説明

窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法

【課題】シリコン基板上に形成したクラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を提供する。
【解決手段】実施態様によれば、下地層と、第1積層中間層と、機能層と、を備えた窒化物半導体素子が提供される。前記下地層は、基板の上に形成されたAlNバッファ層を含む。前記第1積層中間層は、前記下地層の上に設けられた第1AlN中間層と、前記第1AlN中間層の上に設けられた第1AlGaN中間層と、前記第1AlGaN中間層の上に設けられた第1GaN中間層と、を含む。前記機能層は、前記第1積層中間層の上に設けられている。前記第1AlGaN中間層は、前記第1AlN中間層に接する第1ステップ層を含む。前記第1ステップ層におけるAl組成比は、前記第1AlN中間層から前記第1ステップ層に向かう積層方向において、ステップ状に減少している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体発光素子である発光ダイオード(LED)は、例えば、表示装置や照明などに用いられている。また、窒化物半導体を用いた電子デバイスは高速電子デバイスやパワーデバイスに利用されている。
【0003】
このような窒化物半導体素子を、量産性に優れるシリコン(Si)基板上に形成すると、格子定数または熱膨張係数の違いに起因した欠陥、及び、クラックが発生しやすい。シリコン基板上に高品質な結晶を作製する技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−23642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、シリコン基板上に形成したクラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施態様によれば、下地層と、第1積層中間層と、機能層と、を備えた窒化物半導体素子が提供される。前記下地層は、基板の上に形成されたAlNバッファ層を含む。前記第1積層中間層は、前記下地層の上に設けられた第1AlN中間層と、前記第1AlN中間層の上に設けられた第1AlGaN中間層と、前記第1AlGaN中間層の上に設けられた第1GaN中間層と、を含む。前記機能層は、前記第1積層中間層の上に設けられている。前記第1AlGaN中間層は、前記第1AlN中間層に接する第1ステップ層を含む。前記第1ステップ層におけるAl組成比は、前記第1AlN中間層から前記第1ステップ層に向かう積層方向において、ステップ状に減少している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1(a)〜図1(d)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式図である。
【図2】図2(a)〜図2(d)は、第1の実施形態に係る他の窒化物半導体素子を例示する模式図である。
【図3】図3(a)〜図3(d)は、第1の実施形態に係るさらに他の窒化物半導体素子を例示する模式図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は、第1の実施形態に係るさらに他の窒化物半導体素子を例示する模式図である。
【図5】AlGaN中間層の厚さTAlGaNと転位密度Ddとの関係の一例を例示するグラフ図である。
【図6】図6(a)〜図6(d)は、GaN中間層の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。
【図7】図7(a)および図7(b)は、GaN機能層の表面の一例を例示する原子間力顕微鏡像である。
【図8】Alの組成比CPAlとX線ロッキングカーブXRC測定の半値全幅との関係の一例を例示するグラフ図である。
【図9】Alの組成比CPAlと転位密度Ddとの関係の一例を例示するグラフ図である。
【図10】図10(a)〜図10(d)は、GaN中間層の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。
【図11】X線回折法により結晶構造解析を行った結果の一例を例示するグラフ図である。
【図12】図12(a)および図12(b)は、実施形態に係る積層中間層の一例を例示する透過型電子顕微鏡像である。
【図13】図13(a)および図13(b)は、参考例に係る積層中間層の一例を例示する透過型電子顕微鏡像である。
【図14】図14(a)〜図14(c)は、試料の表面の一例を例示する電子顕微鏡像である。
【図15】本実験例においてX線逆格子マッピング測定を行った結果の一例である。
【図16】図16(a)〜図16(d)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハを例示する模式図である。
【図17】第3の実施形態に係る窒化物半導体層の製造方法を例示するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体素子に係る。実施形態に係る窒化物半導体素子は、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどの半導体装置を含む。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)などを含む。半導体受光素子は、フォトダイオード(PD)などを含む。電子デバイスは、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、電界トランジスタ(FET)及びショットキーバリアダイオード(SBD)などを含む。
【0010】
図1(a)〜図1(d)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式図である。
図1(a)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。図1(b)は、積層中間層におけるAlの組成比(CPAl)を例示するグラフ図である。図1(c)は、積層中間層における成長温度GTを例示するグラフ図である。図1(d)は、積層中間層におけるa軸格子定数LCを例示するグラフ図である。
【0011】
図1に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子110は、機能層10を備える。機能層10の厚さは、例えば約2.1マイクロメートル(μm)である。機能層10は、積層中間層50の上に設けられる。積層中間層50は、シリコン基板40の上に形成された下地層60の上に設けられる。シリコン基板40は、例えば、Si(111)基板である。ただし、実施形態において、シリコン基板40の面方位は、(111)面でなくてもよい。また、シリコン基板40は、酸化物層を含む基板であってもよい。例えば、シリコン基板40は、シリコンオンインシュレータ(SOI:silicon on insulator)基板などでもよい。更には、シリコン基板40は、格子定数が機能層10の格子定数とは異なる材料あるいは熱膨張係数が機能層10の熱膨張係数とは異なる材料を含む基板であればよい。例えば、シリコン基板40は、サファイア、スピネル、GaAs、InP、ZnO、Ge、SiGe、SiC基板であってもよい。実施形態に係る窒化物半導体素子110は、シリコン基板40と、下地層60と、積層中間層50と、機能層10の一部と、が除去された状態で使用される場合がある。窒化物半導体素子110が発光素子である場合には、機能層10は、例えば、n形半導体層と、発光層と、p形半導体層と、を含む。
【0012】
下地層60は、AlNバッファ層62と、GaN下地層61と、を有する。
AlNバッファ層62の厚さは、例えば約30ナノメートル(nm)である。シリコン基板40と化学的反応が生じにくいAlNをSiに接するAlNバッファ層62として用いることで、メルトバックエッチングなどの問題を解決しやすい。
GaN下地層61の厚さは、例えば約300nmである。AlNバッファ層62の上にGaN下地層61を設けることで、積層中間層50の結晶成長中に圧縮歪みが生じやすい。これにより、クラックの発生を抑制することができる。なお、GaN下地層61は、必要に応じて設けられ、場合によっては省略してもよい。
【0013】
積層中間層50は、GaN中間層51と、AlGaN系中間層と、を有する。AlGaN系中間層は、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、を含む。GaN中間層51は、AlGaN中間層53の上に設けられる。AlGaN中間層53は、AlN中間層52の上に設けられる。すなわち、AlGaN中間層53は、GaN中間層51と、AlN中間層52と、の間に設けられる。
【0014】
ここで、積層中間層50から機能層10に向かう方向をZ軸方向とする。Z軸に対して垂直な1つの軸をX軸とする。Z軸とX軸とに対して垂直な方向をY軸とする。機能層10は、積層中間層50とZ軸に沿って積層される。
【0015】
本願明細書において、「積層」とは、互いに接して重ねられる場合の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる場合も含む。また、「上に設けられる」とは、直接接して設けられる場合の他に、間に他の層が挿入されて設けられる場合も含む。
【0016】
実施形態の積層中間層50では、積層方向(Z軸方向)に対して平行方向の格子間隔は、積層方向に進むにつれて、歪み(strain)の影響を受けない状態のAlNの格子間隔からGaNの格子間隔へ変化する。
【0017】
すなわち、図1(a)に表したように、AlN中間層52がGaN下地層61の上に形成されている。AlN中間層52の結晶成長温度は、例えば500℃以上、1050℃以下であることが好ましい。AlN中間層52の成長温度(形成温度)が500℃よりも低いと、不純物が取り込まれ易い。また、立方晶AlNなどが成長され、結晶転位が過度に生じてしまう。そして、AlN中間層52の結晶品質が過剰に劣化してしまう。一方、AlN中間層52の形成温度が1050℃よりも高いと、格子緩和が生じにくい。そのため、歪みが緩和されず、シリコン基板40に引っ張り歪みが導入され易くなる。さらに、AlGaN中間層53やGaN中間層51の結晶をAlN中間層52の上に成長するときに、圧縮応力を適切にかけられず、結晶成長後の降温時に、クラックが発生しやすい。
【0018】
これに対して、図1(c)に表したように、AlN中間層52の形成温度が例えば800℃である場合には、AlN中間層52は、格子緩和し易くなる。これにより、AlN中間層52の形成の初期から、下地となるGaN下地層61からの引っ張り歪みを受けにくくなる。その結果、下地となるGaN下地層61からの歪みの影響を受けないよう、AlN中間層52を形成することができる。このようにして、格子緩和したAlN中間層52がGaN下地層61の上に形成される。
【0019】
また、AlN中間層52の厚さは、例えば5ナノメートル(nm)以上、100nm以下であることが好ましい。AlN中間層52の厚さが5nmよりも薄いと、AlNが十分に緩和し難い。AlN中間層52の厚さが100nmよりも厚いと、AlN中間層52の結晶品質が劣化しやすい。例えば、格子緩和による転位が増大してしまう。AlN中間層52の厚さは、更に好ましくは50nm以下である。AlN中間層52の厚さが50nm以下のときには、更に結晶品質の劣化が抑えられる。AlN中間層52の厚さは、例えば約12nmである。
【0020】
続いて、AlNよりも格子定数の大きいAlGaN中間層53がAlN中間層52の上に形成されている。AlGaN中間層53の厚さは、例えば5nm以上、2000nm以下であることが好ましい。AlGaN中間層53の厚さが5nmよりも薄いと、クラックの発生を抑制する効果および転位を低減させる効果が得られにくい。AlGaN中間層53の厚さが2000nmよりも厚いと、転位を低減させる効果が飽和するだけでなく、クラックが生じやすくなる。AlGaN中間層53の厚さは、より好ましくは100nm未満である。AlGaN中間層53の厚さを100nm未満にすることで、転位密度を効果的に低減することができる。AlGaN中間層53の厚さは、例えば約13nmである。
【0021】
AlGa1−XNは、厚さが薄い状態すなわち成長の初期では、AlNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、AlGa1−XNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、AlGa1−XNは、歪みを受けない状態のAlGa1−XNの格子間隔を有するようになる。AlGa1−XNが圧縮歪みを受けながら成長したときに、圧縮歪みが基板表面に蓄えられることで、基板には上に凸状の反りが生じる。圧縮歪みを結晶成長中に予め蓄えておくことで、成長終了後の降温時に熱膨張係数差によって生じるクラックの発生を抑制することができる。圧縮歪みの大きさを反映するAlの組成比と、膜厚を制御することで、クラックと転位とを低減することができる。
【0022】
図1(b)に表したように、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAl(X)は、例えば0.5である。つまり、AlGaN中間層53として、例えばAl0.5Ga0.5N層が用いられる。ただし、実施形態において、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlは、これだけに限定されず、例えば0.75であってもよい。AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlについては、後に詳述する。
【0023】
実施形態では、図1(b)に表したように、積層中間層50におけるAlの組成比は、段階的に変化している。また、図1(d)に表したように、積層中間層50におけるa軸格子定数LCは、段階的に変化している。但し、積層中間層50におけるAlの組成比は、段階的に変化することだけに限定されるわけではない。AlGaN中間層53は、Alの組成比がAlNからGaNへ向かって連続的に漸減あるいは減少する傾斜層を含んでいてもよい。
【0024】
すなわち、図1(a)に表したように、AlGaN中間層53は、AlN中間層52に接するステップ層54を含む。図1(b)に表したように、ステップ層54におけるAlの組成比は、積層方向においてステップ状に減少している。そして、AlGaN中間層53は、図1(b)に表した二点鎖線のようにAlの組成比が積層方向において漸減する傾斜層55を含んでいてもよい。傾斜層55は、ステップ層54の上に設けられている。
【0025】
傾斜層55が設けられていない場合には、積層中間層50におけるAlの組成比CPAlは、積層方向において段階的に減少する。この場合において、ステップ層54の形成数は、1つに限定されるわけではなく、複数であってもよい。例えば、AlGaN中間層53は、Al0.75Ga0.25N層と、Al0.5Ga0.5N層と、Al0.25Ga0.75N層と、を含んでいてもよい。このとき、Alの組成比が積層方向においてステップ状に減少するように、Al0.75Ga0.25N層と、Al0.5Ga0.5N層と、Al0.25Ga0.75N層と、が積層方向においてこの順に積層されている。それぞれの層の膜厚は、層間で一定であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、33nmのAl0.75Ga0.25N層と、33nmのAl0.5Ga0.5N層と、33nmのAl0.25Ga0.75N層と、がこの順に積層されていてもよいし、13nmのAl0.75Ga0.25N層と、33nmのAl0.5Ga0.5N層と、53nmのAl0.25Ga0.75N層と、がこの順で積層されていてもよい。このようにすることで、それぞれのAlの組成比や膜厚に対応した転位低減効果を組み合わせることができる。
【0026】
図1(c)に表したように、AlGaN中間層53の形成温度は、例えば約1130℃である。AlGaN中間層53の形成温度がAlN中間層52の形成温度よりも80℃以上高いと、AlNの格子定数に格子整合するように成長する効果がより大きく得られる。例えば、AlGaN中間層53の形成温度が1050℃以上のときには、格子整合するように成長する厚さが増大する。その結果、圧縮歪みがかかりやすくなり、クラックの発生が抑制されやすい。また、転位を低減する効果がより大きく得られる。
【0027】
続いて、歪みが緩和された状態のAlGaN中間層53の上に、AlGaN中間層53よりも格子定数の大きいGaN中間層51が形成されている。GaN中間層51は、成長の初期では、AlGa1−XNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、GaNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、GaNの格子定数は、歪みを受けない状態のGaNの格子定数に戻る。
【0028】
図1(c)に表したように、GaN中間層51の形成温度は、例えば約1130℃である。GaN中間層51の形成温度がAlN中間層52の形成温度よりも80℃以上高いと、AlGa1−XNの格子定数に格子整合するように成長する厚さが増大する。例えば、GaN中間層51の形成温度が1050℃以上のときには、格子整合するように成長する厚さが増大する。そのため、GaN中間層51の結晶成長時に、圧縮応力がかかり易くなる。これにより、クラックの発生を抑制する効果がより大きく得られる。GaN中間層51の厚さは、例えば約260nmである。
【0029】
AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、の厚さの合計は、例えば50nm以上、2000nm以下であることが好ましい。AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、の厚さの合計が50nm未満であると、一定の積層中間層の厚さを得るための、成長温度の昇温過程および降温過程が過度に増える。そのため、生産性が悪化する。一方、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、の厚さの合計が2000nmよりも厚いと、圧縮歪みの蓄積が不十分となり、クラックが発生しやすい。AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、の厚さの合計は、より好ましくは300nm以上、1000nm未満である。AlN中間層52と、AlGaN層53と、GaN層51と、厚さの合計を300nm以上、1000nm未満とすることで、平坦な表面が得られやすく、クラックと、転位と、を低減する効果が発揮されやすい。
【0030】
なお、GaN中間層51のうちで機能層10との境界近傍を除く部分に、図示しないSiのδドープ層が設けられていてもよい。あるいは、AlGaN中間層53の一部に、図示しないSiのδドープ層が設けられていてもよい。これらによれば、シリコン基板上に形成したクラックが少ない高品位の窒化物半導体素子を提供することができる。
【0031】
このように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110においては、機能層10は、積層中間層50の上に設けられる。積層中間層50は、シリコン基板40の上に形成された下地層60の上に設けられる。積層中間層50は、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、がこの順に積層された構造を有する。AlGaN中間層53は、積層方向へ向かって、すなわちAlN中間層52からGaN中間層51へ向かって、Alの組成比がステップ状に減少するステップ層54を含む。これにより、結晶成長時に圧縮応力をかけクラックの発生を抑制する効果が得られる。また、転位を低減する効果が得られる。そのため、機能層10におけるクラックおよび転位などが低減される。
【0032】
図2(a)〜図2(d)は、第1の実施形態に係る他の窒化物半導体素子を例示する模式図である。
図2(a)は、第1の実施形態に係る他の窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。図2(b)〜図2(d)は、図1(b)〜図1(d)に関して前述した如くである。
【0033】
図2(a)に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子120においては、図1に関して前述した窒化物半導体素子110と比較して、AlGaN下地層63がさらに設けられている。AlGaN下地層63は、GaN下地層61と、AlNバッファ層62と、の間に設けられている。つまり、下地層60は、AlNバッファ層62と、AlGaN下地層63と、GaN下地層61と、を有する。その他の構造は、図1に関して前述した窒化物半導体素子110の構造と同様である。
【0034】
AlGaN下地層63におけるAlの組成比CPAlは、例えば0.75である。つまり、AlGaN下地層63として、例えばAl0.75Ga0.25N層が用いられる。AlGaN下地層63の厚さは、例えば約13nmである。これによれば、下地層60の結晶成長時に圧縮応力をかけクラックの発生を抑制する効果が得られる。また、転位を低減する効果が得られる。これにより、クラックおよび転位が少ない下地層60を形成することができる。
【0035】
図3(a)〜図3(d)は、第1の実施形態に係るさらに他の窒化物半導体素子を例示する模式図である。
図3(a)は、第1の実施形態に係るさらに他の窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。図3(b)〜図3(d)は、図1(b)〜図1(d)に関して前述した如くである。
【0036】
図3(a)に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子130においては、積層中間層50は、複数のGaN中間層51と、複数のAlN中間層52と、複数のAlGaN中間層53と、を有する。複数のGaN中間層51のそれぞれは、図1に関して前述したGaN中間層51と同様である。複数のAlN中間層52のそれぞれは、図1に関して前述したAlN中間層52と同様である。複数のAlGaN中間層53は、図1に関して前述したAlGaN中間層53と同様である。
【0037】
実施形態に係る窒化物半導体素子130においては、GaN中間層51と、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、のそれぞれの数(すなわち、周期数)は、2である。言い換えれば、1つのAlN中間層52と、そのAlN中間層52の上に形成された1つのAlGaN中間層53と、そのAlGaN中間層53の上に形成された1つのGaN中間層51と、を含む積層体を1周期としたとき、実施形態に係る窒化物半導体素子130においては、積層体の周期数は、2である。但し、実施形態はこれだけに限定されず、その積層体の周期数は、例えば3以上であってもよい。すなわち、実施形態に係る窒化物半導体素子130においては、積層中間層50は、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、がこの順に周期的に複数回積層された構造を有する。
【0038】
より具体的に説明すると、第1積層中間層50aがGaN下地層61の上に形成されている。第2積層中間層50bが第1積層中間層50aの上に設けられている。そして、機能層10が第2積層中間層50bの上に設けられている。つまり、第2積層中間層50bは、第1積層中間層50aと機能層10との間に設けられている。
【0039】
第1積層中間層50aは、図1に関して前述した積層中間層50と同様である。すなわち、第1積層中間層50aは、第1GaN中間層51aと、第1AlGaN系中間層と、を有する。第1AlGaN系中間層は、第1AlN中間層52aと、第1AlGaN中間層53aと、を含む。第1GaN中間層51a、第1AlN中間層52a、および第1AlGaN中間層53aは、図1に関して前述したGaN中間層51、AlN中間層52、およびAlGaN中間層53とそれぞれ同様である。第1AlGaN中間層53aは、Alの組成比が積層方向においてステップ状に減少している第1ステップ層54aを含む。第1AlGaN中間層53aは、Alの組成比が積層方向において漸減する第1傾斜層55aを含んでいてもよい。
【0040】
第2積層中間層50bは、第2GaN中間層51bと、第2AlGaN系中間層と、を有する。第2AlGaN系中間層は、第2AlN中間層52bと、第2AlGaN中間層53bと、を含む。第2AlGaN中間層53bは、第1AlGaN中間層53aと同様に、Alの組成比が積層方向においてステップ状に減少している第2ステップ層54bを含む。第2AlGaN中間層53bは、Alの組成比が積層方向において漸減する第2傾斜層55bを含んでいてもよい。実施形態に係る窒化物半導体素子130のその他の構造は、図1に関して前述した窒化物半導体素子110の構造と同様である。第2積層中間層50bは、図1に関して前述した積層中間層50の設計指針の範囲内であれば、第1積層中間層50aと同じでなくてもよい。例えば、第2GaN中間層51bの厚さが、第1GaN中間層51aの厚さよりも厚くなっていてもよい。このようにすることで、積層に伴って蓄えられる歪みの量の変化に対応して構造を変化させることで、よりクラックや転位を低減する効果が得られる。
【0041】
実施形態に係る窒化物半導体素子130の第1積層中間層50aおよび第2積層中間層50bにおいても、積層方向に対して平行方向の格子間隔は、積層方向に進むにつれて、歪みの影響を受けない状態のAlNの格子間隔からGaNの格子間隔へ変化する。
【0042】
すなわち、第1積層中間層50aにおける第1AlN中間層52a、第1AlGaN中間層53a、および第1GaN中間層51aの形成条件や作用や効果などは、図1に関して前述した積層中間層50におけるAlN中間層52、AlGaN中間層53、GaN中間層51と同様である。
【0043】
続いて、第1積層中間層50aの第1GaN中間層51aの上に、第2積層中間層50bの第2AlN中間層52bが形成されている。第2AlN中間層52bの厚さは、例えば約12nmである。
【0044】
第2AlN中間層52bの結晶成長温度は、例えば500℃以上、1050℃以下であることが好ましい。図3(c)に表したように、第2AlN中間層52bの形成温度は、例えば800℃である。そのため、第2AlN中間層52bは、格子緩和し易くなる。これにより、図3(d)に表したように、AlNの格子定数は、AlGaNの格子定数およびGaNの格子定数と比較して、歪みを受けない状態のAlNの格子定数に急激に戻る。そのため、第2AlN中間層52bの形成の初期から、下地となる第1GaN中間層51aからの引っ張り歪みを受けにくくなる。その結果、下地となる第1GaN中間層51aからの歪みの影響を受けないよう、第2AlN中間層52bを形成することができる。このようにして、急激に格子緩和した第2AlN中間層52bが第1GaN中間層51aの上に形成される。
【0045】
続いて、AlNよりも格子定数の大きい第2AlGaN中間層53bが第2AlN中間層52bの上に形成されている。第2AlGaN中間層53bの厚さは、例えば5nm以上、2000m以下であることが好ましい。第2AlGaN中間層53bの厚さは、より好ましくは100nm未満である。第2AlGaN中間層53bの厚さを100nm未満にすることで、転位密度を効果的に低減することができる。第2AlGaN中間層53bの厚さは、例えば約13nmである。
【0046】
図1に関して前述したように、AlGa1−XNは、厚さが薄い状態すなわち成長の初期では、AlNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、AlGa1−XNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、AlGa1−XNは、歪みを受けない状態のAlGa1−XNの格子間隔を有するようになる。
【0047】
図3(b)に表したように、第2AlGaN中間層53bにおけるAlの組成比CPAlは、例えば0.5である。つまり、第2AlGaN中間層53bとして、例えばAl0.5Ga0.5N層が用いられる。
【0048】
図3(c)に表したように、第2AlGaN中間層53bの形成温度は、例えば約1130℃である。第2AlGaN中間層53bの形成温度が第2AlN中間層52bの形成温度よりも80℃以上高いと、AlNの格子定数に格子整合するように成長する効果がより大きく得られる。また、転位を低減する効果がより大きく得られる。例えば、第2AlGaN中間層53bの形成温度が1050℃以上のときには、格子整合するように成長する厚さが増大する。
【0049】
続いて、歪みが緩和された状態の第2AlGaN中間層53bの上に、第2AlGaN中間層53bよりも格子定数の大きい第2GaN中間層51bが形成されている。図1に関して前述したように、第2GaN中間層51bは、成長の初期では、AlGa1−XNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、GaNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、GaNの格子定数は、歪みを受けない状態のGaNの格子定数に戻る。
【0050】
図3(c)に表したように、第2GaN中間層51bの形成温度は、例えば約1130℃である。第2GaN中間層51bの形成温度が第2AlN中間層52bの形成温度よりも80℃以上高いと、AlGa1−XNの格子定数に格子整合するように成長する厚さが増大する。例えば、第2GaN中間層51bの形成温度が1050℃以上のときには、格子整合するように成長する厚さが増大する。そのため、第2GaN中間層51bの結晶成長時に、圧縮応力がかかり易くなる。これにより、クラックの発生を抑制する効果がより大きく得られる。第2GaN中間層51bの厚さは、例えば約260nmである。
【0051】
このように、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、がこの順に周期的に複数回積層された構造を積層中間層50が有すると、結晶成長時に圧縮応力をかけクラックの発生を抑制する効果がより大きく得られる。また、転位を低減する効果がより大きく得られる。そのため、機能層10におけるクラックおよび転位などがより低減される。
【0052】
図4(a)〜図4(d)は、第1の実施形態に係るさらに他の窒化物半導体素子を例示する模式図である。
図4(a)は、第1の実施形態に係るさらに他の窒化物半導体素子の構成を例示する模式的断面図である。図4(b)〜図4(d)は、図1(b)〜図1(d)に関して前述した如くである。
【0053】
図4(a)に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子140においては、図3に関して前述した窒化物半導体素子130と比較して、AlGaN下地層63がさらに設けられている。AlGaN下地層63は、GaN下地層61と、AlNバッファ層62と、の間に設けられている。つまり、下地層60は、AlNバッファ層62と、AlGaN下地層63と、GaN下地層61と、を有する。その他の構造は、図3に関して前述した窒化物半導体素子110の構造と同様である。
【0054】
AlGaN下地層63におけるAlの組成比CPAlは、例えば0.75である。つまり、AlGaN下地層63として、例えばAl0.75Ga0.25N層が用いられる。AlGaN下地層63の厚さは、例えば約13nmである。これによれば、図2に関して前述したように、下地層60の結晶成長時に圧縮応力をかけクラックの発生を抑制する効果が得られる。また、転位を低減する効果が得られる。これにより、クラックおよび転位が少ない下地層60を形成することができる。
【0055】
次に、本実施形態の窒化物半導体素子の特性について図面を参照しつつ説明する。
図5は、AlGaN中間層の厚さTAlGaNと転位密度Ddとの関係の一例を例示するグラフ図である。
【0056】
発明者は、以下の試料を作製した。
すなわち、GaN下地層61としてのGaN層の上に、厚さが12nmのAlN層を800℃で形成した。このAlN層は、AlN中間層52に相当する。
【0057】
続いて、AlN層の上に、厚さが0nm、13nm、20nm、33nmのAl0.5Ga0.5N層を1130℃で形成した。つまり、発明者は、Al0.5Ga0.5N層の厚さが異なる4つの試料を作製し、Al0.5Ga0.5N層の厚さの違いに基づいた効果の違いについて検討を行った。Al0.5Ga0.5N層は、AlGaN中間層53に相当する。Al0.5Ga0.5N層の厚さが0nmの試料は、すなわち本実施形態に係る窒化物半導体素子の参考例としての試料である。
【0058】
続いて、Al0.5Ga0.5N層の上に、厚さが260nmのGaN層を1130℃で形成した。続いて、これらのAlN層と、Al0.5Ga0.5N層と、GaN層と、の積層体を1周期としてさらに2周期分の積層体を形成した。つまり、発明者が作製した4つ試料の積層体のそれぞれの周期数は、3である。
【0059】
図5に表したように、らせん転位(screw dislocation)SCの密度は、AlGaN層の厚さTAlGaNが0nmから厚くなるにつれて徐々に低くなる。そして、らせん転位SCの密度は、AlGaN層の厚さTAlGaNが約20nmよりも厚くなると高くなる。また、刃状転位(edge dislocation)EDの密度は、AlGaN層の厚さTAlGaNが0nmから厚くなるにつれて低くなる。そして、刃状転位EDの密度は、AlGaN層の厚さTAlGaNが約20nmよりも厚くなると高くなる。
【0060】
このように、らせん転位SCの密度および刃状転位EDの密度は、AlGaN層の厚さTAlGaNとの相関を有することが分かった。これによれば、AlGaN中間層53の厚さを適宜設定することにより、AlGaN中間層53は、らせん転位SCおよび刃状転位EDを低減させる効果を有することが分かった。また、AlGaN中間層53の厚さが約20nmの場合に、らせん転位SCおよび刃状転位EDを低減させる効果が得られやすいことが分かった。
【0061】
図6(a)〜図6(d)は、GaN中間層の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。
図6(a)は、図5に関して前述したAl0.5Ga0.5N層の厚さが0nmの試料のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。図6(b)は、図5に関して前述したAl0.5Ga0.5N層の厚さが13nmの試料のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。図6(c)は、図5に関して前述したAl0.5Ga0.5N層の厚さが20nmの試料のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。図6(d)は、図5に関して前述したAl0.5Ga0.5N層の厚さが33nmの試料のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。
【0062】
図6(a)に表したように、Al0.5Ga0.5N層の厚さが0nmの試料のGaN中間層51の表面には、約数十μm程度の大きさの等方的なモフォロジが形成されている。これに対して、図6(b)〜図6(d)に表したように、Al0.5Ga0.5N層の厚さが13nm、20nm、33nmの試料のGaN中間層51の表面には、異方的なモフォロジがそれぞれ形成されている。これにより、AlGaN中間層53は、異方的なパターンを有するモフォロジを形成し、転位を低減させる効果を有することが分かった。また、図6(b)〜図6(d)に表したノマルスキ顕微鏡像により、AlGaN中間層53は、クラックの発生を抑制する効果を有することが分かった。
【0063】
図7(a)および図7(b)は、GaN機能層の表面の一例を例示する原子間力顕微鏡像である。
図7(a)は、図6(a)に表した試料の最表面を原子間力顕微鏡像で測定した像である。図7(b)は、図6(c)に表した試料の最表面を原子間力顕微鏡像で測定した像である。
【0064】
図7(a)に表したように、Al0.5Ga0.5N層の厚さが0nmの試料のGaN中間層51の表面には、等方的なモフォロジが形成されている。形成されたモフォロジの高さの最大値と最低値との差は、約2〜3nm程度である。これに対して、図7(b)に表したように、Al0.5Ga0.5N層の厚さが20nmの試料のGaN中間層51の表面には、異方的なモフォロジが形成されている。発明者の検討結果により、このような異方的なモフォロジは、刃状転位EDの密度が低く、シリコン基板40を除去した後にも残存していることが分かった。
【0065】
図8は、Alの組成比CPAlとX線ロッキングカーブXRC測定の半値全幅との関係の一例を例示するグラフ図である。
また、図9は、Alの組成比CPAlと転位密度Ddとの関係の一例を例示するグラフ図である。
【0066】
発明者は、以下の試料を作製した。
すなわち、GaN下地層61としてのGaN層の上に、厚さが12nmのAlN層を800℃で形成した。このAlN層は、AlN中間層52に相当する。
【0067】
続いて、AlN層の上に、厚さが13nmのAlGa1−XN層を1130℃で形成した。このとき、Alの組成比CPAlを0、0.25、0.5、0.75とした。つまり、発明者は、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlが異なる4つの試料を作製し、Alの組成比CPAlの違いに基づいた効果の違いについて検討を行った。AlGa1−XN層は、AlGaN中間層53に相当する。AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlが0の試料は、すなわち本実施形態に係る窒化物半導体素子の参考例としての試料である。
【0068】
続いて、AlGa1−XN層の上に、厚さが260nmのGaN層を1130℃で形成した。続いて、これらのAlN層と、AlGa1−XN層と、GaN層と、の積層体を1周期としてさらに2周期分の積層体を形成した。つまり、発明者が作製した4つ試料の積層体のそれぞれの周期数は、3である。
【0069】
図8に表したように、対称面である(002)面のX線ロッキングカーブの半値全幅および(004)面のX線ロッキングカーブの半値全幅は、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlを変化させてもほとんど変化しない。以下の説明では、「X線ロッキングカーブの半値全幅」を、単に「X線半値幅」と表すこととする。一方で、非対称面である(101)面のX線半値幅および(202)面のX線半値幅は、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlを0から大きくするにつれて小さくなり、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlを0.75よりも大きくすると大きくなる。
【0070】
これにより、(101)面のX線半値幅および(202)面のX線半値幅と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関は、(002)面のX線半値幅および(004)面のX線半値幅と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関よりも強いことが分かった。言い換えれば、(002)面のX線半値幅および(004)面のX線半値幅と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関は、(101)面のX線半値幅および(202)面のX線半値幅と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関よりも弱いことが分かった。
【0071】
また、図9に表したように、らせん転位SCの密度は、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlを変化させてもほとんど変化しない。らせん転位SCの密度は、(002)面のX線半値幅および(004)面のX線半値幅から導かれる。一方で、刃状転位EDの密度は、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlを0から大きくするにつれて低くなり、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlを0.75よりも大きくすると高くなる。刃状転位EDの密度は、(101)面のX線半値幅および(202)面のX線半値幅から導かれる。
【0072】
これにより、刃状転位EDの密度と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関は、らせん転位SCの密度と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関よりも強いことが分かった。言い換えれば、らせん転位SCの密度と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関は、刃状転位EDの密度と、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlと、の相関よりも弱いことが分かった。図9に表したように、刃状転位EDの密度は、らせん転位SCの密度の十倍程度であることから、総合した転位の数にとっては、刃状転位EDの数の影響が大きい。従って、刃状転位EDを低減させる効果が結晶品質を向上させる効果に与える影響は大きい。
【0073】
このように、刃状転位EDの密度は、AlGa1−XN層におけるAlの組成比CPAlとより強い相関を有することが分かった。これによれば、AlGaN中間層53におけるAlの組成比を適宜設定することにより、AlGaN中間層53は、刃状転位EDを低減させる効果を有することが分かった。すなわち、AlGaN中間層53におけるAlの組成比を適宜設定することにより、結晶品質が向上する。また、AlGaN中間層53を設けた場合は、設けなかった場合に対して、いずれのCPAlにおいても刃状転位EDを低減させる効果があるが、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlが0.75の場合に、刃状転位EDを低減させる効果が得られやすいことが分かった。
【0074】
図10(a)〜図10(d)は、GaN中間層の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。
図10(a)は、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlが0の場合のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。つまり、図10(a)は、本実施形態に係る窒化物半導体素子の参考例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。 図10(b)は、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlが0.25の場合のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。図10(c)は、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlが0.5の場合のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。図10(d)は、AlGaN中間層53におけるAlの組成比CPAlが0.75の場合のGaN中間層51の表面の一例を例示するノマルスキ顕微鏡像である。
【0075】
図7(a)に表したように、Alの組成比CPAlが0の試料のGaN中間層51の表面には、約数十マイクロメートル(μm)程度の大きさの等方的なモフォロジが形成されている。これに対して、図7(b)〜図7(d)に表したように、Alの組成比CPAlが0.25、0.5、0.75の試料では、異方的なモフォロジがそれぞれ形成されており、その異方性はAlの組成比CPAlによって変化することがわかった。これにより、AlGaN中間層53は、異方性を持つ表面を形成させ、転位を低減させる効果を有することが分かった。
【0076】
図11は、X線回折法により結晶構造解析を行った結果の一例を例示するグラフ図である。
図11に表したグラフ図では、AlN中間層52を800℃で形成した実施形態に係るデータDeと、AlN中間層52を1000℃よりも高い温度で形成した参考例に係るデータDrと、が表されている。
【0077】
図11に表したように、実施形態に係るデータDeおよび参考例に係るデータDrでは、GaNのピークが出現している。
参考例に係るデータDrでは、GaNとAlN(002)との間にピークが出現している。これは、AlN中間層52を1000℃よりも高い温度で形成したことにより、AlN中間層52の格子緩和が生じにくいためであると考えられる。すなわち、AlN中間層52の格子緩和が生じにくいため、GaN中間層51の上に形成されたAlN中間層53の一部は、GaN中間層51の格子定数に格子整合するように形成される。そして、AlN中間層53が所定の厚さだけ成長しても、AlN中間層53の格子定数は、AlNの格子定数には戻らない。そのため、参考例に係るデータDrでは、格子緩和したGaNとAlN(002)との間にピークが出現したと考えられる。
【0078】
これに対して、実施形態に係るデータDeでは、AlN(002)のピークが格子緩和したAlN(002)に対応した回折角に出現している。これは、AlN中間層52を800℃で形成したことにより、AlN中間層52の格子緩和が生じ易いためであると考えられる。すなわち、AlN中間層52の格子緩和が生じ易いため、AlN中間層53の格子定数は、歪みを受けない状態のAlNの格子定数に戻ることができる。そのため、実施形態に係るデータDeでは、AlN(002)のピークが出現したと考えられる。
【0079】
また、実施形態に係るデータDeでは、AlN(101)のピークが出現している。発明者の検討の結果、AlN中間層52を1000℃よりも低い温度で形成した場合には、AlN(101)のピークが出現し易いことが分かった。これにより、AlN(101)のピークが出現した場合には、AlN中間層52を1000℃よりも低い温度で形成したとみなすこともできる。
【0080】
図12(a)および図12(b)は、実施形態に係る積層中間層の一例を例示する透過型電子顕微鏡像である。
また、図13(a)および図13(b)は、参考例に係る積層中間層の一例を例示する透過型電子顕微鏡像である。
図12(b)および図13(b)は、図12(a)および図13(a)に表した透過型電子顕微鏡像の拡大像である。
【0081】
図13(b)に表したように、参考例に係る積層中間層50には、AlGaN中間層が設けられていない。これに対して、図12(b)に表したように、実施形態に係る積層中間層50には、AlGaN中間層が設けられている。実施形態に係る積層中間層50に発生した貫通転位TDの数は、参考例に係る積層中間層50に発生した貫通転位TDの数よりも少ないことが分かった。これにより、積層中間層50に設けられたAlGaN層(AlGaN中間層53)は、貫通転位TDの発生を抑制する効果を有することが分かった。即ち、適度な周期でAlN中間層と、AlGaN中間層と、GaN中間層と、を含む周期構造を有することで、貫通転位TDが大幅に低減される効果が得られることがわかった。
【0082】
本発明者らは、以下の試料も作成した。実施形態に係る構造において、AlGaN中間層の形成におけるNH流量を6slmから1.2slmへと変更し、AlGaN中間層を形成した。このときに形成されたAlGaN中間層のAlの組成比CPAlは0.8であり、膜厚は20nmであった。また、AlGaN中間層53上のGaN中間層の厚さを300nmから450nmへと変更した。その他は、前述した積層中間層50の構造と同一である。
【0083】
この試料に対し、X線ロッキングカーブ測定を行った。そうすると、(002)面のX線半値幅は449秒であり、(004)面のX線半値幅は438秒であり、(101)面のX線半値幅は481秒であり、(202)面のX線半値幅は407秒であった。ここから導出されるらせん転位SCの密度は、3.76×10cm−2であり、刃状転位EDの密度は、6.94×10cm−2であった。これにより、発光特性に大きな影響を持つ刃状転位EDの密度を更に低減することができた。
【0084】
本発明者らは、転位が低減されている効果を調べるため鋭意実験及び解析を行った。その結果、本発明者らが透過型電子顕微鏡の断面像(以下、「断面TEM像」ともいう)からの結果と転位密度との相関を調べたところ、刃状転位EDの密度が小さい試料ほど、断面TEM像から観察されるAlGaN中間層とGaN中間層との界面が平坦であることがわかった。
【0085】
例えば、図13(b)に表した参考例の断面TEM像では、AlN中間層とGaN中間層との界面BSにおいて、AlN中間層の高さには、中間層の厚さとほぼ等しい12nmの高低差がある。つまり、AlN中間層とGaN中間層との境界BSにおいて、AlN層は、平坦でない。AlN中間層の上のGaN中間層の側で転位が横方向に伸び、AlN中間層の上の高さ15nmの範囲で転位が消滅していく傾向がある。一方、図12(b)に表した実験例の断面TEM像では、AlGaN中間層とGaN中間層との界面BSにおいて、AlGaN中間層は、平坦である。AlGaN中間層の上のGaN中間層の側で転位が横に伸びて、AlGaN中間層の上の高さ5nmの範囲で転位が消滅している傾向がある。実験例に係るAlGaN中間層の表面の平坦性は、参考例に係るAlN中間層の表面の平坦性よりも良い。また、実験例に係る貫通転位TDは、参考例と比較すると、より狭い膜厚範囲で消滅している。その結果、刃状転位EDの密度が小さいことがわかった。
【0086】
なお、図12(b)においても、AlN中間層およびAlGaN中間層の凹部DPから貫通転位TDが伝搬している様子が伺える。AlN中間層およびAlGaN中間層の凹凸が、貫通転位TDの伝搬に起因している、または、貫通転位TDが新しく生じていると考えることもできる。このことからも、AlGaN中間層によって表面が平坦化する過程を含むことで、貫通転位TDを低減する効果を有すると考えられる。
【0087】
図14(a)〜図14(c)は、試料の表面の一例を例示する電子顕微鏡像である。
AlN中間層およびAlGaN中間層の平坦性と、転位密度と、の関係を調べるために、本発明者らは次の実験も行った。まず、本発明者らは、AlN中間層の平坦性を調べるために、参考例において、第1周期のAlN中間層を800℃にて形成し、GaN中間層を開始する温度まで昇温し、そのまま成長を終了した試料を作成した。この場合において、試料の表面を電子顕微鏡で観察した像は、図14(a)に表した如くである。下地となるGaN層の上に、AlN中間層がある溝(境界)DIによって各ドメインに区切られ成長している。ドメイン径は、約100nm以上300nm以下程度である。このようなドメインが形成される現象は、歪みが緩和する過程で一般的にみられる現象である。また、この試料の表面を原子間力顕微鏡で測定すると、表面高さのRMS値は、1.43nmであった。この表面形態を有するAlN中間層の上にGaN中間層を設けた場合、参考例となり、刃状転位EDの密度は、4.72×10cm−2と大きい。
【0088】
次に、AlN中間層を観察した前述した実験において、AlN中間層以外の層構造および作成条件を同一として、AlN中間層の成長温度を1000℃に変更(設定)して試料を作成した。同様に、表面を電子顕微鏡で観察した。その結果(像)は、図14(b)に表した如くである。図14(a)に表した試料と比較すると、AlN中間層の各ドメインサイズが小さくなっている。ドメイン径は、約50nm以上150nm以下程度である。また、この試料の表面を原子間力顕微鏡で測定すると、表面高さのRMS値は、1.71nmであり、図14(a)に表した試料の表面高さのRMS値よりも大きい。この表面形態を有するAlN中間層の上にGaN中間層を設け、参考例と同じ構造を形成した試料の刃状転位EDの密度は、1.85×1010cm−2であり、非常に大きい。即ち、ドメインサイズが小さいほど、言い換えれば、ドメイン境界の溝DIが増えるほど、転位密度が高い。
【0089】
次に、実験例のように、AlN中間層の上に厚さが20nmのAlGaN中間層が形成された試料を作成した。AlGaN中間層の表面を電子顕微鏡で観察した像は、図14(c)に表した如くである。表面にドメインが形成されておらず、平坦な表面が得られていることがわかる。原子間力顕微鏡で測定した表面高さのRMS値は、0.62nmであり、図14(a)〜図14(c)に表した試料のうちで最も平坦である。このような平坦な表面上にGaN中間層を更に設け、周期的に繰り返すことで得られる実験例における刃状転位EDの密度は、前述の通り、6.94×10cm−2である。この刃状転位EDの密度は、図14(a)〜図14(c)に表した試料における刃状転位EDの密度のうちで最も小さい。
【0090】
このように、平坦なAlGaN中間層の上にGaN層を形成することで、貫通転位TDの密度が低減される。AlN中間層によって表面に凹凸が形成され、次にAlGaN中間層を設けることで、平坦な表面を得ることが可能となる。例えば、AlN中間層によって生じた最大12nmのドメイン境界における溝DIを、比較的薄い20nmという膜厚のAlGaN中間層で埋め込むことが可能となる。これにより、AlGaN中間層は、溝を埋めこむ効果を有する。このように、表面高さのRMS値が1nmよりも小さいAlGaN系中間層の上にGaN中間層を成長することで、刃状転位EDを低減する効果が得られやすい。
【0091】
図15は、本実験例においてX線逆格子マッピング測定を行った結果の一例である。
横軸Qxは、成長方向と垂直の<11−20>方向の格子間隔の逆数である。つまり、横軸Qxは、a軸格子定数とみなすことができる。縦軸Qzは、成長方向と平行の<0004>方向の格子間隔の逆数である。つまり、縦軸Qxは、c軸格子定数とみなすことができる。GaN中間層のピークPGaNの右上側にAlGaN中間層のピークPAlGaNが存在する。AlGaN中間層のピークPAlGaNにおけるc軸長およびa軸長は、GaN中間層のピークPGaNにおけるc軸長およびa軸長よりもそれぞれ小さい。また、横軸Qxにおいて、AlGaN中間層のピークPAlGaNは、GaN中間層のピークPGaNよりもAlN中間層のピークPAlNに近い。言い換えれば、AlGaN中間層のa軸格子定数とGaN中間層のa軸格子定数との差の絶対値は、AlGaN中間層のa軸格子定数とAlN中間層のa軸格子定数との差の絶対値よりも大きい。
【0092】
このように、AlGaN中間層のa軸格子定数とGaN中間層のa軸格子定数との差の絶対値が、AlGaN中間層のa軸格子定数とAlN中間層のa軸格子定数との差の絶対値よりも大きいときには、クラックを抑制する効果が大きく得られやすい。また、ここでは、AlGaN系中間層の平均のa軸格子定数は、AlN中間層のピークPAlNとAlGaN中間層のピークPAlGaNとのそれぞれのa軸格子定数をそれぞれの膜厚で重みを加味した加重平均値である。AlGaN系中間層のa軸格子定数とGaN中間層のa軸格子定数との差の絶対値は、AlGaN系中間層のa軸格子定数とAlN中間層のa軸格子定数との差の絶対値よりも大きい。このように、AlGaN系中間層のa軸格子定数が、GaNのa軸格子定数よりもAlNのa軸格子定数に近いときに、クラックを抑制する効果が大きく得られやすい。
なお、図15に表した直線(二点鎖線)L1は、横軸Qxの方向にみたときのGaN中間層のピークPGaNとAlN中間層のピークPAlNとの中間線を表している。
【0093】
このようなAlGaN中間層の上に格子定数が比較的大きいGaN中間層を成長することで、GaN中間層は圧縮歪みを受ける。そして、成長層に圧縮歪みを設けることで、結晶成長後の降温時に生じる引っ張り歪みを相殺し、クラックを抑制する効果も持ち合わせることができる。AlGaN中間層のa軸格子定数が、GaNのa軸格子定数よりもAlNのa軸格子定数に近いときに、クラックを抑制する効果が大きく得られやすい。
【0094】
このように、クラックの抑制と転位密度の低減との両方の効果を得るためには、GaN中間層よりも小さいa軸格子間隔を有し、かつ表面が平坦なAlGaN系中間層を用意することが好ましい。本実施形態によれば、このような構造を形成することが可能となる。
【0095】
(第2の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体ウェーハに係る。このウェーハには、例えば、半導体装置の少なくとも一部、または、半導体装置の少なくとも一部となる部分が設けられている。この半導体装置は、例えば、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどを含む。
【0096】
図16(a)〜図16(d)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハを例示する模式図である。
図16(a)は、第2の実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの構成を例示する模式的断面図である。図16(b)は、積層中間層におけるAlの組成比(CPAl)を例示するグラフ図である。図16(c)は、積層中間層における成長温度GTを例示するグラフ図である。図16(d)は、積層中間層におけるa軸格子定数LCを例示するグラフ図である。
【0097】
図16(a)に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ210は、シリコン基板40と、下地層60と、積層中間層50と、機能層10と、を備える。下地層60および積層中間層50のそれぞれには、第1の実施形態に関して説明した構成を適用することができる。
【0098】
すなわち、下地層60は、AlNバッファ層62と、GaN下地層61と、を有する。あるいは、下地層60は、AlGaN下地層63をさらに有していてもよい。
積層中間層50は、GaN中間層51と、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、を有する。あるいは、積層中間層50は、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、がこの順に周期的に複数回積層された構造を有していてもよい。
【0099】
実施形態の積層中間層50では、積層方向に対して平行方向の格子間隔は、積層方向に進むにつれて、歪みの影響を受けない状態のAlNの格子間隔からGaNの格子間隔へ変化する。
【0100】
すなわち、AlN中間層52がGaN下地層61の上に形成されている。AlN中間層52の厚さは、例えば約12nmである。AlN中間層52の結晶成長温度は、例えば500℃以上、1050℃以下であることが好ましい。図16(c)に表したように、AlN中間層52の形成温度は、例えば800℃である。そのため、AlN中間層52は、格子緩和し易くなる。これにより、AlN中間層52の形成の初期から、下地となるGaN下地層61からの引っ張り歪みを受けにくくなる。その結果、下地となるGaN下地層61からの歪みの影響を受けないよう、AlN中間層52を形成することができる。このようにして、格子緩和したAlN中間層52がGaN下地層61の上に形成される。
【0101】
続いて、AlNよりも格子定数の大きいAlGaN中間層53がAlN中間層52の上に形成されている。AlGaN中間層53の厚さは、例えば5nm以上、2000nm以下であることが好ましい。AlGaN中間層53の厚さが5nmよりも薄いと、クラックの発生を抑制する効果および転位を低減させる効果が得られにくい。AlGaN中間層53の厚さが2000nmよりも厚いと、転位を低減させる効果が飽和するだけでなく、クラックが生じやすくなる。AlGaN中間層53の厚さは、より好ましくは100nm未満である。AlGaN中間層53の厚さを100nm未満にすることで、転位密度を効果的に低減することができる。AlGaN中間層53の厚さは、例えば約13nmである。
【0102】
AlGa1−XNは、厚さが薄い状態すなわち成長の初期では、AlNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。即ち、AlGa1−xNのa軸の格子間隔は、GaNのa軸の格子間隔と比較すると、AlNのa軸の格子間隔に近い。そして、AlGa1−XNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、AlGa1−XNは、歪みを受けない状態のAlGa1−XNの格子間隔を有するようになる。
【0103】
AlGaN中間層53の形成温度は、例えば約1130℃である。AlGaN中間層53の形成温度がAlN中間層52の形成温度よりも80℃以上高いと、AlNの格子定数に格子整合するように成長する効果がより大きく得られる。即ち、圧縮歪みがかかり、クラックを低減する効果が得られやすい。また、転位を低減する効果がより大きく得られる。
【0104】
続いて、歪みが緩和された状態のAlGaN中間層53の上に、AlGaN中間層53よりも格子定数の大きいGaN中間層51が形成されている。GaN中間層51は、成長の初期では、AlGa1−XNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、GaNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、GaNの格子定数は、歪みを受けない状態のGaNの格子定数に戻る。
【0105】
図16(c)に表したように、GaN中間層51の形成温度は、例えば約1130℃である。GaN中間層51の形成温度がAlN中間層52の形成温度よりも200℃以上高いと、AlGa1−XNの格子定数に格子整合するように成長する厚さが増大する。そのため、GaN中間層51の結晶成長時に、圧縮応力がかかり易くなる。これにより、クラックの発生を抑制する効果がより大きく得られる。GaN中間層51の厚さは、例えば約260nmである。
【0106】
このような窒化物半導体ウェーハ210により、シリコン基板上に形成したクラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子のための窒化物半導体ウェーハを提供することができる。
【0107】
(第3の実施形態)
図17は、第3の実施形態に係る窒化物半導体層の製造方法を例示するフローチャート図である。
図17に表したように、本製造方法においては、シリコン基板40の上に下地層60を形成する(ステップS110)。続いて、下地層60の上に、積層中間層50を形成する(ステップS120)。続いて、積層中間層50の上に、機能層10を形成する(ステップS130)。
【0108】
下地層60の形成は、厚さが約30nmのAlNバッファ層62を形成すること、および厚さが約300nmのGaN下地層61をAlNバッファ層62の上に形成することを含む。あるいは、下地層60の形成は、厚さが約30nmのAlNバッファ層62を形成すること、厚さが約40nmのAlGaN下地層63をAlNバッファ層62の上に形成すること、および厚さが約300nmのGaN下地層61をAlGaN下地層63の上に形成することを含む。
【0109】
積層中間層50の形成は、厚さが5nm以上、100nm以下のAlN中間層52を500℃以上、1050℃以下の形成温度でGaN下地層61の上に形成することを含む。積層中間層50の形成は、厚さが5nm以上、2000nm以下のAlGaN中間層53をAlN中間層52の形成温度よりも80℃以上高い形成温度でAlN中間層52の上に形成することを含む。積層中間層50の形成は、厚さ約260nmのGaN中間層51をAlN中間層52の形成温度よりも80℃以上高い形成温度でAlGaN中間層53の上に形成することを含む。
あるいは、積層中間層50の形成は、AlN中間層52と、AlGaN中間層53と、GaN中間層51と、をこの順に周期的に複数回積層することを含む。
【0110】
このような製造方法により、シリコン基板上に形成したクラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体層を製造することができる。
【0111】
実施形態において、半導体層の成長には、例えば、有機金属気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法、及び、ハライド気相エピタキシー法(HVPE)法などを用いることができる。
【0112】
例えば、MOCVD法またはMOVPE法を用いた場合では、各半導体層の形成の際の原料には、以下を用いることができる。Gaの原料として、例えばTMGa(トリメチルガリウム)及びTEGa(トリエチルガリウム)を用いることができる。Inの原料として、例えば、TMIn(トリメチルインジウム)及びTEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができる。Alの原料として、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。Nの原料として、例えば、NH(アンモニア)、MMHy(モノメチルヒドラジン)及びDMHy(ジメチルヒドラジン)などを用いることができる。Siの原料としては、SiH(モノシラン)、Si(ジシラン)などを用いることができる。
【0113】
実施形態によれば、シリコン基板上に形成したクラックおよび転位が少ない高品位の窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を提供することができる。
【0114】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BInAlGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0115】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれは良い。
【0116】
また、本願明細書において、「格子定数」及び「格子間隔」は、厳密な材料特有の格子間隔だけに限定されるわけではない。例えば「歪みの影響を受けていない状態のAlNの格子定数」は、例えば下地となるGaN層から完全にコヒーレントに成長していないことを意味している。100%の格子緩和でなくとも、実質的な格子緩和が起きていればよい。
【0117】
また、AlN中間層、AlGaN中間層、およびGaN中間層のような薄膜の層においては、形成後に意図せず隣接層間において原子が拡散し、本発明の効果を逸脱しない範囲で組成が変化することがある。この場合においても、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0118】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、窒化物半導体素子及びウェーハに含まれる基板、AlNバッファ層、AlGaN下地層、GaN下地層、AlN中間層、AlGaN中間層、GaN中間層および機能層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0119】
その他、本発明の実施の形態として上述した窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0120】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0121】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0122】
10 機能層、 40 シリコン基板、 50 積層中間層、 50a 第1積層中間層、 50b 第2積層中間層、 51 GaN中間層、 51a 第1GaN中間層、 51b 第2GaN中間層、 52 AlN中間層、 52a 第1AlN中間層、 52b 第2AlN中間層、 53 AlGaN中間層、 53a 第1AlGaN中間層、 53b 第2AlGaN中間層、 54 ステップ層、 54a 第1ステップ層、 54b 第2ステップ層、 55 傾斜層、 55a 第1傾斜層、 55b 第2傾斜層、 60 下地層、 61 GaN下地層、 62 AlNバッファ層、 63 AlGaN下地層、 110、120、130、140 窒化物半導体素子、 210 窒化物半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成されたAlNバッファ層を含む下地層と、
前記下地層の上に設けられた第1積層中間層であって、
前記下地層の上に設けられた第1AlN中間層と、
前記第1AlN中間層の上に設けられた第1AlGaN中間層と、
前記第1AlGaN中間層の上に設けられた第1GaN中間層と、
を含む第1積層中間層と、
前記第1積層中間層の上に設けられた機能層と、
を備え、
前記第1AlGaN中間層は、前記第1AlN中間層に接する第1ステップ層を含み、
前記第1ステップ層におけるAl組成比は、前記第1AlN中間層から前記第1ステップ層に向かう積層方向において、ステップ状に減少していることを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記第1AlGaN中間層は、前記第1ステップ層の上に設けられた傾斜層をさらに含み、
前記傾斜層におけるAl組成比は、前記積層方向において漸減していることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記第1積層中間層と前記機能層との間に設けられた第2積層中間層をさらに備え、
前記第2積層中間層は、
前記第1GaN中間層の上に設けられた第2AlN中間層と、
前記第2AlN中間層の上に設けられた第2AlGaN中間層と、
前記第2AlGaN中間層の上に設けられた第2GaN中間層と、
を含み、
前記第2AlGaN中間層は、前記第2AlN中間層に接する第2ステップ層を含み、
前記第2ステップ層におけるAl組成比は、前記積層方向において、ステップ状に減少していることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記AlGaN中間層の厚さは、5ナノメートル以上、2000ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記AlN中間層の厚さは、5ナノメートル以上、100ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記AlN中間層は、前記GaN中間層が形成される温度よりも80℃以上低い温度で形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
基板の上に形成されたAlNバッファ層を含む下地層と、
前記下地層の上に設けられた第1積層中間層であって、
前記下地層の上に設けられた第1AlGaN系中間層と、
前記第1AlGaN系中間層の上に設けられた第1GaN中間層と、
を含む第1積層中間層と、
前記第1積層中間層の上に設けられた機能層と、
を備え、
前記第1AlGaN系中間層のa軸格子定数とGaNのa軸格子定数との差の絶対値は、前記第1AlGaN系中間層のa軸格子定数とAlNのa軸格子定数との差の絶対値よりも大きいことを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記第1AlGaN系中間層は、
5ナノメートル以上、100ナノメートル以下の厚さを有する第1AlN中間層と、 5ナノメートル以上、2000ナノメートル以下の厚さを有する第1AlGaN中間層と、
を含むことを特徴とする請求項7記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記第1積層中間層と前記機能層との間に設けられた第2積層中間層をさらに備え、
前記第2積層中間層は、
前記第1GaN中間層の上に設けられた第2AlGaN系中間層と、
前記第2AlGaN系中間層の上に設けられた第2GaN中間層と、
を含み、
前記第2AlGaN系中間層のa軸格子定数と前記GaNのa軸格子定数との差の絶対値は、前記第2AlGaN系中間層のa軸格子定数と前記AlNのa軸格子定数との差の絶対値よりも大きく、
前記第2AlGaN系中間層の表面高さのRMS値は、1ナノメートル以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記第1AlGaN中間層の表面は、前記第1AlN中間層の表面よりも平坦であることを特徴とする請求項1〜6、8、および9のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記第1AlGaN中間層の表面高さのRMS値は、1ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1〜6、8、および9のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項12】
基板と、
前記基板の上に設けられたAlNバッファ層を含む下地層と、
前記下地層の上に設けられた積層中間層であって、
前記下地層の上に設けられたAlN中間層と、
前記AlN中間層の上に設けられたAlGaN中間層と、
前記AlGaN中間層の上に設けられたGaN中間層と、
を含む積層中間層と、
前記積層中間層の上に設けられた機能層と、
を備え、
前記AlGaN中間層は、前記AlN中間層に接するステップ層を含み、
前記ステップ層におけるAl組成比は、前記AlN層から前記ステップ層に向かう積層方向において、ステップ状に減少していることを特徴とする窒化物半導体ウェーハ。
【請求項13】
前記AlGaN中間層は、前記ステップ層の上に設けられた傾斜層をさらに含み、
前記傾斜層におけるAl組成比は、前記積層方向において漸減していることを特徴とする請求項12記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項14】
前記AlN中間層は、前記GaN中間層が形成される温度よりも80℃以上低い温度で形成されたことを特徴とする請求項12または13に記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項15】
基板と、
前記基板の上に形成されたAlNバッファ層を含む下地層と、
前記下地層の上に設けられた積層中間層であって、
前記下地層の上に設けられたAlGaN系中間層と、
前記AlGaN系中間層の上に設けられたGaN中間層と、
を含む積層中間層と、
前記積層中間層の上に設けられた機能層と、
を備え、
前記AlGaN系中間層のa軸格子定数とGaNのa軸格子定数との差の絶対値は、前記AlGaN系中間層のa軸格子定数とAlNのa軸格子定数との差の絶対値よりも大きいことを特徴とする窒化物半導体ウェーハ。
【請求項16】
前記AlGaN系中間層は、
5ナノメートル以上、100ナノメートル以下の厚さを有するAlN中間層と、
5ナノメートル以上、2000ナノメートル以下の厚さを有するAlGaN中間層と、
を含むことを特徴とする請求項15記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項17】
前記AlGaN中間層の表面は、前記AlN中間層の表面よりも平坦であることを特徴とする請求項16記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項18】
前記AlGaN中間層の表面高さのRMS値は、1ナノメートル以下であることを特徴とする請求項16記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項19】
AlNバッファ層を含む下地層をシリコン基板の上に形成する第1工程と、
前記下地層の上に、500℃以上、1050℃以下で、AlN中間層を形成し、
前記AlN中間層の上に、前記AlN中間層を形成する温度よりも80℃以上高い温度で前記AlN層に接するステップ層を含むAlGaN中間層を形成し、
前記AlGaN中間層に上に、前記AlN中間層を形成する温度よりも80℃以上高い温度でGaN中間層を形成して積層中間層を形成する第2工程と、
前記積層中間層の上に機能層を形成する第3工程と、
を備え、
前記AlN中間層から前記ステップ層に向かう積層方向において、前記ステップ層におけるAl組成比をステップ状に減少させることを特徴とする窒化物半導体層の製造方法。
【請求項20】
前記第2工程において、前記ステップ層と前記GaN中間層とのあいだに傾斜層をさらに形成し、前記傾斜層におけるAl組成比を前記積層方向において漸減させることを特徴とする請求項19記載の窒化物半導体層の製造方法。
【請求項21】
AlNバッファ層を含む下地層をシリコン基板の上に形成する第1工程と、
前記下地層の上にAlN中間層を形成し、
前記AlN中間層の上に前記AlN層に接するステップ層を含むAlGaN中間層を形成し、
前記AlGaN中間層に上にGaN中間層を形成して積層中間層を形成する第2工程と、
前記積層中間層の上に機能層を形成する第3工程と、
を備え、
前記AlGaN中間層のa軸格子定数とGaNのa軸格子定数との差の絶対値を、前記AlGaN中間層のa軸格子定数とAlNのa軸格子定数との差の絶対値よりも大きくすることを特徴とする窒化物半導体層の製造方法。
【請求項22】
前記AlN中間層の厚さを5ナノメートル以上、100ナノメートル以下とし、
前記AlGaN中間層の厚さを5ナノメートル以上、2000ナノメートル以下とすることを特徴とする請求項21記載の窒化物半導体層の製造方法。
【請求項23】
前記AlGaN中間層の表面を、前記AlN中間層の表面よりも平坦とすることを特徴とする請求項21または22に記載の窒化物半導体層の製造方法。
【請求項24】
前記AlGaN中間層の表面高さのRMS値を、1ナノメートル以下とすることを特徴とする請求項21または22に記載の窒化物半導体層の製造方法。
【請求項25】
前記第1工程と前記第3工程との間において、前記第2工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項19〜24のいずれか1つに記載の窒化物半導体層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−70013(P2013−70013A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269872(P2011−269872)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【特許番号】特許第5127978号(P5127978)
【特許公報発行日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】