方向は、相対回転方向に従う。換言すれば、前記接線方向は、前記接点での速度ベクトルの方向である。前記固定磁性層31の磁化方向は、前記接線方向に反平行であってもよい。
【0077】
また図7に示すように本実施形態では、A相とB相のブリッジ回路が設けられているが、どちらか一方だけ設けられる形態でもよい。
【0078】
また本実施形態の磁気エンコーダでは、直列接続される磁気抵抗効果素子の中心間の間隔はλであったが、これに限定されるものではない。かかる場合、全ての固定磁性層の磁化方向は平行でなくてもよい。少なくとも一つの磁気抵抗効果素子における固定磁性層の磁化方向が、残りの磁気抵抗効果素子における固定磁性層の磁化方向に対して反平行であってもよい。例えば図2に示す第1の磁気抵抗効果素子24aの固定磁性層31の磁化方向は図示X1方向であるが、第3の磁気抵抗効果素子24cの固定磁性層31の磁化方向は図示X2方向である如くである。ただし、図2に示すように、直列接続される磁気抵抗効果素子の中心間の間隔をλとし、各磁気抵抗効果素子24a〜24hの固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)を全て同一方向に磁化することが前提の磁気エンコーダに本実施形態は効果的に適用できる。
【0079】
本実施形態の磁気センサ22は、磁気エンコーダ以外に、例えば、ポテンショメータにも適用することが出来る。ポテンショメータでは磁気センサの基板に垂直な軸を中心として回転可能な磁石(磁界発生部材)が対向配置される。前記磁石の回転により、各磁気抵抗効果素子に回転磁場が作用し各磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が変化する。前記電気抵抗値の変化に基づく出力波形から前記磁石の回転角度を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態の磁気エンコーダの部分斜視図、
【図2】磁気センサの部分拡大平面図、
【図3】図2に示すA−A線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、
【図4】図3の状態から磁気センサが、λ/2だけ相対移動したときの前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、
【図5】図2に示すB−B線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気センサの拡大断面図、
【図6】図5の変形例を示す磁気センサの断面図、
【図7】磁気センサの回路図、
【図8】磁気抵抗効果素子のR−H曲線を示すグラフ、
【図9】本実施の別の形態の磁気エンコーダの模式図、
【図10】従来における第1の磁気エンコーダの構造と問題点を説明するための部分断面図、
【図11】従来における第2の磁気エンコーダの構造と問題点を説明するための部分断面図、
【図12】図11の磁気エンコーダに搭載される磁気抵抗効果素子のH//PIN方向のR−H曲線を示すグラフ、
【符号の説明】
【0081】
20 磁気エンコーダ
21 第1の永久磁石
22 磁気センサ
23 基板
24a〜24h 磁気抵抗効果素子
25 第2の永久磁石
30 反強磁性層
31 固定磁性層
32 非磁性材料層
33 フリー磁性層
34 保護層
40 R−H曲線
70 筐体
50、51、54、55 出力取り出し部
52、56 入力端子
53、57 アース端子
58、60 差動増幅器
59、61 出力端子
80 回転ドラム
33a (フリー磁性層の)磁化方向
PIN (固定磁性層の)磁化方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能な磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用した磁気抵抗効果素子(GMR素子)は、磁気エンコーダに使用できる。
【0003】
図10は、従来における磁気エンコーダの部分断面図である。図10に示す磁石1の表面は、磁気センサ2の相対移動方向に向けてN極とS極とが交互に配列された着磁面となっている。
【0004】
図10に示すように、前記磁気センサ2は、基板3と前記基板3の表面に形成された磁気抵抗効果素子4,5とを有して構成される。
【0005】
前記磁気抵抗効果素子4,5は直列接続されている。前記磁石1のN極とS極間の中心幅(ピッチ)は、λ(図11を参照)である。また直列接続された前記磁気抵抗効果素子4,5の中心間の間隔もλとなっている。前記磁気抵抗効果素子4,5は共に同じ積層体6で構成される。前記積層体6は下から反強磁性層7、固定磁性層8、非磁性材料層9、フリー磁性層10及び保護層11の順で積層される。
【0006】
図10に示すように、前記固定磁性層8は、前記反強磁性層7との間で生じる交換結合磁界(Hex)により図示X1方向に磁化固定されている。図10には前記固定磁性層8の磁化方向が「PIN」と表示されている。
【0007】
また前記フリー磁性層10と前記固定磁性層8との間には層間結合磁界Hinが生じており、前記フリー磁性層10は前記層間結合磁界Hinの方向に磁化されている。前記層間結合磁界Hinは前記固定磁性層8の磁化方向と平行方向あるいは反平行方向のどちらかに生じる。図10では前記層間結合磁界Hinは前記固定磁性層8の磁化方向と平行な方向に生じている。
【0008】
図10に示すように、前記磁気抵抗効果素子4,5が、夫々、磁石1のN極とS極との境界部の真下に位置すると、前記磁気抵抗効果素子4には、前記磁石1から図示X2方向に向う外部磁界H1が支配的に流入し、前記磁気抵抗効果素子5には、前記磁石1から図示X1方向に向う外部磁界H2が支配的に流入する。
【0009】
前記磁気センサ2が前記磁石1に対し図示X1方向に向けて相対移動すると、前記磁気抵抗効果素子4,5に流入する外部磁界Hの方向が変化することで、各磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値が変化する。前記電気抵抗値の変化に基づく電圧変化は、略矩形状の出力波形として得られ、前記出力波形により、前記磁石1の移動速度や移動距離等を知ることが可能となっている。
【特許文献1】特開2003−60256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記フリー磁性層10には、前記固定磁性層8の磁化方向(PIN方向)と同じ方向である図示X1方向に層間結合磁界Hinが生じているので、図示X1方向に外部磁界H2が作用しても、図10に示す前記磁気抵抗効果素子5の電気抵抗値は変化しない。
【0011】
すなわち前記磁気抵抗効果素子4,5を構成するフリー磁性層10は、外部磁界Hの方向によって向きやすさ(感度)が異なっている。よって図10に示す従来構成では、検出精度を適切に向上させることが出来なかった。
【0012】
一方、図11に示すように、磁気抵抗効果素子4,5の固定磁性層8の磁化方向(PIN方向)を図示X1方向に固定しておき、前記固定磁性層8とフリー磁性層10との間に生じる層間結合磁界Hinをゼロになるように調整する構成も考えられる。前記層間結合磁界Hinは、例えば、前記固定磁性層8と前記フリー磁性層10との間に設けられる非磁性材料層9の膜厚によって調整できる。
【0013】
図12は、図11に示す層間結合磁界Hinをゼロに調整した磁気抵抗効果素子4,5のR−H曲線12を示している。
【0014】
図12に示すようにR−H曲線12のループ部13は横軸方向(外部磁界H方向)に所定幅を有しており、この所定幅がヒステリシスである。
【0015】
図11に示すように、磁気抵抗効果素子4,5の真上に磁石1の各磁極中心が位置したとき、前記磁気抵抗効果素子4,5には膜面と垂直方向(図示Z1方向、あるいは図示Z2方向)から外部磁界H3,H4が作用する。
【0016】
前記磁気抵抗効果素子4,5のフリー磁性層10は前記外部磁界H3,H4に対して磁化変動しない。すなわち前記磁気抵抗効果素子4,5に外部磁界Hが作用していない無磁場状態と同じ状態となる。
【0017】
無磁場状態における磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値を、図12に示すR−Hグラフで見ると、磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値はR1かR2となっている。すなわち、無磁場状態では、磁気抵抗効果素子4,5の電気抵抗値は一定にならず、不安定となっている。
【0018】
そして層間結合磁界Hinがゼロに調整された磁気抵抗効果素子4,5を有する磁気センサ2の出力波形を調べると、平滑でなく乱れが生じており(波打っており)、出力波形が不安定となることがわかった。
【0019】
特許文献1に記載された発明では、磁気エンコーダの上記した問題点について何ら言及していない。加えて、特許文献1では、特許文献1の図6に示すように、フリー磁性層の磁化方向と固定磁性層の磁化方向とが平行あるいは反平行であり、図10で指摘した磁化方向と同じである。
【0020】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能な磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、基板上に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子を有する磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は複数個、前記基板上に設けられるとともに、磁化が一方向に固定された固定磁性層と、前記外部磁界に対して磁化変動するフリー磁性層とが、非磁性材料層を介して積層された積層部分を有し、
全ての前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向は平行であるか、あるいは少なくとも一つの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向が、残りの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向に対して反平行であり、
前記磁気抵抗効果素子と離れた位置に永久磁石が設けられ、無磁場状態において、全ての前記磁気抵抗効果素子の前記フリー磁性層が、前記永久磁石からの同じバイアス磁界によって、前記固定磁性層の磁化方向と直交方向で且つ同一方向に、磁化されていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、各磁気抵抗効果素子のフリー磁性層の磁化方向を前記固定磁性層の固定磁化方向に対して直交する方向に向けている。特に、永久磁石を用いて、全ての前記磁気抵抗効果素子の前記フリー磁性層を、前記永久磁石からの同じバイアス磁界によって同一方向に向けているので、簡単な構成で、前記フリー磁性層の磁化調整を行うことが可能である。
【0023】
このように全ての磁気抵抗効果素子のフリー磁性層の磁化を固定磁性層の固定磁化方向に対して直交させることで、出力波形の乱れを従来に比べて改善でき、また外部磁界の作用方向に対する磁気感度の違いを改善でき、したがって従来に比べて検出精度を向上できる。
【0024】
本発明では、前記基板の表面に前記磁気抵抗効果素子が設けられ、前記基板の裏面に前記永久磁石が設けられることが好ましい。これにより磁気センサの構成を簡単に出来る。
【0025】
また本発明では、前記磁気抵抗効果素子は、幅方向の寸法よりも前記幅方向と直交する長さ方向の寸法のほうが長く形成された形状であり、前記固定磁性層が、前記幅方向に磁化固定され、フリー磁性層が前記長さ方向に磁化されている構成に特に好ましく適用できる。
【0026】
また本発明は、表面に、N極とS極が交互に着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、上記のいずれかに記載された磁気センサとを備える磁気エンコーダであって、
前記N極及びS極は、前記磁気センサの相対移動方向あるいは相対回転方向に交互に配列されて、前記磁気センサには、相対移動あるいは相対回転に伴って、前記相対移動方向あるいは前記相対回転方向に向う(+)方向への外部磁界と、前記(+)方向とは逆方向の(−)方向への外部磁界とが交互に作用し、
直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記基板の中心を相対回転方向上の接点としたときの接線方向と平行な方向に、ずれて配置され、
各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が、夫々、前記相対移動方向と平行あるいは反平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行あるいは反平行な方向に磁化固定されていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の磁気センサは、上記したように磁気エンコーダに好ましく適用できる。これにより出力波形の安定化を図ることができ、移動速度や移動距離を適切に検出することが出来る。
【0028】
本発明では、前記N極と前記S極の中心間距離をλとしたとき、直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行な方向に、λの中心間距離を空けて配置されており、
全ての磁気抵抗効果素子の前記固定磁性層が、同一方向に磁化固定されている構成に特に好ましく適用できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明における磁気センサ及びそれを用いた磁気エンコーダでは、簡単な構成で、出力波形の安定化を図ることができる等、検出精度を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は本実施形態の磁気エンコーダの部分斜視図、図2は、磁気センサの部分拡大平面図、図3は図2に示すA−A線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、図4は、図3の状態から磁気センサが、λ/2だけ相対移動したときの前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、図5は、図2に示すB−B線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気センサの拡大断面図、図6は、図5の変形例を示す磁気センサの断面図、図7は、磁気センサの回路図、図8は磁気抵抗効果素子のH//PIN方向のR−H曲線を示すグラフ、である。
【0031】
各図におけるX1−X2方向、Y1−Y2方向、及びZ1−Z2方向の各方向は残り2つの方向に対して直交した関係となっている。X1方向は、磁石あるいは磁気センサの移動方向である。Z1−Z2方向は前記磁石と磁気センサとが所定の間隔を空けて対向する方向である。
【0032】
図1に示すように磁気エンコーダ20は、第1の永久磁石21と磁気センサ22を有して構成される。
【0033】
前記第1の永久磁石(磁界発生部材)21は図示X1−X2方向に延びる棒形状であり、図示X1−X2方向に所定幅にてN極とS極とが交互に着磁されている。N極の着磁面と、隣接するS極の着磁面との間の中心幅(ピッチ)はλである。
【0034】
図1に示すように前記第1の永久磁石21と前記磁気センサ22との間には所定の間隔S1が空けられている。
【0035】
図1に示すように前記磁気センサ22は、基板23と、同一の前記基板23の表面(第1の永久磁石21との対向面)23aに設けられた複数の磁気抵抗効果素子24a〜24hと、前記基板23の裏面23bに設けられた1個の第2の永久磁石25とを有して構成される。
【0036】
図1及び図2に示すように、8個の磁気抵抗効果素子24a〜24hは、X1−X2方向に4個ずつ、Y1−Y2方向に2個ずつマトリクス状に配列している。図2に示すようにX1−X2方向にて隣り合う各磁気抵抗効果素子の幅方向(図示X1−X2方向)の中心間の間隔はλ/2となっている。
【0037】
図3に示すように各磁気抵抗効果素子24a〜24hは全て同じ積層体35で構成される。図3には、磁気抵抗効果素子24a〜24cのみが図示されているが、磁気抵抗効果素子24d〜24hも同じ積層体で形成される。このように全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hが同じ積層体35で形成されるので、これら磁気抵抗効果素子24a〜24hを全て同じ製造工程で形成でき、しかも後述するように各磁気抵抗効果素子24a〜24hの磁化方向も同じであるので、容易に製造できる。
【0038】
図3に示すように磁気抵抗効果素子は、下から反強磁性層30、固定磁性層31、非磁性材料層32、フリー磁性層33及び保護層34の順で積層された積層体35で形成される。前記積層体35は前記反強磁性層30と前記基板23との間に下地層が形成されたり、積層体35の膜構成は図3に限定されない。また、前記積層体35は下からフリー磁性層33、非磁性材料層32、固定磁性層31、反強磁性層30及び保護層34の順に積層されてもよい。
【0039】
前記反強磁性層30は例えばPtMnやIrMnで形成される。前記固定磁性層31及びフリー磁性層33は例えば、NiFeやCoFeで形成される。前記非磁性材料層32は例えばCuで形成される。また前記保護層34は例えばTaで形成される。
【0040】
前記反強磁性層30と前記固定磁性層31との間には交換結合磁界(Hex)が生じて前記固定磁性層31の磁化は一方向に固定されている。図2,図3に示すように全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hの固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)は図示X1方向(相対移動方向)に固定されている。一方、前記フリー磁性層33の磁化方向は固定されておらず外部磁界(センシング磁界)によって磁化変動する。なお、前記固定磁性層31の磁化方向は図示X2方向(相対移動方向に対して反平行)でもよい。
【0041】
なお本実施形態では、前記非磁性材料層32が非磁性導電材料で形成された巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用したGMR素子に代えて、前記非磁性材料層32がAl2O3等の絶縁材料で形成されたトンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)を用いてもよい。
【0042】
本実施形態では、全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hのフリー磁性層33には、図3,図5に示すように、前記基板23の裏面23bに設けられた第2の磁石25から生じたバイアス磁界biasが印加されている。これにより全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hの前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、図2,図5に示すように、図示Y1方向に向けられている。
【0043】
図2に示すように、前記フリー磁性層33の磁化方向33aと固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)とは直交した関係にある。図8が各磁気抵抗効果素子24a〜24hのR−H曲線40である。図12に示す従来の磁気抵抗効果素子のように、ヒステリシスが生じておらず、直線状のR−H曲線40を形成している。
【0044】
次に以下では、磁気抵抗効果素子24aを第1の磁気抵抗効果素子24a、磁気抵抗効果素子24bを第2の磁気抵抗効果素子24b、磁気抵抗効果素子24cを第3の磁気抵抗効果素子24c、磁気抵抗効果素子24dを第4の磁気抵抗効果素子24d、磁気抵抗効果素子24eを第5の磁気抵抗効果素子24e、磁気抵抗効果素子24fを第6の磁気抵抗効果素子24f、磁気抵抗効果素子24gを第7の磁気抵抗効果素子24g、磁気抵抗効果素子24hを第8の磁気抵抗効果素子24hと称することとする。
【0045】
図7に示すように、第1の磁気抵抗効果素子24a、第3の磁気抵抗効果素子24c、第5の磁気抵抗効果素子24e及び第7の磁気抵抗効果素子24gによりA相のブリッジ回路が構成されている。第1の磁気抵抗効果素子24aと第3の磁気抵抗効果素子24cとが第1の出力取り出し部50を介して直列接続され、第5の磁気抵抗効果素子24eと第7の磁気抵抗効果素子24gとが第2の出力取り出し部51を介して直列接続されている。また、図7に示すように第1の磁気抵抗効果素子24aと第7の磁気抵抗効果素子24gとが入力端子52を介して並列接続され、前記第3の磁気抵抗効果素子24cと前記第5の磁気抵抗効果素子24eとがアース端子53を介して並列接続されている。
【0046】
図7に示すように第1の出力取り出し部50と第2の出力取り出し部51は、第1の差動増幅器58の入力部側に接続され、前記第1の差動増幅器58の出力側が第1の出力端子59に接続されている。
【0047】
また本実施形態ではもう一つB相のブリッジ回路が、第2の磁気抵抗効果素子24b、第4の磁気抵抗効果素子24d、第6の磁気抵抗効果素子24f及び第8の磁気抵抗効果素子24hにより構成されている。第2の磁気抵抗効果素子24bと第4の磁気抵抗効果素子24dとが第3の出力取り出し部54を介して直列接続され、第6の磁気抵抗効果素子24fと第8の磁気抵抗効果素子24hとが第4の出力取り出し部55を介して直列接続されている。また、図7に示すように第2の磁気抵抗効果素子24bと第8の磁気抵抗効果素子24hとが入力端子56を介して並列接続され、前記第4の磁気抵抗効果素子24dと前記第6の磁気抵抗効果素子24fとがアース端子57を介して並列接続されている。
【0048】
図7に示すように第3の出力取り出し部54と第4の出力取り出し部55は、第2の差動増幅器60の入力部側に接続され、前記第2の差動増幅器60の出力側が第2の出力端子61に接続されている。
【0049】
図2に示すように、図7に示すブリッジ回路にて直列接続される磁気抵抗効果素子どうしの中心間の間隔はλとなっている。
【0050】
本実施形態では、磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21のどちらか一方が図示X1―図示X2方向と平行な方向に直線移動可能に支持されている。本実施形態では前記磁気センサ22の相対移動空間内に、前記第1の永久磁石21から生じる外部磁界領域が形成されている。ここで相対移動方向(図1では図示X1方向)を(+)方向と、相対移動方向と逆方向(図1では図示X2方向)を(−)方向と定めると、図1に示すように、前記外部磁界領域では、前記相対移動方向に向う(+)方向への外部磁界H5と、前記相対移動方向とは逆方向に向う(−)方向への外部磁界H6とが交互に発生している。
【0051】
図3に示すように、ちょうど、第1の磁気抵抗効果素子24aの頭上に、第1の永久磁石21のN極の中心が対向した位置関係になると、前記第1の磁気抵抗効果素子24aのフリー磁性層33には、前記(+)方向及び(−)方向の外部磁界H5,H6のベクトル成分のうち、図示Z1方向(紙面下方向)へのベクトル成分の外部磁界H7が支配的に流入する。前記外部磁界H7は、第1の磁気抵抗効果素子24aの膜面(X−Y面と平行な面)に対して垂直方向であるため、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは変動せず、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交した関係を維持する。よって前記第1の磁気抵抗効果素子24aには外部磁界Hが作用していない無磁場状態と同じ状態が作用し、前記第1の磁気抵抗効果素子24aの電気抵抗値は変動しない。
【0052】
また、前記第1の磁気抵抗効果素子24aと直列接続され、前記第1の磁気抵抗効果素子24aとλの中心間距離を空けた第3の磁気抵抗効果素子24cの頭上には、第1の永久磁石21のS極の中心が対向した位置関係になる。このとき、前記第3の磁気抵抗効果素子24cのフリー磁性層33には、前記(+)方向及び(−)方向の外部磁界H5,H6のベクトル成分のうち、図示Z2方向(紙面上方向)へのベクトル成分の外部磁界H8が支配的に流入する。前記外部磁界H8は、第3の磁気抵抗効果素子24cの膜面(X−Y面と平行な面)に対して垂直方向であるため、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは変動せず、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交した関係を維持する。よって前記第3の磁気抵抗効果素子24cには外部磁界Hが作用していない無磁場状態と同じ状態が作用し、前記第3の磁気抵抗効果素子24cの電気抵抗値は変動しない。
【0053】
図3の状態では、第1の磁気抵抗効果素子24a及び第3の磁気抵抗効果素子24cのみならず、A相のブリッジ回路を構成する他の第5の磁気抵抗効果素子24e及び第7の磁気抵抗効果素子24gの電気抵抗値も変動しない。
【0054】
よって図7に示す第1の出力取り出し部50及び第2の出力取り出し部51からは夫々中点電位が出力され、差動電位はゼロである。
【0055】
本実施形態では、前記フリー磁性層33の磁化方向33aを無磁場状態において、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交する方向に規制し、図8に示すヒステリシスのないR−H曲線40を得ることが出来る。図11,図12で説明した従来構造では、無磁場状態でのフリー磁性層の磁化の不安定化によって磁気抵抗効果素子の電気抵抗値がばらつき、その結果、出力波形に乱れが生じたが、本実施形態では、従来に比べて出力波形の乱れを改善でき波形を平滑化できる。
【0056】
次に、前記磁気センサ22が図示X1方向にλ/2だけ相対移動すると図4のようになる。
【0057】
図4に示すように前記第1の磁気抵抗効果素子24aには、(−)方向の外部磁界H6のうち、図示X2方向へのベクトル成分の外部磁界H9が支配的に流入する。
【0058】
この結果、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交方向である図示Y1方向(図2参照)から図示X2方向に磁化変動する。前記フリー磁性層33の磁化方向33aは前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と逆方向であるから、前記第1の磁気抵抗効果素子24aの電気抵抗値は大きくなる。
【0059】
一方、前記第1の磁気抵抗効果素子24aと直列接続され、図示X1方向にλの中心間距離を空けた位置にある第3の磁気抵抗効果素子24cには、(+)方向の外部磁界H5のうち、図示X1方向へのベクトル成分の外部磁界H10が支配的に流入する。
【0060】
この結果、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交方向である図示Y1方向(図2参照)から図示X1方向に磁化変動する。前記フリー磁性層33の磁化方向33aは前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と同じ方向であるから、前記第3の磁気抵抗効果素子24aの電気抵抗値は小さくなる。
【0061】
また第1の磁気抵抗効果素子24a及び第3の磁気抵抗効果素子24cとブリッジ回路を構成する前記第5の磁気抵抗効果素子24eには、前記第1の磁気抵抗効果素子24eに流入する外部磁界H9が流入し、前記第7の磁気抵抗効果素子24gには、前記第3の磁気抵抗効果素子24cに流入する外部磁界H10が流入する。
【0062】
よって図7に示す第1の出力取り出し部50からは、中点電位よりも低い電圧が出力され、前記第2の出力取り出し部51からは、中点電位よりも高い電圧が出力される。そして差動電位を取ると電圧値が倍となる。
【0063】
A相のブリッジ回路を構成する第1の磁気抵抗効果素子24a、第3の磁気抵抗効果素子24c、第5の磁気抵抗効果素子24e及び第7の磁気抵抗効果素子24gは、夫々、前記磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21の移動により、電気抵抗値が変化し、第1の出力端子59からは略矩形状の出力波形が得られる。
【0064】
一方、B相のブリッジ回路を構成する第2の磁気抵抗効果素子24b、第4の磁気抵抗効果素子24d、第6の磁気抵抗効果素子24f及び第8の磁気抵抗効果素子24hも、夫々、前記磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21の移動により、電気抵抗値が変化し、第2の出力端子61からは略矩形状の出力波形が得られる。
【0065】
前記第1の出力端子59から出力される出力波形と、前記第2の出力端子61から出力される出力波形は位相がずれている。出力により、前記磁気センサ22あるいは第1の永久磁石21の移動速度や移動距離を検出できる。またA相とB相のブリッジ回路を設けて出力を2系統にすることで、前記第1の出力端子59からの出力波形に対する前記第2の出力端子61からの出力波形の位相のずれ方向がどちら方向であるかにより、移動方向を知ることが可能である。
【0066】
上記のようにフリー磁性層33の磁化方向33aを、前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)と直交する方向に制御することで、図3に示すA相のブリッジ回路に対する無磁場状態から図4の状態に変化したとき、第1の磁気抵抗効果素子24aのフリー磁性層33、及び第3の磁気抵抗効果素子24cのフリー磁性層33の双方が、同じように磁化変動する。すなわちフリー磁性層33は、(+)方向の外部磁界H5が作用したときと、(−)方向の外部磁界H6が作用したときとで、磁気感度が夫々同じである。また、一方の磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が大きくなれば、直列接続された他方の磁気抵抗効果素子の電気抵抗値は必ず下がる関係にある。したがって図10に示す従来構造に比べて、(+)方向の外部磁界H5及び(−)方向の外部磁界H6に対する磁気感度のアンバランスを改善できる。
【0067】
以上のように本実施形態では、出力波形の乱れを従来に比べて改善でき、また(+)方向の外部磁界が作用したときと(−)方向の外部磁界が作用したときとで各磁気抵抗効果素子の検出感度を同じにでき、したがって従来に比べて検出精度を向上できる。
【0068】
しかも本実施形態では、基板23の裏面23bに一つの第2の永久磁石25を設け、全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hのフリー磁性層33の磁化方向33aを、前記第2の永久磁石25からの同じバイアス磁界biasによって制御するので、簡単な構成で、前記フリー磁性層33の磁化方向33aの制御を行うことが可能となっている。
【0069】
前記第2の永久磁石25の図示X1−X2方向への幅寸法は、図示X1−X2方向に配列された磁気抵抗効果素子の両側に位置する第1の磁気抵抗効果素子24aと前記第4の磁気抵抗効果素子24d間の間隔、及び前記第5の磁気抵抗効果素子24eと前記第8の磁気抵抗効果素子24h間の間隔よりも大きい。これによって全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hに対して前記第2の永久磁石25から同じバイアス磁界biasを印加でき、全ての磁気抵抗効果素子24a〜24hのフリー磁性層33を適切に磁化制御できる。
【0070】
前記第2の永久磁石25はバルク材であることが好ましい。例えば、前記第2の永久磁石25は前記基板23の裏面23bに接着剤を介して貼り付けられる。
【0071】
図2に示すように各磁気抵抗効果素子24a〜24hは、図示X1−X2方向の幅寸法T1よりも、図示Y1−Y2方向の長さ寸法L1のほうが長く形成されている。前記固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)は、図示X1−X2方向に磁化され、前記フリー磁性層33の磁化方向33aは、長手方向である図示Y1−Y2方向に磁化される。各磁気抵抗効果素子24a〜24hの幅寸法T1は、2〜100μm程度、長さ寸法L1は100〜300μm程度である。このように長さ寸法L1が非常に長くなっている。よって例えば、前記磁気抵抗効果素子24a〜24hの図示Y1−Y2方向の両側に、CoPt等のハードバイアス層をスパッタ法で形成して、前記ハードバイアス層によるバイアス磁界によって前記フリー磁性層33を図示Y1方向に磁化するには、前記バイアス磁界が弱すぎ、前記フリー磁性層33を適切に磁化制御できない。したがって本実施形態ではバルク材の第2の永久磁石25を用いている。そして、これにより、全ての前記フリー磁性層33の磁化制御を一度に行うことが出来る。
【0072】
前記第2の永久磁石25から前記フリー磁性層33に作用するバイアス磁界biasの大きさは、前記第1の永久磁石21から前記フリー磁性層33に作用する外部磁界Hの大きさに比べて小さい。これによって前記フリー磁性層33は、適切に前記第1の永久磁石21からの外部磁界Hによって磁化変動する。
【0073】
また、図6に示すように、前記基板23と磁気抵抗効果素子24a〜24hとを有する磁気センサ22を収納した筐体70の外側に、前記第2の永久磁石25を設けてもよい。
【0074】
本実施形態の磁気エンコーダ20は、図1に示すように磁気センサ22が第1の永久磁石21に対して直線的に相対移動するものであったが、図9に示すように、例えば表面80aにN極とS極とが交互に着磁された回転ドラム80と前記磁気センサ22とを有し、前記回転ドラム80の回転によって得られた出力により、回転速度や回転数、回転方向を検知できる回転型の磁気エンコーダであってもよい。
【0075】
図9の拡大図に示すように、図1に示す直線移動の磁気エンコーダと同様に、N極とS極の中心間距離(ピッチ)をλとしたとき、直列接続される各磁気抵抗効果素子どうしの中心間距離はλに制御されている。
【0076】
図9に示すように、各磁気抵抗効果素子24a〜24hの固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)は、前記磁気センサ22の基板23の中心を、前記磁気センサ22の相対回転方向上の接点としたときの接線方向と平行な方向に固定されている。ここで「接線方向」とは、接線に方向性を持たせたものであり、その方向は、相対回転方向に従う。換言すれば、前記接線方向は、前記接点での速度ベクトルの方向である。前記固定磁性層31の磁化方向は、前記接線方向に反平行であってもよい。
【0077】
また図7に示すように本実施形態では、A相とB相のブリッジ回路が設けられているが、どちらか一方だけ設けられる形態でもよい。
【0078】
また本実施形態の磁気エンコーダでは、直列接続される磁気抵抗効果素子の中心間の間隔はλであったが、これに限定されるものではない。かかる場合、全ての固定磁性層の磁化方向は平行でなくてもよい。少なくとも一つの磁気抵抗効果素子における固定磁性層の磁化方向が、残りの磁気抵抗効果素子における固定磁性層の磁化方向に対して反平行であってもよい。例えば図2に示す第1の磁気抵抗効果素子24aの固定磁性層31の磁化方向は図示X1方向であるが、第3の磁気抵抗効果素子24cの固定磁性層31の磁化方向は図示X2方向である如くである。ただし、図2に示すように、直列接続される磁気抵抗効果素子の中心間の間隔をλとし、各磁気抵抗効果素子24a〜24hの固定磁性層31の磁化方向(PIN方向)を全て同一方向に磁化することが前提の磁気エンコーダに本実施形態は効果的に適用できる。
【0079】
本実施形態の磁気センサ22は、磁気エンコーダ以外に、例えば、ポテンショメータにも適用することが出来る。ポテンショメータでは磁気センサの基板に垂直な軸を中心として回転可能な磁石(磁界発生部材)が対向配置される。前記磁石の回転により、各磁気抵抗効果素子に回転磁場が作用し各磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が変化する。前記電気抵抗値の変化に基づく出力波形から前記磁石の回転角度を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態の磁気エンコーダの部分斜視図、
【図2】磁気センサの部分拡大平面図、
【図3】図2に示すA−A線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、
【図4】図3の状態から磁気センサが、λ/2だけ相対移動したときの前記磁気エンコーダの部分拡大断面図、
【図5】図2に示すB−B線から膜厚方向に切断し矢印方向から見た前記磁気センサの拡大断面図、
【図6】図5の変形例を示す磁気センサの断面図、
【図7】磁気センサの回路図、
【図8】磁気抵抗効果素子のR−H曲線を示すグラフ、
【図9】本実施の別の形態の磁気エンコーダの模式図、
【図10】従来における第1の磁気エンコーダの構造と問題点を説明するための部分断面図、
【図11】従来における第2の磁気エンコーダの構造と問題点を説明するための部分断面図、
【図12】図11の磁気エンコーダに搭載される磁気抵抗効果素子のH//PIN方向のR−H曲線を示すグラフ、
【符号の説明】
【0081】
20 磁気エンコーダ
21 第1の永久磁石
22 磁気センサ
23 基板
24a〜24h 磁気抵抗効果素子
25 第2の永久磁石
30 反強磁性層
31 固定磁性層
32 非磁性材料層
33 フリー磁性層
34 保護層
40 R−H曲線
70 筐体
50、51、54、55 出力取り出し部
52、56 入力端子
53、57 アース端子
58、60 差動増幅器
59、61 出力端子
80 回転ドラム
33a (フリー磁性層の)磁化方向
PIN (固定磁性層の)磁化方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子を有する磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は複数個、前記基板上に設けられるとともに、磁化が一方向に固定された固定磁性層と、前記外部磁界に対して磁化変動するフリー磁性層とが、非磁性材料層を介して積層された積層部分を有し、
全ての前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向は平行であるか、あるいは少なくとも一つの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向が、残りの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向に対して反平行であり、
前記磁気抵抗効果素子と離れた位置に永久磁石が設けられ、無磁場状態において、全ての前記磁気抵抗効果素子の前記フリー磁性層が、前記永久磁石からの同じバイアス磁界によって、前記固定磁性層の磁化方向と直交方向で且つ同一方向に、磁化されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記基板の表面に前記磁気抵抗効果素子が設けられ、前記基板の裏面に前記永久磁石が設けられる請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗効果素子は、幅方向の寸法よりも前記幅方向と直交する長さ方向の寸法のほうが長く形成された形状であり、前記固定磁性層が、前記幅方向に磁化固定され、フリー磁性層が前記長さ方向に磁化されている請求項1又は2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
表面に、N極とS極が交互に着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、請求項1ないし3のいずれかに記載された磁気センサとを備える磁気エンコーダであって、
前記N極及びS極は、前記磁気センサの相対移動方向あるいは相対回転方向に交互に配列されて、前記磁気センサには、相対移動あるいは相対回転に伴って、前記相対移動方向あるいは前記相対回転方向に向う(+)方向への外部磁界と、前記(+)方向とは逆方向の(−)方向への外部磁界とが交互に作用し、
直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記基板の中心を相対回転方向上の接点としたときの接線方向と平行な方向に、ずれて配置され、
各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が、夫々、前記相対移動方向と平行あるいは反平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行あるいは反平行な方向に磁化固定されていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項5】
前記N極と前記S極の中心間距離をλとしたとき、直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行な方向に、λの中心間距離を空けて配置されており、
全ての磁気抵抗効果素子の前記固定磁性層が、同一方向に磁化固定されている請求項4記載の磁気エンコーダ。
【請求項1】
基板上に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子を有する磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は複数個、前記基板上に設けられるとともに、磁化が一方向に固定された固定磁性層と、前記外部磁界に対して磁化変動するフリー磁性層とが、非磁性材料層を介して積層された積層部分を有し、
全ての前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向は平行であるか、あるいは少なくとも一つの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向が、残りの前記磁気抵抗効果素子における前記固定磁性層の磁化方向に対して反平行であり、
前記磁気抵抗効果素子と離れた位置に永久磁石が設けられ、無磁場状態において、全ての前記磁気抵抗効果素子の前記フリー磁性層が、前記永久磁石からの同じバイアス磁界によって、前記固定磁性層の磁化方向と直交方向で且つ同一方向に、磁化されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記基板の表面に前記磁気抵抗効果素子が設けられ、前記基板の裏面に前記永久磁石が設けられる請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗効果素子は、幅方向の寸法よりも前記幅方向と直交する長さ方向の寸法のほうが長く形成された形状であり、前記固定磁性層が、前記幅方向に磁化固定され、フリー磁性層が前記長さ方向に磁化されている請求項1又は2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
表面に、N極とS極が交互に着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、請求項1ないし3のいずれかに記載された磁気センサとを備える磁気エンコーダであって、
前記N極及びS極は、前記磁気センサの相対移動方向あるいは相対回転方向に交互に配列されて、前記磁気センサには、相対移動あるいは相対回転に伴って、前記相対移動方向あるいは前記相対回転方向に向う(+)方向への外部磁界と、前記(+)方向とは逆方向の(−)方向への外部磁界とが交互に作用し、
直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記基板の中心を相対回転方向上の接点としたときの接線方向と平行な方向に、ずれて配置され、
各磁気抵抗効果素子の固定磁性層が、夫々、前記相対移動方向と平行あるいは反平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行あるいは反平行な方向に磁化固定されていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項5】
前記N極と前記S極の中心間距離をλとしたとき、直列接続される磁気抵抗効果素子どうしは、前記相対移動方向と平行な方向に、あるいは、前記接線方向と平行な方向に、λの中心間距離を空けて配置されており、
全ての磁気抵抗効果素子の前記固定磁性層が、同一方向に磁化固定されている請求項4記載の磁気エンコーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−151759(P2008−151759A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343031(P2006−343031)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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