説明

窒化物半導体結晶成長装置およびその成長方法

【課題】基板上に効率よく三族窒化物半導体の膜を生成し、かつ生成膜の均一性を向上させる。
【解決手段】窒化物半導体結晶成長装置100は、窒素含有ガス供給口8と三族金属含有ガス供給口9と、窒素含有ガス6を分解して活性種を生成する触媒材料1と、を備えており、触媒材料1は、窒素含有ガス供給口8の内部等に設けられており、窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9は、何れも基板面に正対している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体を成長する半導体製造装置であって、特に三族窒化物半導体の気相エピタキシャル成長ウエハーの製造に好適な半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlN、InN等の三族金属を用いた窒化物半導体は、1.9eVから6.2eVまで広域のバンドギャップを持つため、紫外域から可視光全域をカバーする発光ダイオード、レーザダイオード等の発光素子材料として有望な半導体である。また、近年において、上記窒化物半導体は、発光素子以外にも太陽電池、パワーデバイス等への実用化が期待されている材料である。特にGaNまたはInGaNといった材料は、青色発光素子材料として実用化されており、その高品質な材料ならびに高効率な成長法および成長装置の開発が期待されている。
【0003】
上記窒化物半導体の成長方法として、一般的に有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;以下「MOCVD」と記す)がよく知られている。MOCVDの他の呼称としては、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)がある。
【0004】
MOCVD法に用いられる従来の縦型MOCVD装置の構成の一例を説明すれば、以下の通りである。従来の縦型MOCVD装置においては、ガス供給源から反応炉の内部の成長室に反応ガスおよびキャリアガスを導入するためのガス配管が接続されており、反応炉における内部の成長室には該成長室に反応ガスおよびキャリアガスを導入するためのガス吐出孔を配設したガス供給機構がガス導入部として設置されている。
【0005】
また、成長室の下部には、基板を載置するためのサセプタが設置されている。サセプタは、基板を加熱するためのヒーターを備え、アクチュエータによって回転軸を中心に回転自在となっている。
【0006】
さらに、反応炉の下部には、成長室内のガスを外部に排気するためのガス排気部が設置されている。このガス排気部は、パージラインを介して、排気されたガスを無害化するための排ガス処理装置に接続されている。
【0007】
前記構成の縦型MOCVD装置において、化合物半導体結晶を成長させる場合には、まず、サセプタに基板を設置し、サセプタを回転させ、ヒーターにより基板を所定の温度に加熱する。その後、ガス供給機構に配設されているガス吐出孔から成長室に反応ガスおよびキャリアガス(不活性ガス)を導入する。
【0008】
このように、MOCVD法は、有機金属ガスをキャリアガスと共に成長室に導入して加熱し、所定の基板上で気相反応させることにより、その基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。MOCVD法を用いた化合物半導体結晶の成長においては、化合物半導体結晶の品質を向上させながら、コストを抑えて、どのようにして歩留まりと生産能力とを最大限確保するかということが常に高く要求されている。
【0009】
GaN等を基板に成長させる場合、窒素源としてアンモニアガス(NH)が用いられるのが一般的である。しかし、NHは、難分解性であることが知られているため、基板の成長には、Ga源(例えば、トリメチルガリウム)等に対して極めて過剰なNHを供給する必要があり、非効率的である。また、基板表面においてNHを分解するためには、基板を通常1000℃程度の高温に加熱する必要がある。しかし、この加熱によって、GaN、InGaN等の成長において、基板表面からの窒素の熱脱離による結晶性低下または相分離といった基板の成長を妨げる問題が生じる。
【0010】
そのため、ある程度の低温条件において、NHを供給し、基板上で効率よく反応させるための方法が検討されている。例えば、特許文献1ではクラッキングセルを用いた方法が開示されている。また、特許文献2ではタングステンメッシュを通電加熱しNHを分解供給する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4-74858号公報(1992年3月10日公開)
【特許文献2】特開2008−56499号公報(2008年3月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1において、窒化膜を形成するために、圧力を10−4(Torr)以下の真空状態にする必要がある。しかし、通常のMOCVDにおいては、成長速度確保等の観点から数Torr〜数百Torrの成長条件が用いられるため、上記技術は実用化が困難である。
【0013】
一方、特許文献2において、タングステンメッシュを1000℃以上に加熱する必要があり、成長基板の温度上昇が懸念される。特に基板温度上昇を嫌うInGaN等の成膜形成には適用することは困難である。また、生産性向上のためには、大型基板および複数枚基板を同時に成長させることが好ましいが、特許文献1および2には大型基板および複数枚基板を均一に成長させるための具体的な方法は提示されていない。そのため、上記技術を用いた金属窒化物の膜形成を実用化することは、困難である。
【0014】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板上に効率よく均一に三族窒化物半導体の膜を生成するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、三族窒化物半導体の膜を基板上に形成する窒化物半導体結晶成長装置であって、窒素含有ガスを該基板上に供給する窒素含有ガス供給口と三族金属含有ガスを該基板上に供給する三族金属含有ガス供給口と、該窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料と、を備えており、該触媒材料は、該窒素含有ガス供給口の内部または端部に設けられており、該窒素含有ガス供給口および該三族金属含有ガス供給口は、何れも該基板の基板面に正対していることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料は、窒素含有ガス供給口の内部または端部に設けられている。そのため、多くの窒素含有ガスを触媒材料に接触させることができる。そして、多くの窒素含有ガスが分解活性化されるため、基板上において効率的に三族窒化物半導体の膜を生成することができるという効果を奏する。
【0017】
さらに、触媒材料は、窒素含有ガス供給口の内部または端部に設けられており、特許文献2のように基板と窒素含有ガス供給口との間に設けられてはいない。そのため、窒素含有ガス供給口および三族金属含有ガス供給口を共に基板の基板面に正対させた場合であっても、三族金属含有ガス供給口から供給される三族金属含有ガスが、触媒材料に触れないように構成することができる。つまり、触媒材料への三族金属含有ガスの付着を防止することができるため、触媒材料による窒素含有ガスの活性化を持続させることができ、効率的に三族窒化物半導体の膜を基板上に生成することができるという効果を奏する。さらに、三族金属含有ガスが触媒材料に触れない状態によって成膜した場合には、三族金属含有ガスが触媒材料に触れた場合と比較して、結晶性の高い三族窒化物半導体層を基板上に形成することができるという効果を奏する。
【0018】
そして、窒素含有ガス供給口および三族金属含有ガス供給口を何れも基板の基板面に正対させているため、基板に対して、均一に窒素含有ガスおよび三族金属含有ガスを供給することができる。よって、生成される三族窒化物半導体層の均一性を向上させることができるという効果を奏する。
【0019】
また、反応室へとつながっている窒素含有ガス供給口の内部または端部に触媒材料を設置することにより、活性種生成後に活性種が移動する距離を短くして、より多くの窒素含有ガスを活性状態のまま基板へと供給することができる。このとき、三族金属含有ガスは窒素含有ガスとは異なる供給口から反応室内に供給される。そのため、ガスが基板に到達する前に、供給口内または触媒材料上で成膜反応が生じる不具合を避けることができる。これにより、基板への成膜に寄与しない材料の消費、および、触媒材料上での成膜に起因する触媒効果の減衰を防ぐことができる。
【0020】
以上のように、上記の構成によれば、基板上に効率よく均一に三族窒化物半導体の膜を生成することができる。
【0021】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記触媒材料を加熱する触媒加熱手段を備えていることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、触媒材料を加熱しているため、触媒材料はより活性化される。そのため、窒素含有ガスがより活性化された触媒材料と接触することによって、効率的に活性種を生成することができるという効果を奏する。これにより、例えば、基板温度を低温に設定した状態においても、触媒材料が窒素含有ガスを効率的に分解活性化しているため、基板上に結晶性に優れた三族窒化物半導体層を成長させることができるという効果を奏する。
【0023】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記三族金属含有ガス供給口を冷却する冷却手段を備えていることが好ましい。
【0024】
窒化物半導体成長装置が触媒過熱手段を備えている場合には、当該触媒加熱手段による熱で三族金属含有ガス供給口および三族金属含有ガスが加熱されるおそれがある。このとき、熱により三族金属が三族金属含有ガス供給口内に析出するおそれがある。
【0025】
しかし、上記の構成によれば、冷却手段を用いて三族金属含有ガス供給口を冷却しているため、触媒加熱手段の熱によって三族金属含有ガスが必要以上に加熱されることはない。したがって、触媒加熱手段の熱によって三族金属含有ガスが加熱されず、三族金属含有ガス供給口に三族金属が析出することを防止できる。
【0026】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記窒素含有ガス供給口および上記三族金属含有ガス供給口を夫々複数備えていることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、三族金属含有ガス供給口から供給される三族金属含有ガスが触媒材料に触れないように構成することができるため、複数の供給口を何れも基板の基板面に正対させることができる。複数の供給口を設けたことによって、広範囲に、かつ均等に各原料ガスを供給することができる。そのため、大面積基板または複数枚基板を処理するときに、三族窒化物半導体層をより均一に形成できるという効果を奏する。
【0028】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記窒素含有ガス供給口および上記三族金属含有ガス供給口は、上記基板に正対し、上記基板よりも大きい面積を有する面内に互いに隣接して配設されていることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、窒素含有ガスおよび三族金属含有ガスを基板に対して均一に吐出することができる。そのため、大型の基板または複数枚の基板に対応できるように装置を大型化した場合であっても、成膜される三族窒化物半導体層の均一性を広範囲で確保できる。
【0030】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記窒素含有ガス供給口および上記三族金属含有ガス供給口が、上記窒素含有ガスおよび上記三族金属含有ガスをシャワー状に吐出するように配置されていることがより好ましい。
【0031】
上記構成によれば、上記窒素含有ガスおよび上記三族金属含有ガスをシャワー状に吐出することができる。そのため、基板に正対する複数の窒素含有ガス供給口および複数の三族金属含有ガス供給口から略同量の原料ガスを均等に吐出することができる。よって、大面積においても三族窒化物半導体層の面内の組成分布をより均一にすることができるという効果を奏する。
【0032】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記基板が格納される反応室の圧力が、10Torr以上760Torrであることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、三族窒化物半導体層の結晶性を高めることができるという効果を奏する。
【0034】
上記構成によれば、圧力を真空状態(10−4Torr程度)にする必要がないため、成長速度の観点から実用化に適しているという効果を奏する。
【0035】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記基板を回転させる回転手段をさらに備えていることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、基板を回転させることができるため、均一な三族窒化物半導体層を形成できるという効果を奏する。
【0037】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記窒素含有ガスが、アンモニアを含有していることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、アンモニアのような難分解性のガスも効率的に分解活性化することができるという効果を奏する。そのため、三族窒化物半導体層を基板上に形成するための窒素源として、アンモニアを用いることができる。
【0039】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記基板を400℃以上950℃以下に加熱する基板加熱手段をさらに備えていることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、基板を加熱していることよって活性化されていない窒素含有ガスを、基板上において分解活性化することができるという効果を奏する。
【0041】
また、基板加熱手段が基板を加熱することによって輻射熱が生じるため、当該輻射熱は触媒材料を加熱することができる。つまり、輻射熱によって触媒材料は加熱活性化されるため、窒素含有ガスをより効率的に分解活性化することができるという効果を奏する。
【0042】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記触媒材料が、Pt、W、Mo、NiおよびFeからなる群より選ばれる単体、または、Pt、W、Mo、NiおよびFeからなる群より選ばれる少なくとも何れかを含有している材料であることが好ましい。
【0043】
上記構成によれば、Pt、W、Mo、Ni、Fe等の触媒材料を使用することによって、窒素含有ガスを効率的に分解することができるという効果を奏する。
【0044】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、上記三族窒化物半導体が、GaN、AlN、InN、InGaN、AlGaNおよびInAlGaNからなる群より選ばれる三族窒化物半導体であることが好ましい。
【0045】
上記構成によれば、窒素空孔、結晶欠陥等の少ないGaN、AlN、InN、InGaN、AlGaN、InAlGaN等の三族窒化物半導体層を有する基板を得ることができる。そのため、より高品質な半導体材料を得ることができるという効果を奏する。
【0046】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長反応は、三族窒化物半導体の膜を基板上に形成する窒化物半導体結晶成長方法であって、該基板の基板面に正対している窒素含有ガス供給口を介して窒素含有ガスを該基板上に供給するとともに、該基板の基板面に正対している三族金属含有ガス供給口を介して三族金属含有ガスを該基板上に供給するガス供給工程を包含しており、該窒素含有ガス供給口の内部または端部には、該窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料が設置されていることを特徴とする。
【0047】
上記の方法によれば、本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置と同等の効果を奏する。
【0048】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長反応は、上記ガス供給工程では、上記触媒材料を加熱するとともに、上記三族金属含有ガス供給口を冷却することが好ましい。
【0049】
上記の方法によれば、触媒材料を加熱しているため、触媒材料はより活性化される。そのため、窒素含有ガスがより活性化された触媒材料と接触することによって、効率的に活性種を生成することができるという効果を奏する。これにより、例えば、基板温度を低温に設定した状態においても、触媒材料が窒素含有ガスを効率的に分解活性化しているため、基板上に結晶性に優れた三族窒化物半導体層を成長させることができるという効果を奏する。
【0050】
さらに、冷却手段を用いて、三族金属含有ガス供給口を冷却しているため、三族金属含有ガスが必要以上に加熱されることはない。したがって、触媒材料を加熱する場合であっても、三族金属含有ガスは加熱されず、三族金属含有ガス供給口に三族金属が析出することを防止できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明に係る窒化物半導体結晶成長装置は、三族窒化物半導体の膜を基板上に形成する窒化物半導体結晶成長装置であって、窒素含有ガスを該基板上に供給する窒素含有ガス供給口と三族金属含有ガスを該基板上に供給する三族金属含有ガス供給口と、該窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料と、を備えており、該触媒材料は、該窒素含有ガス供給口の内部または端部に設けられており、該窒素含有ガス供給口および該三族金属含有ガス供給口は、何れも該基板の基板面に正対していることを特徴とする窒化物半導体結晶成長装置であるため、基板上に効率よく均一に三族窒化物半導体の膜を生成することが可能である。
【0052】
また、本発明に係る窒化物半導体結晶成長方法は、三族窒化物半導体の膜を基板上に形成する窒化物半導体結晶成長方法であって、該基板の基板面に正対している窒素含有ガス供給口を介して窒素含有ガスを該基板上に供給するとともに、該基板の基板面に正対している三族金属含有ガス供給口を介して三族金属含有ガスを該基板上に供給するガス供給工程を包含しており、該窒素含有ガス供給口の内部または端部には、該窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料が設置されていることを特徴とする窒化物半導体結晶成長方法であるため、基板上に効率よく均一に三族窒化物半導体の膜を生成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置の模式図である。
【図2】触媒材料および窒素含有ガス供給口の構成のバリエーションを示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置の模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置の模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置の一部を拡大した模式図である。
【図6】窒素含有ガス供給口および三族金属含有ガス供給口の配置のバリエーションを示す模式図である。
【図7】触媒材料によるアンモニア分解効果実験の結果を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置の一部を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
〔第1実施形態〕
(窒化物半導体結晶成長装置)
図1は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る窒化物半導体結晶成長装置100である。図1に示すように、窒化物半導体結晶成長装置100は、触媒材料1、ヒーター(触媒加熱手段)2、サセプタ4、基板加熱ヒーター(基板加熱手段)5、複数の窒素含有ガス供給口8、複数の三族金属含有ガス供給口9、排気口12および回転機構(回転手段)13を備えている。
【0055】
窒化物半導体結晶成長装置100は、三族窒化物半導体の膜を基板上に形成するための装置である。三族窒化物半導体は、三族金属(Al、Ga、In等)と窒素とから形成されている金属窒化物である。三族窒化物半導体としては、例えば、GaN、AlN、InN、InGaN、AlGaN、InAlGaN等の金属窒化物が挙げられる。
【0056】
(基板)
基板3は、三族窒化物半導体の膜を形成するための基板である。
【0057】
(サセプタ)
サセプタ4は、基板3を載置するための台である。
【0058】
(反応室)
反応室は、窒化物半導体結晶成長装置100の内部を指す。また、三族窒化物半導体の膜が形成される場を指す。
【0059】
(窒素含有ガス)
窒素含有ガス6は、三族窒化物半導体の窒素源となる原料ガスである。窒素含有ガス6は、窒素原子を含有しているガスを含んでいればよい。例えば、窒素含有ガス6は、NH、N等の窒素化合物を含んでいてもよい。また、窒素含有ガス6はさらに窒素化合物以外の気体、例えば、H等を含んでいてもよい。
【0060】
(窒素含有ガス供給口)
窒素含有ガス供給口8は、窒素含有ガス6を反応室内に吐出するためのガス供給手段である。窒素含有ガス供給口8は複数設置されている。各々の窒素含有ガス供給口8は、基板3に正対している。これによって、窒素含有ガス6を、基板3に対し、基板面に垂直な方向から吐出することができる。
【0061】
(触媒材料)
触媒材料1は、窒素含有ガス6を分解活性化し、活性種(ラジカル)を生成するための触媒である。触媒材料1は、窒素含有ガス供給口8の内部または出口側の端部に取り付けられている。
【0062】
窒素含有ガス6は、窒素含有ガス供給口8に取り付けられている触媒材料1に接触することによって、分解活性化される。例えば、触媒材料1によってNHが分解される場合には、NH、NH、N等の窒素を含んでいる活性種が生成される。
【0063】
触媒材料1は、窒素含有ガス6を分解活性化することができるものであれば限定されないが、例えば、Pt、W、Mo、Ni、Fe等の単体またはPt、W、Mo、Ni、Fe等の少なくとも何れかを含有している材料(合金)が好ましく、特に、Pt、WもしくはMoの単体、または、Pt、WもしくはMoの少なくとも何れかを含有している材料がより好ましい。また、触媒材料1がFeを含有している場合には、他にPt、W、Mo等の少なくとも何れかを含有していることが好ましい。また、触媒材料1の設置面積が大きいほど活性化効果は大きい。
【0064】
図2(a)〜(f)は、触媒材料1および窒素含有ガス供給口8の構成のバリエーションを示す断面図である。触媒材料1および窒素含有ガス供給口8は、例えば、図に示されるような任意の構成をとることができる。なお、図2では、説明のため、ヒーター2は省略している。
【0065】
一例において、図2(a)に示すように、窒素含有ガス供給口8の内部(内壁8bに囲まれた部分)に、メッシュ状の触媒材料1aを設置することができる。このとき、触媒材料1aは、特に限定されないが、窒素含有ガス供給口8の出口付近に配置されることがより好ましい。
【0066】
また、一例において、図2(b)に示すように、窒素含有ガス供給口8の内部に多孔質の触媒材料1bを設置してもよい。多孔質の触媒材料1bとしては、例えば、ハニカム構造等をとることができる。また、窒素含有ガス供給口8の内部に多孔質状の構造が形成されるように触媒材料1を設置してもよい。例えば、窒素含有ガス供給口8の内部に、触媒材料1を粒状に形成して充填してもよいし、触媒材料1をスチールウールのような金属ウール状に形成して充填してもよい。図2(a)の例と同様に、触媒材料1bは、特に限定されないが、窒素含有ガス供給口8の出口付近に配置されることが好ましい。
【0067】
また、一例において、図2(c)に示すように、窒素含有ガス供給口8の内壁8bの少なくとも一部を触媒材料1cによってコーティングしてもよい。
【0068】
また、一例において、図2(d)に示すように、窒素含有ガス供給口8の出口側の端部にメッシュ状の触媒材料1dを設置してもよい。
【0069】
また、一例において、図2(e)に示すように、窒素含有ガス供給口8の出口側の端部に多孔質の触媒材料1eを設置してもよい。
【0070】
また、一例において、図2(f)に示すように、窒素含有ガス供給口8の内壁8bを触媒材料1fによって形成してもよい。
【0071】
以上のように、触媒材料1a〜1fを窒素含有ガス供給口8の内部または出口側の端部に設置することにより、触媒材料1a〜1fは窒素含有ガス供給口8から供給される窒素含有ガス6を、効率的に分解活性化できる。
【0072】
(三族金属含有ガス)
三族金属含有ガス7は、三族窒化物半導体の三族金属源となる原料ガスである。三族金属含有ガス7は、三族金属を含有している比較的低温においてガスである化合物を含んでいれば限定されないが、例えば、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)等の有機金属ガスを含んでいることが好ましい。またキャリアガスとしてN、H等が含まれていてもよい。
【0073】
(三族金属含有ガス供給口)
三族金属含有ガス供給口9は、三族金属含有ガス7を反応室に吐出するためのガス供給手段である。なお、三族金属含有ガス供給口9は、吐出する三族金属含有ガス7が触媒材料1に触れないように配置されている。また、三族金属含有ガス供給口9は複数設置されている。
【0074】
また、三族金属含有ガス供給口9は、窒素含有ガス供給口8と同様、基板3に正対している。これによって、三族金属含有ガス7を、基板3に対し、基板面に垂直な方向から吐出することができる。
【0075】
また、複数の窒素含有ガス供給口8および複数の三族金属含有ガス供給口9は、交互に配列されていてもよいし、同軸円状に配列されていてもよい。一実施形態において、任意の窒素含有ガス供給口8の隣に、少なくとも一つの三族金属含有ガス供給口9が配置されていることが好ましい。
【0076】
さらに、窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7といった原料ガスをシャワー状に吐出するように複数の窒素含有ガス供給口8および複数の三族金属含有ガス供給口9を配置してもよい。「原料ガスをシャワー状に吐出する」とは、各供給口から吐出される原料ガスが略同じ量であり、正対している基板3に対して、各原料ガスを均等に吐出することを指す。なお、原料ガスが基板3に均等に吐出するためには、各吐出口同士の距離を一定にすることが好ましい。
【0077】
(排気口)
排気口12は、反応に不要なガス(例えば、脱離したCH、キャリアガス、未反応の窒素含有ガス等)を排出するためのものである。排気口12は、サセプタ4を挟んで、各ガス供給口とは反対側に設置されている。
【0078】
(ヒーター)
ヒーター2は、触媒材料1を加熱する加熱手段である。ヒーター2は、触媒材料1を加熱するように、窒素含有ガス供給口8の内部または外部に取り付けられている。
【0079】
(基板加熱ヒーター)
基板加熱ヒーター5は、基板3を加熱する加熱手段である。基板加熱ヒーター5は、サセプタ4の内部に配置されている。
【0080】
(回転機構)
回転機構13は、基板3に三族窒化物半導体の膜を形成させるときに、サセプタ4に載置されている基板3を回転させるためのものである。回転機構13は、サセプタ4の下部に接続されている。
【0081】
(窒化物半導体結晶成長装置を用いた成長方法)
以下、窒化物半導体結晶成長装置100を用いて三族窒化物半導体を基板3上に成長させる方法について説明する。
【0082】
まず、サセプタ4上に基板3を載置する。次に、基板加熱ヒーター5によって基板3を所定の温度に加熱する。また、反応室の圧力を所定の値に設定する。
【0083】
圧力条件は、三族窒化物半導体層の結晶性を高める上では、0.1Torr以上1520Torr以下であることが好ましく、10Torr以上760Torr以下であることがより好ましい。0.1Torr以上であれば、反応性が著しく低下して結晶成長が遅くなることがなく、1520Torr以下であれば、装置の安全性が損なわれることがない。
【0084】
基板3の温度条件について説明する。触媒材料1が窒素含有ガス6を効率的に分解活性化しているので、窒素含有ガス6を分解するために基板3の温度を高温にする必要は無い。例えば、基板温度が400℃以上950℃以下程度の低温において、基板3にInGaN等の結晶を成長させることが可能である。特に、触媒材料1を600℃以上に加熱することによって、効率的にNH等を分解することができるので、基板温度をより低温にすることが可能である。また、基板3の加熱によって、活性化されていない窒素含有ガス6を分解活性化することができる。また、基板加熱ヒーター5が基板3およびサセプタ4を加熱することによって輻射熱が生じるため、当該輻射熱はヒーター2による触媒材料1の加熱および活性化を補助することが可能である。
【0085】
三族窒化物半導体を基板3上に成長させるときは、基板3を回転機構13によって回転させることが好ましい。また、好ましい回転速度としては、0rpmを超え1500rpm以下であることが好ましく、1rpm以上300rpm以下であることがより好ましい。
【0086】
(活性種の生成)
まずガス源(図示せず)から供給された窒素含有ガス6は、窒素含有ガス供給口8から反応室に吐出される。
【0087】
そして、窒素含有ガス供給口8に取り付けられている触媒材料1に接触することによって、窒素含有ガス6は分解活性化され、活性種が生成する。以下、窒素含有ガス6にNHが含まれており、NHが分解活性化される場合について説明する。
【0088】
このとき、触媒材料1がヒーター2によって加熱されていることによって、触媒材料1上でのNHの分解反応が促進されている。また、触媒材料1上でのNHの分解量を、基板3上でのNHの分解量よりも大きくするためには、触媒材料1は600℃以上に加熱されることが好ましい。一方、基板3上でのNHの分解量を触媒材料1上でのNHの分解量よりも大きくして、触媒材料1の役割を補助的なものにする場合には、触媒材料1は100℃程度の加熱であってもよい。
【0089】
上記のようにNHが分解活性化される場合には、NH、NH、N等の窒素を含んでいる活性種が生成される。
【0090】
(活性種と三族金属含有ガスとの反応)
ガス源(図示せず)から供給された三族金属含有ガス7は、三族金属含有ガス供給口9から反応室に吐出される。三族金属含有ガス7は、活性種と反応することによって、最終的に三族窒化物半導体を形成する。
【0091】
例えば、三族金属含有ガス7がトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)等の有機金属ガスを含んでいる場合には、NHまたはNHといった活性種と反応することによって、TMG−NH、TMG−NH、TMI−NHまたはTMI−NHといった化合物を生成する。
【0092】
生成された上記化合物は、CHが脱離していき、最終的にはGaN、InN、InGaN等の窒化物が形成される。
【0093】
(基板上に窒化物半導体を形成)
上記のように生成されたTMG−NH、TMG−NH、TMI−NH、TMI−NH等の化合物は、CHが脱離していき、基板3上に到達することには、GaN、InN、InGaN等の窒化物になっており、基板3上に結晶成長する。
【0094】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、触媒材料1を窒素含有ガス供給口8の内部または出口側の端部に取り付けているので、NHのような難分解性のガスを効率的に分解できるという効果が得られる。特許文献1に係る発明では、圧力を真空状態(10−4Torr程度)にする必要があったが、本実施形態では、例えば、10〜760Torr程度の圧力で基板に結晶を成長させることができる。そのため、成長速度の観点から実用化に適している。また、特許文献2に係る発明では、基板表面の温度を1000℃以上に高温加熱する必要があったが、本実施形態では、例えば、400〜950℃程度の低温であっても基板に結晶を成長させることができる。そのため、基板の成長表面からの窒素の熱脱離による結晶性低下、相分離等の問題が生じにくい。
【0095】
特に、触媒材料1を600℃以上に加熱した場合には、NH等を効率よく分解し、活性種を多く生成できるという効果が得られる。その結果、高効率に窒素を基板3の成長表面に取り込むことができるため、窒素空孔、結晶欠陥等を低減することができる。
【0096】
また、本実施形態においては、基板面に正対する方向のみから窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7を吐出しているため、生成される三族窒化物半導体層の均一性を向上させることができる。一方、特許文献2のように、分解生成されたNH、NH、N等の活性種には寿命があるため基板3に対し横方向からガスを供給してしまうと、大面積基板または複数枚基板を処理するときに、面内分布を生じてしまう。本実施形態では、触媒材料1を窒素含有ガス供給口8の内部または出口側の端部に設けることにより、例え、各供給口を複数設けたとしても、基板面に正対する方向のみから窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7を吐出することができる。
【0097】
また、このように各供給口を複数設けていても、三族金属含有ガス7が触媒材料1に触れない構成になっている。つまり、触媒材料への三族金属含有ガスの付着を防止することができるため、触媒材料による窒素含有ガスの活性化を持続させることができ、効率的に三族窒化物半導体の膜を基板上に生成することができる。さらに、三族金属含有ガス7が触媒材料1に触れない状態によって成膜した場合には、三族金属含有ガス7が触媒材料1に触れた場合と比較して、結晶性の高い三族窒化物半導体層を基板上に形成することができる。
【0098】
また、各供給口を複数設置することによって、大面積基板または複数枚基板を処理するときに、三族窒化物半導体層をより均一に形成できるという効果が得られる。特に、各供給口が、窒素含有ガス6および上記三族金属含有ガス7をシャワー状に吐出するように配置されていることによって、同程度の量の窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7を分散して均等に吐出できるという効果が得られる。よって、大面積においても三族窒化物半導体層の面内の組成分布をより均一にすることができる。
【0099】
窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9の配置を交互または同軸状にすることによって、各原料ガスを均等に供給することができ、より均一に三族窒化物半導体層を形成できるという効果が得られる。
【0100】
基板加熱ヒーター5によって、基板3を加熱することによって、基板3上においても窒素含有ガス6の分解を行うことができる。また、基板加熱ヒーター5の加熱によって生じる輻射熱は、ヒーター2による触媒材料1の加熱および活性化を補助することが可能である。
【0101】
また、回転機構13によって基板3を回転させる構成を有することによって、均一の三族窒化物半導体層を形成できるという効果が得られる。
【0102】
(変形例)
本実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置100は、例えば、図3に示すように、ヒーター2を設けない構成としてもよい。このように、触媒材料1を加熱する加熱手段を設けていなくとも、触媒材料1は基板3およびサセプタ4からの輻射熱によって加熱されている。そのため、ヒーター2を取り付けていない場合であっても、輻射熱によって触媒材料1を活性化させることができるため、NHのような難分解性のガスを効率的に分解できる。なお、輻射熱は、基板加熱ヒーター5が基板3およびサセプタ4を加熱することによって生じる。
【0103】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置は、主として、三族金属含有ガス供給口を冷却する冷却手段を備えている点において、第1実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置と異なっている。本実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置は、当該冷却手段を備えていることによって、触媒を加熱するためのヒーターからの熱により、三族金属が三族金属含有ガス供給口内に析出することを首尾よく回避することができる。以下、図4〜8を用いて、第2実施形態の詳細について説明する。なお、第1実施形態と同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わすものとする。
【0104】
図4は、本実施形態に係る窒化物半導体結晶成長装置200の概略構成を模式的に示す図である。図4に示すように、窒化物半導体結晶成長装置200は、内部を大気側と隔離する反応炉20を備えており、反応炉20内部には、反応室30が設けられている。反応室30には、基板(被処理基板)3を載置するサセプタ(基板保持部)4が備えられている。
【0105】
サセプタ4は、回転機構(回転手段)13の回転伝達部の一端に備え付けられており、回転可能となっている。また、サセプタ4の下側には、基板3を加熱するための基板加熱ヒーター(基板加熱手段)5が設けられている。
【0106】
反応炉20の上部には、ガス供給機構10が配設されている。ガス供給機構10は、窒素含有ガス6を供給するための、複数の窒素含有ガス供給口8と、三族金属含有ガス7を供給するための、複数の三族金属含有ガス供給口9とを有し、窒素含有ガス供給口8と三族金属含有ガス供給口9とは、基板に正対する面内に互いに隣接して配設されている。また、ガス供給機構10はまた、触媒材料1、ヒーター(触媒加熱手段)2、窒素含有ガス供給源14、三族金属含有ガス供給源15、冷却機構(冷却手段)17および断熱材18を備えている。
【0107】
窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7は、第1実施形態と同様のものを用いることができる。基板3に窒化物半導体結晶を成膜する際には、窒素含有ガス供給源14より供給された窒素含有ガス6が、ガス供給機構10に配設された複数の窒素含有ガス供給口8から反応室30内に供給されると共に、三族金属含有ガス供給源15より供給された三族金属ガス含有ガス7が、ガス供給機構10に配設された複数の複数の三族金属含有ガス供給口9から反応室30内へ供給される。なお、窒素含有ガス供給口8の内部にはヒーター2により昇温された触媒材料1が設けられており、窒素含有ガス供給口8を通る窒素含有ガス6は触媒材料1により活性化された状態で反応室30へ導入される。
【0108】
ここで、窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7が異なる供給口から反応室30へ供給される構造は、触媒材料1により活性化した窒素含有ガス6が、ガス供給機構10内や触媒材料1上などで意図しない気相反応を生じることを防ぐ上でも重要である。ただし、窒素含有ガス6と三族金属含有ガス7とが異なる供給口8、9から導入されていることから、基板3に到達するガスが不均一に分布する可能性がある。そのため、成膜処理時、基板3(またはサセプタ4)を回転機構13が回転させることが好ましい。この場合、基板3の回転速度は、0rpmを超え1500rpm以下であることが好ましい。
【0109】
サセプタ4上に保持された基板3は、基板加熱ヒーター6により高温に加熱されている。反応室30に導入された窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7は、高温の基板3上に到達すると気相反応が促進され、基板3上に窒化物半導体薄膜が成膜される。成膜する窒化物半導体薄膜は、第1実施形態と同様である。
【0110】
なお、被処理基板3上を通過した反応ガスは、反応炉20に設けられた排気口7から排出され、図示しない排ガス処理装置にて無害化される。
【0111】
また、成膜時の圧力条件は、0.1Torr以上1520Torr以下であることが好ましい。0.1Torr以上であれば、反応性が著しく低下して結晶成長が遅くなることがなく、760Torr以下であれば、装置の安全性が損なわれることがない。
【0112】
次に、ガス供給機構10の詳細な構成について述べる。図8は、図4のAの部分を拡大して示した、ガス供給機構10の構成を模式的に示す断面図である。
【0113】
複数の窒素含有ガス供給口8および複数の三族金属含有ガス供給口9は互いに隣接して交互に並んでいる構成となっている。このとき、両者の間の距離は出来る限り短いほうが好ましい。また、基板3の回転方向に対して、窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9が交互に現れる構造であることが好ましい。すなわち、基板3を回転させたとき、基板3の任意の位置の直上に、窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9が交互に現れる構造であることが好ましい。これは、両供給口の距離が開き過ぎたり、部分的に窒素含有ガス供給口8同士または三族金属含有ガス供給口9同士が集中したりすると、窒素含有ガス6および三族金属含有ガス7の混合が不十分となり、作製される窒化物半導体の組成や均一性に悪影響が出るおそれがあるためである。
【0114】
窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9の形状は特に限定されず、例えばスリット形状、シャワー状またはその組み合わせ等様々な形状であり得る。基板3側から見た、ガス供給機構10に設けられた窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9の模式的な構成例を図6(a)〜(d)に示す。なお、図6はあくまで供給機構の構成例であり、窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9の構成は、図6のものに限定されない。また、複数の窒素含有ガス供給口8および複数の三族金属含有ガス供給口9が互いに隣接して交互に並んでいる構成ならびに図6(a)〜(d)に示した構成は、第1実施形態でも好適に採用することができる。
【0115】
これら窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9は、基板3よりも大きい面積を有し、基板3に正対する面内に配設されており、基板3面に垂直な方向から各原料ガスを吐出する。これにより、基板3に対して、均一に窒素含有ガス供給口8および三族金属含有ガス供給口9を供給することができる。
【0116】
触媒材料1およびヒーター2は、第1実施形態と同様に設けることができる。触媒材料1について、図4および図5に示す例では、窒素含有ガス供給口8の出口側内部に触媒材料1がコーティングされている。また、図8に示すように、触媒材料1を窒素含有ガス供給口8の内部にメッシュ状に設置してもよい。図8に示すように触媒材料1を設置することにより、図4および図5に示すように配置した場合に比べて、触媒材料1の設置表面積が増加し、より大きな活性化効果を期待できる。また、同様の効果を期待できるその他のバリエーションとしては、内部に多孔質の形状を有する触媒材料1を設置する方法も考えられる。ここでいう多孔質な形状を有する触媒材料として、例えばハニカム構造を持たせた触媒材料であったり、粒状の触媒材料を複数充填する方法、スチールウールのようなウール状に形成された触媒材料などが考えられる。また、触媒材料1は、窒素含有ガス供給口8の内部に設けてもよいし、出口端の設けてもよい。ただし、三族金属含有ガスに触れることがなく、三族金属含有ガスの付着による窒素含有ガスの活性化能力の低下を防止することができるため、窒素含有ガス供給口8の内部に触媒材料を配設することが好ましい。
【0117】
(冷却機構)
また、三族金属含有ガス供給口9の周囲には冷却機構17が配設されている。冷却機構17としては、三族金属含有ガス供給口9を冷却し得るものであればよく、公知の冷却機構を用いることができる。例えば、図4に示すように、三族金属含有ガス供給口9の周囲に冷媒を循環させる気化圧縮型または気化吸収型の冷却機構を用いることができる。また、ペルチエ効果を利用した冷却機構を用いてもよい。
【0118】
ここで、冷却機構17がない場合、触媒材料1を加熱するヒーター2の加熱が、隣接する三族金属含有ガス供給口9内を流れる三族金属含有ガスを加熱し、三族金属含有ガス供給口9内、および三族金属含有ガス供給配管内で三族金属含有ガス7が分解し、三族金属が三族金属含有ガス供給口9、および供給配管内に析出することが想定される。冷却機構17が三族金属含有ガス供給口9を冷却することで、ヒーター2の加熱が隣接する三族金属含有ガス供給口9内を流れる三族金属含有ガス7へ与える影響を低減している。
【0119】
なお、ヒーター2と冷却機構17とが互いに影響を及ぼし合い、互いの能力に悪影響を及ぼさないよう、ヒーター2と冷却機構17の間には断熱材18を設けることが好ましい。断熱材18としては公知の断熱材を用いることができる。
【0120】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0121】
触媒効果に関する実験結果を図7に示す。本実験では、窒素含有ガス(NH+H、N)を、触媒材料を設けたノズル、または触媒材料を設けていないノズルを通してサファイア基板上に導入し、基板表面の窒化量を比較した。触媒材料としては、Ptを用いた。窒化量は、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定した。また、本実験では、スパッタ回数と窒化量との関係から、深さ方向の窒素含有率の分布を測定した。図7に示すように、Pt触媒材料が設けられたノズルを用いて窒素含有ガスを導入した場合、Pt触媒材料が設けられていないノズルを用いた場合に比べて、基板表面の窒化量が増加したこと、すなわち、活性化された窒素源がより多く基板表面に到達したことが分かった。このことから、ノズル(窒素含有ガス供給口)に設けた触媒材料により窒素含有ガスの分解が促進されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、半導体材料、特に、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子材料の製造分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 触媒材料
2 ヒーター(触媒加熱手段)
3 基板
4 サセプタ
5 基板加熱ヒーター(基板加熱手段)
6 窒素含有ガス
7 三族金属含有ガス
8 窒素含有ガス供給口
9 三族金属含有ガス供給口
10 ガス供給機構
12 排気口
13 回転機構(回転手段)
14 窒素含有ガス供給源
15 三族金属含有ガス供給源
17 冷却機構(冷却手段)
18 断熱材
20 反応炉
30 反応室
100、200 窒化物半導体結晶成長装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三族窒化物半導体の膜を基板上に形成する窒化物半導体結晶成長装置であって、
窒素含有ガスを該基板上に供給する窒素含有ガス供給口と、
三族金属含有ガスを該基板上に供給する三族金属含有ガス供給口と、
該窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料と、を備えており、
該触媒材料は、該窒素含有ガス供給口の内部または端部に設けられており、
該窒素含有ガス供給口および該三族金属含有ガス供給口は、何れも該基板の基板面に正対していることを特徴とする窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項2】
上記触媒材料を加熱する触媒加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項3】
上記三族金属含有ガス供給口を冷却する冷却手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項4】
上記窒素含有ガス供給口および上記三族金属含有ガス供給口を夫々複数備えていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項5】
上記窒素含有ガス供給口および上記三族金属含有ガス供給口は、上記基板に正対し、上記基板よりも大きい面積を有する面内に互いに隣接して配設されていることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項6】
上記窒素含有ガス供給口および上記三族金属含有ガス供給口が、上記窒素含有ガスおよび上記三族金属含有ガスをシャワー状に吐出するように配置されていることを特徴とする請求項4または5に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項7】
上記基板が格納される反応室の圧力が、10Torr以上760Torr以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項8】
上記基板を回転させる回転手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項9】
上記窒素含有ガスが、アンモニアを含有していることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項10】
上記基板を400℃以上950℃以下に加熱する基板加熱手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項11】
上記触媒材料が、Pt、W、Mo、NiおよびFeからなる群より選ばれる単体、または、Pt、W、Mo、NiおよびFeからなる群より選ばれる少なくとも何れかを含有している材料であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項12】
上記三族窒化物半導体が、GaN、AlN、InN、InGaN、AlGaNおよびInAlGaNからなる群より選ばれる三族窒化物半導体であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の窒化物半導体結晶成長装置。
【請求項13】
三族窒化物半導体の膜を基板上に形成する窒化物半導体結晶成長方法であって、
該基板の基板面に正対している窒素含有ガス供給口を介して窒素含有ガスを該基板上に供給するとともに、該基板の基板面に正対している三族金属含有ガス供給口を介して三族金属含有ガスを該基板上に供給するガス供給工程を包含しており、
該窒素含有ガス供給口の内部または端部には、該窒素含有ガスを分解して活性種を生成する触媒材料が設置されていることを特徴とする窒化物半導体結晶成長方法。
【請求項14】
上記ガス供給工程では、上記触媒材料を加熱するとともに、上記三族金属含有ガス供給口を冷却することを特徴とする請求項13に記載の窒化物半導体結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70016(P2013−70016A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−40719(P2012−40719)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】