窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶
【課題】窒化アルミニウム結晶を成長させる際に下地基板が昇華されることを防止して、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を成長速度を向上して成長させる、窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム結晶20の成長方法は、以下の工程が実施される。まず、主表面11aと裏面11bとを有する下地基板11と、裏面11bに形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備えた積層基板10が準備される。そして、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶20が気相成長法により成長される。第1の層11aは、窒化アルミニウム結晶20の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる。第2の層12は、第1の層11の熱伝導率よりも高い材質よりなる。
【解決手段】窒化アルミニウム結晶20の成長方法は、以下の工程が実施される。まず、主表面11aと裏面11bとを有する下地基板11と、裏面11bに形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備えた積層基板10が準備される。そして、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶20が気相成長法により成長される。第1の層11aは、窒化アルミニウム結晶20の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる。第2の層12は、第1の層11の熱伝導率よりも高い材質よりなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)結晶は、6.2eVの広いエネルギバンドギャップ、約3.3WK-1cm-1の高い熱伝導率および高い電気抵抗を有しているため、光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス用の基板材料として注目されている。
【0003】
このような窒化アルミニウム結晶の成長方法には、たとえば気相成長法の昇華法が用いられる。昇華法による窒化アルミニウム結晶の成長は、たとえば以下の工程によって実施される。すなわち、成長室の下部に窒化アルミニウム多結晶原料が設置され、成長室の上部のサセプタに下地基板が窒化アルミニウム多結晶原料と互いに向かい合うよう設置される。そして、窒化アルミニウム多結晶原料が昇華する温度まで窒化アルミニウム多結晶原料が加熱される。この加熱により、窒化アルミニウム多結晶原料が昇華して昇華ガスが生成され、窒化アルミニウム多結晶原料よりも低温に設置されている下地基板の表面に窒化アルミニウム単結晶が成長する。
【0004】
このように、下地基板と窒化アルミニウム多結晶原料との間には下地基板から窒化アルミニウム多結晶原料に向けて温度が低くなる温度勾配(温度差)がある。このため、下地基板とサセプタとの間にも下地基板からサセプタに向けて温度が低くなる温度勾配があり、かつ下地基板内にも窒化アルミニウム多結晶原料と対向する面からサセプタと対向する面に向けて温度が低くなる温度勾配がある。下地基板とサセプタとの間に隙間ができると、窒化アルミニウム結晶の成長雰囲気に下地基板の裏面が曝されてしまうので、上記の温度勾配により、下地基板を構成する元素が昇華して、下地基板からサセプタへ、または下地基板内において高温部から低温部へ、再結晶化してしまう。この昇華および再結晶化が進行すると、下地基板を貫通する穴が発生する。さらに昇華が進行すると、下地基板上に成長した窒化アルミニウム結晶の構成元素が下地基板、サセプタなどの低温部へ輸送される場合がある。この結果、下地基板の表面上に成長した窒化アルミニウム結晶に、穴が発生する場合がある。したがって、下地基板の昇華を防止して、下地基板の穴の発生を抑制することが課題となっている。
【0005】
このような下地基板の昇華を防止するための技術として、たとえば、特開2006−290676号公報(特許文献1)には、下地基板とサセプタとをアルミナ系の高温用接着剤を用いて接着することが記載されている。この高温用接着剤は、1000℃以上の高温でも十分な強度を発揮することが記載されている。
【0006】
また特表平11−510781号公報(特許文献2)には、下地基板の裏面に金属および金属化合物からなる皮膜が形成されていることが記載されている。
【0007】
また特開2005−247681号公報(特許文献3)には、金属材料を黒鉛台座の上に配置し、その金属材料の上に下地基板を配置し、その下地基板の上に加圧部材を配置し、加圧部材で1700℃以上の高温で87.5kPa以下の高い圧力を加えて、黒鉛台座と金属材料と下地基板とを固定一体化している方法が記載されている。金属材料は、チタン、バナジウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの材料であることが記載されている。
【0008】
また特開平9−268096号公報(特許文献4)には、下地基板において単結晶が成長する面以外の表面を保護層で被覆していることが記載されている。保護層は、タンタル、タングステン、ニオブ、モリブデン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよびこれらの炭化物、ホウ化物、窒化物から選ばれる少なくとも1種よりなることが記載されている。さらに、この保護層と台座とを接着剤を用いて固定されていることが開示されている。
【特許文献1】特開2006−290676号公報
【特許文献2】特表平11−510781号公報
【特許文献3】特開2005−247681号公報
【特許文献4】特開平9−268096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1〜4で用いる接着剤、保護層およびサセプタ(台座)の放熱性が悪い場合には、下地基板に熱が蓄積される。下地基板に熱が蓄積されると、下地基板との熱膨張率の違い等から下地基板の裏面から、接着剤、保護層およびサセプタが剥離しやすくなり、下地基板の裏面が窒化アルミニウム結晶の成長雰囲気に曝されてしまう場合がある。この場合には、下地基板の温度が高いので下地基板の昇華が著しく進行し、下地基板上に成長した窒化アルミニウム結晶に穴があいてしまう場合がある。
【0010】
また、下地基板の昇華を抑制するために、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低くすることが考えられる。しかし、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低くすると、窒化アルミニウム多結晶原料と下地基板との温度勾配が小さくなるので、下地基板上に成長させる窒化アルミニウム結晶の成長速度が遅いという問題がある。
【0011】
したがって、本発明は、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に下地基板が昇華されることを防止することにより、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を成長させるとともに、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上できる、窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の窒化アルミニウム結晶の成長方法は、以下の工程を備えている。まず、主表面とこの主表面と反対側の裏面とを有する下地基板と、裏面に形成された第1の層と、第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板が準備される。そして、下地基板の主表面上に窒化アルミニウム結晶が気相成長法により成長される。第1の層は、窒化アルミニウム結晶の成長温度において下地基板よりも昇華しにくい材質よりなる。第2の層は、第1の層の熱伝導率よりも高い材質よりなる。
【0013】
本発明の窒化アルミニウム結晶の成長方法によれば、第1の層は下地基板よりも昇華しにくい材質よりなるので、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、下地基板から第1の層が剥がれる、または第1の層から下地基板が露出するように第1の層が消失することを防止できる。このため、下地基板が窒化アルミニウム結晶を成長させる雰囲気に曝されることを防止できる。
【0014】
さらに、第2の層は第1の層よりも熱伝導率が高い材質よりなるので、第2の層は第1の層よりも放熱性が高い。このため、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、第2の層は、下地基板が受けた熱を下地基板の外部へ拡散できるので、下地基板を冷却する効果を有する。したがって、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できる。その結果、窒化アルミニウム結晶を成長させるための装置内において温度の低い領域に位置するサセプタと、下地基板との温度勾配を小さくすることができるため、下地基板の昇華を抑制することができる。
【0015】
また、積層基板は、下地基板の冷却効果を高める第2の層を備えているので、窒化アルミニウム結晶の原料の加熱温度を高く設定できる。このため、この原料と下地基板との温度勾配を大きくすることができるので、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上できる。
【0016】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、窒化アルミニウム結晶の成長は、積層基板をサセプタに載置された状態で行なわれ、第2の層は、サセプタの熱伝導率よりも高い材質よりなる。
【0017】
第2の層はサセプタの熱伝導率よりも高い材質よりなるため、第2の層はサセプタよりも放熱性が高い。このため、下地基板に熱が蓄積されることをより抑制でき、かつ下地基板とサセプタとの温度勾配をより小さくすることができる。よって、下地基板の昇華をより抑制できる。
【0018】
また、窒化アルミニウム結晶の原料の加熱温度をより高く設定できるので、窒化アルミニウム結晶の成長速度をより向上できる。
【0019】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記準備する工程は、下地基板の裏面上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を配置し、混合物上に第2の層を配置する工程と、第1の層にするために混合物を焼結する工程とを含んでいる。
【0020】
これにより、金属材料を物理蒸着等により下地基板と台座との間に挟み、結晶成長面側から加圧部材を用いて大きな圧力で、かつ高い温度で加熱圧着している上記特許文献3と異なり、加圧部材等を用いずに、あるいは加圧部材を用いる場合であっても小さな圧力、低い温度で、第1の層を形成できる。このため、窒化アルミニウム結晶の成長面に汚れが発生することを防止できる、窒化アルミニウム結晶の成長面と加圧部材との反応を防止できる、窒化アルミニウム結晶の成長面にダメージ層が発生することを防止できるなど、良好な結晶性の窒化アルミニウム結晶を成長することができる。また、加圧部材を用いないので、簡略化して第1の層を形成することができる。このため、第1の層を介して下地基板と第2の層とを一体化できる積層基板が容易に得られる。
【0021】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、下地基板は窒化アルミニウム基板であり、上記粉末が窒化アルミニウム単結晶である。
【0022】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、下地基板は窒化アルミニウム基板であり、上記粉末が、窒化アルミニウム多結晶、窒化アルミニウムセラミックスおよび窒化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれた一種以上の粉末である。
【0023】
これにより、上記混合物は下地基板と同一の元素を含むので、混合物を焼結すると、下地基板との密着性を向上した第1の層を形成できる。このため、下地基板と第1の層とを強固に固着できるので、下地基板から第1の層が剥がれることを効果的に防止できる。
【0024】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記粉末が、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ホウ化タンタル、ホウ化ニオブ、ホウ化モリブデンおよびホウ化クロムよりなる群から選ばれた一種以上の粉末である。
【0025】
上記ホウ化物は高融点であるので、耐熱性の高い第1の層を形成できる。このため、特に高温で窒化アルミニウム結晶を成長させる場合に、第1の層により下地基板が昇華することを効果的に防止できる。
【0026】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、下地基板は炭化珪素基板であり、粉末は炭素元素を含んでいる。
【0027】
これにより、上記混合物は下地基板と同一の元素を含むので、混合物を焼結すると、下地基板との密着性を向上した第1の層を形成できる。このため、下地基板と第1の層とを強固に固着できるので、下地基板から第1の層が剥がれることを効果的に防止できる。
【0028】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記溶剤は、有機物、樹脂および芳香族アルコールが混合されてなる。
【0029】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記溶剤は、アセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂が混合されてなる。
【0030】
これにより、この溶剤と粉末とを混合した混合物をペースト状にできるので、下地基板に混合物を接触させやすい。このため、下地基板の裏面に混合物を均一に接触させることができるので、下地基板の裏面全体を保護できる第1の層を容易に形成できる。
【0031】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、第2の層は、炭素元素を含んでいる。また、上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、第2の層は、窒化アルミニウムを含んでいる。
【0032】
これにより、気相成長法が昇華法である場合に、不活性ガス雰囲気中では第2の層が約3000℃の耐熱性を有するなど、第2の層の耐熱性を向上できる。
【0033】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、第2の層の厚さが10μm以上10cm以下である。
【0034】
10μm以上の場合、第2の層の放熱効果を高めることができる。10cm以下の場合、第2の層が第1の層から剥離することを防止できる。
【0035】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板の熱膨張率と、第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下で、かつ下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下である。
【0036】
これにより、下地基板の熱膨張率と第1の層の熱膨張率との差、および下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差を小さくすることができる。このため、窒化アルミニウム結晶の成長開始のために昇温する際、および窒化アルミニウム結晶の成長終了後に室温まで冷却する際に、下地基板から第1および第2の層が剥がれることを抑制できる。
【0037】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記準備する工程は、下地基板の裏面上に蒸着法により金属皮膜を形成する工程をさらに含んでいる。
【0038】
金属皮膜は放熱性が非常に高く、かつ下地基板との界面での熱抵抗が低いため、下地基板の放熱効果を非常に向上できる。また、窒化アルミニウム結晶を成長させた後に、酸性溶液によるエッチングを行なうことによって、窒化アルミニウム結晶から少なくとも第1の層を容易に除去できる。
【0039】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、金属皮膜の厚さは、1μm以上200μm以下である。
【0040】
1μm以上の場合、金属皮膜の放熱効果を高めることができる。200μm以下の場合、金属皮膜が下地基板から剥離することを防止できる。
【0041】
上記窒化アルミニウム結晶において好ましくは、金属皮膜は、タングステン(W)、タンタル(Ta)およびモリブデン(Mo)よりなる群から選ばれた一種以上よりなる。
【0042】
上記材料は、放熱性が非常に高く、かつ下地基板との界面での熱抵抗が非常に低いため、下地基板の放熱効果を効果的に向上できる。
【0043】
本発明の窒化アルミニウム結晶の製造方法は、上記いずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法により窒化アルミニウム結晶を成長する工程と、少なくとも第1の層を除去する工程とを備えている。
【0044】
本発明の窒化アルミニウム結晶の製造方法によれば、第2の層により下地基板に熱が蓄積されることを防止することによって、下地基板の昇華を抑制できる。このため、窒化アルミニウムに穴が発生することを抑制できるので、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を製造することができる。また、成長速度を向上して窒化アルミニウム結晶を成長できるので、効率的に窒化アルミニウム結晶を製造できる。
【0045】
本発明の窒化アルミニウム結晶は、上記いずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法により製造される。
【0046】
本発明の窒化アルミニウム結晶によれば、第2の層により下地基板が昇華されることを防止して、窒化アルミニウム結晶が成長される。このため、窒化アルミニウム結晶の結晶性が良好である。
【発明の効果】
【0047】
本発明の窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶によれば、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に下地基板が昇華されることを防止することにより、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を成長させるとともに、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。図1を参照して本実施の形態における窒化アルミニウム結晶および製造方法について説明する。
【0049】
図2は、本実施の形態における下地基板11を示す概略側面図である。図1および図2に示すように、まず、主表面11aと、主表面11aと反対側の裏面11bとを有する下地基板11を準備する(ステップS1)。準備する下地基板11は、特に限定されないが、結晶性の良好な窒化アルミニウムを成長させる観点から、窒化アルミニウム基板および炭化珪素基板であることが好ましい。
【0050】
下地基板11の厚さは、たとえば100μm以上5mm以下であることが好ましい。この範囲の厚さを有していると、下地基板11内の温度勾配が大きくなりすぎないためである。
【0051】
図3は、本実施の形態における第1の層12を形成した状態を示す概略側面図である。図1および図3に示すように、下地基板11の裏面11bを覆うように第1の層12を形成する(ステップS2)。この第1の層12は、窒化アルミニウム結晶20の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる。第1の層12は、下地基板11を保護するため、および、下地基板11と第2の層13とを接合するために形成されている。
【0052】
第1の層12の厚さH12は、200μmを超えて10mm以下であり、210μm以上10mm以下が好ましく、500μm以上5mm以下がより好ましい。厚さHが200μmを超えている場合、窒化アルミニウム結晶を成長させる際(図5参照)に、下地基板11から第1の層12が剥がれる、または第1の層12から下地基板11が露出するように第1の層12が消失することを防止することができる。このため、高温で長時間の窒化アルミニウム結晶の成長に耐え得る第1の層12を形成できる。210μm以上の場合、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、第1の層12の剥がれおよび消失を効果的に防止できる。500μm以上の場合、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、第1の層12の剥がれおよび消失をより一層防止できる。一方、下地基板よりも昇華しにくい材質よりなる第1の層12の厚さH12が10mm以下の場合、窒化アルミニウム結晶の成長に用いる装置に、第1の層12が形成された積層基板10(図4参照)を容易に配置できるので、取り扱いが容易である。5mm以下の場合、下地基板11と第1の層12とを備えた状態での取り扱いがより容易である。
【0053】
第1の層12は、窒化アルミニウム結晶20の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる。ここで、窒化アルミニウム結晶20の成長温度とは、たとえば1700℃〜2000℃である。下地基板11よりも昇華しにくい材質とは、たとえば下地基板11よりも融点が同じまたは高い材質である。
【0054】
具体的には、第1の層12は、以下の工程が実施されることが好ましい。まず、粉末と溶剤とを混合して、混合物を形成する。そして、下地基板11の裏面11b上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を接触させて、この混合物を焼結することにより、混合物が硬化して、下地基板11の裏面11bを覆うように第1の層12が形成される。
【0055】
混合物を裏面11b上に接触させる方法としては、裏面11b上に混合物を塗布してもよく、貯留されている混合物に浸漬させてもよい。
【0056】
また、混合物を焼結する際には、下地基板11の裏面11b上に配置された混合物をその上方から圧力を加えずに、焼結することが好ましい。この場合、圧力を加えるための加圧部材を用いないので、成長させる窒化アルミニウム結晶成長面の汚れを防止できる、成長させる窒化アルミニウム結晶成長面と加圧部材との反応を防止できる、成長させる窒化アルミニウム結晶の成長面にダメージ層が発生することを防止できるなど、良好な結晶性の窒化アルミニウム結晶を成長できる。
【0057】
なお、混合物の上に第2の層13(図4参照)を配置し、第2の層13上に加圧部材を配置してもよい。この場合には、加圧部材を構成する材料がシリコン(Si)などであることが好ましく、また、加圧部材で加圧する圧力は10g/cm2〜1000g/cm2であることが好ましい。
【0058】
また、混合物を焼結する際には、たとえば下地基板11の裏面11bに混合物を接触させた状態で加熱炉に投入することにより第1の層12を形成できる。なお、混合物を焼結させる際の雰囲気は特に限定されず、大気中で行なってもよいが、下地基板と混合物との間の隙間の空気を脱胞できるので、真空加熱炉を用いることが好ましい。混合物を焼結させる温度は、たとえば200℃〜500℃である。
【0059】
室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板11の熱膨張率と、第1の層12の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下であることが好ましい。下地基板11の熱膨張率と第1の層12の熱膨張率との差が小さいので、窒化アルミニウム結晶の成長開始のために昇温する際、および窒化アルミニウム結晶の成長終了後に室温まで冷却する際に、熱膨張率の差による応力を低減できる。したがって、下地基板11から第1の層12が剥がれることを抑制できるので、成長させる窒化アルミニウム結晶に穴が発生することを抑制することができる。なお、下地基板11の熱膨張率と、第1の層12の熱膨張率との差の絶対値は小さいほど好ましく、差が0であってもよい。また、窒化アルミニウム結晶の成長の際の温度分布は、室温から2300℃以下の範囲で行なわれる。室温は、たとえば20℃程度である。
【0060】
粉末は、下地基板11を構成する材料の元素を含んでいることが好ましい。具体的には、下地基板11が窒化アルミニウム基板である場合には、この粉末は、窒化アルミニウム単結晶、窒化アルミニウム多結晶、窒化アルミニウムセラミックスおよび窒化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれた一種以上の粉末であることが好ましい。下地基板11が炭化珪素基板である場合には、粉末は炭素元素を含むことが好ましい。この場合には、粉末は下地基板11と同一の元素を含むので、この粉末と溶剤とを混合した混合物を焼結すると、下地基板11との隙間を減らして下地基板との密着性を向上した第1の層12を形成できる。このため、下地基板11と第1の層12とを強固に固着できるので、下地基板11から第1の層12が剥がれることを効果的に防止できる。また、窒化アルミニウム結晶を長時間成長させる場合に、不純物の混入を防止できる。
【0061】
また、粉末は、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ホウ化タンタル、ホウ化ニオブ、ホウ化モリブデンおよびホウ化クロムよりなる群から選ばれた一種以上の粉末であってもよい。これらのホウ化物は高融点であるので、耐熱性の高い第1の層12を形成できる。このため、特に高温で窒化アルミニウム結晶(図5参照)を成長させる場合に、第1の層12により下地基板11が昇華することをより防止できる。
【0062】
また、粉末の粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。100μm以下の場合、下地基板11と緻密かつ強固に接触する第1の層12を形成できる。下地基板11との接触面積が大きいため、下地基板11が受けた熱を第2の層13まで伝達しやすくし、下地基板11に熱が蓄積されることをより抑制できる。10μm以下の場合、下地基板11とより緻密かつ強固に接触する第1の層12を形成できる。一方、0.5μm以上の場合、溶剤と混合した際に、沈殿、分離などが発生せず、均一に混合物を作成することができる。
【0063】
溶剤は、有機物、樹脂および芳香族アルコールが混合されてなることが好ましい。有機物としては、たとえばアセトン、イソプロピルアルコール、ホルマリン(ホルムアルデヒド)などを用いることができる。樹脂としては、たとえばポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを用いることができる。芳香族アルコールとしては、たとえばフリフリルアルコール、シンナミルアルコールなどを用いることができる。この溶剤と粉末とを混合した混合物をペースト状にできるので、下地基板に混合物を接触させやすい。このため、下地基板11の裏面11bに混合物を均一に接触させることができるので、下地基板11の裏面11b全体を保護できる第1の層12を容易に形成できる。
【0064】
特に、アセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂が混合されてなる溶剤を用いることが好ましい。この場合、簡易性および量産性に優れているため、コストを低減できる。
【0065】
図4は、本実施の形態における第2の層13を形成した状態を示す概略側面図である。図1および図4に示すように、第1の層12の裏面12bを覆うように第2の層13を形成する(ステップS3)。第2の層13は、下地基板11が受けた熱を下地基板11の外部へ拡散するために形成されている。
【0066】
第2の層13の厚さH13は、10μm以上10cm以下が好ましく、50μm以上10cm以下がより好ましく、100μm以上5cm以下がより一層好ましい。厚さH13が10μm以上の場合、第2の層13により下地基板11から熱を拡散する冷却効果が高くなる。50μm以上の場合、第2の層13により下地基板11から熱を拡散する冷却効果がより高くなる。100μm以上の場合、第2の層13の有する下地基板11の冷却効果がより一層高くなる。一方、10cm以下の場合、第2の層13が第1の層12から剥がれることを防止できる。5cm以下の場合、第2の層13が第1の層12から剥がれることをより防止できる。
【0067】
第2の層13は、第1の層12の熱伝導率よりも高い材質よりなり、サセプタ116(図6参照)の熱伝導率よりも高い材質よりなることが好ましい。第2の層13は、炭素元素および窒化アルミニウム元素の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。この場合、気相成長法が昇華法である場合に、不活性ガス雰囲気中では第2の層13が約3000℃の耐熱性を有するなど、第2の層13の耐熱性を向上できる。下地基板11が炭化珪素基板である場合には、第2の層13は炭素元素を含んでいることが好ましく、カーボン基板であることが好ましい。下地基板11が窒化アルミニウム基板である場合には、第2の層13は窒化アルミニウム元素を含んでいることが好ましく、窒化アルミニウムセラミックス基板であることがより好ましい。
【0068】
室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板11の熱膨張率と、第2の層13の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下であることが好ましい。下地基板11の熱膨張率と第2の層13の熱膨張率との差が小さいので、窒化アルミニウム結晶の成長開始のために昇温する際、および窒化アルミニウム結晶の成長終了後に室温まで冷却する際に、熱膨張率の差による応力を低減できる。したがって、下地基板11から第2の層13が剥がれることを抑制できるので、成長させる窒化アルミニウム結晶に穴が発生することを抑制することができる。なお、下地基板11の熱膨張率と、第2の層13の熱膨張率との差の絶対値は小さいほど好ましく、差が0であってもよい。
【0069】
また、室温以上2300℃以下の温度範囲において、第1の層12の熱膨張率と、第2の層13の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下であることが好ましい。この場合、第2の層13が第1の層12から剥がれることを抑制することができる。
【0070】
以上より、下地基板11と、下地基板11の裏面11bに形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備えた積層基板10を準備することができる。
【0071】
なお、上記では、下地基板11の裏面11bに第1の層12を形成し、その後に第2の層13を形成する方法を例に挙げて説明したが、これらを形成する順序は特にこれに限定されない。たとえば、第1の層12となるべき混合物を下地基板11の裏面11b上に配置し、この混合物上に第2の層13を配置する。その後、第1の層12にするために混合物を焼結する。このように、第1の層12を介して、下地基板11の裏面11b上に第2の層13を形成してもよい。この場合、第1の層12により下地基板11と第2の層13とを容易に接合できるので、下地基板11と第1の層12と第2の層13とを容易に一体化できる。
【0072】
図5は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20を成長させた状態を示す概略側面図である。図1および図5に示すように、下地基板11の裏面11bが第1の層12および第2の層13で覆われた状態で、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶20を気相成長法により成長する(ステップS4)。
【0073】
窒化アルミニウム結晶20の成長方法は、気相成長法であれば特に限定されず、たとえば昇華法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相堆積)法などを採用できる。特に、窒化アルミニウム結晶20の結晶成長に適している観点から、昇華法により窒化アルミニウム結晶20を成長することが好ましい。
【0074】
図6は、本実施の形態における昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させるための装置を示す概略図である。図6に示すように、この縦型の装置における反応容器122の中央部には、通気口115cを有する坩堝115が設けられ、坩堝115の上部には、積層基板10を載置するためのサセプタ116が設けられている。サセプタ116は、坩堝115の一部を構成している。坩堝115の内部から外部への通気を確保するように、坩堝115の周りに加熱体119が設けられている。また、反応容器122の外側中央部には、加熱体119を加熱するための高周波加熱コイル123が設けられている。さらに、反応容器122の端部には、反応容器122の坩堝115の外部に窒素(N2)ガスを流すための窒素ガス導入口122aおよび窒素ガス排出口122bと、坩堝115の下面および上面の温度を測定するための放射温度計121a、121bが設けられている。
【0075】
本実施の形態では、上記装置を用いて、昇華法により窒化アルミニウム結晶20を以下のようにして成長させる。まず、坩堝115の下部に原料17を配置し、坩堝115の上部のサセプタ116に積層基板10を配置する。その後、反応容器122内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて加熱体119を加熱することにより坩堝115内の温度を上昇させて、坩堝115の原料17側の温度を、それ以外の部分の温度よりも高く保持する。これにより、原料17を昇華させて、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶を固化(再結晶化)させて、窒化アルミニウム結晶20を成長させる。
【0076】
ここで、窒化アルミニウム結晶の成長中は、坩堝115の原料17側の温度はたとえば1600℃〜2300℃とし、坩堝115の上部の下地基板11の主表面11aの温度をたとえば原料17側の温度より10℃〜200℃低くすることにより、結晶性のよい窒化アルミニウム結晶が得られる。また、下地基板11の温度を原料17の温度よりも50℃〜200℃低くすることにより、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上することができる。
【0077】
また、結晶成長中も反応容器122内の坩堝115の外側に窒素ガスを、100sccm〜1slmになるように流し続けることにより、窒化アルミニウム結晶への不純物の混入を低減することができる。
【0078】
なお、坩堝115内部の昇温中は、坩堝115の原料17側の温度よりもそれ以外の部分の温度を高くすることにより、坩堝115内部の不純物を通気口115cを通じて除去することができる。このため、成長する窒化アルミニウム結晶20へ不純物が混入することをより低減することができる。
【0079】
以上のステップS1〜S4により、窒化アルミニウム結晶20を成長することができる。この窒化アルミニウム結晶20を用いて窒化アルミニウム結晶21(図7参照)を製造する場合には、さらに以下の工程が実施される。
【0080】
図7は、本実施の形態における少なくとも第1の層12を除去した状態を示す概略側面図である。次に、図1および図7に示すように、積層基板10および窒化アルミニウム結晶20から、少なくとも第1の層12を除去する(ステップS5)。下地基板11が窒化アルミニウムと異なる材料である異種基板である場合には、図7に示すように、下地基板11および第1の層12を除去している。下地基板11が窒化アルミニウム基板である場合には、図7に示すように下地基板11および第1の層12を除去してもよく、また第1の層12のみを除去してもよい。
【0081】
除去する方法は特に限定されず、たとえば切断、研削、へき開など機械的な除去方法を用いることができる。切断とは、電着ダイヤモンドホイールの外周刃を持つスライサーなどで機械的に窒化アルミニウム結晶20から少なくとも下地基板11を除去することをいう。研削とは、砥石を回転させながら表面に接触させて、厚さ方向に削り取ることをいう。へき開とは、結晶格子面に沿って窒化アルミニウム結晶20を分割することをいう。なお、エッチングなど化学的な除去方法を用いてもよい。
【0082】
以上のステップS1〜S5を実施することにより、窒化アルミニウム結晶21を製造することができる。このように製造される窒化アルミニウム結晶21は、たとえば5mm以上の径または一辺が5mm以上の四角形である平面形状を有し、かつ1mm以上の厚さを有する。そのため、窒化アルミニウム結晶21はデバイスの基板に好適に用いられる。
【0083】
なお、1mm以上の厚さを有する窒化アルミニウム結晶20を成長させる場合には、窒化アルミニウム結晶20、21から複数の窒化アルミニウム結晶基板を切り出すことができる。窒化アルミニウム結晶20、21は単結晶からなるので、容易に分割される。この場合には、窒化アルミニウム結晶基板は結晶性が良好で、コストを低減できる。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20の成長方法および窒化アルミニウム結晶21の製造方法は、下地基板11と、裏面11bに形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備え、第1の層12は、窒化アルミニウム結晶の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる積層基板10を用いている。
【0085】
本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20の成長方法および窒化アルミニウム結晶21の製造方法によれば、第2の層13は第1の層12よりも熱伝導率が高い材質よりなるので、第2の層13は第1の層12よりも放熱性が高い。このため、窒化アルミニウム結晶20を成長させる際に、第2の層13は下地基板11が受けた熱を拡散できるので、下地基板11を冷却する効果を有する。したがって、下地基板11に熱が蓄積されることを抑制できるので、窒化アルミニウム結晶20を成長させるための装置内において相対的に温度の低い領域に位置するサセプタ116と、下地基板11との温度勾配を小さくすることができる。
【0086】
また、第1の層12は下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなるので、窒化アルミニウム結晶20を成長させる際に、下地基板11から第1の層12が剥がれる、または第1の層12から下地基板11が露出するように第1の層12が消失することを防止できる。このため、下地基板11が窒化アルミニウム結晶20を成長させる雰囲気に曝されることを防止できる。
【0087】
このように、第2の層13によって、下地基板11に熱が蓄積されることを抑制でき、第1の層12によって、下地基板11が窒化アルミニウム結晶20を成長させる雰囲気に曝されることを抑制できる。この相乗効果により、下地基板11の昇華を抑制することができる。したがって、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶20を成長させることができる。その結果、この窒化アルミニウム結晶20を用いて製造された窒化アルミニウム結晶21の結晶性を向上できる。
【0088】
仮に、下地基板11とサセプタ116との間に隙間ができた場合であっても、下地基板11よりも昇華しにくい第1の層12が形成されているので、下地基板11の構成元素が、第1の層12を通過して下地基板11からサセプタ116へ拡散することを防止できる。また仮に、下地基板11から第1の層12および第2の層13の一部が剥離した場合であっても、第2の層13から下地基板11が受ける熱を逃がすことができる。このため、下地基板11とサセプタ116との温度勾配を従来よりも小さくできるので、下地基板11の昇華を抑制できる。なお、仮に第1および第2の層12、13が剥離する場合であっても、従来の第1および第2の層12、13が形成されていない下地基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させる場合よりも、積層基板10を用いて窒化アルミニウム結晶20を成長させる場合の方が、窒化アルミニウム結晶20を成長させるステップS4の後期段階で、第1および第2の層12、13の一部が剥離する。このため、従来よりも下地基板11の昇華のタイミングを遅らすことができるため、下地基板11を貫通する穴が発生することを抑制できる。
【0089】
また、積層基板10は、下地基板11の冷却効果を高める第2の層13を備えているので、窒化アルミニウム結晶20の原料17の加熱温度を高く設定しても下地基板11の昇華を抑制できる。このため、この原料17と下地基板11との温度勾配を大きくすることができるので、窒化アルミニウム結晶20の成長速度を向上できる。
【0090】
上記窒化アルミニウム結晶20の成長方法および窒化アルミニウム結晶21の製造方法において、積層基板10を準備する工程(ステップS1〜S3)は、下地基板11の裏面11b上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を配置し、混合物上に第2の層13を配置する工程と、第1の層12にするために混合物を焼結する工程とを含むことが好ましい。
【0091】
これにより、加圧部材等を用いずに、あるいは加圧部材を用いる場合であっても小さな圧力、低い温度で、第2の層13を下地基板11と一体化できるため、簡略化した方法で積層基板10を形成することができる。このため、第1の層12を介して下地基板11と第2の層13とを一体化できる積層基板10が容易に得られる。また、窒化アルミニウム結晶20の成長面に汚れが発生することを防止でき、窒化アルミニウム結晶20の成長面と加圧部材との反応を防止でき、窒化アルミニウム結晶20の成長面にダメージ層が発生することを防止できるなど、良好な結晶性の窒化アルミニウム結晶20を成長することができる。さらに、第1の層12を介して下地基板11と第2の層13とを強固に接合することができる。
【0092】
このように、得られる窒化アルミニウム結晶20、21の結晶性は良好であるので、たとえば発光ダイオード、レーザダイオードなどの光デバイス、ショットキーバリアダイオード、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)などの電子デバイス、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAW(Surface Acoustic Wave Device:表面弾性波素子)デバイス、振動子、共振子、発振器、MEMS部品、圧電アクチュエータなどに好適に用いることができる。
【0093】
(実施の形態2)
図8は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。図8に示すように、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法は、基本的には実施の形態1と同様であるが、金属皮膜を備えた積層基板を準備する点(金属皮膜を形成するステップS6をさらに備えている点)において異なる。
【0094】
図9は、本実施の形態における積層基板10を示す概略側面図である。図8および図9に示すように、まず、実施の形態1と同様に、下地基板11を準備する(ステップS1)。
【0095】
次に、下地基板11の裏面11bに蒸着法により金属皮膜14を形成する(ステップS2)。金属皮膜14の厚さH14は、1μm以上800μm以下であることが好ましく、1μm以上200μm以下であることがより好ましい。1μm以上の場合、金属皮膜14の放熱効果を高めることができるので、下地基板11に熱が蓄積されることを防止できる。800μm以下の場合、金属皮膜14が下地基板11から剥離することを防止できる。200μm以下の場合、金属皮膜14が下地基板11から剥離することを効果的に防止できる。
【0096】
また、金属皮膜14は、タングステン、タンタルおよびモリブデンよりなる群から選ばれた一種以上よりなることが好ましい。
【0097】
次に、金属皮膜の裏面14b(下地基板11と接触する主表面14aと反対側の表面)に、実施の形態1と同様に第1の層12を形成する(ステップS2)。第1の層12が混合物を焼結させることにより形成される場合には、金属皮膜14に混合物を接触させる。
【0098】
次に、実施の形態1と同様に、第1の層12の裏面12bに第2の層13を形成する。これにより、下地基板11と、金属皮膜14と、第1の層12と、第2の層13とを備えた積層基板10を準備できる。
【0099】
図10は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20を成長させた状態を示す概略側面図である。図8および図10に示すように、実施の形態1と同様に、下地基板11の裏面11bが金属皮膜14、第1の層12および第2の層13で覆われた状態で、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶20を気相成長法により成長する(ステップS4)。
【0100】
図11は、本実施の形態における積層基板10を用いて昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させる状態を示す模式図である。図11に示すように、積層基板10が金属皮膜14を備えている場合であっても、実施の形態1と同様に、この積層基板10をサセプタ116に載置する。
【0101】
図12は、本実施の形態における少なくとも第1の層12を除去した状態を示す概略側面図である。次に、図8および図12に示すように、積層基板10および窒化アルミニウム結晶20から、少なくとも第1の層12を除去する(ステップS5)。
【0102】
金属皮膜14は酸性溶液によりエッチングされるので、エッチングにより金属皮膜14を下地基板11から除去することにより、第1の層12を下地基板11から除去することが好ましい。
【0103】
なお、これ以外の窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法は、実施の形態1における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法の構成と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0104】
以上説明したように、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法は、下地基板11と、裏面11bに形成された金属皮膜14と、金属皮膜14に形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備えた積層基板10を用いている。
【0105】
本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法によれば、金属皮膜14の熱伝導率が非常に高いことから、金属皮膜14の放熱性が非常に高く、かつ金属皮膜14と下地基板11との界面での熱抵抗が低い。このため、金属皮膜14を形成することにより、下地基板11に蓄積された熱を放熱する効果を非常に向上できる。
【0106】
また、蒸着法により金属皮膜14を形成できるので、上述した特許文献3の加圧部材を用いるときの問題も生じない。
【0107】
さらに、窒化アルミニウム結晶を成長させた後に、酸性溶液によるエッチングを行なうことによって、窒化アルミニウム結晶20から少なくとも第1の層12を容易に除去できる。
【実施例1】
【0108】
本実施例では、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによる効果について調べた。具体的には、下地基板の裏面側に種々の厚さの第1および第2の層を形成した積層基板を用いて、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0109】
詳細には、まず、下地基板として、10mmの直径と、500μmの厚さとを有し、昇華法により作製された窒化アルミニウム単結晶基板を準備した(ステップS1)。この窒化アルミニウム単結晶基板のオフ角は0.3°以下であり、主表面を鏡面仕上げし、裏面をラップ仕上げした。
【0110】
次に、窒化アルミニウム単結晶よりなり、1μmの粒径を有する粉末を準備した。またアセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂からなる溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤を混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物を形成した。
【0111】
また、窒化アルミニウムセラミックスよりなり、下記の表1に記載の厚さを有する第2の層を準備した。なお、窒化アルミニウムセラミックスの熱伝導率は300W/(m・K)であり、下地基板の熱伝導率は400W/(m・K)である。
【0112】
次に、この下地基板の裏面上に上記混合物を均一に塗布し、この混合物上に第2の層を配置した。この状態で、真空加熱炉を用いて、混合物中の空気を脱泡しながら加熱し、かつ下地基板と第2の層に荷重を加えて、混合物を第1の層にするとともに、下地基板と第1の層と第2の層とを固着した。なお、第1の層の熱伝導率は150W/(m・K)であった。第1の層の厚みは下記の表1の通りであった。これにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された第1の層と、第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0113】
なお、加熱炉の温度を400℃、昇温時間が30分、保持時間が4時間、冷却時間を1時間の合計5時間30分の加熱時間にした。また、加えた荷重は、400℃の温度で4.9kPaの大きさであった。
【0114】
次に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。この窒化アルミニウム結晶を成長させるステップS3では、図6に示すように、反応容器122内の坩堝115の上部に積層基板10を載置し、坩堝115の下部に原料17として窒化アルミニウム多結晶を収容した。なお、サセプタ116の材料はカーボンであり、その熱伝導率は100W/(cm・K)であった。
【0115】
次に、反応容器122内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて坩堝115内の温度を上昇させ、下地基板11の温度を2000℃、原料17の温度を2100℃にして原料17を昇華させ、下地基板11の主表面上で再結晶化させて、成長時間を500時間として、下地基板11上に窒化アルミニウム結晶を50mmの厚さになるように成長させた。
【0116】
なお、窒化アルミニウム結晶の成長中においては、反応容器122内に窒素ガスを流し続け、反応容器122内のガス分圧が10kPa〜100kPa程度になるように、窒素ガス排気量を制御した。
【0117】
このように成長させた窒化アルミニウム結晶について、穴が発生していたか否かを光学顕微鏡、SEMおよび目視により調べた。また、下地基板から第1および第2の層が剥離したか否かを光学顕微鏡、SEMおよび目視により調べた。その結果を下記の表1に記載する。表1において「○」は下地基板から第1および第2の層が剥離しなかったことを意味し、「X1」は下地基板から第1の層の一部が剥離したことを意味し、「X2」は第1の層から第2の層の一部が剥離したことを意味する。
【0118】
【表1】
【0119】
(測定結果)
第1の層よりも高い熱伝導率を有する第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。このことから、第2の層により下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたことがわかった。
【0120】
特に表1に示すように、第1の層の厚さが0.05mm以上10.0mm以下で、第2の層の厚さが0.05cm以上10.0cm以下の積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長した場合に、下地基板から第1の層が剥がれること、および第1の層から第2の層が剥がれることを防止できたため、下地基板が昇華することを防止できた。
【0121】
なお、第1の層の厚さが11.0mm、および第2の層の厚さが11.0cmの少なくともいずれかの場合には、第1の層の下地基板からの剥がれ、および第2の層の第1の層からの剥がれの少なくともいずれかが生じた。しかし、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたため、下地基板の一部が昇華して、下地基板の裏面に凹凸は生じたものの、下地基板に貫通する穴が発生しなかった。また、窒化アルミニウム結晶を成長させた初期段階では下地基板の昇華を防止でき、下地基板の裏面の昇華の進行を遅らすことができた。このため、成長させた窒化アルミニウムにも穴が発生しなかった。
【0122】
以上より、本実施例によれば、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによって、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できるので、下地基板の昇華を抑制でき、その上に成長させる窒化アルミニウム結晶に穴があくことを抑制できることが確認できた。
【実施例2】
【0123】
本実施例では、第1の層が粉末と溶剤とを混合した混合物を焼結してなる場合の効果について調べた。具体的には、種々の粒径の粉末を用いて第1の層を形成して、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0124】
詳細には、まず、実施例1と同様の下地基板を準備した(ステップS1)。次に、0.5μm、1.0μm、5.0μm、10μm、20μm、50μm、100μm、110μm、150μmおよび200μmの粒径を有する粉末をそれぞれ準備した。また実施例1と同様の溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤をそれぞれ混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物をそれぞれ形成した。
【0125】
また、窒化アルミニウムセラミックスよりなり、1cmの厚さを有する、実施例1と同様の第2の層を準備した。
【0126】
次に、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された10mmの厚さを有する第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0127】
次に、実施例1と同様に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。
【0128】
なお、準備した積層基板により、下地基板11の温度と原料17の温度とを適宜変更した。具体的には、0.5μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いた積層基板については、下地基板11の温度を2100℃にし、かつ原料17の温度を2200℃にした。
【0129】
実施例1と同様に、このように成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離していたか否か、および第1の層から第2の層が剥離していたか否かを調べた。その結果を表2に記載する。なお、表2中、「○」、「X2」については、実施例1の表1と同様の意味である。
【0130】
また、原料17の温度と下地基板11の温度とを上記のように設定することにより、窒化アルミニウム結晶の成長速度を測定した。その結果を表2に記載する。
【0131】
【表2】
【0132】
(測定結果)
第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0133】
特に表2に示すように、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、下地基板の受けた熱を外部へ拡散できたので、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を高く設定できた。このため、窒化アルミニウム結晶に穴がなくことなく、50μm/h以上の大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を成長させることができた。また、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できた。
【0134】
20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板よりも窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低い温度に設定する必要があったため、成長速度が少し小さくなったものの、下地基板から第1および第2の層が剥離することを防止できた。
【0135】
110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板を用いた場合の窒化アルミニウム多結晶原料の設定温度と同様であった。また、110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、第1の層から第2の層が剥離したため、下地基板の裏面に凹凸が形成されていたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0136】
以上より、本実施例によれば、粉末と溶媒とを焼結してなる第1の層を備えている場合には、粉末が0.5μm以上10μm以下の粒径を有していることにより、下地基板の熱の蓄積をより抑制できることが確認できた。
【実施例3】
【0137】
本実施例では、実施例1と同様に、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによる効果について調べた。
【0138】
詳細には、まず、下地基板として、50mmの直径を有し、400μmの厚さを有する炭化珪素単結晶基板を準備した(ステップS1)。この炭化珪素単結晶基板の結晶方位(0002)に対するオフ角は3°であり、主表面を鏡面仕上げし、裏面をラップ仕上げした。
【0139】
次に、10μmの粒径を有し、純度が99.99%の炭素を粉末として準備した。またアセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂からなる溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤を混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物を形成した。
【0140】
また、下記の表1に記載の厚さを有するカーボン基板を第2の層として準備した。なお、カーボン基板の熱伝導率は、200W/(m・K)であり、下地基板の熱伝導率は400W/(m・K)である。
【0141】
次に、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。なお、第1の層の熱伝導率は実施例1と同様の150W/(m・K)であり、第1の層の厚みは下記の表3の通りであった。なお、本実施例では、加熱炉の温度を350℃、昇温時間が30分、保持時間が3時間、冷却時間を1時間の合計4時間30分の加熱時間にした。
【0142】
次に、実施例1と同様に、昇華法により、図6に示す結晶成長装置を用いて、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。本実施例では、下地基板11の温度を1700℃、原料17の温度を1900℃にして原料17を昇華させ、下地基板11の主表面上で再結晶化させて、成長時間を500時間として、下地基板11上に窒化アルミニウム結晶を25mmの厚さになるように成長させた。なお、窒化アルミニウム結晶の成長中の条件は実施例1と同様にした。
【0143】
このように成長させた窒化アルミニウム結晶について、穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層が剥離していたか否か、第1の層から第2の層が剥離していたか否かを実施例1と同様に調べた。その結果を下記の表3に記載する。表3において「○」、「X1」および「X2」は、実施例1の表1と同様の意味である。
【0144】
【表3】
【0145】
(測定結果)
第1の層よりも高い熱伝導率を有する第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。このことから、第2の層により下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたことがわかった。
【0146】
特に表3に示すように、第1の層の厚さが0.05mm以上10.0mm以下で、第2の層の厚さが0.05cm以上10.0cm以下の積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長した場合に、下地基板から第1の層が剥がれること、および第1の層から第2の層が剥がれることを防止できたため、下地基板が昇華することを防止できた。
【0147】
なお、第1の層の厚さが11.0mm、および第2の層の厚さが11.0cmの少なくともいずれかの場合には、第1の層の下地基板からの剥がれ、および第2の層の第1の層からの剥がれの少なくともいずれかが生じた。しかし、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたため、下地基板の一部が昇華して、下地基板の裏面に凹凸は生じたものの、下地基板に貫通する穴が発生しなかったため、成長させた窒化アルミニウムにも穴が発生しなかった。
【0148】
以上より、本実施例によれば、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによって、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できるので、下地基板の昇華を抑制でき、その上に成長させる窒化アルミニウム結晶に穴があくことを抑制できることが確認できた。また、下地基板が炭化珪素基板であり、第2の層が炭素元素を含む場合にも実施例1と同様の効果を有することが確認できた。
【実施例4】
【0149】
本実施例では、実施例2と同様に、第1の層が粉末と溶剤とを混合した混合物を焼結してなる場合の効果について調べた。
【0150】
詳細には、まず、実施例3と同様の下地基板を準備した(ステップS1)。次に、0.5μm、1.0μm、5.0μm、10μm、20μm、50μm、100μm、110μm、150μmおよび200μmの粒径を有する粉末をそれぞれ準備した。また実施例3と同様の溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤をそれぞれ混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物をそれぞれ形成した。また、実施例3と同様の第2の層を準備した。
【0151】
次に、実施例3と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された10mmの厚さを有する第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0152】
次に、実施例3と同様に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。なお、積層基板により、下地基板11の温度と原料17の温度とを適宜変更した。具体的には、0.5μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いた積層基板については、下地基板11の温度を1800℃にし、かつ原料17の温度を2000℃にした。
【0153】
実施例1と同様に、このように成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離していたか否か、および第1の層から第2の層が剥離していたか否かを調べた。その結果を表4に記載する。なお、表4中、「○」、「X2」については、実施例1の表1と同様の意味である。
【0154】
【表4】
【0155】
(測定結果)
第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0156】
特に表4に示すように、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、下地基板の受けた熱を下地基板の外部へ拡散できたので、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を高く設定できた。このため、窒化アルミニウム結晶に穴があくことなく、50μm/h以上の高い成長速度で窒化アルミニウム結晶を成長させることができた。また、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できた。
【0157】
20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板よりも窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低い温度に設定する必要があったため、成長速度が少し小さくなったものの、下地基板から第1および第2の層が剥離することを防止できた。
【0158】
110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板を用いた場合の窒化アルミニウム多結晶原料の設定温度と同様であった。また、110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、第1の層から第2の層が剥離したため、下地基板の裏面に凹凸が形成されていたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0159】
以上より、本実施例によれば、粉末と溶媒とを焼結してなる第1の層を備えている場合には、粉末が0.5μm以上10μm以下の粒径を有していると、下地基板の熱の蓄積をより抑制できることが確認できた。
【実施例5】
【0160】
本実施例では、下地基板に対する第1の層および第2の層の熱膨張率の違いによる剥離抑制の効果について調べた。具体的には種々の熱膨張率を有する第1および第2の層を形成して、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0161】
詳細には、まず、実施例3と同様の下地基板を準備した。下地基板の2000℃での熱膨張率は、7.0×10-6℃-1であった。次に、室温以上2300℃以下の温度範囲において、第1の層の熱膨張率と下地基板の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-6℃-1未満から1.1×10-5℃-1の範囲となる混合物層を下地基板の裏面側に形成した。また、室温以上2300℃以下の温度範囲において、第2の層の熱膨張率と下地基板の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-6℃-1未満から1.1×10-5℃-1の範囲の範囲となる第2の層をカーボン板を準備した。
【0162】
次に、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0163】
次に、実施例1と同様に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。
【0164】
成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離したか否か、および第1の層から第2の層が剥離したか否かを調べた。測定方法は、実施例1と基本的には同様であったが、超音波探傷測定器をさらに用いた点において異なっていた。その結果を下記の表5に記載する。なお、表5中、「○」、「X1」については、実施例1の表1と同様の意味である。
【0165】
【表5】
【0166】
(測定結果)
表5に示すように、下地基板の熱膨張率と第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5/℃以下で、かつ下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5/℃以下の場合には、下地基板と第1の層、第1の層と第2の層との間に剥離が発生せず、成長した窒化アルミニウム結晶にも穴が発生しなかった。このことから、第1および第2の層の熱膨張率を下地基板の熱膨張率に近づけることで、その後の冷却の際に熱膨張率の違いから発生する剥離を抑制することができた。
【0167】
なお、下地基板の熱膨張率と第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.1×10-5/℃、および下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.1×10-5/℃の少なくとも一方の場合には、第1の層の下地基板からの剥がれが生じた。しかし、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたため、下地基板の一部が昇華して、下地基板の裏面に凹凸は生じたものの、下地基板に貫通する穴が発生しなかった。また、窒化アルミニウム結晶を成長させた初期段階では下地基板の昇華を防止でき、下地基板の裏面の昇華の進行を遅らすことができた。このため、成長させた窒化アルミニウムにも穴が発生しなかった。
【0168】
以上より、本実施例によれば、室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板の熱膨張率と、第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下で、かつ下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下にすることにより、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できることが確認できた。
【実施例6】
【0169】
本実施例では、金属皮膜をさらに備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることの効果について調べた。具体的には、種々の厚さのチタン膜を下地基板の裏面側に形成して、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0170】
詳細には、まず、実施例1と同様の下地基板を準備した(ステップS1)。次に、1μm、10μm、50μm、100μm、200μm、500μm、800μmおよび1000μmの厚さを有する金属皮膜を蒸着法により形成した。
【0171】
次に、1μm、10μm、50μm、100μm、200μm、500μm、800μmおよび1000μmの粒径を有する粉末をそれぞれ準備した。また実施例1と同様の溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤をそれぞれ混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物をそれぞれ形成した。
【0172】
また、窒化アルミニウムセラミックスよりなり、1.0cmの厚さを有する第2の層を準備した。
【0173】
次に、金属皮膜の上に混合物を接触させ、この混合物上に第2の層を配置して、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された金属皮膜と、金属皮膜に形成された10mmの厚さを有する第1の層と、第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。なお、第1の層、第2の層、下地基板およびサセプタの熱伝導率は、実施例1と同様であった。
【0174】
次に、実施例1と同様に、図11に示すように、結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。
【0175】
実施例1と同様に、このように成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離していたか否か、および第1の層から第2の層が剥離していたか否かを調べた。その結果を表6に記載する。
【0176】
【表6】
【0177】
(測定結果)
金属皮膜および第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0178】
特に表6に示すように、金属皮膜の厚さが1μm〜200μmの厚さを有する金属皮膜を備えた積層基板は、金属皮膜および第2の層により下地基板の受けた熱を外部へ拡散できたので、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できた。
【0179】
500μm〜800μmの厚さを有する金属皮膜を備えた積層基板は、下地基板から金属皮膜が部分的に剥離した。しかし、金属皮膜および第2の層による下地基板に蓄積される熱を抑制できたので、下地基板の一部が昇華したことにより裏面に凹凸ができたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0180】
また、1000μmの厚さを有する金属皮膜を備えた積層基板は、下地基板から金属皮膜が剥離したものの、成長させた窒化アルミニウム結晶大半を終了した時点であったため、下地基板に凹凸ができたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0181】
以上より、本実施例によれば、金属皮膜を備えた積層基板を用いることによって、下地基板の昇華を抑制できることが確認できた。また、金属皮膜は1μm以上200μm以下の厚さを有していることが下地基板の保護には効果的であることが確認できた。
【実施例7】
【0182】
本実施例では、基本的には実施例6と同様であったが、モリブデンよりなる金属皮膜を形成した点においてのみ、実施例6と異なる。この結果を下記の表7に示す。
【0183】
【表7】
【0184】
金属皮膜および第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0185】
また、金属皮膜がチタンよりなる実施例6と同様に、モリブデンよりなる金属皮膜を備えた積層基板を用いた場合にも、1μm以上200μm以下の厚さを有している場合に、より効果的に下地基板を保護できることが確認できた。
【実施例8】
【0186】
本実施例では、基本的には実施例6と同様であったが、タングステンよりなる金属皮膜を形成した点においてのみ、実施例6と異なる。この結果を下記の表8に示す。
【0187】
【表8】
【0188】
表8に示すように、金属皮膜および第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0189】
また、金属皮膜がチタンよりなる実施例6および金属皮膜がモリブデンよりなる実施例7と同様に、タングステンよりなる金属皮膜を備えた積層基板を用いた場合にも、1μm以上200μm以下の厚さを有している場合に、より効果的に下地基板を保護できることが確認できた。
【0190】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】本発明の実施の形態1における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態1における下地基板を示す概略側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における第1の層を形成した状態を示す概略側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における第2の層を形成した状態を示す概略側面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における窒化アルミニウム結晶を成長させた状態を示す概略側面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させるための装置を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態1における少なくとも第1の層を除去した状態を示す概略側面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態2における積層基板を示す概略側面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における窒化アルミニウム結晶を成長させた状態を示す概略側面図である。
【図11】本発明の実施の形態2における積層基板を用いて昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させる状態を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態2における少なくとも第1の層を除去した状態を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0192】
10 積層基板、11 下地基板、11a,12a,14a 主表面、11b,12b,14b 裏面、12 第1の層、13 第2の層、14 金属皮膜、17 原料、20,21 窒化アルミニウム結晶、115 坩堝、115c 通気口、116 サセプタ、119 加熱体、121a,121b 放射温度計、122 反応容器、122a 窒素ガス導入口、122b 窒素ガス排出口、123 高周波加熱コイル、H 厚さ。
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)結晶は、6.2eVの広いエネルギバンドギャップ、約3.3WK-1cm-1の高い熱伝導率および高い電気抵抗を有しているため、光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス用の基板材料として注目されている。
【0003】
このような窒化アルミニウム結晶の成長方法には、たとえば気相成長法の昇華法が用いられる。昇華法による窒化アルミニウム結晶の成長は、たとえば以下の工程によって実施される。すなわち、成長室の下部に窒化アルミニウム多結晶原料が設置され、成長室の上部のサセプタに下地基板が窒化アルミニウム多結晶原料と互いに向かい合うよう設置される。そして、窒化アルミニウム多結晶原料が昇華する温度まで窒化アルミニウム多結晶原料が加熱される。この加熱により、窒化アルミニウム多結晶原料が昇華して昇華ガスが生成され、窒化アルミニウム多結晶原料よりも低温に設置されている下地基板の表面に窒化アルミニウム単結晶が成長する。
【0004】
このように、下地基板と窒化アルミニウム多結晶原料との間には下地基板から窒化アルミニウム多結晶原料に向けて温度が低くなる温度勾配(温度差)がある。このため、下地基板とサセプタとの間にも下地基板からサセプタに向けて温度が低くなる温度勾配があり、かつ下地基板内にも窒化アルミニウム多結晶原料と対向する面からサセプタと対向する面に向けて温度が低くなる温度勾配がある。下地基板とサセプタとの間に隙間ができると、窒化アルミニウム結晶の成長雰囲気に下地基板の裏面が曝されてしまうので、上記の温度勾配により、下地基板を構成する元素が昇華して、下地基板からサセプタへ、または下地基板内において高温部から低温部へ、再結晶化してしまう。この昇華および再結晶化が進行すると、下地基板を貫通する穴が発生する。さらに昇華が進行すると、下地基板上に成長した窒化アルミニウム結晶の構成元素が下地基板、サセプタなどの低温部へ輸送される場合がある。この結果、下地基板の表面上に成長した窒化アルミニウム結晶に、穴が発生する場合がある。したがって、下地基板の昇華を防止して、下地基板の穴の発生を抑制することが課題となっている。
【0005】
このような下地基板の昇華を防止するための技術として、たとえば、特開2006−290676号公報(特許文献1)には、下地基板とサセプタとをアルミナ系の高温用接着剤を用いて接着することが記載されている。この高温用接着剤は、1000℃以上の高温でも十分な強度を発揮することが記載されている。
【0006】
また特表平11−510781号公報(特許文献2)には、下地基板の裏面に金属および金属化合物からなる皮膜が形成されていることが記載されている。
【0007】
また特開2005−247681号公報(特許文献3)には、金属材料を黒鉛台座の上に配置し、その金属材料の上に下地基板を配置し、その下地基板の上に加圧部材を配置し、加圧部材で1700℃以上の高温で87.5kPa以下の高い圧力を加えて、黒鉛台座と金属材料と下地基板とを固定一体化している方法が記載されている。金属材料は、チタン、バナジウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの材料であることが記載されている。
【0008】
また特開平9−268096号公報(特許文献4)には、下地基板において単結晶が成長する面以外の表面を保護層で被覆していることが記載されている。保護層は、タンタル、タングステン、ニオブ、モリブデン、レニウム、オスミウム、イリジウムおよびこれらの炭化物、ホウ化物、窒化物から選ばれる少なくとも1種よりなることが記載されている。さらに、この保護層と台座とを接着剤を用いて固定されていることが開示されている。
【特許文献1】特開2006−290676号公報
【特許文献2】特表平11−510781号公報
【特許文献3】特開2005−247681号公報
【特許文献4】特開平9−268096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1〜4で用いる接着剤、保護層およびサセプタ(台座)の放熱性が悪い場合には、下地基板に熱が蓄積される。下地基板に熱が蓄積されると、下地基板との熱膨張率の違い等から下地基板の裏面から、接着剤、保護層およびサセプタが剥離しやすくなり、下地基板の裏面が窒化アルミニウム結晶の成長雰囲気に曝されてしまう場合がある。この場合には、下地基板の温度が高いので下地基板の昇華が著しく進行し、下地基板上に成長した窒化アルミニウム結晶に穴があいてしまう場合がある。
【0010】
また、下地基板の昇華を抑制するために、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低くすることが考えられる。しかし、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低くすると、窒化アルミニウム多結晶原料と下地基板との温度勾配が小さくなるので、下地基板上に成長させる窒化アルミニウム結晶の成長速度が遅いという問題がある。
【0011】
したがって、本発明は、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に下地基板が昇華されることを防止することにより、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を成長させるとともに、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上できる、窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の窒化アルミニウム結晶の成長方法は、以下の工程を備えている。まず、主表面とこの主表面と反対側の裏面とを有する下地基板と、裏面に形成された第1の層と、第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板が準備される。そして、下地基板の主表面上に窒化アルミニウム結晶が気相成長法により成長される。第1の層は、窒化アルミニウム結晶の成長温度において下地基板よりも昇華しにくい材質よりなる。第2の層は、第1の層の熱伝導率よりも高い材質よりなる。
【0013】
本発明の窒化アルミニウム結晶の成長方法によれば、第1の層は下地基板よりも昇華しにくい材質よりなるので、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、下地基板から第1の層が剥がれる、または第1の層から下地基板が露出するように第1の層が消失することを防止できる。このため、下地基板が窒化アルミニウム結晶を成長させる雰囲気に曝されることを防止できる。
【0014】
さらに、第2の層は第1の層よりも熱伝導率が高い材質よりなるので、第2の層は第1の層よりも放熱性が高い。このため、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、第2の層は、下地基板が受けた熱を下地基板の外部へ拡散できるので、下地基板を冷却する効果を有する。したがって、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できる。その結果、窒化アルミニウム結晶を成長させるための装置内において温度の低い領域に位置するサセプタと、下地基板との温度勾配を小さくすることができるため、下地基板の昇華を抑制することができる。
【0015】
また、積層基板は、下地基板の冷却効果を高める第2の層を備えているので、窒化アルミニウム結晶の原料の加熱温度を高く設定できる。このため、この原料と下地基板との温度勾配を大きくすることができるので、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上できる。
【0016】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、窒化アルミニウム結晶の成長は、積層基板をサセプタに載置された状態で行なわれ、第2の層は、サセプタの熱伝導率よりも高い材質よりなる。
【0017】
第2の層はサセプタの熱伝導率よりも高い材質よりなるため、第2の層はサセプタよりも放熱性が高い。このため、下地基板に熱が蓄積されることをより抑制でき、かつ下地基板とサセプタとの温度勾配をより小さくすることができる。よって、下地基板の昇華をより抑制できる。
【0018】
また、窒化アルミニウム結晶の原料の加熱温度をより高く設定できるので、窒化アルミニウム結晶の成長速度をより向上できる。
【0019】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記準備する工程は、下地基板の裏面上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を配置し、混合物上に第2の層を配置する工程と、第1の層にするために混合物を焼結する工程とを含んでいる。
【0020】
これにより、金属材料を物理蒸着等により下地基板と台座との間に挟み、結晶成長面側から加圧部材を用いて大きな圧力で、かつ高い温度で加熱圧着している上記特許文献3と異なり、加圧部材等を用いずに、あるいは加圧部材を用いる場合であっても小さな圧力、低い温度で、第1の層を形成できる。このため、窒化アルミニウム結晶の成長面に汚れが発生することを防止できる、窒化アルミニウム結晶の成長面と加圧部材との反応を防止できる、窒化アルミニウム結晶の成長面にダメージ層が発生することを防止できるなど、良好な結晶性の窒化アルミニウム結晶を成長することができる。また、加圧部材を用いないので、簡略化して第1の層を形成することができる。このため、第1の層を介して下地基板と第2の層とを一体化できる積層基板が容易に得られる。
【0021】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、下地基板は窒化アルミニウム基板であり、上記粉末が窒化アルミニウム単結晶である。
【0022】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、下地基板は窒化アルミニウム基板であり、上記粉末が、窒化アルミニウム多結晶、窒化アルミニウムセラミックスおよび窒化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれた一種以上の粉末である。
【0023】
これにより、上記混合物は下地基板と同一の元素を含むので、混合物を焼結すると、下地基板との密着性を向上した第1の層を形成できる。このため、下地基板と第1の層とを強固に固着できるので、下地基板から第1の層が剥がれることを効果的に防止できる。
【0024】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記粉末が、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ホウ化タンタル、ホウ化ニオブ、ホウ化モリブデンおよびホウ化クロムよりなる群から選ばれた一種以上の粉末である。
【0025】
上記ホウ化物は高融点であるので、耐熱性の高い第1の層を形成できる。このため、特に高温で窒化アルミニウム結晶を成長させる場合に、第1の層により下地基板が昇華することを効果的に防止できる。
【0026】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、下地基板は炭化珪素基板であり、粉末は炭素元素を含んでいる。
【0027】
これにより、上記混合物は下地基板と同一の元素を含むので、混合物を焼結すると、下地基板との密着性を向上した第1の層を形成できる。このため、下地基板と第1の層とを強固に固着できるので、下地基板から第1の層が剥がれることを効果的に防止できる。
【0028】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記溶剤は、有機物、樹脂および芳香族アルコールが混合されてなる。
【0029】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記溶剤は、アセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂が混合されてなる。
【0030】
これにより、この溶剤と粉末とを混合した混合物をペースト状にできるので、下地基板に混合物を接触させやすい。このため、下地基板の裏面に混合物を均一に接触させることができるので、下地基板の裏面全体を保護できる第1の層を容易に形成できる。
【0031】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、第2の層は、炭素元素を含んでいる。また、上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、第2の層は、窒化アルミニウムを含んでいる。
【0032】
これにより、気相成長法が昇華法である場合に、不活性ガス雰囲気中では第2の層が約3000℃の耐熱性を有するなど、第2の層の耐熱性を向上できる。
【0033】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、第2の層の厚さが10μm以上10cm以下である。
【0034】
10μm以上の場合、第2の層の放熱効果を高めることができる。10cm以下の場合、第2の層が第1の層から剥離することを防止できる。
【0035】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板の熱膨張率と、第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下で、かつ下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下である。
【0036】
これにより、下地基板の熱膨張率と第1の層の熱膨張率との差、および下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差を小さくすることができる。このため、窒化アルミニウム結晶の成長開始のために昇温する際、および窒化アルミニウム結晶の成長終了後に室温まで冷却する際に、下地基板から第1および第2の層が剥がれることを抑制できる。
【0037】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、上記準備する工程は、下地基板の裏面上に蒸着法により金属皮膜を形成する工程をさらに含んでいる。
【0038】
金属皮膜は放熱性が非常に高く、かつ下地基板との界面での熱抵抗が低いため、下地基板の放熱効果を非常に向上できる。また、窒化アルミニウム結晶を成長させた後に、酸性溶液によるエッチングを行なうことによって、窒化アルミニウム結晶から少なくとも第1の層を容易に除去できる。
【0039】
上記窒化アルミニウム結晶の成長方法において好ましくは、金属皮膜の厚さは、1μm以上200μm以下である。
【0040】
1μm以上の場合、金属皮膜の放熱効果を高めることができる。200μm以下の場合、金属皮膜が下地基板から剥離することを防止できる。
【0041】
上記窒化アルミニウム結晶において好ましくは、金属皮膜は、タングステン(W)、タンタル(Ta)およびモリブデン(Mo)よりなる群から選ばれた一種以上よりなる。
【0042】
上記材料は、放熱性が非常に高く、かつ下地基板との界面での熱抵抗が非常に低いため、下地基板の放熱効果を効果的に向上できる。
【0043】
本発明の窒化アルミニウム結晶の製造方法は、上記いずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法により窒化アルミニウム結晶を成長する工程と、少なくとも第1の層を除去する工程とを備えている。
【0044】
本発明の窒化アルミニウム結晶の製造方法によれば、第2の層により下地基板に熱が蓄積されることを防止することによって、下地基板の昇華を抑制できる。このため、窒化アルミニウムに穴が発生することを抑制できるので、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を製造することができる。また、成長速度を向上して窒化アルミニウム結晶を成長できるので、効率的に窒化アルミニウム結晶を製造できる。
【0045】
本発明の窒化アルミニウム結晶は、上記いずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法により製造される。
【0046】
本発明の窒化アルミニウム結晶によれば、第2の層により下地基板が昇華されることを防止して、窒化アルミニウム結晶が成長される。このため、窒化アルミニウム結晶の結晶性が良好である。
【発明の効果】
【0047】
本発明の窒化アルミニウム結晶の成長方法、窒化アルミニウム結晶の製造方法および窒化アルミニウム結晶によれば、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に下地基板が昇華されることを防止することにより、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶を成長させるとともに、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。図1を参照して本実施の形態における窒化アルミニウム結晶および製造方法について説明する。
【0049】
図2は、本実施の形態における下地基板11を示す概略側面図である。図1および図2に示すように、まず、主表面11aと、主表面11aと反対側の裏面11bとを有する下地基板11を準備する(ステップS1)。準備する下地基板11は、特に限定されないが、結晶性の良好な窒化アルミニウムを成長させる観点から、窒化アルミニウム基板および炭化珪素基板であることが好ましい。
【0050】
下地基板11の厚さは、たとえば100μm以上5mm以下であることが好ましい。この範囲の厚さを有していると、下地基板11内の温度勾配が大きくなりすぎないためである。
【0051】
図3は、本実施の形態における第1の層12を形成した状態を示す概略側面図である。図1および図3に示すように、下地基板11の裏面11bを覆うように第1の層12を形成する(ステップS2)。この第1の層12は、窒化アルミニウム結晶20の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる。第1の層12は、下地基板11を保護するため、および、下地基板11と第2の層13とを接合するために形成されている。
【0052】
第1の層12の厚さH12は、200μmを超えて10mm以下であり、210μm以上10mm以下が好ましく、500μm以上5mm以下がより好ましい。厚さHが200μmを超えている場合、窒化アルミニウム結晶を成長させる際(図5参照)に、下地基板11から第1の層12が剥がれる、または第1の層12から下地基板11が露出するように第1の層12が消失することを防止することができる。このため、高温で長時間の窒化アルミニウム結晶の成長に耐え得る第1の層12を形成できる。210μm以上の場合、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、第1の層12の剥がれおよび消失を効果的に防止できる。500μm以上の場合、窒化アルミニウム結晶を成長させる際に、第1の層12の剥がれおよび消失をより一層防止できる。一方、下地基板よりも昇華しにくい材質よりなる第1の層12の厚さH12が10mm以下の場合、窒化アルミニウム結晶の成長に用いる装置に、第1の層12が形成された積層基板10(図4参照)を容易に配置できるので、取り扱いが容易である。5mm以下の場合、下地基板11と第1の層12とを備えた状態での取り扱いがより容易である。
【0053】
第1の層12は、窒化アルミニウム結晶20の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる。ここで、窒化アルミニウム結晶20の成長温度とは、たとえば1700℃〜2000℃である。下地基板11よりも昇華しにくい材質とは、たとえば下地基板11よりも融点が同じまたは高い材質である。
【0054】
具体的には、第1の層12は、以下の工程が実施されることが好ましい。まず、粉末と溶剤とを混合して、混合物を形成する。そして、下地基板11の裏面11b上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を接触させて、この混合物を焼結することにより、混合物が硬化して、下地基板11の裏面11bを覆うように第1の層12が形成される。
【0055】
混合物を裏面11b上に接触させる方法としては、裏面11b上に混合物を塗布してもよく、貯留されている混合物に浸漬させてもよい。
【0056】
また、混合物を焼結する際には、下地基板11の裏面11b上に配置された混合物をその上方から圧力を加えずに、焼結することが好ましい。この場合、圧力を加えるための加圧部材を用いないので、成長させる窒化アルミニウム結晶成長面の汚れを防止できる、成長させる窒化アルミニウム結晶成長面と加圧部材との反応を防止できる、成長させる窒化アルミニウム結晶の成長面にダメージ層が発生することを防止できるなど、良好な結晶性の窒化アルミニウム結晶を成長できる。
【0057】
なお、混合物の上に第2の層13(図4参照)を配置し、第2の層13上に加圧部材を配置してもよい。この場合には、加圧部材を構成する材料がシリコン(Si)などであることが好ましく、また、加圧部材で加圧する圧力は10g/cm2〜1000g/cm2であることが好ましい。
【0058】
また、混合物を焼結する際には、たとえば下地基板11の裏面11bに混合物を接触させた状態で加熱炉に投入することにより第1の層12を形成できる。なお、混合物を焼結させる際の雰囲気は特に限定されず、大気中で行なってもよいが、下地基板と混合物との間の隙間の空気を脱胞できるので、真空加熱炉を用いることが好ましい。混合物を焼結させる温度は、たとえば200℃〜500℃である。
【0059】
室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板11の熱膨張率と、第1の層12の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下であることが好ましい。下地基板11の熱膨張率と第1の層12の熱膨張率との差が小さいので、窒化アルミニウム結晶の成長開始のために昇温する際、および窒化アルミニウム結晶の成長終了後に室温まで冷却する際に、熱膨張率の差による応力を低減できる。したがって、下地基板11から第1の層12が剥がれることを抑制できるので、成長させる窒化アルミニウム結晶に穴が発生することを抑制することができる。なお、下地基板11の熱膨張率と、第1の層12の熱膨張率との差の絶対値は小さいほど好ましく、差が0であってもよい。また、窒化アルミニウム結晶の成長の際の温度分布は、室温から2300℃以下の範囲で行なわれる。室温は、たとえば20℃程度である。
【0060】
粉末は、下地基板11を構成する材料の元素を含んでいることが好ましい。具体的には、下地基板11が窒化アルミニウム基板である場合には、この粉末は、窒化アルミニウム単結晶、窒化アルミニウム多結晶、窒化アルミニウムセラミックスおよび窒化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれた一種以上の粉末であることが好ましい。下地基板11が炭化珪素基板である場合には、粉末は炭素元素を含むことが好ましい。この場合には、粉末は下地基板11と同一の元素を含むので、この粉末と溶剤とを混合した混合物を焼結すると、下地基板11との隙間を減らして下地基板との密着性を向上した第1の層12を形成できる。このため、下地基板11と第1の層12とを強固に固着できるので、下地基板11から第1の層12が剥がれることを効果的に防止できる。また、窒化アルミニウム結晶を長時間成長させる場合に、不純物の混入を防止できる。
【0061】
また、粉末は、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ホウ化タンタル、ホウ化ニオブ、ホウ化モリブデンおよびホウ化クロムよりなる群から選ばれた一種以上の粉末であってもよい。これらのホウ化物は高融点であるので、耐熱性の高い第1の層12を形成できる。このため、特に高温で窒化アルミニウム結晶(図5参照)を成長させる場合に、第1の層12により下地基板11が昇華することをより防止できる。
【0062】
また、粉末の粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。100μm以下の場合、下地基板11と緻密かつ強固に接触する第1の層12を形成できる。下地基板11との接触面積が大きいため、下地基板11が受けた熱を第2の層13まで伝達しやすくし、下地基板11に熱が蓄積されることをより抑制できる。10μm以下の場合、下地基板11とより緻密かつ強固に接触する第1の層12を形成できる。一方、0.5μm以上の場合、溶剤と混合した際に、沈殿、分離などが発生せず、均一に混合物を作成することができる。
【0063】
溶剤は、有機物、樹脂および芳香族アルコールが混合されてなることが好ましい。有機物としては、たとえばアセトン、イソプロピルアルコール、ホルマリン(ホルムアルデヒド)などを用いることができる。樹脂としては、たとえばポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを用いることができる。芳香族アルコールとしては、たとえばフリフリルアルコール、シンナミルアルコールなどを用いることができる。この溶剤と粉末とを混合した混合物をペースト状にできるので、下地基板に混合物を接触させやすい。このため、下地基板11の裏面11bに混合物を均一に接触させることができるので、下地基板11の裏面11b全体を保護できる第1の層12を容易に形成できる。
【0064】
特に、アセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂が混合されてなる溶剤を用いることが好ましい。この場合、簡易性および量産性に優れているため、コストを低減できる。
【0065】
図4は、本実施の形態における第2の層13を形成した状態を示す概略側面図である。図1および図4に示すように、第1の層12の裏面12bを覆うように第2の層13を形成する(ステップS3)。第2の層13は、下地基板11が受けた熱を下地基板11の外部へ拡散するために形成されている。
【0066】
第2の層13の厚さH13は、10μm以上10cm以下が好ましく、50μm以上10cm以下がより好ましく、100μm以上5cm以下がより一層好ましい。厚さH13が10μm以上の場合、第2の層13により下地基板11から熱を拡散する冷却効果が高くなる。50μm以上の場合、第2の層13により下地基板11から熱を拡散する冷却効果がより高くなる。100μm以上の場合、第2の層13の有する下地基板11の冷却効果がより一層高くなる。一方、10cm以下の場合、第2の層13が第1の層12から剥がれることを防止できる。5cm以下の場合、第2の層13が第1の層12から剥がれることをより防止できる。
【0067】
第2の層13は、第1の層12の熱伝導率よりも高い材質よりなり、サセプタ116(図6参照)の熱伝導率よりも高い材質よりなることが好ましい。第2の層13は、炭素元素および窒化アルミニウム元素の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。この場合、気相成長法が昇華法である場合に、不活性ガス雰囲気中では第2の層13が約3000℃の耐熱性を有するなど、第2の層13の耐熱性を向上できる。下地基板11が炭化珪素基板である場合には、第2の層13は炭素元素を含んでいることが好ましく、カーボン基板であることが好ましい。下地基板11が窒化アルミニウム基板である場合には、第2の層13は窒化アルミニウム元素を含んでいることが好ましく、窒化アルミニウムセラミックス基板であることがより好ましい。
【0068】
室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板11の熱膨張率と、第2の層13の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下であることが好ましい。下地基板11の熱膨張率と第2の層13の熱膨張率との差が小さいので、窒化アルミニウム結晶の成長開始のために昇温する際、および窒化アルミニウム結晶の成長終了後に室温まで冷却する際に、熱膨張率の差による応力を低減できる。したがって、下地基板11から第2の層13が剥がれることを抑制できるので、成長させる窒化アルミニウム結晶に穴が発生することを抑制することができる。なお、下地基板11の熱膨張率と、第2の層13の熱膨張率との差の絶対値は小さいほど好ましく、差が0であってもよい。
【0069】
また、室温以上2300℃以下の温度範囲において、第1の層12の熱膨張率と、第2の層13の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下であることが好ましい。この場合、第2の層13が第1の層12から剥がれることを抑制することができる。
【0070】
以上より、下地基板11と、下地基板11の裏面11bに形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備えた積層基板10を準備することができる。
【0071】
なお、上記では、下地基板11の裏面11bに第1の層12を形成し、その後に第2の層13を形成する方法を例に挙げて説明したが、これらを形成する順序は特にこれに限定されない。たとえば、第1の層12となるべき混合物を下地基板11の裏面11b上に配置し、この混合物上に第2の層13を配置する。その後、第1の層12にするために混合物を焼結する。このように、第1の層12を介して、下地基板11の裏面11b上に第2の層13を形成してもよい。この場合、第1の層12により下地基板11と第2の層13とを容易に接合できるので、下地基板11と第1の層12と第2の層13とを容易に一体化できる。
【0072】
図5は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20を成長させた状態を示す概略側面図である。図1および図5に示すように、下地基板11の裏面11bが第1の層12および第2の層13で覆われた状態で、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶20を気相成長法により成長する(ステップS4)。
【0073】
窒化アルミニウム結晶20の成長方法は、気相成長法であれば特に限定されず、たとえば昇華法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相堆積)法などを採用できる。特に、窒化アルミニウム結晶20の結晶成長に適している観点から、昇華法により窒化アルミニウム結晶20を成長することが好ましい。
【0074】
図6は、本実施の形態における昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させるための装置を示す概略図である。図6に示すように、この縦型の装置における反応容器122の中央部には、通気口115cを有する坩堝115が設けられ、坩堝115の上部には、積層基板10を載置するためのサセプタ116が設けられている。サセプタ116は、坩堝115の一部を構成している。坩堝115の内部から外部への通気を確保するように、坩堝115の周りに加熱体119が設けられている。また、反応容器122の外側中央部には、加熱体119を加熱するための高周波加熱コイル123が設けられている。さらに、反応容器122の端部には、反応容器122の坩堝115の外部に窒素(N2)ガスを流すための窒素ガス導入口122aおよび窒素ガス排出口122bと、坩堝115の下面および上面の温度を測定するための放射温度計121a、121bが設けられている。
【0075】
本実施の形態では、上記装置を用いて、昇華法により窒化アルミニウム結晶20を以下のようにして成長させる。まず、坩堝115の下部に原料17を配置し、坩堝115の上部のサセプタ116に積層基板10を配置する。その後、反応容器122内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて加熱体119を加熱することにより坩堝115内の温度を上昇させて、坩堝115の原料17側の温度を、それ以外の部分の温度よりも高く保持する。これにより、原料17を昇華させて、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶を固化(再結晶化)させて、窒化アルミニウム結晶20を成長させる。
【0076】
ここで、窒化アルミニウム結晶の成長中は、坩堝115の原料17側の温度はたとえば1600℃〜2300℃とし、坩堝115の上部の下地基板11の主表面11aの温度をたとえば原料17側の温度より10℃〜200℃低くすることにより、結晶性のよい窒化アルミニウム結晶が得られる。また、下地基板11の温度を原料17の温度よりも50℃〜200℃低くすることにより、窒化アルミニウム結晶の成長速度を向上することができる。
【0077】
また、結晶成長中も反応容器122内の坩堝115の外側に窒素ガスを、100sccm〜1slmになるように流し続けることにより、窒化アルミニウム結晶への不純物の混入を低減することができる。
【0078】
なお、坩堝115内部の昇温中は、坩堝115の原料17側の温度よりもそれ以外の部分の温度を高くすることにより、坩堝115内部の不純物を通気口115cを通じて除去することができる。このため、成長する窒化アルミニウム結晶20へ不純物が混入することをより低減することができる。
【0079】
以上のステップS1〜S4により、窒化アルミニウム結晶20を成長することができる。この窒化アルミニウム結晶20を用いて窒化アルミニウム結晶21(図7参照)を製造する場合には、さらに以下の工程が実施される。
【0080】
図7は、本実施の形態における少なくとも第1の層12を除去した状態を示す概略側面図である。次に、図1および図7に示すように、積層基板10および窒化アルミニウム結晶20から、少なくとも第1の層12を除去する(ステップS5)。下地基板11が窒化アルミニウムと異なる材料である異種基板である場合には、図7に示すように、下地基板11および第1の層12を除去している。下地基板11が窒化アルミニウム基板である場合には、図7に示すように下地基板11および第1の層12を除去してもよく、また第1の層12のみを除去してもよい。
【0081】
除去する方法は特に限定されず、たとえば切断、研削、へき開など機械的な除去方法を用いることができる。切断とは、電着ダイヤモンドホイールの外周刃を持つスライサーなどで機械的に窒化アルミニウム結晶20から少なくとも下地基板11を除去することをいう。研削とは、砥石を回転させながら表面に接触させて、厚さ方向に削り取ることをいう。へき開とは、結晶格子面に沿って窒化アルミニウム結晶20を分割することをいう。なお、エッチングなど化学的な除去方法を用いてもよい。
【0082】
以上のステップS1〜S5を実施することにより、窒化アルミニウム結晶21を製造することができる。このように製造される窒化アルミニウム結晶21は、たとえば5mm以上の径または一辺が5mm以上の四角形である平面形状を有し、かつ1mm以上の厚さを有する。そのため、窒化アルミニウム結晶21はデバイスの基板に好適に用いられる。
【0083】
なお、1mm以上の厚さを有する窒化アルミニウム結晶20を成長させる場合には、窒化アルミニウム結晶20、21から複数の窒化アルミニウム結晶基板を切り出すことができる。窒化アルミニウム結晶20、21は単結晶からなるので、容易に分割される。この場合には、窒化アルミニウム結晶基板は結晶性が良好で、コストを低減できる。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20の成長方法および窒化アルミニウム結晶21の製造方法は、下地基板11と、裏面11bに形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備え、第1の層12は、窒化アルミニウム結晶の成長温度において下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなる積層基板10を用いている。
【0085】
本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20の成長方法および窒化アルミニウム結晶21の製造方法によれば、第2の層13は第1の層12よりも熱伝導率が高い材質よりなるので、第2の層13は第1の層12よりも放熱性が高い。このため、窒化アルミニウム結晶20を成長させる際に、第2の層13は下地基板11が受けた熱を拡散できるので、下地基板11を冷却する効果を有する。したがって、下地基板11に熱が蓄積されることを抑制できるので、窒化アルミニウム結晶20を成長させるための装置内において相対的に温度の低い領域に位置するサセプタ116と、下地基板11との温度勾配を小さくすることができる。
【0086】
また、第1の層12は下地基板11よりも昇華しにくい材質よりなるので、窒化アルミニウム結晶20を成長させる際に、下地基板11から第1の層12が剥がれる、または第1の層12から下地基板11が露出するように第1の層12が消失することを防止できる。このため、下地基板11が窒化アルミニウム結晶20を成長させる雰囲気に曝されることを防止できる。
【0087】
このように、第2の層13によって、下地基板11に熱が蓄積されることを抑制でき、第1の層12によって、下地基板11が窒化アルミニウム結晶20を成長させる雰囲気に曝されることを抑制できる。この相乗効果により、下地基板11の昇華を抑制することができる。したがって、結晶性の良好な窒化アルミニウム結晶20を成長させることができる。その結果、この窒化アルミニウム結晶20を用いて製造された窒化アルミニウム結晶21の結晶性を向上できる。
【0088】
仮に、下地基板11とサセプタ116との間に隙間ができた場合であっても、下地基板11よりも昇華しにくい第1の層12が形成されているので、下地基板11の構成元素が、第1の層12を通過して下地基板11からサセプタ116へ拡散することを防止できる。また仮に、下地基板11から第1の層12および第2の層13の一部が剥離した場合であっても、第2の層13から下地基板11が受ける熱を逃がすことができる。このため、下地基板11とサセプタ116との温度勾配を従来よりも小さくできるので、下地基板11の昇華を抑制できる。なお、仮に第1および第2の層12、13が剥離する場合であっても、従来の第1および第2の層12、13が形成されていない下地基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させる場合よりも、積層基板10を用いて窒化アルミニウム結晶20を成長させる場合の方が、窒化アルミニウム結晶20を成長させるステップS4の後期段階で、第1および第2の層12、13の一部が剥離する。このため、従来よりも下地基板11の昇華のタイミングを遅らすことができるため、下地基板11を貫通する穴が発生することを抑制できる。
【0089】
また、積層基板10は、下地基板11の冷却効果を高める第2の層13を備えているので、窒化アルミニウム結晶20の原料17の加熱温度を高く設定しても下地基板11の昇華を抑制できる。このため、この原料17と下地基板11との温度勾配を大きくすることができるので、窒化アルミニウム結晶20の成長速度を向上できる。
【0090】
上記窒化アルミニウム結晶20の成長方法および窒化アルミニウム結晶21の製造方法において、積層基板10を準備する工程(ステップS1〜S3)は、下地基板11の裏面11b上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を配置し、混合物上に第2の層13を配置する工程と、第1の層12にするために混合物を焼結する工程とを含むことが好ましい。
【0091】
これにより、加圧部材等を用いずに、あるいは加圧部材を用いる場合であっても小さな圧力、低い温度で、第2の層13を下地基板11と一体化できるため、簡略化した方法で積層基板10を形成することができる。このため、第1の層12を介して下地基板11と第2の層13とを一体化できる積層基板10が容易に得られる。また、窒化アルミニウム結晶20の成長面に汚れが発生することを防止でき、窒化アルミニウム結晶20の成長面と加圧部材との反応を防止でき、窒化アルミニウム結晶20の成長面にダメージ層が発生することを防止できるなど、良好な結晶性の窒化アルミニウム結晶20を成長することができる。さらに、第1の層12を介して下地基板11と第2の層13とを強固に接合することができる。
【0092】
このように、得られる窒化アルミニウム結晶20、21の結晶性は良好であるので、たとえば発光ダイオード、レーザダイオードなどの光デバイス、ショットキーバリアダイオード、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)などの電子デバイス、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAW(Surface Acoustic Wave Device:表面弾性波素子)デバイス、振動子、共振子、発振器、MEMS部品、圧電アクチュエータなどに好適に用いることができる。
【0093】
(実施の形態2)
図8は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。図8に示すように、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法は、基本的には実施の形態1と同様であるが、金属皮膜を備えた積層基板を準備する点(金属皮膜を形成するステップS6をさらに備えている点)において異なる。
【0094】
図9は、本実施の形態における積層基板10を示す概略側面図である。図8および図9に示すように、まず、実施の形態1と同様に、下地基板11を準備する(ステップS1)。
【0095】
次に、下地基板11の裏面11bに蒸着法により金属皮膜14を形成する(ステップS2)。金属皮膜14の厚さH14は、1μm以上800μm以下であることが好ましく、1μm以上200μm以下であることがより好ましい。1μm以上の場合、金属皮膜14の放熱効果を高めることができるので、下地基板11に熱が蓄積されることを防止できる。800μm以下の場合、金属皮膜14が下地基板11から剥離することを防止できる。200μm以下の場合、金属皮膜14が下地基板11から剥離することを効果的に防止できる。
【0096】
また、金属皮膜14は、タングステン、タンタルおよびモリブデンよりなる群から選ばれた一種以上よりなることが好ましい。
【0097】
次に、金属皮膜の裏面14b(下地基板11と接触する主表面14aと反対側の表面)に、実施の形態1と同様に第1の層12を形成する(ステップS2)。第1の層12が混合物を焼結させることにより形成される場合には、金属皮膜14に混合物を接触させる。
【0098】
次に、実施の形態1と同様に、第1の層12の裏面12bに第2の層13を形成する。これにより、下地基板11と、金属皮膜14と、第1の層12と、第2の層13とを備えた積層基板10を準備できる。
【0099】
図10は、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶20を成長させた状態を示す概略側面図である。図8および図10に示すように、実施の形態1と同様に、下地基板11の裏面11bが金属皮膜14、第1の層12および第2の層13で覆われた状態で、下地基板11の主表面11a上に窒化アルミニウム結晶20を気相成長法により成長する(ステップS4)。
【0100】
図11は、本実施の形態における積層基板10を用いて昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させる状態を示す模式図である。図11に示すように、積層基板10が金属皮膜14を備えている場合であっても、実施の形態1と同様に、この積層基板10をサセプタ116に載置する。
【0101】
図12は、本実施の形態における少なくとも第1の層12を除去した状態を示す概略側面図である。次に、図8および図12に示すように、積層基板10および窒化アルミニウム結晶20から、少なくとも第1の層12を除去する(ステップS5)。
【0102】
金属皮膜14は酸性溶液によりエッチングされるので、エッチングにより金属皮膜14を下地基板11から除去することにより、第1の層12を下地基板11から除去することが好ましい。
【0103】
なお、これ以外の窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法は、実施の形態1における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法の構成と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0104】
以上説明したように、本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法は、下地基板11と、裏面11bに形成された金属皮膜14と、金属皮膜14に形成された第1の層12と、第1の層12に形成された第2の層13とを備えた積層基板10を用いている。
【0105】
本実施の形態における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法によれば、金属皮膜14の熱伝導率が非常に高いことから、金属皮膜14の放熱性が非常に高く、かつ金属皮膜14と下地基板11との界面での熱抵抗が低い。このため、金属皮膜14を形成することにより、下地基板11に蓄積された熱を放熱する効果を非常に向上できる。
【0106】
また、蒸着法により金属皮膜14を形成できるので、上述した特許文献3の加圧部材を用いるときの問題も生じない。
【0107】
さらに、窒化アルミニウム結晶を成長させた後に、酸性溶液によるエッチングを行なうことによって、窒化アルミニウム結晶20から少なくとも第1の層12を容易に除去できる。
【実施例1】
【0108】
本実施例では、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによる効果について調べた。具体的には、下地基板の裏面側に種々の厚さの第1および第2の層を形成した積層基板を用いて、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0109】
詳細には、まず、下地基板として、10mmの直径と、500μmの厚さとを有し、昇華法により作製された窒化アルミニウム単結晶基板を準備した(ステップS1)。この窒化アルミニウム単結晶基板のオフ角は0.3°以下であり、主表面を鏡面仕上げし、裏面をラップ仕上げした。
【0110】
次に、窒化アルミニウム単結晶よりなり、1μmの粒径を有する粉末を準備した。またアセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂からなる溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤を混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物を形成した。
【0111】
また、窒化アルミニウムセラミックスよりなり、下記の表1に記載の厚さを有する第2の層を準備した。なお、窒化アルミニウムセラミックスの熱伝導率は300W/(m・K)であり、下地基板の熱伝導率は400W/(m・K)である。
【0112】
次に、この下地基板の裏面上に上記混合物を均一に塗布し、この混合物上に第2の層を配置した。この状態で、真空加熱炉を用いて、混合物中の空気を脱泡しながら加熱し、かつ下地基板と第2の層に荷重を加えて、混合物を第1の層にするとともに、下地基板と第1の層と第2の層とを固着した。なお、第1の層の熱伝導率は150W/(m・K)であった。第1の層の厚みは下記の表1の通りであった。これにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された第1の層と、第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0113】
なお、加熱炉の温度を400℃、昇温時間が30分、保持時間が4時間、冷却時間を1時間の合計5時間30分の加熱時間にした。また、加えた荷重は、400℃の温度で4.9kPaの大きさであった。
【0114】
次に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。この窒化アルミニウム結晶を成長させるステップS3では、図6に示すように、反応容器122内の坩堝115の上部に積層基板10を載置し、坩堝115の下部に原料17として窒化アルミニウム多結晶を収容した。なお、サセプタ116の材料はカーボンであり、その熱伝導率は100W/(cm・K)であった。
【0115】
次に、反応容器122内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて坩堝115内の温度を上昇させ、下地基板11の温度を2000℃、原料17の温度を2100℃にして原料17を昇華させ、下地基板11の主表面上で再結晶化させて、成長時間を500時間として、下地基板11上に窒化アルミニウム結晶を50mmの厚さになるように成長させた。
【0116】
なお、窒化アルミニウム結晶の成長中においては、反応容器122内に窒素ガスを流し続け、反応容器122内のガス分圧が10kPa〜100kPa程度になるように、窒素ガス排気量を制御した。
【0117】
このように成長させた窒化アルミニウム結晶について、穴が発生していたか否かを光学顕微鏡、SEMおよび目視により調べた。また、下地基板から第1および第2の層が剥離したか否かを光学顕微鏡、SEMおよび目視により調べた。その結果を下記の表1に記載する。表1において「○」は下地基板から第1および第2の層が剥離しなかったことを意味し、「X1」は下地基板から第1の層の一部が剥離したことを意味し、「X2」は第1の層から第2の層の一部が剥離したことを意味する。
【0118】
【表1】
【0119】
(測定結果)
第1の層よりも高い熱伝導率を有する第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。このことから、第2の層により下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたことがわかった。
【0120】
特に表1に示すように、第1の層の厚さが0.05mm以上10.0mm以下で、第2の層の厚さが0.05cm以上10.0cm以下の積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長した場合に、下地基板から第1の層が剥がれること、および第1の層から第2の層が剥がれることを防止できたため、下地基板が昇華することを防止できた。
【0121】
なお、第1の層の厚さが11.0mm、および第2の層の厚さが11.0cmの少なくともいずれかの場合には、第1の層の下地基板からの剥がれ、および第2の層の第1の層からの剥がれの少なくともいずれかが生じた。しかし、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたため、下地基板の一部が昇華して、下地基板の裏面に凹凸は生じたものの、下地基板に貫通する穴が発生しなかった。また、窒化アルミニウム結晶を成長させた初期段階では下地基板の昇華を防止でき、下地基板の裏面の昇華の進行を遅らすことができた。このため、成長させた窒化アルミニウムにも穴が発生しなかった。
【0122】
以上より、本実施例によれば、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによって、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できるので、下地基板の昇華を抑制でき、その上に成長させる窒化アルミニウム結晶に穴があくことを抑制できることが確認できた。
【実施例2】
【0123】
本実施例では、第1の層が粉末と溶剤とを混合した混合物を焼結してなる場合の効果について調べた。具体的には、種々の粒径の粉末を用いて第1の層を形成して、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0124】
詳細には、まず、実施例1と同様の下地基板を準備した(ステップS1)。次に、0.5μm、1.0μm、5.0μm、10μm、20μm、50μm、100μm、110μm、150μmおよび200μmの粒径を有する粉末をそれぞれ準備した。また実施例1と同様の溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤をそれぞれ混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物をそれぞれ形成した。
【0125】
また、窒化アルミニウムセラミックスよりなり、1cmの厚さを有する、実施例1と同様の第2の層を準備した。
【0126】
次に、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された10mmの厚さを有する第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0127】
次に、実施例1と同様に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。
【0128】
なお、準備した積層基板により、下地基板11の温度と原料17の温度とを適宜変更した。具体的には、0.5μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いた積層基板については、下地基板11の温度を2100℃にし、かつ原料17の温度を2200℃にした。
【0129】
実施例1と同様に、このように成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離していたか否か、および第1の層から第2の層が剥離していたか否かを調べた。その結果を表2に記載する。なお、表2中、「○」、「X2」については、実施例1の表1と同様の意味である。
【0130】
また、原料17の温度と下地基板11の温度とを上記のように設定することにより、窒化アルミニウム結晶の成長速度を測定した。その結果を表2に記載する。
【0131】
【表2】
【0132】
(測定結果)
第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0133】
特に表2に示すように、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、下地基板の受けた熱を外部へ拡散できたので、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を高く設定できた。このため、窒化アルミニウム結晶に穴がなくことなく、50μm/h以上の大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を成長させることができた。また、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できた。
【0134】
20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板よりも窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低い温度に設定する必要があったため、成長速度が少し小さくなったものの、下地基板から第1および第2の層が剥離することを防止できた。
【0135】
110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板を用いた場合の窒化アルミニウム多結晶原料の設定温度と同様であった。また、110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、第1の層から第2の層が剥離したため、下地基板の裏面に凹凸が形成されていたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0136】
以上より、本実施例によれば、粉末と溶媒とを焼結してなる第1の層を備えている場合には、粉末が0.5μm以上10μm以下の粒径を有していることにより、下地基板の熱の蓄積をより抑制できることが確認できた。
【実施例3】
【0137】
本実施例では、実施例1と同様に、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによる効果について調べた。
【0138】
詳細には、まず、下地基板として、50mmの直径を有し、400μmの厚さを有する炭化珪素単結晶基板を準備した(ステップS1)。この炭化珪素単結晶基板の結晶方位(0002)に対するオフ角は3°であり、主表面を鏡面仕上げし、裏面をラップ仕上げした。
【0139】
次に、10μmの粒径を有し、純度が99.99%の炭素を粉末として準備した。またアセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂からなる溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤を混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物を形成した。
【0140】
また、下記の表1に記載の厚さを有するカーボン基板を第2の層として準備した。なお、カーボン基板の熱伝導率は、200W/(m・K)であり、下地基板の熱伝導率は400W/(m・K)である。
【0141】
次に、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。なお、第1の層の熱伝導率は実施例1と同様の150W/(m・K)であり、第1の層の厚みは下記の表3の通りであった。なお、本実施例では、加熱炉の温度を350℃、昇温時間が30分、保持時間が3時間、冷却時間を1時間の合計4時間30分の加熱時間にした。
【0142】
次に、実施例1と同様に、昇華法により、図6に示す結晶成長装置を用いて、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。本実施例では、下地基板11の温度を1700℃、原料17の温度を1900℃にして原料17を昇華させ、下地基板11の主表面上で再結晶化させて、成長時間を500時間として、下地基板11上に窒化アルミニウム結晶を25mmの厚さになるように成長させた。なお、窒化アルミニウム結晶の成長中の条件は実施例1と同様にした。
【0143】
このように成長させた窒化アルミニウム結晶について、穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層が剥離していたか否か、第1の層から第2の層が剥離していたか否かを実施例1と同様に調べた。その結果を下記の表3に記載する。表3において「○」、「X1」および「X2」は、実施例1の表1と同様の意味である。
【0144】
【表3】
【0145】
(測定結果)
第1の層よりも高い熱伝導率を有する第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。このことから、第2の層により下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたことがわかった。
【0146】
特に表3に示すように、第1の層の厚さが0.05mm以上10.0mm以下で、第2の層の厚さが0.05cm以上10.0cm以下の積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長した場合に、下地基板から第1の層が剥がれること、および第1の層から第2の層が剥がれることを防止できたため、下地基板が昇華することを防止できた。
【0147】
なお、第1の層の厚さが11.0mm、および第2の層の厚さが11.0cmの少なくともいずれかの場合には、第1の層の下地基板からの剥がれ、および第2の層の第1の層からの剥がれの少なくともいずれかが生じた。しかし、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたため、下地基板の一部が昇華して、下地基板の裏面に凹凸は生じたものの、下地基板に貫通する穴が発生しなかったため、成長させた窒化アルミニウムにも穴が発生しなかった。
【0148】
以上より、本実施例によれば、第2の層を備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることによって、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できるので、下地基板の昇華を抑制でき、その上に成長させる窒化アルミニウム結晶に穴があくことを抑制できることが確認できた。また、下地基板が炭化珪素基板であり、第2の層が炭素元素を含む場合にも実施例1と同様の効果を有することが確認できた。
【実施例4】
【0149】
本実施例では、実施例2と同様に、第1の層が粉末と溶剤とを混合した混合物を焼結してなる場合の効果について調べた。
【0150】
詳細には、まず、実施例3と同様の下地基板を準備した(ステップS1)。次に、0.5μm、1.0μm、5.0μm、10μm、20μm、50μm、100μm、110μm、150μmおよび200μmの粒径を有する粉末をそれぞれ準備した。また実施例3と同様の溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤をそれぞれ混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物をそれぞれ形成した。また、実施例3と同様の第2の層を準備した。
【0151】
次に、実施例3と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された10mmの厚さを有する第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0152】
次に、実施例3と同様に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。なお、積層基板により、下地基板11の温度と原料17の温度とを適宜変更した。具体的には、0.5μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いた積層基板については、下地基板11の温度を1800℃にし、かつ原料17の温度を2000℃にした。
【0153】
実施例1と同様に、このように成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離していたか否か、および第1の層から第2の層が剥離していたか否かを調べた。その結果を表4に記載する。なお、表4中、「○」、「X2」については、実施例1の表1と同様の意味である。
【0154】
【表4】
【0155】
(測定結果)
第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0156】
特に表4に示すように、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、下地基板の受けた熱を下地基板の外部へ拡散できたので、窒化アルミニウム多結晶原料の温度を高く設定できた。このため、窒化アルミニウム結晶に穴があくことなく、50μm/h以上の高い成長速度で窒化アルミニウム結晶を成長させることができた。また、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できた。
【0157】
20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、0.5μm〜10μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板よりも窒化アルミニウム多結晶原料の温度を低い温度に設定する必要があったため、成長速度が少し小さくなったものの、下地基板から第1および第2の層が剥離することを防止できた。
【0158】
110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、20μm〜100μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板を用いた場合の窒化アルミニウム多結晶原料の設定温度と同様であった。また、110μm〜200μmの粒径を有する粉末を用いてなる第1の層を備えた積層基板は、第1の層から第2の層が剥離したため、下地基板の裏面に凹凸が形成されていたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0159】
以上より、本実施例によれば、粉末と溶媒とを焼結してなる第1の層を備えている場合には、粉末が0.5μm以上10μm以下の粒径を有していると、下地基板の熱の蓄積をより抑制できることが確認できた。
【実施例5】
【0160】
本実施例では、下地基板に対する第1の層および第2の層の熱膨張率の違いによる剥離抑制の効果について調べた。具体的には種々の熱膨張率を有する第1および第2の層を形成して、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0161】
詳細には、まず、実施例3と同様の下地基板を準備した。下地基板の2000℃での熱膨張率は、7.0×10-6℃-1であった。次に、室温以上2300℃以下の温度範囲において、第1の層の熱膨張率と下地基板の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-6℃-1未満から1.1×10-5℃-1の範囲となる混合物層を下地基板の裏面側に形成した。また、室温以上2300℃以下の温度範囲において、第2の層の熱膨張率と下地基板の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-6℃-1未満から1.1×10-5℃-1の範囲の範囲となる第2の層をカーボン板を準備した。
【0162】
次に、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された第1の層と、第1の層側に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。
【0163】
次に、実施例1と同様に、図6に示す結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。
【0164】
成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離したか否か、および第1の層から第2の層が剥離したか否かを調べた。測定方法は、実施例1と基本的には同様であったが、超音波探傷測定器をさらに用いた点において異なっていた。その結果を下記の表5に記載する。なお、表5中、「○」、「X1」については、実施例1の表1と同様の意味である。
【0165】
【表5】
【0166】
(測定結果)
表5に示すように、下地基板の熱膨張率と第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5/℃以下で、かつ下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5/℃以下の場合には、下地基板と第1の層、第1の層と第2の層との間に剥離が発生せず、成長した窒化アルミニウム結晶にも穴が発生しなかった。このことから、第1および第2の層の熱膨張率を下地基板の熱膨張率に近づけることで、その後の冷却の際に熱膨張率の違いから発生する剥離を抑制することができた。
【0167】
なお、下地基板の熱膨張率と第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.1×10-5/℃、および下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.1×10-5/℃の少なくとも一方の場合には、第1の層の下地基板からの剥がれが生じた。しかし、下地基板に熱が蓄積されることを抑制できたため、下地基板の一部が昇華して、下地基板の裏面に凹凸は生じたものの、下地基板に貫通する穴が発生しなかった。また、窒化アルミニウム結晶を成長させた初期段階では下地基板の昇華を防止でき、下地基板の裏面の昇華の進行を遅らすことができた。このため、成長させた窒化アルミニウムにも穴が発生しなかった。
【0168】
以上より、本実施例によれば、室温以上2300℃以下の温度範囲において、下地基板の熱膨張率と、第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下で、かつ下地基板の熱膨張率と第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下にすることにより、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できることが確認できた。
【実施例6】
【0169】
本実施例では、金属皮膜をさらに備えた積層基板を用いて窒化アルミニウム結晶を成長させることの効果について調べた。具体的には、種々の厚さのチタン膜を下地基板の裏面側に形成して、下地基板の主表面側に窒化アルミニウム結晶を成長させて、窒化アルミニウム結晶に穴が発生したかを調べた。
【0170】
詳細には、まず、実施例1と同様の下地基板を準備した(ステップS1)。次に、1μm、10μm、50μm、100μm、200μm、500μm、800μmおよび1000μmの厚さを有する金属皮膜を蒸着法により形成した。
【0171】
次に、1μm、10μm、50μm、100μm、200μm、500μm、800μmおよび1000μmの粒径を有する粉末をそれぞれ準備した。また実施例1と同様の溶剤を準備した。そして、重量混合比が粉末:溶剤=100:35になるように、粉末および溶剤をそれぞれ混合し、ペースト状になるまで攪拌することにより、混合物をそれぞれ形成した。
【0172】
また、窒化アルミニウムセラミックスよりなり、1.0cmの厚さを有する第2の層を準備した。
【0173】
次に、金属皮膜の上に混合物を接触させ、この混合物上に第2の層を配置して、実施例1と同様に、混合物を焼結することにより、下地基板と、下地基板の裏面側に形成された金属皮膜と、金属皮膜に形成された10mmの厚さを有する第1の層と、第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備した(ステップS2、S3)。なお、第1の層、第2の層、下地基板およびサセプタの熱伝導率は、実施例1と同様であった。
【0174】
次に、実施例1と同様に、図11に示すように、結晶成長装置を用いて、昇華法により、下地基板の主表面上に、窒化アルミニウム結晶を成長させた(ステップS3)。
【0175】
実施例1と同様に、このように成長させた窒化アルミニウム結晶について穴が発生していたか否か、下地基板から第1の層とが剥離していたか否か、および第1の層から第2の層が剥離していたか否かを調べた。その結果を表6に記載する。
【0176】
【表6】
【0177】
(測定結果)
金属皮膜および第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0178】
特に表6に示すように、金属皮膜の厚さが1μm〜200μmの厚さを有する金属皮膜を備えた積層基板は、金属皮膜および第2の層により下地基板の受けた熱を外部へ拡散できたので、下地基板から第1および第2の層が剥離することを抑制できた。
【0179】
500μm〜800μmの厚さを有する金属皮膜を備えた積層基板は、下地基板から金属皮膜が部分的に剥離した。しかし、金属皮膜および第2の層による下地基板に蓄積される熱を抑制できたので、下地基板の一部が昇華したことにより裏面に凹凸ができたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0180】
また、1000μmの厚さを有する金属皮膜を備えた積層基板は、下地基板から金属皮膜が剥離したものの、成長させた窒化アルミニウム結晶大半を終了した時点であったため、下地基板に凹凸ができたものの、下地基板を貫通する穴は発生しなかった。
【0181】
以上より、本実施例によれば、金属皮膜を備えた積層基板を用いることによって、下地基板の昇華を抑制できることが確認できた。また、金属皮膜は1μm以上200μm以下の厚さを有していることが下地基板の保護には効果的であることが確認できた。
【実施例7】
【0182】
本実施例では、基本的には実施例6と同様であったが、モリブデンよりなる金属皮膜を形成した点においてのみ、実施例6と異なる。この結果を下記の表7に示す。
【0183】
【表7】
【0184】
金属皮膜および第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0185】
また、金属皮膜がチタンよりなる実施例6と同様に、モリブデンよりなる金属皮膜を備えた積層基板を用いた場合にも、1μm以上200μm以下の厚さを有している場合に、より効果的に下地基板を保護できることが確認できた。
【実施例8】
【0186】
本実施例では、基本的には実施例6と同様であったが、タングステンよりなる金属皮膜を形成した点においてのみ、実施例6と異なる。この結果を下記の表8に示す。
【0187】
【表8】
【0188】
表8に示すように、金属皮膜および第2の層を備えた上記すべての積層基板を用いて成長させた窒化アルミニウムには、穴の発生がなかった。
【0189】
また、金属皮膜がチタンよりなる実施例6および金属皮膜がモリブデンよりなる実施例7と同様に、タングステンよりなる金属皮膜を備えた積層基板を用いた場合にも、1μm以上200μm以下の厚さを有している場合に、より効果的に下地基板を保護できることが確認できた。
【0190】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】本発明の実施の形態1における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態1における下地基板を示す概略側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における第1の層を形成した状態を示す概略側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における第2の層を形成した状態を示す概略側面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における窒化アルミニウム結晶を成長させた状態を示す概略側面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させるための装置を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態1における少なくとも第1の層を除去した状態を示す概略側面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における窒化アルミニウム結晶の成長方法および製造方法を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態2における積層基板を示す概略側面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における窒化アルミニウム結晶を成長させた状態を示す概略側面図である。
【図11】本発明の実施の形態2における積層基板を用いて昇華法により窒化アルミニウム結晶を成長させる状態を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態2における少なくとも第1の層を除去した状態を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0192】
10 積層基板、11 下地基板、11a,12a,14a 主表面、11b,12b,14b 裏面、12 第1の層、13 第2の層、14 金属皮膜、17 原料、20,21 窒化アルミニウム結晶、115 坩堝、115c 通気口、116 サセプタ、119 加熱体、121a,121b 放射温度計、122 反応容器、122a 窒素ガス導入口、122b 窒素ガス排出口、123 高周波加熱コイル、H 厚さ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面と前記主表面と反対側の裏面とを有する下地基板と、前記裏面に形成された第1の層と、前記第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備する工程と、
前記下地基板の前記主表面上に窒化アルミニウム結晶を気相成長法により成長する工程とを備え、
前記第1の層は、前記窒化アルミニウム結晶の成長温度において前記下地基板よりも昇華しにくい材質よりなり、
前記第2の層は、前記第1の層の熱伝導率よりも高い材質よりなる、窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム結晶の成長は、前記積層基板をサセプタに載置された状態で行なわれ、
前記第2の層は、前記サセプタの熱伝導率よりも高い材質よりなる、請求項1に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項3】
前記準備する工程は、
前記下地基板の前記裏面上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を配置し、前記混合物上に前記第2の層を配置する工程と、
前記第1の層にするために前記混合物を焼結する工程とを含む、請求項1または2に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項4】
前記下地基板は窒化アルミニウム基板であり、
前記粉末が窒化アルミニウム単結晶である、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項5】
前記下地基板は窒化アルミニウム基板であり、
前記粉末が、窒化アルミニウム多結晶、窒化アルミニウムセラミックスおよび窒化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれた一種以上の粉末である、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項6】
前記粉末が、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ホウ化タンタル、ホウ化ニオブ、ホウ化モリブデンおよびホウ化クロムよりなる群から選ばれた一種以上の粉末である、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項7】
前記下地基板は炭化珪素基板であり、
前記粉末は炭素元素を含む、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項8】
前記溶剤は、有機物、樹脂および芳香族アルコールが混合されてなる、請求項3〜7のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項9】
前記溶剤は、アセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂が混合されてなる、請求項3〜7のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項10】
前記第2の層は、炭素元素を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項11】
前記第2の層は、窒化アルミニウムを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項12】
前記第2の層の厚さが10μm以上10cm以下である、請求項1〜11のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項13】
室温以上2300℃以下の温度範囲において、前記下地基板の熱膨張率と、前記第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下で、かつ前記下地基板の熱膨張率と前記第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項14】
前記準備する工程は、前記下地基板の前記裏面上に蒸着法により金属皮膜を形成する工程をさらに含む、請求項1〜13のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項15】
前記金属皮膜の厚さは、1μm以上200μm以下である、請求項14に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項16】
前記金属皮膜は、タングステン、タンタルおよびモリブデンよりなる群から選ばれた一種以上よりなる、請求項14または15に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法により窒化アルミニウム結晶を成長する工程と、
少なくとも前記第1の層を除去する工程とを備えた、窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法により製造された、窒化アルミニウム結晶。
【請求項1】
主表面と前記主表面と反対側の裏面とを有する下地基板と、前記裏面に形成された第1の層と、前記第1の層に形成された第2の層とを備えた積層基板を準備する工程と、
前記下地基板の前記主表面上に窒化アルミニウム結晶を気相成長法により成長する工程とを備え、
前記第1の層は、前記窒化アルミニウム結晶の成長温度において前記下地基板よりも昇華しにくい材質よりなり、
前記第2の層は、前記第1の層の熱伝導率よりも高い材質よりなる、窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム結晶の成長は、前記積層基板をサセプタに載置された状態で行なわれ、
前記第2の層は、前記サセプタの熱伝導率よりも高い材質よりなる、請求項1に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項3】
前記準備する工程は、
前記下地基板の前記裏面上に、粉末と溶剤とを混合した混合物を配置し、前記混合物上に前記第2の層を配置する工程と、
前記第1の層にするために前記混合物を焼結する工程とを含む、請求項1または2に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項4】
前記下地基板は窒化アルミニウム基板であり、
前記粉末が窒化アルミニウム単結晶である、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項5】
前記下地基板は窒化アルミニウム基板であり、
前記粉末が、窒化アルミニウム多結晶、窒化アルミニウムセラミックスおよび窒化アルミニウム化合物よりなる群から選ばれた一種以上の粉末である、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項6】
前記粉末が、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ホウ化タンタル、ホウ化ニオブ、ホウ化モリブデンおよびホウ化クロムよりなる群から選ばれた一種以上の粉末である、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項7】
前記下地基板は炭化珪素基板であり、
前記粉末は炭素元素を含む、請求項3に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項8】
前記溶剤は、有機物、樹脂および芳香族アルコールが混合されてなる、請求項3〜7のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項9】
前記溶剤は、アセトン、ホルマリン(ホルムアルデヒド)、フルフリルアルコールおよびポリイミド樹脂が混合されてなる、請求項3〜7のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項10】
前記第2の層は、炭素元素を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項11】
前記第2の層は、窒化アルミニウムを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項12】
前記第2の層の厚さが10μm以上10cm以下である、請求項1〜11のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項13】
室温以上2300℃以下の温度範囲において、前記下地基板の熱膨張率と、前記第1の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下で、かつ前記下地基板の熱膨張率と前記第2の層の熱膨張率との差の絶対値が1.0×10-5℃-1以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項14】
前記準備する工程は、前記下地基板の前記裏面上に蒸着法により金属皮膜を形成する工程をさらに含む、請求項1〜13のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項15】
前記金属皮膜の厚さは、1μm以上200μm以下である、請求項14に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項16】
前記金属皮膜は、タングステン、タンタルおよびモリブデンよりなる群から選ばれた一種以上よりなる、請求項14または15に記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の窒化アルミニウム結晶の成長方法により窒化アルミニウム結晶を成長する工程と、
少なくとも前記第1の層を除去する工程とを備えた、窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法により製造された、窒化アルミニウム結晶。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−190965(P2009−190965A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283425(P2008−283425)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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