説明

窒化物結晶およびエピ層付窒化物結晶基板の製造方法

【課題】半導体デバイス用の基板として好ましく用いられ得るように結晶を破壊することなく直接かつ確実に評価された結晶表面層を有する窒化物結晶およびエピ層付窒化物結晶基板の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物結晶1の機械加工後の化学機械的研磨により、機械加工により悪化した窒化物結晶の表面層1aの結晶性を化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、化学機械的研磨においてpHが6以下または8以上のスラリーを用いて、窒化物結晶1の表面層1aの結晶性の向上は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる結晶の表面層の均一歪みが2.1×10-3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物結晶およびエピ層付窒化物結晶基板の製造方法に関し、特に半導体デバイスを作製する際のエピタキシャル結晶成長用の基板として好ましく用いられ得る窒化物結晶およびエピ層付窒化物結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年では窒化物半導体結晶を利用した種々の半導体デバイスが作製されており、そのような半導体デバイスの典型例として窒化物半導体発光デバイスが作製されている。
【0003】
窒化物半導体デバイスの作製においては、一般に、基板上に複数の窒化物半導体層がエピタキシャルに結晶成長させられる。エピタキシャル成長した窒化物半導体層の結晶品質はそのエピタキシャル成長に用いられた基板の表面層の状態に影響され、その窒化物半導体層を含む半導体デバイスの性能に影響を及ぼす。したがって、そのような基板として窒化物半導体結晶を用いる場合、少なくともエピタキシャル成長の下地となる基板主面は歪みを含まずかつ平滑であることが望ましい。
【0004】
すなわち、エピタキシャル成長に用いられる窒化物半導体基板の主面は、一般に、その平滑化処理がなされるとともに歪み除去処理がなされる。この場合に、化合物半導体のなかでも窒化ガリウム系半導体は比較的硬質であり、表面平滑化処理が容易ではなく、その平滑化処理後の歪み除去処理も容易ではない。
【0005】
特許文献1の特開2004−311575号公報は、窒化ガリウム基板の表面研磨用の研磨組成物として軟質砥粒と硬質砥粒を用いる研磨方法とその組成物を開示している。また、特許文献2の米国特許第6596079号明細書では、(AlGaIn)N種結晶上に気相エピタキシによって育成された(AlGaIn)Nバルク結晶から基板を作製する場合において、機械的研磨された基板表面に対してCMP(化学機械的研磨)やエッチングなどを施すことによって、表面ダメージが除去されて1nm以下のRMS(2乗平均)表面粗さを有する基板面を形成する方法が開示されている。特許文献3の米国特許第6488767号明細書では、CMP処理によって0.15nmのRMS表面粗さを有するAlxGayInzN(0<y≦1、x+y+z=1)基板が開示されており、そのCMPの処理剤にはAl23砥粒、SiO2砥粒、pH調整剤、および酸化剤が含められる。特許文献4の特開2001−322899号公報では、GaN基板の研磨後にドライエッチで加工変質層を除去して、その基板表面が仕上げられる。
【0006】
従来では、上述のように、GaN結晶を機械研磨した後にCMP処理またはドライエッチングすることによって、機械研磨時の加工変質層を除去して基板面を仕上げたGaN基板を得ている。しかし、CMP処理は処理レート遅く、コストや生産性に問題がある。また、ドライエッチングでは、表面粗さの問題が生じる。
【0007】
すなわち、Si基板のCMPによる仕上げ方法やその方法における研磨剤は、硬質の窒化物半導体基板には不向きであって、表面層の除去速度を遅くする。特に、GaNは化学的に安定であり、ウェットエッチングされにくいのでCMP処理が容易でない。また、ドライエッチングによって窒化物半導体表面を除去することはできるが、その表面を水平方向に平坦化する効果がないので、表面平滑化が得られない。
【0008】
また、上述のように、基板面上に良好な結晶質の化合物半導体層をエピタキシャル成長させるためには、加工ダメージが少なく歪みの少ない良好な結晶品質の表面層を有する基板面を用いることが必要である。しかし、基板面において必要とされる表面層の結晶品質が明らかでない。
【0009】
従来は、結晶の表面層の歪みの評価は、非特許文献1のJpn. J. Appl. Phys., Vol. 39, November 2000, p.L1141-L1142および非特許文献2の日本セラミックス協会学術論文誌,99,[7],(1991),p.613-619などに示されるように、結晶をへき開してそのへき開面をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察することによって行なわれていた。すなわち、従来における結晶の表面層の歪み評価は、結晶を破壊する破壊試験により行なわれていたため、評価結果が悪くても評価後に修正することができず、また製品そのものを評価することができないという問題点があった。また。現状では、仕上げられた基板面における表面層の結晶性を非破壊的に評価する指標がなく、定量的に表面層の結晶品質を規定することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−311575号公報
【特許文献2】米国特許第6596079号明細書
【特許文献3】米国特許第6488767号明細書
【特許文献4】特開2001−322899号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S. S. Park, 他2名,“Free-Standing GaN Substrate by Hydride Vapor Phase Epitaxy”, Jpn. J. Appl. Phys., The Japan Society of Applied Physics, Vol. 39, November 2000, p.L1141-L1142.
【非特許文献2】高橋裕,他3名,「窒化アルミニウム多結晶基板の湿式研磨における表面損傷の電子顕微鏡観察」,日本セラミックス協会学術論文誌,日本セラミックス協会,99,[7],(1991),p.613-619.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、半導体デバイスを作製する際のエピタキシャル結晶成長用の基板として好ましく用いられ得るように結晶を破壊することなく直接かつ確実に評価された結晶表面層を有する窒化物結晶およびエピ層付窒化物結晶基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つの態様によれば、窒化物結晶の製造方法は、気相成長法または液相成長法により成長させた窒化物結晶を機械加工した後化学機械的研磨することにより、機械加工により悪化した窒化物結晶の表面層の結晶性を化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、化学機械的研磨においてpHが6以下または8以上のスラリーを用いて、窒化物結晶の表面層の結晶性の向上は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmのX線侵入深さにおける面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される結晶の表面層の均一歪みを2.1×10-3以下とすることができる。
【0014】
また、本発明の別の態様によれば、窒化物結晶の製造方法は、気相成長法または液相成長法により成長させた窒化物結晶を機械加工した後化学機械的研磨することにより、機械加工により悪化した窒化物結晶の表面層の結晶性を化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、化学機械的研磨においてpHが6以下または8以上のスラリーを用いて、窒化物結晶の表面層の結晶性の向上は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の回折強度プロファイルにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる|v1−v2|の値で表される結晶の表面層の不均一歪みを150arcsec以下とすることができる。
【0015】
また、本発明の別の態様によれば、窒化物結晶の製造方法は、気相成長法または液相成長法により成長させた窒化物結晶を機械加工した後化学機械的研磨することにより、機械加工により悪化した窒化物結晶の表面層の結晶性を化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、化学機械的研磨においてpHが6以下または8以上のスラリーを用いて、窒化物結晶の表面層の結晶性の向上は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して結晶の表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される特定結晶面の面方位ずれが400arcsec以下とすることができる。
【0016】
上記態様の窒化物結晶の製造方法において、上記スラリーは、次亜塩素酸、塩素化イソシアヌル酸、塩素化イソシアヌル酸塩、過マンガン酸塩、ニクロム酸塩、臭素酸塩、チオ硫酸塩、硝酸、過酸化水素水およびオゾンからなる群から選ばれる1種以上の酸化剤を含むことができる。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、エピ層付窒化物結晶基板の製造方法は、窒化物結晶基板として、窒化物結晶であって結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmのX線侵入深さにおける面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される結晶の表面層の均一歪みが2.1×10-3以下である結晶を選択し、上記窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含む。
【0018】
本発明のさらに別の態様によれば、エピ層付窒化物結晶基板の製造方法は、窒化物結晶基板として、窒化物結晶であって結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の回折強度プロファイルにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる|v1−v2|の値で表される結晶の表面層の不均一歪みが150arcsec以下である結晶を選択し、上記窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含む。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、エピ層付窒化物結晶基板の製造方法は、窒化物結晶基板として、窒化物結晶であって結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して結晶の表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される特定結晶格子面の面方位ずれが400arcsec以下である結晶を選択し、上記窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含む。
【0020】
上記態様のエピ層付窒化物結晶基板の製造方法において、窒化物結晶基板の格子定数k0と半導体層の格子定数kとの関係を(|k−k0|/k)≦0.15とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体デバイスを作製する際のエピタキシャル結晶成長用の基板として好ましく用いられ得るように結晶を破壊することなく直接かつ確実に評価された結晶表面層を有する窒化物結晶およびエピ層付窒化物結晶基板の製造方法を提供することができる。すなわち、本発明にかかる窒化物結晶を基板として用いることにより特性のよい半導体デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】結晶表面から深さ方向への結晶の状態を示す断面模式図である。
【図2】本発明にかかるX線回折法における測定軸、測定角を示す模式図である。
【図3】X線回折法における窒化物結晶の結晶格子の均一歪みと回折プロファイルにおける特定結晶格子面の面間隔との関係を示す模式図である。ここで、(a)は結晶格子の均一歪みを示し、(b)は回折プロファイルにおける特定結晶格子面の面間隔を示す。
【図4】X線回折法における窒化物結晶の結晶格子の不均一歪みと回折プロファイルにおける回折ピークの半価幅との関係を示す模式図である。ここで、(a)は結晶格子の不均一歪みを示し、(b)は回折プロファイルにおける回折ピークの半価幅を示す。
【図5】X線回折法における窒化物結晶の特定結晶格子面の面方位ずれとロッキングカーブにおける半価幅との関係を示す模式図である。ここで、(a)は特定結晶格子面の面方位ずれを示し、(b)はロッキングカーブにおける半価幅を示す。
【図6】本発明にかかる半導体デバイスの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明においては、X線回折法を用いることにより、窒化物結晶の表面層における結晶性を、結晶を破壊することなく直接評価することができる。ここで、結晶性の評価とは、結晶の歪みがどの程度あるかを評価することをいい、具体的には、結晶格子の歪み、結晶格子面の面方位ずれがどの程度あるかを評価することをいう。また、結晶格子の歪みには、結晶格子が均一に歪んでいる均一歪みと、結晶格子が不均一に歪んでいる不均一歪みとがある。結晶格子面の面方位ずれとは、結晶格子全体の格子面の面方位の平均方位から各々の結晶格子の格子面の面方位がずれているばらつきの大きさをいう。
【0024】
図1に示すように、窒化物結晶1は、切り出し、研削または研磨などによる加工によって、結晶表面1sから一定の深さ方向の結晶表面層1aに結晶格子の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれが生じる。また、結晶表面層1aに隣接する結晶表面隣接層1bにも、結晶格子の均一歪み、不均一歪みまたは結晶格子の面方位ずれの少なくともいずれかが生じる場合もある(図1は、結晶格子の面方位ずれが生じている場合を示す)。さらに、結晶表面隣接層1bよりも内側の結晶内層1cでは、その結晶本来の結晶構造を有するものと考えられる。なお、表面加工における研削または研磨の方法、程度などにより、結晶表面層1a、結晶表面隣接層1bの状態、厚さが異なる。
【0025】
ここで、結晶の表面からその深さ方向に、結晶格子の均一歪み、不均一歪みおよび/または面方位ずれを評価することにより、結晶表面層の結晶性を直接かつ確実に評価することができる。
【0026】
本発明において窒化物結晶の表面層の結晶性を評価するためのX線回折測定は、窒化物結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるものである。
【0027】
ここで、任意の特定結晶格子面の回折条件とは、任意に特定されたその結晶格子面によってX線が回折される条件をいい、Bragg角をθ、X線の波長をλ、結晶格子面の面間隔をdとすると、Braggの条件式(2dsinθ=nλ、ここでnは整数)を満たす結晶格子面でX線が回折される。
【0028】
また、X線侵入深さとは、入射X線の強度が1/e(eは自然対数の底)になるときの結晶表面1sからの垂直深さ方向への距離をいう。このX線侵入深さTは、図2を参照して、窒化物結晶1におけるX線の線吸収係数μ、結晶表面1sの傾き角χ、結晶表面1sに対するX線入射角ω、Bragg角θによって、式(1)のように表わされる。なお、χ軸21は入射X線11と出射X線12とにより作られる面内にあり、ω軸(2θ軸)22は入射X線11と出射X線12とにより作られる面に垂直であり、φ軸23は結晶表面1sに垂直である。φは結晶表面1s内の回転角を示す。
【0029】
【数1】

【0030】
したがって、上記の特定結晶格子面に対する回折条件を満たすように、χ、ωおよびφの少なくともいずれかを調整することにより、連続的にX線侵入深さTを変えることができる。
【0031】
なお、特定結晶格子面1dにおける回折条件を満たすように、連続的にX線侵入深さTを変化させるためには、その特定結晶格子面1dと結晶表面1sとは平行でないことが必要である。特定結晶格子面と結晶表面とが平行であると、特定結晶格子面1dと入射X線11とのなす角度であるθと結晶表面1sと入射X線11とのなす角度であるωとが同じになり、特定結晶格子面1dにおいてX線侵入深さを変えることができなくなる。
【0032】
ここで、X線侵入深さを変えて結晶の任意の特定結晶格子面にX線を照射し、この特定結晶格子面についての回折プロファイルにおける面間隔の変化から結晶格子の均一歪みを、回折プロファイルにおける回折ピークの半価幅の変化から結晶格子の不均一歪みを、ロッキングカーブにおける半価幅の変化から結晶格子の面方位ずれを評価することを、以下の実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0033】
(実施形態1)
本実施形態の窒化物結晶は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmのX線侵入深さにおける面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される結晶の表面層の均一歪みが2.1×10-3以下であることを特徴とする。
【0034】
図1を参照して、X線侵入深さ0.3μmは窒化物結晶の表面から結晶表面層1a内までの距離に相当し、X線侵入深さ5μmは窒化物結晶の表面から結晶内層1c内までの距離に相当する。このとき、図3(a)を参照して、X線侵入深さ5μmにおける面間隔d2はその窒化物結晶本来の特定結晶格子面の面間隔と考えられるが、X線侵入深さ0.3μmにおける面間隔d1は、結晶の表面加工の影響(たとえば、結晶格子面内方向への引張応力30など)による結晶表面層の結晶格子の均一歪みを反映して、X線侵入深さ5μmにおける面間隔d2と異なる値をとる。
【0035】
上記の場合、図3(b)を参照して、結晶の任意の特定結晶格子面についての回折プロファイルにおいて、X線侵入深さ0.3μmにおける面間隔d1とX線侵入深さ5μmにおける面間隔d2とが現れる。したがって、d2に対するd1とd2の差の割合である|d1−d2|/d2の値によって、結晶表面層の均一歪みを表わすことができる。
【0036】
本実施形態の窒化物結晶は、この|d1−d2|/d2の値で表わされる表面層の均一歪みが2.1×10-3以下である。窒化物結晶の表面層の均一歪みを|d1−d2|/d2≦2.1×10-3とすることにより、この窒化物結晶上に結晶性のよい半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスを作製することができる。
【0037】
(実施形態2)
本実施形態の窒化物結晶は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる特定結晶格子面の回折強度プロファイルにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる|v1−v2|の値で表される結晶の表面層の不均一歪みが150arcsec以下であることを特徴とする。
【0038】
図1を参照して、X線侵入深さ0.3μmは窒化物結晶の表面から結晶表面層1a内までの距離に相当し、X線侵入深さ5μmは窒化物結晶の表面から結晶内層1c内までの距離に相当する。このとき、図4(a)を参照して、X線侵入深さ5μmにおける回折ピークの半価幅v2はその窒化物結晶本来の半価幅と考えられるが、X線侵入深さ0.3μmにおける回折ピークの半価幅v1は、結晶の表面加工の影響による結晶表面層の結晶格子の不均一歪み(たとえば、各結晶格子面の面間隔が、d3、d4〜d5、d6とそれぞれ異なる)を反映して、X線侵入深さ5μmにおける回折ピークの半価幅v2と異なる値をとる。
【0039】
上記の場合、図4(b)を参照して、結晶の任意の特定結晶格子面についての回折プロファイルにおいて、X線侵入深さ0.3μmにおける回折ピークの半価幅v1とX線侵入深さ5μmにおける回折ピークの半価幅v2とが現れる。したがって、v1とv2の差である|v1−v2|の値によって、結晶表面層の不均一歪みを表わすことができる。
【0040】
本実施形態の窒化物結晶は、この|v1−v2|の値で表わされる表面層の不均一歪みが150arcsec以下である。窒化物結晶の表面層の不均一歪みを|v1−v2|≦150(arcsec)とすることにより、この窒化物結晶上に結晶性のよい半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスを作製することができる。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態の窒化物結晶は、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して結晶の表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される特定結晶面の面方位ずれが400arcsec以下であることを特徴とする。
【0042】
図1を参照して、X線侵入深さ0.3μmは窒化物結晶の表面から結晶表面層1a内までの距離に相当し、X線侵入深さ5μmは窒化物結晶の表面から結晶内層1c内までの距離に相当する。このとき、図5(a)を参照して、X線侵入深さ5μmにおける半価幅w2はその結晶本来の半価幅と考えられるが、X線侵入深さ0.3μmにおける半価幅w1は、結晶の表面加工の影響による結晶表面層の結晶格子の面方位ずれ(たとえば、各結晶格子の特定結晶格子面51d,52d,53dの面方位がそれぞれ異なる)を反映して、X線侵入深さ5μmにおける半価幅w2と異なる値をとる。
【0043】
上記の場合、図5(b)を参照して、結晶の任意の特定結晶格子面についてのロッキングカーブにおいて、X線侵入深さ0.3μmにおける半価幅w1とX線侵入深さ5μmにおける半価幅w2とが現れる。したがって、w1とw2との差である|w1−w2|の値によって、結晶表面層の特定結晶格子面の面方位ずれを表わすことができる。
【0044】
本実施形態の窒化物結晶は、この|w1−w2|の値で表わされる表面層の特定結晶面の面方位ずれが400arcsec以下である。窒化物結晶の表面層の特定結晶面の面方位ずれを|w1−w2|≦400(arcsec)とすることにより、この窒化物結晶上に結晶性のよい半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスを作製することができる。
【0045】
なお、上記の実施形態1〜3における結晶性評価方法により評価される結晶性については、上記の表面加工に起因するものに限定されるものではなく、結晶成長の際に生じる結晶の歪みなども含めることができる。
【0046】
また、上記の実施形態1〜3の窒化物結晶において、結晶の表面は30nm以下の表面粗さRyを有することが好ましい。ここで、表面粗さRyとは、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積としてとして10μm角(10μm×10μm=100μm2、以下同じ)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から最も高い山頂までの高さと最も低い谷底までの深さとの和をいう。窒化物結晶の表面粗さRyを30nm以下とすることにより、この窒化物結晶上に結晶性の良好な半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスが得られる。
【0047】
また、上記の実施形態1〜3の窒化物結晶において、結晶の表面は3nm以下の表面粗さRaを有することが好ましい。ここで、表面粗さRaとは、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積として10μm角だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の絶対値を合計してそれを基準面積で平均した値をいう。窒化物結晶の表面粗さRaを3nm以下とすることにより、この窒化物結晶上に結晶性の良好な半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスが得られる。
【0048】
また、上記の実施形態1〜3の窒化物結晶において、結晶の表面はウルツ鉱型構造におけるC面に平行であることが好ましい。ここで、C面とは{0001}面、{000−1}面を意味する。族窒化物結晶の表面がウルツ鉱型構造における上記各面に平行または平行に近い状態(たとえば、窒化物結晶の表面と、ウルツ鉱型構造におけるC面とのなす角であるオフ角が0.05°未満)とすることにより、この窒化物結晶上に結晶性の良好な半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスが得られる。
【0049】
また、上記の実施形態1〜3の窒化物結晶において、結晶の表面はウルツ鉱型構造におけるC面に対して0.05°以上15°以下の範囲内のオフ角を有することが好ましい。0.05°以上のオフ角を設けることにより窒化物結晶上にエピタキシャル成長させる半導体層の欠陥を低減することができる。しかし、オフ角が15°を超えると上記半導体層に階段状の段差ができやすくなる。かかる観点から、オフ角は、0.1°以上10°以下であることがより好ましい。
【0050】
(実施形態4)
本実施形態は、上記実施形態1〜3の窒化物結晶で形成されている窒化物結晶基板である。また、本実施形態の窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させることにより、エピタキシャル層(エピ層ともいう)である1層以上の半導体層を含むエピ層付窒化物結晶基板が得られる。ここで、窒化物結晶基板の格子定数(結晶成長面に垂直な軸における格子定数をいう、本実施形態において以下同じ)k0と半導体層の格子定数kとの関係が、(|k−k0|/k)≦0.15であれば、窒化物結晶基板にその半導体層をエピタキシャル成長させることができ、(|k−k0|/k
)≦0.05であることが好ましい。かかる観点から、半導体層としては、III族窒化物層が好ましい。
【0051】
(実施形態5)
本実施形態は、上記実施形態4の窒化物結晶基板または上記エピ層付窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側にエピタキシャル成長により形成されている1層以上の半導体層を含む半導体デバイスである。こうして得られる半導体デバイスは、基板として用いられている窒化物結晶の表面層の均一歪み、不均一歪みおよび面方位ずれの少なくともいずれかが小さいことから、窒化物結晶基板またはエピ層付窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に形成される半導体層は結晶性が良好であり、良好なデバイス特性が得られる。
【0052】
ここで、本実施形態における半導体層ついても、実施形態4における半導体層と同様である。すなわち、本実施形態においても、窒化物結晶基板の格子定数(結晶成長面に垂直な軸における格子定数をいう、本実施形態において以下同じ)k0と半導体層の格子定数kとの関係が、(|k−k0|/k)≦0.15であれば、窒化物結晶基板にその半導体層をエピタキシャル成長させることができ、(|k−k0|/k)≦0.05であることが好ましい。かかる観点から、半導体層としては、III族窒化物層が好ましい。
【0053】
本実施形態の半導体デバイスとしては、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)などの電子素子、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device;表面弾性波素子)などが挙げられる。
【0054】
(実施形態6)
本実施形態の半導体デバイスは、図6を参照して、基板610として上記の窒化物結晶基板またはエピ層付窒化物結晶基板を含む半導体デバイスであって、窒化物結晶基板またはエピ層付窒化物結晶基板(基板610)の一方の主面側にエピタキシャル成長により形成されている3層以上の複数の半導体層650と、窒化物結晶基板またはエピ層付窒化物結晶基板(基板610)の他方の主面側に形成された第1の電極661と、複数の半導体層650の最外半導体層上に形成された第2の電極662とを含む発光素子を備え、さらに発光素子を搭載する導電体682を備え、発光素子の基板610側が発光面側であり、最外半導体層側が搭載面側であり、複数の半導体層650はp型半導体層630とn型半導体層620とこれらの導電型半導体層の間に形成されている発光層640とを含むことを特徴とする。上記構成を有することにより、窒化物結晶基板側を発光面側とする半導体デバイスを形成することができる。
【0055】
本実施形態の半導体デバイスは、半導体層側が発光面側である半導体デバイスと比較して、発光層での発熱に対する放熱性に優れる。そのため、高電力で作動させても半導体デバイスの温度上昇が緩和され、高輝度の発光を得ることができる。また、サファイア基板などの絶縁性基板では、半導体層にn側電極およびp側電極の2種類の電極を形成する片面電極構造をとる必要があるが、本実施形態の半導体デバイスは、半導体層と基板とにそれぞれ電極を形成する両面電極構造をとることができ、半導体デバイスの主面の大部分を発光面とすることができる。さらに、半導体デバイスの実装の際に、ワイヤボンデイングが1回で足りるなど製造工程が簡略化できるなどの利点がある。
【0056】
(実施形態7)
本実施形態は、基板として窒化物結晶基板または窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側にエピタキシャル成長により形成されている1層以上の半導体層を含むエピ層付窒化物結晶基板を含む半導体デバイスの製造方法であって、窒化物結晶基板として、実施形態1の窒化物結晶を選択し、基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含む半導体デバイスの製造方法である。
【0057】
本実施形態の半導体デバイスの窒化物結晶基板として選択される実施形態1の窒化物結晶は、その表面層の均一歪みが小さいため、その窒化物結晶上に結晶性のよい半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスを形成することができる。なお、本実施形態における半導体層についても、実施形態4および実施形態5における半導体層と同様である。
【0058】
(実施形態8)
本実施形態は、基板として窒化物結晶基板または窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側にエピタキシャル成長により形成されている1層以上の半導体層を含むエピ層付窒化物結晶基板を含む半導体デバイスの製造方法であって、窒化物結晶基板として、実施形態2の窒化物結晶を選択し、基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含む半導体デバイスの製造方法である。
【0059】
本実施形態の半導体デバイスの窒化物結晶基板として選択される実施形態2の窒化物結晶は、その表面層の不均一歪みが小さいため、その窒化物結晶上に結晶性のよい半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスを形成することができる。なお、本実施形態における半導体層についても、実施形態4および実施形態5における半導体層と同様である。
【0060】
(実施形態9)
本実施形態は、基板として窒化物結晶基板または窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側にエピタキシャル成長により形成されている1層以上の半導体層を含むエピ層付窒化物結晶基板を含む半導体デバイスの製造方法であって、窒化物結晶基板として、実施形態3の窒化物結晶を選択し、基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含む半導体デバイスの製造方法である。
【0061】
本実施形態の半導体デバイスの基板として選択される実施形態3の窒化物結晶は、その表面層の特定結晶格子面の面方位のずれが小さいため、その窒化物結晶上に結晶性のよい半導体層をエピタキシャル成長させることができ、特性のよい半導体デバイスを形成することができる。なお、本実施形態における半導体層についても、実施形態4および実施形態5における半導体層と同様である。
【0062】
窒化物結晶は、HVPE(ハイドライド気相成長)法、昇華法などの気相成長法、またはフラックス法などの液相成長法により成長させることができる。
【0063】
上記の成長法により得られた窒化物結晶から半導体デバイスの窒化物結晶基板となる窒化物結晶を切り出し、その表面を平坦化するため研削、研磨などの表面加工を行なう。表面加工のうち研削、機械的研磨などの機械加工では、硬質な砥粒が結晶に切り込んで材料を除去するため、窒化物結晶基板となる窒化物結晶の表面には結晶性が悪化した加工変質層(ダメージ層)が残る。したがって、機械加工で平坦化された基板上に高品質のIII族窒化物半導層を作製するためには、加工変質層を低減することが必要となる。加工変質層の低減には、加工変質層および表面粗さの両方を低減できる観点から、CMP処理がもっとも適している。
【0064】
なお、基板表面の加工変質層は完全に除去する必要はなく、エピタキシャル成長前のアニール処理により表面の改質を行うこともできる。成長前のアニールにより結晶表面の再配列が行なわれ、結晶性のよい半導体層のエピタキシャル成長が可能となる。
【0065】
窒化物結晶の表面層の結晶性を向上させるための表面加工方法の好ましい例として、CMP表面処理方法について以下に説明する。CMPに用いられるスラリー溶液のpHの値xと酸化還元電位の値y(mV)は以下の式(2)および(3)
y≧−50x+1000 (2)
y≦−50x+1900 (3)
のいずれもの関係を満たすことが好ましい。y<−50x+1000であると研磨速度が低くなる。一方、y>−50x+1900であると研磨パッドおよび研磨装置への腐食作用が大きくなり安定した研磨が困難となる。
【0066】
また、研磨速度をさらに向上させる観点から、さらに以下の式(4)
y≧−50x+1300 (4)
の関係をも満たすことが好ましい。
【0067】
CMPのスラリーには、通常、塩酸、硫酸、硝酸などの酸、KOH、NaOHなどのアルカリが添加されているが、これらの酸および/またはアルカリのみでは化学的に安定な窒化ガリウムの表面を酸化する効果が小さい。そこで、さらに、酸化剤の添加により酸化還元電位を増加させて、上記式(2)および式(3)または上記式(3)および式(4)の関係を満たすようにすることが好ましい。
【0068】
CMPのスラリーに添加される酸化剤としては、特に制限はないが、研磨速度を高める観点から、次亜塩素酸、トリクロロイソシアヌル酸などの塩素化イソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどの塩素化イソシアヌル酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、ニクロム酸カリウムなどのニクロム酸塩、臭素酸カリウムなどの臭素酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩、硝酸、過酸化水素水、オゾンなどが好ましく用いられる。なお、これらの酸化剤は、単独で用いても、2以上を併用してもよい。
【0069】
CMPのスラリーのpHは、6以下または8以上であることが好ましい。pHが6以下の酸性スラリーまたはpHが8以上の塩基性スラリーをIII族窒化物結晶に接触させて、III族窒化物結晶の加工変質層をエッチング除去することにより、研磨速度を高めることができる。かかる観点から、スラリーのpHは4以下または10以上であることがより好ましい。
【0070】
ここで、スラリーのpHの調整に用いられる酸および塩基には特に制限はなく、たとえば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸、KOH、NaOH、NH4OH、アミンなどの塩基の他、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの塩を用いることができる。また、上記酸化剤の添加により、pHを調整することもできる。
【0071】
CMPのスラリーには、砥粒が含まれることが好ましい。この砥粒により研磨速度をより高めることができる。スラリーに含められる砥粒には、特に制限はなく、窒化物結晶よりも硬度の高い高硬度砥粒、窒化物結晶の硬度以下に硬度の低い低硬度砥粒、または高硬度砥粒と低硬度砥粒との混合砥粒を用いることができる。
【実施例】
【0072】
(比較例1)
窒化物結晶としてHVPE法により成長させた厚さ500μmのSiドープされたn型GaN結晶を用いて、このn型GaN結晶を以下のようにして機械研磨した。すなわち、ダイヤモンド砥粒が分散したスラリーをラップ装置の定盤上に供給しながら、定盤に直径50mm×厚さ500μmのn型GaN結晶のGa側C面((0001)面)を押し当てることにより、n型GaN結晶を機械研磨した。定盤は銅定盤または錫定盤を用いた。粒径が6μm、3μm、1μmの3種類の砥粒を準備し、機械研磨の進行とともに砥粒の粒径を段階的に小さくした。機械研磨における研磨圧力は100gf/cm2〜500gf/cm2、定盤の回転数は30rpm〜100rpmとした。
【0073】
次に、機械研磨後のn型GaN結晶について、ウルツ鉱型構造の(10−13)面からの回折X線を、X線侵入深さを0.3μmから5μmまで変えて測定することにより、回折プロファイルにおける(10−13)面(本測定における特定結晶格子面)の面間隔および回折強度ピークの半価幅ならびにロッキングカーブにおける回折強度ピークの半価幅を求めた。X線回折測定には、平行光学系、CuKα1のX線波長を用いた。また、X線侵入深さは、結晶表面に対するX線入射角ω、結晶表面の傾き角χおよび結晶表面内の回転角φの少なくともいずれかを変えることにより制御した。また、このn型GaN結晶の表面粗さRyおよび表面粗さRaをAFM(原子間力顕微鏡)(VEECO社製DIMENSION3100)により測定した。結果を表1にまとめた。
【0074】
次に、図6を参照して、n型GaN結晶の基板610の一方の主面側に、MOCVD法により、n型半導体層620としての厚さ1μmのn型GaN層621(ドーパント:Si)および厚さ150nmのn型Al0.1Ga0.9N層622(ドーパント:Si)、発光層640、p型半導体層630としての厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8N層631(ドーパント:Mg)および厚さ150nmのp型GaN層632(ドーパント:Mg)を順次形成して、半導体デバイスとしての発光素子を得た。ここで、発光層640は、厚さ10nmのGaN層で形成される障壁層の4層と、厚さ3nmのGa0.85In0.15N層で形成される井戸層の3層とが交互に積層された多重量子井戸構造とした。
【0075】
次に、n型GaN結晶の基板610の他方の主面側に第1の電極661として、厚さ200nmのTi層、厚さ1000nmのAl層、厚さ200nmのTi層、厚さ2000nmのAu層から形成される積層構造を形成し、窒素雰囲気中で加熱することにより、直径100μmのn側電極を形成した。一方、p型GaN層632上に第2の電極662として、厚さ4nmのNi層、厚さ4nmのAu層から形成される積層構造を形成し、不活性ガス雰囲気中で加熱することにより、p側電極を形成した。上記積層体を400μm角にチップ化した後に、上記p側電極をAuSnで形成されたはんだ層670で導電体682にボンディングした。さらに、上記n側電極と導電体681とをワイヤ690でボンディングして、発光デバイスとして構成を有する半導体デバイス600を得た。得られた半導体デバイスを積分球内に搭載し、半導体デバイスに20mAの電流を注入して発光させ、積分球によって集められる光の出力を測定した。しかし、本比較例の半導体デバイスには発光が認められなかった。結果を表1にまとめた。
【0076】
(実施例1〜7)
機械研磨後X線回折前に、表1に示す条件にてCMPを行なったこと以外は比較例1と同様にして、半導体デバイスを作製した。得られた半導体デバイスの光出力を比較例1と同様にして測定した。結果を表1にまとめた。
【0077】
【表1】

【0078】
(比較例2)
窒化物結晶として昇華法により成長させた厚さ400μmのSiドープされたn型AlN結晶を用いて、このn型AlN結晶を比較例1と同様にして機械研磨を行なった。
【0079】
機械研磨後のn型AlN結晶について、ウルツ鉱型構造の(11−22)面からの回折X線を、X線侵入深さを0.3μmから5μmまで変えて測定することにより、回折プロファイルにおける(11−22)面(本測定における特定結晶格子面)の面間隔および回折強度ピークの半価幅ならびにロッキングカーブにおける回折強度ピークの半価幅を求めた。X線回折測定には、平行光学系、CuKα1のX線波長を用いた。また、X線侵入深さは、結晶表面に対するX線入射角ω、結晶表面の傾き角χおよび結晶表面内の回転角φの少なくともいずれかを変えることにより制御した。また、このn型AlN結晶の表面粗さRyおよび表面粗さRaをAFMにより測定した。結果を表2にまとめた。
【0080】
次に、上記AlN結晶を基板として用いて、比較例1と同様にして半導体デバイスを作製した。この半導体デバイスの光出力を比較例1と同様に測定したところ、発光が認められなかった。結果を表2にまとめた。
【0081】
(実施例8〜10)
機械研磨後X線回折前に、表2に示す条件にてCMPを行なったこと以外は比較例2と同様にして、半導体デバイスを作製した。得られた半導体デバイスの光出力を比較例2と同様に測定した。結果を表2にまとめた。
【0082】
【表2】

【0083】
上記表1および表2から明らかなように、結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定において、0.3μmのX線侵入深さにおける特定結晶格子面の面間隔d1と5μmのX線侵入深さにおける特定結晶格子面の面間隔d2とから得られる表面層の均一歪み|d1−d2|/d2が2.1×10-3以下、0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる結晶表面層の不均一歪み|v1−v2|が150arcsec以下、および0.3μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmのX線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる結晶表面層の特定結晶格子面の面方位ずれ|w1−w2|が400arcsec以下の少なくともいずれかを満たす窒化物結晶を窒化物結晶基板として選択した半導体デバイスであるLEDは、高い光出力を有していた。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 窒化物結晶、1a 結晶表面層、1b 結晶表面隣接層、1c 結晶内層、1d,51d,52d,53d 特定結晶格子面、1s 結晶表面、11 入射X線、12 出射X線、21 χ軸、22 ω軸(2θ軸)、23 φ軸、30 引張応力、600 半導体デバイス、610 基板、620 n型半導体層、621 n型GaN層、622 n型Al0.1Ga0.9N層、630 p型半導体層、631 p型Al0.2Ga0.8N層、632 p型GaN層、640 発光層、650 半導体層、661 第1の電極、662 第2の電極、670 はんだ層、681,682 導電体、690 ワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長法または液相成長法により成長させた窒化物結晶を機械加工した後化学機械的研磨することにより、前記機械加工により悪化した前記窒化物結晶の表面層の結晶性を前記化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、
前記化学機械的研磨において、pHが6以下または8以上のスラリーを用いて、
前記窒化物結晶の表面層の結晶性の向上は、前記結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる前記特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmの前記X線侵入深さにおける前記面間隔d1と5μmの前記X線侵入深さにおける前記面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される前記結晶の表面層の均一歪みが2.1×10-3以下である窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
気相成長法または液相成長法により成長させた窒化物結晶を機械加工した後化学機械的研磨することにより、前記機械加工により悪化した前記窒化物結晶の表面層の結晶性を前記化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、
前記化学機械的研磨において、pHが6以下または8以上のスラリーを用いて、
前記窒化物結晶の表面層の結晶性の向上は、前記結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる前記特定結晶格子面の回折強度プロファイルにおいて、0.3μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる|v1−v2|の値で表される前記結晶の表面層の不均一歪みが150arcsec以下である窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
気相成長法または液相成長法により成長させた窒化物結晶を機械加工した後化学機械的研磨することにより、前記機械加工により悪化した前記窒化物結晶の表面層の結晶性を前記化学機械的研磨により向上させる窒化物結晶の製造方法であって、
前記化学機械的研磨において、pHが6以下または8以上のスラリーを用いて、
前記窒化物結晶の表面層の結晶性の向上は、前記結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される前記特定結晶面の面方位ずれが400arcsec以下である窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーは、次亜塩素酸、塩素化イソシアヌル酸、塩素化イソシアヌル酸塩、過マンガン酸塩、ニクロム酸塩、臭素酸塩、チオ硫酸塩、硝酸、過酸化水素水およびオゾンからなる群から選ばれる1種以上の酸化剤を含む請求項1から3のいずれかに記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
窒化物結晶基板を含むエピ層付窒化物結晶基板の製造方法であって、
前記窒化物結晶基板として、窒化物結晶であって前記結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる前記特定結晶格子面の面間隔において、0.3μmの前記X線侵入深さにおける前記面間隔d1と5μmの前記X線侵入深さにおける前記面間隔d2とから得られる|d1−d2|/d2の値で表される前記結晶の表面層の均一歪みが2.1×10-3以下である結晶を選択し、
前記窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含むエピ層付窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項6】
窒化物結晶基板を含むエピ層付窒化物結晶基板の製造方法であって、
前記窒化物結晶基板として、窒化物結晶であって前記結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折条件を満たしながら前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させるX線回折測定から得られる前記特定結晶格子面の回折強度プロファイルにおいて、0.3μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v1と5μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅v2とから得られる|v1−v2|の値で表される前記結晶の表面層の不均一歪みが150arcsec以下である結晶を選択し、
前記窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含むエピ層付窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項7】
窒化物結晶基板を含むエピ層付窒化物結晶基板の製造方法であって、
前記窒化物結晶基板として、窒化物結晶であって前記結晶の任意の特定結晶格子面のX線回折に関して前記結晶の表面からのX線侵入深さを変化させて測定されたロッキングカーブにおいて、0.3μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w1と5μmの前記X線侵入深さにおける回折強度ピークの半値幅w2とから得られる|w1−w2|の値で表される前記特定結晶格子面の面方位ずれが400arcsec以下である結晶を選択し、
前記窒化物結晶基板の少なくとも一方の主面側に1層以上の半導体層をエピタキシャル成長させる工程を含むエピ層付窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項8】
前記窒化物結晶基板の格子定数k0と前記半導体層の格子定数kとの関係が、(|k−k0|/k)≦0.15である請求項5から7のいずれかに記載のエピ層付窒化物結晶基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−54563(P2012−54563A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198028(P2011−198028)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【分割の表示】特願2008−334503(P2008−334503)の分割
【原出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】