説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】ヘッドに対する耐磨耗性の低下や特性低下が少なく、保護層のカバレッジ性の低下による磁気記録層からの金属溶出、耐腐食性低下の少ない磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ディスク基板上に情報を記録する磁気記録層と記録機能をもたない溝部が交互に配列してなる凹凸パターンが形成された磁気記録媒体にALD法を用いてALD保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法およびディスク基板上に情報を記録する磁気記録層と記録機能をもたない溝部が交互に配列してなる凹凸パターン形状を有し、さらに該凹凸パターン形状の上に保護層を有する磁気記録媒体において、前記保護層がALD法を用いてALD保護層からなることを特徴とする磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関する。特に、記録層が凹凸パターンで形成されたディスクリートトラックメディア(DTM)およびビットパターンドメディア(BPM)用の磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体には、磁気記録層を磁気ヘッドの接触、摺動による損傷、および腐食から保護するために、磁気記録層上に保護層が形成されている。従来の磁気記録媒体は、平坦な基板上に軟磁性層、磁性層等を積層し、その上に保護層を成膜している。
【0003】
保護層の材料としては、ダイアモンド・ライク・カーボン(DLC)膜、窒化膜、SiO2をはじめとする酸化膜等がある。保護層の形成方法としては、スパッタリング法、プラズマCVD法、熱CVD法等が用いられている。
【0004】
スパッタリング法で形成したDLC膜と、CVD法で形成したDLC膜を比べた場合、CVD法で形成したDLC膜の方が緻密で硬い。これは、CVD法によるDLC膜が、炭化水素ラジカルから形成されるため、水素を介して3次元的な剛性の強い四面体構造をとり易くなっているためと考えられる。また、スパッタリング法に比べてトレンチ構造(溝を有する構造)への成膜性はよいとされている。
【0005】
一方、次世代媒体として、面記録密度を向上させるために隣り合う磁気記録層を切り離し、磁気記録層に凹凸パターンを形成したディスクリートトラックメディア(DTM)やドット形状をもつビットパターンドメディア(BPM)の開発が行われている。
【0006】
DTMの場合は、凹凸形状に保護層を成膜する。この場合、磁気記録層凸部トップ、側壁、凹部底辺(ボトム)で保護層の付き方が異なる。凹凸形状の場合、保護層は凸部側壁や凹部底辺に膜がつきにくく、その部分の保護層膜厚が薄くなり、ピンホールが発生しやすくなる。保護層のカバレッジ性の低下により、磁気記録層からの金属溶出、耐腐食性低下がおこる。保護層成膜時に試料角度を変更し、凸部側壁や凹部底辺に膜をつきやすくする方法もあるが、この場合は凸部トップの膜厚が薄くなり、平坦性が低下することによりヘッドに対する耐磨耗性の低下や特性低下が起きるという問題がある。
【0007】
特許文献1には、パターンを形成し、その上部に第1のカーボン保護膜を有する磁気記録層と、その磁気記録層を分離する溝を埋め込む非磁性層とを有し、第1のカーボン保護膜と非磁性層の上に第2のカーボン保護膜を形成した磁気記録媒体が提案されている。すなわち、溝を非磁性層で埋め込むことにより、保護層が凸部側壁や凹部底辺に膜がつきにくいという欠点を解消している。また、最も損傷し易い凸部トップを第1のカーボン保護膜、第2のカーボン保護膜で二重に保護する構造となっている。
【0008】
一方、半導体分野では、凹凸形状へのカバレッジがよい成膜方法として、近年Atomic Layer Deposition(ALD)法という手法が用いられている。この成膜方法は、原子層を一層ずつ堆積する方法であるため、薄い膜を均一に成膜することが可能である。
【0009】
なお、ヘッドが浮上する部分(凸部)は、緻密で硬く耐磨耗性に優れたDLCのような膜が必要である。保護層は、カバレッジ性と耐磨耗性(耐摺動性)の両方を充たす必要がある。
【0010】
また、薄膜化が可能で、耐食性及び耐久性に優れた保護膜を備え、高密度記録が可能な磁気記録媒体及びその製造方法に関する提案もある(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2では、CVDあるいはFCAなどの真空成膜プロセスで第1の保護膜を形成し、基板バイアスを高めて第2の保護膜を形成している。
特許文献2には、平面の磁性層上にALD法で保護膜を形成する方法が述べられている。この成膜方法は、原子層を一層ずつ堆積する方法であるため、薄い膜を均一に成膜することが可能である。
【0011】
【特許文献1】特開2006−31852号公報
【特許文献2】特開2005−158092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1の方法では、耐磨耗性の向上という点では有効な構造であるが、記録密度を向上するにはヘッドと磁性層間の距離がより狭くなることが望ましく、そのためには保護層の薄膜化が必要である。特許文献1のような2層構造では保護層の薄膜化に限界がある。
また、ALDでは磁性層を劣化させない温度範囲でカーボンを成膜することができない。
【0013】
凹凸形状表面に保護層を形成する場合、現状のスパッタリング法やCVD法では、凸部のテーパ角度が高くなるほど、すなわち、凹凸パターンが微細になるほど側壁への保護層のつきは悪くなる。
しかし、特許文献2では平面の磁性層上へのみ適用しており、凹凸パターンを有する面への均質な薄膜を形成するための工夫はなされていない。
【0014】
本発明は、最も損傷し易い凸部トップを緻密で硬く耐磨耗性に優れた保護膜で覆うと共に、凸部側壁や凹部底辺をピンホールなどの不具合を生じせしめることなく覆って、ヘッドに対する耐磨耗性の低下や特性低下が少なく、保護層のカバレッジ性の低下による磁気記録層からの金属溶出、耐腐食性低下の少ない磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、ディスク基板上に情報を記録する磁気記録層と記録機能をもたない溝部が交互に配列してなる凹凸パターンが形成された磁気記録媒体にALD法を用いてALD保護層を形成することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の磁気記録媒体は、ディスク基板上に情報を記録する磁気記録層と記録機能をもたない溝部が交互に配列してなる凹凸パターン形状を有し、さらに該凹凸パターン形状の上に保護層を有する磁気記録媒体において、保護層がALD法によるALD保護層からなることを特徴とする。
ここで、凹凸パターン形状の凸部のテーパ角度が60°以上であり、且つ該テーパ角度が60°以上の凸部側壁にALD保護層が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、磁気記録層の凹凸形状にそって緻密なALD保護層がカバレッジ性高く形成されるため、耐食性に優れた磁気記録媒体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の磁気記録媒体の基本構成の断面を図1に示す。図1に示す磁気記録媒体は基板1の上に設けられた軟磁性層および磁性層その他の層を含む層2の上に所定のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3が形成されている。磁気記録層3の表面に凹凸パターンが形成されているが、パターンが形成されず残った磁気記録層部分とその下地の軟磁性層をあわせて、軟磁性層および磁性層その他の層を含む層2と本発明では記載する。この所定のパターンとしては、ライン&スペースパターンやドット状パターンを挙げることができる。ライン&スペースパターンが形成された磁気記録媒体はDTM用であり、ドット状パターンが形成された磁気記録媒体はBPM用である。
【0019】
磁気記録層3のトップと側面と情報記録機能を持たない凹部の表面はALD法で形成されたALD保護層4で覆われており、更にその上にスパッタカーボン膜からなるカーボン保護層5で覆われている。図1では、カーボン保護層5は凹凸形状に沿って形成されたALD法によるALD保護層4の上にも成膜されている。
【0020】
図2は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の1実施形態を示す図である。図2(a)に示すように、まず、磁気記録媒体は基板1の上に設けられた軟磁性層および磁性層その他の層を含む層2の上に所定のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3を形成する。パターン化された磁気記録層3の形成は、ナノインプリント法により行われる。即ち、一様に成膜した磁気記録層の上全面にレジスト樹脂を塗布した後、別途作成した、形成したいパターンの金型を塗布したレジスト樹脂に押し当ててレジストパターンを形成する。次いで、そのレジストパターンをマスクにして磁気記録層をエッチングすることによりパターン化された磁気記録層3を得ることができる。
【0021】
次いで、図2(b)に示すように、凹凸パターンが形成された磁気記録媒体表面に保護層4をALD法により成膜する。ALD法で成膜できる材料としては、SiO2、Al23、TiO2などの酸化物、AlN、TiN、WNなどの窒化物や金属膜を挙げることができる。
ALD法を用いて成膜すると、膜厚均一性に優れたピンホールフリーの薄膜を形成でき、しかも、段差被覆性に優れ、基板の凹凸に関係なく均一な成膜が可能になる。
【0022】
次いで、図2(c)に示すように、保護層4を設けた磁気記録媒体の表面にスパッタカーボン膜5を形成する。スパッタカーボン膜5はヘッドが浮上する部分である凹凸パターンの凸部トップを硬く耐摩耗性に優れたカーボン膜5で覆っているため、ヘッドによる磨耗での特性低下が少なく、膜の付きにくい凹部の底辺と磁気記録層3の側壁はALD法で成膜したALD保護層4で覆われているため、磁性層2,3からの金属の溶出が少なく、腐食の心配も少ない。図1、2の実施形態は、最小の工程数で凹凸カバレッジ性の高い磁気記録媒体を提供できる。
【0023】
また、図3は本発明の磁気記録媒体の製造方法の他の実施形態を示す図である。図3(a)に示すように、まず、磁気記録媒体は基板1の上に設けられた軟磁性層2の上に所定のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3を形成する。パターン化された磁気記録層3の形成は、ナノインプリント法により行われる。即ち、軟磁性層2の上全面に磁気記録層を形成し、その磁気記録層の上全面にレジスト樹脂を塗布した後、別途作成した、形成したいパターンの金型を塗布したレジスト樹脂に押し当ててレジストパターンを形成する。次いで、そのレジストパターンをマスクにして磁気記録層をエッチングすることによりパターン化された磁気記録層3を得ることができる。
【0024】
次いで、図3(b)に示すように、パターン化された磁気記録層3の頂部(凹凸パターンの凸部トップ)に樹脂モールドマスク6を設置する。この樹脂モールドマスク6は保護層成膜後はずすので、接着などは行わず、載せるだけにすることが好ましい。この樹脂モールドマスクは、例えば、ナノインプリントモールドで樹脂フィルムを打ち抜いて作製することができる。
【0025】
図3(c)に示すように、樹脂モールドマスク設置後、ALD保護層4をALD法により成膜する。
ALD法で、軟磁性層2表面と磁気記録層3とで凹凸パターンを形成してなる磁気記録媒体の、凹部の底辺と磁気記録層3の側壁と樹脂モールドマスク6の上を覆うように保護層4を成膜した後、樹脂モールドマスク6の上を覆う保護層4ごと樹脂モールドマスク6を取り外すことにより、凹凸パターンの凹部の底辺と磁気記録層3の側壁のみをALD保護層4が覆うようにする。
【0026】
次いで図3(d)に示すように、ALD保護層4を設けた磁気記録媒体の表面をDLC膜からなるカーボン保護層5で覆う。DLC膜はプラズマCVD法、物理気相成長(PVD)法などにより成膜することができる。DLC膜は平滑性にきわめて優れ、低い摩擦係数を有し、優れた耐摩耗性を示す。図3に示した製造方法によれば、凹凸パターンの凹部の底辺と磁気記録層3の側壁がALD保護層4とカーボン保護層5で覆われているため、カバレッジ性が向上する。図1,2の実施形態に比べて工程数は多くなるが、凸部をカーボン膜のみの一層となるため、ヘッドと磁性層の距離を短くすることができる。
【0027】
このように、ヘッドが浮上する部分である凹凸パターンの凸部トップ(磁気記録層3の上面)を緻密で硬く耐摩耗性に優れたDLC膜で覆っているため、ヘッドによる磨耗での特性低下が少なく、膜の付きにくい凹部の底辺と磁気記録層3の側壁がALD保護層4とカーボン保護層5の両方で覆われているため、磁性層2,3からの金属の溶出が少なく、腐食の心配も少ない。
【実施例】
【0028】
<実施例1>(図1,2の実施形態の実施例)
ナノインプリント法を用いて所定の凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディアを作製した。パターンの凸部のテーパ角度は40°、50°、60°、80°となるように4種類作製した。
【0029】
次に、凹凸パターン上にALD装置を用い、Al23からなる膜厚2.0nm程度のALD保護層4を形成した。
ALD保護層4を形成した磁気記録媒体の表面にスパッタ法によりカーボン保護層5を1.5nmになる条件で成膜した。
【0030】
得られた磁気記録媒体の保護層のカバレッジ性を評価するため、陽分極曲線測定を行った。保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、試料表面φ16mm周囲を治具で封止し、試料を20℃の1wt%Na2SO4溶液に浸漬し、陽分極曲線測定を行った。その時測定した自然浸漬電位の結果を図4に示す。自然浸漬電位は、3分間溶液に浸漬した時の電位を示している。
【0031】
<比較例1>
ナノインプリント法を用いて所定の凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディアを作製した。パターンの凸部のテーパ角度は40°、50°、60°、80°となるように4種類作製した。
【0032】
次に、凹凸パターン上にプラズマCVD装置を用い、DLC膜からなる膜厚3.0nmの保護層を形成した。
保護層を形成した磁気記録媒体の表面にスパッタ法によりカーボン膜を1.5nmになる条件で成膜した。
【0033】
得られた磁気記録媒体の保護層のカバレッジ性を評価するため、陽分極曲線測定を行った。即ち、保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、試料表面φ16mm周囲を治具で封止し、試料を20℃の1wt%Na2SO4溶液に浸漬し、陽分極曲線測定を行った。その時測定した自然浸漬電位の結果を図4に示す。自然浸漬電位は、3分間溶液に浸漬した時の電位を示している。
【0034】
保護層に欠陥があり、カバレッジ性が低い場合は、磁性層が露出し金属が溶出するため、自然浸漬電位は低くなり、保護層に欠陥が少なく、カバレッジ性が高い場合は、磁性層からの金属溶出が抑えられるため、自然浸漬電位は高くなる。図4に示す実施例1と比較例1の磁気記録媒体の自然浸漬電位の比較によると、プラズマCVD装置で凹凸パターンに保護層を形成した試料はALD装置で保護層を形成した試料よりも自然浸漬電位が低くなっており、凸部のテーパ角度が高くなるほどその傾向は大きくなった。これは、プラズマCVD装置では、凸部側壁に保護層がつきにくく、カバレッジ性が低いことを示している。それに対して、ALD装置で保護層を成膜した試料は、テーパ角度が変化しても自然浸漬電位に変化はなかった。これは、ALD装置で成膜した保護層は、凹凸形状のカバレッジに優れていることを示している。
【0035】
<実施例2>(図3の実施形態の実施例)
ナノインプリント法を用いて基板1の上に設けられた軟磁性層2の上に実施例1で用いたと同様のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3を形成した磁気記録媒体の磁気記録層3の上に樹脂モールドマスク6を設置した。この樹脂モールドマスク6はポリイミドフィルムを磁気記録層3のパターン形成に用いたナノインプリントモールドを用いて打ち抜くことにより作成した。
【0036】
樹脂モールドマスクを設置後、ALD装置を用い、SiO2からなる膜厚10.0nmの保護層を形成した。次いで、樹脂モールドマスクの上を覆う保護層ごと樹脂モールドを取り外し、磁気記録層の頂部を露出させた。即ち、ALD保護層4は凹凸パターンの底部である軟磁性層2の表面と磁気記録層3の側面のみを覆っている。
【0037】
ALD保護層4を形成した磁気記録媒体の表面にプラズマCVD法によりDLC膜からなるカーボン保護層5を形成した。
【0038】
得られた磁気記録媒体のALD保護層4、カーボン保護層5のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、20mm×20mm角試料の周囲を樹脂で封止し、試料を80℃純水中に1h放置した後、純水中に溶出した金属量を調べた。その結果を図5に示す。図5には、目標溶出金属濃度に対する実験試料から溶出した金属濃度の比率で示す。
【0039】
<比較例2>
ナノインプリント法を用いて基板1の上に設けられた軟磁性層2の上に実施例2のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3を形成した磁気記録媒体の上に、プラズマCVD装置を用い、DLC膜からなる保護層を形成した。保護層は、凹凸パターンのトップとボトムでの膜厚が5.0nmになる条件で成膜した。側壁は半分以下の2.0nmになった。
【0040】
得られた磁気記録媒体の保護層のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、20mm×20mm角試料の周囲を樹脂で封止し、試料を80℃純水中に1h放置した後、純水中に溶出した金属量を調べ実施例2と比較した。
【0041】
図5に実施例2と比較例2の磁気記録媒体の金属溶出量を示す。図5から、従来のプラズマCVD成膜のみの比較例2の試料からは、ALDとプラズマCVDの2種類の保護層を形成した実施例2の試料の約12倍の金属が磁気記録層から溶出したことがわかる。これは、凹部側壁に保護層が付き難いため、保護層にピンホールが生じやすく、このピンホールから金属が溶出したためと考える。これに対し、実施例2の試料の場合、凹凸のある磁気記録層であってもその上に緻密な保護層が形成されていることを示している。
【0042】
<実施例3>(図3の実施形態の実施例)
ナノインプリント法を用いて基板1の上に設けられた軟磁性層2の上に所定のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3を形成した磁気記録媒体の磁気記録層3の上に樹脂モールドマスク6を設置した。この樹脂モールドマスク6はポリイミドフィルムを磁気記録層のパターン形成に用いたナノインプリントモールドを用いて打ち抜くことにより作成した。
【0043】
樹脂モールドマスクを設置後、ALD装置を用い、Al23からなる膜厚2.0nmの保護層を形成した。次いで、樹脂モールドマスクの上を覆う保護層ごと樹脂モールドを取り外し、磁気記録層の頂部を露出させた。即ち、ALD保護層4は凹凸パターンの底部である軟磁性層2の表面と磁気記録層3の側面のみを覆っている。
【0044】
ALD保護層4を形成した磁気記録媒体の表面にプラズマCVD法によりDLC膜からなるカーボン保護層5を形成した。カーボン保護層5は、膜厚が3.0nmになる条件で成膜した。凸部トップのカーボン保護層5の膜厚は、成膜条件通り3.0nmであった。凹部底辺では、ALD保護層4が2.0nm、その上のカーボン保護層5の膜厚は3.0nmであった。これらに対し、磁気記録層3の側壁の膜厚は、ALD保護層4は2.0nmと他の部分と同じであったが、その上のカーボン保護層5の膜厚は1.5nmと薄くなっていた。
【0045】
得られた磁気記録媒体のALD保護層4、カーボン保護層5のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、20mm×20mm角試料の周囲をシリコン樹脂で封止し、試料を20℃の1wt%Na2SO4溶液に30分間浸漬し、溶液を分析することで溶出した金属量を調べた。その結果を図6に示す。図6には、目標溶出金属濃度に対する実験試料から溶出した金属濃度の比率で示す。
【0046】
<比較例3>
ナノインプリント法を用いて基板1の上に設けられた軟磁性層2の上に所定のパターンを形成するようにパターン化された磁気記録層3を形成した磁気記録媒体の上に、プラズマCVD装置を用い、DLC膜からなる保護層を形成した。保護層は、凹凸パターンのトップとボトムでの膜厚が3.0nmになる条件で成膜した。側壁は半分の1.5nmになった。
【0047】
得られた磁気記録媒体の保護層のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、20mm×20mm角試料の周囲をシリコン樹脂で封止し、試料を20℃の1wt%Na2SO4溶液に30分間浸漬し、溶液を分析することで溶出した金属量を調べ実施例3と比較した。
【0048】
図6に示す実施例3と比較例3の磁気記録媒体からの金属溶出量の比較から、従来のプラズマCVD成膜のみの場合は、実施例3の試料の溶出量を1とすると、16.5倍の金属が磁気記録層から溶出したことがわかる。これは、比較例3では凹部側壁に保護層が付き難いため、保護層にピンホールが生じやすく、このピンホールから金属が溶出したためと考える。これに対し、ALDとプラズマCVDの2種類の保護層を形成した実施例3の試料の場合、凹凸のある磁気記録層であってもその上に緻密な保護層が形成されていることを示している。
【0049】
<実施例4>(図1,2の実施形態の実施例)
ナノインプリント法を用いて所定のドットが形成されたビットパターンドメディアを製作した。パターンの凸部のテーパ角度は90°であった。
次に、ドット上にALD装置を用い、SiO2からなる膜厚5.0nmのALD保護層4を形成した。
ALD保護層4を形成した磁気記録媒体の表面にスパッタ法によりカーボン保護層5を1.0nmになる条件で成膜した。
【0050】
得られた磁気記録媒体の保護層のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。即ち、保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、試料表面φ16mm周囲を治具で封止し、試料を20℃の1wt%Na2SO4溶液に30分間浸漬し、金属溶出量を調べた。その結果を図7に示す。図7には、目標溶出金属濃度に対する実験試料から溶出した金属濃度の比率で示す。
【0051】
<比較例4>
ナノインプリント法を用いて所定のドットが形成されたビットパターンドメディアを製作した。パターンの凸部のテーパ角度は90°であった。
次に、ドット上にプラズマCVD装置を用いて、DLC膜からなる膜厚5.0nmの保護層を形成した。
保護層を形成した磁気記録媒体の表面にスパッタ法によりカーボン膜を1.0nmになる条件で成膜した。
【0052】
得られた磁気記録媒体の保護層のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。即ち、保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、試料表面φ16mm周囲を治具で封止し、試料を20℃の1wt%Na2SO4溶液に30分間浸漬し、金属溶出量を調べた。その結果を図7に示す。図7には、目標溶出金属濃度に対する実験試料から溶出した金属濃度の比率で示す。
【0053】
図7に示す実施例4と比較例4の磁気記録媒体からの金属溶出量の比較から、従来のプラズマCVD装置成膜の場合は目標溶出量の10倍の金属が磁気記録層から溶出したことがわかる。これは、保護層が凸部側壁に付き難く、そのためたまたま保護層に存在したピンホールから金属が溶出したためと考える。これに対し、ALD装置で保護層を形成した試料の場合、金属溶出量は目標値の1/3であり、凹凸のある磁気記録層であってもその上に緻密な保護層が形成されていることを示している。
【0054】
<比較例5>
テーパ角度の異なるディスクリートトラックメディアの凹凸パターンを模擬した試料に、プラズマCVDによりDLC膜を成膜し、側壁の膜厚と、トップ及びボトムの膜厚の平均との比率を算出した。そのデータを基に、シミュレーションを行った。付着確率を1.0とおいた場合の結果を図8に示す。
付着確率が1.0の場合は、前駆体が反射せずにダイレクト吸着するため、カバレッジ製が最も悪い条件となる。
【0055】
シミュレーションの結果、テーパ角度が60°〜62°以上になると、側壁のトップまたはボトムに対する膜厚が60%以下となる。実施例4の結果から、60°以上になるとコロージョン(金属溶出)が増加している。これらの結果から、テーパ角度が60°以上の場合、プラズマCVD法では、凹凸の側壁へのカバレッジ性が低下するため、プラズマCVD法以外の成膜方法が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、耐腐食性に優れた磁気記録媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の磁気記録媒体の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の製造方法の1実施形態を示す図である。
【図3】本発明の磁気記録媒体の製造方法の他の実施形態を示す図である。
【図4】陽分極曲線測定での、自然浸漬電位測定結果を示す図である。
【図5】実施例2、比較例2の金属溶出試験結果を示す図である。
【図6】実施例3、比較例3の金属溶出試験結果を示す図である。
【図7】実施例4、比較例4の金属溶出試験結果を示す図である。
【図8】テーパ角度と膜厚比率の関係のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1.基板
2.軟磁性層および磁性層その他を含む層
3.磁気記録層
4.ALD保護層
5.カーボン保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク基板上に情報を記録する磁気記録層と記録機能をもたない溝部が交互に配列してなる凹凸パターンが形成された磁気記録媒体にALD(Atomic layer Deposition)法を用いてALD保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記磁気記録層の凸部側壁に前記ALD保護層を形成し、少なくとも前記磁気記録層の凸部トップにDLC膜からなるカーボン保護層を形成することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記凹凸パターンの凹部底辺にも、前記ALD保護層を形成することを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記カーボン保護層をプラズマCVD法により形成することを特徴とする請求項2または3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記磁気記録層の凸部トップをマスクして前記ALD保護層を形成することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記ALD保護層を前記磁気記録層の形状にそって形成することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記ALD保護層の上に、スパッタ法によりカーボン保護層を形勢することを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記凹凸パターンの形状がライン&スペース形状またはドット形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記ALD保護層がSiO2,Al23,TiO2,HfO2,TiN,AlN,WNまたは金属膜のいずれかからかなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
ディスク基板上に情報を記録する磁気記録層と記録機能をもたない溝部が交互に配列してなる凹凸パターン形状を有し、さらに該凹凸パターン形状の上に保護層を有する磁気記録媒体において、前記保護層がALD法によるALD保護層からなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項11】
少なくとも前記磁気記録層の凸部側壁に前記ALD保護層を有し、少なくとも前記磁気記録層の凸部トップにDLC膜からなるカーボン保護層を有することを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記凹凸パターン形状の凹部底辺にも、前記ALD保護層が形成されていることを特徴とする請求項11に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
前記磁気記録層の凸部側壁の前記ALD保護層の上にDLC膜からなるカーボン保護層が積層されていることを特徴とする請求項12に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
前記凹凸パターンの凹部底辺の前記ALD保護層の上にDLC膜からなるカーボン保護層が積層されていることを特徴とする請求項13の磁気記録媒体。
【請求項15】
前記磁気記録層の凸部トップには、ALD保護層を有していないことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
前記凹凸パターン形状の凸部のテーパ角度が60°以上であり、且つ該テーパ角度が60°以上の凸部側壁に前記ALD保護層が形成されていることを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
前記ALD保護層が前記磁気記録層の形状にそって形成されていることを特徴とする請求項10または16に記載の磁気記録媒体。
【請求項18】
前記ALD保護層の上にカーボン保護層が積層されていることを特徴とする請求項17に記載の磁気記録媒体。
【請求項19】
前記凹凸パターン形状がライン&スペース形状またはドット形状であることを特徴とする請求項10〜18のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項20】
前記ALD保護層がSiO2、Al23、TiO2、TiN、AlN、WNまたは金属膜のいずれかからなることを特徴とする請求項10〜19のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−217959(P2008−217959A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196018(P2007−196018)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】