説明

磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法

【課題】読み出し時の誤書き込みのリスクをより抑制し、かつ、より正確な読み出しを可能とする。
【解決手段】磁気ランダムアクセスメモリは、スピン注入により変更される自由強磁性層の磁化の向きでデータを書き込み可能な第1磁気抵抗素子を含むメモリセルと、スピン注入により変更される自由強磁性層の磁化の向きでリファレンス用データを記憶する複数の第2磁気抵抗素子を含み、メモリセルの読み出し動作時に用いられるリファレンスセルとを具備する。複数の第2磁気抵抗素子は、互いに直列に接続され、自由強磁性層の磁化の向きが互いに逆の向きで、固定強磁性層の磁界の向きが互いに同じ向きで、固定強磁性層同士又は自由強磁性層同士が電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法に関し、特にスピン注入方式を用いた磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗素子を記憶素子として用いる磁気ランダムアクセスメモリ(以下、「MRAM」と記す)が不揮発メモリとして提案されている。磁気抵抗素子としては、主にTMR(Tunnel MagnetoResistance)効果を持つ強磁性層/トンネルバリア層/強磁性層を有するTMR素子が用いられている。TMR素子においては、2つの強磁性層の磁化の向きの相対角が平行の場合に、低抵抗(以下「R0」と記す)、反平行な場合に高抵抗(以下「R1」と記す)になり、その抵抗変化率は数10〜数100%になることが知られている。
【0003】
図1は、従来のTMR素子を用いたMRAMのセルの構成を示す断面図である。TMR素子(磁気抵抗素子)150は、配線層151と配線層156との間に設けられ、反強磁性層152、強磁性層である固定磁性層153、トンネルバリア層154、強磁性層である自由磁性層155から構成されている。固定磁性層153は、隣接して設けられた反強磁性層152により、その磁化の向きが実質的に固定されている。一方、自由磁性層155は、その磁化が磁化容易軸方向を向き、その磁化の向きと固定磁性層153の磁化の向きとの相対角度が平行、反平行のいずれかとなる。データの読出しは、TMR素子150に垂直方向に電流を印加し、その抵抗、すなわち、電圧を測定することにより行われる。読み出された電圧から、どちらのデータが記憶されていたかを判断するためには、参照電圧が必要となる。参照電圧の生成には、TMR素子を用いたリファレンスセルを用いることができる。図2は、米国特許US6,392,923号公報に開示されたリファレンスセル160を示す等価回路図である。記憶されたデータが異なるTMR素子150を直並列に配置することにより、リファレンスセル160の抵抗値Rrefを(R0+R1)/2としている。
【0004】
一方、データの書き込みは、TMR素子150に隣接した書き込み配線に書き込み電流を印加し、その漏洩磁界により自由磁性層155の磁化の向きを変化させることによりおこなわれる。このときの書き込み電流の方向はTMR素子150の面に平行な方向であり、図1の配線層155においては図面に垂直な方向となる。
【0005】
このMRAMに対するデータの書き込み方法では、TMR素子150のサイズにほぼ反比例して、自由磁性層155の磁化を反転させるために必要な反転磁界が大きくなる。つまり、メモリセルが微細化されるにつれて、書き込み電流が増加する傾向にある。そのため、メモリセルの微細化により、消費電力、電流密度、及び、電流を印加するためのドライバが大きくなるという問題点がある。
【0006】
微細化に伴う書き込み電流の増加を抑制可能な書き込み方式として、「スピン注入(spin transfer)方式」が提案されている(例えば、M.Hosomi,et al.,“A Novel Nonvolatile Memory with Spin Torque Transfer Magnetization Switching: Spin−RAM”,International Electron Devices Meeting, Technical Digest,p473(2005))。このスピン注入方式では、データの書き込みは、読出しと同様に、TMR素子の面に垂直方向に電流を印加することによりおこなわれる。
【0007】
図3は、従来のスピン注入方式による書き込み方法の原理を示す断面図である。電流が自由磁性層155から固定磁性層153へ、すなわち、電子が固定磁性層153から自由磁性層155へ流れる場合を考える。固定磁性層153を通過する電子は、固定磁性層153の磁化との相互作用により固定磁性層153の磁化と同じ方向にスピンを持つようになる。このスピン偏極した伝導電子は自由磁性層155を通過する際、自由磁性層155の磁化と相互作用し、自由磁性層の磁化にトルク161が発生する。このトルク161が十分に大きいと自由磁性層155の磁化は反転し、反平行から平行への磁化の遷移がおこる。一方、逆に電子が自由磁性層155から固定磁性層153へ流れる場合、固定磁性層153の磁化の向きと反対向きのスピンを持つ電子が固定磁性層153により反射される。そのため、その反対向きのスピンを持つ電子により、平行から反平行への磁化の遷移がおこる。なお、トンネルバリア層154としての非磁性層はTMR素子150で用いられる絶縁膜の他、金属膜でもよいことが知られている。
【0008】
スピン注入方式での書き込み方法では、書き込み電流の閾値が電流密度に依存する。そのため、メモリセルサイズが縮小されるにつれ、書き込みに必要な電流が減少する。したがって、メモリセルの微細化、MRAMの大容量化に有利であることが期待される。
【0009】
しかしながら、従来のスピン注入方式のMRAMには書き込み動作時と読み出し動作時の電流が同じ方向であることに起因した問題がある。すなわち、スピン注入方式のMRAMにおいては、読み出し動作時に誤って書き込みを行ってしまう可能性がある。例えば、自由磁性層155の磁化が固定磁性層153の磁化と反平行で、高抵抗状態にある場合を考える。データの読み出しのために、自由磁性層155から、固定磁性層153へ電流を印加する。この場合、電子が固定磁性層153から自由磁性層155に流れるとき、その読み出し電流値が書き込み電流の閾値と比較して十分小さくない限り、自由磁性層155の磁化を反転させてしまうリスクがある。このリスクを低減するためには、読み出し電流値を小さくするか、あるいは、書き込み電流の閾値を大きくする必要がある。しかしながら、読出し電流値が小さいと、信号品質が劣化し、高速、かつ、正確な読出しを行うことが困難になってしまう。また、書き込み電流の閾値を大きくすることは、消費電力やトランジスタのサイズの観点から好ましくない。
【0010】
この読み出し動作時の誤書き込みは、データが記憶されるメモリセルだけでなく、データの読み出し時に参照される参照電圧を生成するリファレンスセルにTMR素子が用いられている場合、このリファレンスセルにおいても大きな問題となる。これはリファレンスセルがメモリセルよりも高頻度で読出しが行われ、かつ、リファレンスセルのエラーが行(列)単位のエラーになってしまうためである。
【0011】
磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し時の誤書き込みのリスクをより抑制し、かつ、より正確な読み出しを可能とする技術が望まれる。磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し時の誤書き込みのリスクをより抑制し、より正確な読み出しを可能としつつ、且つ、書き込み電流及び消費電力を小さくすることが可能な技術が求められる。
【0012】
関連する技術として特表2005−535125(WO2004/013861)号公報にスピントランスファーを利用する磁性素子及び磁性素子を使用するMRAMデバイスが開示されている。この磁性素子は、第1ピンド層と、非磁性スペーサ層と、自由層と、バリア層と、第2ピンド層とを備える。第1ピンド層は、強磁性体であり、かつ第1方向に固定される第1磁化を有する。非磁性スペーサ層は、導電体である。自由層は、第1非磁性スペーサ層が前記第1ピンド層と前記自由層との間に位置するとともに、強磁性体であり、かつ第2磁化を有する。バリア層は、絶縁体であり、かつトンネリングを可能にする厚さを有する。第2ピンド層は、強磁性体であり、かつ第2方向に固定される第3磁化を有する。前記バリア層は、前記自由層と前記第2ピンド層との間に位置する。前記自由層の前記第2磁化の方向は、書き込み電流が磁性素子を流れるときにスピントランスファーによって変わる。
【0013】
特開2005−116888号公報に磁気メモリが開示されている。この磁気メモリは、第1磁化固着層と、磁気記録層と、第1非磁性層と、第2磁化固着層と、第2非磁性層とを備えたメモリセルを含む。第1磁化固着層は、スピンの向きが固着されている。磁気記録層は、書き込み電流によりスピンの向きが可変である。第1非磁性層は、前記第1磁化固着層と前記磁気記録層との間に設けられている。第2磁化固着層は、読み出し電流用の第1配線に電気的に接続され、スピンの向きが固着されている。第2非磁性層は、前記磁気記録層の前記第1非磁性層と反対側の面の第1領域と、前記第2磁化固着層の前記第1配線に電気的に接続された面と反対側の面との間に設けられている。前記磁気記録層の前記第1非磁性層とは反対側の面の第2領域に、前記書き込み電流用の第2配線が電気的に接続されている。前記第1磁化固着層の前記第1非磁性層と反対側の面が前記書き込み電流および前記読み出し電流用の第3配線に電気的に接続されている。
【0014】
特開2005−116923号公報(対応米国特許:US7,110,284)にスピントルクを用いた不揮発性磁気メモリセルおよびこれを用いた磁気ランダムアクセスメモリが開示されている。この不揮発性磁気メモリセルは、自由層と絶縁障壁層と固定層とを備えるトンネル型磁気抵抗効果膜と、前記自由層の磁化情報の書き込みと読み出しを行うためのワード線とビット線とを備えた磁気メモリセルである。前記自由層の磁化方向をスピントルクにより回転させるためのスピントルク磁化反転層が前記トンネル型磁気抵抗効果膜に隣接して形成されている。前記トンネル型磁気抵抗効果膜は前記スピントルク磁化反転層を介して、ドレイン電極、ソース電極、ゲート電極、n型半導体、およびp型半導体から構成されているMOSFETのドレイン電極と電気的に接続している。
【0015】
特開2003−229544号公報に磁気記憶装置が開示されている。この磁気記憶装置は、磁化方向が固定された固着層と、スピン偏極した電子の注入によって磁化方向が変化する記録層と、前記固着層と前記記録層との間に配置されたトンネル絶縁層とを有するトンネル磁気抵抗効果素子の少なくとも2つが、作動検出可能なように積層されている。
【0016】
特開2003−17782号公報にキャリヤスピン注入磁化反転型磁気抵抗効果膜と該膜を用いた不揮発性メモリー素子及び該素子を用いたメモリー装置が開示されている。このキャリヤスピン注入磁化反転型磁気抵抗効果膜は、固定磁化層の上に絶縁層を積層し、該絶縁層の上に、キャリヤ誘起磁性を備える。キャリヤスピンの注入により磁化の方向が反転する磁化反転層を積層し、誘導磁場に依らず磁化の方向が反転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許US6,392,923号公報
【特許文献2】特表2005−535125号公報
【特許文献3】特開2005−116888号公報
【特許文献4】特開2005−116923号公報
【特許文献5】特開2003−229544号公報
【特許文献6】特開2003−17782号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】M.Hosomi,et al.,“A Novel Nonvolatile Memory with Spin Torque Transfer Magnetization Switching: Spin−RAM”,International Electron Devices Meeting, Technical Digest,p473(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、読み出し時の誤書き込みのリスクをより抑制し、かつ、より正確な読み出しを可能とすることが可能な磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法を提供することにある。
【0020】
本発明の他の目的は、読み出し時の誤書き込みのリスクをより抑制し、より正確な読み出しを可能としつつ、且つ、書き込み電流及び消費電力を小さくすることが可能な磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法を提供することにある。
【0021】
この発明のこれらの目的とそれ以外の目的と利益とは以下の説明と添付図面とによって容易に確認することができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の磁気ランダムアクセスメモリは、第1磁気抵抗素子と、読み出し回路とを具備する。第1磁気抵抗素子は、第1固定強磁性層、第1非磁性層及び第1自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される第1自由強磁性層の磁化の向きでデータを書き込み可能である。読み出し回路は、読み出し動作時において、第1固定強磁性層と自由強磁性層との間に読み出し電流を流して得られる第1磁気抵抗素子の抵抗値に基づいて、第1磁気抵抗素子のデータの読み出しを行う。読み出し回路は、読み出し電流の印加及びデータの読み出しを複数回行うことで、一つの読み出しデータを決定する。複数回のうち2回目以降の読み出し電流の印加方向を、前回読み出されたデータに基づいて、第1自由強磁性層の磁化が反転しないように決定する。
本発明の磁気ランダムアクセスメモリでは、読み出し動作時に、誤書き込み、すなわち、磁化の反転が起こらない方向の電流を第1磁気抵抗素子(メモリセル)に印加する。そのために、まず、第1磁気抵抗素子に対して、誤書き込みがほとんど起こらない小さな読み出し電流、または、印加時間の短い読み出し電流によって予備読み出しを行い、予備的にデータを読み出す。この予備的に読み出されたデータに基づいて、第1自由強磁性層の磁化が反転しないように次の読み出し電流の方向を決定する。そして、次に、十分な大きさの読み出し電流を、決定された方向に流すことにより、本番のデータの読み出しを行う。本番のデータの読み出しにより、データの読み出しを確実に行うことができる。それと共に、第1自由強磁性層の磁化が反転しない方向の読み出し電流を用いることにより、読み出し電流の印加時の第1磁気抵抗素子への誤書き込みの確率を大幅に低減することができる。
【0023】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路は、前回読み出されたデータが、第1磁気抵抗素子の低抵抗に対応している場合、次回の読み出し電流の印加方向を第1自由強磁性層から第1固定強磁性層へ向う方向とする。前回読み出されたデータが、第1磁気抵抗素子の高抵抗に対応している場合、次回の読み出し電流の印加方向を第1固定強磁性層から第1自由強磁性層へ向う方向とする。
【0024】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路が、回数の増加と共に読み出し電流の値を順次大きくする。
【0025】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路は、読み出し電流の印加及びデータの読み出しを2回行うことで、一つの読み出しデータを決定する。2回目の読み出し電流の値は、1回目の読み出し電流の値よりも大きい。
【0026】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路は、回数の増加と共に読み出し電流の印加時間を順次長くする。
【0027】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路は、読み出し電流の印加及びデータの読み出しを2回行うことで、一つの読み出しデータを決定する。2回目の読み出し電流の印加時間は、1回目の読み出し電流の印加時間よりも長い。
【0028】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路は、読み出し電流の印加及びデータの読み出しをN(Nは2以上の自然数)回行うことで、一つの読み出しデータを決定する。(N−1)回目のデータの読み出しの結果と、N回目のデータの読み出しの結果とは、50%以上の確率で一致している。
【0029】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、第2固定強磁性層、第2非磁性層及び第2自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される第2自由強磁性層の磁化の向きでリファレンス用データを記憶する第2磁気抵抗素子を一つ又は複数含むリファレンスセルを更に具備する。読み出し回路は、リファレンスセルに対する読み出し電流の印加方向を、スピン注入による磁化が反転しないように決定する。
【0030】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、読み出し回路は、リファレンスセルに記憶されたリファレンス用データが、第2磁気抵抗素子の低抵抗に対応している場合、読み出し電流の印加方向を第2自由強磁性層から第2固定強磁性層へ向う方向とする。リファレンスセルに記憶されたリファレンス用データが、第2磁気抵抗素子の高抵抗に対応している場合、読み出し電流の印加方向を第2固定強磁性層から第2自由強磁性層へ向う方向とする。
【0031】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、リファレンスセルは、複数の第2磁気抵抗素子を含む。複数の第2磁気抵抗素子は、互いに直列に接続され、第2自由強磁性層の磁化の向きが互いに逆の向きで、第2固定強磁性層の磁界の向きが互いに同じ向きで、第2固定強磁性層同士又は第2自由強磁性層同士が電気的に接続されている二つの第3磁気抵抗素子を有する。
【0032】
上記の磁気ランダムアクセスメモリにおいて、リファレンスセルを初期化するために、リファレンスセルに、第2自由強磁性層の磁化が反転する閾値電流よりも大きい一方向の書き込み電流を印加することにより、リファレンス用データを書き込む書き込み回路を更に具備する。
【0033】
上記課題を解決するために、本発明の磁気ランダムアクセスメモリは、メモリセルと、リファレンスセルとを具備する。メモリセルは、第1固定強磁性層、第1非磁性層及び第1自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される第1自由強磁性層の磁化の向きでデータを書き込み可能な第1磁気抵抗素子を含む。リファレンスセルは、第2自由強磁性層、第2非磁性層及び第2自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される第2自由強磁性層の磁化の向きでリファレンス用データを記憶する複数の第2磁気抵抗素子を含み、メモリセルの読み出し動作時に用いられる。複数の第2磁気抵抗素子は、互いに直列に接続され、自由強磁性層の磁化の向きが互いに逆の向きで、固定強磁性層の磁界の向きが互いに同じ向きで、固定強磁性層同士又は自由強磁性層同士が電気的に接続されている。
【0034】
上記課題を解決するために、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法は、(a)第1固定強磁性層、第1非磁性層及び第1自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される第1自由強磁性層の磁化の向きでデータを書き込み可能な第1磁気抵抗素子に対して、読み出し動作時において、第1固定強磁性層と自由強磁性層との間に読み出し電流を流すステップと;(b)読み出し電流を流して得られる第1磁気抵抗素子の抵抗値に基づいて、第1磁気抵抗素子のデータの読み出しを行うステップと;(c)(a)ステップと(b)ステップとを複数回行うことで、一つの読み出しデータを決定するステップとを具備する。(a)ステップは、(a1)複数回のうち2回目以降の読み出し電流の印加方向を、前回読み出されたデータに基づいて、第1自由強磁性層の磁化が反転しないように決定するステップを備える。
【0035】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(a1)ステップは、(a11)前回読み出されたデータが、第1磁気抵抗素子の低抵抗に対応している場合、次回の読み出し電流の印加方向を第1自由強磁性層から第1固定強磁性層へ向う方向と決定するステップと;(a12)前回読み出されたデータが、第1磁気抵抗素子の高抵抗に対応している場合、次回の読み出し電流の印加方向を第1固定強磁性層から第1自由強磁性層へ向う方向とと決定するステップとを含む。
【0036】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(a)ステップは、(a2)回数の増加と共に読み出し電流の値を順次大きくするステップを備える。
【0037】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(c)ステップは、(c1)読み出し電流の印加及びデータの読み出しを2回行うことで、一つの読み出しデータを決定するステップを備える。(a)ステップは、(a3)2回目の読み出し電流の値を、1回目の読み出し電流の値よりも大きくするステップを備える。
【0038】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(a)ステップは、(a4)回数の増加と共に読み出し電流の印加時間を順次長くするステップを備える。
【0039】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(c)ステップは、(c2)読み出し電流の印加及びデータの読み出しを2回行うことで、一つの読み出しデータを決定するステップを備える。(a)ステップは、(a5)2回目の読み出し電流の印加時間を1回目の読み出し電流の印加時間よりも長くするステップを備える。
【0040】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(c)ステップは、(c3)読み出し電流の印加及びデータの読み出しをN(Nは2以上の自然数)回行うことで、一つの読み出しデータを決定するステップを備える。(N−1)回目のデータの読み出しの結果と、N回目のデータの読み出しの結果とは、50%以上の確率で一致している。
【0041】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(a)ステップは、(a6)第2固定強磁性層、第2非磁性層及び第2自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される第2自由強磁性層の磁化の向きでリファレンス用データを記憶する第2磁気抵抗素子を一つ又は複数含むリファレンスセルに対する読み出し電流の印加方向を、スピン注入による磁化が反転しないように決定するステップを備える。
【0042】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(a6)ステップは、(a61)リファレンスセルに記憶されたリファレンス用データが、第2磁気抵抗素子の低抵抗に対応している場合、読み出し電流の印加方向を第2自由強磁性層から第2固定強磁性層へ向う方向と決定するステップと;(a62)リファレンスセルに記憶されたリファレンス用データが、第2磁気抵抗素子の高抵抗に対応している場合、読み出し電流の印加方向を第2固定強磁性層から第2自由強磁性層へ向う方向と決定するステップとを含む。
【0043】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、リファレンスセルは、複数の第2磁気抵抗素子を含む。複数の第2磁気抵抗素子は、互いに直列に接続され、第2自由強磁性層の磁化の向きが互いに逆の向きで、第2固定強磁性層の磁界の向きが互いに同じ向きで、第2固定強磁性層同士又は第2自由強磁性層同士が電気的に接続されている二つの第3磁気抵抗素子を有する。
【0044】
上記の磁気ランダムアクセスメモリの動作方法において、(a)ステップは、(a7)リファレンスセルを初期化するために、リファレンスセルに、第2自由強磁性層の磁化が反転する閾値電流よりも大きい一方向の書き込み電流を印加することにより、リファレンス用データを書き込むステップを更に備える。
【発明の効果】
【0045】
本発明により、読み出し時の誤書き込みのリスクがより抑制され、より正確な読み出しが可能となる。更に、読み出し時の誤書き込みのリスクの抑制と正確な読み出しの実現に加えて、書き込み電流及び消費電力を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、従来のTMR素子を用いたMRAMのセルの構成を示す断面図である。
【図2】図2は、米国特許6,392,923号公報に開示されたリファレンスセルを示す等価回路図である。
【図3】図3は、従来のスピン注入方式による書き込み方法の原理を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の単一メモリセルの構成を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明で用いる磁気抵抗素子の抵抗と印加した電流との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の動作における、読み出し動作のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図8】図8は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態において用いられるリファレンスセルの構成を示す図である。
【図9】図9は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態において用いられるリファレンスセルの構成を示す図である。
【図10】図10は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態において用いられるリファレンスセルの構成を示す図である。
【図11】図11は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの原理及び効果を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法の実施の形態に関して、添付図面を参照して説明する。
【0048】
まず、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の構成について説明する。図4は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の構成を示すブロック図である。磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)1は、複数のメモリセル10、書き込み線デコーダ20、複数の第1書き込み線21a、複数の第2書き込み線21b、選択線デコーダ30、複数の選択線31、書き込み制御回路41、読み出し制御回路42、電流源回路43、及び読み出し判定回路44を具備する。
【0049】
複数のメモリセル10は、MRAM1内にマトリクス状に配置され、メモリセルアレイを形成している。メモリセル10は、磁気抵抗効果を用いてデータを記憶する磁気抵抗素子50と選択トランジスタ9を備える。磁気抵抗素子50は、後述される構成(図5)を有し、上部電極(上部の配線層)と下部電極(下部の配線層)とに挟まれている。磁気抵抗素子50の一端は、上部電極を介して第1書き込み線21aに接続され、その他端は下部電極を介して選択トランジスタ9のソース/ドレインの一方に接続されている。選択トランジスタ9のソース/ドレインの他方は、第2書き込み線21bに接続されている。選択トランジスタ9のゲートは、選択線31に接続されている。
【0050】
複数の第1書き込み線21a及び複数の第1書き込み線21bは、それぞれ一端を書き込み線デコーダ20に接続され、X方向(第1方向)へ伸びている。第1書き込み線21aと第2書き込み線21bとは、一組の書き込み線対21を構成している。複数の選択線31は、それぞれ一端を選択線デコーダ30に接続され、X方向(第1方向)と略垂直なY方向(第2方向)へ伸びている。複数のメモリセル10は、複数の書き込み線対21と複数の選択線31との交点の各々に対応して設けられている。
【0051】
書き込み制御回路41は、データの書き込みを制御する。すなわち、書き込み制御回路41は、書き込み制御信号を電流源回路43へ、選択線アドレス信号を選択線デコーダ(選択線ドライバ)30へ、書き込み線アドレス信号及び電流方向信号を書き込み線デコーダ(書き込み線ドライバ)20へそれぞれ出力する。書き込み制御信号は、書き込み電流Iを調整するための信号である。選択線アドレス信号は、複数の選択線31から書き込み対象のメモリセル10(以下、「対象メモリセル10」と記す)に対応する選択線31を選択するための信号である。書き込みアドレス信号は、複数の書き込み線対21から対象メモリセル10に対応する書き込み線対21を選択するための信号である。電流方向信号は、書き込み電流Iの向きを示す信号である。書き込み電流Iの向きは、対象メモリセル10に書き込まれるデータに依存して決定される。
【0052】
電流源回路43は、書き込み制御回路41からの書き込み制御信号に応答して、書き込み線デコーダ20及び選択された書き込み線対21を介して、対象メモリセル10に対して、書き込み電流Iの供給、変更及び停止を行う。
【0053】
選択線デコーダ30は、選択線アドレス信号に応答して、対象メモリセル10につながる1本の選択線31を選択する。これにより、対象メモリセル10の選択トランジスタ9がONになる。書き込み線デコーダ20は、書き込み線アドレス信号に応答して、対象メモリセル10につながる第1書き込み線21a及び第2書き込み線21bを選択する。そして、書き込み線デコーダ20は、書き込み制御回路41からの電流方向信号に応答して、電流源回路43から出力される書き込み電流Iを、電流方向信号が示す向きに一致するように、対象メモリセル10(磁気抵抗素子50)に流す。そのとき、第1書き込み配線21a及び第2書き込み配線21bのうちの一方を電流源回路43に、他方を接地にそれぞれ接続する。
【0054】
読み出し制御回路42は、データの読み出しを制御する。すなわち、読み出し制御回路42は、読み出し制御信号を電流源回路43へ、選択線アドレス信号を選択線デコーダ30へ、書き込み線アドレス信号及び読み出し信号を書き込み線デコーダ20へそれぞれ出力する。読み出し制御信号は、読み出し電流Iを調整するための信号である。選択線アドレス信号は、複数の選択線31から対象メモリセル10に対応する選択線31を選択するための信号である。書き込み線アドレス信号は、複数の書き込み線対21から対象メモリセル10に対応する書き込み線対21を選択するための信号である。読み出し信号は、読み出し動作を示す信号である。読み出し電流Iの向きは、第1書き込み線21aから第2書き込み線21bへ向かう向き、または、第2書き込み線21bから第1書き込み線21aへ向かう向きのいずれか一方である。本発明においては、後述するように、読み出し電流の大きさ、供給(印加)時間、及び、向きを読み出し制御回路42により制御する。
【0055】
電流源回路43は、読み出し制御回路42からの読み出し制御信号に応答して、書き込み線デコーダ20及び選択された書き込み線対21を介して、対象メモリセル10に対して、読み出し電流Iの供給、変更及び停止を行う。
【0056】
選択線デコーダ30、及び、書き込み線デコーダ20はデータの書き込み時と同様に対象メモリセル10の選択をおこなう。読み出し判定回路44は、対象メモリセル10の磁気抵抗素子50からの信号を検出し、対象メモリセル10に書き込まれているデータを判定し、その結果を読み出し制御回路42へ出力する。読み出し判定回路42の動作の詳細については後述する。
【0057】
図5は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の単一メモリセルの構成を示す断面図である。トランジスタが形成された基板(図示されず)の上方に、配線層51、反強磁性層52、固定磁性層53、トンネルバリア層54、自由磁性層55、配線層56が順次形成される。配線層51及び配線層56のいずれか一方は、図4における第1書き込み配線層21aに、他方は選択トランジスタ9を介して第2書き込み配線層21bに、それぞれ直接又は間接に接続されている。反強磁性層52、固定磁性層53、トンネルバリア層54及び自由磁性層55は、磁気抵抗素子(TMR素子)50を形成している。強磁性層である固定磁性層53の磁化の向きは反強磁性層52との交換相互作用により固定されている。強磁性層である自由磁性層55の磁化の向きはその磁化容易軸に沿って、固定磁性層53の磁化と平行、反平行のいずれかに向く。自由磁性層55の磁気異方性は材料に依存した結晶磁気異方性、歪誘導異方性、及び平面形状に依存した形状磁気異方性のうちのいずれか、又は、これらの組み合わせにより決定される。
【0058】
図5においては、自由磁性層55の磁気異方性の方向、及び固定磁性層53の磁化の方向は各層内(各膜面内)としているが、各層(各膜面)に垂直な方向であってもよい。また、固定磁性層53の磁化の固定方法は反強磁性層52を用いずに、固定磁性層53として保磁力の大きな材料を用いることで代替することも可能である。また、自由磁性層55及び固定磁性層53のいずれも、非磁性金属を介して強磁性的、あるいは、反強磁性的に結合した積層磁性膜を用いてもよい。さらに、各層の積層順序は反対にすることも可能である。各層に用いられる材料としては、典型的には、以下のものが用いられる。すなわち、配線層51、56としてはAl、Cuなどの金属膜が、反強磁性層52としてはFeMn、あるいはIrMn、PtMnなどの反強磁性膜が用いられる。自由磁性層55、固定磁性層53としてはCoFe、NiFe、NiFeCo、CoFeBなどの強磁性膜が用いられる。トンネルバリア層54としてはアルミニウム酸化膜、MgOなどの絶縁膜が用いられる。
【0059】
次に、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の動作について説明する。
自由磁性層55と固定磁性層53の磁化が平行で低抵抗である状態を“0”、反平行で高抵抗である状態を“1”と定義する。図5において、スピン注入法により、“1”状態から“0”状態に書き込むためには、書き込み電流Iを自由磁性層55側から固定磁性層53側へ流せばよい。このとき、スピン偏極した電子が固定磁性層53から自由磁性層55へ流れる。スピントルク効果により、自由磁性層55の磁化が反転し、“0”状態となる。なお、初期状態が“0”である場合、自由磁性層55の磁化は変化しない。逆に、“0”状態から“1”状態に書き込むためには、書き込み電流Iを固定磁性層53側から自由磁性層55側に流せばよい。ここで、“0”状態が“1”に書き込まれる書き込み電流Iの方向を正方向と定義する。
【0060】
図6は、本発明で用いる磁気抵抗素子の抵抗と印加した電流との関係を示すグラフである。縦軸は磁気抵抗の大きさ(抵抗値)を示し、横軸は書き込み電流Iの大きさ(電流値)を示す。抵抗値と電流値との間にはヒステリシスが存在し、電流値が閾値I01又はI02を超えると、自由磁性層55の磁化が反転し、それに伴い抵抗値がジャンプし、“0”から“1”(図中(a)の場合)、あるいは、“1”から“0”(図中(b)の場合)の遷移がおこる。なお、図6において、電流値の絶対値が大きくなるにつれ抵抗値が下がるのは、トンネル抵抗のバイアス電圧依存性に起因したものである。
【0061】
図7は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態の動作における、読み出し動作のアルゴリズムを示したフローチャートである。本発明においては、読み出し動作時に、読み出し電流Iを複数回(N回、Nは自然数)印加する。N回目の読み出し電流Iの電流値が、十分な信号品質が得られる本来(従来)の読み出し電流Iの電流値である。以下、説明の簡略化ため、N=2とする。そして、1回目の読み出し電流Iの印加による読み出し動作を「予備読み出し」、2回目の読み出し電流Iの印加による読み出し動作を「本番読み出し」と呼ぶことにする。
【0062】
読み出し制御回路42は、まず、内部に格納された読み出し回数Nを確認する(ステップS01)。この例では、N=2である。そして、以下の動作をi=1からNまで繰り返すために、まずi=1とする(ステップS02)。i=1は、最初の読み出し動作である予備読み出しを示す。
【0063】
読み出し制御回路42は、予備読み出しの読み出し電流=Crnt(1)を設定し、電流源回路43、選択線デコーダ30及び書き込み線デコーダ20を制御する(ステップS03)。それにより、電流源回路43は、予備読み出しの読み出し電流=Crnt(1)を対象メモリセル10へ印加する。読み出し判定回路44は、読み出し電圧(第1書き込み線21aと第2書き込み線21bとの間の電圧差)を検出し、読み出しデータが“0”か“1”かを判定する。そして、判定結果を読み出し制御回路42へ出力する(ステップS04)。
【0064】
この予備読み出しでの読み出し電流は、本番読み出しの読み出し電流よりも絶対値が小さい、または、印加時間が短いように設定される。そのため、予備読み出しの電流による誤書き込みの確率は著しく低くなっている。ただし、本番読み出しと比較して、十分な信号量を得ることができないため、ある程度の読み出しエラーが生じる可能性はある。
【0065】
読み出し制御回路42は、判定結果に基づいて、次の読み出し動作(i=2)である本番読み出しでの読み出し電流を決定する(ステップS05)。すなわち、本番読み出しにおいては、予備読み出しで得たデータに基づいて、読み出し電流の方向を決定する。例えば、予備読み出しの結果が“0”の場合(ステップS05:“0”)、本番読み出しの読み出し電流の方向は図5、図6の負方向とする(ステップS07)。この条件により、データの“1”状態への変化が起こらない。逆に、予備読み出しの結果が“1”の場合(ステップS05:“1”)、本番の読み出し電流の方向は図5、図6の正方向とする(ステップS06)。この条件により、データの“0”状態への変化が起こらない。
【0066】
読み出し制御回路42は、i=i+1を算出し(ステップS08)、i>Nか否かを判定する(ステップS09)。i=2(≦N)の場合(ステップS09:No)、ステップS03へ戻る。i=2は、最後の読み出し動作である本番読み出しを示す。
【0067】
読み出し制御回路42は、本番読み出しの読み出し電流=Crnt(2)を設定し、電流源回路43、選択線デコーダ30及び書き込み線デコーダ20を制御する(ステップS03)。それにより、電流源回路43は、本番読み出しの読み出し電流=Crnt(2)を対象メモリセル10へ印加する。読み出し判定回路44は、読み出し電圧(第1書き込み線21aと第2書き込み線21bとの間の電圧差)を検出し、読み出しデータが“0”か“1”かを判定する。そして、判定結果を読み出し制御回路42へ出力する(ステップS04)。
【0068】
読み出し制御回路42は、ステップS05〜S08の動作を実行するが、i=3>2なので、読み出し動作を終了し(ステップS09)、直前(S04)の読み出しデータを最終的な読み出しデータとする。
【0069】
本番読み出しにおいては、十分な信号量を得ることができるので、読み出しデータを決定することができる。この方法では、予備読み出しにおいて正しくデータを読み出していれば、本番読み出しにおいて、そのデータが書き換えられない(誤書き込みをされない)ような向きに読み出し電流を設定することができる。すなわち、本番読み出しでは誤書き込みは発生しないことになる。ただし、上述のように予備読み出しでは読み出しエラーが生じる可能性がある。したがって、本番読み出しにおいて読み出し電流の印加時に誤書き込みが起きてしまう確率は、予備読み出しにおいて読み出しエラーが生じた確率に比例することになる。
【0070】
従来のように予備読み出しを行わず、本番読み出しのみを行った場合、誤書き込みが生じる方向に読み出し電流を印加してしまう確率は0.5である。一方、本発明では、予備読み出しにおける読み出しエラーの確率を0.5未満にすることで、従来の読み出し方式と比較して誤書き込みの確率を0.5未満に低減することが可能となる。読み出しエラーを低減するという観点からは、予備読み出しにおける読み出し電流の大きさ及び印加時間は、本番読み出しの読み出し電流に近いほうが望ましい。ただし、予備読み出しの読み出し電流が本番読み出しの読み出し電流に近すぎると、予備読み出し時の誤書き込みの確率が高まってしまう。したがって、予備読み出しの回数(N−1)を増やし、順次、前回の読み出しデータに基づいて、印加電流をその方向を最適化しながら、電流値を大きく、又は/及び、印加時間を長くしていくことは、予備読み出しにおける読出しエラーの確率を下げるのに有効である。
【0071】
上記本番読み出し及び予備読み出しのいずれの場合でも、得られた読み出し電圧から記録されたデータを決定するためには、読み出し判定回路43において、得られた読み出し電圧を参照電圧と比較する必要がある。参照電圧を生成する方法としては、図4に示す複数のメモリセル10の一部をリファレンスセルとすることで、メモリセル10と同様な構成を有するリファレンスセル(磁気抵抗素子(TMR素子)50+選択トランジスタ9)を用いることができる。また、一般の抵抗素子を用いることもできる。前者の場合、TMR素子の特性の面内分布やウェハ間分布の影響を相殺できるという長所がある。
【0072】
図8〜図10は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの実施の形態において用いられるリファレンスセルの構成を示す図である。図8は、記憶されたデータが異なるTMR素子を配線Aと配線Bとの間に直並列に配置することにより、データ“0”の場合の抵抗値と“1”の場合の抵抗値との間の抵抗値を生成したリファレンスセル60である。このリファレンスセル60は、例えば、図4に示す複数のメモリセル10の一つの磁気抵抗素子50と置換することで、リファレンスセルとすることができる。この他、リファレンスセルとしては1つ、あるいは、複数のTMR素子に決められたデータを記録し、任意の参照信号を作り出した構成を採用することができる。
【0073】
図9は、図8の破線で囲んだ部分の構成の一例について断面図を示している。本発明のリファレンスセル60においては、読み出し電流印加時に定められて情報が誤書き込みにより失われないように、読み出し電流の印加方法を決定する。すなわち、“0”が記録されたTMR素子50には負の方向の電流を、“1”が記録されてTMR素子50には正の方向の電流が印加されるように、リファレンスセル60のTMR素子50の接続方法、および、電流方向を構成する。図9の場合、直列した2つのTMR素子50の自由磁性層55同士が電気的に接続されており、電流は配線Bから配線Aに印加されている。これにより、配線A側のTMR素子50及び配線B側のTMR素子50のいずれもデータが書き換わることは無い。
【0074】
図10は、図8の破線で囲んだ部分の構成の他の例について断面図を示している。このように、直列した2つのTMR素子50の固定磁性層52同士を電気的に接続し、電流を配線Aから配線Bに印加してもよい。この場合にも、配線A側のTMR素子50及び配線B側のTMR素子50のいずれもデータが書き換わることは無い。なお、リファレンスセル60において、同じデータを持つTMR素子50を直列に接続する必要がある場合、一方の自由磁性層55と他方の固定磁性層52とを接続する必要がある。本発明のリファレンスセル60は、読み出し電流の方向と逆、すなわち、磁化反転が起こる方向に反転閾値以上の書き込み電流を印加することにより初期化することができる。
【0075】
本実施の形態においては、読み出し時に電流を印加し、電圧を検知するとしたが、逆に読み出し時に電圧を印加し、電流を検知してもよいことは言うまでもない。
【0076】
図11は、本発明の磁気ランダムアクセスメモリの原理及び効果を説明するグラフである。縦軸は、読み出し確率及び書き込み確率を示す。横軸は、書き込みが行われる電流の閾値で規格化された読み出し電流及び書き込み電流を示す。曲線Aは、従来の読み出し電流と読み出し確率との関係を示す。曲線Bは、書き込み電流と書き込み確率との関係を示す。
【0077】
曲線Bを参照して、スピントルク効果により磁化状態が反転して書き込みが行われる確率は、閾値(規格化電流=1)以上の電流を流すことにより100%となる。しかし、閾値以下の電流の場合も熱擾乱の影響や個々の素子のばらつきの影響のため、小さい確率ではあるが反転する可能性がある。この確率は、図中に明示していないが、電流印加時間が長くなるほど高くなる。ただし、磁化が既に電流によるトルクを受ける方向を向いている場合、電流に依らず反転する確率はゼロである。一方、曲線Aを参照して、従来の読み出し方法では、読み出しが正確に行われる確率は信号量に比例するため、電流が大きくなるほど高くなる。
【0078】
本発明においては、まず、誤書込みの確率は非常に小さいが正確な読み出しの可能な確率は100%ではない電流値(図中のIa)において、予備読み出しを行う。そして、その読み出した情報に基づいて、電流による反転確率がゼロになる方向に読み出し電流の方向を設定する。その後、その方向に正確な読み出しができる確率が100%である電流値(図中のIb)において、本番読み出しを行う。このように、誤書き込みの少ない予備読み出しで電流方向を決定し、誤書き込みの少ないその電流方向で本番書き込みを行うことで、従来の読み出し方式と比較して誤書き込みの確率を大幅に低減することが可能となる。なお、ここでいう100%の読み出し確率、あるいは、書き込み確率はECCなどのエラー訂正機能を用いた場合と考えても良い。
【0079】
本発明によれば、書き込みが起こらない方向に読み出し電流を印加することにより、対象メモリセル10においては、誤書込みの確率を低減することが可能になり、リファレンスセル60においては、誤書込みのリスクをなくすことが可能になり、正確な読み出しが可能であり、かつ、書き込み電流、消費電力が小さい磁気ランダムアクセスメモリ及びその動作方法を提供することができる。
【0080】
本発明は上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。
【符号の説明】
【0081】
1 磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)
9 選択トランジスタ
10 メモリセル
20 書き込み線デコーダ
21 書き込み線対
21a 第1書き込み線
21b 第2書き込み線
30 選択線デコーダ
31 選択線
41 書き込み制御回路
42 読み出し制御回路
43 電流源回路
44 読み出し判定回路
50 磁気抵抗素子(TMR素子)
51 配線層
52 磁性層
53 固定磁性層
54 トンネルバリア層
55 自由磁性層
56 配線層
60 リファレンスセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1固定強磁性層、第1非磁性層及び第1自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される前記第1自由強磁性層の磁化の向きでデータを書き込み可能な第1磁気抵抗素子を含むメモリセルと、
第2自由強磁性層、第2非磁性層及び第2自由強磁性層が順次積層され、スピン注入により変更される前記第2自由強磁性層の磁化の向きでリファレンス用データを記憶する複数の第2磁気抵抗素子を含み、前記メモリセルの読み出し動作時に用いられるリファレンスセルと
を具備し、
前記複数の第2磁気抵抗素子は、互いに直列に接続され、前記自由強磁性層の磁化の向きが互いに逆の向きで、前記固定強磁性層の磁界の向きが互いに同じ向きで、前記固定強磁性層同士又は前記自由強磁性層同士が電気的に接続されている
磁気ランダムアクセスメモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−185902(P2012−185902A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109228(P2012−109228)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2008−507499(P2008−507499)の分割
【原出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】