説明

突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置

【課題】溶接線の径が多様に変化する筒形状部材であっても、計測機器の種類を増やすことなく、また、計測作業時間の増大を極力抑制する。
【解決手段】カメラ装置4が第1の撮影位置での溶接裏波8の全周にわたる撮影を終了すると、その装置本体41は移動ステージ42により第2の撮影位置に移動され、同様に、溶接裏波8の全周にわたる撮影を行う。このときの第1の撮影位置から第2の撮影位置までの距離Lは、第1の撮影位置におけるカメラ装置4と、撮影対象地点である溶接裏波8との間の距離Hに応じて設定される。そして、これら2個所の撮影位置で撮影された画像情報により、三角測量の原理に基づき溶接裏波8の3次元形状情報が演算され、この3次元形状情報に基づき突き合わせ溶接部の溶接品質が評価される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接裏波形状の外観から筒形状部材の突き合わせ溶接部の溶接品質を評価する、突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種配管部材、発電ロータのシャフト部、超伝導加速空洞などの長尺の筒形状部材は、複数の短い筒形状部材が多層突き合わせ溶接されることにより形成されている。筒形状部材同士を突き合わせ溶接する場合、溶接作業にとって充分な内部スペースを確保できないことが多いため、通常、この突き合わせ溶接は外面からのみの片側溶接となる。
【0003】
このような外面からのみの片側溶接では、初層溶接において「溶け落ち」や「溶け込み不良」などの溶接不良が発生し易くなっている。したがって、初層溶接終了後には突き合わせ溶接部に対して、例えば特許文献1に見られるように、溶接裏波形状を検査するなどして突き合わせ溶接部の溶接品質を評価する必要がある。
【0004】
この特許文献1で実施されていた溶接裏波形状の検査は、筒形状部材の外面側に取り付けた超音波センサにより溶接肉盛り部全体の厚さを測定し、この測定値から部材の板厚及び外面側の肉盛り高さを差し引くことにより裏波高さを求めるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−28899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に係る溶接裏波形状の検査で用いられている超音波センサは、筒形状部材の外面側に取り付けられているものであるため、溶接裏波部分を含めた全体の厚さについて一定レベル以上の測定精度を求めるのは困難であり、したがって、得られた裏波高さのデータについても一定レベル以上の精度を求めるのは困難であると考えられる。
【0007】
そこで、本願発明の発明者は、従来から筒形状部材の内部に形状センサを挿入し、この形状センサの測定により溶接裏波の高さを求める手法を試みている。ところが、形状センサは、一般に、センサ位置と測定対象地点との間の測定可能距離が固定化されており、筒形状部材の内径が場所によって変化するような場合には有効に対処することができなかった。
【0008】
例えば、図11(a)に示すように、筒形状部材としての配管101は、複数本のストレートパイプ101aが溶接により接合されて形成されており、どの個所の溶接線102も同一径である。そして、形状センサ103を配管101の中心に配置したときの、形状センサ103と溶接線102の溶接裏波との間の距離がD0であれば、形状センサ103には、計測対象距離D0の仕様を具備するものを用いればよい。
【0009】
ところが、図11(b)に示すように、筒形状部材としての超伝導加速空洞104は、一端側に大径の開口部、他端側に小径の開口部を有する杯形状の複数の空洞セル104aが溶接により接合されて形成されているため、その溶接線も大径の溶接線105及び小径の溶接線106の2種類となる。したがって、溶接線105の溶接裏波を計測するため計測対象距離D1の仕様を具備する形状センサ107を用いたとすると、この形状センサ107では溶接線106の溶接裏波を計測することができない。溶接線106の溶接裏波を計測するためには計測対象距離D2の仕様を具備する別の形状センサ108を用いる必要がある。
【0010】
つまり、超伝導加速空洞104の全ての溶接線の溶接裏波を計測するためには、最初に形状センサ107により溶接線105の溶接裏波を計測し、この計測作業が終了した後、形状センサ107を形状センサ108に交換して、再度同様の計測作業を行わなければならない。そのため、図11(a)の配管101の計測作業に比べて、その作業時間も非常に長いものとなっていた。
【0011】
更に、上述した超伝導加速空洞104では、溶接線の径の種類が2種類であったが、3種類以上に多様に変化する筒形状部材に対して溶接裏波を計測する場合には、3種類以上の計測センサを用意すると共に、3回以上のセンサ交換作業、及び計測作業を行わなければならず、作業時間の増大は一層甚だしいものとなる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、溶接線の径が多様に変化する筒形状部材であっても、計測機器の種類を増やすことなく、また、計測作業時間の増大を極力抑制することが可能な突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、突き合わせ溶接部を全周にわたって有する筒形状部材の内部に移動可能に配置され、この突き合わせ溶接部の溶接裏波形状を全周にわたって撮影するためのカメラ装置と、前記溶接裏波形状について、前記筒形状部材の軸方向又は径方向における予め設定された第1及び第2の撮影位置での全周にわたる画像情報が得られるように、前記カメラ装置のカメラ本体の移動動作及び撮影動作を制御するカメラ制御手段と、前記カメラ制御手段が取得した前記第1及び第2の撮影位置での画像情報に基づき、前記溶接裏波形状の全周にわたる3次元形状情報を演算する溶接裏波3次元形状演算手段と、前記溶接裏波3次元形状演算手段が演算した前記溶接裏波形状の3次元形状情報に基づき、前記突き合わせ溶接部の溶接品質を評価する溶接品質評価手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接線の径が多様に変化する筒形状部材であっても、計測機器の種類を増やすことなく、また、計測作業時間の増大を極力抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の構成を示す説明図。
【図2】図1におけるカメラ装置4の構成及び動作についての説明図であり、(a)は装置本体41が第1の撮影位置にある場合、(b)は装置本体41が第2の撮影位置にある場合を示す。
【図3】図1におけるカメラ装置4の第1の撮影位置及び第2の撮影位置の各視野範囲と、撮影対象である溶接裏波8との位置関係を示す説明図。
【図4】図1における溶接品質評価手段7が、溶接裏波のウロコ模様間隔の広狭から溶接品質を評価する方法についての説明図。
【図5】図1における溶接品質評価手段7が、溶接裏波の表面形状について円弧近似を行うことに基づき溶接品質を評価する方法についての説明図であり、(a)は円弧近似の結果が凸形状である場合、(b)は円弧近似の結果が凹形状である場合を示す。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の構成を示す説明図。
【図7】図6におけるカメラ装置4A,4Bの第1の撮影位置及び第2の撮影位置の各視野範囲と、撮影対象である溶接裏波8との位置関係を示す説明図。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の説明図であり、(a)は構成図、(b)は(a)のB−B矢視図。
【図9】図8におけるカメラ装置4A,4Bの第1の撮影位置及び第2の撮影位置と、撮影対象である溶接裏波8との位置関係を示す説明図。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の要部構成を示す説明図。
【図11】従来技術についての説明図であり、(a)は筒形状部材がストレート形状の配管である例を示し、(b)は筒形状部材が径の異なる個所を有する超伝導加速空洞である例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の構成を示す説明図である。
【0017】
筒形状部材である超伝導加速空洞1は、複数個の空洞セル1aが全周にわたって突き合わせ溶接されることにより形成されている。各空洞セル1aは、一端側が大径の開口部、他端側が小径の開口部を有しており、上記の突き合わせ溶接は、大径の開口部同士、及び小径の開口部同士を突き合わせて行われている。したがって、超伝導加速空洞1には、大径の溶接線2と小径の溶接線3の2種類の溶接線が形成されている。
【0018】
超伝導加速空洞1の内径の中心位置には1台のカメラ装置4が移動可能に配置されている。このカメラ装置4は、カメラ制御手段5の制御によって、矢印Y1,矢印Y3で示すように軸方向への水平移動、及び矢印Y2で示すように周方向に沿って回転移動が行われるようになっている。
【0019】
ここで、矢印Y1で示す軸方向への水平移動とは、後述する移動ステージの駆動による第1の撮影位置から第2の撮影位置までの短い距離の水平移動動作のことを指し、矢印Y3で示す軸方向への水平移動とは、水平移動駆動機構(図示せず)による溶接線2から溶接線3までの長い距離の水平移動動作のことを指している。また、矢印Y2で示す周方向に沿った回転移動とは、回転移動駆動機構(図示せず)による全周にわたる回転移動動作のことを指している。
【0020】
カメラ制御手段5は、上記のようなカメラ装置4の移動動作の制御を行うが、更に撮影の開始及び停止等の撮影動作の制御についても行う。そして、カメラ装置4から送出されてきた画像情報を入力し、これを溶接裏波3次元形状演算手段6に出力する。
【0021】
溶接裏波3次元形状演算手段6は、カメラ制御手段5からの画像情報を入力すると、この画像情報に基づいて溶接裏波の3次元形状を演算により求め、その3次元形状情報を溶接品質評価手段7に出力する。
【0022】
溶接品質評価手段7は、この溶接裏波3次元形状演算手段6からの3次元形状情報に基づき突き合わせ溶接部の溶接裏波についての溶接品質を評価する。
【0023】
図2は、図1におけるカメラ装置4の構成及び動作についての説明図であり、(a)は装置本体41が第1の撮影位置にある場合、(b)は装置本体41が第2の撮影位置にある場合を示している。
【0024】
カメラ装置4は、装置本体41と、この装置本体41を予め設定された距離、つまり「第1の撮影位置」と「第2の撮影位置」との間の距離だけ移動させるための移動ステージ42とで構成されている。
【0025】
装置本体41は、内部にCCDなどの撮像素子を有するカメラ43と、このカメラ43と撮影対象との間に介在して光軸OAを略直角方向に反射させるミラー部材44とを備えている。そして、ミラー部材44から垂直方向に伸びている光軸OAを中心とした視野角θの内側がカメラ43の視野範囲となる。
【0026】
図2(a)のように、第1の撮影位置では装置本体41及び移動ステージ42の両端部は一致しているが、図2(b)のように、第2の撮影位置では移動ステージ42が装置本体41を前方に送り出すので、装置本体41の大半の部分が移動ステージ42の片側端部から突出した状態となる。
【0027】
図3は、カメラ装置4の第1の撮影位置及び第2の撮影位置の各視野範囲と、撮影対象である溶接裏波8との位置関係を示す説明図である。
【0028】
第1の撮影位置において、カメラ装置4のミラー部材44(図3では図示略)は、好ましくは溶接裏波8の真下に位置している。したがって、第1の撮影位置では視野範囲V1のほぼ中央に溶接裏波8が位置した状態となる。そして、移動ステージ42により装置本体41が距離Lだけ右方の第2の撮影位置に移動すると、そのときの視野範囲V2の左端付近に溶接裏波8が位置した状態となる。このときの第1の撮影位置から第2の撮影位置までの距離Lは、第1の撮影位置におけるカメラ装置4と、撮影対象地点である溶接裏波8との間の距離Hに応じて設定されるようになっている。
【0029】
溶接裏波3次元形状演算手段6は、カメラ装置4が撮影した第1の撮影位置における画像情報、及び第2の撮影位置における画像情報の双方をカメラ制御手段5を介して入力し、これらの画像情報に基づいて溶接裏波8の3次元形状を演算する。
【0030】
このときの溶接裏波3次元形状演算手段6が行う演算手法は、第1の撮影位置で得られた画像情報と、第2の撮影位置で得られた画像情報との間でブロックマッチング処理を行うことにより互いの対応点位置を特定し、三角測量の原理に基づき、各対応点位置とカメラ位置との関係をカメラ43の撮像素子と溶接裏波8表面との間の距離に変換して溶接裏波8の3次元形状を求めるものである。この3次元形状の演算手法は、例えば再公表公報WO2008/153127に記載された検査測定装置においても用いられており、その技術内容は公知のものであるため詳しい説明は省略する。
【0031】
溶接品質評価手段7は、溶接裏波3次元形状演算手段6から演算結果である3次元形状情報を入力すると、突き合わせ溶接部の溶接品質についての評価を行う。評価の方法としては、現在のところ、例えば次のような3つの方法が考えられている。
【0032】
第1番目の評価方法は、全周にわたって溶接裏波の最大高さh-max、平均高さh-ave、及び溶接裏波幅wを算出しておき、これらの算出値から溶接品質評価に関する指標値として、最大高さh-maxと溶接裏波幅wとの比h-max/w、及び平均高さh-aveと溶接裏波幅wとの比h-ave/wを求め、これら指標値が所定範囲内である場合は正常な溶接であると評価するものである。なお、場合によっては溶接裏波の最大高さh-max、及び平均高さh-aveのみを算出しておき、これらの算出値が一定範囲内であれば正常な溶接である、と評価する簡易な評価方法を採用することもあり得る。
【0033】
第2番目の評価方法は、溶接裏波のウロコ模様間隔の広狭から溶接品質を評価するものである。例えば、図4に示した溶接裏波8において、上段に図示したようにウロコ模様間隔が狭い場合には異常な溶接、中段に図示したようにウロコ模様間隔が適正な場合には正常な溶接、下段に図示したようにウロコ模様間隔が広い場合には異常な溶接と評価する。
【0034】
第3番目の評価方法は、溶接裏波の表面形状について円弧近似を行い、この円弧近似により求めた円弧が凹凸のいずれの形状であるかを判断し、この判断結果が凸形状である場合にはその曲率の値に基づき溶接品質を評価するものである。例えば、図5(a)に示すように、円弧近似を行った結果が凸形状であり、且つその場合の曲率が一定範囲以内であれば正常な溶接と評価する。一方、図5(b)に示すように、円弧近似を行った結果が凹形状であれば、その曲率を判断するまでもなく異常な溶接と評価する。
【0035】
なお、本願発明における評価方法は上記の3つの方法のみに限定されるわけではない。例えば、上記の3つの方法のうちのいくつかを適宜組合せ、最も評価の精度が優れているものを採用するようにすることもできる。
【0036】
次に、上記のように構成される第1の実施形態に係る装置の動作につき説明する。図1に示すように、カメラ装置4が超伝導加速空洞1の内部に配置される。このとき、図1では図示を省略しているが、内部のミラー部材44が溶接線2(大径側)の真下にくるように位置が調整されている(この位置は第1の撮影位置である)。カメラ制御手段5は、図示が省略されている回転駆動機構によりカメラ装置4を矢印Y2方向に回転させながら、第1の撮影位置でのカメラ装置4の撮影を開始し、溶接裏波8の形状の撮影を全周にわたって行うようにする。そして、カメラ制御手段5は、内部に有している記憶手段(図示せず)にこのときのカメラ装置4からの画像情報を記憶する。
【0037】
次いで、カメラ装置4が第1の撮影位置での溶接裏波8の全周にわたる撮影を終了すると、カメラ制御手段5はカメラ装置4を矢印Y1方向に水平移動させて第2の撮影位置に位置させる。尤も、この水平移動はカメラ装置4の全体を移動させるわけではなく、移動ステージ42の制御により、図2(b)に示すように、装置本体41のみを前方に送り出すだけである。
【0038】
次いで、カメラ制御手段5は、第1の撮影位置における場合と同様の制御を行う。つまり、カメラ制御手段5は、図示が省略されている回転駆動機構によりカメラ装置4を矢印Y2方向に回転させながら、第2の撮影位置でのカメラ装置4の撮影を開始し、溶接裏波8の形状の撮影を全周にわたって行うようにする。そして、カメラ制御手段5は、内部に有している記憶手段(図示せず)にこのときのカメラ装置4からの画像情報を記憶する。
【0039】
上記のように、溶接線2(大径)の溶接裏波8について、カメラ装置4が第1及び第2の撮影位置での溶接裏波8の全周にわたる撮影を終了すると、カメラ制御手段5は、今度はカメラ装置4の全体を図示が省略されている水平移動機構により矢印Y3方向に水平移動させて溶接線3(小径)の真下にくるように位置させる。
【0040】
そして、カメラ制御手段5は、カメラ装置4に対して上記と同様の制御を行って、溶接線2(小径)の溶接裏波8について、第1及び第2の撮影位置での溶接裏波8の全周にわたる撮影を終了させる。但し、溶接線2と溶接線3とでは内径が異なるため、図3における第1の撮影位置におけるカメラ装置4と撮影対象地点である溶接裏波8との間の距離H、及び第1の撮影位置から第2の撮影位置までの距離Lも異なる値となる。
【0041】
以下、同様にして、超伝導加速空洞1の全ての溶接線2(大径)及び溶接線3(小径)の溶接裏波8について、カメラ制御手段5は、カメラ装置4に第1及び第2の撮影位置での溶接裏波8の全周にわたる撮影を終了させることができる。
【0042】
そして、その後、カメラ制御手段5は、自己の記憶手段に記憶しておいた溶接裏波8の形状についての画像情報を溶接裏波3次元形状演算手段6に出力する。
【0043】
溶接裏波3次元形状演算手段6は、全ての溶接線2及び溶接線3に係る溶接裏波8の3次元形状情報を、カメラ制御手段5からの第1及び第2の撮影位置での画像情報に基づき演算する。
【0044】
溶接品質評価手段7は、溶接裏波3次元形状演算手段6が演算した溶接裏波8の形状の3次元形状情報に基づき、突き合わせ溶接部の溶接品質の評価を行う。このときの評価の方法は、前述した3つの方法のうちのいずれか、あるいはこれらの組合せを用いたものである。
【0045】
上述した第1の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置によれば、第1及び第2の撮影位置における画像情報に基づき溶接裏波形状の全周にわたる3次元形状情報を演算し、この3次元形状情報に基づき突き合わせ溶接部の溶接品質を評価する構成としているので、溶接線の径が多様に変化する筒形状部材であっても、使用するカメラ装置の台数は1台のみで足り、計測作業時間の増大を大幅に抑制することが可能になる。
【0046】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の構成を示す説明図である。図6が図1と異なる点は、超伝導加速空洞1内部に2台のカメラ装置4A,4Bが配置されており、カメラ制御手段5はこれら2台のカメラ装置4A,4Bに対して制御を行うと共に、これら2台のカメラ装置4A,4Bからの画像情報を入力するようになっている点である。
【0047】
図7は、図6におけるカメラ装置4A,4Bの第1の撮影位置及び第2の撮影位置の各視野範囲と、撮影対象である溶接裏波8との位置関係を示す説明図である。
【0048】
図7では図3の場合とは異なりカメラ装置の台数が2台になっているので、溶接裏波8の真下からやや左右にずれてカメラ装置4A,4Bの各第2の撮影位置が設定されており、更にその外側に各第1の撮影位置が設定されている。
【0049】
したがって、各第1の撮影位置では視野範囲V1a,V1bの端部付近に溶接裏波8が位置した状態となり、また、各第2の撮影位置では視野範囲V2a,V2bのほぼ中央に溶接裏波8が位置した状態となる。このときの各第1の撮影位置から各第2の撮影位置までの距離Lは、既述した第1の実施形態の場合と同様に、各第1の撮影位置におけるカメラ装置4A,4Bと、撮影対象地点である溶接裏波8との間の距離Hに応じて設定されるようになっている。
【0050】
この第2の実施形態は、第1の実施形態においてカメラ装置の台数を2台にした点が異なるのみであり、その動作も基本的には第1の実施形態と同様であるため、動作についての説明は省略する。
【0051】
但し、この第2の実施形態では、溶接裏波8を中央に挟んで左右2台のカメラ装置4A,4Bが異なる方向から形状の撮影を行っているので、溶接裏波3次元形状演算手段6の演算結果は、第1の実施形態に比べて実際の形状により忠実なものとなることが期待される。
【0052】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の説明図であり、(a)は構成図、(b)は(a)のB−B矢視図である。
【0053】
既述した第1及び第2の実施形態では、カメラ装置4及びカメラ装置4A,4Bの第1の撮影位置から第2の撮影位置への移動は、超伝導加速空洞1の軸方向への移動であったが、この第3の実施形態では超伝導加速空洞1の径方向への移動になっている。
【0054】
その理由は、例えば超伝導加速空洞1の製造途中の段階において、或る空洞セル1aの大径側開口部に蓋部材9が取り付けられているような場合、あるいは蓋部材9の位置に何らかの障害物が存在するような場合、カメラ装置は、第1及び第2の実施形態における第2の撮影位置に相当する位置まで軸方向へ移動することができなくなる。そこで、本実施形態では、このような場合には、カメラ装置を軸方向ではなく矢印Y4で示す径方向に移動させることによって溶接裏波8の形状についての画像情報を取得できるようにしている。
【0055】
図9は、図8におけるカメラ装置4A,4Bの第1の撮影位置及び第2の撮影位置と、撮影対象である溶接裏波8との位置関係を示す説明図である。カメラ装置4A,4Bは、第1の撮影位置においては互いに接近した状態で位置しており、カメラ制御手段5は、まずこの状態で図示が省略されている回転駆動機構によりカメラ装置4A,4Bを回転させながら(回転中心はカメラ装置4A,4Bの中間地点である)溶接裏波8の形状を撮影する。
【0056】
次いで、カメラ制御手段5は、図示が省略されている水平移動機構によりカメラ装置4A,4Bを径方向に移動させて両者を離間し、これらを第2の撮影位置に位置させる。そして、上記と同様にして、図示が省略されている回転駆動機構によりカメラ装置4A,4Bを回転させながら(回転中心はカメラ装置4A,4Bの中間地点である)溶接裏波8の形状を撮影する。
【0057】
これ以降の溶接裏波3次元形状演算手段6及び溶接品質評価手段7の処理内容は、第1及び第2の実施形態の場合と略同様であるため、その説明を省略する。なお、本実施形態では2台のカメラ装置4A,4Bを径方向に並んで配置させ、これらを第1の撮影位置から第2の撮影位置まで径方向移動させた例について説明したが、カメラ装置の台数を1台とすることも勿論可能である。蓋部材9
このように、本実施形態によれば、カメラ装置の第1の撮影位置から第2の撮影位置までの移動を、何らかの理由により軸方向への水平移動によっては行うことができないような場合であっても、径方向への移動によって代替することにより、溶接裏波の形状についての撮影を行うことが可能になる。
【0058】
図10は、本発明の第4の実施形態に係る突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置の要部構成を示す説明図である。本実施形態では、カメラ装置4の装置本体41内部のミラー部材44が回転軸45を介してミラー駆動部46により回転駆動されるようになっており、カメラ制御手段5はこのミラー駆動部46を制御するミラー回転制御手段10を有する構成になっている。
【0059】
これまでの実施形態におけるカメラ装置4(又は4A,4B)は、図示が省略されている回転駆動機構により回転されながら溶接裏波8の形状の撮影を全周にわたって行うものであった。しかし、超伝導加速空洞1の内部スペースは、常にこのような回転駆動機構の配置を許容できるほどに大きなものであるとは限らない。そこで、本実施形態では、このような回転駆動機構を用いることなく、溶接裏波8の形状の撮影を全周にわたって行うことが可能な構成を提供することにしたものである。
【0060】
本実施形態によれば、溶接裏波8の形状を全周にわたって撮影しようとする場合、ミラー回転制御手段10がミラー駆動部46に対する制御により、回転軸45を介してミラー部材44のみを回転させるようにする。したがって、カメラ装置4そのものは静止した状態でありながら、全周にわたって溶接裏波8の形状を撮影することが可能になるので、回転駆動機構を省略した構成とすることができる。
【符号の説明】
【0061】
1:超伝導加速空洞(筒形状部材)
1a:空洞セル
2:溶接線(大径)
3:溶接線(小径)
4,4A,4B:カメラ装置
41:装置本体
42:移動ステージ
43:カメラ
44:ミラー部材
45:回転軸
46:ミラー駆動部
5:カメラ制御手段
6:溶接裏波3次元形状演算手段
7:溶接品質評価手段
8:溶接裏波
9:蓋部
10:ミラー回転制御手段
OA:光軸
θ:視野角
V1:第1の撮影位置での視野範囲
V2:第2の撮影位置での視野範囲
L:第1の撮影位置と第2の撮影位置との間の距離
H:カメラ装置と撮影対象地点との間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き合わせ溶接部を全周にわたって有する筒形状部材の内部に移動可能に配置され、この突き合わせ溶接部の溶接裏波形状を全周にわたって撮影するためのカメラ装置と、
前記溶接裏波形状について、前記筒形状部材の軸方向又は径方向における予め設定された第1及び第2の撮影位置での全周にわたる画像情報が得られるように、前記カメラ装置のカメラ本体の移動動作及び撮影動作を制御するカメラ制御手段と、
前記カメラ制御手段が取得した前記第1及び第2の撮影位置での画像情報に基づき、前記溶接裏波形状の全周にわたる3次元形状情報を演算する溶接裏波3次元形状演算手段と、
前記溶接裏波3次元形状演算手段が演算した前記溶接裏波形状の3次元形状情報に基づき、前記突き合わせ溶接部の溶接品質を評価する溶接品質評価手段と、
を備えたことを特徴とする突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項2】
前記カメラ装置の台数は2台であり、これら2台のカメラ装置が前記筒形状部材の軸方向に前記突き合わせ溶接部を挟んで対向して配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項3】
前記カメラ装置の台数は2台であり、これら2台のカメラ装置が前記全周にわたる突き合わせ溶接部の径方向に並んで配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項4】
前記カメラ装置は、前記突き合わせ溶接部の溶接裏波からの光を略直角方向に反射させるミラー部材を介して入射する撮像素子を有するものであり、このミラー部材の360度の回転により前記突き合わせ溶接部の溶接裏波形状を全周にわたって撮影するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の撮影位置間の距離は、前記カメラ本体と前記溶接裏波の撮影対象地点との距離に応じて設定されるものである、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項6】
前記溶接品質評価手段は、前記全周にわたる3次元形状情報から前記溶接裏波に関して、最大高さ、平均高さ、平均裏波幅を算出し、これらの算出値から溶接品質評価に関する指標値を求め、この指標値に基づき前記突き合わせ溶接部の溶接品質を評価するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項7】
前記溶接品質評価手段は、前記全周にわたる3次元形状情報から前記溶接裏波の表面に現れたウロコ模様の間隔を求め、この間隔に基づき前記突き合わせ溶接部の溶接品質を評価するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。
【請求項8】
前記溶接品質評価手段は、前記全周にわたる3次元形状情報から前記溶接裏波の表面形状について円弧近似を行い、この円弧近似により求めた円弧が凹凸のいずれの形状であるか、及び凸形状である場合の曲率の値に基づき前記突き合わせ溶接部の溶接品質を評価するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の突き合わせ溶接部の溶接品質評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−112694(P2012−112694A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259928(P2010−259928)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】