説明

移動体位置検出装置、ナビゲーション装置及びプログラム

【課題】状況に応じて衛星航法受信機の受信感度を変更することで、その状況に適した衛星航法測位を行う。
【解決手段】駐車場出庫後等のような極力早いタイミングで位置・方位を修正する必要がある状況では、車載用ナビゲーション装置起動時にGPS受信機を高感度モードに設定することで速度重視の測位を行うことができる(S10,S20)。そして、位置・方位の修正が行われ(S30)、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとがある程度近似した場合(S40:YES)は、高感度モードから低感度モードに切り替えることによって精度重視の測位を行うことができる(S50,S60)。このようにして、状況に適した受信感度でのGPS測位を行うことができるようになる。そして、状況に適したGPS測位に基づいて自立航法による測定結果を補正することで、より適切なマップマッチングを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS等の衛星航法受信機の受信感度を状況に応じて制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用ナビゲーション装置等においては、GPSに代表される衛星航法による絶対的な測位データと、ジャイロセンサ、車速センサ、加速度センサ等を用いた自立航法による相対的な測位データとを併用して走行軌跡を生成し、この生成した走行軌跡を地図データと照合し、走行軌跡を道路に一致させて地図上における自車両の位置を特定するいわゆるマップマッチング技術が実用化されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
上記自立航法に用いられるジャイロセンサ、車速センサ、加速度センサ等といった自立センサは、センサの個体差や環境の変化、経時劣化による特性の変化等に起因する誤差を有している。また、自立センサによる位置・方位の測位は積分的に求められるため、誤差も徐々に増大する。そこで、上記のようなマップマッチング技術においては、3つ以上の航法衛星から発信される衛星航法用の電波を利用して位置や方位などの絶対的な測位データを得て、この測位データに基づき、自立航法による相対的な測位データを補正することで、より精度の高い位置・方位の検出を実現している。
【0004】
しかしながら、上述した技術を用いたとしても、特定の状況下では、車両の進行方向に大きな誤差が生じてしまうことがある。それは、アクセサリスイッチがオフの状態で機械式駐車場のターンテーブルにて車両の方向が変えられる場合や、自走式立体駐車場などで旋回を繰り返した場合である。
【0005】
つまり、ターンテーブル等によってアクセサリスイッチがオフの状態で車両の方向が変えられると、自立センサは機能しないため、アクセサリスイッチオフ直前の車両の進行方向と実際の進行方向とは異なるにもかかわらず、アクセサリスイッチオフ直前の車両の進行方向で走行しているものと認識してしまうためである。また、短時間に車両が旋回を繰り返した場合には、自立センサの誤差が短時間で累積して著しく大きくなってしまうというためである。
【0006】
このように車両の進行方向に大きな誤差が生じると、その後、例えば駐車場から一般道路へ戻ったとしても、適切な位置へのマップマッチングがなされず、適切な現在位置及び進行方向が表示されないおそれがある。
【0007】
そのため、自立センサの誤差を補正し適切な位置へのマップマッチングを行うためには衛星航法による位置・進行方向の速やかな補正が必要である。しかし、衛星航法受信機の受信感度が低かったり、地形や建築物の影響で衛星航法信号が遮断されることによって測位に必要な数の衛星を捕捉できないような状況では、衛星航法による測位を行うことができない可能性がある。このような状況では、衛星航法信号を受信できる位置まで移動するまで、位置・進行方向のずれを修正できないという問題がある。
【0008】
上記問題を解決するため、従来では、衛星航法受信機の受信感度を高くすることにより微弱な電波を受信可能にし、例えばビル街のような電波状況が悪い場所であっても速やかに測位可能な数の衛星を捕捉できるようにしてきた。これにより、より高速な測位が可能になり地図上の位置・進行方向の補正を速やかに行うことができるようになった。
【特許文献1】特開平9−280877号公報
【特許文献2】特開平10−170282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、衛星航法受信機の受信感度を高くすることで、次のような問題が生じる。
GPSに代表される衛星航法測位は、地球周回軌道上を周回する複数の航法衛星から送信される衛星航法信号を衛星航法受信機で受信し、車両と各航法衛星間の距離(擬似距離)やドップラー周波数を求め、現在位置及び速度ベクトルを算出する。より正確な現在位置や進行方向を算出するためには、正確な擬似距離やドップラー周波数を観測する必要がある。しかし、建築物が密集したビル街等では航法衛星から送出される衛星航法信号の直接波が建築物等で遮断され、かつ建造物によって反射・回折された遅延波を受信する(マルチパスという。)現象が生じる場合がある。マルチパスが生じると、航法衛星との擬似距離やドップラー周波数を正確に観測することができなくなり、測位結果に大きな誤差を生じる。
【0010】
衛星航法受信機の受信感度を高くして微弱な電波を受信可能にすると、電波状況が悪くても測位に必要な航法衛星を捕捉し易くなる反面、測位に大きな誤差をもたらす遅延波を受信する可能性が高くなる。マルチパスが生じている状況下で受信した衛星航法信号を測位に用いた場合、遅延波による誤差の影響で測位結果の精度が低下する。そのため、精度の低い衛星航法の測位データを基に自立航法の測位データを補正しても、精度の低い走行軌跡しか得られず、最悪の場合、間違った補正のすることで車両の実際の位置・進行方向とは違う位置・進行方向にマップマッチングされるおそれがある。
【0011】
つまり、衛星航法受信機の受信感度が低いと、電波状況が悪い場所において高速な測位を行うことができず自立センサの誤差を速やかに修正することができないが、かといって受信感度が高いとマルチパスの影響で測位の精度が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は上記のような問題を鑑みなされており、状況に応じて衛星航法受信機の受信感度を変更することで、その状況に適した衛星航法測位を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の移動体位置検出装置は、所定の条件に基づいて衛星航法受信機における衛星航法用電波の受信感度を設定することを特徴とする。
【0014】
具体的には、上述の移動体位置検出装置は、移動体の進行方向及び速度を含む挙動変化を検出する自立センサからの検出情報に基づき、移動体の現在位置及び進行方向を算出する自立航法測位手段と、航法衛星から送出される衛星航法用電波を受信し、移動体の現在位置、速度及び進行方向を含む測位データを出力する衛星航法受信機と、衛星航法受信機から出力される測位データを用いて自立航法測位手段から算出される現在位置及び進行方向に係る誤差を補正する補正手段とを備える移動体位置検出装置であって、更に移動体の位置若しくは作動状況、又は自立航法測位手段若しくは衛星航法受信機の測位状況に関する所定の条件に基づいて衛星航法受信機における衛星航法用電波の受信感度を設定する受信感度設定手段を備える。そして、衛星航法受信機は、受信感度設定手段により設定された受信感度によって衛星航法用電波を受信する。
【0015】
なお、ここでいう受信感度とは、測位データを得るために必要な衛星航法用電波の最小受信入力電力のことを指す。つまり、受信感度が「高い」とは、受信入力電力が比較的小さい電波に対して感応することを意味する。反対に受信感度が「低い」とは、受信入力電力が比較的大きい電波にしか感応しないことを意味する。
【0016】
また、受信感度の変更は、衛星航法受信機のアンテナ部の回路特性を変更することによって行ってもよいし、アンテナ部によって受信した無線周波数信号をダウンコンバートして復調、測位演算する過程において、所定の受信入力電力以下の信号をフィルタリングする際の閾値を変更することによって行ってもよい。
【0017】
このような移動体位置検出装置によれば、移動体(例えば、車両)の位置や作動に関する状況や測位状況に関する条件に応じて衛星航法受信機の受信感度を変更することで、その状況に適した衛星航法測位を行うことができるようになる。そして、状況に適した衛星航法測位に基づいて自立センサによる誤差を修正することで、より適切なマップマッチングを行うことができる。
【0018】
衛星航法受信機の受信感度を設定する際には、次のような状況を条件として用いるとよい。つまり、移動体を車両とするならば、上述の機械式駐車場のターンテーブルや自走式の立体駐車場、車両を輸送するカーフェリーの港等のような、車両のアクセサリスイッチがオフのときに車両が移動させられたり、短時間に車両が旋回を繰り返したりすることで自立センサによる測位に大幅な誤差が生じる可能性がある場所に停車した後、再び一般の道路に戻る場合等である。このような場合、適切なマップマッチングを行うためには、高速な衛星航法測位を行い自立センサによる測位の誤差を速やかに補正する必要がある。
【0019】
そこで、請求項2に記載の移動体位置検出装置のように構成するとよい。つまり、自立航法測位手段による測位に大幅な誤差が生じる可能性がある所定の位置において本装置の電源スイッチがオフされたか否かを判定する電源オフ位置判定手段と、衛星航法受信機からの測位データに基づく速度ベクトルと、自立センサによる検出情報に基づく速度ベクトルとを比較し、両速度ベクトル間の差が所定量以下になったか否かを判定する速度ベクトル差判定手段とを備る。そして、受信感度設定手段は、電源オフ位置判定手段による判定に基づき、自立航法測位手段による測位に大幅な誤差が生じる可能性がある所定の位置において本装置の電源スイッチがオフされた後の次の起動時に、受信感度を比較的高感度の所定の高受信感度に設定し、その後、速度ベクトル差判定手段によって差が所定量以下になったと判定された場合、受信感度を比較的低感度の所定の低受信感度に設定する。
【0020】
なお、ここでいう「自立航法測位手段による測位に大幅な誤差が生じる可能性がある所定の位置」を特定するには、例えば、上述の機械式駐車場のターンテーブル、自走式立体駐車場、フェリーポート等に対応する座標データをデータベースとして予め登録しておけばよい。
【0021】
このように構成された移動体位置検出装置によれば、例えば、機械式駐車場や立体駐車場から出庫する時やフェリー輸送後に港から一般道路へ戻る時などに、衛星航法受信機を高受信感度に設定することができる。つまり、受信感度を高く設定することで、速やかに測位可能な数の衛星を捕捉することが可能になり、高速な衛星航法測位行うことができるようになる。そして、高速な衛星航法測位によって得られた測位データにより、極力早いタイミングで自立センサによる測位の誤差を補正することができる。
【0022】
一方、自立センサによる測位の誤差をある程度補正できた後は、短時間のうちに自立センサによる測位に大きな誤差を生じる可能性は低いと考えられるため、高受信感度設定による高速な衛星航法測位によって頻繁に補正を行わなくても十分な精度の測位結果を得ることができると考えられる。そこで、上記移動体位置検出装置では、衛星航法測位に基づく速度ベクトルと自立航法測位に基づく速度ベクトルとの差が所定量以下になったと判定した場合は、受信感度を比較的低感度の所定の低受信感度に設定する。つまり、受信感度を低く設定することで、マルチパス等の弱電波の影響を排除することができるので、受信感度を高く設定した時よりもより精度が高い衛星航法測位を行うことができる。即ち、上記移動体位置検出装置によれば、駐車場出庫後等のような速やかに位置・方位を修正する必要がある状況では、高受信感度によって速度重視の測位を行うことができる。そして、位置・方位の修正が行われ、衛星航法測位に基づく速度ベクトルと自立航法測位に基づく速度ベクトルとがある程度近似した場合は、低受信感度に切り替えることによって精度重視の測位を行うことができる。
【0023】
一方、上述の機械式駐車場のターンテーブル、自走式立体駐車場、フェリーポート等の事例のように、自立センサによる測位に大幅な誤差が生じる可能性が高いのは、移動体位置検出装置の起動時であると推測される。そこで、請求項3に記載の移動体位置検出装置のように、装置が起動する度に衛星航法受信機の受信感度を高受信感度に設定して極力早いタイミングで衛星航法測位による補正を行い、その後、低受信感度に設定するように構成してもよい。具体的には、この移動体位置検出装置は、衛星航法受信機からの測位データに基づく速度ベクトルと、自立センサによる検出情報に基づく速度ベクトルとを比較し、両速度ベクトル間の差が所定量以下になったか否かを判定する速度ベクトル差判定手段とを備える。そして、受信感度設定手段は、本装置の起動時ごとに受信感度を比較的高感度の所定の高受信感度に設定し、その後、速度ベクトル差判定手段によって差が所定量以下になったと判定された場合、受信感度を比較的低感度の所定の低受信感度に設定する。
【0024】
このように構成された移動体位置検出装置によれば、移動体の現在位置に関係なく装置が起動する度に衛星航法受信機の受信感度を高受信感度に設定する。したがって、装置の電源オフ中に移動体が何らかの手段によって移動させられる等して、自立センサによる測位に大幅な誤差が生じた場合、どのような位置からでも高速な衛星航法測位によって得られた測位データにより、極力早いタイミングで自立センサによる測位の誤差を補正することができる。一方、起動時に上述のような大幅な誤差が生じていない場合、受信感度を一旦高受信感度に設定するものの、起動時の自立センサによる測位の誤差が少なければ比較的早く低受信感度による測位モードへ移行するので、速やかに精度の高い測位へ移行することができる。
【0025】
即ち、上記移動体位置検出装置によれば、駐車場出庫後等のような速やかに位置・方位を修正する必要がある状況が発生する可能性が高い起動時において、高受信感度によって速度重視の測位を行うことができる。そして、位置・方位の修正が行われ、衛星航法測位に基づく速度ベクトルと自立航法測位に基づく速度ベクトルとがある程度近似した場合は、低受信感度に切り替えることによって精度重視の測位を行うことができる。
【0026】
ところで、衛星航法受信機の受信感度を変更する条件として、衛星航法受信機における測位率に基づいて受信感度を設定するようにしてもよい。
ここでいう「測位率」とは、衛星航法受信機によって衛星航法用電波を受信し、測位演算を行った結果、測位データを出力することができた割合を示したものである。したがって、測位率は、所定回数測位演算を行って、全演算回数に対する測位データを出力できた回数の割合として求めることができる。なお、測位データを出力できた回数には、マルチパス等の影響により誤った測位データを出力した回数も含む。この測位率については、一定レベル以下に低下すると、自立航法測位の誤差を適切に補正することができなくなる。一般的に、測位率が60〜70%程度であれば、自立航法測位の誤差を修正するのに実用上問題ないレベルの測位を行うことができるとされている。
【0027】
測位率と受信感度との関係については、受信感度が高ければ衛星航法用電波を受信する機会が多いことから測位率は上がる傾向にあり、受信感度が低ければ測位率は下がる傾向にある(図7(a)参照)。ただし、測位率は衛星航法用電波を受信する状況に応じて変動するために、測位率と受信感度との関係は必ずしも画一的に決められるものではない。即ち、同じ受信感度であっても、状況によっては測位率が比較的高い場合もあれば低い場合もある。一方、受信感度と測位の誤差量との関係については、上述したように、受信感度が高いほど誤差量が大きい(精度が低い)傾向にある(図7(b)参照)。つまり、実用上問題ないレベルの測位率さえ確保できれば、より受信感度が低い方が、誤差量が小さい(つまり、精度がよい)測位を行うことができる。
【0028】
請求項4に記載の移動体位置検知装置は、このような受信感度−測位率及び受信感度−誤差量の関係に着目して構成されている。具体的には、この移動体位置検知装置は、衛星航法受信機における所定時間ごとの測位率を算出する測位率算出手段を備える。そして、受信感度設定手段は、測位率算出手段によって算出された測位率が所定の基準値以上である場合、受信感度を現在値から所定量低下させ、測位率算出手段によって算出された測位率が所定値未満である場合、受信感度を現在値から所定量向上させる。
【0029】
ここで「所定の基準値」とは、自立航法測位の誤差を修正するのに実用上問題ないレベルの測位を行うことができる測位率を予め求めておき、これを基準値として登録したものである。
【0030】
このように構成された移動体位置検出装置によれば、算出した測位率と基準値とを比較し、その比較結果に基づいて受信感度を変更することで、結果的には測位率を適切なレベルに維持しつつ、受信感度をなるべく下げる方向に機能する。よって、例えば、見晴らしのよい郊外のような電波状況のよい場所では、測位率を確保しつつ受信感度を低く設定することで精度が高い測位を行い、高い建築物が密集するビル街のような電波状況の悪い場所では、受信感度を高く設定して測位率を確保するといった具合に、状況に適した受信感度を設定することができる。なお、受信感度を変更するにあたっては、実用的な範囲において上限値及び下限値を設けてもよい。
【0031】
一方、衛星航法受信機の受信感度を変更する条件として、自立センサによる測位結果に対する信頼性を表す自信度に基づいて受信感度を設定するようにしてもよい。
ここで「自立センサによる測位結果に対する信頼性」とは、ジャイロセンサ、車速センサ、加速度センサ等の各自立センサによる測位結果に含まれると推定される誤差の度合に基づいて決められるものである。そして、自立センサの「自信度」とは、自立センサによる測位結果に対する信頼性を定量化したものである。つまり、自立センサの自信度が大きければ、その分測位結果に含まれる誤差が小さいと推定される。反対に、自立センサの自信度が小さければ、その分測位結果に含まれる誤差が大きいと推定される。
【0032】
自立センサは、センサの個体差や環境の変化、経時劣化による特性の変化等に起因する誤差を有している。また、自立センサによる位置・方位の測位は積分的に求められるため、誤差も徐々に増大する。つまり、移動中に衛星航法測位による測位データに基づいて自立センサによる測位結果を補正、又は自立センサ自身による自立センサによる測位結果を補正(例えば、車速センサ出力が0つまり停車状態を検地したらジャイロセンサのオフセット誤差を補正する等)した直後においては、自立センサの測位結果に含まれる誤差は非常に小さいと推定されるので、自立センサに対する信頼性は高い。一方、衛星航法測位による測位データに基づく補正が行われてから次の測位データに基づく補正が行われるまでの間隔が長ければ長い程、その分自立センサによる測位結果に含まれる誤差は増大すると推定されるため、自立センサに対する信頼性は低下する。また、自立センサによる移動体の挙動変化の検出量が多ければ多い程、測位結果に含まれる誤差は徐々に蓄積して増大すると推定されるため、自立センサに対する信頼性は低下する。また、各自立センサは、周囲温度等の環境の影響によって、移動体が停止時している場合であっても、挙動変化を誤検出する場合がある。
【0033】
即ち、自立センサの自信度は、最後に衛星航法測位による測位データに基づく補正が行われてから経過時間や、その間の自立センサによる移動体の挙動変化の検出量の大小、移動体停止時における挙動変化の誤検出の有無等に基づいて算出することができる。
【0034】
請求項5に記載の移動体位置検出装置は、上述のような自立センサの自信度に着目して構成されている。具体的には、この移動体位置検出装置は、自立センサによる測位結果に対する信頼性を表す自信度を算出する自立センサ自信度算出手段を備える。そして、受信感度判定手段は、自立センサ自信度算出手段によって算出された自信度が所定の基準値以上である場合、受信感度を現在値から所定量低下させ、自立センサ自信度算出手段によって算出された自信度が所定値未満である場合、受信感度を現在値から所定量向上させる。
【0035】
自立センサの自信度が低い場合は、自立センサによる測位結果に大きな誤差が生じている可能性がある。そこで、上記移動体位置検出装置では、自立センサの自信度が所定の基準値未満である場合、受信感度を上げることで高速な衛星航法測位を行うようにし、極力早いタイミングで自立センサによる測位結果の誤差を補正できるようにする。
【0036】
一方、自立センサの自信度が高い場合は、自立センサによる測位結果に大きな誤差が生じていないと推測される。この場合、自立センサによる測位結果の信頼性が高いので、衛星航法測位による補正を頻繁に行う必要性が低い。そこで、上記移動体位置検出装置では、自立センサの自信度が処置の基準値以上である場合、受信感度を下げることで測位の速度よりも精度を重視した測位を行い、自立センサによる測位結果を精度よく補正できるようにする。
【0037】
このように構成された移動体位置検出装置によれば、自立センサの自信度に基づいて、状況に適した受信感度を設定することができる。なお、受信感度を変更するにあたっては、実用的な範囲において上限値及び下限値を設けてもよい。
【0038】
ところで、請求項6に記載の移動体位置検出装置のように、衛星航法受信機において高受信感度による測位と、低受信感度による測位とを並行して行い、より条件のよい測位結果を採用して自立センサによる測位結果を補正するように構成してもよい。具体的には、この移動体位置検出装置の衛星航法受信機は、比較的高感度の所定の高受信感度による衛星航法用電波の受信に基づく測位データの出力と、比較的低感度の所定の低受信感度による衛星航法用電波の受信に基づく測位データの出力とを並行して行う。また、高受信感度及び低受信感度における衛星航法受信機による測位結果に対する信頼性を表す自信度をそれぞれ算出する衛星航法自信度算出手段を備えている。そして、補正手段は、衛星航法自信度算出手段によって算出された高受信感度における自信度と、低受信感度における自信度とを比較し、より自信度が高い方の測位データを用いて自立航法測位手段から算出される現在位置及び進行方向に係る誤差を補正する。
【0039】
ここで「衛星航法受信機による測位結果に対する信頼性」とは、衛星航法受信機による測位結果に含まれると推定される誤差の度合に基づいて決められるものである。そして、衛星航法受信機の「自信度」とは、衛星航法受信機による測位結果に対する信頼性を定量化したものである。つまり、衛星航法受信機の自信度が大きければ、その分測位結果に含まれる誤差は小さいと推定される。反対に、衛星航法受信機の自信度が小さければ、その分測位結果に含まれる誤差が大きいと推定される。
【0040】
また、衛星航法受信機による測位結果に対する信頼性は、衛星航法受信機が捕捉している衛星の数や、捕捉している衛星の配置に伴う測位結果の劣化の程度を表すDOP(Dilution of Precision:精度劣化指数)等によって評価することができる。したがって、これらの評価に基づいて衛星航法受信機の自信度を算出すればよい。
【0041】
各受信感度に衛星航法受信機による測位は、移動体の現在位置や時刻等の状況によって自信度が変化する。したがって、上記のように構成された移動体位置検出装置によれば、高受信感度による測位と低受信感度による測位とを並行して行い、より自信度が高い方の測位結果を自立センサによる測位結果の補正に用いることで、より精度の高い測位結果を得ることができる。
【0042】
一方、請求項7に記載の移動体位置検出装置のように、更にマップマッチング機能を備えるように構成することができる。具体的には、この移動体位置検出装置は、補正手段によって補正された移動体の現在位置及び進行方向に基づき、移動体の現在位置に至るまでの移動軌跡を生成する走行軌跡生成手段と、移動軌跡生成手段によって生成された移動軌跡と道路地図データに基づく道路情報とを照合し、移動軌跡を道路上に一致させて移動体の現在位置及び進行方向を特定するマップマッチング手段とを備える。
【0043】
このような移動体位置検出装置によれば、移動体の位置又は作動状況や測位状況に関する状況に応じて衛星航法受信機の受信感度を変更することで、その状況に適した衛星航法測位を行うことができ、更に、状況に適した衛星航法測位に基づいて自立センサによる測位結果の誤差を修正することで、より適切なマップマッチングに寄与する。
【0044】
なお、上述した移動体位置検出装置を用いて、請求項8に示すようなナビゲーション装置を実現することができる。つまり、このナビゲーション装置は、上述した移動体位置検出装置と、道路地図データを含む地図データが記憶された地図データ記憶手段と、地図表示手段とを備える。そして、移動体位置検出装置にて検出された移動体の現在位置周辺の道路地図データを地図データ記憶手段から読み出し、この読み出した道路地図データに基づく道路地図と共に、予め設定された目的地までの経路及び移動体位置検出装置によって検出された移動体の現在位置を地図表示手段に識別可能に表示し、目的地までの経路と移動体の現在位置との関係を考慮して、所定の経路案内を行う
以上で説明したような移動体位置検出装置の受信感度設定手段や補正手段の機能をコンピュータシステムにて実現するには、請求項9、請求項10に記載のようにコンピュータシステム側で起動するプログラムとして備えればよい。このようなプログラムは、例えば光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、ROM、RAM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、必要に応じてコンピュータにロードすることにより、上述の各手段としての機能を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
[車載用ナビゲーション装置1の構成の説明]
図1は、本発明の実施形態である車載用ナビゲーション装置1の概略構成を示すブロック図である。
【0046】
図1に示すように、本実施形態の車載用ナビゲーション装置1は、GPS用の人工衛星からの送信電波を受信し、車両の位置、速度、進行方向等を検出するGPS受信機20と、車両の速度に応じた検出信号を出力する車速センサ21a、車両の回転運動の角速度に応じた検出信号を出力するジャイロセンサ21b及び車両に加わる加速度に応じた検出信号を出力する加速度センサ21cからなる自立センサ21と、利用者から各種指示を入力するための操作スイッチ群22と、操作スイッチ群22と同様に各種指示を入力可能なリモートコントロール端末(以下、リモコンと称す)23aと、リモコン23aからの信号を入力するリモコンセンサ23bと、車両情報入力器24と、地図データや各種の情報を記録した外部記録媒体から地図データ等を入力する地図データ入力器25と、地図表示画面等の各種表示を行うための表示装置26と、各種のガイド音声等を出力するための音声出力装置27と、制御回路29に接続され、学習情報等の各種情報を記憶するメモリ28と、制御回路29とを備えている。
【0047】
操作スイッチ群22は、表示装置26と一体に構成され表示画面上に設置されるタッチパネル及び表示装置26の周囲に設けられたメカニカルなキースイッチ等が用いられる。なお、タッチパネルと表示装置26とは積層一体化されており、タッチパネルには、感圧方式、電磁誘導方式、静電容量方式、あるいはこれらを組み合わせた方式など各種の方式があるが、その何れを用いてもよい。
【0048】
車両情報入力器24は、車両に関する各種の外部情報を入力するためのものであり、例えば、車両の各種ECU(Electronic Control Unit)等から伝達される車両に関する情報を入力する。
【0049】
地図データ入力器25は、位置検出精度向上のためのいわゆるマップマッチング用データ、地図データや経路案内用データ等を含む各種のデータを入力するための装置である。これらのデータの記録媒体としては、ハードディスク、DVD−ROM、CD−ROM、メモリ、メモリカード等を用いることができる。
【0050】
表示装置26は、カラー表示装置であり、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRT等の何れを用いてもよい。表示装置26の表示画面には、GPS受信機20及び自立センサ21の測位結果によって算出した車両の現在位置と地図データ入力器25より入力された地図データとから特定した現在地を示すマーク、目的地までの誘導経路、名称、目印、各種施設のシンボルマーク等の付加データとを重ねて表示することができる。そして、音声出力装置27は、走行案内等の各種案内の音声を出力することができる。
【0051】
制御回路29は、上述したGPS受信機20、自立センサ21、操作スイッチ群22、リモコン23a、車両情報入力器24、地図データ入力器25、メモリ28からの入力に応じて各種処理を実行し、GPS受信機20、自立センサ21、操作スイッチ群22、リモコンセンサ23b、車両情報入力器24、地図データ入力器25、表示装置26、音声出力装置27、メモリ28を制御する。この制御回路29は、CPU、ROM、RAM、I/O及びこれらの構成を接続するバスライン等からなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成されており、ROM等に記憶されたプログラムに従って、GPS受信機20による測位結果及び自立センサ21からの各検出信号に基づいて走行軌跡を生成し、この生成した走行軌跡を地図データ入力器25を介して読込んだ地図データと照合し、走行軌跡を道路に一致させて地図上における自車両の位置を特定マップマッチング処理や、地図データ入力器25を介して読込んだ現在位置付近の地図や、操作スイッチ群22やリモコン23a等の操作によって指示された範囲の地図等を表示装置26に表示する地図表示処理や、地図データ入力器25に格納された地点データに基づき、操作スイッチ群22やリモコン23a等の操作に従って目的地となる施設を選択し、現在位置から目的地までの最適な経路を自動的に求める経路計算を行って経路案内を行う経路案内処理を行う。
【0052】
このように自動的に最適な経路を設定する手法として、ダイクストラ法によるコスト計算等の手法が知られている。このダイクストラ法を用いた経路計算は、ノード間のリンクに対するリンク情報を含むリンク間の接続情報を用いて現在位置から各ノードに至るまでの経路コスト(経路に対する評価値)を計算し、目的地までのすべてのコスト計算が終了した段階で、経路コストが最小となるリンクを接続して目的地までの経路を設定する周知の手法である。なお、制御回路29は前述のような経路設定の他に、種々の条件に応じてGPS受信機20の受信感度を設定するための各種処理も行う。これらの処理についての詳細は後述する。
【0053】
図2は、上記車載用ナビゲーション装置1におけるマップマッチング処理に関する構成を更に詳しく示したブロック図である。
図2に示すように、GPS受信機20は、GPS用の人工衛星から送出される電波を受けるGPSアンテナ部20aと、このGPSアンテナ部20aから入力される無線周波数信号を増幅し、中間周波数信号へダウンコンバートするGPS−RF部20bと、このGPS−RF部20bから入力される中間周波数信号をデータ信号へ復調するGPS信号処理部20cと、このGPS信号処理部20cによって復調されたデータ信号に基づいて測位演算を行い、現在位置、進行方向及び速度のGPS測位データを出力するGPS測位演算部20dとで構成されている。
【0054】
制御回路29は、マップマッチング処理に関する構成として、GPS受信機20及び自立センサ21の測位結果に基づき車両の走行軌跡を算出する走行軌跡処理部29aと、走行軌跡処理部29aにより算出された走行軌跡を道路と一致させる処理を行うマップマッチング処理部29bとを備えている。
【0055】
なお、GPS受信機20は、制御回路29からの処理に基づいてGPS衛星から送出される電波を受信する際の受信感度を変更する機能を備えている。その具体的方法としては、GPSアンテナ部20aの回路特性を変更することによって行ってもよいし、GPS−RF部20b、GPS信号処理部20c及びGPS測位演算部20dにおけるダウンコンバート・復調・測位演算過程で、所定の受信入力電力以下の信号をフィルタリングする際の閾値を変更することによって行ってもよい。
【0056】
GPS測位演算部20dから出力されたGPS測位データ及び自立センサ21から出力された自立センサ検出信号は、制御回路29の走行軌跡処理部29aに入力される。走行軌跡処理部29aでは、自立センサ検出信号に基づいて自立航法による現在位置及び進行方向等を演算する。そして、この自立航法による現在位置及び進行方向をGPS測位データに基づいて補正し、自車両の走行軌跡を算出する。
【0057】
制御回路29のマップマッチング処理部29bは、走行軌跡処理部29aにより算出された走行軌跡と地図データ入力器25から入力された道路座標等の地図データとを照合して自車両の現在位置及び走行軌跡を道路にマッチングさせ、表示装置26に自車両の現在位置及び走行軌跡を自車両の周辺の地図と共に表示する。
【0058】
以上、車載用ナビゲーション装置1の概略構成について説明したが、本実施形態における車載用ナビゲーション装置1の構成と特許請求の範囲に記載した構成との対応は次の通りである。本実施形態における車載用ナビゲーション装置1のGPS受信機20が、特許請求の範囲における衛星航法受信機に相当する。また、自立センサ21及び走行軌跡処理部29aが自立航法測位手段に相当する。また、制御回路29が、補正手段、受信感度設定手段、電源オフ位置判定手段、速度ベクトル差判定手段、測位率算出手段、自立センサ自信度算出手段、衛星航法自信度算出手段及びマップマッチング手段に相当する。このうちの補正手段、受信感度設定手段、速度ベクトル差判定手段、測位率算出手段、自立センサ自信度算出手段及び衛星航法自信度算出手段については、走行軌跡処理部29aが相当し、マップマッチング手段については、マップマッチング処理部29bが相当する。また、地図データ入力器25が地図データ記憶手段に相当し、表示装置26が地図表示手段に相当する。
【0059】
以下、実施形態の車載用ナビゲーション装置1の制御回路29が実行するGPS受信機20の受信感度調節に関する各種処理について、図3から図6に示すフローチャートに基づき説明する。
【0060】
[起動時受信感度設定処理の説明]
図3は、制御回路29が実行する「起動時受信感度設定処理」の手順を示すフローチャートである。この起動時受信感度設定処理は、所定の条件における車載用ナビゲーション装置1の起動時において、GPS受信機20に対して比較的高い所定の受信感度で測位を行うモードである高感度モードに設定し、その後比較的低い所定の低受信感度で測位を行うモードである低感度モードへ移行する処理である。この起動時受信感度設定処理は次のような処理によって判定される条件に基づくタイミングで実行される。
【0061】
地図データ入力器25又はメモリ28には、ターンテーブルを有する機械式駐車場、自走式駐車場、フェリーポート及びその他車両を移動させる設備を有する施設や車両を輸送する手段の拠点となる施設等の自立航法による測位に大幅な誤差が生じる可能性がある特定場所の座標データが予め登録されている。制御回路29は、GPS受信装置20及び自立センサ21による測位結果に基づいて電源スイッチがオフにされた時点での現在位置の座標データをメモリ28に記憶しておく。そして、車載用ナビゲーション装置1の起動時にメモリ28に記憶されている電源スイッチオフ時における座標データと前記特定場所の座標データとを照合し、一致するものがある場合、起動時受信感度設定処理を実行する。
【0062】
あるいは、次のような処理によって当該処理を実行するための条件を判定してもよい。電源スイッチがオフにされた時に、現在位置の座標が予め登録されている特定場所の座標と一致するか否かを判定し、一致する場合は処理実行フラグをオンに設定しておく。そして、車載用ナビゲーション装置1起動時に、処理実行フラグがオンに設定されているか否かを判定し、フラグがオンに設定されていれば、起動時受信感度設定処理を実行する。また、車載用ナビゲーション装置1の起動時に毎回この起動時受信感度設定処理を実行するように構成してもよい。
【0063】
図3のフローチャートの説明に入る。まず、車載用ナビゲーション装置1の起動後、上記のような条件に適合したと判定した場合、GPS受信機20を高感度モードに設定する(ステップ10、以下、単にS10と表記する。他のステップについても同様。)。これによりGPS受信機20は、高感度モードによるGPS測位を開始し(S20)、所定時間ごとにGPS測位を繰り返す。
【0064】
続いて、自立航法による測位結果(現在位置及び進行方向)をGPS測位データに基づいて補正する(S30)。そして、現在位置におけるGPS測位データに基づく速度ベクトル(GPS速度ベクトル)と、自立センサの検出情報に基づく速度ベクトル(自立航法速度ベクトル)とを算出(図8参照)し、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとが所定の範囲内まで近似したか否かを判定する(S40)。換言すれば、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとの差が、所定値以内であるか否かを判定する。具体的には、両速度ベクトルの大きさ(速さ)成分と、方向成分とをそれぞれ比較し、これらの差がそれぞれ所定値以内であれば、近似したと判定する。
【0065】
S40において、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとが所定の範囲内まで近似していない場合(S40:NO)、S30の処理へ戻る。つまり、この場合においてはGPSによる測位データによって自立航法による測位に係る誤差を未だ十分に補正できていないと判断できるので、高感度モードによる測位を継続することで極力早いタイミングで自立航法の測位結果に係る誤差を十分なレベルまで補正できるようにする。
【0066】
一方、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとが所定の範囲内まで近似したと判定した場合(S40:YES)、GPS受信機20を低感度モードに設定する(S50)。これにより、GPS受信機20は低感度モードによる測位を開始する(S60)。つまり、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとが所定の範囲内まで近似したと判定した場合においては、GPSによる測位データによって自立航法による測位に係る誤差を十分に補正できたと判断できる。したがって、以降は低感度モードに設定することによって、精度を重視したGPS測位を行うようにする。
【0067】
上記起動時受信感度設定処理によれば、駐車場出庫後等のような極力早いタイミングで位置・方位を修正する必要がある状況では、車載用ナビゲーション装置1起動時に高感度モードに設定することで速度重視の測位を行うことができる。そして、位置・方位の修正が行われ、GPS速度ベクトルと自立航法速度ベクトルとがある程度近似した場合は、高感度モードから低感度モードに切り替えることによって精度重視の測位を行うことができる。このようにして、状況に適した受信感度でのGPS測位を行うことができるようになる。そして、状況に適したGPS測位に基づいて自立航法による測定結果を補正することで、より適切なマップマッチングを行うことができる。
【0068】
[測位率に基づく受信感度設定処理の説明]
図4は、制御回路29が実行する「測位率に基づく受信感度設定処理」の手順を示すフローチャートである。この測位率に基づく受信感度設定処理は、車両走行中等に所定時間ごとに逐次実行される処理であり、その開始タイミングとしては、例えば、上述の起動時受信感度設定処理(図3参照)終了後等がよい。
【0069】
まず、GPS受信機20における所定時間あたりの測位率を測定する(S110)。なお、測位率は次のような数式で算出することができる。
測位率=所定時間あたりのGPS測位演算成功回数/所定時間あたりのGPS測位試行全回数×100(%)
次に、算出した測位率と基準測位率とを比較し、算出した測位率が基準測位率以上か否かを判定する(S120)。なお、ここでいう基準測位率とは、自立航法による測位に係る誤差を補正するのに十分とされる測位率の基準値(例えば、60〜70%程度)である。この基準測位率については、予め実験やシミュレーション等で好適な値を算出して登録しておけばよい。ここで、算出した測位率が基準測位率以上であると判定した場合(S120:YES)、GPS受信機20の受信感度を所定量向上させ(S130)、S110の処理へ戻る。一方、算出した測位率が基準測位率未満であると判定した場合(S120:NO)、GPS受信機20の受信感度を所定量低下させ(S140)、S110の処理へ戻る。
【0070】
図9は、上記測位率に基づく受信感度設定処理による測位率及び受信感度の推移を模式的に示したグラフである。この図9を用いて、測位率に基づく受信感度設定処理による効果を模式的に説明する。
【0071】
時間t1において、測位率が基準測位率を下回っている。この場合、制御回路29は時間t2においてGPS受信機20の受信感度を時間t1における値から所定量上昇させる。その後、時間t2,t3において依然測位率が基準測位率より下回っているので、制御回路29は、時間t3,t4においてGPS受信機20の受信感度を順次向上させる。
【0072】
時間t4においては、GPS受信機の受信感度を向上させた影響や、周辺環境の変化等に起因して、測位率が向上して基準測位率を上回っている。そこで、時間t5ではGPS20の受信感度を時間t4における値から所定量低下させる。その後、時間t5,t6において依然測位率が基準測位率を上回っているので、制御回路29は、時間t6,t7においてGPS受信機20の受信感度を順次低下させる。
【0073】
このように、測位率基づく受信感度設定処理によって、例えば、見晴らしのよい郊外のような電波状況のよい場所では、測位率を基準測位率近くに維持しつつ受信感度をなるべく低く設定することで精度が高い測位を行い、高い建築物が密集するビル街のような電波状況の悪い場所では、受信感度を高く設定して測位率を基準測位率近くに維持するといった具合に、状況に適した受信感度を設定することができる。
【0074】
[自立センサの自信度に基づく受信感度調整処理の説明]
上記測位率に基づく受信感度設定処理(図4参照)のように、GPS受信機20の測位率に基づいて受信感度を設定する代わりに、自立センサ21の自信度に基づいて受信感度を設定するように構成してもよい。
【0075】
図5は、制御回路29が実行する「自立センサの自信度に基づく受信感度設定処理」の手順を示すフローチャートである。この自立センサの自信度に基づく受信感度設定処理は、上記測位率に基づく受信感度設定処理と同様に車両走行中に所定時間ごとに逐次実行される処理であり、その開始タイミングとしては、例えば、上述の起動時受信感度設定処理(図3参照)終了後等がよい。
【0076】
まず、所定時間における自立センサ21の自信度を算出する(S210)。自立センサ21の自信度は、自立航法による測位結果に対する信頼性を定量化したものである。自立センサ21の自信度を算出するには、最後にGPS測位による測位データに基づく補正が行われてから経過時間、その間の自立センサ21による車両の挙動変化の検出量及び車両停止時における挙動変化の誤検出の有無並びにその量をパラメータとして、適宜な数式を用いて算出してもよいし、自信度の値と各パラメータの値との関係を定義するテーブルを予め登録しておき、このテーブルから自信度を算出してもよい。
【0077】
次に、算出した自立センサ21の自信度と基準自信度とを比較し、算出した自信度が基準自信度以上か否かを判定する(S220)。なお、ここでいう基準自信度とは、自信度を算出するための上記各パラメータに起因する誤差が、走行軌跡算出やマップマッチングの支障にならない程度である状態での自信度の値である。この基準自信度については、予め実験やシミュレーション等で好適な値を算出して登録しておけばよい。ここで、算出した自信度が基準自信度以上であると判定した場合(S220:YES)、GPS受信機20の受信感度を所定量低下させ(S230)、S210の処理へ戻る。一方、算出した自信度が基準自信度未満であると判定した場合(S220:NO)、GPS受信機20の受信感度を所定量向上させ(S240)、S210の処理へ戻る。
【0078】
自立センサ21の自信度が低い場合は、自立航法による測位結果に大きな誤差が生じている可能性がある。反対に自立センサ21の自信度が高い場合は、自立航法による測位結果に大きな誤差が生じていないと推測される。そこで、自立センサ21の自信度に基づく受信感度設定処理では、自立センサ21の自信度が基準自信度未満である場合、GPS受信機20の受信感度を上げることで高速なGPS測位を行うようにし、極力早いタイミングで自立航法による測位結果に係る誤差を補正できるようにする。
【0079】
一方、自立センサ21の自信度が高ければ、自立航法による測位結果の信頼性が高いので、GPS測位による補正を頻繁に行う必要性が低い。そこで、自立センサ21の自信度が基準自信度以上である場合、GPS受信機20の受信感度を下げることで測位の速度よりも精度を重視した測位を行い、自立航法による測位結果を精度よく補正できるようにする。
【0080】
[高感度低感度並列測位処理の説明]
上記測位率に基づく受信感度設定処理(図4参照)や自立センサ21の自信度に基づく受信感度設定処理(図5参照)のように、GPS受信機20の測位率や自立センサ21の自信度に基づいて受信感度を設定する代わりに、GPS受信機20において高感度モードによる測位と、低感度モードによる測位とを並行して行い、それぞれのモードにおけるGPS測位の自信度に基づいて条件がよい方の測位結果を採用して自立航法による測位結果を補正するように構成してもよい。
【0081】
図6は、制御回路29が実行する「高感度低感度並列測位処理」の手順を示すフローチャートである。この高感度低感度並列測位処理は、車載用ナビゲーション装置1起動時に実行される。
【0082】
まず、GPS受信機20において、比較的高い所定の受信感度で測位を行うモードである高感度モードによる測位と、比較的低い所定の低受信感度で測位を行うモードである低感度モードによる測位とを並行して実行する(S310)。
【0083】
次に、S310における測位時での高感度・低感度の両モードにおける自信度をそれぞれ算出する(S320)。GPS測位の自信度を算出するには、GPS受信機20が捕捉しているGPS衛星の数、捕捉しているGPS衛星の配置に伴う精度劣化指数(DOP)等をパラメータとして、適宜な数式を用いて算出してもよいし、自信度の値と各パラメータの値との関係を定義するテーブルを予め登録しておき、このテーブルから算出してもよい。例えば、GPS測位位置の自信度については、擬似距離の計測誤差(UERE)とHDOP(Horizontal Dilution of Precision)の関係により、UERExHDOPから自信度が求められる。GPSの速度、方位自信度については、ドップラー周波数の計測誤差xHDOPから自信度が求められる。
【0084】
続いて、算出した両モードにおけるGPS測位の自信度を比較する(S330)。ここで、高感度モードにおけるGPS測位の自信度の方が高いと判定した場合(S330:A)、高感度モードによるGPS測位データを用いて自立航法による測位結果を補正し(S340)、S310の処理へ戻る。一方、低感度モードにおけるGPS測位の自信度の方が高いと判定した場合、(S330:B)、低感度モードによるGPS測位データを用いて自立航法による測位結果を補正し(S350)、S310の処理へ戻る。
【0085】
高感度・低感度の各モードにおけるGPS測位は、車両の現在位置や時刻等の状況によってそれぞれ自信度が変化する。したがって、上記のような高感度低感度並列測位処理によれば、高感度モードによる測位と低感度モードによる測位とを並行して行い、より自信度が高い方の測位結果を自立航法による測位結果の補正に用いることで、より精度の高い測位結果を得ることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り様々な態様にて実施することが可能である。例えば、上述した実施形態では、衛星航法用測位手段の代表例としてGPSを挙げたが、GLONASS(Global Navigation Satellite System)等の衛星航法を利用することも考えられるし、他の衛星航法、又は各衛星航法の組合せでもよい。
【0087】
また、測位率に基づく受信感度設定処理及び自立センサの自信度に基づく受信感度設定処理の各処理において、変更する受信感度に対して、上限値及び下限値を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態である車載用ナビゲーション装置1の概略構成を示すブロック図である。
【図2】車載用ナビゲーション装置1におけるマップマッチング処理に関する構成を更に詳しく示したブロック図である。
【図3】制御回路29が実行する「起動時受信感度設定処理」の手順を示すフローチャートである。
【図4】制御回路29が実行する「測位率に基づく受信感度設定処理」の手順を示すフローチャートである。
【図5】制御回路29が実行する「自立センサの自信度に基づく受信感度設定処理」の手順を示すフローチャートである。
【図6】制御回路29が実行する「高感度低感度並列測位処理」の手順を示すフローチャートである。
【図7】(a)は受信感度−測位率の関係を示すグラフであり、(b)は受信感度−誤差量の関係を示すグラフである。
【図8】GPS速度ベクトル及び自立センサベクトルを模式的に示す説明図である。
【図9】測位率に基づく受信感度設定処理による測位率及び受信感度の推移を模式的に示したグラフである。
【符号の説明】
【0089】
1…車載用ナビゲーション装置、20…GPS受信機、20a…GPSアンテナ部、20b…GPS−RF部、20c…GPS信号処理部、20d…GPS測位演算部、21…自立センサ、21a…車速センサ、21b…ジャイロセンサ、21c…加速度センサ、22…操作スイッチ群、23a…リモコン、23b…リモコンセンサ、24…車両情報入力部、25…地図データ入力器、26…表示装置、27…音声出力装置、28…メモリ、29…制御回路、29a…走行軌跡処理部、29b…マップマッチング処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の進行方向及び速度を含む挙動変化を検出する自立センサからの検出情報に基づき、前記移動体の現在位置及び進行方向を算出する自立航法測位手段と、
航法衛星から送出される衛星航法用電波を受信し、前記移動体の現在位置、速度及び進行方向を含む測位データを出力する衛星航法受信機と、
前記衛星航法受信機から出力される測位データを用いて前記自立航法測位手段から算出される現在位置及び進行方向に係る誤差を補正する補正手段と
を備える移動体位置検出装置において、
前記移動体の位置若しくは作動状況、又は前記自立航法測位手段若しくは前記衛星航法受信機の測位状況に関する所定の条件に基づいて前記衛星航法受信機における衛星航法用電波の受信感度を設定する受信感度設定手段を備え、
前記衛星航法受信機は、前記受信感度設定手段により設定された受信感度によって、衛星航法用電波を受信すること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体位置検出装置において、
前記自立航法測位手段による測位に大幅な誤差が生じる可能性がある所定の位置において本装置の電源スイッチがオフされたか否かを判定する電源オフ位置判定手段と、
前記衛星航法受信機からの測位データに基づく速度ベクトルと、前記自立センサによる検出情報に基づく速度ベクトルとを比較し、前記両速度ベクトル間の差が所定量以下になったか否かを判定する速度ベクトル差判定手段とを備え、
前記受信感度設定手段は、
前記電源オフ位置判定手段による判定に基づき、前記自立航法測位手段による測位に大幅な誤差が生じる可能性がある所定の位置において本装置の電源スイッチがオフされた後の次の起動時に、受信感度を比較的高感度の所定の高受信感度に設定し、その後、前記速度ベクトル差判定手段によって前記差が所定量以下になったと判定された場合、前記受信感度を比較的低感度の所定の低受信感度に設定すること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の移動体位置検出装置において、
前記衛星航法受信機からの測位データに基づく速度ベクトルと、前記自立センサによる検出情報に基づく速度ベクトルとを比較し、前記両速度ベクトル間の差が所定量以下になったか否かを判定する速度ベクトル差判定手段を備え、
前記受信感度設定手段は、
本装置の起動時ごとに、受信感度を比較的高感度の所定の高受信感度に設定し、その後、前記速度ベクトル差判定手段によって前記差が所定量以下になったと判定された場合、前記受信感度を比較的低感度の所定の低受信感度に設定すること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の移動体位置検出装置において、
前記衛星航法受信機における所定時間ごとの測位率を算出する測位率算出手段を備え、
前記受信感度設定手段は、前記測位率算出手段によって算出された測位率が所定の基準値以上である場合、受信感度を現在値から所定量低下させ、前記測位率算出手段によって算出された測位率が所定値未満である場合、受信感度を現在値から所定量向上させること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の移動体位置検出装置において、
前記自立センサによる測位結果に対する信頼性を表す自信度を算出する自立センサ自信度算出手段を備え、
前記受信感度判定手段は、前記自立センサ自信度算出手段によって算出された自信度が所定の基準値以上である場合、受信感度を現在値から所定量低下させ、前記自立センサ自信度算出手段によって算出された自信度が所定値未満である場合、受信感度を現在値から所定量向上させること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項6】
移動体の進行方向及び速度を含む挙動変化を検出する自立センサからの検出情報に基づき、前記移動体の現在位置及び進行方向を算出する自立航法測位手段と、
航法衛星から送出される衛星航法用電波を受信し、前記移動体の現在位置、速度及び進行方向を含む測位データを出力する衛星航法受信機と、
前記衛星航法受信機から出力される測位データを用いて前記自立航法測位手段から算出される現在位置及び進行方向に係る誤差を補正する補正手段と
を備える移動体位置検出装置において、
前記衛星航法受信機は、比較的高感度の所定の高受信感度による衛星航法用電波の受信に基づく測位データの出力と、比較的低感度の所定の低受信感度による衛星航法用電波の受信に基づく測位データの出力とを並行して行い、
前記高受信感度及び低受信感度における衛星航法受信機による測位結果に対する信頼性を表す自信度をそれぞれ算出する衛星航法自信度算出手段を備え、
前記補正手段は、前記衛星航法自信度算出手段によって算出された高受信感度における自信度と、低受信感度における自信度とを比較し、より自信度が高い方の測位データを用いて前記自立航法測位手段から算出される現在位置及び進行方向に係る誤差を補正すること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の移動体位置検出装置において、
前記補正手段によって補正された前記移動体の現在位置及び進行方向に基づき、前記移動体の現在位置に至るまでの移動軌跡を生成する走行軌跡生成手段と、
前記移動軌跡生成手段によって生成された移動軌跡と道路地図データに基づく道路情報とを照合し、前記移動軌跡を道路上に一致させて前記移動体の現在位置及び進行方向を特定するマップマッチング手段とを備えること
を特徴とする移動体位置検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の移動体位置検出装置と、
道路地図データを含む地図データが記憶された地図データ記憶手段と、
地図表示手段とを備え、
前記移動体位置検出装置にて検出された移動体の現在位置周辺の道路地図データを前記地図データ記憶手段から読み出し、この読み出した道路地図データに基づく道路地図と共に、予め設定された目的地までの経路及び前記移動体位置検出装置によって検出された移動体の現在位置を前記地図表示手段に識別可能に表示し、前記目的地までの経路と移動体の現在位置との関係を考慮して、所定の経路案内を行うナビゲーション装置。
【請求項9】
コンピュータシステムを、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の移動体位置検出装置における受信感度設定手段として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
コンピュータシステムを、請求項6に記載の移動体位置検出装置における補正手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−57261(P2007−57261A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240024(P2005−240024)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】