窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイス
【課題】窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂(クラック)が生じにくい窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスを提供する。
【解決手段】直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備しS10,S20、前記窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して被覆基板を形成するS30。前記被覆基板を1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理S40を施した後、前記被覆基板から前記保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成するS50。これにより、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板。
【解決手段】直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備しS10,S20、前記窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して被覆基板を形成するS30。前記被覆基板を1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理S40を施した後、前記被覆基板から前記保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成するS50。これにより、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスに関する。特に、本発明は、青色光、緑色光、又は紫外光を発する発光素子等の電子デバイスに用いられる窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な製造方法により低欠陥密度の窒化物半導体単結晶であるGaN単結晶からなる自立基板が供給されるようになり、窒化物半導体を用いた半導体レーザーが実用化されている。GaN単結晶からなる自立基板の製造方法として、例えば、種基板上にハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE法)によりGaNを厚く成長して、成長中又は成長後に種基板を除去する方法、溶融Na中にGa金属を含ませた上で、窒素で全体を加圧することで、種結晶上にGaNを析出させるNaフラックス法、高温・高圧下でGa及び窒素から直接GaNを合成する高圧合成法、アンモニア中にGa又はGaNを溶解させ、高圧合成法より低温、低圧下で種結晶上にGaNを析出させる安熱合成法、Ga蒸気とアンモニアとからGaNを合成する昇華法等が知られている。
【0003】
これら様々な製造方法の中でHVPE法を用いた幾つかの製造方法が現時点では最も成功を収めており、既にこれらの方法による大面積(2インチ径)のGaN自立基板が市販されている。例えば、サファイア基板上のGaN薄膜表面にTiを蒸着して熱処理を施すことによりGaN薄膜表面にボイドを形成して、その上にHVPE法によりGaNを厚く成長した後、ボイド部分よりサファイア基板を剥離する方法(Void−Assisted Separation、VAS法、例えば、非特許文献1参照)が知られている。また、GaAs基板の表面を部分的に絶縁体マスクで覆い、絶縁体マスクの上にHVPE法を用いてGaNを厚く成長した後、GaAs基板を除去する方法(DEEP法、例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【0004】
また、高圧合成したGaN微結晶(3mm×2mm×0.3mm)において、ナノインデンテーション法により当該GaN微結晶の硬さを測定したところ、20GPaの硬さが得られたとの報告がある(例えば、非特許文献3参照)。また、GaN単結晶を高圧合成すると共に、GaN中のキャリア濃度を5×1019/cm3にしたとの報告がある(例えば、非特許文献4参照)。
【0005】
また、AlxGa1−xN(0≦x≦1)の組成を有し、(1.2−0.7x)MPa・m1/2以上の破壊靭性値と20cm2以上の面積を有する窒化物半導体単結晶基板が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の窒化物半導体単結晶基板は破壊靭性が改善されているので、当該窒化物半導体単結晶基板を用いた半導体電子デバイスの製造プロセスにおいて、窒化物半導体単結晶基板の破損を抑制でき、生産性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−44982号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yuichi Oshima et. al.Japanese Journal of Applied Physics, Vol.42 (2003) pp.L1-L3
【非特許文献2】Kensaku Motoki et. al., Journal of Crystal Growth Vol. 305 (2007) pp. 377-383.
【非特許文献3】R.Nowak et al., Applied Physics Letters Vol.75 (1999) pp. 2070-2072.
【非特許文献4】K.Saarinen et al., Physical Review Letters Vol.79 (1997) pp. 3030-3033.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のようにHVPE法等によりGaN基板を製造したとしても依然として高価であり、例えば、GaAs基板、InP基板等と比較した場合、単位面積あたり10倍以上の価格差がある。これは、GaN基板の加工が難しいことが1つの理由として挙げられる。GaN基板は、HVPE法等で成長したGaN単結晶を、スライス、研削、研磨等により2インチ径、3インチ径等のウエハ(自立基板)に加工して製作される。この加工工程でGaN単結晶にクラックが入ったり、割れたりする割合が高く、GaN自立基板の製造歩留が非常に低い。これが、GaN自立基板1枚あたりの製作コストを引き上げる要因になっている。
【0009】
ここで、加工歩留は、GaN自立基板の原料であるGaN単結晶のサイズが大きいほど、また、厚くなるほど低下する傾向がある。例えば、直径35mmφ、厚さが90μmのGaN単結晶から30mmφ、厚さ80μmのGaN自立基板を製作する場合には、90%以上の高い加工歩留を達成できる。しかし、GaN単結晶のサイズが40mmφ以上、厚さが100μm以上になると、加工歩留は急激に低下する。具体的には、厚さ1mm、径52mmφのGaN単結晶から、研削、研磨により厚さ400μm、径50.8mmφのGaN自立基板を製作する場合の加工歩留は約20%程度である。また、厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ500μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作する場合の加工歩留は5%程度である。GaN単結晶が厚く、かつ、大きくなると、単結晶の成長時に結晶内部に蓄えられる残留応力が増加することから、加工時に割れるリスクが増大するためであると考えられる。
【0010】
実用的には、GaN自立基板は面積が大きいほど、基板1枚あたりにおいて製作できるデバイスの数が増え、デバイス1個あたりのコストを低減できる。工業的な利用に際しては、2インチ(50.8mm)径以上の基板が望まれる。また、デバイス製作中の基板の取扱いを考慮すると、GaN自立基板は100μm以上の厚さを有することが好ましい。GaN自立基板の厚さが100μmよりも薄い場合、デバイス製作中に基板が割れるリスクが高くなる。すなわち、従来の技術においては、工業的な利用に適した大面積(≧40mmφ)で、かつ、厚い(≧100μm)GaN自立基板を作製するには、当該GaN自立基板の原料となるGaN単結晶も大きく厚く作製することを要するので、加工歩留が低下して、GaN自立基板のコストが高くなる。
【0011】
GaN自立基板の作製時には、その製造工程において、GaN単結晶の内部に元から存在する残留応力に加えて、GaN単結晶に接している加工冶具から加わる力に基づく応力がGaN単結晶内に発生する。残留応力と加工冶具に基づく応力とを合成した応力に対して、GaN単結晶の硬さが小さいと、GaN単結晶に割れ、クラック等の欠陥が生じると考えられる。なお、本明細書において「硬さ」が小さいとは、GaN単結晶が塑性変形しやすいことを意味する。GaN単結晶に過大な応力が発生すると、GaN単結晶の内部に既に存在する転位の滑り運動が生じたり、新たな転位が発生・増殖したり、発生・増殖した転位の運動等が生じることにより、GaN単結晶は塑性変形する。塑性変形が更に進展するとGaN単結晶に微小な亀裂が発生する。そして、発生した微小な亀裂を起点にして、GaN単結晶にクラック、割れ等の欠陥が発生する。
【0012】
ここで、材料の硬さ(すなわち、塑性変形のし難さ)を調べる方法としては、μmサイズの先端径を有する圧子を材料に押し込み、その際の荷重と圧痕との寸法から硬さを見積もるビッカース試験、圧子の先端径を数10nmサイズにしたナノインデンテーション法等が知られている。ビッカース試験は、圧子の先端径が大きいので、試験対象にする材料にμm程度のスケールでの不均一性、不完全性等が存在すると、測定点の不均一性・不完全性の度合いにより結果が異なり、安定した測定結果が得にくいという欠点がある。これらの不均一性、不完全性の影響を除去して、材料固有の硬さを調べることを目的とする場合、圧子の先端径が小さいナノインデンテーション法が適している。
【0013】
なお、ナノインデンテーション法より材料の硬さを求める方法としては、Oliverらが開発した方法が知られており(W.C.Oliver and G.M.Pharr,J.Mater.Res.vol.7、1564(1992))、ダイヤモンド圧子を試料に連続荷重で押し込みながら、圧子の侵入量をナノメータの精度で測定して、得られた荷重−侵入量の関係から試料の弾塑性特性を評価する。
【0014】
本発明者は、従来のVAS法を用いて電子デバイスの製造に用いられるGaN自立基板を作製して、前記ナノインデンテーション法を用い、作製したGaN自立基板の硬さを1mN〜50mNの範囲の最大荷重で測定した。その結果、当該GaN自立基板の硬さ(以下、ナノインデンテーション法を用いた測定による硬さを単に「硬さ」とする)を調査したところ、その硬さは19.0GPaより小さかった。
【0015】
ここで、窒化物半導体からなる材料の硬さを高める方法としては、例えば、転位密度を高くする、高濃度の不純物を添加するといった方法が挙げられる。転位密度を高くすると、転位同士がネットワークを形成し互いの運動を阻害し合い、転位の運動を伴う材料の変形(塑性変形)が生じにくくなり材料の硬さが増す。また高濃度の不純物を添加すると、不純物の存在が転位の運動を阻害するため、この場合も材料の硬さを増すことができる。
【0016】
本発明者の検討によると、GaN自立基板を製作する際に、その転位密度を5×106/cm2より大きくするか、あるいはSi、C、Mg、Zn、Sn、Fe、Sn、Te、Ge、O等の不純物を4×1019/cm3よりも多量に結晶中に添加すると、GaN結晶の硬さは19.0GPa以上、最良の場合には20.0GPa以上にすることができることが判明した。GaN結晶の硬さが19.0GPaの場合には、厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶から、厚さ500μm、径76.2mmφのGaNウエハを製作する場合の加工歩留は、前述の10%から30%に向上した。また、GaN結晶の硬さが20GPaの場合には、加工歩留は50%にまで向上した。しかしながら、GaN結晶を半導体レーザー等のデバイスに応用する場合、転位密度を5×106/cm2以下にしないとデバイスの寿命が短く実用に耐えず、また、GaN基板中の不純物濃度が高すぎると、GaN基板上に形成したデバイス内への不純物拡散によりデバイス特性に悪影響を及ぼすので、GaN自立基板中の不純物濃度は4×1019/cm3以下にすることが望ましい。すなわち、転位密度を大きくする手法、及び不純物を多量に転化する手法のいずれも実用上は受け入れがたい。
【0017】
ここで非特許文献3によれば、高圧合成したGaN微結晶の硬さをナノインデンテーション法により測定したところ、20GPaの硬さが得られたとの報告がある。これまでの報告によると、高圧合成法で得られるGaN結晶は黒く着色していることが常であり、高濃度の不純物を含んでいると考えられる。実際、同グループからの他の報告(非特許文献4)を参照すると、高圧合成したGaN中のキャリア濃度として5×1019/cm3という値が報告されており、非特許文献3においても、これと同等かそれ以上のキャリア濃度を有するGaN結晶であったため20GPaという比較的大きな硬さを示したものと考えられる。
【0018】
上述のHVPE法、高圧合成法等を用いた場合も含めて、実用的なサイズの窒化物半導体自立基板(直径≧40mm、厚さ≧100μm)の元になる大きなサイズの窒化物半導体単結晶において、転位密度を5×106/cm2以下にして、不純物濃度を4×1019/cm3以下に制御しつつ、高い加工歩留の実現に必須な19.0GPa以上のナノインデンテーション硬さを実現した報告例は未だない。
【0019】
窒化物半導体自立基板の加工歩留を向上する別の方法としては、AlGaN単結晶の破壊靱性を向上するという方法が、特許文献1において述べられている。破壊靱性とは材料に亀裂がある場合に、その亀裂の拡大のし難さを表す数値である。つまり、特許文献1では、AlGaN基板に微細な亀裂が生じることを前提にして、亀裂を拡大しにくくすることでAlGaN基板の破壊を防止していると考えられる。しかしながら、特許文献1のように破壊靱性を高めることを主眼として製作したGaN自立基板には、破壊に至らない程度の微細な亀裂(クラック)が含まれる場合がある。このような微細な亀裂(クラック)は、GaN自立基板上に高温で結晶成長したり、その後にデバイスプロセスを施したりする途中で基板が割れる原因となり得る。
【0020】
したがって、本発明の目的は、窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂(クラック)が生じにくい窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板が提供される。
【0022】
(2)また、上記窒化物半導体自立基板は、C面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有していてもよい。
【0023】
(3)また、上記窒化物半導体自立基板は、M面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有していてもよい。
【0024】
(4)また、上記窒化物半導体自立基板は、基板面内の各点での基板表面に対する法線に最も近い方向を向いた結晶軸の向きが、基板表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下のバラツキを有していてもよい。
【0025】
(5)また、上記窒化物半導体自立基板は、10μm四方の領域のrms値が3nm以下である表面を有することもできる。
【0026】
(6)また、本発明は上記目的を達成するため、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する単結晶準備工程と、窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成する被覆工程と、1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理を被覆基板に施す熱処理工程と、熱処理工程を経た被覆基板から保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。
【0027】
(7)また、上記窒化物半導体自立基板の製造方法は、被覆工程は、保護膜として、非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、及びSiC膜からなる群から選択されるいずれか1つを含むことが好ましい。
【0028】
(8)また、本発明は上記目的を達成するため、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を加熱状態で成長して形成する単結晶形成工程と、単結晶形成工程の直後、成長温度近傍にて窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成するSi窒化膜形成工程と、Si窒化膜が形成された窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する冷却工程と、冷却工程後、Si窒化膜を除去することにより窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。
【0029】
(9)また、上記窒化物半導体自立基板の製造方法は、Si窒化膜形成工程は、0.018分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成することが好ましい。
【0030】
(10)また、本発明は上記目的を達成するため、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイスが提供される。
【0031】
(11)また、本発明は上記目的を達成するため、上記(6)〜(9)のいずれか1つに記載の窒化物半導体自立基板の製造方法により製造された窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスによれば、窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂(クラック)が生じにくい窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れを示す図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体単結晶の製造工程の流れを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の変形例に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れを示す図である。
【図3】比較例に係るGaN単結晶の電子濃度、転位密度、及び硬さの関係を示す図である。
【図4】比較例においてGaN自立基板の硬さが18.5GPaの場合のGaN単結晶の径、及び厚さと加工歩留との関係を示す図である。
【図5】比較例においてGaN自立基板の硬さが20.0GPaの場合のGaN単結晶の径、厚さと加工歩留との関係を示す図である。
【図6】比較例においてGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す図である。
【図7】実施例1におけるアニール温度、時間によるGaN単結晶の硬さの変化を示す図である。
【図8】実施例1に係るGaN単結晶における硬さと加工歩留との関係を示す図である。
【図9】実施例1に係るGaN単結晶における硬さと黄色発光の相対強度との関係を示す図である。
【図10】実施例3に係るGaN自立基板の製造におけるSi窒化膜厚さとGaN単結晶の硬さとの関係を示す図である。
【図11】実施例3に係るGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[実施の形態の要約]
デバイスの製造に用いられる窒化物半導体自立基板において、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板が提供される。また、デバイスの製造に用いられる窒化物半導体自立基板の製造方法において、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する単結晶準備工程と、窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成するする被覆工程と、1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理を被覆基板に施す熱処理工程と、熱処理工程を経た被覆基板から保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。
【0035】
更に、デバイスの製造に用いられる窒化物半導体自立基板の製造方法において、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を加熱状態で成長して形成する単結晶形成工程と、単結晶形成工程の直後、成長温度近傍にて窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成するSi窒化膜形成工程と、Si窒化膜が形成された窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する冷却工程と、冷却工程後、Si窒化膜を除去することにより窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。ここで、表面とは結晶成長面を指し、裏面とは、結晶成長面と反対側の面を指す。
【0036】
なお、本実施の形態において「硬さ」が小さいとは、窒化物半導体単結晶が塑性変形しやすいことを意味する。すなわち、本実施の形態において「硬さ」とは、窒化物半導体単結晶中において亀裂が発生する原因になる塑性変形のし難さを示す指標であり、窒化物半導体単結晶が本実施の形態において述べる意味において「硬い」場合には、そもそも窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂が生じにくくなる。
【0037】
(発明者が得た知見)
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスは、本発明者が得た以下の知見によるものである。なお、以下の説明においては、窒化物半導体として窒化ガリウム(GaN)を例として説明する。
【0038】
本発明者は、GaN自立基板の加工歩留の低さを改善すべく鋭意検討した。その結果、GaN自立基板の元となるGaN単結晶を成長した後に以下に述べるアニール工程を施すか、GaN単結晶成長直後に当該単結晶の表面にSi窒化膜を堆積することで、低転位密度(≦5×106/cm2)であると共に、低不純物濃度(≦4×1019/cm3)であり、実用的な硬さ、すなわち、19.0GPa以上の硬さを有するGaN自立基板を製造できることを見出した。これにより、GaN単結晶が大きく厚くても(すなわち、直径≧40mm、厚さ≧100μm)、GaN自立基板製作時の加工歩留を格段に向上できるという知見を得た。
【0039】
上述したように、そもそも加工工程でGaN単結晶が割れたり、クラックが生じたりする理由は、GaN単結晶内の残留応力と、加工時にGaN結晶に加えられる力によって発生する応力との合成応力により結晶が塑性変形を起こして、その変形量が臨界点を超えた場合に生じる微細な亀裂に起因する点にある。このことから、GaN単結晶の割れやクラックを防止することを目的とする場合、GaN単結晶において塑性変形を起こりにくくすればよい。更に、このためには、塑性変形の原因になる転位の発生を防止することと、転位が既に存在する場合にはその運動を阻害することが重要である。
【0040】
GaN単結晶の転位密度が高い場合や、不純物濃度が高い場合は、転位の運動を阻害することに相当しており、転位ネットワークや不純物がGaN結晶内部の転位の運動を阻害するので、GaN結晶の塑性変形が生じにくくなっている。一方、GaN単結晶の転位密度が低く、不純物濃度も低い場合には、このような転位の運動を阻害する要因がないので、塑性変形の原因になる新たな転位の発生を防止することが重要になる。GaN単結晶内で新たに転位が増殖する機構としては、フランク−リード源や空孔の凝集などが考えられる。フランク−リード源は有限の長さの転位線が滑り面内に閉じ込められたものである。本実施の形態におけるGaN自立基板の割れやすさは、上述のようにナノインデンテーション硬さと相関があり、これはnmサイズの先端径を有する圧子を結晶に押し込む際の硬さである。GaNの転位密度が5×106/cm2以下とすると、転位間の距離は約20μmになるので、転位に起因するフランク−リード源が、ナノインデンテーション硬さに影響する可能性は低く、これがGaN自立基板の割れやクラックの原因となっている可能性も低い。
【0041】
一方、GaN結晶が多量の空孔を含んでいるとすると、加工による力やナノインデンテーションなどによる力をGaN結晶に加えることによりGaN結晶内に応力が発生した場合に、応力が最大となる位置の応力エネルギーを下げるように空孔が凝集することが考えられる。空孔が凝集して2次元的な面を形成すると転位ループになる。すなわち、GaN結晶中の空孔濃度が高いほど、応力により転位ループが発生、増殖して、塑性変形し易くなることが考えられる。逆に、GaN結晶中の空孔濃度を低くできれば、応力による転位の発生、増殖を抑制することができると共に、塑性変形を起こしにくくすることができると考えられる。
【0042】
GaN結晶中のGa空孔は、ホトルミネセンス(PL)測定で550nm付近に観測される黄色発光の起源になっている。この点に着目し、本発明者は、黄色発光の強度を指標としてGaN結晶中のGa空孔濃度の多少を判断しつつ、GaN単結晶に様々な処理を加え、Ga空孔濃度を減らすことのできる処理(すなわち、黄色発光強度を低減する処理)を探索した。GaN結晶中の空孔濃度を直接的に測定する方法としては陽電子消滅測定が知られているが、これには大掛かりな実験設備が必要であり、測定には多大な費用を要するので、本実施の形態においては、PL法による黄色発光強度の増減のみに着目した。
【0043】
以上の知見に基づき、低転位密度(≦5×106/cm2)であり、かつ、低不純物濃度(≦4×1019/cm3)である実用的なGaN自立基板について、結晶中のGa空孔濃度を減らす目的で様々な処理を施した結果、本発明者は下記の2種類の方法を見出した。いずれの方法によっても、上記の予想通りPLの黄色発光強度の低下に伴ってGaN単結晶の硬さが増加し、19.0GPa以上、処理条件によっては21.0GPa以上の硬さのGaN単結晶を製造することができ、GaN自立基板製作時における加工歩留を向上することができるという知見を得た。
【0044】
まず第1の方法は、結晶成長後の硬さが19.0GPaよりも小さいGaN単結晶を、1300℃より高い温度で20時間以上アニールする方法である。第1の方法では、アニール前に、GaN単結晶表面に非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜等からなる保護膜を堆積する。第2の方法は、GaN単結晶の成長を停止した直後に、成長温度近傍(≧800℃)の高温にてGaN単結晶表面を0.001分子層以上の厚さのSi窒化膜で覆う方法である。第2の方法により製作したGaN単結晶は、第1の方法で述べたアニール処理を施さなくても、低い黄色発光強度と19.0GPa以上の硬さを有することを本発明者は見出した。
【0045】
(第1の方法及び第2の方法の作用)
以下では、第1の方法及び第2の方法に効果がある理由を、GaN結晶中にGa空孔が導入される機構と併せて説明する。
【0046】
まず、第2の方法に効果があるということから説明する。Si窒化膜を形成しない場合でも、成長中にGaN結晶に導入されるGa空孔は少なく、Ga空孔はそのほとんどが成長を停止した後、冷却中を含めて高温の間に導入されていると考えられる。本発明者が用いたHVPE法における成長温度が800℃〜1200℃であり、成長停止直後にSi窒化膜を形成した場合にのみGa空孔が低減されてGaN単結晶の硬さが増したことから、結晶成長面である表面にSi窒化膜が無い場合、少なくとも800℃以上の高温においてはGaN単結晶中にGa空孔が容易に導入されるものと考えられる。その際のGa空孔が発生する場所は、結晶の構成原子が最も自由に動きやすい結晶表面の転位芯近傍である可能性が最も高い。成長中は表面にGaが連続的に供給されるため、万が一表面にGa空孔が形成されても即座に当該Ga空孔は埋められるため空孔は形成されにくいが、成長を停止すると原料の供給も止まり、空孔が形成されやすい状態になる。発生したGa空孔はすぐに近傍に存在する転位を伝って結晶内部へと移動して、転位が空孔の放出源になり、結晶全体に空孔が導入されるものと考えられる。
【0047】
一方、成長直後にSi窒化膜を形成した場合には、転位芯に多数存在する未結合手がSi窒化膜により終端されることで空孔の発生が抑制されると考えられる。Si窒化膜の厚さが0.001分子層であっても効果が得られる理由としては、空孔の発生源である転位芯に選択的にSi窒化物が析出することが考えられる。これは、未結合手の多い転位芯の位置が、表面をマイグレーションしているSi原子の最も安定な吸着サイトになるからである。
【0048】
次に、第1の方法により、Ga空孔濃度が減少してGaN単結晶の硬さが増加する理由を考える。この場合の保護膜の役割としては、高温アニール時のGaN単結晶の蒸発を防ぐと共に、非晶質の材料で転位芯に存在する余分な未結合手を終端して、アニール中において新たな空孔の発生を防ぐということが考えられる。しかし、詳細は後述するが、保護膜として単に非晶質で高温に耐える材料、例えば、カーボン膜、Ir膜等を用いても、Ga空孔濃度を低減する効果はないことが判明した。一方、Al、B、Si等のGaN結晶中でGa原子と容易に置換可能な原子を含む材料、例えば、AlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜等を保護膜としてアニールすると、Ga空孔濃度が減少して、GaN単結晶の硬さを向上させることができた。このことから、これらの保護膜を用いた場合、上記の蒸発防止と新たな空孔発生防止とに加えて、アニール時の高温により保護膜の構成原子がGaN結晶中を拡散してGa空孔位置に達することにより、Ga空孔を消滅させる機構が働いていると考えられる。第2の方法と異なり、第1の方法で1300℃よりも高い温度が必要な理由は、保護膜の構成原子が結晶中を拡散するために、高い温度が必要であるためと考えられる。
【0049】
また、上記の2つの方法はGaN自立基板のみならず、AlN自立基板を製作する場合にも有効であることも本発明者は確認した。本発明の実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、MOVPE法等の薄膜成長方法による発光ダイオード、レーザーダイオード、受光素子、又はトランジスタ構造の成長に好適であり、これにより窒化物半導体自立基板を用いた発光、受光、電子デバイスを低コスト化できる。
【0050】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0051】
[実施の形態]
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である。窒化物半導体としては、例えば、GaN、AlNが挙げられる。本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、有機金属気相成長法(MOVPE法)等の薄膜成長方法で成長した発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、受光素子(PD)、又はトランジスタ構造の成長に適用することができる。すなわち、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板上に所定の構造を有する化合物半導体層を形成することにより、発光デバイス、受光デバイス、又は電子デバイスを製造することができる。また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板の最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さは、20.0GPa以上であることが好ましく、20.5GPa以上であることがより好ましく、21.0GPa以上であることが更に好ましい。
【0052】
デバイスへの応用の観点から考えると、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板は、不純物濃度が3×1018/cm3以下であることが好ましく、1×1018/cm3以下であることが更に好ましい。最も好ましい不純物濃度は5×1017/cm3以下である。また、デバイス応用の観点から考えると、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板は転位密度が低いほど好ましく、転位密度は3×106/cm2以下であることが好ましく、1×106/cm2以下であることが更に好ましい。最も好ましい転位密度は、5×105/cm2以下である。
【0053】
なお、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板がn型であり、そのキャリア濃度が4×1019/cm3以下であることが、本実施の形態においては好ましい。n型の不純物としては、Si、O、Ge、Se、Te等を用いることができる。また、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板がp型であり、そのp型不純物濃度が4×1019/cm3以下であることが、本実施の形態においては好ましい。p型の不純物としては、Mg、Zn、Be、C等を用いることができる。
【0054】
また、窒化物半導体自立基板の抵抗率は、1×105Ωcm以上である半絶縁性であってもよい。例えば、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板を半絶縁性にすることを目的として、窒化物半導体中にFe、Zn、Be、C等の深い準位を形成するp型不純物を、窒化物半導体自立基板に導電性を付与しない程度の量、添加する。
【0055】
そして、窒化物半導体自立基板は、C面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有して形成されることが好ましい。また、当該表面の傾斜方向は、M軸方向が好ましいが、A軸方向又はM軸方向とA軸方向との中間の方向にすることもできる。また、窒化物半導体自立基板は、M面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有して形成することもできる。この場合、当該表面の傾斜方向はA軸又はC軸方向であることが好ましいが、A軸方向とC軸方向との中間の方向にすることもできる。
【0056】
また、基板面内の各点での基板表面に対する法線に最も近い方向を向いた結晶軸の向きが、基板表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下のバラツキを有することが好ましい。当該バラツキは10mmあたり0.05°以下とすることが更に好ましい。
【0057】
なお、本実施の形態における(10mmあたりの)結晶軸のバラツキの定義は、以下の通りである。まず、基板表面に垂直に近い方向を向いた結晶軸を選択する。この結晶軸としては、C軸、A軸、M軸等のミラー指数の小さな結晶軸が一般的であるが、その中間の大きなミラー指数を持つ結晶軸であってもよい。次に、基板表面の現時点において着目している測定点において上記の結晶軸の方向を測定して、基板表面に対する結晶軸の方向を示すベクトルを定める。この測定を表面に沿う長さ10mmの直線上の各点に対して実施して、各点における上記の結晶軸の方向を示すベクトルを定める。これら全てのベクトルの始点を一致させた場合に、始点を頂点として、全てのベクトルを内側に含む円錐が考えられる。このような円錐のうち、頂角の開きが最も小さな円錐の頂角の大きさを結晶軸のバラツキと定義する。
【0058】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、10μm四方の領域のrms値が3nm以下である表面を有することが好ましい。
【0059】
(窒化物半導体自立基板の製造方法)
図1Aは、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れの一例を示し、図1Bは、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体単結晶の製造工程の流れの一例を示す。
【0060】
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲でのナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体単結晶に、表面の研削・研磨、裏面の研削・研磨、及び外形研削工程等を施して製造される。
【0061】
具体的には、まず、円板形状であり、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する(単結晶準備工程:ステップ10、以下、ステップを「S」とする)。例えば、図1Bの(a)に示すように、サファイア基板10上にMOVPE法等を用いて窒化物半導体薄膜20を成長する。そして、窒化物半導体薄膜20上にTi層を蒸着して、水素、及びアンモニア中で熱処理することにより窒化物半導体薄膜20上のTi層をTiN網目構造30に変換しつつ、窒化物半導体薄膜20にボイド35を形成する。
【0062】
続いて、図1Bの(b)に示すように、TiN網目構造30上にHVPE法等を用いて窒化物半導体厚膜40を成長する。その後、ボイド部分からサファイア基板10を剥離することにより、図1Bの(c)に示すように、窒化物半導体単結晶50を製造する(VAS法)。次に、有機溶媒を用いて窒化物半導体単結晶50を洗浄した後、洗浄後の窒化物半導体単結晶50の表面を無機酸で処理して、当該表面から異物を除去する(洗浄工程:S20)。続いて、窒化物半導体単結晶50の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成する(被覆工程:S30)。ここで、保護膜は、非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、及びSiC膜からなる群から選択されるいずれか1つを含むことが好ましい。なお、保護膜は、非晶質であり、後述するアニール温度に耐え、例えば、GaN結晶中のGaと容易に置換する元素を含む材料であれば、上記の例に限られない。
【0063】
次に、1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理、すなわちアニールを被覆基板に施す(熱処理工程:S40)。熱処理温度は、1400℃より高い温度が好ましく、1500℃より高い温度が更に好ましく、1600℃より高い温度が最も好ましい。熱処理工程におけるアニールは、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかあるいはこれらの混合ガス等の不活性ガス中で実施することが好ましい。なお、保護膜を侵さない限り熱処理工程は、例えば、水素中、アンモニアが添加されたガス中で実施することもできる。
【0064】
続いて、熱処理工程を経た被覆基板から保護膜を除去すると共に窒化物半導体自立基板を形成する(基板形成工程:S50)。例えば、保護膜で被覆された被覆基板をスライスした後、露出面を研削・研磨することにより、窒化物半導体自立基板を形成することができる。
【0065】
図2は、本発明の実施の形態の変形例に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れの一例を示す。
【0066】
まず、VAS法等を用いて、円板形状であり、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を高温で成長する(単結晶形成工程:S15)。VAS法の詳細については上記説明のとおりである。次に、単結晶形成工程の後、具体的には、窒化物半導体単結晶の成長直後に、成長温度近傍にて窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成する(Si窒化膜形成工程:S25)。Si窒化膜形成工程において形成するSi窒化膜の厚さとしては、0.018分子層以上であることが好ましく、0.15分子層以上であることが更に好ましい。また、Si窒化膜の厚さは、1.2分子層以上であることが最も好ましい。
【0067】
続いて、Si窒化膜が形成された窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する(冷却工程:S35)。そして、冷却工程後、Si窒化膜を除去すると共に窒化物半導体自立基板を形成する(基板形成工程:S45)。
【0068】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板によれば、大面積(すなわち、直径≧40mm)であり、厚く(すなわち、厚さ≧100μm)、低転位(≦5×106/cm2)であり、かつ、低不純物濃度(≦4×1019/cm3)である窒化物半導体単結晶を得ることができる。これにより、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板によれば、実用的な厚さ大きさの窒化物半導体自立基板を加工歩留良く製作することができる。更に、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板によれば、当該窒化物半導体自立基板を用いた発光デバイス、受光デバイス、電子デバイスの低コスト化を実現できる。
【0069】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、窒化物半導体単結晶の硬度を向上させることができ、窒化物半導体自立基板中に微細な亀裂(クラック)が発生することを抑制することができ、窒化物半導体自立基板上に所定の化合物半導体をエピタキシャル成長させる場合、及び/又は窒化物半導体自立基板を所定のデバイスの製造プロセスに投入した場合における窒化物半導体自立基板の割れの発生リスクも格段に低下させることができる。
【0070】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、当該窒化物半導体自立基板の内部のIII族原子の空孔濃度が従来よりも格段に低減されているので、当該窒化物半導体自立基板の上に結晶成長等によりLD、LED、トランジスタ等のデバイスを製作した場合、デバイスの特性、寿命が格段に向上することが期待できる。更に、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、従来の窒化物半導体自立基板よりも硬いため、デバイス製作時のプロセス中に割れるリスクが小さく、高いプロセス歩留が期待できる。
【0071】
以下、実施例により更に詳細に説明する。ここでは、まず、比較例を説明した後、本発明に係る実施例について説明する。
【0072】
(比較例)
比較例では、VAS法を用いて、表面がGa極性のC面に近い面であるSiをドープしたn型のGaN単結晶を製作した。VAS法によるGaN単結晶の製造は、図1Bにおいて説明したとおりである。すなわち、まず、種結晶基板としてボイド基板を準備した。ボイド基板は、サファイア基板上にMOVPE法等で厚さ300nm程度のGaN薄膜を成長した後、GaN薄膜の表面にTiを蒸着して、水素、アンモニア中で熱処理することでTi層をTiNの網目構造に変換しつつ、GaN層をボイド化した基板である。ボイド基板の上にHVPE法によりGaN層を厚く成長して、その後、ボイド部分よりサファイア基板を剥離して自立したGaN単結晶を得た。
【0073】
ここで、サファイア基板としては、C面からA軸あるいはM軸方向に0.05°〜1°の範囲で傾斜した表面を有すると共に、厚さが300μm〜800μm、直径が35mm〜160mmの基板を用いた。上記のボイド基板製作時のTiの厚さは5nm〜100nmにした。また、HVPE法による結晶成長の条件としては、例えば、基板温度:800℃〜1200℃、圧力:10kPa〜120kPa、成長速度:30μm/hr〜1000μm/hrであり、50μm〜10cm厚のGaN単結晶を製作した。III族原料としては、HVPE装置内で800℃に加熱した金属ガリウムに塩酸を吹き付けて生成したGaClガスを用いた。また、V族原料ガスとしてはNH3ガスを、n型のドーパントになるSi原料としてはジクロロシランガスを用いた。また、キャリアガスとしては、水素、窒素、又はこれらの混合ガスを用いた。
【0074】
GaN単結晶の転位密度は、ボイド基板製作時のTiの厚さで決定される。Ti層が薄いほど、MOVPE成長したGaN層中の転位がその上のGaN厚膜に伝播しやすいため、高転位密度となる。Ti厚が5nm〜100nmの範囲で得られるGaN単結晶の転位密度は、1×104/cm2〜1×108/cm2の範囲である。また、ここで用いたGaN単結晶は、成長終了後にいずれも表面にピットがほとんどない鏡面状態であった。GaN単結晶中の電子濃度としては、成長中のジクロロシラン流量を調整して1×1015/cm3〜1×1020/cm3の範囲の結晶を準備した。
【0075】
上記の方法で得られたGaN単結晶を加工して、直径30mm〜152mm、厚さ80μm〜600μmのGaN自立基板を製作した。元のGaN単結晶が2mmより薄い場合には、GaN単結晶の表面、裏面を研削、研磨して1個の単結晶から1枚のGaN自立基板を製作した。GaN単結晶が2mm以上の厚さの場合には1個のGaN単結晶をスライスにより複数に分割し、その後に表裏を研削、研磨して複数枚のGaN自立基板を製作した。
【0076】
図3は、比較例に係るGaN単結晶の電子濃度、転位密度、及び硬さの関係を示す。
【0077】
具体的に、図3は、上記により製作したGaN単結晶の電子濃度、転位密度、及びナノインデンテーション硬さの関係を示す。電子濃度、転位密度、ナノインデンテーション硬さとしては、全て加工後のGaN自立基板に対する測定結果を採用した。電子濃度はホール測定により、転位密度はカソードルミネセンス像で観察される暗点数を計測して求めた。また、ナノインデンテーション硬さは、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲に設定して、先端径が50nmのベルコビッチ形状のダイヤモンド圧子を用いて求めた。
【0078】
図3は、縦軸が転位密度、横軸が電子濃度であり、グラフ中に硬さの等高線を実線で示した。転位密度が5×106/cm2以下で電子濃度が4×1019/cm3以下の場合、GaN自立基板の(すなわち、GaN単結晶も)硬さは19.0GPaより小さく、転位密度が5×106/cm2より大きいか、電子濃度が4×1019/cm3よりも大きい場合、GaN自立基板の硬さは19.0GPa以上であった。
【0079】
図4は、比較例においてGaN自立基板の硬さが18.5GPaの場合のGaN単結晶の径、及び厚さと加工歩留との関係を示し、図5は、比較例においてGaN自立基板の硬さが20.0GPaの場合のGaN単結晶の径、厚さと加工歩留との関係を示す。
【0080】
GaN単結晶が柔らかい場合(すなわち、硬さが18.5GPaの場合)であっても、径が40mmφよりも小さく、かつ、厚さが100μmよりも薄い場合には、90%程度の高い加工歩留が得られた。しかし、GaN単結晶の径が40mm以上、厚さが100μm以上になると、加工歩留は30%以下に激減した。一方、GaNが硬い場合(すなわち、硬さが20.0GPaの場合)、GaN自立基板の径、厚さによらず常に50%以上の加工歩留が得られた。
【0081】
図6は、比較例においてGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す。
【0082】
すなわち、図6には、GaN単結晶の硬さが異なる場合に、どのように加工歩留が変化するかを調査した結果を示す。直径52mm、厚さ1mmのGaN単結晶から直径50.8mm、厚さ430μmのGaN自立基板を製作する場合、直径80mm、厚さ5mmのGaN単結晶から直径76.2mm、厚さ530μmのGaN自立基板を製作する場合、直径160mm、厚さ50mmのGaN単結晶から直径152.4mm、厚さ530μmのGaN自立基板を製作する場合のそれぞれについて示した。いずれの場合においても、GaN単結晶の硬さが19.0GPaを境に歩留が大きく変化しており、硬さが19.0GPaよりも小さい場合に加工歩留が22%以下であるのに対して、硬さが19.0GPa以上の場合に、加工歩留が40%以上に急激に上昇している。加工時にGaN結晶にかかる最大負荷と、GaN結晶の硬さの相対関係により、GaNが割れるかどうかが決まるため、図6のように硬さが19.0GPaを境に急激に加工歩留が上昇する挙動を示すものと考えられる。図6では、GaN単結晶の大きさとしては3種類を例に示したが、これ以外の径、厚さの場合についても、歩留の絶対値が若干異なる点を除くと、略同じ結果が得られている。
【0083】
以上より、GaN自立基板製作時にある程度高い加工歩留を達成するためには、GaN単結晶の硬さが19.0GPa以上であるのが望ましいということが分かる。しかしながら、図3からも明らかなように、比較例において製作した硬さが19.0GPa以上であるGaN自立基板は、転位密度が5×106/cm2より大きいか、電子濃度が4×1019/cm3よりも大きいものである。このような高い転位密度や不純物濃度は、デバイスの動作や寿命に悪影響を及ぼすため、これらの高転位、高不純物濃度のGaN自立基板を実際のデバイス製作に適用することはできない。
【0084】
比較例においても、稀に、転位密度が5×106/cm2以下で、電子濃度が4×1019/cm3以下のGaN自立基板を割れずに得ることはできた。しかし、これらの基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキを調べたところ、表面に沿う長さ10mmあたり0.2°程度の大きなバラツキを有していた。GaN自立基板上に発光素子を形成する場合、その発光波長分布は表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキの影響を受ける。素子歩留よくLDやLEDを形成するためには、このバラツキは0.1°以下であることが望ましく、この観点から、比較例で得られるGaN自立基板は、低転位、低不純物濃度のものであっても、実用に耐えないものである。比較例に係るGaN自立基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキが大きい理由としては、GaN結晶が割れてはいないものの、加工中に塑性変形が生じているためと考えられる。
【0085】
また、これらの基板の表面を原子間力顕微鏡により調べたところ10μm四方の領域のrms値が20nm以上と非常に大きいことが明らかとなった。これは、加工中の塑性変形により、表面に微細なクラックや、それに起因する盛り上がりが生じているためであり、この観点からも比較例に係るGaN自立基板は、実用に耐えないものであることが示された。
【実施例1】
【0086】
実施例1においては、比較例と同様にVAS法により厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶を成長して、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作した。ただし、実施例1においては、GaN単結晶を加工する前にアニール処理を施している点が比較例とは異なる。また、実施例1において製作したGaN単結晶はn型であり、キャリア濃度は1×1018/cm3、転位密度は、2×106/cm2であり、アニールを施さない場合、この単結晶の硬さは18.3GPaであった。
【0087】
実施例1においてアニールは、以下の手順で実施した。HVPE法により結晶成長したGaN単結晶を、まず、アセトン、エタノールにより洗浄した。そして、沸騰した硝酸中でGaN単結晶表面に付着した異物を除去した。次に、GaN単結晶をMOVPE装置内に設置した後、200℃〜700℃の温度に加熱して、トリメチルアルミニュウム(TMA)とアンモニアとを装置内に供給した。これにより、GaN単結晶の表面に厚さが100nm〜1000nmの非晶質のAlN膜を保護膜として形成した。この工程は、GaN単結晶のMOVPE装置内への設置方法を変えて複数回実施して、GaN単結晶の表面、裏面、側面の全面を非晶質のAlN膜で被覆した。
【0088】
次に、非晶質のAlN膜で覆ったGaN単結晶をアニール装置に移した。そして、アニール装置内に常圧で窒素を1slm〜50slmの流量で供給しながら、1時間〜50時間、1000℃〜1710℃の温度でアニールを実施した。アニール後、GaN自立基板を、150℃/hrの冷却速度で500℃まで徐々に冷却した。その後、アニール装置のヒーターを切って室温まで冷却した。
【0089】
その後、AlN膜で覆われたGaN単結晶に、スライス、研削、研磨を施して、GaN自立基板を製作した。AlN膜は、GaN自立基板製作時の加工工程で全て除去され、最終的に得られるGaN自立基板はAlN膜を含まない。そして、GaN基板としては、C面から0°〜5°の範囲で、A軸方向、M軸方向、又はこれらの中間の方向に傾いた表面を有する基板を製作した。これらの表面の傾斜角度、傾斜方向は、以下の結果には明確な影響を及ぼさなかったので、以下ではこれら全ての場合の結果をまとめて示す。
【0090】
図7は、実施例1におけるアニール温度、時間によるGaN単結晶の硬さの変化を示す。
【0091】
具体的に図7は、実施例1により製作したGaN単結晶の硬さ(実際には、自立基板に加工してから測定した)の、アニール温度、アニール時間依存性を示す。1200℃以下の結果は、1210℃の場合と略同様であったので、図7では省略した。図7を参照すると、1300℃より低いアニール温度の場合には、50時間までのアニールでは硬さに顕著な変化は見られなかった。一方、アニール温度が1300℃を越え、更にアニール時間が20時間以上となるとGaN自立基板の硬さが急激に大きくなった。また、この場合、20時間を越えて更に長い時間アニールすると、徐々に硬さが増加する傾向が示された。具体的な硬さの値は、1310℃、1405℃、1502℃、1603℃で20時間アニールした場合の硬さはそれぞれ、19.0GPa、20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaであった。
【0092】
図8は、実施例1に係るGaN単結晶における硬さと加工歩留との関係を示す。
【0093】
図8を参照すると、GaN単結晶の硬さの増加につれて加工歩留が向上した。硬さが19.0GPaより小さい場合には、加工歩留は10%以下の低い値であり、硬さが19.0GPa以上となると加工歩留は50%以上になり、20.0GPaで60%、20.5GPaで80%、21.0GPaで90%にまで向上した。硬さが21.0GPa以上では、加工歩留は90%〜95%の範囲で略一定であった。
【0094】
図9は、実施例1に係るGaN単結晶における硬さと黄色発光の相対強度との関係を示す。
【0095】
具体的に、図9は図7及び図8で説明した実施例1に係るGaN自立基板のPL測定結果をまとめた結果を示す。すなわち、図9は、GaN単結晶の硬さに対して、波長550nmの位置の黄色発光強度をバンド端発光強度に対する相対値でプロットした図である。図9から明らかなように、GaN自立基板の硬さの増加に応じて、黄色発光の相対強度は単調に減少した。前述の通り、黄色発光はGa空孔に起因する発光であるので、図9の結果はGaN自立基板の硬さの増加に応じて結晶中のGa空孔濃度が低下していることを示す。結晶中の空孔濃度が高いほど、応力により転位ループが発生・増殖して塑性変形しやすくなり、結晶の硬さが低下すると予想される。実施例1においても、1300℃以上20時間以上のアニールを施した場合には、GaN単結晶中のGa空孔濃度が低下して、その結果、GaN結晶の硬さが向上することにより加工歩留が向上したものと考えられる。
【0096】
また、アニールによりGaN結晶中のGa空孔濃度が低下する機構としては、アニール中に保護膜の構成原子(実施例1の場合はAl原子)が結晶内を拡散してGa空孔位置に到達するというモデルが考えられる。実施例1でアニールにより硬さを向上させるために1300℃よりも高い温度を要する理由は、GaN結晶内におけるAl原子の拡散を促進するために1300℃より高い温度が必要であるためと考えられる。また、GaN自立基板の硬さを増加させるためには、Al原子がGaN単結晶の奥深くの領域(すなわち、加工により表に表れる領域)まで拡散することが必要であり、このため図7に示すように、アニールの効果が顕在化するまで20時間程度の時間を要したと考えられる。
【0097】
なお、実施例1においては、特に、厚さ5mm、径80mmφ、キャリア濃度1×1018/cm3、転位密度2×106/cm2のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作する場合について説明した。また、実施例1の変形例についても実施例1と略同一の結果が得られた。すなわち、厚さが100μm〜10cm、直径が40mm〜160mm、キャリア濃度が1×1015/cm3〜4×1019/cm3、転位密度が1×104/cm2〜5×106/cm2の範囲のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て、厚さが100μm〜600μm、径が40mm〜152.4mmの範囲のGaN自立基板を製作する場合に関して、実施例1と略同一の結果が得られることを確認した。
【0098】
以上から、実施例1により製作した、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、硬さが19.0GPa以上であるGaN自立基板において、加工歩留を従来以上の50%以上に向上できることが示された。更に、GaN基板の硬さを20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaにすることにより、加工歩留を更に改善でき、それぞれ60%以上、80%以上、90%以上にまで向上できることが示された。
【0099】
また、比較例と同様に、実施例1で得られたGaN自立基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキを調べたところ、転位密度が5×106/cm2以下では、表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキが、表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下、転位密度が1×106/cm2以下の場合にはバラツキが0.05°以下と、比較例よりも格段に改善しており、LDやLED等への応用に十分な値であった。これは、GaN結晶が硬くなり塑性変形が抑制された結果である。更に、実施例1に係るGaN自立基板の表面には、比較例で見られたような塑性変形起因のクラック、盛り上がりは観察されず、10μm四方の領域のrms値は3nm以下であった。この値もLDやLED等への応用に十分な値であった。
【実施例2】
【0100】
実施例1と同様にして実施例2に係るGaN自立基板を製造した。具体的には、保護膜の種類、膜の堆積方法、条件を様々に変えて製造した。ここで保護膜としては、AlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜、カーボン膜、Ir膜を用い、堆積方法はMOVPE法、プラズマCVD法、スパッタリング法、ゾルゲル法を用いた。結果としては、実施例1と同様の結果が得られる場合と、実施例1のようなGaN結晶の硬さの増大及び加工歩留の向上が見られない場合があった。
【0101】
具体的に、実施例1と同様の結果が得られたのは、保護膜が非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜であった場合のみであった。一方、結晶性のAlN膜、BN膜、SiC膜や、非晶質、結晶性に関わらずカーボン膜やIr膜では、GaN結晶の硬さの向上は見られなかった。
【0102】
以上の結果より、上述した第1の方法によりGaN結晶の硬さが向上するのは、アニール時の保護膜が、1)アニール時の温度、雰囲気に耐える、2)膜がAl、B、Siを含む、3)膜が非晶質の膜である、という3つの条件を満たす場合のみであることが示された。例えば、AlN膜をMOVPE法により800℃〜1200℃で堆積した場合には、結晶性のAlN膜になり、アニール後のGaN結晶の硬さの向上や、加工歩留の向上は見られなかった。また、非晶質のカーボン膜を300℃の低温で、スパッタリング法により堆積した場合も同様に、GaN結晶の硬さの向上は見られなかった。
【0103】
そして、「2)膜がAl、B、Siを含む」点については、アニール時にGa空孔サイトに入り空孔を消滅させる原子として、実施例1のAl以外でも、Ga原子と容易に置換する原子(すなわち、III族原子、III族サイトに置換する不純物)であれば良いということを意味している。実施例2においては、Al以外にはB、Siを用いることができるが、B及びSi以外であっても、Gaと容易に置換可能な原子であればAlの代わりに用いることができる。また、「3)膜が非晶質の膜である」については、保護膜が結晶性の場合、保護膜は下地のGaN単結晶上にエピタキシャルに成長すると考えられる。この場合、GaN単結晶表面に転位芯が存在すると、転位は保護膜内部を貫通して保護膜の表面にまで達する。このため、膜が結晶性を有する膜である場合には、保護膜が転位芯を覆い隠し空孔の発生を抑制する効果が得られないと考えられる。
【実施例3】
【0104】
実施例3では、比較例と同様にVAS法により厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶を成長して、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作した。実施例1と同様に、GaN単結晶はn型にすると共に、キャリア濃度は1×1018/cm3、転位密度は、2×106/cm2にした。ただし、実施例3では、HVPE装置内でのGaN成長を停止した直後の冷却開始前に、HVPE装置内にSi原料のジクロロシランとアンモニアを導入して、GaN単結晶の表面にSi窒化膜を堆積した点が実施例1とは異なる。また、実施例1で実施した成長後の保護膜を形成してのアニールは実施していない。成長直後に堆積したSi窒化膜の厚さは0.0001分子層〜30分子層の間であり、堆積速度は0.0001分子層/秒〜1分子層/秒の間に設定して、堆積時間は1秒〜30秒の間にした。このSi窒化膜は、GaN自立基板を製作する加工工程で除去される。
【0105】
図10は、実施例3に係るGaN自立基板の製造におけるSi窒化膜厚さとGaN単結晶の硬さとの関係を示す。
【0106】
図10に示したように、Si窒化膜厚さが増すに従い、GaN自立基板の硬さが向上した。Si窒化膜の厚さが0.001分子層より小さい場合には、比較例と同様にGaN自立基板の硬さは18.3GPa程度であったが、Si窒化膜が0.001分子層以上になると、GaN自立基板の硬さは19.0GPa以上になった。更に、Si窒化膜の厚さが0.018分子層、0.15分子層、1.2分子層と増えるにつれて、GaN自立基板の硬さは20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaと増加した。
【0107】
図11は、実施例3に係るGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す。
【0108】
また、Si窒化膜の厚さの増加に伴うGaN自立基板の硬さの増加に伴い、図11に示すように加工歩留が改善した。Si窒化膜の厚さが0.001分子層より小さく、GaN自立基板の硬さが19GPaより小さい場合の加工歩留は、比較例と同様に10%以下であったが、Si窒化膜の厚さが0.001分子層以上になりGaNの硬さが19.0GPa以上になると、加工歩留は50%以上に改善した。また、GaN自立基板の硬さが20.0GPa以上では60%以上の加工歩留が得られ、硬さが20.5以上21.0GPa以上になると、歩留はそれぞれ80%以上、90%以上へと更に改善した。
【0109】
実施例3で得られたGaN自立基板のPL測定を行った結果、図9と同様にGaN自立基板が硬くなればなるほど、PLでの黄色発光強度が低下していることが明らかとなった。このことから、実施例3においてもGaN自立基板の硬さが増したのは、GaN結晶中のGa空孔濃度が減少したためであると判断できる。すなわち、GaN成長直後にSi窒化膜を堆積することで、GaN単結晶中のGa空孔濃度を低減できることが示された。
【0110】
比較例、実施例1、及び実施例2において成長後のGaN単結晶でGa空孔濃度が高かったことと上記の結果とを併せて考えると、GaN結晶内に多量のGa空孔が発生するタイミングは、成長中ではなくGaNの成長を停止した後であると思われる。つまり、Si窒化膜によりGaN単結晶中のGa空孔濃度が低減したと上述したが、正確には、Si窒化膜によりGa空孔の増加を防止できたものと考えられる。比較例、実施例1、及び実施例2では、成長停止直後にSi窒化膜を堆積していないので、成長停止後の冷却中にGa空孔が増加したと考えられる。
【0111】
Si窒化膜により、GaN結晶中のGa空孔の増加を防止できるのは、Si窒化膜が転位芯を覆い、そこに存在する未結合手を終端するためと考えられる。上述のように、転位芯には未結合手が多数存在しており、Ga空孔が発生しやすい状態にある。結晶成長中においてはGaが連続的に供給されているため空孔はできてもすぐに消滅するが、成長を停止すると発生したGa空孔が生き延び、転位を通ってGaN結晶の内部に拡散する。これにより、得られるGaN単結晶中には多量のGa空孔が含まれることになる。GaNの成長を停止した直後にSi窒化膜により転位芯を被覆すれば、転位芯での空孔の発生を抑制でき、Ga空孔濃度の増加を防止できるものと考えられる。
【0112】
また、Si窒化膜の厚さが0.001分子層と極薄い場合にも、一定の効果が得られているのは、Si窒化膜が転位芯の部分に選択的に堆積するためと考えられる。これは、未結合手の多い転位芯部分にSiが優先的に付着するためと思われる。更に、図10ではSi窒化膜の厚さは30分子層までであったが、Si窒化膜の厚さが1.2分子層以上ではGaN単結晶の固さは略一定で飽和しており、Si窒化膜の厚さとしてはこれ以上厚くする必要はないと思われる。しかしながら、上記のSi窒化膜の作用メカニズムから考えると、Si窒化膜が30分子層以上の厚い膜であっても問題はないと思われる。
【0113】
実施例3では、特に厚さ5mm、径80mmφ、キャリア濃度1×1018/cm3、転位密度2×106/cm2のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作する場合について説明したが、実施例3の変形例についても略同一の結果が得られた。具体的には、厚さが100μm〜10cm、直径が40mm〜160mm、キャリア濃度が1×1015/cm3〜4×1019/cm3、転位密度が1×104/cm2〜5×106/cm2の範囲のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て、厚さが100μm〜600μm、径が40mm〜152.4mmの範囲のGaN自立基板を製作する場合に関して、略同一の結果が得られることを確認した。
【0114】
以上から、実施例3により製作した、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、硬さが19.0GPa以上であるGaN自立基板において、加工歩留を従来以上の50%以上に向上できることが示された。更に、GaN基板の硬さを20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaにすることにより、加工歩留を更に改善でき、それぞれ60%以上、80%以上、90%以上にまで向上できることが示された。
【0115】
また、比較例と同様に、実施例3で得られたGaN自立基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキを調べたところ、転位密度が5×106/cm2以下では、表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキが、表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下、転位密度が1×106/cm2以下の場合にはバラツキが0.05°以下と、比較例よりも格段に改善しており、LDやLED等への応用に十分な値であることが示された。更に、得られたGaN自立基板の表面には、比較例で観察されたような塑性変形起因のクラック、盛り上がりは観察されず、10μm四方の領域のrms値は3nm以下であった。この値もLDやLED等への応用に十分な値であった。
【実施例4】
【0116】
GaN単結晶の転位密度を1×104/cm2、1×105/cm2、1×106/cm2と変える以外、実施例1〜3と同様にして実施例4に係るGaN自立基板を製造した。アニール前のGaN単結晶の硬さはそれぞれ、18.15GPa、18.2GPa、18.25GPa程度であったが、それ以外の点では実施例1〜3と略同様の結果が得られた。
【実施例5】
【0117】
n型ドーパントをO、Ge、Se、又はTeに代える以外、実施例1〜4と同様にして実施例5に係るGaN自立基板を製造した。この場合にも、実施例1〜4と略同様の結果が得られた。
【実施例6】
【0118】
HVPE成長時のドーパントを、Mg、Zn、Be、又はCに変える以外、実施例1〜4と同様にして実施例6に係るGaN自立基板を製造した。得られたGaN単結晶を酸素雰囲気中、600℃、30分間アニールしたところ、GaN単結晶はキャリア濃度が1×1016/cm3〜4×1018/cm3のp型、又は抵抗率が1×105Ωcm以上の半絶縁性となった。この場合PLの黄色発光は強度が非常に弱く、明確なPLデータは得られなかったが、GaN単結晶の硬さと加工歩留については、実施例1〜4と同様の結果が得られた。このことから、p型又は半絶縁性のGaN自立基板においても、n型のGaN自立基板の同様のメカニズムにより硬さが向上し、加工歩留が向上しているものと考えられる。
【実施例7】
【0119】
表面がR面又はM面のサファイア基板を用いて製作したボイド基板を用いる以外、実施例1〜6と同様にして実施例7に係るGaN自立基板を製造した。この場合に得られるGaN自立基板は、M面から0°〜5°の範囲でA軸、C軸、又はこれらの軸の中間の方向に傾いた基板であったが、それ以外の点では略実施例1〜6と同様の結果が得られた。
【0120】
(実施例の変形例1)
HVPE法に代えて、MBE法、MOVPE法、昇華法のそれぞれを用いてGaN単結晶を成長する以外、実施例1〜7と同様にして変形例1に係るGaN自立基板を製造した。いずれの場合にも、実施例1〜7と略同様な結果が得られた。
【0121】
(実施例の変形例2)
実施例1、実施例2、実施例4〜7において採用した成長後のGaN単結晶に保護膜を堆積してアニールする手法を、安熱合成法、高圧合成法で成長したGaN単結晶に対して実施した。いずれの場合にも、実施例1、実施例2、及び実施例4〜7と略同様な結果が得られた。
【0122】
(実施例の変形例3)
保護膜堆積方法をプラズマCVD法、光CVD法、塗布法に変える以外、実施例1、実施例2、及び実施例4〜7と同様にして変形例3に係るGaN自立基板を製造した。いずれの場合にも、実施例1、実施例2、及び実施例4〜7と略同様な結果が得られた。
【0123】
(実施例の変形例4)
GaN結晶をAlN結晶に置き換える以外、実施例1〜7と同様にして、変形例4に係るAlN自立基板を製造した。この場合、AlNはGaNと略同じ挙動を示す結果が得られ、実施例1〜7と略同じ結果を得た。
【0124】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスに関する。特に、本発明は、青色光、緑色光、又は紫外光を発する発光素子等の電子デバイスに用いられる窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な製造方法により低欠陥密度の窒化物半導体単結晶であるGaN単結晶からなる自立基板が供給されるようになり、窒化物半導体を用いた半導体レーザーが実用化されている。GaN単結晶からなる自立基板の製造方法として、例えば、種基板上にハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE法)によりGaNを厚く成長して、成長中又は成長後に種基板を除去する方法、溶融Na中にGa金属を含ませた上で、窒素で全体を加圧することで、種結晶上にGaNを析出させるNaフラックス法、高温・高圧下でGa及び窒素から直接GaNを合成する高圧合成法、アンモニア中にGa又はGaNを溶解させ、高圧合成法より低温、低圧下で種結晶上にGaNを析出させる安熱合成法、Ga蒸気とアンモニアとからGaNを合成する昇華法等が知られている。
【0003】
これら様々な製造方法の中でHVPE法を用いた幾つかの製造方法が現時点では最も成功を収めており、既にこれらの方法による大面積(2インチ径)のGaN自立基板が市販されている。例えば、サファイア基板上のGaN薄膜表面にTiを蒸着して熱処理を施すことによりGaN薄膜表面にボイドを形成して、その上にHVPE法によりGaNを厚く成長した後、ボイド部分よりサファイア基板を剥離する方法(Void−Assisted Separation、VAS法、例えば、非特許文献1参照)が知られている。また、GaAs基板の表面を部分的に絶縁体マスクで覆い、絶縁体マスクの上にHVPE法を用いてGaNを厚く成長した後、GaAs基板を除去する方法(DEEP法、例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【0004】
また、高圧合成したGaN微結晶(3mm×2mm×0.3mm)において、ナノインデンテーション法により当該GaN微結晶の硬さを測定したところ、20GPaの硬さが得られたとの報告がある(例えば、非特許文献3参照)。また、GaN単結晶を高圧合成すると共に、GaN中のキャリア濃度を5×1019/cm3にしたとの報告がある(例えば、非特許文献4参照)。
【0005】
また、AlxGa1−xN(0≦x≦1)の組成を有し、(1.2−0.7x)MPa・m1/2以上の破壊靭性値と20cm2以上の面積を有する窒化物半導体単結晶基板が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の窒化物半導体単結晶基板は破壊靭性が改善されているので、当該窒化物半導体単結晶基板を用いた半導体電子デバイスの製造プロセスにおいて、窒化物半導体単結晶基板の破損を抑制でき、生産性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−44982号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yuichi Oshima et. al.Japanese Journal of Applied Physics, Vol.42 (2003) pp.L1-L3
【非特許文献2】Kensaku Motoki et. al., Journal of Crystal Growth Vol. 305 (2007) pp. 377-383.
【非特許文献3】R.Nowak et al., Applied Physics Letters Vol.75 (1999) pp. 2070-2072.
【非特許文献4】K.Saarinen et al., Physical Review Letters Vol.79 (1997) pp. 3030-3033.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のようにHVPE法等によりGaN基板を製造したとしても依然として高価であり、例えば、GaAs基板、InP基板等と比較した場合、単位面積あたり10倍以上の価格差がある。これは、GaN基板の加工が難しいことが1つの理由として挙げられる。GaN基板は、HVPE法等で成長したGaN単結晶を、スライス、研削、研磨等により2インチ径、3インチ径等のウエハ(自立基板)に加工して製作される。この加工工程でGaN単結晶にクラックが入ったり、割れたりする割合が高く、GaN自立基板の製造歩留が非常に低い。これが、GaN自立基板1枚あたりの製作コストを引き上げる要因になっている。
【0009】
ここで、加工歩留は、GaN自立基板の原料であるGaN単結晶のサイズが大きいほど、また、厚くなるほど低下する傾向がある。例えば、直径35mmφ、厚さが90μmのGaN単結晶から30mmφ、厚さ80μmのGaN自立基板を製作する場合には、90%以上の高い加工歩留を達成できる。しかし、GaN単結晶のサイズが40mmφ以上、厚さが100μm以上になると、加工歩留は急激に低下する。具体的には、厚さ1mm、径52mmφのGaN単結晶から、研削、研磨により厚さ400μm、径50.8mmφのGaN自立基板を製作する場合の加工歩留は約20%程度である。また、厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ500μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作する場合の加工歩留は5%程度である。GaN単結晶が厚く、かつ、大きくなると、単結晶の成長時に結晶内部に蓄えられる残留応力が増加することから、加工時に割れるリスクが増大するためであると考えられる。
【0010】
実用的には、GaN自立基板は面積が大きいほど、基板1枚あたりにおいて製作できるデバイスの数が増え、デバイス1個あたりのコストを低減できる。工業的な利用に際しては、2インチ(50.8mm)径以上の基板が望まれる。また、デバイス製作中の基板の取扱いを考慮すると、GaN自立基板は100μm以上の厚さを有することが好ましい。GaN自立基板の厚さが100μmよりも薄い場合、デバイス製作中に基板が割れるリスクが高くなる。すなわち、従来の技術においては、工業的な利用に適した大面積(≧40mmφ)で、かつ、厚い(≧100μm)GaN自立基板を作製するには、当該GaN自立基板の原料となるGaN単結晶も大きく厚く作製することを要するので、加工歩留が低下して、GaN自立基板のコストが高くなる。
【0011】
GaN自立基板の作製時には、その製造工程において、GaN単結晶の内部に元から存在する残留応力に加えて、GaN単結晶に接している加工冶具から加わる力に基づく応力がGaN単結晶内に発生する。残留応力と加工冶具に基づく応力とを合成した応力に対して、GaN単結晶の硬さが小さいと、GaN単結晶に割れ、クラック等の欠陥が生じると考えられる。なお、本明細書において「硬さ」が小さいとは、GaN単結晶が塑性変形しやすいことを意味する。GaN単結晶に過大な応力が発生すると、GaN単結晶の内部に既に存在する転位の滑り運動が生じたり、新たな転位が発生・増殖したり、発生・増殖した転位の運動等が生じることにより、GaN単結晶は塑性変形する。塑性変形が更に進展するとGaN単結晶に微小な亀裂が発生する。そして、発生した微小な亀裂を起点にして、GaN単結晶にクラック、割れ等の欠陥が発生する。
【0012】
ここで、材料の硬さ(すなわち、塑性変形のし難さ)を調べる方法としては、μmサイズの先端径を有する圧子を材料に押し込み、その際の荷重と圧痕との寸法から硬さを見積もるビッカース試験、圧子の先端径を数10nmサイズにしたナノインデンテーション法等が知られている。ビッカース試験は、圧子の先端径が大きいので、試験対象にする材料にμm程度のスケールでの不均一性、不完全性等が存在すると、測定点の不均一性・不完全性の度合いにより結果が異なり、安定した測定結果が得にくいという欠点がある。これらの不均一性、不完全性の影響を除去して、材料固有の硬さを調べることを目的とする場合、圧子の先端径が小さいナノインデンテーション法が適している。
【0013】
なお、ナノインデンテーション法より材料の硬さを求める方法としては、Oliverらが開発した方法が知られており(W.C.Oliver and G.M.Pharr,J.Mater.Res.vol.7、1564(1992))、ダイヤモンド圧子を試料に連続荷重で押し込みながら、圧子の侵入量をナノメータの精度で測定して、得られた荷重−侵入量の関係から試料の弾塑性特性を評価する。
【0014】
本発明者は、従来のVAS法を用いて電子デバイスの製造に用いられるGaN自立基板を作製して、前記ナノインデンテーション法を用い、作製したGaN自立基板の硬さを1mN〜50mNの範囲の最大荷重で測定した。その結果、当該GaN自立基板の硬さ(以下、ナノインデンテーション法を用いた測定による硬さを単に「硬さ」とする)を調査したところ、その硬さは19.0GPaより小さかった。
【0015】
ここで、窒化物半導体からなる材料の硬さを高める方法としては、例えば、転位密度を高くする、高濃度の不純物を添加するといった方法が挙げられる。転位密度を高くすると、転位同士がネットワークを形成し互いの運動を阻害し合い、転位の運動を伴う材料の変形(塑性変形)が生じにくくなり材料の硬さが増す。また高濃度の不純物を添加すると、不純物の存在が転位の運動を阻害するため、この場合も材料の硬さを増すことができる。
【0016】
本発明者の検討によると、GaN自立基板を製作する際に、その転位密度を5×106/cm2より大きくするか、あるいはSi、C、Mg、Zn、Sn、Fe、Sn、Te、Ge、O等の不純物を4×1019/cm3よりも多量に結晶中に添加すると、GaN結晶の硬さは19.0GPa以上、最良の場合には20.0GPa以上にすることができることが判明した。GaN結晶の硬さが19.0GPaの場合には、厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶から、厚さ500μm、径76.2mmφのGaNウエハを製作する場合の加工歩留は、前述の10%から30%に向上した。また、GaN結晶の硬さが20GPaの場合には、加工歩留は50%にまで向上した。しかしながら、GaN結晶を半導体レーザー等のデバイスに応用する場合、転位密度を5×106/cm2以下にしないとデバイスの寿命が短く実用に耐えず、また、GaN基板中の不純物濃度が高すぎると、GaN基板上に形成したデバイス内への不純物拡散によりデバイス特性に悪影響を及ぼすので、GaN自立基板中の不純物濃度は4×1019/cm3以下にすることが望ましい。すなわち、転位密度を大きくする手法、及び不純物を多量に転化する手法のいずれも実用上は受け入れがたい。
【0017】
ここで非特許文献3によれば、高圧合成したGaN微結晶の硬さをナノインデンテーション法により測定したところ、20GPaの硬さが得られたとの報告がある。これまでの報告によると、高圧合成法で得られるGaN結晶は黒く着色していることが常であり、高濃度の不純物を含んでいると考えられる。実際、同グループからの他の報告(非特許文献4)を参照すると、高圧合成したGaN中のキャリア濃度として5×1019/cm3という値が報告されており、非特許文献3においても、これと同等かそれ以上のキャリア濃度を有するGaN結晶であったため20GPaという比較的大きな硬さを示したものと考えられる。
【0018】
上述のHVPE法、高圧合成法等を用いた場合も含めて、実用的なサイズの窒化物半導体自立基板(直径≧40mm、厚さ≧100μm)の元になる大きなサイズの窒化物半導体単結晶において、転位密度を5×106/cm2以下にして、不純物濃度を4×1019/cm3以下に制御しつつ、高い加工歩留の実現に必須な19.0GPa以上のナノインデンテーション硬さを実現した報告例は未だない。
【0019】
窒化物半導体自立基板の加工歩留を向上する別の方法としては、AlGaN単結晶の破壊靱性を向上するという方法が、特許文献1において述べられている。破壊靱性とは材料に亀裂がある場合に、その亀裂の拡大のし難さを表す数値である。つまり、特許文献1では、AlGaN基板に微細な亀裂が生じることを前提にして、亀裂を拡大しにくくすることでAlGaN基板の破壊を防止していると考えられる。しかしながら、特許文献1のように破壊靱性を高めることを主眼として製作したGaN自立基板には、破壊に至らない程度の微細な亀裂(クラック)が含まれる場合がある。このような微細な亀裂(クラック)は、GaN自立基板上に高温で結晶成長したり、その後にデバイスプロセスを施したりする途中で基板が割れる原因となり得る。
【0020】
したがって、本発明の目的は、窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂(クラック)が生じにくい窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板が提供される。
【0022】
(2)また、上記窒化物半導体自立基板は、C面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有していてもよい。
【0023】
(3)また、上記窒化物半導体自立基板は、M面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有していてもよい。
【0024】
(4)また、上記窒化物半導体自立基板は、基板面内の各点での基板表面に対する法線に最も近い方向を向いた結晶軸の向きが、基板表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下のバラツキを有していてもよい。
【0025】
(5)また、上記窒化物半導体自立基板は、10μm四方の領域のrms値が3nm以下である表面を有することもできる。
【0026】
(6)また、本発明は上記目的を達成するため、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する単結晶準備工程と、窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成する被覆工程と、1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理を被覆基板に施す熱処理工程と、熱処理工程を経た被覆基板から保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。
【0027】
(7)また、上記窒化物半導体自立基板の製造方法は、被覆工程は、保護膜として、非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、及びSiC膜からなる群から選択されるいずれか1つを含むことが好ましい。
【0028】
(8)また、本発明は上記目的を達成するため、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を加熱状態で成長して形成する単結晶形成工程と、単結晶形成工程の直後、成長温度近傍にて窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成するSi窒化膜形成工程と、Si窒化膜が形成された窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する冷却工程と、冷却工程後、Si窒化膜を除去することにより窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。
【0029】
(9)また、上記窒化物半導体自立基板の製造方法は、Si窒化膜形成工程は、0.018分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成することが好ましい。
【0030】
(10)また、本発明は上記目的を達成するため、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイスが提供される。
【0031】
(11)また、本発明は上記目的を達成するため、上記(6)〜(9)のいずれか1つに記載の窒化物半導体自立基板の製造方法により製造された窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスによれば、窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂(クラック)が生じにくい窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れを示す図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体単結晶の製造工程の流れを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の変形例に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れを示す図である。
【図3】比較例に係るGaN単結晶の電子濃度、転位密度、及び硬さの関係を示す図である。
【図4】比較例においてGaN自立基板の硬さが18.5GPaの場合のGaN単結晶の径、及び厚さと加工歩留との関係を示す図である。
【図5】比較例においてGaN自立基板の硬さが20.0GPaの場合のGaN単結晶の径、厚さと加工歩留との関係を示す図である。
【図6】比較例においてGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す図である。
【図7】実施例1におけるアニール温度、時間によるGaN単結晶の硬さの変化を示す図である。
【図8】実施例1に係るGaN単結晶における硬さと加工歩留との関係を示す図である。
【図9】実施例1に係るGaN単結晶における硬さと黄色発光の相対強度との関係を示す図である。
【図10】実施例3に係るGaN自立基板の製造におけるSi窒化膜厚さとGaN単結晶の硬さとの関係を示す図である。
【図11】実施例3に係るGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[実施の形態の要約]
デバイスの製造に用いられる窒化物半導体自立基板において、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板が提供される。また、デバイスの製造に用いられる窒化物半導体自立基板の製造方法において、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する単結晶準備工程と、窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成するする被覆工程と、1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理を被覆基板に施す熱処理工程と、熱処理工程を経た被覆基板から保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。
【0035】
更に、デバイスの製造に用いられる窒化物半導体自立基板の製造方法において、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を加熱状態で成長して形成する単結晶形成工程と、単結晶形成工程の直後、成長温度近傍にて窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成するSi窒化膜形成工程と、Si窒化膜が形成された窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する冷却工程と、冷却工程後、Si窒化膜を除去することにより窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程とを備える窒化物半導体自立基板の製造方法が提供される。ここで、表面とは結晶成長面を指し、裏面とは、結晶成長面と反対側の面を指す。
【0036】
なお、本実施の形態において「硬さ」が小さいとは、窒化物半導体単結晶が塑性変形しやすいことを意味する。すなわち、本実施の形態において「硬さ」とは、窒化物半導体単結晶中において亀裂が発生する原因になる塑性変形のし難さを示す指標であり、窒化物半導体単結晶が本実施の形態において述べる意味において「硬い」場合には、そもそも窒化物半導体単結晶の破壊の原因になる亀裂が生じにくくなる。
【0037】
(発明者が得た知見)
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板、窒化物半導体自立基板の製造方法、及び窒化物半導体デバイスは、本発明者が得た以下の知見によるものである。なお、以下の説明においては、窒化物半導体として窒化ガリウム(GaN)を例として説明する。
【0038】
本発明者は、GaN自立基板の加工歩留の低さを改善すべく鋭意検討した。その結果、GaN自立基板の元となるGaN単結晶を成長した後に以下に述べるアニール工程を施すか、GaN単結晶成長直後に当該単結晶の表面にSi窒化膜を堆積することで、低転位密度(≦5×106/cm2)であると共に、低不純物濃度(≦4×1019/cm3)であり、実用的な硬さ、すなわち、19.0GPa以上の硬さを有するGaN自立基板を製造できることを見出した。これにより、GaN単結晶が大きく厚くても(すなわち、直径≧40mm、厚さ≧100μm)、GaN自立基板製作時の加工歩留を格段に向上できるという知見を得た。
【0039】
上述したように、そもそも加工工程でGaN単結晶が割れたり、クラックが生じたりする理由は、GaN単結晶内の残留応力と、加工時にGaN結晶に加えられる力によって発生する応力との合成応力により結晶が塑性変形を起こして、その変形量が臨界点を超えた場合に生じる微細な亀裂に起因する点にある。このことから、GaN単結晶の割れやクラックを防止することを目的とする場合、GaN単結晶において塑性変形を起こりにくくすればよい。更に、このためには、塑性変形の原因になる転位の発生を防止することと、転位が既に存在する場合にはその運動を阻害することが重要である。
【0040】
GaN単結晶の転位密度が高い場合や、不純物濃度が高い場合は、転位の運動を阻害することに相当しており、転位ネットワークや不純物がGaN結晶内部の転位の運動を阻害するので、GaN結晶の塑性変形が生じにくくなっている。一方、GaN単結晶の転位密度が低く、不純物濃度も低い場合には、このような転位の運動を阻害する要因がないので、塑性変形の原因になる新たな転位の発生を防止することが重要になる。GaN単結晶内で新たに転位が増殖する機構としては、フランク−リード源や空孔の凝集などが考えられる。フランク−リード源は有限の長さの転位線が滑り面内に閉じ込められたものである。本実施の形態におけるGaN自立基板の割れやすさは、上述のようにナノインデンテーション硬さと相関があり、これはnmサイズの先端径を有する圧子を結晶に押し込む際の硬さである。GaNの転位密度が5×106/cm2以下とすると、転位間の距離は約20μmになるので、転位に起因するフランク−リード源が、ナノインデンテーション硬さに影響する可能性は低く、これがGaN自立基板の割れやクラックの原因となっている可能性も低い。
【0041】
一方、GaN結晶が多量の空孔を含んでいるとすると、加工による力やナノインデンテーションなどによる力をGaN結晶に加えることによりGaN結晶内に応力が発生した場合に、応力が最大となる位置の応力エネルギーを下げるように空孔が凝集することが考えられる。空孔が凝集して2次元的な面を形成すると転位ループになる。すなわち、GaN結晶中の空孔濃度が高いほど、応力により転位ループが発生、増殖して、塑性変形し易くなることが考えられる。逆に、GaN結晶中の空孔濃度を低くできれば、応力による転位の発生、増殖を抑制することができると共に、塑性変形を起こしにくくすることができると考えられる。
【0042】
GaN結晶中のGa空孔は、ホトルミネセンス(PL)測定で550nm付近に観測される黄色発光の起源になっている。この点に着目し、本発明者は、黄色発光の強度を指標としてGaN結晶中のGa空孔濃度の多少を判断しつつ、GaN単結晶に様々な処理を加え、Ga空孔濃度を減らすことのできる処理(すなわち、黄色発光強度を低減する処理)を探索した。GaN結晶中の空孔濃度を直接的に測定する方法としては陽電子消滅測定が知られているが、これには大掛かりな実験設備が必要であり、測定には多大な費用を要するので、本実施の形態においては、PL法による黄色発光強度の増減のみに着目した。
【0043】
以上の知見に基づき、低転位密度(≦5×106/cm2)であり、かつ、低不純物濃度(≦4×1019/cm3)である実用的なGaN自立基板について、結晶中のGa空孔濃度を減らす目的で様々な処理を施した結果、本発明者は下記の2種類の方法を見出した。いずれの方法によっても、上記の予想通りPLの黄色発光強度の低下に伴ってGaN単結晶の硬さが増加し、19.0GPa以上、処理条件によっては21.0GPa以上の硬さのGaN単結晶を製造することができ、GaN自立基板製作時における加工歩留を向上することができるという知見を得た。
【0044】
まず第1の方法は、結晶成長後の硬さが19.0GPaよりも小さいGaN単結晶を、1300℃より高い温度で20時間以上アニールする方法である。第1の方法では、アニール前に、GaN単結晶表面に非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜等からなる保護膜を堆積する。第2の方法は、GaN単結晶の成長を停止した直後に、成長温度近傍(≧800℃)の高温にてGaN単結晶表面を0.001分子層以上の厚さのSi窒化膜で覆う方法である。第2の方法により製作したGaN単結晶は、第1の方法で述べたアニール処理を施さなくても、低い黄色発光強度と19.0GPa以上の硬さを有することを本発明者は見出した。
【0045】
(第1の方法及び第2の方法の作用)
以下では、第1の方法及び第2の方法に効果がある理由を、GaN結晶中にGa空孔が導入される機構と併せて説明する。
【0046】
まず、第2の方法に効果があるということから説明する。Si窒化膜を形成しない場合でも、成長中にGaN結晶に導入されるGa空孔は少なく、Ga空孔はそのほとんどが成長を停止した後、冷却中を含めて高温の間に導入されていると考えられる。本発明者が用いたHVPE法における成長温度が800℃〜1200℃であり、成長停止直後にSi窒化膜を形成した場合にのみGa空孔が低減されてGaN単結晶の硬さが増したことから、結晶成長面である表面にSi窒化膜が無い場合、少なくとも800℃以上の高温においてはGaN単結晶中にGa空孔が容易に導入されるものと考えられる。その際のGa空孔が発生する場所は、結晶の構成原子が最も自由に動きやすい結晶表面の転位芯近傍である可能性が最も高い。成長中は表面にGaが連続的に供給されるため、万が一表面にGa空孔が形成されても即座に当該Ga空孔は埋められるため空孔は形成されにくいが、成長を停止すると原料の供給も止まり、空孔が形成されやすい状態になる。発生したGa空孔はすぐに近傍に存在する転位を伝って結晶内部へと移動して、転位が空孔の放出源になり、結晶全体に空孔が導入されるものと考えられる。
【0047】
一方、成長直後にSi窒化膜を形成した場合には、転位芯に多数存在する未結合手がSi窒化膜により終端されることで空孔の発生が抑制されると考えられる。Si窒化膜の厚さが0.001分子層であっても効果が得られる理由としては、空孔の発生源である転位芯に選択的にSi窒化物が析出することが考えられる。これは、未結合手の多い転位芯の位置が、表面をマイグレーションしているSi原子の最も安定な吸着サイトになるからである。
【0048】
次に、第1の方法により、Ga空孔濃度が減少してGaN単結晶の硬さが増加する理由を考える。この場合の保護膜の役割としては、高温アニール時のGaN単結晶の蒸発を防ぐと共に、非晶質の材料で転位芯に存在する余分な未結合手を終端して、アニール中において新たな空孔の発生を防ぐということが考えられる。しかし、詳細は後述するが、保護膜として単に非晶質で高温に耐える材料、例えば、カーボン膜、Ir膜等を用いても、Ga空孔濃度を低減する効果はないことが判明した。一方、Al、B、Si等のGaN結晶中でGa原子と容易に置換可能な原子を含む材料、例えば、AlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜等を保護膜としてアニールすると、Ga空孔濃度が減少して、GaN単結晶の硬さを向上させることができた。このことから、これらの保護膜を用いた場合、上記の蒸発防止と新たな空孔発生防止とに加えて、アニール時の高温により保護膜の構成原子がGaN結晶中を拡散してGa空孔位置に達することにより、Ga空孔を消滅させる機構が働いていると考えられる。第2の方法と異なり、第1の方法で1300℃よりも高い温度が必要な理由は、保護膜の構成原子が結晶中を拡散するために、高い温度が必要であるためと考えられる。
【0049】
また、上記の2つの方法はGaN自立基板のみならず、AlN自立基板を製作する場合にも有効であることも本発明者は確認した。本発明の実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、MOVPE法等の薄膜成長方法による発光ダイオード、レーザーダイオード、受光素子、又はトランジスタ構造の成長に好適であり、これにより窒化物半導体自立基板を用いた発光、受光、電子デバイスを低コスト化できる。
【0050】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0051】
[実施の形態]
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である。窒化物半導体としては、例えば、GaN、AlNが挙げられる。本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、有機金属気相成長法(MOVPE法)等の薄膜成長方法で成長した発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、受光素子(PD)、又はトランジスタ構造の成長に適用することができる。すなわち、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板上に所定の構造を有する化合物半導体層を形成することにより、発光デバイス、受光デバイス、又は電子デバイスを製造することができる。また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板の最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さは、20.0GPa以上であることが好ましく、20.5GPa以上であることがより好ましく、21.0GPa以上であることが更に好ましい。
【0052】
デバイスへの応用の観点から考えると、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板は、不純物濃度が3×1018/cm3以下であることが好ましく、1×1018/cm3以下であることが更に好ましい。最も好ましい不純物濃度は5×1017/cm3以下である。また、デバイス応用の観点から考えると、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板は転位密度が低いほど好ましく、転位密度は3×106/cm2以下であることが好ましく、1×106/cm2以下であることが更に好ましい。最も好ましい転位密度は、5×105/cm2以下である。
【0053】
なお、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板がn型であり、そのキャリア濃度が4×1019/cm3以下であることが、本実施の形態においては好ましい。n型の不純物としては、Si、O、Ge、Se、Te等を用いることができる。また、窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板がp型であり、そのp型不純物濃度が4×1019/cm3以下であることが、本実施の形態においては好ましい。p型の不純物としては、Mg、Zn、Be、C等を用いることができる。
【0054】
また、窒化物半導体自立基板の抵抗率は、1×105Ωcm以上である半絶縁性であってもよい。例えば、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板を半絶縁性にすることを目的として、窒化物半導体中にFe、Zn、Be、C等の深い準位を形成するp型不純物を、窒化物半導体自立基板に導電性を付与しない程度の量、添加する。
【0055】
そして、窒化物半導体自立基板は、C面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有して形成されることが好ましい。また、当該表面の傾斜方向は、M軸方向が好ましいが、A軸方向又はM軸方向とA軸方向との中間の方向にすることもできる。また、窒化物半導体自立基板は、M面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有して形成することもできる。この場合、当該表面の傾斜方向はA軸又はC軸方向であることが好ましいが、A軸方向とC軸方向との中間の方向にすることもできる。
【0056】
また、基板面内の各点での基板表面に対する法線に最も近い方向を向いた結晶軸の向きが、基板表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下のバラツキを有することが好ましい。当該バラツキは10mmあたり0.05°以下とすることが更に好ましい。
【0057】
なお、本実施の形態における(10mmあたりの)結晶軸のバラツキの定義は、以下の通りである。まず、基板表面に垂直に近い方向を向いた結晶軸を選択する。この結晶軸としては、C軸、A軸、M軸等のミラー指数の小さな結晶軸が一般的であるが、その中間の大きなミラー指数を持つ結晶軸であってもよい。次に、基板表面の現時点において着目している測定点において上記の結晶軸の方向を測定して、基板表面に対する結晶軸の方向を示すベクトルを定める。この測定を表面に沿う長さ10mmの直線上の各点に対して実施して、各点における上記の結晶軸の方向を示すベクトルを定める。これら全てのベクトルの始点を一致させた場合に、始点を頂点として、全てのベクトルを内側に含む円錐が考えられる。このような円錐のうち、頂角の開きが最も小さな円錐の頂角の大きさを結晶軸のバラツキと定義する。
【0058】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、10μm四方の領域のrms値が3nm以下である表面を有することが好ましい。
【0059】
(窒化物半導体自立基板の製造方法)
図1Aは、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れの一例を示し、図1Bは、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体単結晶の製造工程の流れの一例を示す。
【0060】
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲でのナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体単結晶に、表面の研削・研磨、裏面の研削・研磨、及び外形研削工程等を施して製造される。
【0061】
具体的には、まず、円板形状であり、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する(単結晶準備工程:ステップ10、以下、ステップを「S」とする)。例えば、図1Bの(a)に示すように、サファイア基板10上にMOVPE法等を用いて窒化物半導体薄膜20を成長する。そして、窒化物半導体薄膜20上にTi層を蒸着して、水素、及びアンモニア中で熱処理することにより窒化物半導体薄膜20上のTi層をTiN網目構造30に変換しつつ、窒化物半導体薄膜20にボイド35を形成する。
【0062】
続いて、図1Bの(b)に示すように、TiN網目構造30上にHVPE法等を用いて窒化物半導体厚膜40を成長する。その後、ボイド部分からサファイア基板10を剥離することにより、図1Bの(c)に示すように、窒化物半導体単結晶50を製造する(VAS法)。次に、有機溶媒を用いて窒化物半導体単結晶50を洗浄した後、洗浄後の窒化物半導体単結晶50の表面を無機酸で処理して、当該表面から異物を除去する(洗浄工程:S20)。続いて、窒化物半導体単結晶50の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成する(被覆工程:S30)。ここで、保護膜は、非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、及びSiC膜からなる群から選択されるいずれか1つを含むことが好ましい。なお、保護膜は、非晶質であり、後述するアニール温度に耐え、例えば、GaN結晶中のGaと容易に置換する元素を含む材料であれば、上記の例に限られない。
【0063】
次に、1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理、すなわちアニールを被覆基板に施す(熱処理工程:S40)。熱処理温度は、1400℃より高い温度が好ましく、1500℃より高い温度が更に好ましく、1600℃より高い温度が最も好ましい。熱処理工程におけるアニールは、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかあるいはこれらの混合ガス等の不活性ガス中で実施することが好ましい。なお、保護膜を侵さない限り熱処理工程は、例えば、水素中、アンモニアが添加されたガス中で実施することもできる。
【0064】
続いて、熱処理工程を経た被覆基板から保護膜を除去すると共に窒化物半導体自立基板を形成する(基板形成工程:S50)。例えば、保護膜で被覆された被覆基板をスライスした後、露出面を研削・研磨することにより、窒化物半導体自立基板を形成することができる。
【0065】
図2は、本発明の実施の形態の変形例に係る窒化物半導体自立基板の製造工程の流れの一例を示す。
【0066】
まず、VAS法等を用いて、円板形状であり、直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を高温で成長する(単結晶形成工程:S15)。VAS法の詳細については上記説明のとおりである。次に、単結晶形成工程の後、具体的には、窒化物半導体単結晶の成長直後に、成長温度近傍にて窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成する(Si窒化膜形成工程:S25)。Si窒化膜形成工程において形成するSi窒化膜の厚さとしては、0.018分子層以上であることが好ましく、0.15分子層以上であることが更に好ましい。また、Si窒化膜の厚さは、1.2分子層以上であることが最も好ましい。
【0067】
続いて、Si窒化膜が形成された窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する(冷却工程:S35)。そして、冷却工程後、Si窒化膜を除去すると共に窒化物半導体自立基板を形成する(基板形成工程:S45)。
【0068】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板によれば、大面積(すなわち、直径≧40mm)であり、厚く(すなわち、厚さ≧100μm)、低転位(≦5×106/cm2)であり、かつ、低不純物濃度(≦4×1019/cm3)である窒化物半導体単結晶を得ることができる。これにより、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板によれば、実用的な厚さ大きさの窒化物半導体自立基板を加工歩留良く製作することができる。更に、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板によれば、当該窒化物半導体自立基板を用いた発光デバイス、受光デバイス、電子デバイスの低コスト化を実現できる。
【0069】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、窒化物半導体単結晶の硬度を向上させることができ、窒化物半導体自立基板中に微細な亀裂(クラック)が発生することを抑制することができ、窒化物半導体自立基板上に所定の化合物半導体をエピタキシャル成長させる場合、及び/又は窒化物半導体自立基板を所定のデバイスの製造プロセスに投入した場合における窒化物半導体自立基板の割れの発生リスクも格段に低下させることができる。
【0070】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、当該窒化物半導体自立基板の内部のIII族原子の空孔濃度が従来よりも格段に低減されているので、当該窒化物半導体自立基板の上に結晶成長等によりLD、LED、トランジスタ等のデバイスを製作した場合、デバイスの特性、寿命が格段に向上することが期待できる。更に、本実施の形態に係る窒化物半導体自立基板は、従来の窒化物半導体自立基板よりも硬いため、デバイス製作時のプロセス中に割れるリスクが小さく、高いプロセス歩留が期待できる。
【0071】
以下、実施例により更に詳細に説明する。ここでは、まず、比較例を説明した後、本発明に係る実施例について説明する。
【0072】
(比較例)
比較例では、VAS法を用いて、表面がGa極性のC面に近い面であるSiをドープしたn型のGaN単結晶を製作した。VAS法によるGaN単結晶の製造は、図1Bにおいて説明したとおりである。すなわち、まず、種結晶基板としてボイド基板を準備した。ボイド基板は、サファイア基板上にMOVPE法等で厚さ300nm程度のGaN薄膜を成長した後、GaN薄膜の表面にTiを蒸着して、水素、アンモニア中で熱処理することでTi層をTiNの網目構造に変換しつつ、GaN層をボイド化した基板である。ボイド基板の上にHVPE法によりGaN層を厚く成長して、その後、ボイド部分よりサファイア基板を剥離して自立したGaN単結晶を得た。
【0073】
ここで、サファイア基板としては、C面からA軸あるいはM軸方向に0.05°〜1°の範囲で傾斜した表面を有すると共に、厚さが300μm〜800μm、直径が35mm〜160mmの基板を用いた。上記のボイド基板製作時のTiの厚さは5nm〜100nmにした。また、HVPE法による結晶成長の条件としては、例えば、基板温度:800℃〜1200℃、圧力:10kPa〜120kPa、成長速度:30μm/hr〜1000μm/hrであり、50μm〜10cm厚のGaN単結晶を製作した。III族原料としては、HVPE装置内で800℃に加熱した金属ガリウムに塩酸を吹き付けて生成したGaClガスを用いた。また、V族原料ガスとしてはNH3ガスを、n型のドーパントになるSi原料としてはジクロロシランガスを用いた。また、キャリアガスとしては、水素、窒素、又はこれらの混合ガスを用いた。
【0074】
GaN単結晶の転位密度は、ボイド基板製作時のTiの厚さで決定される。Ti層が薄いほど、MOVPE成長したGaN層中の転位がその上のGaN厚膜に伝播しやすいため、高転位密度となる。Ti厚が5nm〜100nmの範囲で得られるGaN単結晶の転位密度は、1×104/cm2〜1×108/cm2の範囲である。また、ここで用いたGaN単結晶は、成長終了後にいずれも表面にピットがほとんどない鏡面状態であった。GaN単結晶中の電子濃度としては、成長中のジクロロシラン流量を調整して1×1015/cm3〜1×1020/cm3の範囲の結晶を準備した。
【0075】
上記の方法で得られたGaN単結晶を加工して、直径30mm〜152mm、厚さ80μm〜600μmのGaN自立基板を製作した。元のGaN単結晶が2mmより薄い場合には、GaN単結晶の表面、裏面を研削、研磨して1個の単結晶から1枚のGaN自立基板を製作した。GaN単結晶が2mm以上の厚さの場合には1個のGaN単結晶をスライスにより複数に分割し、その後に表裏を研削、研磨して複数枚のGaN自立基板を製作した。
【0076】
図3は、比較例に係るGaN単結晶の電子濃度、転位密度、及び硬さの関係を示す。
【0077】
具体的に、図3は、上記により製作したGaN単結晶の電子濃度、転位密度、及びナノインデンテーション硬さの関係を示す。電子濃度、転位密度、ナノインデンテーション硬さとしては、全て加工後のGaN自立基板に対する測定結果を採用した。電子濃度はホール測定により、転位密度はカソードルミネセンス像で観察される暗点数を計測して求めた。また、ナノインデンテーション硬さは、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲に設定して、先端径が50nmのベルコビッチ形状のダイヤモンド圧子を用いて求めた。
【0078】
図3は、縦軸が転位密度、横軸が電子濃度であり、グラフ中に硬さの等高線を実線で示した。転位密度が5×106/cm2以下で電子濃度が4×1019/cm3以下の場合、GaN自立基板の(すなわち、GaN単結晶も)硬さは19.0GPaより小さく、転位密度が5×106/cm2より大きいか、電子濃度が4×1019/cm3よりも大きい場合、GaN自立基板の硬さは19.0GPa以上であった。
【0079】
図4は、比較例においてGaN自立基板の硬さが18.5GPaの場合のGaN単結晶の径、及び厚さと加工歩留との関係を示し、図5は、比較例においてGaN自立基板の硬さが20.0GPaの場合のGaN単結晶の径、厚さと加工歩留との関係を示す。
【0080】
GaN単結晶が柔らかい場合(すなわち、硬さが18.5GPaの場合)であっても、径が40mmφよりも小さく、かつ、厚さが100μmよりも薄い場合には、90%程度の高い加工歩留が得られた。しかし、GaN単結晶の径が40mm以上、厚さが100μm以上になると、加工歩留は30%以下に激減した。一方、GaNが硬い場合(すなわち、硬さが20.0GPaの場合)、GaN自立基板の径、厚さによらず常に50%以上の加工歩留が得られた。
【0081】
図6は、比較例においてGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す。
【0082】
すなわち、図6には、GaN単結晶の硬さが異なる場合に、どのように加工歩留が変化するかを調査した結果を示す。直径52mm、厚さ1mmのGaN単結晶から直径50.8mm、厚さ430μmのGaN自立基板を製作する場合、直径80mm、厚さ5mmのGaN単結晶から直径76.2mm、厚さ530μmのGaN自立基板を製作する場合、直径160mm、厚さ50mmのGaN単結晶から直径152.4mm、厚さ530μmのGaN自立基板を製作する場合のそれぞれについて示した。いずれの場合においても、GaN単結晶の硬さが19.0GPaを境に歩留が大きく変化しており、硬さが19.0GPaよりも小さい場合に加工歩留が22%以下であるのに対して、硬さが19.0GPa以上の場合に、加工歩留が40%以上に急激に上昇している。加工時にGaN結晶にかかる最大負荷と、GaN結晶の硬さの相対関係により、GaNが割れるかどうかが決まるため、図6のように硬さが19.0GPaを境に急激に加工歩留が上昇する挙動を示すものと考えられる。図6では、GaN単結晶の大きさとしては3種類を例に示したが、これ以外の径、厚さの場合についても、歩留の絶対値が若干異なる点を除くと、略同じ結果が得られている。
【0083】
以上より、GaN自立基板製作時にある程度高い加工歩留を達成するためには、GaN単結晶の硬さが19.0GPa以上であるのが望ましいということが分かる。しかしながら、図3からも明らかなように、比較例において製作した硬さが19.0GPa以上であるGaN自立基板は、転位密度が5×106/cm2より大きいか、電子濃度が4×1019/cm3よりも大きいものである。このような高い転位密度や不純物濃度は、デバイスの動作や寿命に悪影響を及ぼすため、これらの高転位、高不純物濃度のGaN自立基板を実際のデバイス製作に適用することはできない。
【0084】
比較例においても、稀に、転位密度が5×106/cm2以下で、電子濃度が4×1019/cm3以下のGaN自立基板を割れずに得ることはできた。しかし、これらの基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキを調べたところ、表面に沿う長さ10mmあたり0.2°程度の大きなバラツキを有していた。GaN自立基板上に発光素子を形成する場合、その発光波長分布は表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキの影響を受ける。素子歩留よくLDやLEDを形成するためには、このバラツキは0.1°以下であることが望ましく、この観点から、比較例で得られるGaN自立基板は、低転位、低不純物濃度のものであっても、実用に耐えないものである。比較例に係るGaN自立基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキが大きい理由としては、GaN結晶が割れてはいないものの、加工中に塑性変形が生じているためと考えられる。
【0085】
また、これらの基板の表面を原子間力顕微鏡により調べたところ10μm四方の領域のrms値が20nm以上と非常に大きいことが明らかとなった。これは、加工中の塑性変形により、表面に微細なクラックや、それに起因する盛り上がりが生じているためであり、この観点からも比較例に係るGaN自立基板は、実用に耐えないものであることが示された。
【実施例1】
【0086】
実施例1においては、比較例と同様にVAS法により厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶を成長して、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作した。ただし、実施例1においては、GaN単結晶を加工する前にアニール処理を施している点が比較例とは異なる。また、実施例1において製作したGaN単結晶はn型であり、キャリア濃度は1×1018/cm3、転位密度は、2×106/cm2であり、アニールを施さない場合、この単結晶の硬さは18.3GPaであった。
【0087】
実施例1においてアニールは、以下の手順で実施した。HVPE法により結晶成長したGaN単結晶を、まず、アセトン、エタノールにより洗浄した。そして、沸騰した硝酸中でGaN単結晶表面に付着した異物を除去した。次に、GaN単結晶をMOVPE装置内に設置した後、200℃〜700℃の温度に加熱して、トリメチルアルミニュウム(TMA)とアンモニアとを装置内に供給した。これにより、GaN単結晶の表面に厚さが100nm〜1000nmの非晶質のAlN膜を保護膜として形成した。この工程は、GaN単結晶のMOVPE装置内への設置方法を変えて複数回実施して、GaN単結晶の表面、裏面、側面の全面を非晶質のAlN膜で被覆した。
【0088】
次に、非晶質のAlN膜で覆ったGaN単結晶をアニール装置に移した。そして、アニール装置内に常圧で窒素を1slm〜50slmの流量で供給しながら、1時間〜50時間、1000℃〜1710℃の温度でアニールを実施した。アニール後、GaN自立基板を、150℃/hrの冷却速度で500℃まで徐々に冷却した。その後、アニール装置のヒーターを切って室温まで冷却した。
【0089】
その後、AlN膜で覆われたGaN単結晶に、スライス、研削、研磨を施して、GaN自立基板を製作した。AlN膜は、GaN自立基板製作時の加工工程で全て除去され、最終的に得られるGaN自立基板はAlN膜を含まない。そして、GaN基板としては、C面から0°〜5°の範囲で、A軸方向、M軸方向、又はこれらの中間の方向に傾いた表面を有する基板を製作した。これらの表面の傾斜角度、傾斜方向は、以下の結果には明確な影響を及ぼさなかったので、以下ではこれら全ての場合の結果をまとめて示す。
【0090】
図7は、実施例1におけるアニール温度、時間によるGaN単結晶の硬さの変化を示す。
【0091】
具体的に図7は、実施例1により製作したGaN単結晶の硬さ(実際には、自立基板に加工してから測定した)の、アニール温度、アニール時間依存性を示す。1200℃以下の結果は、1210℃の場合と略同様であったので、図7では省略した。図7を参照すると、1300℃より低いアニール温度の場合には、50時間までのアニールでは硬さに顕著な変化は見られなかった。一方、アニール温度が1300℃を越え、更にアニール時間が20時間以上となるとGaN自立基板の硬さが急激に大きくなった。また、この場合、20時間を越えて更に長い時間アニールすると、徐々に硬さが増加する傾向が示された。具体的な硬さの値は、1310℃、1405℃、1502℃、1603℃で20時間アニールした場合の硬さはそれぞれ、19.0GPa、20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaであった。
【0092】
図8は、実施例1に係るGaN単結晶における硬さと加工歩留との関係を示す。
【0093】
図8を参照すると、GaN単結晶の硬さの増加につれて加工歩留が向上した。硬さが19.0GPaより小さい場合には、加工歩留は10%以下の低い値であり、硬さが19.0GPa以上となると加工歩留は50%以上になり、20.0GPaで60%、20.5GPaで80%、21.0GPaで90%にまで向上した。硬さが21.0GPa以上では、加工歩留は90%〜95%の範囲で略一定であった。
【0094】
図9は、実施例1に係るGaN単結晶における硬さと黄色発光の相対強度との関係を示す。
【0095】
具体的に、図9は図7及び図8で説明した実施例1に係るGaN自立基板のPL測定結果をまとめた結果を示す。すなわち、図9は、GaN単結晶の硬さに対して、波長550nmの位置の黄色発光強度をバンド端発光強度に対する相対値でプロットした図である。図9から明らかなように、GaN自立基板の硬さの増加に応じて、黄色発光の相対強度は単調に減少した。前述の通り、黄色発光はGa空孔に起因する発光であるので、図9の結果はGaN自立基板の硬さの増加に応じて結晶中のGa空孔濃度が低下していることを示す。結晶中の空孔濃度が高いほど、応力により転位ループが発生・増殖して塑性変形しやすくなり、結晶の硬さが低下すると予想される。実施例1においても、1300℃以上20時間以上のアニールを施した場合には、GaN単結晶中のGa空孔濃度が低下して、その結果、GaN結晶の硬さが向上することにより加工歩留が向上したものと考えられる。
【0096】
また、アニールによりGaN結晶中のGa空孔濃度が低下する機構としては、アニール中に保護膜の構成原子(実施例1の場合はAl原子)が結晶内を拡散してGa空孔位置に到達するというモデルが考えられる。実施例1でアニールにより硬さを向上させるために1300℃よりも高い温度を要する理由は、GaN結晶内におけるAl原子の拡散を促進するために1300℃より高い温度が必要であるためと考えられる。また、GaN自立基板の硬さを増加させるためには、Al原子がGaN単結晶の奥深くの領域(すなわち、加工により表に表れる領域)まで拡散することが必要であり、このため図7に示すように、アニールの効果が顕在化するまで20時間程度の時間を要したと考えられる。
【0097】
なお、実施例1においては、特に、厚さ5mm、径80mmφ、キャリア濃度1×1018/cm3、転位密度2×106/cm2のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作する場合について説明した。また、実施例1の変形例についても実施例1と略同一の結果が得られた。すなわち、厚さが100μm〜10cm、直径が40mm〜160mm、キャリア濃度が1×1015/cm3〜4×1019/cm3、転位密度が1×104/cm2〜5×106/cm2の範囲のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て、厚さが100μm〜600μm、径が40mm〜152.4mmの範囲のGaN自立基板を製作する場合に関して、実施例1と略同一の結果が得られることを確認した。
【0098】
以上から、実施例1により製作した、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、硬さが19.0GPa以上であるGaN自立基板において、加工歩留を従来以上の50%以上に向上できることが示された。更に、GaN基板の硬さを20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaにすることにより、加工歩留を更に改善でき、それぞれ60%以上、80%以上、90%以上にまで向上できることが示された。
【0099】
また、比較例と同様に、実施例1で得られたGaN自立基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキを調べたところ、転位密度が5×106/cm2以下では、表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキが、表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下、転位密度が1×106/cm2以下の場合にはバラツキが0.05°以下と、比較例よりも格段に改善しており、LDやLED等への応用に十分な値であった。これは、GaN結晶が硬くなり塑性変形が抑制された結果である。更に、実施例1に係るGaN自立基板の表面には、比較例で見られたような塑性変形起因のクラック、盛り上がりは観察されず、10μm四方の領域のrms値は3nm以下であった。この値もLDやLED等への応用に十分な値であった。
【実施例2】
【0100】
実施例1と同様にして実施例2に係るGaN自立基板を製造した。具体的には、保護膜の種類、膜の堆積方法、条件を様々に変えて製造した。ここで保護膜としては、AlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜、カーボン膜、Ir膜を用い、堆積方法はMOVPE法、プラズマCVD法、スパッタリング法、ゾルゲル法を用いた。結果としては、実施例1と同様の結果が得られる場合と、実施例1のようなGaN結晶の硬さの増大及び加工歩留の向上が見られない場合があった。
【0101】
具体的に、実施例1と同様の結果が得られたのは、保護膜が非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、SiC膜であった場合のみであった。一方、結晶性のAlN膜、BN膜、SiC膜や、非晶質、結晶性に関わらずカーボン膜やIr膜では、GaN結晶の硬さの向上は見られなかった。
【0102】
以上の結果より、上述した第1の方法によりGaN結晶の硬さが向上するのは、アニール時の保護膜が、1)アニール時の温度、雰囲気に耐える、2)膜がAl、B、Siを含む、3)膜が非晶質の膜である、という3つの条件を満たす場合のみであることが示された。例えば、AlN膜をMOVPE法により800℃〜1200℃で堆積した場合には、結晶性のAlN膜になり、アニール後のGaN結晶の硬さの向上や、加工歩留の向上は見られなかった。また、非晶質のカーボン膜を300℃の低温で、スパッタリング法により堆積した場合も同様に、GaN結晶の硬さの向上は見られなかった。
【0103】
そして、「2)膜がAl、B、Siを含む」点については、アニール時にGa空孔サイトに入り空孔を消滅させる原子として、実施例1のAl以外でも、Ga原子と容易に置換する原子(すなわち、III族原子、III族サイトに置換する不純物)であれば良いということを意味している。実施例2においては、Al以外にはB、Siを用いることができるが、B及びSi以外であっても、Gaと容易に置換可能な原子であればAlの代わりに用いることができる。また、「3)膜が非晶質の膜である」については、保護膜が結晶性の場合、保護膜は下地のGaN単結晶上にエピタキシャルに成長すると考えられる。この場合、GaN単結晶表面に転位芯が存在すると、転位は保護膜内部を貫通して保護膜の表面にまで達する。このため、膜が結晶性を有する膜である場合には、保護膜が転位芯を覆い隠し空孔の発生を抑制する効果が得られないと考えられる。
【実施例3】
【0104】
実施例3では、比較例と同様にVAS法により厚さ5mm、径80mmφのGaN単結晶を成長して、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作した。実施例1と同様に、GaN単結晶はn型にすると共に、キャリア濃度は1×1018/cm3、転位密度は、2×106/cm2にした。ただし、実施例3では、HVPE装置内でのGaN成長を停止した直後の冷却開始前に、HVPE装置内にSi原料のジクロロシランとアンモニアを導入して、GaN単結晶の表面にSi窒化膜を堆積した点が実施例1とは異なる。また、実施例1で実施した成長後の保護膜を形成してのアニールは実施していない。成長直後に堆積したSi窒化膜の厚さは0.0001分子層〜30分子層の間であり、堆積速度は0.0001分子層/秒〜1分子層/秒の間に設定して、堆積時間は1秒〜30秒の間にした。このSi窒化膜は、GaN自立基板を製作する加工工程で除去される。
【0105】
図10は、実施例3に係るGaN自立基板の製造におけるSi窒化膜厚さとGaN単結晶の硬さとの関係を示す。
【0106】
図10に示したように、Si窒化膜厚さが増すに従い、GaN自立基板の硬さが向上した。Si窒化膜の厚さが0.001分子層より小さい場合には、比較例と同様にGaN自立基板の硬さは18.3GPa程度であったが、Si窒化膜が0.001分子層以上になると、GaN自立基板の硬さは19.0GPa以上になった。更に、Si窒化膜の厚さが0.018分子層、0.15分子層、1.2分子層と増えるにつれて、GaN自立基板の硬さは20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaと増加した。
【0107】
図11は、実施例3に係るGaN単結晶の硬さと加工歩留との関係を示す。
【0108】
また、Si窒化膜の厚さの増加に伴うGaN自立基板の硬さの増加に伴い、図11に示すように加工歩留が改善した。Si窒化膜の厚さが0.001分子層より小さく、GaN自立基板の硬さが19GPaより小さい場合の加工歩留は、比較例と同様に10%以下であったが、Si窒化膜の厚さが0.001分子層以上になりGaNの硬さが19.0GPa以上になると、加工歩留は50%以上に改善した。また、GaN自立基板の硬さが20.0GPa以上では60%以上の加工歩留が得られ、硬さが20.5以上21.0GPa以上になると、歩留はそれぞれ80%以上、90%以上へと更に改善した。
【0109】
実施例3で得られたGaN自立基板のPL測定を行った結果、図9と同様にGaN自立基板が硬くなればなるほど、PLでの黄色発光強度が低下していることが明らかとなった。このことから、実施例3においてもGaN自立基板の硬さが増したのは、GaN結晶中のGa空孔濃度が減少したためであると判断できる。すなわち、GaN成長直後にSi窒化膜を堆積することで、GaN単結晶中のGa空孔濃度を低減できることが示された。
【0110】
比較例、実施例1、及び実施例2において成長後のGaN単結晶でGa空孔濃度が高かったことと上記の結果とを併せて考えると、GaN結晶内に多量のGa空孔が発生するタイミングは、成長中ではなくGaNの成長を停止した後であると思われる。つまり、Si窒化膜によりGaN単結晶中のGa空孔濃度が低減したと上述したが、正確には、Si窒化膜によりGa空孔の増加を防止できたものと考えられる。比較例、実施例1、及び実施例2では、成長停止直後にSi窒化膜を堆積していないので、成長停止後の冷却中にGa空孔が増加したと考えられる。
【0111】
Si窒化膜により、GaN結晶中のGa空孔の増加を防止できるのは、Si窒化膜が転位芯を覆い、そこに存在する未結合手を終端するためと考えられる。上述のように、転位芯には未結合手が多数存在しており、Ga空孔が発生しやすい状態にある。結晶成長中においてはGaが連続的に供給されているため空孔はできてもすぐに消滅するが、成長を停止すると発生したGa空孔が生き延び、転位を通ってGaN結晶の内部に拡散する。これにより、得られるGaN単結晶中には多量のGa空孔が含まれることになる。GaNの成長を停止した直後にSi窒化膜により転位芯を被覆すれば、転位芯での空孔の発生を抑制でき、Ga空孔濃度の増加を防止できるものと考えられる。
【0112】
また、Si窒化膜の厚さが0.001分子層と極薄い場合にも、一定の効果が得られているのは、Si窒化膜が転位芯の部分に選択的に堆積するためと考えられる。これは、未結合手の多い転位芯部分にSiが優先的に付着するためと思われる。更に、図10ではSi窒化膜の厚さは30分子層までであったが、Si窒化膜の厚さが1.2分子層以上ではGaN単結晶の固さは略一定で飽和しており、Si窒化膜の厚さとしてはこれ以上厚くする必要はないと思われる。しかしながら、上記のSi窒化膜の作用メカニズムから考えると、Si窒化膜が30分子層以上の厚い膜であっても問題はないと思われる。
【0113】
実施例3では、特に厚さ5mm、径80mmφ、キャリア濃度1×1018/cm3、転位密度2×106/cm2のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て厚さ530μm、径76.2mmφのGaN自立基板を製作する場合について説明したが、実施例3の変形例についても略同一の結果が得られた。具体的には、厚さが100μm〜10cm、直径が40mm〜160mm、キャリア濃度が1×1015/cm3〜4×1019/cm3、転位密度が1×104/cm2〜5×106/cm2の範囲のn型のGaN単結晶から、スライス、研削、研磨工程を経て、厚さが100μm〜600μm、径が40mm〜152.4mmの範囲のGaN自立基板を製作する場合に関して、略同一の結果が得られることを確認した。
【0114】
以上から、実施例3により製作した、直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、硬さが19.0GPa以上であるGaN自立基板において、加工歩留を従来以上の50%以上に向上できることが示された。更に、GaN基板の硬さを20.0GPa、20.5GPa、21.0GPaにすることにより、加工歩留を更に改善でき、それぞれ60%以上、80%以上、90%以上にまで向上できることが示された。
【0115】
また、比較例と同様に、実施例3で得られたGaN自立基板の表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキを調べたところ、転位密度が5×106/cm2以下では、表面に垂直な結晶軸の向きのバラツキが、表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下、転位密度が1×106/cm2以下の場合にはバラツキが0.05°以下と、比較例よりも格段に改善しており、LDやLED等への応用に十分な値であることが示された。更に、得られたGaN自立基板の表面には、比較例で観察されたような塑性変形起因のクラック、盛り上がりは観察されず、10μm四方の領域のrms値は3nm以下であった。この値もLDやLED等への応用に十分な値であった。
【実施例4】
【0116】
GaN単結晶の転位密度を1×104/cm2、1×105/cm2、1×106/cm2と変える以外、実施例1〜3と同様にして実施例4に係るGaN自立基板を製造した。アニール前のGaN単結晶の硬さはそれぞれ、18.15GPa、18.2GPa、18.25GPa程度であったが、それ以外の点では実施例1〜3と略同様の結果が得られた。
【実施例5】
【0117】
n型ドーパントをO、Ge、Se、又はTeに代える以外、実施例1〜4と同様にして実施例5に係るGaN自立基板を製造した。この場合にも、実施例1〜4と略同様の結果が得られた。
【実施例6】
【0118】
HVPE成長時のドーパントを、Mg、Zn、Be、又はCに変える以外、実施例1〜4と同様にして実施例6に係るGaN自立基板を製造した。得られたGaN単結晶を酸素雰囲気中、600℃、30分間アニールしたところ、GaN単結晶はキャリア濃度が1×1016/cm3〜4×1018/cm3のp型、又は抵抗率が1×105Ωcm以上の半絶縁性となった。この場合PLの黄色発光は強度が非常に弱く、明確なPLデータは得られなかったが、GaN単結晶の硬さと加工歩留については、実施例1〜4と同様の結果が得られた。このことから、p型又は半絶縁性のGaN自立基板においても、n型のGaN自立基板の同様のメカニズムにより硬さが向上し、加工歩留が向上しているものと考えられる。
【実施例7】
【0119】
表面がR面又はM面のサファイア基板を用いて製作したボイド基板を用いる以外、実施例1〜6と同様にして実施例7に係るGaN自立基板を製造した。この場合に得られるGaN自立基板は、M面から0°〜5°の範囲でA軸、C軸、又はこれらの軸の中間の方向に傾いた基板であったが、それ以外の点では略実施例1〜6と同様の結果が得られた。
【0120】
(実施例の変形例1)
HVPE法に代えて、MBE法、MOVPE法、昇華法のそれぞれを用いてGaN単結晶を成長する以外、実施例1〜7と同様にして変形例1に係るGaN自立基板を製造した。いずれの場合にも、実施例1〜7と略同様な結果が得られた。
【0121】
(実施例の変形例2)
実施例1、実施例2、実施例4〜7において採用した成長後のGaN単結晶に保護膜を堆積してアニールする手法を、安熱合成法、高圧合成法で成長したGaN単結晶に対して実施した。いずれの場合にも、実施例1、実施例2、及び実施例4〜7と略同様な結果が得られた。
【0122】
(実施例の変形例3)
保護膜堆積方法をプラズマCVD法、光CVD法、塗布法に変える以外、実施例1、実施例2、及び実施例4〜7と同様にして変形例3に係るGaN自立基板を製造した。いずれの場合にも、実施例1、実施例2、及び実施例4〜7と略同様な結果が得られた。
【0123】
(実施例の変形例4)
GaN結晶をAlN結晶に置き換える以外、実施例1〜7と同様にして、変形例4に係るAlN自立基板を製造した。この場合、AlNはGaNと略同じ挙動を示す結果が得られ、実施例1〜7と略同じ結果を得た。
【0124】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板。
【請求項2】
C面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有する請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項3】
M面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有する請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項4】
基板面内の各点での基板表面に対する法線に最も近い方向を向いた結晶軸の向きが、前記基板表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下のバラツキを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項5】
10μm四方の領域のrms値が3nm以下である表面を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項6】
直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する単結晶準備工程と、
前記窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成する被覆工程と、
1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理を前記被覆基板に施す熱処理工程と、
前記熱処理工程を経た前記被覆基板から前記保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程と
を備える窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程は、前記保護膜として、非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、及びSiC膜からなる群から選択されるいずれか1つを含む請求項6に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項8】
直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を加熱状態で成長して形成する単結晶形成工程と、
前記単結晶形成工程の直後、成長温度近傍にて前記窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成するSi窒化膜形成工程と、
前記Si窒化膜が形成された前記窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する冷却工程と、
冷却工程後、前記Si窒化膜を除去することにより窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程と
を備える窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項9】
前記Si窒化膜形成工程は、0.018分子層以上の厚さを有する前記Si窒化膜を形成する請求項8に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイス。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法により製造された窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイス。
【請求項1】
直径が40mm以上、厚さが100μm以上であり、転位密度が5×106/cm2以下であり、不純物濃度が4×1019/cm3以下であり、最大荷重が1mN以上50mN以下の範囲内におけるナノインデンテーション硬さが19.0GPa以上である窒化物半導体自立基板。
【請求項2】
C面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有する請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項3】
M面から0°以上5°以下の範囲で傾斜した表面を有する請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項4】
基板面内の各点での基板表面に対する法線に最も近い方向を向いた結晶軸の向きが、前記基板表面に沿う長さ10mmあたり0.1°以下のバラツキを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項5】
10μm四方の領域のrms値が3nm以下である表面を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項6】
直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を準備する単結晶準備工程と、
前記窒化物半導体単結晶の表面と、裏面と、側面との全体を保護膜で被覆して、被覆基板を形成する被覆工程と、
1300℃より高い温度下において20時間以上の熱処理を前記被覆基板に施す熱処理工程と、
前記熱処理工程を経た前記被覆基板から前記保護膜を除去して窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程と
を備える窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程は、前記保護膜として、非晶質のAlN膜、BN膜、Si酸化膜、Si窒化膜、及びSiC膜からなる群から選択されるいずれか1つを含む請求項6に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項8】
直径が40mm以上、厚さが100μm以上の窒化物半導体単結晶を加熱状態で成長して形成する単結晶形成工程と、
前記単結晶形成工程の直後、成長温度近傍にて前記窒化物半導体単結晶の表面に0.001分子層以上の厚さを有するSi窒化膜を形成するSi窒化膜形成工程と、
前記Si窒化膜が形成された前記窒化物半導体単結晶を室温まで冷却する冷却工程と、
冷却工程後、前記Si窒化膜を除去することにより窒化物半導体自立基板を形成する基板形成工程と
を備える窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項9】
前記Si窒化膜形成工程は、0.018分子層以上の厚さを有する前記Si窒化膜を形成する請求項8に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイス。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法により製造された窒化物半導体自立基板を含む窒化物半導体デバイス。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−37666(P2011−37666A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186612(P2009−186612)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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